JP7235070B2 - 溶鋼の二次精錬方法および鋼の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、取鍋などの反応容器に充填された溶鋼と、溶鋼上に添加・形成されたスラグと、スラグに吹き付けられる酸素含有ガスと、による反応により溶鋼を二次精錬する方法および鋼の製造方法に関する。
窒素は金属材料にとって有害成分であり、従来の製鋼プロセスでは主に溶銑の脱炭処理時に発生する一酸化炭素の気泡表面に溶鉄中の窒素[N]を吸着させて除去している。そのため炭素濃度が低い溶鋼に関しては、一酸化炭素の発生量が限られているため、同様の手法では窒素を低濃度まで除去することができない。
一方で、CO排出量低減のためには、製鋼プロセスは従来の高炉、転炉を用いる方法から、スクラップや還元鉄を溶解させる方法へと転換する必要がある。その場合、得られる溶融鉄は炭素濃度が低くなり、前記理由で低窒素鋼を溶製できないおそれがある。
そこでスラグを用いた溶鋼からの脱窒方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、電気炉で鉄スクラップを主鉄源として溶鋼を溶製し、別の精錬容器に出鋼した後、前記溶鋼の浴面上に、質量比でCaO/Al(以下C/A)が0.8~1.2の範囲となるよう金属Al含有物質およびCaOを添加し、当該溶鋼に酸素含有ガスを供給することにより、AlN形成反応を利用した脱窒反応を進行させ、低い炭素濃度の溶鋼であっても安価に低窒素鋼を溶製する方法が提案されている。
特開2007-211298号公報
上野ら:鉄と鋼,101(2015),74
しかしながら、前記従来技術には以下の問題点がある。
すなわち、特許文献1に記載の技術は、処理前の溶鋼中C濃度を0.01~0.05mass%として、溶鋼に加炭しないことを述べている。脱窒処理の前工程では、転炉あるいは、電気炉で送酸により溶湯からの脱炭(一次精錬)を行う。その場合、溶鋼中C濃度が0.05mass%以下になると急激に脱炭効率が低下し、FeOを生成し、歩留まり低下を生じ、転炉や電気炉の処理時間が延長するという問題が発生する。
また、特許文献1の方法では取鍋の耐火物が溶損するという問題があった。これはC/Aの値が低くなると、スラグが滓化され、耐火物の溶損が大きくなることによるものと推察されている。
また、特許文献1に記載の方法では、溶鋼に酸素ガスを供給した際に溶鋼中の炭素が酸素ガスと反応し一酸化炭素ガスが発生し、溶鋼上に存在するスラグが膨張し、オーバーフローするという課題もあった。スラグのオーバーフローはCOガスが急激に発生するために生じると考えられる。
また、窒素の他、溶鋼中の硫黄の除去も二次精錬での役割となるが、特許文献1では、脱窒と脱硫との同時処理に関する記載がない。そのため、溶鋼中の硫黄除去は、例えばLF(レードルファーネス)で電極加熱を行いながらCaOおよびAlを主成分とするスラグを造滓し、スラグと溶鋼を接触させながら硫黄を除去する、といったプロセスを別途設けなければならず、生産コストの増加の誘因となっていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、スラグとAl含有溶鋼を接触させて溶鋼の脱窒処理を行いながら、酸素含有ガスを吹き付けて溶鋼を二次精錬するにあたり、取鍋等容器の耐火物を溶損することなく、スラグをオーバーフローさせることなく、安定して高速で低窒素濃度域まで到達し得る溶鋼の二次精錬方法を提案する。加えて、この脱窒処理と脱硫処理とを同一処理中で行い、効率的に溶鋼の脱窒または脱窒と脱硫とを行うことができる溶鋼の二次精錬方法を提案することにある。さらに、その溶鋼の二次精錬方法で溶製した溶鋼を用いた鋼の製造方法を提案する。
発明者らはこれらの問題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、スラグを貫通して酸素含有ガスを溶鋼まで到達するように吹き付けるにあたり、溶鋼中のAl濃度を適切に管理することで、Al昇熱により低C/A比のスラグ組成であっても滓化を促進でき、脱炭反応を抑制してCOガスの発生速度を低下させることができることを見出した。
