本発明は、請求項1の上位概念部に記載の高圧燃料ポンプに関する。
市場から公知の、内燃機関用の燃料システムでは、内燃機関の燃料は、燃料タンクからフィードポンプおよび機械式に駆動される高圧燃料ポンプを用いて、高圧下で高圧蓄圧器(「レール」)に圧送される。このような高圧燃料ポンプのポンプハウジングに接してまたは該ポンプハウジング内には、通常、緩衝装置が配置されている。このような緩衝装置は、多くの場合、カバーエレメントと、該カバーエレメントとポンプハウジングとの間に配置されたダイヤフラム緩衝器とを含んでおり、このダイヤフラム緩衝器は、通常、ガスが満たされたダイヤフラムボックスとして形成されていて、かつ保持エレメントを介してポンプハウジングに支持されていて、かつ鉛直方向において該ポンプハウジングに対して間隔をおいて配置されている。このとき緩衝装置は、低圧領域に流体接続されている。緩衝装置は、燃料システムの低圧領域における圧力脈動を緩衝するために働き、このような圧力脈動は、例えば高圧燃料ポンプの、例えば入口弁である弁の開閉動作によって発生する。
発明の開示
本発明の課題は、その作動が、車両乗員にとってほとんど不快に感じられない高圧燃料ポンプを提供することである。
この課題は、請求項1に記載の高圧燃料ポンプによって解決される。本発明に係る高圧燃料ポンプによって、高圧燃料ポンプの作動時に、例えば量制御弁を操作するプランジャの当接時における音響発生に基づいて発生する、カバーエレメントの振動が、僅かな騒音エミッションしか惹起しないこと、もしくはカバーエレメントから放射される騒音エミッションが、車両乗員によって不快に知覚されないことが保証される。
好ましくは、壁の補強部は、少なくとも、壁の、少なくとも半径方向にも延びている湾曲した領域が、緩衝容積の側にそれぞれの曲率中心を有することによっても形成されている。言い換えれば、全体としてほぼまたは少なくとも半径方向にも延びている、壁の部分が、緩衝容積から(例えば壁の一部がレンズだとすると、「焦点」から)見て、凹面状に湾曲している。このとき好ましくは、壁のこの湾曲した形状が、補強部を形成している。緩衝容積の側における曲率中心というのは、局部的な曲率円(接触円とも呼ぶ)の中心が、緩衝容積の側に位置しているということを意味する。このとき壁のそれぞれの点における曲率円は、この点における壁の形状に最も接近している円であり、つまり局部的に壁の形状に密着している円である。この点における曲率円の接線は、壁の接線と合致している。このとき壁における1つの点は、切断平面に応じて異なった曲率円を有することができる(観察することができる切断平面はそれぞれ、ピストン長手方向軸線に対して平行に配置されている)。このように湾曲した壁は、自己安定効果を有しており、これによってカバーエレメントは、僅かな壁厚でも、ひいては僅かな重量、僅かな構造寸法およびコンパクトな寸法設定においても、振動に対して高い剛性ひいては抵抗を有している。
しかしながらまた、ここで付言しておくと、補強部をまったく異なった形式で、例えば補強リブの成形によって、材料厚さの相応の選択によって、および/または壁の材料質量の相応の選択によって製造することも可能である。
好ましくは、カバーエレメントは、緩衝装置の一部であり、緩衝装置は、カバーエレメントとポンプハウジングとの間に配置されたダイヤフラム緩衝器を含んでおり、好ましくは保持エレメントを含んでいて、該保持エレメントを介してダイヤフラム緩衝器は、ポンプハウジングに支持され、かつ鉛直方向においてポンプハウジングに対して間隔をおいて配置されており、かつ好ましくはばねエレメントを含んでいて、該ばねエレメントを介してダイヤフラム緩衝器は、カバーエレメントに支持され、かつ鉛直方向において該カバーエレメントに対して間隔をおいて配置されている。カバーエレメントを、上に記載した緩衝装置の一部として形成することによって、本発明に係る高圧燃料ポンプの作動時における圧力変動を、好適に緩衝することができる。
好ましくはまた、カバーエレメントは、全体として軸方向に延びる第1の部分と、半径方向に延びる第2の部分とを有している。これによって簡単に緩衝容積が得られる。このとき高圧燃料ポンプの作動時におけるカバーエレメントの振動特性に、好適な影響が及ぼされるので、高圧燃料ポンプの作動時における高い緩衝キャパシティにおいて特に僅かな騒音エミッションしか発生しない。「半径方向に延びる」というのは、第2の部分に関して、第2の部分がその形状において、半径方向に延びる成分を有しているということであり、つまり第2の部分は、完全に半径方向に延びている必要はない。つまりこの特徴は、斜めに半径方向および軸方向に延びている第2の部分をも含む。
