JP3319244B2 - 溶鋼の昇熱精錬方法 - Google Patents

溶鋼の昇熱精錬方法

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JP3319244B2
JP3319244B2 JP25250895A JP25250895A JP3319244B2 JP 3319244 B2 JP3319244 B2 JP 3319244B2 JP 25250895 A JP25250895 A JP 25250895A JP 25250895 A JP25250895 A JP 25250895A JP 3319244 B2 JP3319244 B2 JP 3319244B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶鋼の極低硫化お
よび清浄化などを達成するための昇熱、脱硫同時精錬方
法に関する。
【0002】
【従来の技術】溶鋼の昇熱技術として、取鍋内に収容し
た溶鋼に大気圧下あるいはRH真空脱ガス装置等を用い
た減圧下において、酸素を吹き付けあるいは吹き込みに
より供給し、この供給酸素を溶鋼中の〔Al〕などと反応
させ、その反応熱を利用する方法が知られている。
【0003】しかし、上記の昇熱技術では、酸素供給時
に 2Al+(3/2)O2=Al2O3なる反応によりAl2O3 系介在物が
多量に生成し、それが溶鋼中に微細分散するため溶鋼の
清浄性が著しく悪化するという問題がある。
【0004】溶鋼の脱硫技術として、取鍋内に収容した
溶鋼に大気圧下あるいは減圧下において、CaO を主体と
する脱硫剤を吹き付けあるいは吹込みにより供給する方
法が知られている。また、脱硫剤の吹き付けあるいは吹
込みをせず、単に溶鋼表面にフラックスを添加し、ガス
攪拌によりスラグ−メタル間反応を促進させて脱硫を行
う方法も知られている。
【0005】しかし、上記のような脱硫技術ではいずれ
にせよ、脱硫剤あるいはフラックスの供給による温度降
下および脱硫処理中の温度降下が生じるため、転炉ある
いは二次精錬で温度補償を行う必要がある。転炉で温度
補償する場合、出鋼温度を高める必要があり、その結果
転炉寿命の低下による耐火物コストの増大を伴う。ま
た、二次精錬で温度補償する場合、前記のように溶鋼の
清浄性が著しく悪化すること、昇温と脱硫の二つの処理
が必要となり総処理時間が長くなることなどの問題点が
生じる。
【0006】昇温しつつ、または温度降下を防止しつつ
脱硫を行う技術として、以下の二つの方法が提案されて
いる。
【0007】特開昭63-69909号公報に示される溶鋼脱硫
における昇温方法は、脱硫剤吹き込み広がりの範囲を避
けた位置の取鍋溶鋼に、予め円錐状鉄板を下部に取り付
けた槽を浸漬して円錐状鉄板を溶解させ槽の内部を溶鋼
で満たし、取鍋スラグのない状態の槽内溶鋼にAlを添加
した後、又はAlを添加しつつこの部分に吹き付け又はイ
ンジェクションによってO2を付加するものである。
【0008】特開平1-100216号公報に示される取鍋精錬
方法は、溶鋼に浸漬管を浸漬せしめてこの浸漬管内に発
熱剤を添加しつつ、上方より吹酸昇熱するとともに、浸
漬管投影下面域で、且つ前記吹酸に伴う火点形成域より
下方に脱硫剤を吹き込むものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前述の二つの
従来方法では以下の問題点がある。
【0010】特開昭63-69909号公報の方法では、酸素供
給位置が浸漬槽内の「スラグのない状態の槽内溶鋼」と
なるため、酸素を供給する火点でAl2O3 介在物が生成
し、この介在物がそのまま取鍋内溶鋼全体に分散して清
