JP2013158777A - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Abstract
【課題】全姿勢溶接での溶接作業性が良好で、溶接金属の強度及び低温靭性に優れた可能なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜2.5%、Ni:0.1〜3.0%、B:0.002〜0.015%、Mg:0.1〜0.8%、V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%、Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%、Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.3%を含有し、前記Al酸化物の平均粒径20〜200μm、見掛け密度:1.5〜2.5g/cm3であることを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜2.5%、Ni:0.1〜3.0%、B:0.002〜0.015%、Mg:0.1〜0.8%、V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%、Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%、Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.3%を含有し、前記Al酸化物の平均粒径20〜200μm、見掛け密度:1.5〜2.5g/cm3であることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は、鋼構造物等に使用される鋼を溶接するにあたって全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、強度及び低温靭性に優れた溶接金属を得るうえで好適なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
鋼を被溶接材とするガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤとしては、例えば、ルチール系フラックス入りワイヤや塩基性系フラックスワイヤが知られている。このルチール系フラックス入りワイヤは、溶接能率、全姿勢溶接での溶接作業性において非常に優れた能力を発揮するため、造船、橋梁、海洋構造物、鉄骨等の広い分野で適用されている。
しかし、ルチール系フラックス入りワイヤの主原料であるルチールには不純物としてNb及びVが含まれており、これらは溶接後熱処理(溶接熱影響部の軟化、溶接部の靭性改善及び溶接残留応力の除去を目的に行われる熱処理:以下、PWHTという。)後の溶接金属の低温靭性を劣化させる。このため、ルチール系フラックス入りワイヤはPWHT仕様の鋼構造物の溶接にはあまり好適に適用されていなかった。
一方、塩基性系フラックス入りワイヤは、溶接金属の酸素量が低く、溶接のまま(以下、AWという。)及びPWHT後のいずれにおいても良好な低温靭性の溶接金属が得られるが、全姿勢溶接での溶接作業性がルチール系フラックス入りワイヤに比べ劣り、実用化が困難であった。
そこで、従来より、ルチール系フラックス入りワイヤを用いた場合でも、PWHT後の低温靭性に優れた溶接金属を得るための技術が検討されている。例えば、特開平8−99193号公報(特許文献1)には、ルチールの代わりに不純物としてのNb、Vが非常に少ない酸化チタンを使用することにより、PWHT後の低温靭性に優れた溶接金属を得るという技術が開示されている。しかし、同技術では、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下してしまうという問題があった。
また、特開平8−10982号公報(特許文献2)及び特開平9−277087号公報(特許文献3)には、全ワイヤ中のNb、Vの含有量を制限することにより、PWHT後の低温靭性に優れた溶接金属を得るという技術が開示されている。しかし、同技術でも、特許文献1と同様、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下してしまうという問題があった。
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鋼構造物等に使用される鋼を溶接するにあたって全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、AW及びPWHT後の強度及び低温靭性に優れた溶接金属が得られるとともに、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下してしまうのを抑制することが可能なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することにある。
本発明の要旨は、
(1) 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜2.5%、Ni:0.1〜3.0%、B:0.002〜0.015%、Mg:0.1〜0.8%、V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%、Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%、Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.30%を含有し、P:0.02%以下、Nb:0.015%以下で、残部は鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分、アーク安定剤及び不可避不純物からなり、前記Al酸化物は、平均粒径:20〜200μm、見掛け密度:1.5〜2.5g/mm3であることを特徴とする。但し、[Mn%]はワイヤ全質量に対する質量%でのMnの含有量を示す。
