JP6033755B2 - Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents

Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ Download PDF

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Description

本発明は、鋼構造物等に使用される鋼を溶接するにあたって全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、かつ耐低温割れ性、低温靭性及び破壊靱性(以下、CTODという。)等の特性に優れた溶接金属を得る上で好適なAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
鋼を被溶接材とするガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤとしては、例えば、ルチール系フラックス入りワイヤや塩基性系フラックスワイヤが知られている。
ルチール系フラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接は、溶接能率、全姿勢溶接での溶接作業性において非常に優れた能力を発揮するため、造船、橋梁、海洋構造物、鉄骨等の広い分野で適用されている。
しかし、ルチール系フラックス入りワイヤは、TiO2をはじめとする金属酸化物主体のフラックスが鋼製外皮中に充填されているために、溶接金属中の酸素量が多く、低温靭性が得にくい。
一方、塩基性系フラックス入りワイヤは、溶接金属中の酸素量が低く、低温靭性及びCTOD特性に優れる溶接金属が得られるが、全姿勢溶接での溶接作業性がルチール系フラックス入りワイヤに比べて劣り、実用化が困難である。
また、これらフラックス入りワイヤは、フラックス原料に含有される水分やワイヤ保管時の吸湿により、拡散性水素量がソリッドワイヤに比べ高くなる。このため、溶接金属の低温割れが懸念され、板厚の厚い鋼板の溶接時には100℃程度の予熱をする必要があり、作業能率を低下させる原因となっている。低温用鋼のルチール系フラックス入りワイヤについては、これまで種々の開発が進められている。
例えば、特許文献1には、溶接中にスラグ成分に変わる合金成分を添加して、溶接作業性に作用するスラグ量を維持しながら、溶接金属の酸素量を低減して低温靭性に優れる溶接金属を得る技術が開示されている。しかし、引用文献1に記載の技術では、シールドガスがCO2であるので溶接金属の酸素量が多くなってしまい、十分な低温靭性及びCTOD値が得られず、耐高温割れ性は確保されているものの耐低温割れ性については考慮されていない。
また、特許文献2にも、充填フラックスの主たる酸素源であるTiO2 、SiO2 添加量に対し、Ca、Al等の脱酸剤の添加量を適切に保つことで、低温靭性に優れる溶接金属を得る技術が開示されている。しかし、溶接金属の酸素量を低減するために強脱酸剤として添加されているCaは、溶接時にアークを不安定にして多量のスパッタを発生させて溶接作業性が不良となる。また、この特許文献2の開示技術では、耐低温割れ性については考慮されていない。
特許文献3には、鋼製外皮成分を規制し充填フラックスにCu、Ni、Ti、Bを添加して溶接金属の耐海水腐食性を大幅に向上させ、かつ良好な低温靭性及びCTOD特性を得る技術が開示されている。しかし、特許文献3の開示技術では、金属弗化物が多く添加されているので溶接時にアークが不安定になり、多量のスパッタが発生するため、良好な溶接作業性が得られない。また特許文献3の開示技術では、耐低温割れ性については考慮されていない。
さらに、特許文献4には、ワイヤ中のNb、V及びPの量を制限して、溶接のまま及び溶接後熱処理のいずれにおいても低温靭性に優れた溶接金属を得るための技術が開示されている。しかし、引用文献4に記載の技術においても、全姿勢溶接時の作業性及びCTOD値は十分ではないという問題があった。
特開2009−61474号公報 特開平6−238483号公報 特開平4−224094号公報 特開平9−277087号公報
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、鋼構造物等に使用される鋼を溶接するにあたって全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、かつ耐低温割れ性、低温靭性及びCTOD特性に優れる溶接金属を得ることができるAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
本発明者らは、シールドガスとしてAr−CO2混合を用いたルチール系のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤについて、全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、−60℃における低温靭性及び−30℃におけるCTOD値が良好で、耐低温割れ性に優れた溶接金属を得るべく、種々検討を行った。
その結果、TiO2を主成分とした金属酸化物及び金属弗化物からなるスラグ成分と最適な合金成分及び脱酸剤を含む化学成分とすることによって、全姿勢における溶接作業性、低温靭性及びCTOD値が良好な溶接金属が得られ、さらに、ワイヤ中の全水素量をワイヤ全質量に対する質量比で20ppm以下にすることにより、溶接金属の耐低温割れ性を改善できることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は、
