JP2019173043A - 銅合金条、その製造方法及びこれを用いたフラットケーブル - Google Patents

銅合金条、その製造方法及びこれを用いたフラットケーブル Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の目的は、高強度、高導電性を有すると共に、屈曲性能に優れる銅合金条を提供することである。【解決手段】本発明の銅合金条は、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有し、引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上であり、銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、銅合金条、特に、屈曲性能に優れる銅合金条及びその製造方法に関する。特に、自動車用部品、電子機器等において、屈曲変形が繰り返される部位に配索されるフラットケーブルに用いるのに好適な銅合金条に関する。
従来、フラットケーブルは、厚みが薄く可撓性に優れる特長を有することから、実装形態における自由度が高く、特に、自動車用部品、電子機器等への用途に多く用いられている。フラットケーブルが、自動車の回転コネクタ、プリンタのヘッド部等の可動部に用いられる場合、フラットケーブルには仕様に見合う強度、導電性、屈曲性能が要求される。
このようなフラットケーブルを構成する導体として、導電性に優れ廉価である純銅が一般的に用いられている。しかしながら、フラットケーブルの屈曲時に導体断線が起きると、導体は通電の役割を果たすことができなくなる。そのため、フラットケーブルに使用される導体は高い屈曲性を有していることが望ましい。
特許文献1には、圧延銅箔の組織を改善することにより屈曲性能を高めることが開示されている。特許文献2には、所定量の特定の金属元素を含む銅合金を適応して屈曲性能が改善された導体を用いたフラットケーブルが開示されている。特許文献3には、所定の金属組織を有するCu−Cr−Si系合金が、高強度及び高導電性を示し、さらにはこの合金の電子部品等への用途が開示されている。特許文献4には、所定の金属組織を有するCu−Cr系合金の板材が、優れた強度、導電性、耐疲労特性等を示し、さらには板材の車載部品等への用途が開示されている。
特開平11−286760号公報 特開2002−25253号公報 特開2007−270305号公報 特開2015−52143号公報
近年、電子機器の小型化、多回路化、さらには適応環境の広範化に伴い、フラットケーブルに対し、より高い屈曲性(耐疲労性)、多回路化、高耐熱性が要求されるケースが増加している。従来使用されてきた純銅導体を用いたフラットケーブルでは、小型化に伴い屈曲半径を小さくすると、耐疲労性が十分ではなく、屈曲寿命が短くなる。また、多回路化のため導体が狭幅化される場合にも、導体に亀裂起点が起きてから破断に至るまでの期間が短くなり、同様にフラットケーブルの寿命が短くなる。
また、従来は要求されていなかった100℃以上の高温環境下において、純銅の導体では、結晶粒成長が生じることにより初期の金属組織を維持できず、結果として、高温環境下で十分な屈曲性を維持することができない。また、近年、さらに高い屈曲性を有する導体の開発が望まれている。特許文献1に開示されているような銅箔、又は特許文献2に開示されているような銅合金の導体では、近年の高い屈曲性を十分に満たすには至っていない。また、特許文献3、4には、フラットケーブル用の導体としての適用については検討されていない。
本発明の目的は、高強度、高導電性を有すると共に、屈曲性能に優れる銅合金条を提供することである。また、本発明のさらなる目的は、このような銅合金条の製造方法及びこれを用いたフラットケーブルを提供することである。
本発明の態様は、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金条であって、
引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上であり、
前記銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下である、銅合金条である。
本発明の態様は、前記銅合金条の厚さが、0.02mm以上0.05mm以下である、銅合金条である。
本発明の態様は、IPC屈曲試験において、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上である、銅合金条である。
本発明の態様は、上記のような合金組成を有する銅合金素材を、99.99%〜99.9999%の純度を有する不活性ガス雰囲気下で鋳造する鋳造工程と、
鋳造によって得られた鋳塊に対して、表面の面削量が10mm以上20mm以下になるように面削を行う第1面削工程と、
前記第1面削工程後の鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理工程後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の被圧延材に対して、表面の面削量が1mm以上3mm以下になるように面削を行う第2面削工程と、