(1) 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜2.5%、Ni:0.1〜3.0%、B:0.002〜0.015%、Mg:0.1〜0.8%、V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%、Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%、Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.30%を含有し、P:0.02%以下、Nb:0.015%以下で、残部は鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分、アーク安定剤及び不可避不純物からなり、前記Al酸化物は、平均粒径:20〜200μm、見掛け密度:1.5〜2.5g/mm3であることを特徴とする。但し、[Mn%]はワイヤ全質量に対する質量%でのMnの含有量を示す。
(2) ワイヤ全質量に対する質量%で、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計:0.1〜0.8%、Al:0.01〜0.6%の1種又は2種を含有することを特徴とする(1)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
(3) ワイヤ全質量に対する質量%で、Mo:0.02〜0.30%を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、にある。
本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、AW及びPWHT後の強度及び低温靱性に優れた溶接金属が安定して得られるとともに、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下してしまうのを抑制することが可能となる。また、これによって、溶接部の品質向上を図ることが可能となる。
本発明者らは、ルチール系のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤについて、全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、溶接のまま(以下、AWという。)及び溶接後熱処理(溶接熱影響部の軟化、溶接部の靭性改善及び溶接残留応力の除去を目的に行われる熱処理:以下、PWHTという。)後の強度及び低温靱性に非常に優れた溶接金属を得られるとともに、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下してしまうのを抑制することが可能となるワイヤ成分組成について、種々検討を行った。
その結果、特にVの含有量を適正量とすることによりPWHT後の溶接金属の強度がAWのものより大きく低下するのを抑制することが可能となり、また、Al酸化物原料の平均粒径及び見掛け密度と添加量の適正化を図ることにより、溶接金属中のAl酸化物の歩留りを抑制し、結果的に溶接金属中の酸素量を低減することで低温靭性が向上することを見出した。さらに、合金成分としてのSi、Mn、Ni、B、Ti並びにNbと、脱酸剤としてのMgと、酸化物としてのTi酸化物、Al酸化物並びにSi酸化物と、アーク安定剤としての金属弗化物とを適正量とすることによって、全姿勢溶接での溶接作業性を良好とし、AW及びPWHT後の低温靭性に優れた溶接金属が安定して得られることを見出した。
即ち、本発明を適用したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜2.5%、Ni:0.1〜3.0%、B:0.002〜0.015%、Mg:0.1〜0.8%、V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%、Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%、Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.30%を含有し、P:0.02%以下、Nb:0.015%以下で、残部が鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分、アーク安定剤及び不可避不純物からなるものである。ちなみに[Mn%]はワイヤ全質量に対する質量%でのMnの含有量を示す。また本発明を適用したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、上述した組成の限定に加えて、Al酸化物の平均粒径を20〜200μm、見掛け密度を1.5〜2.5g/mm3としている。
以下、本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分と、その組成の限定理由とについて説明する。まず、本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの基本的な成分から説明する。なお、各成分の組成は、ワイヤ全質量に対する質量%で表すこととし、その質量%を表すときには単に%と記載して表すこととする。
[C:0.02〜0.08%]
Cは、溶接時にアークの安定化に寄与する効果がある。しかし、Cの含有量が0.02%未満では、この効果が十分に得られない。また、Cの含有量が0.08%超では、Cが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Cの含有量は、0.02〜0.08%とする。
Cは、溶接時にアークの安定化に寄与する効果がある。しかし、Cの含有量が0.02%未満では、この効果が十分に得られない。また、Cの含有量が0.08%超では、Cが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Cの含有量は、0.02〜0.08%とする。
なお、Cは、鋼製外皮や、フラックス中の金属粉及び合金粉等から添加される。
[Si:0.1〜1.0%]
Siは、溶接時に一部が溶接スラグとなることにより溶接ビードの外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。しかし、Siの含有量が0.1%未満では、溶接ビードの外観や形状を良好にする効果が十分に得られない。また、Siの含有量が1.0%超では、Siが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Siの含有量は、0.1〜1.0%とする。