このとき好ましくは、カバーエレメントの、軸方向に延びる第1の部分は、第2の部分とは反対側の端部に、半径方向内側に位置している斜めに面取りされた領域を、ポンプハウジングへの接合のために有している。これによってカバーエレメントは、ポンプハウジングに好適に接合すること、および例えばコンデンサ・放電・圧入式溶接工程を用いてポンプハウジングに固定することができる。このとき好ましくは、カバーエレメントの、半径方向内側に位置している斜めに面取りされた領域は、ポンプハウジングの一部を半径方向において取り囲んでいる。これによってカバーエレメントを、ポンプハウジングに簡単に固定することができる。
好ましくは、第2の部分は、つまり壁の、全体としてまたは少なくともまた半径方向に延びていてかつ緩衝容積から(もしくは壁の部分がレンズだとすると、焦点から)見て全体として凹面状である部分は、2mm〜10mmの、好ましくは5mm〜9mmの、好ましくは6mm〜8mmの、特に6.5mm〜7.5mmの、特に7mmの第1の内側の曲率半径を備えた横断面を有する移行領域と、40mm〜54mmの、好ましくは42mm〜52mmの、好ましくは44mm〜50mmの、特に46mm〜48mmの、特に47mmの第2の内側の曲率半径を備えた横断面を有する半径方向内側の主領域とを含んでおり、このとき第2の部分は、好ましくは移行領域と主領域とから成っている。これによって特に簡単なかつ容易に製造可能な形式で、カバーの振動モードまたは共鳴周波数を、ポンプの作動時において、高圧燃料ポンプが組み込まれている車両の使用者が、まったく知覚しないもしくは不快であると知覚しない騒音エミッションもしくは騒音放射の好適なスペクトラムが発生するように位置させることが可能になる。
好ましくはまた、カバーエレメントの、全体として軸方向に延びる第1の部分は、最短で5mm、好ましくは最短で6mm、好ましくは最短で7mm、特に最短で8mmの軸方向長さを有しており、かつ/または最長で12mm、好ましくは最長で11mm、好ましくは最長で10mm、特に最長で9mmの軸方向長さを有している。このようなカバーエレメントは、緩衝装置の別の部分、例えば上に述べたダイヤフラム緩衝器を、カバーエレメントとポンプハウジングとの間において収容するのに十分なスペースを提供する。それにもかかわらず、構造高さは、全体として比較的僅かであり、共鳴特性は、不所望の騒音エミッションを効果的に抑制するようになっている。
好ましくはまた、カバーエレメントの壁の、全体としてほぼ半径方向に延びる第2の部分は、軸方向で見て最短で7mmの、好ましくは最短で8mmの、好ましくは最短で9mmの、特に最短で9.5mmの長さを有しており、かつ/または最長で13mm、好ましくは最長で12mm、好ましくは最長で11mm、特に最長で10.5mmの長さを有している。第2の部分の軸方向長さが長ければ長いほど、第2の部分はより強く湾曲されて形成されてよく、このことは、騒音エミッションを特に効果的に抑制するが、しかしながら高圧燃料ポンプの必要な構造高さに対しては不都合な影響を及ぼす。上に述べた範囲は、本発明に係る高圧燃料ポンプの騒音抑制とスペースを節減する構造高さとの間における、好適な妥協策を示している。
好ましくはまた、カバーエレメントの壁厚が、半径方向内側の領域において、少なくとも1.5mm、好ましくは少なくとも1.6mm、好ましくは少なくとも1.65mmであり、このとき内側の領域は、カバーエレメントの中心軸線を中心にして配置されていて、かつ半径方向において、最短で41mm、好ましくは41.7mm、好ましくは43mm、特に45mmの直径を有している。半径方向内側の領域における上に挙げた最小カバー厚さによって、高圧燃料ポンプの作動時における騒音の原因となる、カバーエレメントの振動が十分な程度抑制される。壁厚さのための記載された値は、高圧燃料ポンプの僅かな取付け寸法および妥当な重量において、しかしながら同時に十分に騒音エミッションを抑制することができる、カバーの安価な製造を可能にする。
好ましくはまた、カバーエレメントは、最短で15mmの、好ましくは最短で16mmの、好ましくは最短で17mmの、特に最短で18mmの軸方向長さを有しており、かつ/または最長で22mmの、好ましくは最長で21mmの、好ましくは最長で20mmの、特に最長で19mmの軸方向長さを有している。記載された下限値は、例えばダイヤフラム緩衝器、保持エレメントおよび/またはばねエレメントを、上に記載したようにカバーエレメントとポンプハウジングとの間に配置することを可能にする好適な値であり、このとき記載された最高値は、高圧燃料ポンプの僅かな構造高さを好適に保証する。
本発明のその他の特徴、使用可能性および利点については、本発明の実施形態の以下の記載において、図面を参照しながら述べる。このとき特徴は、それについて詳しく示唆しないとしてが、単独でも種々様々な組合せにおいても、本発明にとって重要であり得る。
