JP2020090433A - グラファイトシート、高熱伝導性放熱基板、及びグラファイトシートの製造方法 - Google Patents

グラファイトシート、高熱伝導性放熱基板、及びグラファイトシートの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】エレクトロニクス用の基板として使用でき、柔軟、平滑、軽量である高熱伝導性放熱基板を提供する。【解決手段】厚みが20μm以上、50μm以下であり、算術表面粗さが2.0μm以下であり、面方向の熱伝導率が1500W/mK以上、1800W/mK以下であり、密度が1.8g/cm3以上、2.26g/cm3以下であることを特徴とするグラファイトシート。前記グラファイトシートは直径10mmのマンドレルを用いた屈曲試験においても破損しない。【選択図】なし

Description

本発明は、表面平滑性に優れ、柔軟性を有しかつ面方向の熱伝導率が高い高熱伝導性放熱基板(例えば平坦化グラファイトシート)、及びその製造方法に関する。
軽量、柔軟、薄いなど、これまでのエレクトロニクスにはない特徴をもったフレキシブルエレクトロニクスが近年注目されている(非特許文献1)。この様なフレキシブルエレクトロニクスデバイスは、従来デバイスでは設置の難しい場所や衣服、肌への直接デバイスを装着することが可能となり、映像通信機器、スポーツ、医療分野などへの用途展開が加速している。フレキシブルエレクトロニクスは柔軟性を出すため、プラスチック基板やゴム基板で作製されることが多い。さらに実際のデバイスには保護するためのガスバリア膜、絶縁膜、保護膜などのプラスチック層が何層にも積層されるためデバイス中に熱が蓄積しやすく、放熱が出来ない等、熱による性能の低下が起こりやすいという問題点がある。特に有機半導体材料を用いるものにおいては熱による特性の劣化が重要な問題となっている(非特許文献2,3)。
一般的なエレクトロニクスデバイスでは銅(密度8.94g/cm3、熱伝導率398
W/mK)、アルミ(密度2.70g/cm3、熱伝導率237W/mK)などのヒート
シンクとファンを併用し、放熱を行っている(非特許文献4)。しかし、軽量性を重視するフレキシブルエレクトロニクスの分野ではファンなどを設置する場所もなく、スマートフォンなどで用いられている冷却方法は筐体全体への放熱が主流であるため、熱源からの熱を効率よく分散させるために銅よりも軽く、アルミよりも熱伝導性の高い材料が求められている。
黒鉛は熱伝導性が高く、銅の25%程度の軽量性からタブレット、PC,携帯電話などにすでに採用され、今後のフレキシブルエレクトロニクス用の放熱基板としても期待されている(非特許文献5)。放熱用黒鉛基板として高配向性グラファイトブロック(HOPG)や等方性黒鉛基板が報告されているが、この基板は作製時に生ずる表面凹凸があり、これらは各種の研磨法により表面を平滑にできる。しかしながらこれら素材を50μm以下の厚さのフィルム状に切り出すことは極めて困難であり、切り出してもシートの柔軟性は乏しいという問題があった(非特許文献6)。さらにその平坦化には絶縁体を付加する必要があるが、元の基板の凹凸が大きいため、完全に平坦化することは難しく、さらにこの凹凸がデバイスの特性に影響するため、可能な限り平坦化処理をする必要がある(非特許文献7)。
天然黒鉛シートの例も報告されているが、天然黒鉛を圧延して使用しているために、物理的強度を確保するためにはグラファイトシートの厚みをある程度厚くする必要があり、その熱伝導率が低くなる傾向がある(特許文献1)。特に50μm以下の厚さの天然グラファイトシートは機械的強度や柔軟性に乏しく、表面を平坦にしようとしてもやわらかく脆い特性のために研磨などの平坦化が難しいという問題があった。
このようにフレキシブルエレクトロニクスデバイスを作製する基板には柔軟性、軽量性、高い放熱性、平坦性が求められており、これらを兼ね備えた高熱伝導性材料の開発が切望されている。
特許第3691836号
日経エレクトロニクス 2014年11月24日号、26ページ Chen, J.et al.,J. Polym. Sci.,Part B :Polym.Phys.,Vol.44,3631−3641(2006) Ebata,H.et al.,J.Am.Chem.Soc.,129,15732(2007) エレクトロニクス分野における熱制御、放熱・冷却技術下巻(技術情報協会) 生産と技術 66,84,(2014) 工業化学雑誌 65(4),463−466,(1962)(社団法人 日本化学会) Sekitani,T.et al.,Nature Materials 9,1015,(2010)
本発明の課題は、エレクトロニクス用の基板として使用でき、柔軟、平滑、軽量な高熱伝導性放熱基板、その製造方法を提供することである。
以上の様な背景から、本発明者らはエレクトロニクス用の基板として使用できるような柔軟性、平坦性、平滑性を有しつつ、集積回路などから発生する熱を瞬時に拡散させることのできる高熱伝導性放熱基板の研究を行った。
その結果、高分子フィルムを2800℃以上の超高温で熱処理する事によって作製したグラファイトシートを用い、その表面を各種手法で研磨すれば、柔軟性、表面平滑性を有する高熱伝導性放熱基板を作製できる事を発見し、本発明を成すに至った。
このような柔軟性、平坦性、軽量性、高熱伝導性を兼ね備えた基板は非常にまれであり、したがって、その応用の範囲は非常に広いと考えられる。