浄性が悪化する。上記発明の目的は昇温と脱硫にあり、
その発明の詳細な説明にはAl2O3 介在物の生成と清浄性
との関係の観点からの記述はなく、Al2O3 介在物を減少
させて清浄性の高い鋼を得る具体的条件は明らかにされ
ていない。
【0011】さらに、脱硫剤の吹き込みを用いる方法で
あるため、吹き込みランスのコストおよびインジェクシ
ョン設備(粉体供給配管、粉体定速切り出し装置など)
費が多額となり、経済的に問題となる。
【0012】特開平1-100216号公報の方法においても、
同様に浸漬管を使用し、「浸漬管を溶鋼に浸漬するに先
立ち、浸漬管の下方のスラグを除去する目的で脱硫剤の
吹き込みランスを溶鋼内に挿入し、Arガス2Nm3/分を吹
き込むと、上昇したArガスにより上方スラグは除去でき
る」と記載されているように、浸漬管内スラグを排除し
た状態で処理を行う。したがって前記発明方法と同様
に、昇温に伴い生成するAl2O3 介在物による清浄性悪化
が避けられない。さらに、脱硫剤の吹き込みを用いる方
法によって発生する問題も前記と同様である。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、次の溶
鋼の昇熱、脱硫同時精錬方法にある。
【0014】取鍋内のAlを含有する溶鋼および溶鋼上
のスラグを不活性ガスで撹拌しつつ、溶鋼に酸化性ガス
を吹き付けまたは吹き込むことにより、酸化性ガスと溶
鋼中の〔Al〕とを反応させる溶鋼の昇熱、脱硫同時
錬方法であって、酸化性ガス中の純酸素供給速度X(N
/min・ton)と攪拌動力Y(Watt/to
n)との関係が下記式(1)を満たし、昇熱中のスラグ
のCaOとAl との重量含有率の比CaO/Al
の値を0.8〜2.5とすることを特徴とする溶
鋼の昇熱、脱硫同時精錬方法。
【0015】 (Y1/3/X)≧40・・・・・・・・・・・・(1) ただし、 Y=6.18・Q・T・ln(1+ρ・g・H/P) Q:攪拌ガス流量(Nm/min・ton) T:溶鋼絶対温度(K) ρ:溶鋼密度(kg/m ) g:重力加速度(m/s ) H:ガス攪拌される溶鋼表面とガス吹き込み位置との鉛
直方向の距離(m) P:雰囲気圧力(Pa)。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明方法では、取鍋内のAlを
含有する溶鋼および溶鋼上のスラグを不活性ガスで攪拌
する。すなわち、溶鋼内にはAl、溶鋼上にはスラグが
存在する状態で攪拌する。この攪拌を行いながら、溶鋼
に酸化性ガスを吹き付けあるいは吹き込むことにより酸
化性ガスと溶鋼中の〔Al〕とを反応させて溶鋼の昇熱
あるいは温度降下の防止を行うとともに、溶鋼中の
〔S〕およびAl介在物を低下させる清浄化精錬
を行う。
【0017】本発明方法では、昇熱精錬処理の雰囲気圧
力(Pa)は大気圧あるいは真空としてもよいが、大気圧下
ではその雰囲気の影響(空気酸化、窒素上昇)を避ける
ために、Ar等の不活性ガスで雰囲気置換を行うことが望
ましい。その際、取鍋全体を雰囲気置換あるいは減圧が
可能な容器内に入れてもよいし、取鍋上部に雰囲気置換
あるいは減圧が可能な取鍋蓋を設けてもよい。
【0018】大気圧下あるいは真空下で、取鍋内溶鋼に
比較的大きな筒状の浸漬管あるいは真空槽をスラグを排
除せずに浸漬してもよい。真空下とする場合には、当然
浸漬管あるいは槽内に溶鋼が吸い上げられることにな
る。その際、浸漬管あるいは槽の内径をD 、取鍋内溶鋼
の表面が大気と接する部分での取鍋内径をDoとして、D/
Doを 0.5〜0.8 とすることが望ましい。D/Doが 0.5未満
では浸漬管などの内部に収容するスラグ量が少なく、生
成Al2O3 吸収能力が充分ではなくなる。一方、D/Doが0.