内燃機関用の燃料システムを単純化して示す概略図である。
本発明に係る高圧燃料ポンプを示す断面図である。
図2に示された高圧燃料ポンプのカバーエレメントを単独で示す拡大図である。
図2および図3に示されたカバーエレメントの共鳴周波数と、汎用の高圧燃料ポンプの共鳴周波数とを概略的に比較して示す線図である。
図1には、さらには図示されていない内燃機関用の燃料システム10が、単純化された概略図で示されている。燃料タンク12から、燃料システム10の作動時に燃料が、吸込み管路14を介して、フィードポンプ16および低圧管路18を用いて、入口20を介して、ピストンポンプとして形成された高圧燃料ポンプ22に供給される。入口20には入口弁24が配置されており、この入口弁24を介してピストン室26が、フィードポンプ16、吸込み管路14および燃料タンク12を含む低圧領域28に流体接続可能である。低圧領域28における圧力脈動は、圧力緩衝装置29を用いて緩衝することができる。この圧力緩衝装置29については、さらに以下においてさらに詳しく詳細に記載する。入口弁24は、操作装置30を介して強制的に開放することができる。操作装置30、ひいては入口弁24は、制御ユニット32を介して駆動制御可能である。
高圧燃料ポンプ22のピストン34は、本実施形態ではカム円板として形成された駆動装置36を用いて、ピストン長手方向軸線38に沿って昇降運動可能であり、これは、符号40で示された矢印によって概略的に示されている。液圧的に見て、高圧燃料ポンプ22のピストン室26と出口管片42との間には、出口弁44が配置されており、この出口弁44は、高圧蓄圧器46(「レール」)に向かって開放することができる。高圧蓄圧器46における制限圧の超過時に開放する圧力制限弁48を介して、高圧蓄圧器46とピストン室26とは流体接続可能である。
高圧蓄圧器46における制限圧の超過時に開放する圧力制限弁48を介して、高圧蓄圧器46とピストン室26とは流体接続可能である。圧力制限弁48は、ばねによって荷重が加えられている逆止弁として形成されていて、かつピストン室26に向かって開放することができる。
高圧燃料ポンプ22は、図2において断面図で示されている。図2の図示において分かるように、操作装置30は、ばねによって荷重が加えられているプランジャ49を含んでいる。このプランジャ49は、マグネットコイル50を介して可動であり、かつ入口弁24の、同様にばねによって荷重が加えられている弁体51を強制的に開放することができる。
図2の図示において、高圧燃料ポンプ22の上側領域には、圧力緩衝装置29が配置されている。圧力緩衝装置29は、ポット形状のカバーエレメント54を含んでおり、このカバーエレメント54は、結合領域56においてポンプハウジング52に結合されていて、つまり本実施形態では、KEEP溶接シーム(コンデンサ・放電・圧入式溶接シーム(Kondensator-Entladungs-Einpress-Schweissnaht))を介して結合されている。結合領域56は、周方向においてポンプハウジング52を取り囲んで延びている。
ポンプハウジング52およびカバーエレメント54は、圧力緩衝装置29の内室58を画定している。圧力緩衝装置29の内室58内には、ダイヤフラム緩衝器60が配置されている。このダイヤフラム緩衝器60は、図面で見て上側の第1のダイヤフラム62と、図面で見て下側の第2のダイヤフラム64とを含んでおり、両ダイヤフラム62,64は、縁部側において互いに溶接されている。上側のダイヤフラム62と下側のダイヤフラム64とは、緩衝容積66を取り囲んでおり、この緩衝容積66は、ガスによって満たされていて、かつ圧縮可能である。それというのは、両ダイヤフラム62,64はそれぞれ、緩衝容積66のためのフレキシブルな壁を形成しているからである。
ダイヤフラム緩衝器60は、縁部側において支持エレメント68を介してポンプハウジング52に支持されていて、かつ軸方向において、もしくは図面において鉛直な方向において、ピストン長手方向軸線38に沿って、ポンプハウジング52に対して間隔をおいて配置されている。ばねエレメント70が、支持エレメント68とは反対の側でダイヤフラム緩衝器60とカバーエレメント54との間に配置されている。ばねエレメント70を介してダイヤフラム緩衝器60は、カバーエレメント54に支持されていて、軸方向38においてカバーエレメント54に対して間隔をおいて配置されている。全体としてダイヤフラム緩衝器60は、支持エレメント68およびばねエレメント70を介して縁部側において、カバーエレメント54とポンプハウジング52との間で緊締されている。