前記第2面削工程後に、所定の加工率で冷間圧延を行う中間冷間圧延工程と、
前記中間冷間圧延後に、最終熱処理を行う時効熱処理工程と、
前記時効熱処理工程後に、所定の加工率で最終冷間圧延を行う最終冷間圧延工程と、
を含む、銅合金条の製造方法である。
本発明の態様は、上述した銅合金条を用いたフラットケーブルである。
本発明の態様によれば、銅合金条が、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有し、銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下であることにより、引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上の高強度、高導電性を示すと共に、優れた屈曲性能を示す銅合金条、さらにはこのような銅合金条を用いたフラットケーブルを提供することができる。
本発明の態様によれば、銅合金条の製造方法が、上記のような合金組成を有する銅合金素材を、99.99%〜99.9999%の純度を有する不活性ガス雰囲気下で鋳造する鋳造工程と、鋳造によって得られた鋳塊に対して、表面の面削量が10mm以上20mm以下になるように面削を行う第1面削工程と、第1面削工程後の鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、均質化熱処理工程後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程と、熱間圧延工程後の被圧延材に対して、表面の面削量が1mm以上3mm以下になるように面削を行う第2面削工程と、第2面削工程後に、所定の加工率で冷間圧延を行う中間冷間圧延工程と、中間冷間圧延後に、最終熱処理を行う時効熱処理工程と、時効熱処理後に、所定の加工率で最終冷間圧延を行う最終冷間圧延工程と、を含むことにより、引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上の高強度、高導電性を有すると共に、優れた屈曲性能を示す銅合金条を得ることができる。
図1は、銅合金条の表面付近のMg系酸化物の個数を測定するため、銅合金条の断面を観察したSEM画像の一例である。
以下に、本発明の実施形態である銅合金条及びその製造方法、さらにはこのような銅合金条を用いたフラットケーブルについて説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体的に説明するために用いた代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
本発明に係る銅合金条は、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有する。また、この銅合金条の金属組織として、銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下である。このような合金組成及び金属組織を有する銅合金条は、引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上の高強度、高導電性を示すと共に、屈曲性能にも優れている。
銅合金条の厚さは、使用状況に応じて適宜選択することが望ましい。しかしながら、銅合金条の厚さを薄くし過ぎると、その分、断面積が減り、導体としての使用を考慮する場合、電気抵抗スペックを超えてしまう可能性がある。また、導体幅を広げる、導体全長を短くする等の対策は、設計上限度があり、製品スペックを下げてしまう恐れがある。一方、銅合金条の厚さを厚くし過ぎると、導体表面上の歪が大きくなり、屈曲性能が大きく低下する傾向がある。そのため、銅合金条の厚さは、一定の範囲の厚みであることが望ましい。本発明において、銅合金条の厚さは、0.02mm以上0.05mm以下であることが好ましく、0.03mm以上0.04mm以下であることがより好ましい。なお、特に言及されない限り、便宜上、銅合金条の厚さを、単に「板厚」とも呼ぶ。
[合金組成]
<クロム>
クロム(Cr)は、銅合金条の製造プロセス中の時効熱処理において、微細析出することで材料の強度、屈曲性能の強化に寄与する重要な元素である。銅合金条の強度及び屈曲性能を向上させる効果を得るため、本発明では、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下含有させることが必要である。Crの含有量が0.2質量%未満では、その効果が十分に得られない。また、Crの含有量が0.3質量%よりも多いと、粗大な晶出物又は析出物を形成するようになる。これにより、強度の向上に寄与しないだけでなく、粗大な晶出物又は析出物自体が薄厚の銅合金条の製造時の不良原因となり、屈曲性能を劣化させる原因となる。
<マグネシウム>
