JP5510057B2 - 溶融めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1にはSi、Mn、Cr、Moを多量に添加し、さらに冷却速度を制御することによりフェライト・ベイナイト・マルテンサイト混合組織を得て、TS≧780MPaを達成している。また、特許文献2には、焼き戻しマルテンサイトを得ることにより、曲げ加工性と高強度化を達成している。これらの技術によると、フェライトと硬質相との混合組織とすることにより、比較的容易に高強度化が図ることができる。
しかしながら、Tiを添加してフェライトの微細化や析出強化を利用すると、フェライトの微細化や強化に寄与する微細なTi系炭化物、窒化物、炭窒化物の他に粗大なTiNが生成する。このTiNのうちでも晶出したTiNは、Ti系炭化物、窒化物、炭窒化物が数十nmの微細な析出物であるのに対し、高温で生成するためにその大きさは0.1〜20μmと粗大である。この粗大な晶出TiNは、フェライトの微細化や強度上昇には全く寄与しないばかりか、その粗大な析出物が曲げ加工時の割れの起点となり、曲げ性を劣化させる原因となっている。
その結果、めっき基材となる鋼板の表面近傍の成分偏析や鋼組織や表面形状を適正化するとともに、鋼板内部の鋼組織を適正化することによって、590MPa以上の高い引張強度を有しながら良好な延性と曲げ性とを具備する溶融めっき鋼板を得ることができるという新たな知見を得た。
(1)鋼板表面に溶融めっき層を有する溶融めっき鋼板において、前記鋼板は、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.005%以上2.0%以下、Mn:1.0%以上4.0%以下、P:0.0004%以上0.1%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.0002%以上2.0%以下、N:0.01%以下、残部Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、前記溶融めっき層と前記鋼板との界面から50μmの深さの位置(深さ位置A)における圧延方向に展伸したMnおよびSiの濃化部の圧延直角方向の平均間隔である濃化部平均間隔が1000μm以下であり、前記界面を起点とし前記界面から2μmの深さの位置を終点とする領域(表層領域)における鋼組織が、フェライトを90面積%以上含有し、前記界面から2μmの深さの位置を起点とし板厚中心位置を終点とする領域(内部領域)における鋼組織が、面積率で、フェライト:20%以上90%以下、マルテンサイト:1.0%以上30%以下および残留オーステナイト:0.5%以上を含有するとともにフェライト平均粒径が1μm以上20μm以下であり、前記界面における深さが3μm以上10μm以下であるクラックの数密度が3個/mm以上1000個/mm以下であり、前記溶融めっき鋼板は、引張強度(TS)が590MPa以上、引張強度(TS)と全伸び(El)との積(TS×El値)が9000MPa・%以上である機械特性を有することを特徴とする溶融めっき鋼板。
(A)溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、1000℃以下の温度域で熱間圧延を完了し、200℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して、580℃以上の温度域で巻取り、200℃/時以下の条件で冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(i)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;および
(D)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板を700℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、1.0℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で580℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、次いで溶融めっきを施して溶融めっき鋼板とする連続焼鈍−溶融めっき工程。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000
(i)
(a)溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(b)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、1000℃以下の温度域で熱間圧延を完了し、200℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して、580℃以上の温度域で巻取り、200℃/時以下の条件で冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(c)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(i)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(d)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に90%以下の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(e)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を700℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、1.0℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で580℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、次いで溶融めっきを施して溶融めっき鋼板とする連続焼鈍−溶融めっき工程。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000