Siは、溶接時に一部が溶接スラグとなることにより溶接ビードの外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。しかし、Siの含有量が0.1%未満では、溶接ビードの外観や形状を良好にする効果が十分に得られない。また、Siの含有量が1.0%超では、Siが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Siの含有量は、0.1〜1.0%とする。
なお、Siは、鋼製外皮や、フラックス中の金属Siの他、Fe−Si、Fe−Si−MnのようなSi合金形態等から添加される。
[Mn:1.0〜2.5%]
Mnは、Siと同様、溶接時に一部が溶接スラグとなることにより溶接ビードの外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。また、Mnは、溶接金属に歩留まることにより、溶接金属の強度と低温靱性を高める効果がある。しかし、Mnの含有量が1.0%未満では、これらの効果が十分に得られない。また、Mnの含有量が2.5%超では、Mnが溶接金属中に過剰に歩留まり、溶接金属の強度が過剰になることにより、かえって溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Mnの含有量は、1.0〜2.5%とする。
Mnは、Siと同様、溶接時に一部が溶接スラグとなることにより溶接ビードの外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。また、Mnは、溶接金属に歩留まることにより、溶接金属の強度と低温靱性を高める効果がある。しかし、Mnの含有量が1.0%未満では、これらの効果が十分に得られない。また、Mnの含有量が2.5%超では、Mnが溶接金属中に過剰に歩留まり、溶接金属の強度が過剰になることにより、かえって溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Mnの含有量は、1.0〜2.5%とする。
なお、Mnは、鋼製外皮や、フラックス中のFe−Mn、Fe−Si−MnのようなMn合金形態等から添加される。
[Ni:0.1〜3.0%]
Niは、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。しかし、Niの含有量が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、Niの含有量が3.0%超では、PWHT後の低温靭性の低下を招くうえ、溶接金属に高温割れが発生し易くなることにより外観、形状の良好な溶接ビードが得にくくなり、溶接作業性の低下を招いてしまう。このため、Niの含有量は、0.1〜3.0%とする。
Niは、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。しかし、Niの含有量が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、Niの含有量が3.0%超では、PWHT後の低温靭性の低下を招くうえ、溶接金属に高温割れが発生し易くなることにより外観、形状の良好な溶接ビードが得にくくなり、溶接作業性の低下を招いてしまう。このため、Niの含有量は、0.1〜3.0%とする。
なお、Niは、フラックス中の金属Niの他、Fe−NiのようなNi合金形態等から添加される。
[B:0.002〜0.015%]
Bは、微量の添加により溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。しかし、Bの含有量が0.002%未満では、この効果が十分に得られない。また、Bの含有量が0.015%超では、溶接金属が過度に硬化することにより低温靱性の低下を招くとともに、溶接金属に高温割れが発生し易くなることにより外観、形状の良好な溶接ビードが得にくくなり、溶接作業性の低下を招いてしまう。このため、Bの含有量は、0.002〜0.015%とする。
Bは、微量の添加により溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果がある。しかし、Bの含有量が0.002%未満では、この効果が十分に得られない。また、Bの含有量が0.015%超では、溶接金属が過度に硬化することにより低温靱性の低下を招くとともに、溶接金属に高温割れが発生し易くなることにより外観、形状の良好な溶接ビードが得にくくなり、溶接作業性の低下を招いてしまう。このため、Bの含有量は、0.002〜0.015%とする。
なお、Bは、フラックス中の金属Bの他、Fe−B、Mn−BのようなB合金形態等から添加される。
[Mg:0.1〜0.8%]
Mgは、強脱酸剤として作用することにより溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の低温靱性を高める効果がある。しかし、Mgの含有量が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、Mgの含有量0.8%超では、溶接時にアーク中で激しく酸素と反応してスパッタやヒュームの発生量が多くなることにより、溶接作業性の低下を招いてしまう。このため、Mgの含有量は、0.1〜0.8%とする。
Mgは、強脱酸剤として作用することにより溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の低温靱性を高める効果がある。しかし、Mgの含有量が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、Mgの含有量0.8%超では、溶接時にアーク中で激しく酸素と反応してスパッタやヒュームの発生量が多くなることにより、溶接作業性の低下を招いてしまう。このため、Mgの含有量は、0.1〜0.8%とする。
なお、Mgは、フラックス中の金属Mgの他、Al−MgのようなMg合金形態等から添加される。
[V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%]
