以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書において参照する各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
<1.真空脱ガス装置の構成>
まず、図1〜図5を参照して、本発明の実施形態に係る真空脱ガス装置120の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る真空脱ガス装置120の構成の一例を模式的に示す正面断面図である。なお、本明細書で参照する各図面は、後述される上昇側浸漬管122及び下降側浸漬管123の並設方向をX方向とし、水平面内においてX方向と直交する方向をY方向とし、X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として示されている。
真空脱ガス装置120は、RH真空脱ガス法を利用した真空脱ガス装置である。真空脱ガス装置120は、例えば、図1に示されるように、真空槽121と、上昇側浸漬管122と、下降側浸漬管123とを備える。
真空槽121は、溶鋼140を貯留する取鍋110の鉛直上方に設けられる。上昇側浸漬管122及び下降側浸漬管123は、真空槽121の下部に設けられ取鍋110内の溶鋼140に浸漬される。真空脱ガス装置120は、上昇側浸漬管122にガスを吹き込むことにより取鍋110と真空槽121との間で溶鋼140を還流させ得る。
具体的には、取鍋110内には、転炉での一次精錬が完了した後の溶鋼140が貯留されている。真空槽121の下部には、上昇側浸漬管122及び下降側浸漬管123が下方に向かって延伸するように設けられており、上昇側浸漬管122及び下降側浸漬管123の先端は、取鍋110内の溶鋼140に浸漬されている。
真空槽121の上部には、排気ダクト125が設けられている。排気ダクト125から真空槽121内のガスが排気されることにより、真空槽121内が減圧される。それにより、溶鋼140が上昇側浸漬管122及び下降側浸漬管123を通じて真空槽121内に吸い上げられている状態となる。
上昇側浸漬管122には、ガス(具体的には、アルゴンガス等の不活性ガス)を上昇側浸漬管122内に吹き込むための吹き込み口124が設けられている。溶鋼140が真空槽121内に吸い上げられている状態で、吹き込み口124からガスが吹き込まれることにより、上昇側浸漬管122内に溶鋼140の上昇流が生まれ、取鍋110内の溶鋼140が上昇側浸漬管122を通って真空槽121内に上昇する。それに伴い、真空槽121内の溶鋼140は、下降側浸漬管123を通って取鍋110内に移動する。このように、真空脱ガス装置120では、取鍋110と真空槽121との間で溶鋼140を還流させながら、溶鋼140に対する二次精錬が行われる。真空脱ガス装置120を用いた二次精練では、具体的には、減圧された真空槽121内に吸い上げられた溶鋼140中の水素、窒素、一酸化炭素等のガス成分を低下させる脱ガス処理が行われる。
なお、真空槽121内には図示しない上吹きランスが挿入されてもよい。上吹きランスの先端からは、真空槽121内の溶鋼140の湯面に対して、溶鋼140の成分を調整するための各種のガスや粉体等の噴射体が吹き付けられる。この場合、真空脱ガス装置120では、溶鋼140を還流させながら、上吹きランスから溶鋼140に対して各種の噴射体を吹き付けることにより、二次精錬が行われる。例えば、上吹きランスから溶鋼140に対して酸素含有ガスが吹き付けられることにより、溶鋼140からの脱炭が促進される。また、例えば、上吹きランスから溶鋼140に対して脱硫剤が吹き付けられることにより、溶鋼140からの脱硫が促進される。
本実施形態に係る真空脱ガス装置120は、例えば、図1に示されるように、真空槽121内に遮蔽部126をさらに備える。
ここで、本件発明者は、真空槽121内で湯面からの溶鋼140の飛散が生じるメカニズムとして、従来考えられていたメカニズムと異なるメカニズムを流動解析シミュレーションによって見出した。遮蔽部126は、本件発明者により新たに見出された溶鋼140の飛散についてのメカニズムに基づいて、飛散した溶鋼140が真空槽121の内壁に付着することを抑制するために設けられている。
図2は、比較例についての流動解析シミュレーションによって得られた、上昇側浸漬管122内及び真空槽121内の溶鋼140の流動の様子の一例を示す図である。
比較例は、本実施形態と異なり、真空槽121内に遮蔽部が設けられない真空脱ガス装置の例である。比較例についての流動解析シミュレーションでは、図2に示されるように、比較例における上昇側浸漬管122及び真空槽121の内部空間の解析モデルを作成し、当該内部空間内における溶鋼140の流動の様子を調べた。図2では、上昇側浸漬管122及び真空槽121の内部空間の一部が示されており、例えば、下降側浸漬管123の内部空間の図示は省略されている。なお、比較例についての流動解析シミュレーションでは、シミュレーション条件として、吹き込み口124からのガスの流量を700[NL/min]に設定し、各浸漬管の内径を直径400mmに設定し、真空槽121の内径を直径1200mmに設定した。