上記課題を有利に解決する本発明にかかる第一の溶鋼の二次精錬方法は、溶鋼に金属Al含有物質を添加しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせてCaOおよびAlを含有するスラグを形成したのちに、前記スラグを貫通して前記Al含有溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けて脱窒処理を含む送酸処理を実施する溶鋼の二次精錬方法であって、前記スラグ形成時の攪拌動力密度ε(W/t)に基づき、送酸処理直前の溶鋼中のAl濃度[Al](mass%)を下記の式(A)で計算される値[Al]以上とし、前記送酸処理終了時のAl濃度[Al]を0.03mass%以上とすることを特徴とする。
[Al]=-0.072×ln(ε)+0.5822 ・・・・(A)
また、本発明にかかる第一の溶鋼の二次精錬方法は、
(a)前記Al添加ステップが、前記溶鋼に金属Al含有物質を添加し脱酸溶鋼とする工程を含むこと、
(b)前記送酸処理において、前記酸素含有ガスを供給する際、前記スラグの厚みLS0と酸素含有ガス吹き付けにより生じる凹み深さLとの比L/LS0を1.0以上にすることこと、
(c)前記スラグ中のCaO濃度(CaO)(mass%)とAl濃度(Al)(mass%)の質量比であるC/A(-)を0.4以上1.8以下にすること、
(d)前記スラグ中のMgO濃度(MgO)(mass%)をCaO濃度(CaO)(mass%)に対する質量比で0.25以下にすること、
(e)前記送酸処理は、前記Al含有溶鋼およびスラグの表面を9.3×10Pa以下の減圧雰囲気にすること、
などが、より好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
上記課題を有利に解決する本発明にかかる第二の溶鋼の二次精錬方法は、容器に充填したAl含有溶鋼上にCaOおよびAlを含有するスラグを形成し、前記スラグを貫通して前記Al含有溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素および硫黄を除去する溶鋼の二次精錬方法であって、上記第一の溶鋼の二次精錬方法のいずれかで行う送酸処理中において、溶鋼中のAl濃度を0.05mass%以上に保ちつつ、スラグ中のCaO濃度(mass%)とAl濃度(mass%)の比であるC/A(-)を1.8以上2.2以下に制御することを特徴とする
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼の製造方法は、上記第一の溶鋼の二次精錬方法のいずれか、または、第二の溶鋼の二次精錬方法で溶製した溶鋼に対し、任意に成分調整したのち、鋳造することを特徴とする。
本発明によれば、酸素含有ガスをスラグに吹き付けて溶鋼の脱窒処理を含む二次精錬処理を行うにあたり、取鍋等容器の耐火物を溶損することなく、スラグをオーバーフローさせることなく、安定して高速で低窒素濃度域まで溶鋼中窒素を除去できるようになる。さらには溶鋼中の硫黄の除去促進も可能となる。そのような低窒素溶鋼または低窒素低硫溶鋼に必要に応じて他の成分を調整したのち鋳造することで経済的に優れた高級鋼を製造することができ、産業上有用である。
本発明の一実施形態にかかる溶鋼の二次精錬方法に適した装置の一例を示す模式図である。 Al添加ステップで調整した溶鋼中Al濃度[Al]と到達窒素濃度[N]の関係を示すグラフである。 到達窒素濃度[N]=25massppmを得るための、送酸処理直前の溶鋼中Al濃度[Al]とスラグ形成時の攪拌動力密度εの関係を示すグラフである。 処理終了時Al濃度[Al]とスラグフォーミング指数の関係を示すグラフである。 初期スラグ厚みLS0と酸素含有ガスによるスラグの凹み深さLとの比L/LS0と溶鋼中の到達Al濃度[Al]の関係を示すグラフである。 質量基準で、スラグ中CaO濃度(C)とAl濃度(A)の比、C/A(-)と溶鋼中の到達窒素濃度[N]の関係を示すグラフである。 スラグ中のMgO濃度(MgO)のCaO濃度(CaO)に対する比率と溶鋼中の到達窒素濃度[N]の関係を示すグラフである。 スラグ中のMgO濃度(MgO)のCaO濃度(CaO)に対する比率と耐火物の溶損指数の関係を示すグラフである。 炉内圧力Pと溶鋼中の到達窒素濃度バラツキの上限Max[N]との関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
