JP2019171457A - 高速溶接用フラックス入りワイヤ及び高速アーク溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高速アーク溶接時にビード形状及び外観に優れ、スラグ巻き込みがなく、上向き姿勢の溶接でも垂れが生じない、新規な高速溶接用フラックス入りワイヤを提供する。【解決手段】外皮内にフラックスが充填されてなる高速溶接用フラックス入りワイヤであって、該高速溶接用フラックス入りワイヤの組成がワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.005〜0.2%、Si:0.01〜1.40%、Mn:1.0〜8.0%、Cr:1.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.5%、ZrO2:0.20%以下(0%を含む)、及びTiO2:1.8〜6.0%を満たし、前記フラックスのワイヤ全質量に対する充填率が3%超20%以下であり、かつ前記フラックス中に含まれるスラグ成分が、ワイヤ全質量に対する質量%で、1.8〜7.0%である高速溶接用フラックス入りワイヤ。【選択図】なし

Description

本発明は高速溶接用フラックス入りワイヤに関し、また前記高速溶接用フラックス入りワイヤを用いた高速アーク溶接方法にも関する。
炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤは、被覆アーク溶接棒と比較して高能率で溶接でき、経済性も良いことから、Cr−Mo系鋼の溶接においても使用されている。
炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤには、ソリッドワイヤとフラックス入りワイヤとがあるが、ソリッドワイヤを用いて上向き姿勢で溶接を行う場合、高速溶接を行うために溶接電流を高くすると、溶融金属が垂れることがあり、ビード形状が悪くなる。
良好なビード形状が得られるフラックス入りワイヤとして、例えば特許文献1では、ワイヤ全重量に対する重量%で、TiO:1.8〜7.5%、C:0.005〜0.2%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.0〜8.0%、Cr:1.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.5%、Nb:0.005〜0.05%及びV:0.005〜0.05%を含み、残部が鉄粉及びアーク安定剤を含めたスラグ生成剤からなり、該フラックスを充填率が10〜20%となるように金属外皮内に充填してなるCr−Mo鋼用炭酸ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。
特開平4−300092号公報
ところで、近年、溶接能率向上の観点から、高速アーク溶接を可能なフラックス入りワイヤが求められている。しかしながら、例えば特許文献1に記載のフラックス入りワイヤで、高速溶接を行う場合、溶け込み形状が小さくなったり、スラグ巻き込みしたりする場合があり、高速アーク溶接を可能とするフラックス入りワイヤが望まれている。
そこで本発明は、高速アーク溶接時においてビード形状及び外観に優れ、スラグ巻き込みがなく、上向き姿勢の溶接でも垂れが生じない、高速溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。また、当該フラックス入りワイヤを用いた高速アーク溶接方法を提供することも目的とする。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、フラックス入りワイヤの成分組成、フラックス充填率及びスラグ含有率を特定のものに限定することで、高速アーク溶接に好適に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る高速溶接用フラックス入りワイヤの一態様は、外皮内にフラックスが充填されてなる高速溶接用フラックス入りワイヤであって、該高速溶接用フラックス入りワイヤの組成がワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.005〜0.2%、Si:0.01〜1.40%、Mn:1.0〜8.0%、Cr:1.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.5%、ZrO:0.20%以下(0%を含む)、及びTiO:1.8〜6.0%を満たし、前記フラックスのワイヤ全質量に対する充填率が3%超20%以下であり、かつ前記フラックス中に含まれるスラグ成分が、ワイヤ全質量に対する質量%で、1.8〜7.0%であることを特徴とする。