(1)鋼製外皮にフラックスを充填してなるAr−CO2混合ガスシールドアーク溶 接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフ ラックスとの合計で、C:0.03〜0.08%、Si:0.2〜0.6%、Mn: 1.0〜2.5%、Cu:0.1〜0.5%、Ni:1.6〜3.5%、Ti:0. 01〜0.2%、B:0.002〜0.015%、さらに、ワイヤ全質量に対する質 量%で、フラックス中に、Ti酸化物:TiO2換算値の合計で3〜8%、Al酸化 物:Al23換算値の合計で0.1〜0.9%、Si酸化物:SiO2換算値の合 計で0.1〜1%、Zr酸化物:ZrO2換算値の合計で0.01〜0.8%、Mg :0.1〜0.8%、Na及びK化合物:Na2O換算値とK2O換算値との合計で 0.05〜0.2%、弗素化合物:F換算値の合計で0.01〜0.3%を含有し、 残部が鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなり、ワイヤ 中の全水素量が、ワイヤ全質量に対する質量比で20ppm以下であることを特徴と するAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
(2)ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスとの合計で、Al:0 .3%以下、N:0.008%以下、V0.03%以下、Nb:0.03%以下で、 かつ、[V]+2×[Nb]:0.07%以下、の何れか1以上を更に含有すること を特徴とする請求項1に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラック ス入りワイヤ。
但し、[V]、[Nb]は、V、Nbのそれぞれのワイヤ全質量%に対する質量%で、
鋼製外皮とフラックスとの合計を示す。
(3)ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、Bi及びBi酸化物:Bi換算値で0.003〜0.01%を更に含有することを特徴とする(1)または(2)に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
(4)成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接することで鋼製外皮に継目を無くしたことを特徴とする(1)乃至(3)の何れかに記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにある。
本発明を適用したAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、全姿勢溶接での溶接作業性が良好であり、また、−60℃における低温靭性及び−30℃におけるCTOD値が良好で、耐低温割れ性が優れた溶接金属が得られるので、溶接能率及び溶接部の品質の向上を図ることが可能である。
本発明の実施例に用いた継手試験の開先形状を示す図である。
以下、本発明を適用したAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの成分と、その組成の限定理由とについて説明する。なお、各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する質量%で表すこととし、その質量%を表すときには単に%と記載して表すこととする。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でC:0.03〜0.08%]
Cは、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに溶接金属の強度向上の効果がある。しかし、Cが0.03%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Cが0.08%超では、Cが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、溶接金属の強度が高くなり低温靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスとの合計でCは0.03〜0.08%とする。なお、Cは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属粉及び合金粉等から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でSi:0.2〜0.6%]
Siは、溶接時に一部が溶接スラグとなることにより溶接ビードの外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。しかし、Siが0.2%未満では、溶接ビードの外観や形状を良好にする効果が十分に得られない。一方、Siが0.6%超では、Siが溶接金属中に過剰に歩留まることにより、溶接金属の低温靱性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスとの合計でSiは0.2〜0.6%とする。なお、Siは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Si、Fe−Si、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でMn:1.0〜2.5%]