Vは、その含有量を制限することにより、PWHT後の溶接金属の低温靭性向上を図ることが可能となるが、その含有量が低すぎると、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより低減してしまう。ここで、Vの含有量が0.021%以上であれば、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより低減するのを十分に抑制することが可能となる。また、PWHT後の溶接金属の低温靭性低下は、VとMnの複合添加によって助長されるため、Vの含有量がMnとの関係式(0.055−0.01×[Mn%])%から得られる値を超えないようにする必要がある。このため、Vの含有量は、0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%とする。但し、[Mn%]はワイヤ全質量に対する質量%でのMnの含有量を示す。
Vは、その含有量を制限することにより、PWHT後の溶接金属の低温靭性向上を図ることが可能となるが、その含有量が低すぎると、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより低減してしまう。ここで、Vの含有量が0.021%以上であれば、PWHT後の溶接金属の強度がAWのものより低減するのを十分に抑制することが可能となる。また、PWHT後の溶接金属の低温靭性低下は、VとMnの複合添加によって助長されるため、Vの含有量がMnとの関係式(0.055−0.01×[Mn%])%から得られる値を超えないようにする必要がある。このため、Vの含有量は、0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%とする。但し、[Mn%]はワイヤ全質量に対する質量%でのMnの含有量を示す。
なお、Vは、フラックス中のルチール、チタンスラグ、イルメナイト等のTi酸化物から主に添加されるが、その含有量を調整するためにFe−VのようなV合金形態等から添加されていてもよい。
[Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%]
Ti酸化物及び金属Tiは、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、溶接時に溶接スラグとなることにより溶接ビードの形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する効果がある。また、Ti酸化物及び金属Tiは、一部がTi酸化物として溶接金属中に歩留まることにより、溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果もある。また、Ti酸化物及び金属Tiは、立向上進溶接において、溶接スラグにTi酸化物として含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Ti酸化物及び金属Tiにおけるスラグ形成剤の主成分であるTiO2換算値の合計が3.0%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークの不安定化、スパッタの増大による溶接ビードの外観、形状の劣化、溶接金属の低温靭性の劣化を招く。また、このTiO2換算値の合計が3.0%未満では、立向上進溶接において溶融メタルが垂れ、溶接の継続が困難になる。一方、このTiO2換算値の合計が8.0%超では、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性の低下を招く。このため、Ti酸化物及び金属Tiの含有量は、TiO2換算値の合計で3.0〜8.0%とする。
Ti酸化物及び金属Tiは、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、溶接時に溶接スラグとなることにより溶接ビードの形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する効果がある。また、Ti酸化物及び金属Tiは、一部がTi酸化物として溶接金属中に歩留まることにより、溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性を向上させる効果もある。また、Ti酸化物及び金属Tiは、立向上進溶接において、溶接スラグにTi酸化物として含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Ti酸化物及び金属Tiにおけるスラグ形成剤の主成分であるTiO2換算値の合計が3.0%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークの不安定化、スパッタの増大による溶接ビードの外観、形状の劣化、溶接金属の低温靭性の劣化を招く。また、このTiO2換算値の合計が3.0%未満では、立向上進溶接において溶融メタルが垂れ、溶接の継続が困難になる。一方、このTiO2換算値の合計が8.0%超では、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性の低下を招く。このため、Ti酸化物及び金属Tiの含有量は、TiO2換算値の合計で3.0〜8.0%とする。
なお、Ti酸化物は、フラックス中のルチール、酸化チタン、チタンスラグ、イルメナイト等から添加される。また、金属Tiは、鋼製外皮や、フラックス中の金属Ti、Fe−TiのようなTi合金等から添加される。
[Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%]
Al酸化物は、溶接時に溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Al酸化物中のAl2O3換算値が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、このAl2O3換算値が1.2%を超えると、溶接金属中にAl酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性の低下を招く。このため、Al酸化物の含有量は、Al2O3換算値で0.1〜1.2%とする。
Al酸化物は、溶接時に溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Al酸化物中のAl2O3換算値が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、このAl2O3換算値が1.2%を超えると、溶接金属中にAl酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性の低下を招く。このため、Al酸化物の含有量は、Al2O3換算値で0.1〜1.2%とする。