本発明に係る高速溶接用フラックス入りワイヤの一態様は、前記組成がワイヤ全質量に対する質量%で、F:0.30%以下(0%を含む)、MgO:0.30%以下(0%を含む)、及びAl:0.30%以下(0%を含む)のうち少なくとも一つを満たすことを特徴とする。
本発明に係る高速溶接用フラックス入りワイヤの一態様は、前記組成がワイヤ全質量に対する質量分率で、Mg:0.1%以下(0%を含む)、Ni:0.2%以下(0%を含む)、及びV:0.05%以下(0%を含む)のうち少なくとも一つを満たすことを特徴とする。
本発明に係る高速アーク溶接方法の一態様は、前記高速溶接用フラックス入りワイヤを用い、溶接電流:210〜350A、アーク電圧:15V超35V以下、溶接速度:70〜120cm/分及びシールドガス:Ar−(0%超80%以下)COガスの条件下、溶け込み量を1.2〜2.5mm、かつ止端半径を1.0〜2.0mm以下とすることを特徴とする。
本発明に係る高速アーク溶接方法の一態様は、フランク角を120〜145°とすることを特徴とする。
本発明に係る高速アーク溶接方法の一態様は、第一被溶接対象物及び第二被溶接対象物に対し、複数の姿勢にて複数の当接部を同時にすみ肉溶接することを特徴とする。
本発明に係る高速アーク溶接方法の一態様は、前記複数の姿勢が上向き姿勢及び下向き姿勢を含むことを特徴とする。
本発明によれば、高速アーク溶接時においてビード形状及び外観に優れ、スラグ巻き込みがなく、上向き姿勢の溶接でも垂れが生じない、高速溶接用フラックス入りワイヤを提供することができる。また、当該フラックス入りワイヤを用いた高速アーク溶接方法を提供することができる。
図1は、第一被溶接対象物及び第二被対象溶接物に対して、複数の当接部をすみ肉溶接する際の模式図である。 図2は、溶接部の止端半径(ρ)を説明するための参考図である。 図3は、溶接部のフランク角(θ)を説明するための参考図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また本明細書において、数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
<高速溶接用フラックス入りワイヤ>
本実施形態に係る高速溶接用フラックス入りワイヤ(以下、単にフラックス入りワイヤ又はワイヤと称することがある。)は、外皮内にフラックスが充填されてなり、高速溶接用フラックス入りワイヤの組成がワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.005〜0.2%、Si:0.01〜1.40%、Mn:1.0〜8.0%、Cr:1.0〜4.0%、Mo:0.4〜1.5%、ZrO:0.20%以下(0%を含む)、及びTiO:1.8〜6.0%を満たし、前記フラックスのワイヤ全質量に対する充填率が3%超20%以下であり、かつ前記フラックス中に含まれるスラグ成分が、ワイヤ全質量に対する質量%で、1.8〜7.0%であることを特徴とする。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、外皮によって形成される内部空隙に対するフラックス量が少ないと、ワイヤ内でフラックスの移動現象が発生する。その場合、ワイヤの製造ラインの振動状況等によってワイヤの長手方向のフラックス含有率にバラつきが生じ、ワイヤの品質が不安定になることが懸念される。そのため、ワイヤ中のフラックスの含有率は、ワイヤ全質量に対する質量分率で3%超であり、7%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。