Mnは、Siと同様、溶接時に一部が溶接スラグとなることにより溶接ビードの外観や形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する。また、Mnは、溶接金属に歩留まることにより、溶接金属の強度と低温靱性及びCTOD値を高める効果がある。しかし、Mnが1.0%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、Mnが2.5%超では、Mnが溶接金属中に過剰に歩留まり、溶接金属の強度が過剰になることにより、かえって溶接金属の低温靱性及びCTOD値が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスとの合計でMnは1.0〜2.5%とする。なお、Mnは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスから金属Mn、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等の合金粉末から添加できる。
〔鋼製外皮とフラックスとの合計でCu:0.1〜0.5%〕
Cuは、溶接金属の組織を微細化し、低温靭性及び強度を高める効果がある。しかし、Cuが0.1%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、Cuが0.5%超では、溶接金属の強度が過剰になり低温靭性が低下する。従って、鋼製外皮とフラックスとの合計でCuは0.1〜0.5%とする。なお、Cuは、鋼製外皮及び鋼製外皮表面に施したCuめっき分の他、フラックスから金属Cu、Cu−Zr、Fe−Si−Cu等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でNi:1.6〜3.5%]
Niは、溶接金属の低温靱性及びCTOD値を向上させる効果がある。しかし、Niが1.6%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Niが3.5%超では、溶接金属に高温割れが発生し易くなる。従って、鋼製外皮とフラックスとの合計でNiは1.6〜3.5%とする。なお、Niは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ni、Fe−Ni等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でTi:0.01〜0.2%]
Tiは、溶接金属の組織を微細化して低温靭性及びCTOD値を向上させる効果がある。しかし、Tiが0.01%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Tiが0.2%超では、靭性を阻害する上部ベイナイト組織を生成し、靭性及びCTOD値が低くなる。従って、鋼製外皮とフラックスとの合計でTiは0.01〜0.2%とする。なお、Tiは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Ti、Fe−Ti等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でB:0.002〜0.015%]
Bは、微量の添加により溶接金属のミクロ組織を微細化し、溶接金属の低温靱性及びCTOD値を向上させる効果がある。しかし、Bが0.002%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Bが0.015%超では、溶接金属が過度に硬化することにより低温靱性及びCTOD値が低下するとともに、溶接金属に高温割れが発生し易くなる。従って、Bは0.002〜0.015%とする。なお、Bは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属B、Fe−B、Fe−Mn−B等合金粉末及び硼砂から添加できる。
[フラックス中に含有するTi酸化物:TiO2換算値の合計で3〜8%]
Ti酸化物は、溶接時にアークの安定化に寄与するとともに、溶接ビードの形状を良好にし、溶接作業性の向上に寄与する効果がある。また、Ti酸化物は、立向上進溶接において、溶接スラグにTi酸化物として含まれることによって溶融スラグの粘性や融点を調整し、溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が3%未満では、これらの効果が十分に得られず、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、溶接ビード形状が劣化する。また、立向上進溶接において溶融メタルが垂れやすくなる。一方、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が8%超では、アークが安定してスパッタ発生量も少ないが、溶接金属にTi酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性が低下する。従って、Ti酸化物のTiO2換算値の合計は3〜8%とする。なお、Ti酸化物は、フラックスからのルチール、酸化チタン、チタンスラグ、イルメナイト等から添加される。