8 を超えると取鍋と浸漬管などとの間隙が小さくなりす
ぎ、浸漬管などの昇降に支障をきたす。
【0019】筒状浸漬管などの形状は、円筒、円錐、長
円、矩形、矩形と円または長円の組み合わせ等いずれで
もよい。円筒でない場合、上記のD は浸漬管などの内部
の長径をとることになる。
【0020】溶鋼及びスラグを攪拌するための不活性ガ
スの吹き込みは、取鍋底部のポーラスプラグあるいは昇
降可能な浸漬ランスもしくは溶鋼に浸漬した耐火物(例
えば、浸漬管または真空槽)の下部の側面に設けた浸漬
羽口から行う。
【0021】酸化性ガスの供給は、純酸素、二酸化炭
素、Ar-O2 混合ガスあるいはN2-O2 混合ガス等の酸化性
ガスを用いて、吹き付けあるいは吹き込み(インジェク
ション)により行う。上記の酸化性ガスを用いるのは、
溶鋼の昇熱あるいは温度降下抑制に溶鋼中〔Al〕の酸化
発熱反応熱を利用するためである。純酸素以外の場合に
は、各々の供給ガス中に含まれる酸素純分換算値を使用
する。二酸化炭素の場合には、CO2 →CO+(1/2)O2 の反
応が生じるとして酸素純分に換算する。
【0022】上記の酸化性ガスの吹き付けは、大気下の
上吹きランス、真空槽あるいは浸漬管内に設けた昇降可
能な上吹きランス、真空槽あるいは浸漬管内壁に設けた
傾斜上吹き羽口から行ってもよい。吹き込みを行う場合
には、取鍋溶鋼内に浸漬可能な浸漬ランスもしくは真空
槽あるいは浸漬管内壁に設けた浸漬羽口から行ってもよ
い。
【0023】酸化性ガスを供給する羽口またはランス先
端ノズルの保護のために、二重管を使用し、内管に酸化
性ガス、外管スリット部に不活性ガスあるいは冷却ガス
(メタン、プロパン、ブタン等のように分解して熱を奪
うもの)を供給してもよい。
【0024】必要であれば、三重管構造とし、内管と最
外管に非酸化性ガスを、内管と最外管の中間のスリット
部に酸化性ガスを導入してもよい。
【0025】上記のような装置と方法により、溶鋼中の
〔Al〕と酸素とを反応させ、2Al+(3/2)O2=Al2O3 の反応
熱を利用し、昇熱あるいは温度降下の防止を行う。Alの
酸化反応による発熱量は大きく、溶鋼の昇熱などに適し
ている。Alの添加剤としては、純Al、Fe-Al およびAl灰
など金属Al分を含有するものであれば何でもよい。
【0026】Al添加の時期は、昇温に必要なAl量を昇熱
開始前でもよいし、昇熱中に連続的あるいは間欠的でも
よい。取鍋の放熱量が予想よりも大きく、昇熱前に添加
したAl量で足りない場合は、昇熱中に追加添加してもよ
い。
【0027】溶鋼上にスラグを必要とする理由は、酸化
性ガスの供給で生成したAl2O3 を速やかにスラグに吸収
させるためである。そのため、スラグはCaO を主体とす
る組成のものを用いるのが好ましい。
【0028】取鍋内溶鋼上のスラグ中の望ましいCaO 含
有率は30〜70Wt%である。30Wt%未満では、生成したAl
2O3 吸収能が低く溶鋼清浄化能力が低下するだけでな
く、脱硫能も低下する。一方、70Wt%を超えるとスラグ
の滓化が不十分となり、やはりAl2O3 吸収能や脱硫能が
低下してしまう。
【0029】上記のCaO 濃度の調整は、出鋼後にCaO 系
フラックスを添加すればよい。その時期は、昇熱処理の
前でもよく、昇熱処理中でもよい。昇熱処理前に添加す
るとCaO 系フラックスの溶融化時間を稼ぐことができ
る。一方、昇熱昇熱処理中に添加すると昇熱に伴いAl2O
3 が生成し、スラグ中のCaO 濃度低下を防止することが
できる。必要であれば、出鋼時に不可避的に炉内から取
鍋へ流出するスラグを真空スラグ吸い出し装置やドラッ
ガーを用いて除去した後に、CaO 系フラックスを添加し
てもよい。
【0030】昇熱中におけるスラグのCaO/Al
重量比の範囲は 0.8〜2.5 とする。CaO/Al
重量比が0.8 未満では、Al濃度が高すぎる
ためにスラグのAl溶解度が低下し、その結果
Al 吸収能が著しく低下する。一方、2.5 を超
えるとスラグの滓化が悪化してしまい、やはりAl
吸収能が低下する。
【0031】このようなスラグを存在させることによ
り、生成するAl2O3 と反応させて低融点のCaO-Al2O3
生成させ、Al2O3 介在物の無害化および脱硫能の向上を
図ることができる。また、酸化性ガス供給により局部的
に温度が上昇し、スラグ温度は酸化性ガスの非供給時よ
りも上昇するため、スラグのAl2O3 吸収能および脱硫能
も増加する。
【0032】酸化性ガス吹き付けの場合、当然ながらAl