図1に本発明を実施するにあたり好適な装置構成を示す。耐火物2が内張りされた取鍋などの容器1に溶鋼3を充填し、その上にCaOおよびAlを含有するスラグ4を形成する。排気系統11と合金添加系統12を有する真空容器13中で溶鋼3およびスラグ4表面を減圧雰囲気とした状態で、ガス配管9に接続されたガス上吹き用ランス6からO含有ガスをスラグ4に吹き付ける。溶鋼3は、ガス配管9に接続された底吹きノズル8から攪拌用不活性ガス10を吹込むことで攪拌を行う。攪拌用不活性ガス10としては、窒素ガスを含まないArガスなどが好ましい。上吹きランス5は容器1上部を覆う中蓋14を貫通して挿入されている。
溶鋼3に金属Al含有物質を添加して脱酸しAl含有溶鋼とする工程(Al添加ステップ)、溶鋼3にCaO含有物質を添加する工程(CaO添加ステップ)は、合金添加系統12を用いて行ってもよいし、真空容器13に入る前工程で行っても良い。溶鋼3を脱酸する工程(脱酸ステップ)をAl添加ステップから分離して行ってもよいし、Al添加ステップ内で脱酸処理を行ってもよい。処理の前段に脱酸ステップを有する場合、金属Al含有物質の添加は、脱酸ステップの前に行ってもよいし、脱酸ステップ後に行ってもよいし、脱酸ステップの前後に分割して行ってもよい。脱酸ステップの前にAlを添加すると、Alが燃焼することで溶鋼の温度を高く維持する効果も期待でき、脱酸ステップの後に添加した場合には脱窒の効果が期待できる。また、前後に分割して添加した場合にはその両方の効果が期待できる。CaO添加ステップは任意の時期に実施することができる。CaO添加ステップは、脱酸ステップ後に実施すれば、脱酸反応による溶鋼温度の上昇をスラグの滓化に利用できるので好ましい。CaO添加ステップは、Al添加ステップの後に実施すれば、添加したAl含有物質が厚みのあるスラグに阻害されて溶鋼に到達しないことによる脱酸不良またはスラグ組成のバラツキを抑制することができるためさらに好ましい。
CaOおよびAl含有スラグ4の形成は、CaO含有物質の添加および溶鋼の脱酸で生じるAlを利用する。たとえばCaO含有物質としてプリメルトもしくはプレミックス品のカルシウムアルミネートを用いて行っても良い。スラグ組成は、スラグが溶融している割合(以下、滓化率という)が高いほど脱窒反応に有利である。
また、スラグの形成のために滓化促進を図るうえで、溶鋼の攪拌、たとえば、底吹き攪拌を行うことが好ましい。攪拌用ガス10の溶鋼中への供給は、前記の方法以外にも、例えば不活性ガス吹込み用のインジェクションランスを介して溶鋼にインジェクションする形式でも良い。
次に、本発明の好適な実施形態について、経緯を交え詳細に説明する。なお、本明細書中で、[M]は、元素Mが溶鋼中に溶存含有している状態を表し、(R)は、化学物質Rがスラグ中に溶存含有している状態を表し、単位を付してそれぞれの組成比率を表すこととする。
(第1実施形態)
第1の実施形態は、Al含有溶鋼をスラグと接触させて脱窒を図るとともに、溶鋼中に過剰に含有したAlを送酸により除去しようとして開発したものである。図1の構成要件を満たす小型高周波真空誘導溶解炉にて15kgの溶鋼3に対し15kg/t以上のCaOおよびAl含有スラグ4を溶鋼面が肉眼で確認できない程度の量で形成し、底吹きガスで攪拌したのち、Oガスをスラグに吹き付けた。Oガスは、その噴出圧により、スラグを押しのけて、溶鋼面に到達していることを肉眼で確認した。たとえば、底吹きガスの浮上点に相当する溶湯浴面上の位置では、浴面の盛り上がりによりスラグ厚みが薄くなっている。この底吹きガスの浮上点に向けてOガスを吹き付ければ、容易にスラグを貫通して、溶鉄に直接Oガスを吹き付けることができる。