一方、多量のフラックスを少量の外皮で包み込むためには、肉厚の薄い外皮材を使用すればよいものの、外皮材が極度に薄い場合には、ワイヤの伸線工程で外皮材が破れ、ワイヤが破断することが懸念される。そのため、ワイヤ中のフラックスの含有率は20%以下であり、18%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
ワイヤの外皮も特に限定されるものではないが、例えば、Alloy600(UNS N06600)、Alloy625(UNS N06625)、Alloy22(UNS N06022)、Alloy276(UNS N10276)等が使用できる。
フラックス入りワイヤのワイヤ径は特に限定されないが、一般的な溶接装置との組み合わせや溶接作業性を考慮すると、直径が1.2〜1.6mmが好ましく、1.4〜1.6mmがより好ましい。
Cは溶接金属の強度及び靱性の調整の目的で添加する成分であり、ワイヤ全質量に対する質量分率(以下、含有量と称することがある。)を0.005%以上とすることにより、十分な強度及び靱性を得ることができる。C含有量は0.02%以上が好ましく、0.04%以上がより好ましい。
一方、0.2%以下とすることで、溶接金属の耐割れ性の低下を防ぎ、靱性の低下も防ぐことができる。C含有量は0.15%以下が好ましく、0.12%以下がより好ましい。
Si及びMnは共に溶接金属の脱酸及び強度・靱性の調整などの目的で添加する成分であり、ワイヤ全質量に対するSi含有量を0.01%以上、かつMn含有量を1.0%以上とすることにより十分な添加効果を得ることができる。ここで、Siはワイヤ中に含まれる全Siを意味し、Mnはワイヤ中に含まれる全Mnを意味する。
Si含有量は0.30%以上が好ましく、0.40%以上がより好ましい。またMn含有量は0.80%以上が好ましく、0.85%以上がより好ましい。
一方、過剰な添加は溶接金属の靱性が低下することなどから、Si含有量は1.40%以下であり、1.30%以下が好ましく、1.05%以下がより好ましい。またMn含有量は8.0%以下であり、2.0%以下が好ましく、1.50%以下がより好ましい。
ここで、金属Siとしては、例えば0.01%〜1.0%とすることが好ましい。また、SiO(Si酸化物のSiO換算値)としては、例えば0.40%以下(0%含む)とすることが好ましい。なお、金属Siとは、Si単体およびSi合金中に含まれるSiのことを意味する。
Cr及びMoは共に溶接金属の耐食性及び強度・靱性の調整の目的で添加する成分であり、溶接金属が被溶接物と同一成分となるように添加する。ワイヤ全質量に対するCr含有量を1.0%以上、かつMo含有量を0.4%以上とすることにより十分な強度を得ることができる。
Cr含有量は1.10%以上がより好ましい。またMo含有量は0.45%以上がより好ましい。
一方、過剰な添加は靱性の低下が大きくなることから、Cr含有量は4.0%以下であり、1.60%以下が好ましく、1.50%以下がより好ましい。またMo含有量は1.5%以下であり、0.80%以下が好ましく、0.65%以下がより好ましい。
上述したように本実施形態におけるフラックス入りワイヤは、CrおよびMoを含む、いわゆるCr−Mo系のフラックス入りワイヤである。
(スラグ成分)
本実施形態に係るワイヤにおけるスラグ成分とは、金属酸化物又は金属フッ化物として含有されている成分であり、フラックス中に含まれる。本実施形態におけるスラグ成分の添加により、ソリッドワイヤと比較して溶接作業性に優れ、ビード形状及び外観も良好となる。また、高電流域でも垂れずに上向き姿勢での溶接が可能となる。ここで、ワイヤ中に含まれるスラグ成分の量は、所定量のワイヤを溶接して形成されたスラグ量を測定し、この測定されたスラグ量を、消費されたワイヤ量で除すことでも求めることができる。