高圧燃料ポンプ22の作動時に、低圧領域28における燃料は、圧力脈動させられる。この圧力脈動は、ダイヤフラム緩衝器60の圧縮もしくは減圧によって補償することができる。
以下において図3を参照しながら、カバーエレメント54についてさらに詳しく述べる。図2に示されたピストン長手方向軸線38は、図3においてカバーエレメント54の中心軸線38に相当している。カバーエレメント54は、壁72を有している。カバーエレメント54の壁72は、第1の部分74を有しており、この第1の部分74は、図3において完全に鉛直に延びていて、つまり第1の部分74の延在方向は、完全にピストン長手方向軸線38の方向に位置している。カバーエレメント54の壁72は、また第2の部分76を有しており、この第2の部分76は、第1の部分74に接続していて、かつ全体としてほぼ半径方向78に延びている。このことは、第2の部分76は単に半径方向(図3における矢印78)においてだけ延びているのではなく、幾分軸方向においても延びていることを意味している。第2の部分76は、内室58から離反する方向に膨らまされていて、内室58から(もしくは第2の部分76がレンズだとすると、焦点から)見て、凹面状に形成されていて、ひいては局部的な曲率の曲率中心が内室58の側に位置するように湾曲されており、これによってカバーエレメント54もしくはカバーエレメント54の壁72の補強部が形成されている。
第1の部分74の、第2の部分76とは反対側の端部に、半径方向の部分74は、半径方向において斜めに面取りされた領域80を有しており、この領域80は、ポンプハウジング52への接合のために働く。第2の部分76は、第1の部分74に向かって、第1の内側の曲率半径84を備えた第1の移行領域82を有しており、曲率半径84は、本実施形態では7mmである。さらに第2の部分76は、主領域86を有しており、この主領域86は、半径方向内側に向かって移行領域82に接続されていて、かつ第2の内側の曲率半径88を備えた横断面を有しており、このとき第2の内側の曲率半径88は、本実施形態では47mmである。
本実施形態では、第2の部分76は、移行領域82と主領域86とから成っている。カバーエレメントの内側の領域には、図3において符号90が付されている。内側の領域90においてカバーエレメント54の壁72は、本実施形態では1.65mmである壁厚92を有している。内側の領域90は、本実施形態では、ピストン長手方向軸線38を中心にして41.7mmの直径を有している。
第1の部分の軸方向長さは、図3において符号94を付されていて、かつ本実施形態では8.2mmである。第2の部分76の鉛直方向長さは、図3において符号96を付されていて、かつ本実施形態では9.9mmである。その結果カバーエレメント54の全体的な鉛直方向長さ98は、18.1mmである。壁72の半径方向に延びる部分、つまり本実施形態では第2の部分76は、内室58に関して凹面状に形成されている。
入口弁24の作動時に、この入口弁24は部分的に強制的に、プランジャ49によって開放される、もしくは閉鎖を阻止される。これによって、高圧燃料ポンプ22によって圧送される燃料の量を調節することができる。プランジャ49が入口弁24の弁体51に当接すると、このことは騒音の原因になる。この騒音は、ポンプハウジング52を通ってもしくは燃料を通ってカバーエレメント54に至るまで伝播し、これによって騒音は振動を励起することがある。このときカバーエレメント54はこの騒音を放射する。もしカバーエレメント54の振動モードが、例えば8000Hzの範囲にあると、騒音エミッションの好ましくない増幅を生ぜしめることがある。カバーエレメント54の上に記載した幾何学形状によって、カバーエレメント54の振動モードは、ほぼ非可聴域の近くに、もしくは非可聴域に、特に12000Hz〜13000Hzの範囲になる。このことは、本発明に係る高圧燃料ポンプ22の作動時における騒音エミッションに対して好適な影響を及ぼす。それというのは、この騒音エミッションは、高周波数であるか、またはちょうど非可聴域にあるからである。
図4には、騒音エミッション100が励起周波数102の関数として示されている。このとき本発明に係る高圧燃料ポンプ22の共鳴特性は、符号104で示され、かつ破線で記載されており、かつ従来技術に基づいて公知の高圧燃料ポンプ22の共鳴特性は、符号106で示され、かつ実線で記載されている。本発明に係る高圧燃料ポンプ22の共鳴周波数107は、従来技術の共鳴周波数108に対して、非可聴域110へとシフトされている。共鳴周波数107における騒音エミッション100の高さ(音量)全体もまた、従来技術に基づいて公知の高圧燃料ポンプ22の共鳴周波数108におけるよりも低い。