まず、Al添加ステップで添加するAl含有物質の量を変えて、Oガス吹き付けによる送酸処理直前の溶鋼中Al濃度[Al]と到達N濃度[N]の関係を調べた。図2に示したように、送酸処理前の溶鋼中Al濃度[Al]が0.03mass%未満では、到達N濃度[N]が35massppm以下に安定して脱窒できなかった。このとき、炉内雰囲気圧Pは5.3×10Pa、溶鋼中の初期窒素濃度[N]は、50massppm、スラグ組成はCaOとAlの質量比C/Aで1.2、スラグ中のMgO濃度(MgO)は、5mass%、攪拌動力密度εは396W/t、溶鋼温度Tは、1660℃、送酸処理時間tは25分であった。これは、スラグを貫通する酸素含有ガスによって、溶鋼中のAlが酸化して減少してしまい、窒化アルミニウム(AlN)を形成することができなかったためと考えられる。なお、送酸処理前の溶鋼中Al濃度[Al]を0.1mass%以上とすれば、溶鋼中の到達窒素濃度[N]を30massppm以下とすることができるので好ましい。また、送酸処理前の溶鋼中Al濃度[Al]を1.0mass%以上とすれば、溶鋼中の到達窒素濃度[N]を25massppm以下とすることができるので好ましい。
次に、前記小型高周波真空誘導溶解炉にて、溶鋼中窒素を25ppmまで低下させるために最低限必要な送酸前のAl濃度[Al]を調査した所、図3に示すように、スラグ形成時の攪拌動力密度ε(W/t)に応じて送酸前に必要なAl濃度[Al](mass%)が変化することが分かった。ここで、スラグ中のMgO濃度(MgO)を0mass%、溶鋼温度Tを1600℃とし、初期窒素濃度[N]およびスラグ組成のC/Aは上記と同様である。調査の前提となる炉雰囲気圧Pを0.7×10Paとし、攪拌動力密度εを200~2000W/tの範囲でスラグ形成時および送酸処理中一定になるように制御し、送酸処理時間は30分とした。このことから、送酸前のスラグ形成時や送酸中の火点(酸素含有ガスにより溶鋼面が露出している部分をいう)以外のスラグと溶鋼との接触により、スラグによる脱窒が、進行すると推定した。
さらに、前記小型高周波真空誘導溶解炉にて、送酸処理前の溶鋼中Al濃度[Al]を0.02~0.5mass%まで変えて、送酸処理後の溶鋼中Al濃度[Al]とスラグフォーミング指数の関係を調べた。ここで、スラグフォーミング指数はスラグボリュームから計算したスラグ高さとフリーボードとの比と置いた。結果を図4に示す。スラグオーバーフローのある場合を「×」記号で表し、ない場合を「〇」記号で表す。このとき、炉内雰囲気圧Pは1×10Pa、攪拌動力密度εは60W/t、溶鋼中の初期窒素濃度[N]は、50massppm、初期C濃度[C]は0.10mass%、スラグ組成はCaOとAlの質量比C/Aで1.2、スラグ中のMgO濃度(MgO)は、5mass%、溶鋼温度Tは、1660℃、処理時間tは18分であった。また、取鍋のフリーボードは1.5mであった。送酸処理後の溶鋼中Al濃度[Al]とが0.03mass%を下回りスラグフォーミング指数が1を超えるとスラグオーバーフローが発生することがわかった。これは、吹き付けたOガスによるAlとCとの酸化反応が競合し、Al濃度の減少とともにCOガスが発生し、スラグボリュームが増加したためと考えられる。第1の実施形態、つまり、溶鋼に金属Al含有物質を添加しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせてCaOおよびAlを含有するスラグを形成したのちに、前記スラグを貫通して前記Al含有溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けて脱窒処理を含む送酸処理を実施する溶鋼の二次精錬方法であって、前記スラグ形成時の攪拌動力密度ε(W/t)に基づき、送酸処理直前の溶鋼中のAl濃度[Al](mass%)を下記の式(A)で計算される値[Al]以上とし、前記送酸処理終了時のAl濃度[Al]を0.03mass%以上とする溶鋼の二次精錬方法は、上記のような調査の結果から得られたものである。なお、送酸処理終了後のAl濃度[Al]fは、製品規格に定められたAl濃度[Al]が下記(A)式の値[Al]より大きい場合にはその値を目標値とすることが好ましい。目標値[Al]が下記(A)式の値[Al]より小さい場合には、送酸処理において、Al酸化除去の処理を行うことが好ましい。