比較例についての流動解析シミュレーションによれば、上昇側浸漬管122内における溶鋼140の上昇速度は比較的速く、溶鋼140は上昇側浸漬管122内を通過した後に上昇側浸漬管122から鉛直上方へ比較的広範囲に大きな塊状態となって飛散している様子が確認された。例えば、図2に示される領域R20において、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ飛散して真空槽121の内壁と接触している溶鋼140の様子が確認される。
具体的には、図2に示される領域R30において、上昇側浸漬管122内を比較的大きな気泡を形成したガスが上昇している様子が確認される。吹き込み口124から上昇側浸漬管122に吹き込まれるガスは、吹き込まれた直後には比較的小さな気泡を形成しているものの、上昇側浸漬管122内を上昇するにつれて圧力が低下することに伴い膨張する。それにより、上昇側浸漬管122内の上側は、比較的大きなガスの気泡とともに溶鋼140が上昇する状態となる。ゆえに、上昇側浸漬管122内では上昇速度が比較的速い溶鋼140の上昇流が生じるので、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ溶鋼140が飛散するものと考えられる。
特許文献1に開示された技術は、ボイリング現象により発生するスプラッシュに対しては有効である。つまり、ボイリング現象により発生するスプラッシュは液滴状態であるため、回転ディスクに衝突すると凝固滴となって回転ディスクの回転力によって再飛散させられるため、真空槽の壁面に当たっても付着力が弱くなり、自然に溶鋼液面に落下する。しかしながら、上昇側浸漬管内における上昇流に起因して発生する溶鋼の飛散は大きな塊状態となっており、回転ディスクに衝突しても大部分が液体のままで真空槽の壁面に向かって飛散する。従って、真空槽の壁面には大量の溶鋼が当たり、付着して、凝固するため、真空槽の内壁に地金が形成されることを抑制することができないという問題がある。
以下、図3〜図5を参照して、遮蔽部126の構成についてより詳細に説明する。
図3は、本実施形態に係る真空脱ガス装置120における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例を模式的に示す正面断面図である。具体的には、図3は、図1に示される領域R10の部分拡大図に相当する。図4は、本実施形態に係る真空脱ガス装置120における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例を模式的に示す上面断面図である。具体的には、図4は、X−Y平面と平行であり遮蔽部126より上側に位置する断面である図3に示されるA−A断面についての断面図である。図5は、本実施形態に係る真空脱ガス装置120における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例を模式的に示す側面断面図である。具体的には、図5は、Y−Z平面と平行であり上昇側浸漬管122の中心軸を通る断面である図3に示されるB−B断面についての断面図である。
遮蔽部126は、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に設けられ、溶鋼140の湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140を遮蔽する。遮蔽部126は、具体的には、比較的高い耐火性を有する材料(例えば、セラミック等)によって形成される。本実施形態では、真空槽121内に遮蔽部126が設けられることによって、後述にて詳細に説明するように、真空槽121の内壁に地金が形成されることを抑制することができる。
例えば、真空槽121は円筒形状を有し、遮蔽部126は真空槽121の内壁から真空槽121の径方向内側へ向けて延設される。なお、遮蔽部126は、真空槽121の内壁に対して離隔して真空槽121と別体として設けられてもよい。
また、遮蔽部126は、例えば、図3〜図5に示されるように、矩形平板形状を有する。具体的には、遮蔽部126の上部及び下部は水平方向に対して平行に延在し、遮蔽部126の下部が真空槽121内の溶鋼140の湯面と対向する。よって、遮蔽部126を鉛直方向に投影した形状は、図4に示されるように、矩形となる。また、遮蔽部126のY−Z平面に平行な断面における断面形状は、図5に示されるように、矩形となる。なお、遮蔽部126の形状は、このような例に限定されず、種々の形状をとり得る。遮蔽部126がとり得る各種形状については、変形例として後述にて詳細に説明する。
遮蔽部126の鉛直方向についての設置位置は、真空槽121内における溶鋼140の上昇側浸漬管122側から下降側浸漬管123側への円滑な流動を確保しつつ、真空槽121内において地金が比較的形成されやすい領域へ溶鋼140が飛散することを抑制し得るように設定されることが好ましい。