すなわち本発明は、以下の通りである。
1) グラファイトシートの厚みが9.6μm以下、0.5μm以上であり、グラファイトシートの算術表面粗さが1.5μm以下であり、グラファイトシートの面方向の熱伝導率が1800W/mK以上であることを特徴とする高熱伝導性放熱基板。
2) グラファイトシートの厚みが9.6μm以上、50μm以下であり、グラファイトシートの算術表面粗さが2.0μm以下であり、グラファイトシートの面方向の熱伝導率が1300W/mK以上であることを特徴とする高熱伝導性放熱基板。
3) 前記グラファイトシートが直径10mmのマンドレルを用いた屈曲試験においても破損しないことを特徴とする1)または2)に記載の高熱伝導性放熱基板。
4) 前記グラファイトシートの密度が1.8g/cm3以上、2.26g/cm3以下であることを特徴とする1)〜3)のいずれかに記載の高熱伝導性放熱基板。
5) 前記グラファイトシートと、厚み1μm超、100μm以下の絶縁層とを有することを特徴とする1)〜4)のいずれかに記載の高熱伝導性放熱基板。
6) 前記絶縁層が高分子膜、または絶縁性無機化合物であることを特徴とする5)に記載の高熱伝導性放熱基板。
7) 前記高分子膜が、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメ
タクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂のいずれかひとつからなることを特徴とする6)に記載の高熱伝導性放熱基板。
8) 前記絶縁性無機化合物が窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、結晶性シリカ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、もしくは酸化ベリリウムの単層または積層からなることを特徴とする6)に記載の高熱伝導性放熱基板。
9) グラファイトシートを研磨する工程を含むことを特徴とする、1)〜8)のいずれか1つに記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
10) グラファイトシートを研磨する方法が、ブラスト研磨、ベルト研磨、ラップ研磨、バフ研磨、ショット研磨、電解研磨、イオンミリング、及び集束イオンビーム(FIB)からなる群より選択されることを特徴とする、9)に記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
11) グラファイトシートを研磨する方法が、ラップ研磨またはバフ研磨であることを特徴とする、10)に記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
12) アルミナ、ダイヤモンドスラリー、コロイダルシリカ、及び酸化セリウムからなる群より選択される1種以上の研磨剤を用いて研磨することを特徴とする、9)〜11)のいずれか1つに記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
13) 研磨装置を用いる際に、グラファイトシートを黒鉛製のブロックに貼り付けた後、研磨を行うことを特徴とする、9)〜12)のいずれかに記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
14) 膜厚が5μm以下のグラファイトシートのバフ研磨、イオンミリング、または集束イオンビーム(FIB)を行うことを特徴とする、9)〜13)のいずれか1つに記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
15) イオンミリングを行うことを特徴とする、14)に記載の高熱伝導性放熱基板の製造方法。
本発明によれば、エレクトロニクス用の基板として使用でき、柔軟、平滑、軽量な高熱伝導性放熱基板、その製造方法を提供することができる。加えて、本発明によれば、パターンニングや蒸着等でデバイスを作製する時に電極の幅設定や位置決めを高い精度で調節可能な高熱伝導性放熱基板を提供することも可能となる。
図1は、実施例13で得られたグラファイトシートをバフ研磨する前(図1(a))またはバフ研磨した後(図1(b))のSEM写真を示す(SEM写真の倍率は1000倍である。)。
以下に本発明の詳細について述べるが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
本明細書において、高熱伝導性放熱基板は、グラファイトシート、グラファイトフィルム、黒鉛、黒鉛シートという場合がある。
本発明の高熱伝導性放熱基板は、所定の厚みに応じた熱伝導率を有すると共に、所定の算術表面粗さを有することを特徴とする。従来のグラファイトシートは、薄くて熱伝導率が高くても、膜の薄さや静電気の為、うねりが生じ易く、表面処理を行うことが困難であった。本発明の高熱伝導性放熱基板は、所定の厚さと熱伝導率を維持しながら、所定のやり方でグラファイトシート表面を研磨する事で、放熱性、柔軟性(例えば屈曲性)、平滑
性を同時に達成することが可能となる。
本発明の高熱伝導性放熱基板は、高分子を焼成して得られる膜であることが好ましく、芳香族高分子である事がより好ましい。前記芳香族高分子は、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールおよびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのフィルムは公知の製造方法で製造すればよい。