フラックス中のスラグ成分の含有率は、溶接時のスラグ生成量に直結し、良好なスラグ被包性及び耐スラグ巻込み欠陥性に影響する。溶融プール先端に存在するスラグは溶け込み及びなじみを低下させ、スラグ巻き込み発生の要因となることから、高速溶接時にはスラグを低減させることが好ましく、フラックス中のスラグ成分の含有率は、ワイヤ全質量に対する質量分率で7.0%以下であり、5.0%以下が好ましく、4.0%以下がより好ましい。一方、ビードのスラグ被包性を良くし、良好なビード形状及び外観を得るために、スラグ成分の含有率は1.8%以上とし、2.0%以上が好ましく、2.2%以上がより好ましい。
TiOは被包性が良好なスラグ形成剤の主成分及びアーク安定剤として添加され、TiO源としては、ルチール、酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム等が挙げられる。
TiOのワイヤ全質量に対する質量分率は、スラグの被包性を良くし、良好な溶接作業性やビード形状を得るために1.8%以上であり、2.0%以上が好ましく、2.2%以上がより好ましい。
一方、TiOの過剰な添加は、スラグの粘性が極端に大きくなり、剥離性の劣化やスラグ巻き込み等が生じることから、TiO含有量は6.0%以下であり、5.0%以下が好ましく、4.0%以下がより好ましい。
ZrOはスラグの融点を調整し、ビード形状を向上させる成分であり、ZrO源としてはジルコンサンド、酸化ジルコニウム粉等が挙げられる。
ZrOを含む場合の含有量は0.001%以上が好ましく、0.005%以上がより好ましい。一方、ZrOの過剰な添加は溶融金属の凝固とスラグの凝固とのタイミングが合わなくなり、スラグ巻き込みが生じる場合があることから、ZrO含有量は0.20%以下であり、0.18%以下が好ましく、0.15%以下がより好ましい。
ここで、SiOとZrOとの合計の含有量は、0.50%以下が好ましく、なじみ性をより向上するためには0.35%以下がより好ましい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、Al、MgO、アルカリ金属化合物、フッ化物を含んでもよい。
Alは適切なスラグ粘性を得てスラグの被包性を向上させるための調整を目的として必要に応じて添加してもよく、Al源としてはアルミナ粉等が挙げられる。Alの過剰な添加はスラグの粘性が高くなり過ぎ、スラグ巻込み欠陥が発生しやすくなることから、Al含有量は0.30%以下が好ましく、0.10%以下がより好ましい。
MgOはZrOと同様に、スラグの融点を調整するために有効であることから必要に応じて添加してもよく、MgO源としてはマグネサイト、マグネシアクリンカー等が挙げられる。
MgOの過剰な添加はスラグの焼き付きが発生しやすくなることから、MgOの含有量は0.30%以下が好ましく、0.10%以下がより好ましい。
アルカリ金属化合物としては、Na化合物、K化合物及びLi化合物が挙げられる。アルカリ金属化合物は、0.1%以上とすることでアークが安定し、スパッタ発生量が少なくなることから好ましい。また0.5%以下とすることで、アルカリ金属化合物の高い吸湿性に起因した、ワイヤ中の水分量増加に伴うピットやブローホールといった気孔欠陥の発生を抑制できることから好ましく、0.4%以下がより好ましい。
金属フッ化物は、例えば、NaF、KSiF、CaF等が挙げられる。これらの金属フッ化物を含有する場合には、アーク安定性の観点から、F換算値で、0.10%以上0.30%以下含有するとよい。0.25%以下であることがより好ましく、0.20%以下であることがさらに好ましい。
より具体的には、NaFはアーク安定性の向上のために添加してもよいが、過剰な添加はワイヤの吸湿を助長し、吸湿によるブローホール等の気孔欠陥が発生する。そのため、NaF含有量は0.20%以下が好ましく、0.10%以下がより好ましい。KSiFはアーク安定性の向上のために添加してもよいが、過剰な添加はビードの垂れを助長する。そのため、KSiF含有量は0.5%以下が好ましく、0.4%以下がより好ましい。
スラグ成分は、さらにFeを含んでいてもよい。Feのワイヤ全質量に対する質量分率は、0.10%以下(0%を含む)がスラグの焼き付きを抑制できることから好ましく、0.05%以下がより好ましい。
