JP6502887B2 - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、鋼構造物等に使用される鋼を溶接するにあたって全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、溶接のまま(以下、AWという。)及び溶接後熱処理(溶接熱影響部の軟化、溶接部の靭性改善及び溶接残留応力の除去を目的に行われる熱処理:以下、PWHTという。)後の強度及び低温靭性に優れた溶接金属を得るうえで好適なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
鋼を被溶接材とするガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤとしては、例えば、ルチール系フラックス入りワイヤや塩基性系フラックスワイヤが知られている。
ルチール系フラックス入りワイヤは、溶接能率、全姿勢溶接での溶接作業性が非常に優れているので、造船、橋梁、海洋構造物、鉄骨等の広い分野で適用されている。しかし、ルチール系フラックス入りワイヤの主原料であるルチールには不純物としてNb及びVが含まれており、これらはPWHT後の溶接金属の低温靭性を劣化させるため、ルチール系フラックス入りワイヤはPWHT仕様の鋼構造物の溶接にはあまり適用されていなかった。
一方、塩基性系フラックス入りワイヤは、溶接金属の酸素量が低く、AW及びPWHT後のいずれにおいても良好な低温靭性の溶接金属が得られるが、全姿勢溶接での溶接作業性がルチール系フラックス入りワイヤに比べ劣るため、実用化が困難であった。
ルチール系フラックス入りワイヤを用いて、PWHT後の低温靭性に優れた溶接金属を得るための技術は過去に検討されている。例えば、特許文献1には、ルチールの代わりに不純物としてのNb、Vが非常に少ない酸化チタンを使用することにより、PWHT後の低温靭性に優れた溶接金属を得るという技術が開示されている。しかし、特許文献1に記載の技術では、全姿勢溶接においてのアークの安定性、ビード外観・形状、スラグ剥離性等の良好な溶接作業性が得られないという問題点があった。
また、特許文献2及び特許文献3には、全ワイヤ中のNb、Vの含有量を制限することにより、PWHT後の低温靭性に優れた溶接金属を得るという技術が開示されている。しかし、特許文献2及び特許文献3に記載の技術においても、特許文献1と同様、全姿勢溶接においてのアークの安定性、ビード外観・形状、スラグ剥離性等の良好な溶接作業性が得られないという問題点があった。
一方、特許文献4には、Vの含有量を適正化することでAW及びPWHT後の強度及び低温靭性に優れた溶接金属が得られるとともに、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下することを抑制することが可能なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの開示がある。しかし、この特許文献4の開示技術によれば、全姿勢溶接における溶接作業性は十分ではなく、−50℃の低温域での強度、低温靭性はある程度確認できているものの、−60℃のような低温域でのAW及びPWHT後の強度及び低温靭性を得ることができないという問題点があった。
特開平8−99193号公報 特開平8−10982号公報 特開平9−277087号公報 特開2012−121051号公報
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、鋼構造物等に使用される鋼を溶接するにあたって全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、AW及びPWHT後の強度及び低温靭性に優れた溶接金属が得られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明の要旨は、鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、C:0.01〜0.08%、Si:0.1〜1.0%Mn:1.5〜3.0%、Ni:0.1〜3.0%、Ti:0.01〜0.15%、B:0.002〜0.015%、Al:0.01〜0.5%を含有し、V:0.020%以下、Nb:0.015以下であり、さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3〜8%、 Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、Al酸化物のAl23換算値の合計:0.1〜1.2%、Fe酸化物のFeO換算値の合計:0.01〜0.25%、Mg:0.1〜0.8%、弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.30%、Na化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の1種または2種の合計:0.05〜0.20%を含有し、Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1%以下であり、残部が、鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする。
また、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Mo:0.02〜0.30%を更に含有することも特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにある。
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、AW及びPWHT後の強度及び低温靱性に優れた溶接金属が安定して得られる。従って、溶接能率の向上及び溶接部の品質向上を図ることが可能となる。
本発明者らは、ルチール系のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤについて、全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、AW及びPWHT後の強度及び低温靱性に非常に優れた溶接金属が得られるワイヤ成分組成について、種々検討を行った。
その結果、特にV及びNbの含有量を少なくすることによりPWHT後の低温靭性を更に向上させることができることを見出した。
また、C、Si、Mn、Ni、B、Ti、Al、MgとTi酸化物の含有量を適量とすることによって、AW及びPWHT後の強度及び低温靭性に優れた溶接金属が安定して得られることを見出した。