[フラックス中に含有するAl酸化物:Al23換算値の合計で0.1〜0.9%]
Al酸化物は、溶接時に溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Al酸化物のAl23換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Al酸化物のAl23換算値の合計が0.9%を超えると、溶接金属中にAl酸化物が過剰に残存することにより、低温靱性が低下する。従って、Al酸化物のAl23換算値の合計は0.1〜0.9%とする。なお、Al酸化物は、フラックス中からアルミナ等から添加できる。
[フラックス中に含有するSi酸化物:SiO2換算値の合計で0.1〜1%]
Si酸化物は、溶融スラグの粘性や融点を調整してスラグ被包性を向上させる効果がある。しかし、Si酸化物のSiO2換算値の合計が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が1%超では、溶融スラグの塩基度が低下することにより、溶接金属の酸素量が増加して低温靭性が低下する。従って、Si酸化物のSiO2換算値の合計は0.1〜1%とする。なお、Si酸化物は、フラックスから珪砂、ジルコンサンド、珪酸ソーダ等から添加できる。
[フラックス中に含有するZr酸化物:ZrO2換算値の合計で0.01〜0.8%]
Zr酸化物は、溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れるのを防ぐ効果がある。しかし、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が0.8%超では、スラグ剥離性が悪くなる。従って、Zr酸化物のZrO2換算値の合計は0.01〜0.8%とする。なお、Zr酸化物は、フラックスからジルコンサンド、酸化ジルコニウム等から添加できる。
[フラックス中に含有するMg:0.1〜0.8%]
Mgは、強脱酸剤として機能することにより溶接金属中の酸素を低減し、溶接金属の低温靱性及びCTOD値を高める効果がある。しかし、Mgが0.1%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Mgが0.8%超では、溶接時にアーク中で激しく酸素と反応してスパッタやヒュームの発生量が多くなる。従って、Mgは0.1〜0.8%とする。なお、Mgは、フラックスから金属Mg、Al−Mg等の合金粉末から添加できる。
[フラックス中に含有するNa及びK化合物:Na2O換算値とK2O換算値との合計で0.05〜0.2%]
Na及びK化合物は、アーク安定剤及びスラグ形成剤としてとして作用する。Na及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.05%未満であると、アークが不安定となりスパッタ発生量が多くなる。また、ビード外観も不良になる。一方、Na及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が0.2%を超えると、スラグ剥離性が不良となる。また、立向上進溶接ではメタルが垂れやすくなる。従って、Na及びK化合物のNa2O換算値とK2O換算値の合計は0.05〜0.2%とする。なお、Na及びK化合物は、カリ長石、珪酸ソーダ及び珪酸カリからなる水ガラスの固質成分、弗化ソーダ、珪弗化カリウム等の粉末から添加できる。
[フラックス中に含有する弗素化合物:F換算値の合計で0.01〜0.3%]
弗素化合物は、アークを安定させる効果がある。しかし、弗素化合物のF換算値の合計が0.01%未満では、この効果が十分に得られない。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.3%を超えると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が多くなる。さらに、立向上進溶接では溶融メタル垂れが発生しやすくなる。従って、弗素化合物のF換算値の合計は0.01〜0.3%とする。なお、弗素化合物は、CaF2、NaF、KF、LiF、MgF2、K2SiF6、AlF3等から添加でき、F換算値はそれらに含有されるF量の合計である。
[ワイヤ中の全水素量:ワイヤ全質量に対する質量比で20ppm以下]
ワイヤの水素は、溶接金属の拡散性水素源となるので、可能な限り低減する必要がある。ワイヤ全質量に対する質量比でワイヤの全水素量が20ppmを超えると、拡散性水素量(JIS Z 3118)が4ml/100gを超えるので、多層盛溶接をした場合に、低温割れ感受性が高まる。従って、ワイヤ中の全水素量は、ワイヤ全質量に対する質量比で20ppm以下とする。なお、ワイヤ中の全水素量は、不活性ガス熱伝導度法などにより測定することができる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でAl:0.3%以下]
Alは、溶接時に溶接スラグにAl酸化物として溶接スラグに含まれることによって溶接スラグの粘性や融点を調整し、特に立向上進溶接における溶融メタルが垂れ落ちるのを防ぐ効果がある。しかし、Alが0.3%を超えると、Alは、酸化物として過度に溶接金属に残留して溶接金属の靭性が低下する。従って、Alは0.3%以下とする。なお、Alは、鋼製外皮に含まれる成分の他、フラックスからの金属Al、Fe−Al、Al−Mg等の合金粉末から添加できる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でN:0.008%以下]