2O3 の生成位置は溶鋼上のスラグ位置の近傍であり、Al
2O3 のスラグへの吸収およびスラグ加熱には問題ない。
ただし、酸化性ガスの吹き込み(インジェクション)の
場合は、吹き込み位置が深すぎると生成したAl2O3 が溶
鋼中を分散し、スラグへのAl2O3 の吸収効率が低下して
しまうことおよびスラグ加熱が十分でないことから、酸
化性ガスの吹き込み深さはガス撹拌されている溶鋼−ス
ラグ界面を基準として0.05〜0.5mが望ましい。
【0033】酸化性ガスの吹き込み深さが0.05m 未満で
は溶鋼スプラッシュが大きくなり、溶鋼の取鍋外への横
溢もしくは取鍋蓋、浸漬管あるいは真空槽などへの地金
付着が増加してしまう。一方、0.5mを超えると溶鋼中の
Al2O3 介在物が充分に低下しなくなる。
【0034】本発明方法では更に、炉内から取鍋へ流出
したスラグ中のFeO 、MnO 等の低級酸化物を事前に改質
するために、スラグ改質剤を出鋼時あるいは出鋼後に添
加してもよい。改質剤は、例えば、Al:100Wt%、Al:40
Wt%+CaCO3:60 Wt%、Al:50Wt%+Al2O3:25 Wt%+CaO:25
Wt%などのように、金属AlまたはAl合金を含有するも
ので、炭酸塩または酸化物(Al2O3 、CaO など)を含有
してもよい。金属AlまたはAl合金を含有させるのは、ス
ラグ中の低級酸化物を還元するのに好適だからである。
また、炭酸塩または酸化物を含有させてもよいのは、Ca
CO3 のように分解してガスを発生してスラグを攪拌し、
Alによる低級酸化物の還元を促進させ、あるいはCaO 等
のように改質で生成したAl2O3 と反応して低融点化させ
るからである。また、Al精錬で生じるAl灰を用いてもよ
い。Al灰はAl2O3 を含む上にコストが安いからである。
【0035】以上の本発明方法を実施するための装置の
構成例を図1〜8に示す。
【0036】図1は、取鍋1、取鍋蓋2、上吹きランス
5および浸漬ランス6を備え、大気圧下で取鍋蓋2を使
用して雰囲気を調整し、浸漬ランス6からArガス7を吹
き込んで溶鋼3およびスラグ4を攪拌しながら、溶鋼3
の表面に上吹きランス5から酸素ガス8を上吹きする装
置の概略縦断面図である。
【0037】図2は、取鍋1、筒状浸漬管9、上吹きラ
ンス5および浸漬ランス6を備え、大気圧下で筒状浸漬
管9を使用し、浸漬ランス6からArガス7を吹き込んで
溶鋼3およびスラグ4を攪拌しながら、溶鋼3の表面に
上吹きランス5から酸素ガス8を上吹きする装置の概略
縦断面図である。
【0038】図3は、取鍋1、上吹きランス5、取鍋1
の底部の底吹きポーラスプラグ10および真空容器11を備
え、底吹きポーラスプラグ10からArガス7を吹き込んで
真空容器11内に収容した取鍋1内の溶鋼3およびスラグ
4を攪拌しながら、溶鋼3の表面に上吹きランス5から
酸素ガス8を上吹きする装置の概略縦断面図である。
【0039】図4は、取鍋1、その底部の底吹きポーラ
スプラグ10、円筒状真空槽12およびこの内壁に設けた傾
斜上吹き羽口13を備え、円筒状真空槽12を溶鋼3に浸漬
し、槽12内を減圧排気し槽12内に溶鋼3を吸い上げ、底
吹きポーラスプラグ10からArガス7を吹き込んで取鍋1
および槽12内の溶鋼3およびスラグ4を攪拌しながら、
傾斜上吹き羽口13から酸素ガス8を上吹きする装置の概
略縦断面図である。
【0040】図5は、取鍋1、その底部の底吹きポーラ
スプラグ10、円筒状真空槽12およびこの上部に設けた上
吹きランス5を備え、図4の場合と同様に浸漬、減圧排
気、吸い上げおよび攪拌を行いながら、上吹きランス5
から酸素ガス8を上吹きする装置の概略縦断面図であ
る。
【0041】図6は、取鍋1、円筒状真空槽12、この内
壁に設けた傾斜上吹き羽口13および浸漬羽口14を備え、
円筒状真空槽12を溶鋼3に浸漬し、槽12内を減圧排気し
槽12内に溶鋼3を吸い上げ、浸漬羽口14からArガス7を
吹き込んで取鍋1および槽12内の溶鋼3およびスラグ4
を攪拌しながら、傾斜上吹き羽口13から酸素ガス8を上
吹きする装置の概略縦断面図である。
【0042】図7は、図5に示す装置における底吹きポ
ーラスプラグ10の替わりに、図6に示す浸漬羽口14を備
えた装置の概略縦断面図である。
【0043】図8は、図4に示す装置における底吹きポ
ーラスプラグ10の替わりに、図6に示す浸漬羽口14を備
えた装置の概略縦断面図である。
【0044】本発明方法では、以上のような方法と装置
とにおいて、酸化性ガス中の純酸素供給速度X(Nm
/min・ton)と攪拌動力Y(Watt/ton)