さらに、C、Si、Mn、Ti及びAlとTi酸化物、Al酸化物、Si酸化物、Fe酸化物の含有量を適正量とし、さらに、Zr酸化物の含有量を制限することで、アークが安定し、特に全姿勢溶接での溶接作業性が良好となることを見出した。
以下、本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分組成及びその含有率と、各成分組成の限定理由とについて説明する。なお、各成分組成の含有率は、ワイヤ全質量に対する質量%で表すこととし、その質量%を表すときには単に%と記載して表すこととする。
[鋼製外皮とフラックスの合計でC:0.01〜0.08%]
Cは、溶接時にアークの安定化に寄与する効果がある。しかし、Cが0.01%未満では、アークが不安定になる。一方、Cが0.08%超では、Cが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、AW及びPWHT後ともに溶接金属の低温靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でCは0.01〜0.08%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属粉及び合金粉等から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でSi:0.1〜1.0%]
Siは、溶接時に一部が溶接スラグとなることによりビード外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。しかし、Siが0.1%未満では、ビード外観や形状を良好にする効果が十分に得られない。一方、Siが1.0%超では、Siが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、AW及びPWHT後ともに溶接金属の低温靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でSiは0.1〜1.0%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Si、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でMn:1.5〜3.0%]
Mnは、Siと同様、溶接時に一部が溶接スラグとなることによりビード外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。また、Mnは、溶接金属に歩留まることにより、溶接金属の強度と低温靱性を高める効果がある。しかし、Mnが1.5%未満では、ビード外観や形状が不良で、AW及びPWHT後ともに溶接金属の強度及び低温靭性が低下する。一方、Mnが3.0%超では、Mnが溶接金属中に過剰に歩留まり、AW及びPWHT後ともに溶接金属の強度が過剰になることにより、かえって低温靱性が低下する。従って、Mnは1.5〜3.0%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからのFe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でNi:0.1〜3.0%]
Niは、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。しかし、Niが0.1%未満では、AW及びPWHT後ともに溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Niが3.0%超では、PWHT後の溶接金属の低温靭性が低下し、溶接金属に高温割れが発生し易くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でNiは0.1〜3.0%とする。なお、Niは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ni、Fe−Ni等の合金粉から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でTi:0.01〜0.15%]
Tiは、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、その一部がTi酸化物として溶接金属中に歩留まることにより、溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果もある。しかし、Tiが0.01%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークが不安でスパッタ発生量が多く、PWHT後の溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Tiが0.15%超では、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、AW及びPWHT後ともに低温靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でTiは0.01〜0.15%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe−Ti等の合金粉から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でB:0.002〜0.015%]
Bは、微量の添加により溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。しかし、Bが0.002%未満では、この効果が十分に得られず、AW及びPWHT後ともに溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Bが0.015%超では、溶接金属が過度に硬化することによりAW及びPWHT後ともに低温靱性が低下する。また、溶接金属に高温割れが発生し易くなる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でBは0.002〜0.015%とする。なお、Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属B、Fe−B、Mn−B等の合金粉から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でAl:0.01〜0.5%]