特に好ましい芳香族高分子は、芳香族ポリイミドである。中でも以下に記載する酸二無水物(特に芳香族酸二無水物)とジアミン(特に芳香族ジアミン)からポリアミド酸を経て作製される芳香族ポリイミドは本発明のグラファイト作製のための原料高分子として特に好ましい。
<ポリイミドの合成、製膜>
前記酸二無水物は、ピロメリット酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。特に、直線的で剛直な構造を有した高分子構造を持つほどポリイミドフィルムの配向性が高くなること、さらには入手性の観点から、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
前記ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を用いることができる。これらは、単独で、または任意の割合の混合物で用いることができる。さらにポリイミドフィルムの配向性を高くすること、入手性の観点から、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成する事が好ましい。
ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤や、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類の両方又は片方をイミド化促進剤として用い、イミド転化するケミカルキュア法があるが、そのいずれを用いても良い。得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折率が大きくなりやすく、フィルムの焼成中に張力をかけたとしても破損することなく、また、品質の良いグラファイトを得ることができるという点からケミカルキュア法が好ましい。
前記高分子フィルムは、前記高分子原料又はその合成原料から公知の種々の手法によって製造できる。例えば、ポリイミドフィルムは、上記ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶剤溶液をエンドレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上に流延し、乾燥・イミド化させることにより製造される。具体的にケミカルキュアによるフィルムの製造法は以下のようになる。まず上記ポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒量のイミド化促進剤を加え支持板やPET等の有機フィルム、ドラム又はエンドレスベルト等の支持体上に流延又は塗布して膜状とし、有機溶媒を蒸発させることにより自己支持性を有する膜を得る。次いで、これを更に加熱して乾燥させつつイミド化させポリイミドフィルムを得る。加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲の温度が好ましい。さらに、ポリイミドの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり、延伸したりす
る工程を含む事が好ましい。これは、分子構造およびその高次構造が制御されたフィルムを用いる事でグラファイトへの転化がより容易に進行する、と言う事によっている。すなわち、グラファイト化反応をスムーズに進行させるためには炭素前駆体中の炭素分子が再配列する必要があるが、配向性にすぐれたポリイミドではその再配列が最小で済むために、低温でもグラファイトへの転化が進み易いと推測される。
また高分子フィルムから作製されるグラファイトシートは非常に柔軟性、屈曲性が高い。これは原料となる黒鉛が一枚の高分子フィルムから作製されることに由来し、面方向に隙間なく配列した黒鉛によるものである。一方、通常の天然黒鉛を圧延したものの場合は柔軟性、屈曲性が乏しく、実際に曲げた場合は破損しやすい。またHOPG,グラッシーカーボンなどは、硬度は非常に高いが屈曲性や柔軟性が乏しくなる傾向がある。
<炭素化・グラファイト化>
次に、ポリイミドに代表される高分子フィルムの炭素化・グラファイト化の手法について述べる。本発明では出発物質である高分子フィルムを不活性ガス中で予備加熱し、炭素化を行う。不活性ガスは、窒素、アルゴンあるいはアルゴンと窒素の混合ガスが好ましく用いられる。予備加熱は通常1000℃程度で行う。通常ポリイミドフィルムは500〜600℃付近で熱分解し、1000℃付近で炭化する。予備処理の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われない様に、フィルムの破壊が起きない程度の面方向の圧力を加える事が有効である。