[Al酸化物の平均粒径:20μm〜200μm、見掛け密度:1.5〜2.5g/cm3]
Al酸化物の平均粒径及び見掛け密度は、溶接金属中のAl酸化物の歩留りを抑制し、結果的に溶接金属中の酸素量を低減することで低温靭性が向上する。Al酸化物の平均粒径が20μm未満、又は見掛け密度が2.5g/cm3を超えると、Al酸化物の浮力が小さいため、Al酸化物が溶融プールから浮上分離できず、溶着金属中に残留してしまう。Al酸化物の平均粒径が200μmを超える、又は見掛け密度が1.5g未満では、ワイヤ製造時のワイヤ伸線において断線が発生しやすくなる。また当該条件下では、アークが不安定でスパッタが多く発生し、さらに立向上進溶接における溶融メタル垂れが発生しやすくなる。このため、Al酸化物の平均粒径は20μm〜200μmであり、かつ見掛け密度は1.5〜2.5g/cm3とする。
Al酸化物の平均粒径及び見掛け密度は、溶接金属中のAl酸化物の歩留りを抑制し、結果的に溶接金属中の酸素量を低減することで低温靭性が向上する。Al酸化物の平均粒径が20μm未満、又は見掛け密度が2.5g/cm3を超えると、Al酸化物の浮力が小さいため、Al酸化物が溶融プールから浮上分離できず、溶着金属中に残留してしまう。Al酸化物の平均粒径が200μmを超える、又は見掛け密度が1.5g未満では、ワイヤ製造時のワイヤ伸線において断線が発生しやすくなる。また当該条件下では、アークが不安定でスパッタが多く発生し、さらに立向上進溶接における溶融メタル垂れが発生しやすくなる。このため、Al酸化物の平均粒径は20μm〜200μmであり、かつ見掛け密度は1.5〜2.5g/cm3とする。
なお、Al酸化物は、フラックス中のアルミナ等から添加される。平均粒径の測定は、JIS Z 2510「金属粉―乾式ふるい分けによる粒度試験方法」により得られた、各粒度のふるい分級物の質量百分率を、粒度の小さいふるい分級物の質量百分率から積算して同質量百分率が50%になったときの粒度とした。見掛け密度の測定は、JIS Z 2504「金属粉の見掛け密度測定法」に準拠して実施した。
[Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%]
Si酸化物は、溶融スラグの粘性や融点を調整してスラグ被包性を向上させる効果がある。しかし、Si酸化物中におけるこのスラグ被包性に寄与するSiO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、SiO2換算値の合計が1.0%超では、溶融スラグの塩基度が低下することにより、溶接金属の酸素量が増加して低温靭性の低下を招く。このため、Si酸化物の含有量は、SiO2換算値の合計で0.1〜1.0%とする。
Si酸化物は、溶融スラグの粘性や融点を調整してスラグ被包性を向上させる効果がある。しかし、Si酸化物中におけるこのスラグ被包性に寄与するSiO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、SiO2換算値の合計が1.0%超では、溶融スラグの塩基度が低下することにより、溶接金属の酸素量が増加して低温靭性の低下を招く。このため、Si酸化物の含有量は、SiO2換算値の合計で0.1〜1.0%とする。
なお、Si酸化物は、フラックス中の珪砂、ジルコンサンド及び珪酸ソーダ等から添加される。
[金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.30%]
金属弗化物は、アークの指向性を高めて安定した溶融状態とする効果がある。しかし、金属弗化物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られない。また、金属弗化物のF換算値の合計が0.30%を超えて添加すると、アークが不安定になり、スパッタが多く発生する。さらに当該条件下では、立向上進溶接における溶融メタル垂れが発生しやすくなる。このため、金属弗化物のF換算値の合計は0.01〜0.30%とする。
金属弗化物は、アークの指向性を高めて安定した溶融状態とする効果がある。しかし、金属弗化物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られない。また、金属弗化物のF換算値の合計が0.30%を超えて添加すると、アークが不安定になり、スパッタが多く発生する。さらに当該条件下では、立向上進溶接における溶融メタル垂れが発生しやすくなる。このため、金属弗化物のF換算値の合計は0.01〜0.30%とする。
なお、金属弗化物には、CaF2、NaF、KF、LiF、MgF2、K2SiF6、AlF3等があり、F換算値はそれらに含有されるF量の合計である。
[P:0.02%以下]
Pは、溶接金属の低温靱性を低下させる元素である。しかし、Pは、その含有量が0.02%以下であれば、溶接金属の低温靭性について許容できる範囲となる。
Pは、溶接金属の低温靱性を低下させる元素である。しかし、Pは、その含有量が0.02%以下であれば、溶接金属の低温靭性について許容できる範囲となる。
[Nb:0.015%以下]
Nbは、PWHTにより溶接金属中にNb炭化物やNb窒化物を形成し、溶接金属の低温靱性を低下させる元素である。しかし、Nbが0.015%を超えて添加すると、溶接金属の強度が高くなりすぎて却って低温靭性が低下してしまう。即ち、Nbは、その含有量が0.015%以下であれば、溶接金属の低温靭性について許容できる範囲となるため、本発明では、Nbの含有量をかかる範囲に限定している。
Nbは、PWHTにより溶接金属中にNb炭化物やNb窒化物を形成し、溶接金属の低温靱性を低下させる元素である。しかし、Nbが0.015%を超えて添加すると、溶接金属の強度が高くなりすぎて却って低温靭性が低下してしまう。即ち、Nbは、その含有量が0.015%以下であれば、溶接金属の低温靭性について許容できる範囲となるため、本発明では、Nbの含有量をかかる範囲に限定している。
なお、Nbは、フラックス中のルチール、チタンスラグ及びイルメナイト等のTi酸化物から主に添加されるので、これらの酸化物から各種成分について本発明において規定した範囲内のものが得られるように厳選したものを用いる。
