JP6951999B2 - 銅合金条、その製造方法及びこれを用いたフラットケーブル - Google Patents
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Description
引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上であり、
前記銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下である、銅合金条である。
鋳造によって得られた鋳塊に対して、表面の面削量が10mm以上20mm以下になるように面削を行う第1面削工程と、
前記第1面削工程後の鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理工程後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の被圧延材に対して、表面の面削量が1mm以上3mm以下になるように面削を行う第2面削工程と、
前記第2面削工程後に、所定の加工率で冷間圧延を行う中間冷間圧延工程と、
前記中間冷間圧延後に、最終熱処理を行う時効熱処理工程と、
前記時効熱処理工程後に、所定の加工率で最終冷間圧延を行う最終冷間圧延工程と、
を含む、銅合金条の製造方法である。
<クロム>
クロム(Cr)は、銅合金条の製造プロセス中の時効熱処理において、微細析出することで材料の強度、屈曲性能の強化に寄与する重要な元素である。銅合金条の強度及び屈曲性能を向上させる効果を得るため、本発明では、Crを0.2質量%以上0.3質量%以下含有させることが必要である。Crの含有量が0.2質量%未満では、その効果が十分に得られない。また、Crの含有量が0.3質量%よりも多いと、粗大な晶出物又は析出物を形成するようになる。これにより、強度の向上に寄与しないだけでなく、粗大な晶出物又は析出物自体が薄厚の銅合金条の製造時の不良原因となり、屈曲性能を劣化させる原因となる。
マグネシウム(Mg)は、固溶することで耐熱性を高め、さらには、Crの微細析出による強化作用を高めると同時に、その作用をより安定的にする重要な元素である。銅合金条の耐熱性を高めると共に、高強度及び高導電性を付与させる効果を得るため、本発明では、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含有させることが必要である。Mgの含有量が0.05質量%未満では、高強度付与の効果が十分に得られない。また、Mgの含有量が0.15質量%よりも多いと、固溶量が増大し、導電率が低下するために、70%IACS以上の導電率を得ることができなくなる。
上述した成分以外の残部は、銅(Cu)及び不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。
<Mg系酸化物>
本発明に使用される銅合金、すなわち、Cu−Cr−Mg系合金の製造プロセス中では、通常、MgおよびCrを含んだ酸化物が発生する。その中でMgを含んだMg系酸化物は、円周上の平均直径が0.1μm以上1μm以下の粒状であり、圧延加工で板厚を薄くすることで、表面近傍に集まりやすい傾向がある。Mg系酸化物が銅合金条の表面付近に多く存在すると、銅合金条の屈曲の繰り返し、製造過程における表面割れ等の原因となり、特に、板厚が0.02mm以上0.05mm以下のように薄い場合には、その傾向が大きくなる。
<引張強度>
引張強度が高いほど、疲労破壊に至る亀裂発生の抑止効果を高めることができる。一方、引張強度には、導体と導体を被覆する樹脂とをラミネートする際、その製造性の観点から下限が存在する。ラミネート時には、導体、樹脂共に張力をかける必要があり、素材の塑性変形、不均一変形が起きる応力が低い場合には、張力を付与時に塑性変形が起きてしまうことがある。従来の基準において、導体の引張強度は、300MPa程度で十分であったものの、多回路化に伴い導体幅が減少、すなわち、導体の断面積が減少するため、かかる張力に対して耐久可能な高い引張強度の要求が高まっている。その目安として、本発明に係る銅合金条は、引張強度が620MPa以上であり、650MPa以上であることが好ましい。引張強度が620MPa以上であることにより、高い引張強度の要求を満たすことができると共に、耐疲労特性が向上し、高い屈曲性能を十分に発揮することができる。一方、引張強度の上限は、特に限定されるものではないが、本発明の銅合金条が有する合金組成の範囲内においては、最大限の強化機構が発揮されても750MPa以下である。そのため、引張強度は、620MPa以上720MPa以下であることが好ましい。
本発明に係る銅合金条は、導体の抵抗規格条件をクリアする一つの目安として、導電率が70%IACS以上であり、75%IACS以上であることが好ましい。導電率が70%IACS未満であると、銅合金条をフラットケーブルの導体として使用する際、導体の断面積を増やす、又はフラットケーブルの長さを短くする、適用温度の領域を低温側に限定する等、設計上の制限により、本発明により得られる作用を著しく損なう可能性がある。一方、導電率の上限は、特に限定されるものではないが、本発明の銅合金条が有する合金組織の範囲内において、Crの一部、さらにMgの固溶による導電率の低下は避けられないため、90%IACS以下程度が上限の目安である。
本発明に係る銅合金条は、IPC屈曲試験において、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上であることが好ましい。このようなIPC屈曲試験は、20℃〜150℃の範囲内の温度下で行われ、特に言及しない限り、常温下での実施を意味する。また、銅合金条をフラットケーブルの導体として使用することに基づき、導体幅は0.3mm〜0.8mmであることが好ましい。耐屈曲回数は、導体が断線(破断)するまでの回数、すなわち屈曲寿命を意味する。本発明では、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上であり、この屈曲寿命は、例えば、最も厳しい屈曲性能が求められる自動車用回転コネクタにおいてもメーカーの屈曲寿命規格を満たす。また、曲率半径が小さいほど、屈曲条件が厳しいため、より曲率半径が小さい条件下において、屈曲回数が1000万回以上であることは、より優れた屈曲性能であることを意味する。本発明では、好ましくは曲率半径が5.5mm〜7.5mmの条件下、より好ましくは曲率半径が4.7mm〜7.5mmの条件下、さらに好ましくは曲率半径が4.5mm〜7.5mmの条件下でも、耐屈曲回数が1000万回以上であり、非常に優れた屈曲性能を示す銅合金条を得ることができる。