Nは、微量の添加で介在物の組成を核生成促進に効果的なTiNの生成により、溶接金属の凝固組織が微細になり、耐高温割れ性が改善される。しかし、Nが0.008%を超えると、溶接部へのNの溶解度が小さい軟鋼または高張力鋼からなる鋼板を溶接する場合、溶接部の溶解度を超えるため、溶接金属中にブローホールが発生する。またNが0.008%を超えると、却って靭性が低下する。従って、Nは0.008%以下とする。なお、N源は、鋼製外皮に含まれる成分の他、脱酸剤や合金粉に金属窒化物として含まれる。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でV:0.03%以下]
Vは、微細な窒炭化物を析出し、溶接金属の強度を向上させる。しかし、Vが0.03%を超えると、強度が過多となり靭性が低下する。従って、Vは0.03%以下とする。
[鋼製外皮とフラックスとの合計でNb:0.03%以下]
Nbは、微細な窒炭化物を析出し、溶接金属の強度を向上させる。しかし、Nbが0.03%を超えると、強度が過多となり靭性が低下する。従って、Nbは0.03%以下とする。
[ [V]+2×[Nb]:0.07%以下]
[V]、[Nb]は、V、Nbのそれぞれのワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスとの合計を示す。VおよびNbは、ともに微細な窒炭化物を析出し、溶接金属の強度を向上させるが、[V]+2×[Nb]が0.07%を超えると、強度が過多となり靭性が低下する。従って、[V]+2×[Nb]は0.07%以下とする。
[フラックス中に含有するBi及びBi酸化物:Bi換算値で0.003〜0.01%]
Biは、多層盛溶接において溶接スラグの溶接金属からの剥離を促進させて、スラグ剥離性を良好にする。Bi及びBi酸化物に含まれるBi換算値が0.003%未満であると、その効果が不十分である。一方、Bi及びBi酸化物に含まれるBi換算値が0.01%を超えると、溶接金属に割れが生じる場合があり、また靭性が低下する。従って、Bi及びBi酸化物に含まれるBi換算値は0.003〜0.01%とする。
[成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接することで鋼製外皮に継目を無くす]
本発明のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮をパイプ状に成形し、その内部にフラックスを充填した構造である。ワイヤの種類としては、成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接して得られる鋼製外皮に継目の無いワイヤと、鋼製外皮の合わせ目の溶接を行わないままとした鋼製外皮に継目を有するワイヤとに大別できる。本発明においては、何れの断面構造のワイヤを採用することができるが、鋼製外皮に継目が無いワイヤは、ワイヤ中の全水素量を低減することを目的とした熱処理が可能であり、また製造後のフラックスの吸湿が無いため、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性の向上を図ることができるので、より好ましい。
本発明のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの残部は、鋼製外皮のFe、成分調整のために添加する鉄粉、Fe−Mn、Fe−Si合金等の鉄合金粉のFe分及び不可避不純物である。また、フラックス充填率は特に制限はしないが、生産性の観点から、ワイヤ全質量に対して8〜20%とするのが好ましい。
溶接時のシールドガスは、溶接金属の酸素量を低減するためにAr−5〜25%CO2の混合ガスとする。
以下、上述した構成からなる本発明を適用したAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの実施例について詳細に説明する。
JIS G 3141に規定されるSPCCを鋼製外皮として使用して、鋼製外皮を成形する工程でU型に成形した後、鋼製外皮の合わせ目を溶接した継目が無いワイヤと、溶接しない継目の有るワイヤとを造管、伸線して表1〜表4に示す各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。ワイヤ径は1.2mmとした。
Figure 0006033755
Figure 0006033755
Figure 0006033755
Figure 0006033755
試作したワイヤは、株式会社堀場製作所製の水素分析装置:EMGA−621を用いて全水素量を測定した後、JIS Z G3218 SHY685に規定される鋼板を用いて立向上進すみ肉溶接による溶接作業性の評価、溶着金属試験として機械特性評価及び溶接割れ試験を実施した。さらに、一部の試作ワイヤを用いて図1に示すK形開先で立向上進溶接による継手溶接を行いCTOD試験を実施した。これらの溶接条件を表5に示す。
Figure 0006033755
立向上進溶接による溶接作業性の評価は、半自動MAG溶接をしたときのアークの安定性、スパッタ発生状態、ヒューム発生状態、ビード形状、ビード外観、溶融メタル垂れ状況及び高温割れの有無について調査した。