[Al]=-0.072×ln(ε)+0.5822 ・・・・(A)
(第2実施形態)
第2実施形態は、送酸処理時に、いわゆる、Al飛ばし処理を実施する必要があり、工程の簡略化を図る意図で開発したものである。図1の構成要件を満たす小型高周波真空誘導溶解炉にて15kgの溶鋼3に対し15kg/t以上のCaOおよびAl含有スラグ4を溶鋼面が肉眼で確認できない程度の量で形成し、底吹きガスの浮上点以外の位置のスラグ面上にOガスを吹き付けた。発明者らは、送酸処理前のCaOおよびAl含有スラグが溶融した段階でのスラグの厚みLS0(m)の測定結果と、非特許文献1に記載の式中の諸パラメータ、具体的には液体密度やガス密度、ジェット速度などを実験条件に適合する値に変えたスラグの凹み深さL(m)との比であるL/LS0(-)と送酸処理後の溶鋼中Al濃度[Al]の関係を調べた。その結果、図5に示すように、L/LS0を1.0以上にすれば、送酸処理時に脱窒と同時に溶鋼中のAl濃度を減少させることができることを見出した。このとき、炉内雰囲気圧Pは5.3×10Pa、溶鋼中の初期窒素濃度[N]は、50massppm、送酸処理前の溶鋼中Al濃度[Al]は、0.7mass%、スラグ組成はCaOとAlの質量比C/Aで1.2、スラグ中のMgO濃度(MgO)は、10mass%、溶鋼温度Tは、1650℃、処理時間tは30分であった。第2の実施形態、つまり、第1の実施形態に加えて、前記送酸処理において、前記酸素含有ガスを供給する際、前記スラグの厚みLS0と酸素含有ガス吹き付けにより生じる凹み深さLとの比L/LS0を1.0以上にする溶鋼の二次精錬方法は、上記のような調査結果から得られたものである。なお、比L/LS0を大きくしすぎると、溶鋼のスピッティング等により操業阻害を生じるので、比L/LS0の上限を1.5程度とすることが好ましく、1.3程度とすることがさらに好ましい。
(第3実施形態)
第3の実施形態は、スラグ組成、主にスラグ中のCaO濃度(mass%)とAl濃度(mass%)の比である、C/A(-)の脱窒へ及ぼす影響を調査している際に見出されたものである。図1の構成要件を満たす小型高周波真空誘導溶解炉にて、スラグ中のMgO濃度を0%とした上で、C/Aを0.4~2.5まで変化させた試験において、図6に示すように、C/Aが0.4~2.0の範囲では到達窒素濃度[N]は20massppm以下を維持している。C/Aが1.8を超えると、到達窒素濃度[N]が上がり始め、2.0を超えると到達窒素濃度[N]が急激に上昇し、2.2を超えると低窒素濃度域(窒素濃度[N]が35ppm以下)へ到達しなくなった。第3の実施形態、つまり、第1の実施形態または第2の実施形態に加えて、前記スラグ中のCaO濃度(CaO)(mass%)とAl濃度(Al)(mass%)の質量比であるC/A(-)を0.4以上2.2以下にする溶鋼の二次精錬方法は、上記のような調査結果から得られたものである。
(第4実施形態)
第4の実施形態は、スラグ組成、主に耐火物の溶損により増加するスラグ中のMgO濃度(mass%)のCaO濃度(mass%)に対する割合、(MgO)/(CaO)(-)の脱窒へ及ぼす影響を調査している際に見出されたものである。上記図6とスラグ中MgO濃度(MgO)以外同一の条件とし、C/Aを1.7に固定して、質量比の(MgO)/(CaO)を変化させて、到達窒素濃度[N]に与える影響を調査し、図7に結果を示す。(MgO)/(CaO)を0.25以下にすることで、到達窒素濃度[N]を35massppm以下にできることがわかる。また、(MgO)/(CaO)を0.2以下にすることで到達窒素濃度[N]をより低くすることができる。同様に図8に、スラグ中のMgO濃度(mass%)のCaO濃度(mass%)に対する割合、(MgO)/(CaO)(-)の耐火物溶損に及ぼす影響を示す。(MgO)/(CaO)が0.14以上であれば、耐火物の溶損への影響が小さく好ましい。第4の実施形態、つまり、第1~第3の実施形態のいずれかに加えて、前記スラグ中のMgO濃度(MgO)(mass%)をCaO濃度(CaO)(mass%)に対する質量比で0.25以下にする溶鋼の二次精錬方法は、上記のような調査結果から得られたものである。好ましくは、スラグ中のMgO濃度(MgO)(mass%)をCaO濃度(CaO)(mass%)に対する質量比で0.14~0.25の範囲である。
