以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
図1は、実施の形態に係るチルトヒンジ機構100を備えたステアリング装置10を示す正面図である。図2及び図3は、実施の形態に係るステアリング装置10の部分断面図である。具体的には図2は、図1におけるII−II切断線を含む切断面を見た断面図である。図3は、図2におけるIII−III切断線を含む切断面を見た断面図である。なお、図3においては、ボルト262及びナット264を断面図で示しておらず平面図で示している。
図1〜図3に示すように、ステアリング装置10は、ステアリングシャフト11を搖動(チルト動作)自在に支持するステアリングコラム12を備えている。ステアリングコラム12には、図示しないホーン等の電子機器が設けられている。
ステアリングコラム12はその中間部に設けられたコラムブラケット18に固定されている。また、コラムブラケット18は、取付ブラケット19に対して車体の上下方向へ移動可能に連結されており、この取付ブラケット19を介して車体側のメンバ(フレーム:図示省略)に支持されている。コラムブラケット18と取付ブラケット19との間には、ステアリングコラム12の搖動、正確には取付ブラケット19に対するコラムブラケット18の搖動をロックまたはアンロックするためのロック機構(図示省略)が設けられている。ロック機構には、車体の左方(図1中、下方)に張り出したレバー20が設けられている。このレバー20が操作されることにより、ロック機構がステアリングコラム12の搖動をロックまたはアンロックする。
ステアリングコラム12は、ステアリングシャフト11のアッパーシャフト13を回転自在に支持するコラムチューブ21と、ステアリングシャフト11のロアシャフト14にアシスト力を付与するための減速機構、モータ、ECU等からなるパワーアシスト部22とを備えている。コラムチューブ21及びパワーアシスト部22のハウジング23は、導体である金属製であって、互いに電気的に接続されている。なお、ステアリングシャフト11、正確にはロアシャフト14は、図示しない自在継手を介してインターミディエイトシャフトに接続されている。
ハウジング23は、例えば減速機構を収容するギヤハウジングである。ハウジング23は、後述するピボット部材26を支持する支持部材である。ハウジング23には、ステアリングシャフト11(ロアシャフト14)の軸線と略平行に腕状に延びる一対の支持壁24が設けられている。一対の支持壁24は、ステアリング装置10を上方から見たとき、ロアシャフト14を挟む位置関係とされている。一対の支持壁24のそれぞれには、当該支持壁24の先端部で互いに対向するように貫通した挿通孔25が形成されている。2つの挿通孔25は、同じ内径とされている。この2つの挿通孔25は、ステアリングコラム12を搖動自在に支持するチルトヒンジ機構100の一部である。
以降、チルトヒンジ機構100について詳細に説明する。チルトヒンジ機構100は、車体に固定された固定ブラケット27(車体側の部材)に対して、ステアリングコラム12を搖動自在に支持する機構である。なお、図1では固定ブラケット27は破線で図示している。固定ブラケット27は、例えば金属等の導電性の材料によって形成されている。固定ブラケット27は、互いに対向する一対の側板28を備えている。一対の側板28には、互いに対向する位置に貫通孔281が形成されている。一対の側板28のそれぞれは、各挿通孔25と各貫通孔281とが同軸上に配置されるように、一対の支持壁24のそれぞれに対して対向配置されている。
図2及び図3に示すように、チルトヒンジ機構100は、上記のハウジング23と、ピボット部材26と、ブッシュ30と、一方向クラッチ40とを備えている。
ピボット部材26は、ステアリングコラム12の揺動の中心(チルト中心)である。ピボット部材26は、固定ブラケット27の一対の側板28間に介在する中空のカラー261と、ボルト262とを備えている。カラー261は、例えば金属等の導電性の材料によって形成されている。ボルト262は、カラー261及び一対の側板28を挿通した状態で、カラー261を一対の側板28に固定する固定軸である。
ボルト262の軸部263は、一対の側板28の貫通孔281及びカラー261を貫通している。一対の側板28及びカラー261を貫通した軸部263の先端のねじ部にナット264がねじ込まれている。これらボルト262及びナット264によって一対の側板28を締め付けることにより、一対の側板28間にカラー261を挟持して当該カラー261を一対の側板28に固定することができる。なお、ボルト262及びナット264は、図1では破線で図示している。
カラー261の両端部は、それぞれ一対の筒状のブッシュ30を介してハウジング23に取り付けられている。具体的には、カラー261の両端部は、それぞれ一対のブッシュ30に挿通された状態で、ハウジング23における一対の支持壁24の挿通孔25内に嵌合している。これにより、ハウジング23によってピボット部材26が支持されている。