(i)
本発明の溶融めっき鋼板の限定理由について説明する。化学組成についての「%」は「質量%」を意味する。
Cは、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトなどの硬質相を生成させ、鋼板の強度を向上させる作用を有する。C含有量が0.03%未満では590MPa以上の引張強度を確保することが困難である。したがって、C含有量は0.03%以上とする。780MPa以上の引張強度を得るには、C含有量を0.04%以上とすることが望ましい。一方、C含有量が0.35%超では溶接性の低下が著しくなる。したがって、C含有量は0.35%以下とする。
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を高める作用を有する。Si含有量が0.005%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。一方、Si含有量が2.0%超では、溶融めっきとの塗れ性が悪化して不めっき部が多く存在するようになり耐食性の劣化が著しくなる。したがって、Siの含有量は2.0%以下とする。
Mnは、鋼の焼入性を高めることにより鋼板の強度を高める作用を有する。Mn含有量が1.0%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Mn含有量は1.0%以上とする。好ましくは1.2%以上である。一方、Mn含有量が4.0%超では、焼入性が過剰に高まってマルテンサイトの面積率が過大となり、曲げ性の低下が著しくなる。したがって、Mn含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.0%以下である。
Pは、固溶強化により鋼板の強度を高める作用を有する。P含有量が0.004%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、P含有量は0.0004%以上とうする。一方、Pは偏析し易い元素であるため多量に含有すると溶接性の低下を招く。P含有量が0.1%超では偏析による溶接性の低下が著しくなる。したがって、P含有量は0.1%以下とする。
Sは、不純物として含有され、鋼中に硫化物を形成して曲げ性を低下させる作用を有する。S含有量が0.02%超では曲げ性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下である。S含有量は低ければ低いほど好ましいので、S含有量の下限は規定する必要はないが、製鋼コストの観点からは0.0002%以上とすることが好ましい。
Alは、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有する。sol.Al含有量が0.0002%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、sol.Al含有量は0.0002%以上とする。一方、sol.Al含有量が2.0%超では、粗大なアルミナ系介在物が増加して、曲げ性および耐疲労特性の低下が著しくなる。したがって、sol.Al含有量は2.0%以下とする。
Nは、不純物として含有され、鋼中に窒化物を形成して曲げ性を低下させる作用を有する。N含有量が0.01%超では曲げ性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。N含有量は低ければ低いほど好ましいので、N含有量の下限は規定する必要はないが、製鋼コストの観点からは0.0002%以上とすることが好ましい。
Tiは、フェライト粒径を微細化し、マルテンサイト、残留オーステナイト、ベイナイト、パーライトおよびセメンタイト等の硬質相を微細に分散させ、曲げ性を向上させる作用を有する。したがって、Tiを含有させてもよい。しかしながらTi含有量が0.5%超では粗大な晶出系TiN粒子が多く形成されてしまうため、却って曲げ性が劣化する場合がある。したがって、Ti含有量は0.5%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはTi含有量を0.003%以上とすることが好ましい。このようにすることで、めっき層と鋼板との界面を起点とし上記界面から50μmの深さの位置を終点とする領域における粒径が3μm以上のTiNの数密度を100個/mm2以下とし、上記界面から2μmの深さの位置を起点とし板厚中心位置を終点とする領域におけるフェライト平均粒径を1μm以上7μm以下とすることをより確実に行うことができる。
Biは、凝固の接種核となり、凝固時のデンドライトアーム間隔を小さくし、凝固組織を細かくする作用を有する。その結果、MnやSi等の偏析が生じ易い元素の偏析を抑制し、鋼板の局所的な強度差を低減し、曲げ性を向上させる作用を有する。したがって、Biを含有させることが好ましい。しかしながら、Biは鋼中に曲げ加工時の割れの起点となる酸化物を形成するため、Biの含有量が0.5%を超えると曲げ性の劣化が著しくなる。したがって、Bi含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.03%以下である。上記作用による効果をより確実に得るにはBi含有量を0.0002%以上とすることが好ましく、このようにすることで、溶融めっき層と鋼板との界面から50μmの深さの位置における圧延方向に展伸したMnおよびSiの濃化部の圧延直角方向の平均間隔(詳細は後述する。)を500μm以下とすることをより確実に行うことができる。さらに好ましくは0.0003%以上とすることであり、このようにすることで上記の平均間隔を300μm以下とすることをより確実に行うことができる。