上記の方法で炭素化されたフィルムを高温炉内にセットし、グラファイト化を行う。炭素化フィルムのセットはCIP材やグラッシーカーボン基板に挟んで行う事が好ましい。グラファイト化は通常2600℃以上または2800℃以上の高温で行われるが、この様な高温を作り出すには、通常グラファイトヒーターに直接電流を流し、そのジュ−ル熱を利用して加熱を行う。グラファイト化は不活性ガス中で行うが、不活性ガスとしてはアルゴンが最も適当であり、アルゴンに少量のヘリウムを加えても良い。処理温度は高ければ高いほど良質のグラファイトに転化出来る。熱分解と炭素化によりその面積は元のポリイミドフィルムより約10〜40%程度収縮し、グラファイト化の過程では逆に約10%程度拡大する事が多い。このような収縮、拡大によってグラファイトシート内には内部応力が発生しグラファイトシート内部にひずみが発生する。この様なひずみや内部応力は3000℃以上で処理することにより緩和されてグラファイトの層が規則正しく配列し、さらに熱伝導率が高くなる。本発明のグラファイトを得るためには2600℃では不足で、処理温度は2800℃以上が好ましく、3000℃以上がより好ましく、3100℃以上の温度で処理する事はさらに好ましく、3200℃以上である事は最も好ましい。無論、この処理温度はグラファイト化過程における最高処理温度としても良く、得られたグラファイトシートをアニーリングの形で再熱処理しても良い。なお熱処理温度の上限は、例えば、3700℃以下、好ましくは3600℃以下、より好ましくは3500℃以下である。当該処理温度での保持時間は、例えば、20分以上、好ましくは30分以上であり、1時間以上であってもよい。保持時間の上限は特に限定されないが、通常、5時間以下、特に3時間以下程度としてもよい。温度3000℃以上で熱処理してグラファイト化する場合、高温炉内の雰囲気は前記不活性ガスによって加圧されているのが好ましい。熱処理温度が高いとシート表面から炭素の昇華が始まり、グラファイトシート表面の穴、割れの拡大と薄膜化などの劣化現象が生じるが、加圧することによってこの様な劣化現象を防止でき、優れたグラファイトシートを得ることができる。不活性ガスによる高温炉の雰囲気圧力(ゲージ圧)は、例えば、0.10MPa以上、好ましくは0.12MPa以上、さらに好ましくは0.14MPa以上である。この雰囲気圧力の上限は特に限定されないが、例えば、2MPa以下、特に1.8MPa以下程度であってもよい。
<高熱伝導性グラファイトシートの特徴>
本発明の熱伝導率が1800W/mK以上または1960W/mK以上の高熱伝導性グラファイトシートは厚さが9.6μm以下0.5μm超または0.5μm以上の範囲であり、この様な範囲のグラファイトシートを得るためには原料高分子フィルムの厚さは25μm〜1μmの範囲である事が好ましい。これは、最終的に得られるグラファイトシートの厚さは、一般に出発高分子フィルムが1μm以上では厚さの60〜30%程度となり、1μm以下では50%〜20%程度となる事が多い事によっている。従って、最終的に本発明の9.6μm以下0.5μm以上の厚さのグラファイトシートを得るためには、出発高分子フィルムの厚さは30μm以下、1μm以上の範囲である事が好ましい。
また本発明の熱伝導率が1300W/mK以上または1350W/mK以上、50μm以下9.6μm以上または20μm以上の厚さのグラファイトシートを得るためには、出発高分子フィルムの厚さは125μm以下、40μm以上の範囲である事が好ましく、長さ方向は100〜70%程度に縮小する事が好ましい。
本発明の熱伝導率が1800W/mK以上または1960W/mK以上の高熱伝導性グラファイトシートは薄いほど高熱伝導率に優れやすいという観点から9.6μm以下0.5μm以上である。これは以下の様に考えられる。すなわち、高分子焼成法によるグラファイトシート製造において、グラファイト化反応は高分子炭素化シート最表面層でグラファイト構造が形成され、膜内部に向かってグラファイト構造が成長すると考えられている。グラファイトシートの膜厚が厚くなると、グラファイト化時に炭化シート内部のグラファイト構造が乱れ、空洞や欠損ができやすくなる。反対にシートが薄くなればシート表面のグラファイト層構造が整った状態で内部までグラファイト化が進行し、結果としてシート全体に整ったグラファイト構造ができやすい。上記のようにグラファイト層構造が整っているため、高い熱伝導率を示すグラファイトシートになると考えられる。本発明のグラファイトシートの厚さの範囲は9.6μm以下0.5μm以上であるが、好ましくは7.5μm以下1μm以上であり、より好ましくは2μm以上5μm以下である。グラファイトシートの厚さが9.6μmより大きいと、グラファイト化時に炭化シート内部のグラファイト構造が乱れ、空洞や欠損ができやすくなり、1800W/m以上または1950W/mK以上の熱伝導率を持つフィルム作製が難しい。また、0.5μm未満であると、高熱伝導性や柔軟性には富むものの物理的な強度には欠けるため、研磨時に破損する恐れがあるので好ましくない。
別態様において、本発明の熱伝導率が1300W/mK以上または1350W/mK以上の高熱伝導性グラファイトシートは上記の理由から、9.6μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。グラファイトシートの厚さが50μmより大きいと、グラファイト化時に炭化シート内部のグラファイト構造が乱れ、空洞や欠損ができやすくなるため熱伝導率が低下しやすくなるため好ましくない。
<密度>
本発明によるグラファイトシートの密度は1.8g/cm3以上であることが好ましい
。一般に高熱伝導性のグラファイトシートはシート中に欠損や空洞がない、非常に密な構造である。欠損や空洞がグラファイトシート中に入ると、密度が下がり熱伝導率も低下する傾向がある。このことから、グラファイトシートの密度は1.80g/cm3以上が好
ましく、さらには2.0g/cm3以上であることがより好ましく、2.1g/cm3以上であることは最も好ましい。密度の上限は、例えば2.26g/cm3以下であり、2.