図4は、実施の形態に係るブッシュ30の概略構成を示す断面図である。図4では、ボルト262及びナット264によって締結される前のブッシュ30を示している。図4に示すように、ブッシュ30の一端部には、全周にわたって外方に突出した鍔部31が設けられている。鍔部31は、ボルト262及びナット264が締結されることで、側板28及び支持壁24によって挟持される部位である(図3参照)。鍔部31における側板28側の表面には、複数の突起32が形成されている。複数の突起32は、ブッシュ30の周方向に沿って配列されている。突起32は、上述した締結によって圧縮され押し潰される。突起32の設置個数、大きさなどを調整することで、適切な締結力に調整することが可能である。適切な締結力であれば、剛性を高めることができ、振動の共振も抑制することが可能である。
ブッシュ30における鍔部31以外の部分は、ハウジング23の挿通孔25をなす内周面に対して全周にわたって密着している。ブッシュ30は、樹脂により形成された樹脂ブッシュである。具体的には、ブッシュ30は、比較的、摺動特性の高い樹脂により形成されている。摺動特性の高い樹脂としては、例えばポリアセタールなどが挙げられる。
図2及び図3に示すように、一方向クラッチ40は、ピボット部材26のカラー261と、ブッシュ30との間に配置されている。一方向クラッチ40は、円環状体であり、その内周面にはカラー261が嵌合している。また、一方向クラッチ40の外周面は、ブッシュ30を介して挿通孔25に嵌まり込んでいる。一方向クラッチ40は、ピボット部材26に対してステアリングコラム12が上昇する第一方向の搖動を許容し、ピボット部材26に対してステアリングコラム12が下降する第二の方向の搖動を規制する。なお、ここで言う「揺動」は「回転」、「回動」と言い換えることも可能である。一方向クラッチ40としては、第一方向の搖動を許容し、第二方向の搖動を規制するのであれば、周知の如何なる一方向クラッチを用いることができる。ここでは、一方向クラッチの一例について説明する。
図5及び図6は、実施の形態に係る一方向クラッチ40の概略構成を示す模式図である。図5及び図6では、内輪41及び外輪42を断面図で示している。図5は第一方向の許容している状態を示し、図6は第二方向の搖動を規制している状態を示している。
図5及び図6に示すように、一方向クラッチ40は、内輪41と、内輪41の外方に配置された外輪42とを備えている。内輪41の内周面にはピボット部材26のカラー261が固定されるように嵌合している。一方、外輪42の外周面はブッシュ30を介して挿通孔25に嵌まり込んでいる(図2及び図3参照)。ブッシュ30は、外輪42の外周面と、ハウジング23における挿通孔25をなす内周面との間に介在している。
また、内輪41の外周面には、複数のポケット43が形成されており、このポケット43のそれぞれに、バネ44及びローラ45が収容されている。ローラ45は、バネ44によって外輪42の内周面に接触するように保たれている。例えば、図5に示すように、外輪42が内輪41に対して第一方向(図5中、矢印Y1)で搖動する場合にはローラ45に対する接触面圧が低くなって当該搖動が許容される。つまり、ピボット部材26に対してハウジング23及びステアリングコラム12が上昇する方向への搖動が許容される。
一方、図6に示すように、外輪42が内輪41に対して第二方向(図5中、矢印Y2)で搖動する場合にはローラ45に対する接触面圧が高くなって抵抗となり、当該搖動を規制する。つまり、ピボット部材26に対してハウジング23及びステアリングコラム12が下降する方向への搖動が規制される。
次に、実施の形態に係るチルトヒンジ機構100の動作について説明する。
ユーザは、チルト位置を調節する際にはレバー20をアンロック操作することにより、ロック機構をアンロック状態とする。この状態では、ステアリングコラム12及びハウジング23は、自重によって第二方向に搖動して下降しようとするが、一方向クラッチ40によって当該搖動が規制されているので、ステアリングコラム12及びハウジング23は下降しない。
ユーザは、例えば、アンロック状態でステアリングコラム12を第一方向に搖動させると、一方向クラッチ40によって当該搖動が許容されているので、スムーズにステアリングコラム12を搖動させて上昇させることができる。
一方、ユーザは、例えば、アンロック状態でステアリングコラム12を第二方向に搖動させると、一方向クラッチ40によって当該搖動が規制されているために、第一方向に搖動させる場合と同等の力ではステアリングコラム12が搖動しない。しかしながら、より大きい力をステアリングコラム12に付与すると、ブッシュ30と一方向クラッチ40との境界面或いはブッシュ30とハウジング23との境界面で滑りが生じるので、ステアリングコラム12が第二方向に搖動し、下降する。