以上が、本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの基本的な成分についての説明であるが、本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤでは、以下に説明するように、必要に応じて、Zr酸化物及び金属Zr、Al、Moを含有していてもよい。
即ち、本発明を適用したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、更にワイヤ全質量に対する質量%で、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計:0.1〜0.8%、Al:0.01〜0.6%の1種又は2種を含有するようにしてもよいし、またワイヤ全質量に対する質量%で、Mo:0.02〜0.30%を含有するようにしてもよい。
[Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計:0.1〜0.8%]
Zr酸化物及び金属Zrは、溶接時に溶接スラグにZr酸化物として含まれることによって溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、このZrO2換算値の合計が0.8%超では、溶接スラグの剥離性の低下を招く。このため、Zr酸化物及び金属Zrを含有させる場合、その含有量は、ZrO2換算値の合計で0.1〜0.8%とする。
Zr酸化物及び金属Zrは、溶接時に溶接スラグにZr酸化物として含まれることによって溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。また、このZrO2換算値の合計が0.8%超では、溶接スラグの剥離性の低下を招く。このため、Zr酸化物及び金属Zrを含有させる場合、その含有量は、ZrO2換算値の合計で0.1〜0.8%とする。
なお、Zr酸化物は、フラックス中のジルコンサンド及び酸化ジルコニウム等から添加される。また、金属Zrは、鋼製外皮や、フラックス中の金属Zrの他、Fe−ZrのようなZr合金形態等から添加される。
[Al:0.01〜0.6%]
Alは、溶接時に溶接スラグにAl酸化物として溶接スラグに含まれることなによって溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れ落ちるのを防ぐ効果がある。しかし、Alが0.01%未満では、この効果が十分に得られない。また、Alが0.6%を超えると、Alは、酸化物として過度に溶接金属に残留すると溶接金属の靭性が低下する。このため、Alを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.6%とする。
Alは、溶接時に溶接スラグにAl酸化物として溶接スラグに含まれることなによって溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れ落ちるのを防ぐ効果がある。しかし、Alが0.01%未満では、この効果が十分に得られない。また、Alが0.6%を超えると、Alは、酸化物として過度に溶接金属に残留すると溶接金属の靭性が低下する。このため、Alを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.6%とする。
なお、Alは、鋼製外皮やフラックス中の金属Al、Fe−Al、Al−MgのようなAl合金等から添加される。
[Mo:0.02〜0.30%]
Moは、溶接金属の強度を高める効果がある。しかし、Moの含有量が0.02%未満では、この効果が十分に得られない。また、Moの含有量が0.30%超では、溶接金属の強度が高くなりすぎ、かえって溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Moを含有させる場合、その含有量は、0.02〜0.30%とする。
Moは、溶接金属の強度を高める効果がある。しかし、Moの含有量が0.02%未満では、この効果が十分に得られない。また、Moの含有量が0.30%超では、溶接金属の強度が高くなりすぎ、かえって溶接金属の低温靱性の低下を招く。このため、Moを含有させる場合、その含有量は、0.02〜0.30%とする。
なお、Moは、フラックス中の金属Moの他、Fe−MoのようなMo合金等から添加される。
ちなみに、上述した各成分の内、Zr酸化物及び金属Zr、Al、Moについては、必ずしも上述した成分の範囲に含まなくとも、本発明の所期の効果を奏する。従って、Zr酸化物及び金属Zr、Al、Moが上述した成分の範囲から逸脱したものであっても、本発明例として取り扱うものとする。
なお、本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成形し、その内部にフラックスを充填した構造である。ワイヤの種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継ぎ目の無いワイヤと、鋼製外皮の合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継ぎ目を有するワイヤとに大別できる。本発明においては、何れの断面構造のワイヤを採用してもよい。但し、鋼製外皮に継ぎ目が無いワイヤは、ワイヤ中の水分量を低減することを目的に500〜1000℃での熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、鋼製外皮に継ぎ目が無いワイヤを用いるのが好ましい。
本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、Fe−Mn、Fe−Si合金等の鉄合金粉のFe分、アーク安定剤及び不可避不純物である。アーク安定剤としては、アルカリ金属酸化物のNa2O、K2O、Li2O等が挙げられる。また、フラックス充填率は特に制限はしないが、生産性の観点から、ワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
次に、本発明を適用したガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの実施例について詳細に説明する。