との関係が下記式(1)を満たし、昇熱中のスラグのC
aOとAl との重量含有率の比CaO/Al
の値を0.8〜2.5とする条件で昇熱および脱硫
の同時精錬を行う。
【0045】 (Y1/3/X)≧40・・・・・・・・・・・・(1) ただし、 Y=6.18・Q・T・ln(1+ρ・g・H/P) Q:攪拌ガス流量(Nm/min・ton) T:溶鋼絶対温度(K) ρ:溶鋼密度(kg/m ) g:重力加速度(m/s ) H:ガス攪拌される溶鋼表面とガス吹き込み位置との鉛
直方向の距離(m) P:雰囲気圧力(Pa)。 上記の攪拌動力Yの定義式は、「攪拌を利用した最近の
製鋼技術の動向」(日本鉄鋼協会第100・101回西
山記念講座、昭和59年11月1日)に示されるもので
ある。
【0046】以下に、上記条件の限定理由を述べる。
【0047】本発明者は、種々の攪拌動力Yの下で、酸
化性ガス中の純酸素供給速度Xが溶鋼の清浄性および脱
硫能に及ぼす影響を調査した。清浄性の評価は処理後の
取鍋内溶鋼中のT.〔O〕、脱硫能の指標は脱硫率を用い
た。これらの結果を図9および図10に示す。
【0048】図9は、〔S〕が 0.003〜0.005 Wt%程
度、前記T が1873K程度の溶鋼で、前記H が1〜4m 程
度、前記P が 102〜105 Pa程度の場合において、脱硫率
に及ぼす攪拌動力Yおよび純酸素供給速度Xの影響を示
す図である。
【0049】図10は、純酸素供給速度Xが或る一定条件
の場合において、脱硫率に及ぼす攪拌動力Yの影響を示
す図である。
【0050】図示するように、Y1/3/Xが40未満でT.
〔0〕が上昇し、清浄性および脱硫能がともに低下す
る。
【0051】Y1/3/Xが40未満では攪拌動力が小さいた
め、酸化性ガスの供給により形成される火点への溶鋼供
給速度が小さくなる。したがって、火点への溶鋼中〔A
l〕の供給速度が相対的に遅くなり、火点における溶鋼
中の〔Al〕濃度が著しく低下する。その結果、火点にお
いて過剰な酸素は溶鋼中の〔Al〕以外の〔Mn〕、〔Fe〕
などの酸化に消費される。そのため、脱硫を阻害するFe
O 、MnO が生成して脱硫能が低下するのである。また、
生成したFeO 、MnO はスラグ内に残留するので、昇熱後
に溶鋼中の〔Al〕と反応してAl2O3 介在物が生成する。
そのため、溶鋼の清浄性も低下する。
【0052】Y1/3/Xの望ましい上限は150 である。上
記のように、Y1/3/Xを大きくするほど清浄性および脱
硫能が増加するが、大きすぎる場合には以下の問題が生
じるからである。
【0053】攪拌動力Yが大きすぎてY1/3/Xが150 を
超えると、溶鋼の揺動が激しくなりすぎるため、取鍋
蓋、浸漬管または真空槽下部の内壁への地金付きが許容
範囲を超える、または真空容器内に取鍋から溶鋼が横溢
するという問題が生じる。また、攪拌が強すぎるために
溶鋼の放熱速度が増加し、昇熱効率が低下してしまうと
いう問題も生じる。
【0054】さらに、酸化性ガス中の純酸素供給速度X
が小さすぎてY1/3/Xが150 を超えると、単位時間当た
りの発熱量が小さくなるので、溶鋼の昇熱を行うことが
できず、酸化性ガスの供給中も溶鋼温度が低下してしま
う。このため、酸化性ガス中の純酸素供給速度Xは0.05
Nm3/min ・ ton以上とするのが望ましい。
【0055】
【実施例】転炉出鋼から昇熱精錬開始までは以下の条件
とした。
【0056】内壁耐火物がAl2O3 スピネル質流し込み材
(ただしスラグラインはMgO-C 質)250ton取鍋(内径4
m、高さ3.5m)を使用した。
【0057】溶銑を上底吹転炉で〔C〕が0.03〜0.2 Wt
%になるまで粗脱炭吹錬し、終点温度を1630〜1690℃と
した。次いで、この溶鋼を取鍋に出鋼する際、不可避的
に転炉から取鍋へ流出したスラグを改質するために、ア
ルミニウムを含有するスラグ改質剤(Al:50 Wt%、Al2O
3:40Wt%、CaO:10Wt%) 0.5〜1.5kg/t を出鋼完了後の
取鍋内スラグ上に添加し、取鍋内スラグ中の(FeO Wt%
+MnO Wt%)を5Wt%以下とした。
【0058】従来例の昇熱精錬方法では、RH真空脱ガ
ス装置(浸漬管径:660mm、真空槽内径2100mm、環流Arガ
ス流量0.012Nm3/min・ton 、真空度2Torr)を用い、真
空槽側壁の槽内溶鋼表面高さから30cmの位置に設けた4
本の傾斜上吹き二重管羽口から酸化性ガスを溶鋼表面に
吹き付けた。このとき、羽口の内管に純酸素(流量は0.