(第5実施形態)
第5の実施形態は、到達真空度の脱窒反応に与える影響を検討する際に見出された。図1の構成要件を満たす小型高周波真空誘導溶解炉にて15kgの溶鋼3に対し15kg/t以上の、MgO濃度が0~17mass%含まれるCaOおよびAl含有スラグ4を溶鋼面が肉眼で確認できない程度の量で形成した。そして、炉内の雰囲気圧Pを調整した上で、攪拌動力密度で2500W/tの攪拌を溶鋼に付与しながら、スラグを貫通してOガスをスラグに吹き付け、溶鋼の送酸処理を行った。炉雰囲気の真空度(雰囲気圧)P(Pa)を変化させた送酸試験において、図9に示すように処理後の窒素濃度のバラツキ上限値Max[N](massppm)は、炉雰囲気圧Pが9.3×10Pa以下で35massppmの低窒素領域を安定して維持できた。このとき、溶鋼中の初期窒素濃度[N]は、50massppm、Al濃度[Al]は、0.7mass%、スラグ組成はCaOとAlの質量比C/Aで1.2、スラグ中のMgO濃度(MgO)は、5mass%、溶鋼温度Tは、1600℃、処理時間tは30分であった。第5の実施形態、つまり、第1~4のいずれかの実施形態に加えて、前記Al含有溶鋼およびスラグの表面を9.3×10Pa以下の減圧雰囲気にする溶鋼の二次精錬方法は、上記のような調査結果から得られたものである。好ましくは、6.7×10Pa以下の減圧雰囲気にすることである。なお、過度の減圧は排気系など設備費の増加を招くので、炉雰囲気圧Pの下限は10Pa程度とすることが好ましい。
(第6実施形態)
第6の実施形態は、脱窒と脱硫を同時に処理できないか検討する際に見出された。送酸処理の条件は、上記いずれかの実施形態から選ぶことが好ましい。脱硫反応促進のため、Mannesmann
Slag Index(MSI)=((CaO/SiO)/Al)を0.25~0.45の範囲とすることが好ましいことが知られている。脱酸処理やスラグの調整時に生成したAl量に対し、質量比の(CaO)/(Al)が1.8~2.2となるようにCaO含有物質を添加し、必要に応じて、添加したCaO分の質量比で0.2程度のMgO濃度となるようにMgOクリンカーを添加することが好ましい。SiOについては積極的に濃度コントロールしない。脱硫に有利なスラグ組成はC/Aが高いので、反面、脱窒の観点からは不利になる。そこで、脱窒促進のために、酸素含有ガスを供給する際、前記スラグの厚みLS0と酸素含有ガス吹き付けにより生じる凹み深さLとの比L/LS0を1超えとし、高真空度で処理することが好ましい。
上記溶鋼の二次精錬方法で溶製した溶鋼に対し、必要に応じて、その他所定の成分に調整し、介在物の形態制御や浮上分離したのちに鋳造を行うことが好ましい。低窒素鋼または低窒素低硫鋼としたうえで、各種成分を調整した高級鋼を製造することができる。
以下に、発明の実施例について詳細に説明する。図1の構成の装置を用い、取鍋内の1600℃~1750℃の溶鋼に金属Alを添加した。温度調整のためにLF装置にて溶鋼の加熱をおこなった。脱酸用のAl添加は、LF処理前またはVOD装置でのAl添加時に一括添加で行った。VOD装置ではAl添加の有無により送酸前の溶鋼中Al濃度を調整し、[Al]を0.02~0.48mass%とした。そして、CaOや耐火物保護用MgOを添加してCaO-Al2元系スラグ、またはCaO-Al-MgO3元系スラグを形成した後、スラグに酸素ガスを吹き付けた。溶鋼は、取鍋下部に取り付けられた底吹きプラグからArガスを、攪拌動力密度で60~600kW/tとなるように供給した。溶鋼量は160tで試験を行った。