マグネシウム(Mg)は、固溶することで耐熱性を高め、さらには、Crの微細析出による強化作用を高めると同時に、その作用をより安定的にする重要な元素である。銅合金条の耐熱性を高めると共に、高強度及び高導電性を付与させる効果を得るため、本発明では、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含有させることが必要である。Mgの含有量が0.05質量%未満では、高強度付与の効果が十分に得られない。また、Mgの含有量が0.15質量%よりも多いと、固溶量が増大し、導電率が低下するために、70%IACS以上の導電率を得ることができなくなる。
<銅及び不可避不純物>
上述した成分以外の残部は、銅(Cu)及び不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。
[金属組織]
<Mg系酸化物>
本発明に使用される銅合金、すなわち、Cu−Cr−Mg系合金の製造プロセス中では、通常、MgおよびCrを含んだ酸化物が発生する。その中でMgを含んだMg系酸化物は、円周上の平均直径が0.1μm以上1μm以下の粒状であり、圧延加工で板厚を薄くすることで、表面近傍に集まりやすい傾向がある。Mg系酸化物が銅合金条の表面付近に多く存在すると、銅合金条の屈曲の繰り返し、製造過程における表面割れ等の原因となり、特に、板厚が0.02mm以上0.05mm以下のように薄い場合には、その傾向が大きくなる。
本発明では、銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向(圧延方向)に沿って1mm且つ厚さ方向(表面からの厚さ方向)に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下である。すなわち、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの垂直断面の領域を任意に設定し、その領域内に存在するMg系酸化物の数を制御する。このように、銅合金条の表面付近のMg系酸化物の数を抑制することにより、銅合金条の表面割れの発生を防止し、さらには、屈曲性能を高めることができる。また、上記領域内に存在するMg系酸化物の数は、3個以下であることが好ましく、これにより、屈曲性能をより高めることができる。
また、銅合金条の中心部にMg系酸化物の数が多いと、圧延加工時にMg系酸化物が表面付近へより多く集まる傾向にある。そのため、銅合金条の中心部に存在する、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数は、5個以下に抑えることが好ましい。ここで、銅合金条の中心部とは、板厚の中心から厚さ方向(中心から下面方向)及び表面に向かう方向(中心から上面方向)にそれぞれ2.5μm、すなわち幅5.0μm、且つ板厚の中心から長手方向(圧延方向)に沿って1mmの領域内を意味する。また、銅合金条の中心部に存在するMg系酸化物の数と、表面付近に存在するMg系酸化物の数とを相対的に比較するため、銅合金条の中心部における長手方向の範囲は、銅合金条の表面付近における長手方向の範囲と対応していることが望ましい。
[特性]
<引張強度>
引張強度が高いほど、疲労破壊に至る亀裂発生の抑止効果を高めることができる。一方、引張強度には、導体と導体を被覆する樹脂とをラミネートする際、その製造性の観点から下限が存在する。ラミネート時には、導体、樹脂共に張力をかける必要があり、素材の塑性変形、不均一変形が起きる応力が低い場合には、張力を付与時に塑性変形が起きてしまうことがある。従来の基準において、導体の引張強度は、300MPa程度で十分であったものの、多回路化に伴い導体幅が減少、すなわち、導体の断面積が減少するため、かかる張力に対して耐久可能な高い引張強度の要求が高まっている。その目安として、本発明に係る銅合金条は、引張強度が620MPa以上であり、650MPa以上であることが好ましい。引張強度が620MPa以上であることにより、高い引張強度の要求を満たすことができると共に、耐疲労特性が向上し、高い屈曲性能を十分に発揮することができる。一方、引張強度の上限は、特に限定されるものではないが、本発明の銅合金条が有する合金組成の範囲内においては、最大限の強化機構が発揮されても750MPa以下である。そのため、引張強度は、620MPa以上720MPa以下であることが好ましい。
<導電率>
本発明に係る銅合金条は、導体の抵抗規格条件をクリアする一つの目安として、導電率が70%IACS以上であり、75%IACS以上であることが好ましい。導電率が70%IACS未満であると、銅合金条をフラットケーブルの導体として使用する際、導体の断面積を増やす、又はフラットケーブルの長さを短くする、適用温度の領域を低温側に限定する等、設計上の制限により、本発明により得られる作用を著しく損なう可能性がある。一方、導電率の上限は、特に限定されるものではないが、本発明の銅合金条が有する合金組織の範囲内において、Crの一部、さらにMgの固溶による導電率の低下は避けられないため、90%IACS以下程度が上限の目安である。
<屈曲性能>