05〜0.4Nm3/min・ton )、外管スリット部に保護ガスと
してArを流した。Ar体積流量は純酸素体積流量の約20%
とし、羽口の溶損を防止した。また、真空槽内にフラッ
クスを添加しても下降管から流出してしまうため、攪拌
可能なスラグ量はゼロであった。
【0059】本発明例および比較例では図1に示す装置
を用い、取鍋上方に取鍋蓋を乗せて取鍋内をAr置換した
後、取鍋蓋上方から浸漬ランスをノズル(ランス先端か
ら15cmに設けた逆T字型二孔ノズル)が溶鋼表面から2.
5mの深さになるまで溶鋼内に浸漬させ、このノズルから
Arガスを吹き込み、溶鋼およびスラグを撹拌した。ラン
スの浸漬深さは、事前に取鍋上端と取鍋内溶鋼表面との
距離を測定し、その距離に応じて調整した。
【0060】同時に、取鍋蓋上方に設けた昇降可能な上
吹きランス(二重管構造)から、酸化性ガス(二重管の
内管は純酸素、外管スリット部はAr)を溶鋼表面に吹き
付けた。ここで、ランス高さは溶鋼表面から100mm 、純
酸素流量は0.05〜0.4Nm3/min・ton 、外管スリット部の
Ar体積流量は純酸素体積流量の20%、取鍋蓋内の圧力は
約760Torr の大気圧下とした。
【0061】さらに、本発明例および比較例では図6に
示す装置を用い、取鍋内溶鋼に円筒状真空槽を浸漬し、
槽内を2Torrに真空排気して溶鋼を吸い上げた。
【0062】円筒状真空槽の内径は2.5mとし、その内壁
の槽下端から高さ30cmの位置に攪拌用Arガスを吹き込む
浸漬羽口を12本設けた。12本の浸漬羽口の配置位置は、
槽内周のうち半分(すなわち半周)部で周方向に均等と
した。浸漬羽口の高さと真空槽内の溶鋼表面との垂直方
向の距離は2m とした。
【0063】酸化性ガスを吹き込む傾斜上吹き羽口は二
重管とし、真空槽内の溶鋼表面高さから30cmの位置にお
いて4本を周方向に均等角度で設置し、内管に純酸素
(流量は0.02〜0.5Nm3/min・ton )、外管スリット部に
保護ガスとしてArを流し、溶鋼表面に吹き付けた。Ar体
積流量は純酸素体積流量の約20%とし、羽口の溶損を防
止した。
【0064】(実施例1)転炉にて〔C〕が0.04〜0.15
Wt%になるまで粗脱炭した溶鋼(転炉終点温度:1630〜
1680℃)を、250ton取鍋に脱酸出鋼(出鋼後鍋中温度:
1610〜1660℃)した。その際に不可避的に転炉から取鍋
に流出したスラグ量は5〜7kg/t程度であった。また、
出鋼時に生石灰2〜3kg/tを添加した。出鋼脱酸では、
金属Alを1〜1.5Kg/t 添加した。この時点で、溶鋼中の
〔Al〕濃度は0.05〜0.07Wt%、スラグ中のCaO 濃度は50
〜60Wt%であった。
【0065】その後、従来例、比較例および本発明例の
各方法により、昇熱および脱硫の同時精錬処理を行っ
た。
【0066】まず、各方法で酸化性ガスを吹き付けず
に、溶鋼の攪拌または環流処理を2分間行った。この際
に、目標温度(目標昇熱量)に応じたAl含有金属を添加
した。
【0067】添加するAl純分(kg/t)は、目標送酸量(酸
素純分換算でNm3/ton)の1.6 倍を目安とした。この1.6
は下記の化学反応式から化学量論的に求めた値である。
【0068】2Al+(3/2)O2 =Al2O3 その後、酸素ガスを溶鋼に供給し、8分間の昇熱処理を
行った。
【0069】酸素ガス供給を終了して引き続き3分間の
攪拌あるいは環流を継続した後、取鍋内溶鋼からサンプ