20g/cm3以下であってもよい。
また柔軟性をあげるためにグラファイトシートにロールプレスなどを行ってもよい。炭化や黒鉛化の際、ポリイミドフィルムの種類や添加剤により部分的に発泡することがある
。この発泡により部分的に屈曲性や熱伝導率が下がることがある。このフィルムの発泡を押しつぶして積層状態を密にすることにより熱伝導率、屈曲性が向上する。この圧延により熱伝導性が低下することはない。
本発明のグラファイトシートは、厚みが9.6μm以下0.5μm以上においては温度25℃におけるa−b面方向の熱伝導率が1800W/mK以上または1950W/mK以上のものであるが、熱伝導率は、好ましくは1960W/mK以上であり、より好ましくは2000W/mK以上であり、さらに好ましくは2050W/mK以上であり、特に好ましくは2080W/mK以上であり、最も好ましくは2100W/mK以上である。また熱伝導率は、例えば、2400W/mK以下であってもよく、2300W/mK以下であってもよい。
またこれらのフレキシブルエレクトロニクスデバイスはめがね型デバイス、衣服装着型デバイス、皮膚に直接貼るセンサーなどのウェラブルデバイスにも使われており、デバイス(通信用コイル、電池、センサー、CPU、配線など)から発する熱によるやけどなどが問題になる恐れがあるため熱伝導率が高いほど発生する熱を緩和できるという点から、基板は、高熱伝導性であることが好ましい。
これらのフレキシブルエレクトロニクスデバイスを長時間装着した際、デバイスと体との間の熱による違和感も問題になる。このためフレキシブルエレクトロニクスデバイスに用いられる基板は、放熱性が高いほど好ましく、1800W/mK以上であることが好ましく、より好ましくは1850W/mK以上、さらに好ましくは1900W/mK以上、さらにより好ましくは1960W/mK以上であり、さらにより一層好ましくは2000W/mK以上であり、さらにより一層好ましくは2050W/mK以上であり、特に好ましくは2080W/mK以上であり、最も好ましくは2100W/mK以上である。また熱伝導率は、例えば、2400W/mK以下であってもよく、2300W/mK以下であってもよい。
本発明のグラファイトシートは、厚みが9.6μm以上50μm以下においては温度25℃におけるa−b面方向の熱伝導率1300W/mK以上または1350W/mK以上であることが好ましく、より好ましくは1400W/mK以上、さらに好ましくは1500W/mK以上である。この場合、膜厚が厚くなっていても熱の移動量が大きくなるため、発生する熱を十分拡散できる。
<研磨方法>
本発明には、グラファイトシートを研磨する工程を含むことを特徴とする高熱伝導性放熱基板の製造方法も包含される。
特に限定されないが、得られたグラファイトシートを研磨する方法としては、ブラスト研磨、ベルト研磨、ラップ研磨、バフ研磨、ショット研磨、電解研磨、イオンミリング、集束イオンビーム(FIB)などがあげられる。膜厚が50μm〜5μmまでのグラファイトシートの研磨はバフ研磨やラップ研磨などが好ましい。特にグラファイトシートの研磨にはバフなどを用いて研磨することで表面の傷を抑えることができる。この際使用する研磨剤としては、アルミナ、ダイヤモンド(ダイヤモンドスラリー)、コロイダルシリカ、酸化セリウムのいずれか、またはこれらを組み合わせたものを用いてよい。
これら研磨剤は、分散性等を向上する為表面処理されていてもよい。ダイヤモンドは、単結晶でも多結晶であってもよい。この研磨は研磨装置を用いてもよく、その際はグラファイトシートを黒鉛製のブロックなどに貼り付けた後、研磨を行うことで良好な研磨が行える。前記ブロックへの貼り付けは、室温下や高温下で行ってもよく、再度取り外す観点から、高温下で行うことが好ましい。
貼り付け温度は、例えば10℃以上200℃以下、好ましくは30℃以上、150℃以下で行う。貼り付けに使用される材料は、ホットメルト接着剤等の固定用ワックス等であればよく、より具体的には、アドフィックス系接着剤、スカイワックス系接着剤、シフトワックス系接着剤、アルコワックス系接着剤、アクアワックス系接着剤、天然樹脂等を使用することができる。
研磨後、ブロックからグラファイトシートを剥離させる場合、再度加熱してもよい。
グラファイトシート上に付着したワックスは、溶剤、温水などにより洗浄することが好ましい。溶剤は、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤等である。中でも、溶剤は、水、アセトン系溶剤が好ましく、より好ましくは、水、アセトンである。溶剤は、単独または2種以上を使用してもよい。
5μm以下のグラファイトシートの研磨にはバフ研磨やイオンミリング、FIBなどが好ましく、イオンミリングが特に好ましい。このイオンミリング法はアルゴンイオンを基板に衝突させてグラファイト表面を研磨する方法であり、特に薄いグラファイトの場合サンプルの破損などがなく研磨できるため適している。これ以外にも上記の研磨方法を組み合わせてもよい。
研磨剤の粒径は、例えば0.01μm以上100μm以下であり、0.02μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上30μm以下である。本発明の研磨において、1種類の粒径を有する研磨剤を使用してもよく、粒径の異なる研磨剤を2種類以上組み合わせて同時にまたは別々に使用してもよい。中でも、予備加工、精密加工性、超精密加工などにおいて異なる粒径を有する研磨剤を別々に使用し、後工程で使用する粒径を小さくし、グラファイトシートを研磨することが好ましい。
前記粒径は、例えば累積高さ50%の粒子径(d50)であってもよく、公知の光透過沈
降法や沈降試験法により測定することができる。
研磨剤は、例えばモース硬度で示される硬度値を有していてもよく、5以上のモース硬度を有することが好ましく、より好ましくは5.5以上のモース硬度、さらに好ましくは6.0以上のモース硬度を有する。ダイヤモンドは、モース硬度が10である。