スラグ成分には上記の他に、V、Nb、CaO、希土類金属の酸化物等の不可避金属酸化物が含有され得る。ルチールやその他の鉱石中に不可避的に含有される上記不純物量が微少量であれば、ワイヤの性質に大きな影響はないが、過剰に含まれるとスラグ組成のバランスが崩れてスラグ剥離性が劣化するおそれがある。そのため、不可避金属酸化物のワイヤ全質量に対する質量分率は1.0%以下(0%を含む)が好ましい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいては、金属または合金として、Mg、Ni、Nb、V、Ti、Bなどを含んでもよい。
Mgは脱酸の目的で添加する成分であり、金属Mgを含有する場合には、Mg含有量は0.01%以上が好ましく、また、過剰な添加はビードの垂れを助長するため0.1%以下が好ましい。
Niは溶接金属のマトリックスが強化され、靱性を向上する成分である。Niを含む場合、Ni含有量は0.1%以上が好ましい。また、耐高温割れ性向上の観点から、Ni含有量は、0.2%以下が好ましい。
Nb及びVは共に強い炭化物形成炭素であり、適量の添加でビードとビードの境目付近の炭素を固定し、フェライト粒の粗大化及びフェライトバンドの発生を低く抑えることができる成分である。
Nb含有量は0.05%以下が好ましく、0.04%以下がより好ましい。またV含有量は0.05%以下が好ましく、0.04%以下がより好ましい。
Tiはアークの安定化及び溶接金属の脱酸を目的として添加可能な成分である。Ti含有量は0.3%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましい。
Bは溶接金属の靱性向上のために添加可能な成分である。B含有量は0.015%以下が好ましく、0.010%以下がより好ましい。
上記成分の他、Al、Cuなどを添加してもよい。
残部はFe及び不可避不純物である。不可避不純物としては、上記成分の他に、N、S、P、As、Sn、Sb、Co、Ca、W等が挙げられる。
<高速アーク溶接方法>
本実施形態に係る高速アーク溶接方法は、高速溶接用フラックス入りワイヤを用い、溶接電流:210〜350A、アーク電圧:15V超35V以下、溶接速度:70〜120cm/分及びシールドガス:Ar−(0%超80%以下)COガスの条件下、例えば上向きすみ肉溶接で、溶け込み量を1.2〜2.5mm、止端半径を1.0〜2.0mmとする、アーク溶接方法である。
(溶接電流)
溶接時の溶け込み深さは電流値に比例し、低電流域では溶け込みが不足する。本実施形態における溶接電流は210〜350Aであり、通常、ソリッドワイヤで使用する電流域である200Aよりも高い電流域で溶接を行うことにより、溶け込み深さが深くなる。
また高電流での溶接は溶着速度が大きくなり、従来のワイヤでは垂れが発生しやすかったのに対し、本実施形態におけるフラックス入りワイヤを用いることによって、高融点のスラグがプールを保持し、高電流域でも垂れが生じない。さらに溶着速度の増加により、70cm/分といった高速溶接も可能となる。
溶接電流は250A以上が好ましく、また、330A以下が好ましい。
(アーク電圧)
アーク電圧は、溶接電流ごとに適正値が存在し、低過ぎるとアークが不安定となって作業性が悪化し、高過ぎるとプールのなじみ及び溶け込みが低下する。本実施形態におけるアーク電圧は15V超35V以下であり、20V以上が好ましく、30V以下が好ましい。
(溶接速度)
溶接速度は速すぎるとプールのなじみが低下し、スラグの巻き込みが発生する。一方、遅すぎると過大入熱となって溶融プールの垂れが発生する。本実施形態において使用するフラックス入りワイヤは高速溶接に適しており、好適な溶接速度は70〜120cm/分であり、80cm/分以上がより好ましく、110cm/分以下がより好ましい。
(シールドガス)
シールドガスはAr−COガスを用いるが、COガスの比率が高過ぎると溶融プールの粘性が低下し、上向き姿勢での溶接において垂れが発生しやすくなることから、COガスの体積分率は80体積%以下が好ましく、20体積%以下がより好ましい。
一方、COガスの比率が低過ぎるとアークが不安定となることから、適正な作業性を維持するために、COガスの体積分率は0体積%超であり、5体積%以上がより好ましい。
(溶け込み量)