Nb、V、W、Cr、Mo、Cu、NiおよびBは、Mnと同様に鋼の焼入性を高めることによって鋼板の強度を高める作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、Nb、V、W、Cr、Mo、CuおよびNiについてはそれぞれ含有量が1.0%を超えると、Bについては含有量が0.01%を超えると、焼入性が過剰に高まってマルテンサイトの面積率が過大となり、曲げ性の低下が著しくなる。したがって、Nb、V、W、Cr、Mo、Cu、NiおよびBの含有量はそれぞれ上記のとおりとする。上記作用による効果をより確実に得るには、Nb、V、W、Cr、Mo、CuおよびNiのいずれかの元素を0.005%以上とするか、Bの含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。Bについては含有量を0.0004%以上とすることがさらに好ましい。
REM(希土類元素)、Mg、CaおよびZrは、鋼中に形成される酸化物や硫化物を微細に球状化させて曲げ性を向上させる作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、REMについては含有量が0.1%超えると、Mg、CaおよびZrについてはそれぞれ含有量が0.05%を超えると、鋼中に形成される酸化物や硫化物の数が過剰となり、却って曲げ性を劣化させる。したがって、REM(希土類元素)、Mg、CaおよびZrの含有量はそれぞれ上記のとおりとする。上記作用による効果をより確実に得るには、REM、Mg、CaおよびZrのいずれかの含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。
本発明は、鋼板表面に溶融めっき層を有する溶融めっき鋼板であるが、溶融めっき層の種類は特に限定されるものではない。溶融めっき層として、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。また、溶融めっき層の上層に有機系または無機系の被膜を設けても構わない。
(1)めっき層と鋼板との界面から50μmの深さの位置における圧延方向に展伸したMnおよびSiの濃化部の圧延直角方向の平均間隔:1000μm以下
溶融めっき層と鋼板との界面から50μmの深さの位置(以下、「深さ位置A」ともいう。)における、圧延方向に展伸したMnおよびSiの濃化部の、圧延方向と直交する方向、すなわち鋼板の幅方向(本発明において、「圧延直角方向」という。)の平均間隔(本発明において、「濃化部平均間隔」ともいう。)を1000μm以下とすることで、良好な曲げ性を得ることができる。ここで、MnおよびSiの濃化部の定義は、MnおよびSiの少なくとも一方の元素の含有量がバルクの含有量に対し1.1倍以上である部位とする。また、溶融めっき層と鋼板との界面は、通常、走査型電子顕微鏡を用いて溶融めっき鋼板の断面を観察することにより、反射電子(BSE像)で観察されるコントラストの差から判別することができる。反射電子(BSE像)で観察されるコントラストの差が不鮮明であるために判別することが困難な場合には、EDXを用いて溶融めっき鋼板の断面をFeやAl、Zn等、めっきに含まれる元素について面分析し、Fe含有量が70質量%以上である部分を鋼板、Fe含有量が70%未満である部分を溶融めっき層とすることにより、溶融めっき層と鋼板との界面を判別することができる。
溶融めっき層と鋼板との界面を起点とし上記界面から2μmの深さの位置を終点とする領域、すなわち基材をなす鋼板の表層をなす領域(以下、「表層領域」ともいう。)における鋼組織をフェライト面積率が90%以上であるものとすることにより、良好な曲げ性を得ることができる。
なお、表層領域におけるフェライトの特定は、鋼板の断面観察を行うことにより行えばよい。
溶融めっき層と鋼板との界面における深さが3μm以上10μm以下であるクラックの数密度(以下、「クラック数密度」と略記する。)を3個/mm以上1000個/mm以下とすることにより、良好な曲げ性を得ることができる。
このようにすることにより、上述した表層部の鋼組織の規定と相俟って、優れた曲げ性を得ることができる。
溶融めっき層と鋼板との界面から2μmの深さの位置を起点とし、板厚中心位置を終点とする、鋼板の板厚中心部を含む領域(以下、「内部領域」ともいう。)における鋼組織は、面積率で、フェライト:20%以上90%以下、マルテンサイト:1.0%以上30%以下、残留オーステナイト:0.5%以上、フェライト平均粒径が1μm以上20μm以下とすることにより、高い強度と良好な強度−延性バランスと曲げ性とを得ることができる。
溶融めっき層と鋼板との界面を起点とし上記界面から50μmの深さの位置を終点とする領域(以下、「領域1」ともいう。)における粒径3μm以上のTiNの数密度を100個/mm2以下とすることが好ましい。
次に、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の限定理由について説明する。
(1)鋳造工程
上記化学組成を有する溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する。
上記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、1000℃以下の温度域で熱間圧延を完了し、200℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して、580℃以上の温度域で巻取り、200℃/時以下の条件で冷却して熱延鋼板とする。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000 (1)
なお、酸の種類は特に限定されるものでなく、塩酸や硫酸が例示される。
上記酸洗鋼板は、そのまま連続焼鈍−溶融めっき工程に供してもよいが、冷間圧延を施した後に連続焼鈍−溶融めっき工程に供してもよい。冷間圧延を施す場合には、上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に90%以下の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