ここで、ステアリングコラム12を下降させるために必要な力は、ブッシュ30と摩擦対象物(一方向クラッチ40またはハウジング23)との摩擦力を上回る力となる。ブッシュ30の肉厚、長さ、外径、締め代などの調整することで、ブッシュ30と摩擦対象物との摩擦力を調整することができる。つまり、ステアリングコラム12を下降させるために必要な力を調整することができる。
ユーザは、ステアリングコラム12が所望のチルト位置に配置されると、レバー20をロック操作することにより、ロック機構をロック状態とする。これにより、ステアリングコラム12のチルト位置が固定される。
以上のように、本実施の形態に係るチルトヒンジ機構100は、車体に対してステアリングコラム12を搖動自在に支持するチルトヒンジ機構100であって、チルト中心としてのピボット部材26と、ピボット部材26が挿通される挿通孔25を有する支持部材(ハウジング23)と、内輪41の内周面に対してピボット部材26が嵌合した状態で、外輪42の外周面が挿通孔25に対して嵌まり込む一方向クラッチ40とを備え、一方向クラッチ40は、ピボット部材26に対してステアリングコラム12が上昇する第一方向の搖動を許容し、ピボット部材26に対してステアリングコラム12が下降する第二の方向の搖動を規制する。
これによれば、一方向クラッチ40によって、ピボット部材26に対してステアリングコラム12が下降する第二の方向の搖動が規制されているので、アンロック状態におけるステアリングコラム12の下降を規制することができる。したがって、自重によるステアリングコラム12の下降を抑制することができる。
また、万が一ロック機構によるロックが不十分であったとしても、ステアリングコラム12の下降を抑制することが可能である。
従来では、ステアリングコラム12の下降を規制するためにチルトバネが用いられていたが、一方向クラッチ40を採用することにより、チルトバネも不要となる。一方向クラッチ40はハウジング23の挿通孔25内に収容されているので、チルトバネよりもスペースの消費が小さい。したがって、ステアリングコラム12周辺のスペース効率を高めることができる。
また、チルトヒンジ機構100は、一方向クラッチ40における外輪42の外周面と、ハウジング23における挿通孔25をなす内周面との間に介在するブッシュ30を備えている。
これによれば、一方向クラッチ40とハウジング23における挿通孔25をなす内周面との間にブッシュ30が介在しているので、所定の力を付与すれば、当該ブッシュ30と一方向クラッチ40との境界面或いはブッシュ30とハウジング23との境界面で滑りを生じさせることができる。したがって、一方向クラッチ40によって第二の方向の搖動が規制されていたとしても、この滑りを発生させることでステアリングコラム12を第二の方向に搖動させて下降させることができる。
また、ブッシュ30は、樹脂製のブッシュである。
これによれば、ブッシュ30が樹脂製のブッシュであるので、金属製のブッシュと比較しても前述した滑りを発生させやすい。また、樹脂製のブッシュであると、金属製のブッシュよりも柔軟性があるために振動を吸収することができる。さらには、締結後に押し潰される突起32なども形成することも可能である。
また、ピボット部材26は、固定ブラケット27(車体側の部材)に固定されたボルト262(固定軸)を含み、支持部材は、ステアリングコラム12のハウジング23である。
これによれば、固定ブラケット27に固定されたボルト262を含むピボット部材26と、ステアリングコラム12のハウジング23とを備えたチルトヒンジ機構100であっても、自重によるステアリングコラム12の下降を抑制することができる。
以上、本発明に係るチルトヒンジ機構について、上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上記の実施の形態では、一方向クラッチ40とハウジング23との間にブッシュ30が設けられている場合を例示したが、ブッシュ30はなくてもよい。この場合、一方向クラッチ40とハウジング23との境界面を滑らせることで、ステアリングコラム12を第二の方向に回転させることができる。
また、上記実施の形態では、ブッシュ30として樹脂製のブッシュを例示した。しかし、ブッシュ30として金属製のブッシュを用いることも可能である。
また、上記実施の形態では、ピボット部材26のボルト262が、固定ブラケット27に固定されている場合を例示した。しかしながら、ピボット部材26のボルト262がハウジング23に固定されていてもよい。この場合、ピボット部材26が挿通される挿通孔は、車体側におけるハウジング23以外の他の部材に設けられることになる。つまり、他の部材が本発明に係る支持部材である。この場合、一方向クラッチ40は、内輪41の内周面に対してピボット部材26のボルト262が嵌合した状態で、外輪42の外周面が他の部材の挿通孔に対して嵌まり込んでいる。
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。