例えば、遮蔽部126は、真空槽121内における溶鋼140の湯面より鉛直上方に設けられる。それにより、真空槽121内における溶鋼140の上昇側浸漬管122側から下降側浸漬管123側への円滑な流動が確保されるので、取鍋110と真空槽121との間で溶鋼140を円滑に還流させることができる。
ここで、取鍋110内の溶鋼140の湯面において浸漬管が浸漬されている部分以外の部分は、大気に曝されている。ゆえに、真空槽121の底面と真空槽121内における溶鋼140の湯面との間の鉛直方向の距離hは、具体的には、真空槽121内の圧力、真空槽121の底面の高さ、大気圧及び取鍋110内の溶鋼140の湯面の高さに基づいて算出され得る。このように算出される距離hの値を用いることによって、遮蔽部126を真空槽121内における溶鋼140の湯面より鉛直上方に設けることが実現され得る。
また、遮蔽部126は、例えば、真空槽121内において地金が比較的形成されやすくなる程度に温度が低い領域より鉛直下方に設けられる。真空槽121内では、溶鋼140の湯面に近い下側ほど、温度が高くなっている。真空槽121内において比較的温度が高い領域では、仮に真空槽121の内壁に溶鋼140が付着した場合であっても、溶鋼140は凝固しにくいので、地金が形成されにくい。例えば、真空槽121内において溶鋼140の湯面から鉛直上方に1m以内の領域が、比較的温度が高い領域に相当し得る。ゆえに、真空槽121内における溶鋼140の湯面と遮蔽部126との間の鉛直方向の距離Hは、例えば、1m以下であることが好ましい。
遮蔽部126の水平方向の寸法は、遮蔽部126の鉛直方向についての設置位置に応じて、湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140が遮蔽部126により適切に遮蔽され得るように設定されることが好ましい。
例えば、遮蔽部126の鉛直方向への投影面の面積は、真空槽121内における溶鋼140の湯面と遮蔽部126との間の鉛直方向の距離Hが長くなるにつれて大きくなることが好ましい。ここで、湯面から鉛直上方に飛散した溶鋼140は、水平方向の各方向へ広がりながら鉛直上方へ移動する。ゆえに、遮蔽部126の鉛直方向への投影面の面積を距離Hが長くなるにつれて大きくすることによって、湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140を遮蔽部126によって適切に遮蔽することができる。
遮蔽部126の鉛直方向への投影面は、例えば、図4に示されるように、上昇側浸漬管122の中心軸と同軸上に位置し下記式(1)により表される直径dを有する円のうち真空槽121内の部分を含むことがより好ましい。それにより、後述されるように、湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140を遮蔽部126によってさらに効果的に遮蔽することができる。
ただし、式(1)において、Dは、上昇側浸漬管122の内径を示す。
<2.真空脱ガス装置の動作>
続いて、図6を参照して、本実施形態に係る真空脱ガス装置120の動作について説明する。
図6は、本実施形態に係る真空脱ガス装置120における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍における溶鋼140の流動の様子を模式的に示す側面断面図である。
上述したように、真空脱ガス装置120では、吹き込み口124からガスが吹き込まれることにより、上昇側浸漬管122内に溶鋼140の上昇流が生まれる。具体的には、図6に示されるように、上昇側浸漬管122内において、ガスの気泡150が上昇することに伴って溶鋼140に上昇流が生まれる。ここで、上昇側浸漬管122内の上側では、比較的大きなガスの気泡150とともに溶鋼140が比較的速い上昇速度で上昇する。それにより、図6に示されるように、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ溶鋼140が飛散する。
ここで、本実施形態では、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に遮蔽部126が設けられる。ゆえに、図6に示されるように、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ飛散する溶鋼140は、遮蔽部126に衝突する。このように、溶鋼140の湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140は、遮蔽部126によって遮蔽される。よって、湯面から鉛直上方に飛散した溶鋼140が、遮蔽部126より鉛直上方の領域までさらに飛散し、そのような領域における真空槽121の内壁に付着することを抑制することができる。それにより、真空槽121の内壁に地金が形成されることを抑制することができる。