本発明に係る銅合金条は、IPC屈曲試験において、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上であることが好ましい。このようなIPC屈曲試験は、20℃〜150℃の範囲内の温度下で行われ、特に言及しない限り、常温下での実施を意味する。また、銅合金条をフラットケーブルの導体として使用することに基づき、導体幅は0.3mm〜0.8mmであることが好ましい。耐屈曲回数は、導体が断線(破断)するまでの回数、すなわち屈曲寿命を意味する。本発明では、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上であり、この屈曲寿命は、例えば、最も厳しい屈曲性能が求められる自動車用回転コネクタにおいてもメーカーの屈曲寿命規格を満たす。また、曲率半径が小さいほど、屈曲条件が厳しいため、より曲率半径が小さい条件下において、屈曲回数が1000万回以上であることは、より優れた屈曲性能であることを意味する。本発明では、好ましくは曲率半径が5.5mm〜7.5mmの条件下、より好ましくは曲率半径が4.7mm〜7.5mmの条件下、さらに好ましくは曲率半径が4.5mm〜7.5mmの条件下でも、耐屈曲回数が1000万回以上であり、非常に優れた屈曲性能を示す銅合金条を得ることができる。
次に、本発明に係る銅合金条の製造方法の一例を説明する。
[銅合金条の製造方法]
本発明に係る銅合金条は、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、均質化熱処理工程[工程3]、熱間圧延工程[工程4]、第2面削工程[工程5]、中間冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]、最終冷間圧延工程[工程8]と、を含み、これらの工程が順次行われる。本発明では、特に、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、及び第2面削工程[工程5]の条件を適切に制御することにより、銅合金条の表面付近のMg系酸化物の数、さらには銅合金条の中心部のMg系酸化物を抑制することができ、その結果、優れた屈曲性能を示す銅合金条を得ることができる。
まず、鋳造工程[工程1]では、上述した合金組成を有する銅合金素材を、酸素を含む大気圧下、純度が低い不活性雰囲気下ではなく、所定の純度を有する不活性ガス雰囲気下で鋳造する。具体的には、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金素材を、99.99%〜99.9999%の純度を有する不活性ガス雰囲気下で鋳造する。不活性ガスの純度が99.99%(N4)未満であると、炉中に存在する酸素がMgと反応してMg系酸化物を形成し、面削工程後に、銅合金条の表面付近において、Mg系酸化物の数が上記範囲内に収まらなくなり、その結果、屈曲性能が不十分となる。一方で、99.9999%(N6)よりも大きい不活性ガスの純度は、上述の金属組織の形成のために必須ではなく、かつ製造上高コスト、非効率的であるため、あえて適応する必要はない。また、鋳造工程において、不活性ガスは、特に限定されるものではないが、窒素、アルゴンなどの比較的低コストのガスを用いることが好ましく、窒素(N)であることがより好ましい。
第1面削工程[工程2]では、[工程1]の鋳造によって得られた鋳塊に対して、表面の面削量が10mm以上20mm以下になるように面削を行う。表面の面削量が10mm未満であると、銅合金条の表面付近において、Mg系酸化物の数が上記範囲内に収まらなくなり、その結果、屈曲性能が不十分となる。一方で、20mmよりも大きい表面の面削量は、上述の金属組織の形成のために必須ではなく、かつ生産性に劣るため、あえて適応する必要はない。
均質化熱処理工程[工程3]では、第1面削工程後の鋳塊に対して、均質化熱処理を行う。均質化熱処理は、例えば、950〜1050℃の加熱温度、1〜10時間の加熱時間で行うことができる。
熱間圧延工程[工程4]では、均質化熱処理工程[工程3]後、得られた鋳塊が均質化熱処理工程での温度を維持した状態で、熱間圧延を行う。熱間圧延は生産性の観点から、例えば、総加工率が75〜95%であることが好ましく、また、Crの析出を抑制するため800℃以上で終了することが好ましい。
第2面削工程[工程5]では、主に被圧延材の表面近辺に形成された酸化物等を除去するために、熱間圧延工程[工程4]後の被圧延材に対して、表面の面削量が1mm以上3mm以下になるように面削を行う。表面の面削量が1mm未満であると、銅合金条の表面付近において、Mg系酸化物の数が上記範囲内に収まらなくなり、その結果、屈曲性能が不十分となる。一方で、3mmよりも大きい表面の面削量は、上述の金属組織の形成のために必須ではなく、かつ生産性に劣るため、あえて適応する必要はない。
中間冷間圧延工程[工程6]では、第2面削工程[工程5]後、得られた被圧延材に対し、所定の加工率で、好ましくは、総加工率が90%以上となるように冷間圧延を行う。