Alは、溶接時にAl酸化物として溶接スラグに含まれることによって、溶融スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接においては溶融メタルが垂れ落ちるのを防ぐ効果がある。しかし、Alが0.01%未満では、この効果が十分に得られず、立向上進溶接において溶融メタルが垂れ落ちる。一方、Alが0.5%を超えると、酸化物として過度に溶接金属に残留してAW及びPWHT後ともに溶接金属の低温靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でAlは0.01〜0.5%とする。なお、Alは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Al、Fe−Al、Al−Mg等の合金粉から添加される。
[鋼製外皮とフラックスの合計でV:0.020%以下]
Vは、PWHTにより溶接金属中にV炭化物やV窒化物を形成し、特にPWHT後の溶接金属の低温靱性を低下させる元素である。Vが0.020%以下であれば、溶接金属の低温靭性について許容できる範囲となる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でVは0.020%以下とする。なお、Vは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックス中のルチール、チタンスラグ、イルメナイト等のTi酸化物に微量含まれるので、鋼製外皮及び酸化物から厳選したものを用いる。
[鋼製外皮とフラックスの合計でNb:0.015%以下]
Nbは、PWHTにより溶接金属中にNb炭化物やNb窒化物を形成し、特にPWHT後の溶接金属の低温靱性を低下させる元素である。Nbが0.015%以下であれば、溶接金属の低温靭性について許容できる範囲となる。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でNbは0.015%以下とする。なお、Nbは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからのルチール、チタンスラグ及びイルメナイト等のTi酸化物に微量含まれるので、鋼製外皮及び酸化物から厳選したものを用いる。
[フラックス中のTi酸化物のTiO2換算値の合計:3〜8%]
Ti酸化物は、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、溶接時に溶接スラグとなることにより溶接ビードの形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する効果がある。また、Ti酸化物は、その一部が溶接金属中に歩留まることにより、溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果もある。また、Ti酸化物は、立向上進溶接において、溶接スラグにTi酸化物として含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークが不安定で、スパッタ発生量が多くビード外観及び形状が劣化し、PWHT後の溶接金属の低温靭性も低下する。また、立向上進溶接において溶融メタルが垂れて溶接の継続が困難になる。一方、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が8%超では、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、AW及びPWHT後ともに低温靱性が低下する。従って、フラックス中のTi酸化物のTiO2換算値の合計は3〜8%とする。なお、Ti酸化物は、フラックスからのルチール、酸化チタン、チタンスラグ、イルメナイト等から添加される。
[フラックス中のSi酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%]
Si酸化物は、溶融スラグの粘性や融点を調整してスラグ被包性を向上させる効果がある。しかし、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.1%未満では、スラグ被包性が悪くビード外観が不良となる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が1.0%超では、溶融スラグの塩基度が低下することにより、溶接金属の酸素量が増加してAW及びPWHT後ともに低温靭性が低下する。従って、フラックス中のSi酸化物のSiO2換算値の合計は0.1〜1.0%とする。なお、Si酸化物は、フラックスからの珪砂、珪酸カリ及び珪酸ソーダ等から添加される。
[フラックス中のAl酸化物のAl23換算値の合計:0.1〜1.2%]
Al酸化物は、溶接時に溶接スラグに含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Al酸化物のAl23換算値の合計が0.1%未満では、立向上進溶接で溶融メタルが垂れる。一方、Al酸化物のAl23換算値の合計が1.2%を超えると、溶接金属中にAl酸化物が過剰に残存することにより、AW及びPWHT後ともに低温靱性が低下する。従って、フラックス中のAl酸化物のAl23換算値の合計は0.1〜1.2%とする。なお、Al酸化物は、フラックスからのアルミナ等から添加される。
[フラックス中のFe酸化物のFeO換算値の合計:0.01〜0.25%]
Fe酸化物は、アークを安定させる効果がある。しかし、Fe酸化物のFeO換算値の合計が0.01%未満では、アークが不安定となる。一方、Fe酸化物のFeO換算値の合計が0.25%を超えると、溶接金属の酸素量が増加してAW及びPWHT後ともに低温靭性が低下する。従って、フラックス中のFe酸化物のFeO換算値の合計は0.01〜0.25%とする。なお、Fe酸化物は、フラックスからの酸化鉄、チタンスラグ及びイルミナイト等から添加される。
[フラックス中のMg:0.1〜0.8%]
Mgは、強脱酸剤として機能することにより溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の低温靱性を高める効果がある。しかし、Mgが0.1%未満では、この効果が十分に得られず、AW及びPWHT後ともに溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Mgが0.8%超では、溶接時にアーク中で激しく酸素と反応してスパッタやヒュームの発生量が多くなる。従って、フラックス中のMgは0.1〜0.8%とする。なお、Mgは、フラックスからの金属Mg、Al−Mg等の合金粉から添加される。
[フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.30%]