ルを採取しT.〔O〕を分析した。さらに、溶鋼は連続鋳
造装置でスラブとし、次いで圧延処理を行って厚さ20mm
の厚板成品とした。表1に処理条件、表2に脱硫率、昇
熱速度、T.〔O〕および上記厚板を超音波探傷で検査し
て求めた疵発生率を示す。表2に示す疵発生率指数は、
従来例であるNo.21 ヒートにおける疵発生率を1.0 とし
たものである。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】表2から、本発明方法では、従来例および
比較例よりも処理後T.〔O〕および成品疵発生率指数が
低減できることがわかる。また、処理後T.〔O〕を20pp
m 未満とし、成品疵発生率指数を0.02以下とするために
は、Y1/3/Xを40以上とする必要があることがわかる。
【0073】さらに本発明方法では、従来例および比較
例よりも溶鋼中〔S〕を低減することが可能であり、処
理後〔S〕を10ppm 以下とし、脱硫率を80%以上とする
ためには、Y1/3/Xを40以上とする必要があることがわ
かる。
【0074】また、Y1/3/Xを高めるために酸素供給速
度Xを0.03 Nm3/min・ton まで低下させると、No.7ヒー
トのように処理後T.〔O〕、成品疵発生率および脱硫は
良好なものの、処理中の温度降下が大きいという問題が
生じる。よって、Xは0.05 Nm3/min・ton 以上、Y1/3/
Xは150 以下が望ましいことがわかる。
【0075】(実施例2)転炉にて〔C〕が0.03〜0.06
Wt%になるまで粗脱炭した溶鋼(転炉終点温度:1620〜
1655℃)を、250ton取鍋に出鋼した(出鋼後鍋中温度:
1600〜1630℃)。
【0076】その際に、不可避的に転炉から取鍋に流出
したスラグ量は5〜10kg/t程度であった。このスラグを
改質するために、アルミニウムを含有するスラグ改質剤
(Al:50Wt%、Al2O3:40Wt%、CaO:10Wt%) 0.5〜1.5kg/
t を出鋼完了後の取鍋内スラグ上に添加して取鍋内スラ
グ中(FeO Wt%+MnO Wt%)を5Wt%以下とした。
【0077】その後、従来例、比較例および本発明例の
各方法により、昇熱および脱硫の同時精錬処理を行っ
た。
【0078】まず、〔C〕が0.003 Wt%以下になるまで
真空脱炭処理した後、真空槽内に脱酸剤(金属Al:1.0〜
1.5kg/t)を添加した。脱酸剤を添加して2分後に、真空
槽内に昇熱用の金属Alを2.0kg/t 添加すると同時に、真
空槽内壁の傾斜上吹き羽口から酸素ガスを8分間吹き付
けた。その後、酸素ガスを吹き付けずに、溶鋼およびス
ラグの撹拌または環流処理を5分間行い、取鍋内溶鋼か
らサンプルを採取し、T.〔O〕を分析した。さらに、溶
鋼は連続鋳造装置でスラブとし、次いで圧延処理を行っ
て厚さ0.9mm の薄板成品コイルとした。表3に処理条
件、表4に脱硫率、昇熱速度、T.〔O〕および上記薄板
を超音波探傷にて検査して求めた疵発生率を示す。表4
に示す疵発生率指数は、従来例であるNo.31 ヒートにお
ける疵発生率を1.0 としたものである。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】表4に示すように、本発明方法では、従来
例および比較例よりも処理後T.〔O〕および成品疵発生
率指数が低減できることがわかる。また、処理後T.