時効熱処理工程[工程7]では、中間冷間圧延工程[工程6]後、得られた被圧延材に対し、最終熱処理を行う。時効熱処理は、例えば、400〜500℃の加熱温度、1〜6時間の加熱時間で行うことができる。
最終冷間圧延工程[工程8]では、時効熱処理工程[工程7]後に、圧延後の板圧が所望の板厚になるように、所定の加工率で、好ましくは、総加工率が65%以上となるように最終冷間圧延を行う。
また、銅合金条の製造プロセス中又は製造プロセス後に、形状矯正処理、酸洗処理等が任意に行われていてもよい。尚、上記各圧延工程における加工率R(%)は下記式で定義される。こうして、本発明に係る銅合金条が製造される。
R=(t−t)/t×100
式中、tは圧延前の板厚であり、tは圧延後の板厚である。
<フラットケーブル>
本発明に係る銅合金条は、優れた屈曲性能を示すため、高い屈曲性が要求されるフラットケーブル、特にフラットケーブルの導体に用いることが可能である。また、このフラットケーブルを用いる様々な電気電子機器への適応も可能である。本発明に係る銅合金条をフラットケーブルの導体に用いることにより、電気電子機器は小型化、多回路化が実現でき、かつ高温耐久性も大幅に向上することができる。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜12及び比較例1〜13)
以下の表2、3に示す合金組成を有する銅合金素材から、以下の表1に示す製造方法により、表2、3に示す合金組成及び金属組織を有する銅合金条を製造した。尚、表2中、TPCはタフピッチ銅(Tough-Pitch Copper)を意味し、99.9%程度の純度を有する銅である。
<銅合金条の製造>
表1に示される実施条件で、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、均質化熱処理工程[工程3]、熱間圧延工程[工程4]、第2面削工程[工程5]、中間冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]及び最終冷間圧延工程[工程8]を順次行い、銅合金条を製造した。
<フラットケーブルの作製>
最終冷間圧延工程[工程8]後に、得られた各実施例、比較例における銅合金条を、いずれも0.3mmの幅にスリットし、フラットケーブル用の導体を作製した。次いで、作製した導体の4本を用いて、導体間の間隔が0.5mmのフラットケーブルを作製した。フラットケーブルは、導体を被覆する樹脂として、接着層としてアクリル系樹脂が塗布されたPET樹脂と導体とをラミネートすることにより作製した。ラミネートは、0.5MPaのプレス圧力、170℃の加熱を3分間のプレス条件下で行った。
表2に示す実施例1〜9及び比較例1〜13において、以下の観察及び測定は、最終冷間圧延工程[工程8]後の板厚が0.035mmの銅合金条をサンプル試験片として用いて実施した。一方で、表3に示す実施例10〜12において、以下の観察及び測定は、板厚を0.02mm、0.04mm、0.05mmの銅合金条をそれぞれサンプル試験片として用いて実施した。
<Mg系酸化物の測定>
サンプル試験片の表面付近のMg系酸化物の個数の測定は、表面の長手方向に沿って1mm、且つ表面から厚さ方向に沿って5μmの四角(1mm×5μm)の領域内で観察することにより行った。Mg系酸化物の有無は、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry)による成分分析でMgが含まれていることで特定した。具体的には、図1に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて、200〜2000の倍率により観察し、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の個数を測定した。このようなMg系酸化物は、図1中、符号1で示されるような状態で観察される。測定箇所は、上記の領域を任意に5ヶ所選定し、その平均個数を算出して、これを表面付近のMg系酸化物の個数とした。
また、サンプル試験片の中心部のMg系酸化物の個数の測定は、サンプル試験片の板厚の中心から厚さ方向(中心から下面方向)及び表面に向かう方向(中心から上面方向)にそれぞれ2.5μm、且つ板厚の中心から長手方向(圧延方向)に沿って1mmの四角(2.5μm×1mm)の領域内で観察することにより行った。測定は、表面付近のMg系酸化物の個数の測定と同様に行った。
<引張強度>
サンプル試験片を短冊形状(15mm長×12.7mm幅)とし、形状以外についてはJIS Z2241に準拠し、試験数2(N=2)にて引張強度を測定し、その平均値を示した。
<導電率>
サンプル試験片を145mm長×10mm幅の形状にし、4端子法(端子間距離100m)にて、試験数2(N=2)にて導電率を測定し、平均値を示した。
<屈曲性能>