溶着金属試験は、JIS Z 3111に準じて溶接し、溶着金属の板厚方向中央部から引張試験片(A1号)及び衝撃試験片(Vノッチ試験片)を採取して、機械試験を実施した。靭性の評価は、−60℃におけるシャルピー衝撃試験により行い、各々繰返し3本の吸収エネルギーの平均が60J以上を良好とした。引張試験の評価は、引張強さが610MPa以上のものを良好とした。
溶接割れ試験は、U型溶接割れ試験方法(JIS Z 3157)に準拠し、試験体の予熱温度を75℃で実施し、溶接後58時間経過した試験体について、表面割れ及び断面割れ(5断面)の発生の有無を浸透探傷試験(JIS Z2343)により調査した。
継手試験は、図1に示す開先の裏面を溶接後、表面鋼板表面から44mm深さまで開先底部を半径6mm、開先角度45°の裏はつり加工をして表面側を溶接した。溶接継手試験によるCTOD値の評価は、BS(英国規格)5762に準じてCTOD試験片を採取し、試験温度―30℃で繰返し5本の試験を行いCTOD値の最低が0.5mm以上を良好とした。これらの結果を表6にまとめて示す。
Figure 0006033755
表1、表2及び表6のワイヤ記号1〜15は本発明例、表3、表4及び表6のワイヤ記号16〜36は比較例である。本発明例であるワイヤ記号1〜15は、各成分の組成が本発明において規定した範囲内であるので、溶接作業性が良好であるとともに、U型割れ試験において割れが無く、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーも良好な値が得られるなど極めて満足な結果であった。なお、Bi及びBi酸化物に含まれるBi換算値を含まないワイヤ記号1、10、14及びワイヤ記号15は、若干スラグ剥離性が不良であった。また、CTOD試験を実施したワイヤ記号1、3、5、6、10及びワイヤ記号15は、何れも良好なCTOD値が得られた。
比較例中ワイヤ記号16は、Cが少ないので、アークが不安定で、溶着金属の引張強さが低かった。また、Alが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号17は、Cが多いので、引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。また、弗素化合物のF換算値が多いので、アークが不安定でスパッタの発生量が多く、メタル垂れも生じた。
ワイヤ記号18は、Siが少ないので、溶接ビードの外観及び形状が不良であった。また、弗素化合物のF換算値が少ないので、アークが不安定であった。さらに、Nbが多いので、溶着金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号19は、Siが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号20は、Mnが少ないので、溶接ビードの外観及び形状が不良であるとともに、溶着金属の引張強さが低く吸収エネルギーも低値であった。
ワイヤ記号21は、Mnが多いので、溶着金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。また、溶接継手試験のCTOD値が低値であった。さらに、Na及びK化合物のNa2O換算値とK2O換算値の合計が多いので、スラグ剥離性が不良で、メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号22は、Cuが少ないので、溶着金属の引張強さが低く吸収エネルギーも低値であった。また、Na及びK化合物のNa2O換算値とK2O換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、ビード外観も不良であった。
ワイヤ記号23は、Cuが多いので、溶着金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。また、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
ワイヤ記号24は、Niが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。また、溶接継手試験のCTOD値が低値であった。さらに、Zr酸化物のZrO2換算値の合計が少ないので、メタル垂れが生じた。
ワイヤ記号25は、Niが多いので、溶着金属試験でクレータ部に高温割れが生じた。また。Vが多いので、溶着金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号26は、Tiが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。また、溶接継手試験のCTOD値が低値であった。さらに、Si酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、スラグ被包性が悪くビード外観及び形状が不良であった。
ワイヤ記号27は、Tiが多いので、溶着金属試験でクレータ部に高温割れが生じた。また、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。さらに、溶接継手試験のCTOD値が低値であった。
ワイヤ記号28は、Bが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。また、溶接継手試験のCTOD値が低値であった。
ワイヤ記号29は、Bが多いので、溶着金属試験でクレータ部に高温割れが生じ、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。また、溶接継手試験のCTOD値が低値であった。