弗素化合物は、アークを安定させる効果がある。しかし、弗素化合物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られず、アークが不安定になる。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.30%を超えると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。また、立向上進溶接ではメタル垂れが発生しやすくなる。従って、フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計は0.01〜0.30%とする。なお、弗素化合物は、CaF2、NaF、LiF、MgF2、K2SiF6、Na3AlF6、AlF3等から添加でき、F換算値はそれらに含有されるF量の合計である。
[フラックス中のNa化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の1種または2種以上の合計:0.05〜0.20%]
Na化合物及びK化合物は、アーク安定剤及びスラグ形成剤として作用する。しかし、Na化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の1種または2種の合計が0.05%未満であると、アークが不安定となり、スパッタ発生量が多くなる。また、ビード形状及び外観も不良になる。一方、Na化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の1種または2種の合計が0.20%を超えると、スラグ剥離性が不良となる。また、立向上進溶接ではメタル垂れが発生しやすくなる。従って、フラックス中のNa化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の1種または2種の合計は0.05〜0.20%とする。なお、Na化合物及びとK化合物は、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム等から添加できる。
[フラックス中のZr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1%以下]
Zr酸化物は、Ti酸化物に微量含有する場合がある。しかし、Zr酸化物は、スラグ剥離性を不良にし、特にZr酸化物のZrO2換算値の合計が0.1%を超えるとスラグ剥離性が著しく不良になる。従って、フラックス中のZr酸化物のZrO2換算値の合計は0.1%以下とする。なお、Zr酸化物は、必須の成分ではなく、含有率がZrO2換算値で0%とされていてもよい。
[鋼製外皮とフラックスの合計でMo:0.02〜0.30%]
Moは、溶接金属の強度を高める効果がある。しかし、Moが0.02%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Moが0.30%超では、AW及びPWHT後ともに溶接金属の強度が高くなりすぎ、かえって溶接金属の低温靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスの合計でMoを含有させる場合、その含有量は0.02〜0.30%とする。なお、Moは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Mo、Fe−Mo等の合金粉から添加される。
本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成形し、その内部にフラックスを充填した構造である。ワイヤの種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継ぎ目の無いワイヤと、鋼製外皮の合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継ぎ目を有するワイヤとに大別できる。本発明においては、何れの断面構造のワイヤを採用してもよい。但し、鋼製外皮に継ぎ目が無いワイヤは、ワイヤ中の水分量を低減することを目的に500〜1000℃での熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、鋼製外皮に継ぎ目が無いワイヤを用いるのが好ましい。
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、Fe−Mn、Fe−Si合金等の鉄合金粉のFe分及び不可避不純物である。また、フラックス充填率は特に制限はしないが、生産性の観点から、ワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
鋼製外皮にJIS G 3141 SPCCを使用して、表1及び表2に示す各種成分組成の鋼製外皮に継目のないワイヤ径1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。
Figure 0006502887
Figure 0006502887
表1に示すフラックス入りワイヤを用いて、板厚12mmの鋼板(JIS G 3106 SM490A)をT継手の試験体として、表3に示す溶接作業性評価の溶接条件で立向上進溶接による溶接作業性評価を行った。また、JIS Z 3111に準じて、板厚20mmの鋼板(JIS G 3126 SLA325A)を試験体として、表3に示す溶着金属試験の溶接条件で溶着金属試験を行った。
Figure 0006502887
立向上進溶接による溶接作業性の評価は、アークの安定性、スパッタ発生状態、ヒューム発生状態、ビード形状、ビード外観及び溶融メタル垂れ状況について調査した。
溶着金属試験は、AWの溶着金属と、PWHT後の溶着金属とを評価対象とした。PWHTは、620℃、4時間の条件で行った。溶着金属の板厚方向中央部から引張試験(A1号)、衝撃試験(Vノッチ試験片)を採取して各試験に供した。機械的性質の評価は、AW及びPWHT後の溶着金属について、−60℃におけるシャルピー衝撃試験を行い、各々繰り返し3本の吸収エネルギーの平均が50J以上、AWの引張強さ(以下、TSAという。)とPWHT後の引張強さ(以下、TSPという。)がいずれも490〜650MPaのものを合格とした。これらの結果を表4にまとめて示す。
Figure 0006502887
表1、表2及び表4のワイヤ記号A01〜17は本発明例、ワイヤ記号B01〜19は比較例である。本発明例であるワイヤ記号A01〜17は、各成分の組成が本発明において規定した範囲内であるので、溶接作業性が良好であるとともに、溶着金属のTSA、TSP、AW及びPWHT後の吸収エネルギーも良好な値が得られるなど極めて満足な結果であった。
比較例中ワイヤ記号B01は、Cが多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、Alが少ないで、溶融メタルに垂れが生じた。