研磨剤は、乾式または湿式のいずれで使用してもよいが、湿式で使用する場合の溶媒は、水、エタノール、メタノールなどのアルコール等であればよい。
研磨剤を塗布する材質は、特に制限されないが、ウレタン、布等であってもよい。
研磨剤を塗布した研磨用部材は、対象グラファイトシートに対して1〜1000rpmで回転させてもよく、好ましくは5〜500rpm、より好ましくは10〜300rpmで回転させてもよい。
研磨剤を塗布した研磨用部材は、対象グラファイトシートに対して荷重0.01〜1500gf/cm2で押圧してもよく、好ましくは0.1〜1000gf/cm2、より好ましくは1〜700gf/cm2で押圧する。
<算術(平均)表面粗さ(Ra)測定>
本グラファイトシートの算術平均表面粗さとしては2.0μm以下または1.5μm以下であり、1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、さらに好ましくは0.5μm以下である。グラファイトシートの算術表面粗さは、例えば200nm超であり、好ましくは300nm以上、より好ましくは400nm以上である。
基板として使用するためにはできる限り平坦であることが好ましい。またグラファイトシート上に絶縁膜を作製する場合は更なる平坦化が可能であり、その絶縁膜のRaは0.1μm以下が好ましく、0.05μm以下がさらに好ましく、0.02μm以下が最も好ましい。本グラファイトシートの様な平坦性がある場合、絶縁膜を作製することにより、さらに高い平坦性が容易に得られ、かつその絶縁膜を極限まで薄くすることが可能である。この平坦性が高いほど発生した熱を効率的に輸送できるという点からも好ましい。この場合の算術表面粗さは、例えば0.001μm以上又は0.002μm以上であればよい。
算術表面粗さは、例えば3D形状測定顕微鏡(キーエンス製、VK9500)を用いて測定可能である。
本発明の高熱伝導性放熱基板において、Raの値は、熱伝導率の値と相関しており、例えば、Ra値が低いと、熱伝導率値は高くなる傾向がある。
<絶縁膜>
本発明の高熱伝導性放熱基板は、前記グラファイトシートと、所定の厚みの絶縁層とを有していてもよい。
絶縁層の厚みは、1μm超、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上、80μm以下、さらに好ましくは3μm以上、70μm以下である。
絶縁膜としては、柔軟性が高いことから高分子膜が好ましく、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、ポリビニルトルエン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、ポリヒドロキシメチルスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルスチレン樹脂、ポリビニルデンフロライド樹脂から成る群から選択された材のいずれかひとつ、または二つ以上の組み合わせたものが好ましい。
絶縁膜の作製方法としては特に限定はしないが、ラミネート、蒸着、加圧プレス、加熱加圧プレスなどを使用してもよいし、上記高分子または硬化前駆体を溶媒などに可溶化し、それをコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法、浸漬法といった各種のコーティング法を用いて表面に塗布しても良い。
絶縁層としては、絶縁性無機化合物も好ましく、絶縁性無機化合物は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、結晶性シリカ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、もしくは酸化ベリリウムの単層または積層化させたものでもよい。特に好ましいものとしては酸化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカなどが好ましい。
上記の絶縁膜製膜方法としては特に限定されず、物理気相成長法及び化学気相成長法(化学蒸着法)またはそれらを組み合わせた方法が挙げられる。物理気相成長法としては、蒸着法(抵抗加熱法、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー)、また、イオンプレーティ
ング法、スパッタ法等が挙げられる。一方、化学気相成長法(化学蒸着法、Chemical Vapor Deposition)は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面或いは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法など公知のCVD方式等が挙げられ、特に限定されるものではないが、製膜速度や処理面積の観点から上記の方法を好ましく用いることができる。
<屈曲性>
屈曲性としては高いほうが好ましく、直径10mmのマンドレル試験棒を用いた屈曲試験においても黒鉛の破損、剥離がおきないことが望ましい。さらにこれ以上の屈曲性を持っていることがさらに好ましく、屈曲性試験で用いるマンドレル試験棒の直径としては8mmがさらに好ましく、6mmが最も好ましい。屈曲性が高いほど衣服や皮膚などの屈曲する場所に使用でき、またデバイスを折り曲げたり、丸めたりなどして、かばんなどに収納した際に破損しにくくなる。
以下実施例を示し、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明はこれら実施例によって限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
(厚み測定)
原料である高分子シート、グラファイトシートの厚さは、プラス、マイナス5〜10%程度の誤差があり、得られたシートの10点平均の厚さを試料の厚さとした。
(SEM表面測定)
グラファイトシートを導電性両面テープで測定用ステージに貼り付けた。このサンプルをSEM(株式会社日立ハイテクノロジーサービス製 走査型電子顕微鏡(SU8000))にセットし、サンプルステージの斜度を15度とし、加速電圧5〜20kV、倍率1000倍でグラファイトシート表面を観察した。