ワイヤ記号30は、Mgが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低値で、溶接継手試験のCTOD値も低値であった。また、鋼製外皮に継目を有しワイヤの全水素量が多いので、U型割れ試験において溶接部に割れが生じた。さらに、Bi及びBi酸化物に含まれるBi換算値が少ないので、スラグ剥離性の改善効果が得られなかった。
ワイヤ記号31は、Mgが多いので、スパッタ及びヒュームの発生量が多かった。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号32は、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が少ないので、アークが不安定でスパッタ発生量が多く、溶融メタルが垂れて溶接ビード形状が不良であった。また、[V]+2×[Nb]が多いので、溶着金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号33は、鋼製外皮に継目を有しワイヤの全水素量が多いので、U型割れ試験において溶接部に割れが生じた。また、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が多いので溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号34は、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、溶融メタルが垂れた。また、Bi及びBi酸化物に含まれるBi換算値の合計が多いので、溶着金属試験でクレータ部に高温割れが生じ、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号35は、鋼製外皮に継目を有しワイヤの全水素量が多いので、U型割れ試験において溶接部に割れが生じた。また、Al酸化物のAl23換算値の合計が多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
ワイヤ記号36は、ワイヤの全水素量が多いので、U型割れ試験において溶接部に割れが生じた。また、Nが多いので、溶着試験でブローロールが発生し、溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。

Claims (4)

  1. 鋼製外皮にフラックスを充填してなるAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
    ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスとの合計で、
    C:0.03〜0.08%、
    Si:0.2〜0.6%、
    Mn:1.0〜2.5%、
    Cu:0.1〜0.5%、
    Ni:1.6〜3.5%、
    Ti:0.01〜0.2%、
    B:0.002〜0.015%、
    さらに、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、
    Ti酸化物:TiO2換算値の合計で3〜8%、
    Al酸化物:Al23換算値の合計で0.1〜0.9%、
    Si酸化物:SiO2換算値の合計で0.1〜1%、
    Zr酸化物:ZrO2換算値の合計で0.01〜0.8%、
    Mg:0.1〜0.8%、
    Na及びK化合物:Na2O換算値とK2O換算値との合計で0.05〜0.2%、
    弗素化合物:F換算値の合計で0.01〜0.3%を含有し、
    残部が鋼製外皮のFe、鉄粉、鉄合金粉のFe分及び不可避不純物からなり、
    ワイヤ中の全水素量が、ワイヤ全質量に対する質量比で20ppm以下であることを 特徴とするAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  2. ワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスとの合計で、
    Al:0.3%以下、
    N:0.008%以下、
    V:0.03%以下、
    Nb:0.03%以下で、
    かつ、[V]+2×[Nb]:0.07%以下、
    の何れか1以上を更に含有することを特徴とする請求項1に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    但し、[V]、[Nb]は、V、Nbのそれぞれのワイヤ全質量に対する質量%で、鋼製外皮とフラックスとの合計を示す。
  3. ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に、
    Bi及びBi酸化物:Bi換算値で0.003〜0.01%を更に含有することを特徴とする請求項1または2に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  4. 成形した鋼製外皮に合わせ目を溶接することで鋼製外皮に継目を無くしたことを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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