<3.変形例>
続いて、図7〜図11を参照して、各変形例に係る真空脱ガス装置について説明する。第1の変形例〜第4の変形例では、上述した本実施形態に係る真空脱ガス装置120と比較して、遮蔽部の形状が異なる。また、第5の変形例では、上述した本実施形態に係る真空脱ガス装置120と比較して、下降側浸漬管123の構成及び遮蔽部の数が異なる。
(第1の変形例)
図7は、第1の変形例に係る真空脱ガス装置220における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例及び溶鋼140の流動の様子を模式的に示す側面断面図である。具体的には、図7は、図3に示されるB−B断面と対応しY−Z平面と平行な断面図である。
第1の変形例に係る真空脱ガス装置220では、遮蔽部226の下部は、水平方向に対して傾斜する下部傾斜部を有する。
遮蔽部226は、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に設けられ、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、真空槽121の内壁から真空槽121の径方向内側へ向けて延設される。また、遮蔽部226を鉛直方向に投影した形状は、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、矩形である。
遮蔽部226の上部は、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、水平方向に対して平行に延在する。一方、遮蔽部226の下部は、例えば、図7に示されるように、下部傾斜部226a及び下部傾斜部226bを有する。
具体的には、下部傾斜部226aは、遮蔽部226の下部において、遮蔽部226の延在方向に直交する方向についての一端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直下方へ傾斜する。また、下部傾斜部226bは、遮蔽部226の下部において、遮蔽部226の延在方向に直交する方向についての他端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直下方へ傾斜する。このように、遮蔽部226の下部は、例えば、下部傾斜部226a及び下部傾斜部226bによって構成される。
第1の変形例では、上記のように、遮蔽部226の下部は、水平方向に対して傾斜する下部傾斜部226a及び下部傾斜部226bを有する。ゆえに、図7に示されるように、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ飛散する溶鋼140は、遮蔽部226の下部の下部傾斜部226a又は下部傾斜部226bに衝突する。ここで、溶鋼140が遮蔽部226と衝突する前後において、溶鋼140の飛散方向は変化する。
遮蔽部226において鉛直上方へ飛散する溶鋼140と衝突する部分は水平方向に対して傾斜しているので、溶鋼140と衝突する部分が水平方向に対して平行に延在している場合と比較して、遮蔽部226との衝突後における溶鋼140の飛散方向は大きな水平方向成分を有する。ゆえに、遮蔽部226との衝突後の溶鋼140が上昇側浸漬管122の直上の湯面へ落下することにより上昇側浸漬管122内における溶鋼140の上昇流の流量が低下することを抑制することができる。それにより、上昇側浸漬管122内における溶鋼140の上昇流についての円滑な挙動が確保されるので、取鍋110と真空槽121との間で溶鋼140を円滑に還流させることができる。
なお、上記では、遮蔽部226の下部が下部傾斜部226a及び下部傾斜部226bによって構成される例について説明したが、下部傾斜部を有する遮蔽部の構成はこのような例に限定されない。具体的には、遮蔽部の下部における下部傾斜部の位置、大きさ、範囲、形状及び数はこのような例に限定されない。
例えば、遮蔽部の下部は、下部傾斜部を部分的に有してもよい。換言すると、遮蔽部の下部は、下部傾斜部の他に、水平方向に対して平行に延在する部分を有してもよい。例えば、遮蔽部226の構成から、下部傾斜部226a又は下部傾斜部226bのいずれか一方が省略されてもよい。
また、例えば、下部傾斜部は、遮蔽部の延在方向(つまり、真空槽121の径方向)に沿って水平方向に対して傾斜してもよい。
また、例えば、下部傾斜部は、遮蔽部の下部において、遮蔽部の延在方向に直交する方向についての一端部から他端部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直下方へ傾斜してもよい。
また、例えば、下部傾斜部の形状は、平面形状でなくてもよく、曲面形状であってもよい。
(第2の変形例)
図8は、第2の変形例に係る真空脱ガス装置320における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例及び溶鋼140の流動の様子を模式的に示す側面断面図である。具体的には、図8は、図3に示されるB−B断面と対応しY−Z平面と平行な断面図である。