本実施形態に係るアーク溶接方法において、溶け込み量は、1.2〜2.5mmである。溶け込み量が1.2mm未満の場合は、溶け込み量が少なすぎるため、健全な溶接部を得られない。また、溶け込み量が2.5mmを超える場合、ビード形状が劣化する。したがって、溶け込む量は、1.2mm〜2.5mmとされている。
(止端半径)
本実施形態に係るアーク溶接方法において、止端半径(ρ)は、1.0〜2.0mmである。止端半径が、1.0mm未満の場合、荷重が付加された際に応力が集中し、疲労特性が劣化する。また、止端半径は、2.0mm以下であることが実際的である。したがって、止端半径は、1.0mm〜2.0mmとされている。
なお、止端半径とは図2に示したように、溶接部の止端部の曲率から円形近似した際の円の半径ρ(mm)を意味する。
(溶接姿勢)
本実施形態に係る溶接方法は、上述のワイヤを用いて、上記溶接条件とすることにより、上向き溶接でも垂れが生じることなく、ビード形状及び外観に優れ、スラグ巻き込みがない溶接金属を得ることができる。そして、本実施形態に係る溶接方法は、上向き溶接のみならず、複数の姿勢にて溶接することが可能である。これにより、例えば図1に示すように、第一被溶接対象物1及び第二被溶接対象物2のすみ肉溶接に際し、当接部4a,4bに対して上向き溶接および下向き溶接を同時に行うことができ、高能率な溶接施工を行うことが可能となる。
被溶接材である第一被溶接対象物1及び第二被溶接対象物2の大きさや形状も特に限定されないが、例えばパイプ及び板の溶接において、2箇所以上の溶接を同じワイヤ3を用いて上向き姿勢及び下向き姿勢で同時に行うことができる。
さらに、本実施形態に係る高速アーク溶接方法においては、前述の溶接方法とすることにより、フランク角を120〜145°にすることが可能である。この場合、溶接部の疲労特性がより向上する。
なお、フランク角とは図3に示したように、溶接部の止端部において、被溶接対象物と溶接金属との成す角θ(°)を意味する。
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
<実施例1−1〜1−11及び比較例1−1〜1−4>
表1に示す組成を有し、残部がFe及び不可避不純物であるフラックス入りワイヤW−1〜W−10を作製した。ワイヤ径は1.4mmである。
ワイヤのうち、W−5及びW−6はフラックスの充填率が過剰又は過少であったため、フラックス入りワイヤを製造することができなかった。それ以外の得られたワイヤを用いて、表2に記載の条件で溶接試験を行った。
溶接試験は厚さ6mm、直径50mmの軟鋼チューブ、又は厚さ6mmの軟鋼板を第一被溶接対象物とし、厚さ6mmの軟鋼板を第二被溶接対象物としたすみ肉溶接を、二箇所同時に、上向き姿勢と下向き姿勢にて行った。また、参考のために従来例として、ソリッドワイヤを用いた溶接試験も行った。
<比較例2−1〜2−7>
フラックス入りワイヤW−1を用いて表3に示す条件で溶接を行った。溶接試験は実施例1−1と同様の方法にて行った。なお、表3には、上向き溶接の結果のみを示している。
<評価方法>
(溶け込み性)
溶接における溶け込み性は、溶け込み量(mm)、フランク角(°)及び止端半径(mm)を断面マクロ観察により評価し、一般的なソリッドワイヤを用いて、溶接電流:200A、アーク電圧:25V、溶接速度:70cm/分、シールドガス:Ar−20%COガスで行った際の各結果を基準とした。なお、一般的なソリッドワイヤとは、組成がC:0.07%、Si:0.55%、Mn:1.00%、及びCr:1.30%、であり、ワイヤ径が1.2mmのソリッドワイヤである。
溶け込み性が前記基準を参酌し、溶接姿勢に関わらず、溶け込み量(溶け込み深さ)が1.5mm以上、フランク角が120°以上、止端半径が1.0mm以上であればそれぞれ良好であるとした。表2及び表3に各試験例の結果を示すが、溶け込み性が基準を下回った場合には、「×」と表記し、基準を上回った場合には、具体的な数値を記載した。
(溶接作業性)
溶接作業性はスラグ巻き込みの有無と高速溶接性の評価を行った。
スラグ巻き込みの有無は目視観察により評価した。具体的には、スラグ巻き込みによるビード揃いの不連続部の有無を判断した。
高速溶接性は、目視観察及び断面マクロ観察により評価した。