まず、JIS G 3141に記載のSPCCを鋼製外皮として使用して、表1に示す各種成分組成のフラックス入りワイヤを試作した。ワイヤ径は1.2mmとした。
なお、表1において、ワイヤの組成が本発明において規定した範囲外である成分については、下線を付すこととした。
表1に示すフラックス入りワイヤを用いて、板厚12mmの鋼板(JIS G 3106 SM490A)をT字すみ肉溶接の試験体として、表2に示す溶接作業性評価の溶接条件で立向上進溶接による溶接作業性評価を行った。
また、JIS Z 3111に準じて、板厚20mmの鋼板(JIS G 3126 SLA325A)を試験体として、表2に示す溶着金属試験の溶接条件で溶着金属試験を行った。
立向上進溶接による溶接作業性の評価は、半自動MAG溶接をしたときのアークの安定性、スパッタ発生状態、ヒューム発生状態、ビード形状、ビード外観及び溶融メタル垂れ状況について調査した。
溶着金属試験では、AWの溶着金属と、PWHT後の溶着金属とを評価対象とした。PWHTは、620℃、4時間の条件で行った。溶着金属試験では、溶着金属の板厚方向中央部から引張試験、衝撃試験(JIS Z 3111)のためのサンプルを採取して各試験に供した。溶着金属試験での機械的性質の評価は、AW及びPWHT後の溶着金属について、−60℃における吸収エネルギー(vE−60)が50J以上、AWの引張強さ(以下、TSAという。)とPWHT後の引張強さ(以下、TSPという。)がいずれも500MPa以上、更にTSAとTSPの差(ΔTS=TSA−TSP:以下、ΔTSという。)が−30〜30MPaのものを合格とした。これらの結果を表3にまとめて示す。
表3において、機械的性質が上述した範囲外であるものについては、下線を付すこととした。
表1及び表3のワイヤ記号1〜16は本発明例、ワイヤ記号17〜33は比較例である。本発明例であるワイヤ記号1〜16は、各成分の組成が本発明において規定した範囲内であるので、溶接作業性が良好であるとともに、TSA、TSP、ΔTS、AW及びPWHT後の吸収エネルギーも良好な値が得られるなど極めて満足な結果であった。なお、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値及びAlの1種又は2種が少ないワイヤ記号2、4、7、8、11及び13は、立向上進溶接において若干メタル垂れが生じた。ちなみに、表1において、ワイヤ成分のうち、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値及びAlについては、必ずしも上述した成分の範囲に含まなくても、若干メタル垂れが生じるのみで本発明の所期の効果を奏する。従って、ZrO2換算値及びAlが上述した成分の範囲から逸脱するものであっても、本発明例に含めている。
比較例中、ワイヤ記号17は、本発明において規定した範囲よりCが少ないので、アークが不安定であった。また、本発明において規定した範囲よりAlが多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号18は、本発明において規定した範囲よりCが多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりMgが多いので、スパッタ及びヒュームの発生量が多かった。
ワイヤ記号19は、本発明において規定した範囲よりSiが少ないので、溶接ビードの外観及び形状が不良であった。また、本発明において規定した範囲よりAl酸化物のAl2O3換算値の合計が多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号20は、本発明において規定した範囲よりSiが多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計及びAlの1種又は2種が少ないので、若干メタルに垂れが生じた。
ワイヤ記号21は、本発明において規定した範囲よりMnが少ないので、溶接ビードの外観及び形状が不良であるとともに、TSA及びTSPが低いうえ、AW及びPWHT後の吸収エネルギーも低値であった。また、本発明において規定した範囲よりAl酸化物の平均粒径が大きいので、ワイヤ製造時に断線が多発し、溶接時にはアークが不安定でスッパタが多く発生し、メタル垂れも生じた。
ワイヤ記号22は、本発明において規定した範囲よりMnが多いので、TSA及びTSPが高くなり、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計及びAlの1種又は2種が少ないので、若干メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号23は、本発明において規定した範囲よりNiが少ないので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計及びAlの1種又は2種が少ないので、若干メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号24は、本発明において規定した範囲よりNi、Bが多いので、クレータに割れが生じたうえ、PWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
ワイヤ記号25は、本発明において規定した範囲よりBが少ないので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりAl酸化物のAl2O3換算値の合計が少ないので、メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号26は、本発明において規定した範囲よりBが多いので、クレータに割れが生じたうえ、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりSi酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、スラグ被包性が不良であった。
ワイヤ記号27は、本発明において規定した範囲よりMgが少ないので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲より金属弗化物のF換算値の合計が少ないので、アークが不安定であった。