第2の変形例に係る真空脱ガス装置320では、遮蔽部326の上部は、水平方向に対して傾斜する上部傾斜部を有する。
遮蔽部326は、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に設けられ、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、真空槽121の内壁から真空槽121の径方向内側へ向けて延設される。また、遮蔽部326を鉛直方向に投影した形状は、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、矩形である。
遮蔽部326の下部は、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、水平方向に対して平行に延在する。一方、遮蔽部326の上部は、例えば、図8に示されるように、上部傾斜部326a及び上部傾斜部326bを有する。
具体的には、上部傾斜部326aは、遮蔽部326の上部において、遮蔽部326の延在方向に直交する方向についての一端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直上方へ傾斜する。また、上部傾斜部326bは、遮蔽部326の上部において、遮蔽部326の延在方向に直交する方向についての他端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直上方へ傾斜する。このように、遮蔽部326の上部は、例えば、上部傾斜部326a及び上部傾斜部326bによって構成される。
第2の変形例では、上記のように、遮蔽部326の上部は、水平方向に対して傾斜する上部傾斜部326a及び上部傾斜部326bを有する。ここで、真空槽121内において、仮に一部の溶鋼140が遮蔽部326より鉛直上方へ飛散した場合、図8に示されるように、遮蔽部326より鉛直上方から下降する溶鋼140は遮蔽部326の上部の上部傾斜部326a又は上部傾斜部326bと接触し得る。
遮蔽部326において鉛直上方から下降する溶鋼140と接触する部分は水平方向に対して傾斜しているので、溶鋼140と接触する部分が水平方向に対して平行に延在している場合と異なり、遮蔽部326と接触した溶鋼140は遮蔽部326の上部に沿って鉛直下方の湯面側へ案内される。ゆえに、遮蔽部326より鉛直上方から下降する溶鋼140が遮蔽部326の上部に堆積することを抑制することができる。それにより、遮蔽部326の上部に地金が形成されることを抑制することができる。
なお、上記では、遮蔽部326の上部が上部傾斜部326a及び上部傾斜部326bによって構成される例について説明したが、上部傾斜部を有する遮蔽部の構成はこのような例に限定されない。具体的には、遮蔽部の上部における上部傾斜部の位置、大きさ、範囲、形状及び数は、遮蔽部の下部における下部傾斜部と同様に、このような例に限定されない。
(第3の変形例)
図9は、第3の変形例に係る真空脱ガス装置420における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例及び溶鋼140の流動の様子を模式的に示す側面断面図である。具体的には、図9は、図3に示されるB−B断面と対応しY−Z平面と平行な断面図である。
第3の変形例に係る真空脱ガス装置420では、遮蔽部426の下部は水平方向に対して傾斜する上部傾斜部を有し、さらに、遮蔽部426の上部は水平方向に対して傾斜する上部傾斜部を有する。
遮蔽部426は、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に設けられ、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、真空槽121の内壁から真空槽121の径方向内側へ向けて延設される。また、遮蔽部426を鉛直方向に投影した形状は、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、矩形である。
遮蔽部426の下部は、例えば、図9に示されるように、下部傾斜部426a及び下部傾斜部426bを有する。さらに、遮蔽部426の上部は、上部傾斜部426c及び上部傾斜部426dを有する。
具体的には、下部傾斜部426aは、上述した第2の変形例に係る遮蔽部226と同様に、遮蔽部426の下部において、遮蔽部426の延在方向に直交する方向についての一端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直下方へ傾斜する。また、下部傾斜部426bは、遮蔽部426の下部において、遮蔽部426の延在方向に直交する方向についての他端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直下方へ傾斜する。このように、遮蔽部426の下部は、例えば、下部傾斜部426a及び下部傾斜部426bによって構成される。