ワイヤ記号B02は、Cが少ないので、アークが不安定であった。また、Niが少ないので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B03は、Siが多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、スラグ被包性が悪くビード外観が不良であった。
ワイヤ記号B04は、Siが少ないので、ビード外観及び形状が不良であった。また、Bが少ないので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B05は、Mnが多いので、溶着金属のTSA及びTSPが高くなり、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、溶融メタルに垂れが生じた。
ワイヤ記号B06は、Mnが少ないので、ビード外観及び形状が不良であり、溶着金属のTSA及びTSPが低値で、かつAW及びPWHT後の吸収エネルギーも低値であった。また、Moが少ないので、溶着金属のTSA及びTSPの向上効果が得られなかった。
ワイヤ記号B07は、Niが多いので、高温割れが発生した。また、溶着金属のPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。さらに、Mgが多いので、スパッタ及びヒュームの発生量が多かった。
ワイヤ記号B08は、Tiが多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、弗素化合物のF換算値の合計が多いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。さらに、溶融メタルに垂れが生じた。
ワイヤ記号B09は、Tiが少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、溶着金属のPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。さらに、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
ワイヤ記号B10は、Bが多いので、高温割れが発生した。また、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。さらに、弗素化合物のF換算値の合計が少ないので、アークが不安定であった。
ワイヤ記号B11は、Alが多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、Na化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の合計が多いので、メタル垂れが発生し、スラグ剥離性も不良であった。
ワイヤ記号B12は、Vが多いので、溶着金属のPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B13は、Nbが多いので、溶着金属のPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B14は、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、Na化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、ビード外観及び形状が不良であり、スパッタ発生量も多かった。
ワイヤ記号B15は、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、スパッタ発生量が多く、ビード外観・形状も不良であり、溶融メタル垂れも生じた。また、溶着金属のPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B16は、Si酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B17は、Al酸化物のAl23換算値の合計が多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B18は、Fe酸化物のFeO換算値の合計が多いので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B19は、Mgが少ないので、溶着金属のAW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号B20は、Fe酸化物のFeO換算値の合計が少ないので、アークが不安定であった。また、Moが多いので、溶着金属のTSA及びTSPが高くなり、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。

Claims (2)

  1. 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
    ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、
    C:0.01〜0.08%、
    Si:0.1〜1.0%
    Mn:1.5〜3.0%、
    Ni:0.1〜3.0%、
    Ti:0.01〜0.15%
    B:0.002〜0.015%、
    Al:0.01〜0.5%を含有し、
    V:0.020%以下、
    Nb:0.015以下であり、
    さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、
    Ti酸化物のTiO2換算値の合計:3〜8%、
    Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、
    Al酸化物のAl23換算値の合計:0.1〜1.2%、
    Fe酸化物のFeO換算値の合計:0.01〜0.25%
    Mg:0.1〜0.8%、
    弗素化合物のF換算値の合計:0.01〜0.30%、
    Na化合物のNa2O換算値及びK化合物のK2O換算値の1種または2種の合計:0.05〜0.20%を含有し、
    Zr酸化物のZrO2換算値の合計:0.1%以下であり、
    残部が、鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  2. ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスの合計で、Mo:0.02〜0.30%を更に含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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