目視観察では、各種溶接欠陥の有無、ビードのなじみ、ビード表面外観及び垂れの有無についての評価を行った。
断面マクロ観察では、画像解析によりアンダーカットやオーバーラップの有無、止端形状及びビード形状についての評価を行った。
上記評価対象がいずれも良好な結果であったものを表2及び表3において「良好」とし、評価対象のうちいずれか1以上の評価結果が良好でなかった場合には、良好でなかった溶け込み性について、具体的な評価結果(数値)を記載した。



表2より、フラックス充填率が3%超15%以下であることにより、フラックス入りワイヤを製造できることが分かる。またスラグ成分やスラグ率を適切な範囲内にすることによりスラグ巻き込みの発生やビード形状の不良、溶け込み不足、なじみ低下等のない、良好な溶接作業性を達成することができる。
また、表3より、高速アーク溶接において、溶接電流が高過ぎると溶融プールの垂れが発生した。アーク電圧が高過ぎるとなじみが低下し、スラグ巻き込みの発生が見られ、一方、低すぎるアーク電圧は、アークが不安定となり、作業性が低下した。溶接速度が速すぎるとなじみが低下し、アンダーカットが発生し、一方、遅すぎる溶接速度では、溶融プールの垂れが発生した。さらにシールドガスのCO分率が高過ぎると溶融プールの垂れが発生し、CO分率が低すぎるとアークが不安定となり、作業性が低下した。
以上の結果から、本実施形態に係るフラックス入りワイヤを用いることによって、溶接速度が70cm/分以上の高速アーク溶接であっても、ビード形状及び外観に優れ、スラグ巻き込み等の溶接欠陥がない溶接部を得ることができることが分かった。また、上向き姿勢の溶接でも垂れが生じないことから、複数姿勢での同時溶接を伴う高速アーク溶接を行うことも可能となった。
1 第一被溶接対象物
2 第二被溶接対象物
3 ワイヤ
4a 当接部(下向き姿勢)
4b 当接部(上向き姿勢)

Claims (7)

  1. 外皮内にフラックスが充填されてなる高速溶接用フラックス入りワイヤであって、
    該高速溶接用フラックス入りワイヤの組成がワイヤ全質量に対する質量%で、
    C:0.005〜0.2%、
    Si:0.01〜1.40%、
    Mn:1.0〜8.0%、
    Cr:1.0〜4.0%、
    Mo:0.4〜1.5%、
    ZrO:0.20%以下(0%を含む)、及び
    TiO:1.8〜6.0%を満たし、
    前記フラックスのワイヤ全質量に対する充填率が3%超20%以下であり、かつ
    前記フラックス中に含まれるスラグ成分が、ワイヤ全質量に対する質量%で、1.8〜7.0%である高速溶接用フラックス入りワイヤ。
  2. ワイヤ全質量に対する質量%で、
    F:0.30%以下(0%を含む)、
    MgO:0.30%以下(0%を含む)、及び
    Al:0.30%以下(0%を含む)のうち少なくとも一つを満たす請求項1に記載の高速溶接用フラックス入りワイヤ。
  3. ワイヤ全質量に対する質量%で、
    Mg:0.1%以下(0%を含む)、
    Ni:0.2%以下(0%を含む)、及び
    V:0.05%以下(0%を含む)のうち少なくとも一つを満たす請求項1又は2に記載の高速溶接用フラックス入りワイヤ。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の高速溶接用フラックス入りワイヤを用い、
    溶接電流:210〜350A、アーク電圧:15V超35V以下、溶接速度:70〜120cm/分及びシールドガス:Ar−(0%超80%以下)COガスの条件下、
    溶け込み量を1.2〜2.5mm、かつ止端半径を1.0〜2.0mmとする高速アーク溶接方法。
  5. フランク角を120〜145°とする請求項4に記載の高速アーク溶接方法。
  6. 第一被溶接対象物及び第二被溶接対象物に対し、複数の姿勢にて複数の当接部を同時にすみ肉溶接する請求項4又は5に記載の高速アーク溶接方法。
  7. 前記複数の姿勢が上向き姿勢及び下向き姿勢を含む請求項6に記載の高速アーク溶接方法。
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