(表面粗さ測定)
超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス製、VK9500)を使用した。算術表面粗さRaは測定データを顕微鏡付属の解析ソフトウエアを用いて解析し、JIS B0601−1994の規格に基づき算出した。
<密度>
作製したグラファイトシートの密度は、ヘリウムガス置換式密度計[AccuPyc II 1340島津製作所(株)]によりグラファイトシートの体積を測定し、質量を別途測定し、密度(g/cm3)=質量(g)/体積(cm3)の式から算出した。なお、この方法で厚さ200nm以下のグラファイトシートの密度測定は誤差が大きすぎて不可能であった。そのため、200nm以下の厚さのグラファイトシートの熱拡散率から熱伝導率を計算する場合には、その密度として2.1を仮定して計算した。
<熱伝導率>
グラファイトシートの熱拡散率は、周期加熱法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社「LaserPit」装置)を用いて、25℃、真空下(10-2Pa程度)、10Hzの周波数を用いて測定した。これはレーザー加熱の点から一定距離だけ離れた点に熱電対を取り付け、その温度変化を測定する方法である。ここで熱伝導率(W/mK)は、熱拡散率(m2/s)と密度(kg/m3)と比熱(798kJ/(kg・K))を掛
け合わせることによって算出した。ただし、この装置ではグラファイトシートの厚さが1μm以上の場合は熱拡散率の測定が可能であった。しかし、グラファイトシートの厚さが1μm以下の場合では測定誤差が大きくなりすぎて正確な測定は不可能であった。
そこで第二の測定方法として、周期加熱放射測温法((株)BETHEL製サーモアナライザーTA3)を用いて測定をおこなった。これは周期加熱をレーザーで行い、温度測定を放射温度計で行う装置であり、測定時にグラファイトシートとは完全に非接触であるため、グラファイトシートの厚さ1μm以下の試料でも測定が可能である。両装置の測定値の信頼性を確認するために、幾つかの試料については両方の装置で測定を行い、その数値が一致する事を確認した。
BETHEL社の装置では周期加熱の周波数を最高800Hzまでの範囲で変化させる事ができる。すなわち、この装置の特徴は通常熱電対で接触的に行われる温度の測定が放射温度計により行われ、測定周波数を可変できる点である。原理的に周波数を変えても一定の熱拡散率が測定されるはずなので、本装置を用いた計測では周波数を変えてその測定を行った。1μm以下の厚さの試料の測定を行った場合は、10Hzや20Hzの測定においては測定値がばらつく事が多かったが、70Hzから800Hzの測定では、その測定値はほぼ一定になった。そこで、周波数に寄らず一定の値を示した数値(70〜800Hzでの値)を用いて熱拡散率とした。
<屈曲性試験>
作製した高熱伝導性基板を100mmx50mmの長方形に切り出した後、直径10mmのマンドレル試験棒をセットした試験機にセットし、屈曲させた。屈曲後のサンプルにわれや黒鉛の剥離がなく、屈曲前と同様の外観であることを目視により確認し判定することにした。表1〜3において、○は、屈曲後のサンプルに割れや黒鉛の剥離がなく、屈曲前と同様の外観を示すことを意味する。×は、屈曲後のサンプルに割れや黒鉛の剥離が見られ、屈曲前と同様の外観を示さない事を意味する。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
(製造例1)
ピロメリット酸無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1の割合で合成したポリアミド酸の18wt%のDMF溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間、300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱した後、アルミ箔を除去しポリイミドフィルム(高分子試料A)を作製した。また試料Aと同様にしてピロメリット酸無水物とp−フェニレンジアミンを原料に用い、ポリイミドフィルム(高分子試料B)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンを原料に用いポリイミドフィルム(高分子試料C)とを作製した。ポリイミドフィルムの厚みに関しては、キャストする速度などを調整することにより、100μmから1μmの範囲の厚さの異なる何種類かのフィルムを作製した。
(製造例2)
製造例1で作製した厚み100μmから1μmの範囲にある14種類のポリイミドフィルム(高分子試料A)、(高分子試料B)、(高分子試料C)を、電気炉を用いて窒素ガス中、10℃/分の速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保って予備処理した。次に得られた炭素化シートを円筒状のグラファイトヒーターの内部にセットし、20℃/分の昇温速度で3000℃の処理温度(最高温度)まで昇温した。この温度で30分間(処理時間)保持し、その後40℃/分の速度で降温し、厚み0.52μm〜50μm
のグラファイトシートを作製した。処理はアルゴン雰囲気で0.15MPaの加圧下でおこなった。
(実施例1〜11)
製造例2で作製した厚み0.52μmから9.0μmのグラファイトシートの表面研磨を実施した。表面研磨したグラファイトブロックを120℃で加熱した後、固定用ワックスをグラファイトブロック表面に塗布し、グラファイトシートを空気が入らないようテフロン(登録商標)ローラーを用いて貼り付け、室温で冷却して固定した。その後、回転数100rpm、研磨剤としてダイヤモンドスラリー(粒径3〜0.1μm)をバフに塗布し、徐々に粒径を細かくして研磨した(バフ研磨)。研磨後に再度120℃で加熱しグラファイトシートをブロックから外した。表面に付着したワックスの残渣はトルエンで20分間洗浄を二回繰り返したのち、アセトン、水と溶媒置換をして乾燥した。得られたグラファイトシートの厚み(μm)、密度(g/cm3)、熱伝導率(W/mK)、算術表面