さらに、上部傾斜部426cは、上述した第3の変形例に係る遮蔽部326と同様に、遮蔽部426の上部において、遮蔽部426の延在方向に直交する方向についての一端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直上方へ傾斜する。また、上部傾斜部426dは、遮蔽部426の上部において、遮蔽部426の延在方向に直交する方向についての他端部から中央部に亘ってこの方向に進むにつれて鉛直上方へ傾斜する。このように、遮蔽部426の上部は、例えば、上部傾斜部426c及び上部傾斜部426dによって構成される。
第3の変形例では、上述した第1の変形例及び第2の変形例の双方の効果が奏される。具体的には、図9に示されるように、溶鋼140が上昇側浸漬管122から鉛直上方へ飛散して遮蔽部426と衝突した後において、溶鋼140の飛散方向は比較的大きな水平方向成分を有する。それにより、遮蔽部426との衝突後の溶鋼140が上昇側浸漬管122の直上の湯面へ落下することにより上昇側浸漬管122内における溶鋼140の上昇流の流量が低下することを抑制することができる。また、図9に示されるように、鉛直上方から下降して遮蔽部426と接触した溶鋼140は、遮蔽部426の上部に沿って鉛直下方の湯面側へ案内される。それにより、遮蔽部426より鉛直上方から下降した溶鋼140が遮蔽部426の上部に堆積することを抑制することができる。
(第4の変形例)
図10は、第4の変形例に係る真空脱ガス装置520における上昇側浸漬管122と真空槽121との接続部の近傍の構成の一例を模式的に示す上面断面図である。具体的には、図10は、図3に示されるA−A断面と対応しX−Y平面と平行な断面図である。
第4の変形例に係る真空脱ガス装置520では、遮蔽部526は、円形平板形状を有する。
遮蔽部526は、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に設けられ、例えば、上述した遮蔽部126と同様に、真空槽121の内壁から真空槽121の径方向内側へ向けて延設される。遮蔽部526は、具体的には、上昇側浸漬管122の中心軸と同軸上に位置する。
具体的には、遮蔽部526の上部及び下部は水平方向に対して平行に延在し、遮蔽部526の下部が真空槽121内の溶鋼140の湯面と対向する。よって、遮蔽部526を鉛直方向に投影した形状は、図10に示されるように、円形となる。
上記では、第1の変形例〜第3の変形例を参照して、遮蔽部のY−Z平面に平行な断面における断面形状が種々の形状をとり得ることを説明したが、第4の変形例のように、遮蔽部を鉛直方向に投影した形状も種々の形状をとり得る。
ここで、遮蔽部526の水平断面における直径D0は、式(1)により表される直径dより大きいことが好ましい。それにより、上昇側浸漬管122の中心軸と同軸上に位置し式(1)により表される直径dを有する円のうち真空槽121内の部分を、遮蔽部526の鉛直方向への投影面に包含させることができる。ゆえに、このように遮蔽部526の直径D0を設定することによって、湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140を遮蔽部526によってさらに効果的に遮蔽することができる。
(第5の変形例)
図11は、第5の変形例に係る真空脱ガス装置620の構成の一例を模式的に示す正面断面図である。
上述した真空脱ガス装置120では、図1に示されるように、一対の浸漬管122,123のうちの一方の浸漬管である上昇側浸漬管122にのみ吹き込み口124が設けられている。一方、第5の変形例に係る真空脱ガス装置620では、図11に示されるように、他方の浸漬管である下降側浸漬管123にも同様に吹き込み口124が設けられる。真空脱ガス装置620の操業時には、これら一対の浸漬管122,123のうち、いずれか一方に対して不活性ガスが吹き込まれることにより、不活性ガスが吹き込まれた方が、溶鋼140を上昇させ真空槽121内に導く浸漬管として機能し得る。溶鋼140による真空槽121の内壁の溶損を均一にするために、具体的には、一対の浸漬管122,123における溶鋼140の上昇及び下降の機能は一定期間ごとに交替され得る。
また、上述した真空脱ガス装置120では、図1に示されるように、一対の浸漬管122,123のうちの一方の浸漬管である上昇側浸漬管122の直上にのみ遮蔽部126が設けられている。一方、第5の変形例に係る真空脱ガス装置620では、他方の浸漬管である下降側浸漬管123の直上にも同様に遮蔽部126が設けられる。ゆえに、下降側浸漬管123が溶鋼140を上昇させ真空槽121内に導く浸漬管として機能する期間において、下降側浸漬管123から鉛直上方へ飛散する溶鋼140を、下降側浸漬管123の直上の遮蔽部126によって遮蔽することができる。よって、真空槽121の内壁に地金が形成されることをより効果的に抑制することができる。