冷間圧延の圧下率が90%超では、圧下率が高すぎるため、酸洗で形成したクラックが消滅してしまう場合がある。したがって、冷間圧延を施す場合には、その圧下率を90%以下とすることが好ましい。
上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板、または、上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を、700℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、1.0℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で580℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、次いで溶融めっきを施して溶融めっき鋼板とする。
本発明の具体的な実施例を以下に説明する。
表1に示す化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造試験機を用いて連続鋳造を実施し、巾1000mmで250mm厚のスラブとした。鋳片の表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度の変更は、鋳型の冷却水量を変更することによって行った。一部のスラブについては、鋳型内で移動磁場による電磁攪拌を施した。
スラブの液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度は、得られたスラブの断面をピクリン酸にてエッチングし、スラブ表面から深さ方向に10mm位置を鋳込み方向に5mmピッチでデンドライト2次アーム間隔λ(μm)を100点測定し、次式に基づいて、その値からスラブの液相線温度から固相線温度までの温度域内の冷却速度A(℃/秒)を算出し、算術平均して平均値を求めた。
(2)溶融めっき層と鋼板との界面から50μmの深さの位置(深さ位置A)における圧延方向に展伸したMnおよびSiの濃化部の圧延直角方向の平均間隔(濃化部平均間隔)
上記の濃化部平均間隔の測定はEPMAの線分析にて実施した。すなわち、上記界面から50μmの深さの位置まで研削して、EPMAの線分析を実施した。MnおよびSi濃化は、線分析から得られたSiとMnの濃度の波形を読み取り、濃度平均値の1.1倍以上である濃度極大値の間隔から求めた。
鋼板の圧延方向に平行な断面を観察するための試料を調整し、この試料における内部領域について、走査型電子顕微鏡を用いて、JIS G 0552に準拠してフェライト平均粒径を測定した。また、フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの面積率は、画像処理にて求めた。
クラック数密度は、鋼組織の評価において用いた鋼板の圧延方向に平行な断面の観察試料を用い、この試料の断面について、走査型電子顕微鏡を用いて2000倍の倍率で100視野観察することにより求めた深さが3μm以上10μm以下のクラックの本数を、単位長さ当たりの個数に換算して求めた。具体的には次のとおりであった。
TiNの平均粒径は、走査型電子顕微鏡にて、2000倍の倍率で、上記の断面観察用試料における、領域1(溶融めっき層と鋼板との界面を起点とし上記界面から50μmの深さの位置を終点とする領域)を200視野撮影し、その画像処理にて算出した。
得られた鋼板に対して、引張試験、限界曲げ試験を実施した。
A)引張試験
各鋼板の圧延直角方向からJIS 5 号引張試験を採取した。試験方法はJIS Z2241に準じた。降伏点(YP)、引張強さ(TS)、全伸び(El)を測定した。
各鋼板の圧延直角方向から、巾40mm長さ200mmの試験片を採取した。試験形状および試験方法はJIS Z2248に準じた。曲げ半径は、密着から板厚の0.5倍、1.0倍、1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍にて実施し、その割れが発生しない板厚に対する曲げ半径を限界曲げ半径とした。
本発明である供試材No.1〜26は、限界曲げ半径が0.5t〜1.5tであり、TS×El値が13888MPa・%以上であり、曲げ性および延性に優れていた。
中でも、Tiを含有する供試材No.4,5,6,7,8,11,13,14は内部領域におけるフェライト平均粒径が7μm以下となり、限界曲げ半径が1.0tとなり、特に曲げ性に優れていた。
TiおよびBiの双方を含有する供試材No.16,18,19,21,22,24,25は、内部領域におけるフェライト平均粒径が7μm以下、濃化部平均間隔が500μm以下となり、限界曲げ半径が0.5tでさらに曲げ性に優れていた。
供試材No.27は、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度が8℃/秒と本発明外のため、濃化部平均間隔が1100mmと本発明外となった。そのため、限界曲げ半径が2.5tとなり曲げ性に劣っていた。
供試材No.36は、焼鈍温度が680℃と本発明外のため、内部領域の鋼組織における残留オーステナイトの面積率が0.3%と本発明外となった。そのため、TS×El値が8800MPa・%となり延性に劣っていた。
供試材No.40は、焼鈍後の平均冷却速度が80℃/秒と本発明外であった。そのため、内部領域の鋼組織におけるフェライトの平均粒径が0.8μmとなり、それゆえTS×El値が8700MPa・%となって延性に劣っていた。
Claims (8)
- 鋼板表面に溶融めっき層を有する溶融めっき鋼板において、
前記鋼板は、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.005%以上2.0%以下、Mn:1.0%以上4.0%以下、P:0.0004%以上0.1%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.0002%以上2.0%以下、N:0.01%以下、残部Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、