粗さRa(μm)の値を表1に示した。この表に示した厚みのフィルムではいずれの試料でもRaは1.5μm以下であり、1800W/mK以上または1950W/mK以上の優れた平坦性、熱伝導率を示す事が分かった。さらに屈曲試験においてもグラファイトシートに大きな損傷も確認できなかった。
(実施例12〜14)
製造例2で作製した厚み20、30、50μm厚のグラファイトシートを使用した以外は実施例1と同様にして研磨を実施した。得られたグラファイトシートの厚み(μm)、密度(g/cm3)、熱伝導率(W/mK)、算術表面粗さRa(μm)の値を表2に示
した。この表に示した厚みのフィルムではいずれの試料でもRaは2.0μm以下であり、1300W/mK以上または1350W/mK以上の優れた平坦性、熱伝導率を示す事が分かった。さらに屈曲試験においてもグラファイトシートに大きな損傷も確認できなかった。
なお、実施例13で作製したグラファイトシートをバフ研磨する前とバフ研磨した後のSEM写真を図1に示す。その結果、バフ研磨前の算術表面粗さは、Ra7.3μmを示すのに対し(図1(a))、バフ研磨後の算術表面粗さは、Ra1.8μmを示した事から(図1(b))、パターンニングや蒸着等でデバイスを作製する時に電極の幅設定や位置決めを高い精度で調節することが可能となる。
(比較例1〜5)
上記グラファイトシートの代わりに市販品の天然黒鉛シート(東洋炭素製、PF−UHP、厚み200μm)、グラッシーカーボン(東海炭素製、厚み1000μm)、CIP成型黒鉛(新日本テクノカーボン製、IGS−603、厚み1000μm)、HOPG(MiNTEQ製、PYROID−HT、厚み1000μm)、グラファイトシート(厚み96μm、厚み200μmを有する高分子試料Aポリイミドフィルムを用い製造例1及び2と同様にして作製したもの)を使用した以外は実施例1と同様に行った。天然黒鉛シート、グラッシーカーボン、CIP成型黒鉛、HOPG、得られたグラファイトシートそれぞれの厚み(μm)、密度(g/cm3)、熱伝導率(W/mK)、算術表面粗さRa(
μm)の測定結果と、屈曲性試験の結果を表3に示した。この結果から、熱伝導性、平坦性、屈曲性を兼ね備えた黒鉛シートは作製できなかった。
本発明の高熱伝導性放熱基板は、フレキシブルエレクトロニクスデバイスのみならず、従来のエレクトロニクスデバイス、伸縮性を持つストレッチャブルエレクトロニクス、ワイヤレス充電デバイス、フレキシブル電池、パワー半導体用放熱基板などにも好ましく使用できる。また高熱伝導性放熱基板は従来の無機半導体デバイスのみならず、有機半導体を使用する有機LED、有機薄膜トランジスタ、有機薄膜太陽電池、有機メモリなどにも使用できる。

Claims (12)

  1. 厚みが20μm以上、50μm以下であり、
    算術表面粗さが2.0μm以下であり、
    面方向の熱伝導率が1500W/mK以上、1800W/mK以下であり、
    密度が1.8g/cm3以上、2.26g/cm3以下であることを特徴とするグラファイトシート。
  2. 直径10mmのマンドレルを用いた屈曲試験においても破損しないことを特徴とする請求項1に記載のグラファイトシート。
  3. 請求項1または2に記載のグラファイトシートと、厚み1μm超、100μm以下の絶縁層とを有することを特徴とする高熱伝導性放熱基板。
  4. 前記絶縁層が高分子膜、または絶縁性無機化合物であることを特徴とする請求項3に記載の高熱伝導性放熱基板。
  5. 前記高分子膜が、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂のいずれかひとつからなることを特徴とする請求項4に記載の高熱伝導性放熱基板。
  6. 前記絶縁性無機化合物が窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、結晶性シリカ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、もしくは酸化ベリリウムの単層または積層からなることを特徴とする請求項4に記載の高熱伝導性放熱基板。
  7. グラファイトシートを研磨する工程を含み、
    研磨装置を用いる際に、グラファイトシートを黒鉛製のブロックに貼り付けた後、研磨を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載のグラファイトシートの製造方法。
  8. グラファイトシートを研磨する方法が、ブラスト研磨、ベルト研磨、ラップ研磨、バフ研磨、ショット研磨、電解研磨、イオンミリング、及び集束イオンビーム(FIB)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項7に記載のグラファイトシートの製造方法。
  9. グラファイトシートを研磨する方法が、ラップ研磨またはバフ研磨であることを特徴とする、請求項8に記載のグラファイトシートの製造方法。
  10. アルミナ、ダイヤモンドスラリー、コロイダルシリカ、及び酸化セリウムからなる群より選択される1種以上の研磨剤を用いて研磨することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載のグラファイトシートの製造方法。
  11. 膜厚が5μm以下のグラファイトシートにバフ研磨、イオンミリング、または集束イオンビーム(FIB)を行うことを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載のグラファイトシートの製造方法。
  12. イオンミリングを行うことを特徴とする、請求項11に記載のグラファイトシートの製造方法。
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