ワイヤ記号28は、本発明において規定した範囲よりVが少ないので、TSAよりTSPが低くなり過ぎ、ΔTSが高値となった。また、本発明において規定した範囲よりSi酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。さらに、本発明において規定した範囲よりAl酸化物の見掛け密度が低いので、ワイヤ製造時に断線が多発し、溶接時のアークが不安定で、スッパタが多く発生し、メタル垂れも生じた。
ワイヤ記号29は、本発明において規定した範囲よりVの量がMnとの関係式(0.07−0.02×[Mn%])を超えているので、PWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計及びAlの1種または2種が少ないので、若干メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号30は、本発明において規定した範囲よりTi酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計が少ないので、アークが不安定であるとともに、スパッタが多く溶接ビードも形状不良で、更にはメタル垂れも生じた。また、本発明において規定した範囲よりNbが多いので、PWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号31は、本発明において規定した範囲よりAl酸化物の平均粒径が小さいので、Al酸化物の溶融プールからの浮上分離が不十分であり、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、金属弗化物のF換算値の合計が多いので、アークが不安定でスパッタが多く発生し、メタル垂れも生じた。
ワイヤ記号32は、本発明において規定した範囲よりTi酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計が多いので、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計及びAlの1種または2種が少ないので、若干メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号33は、本発明において規定した範囲よりAl酸化物見掛け密度が高いので、Al酸化物の溶融プールからの浮上分離が不十分であり、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。また、本発明において規定した範囲よりZr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計及びAlの1種または2種が少ないので、若干メタル垂れが生じた。
次に、本発明の効果を実施例2により具体的に説明する。実施例2においては、実施例1と異なる条件についてのみ説明する。実施例2では、表4に示す各種成分組成のフラックス入りワイヤを試作した。
表4に示すフラックス入りワイヤを用いて、実施例1と同じ条件での立向上進溶接による溶接作業性評価と、溶着金属試験とを行った。
溶着金属試験での機械的性質の評価は、AW及びPWHT後の溶着金属について、−60℃における吸収エネルギーが50J以上、TSAとTSPがいずれも570MPa以上、ΔTSが−30〜30MPaのものを合格とした。これらの結果を表5にまとめて示す。
なお、表4において、ワイヤの組成が本発明において規定した範囲外である成分については、下線を付すこととした。また、表5において、機械的性質が上述した範囲外であるものについては、下線を付すこととした。
表4及び表5のワイヤ記号34〜36は本発明例、ワイヤ記号37及び38は比較例である。ちなみに、表4において、ワイヤ成分のうち、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計、Alについては必ずしも上述した成分の範囲に含まなくとも、本発明の所期の効果を奏する。従って、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計、Alが上述した成分の範囲から逸脱するものであっても、本発明例に含めている。本発明例であるワイヤ記号34〜36は、各成分の組成が本発明において規定した範囲内であるので、溶接作業性が良好で、TSA、TSP、ΔTS、AW及びPWHT後の吸収エネルギーも良好な値が得られるなど極めて満足な結果であった。
ワイヤ記号37は、本発明において規定した範囲よりMoが少ないので、TSA及びTSPが低値であった。
ワイヤ記号38は、本発明において規定した範囲よりMoが多いので、TSA及びTSPが高くなり、AW及びPWHT後の吸収エネルギーが低値であった。
Claims (3)
- 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.02〜0.08%、
Si:0.1〜1.0%、
Mn:1.0〜2.5%、
Ni:0.1〜3.0%、
B:0.002〜0.015%、
Mg:0.1〜0.8%、
V:0.021〜(0.055−0.01×[Mn%])%、
Ti酸化物及び金属TiのTiO2換算値の合計:3.0〜8.0%、
Al酸化物のAl2O3換算値の合計:0.1〜1.2%、
Si酸化物のSiO2換算値の合計:0.1〜1.0%、
金属弗化物のF換算値の合計:0.01〜0.30%を含有し、
P:0.02%以下、
Nb:0.015%以下で、
残部が鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分、アーク安定剤及び不可避不純物からなり、前記Al酸化物は、平均粒径:20〜200μm、見掛け密度:1.5〜2.5g/mm3であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
但し、[Mn%]はワイヤ全質量に対する質量%でのMnの含有量を示す。 - ワイヤ全質量に対する質量%で、Zr酸化物及び金属ZrのZrO2換算値の合計:0.1〜0.8%、Al:0.01〜0.6%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- ワイヤ全質量に対する質量%で、Mo:0.02〜0.30%を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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