表1-1、表1-2に試験条件および結果を示す。発明例は送酸処理後の溶鋼中の到達窒素濃度[N]を35massppm以下にできた。一方、比較例は、未達であった。さらに試験条件No.7および8はスラグオーバーフローにより処理中断を余儀なくされた。スラグ中のC/Aが1.8~2.2の範囲にある試験条件No.5、14および16は脱硫性も優れていることがわかった。処理No.11および15はスラグが滓化しておらず一部固化がみられた。
Figure 0007235070000001
Figure 0007235070000002
本発明にかかる溶鋼の二次精錬は、電気炉等で低炭素のスクラップや還元鉄を溶解して溶鋼を製造する製鋼プロセスに適用して低窒素鋼または低窒素低硫鋼を安定して量産できるので、CO削減に寄与し産業上有用である。
1 容器
2 耐火物
3 溶鋼
4 CaOおよびAl含有スラグ
5 ガス配管(酸素ガス)
6 ガス上吹き用ランス
7 O含有ガス
8 底吹きノズル
9 ガス配管(不活性ガス)
10 鋼浴攪拌用不活性ガス
11 排気系統
12 合金添加系統
13 真空容器
14 中蓋

Claims (6)

  1. 溶鋼に金属Al含有物質を添加しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせてCaOおよびAlを含有するスラグを形成したのちに、前記スラグを貫通して前記Al含有溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けて脱窒処理を含む送酸処理を実施する溶鋼の二次精錬方法であって、
    前記スラグ形成時の攪拌動力密度ε(W/t)に基づき、送酸処理直前の溶鋼中のAl濃度[Al](mass%)を下記の式(A)で計算される値[Al]以上とし、
    前記送酸処理終了時のAl濃度[Al]を0.03mass%以上とし、
    前記送酸処理において、前記酸素含有ガスを供給する際、前記スラグの厚みL S0 と酸素含有ガス吹き付けにより生じる凹み深さL との比L /L S0 を1.0以上にし、
    前記スラグ中のCaO濃度(CaO)(mass%)とAl 濃度(Al )(mass%)の質量比であるC/A(-)を0.4以上2.2以下にすることを特徴とする溶鋼の二次精錬方法。
    [Al]=-0.072×ln(ε)+0.5822 ・・・・(A)
  2. 前記Al添加ステップが、前記溶鋼に金属Al含有物質を添加し脱酸溶鋼とする工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の二次精錬方法。
  3. 前記スラグ中のMgO濃度(MgO)(mass%)をCaO濃度(CaO)(mass%)に対する質量比で0.25以下にすることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶鋼の二次精錬方法。
  4. 前記送酸処理は、前記Al含有溶鋼およびスラグの表面を9.3×10Pa以下の減圧雰囲気にすることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の溶鋼の二次精錬方法。
  5. 容器に充填したAl含有溶鋼上にCaOおよびAlを含有するスラグを形成し、前記スラグを貫通して前記Al含有溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素および硫黄を除去する溶鋼の二次精錬方法であって、請求項1~のいずれか1項に記載の溶鋼の二次精錬方法で行う送酸処理中において、溶鋼中のAl濃度を0.05mass%以上に保ちつつ、スラグ中のCaO濃度(mass%)とAl濃度(mass%)の比であるC/A(-)を1.8以上2.2以下に制御することを特徴とする、溶鋼の二次精錬方法。
  6. 請求項1~のいずれか1項に記載の溶鋼の二次精錬方法で溶製した溶鋼に対し、任意に成分調整したのち、鋳造することを特徴とする、鋼の製造方法。

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