なお、第5の変形例に係る真空脱ガス装置620に設けられる一対の遮蔽部126,126として、第1の変形例〜第4の変形例を参照して説明した各種形状の遮蔽部が用いられてもよい。また、上昇側浸漬管122の直上の遮蔽部126と下降側浸漬管123の直上の遮蔽部126との間で、遮蔽部126の形状が異なっていてもよい。
本実施形態において真空槽121内の溶鋼140の流動の様子を確認するために行った流動解析シミュレーションの結果について説明する。
流動解析シミュレーションでは、真空槽121内に遮蔽部が設けられない上述した比較例の他に、真空槽121内に遮蔽部が設けられる実施例1〜実施例6の各実施例について、上昇側浸漬管122及び真空槽121の内部空間の解析モデルを作成し、当該内部空間内における溶鋼140の流動の様子を調べた。なお、流動解析シミュレーションでは、比較例及び各実施例について共通するシミュレーション条件として、真空槽121の底面と真空槽121内における溶鋼140の湯面との間の鉛直方向の距離hを500mmに設定し、吹き込み口124からのガスの流量を700[NL/min]に設定し、各浸漬管の内径を直径400mmに設定し、真空槽121の内径を直径1200mmに設定した。なお、各浸漬管の内径が小さいほど、上昇側浸漬管122内における溶鋼140の上昇流の上昇速度が速くなるので、溶鋼140の飛散の勢いは増大する。流動解析シミュレーションにおける各浸漬管の内径についての上記の設定値は、溶鋼140の飛散の勢いが比較的大きくなるような値に相当する。
実施例1〜実施例6の各実施例の間では、遮蔽部の位置、大きさ又は形状の少なくとも1つが異なる。具体的には、実施例1は、菱形柱形状の遮蔽部426が真空槽121内に設けられる上述した第3の変形例の具体例に相当する。また、実施例2〜実施例6は、円形平板形状の遮蔽部526が真空槽121内に設けられる上述した第4の変形例の具体例に相当する。
上記の流動解析シミュレーションの結果を表1に示す。
表1は、比較例及び各実施例についてのシミュレーション条件、液相量[m3]、液相量の変動の程度及び真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価を示す。
液相量は、具体的には、真空槽121内において上昇側浸漬管122の上端より鉛直上方に2m以上離れた領域に存在する溶鋼140の体積の合計値の時間平均に相当する。なお、表1では、比較例及び各実施例について、液相量に加えて、液相量の比較例に対する割合が百分率で示されている。また、真空槽121内において上昇側浸漬管122の上端より鉛直上方に2m以上離れた領域は、地金が比較的形成されやすくなる程度に温度が低い領域に相当する。
また、液相量の変動の程度は、具体的には、単位時間あたりの液相量の変化量に基づいて比較例及び各実施例の間で相対的に評価された。表1において、「大」、「中」及び「小」は、この順に液相量の変動の程度が小さくなることを示す。
また、真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価は、具体的には、液相量についての結果及び液相量の変動の程度についての結果に基づいて、比較例及び各実施例の間で相対的に評価された。表1において、「○」、「△」及び「×」は、この順に真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果が小さくなることを示す。なお、「○」は液相量が比較例に対して50%以下、かつ、液相量の変動が「小」である場合に相当し、「△」は液相量が比較例に対して100%未満、かつ、液相量の変動が「中」又は「大」である場合に相当し、「×」は液相量が比較例に対して100%以上である場合に相当する。
また、表1では、具体的には、シミュレーション条件として、遮蔽部の有無、遮蔽部の形状、真空槽121内における溶鋼140の湯面と遮蔽部との間の鉛直方向の距離H、上昇側浸漬管122の直径Dに対する遮蔽部の直径D0の比率、及び値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が示されている。なお、実施例2〜実施例6についての直径D0の値は遮蔽部526の水平断面における直径に相当し、実施例1についての直径D0の値は上昇側浸漬管122の中心軸と同軸上に位置し遮蔽部426の鉛直方向への投影面に含まれる円の直径の最大値に相当する。
ここで、各実施例についての流動解析シミュレーションによって得られた溶鋼140の流動の様子について、図12を一例として参照して説明する。図12は、実施例1についての流動解析シミュレーションによって得られた、上昇側浸漬管122内及び真空槽121内の溶鋼140の流動の様子の一例を示す図である。
実施例1についての流動解析シミュレーションによれば、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ飛散する溶鋼140が、遮蔽部426に衝突し、遮蔽部426によって遮蔽されている様子が確認された。また、それにより、湯面から鉛直上方に飛散した溶鋼140が遮蔽部426より鉛直上方の領域までさらに飛散することが抑制されている様子が確認された。例えば、図12では、遮蔽部426より鉛直上方の領域R40には溶鋼140が到達していない様子が確認される。