前記溶融めっき層と前記鋼板との界面から50μmの深さの位置における圧延方向に展伸したMnおよびSiの濃化部の圧延直角方向の平均間隔である濃化部平均間隔が1000μm以下であり、
前記界面を起点とし前記界面から2μmの深さの位置を終点とする領域における鋼組織が、フェライトを90面積%以上含有し、
前記界面から2μmの深さの位置を起点とし板厚中心位置を終点とする領域における鋼組織が、面積率で、フェライト:20%以上90%以下、マルテンサイト:1.0%以上30%以下および残留オーステナイト:0.5%以上を含有するとともにフェライト平均粒径が1μm以上20μm以下であり、
前記界面における深さが3μm以上10μm以下であるクラックの数密度が3個/mm以上1000個/mm以下であり、
前記溶融めっき鋼板は、引張強度(TS)が590MPa以上、引張強度(TS)と全伸び(El)との積(TS×El値)が9000MPa・%以上である機械特性を有することを特徴とする溶融めっき鋼板。 - 前記化学組成が、質量%で、Ti:0.5%以下をさらに含有し、前記界面を起点とし前記界面から50μmの深さの位置を終点とする領域における粒径3μm以上のTiNの数密度が100個/mm2以下であり、前記界面から2μmの深さの位置を起点とし板厚中心位置を終点とする領域におけるフェライト平均粒径が1μm以上7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶融めっき鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、Bi:0.5%以下をさらに含有し、前記濃化部平均間隔が500μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶融めっき鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下、W:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の溶融めっき鋼板。
- 前記化学組成が、質量%で、REM:0.1%以下、Mg:0.05%以下、Ca:0.05%以下およびZr:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の溶融めっき鋼板。
- 下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする請求項1〜請求項5までのいずれかに記載の溶融めっき鋼板の製造方法:
(A)溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、1000℃以下の温度域で熱間圧延を完了し、200℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して、580℃以上の温度域で巻取り、200℃/時以下の条件で冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;および
(D)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板を700℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、1.0℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で580℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、次いで溶融めっきを施して溶融めっき鋼板とする連続焼鈍−溶融めっき工程。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000
(1) - 下記工程(a)〜(e)を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の溶融めっき鋼板の製造方法:
(a)溶鋼を、鋳片表面から10mmの深さの位置における液相線温度から固相線温度までの温度域内の平均冷却速度を10℃/秒以上となる条件で鋳造する鋳造工程;
(b)前記鋳造工程により得られた鋳片を熱間圧延に供し、1000℃以下の温度域で熱間圧延を完了し、200℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して、580℃以上の温度域で巻取り、200℃/時以下の条件で冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(c)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(1)を満足する条件下で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(d)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に90%以下の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(e)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を700℃以上1000℃以下の温度域に5秒間以上1000秒間以下保持したのち、1.0℃/秒以上70℃/秒以下の平均冷却速度で580℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、次いで溶融めっきを施して溶融めっき鋼板とする連続焼鈍−溶融めっき工程。
5000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦2000000
(1) - 前記鋳造工程において、移動磁場による溶鋼の攪拌を施して鋳造することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の溶融めっき鋼板の製造方法。
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