〔O〕を20ppm 未満とし、成品疵発生率指数を0.02以下
とするためにはY1/3/Xを40以上とする必要があること
がわかる。
【0082】さらに本発明方法では、従来例および比較
例よりも溶鋼中〔S〕を低減することが可能であり、処
理後〔S〕を10ppm 以下とし、脱硫率を80%以上とする
ためには、Y1/3/Xを40以上とする必要があることがわ
かる。
【0083】以上の結果を図11および図12に示す。
【0084】図11は、処理後T.〔O〕に及ぼす攪拌動力
Yおよび純酸素供給速度Xの影響を示す図である。
【0085】図12は、処理後T.〔O〕と攪拌動力Yとの
関係の例を示す図である。図11および図12に示すよう
に、処理後T.〔O〕を20ppm 未満とするためには、Y
1/3/Xを40以上とする必要がある。
【0086】以上のように本発明方法では、Y1/3/Xを
40以上とすることで、極低硫かつ清浄性の高い鋼が処理
時の問題なく溶製できた。
【0087】
【発明の効果】本発明の溶鋼昇熱、脱硫同時精錬方法
を用いることにより、極低硫かつ高清浄性の鋼を溶製す
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】大気圧下で取鍋蓋を使用して雰囲気を調整し、
浸漬ランスからArガスを吹き込んで溶鋼およびスラグを
攪拌しながら、溶鋼の表面に上吹きランスから酸素ガス
を上吹きする装置の概略縦断面図である。
【図2】大気圧下で筒状浸漬管を使用し、浸漬ランスか
らArガスを吹き込んで溶鋼およびスラグを攪拌しなが
ら、溶鋼の表面に上吹きランスから酸素ガスを上吹きす
る装置の概略縦断面図である。
【図3】底吹きポーラスプラグからArガスを吹き込んで
真空容器内に収容した取鍋内の溶鋼およびスラグを攪拌
しながら、溶鋼の表面に上吹きランスから酸素ガスを上
吹きする装置の概略縦断面図である。
【図4】円筒状真空槽を溶鋼に浸漬し、槽内を減圧排気
し槽内に溶鋼を吸い上げ、底吹きポーラスプラグからAr
ガスを吹き込んで取鍋及び槽内の溶鋼及びスラグを攪拌
しながら、上吹き羽口から酸素ガスを上吹きする装置の
概略縦断面図である。
【図5】図4の場合と同様に浸漬、減圧排気、吸い上げ
および攪拌を行いながら、上吹きランスから酸素ガスを
上吹きする装置の概略縦断面図である。
【図6】円筒状真空槽を溶鋼に浸漬し、槽内を減圧排気
し槽内に溶鋼を吸い上げ、浸漬羽口からArガスを吹き込
んで取鍋及び槽内の溶鋼及びスラグを攪拌しながら、上
吹き羽口から酸素ガスを上吹きする装置の概略縦断面図
である。
【図7】図5に示す装置における底吹きポーラスプラグ
の替わりに、図6に示す浸漬羽口を備えた装置の概略縦
断面図である。
【図8】図4に示す装置における底吹きポーラスプラグ
の替わりに、図6に示す浸漬羽口を備えた装置の概略縦
断面図である。
【図9】脱硫率に及ぼす攪拌動力Yおよび純酸素供給速
度Xの影響を示す図である。
【図10】脱硫率に及ぼす攪拌動力Yの影響を示す図で
ある。
【図11】処理後T.〔O〕に及ぼす攪拌動力Yおよび純
酸素供給速度Xの影響を示す図である。
【図12】処理後T.〔O〕と攪拌動力Yとの関係の例を
示す図である。
【符号の説明】
1:取鍋、 2:取鍋蓋、3:溶鋼、
4:スラグ、5:上吹きランス、 6:浸漬ランス、
7:Arガス、 8:酸素ガス、9:筒状浸漬管、
10:底吹きポーラスプラグ、11:真空容器、
12:円筒状真空槽、13:傾斜上吹き羽口、14:浸漬羽口

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】取鍋内のAlを含有する溶鋼および溶鋼上
    のスラグを不活性ガスで撹拌しつつ、溶鋼に酸化性ガス
    を吹き付けまたは吹き込むことにより、酸化性ガスと溶
    鋼中の〔Al〕とを反応させる溶鋼の昇熱、脱硫同時
    錬方法であって、酸化性ガス中の純酸素供給速度X(N
    /min・ton)と攪拌動力Y(Watt/to
    n)との関係が下記式(1)を満たし、昇熱中のスラグ
    のCaOとAl との重量含有率の比CaO/Al
    の値を0.8〜2.5とすることを特徴とする溶
    鋼の昇熱、脱硫同時精錬方法。 (Y1/3/X)≧40・・・・・・・・・・・・(1) ただし、 Y=6.18・Q・T・ln(1+ρ・g・H/P) Q:攪拌ガス流量(Nm/min・ton) T:溶鋼絶対温度(K) ρ:溶鋼密度(kg/m ) g:重力加速度(m/s ) H:ガス攪拌される溶鋼表面とガス吹き込み位置との鉛
    直方向の距離(m) P:雰囲気圧力(Pa)。
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