本発明に係る銅合金条は、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、均質化熱処理工程[工程3]、熱間圧延工程[工程4]、第2面削工程[工程5]、中間冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]、最終冷間圧延工程[工程8]と、を含み、これらの工程が順次行われる。本発明では、特に、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、及び第2面削工程[工程5]の条件を適切に制御することにより、銅合金条の表面付近のMg系酸化物の数、さらには銅合金条の中心部のMg系酸化物を抑制することができ、その結果、優れた屈曲性能を示す銅合金条を得ることができる。
式中、t0は圧延前の板厚であり、tは圧延後の板厚である。
本発明に係る銅合金条は、優れた屈曲性能を示すため、高い屈曲性が要求されるフラットケーブル、特にフラットケーブルの導体に用いることが可能である。また、このフラットケーブルを用いる様々な電気電子機器への適応も可能である。本発明に係る銅合金条をフラットケーブルの導体に用いることにより、電気電子機器は小型化、多回路化が実現でき、かつ高温耐久性も大幅に向上することができる。
以下の表2、3に示す合金組成を有する銅合金素材から、以下の表1に示す製造方法により、表2、3に示す合金組成及び金属組織を有する銅合金条を製造した。尚、表2中、TPCはタフピッチ銅(Tough-Pitch Copper)を意味し、99.9%程度の純度を有する銅である。
表1に示される実施条件で、鋳造工程[工程1]、第1面削工程[工程2]、均質化熱処理工程[工程3]、熱間圧延工程[工程4]、第2面削工程[工程5]、中間冷間圧延工程[工程6]、時効熱処理工程[工程7]及び最終冷間圧延工程[工程8]を順次行い、銅合金条を製造した。
最終冷間圧延工程[工程8]後に、得られた各実施例、比較例における銅合金条を、いずれも0.3mmの幅にスリットし、フラットケーブル用の導体を作製した。次いで、作製した導体の4本を用いて、導体間の間隔が0.5mmのフラットケーブルを作製した。フラットケーブルは、導体を被覆する樹脂として、接着層としてアクリル系樹脂が塗布されたPET樹脂と導体とをラミネートすることにより作製した。ラミネートは、0.5MPaのプレス圧力、170℃の加熱を3分間のプレス条件下で行った。
サンプル試験片の表面付近のMg系酸化物の個数の測定は、表面の長手方向に沿って1mm、且つ表面から厚さ方向に沿って5μmの四角(1mm×5μm)の領域内で観察することにより行った。Mg系酸化物の有無は、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry)による成分分析でMgが含まれていることで特定した。具体的には、図1に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて、200〜2000の倍率により観察し、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の個数を測定した。このようなMg系酸化物は、図1中、符号1で示されるような状態で観察される。測定箇所は、上記の領域を任意に5ヶ所選定し、その平均個数を算出して、これを表面付近のMg系酸化物の個数とした。
サンプル試験片を短冊形状(15mm長×12.7mm幅)とし、形状以外についてはJIS Z2241に準拠し、試験数2(N=2)にて引張強度を測定し、その平均値を示した。
サンプル試験片を145mm長×10mm幅の形状にし、4端子法(端子間距離100m)にて、試験数2(N=2)にて導電率を測定し、平均値を示した。
IPC屈曲試験機(型番:FT-2130、上島製作所社製)を用い、室温にて、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が4.5〜7.5mmの条件下で、フラットケーブルを構成する4本の導体のうち、屈曲寿命が最も短い両端の導体のいずれかが破断するまでの耐屈曲回数を測定した。屈曲試験は試験数5(フラットケーブル5枚分)で行った。4本の導体の全てにおいて、耐屈曲回数が1000万回以上であった場合、屈曲性能が合格レベルである(「○」)と評価し、1本の導体でも、耐屈曲回数が1000万回未満であった場合を、屈曲性能は不十分である(「×」)と評価した。
Claims (5)
- Crを0.2質量%以上0.3質量%以下、Mgを0.05質量%以上0.15質量%以下含み、残部が銅及び不可避不純物からなる合金組成を有する銅合金条であって、
引張強度が620MPa以上、且つ導電率が70%IACS以上であり、
前記銅合金条の少なくとも一方の表面の、長手方向に沿って1mm且つ厚さ方向に沿って5μmの領域内において、平均直径が0.1μm以上1μm以下のMg系酸化物の数が10個以下であることを特徴とする、銅合金条。 - 前記銅合金条の厚さが、0.02mm以上0.05mm以下である、請求項1に記載の銅合金条。
- IPC屈曲試験において、ストローク長さが30mm、屈曲速度が1500回/分、曲率半径が7.5mmの条件下で、耐屈曲回数が1000万回以上である、請求項1又は2に記載の銅合金条。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の銅合金条の製造方法であって、
前記合金組成を有する銅合金素材を、99.99%〜99.9999%の純度を有する不活性ガス雰囲気下で鋳造する鋳造工程と、
鋳造によって得られた鋳塊に対して、表面の面削量が10mm以上20mm以下になるように面削を行う第1面削工程と、
前記第1面削工程後の鋳塊に対して均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理工程後に、熱間圧延を行う熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の被圧延材に対して、表面の面削量が1mm以上3mm以下になるように面削を行う第2面削工程と、
前記第2面削工程後に、所定の加工率で冷間圧延を行う中間冷間圧延工程と、
前記中間冷間圧延後に、最終熱処理を行う時効熱処理工程と、
前記時効熱処理工程後に、所定の加工率で最終冷間圧延を行う最終冷間圧延工程と、
を含む、銅合金条の製造方法。 - 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の銅合金条を用いたフラットケーブル。
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