IPC屈曲試験機(型番:FT-2130、上島製作所社製)を用い、室温にて、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が4.5〜7.5mmの条件下で、フラットケーブルを構成する4本の導体のうち、屈曲寿命が最も短い両端の導体のいずれかが破断するまでの耐屈曲回数を測定した。屈曲試験は試験数5(フラットケーブル5枚分)で行った。4本の導体の全てにおいて、耐屈曲回数が1000万回以上であった場合、屈曲性能が合格レベルである(「○」)と評価し、1本の導体でも、耐屈曲回数が1000万回未満であった場合を、屈曲性能は不十分である(「×」)と評価した。
結果を、表2及び表3に示す。
表2より、実施例1〜9で得られた銅合金条では、いずれも、表面付近のMg系酸化物が10個以下であり、引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上を有し、さらには、IPC屈曲試験において、曲率半径が7.5mmの条件下で1000万回以上の耐屈曲回数を達成していた。特に、表面付近のMg系酸化物が3個以下である実施例1〜3、5、6、9では、IPC屈曲試験において、曲率半径が4.5mmの条件下でも1000万回以上の耐屈曲回数を達成していた。
一方、比較例1〜3のように、従来の導体のようなタフピッチ銅を使用した場合、また比較例4〜8のように、合金組成中Cr又はMgの含有量が本発明に規定する範囲よりも少ない場合、IPC屈曲試験において、曲率半径が7.5mmの条件下で1000万回以上の耐屈曲回数を達成していたものの、引張強度が620MPa未満であり、強度不足であった。
比較例9〜12では、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、第2面削工程[工程5]のいずれかの条件が、本発明の規定の範囲外であったため、表面付近のMg系酸化物が10個よりも多く存在し、さらには、IPC屈曲試験において、曲率半径が7.5mmの条件下で1000万回以上の耐屈曲回数を達成できなかった。
比較例13では、合金組成中のMgの含有量が本発明に規定する範囲より多いため、導電率が70%IACS未満であり、導電性が不足していた。
また、表3より、実施例10〜12で得られた銅合金条では、いずれも、表面付近のMg系酸化物が3個以下であり、引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上を有し、さらには、IPC屈曲試験において、曲率半径が7.5mmの条件下で1000万回以上の耐屈曲回数を達成していた。特に、板厚が0.02mmである実施例10では、IPC屈曲試験において、曲率半径が4.5mmの条件下でも1000万回以上の耐屈曲回数を達成していた。
上記のように、本発明に係る銅合金条は、高強度、高導電性を有すると共に、優れた屈曲性能を示す。そのため、本発明に係る銅合金条は、高い屈曲性が要求されるフラットケーブルの導体として有用であることがわかる。

Claims (5)

  1. Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金条であって、
    引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上であり、
    前記銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下であることを特徴とする、銅合金条。
  2. 前記銅合金条の厚さが、0.02mm以上0.05mm以下である、請求項1に記載の銅合金条。
  3. IPC屈曲試験において、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上である、請求項1又は2に記載の銅合金条。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の銅合金条の製造方法であって、
    前記合金組成を有する銅合金素材を、99.99%〜99.9999%の純度を有する不活性ガス雰囲気下で鋳造する鋳造工程と、
    鋳造によって得られた鋳塊に対して、表面の面削量が10mm以上20mm以下になるように面削を行う第1面削工程と、
    前記第1面削工程後の鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
    前記均質化熱処理工程後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程と、
    前記熱間圧延工程後の被圧延材に対して、表面の面削量が1mm以上3mm以下になるように面削を行う第2面削工程と、
    前記第2面削工程後に、所定の加工率で冷間圧延を行う中間冷間圧延工程と、
    前記中間冷間圧延後に、最終熱処理を行う時効熱処理工程と、
    前記時効熱処理工程後に、所定の加工率で最終冷間圧延を行う最終冷間圧延工程と、
    を含む、銅合金条の製造方法。
  5. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の銅合金条を用いたフラットケーブル。
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