このように、各実施例についての流動解析シミュレーションにおいて、上昇側浸漬管122から鉛直上方へ飛散する溶鋼140が遮蔽部によって遮蔽されている様子が確認された。また、表1を参照すると、各実施例において、真空槽121内に遮蔽部が設けられない比較例と比較して、液相量が低減していることがわかる。ゆえに、比較例では真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価が「×」となっている一方で、各実施例では当該評価が「○」又は「△」となっている。
上記の結果から、真空槽121内に遮蔽部が設けられる本実施形態では、遮蔽部より鉛直上方の領域における真空槽121の内壁に付着することを抑制することができる。具体的には、真空槽121内において地金が比較的形成されやすくなる程度に温度が低い領域における真空槽121の内壁に付着することを抑制することができる。それにより、真空槽121の内壁に地金が形成されることを抑制することができることが確認された。
また、表1を参照すると、値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が0.8以上である実施例では、当該比率が0.8未満である実施例と比較して、真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果がより向上されていることがわかる。
例えば、実施例2では、値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が0.8未満であり、真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価は「△」となっている。一方、遮蔽部の寸法以外のシミュレーション条件が実施例2と同一である実施例3及び実施例4では、値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が0.8以上であり、真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価は「○」となっている。
また、例えば、実施例6では、値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が0.8未満であり、真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価は「△」となっている。一方、遮蔽部の寸法以外のシミュレーション条件が実施例6と同一である実施例5では、値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が0.8以上であり、真空槽121の内壁への地金の形成を抑制する効果についての評価は「○」となっている。
ここで、値(D+0.2×H)に対する遮蔽部の直径D0の比率が0.8以上である場合は、上昇側浸漬管122の中心軸と同軸上に位置し式(1)により表される直径dを有する円のうち真空槽121内の部分が遮蔽部の鉛直方向への投影面に包含される場合に相当する。ゆえに、上記の結果から、上昇側浸漬管122の中心軸と同軸上に位置し式(1)により表される直径dを有する円のうち真空槽121内の部分を遮蔽部の鉛直方向への投影面に包含させることによって、湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140を遮蔽部126によってさらに効果的に遮蔽することができることが確認された。
<4.まとめ>
以上説明したように、本実施形態に係る真空脱ガス装置120は、真空槽121内において上昇側浸漬管122の直上に設けられ、溶鋼140の湯面から鉛直上方に飛散する溶鋼140を遮蔽する遮蔽部126を備える。それにより、湯面から鉛直上方に飛散した溶鋼140が、遮蔽部126より鉛直上方の領域までさらに飛散し、そのような領域における真空槽121の内壁に付着することを抑制することができる。ゆえに、真空槽121の内壁に地金が形成されることを抑制することができる。
なお、上記では、真空槽121内において遮蔽部の直上に空間が存在する例について主に説明したが、真空槽121内に設けられる遮蔽部の構成のこのような例に限定されない。具体的には、真空槽121内において遮蔽部の直上に空間が存在する場合、遮蔽部の上部は、真空槽121の天井部と空間を介して対向する。ここで、遮蔽部は、例えば、真空槽121の天井部から鉛直下方へ向けて延設されてもよい。その場合には、真空槽121内において遮蔽部の直上に空間は存在しない。このような例によっても、上述した真空脱ガス装置120と同様の効果を奏し得る。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。