次に、図面を参照しながら本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示の方法により製造されるステータ1を含む回転電機を示す概略構成図であり、図2は、回転電機Mを示す平面図である。これらの図面に示す回転電機Mは、例えば電気自動車やハイブリッド車両の走行駆動源あるいは発電機として用いられる三相交流電動機である。図示するように、回転電機Mは、ステータ1と、エアギャップを介してステータ1内に回転自在に配置されるロータ10とを含む
ステータ1は、ステータコア2および複数のステータコイル3u,3v,3wを含む。ステータコア2は、例えばプレス加工により円環状に形成された電磁鋼板2p(図2参照)を複数積層することにより形成され、全体として円環状を呈する。また、ステータコア2は、環状の外周部(ヨーク)から周方向に間隔をおいて径方向内側に突出する複数のティース部2tと、それぞれ互いに隣り合うティース部2tの間に形成された複数のスロット2s(何れも図2参照)とを含む。複数のスロット2sは、それぞれステータコア2の径方向に延在すると共に一定の間隔をおいて周方向に並び、各スロット2s内には、図示しないインシュレータ(絶縁紙)が配置される。なお、ステータコア2は、例えば強磁性粉体を加圧成形すると共に焼結させることより一体に形成されてもよい。
ステータコイル3u,3v,3wは、図3に示すように、シングルスター結線(1Y結線)により結線される。本実施形態において、U相のステータコイル3uは、第1コイルU1および第2コイルU2を含む。同様に、V相のステータコイル3vは、第1コイルV1および第2コイルV2を含み、W相のステータコイル3wは、第1コイルW1および第2コイルW2を含む。また、各第1コイルU1,V1,W1は、それぞれ引出線Lu,LvまたはLwを含み、各第2コイルU2,V2,W2は、それぞれ中性線Nを含む。
各ステータコイル3u,3v,3wは、ステータコア2の複数のスロット2sに差し込まれる複数のセグメントコイル4を電気的に接合することにより形成される。セグメントコイル4は、例えばエナメル樹脂等からなる絶縁被膜が表面に成膜された平角線(導電体)を略U字状に曲げ加工することにより形成され、それぞれ絶縁被膜が除去された先端部Tを有する一対の脚部40(何れも図1参照)を有する。各セグメントコイル4の一対の脚部40は、それぞれステータコア2の互いに異なるスロット2sに挿通され、各脚部40のステータコア2の一端面(図1における上端面)から突出した部分には、図示しない倒し加工装置を用いた倒し加工が施される。倒し加工により、各セグメントコイル4の先端部Tは、対応する他のセグメントコイル4の先端部Tに径方向に隣接し、両先端部Tは、レーザー溶接により電気的に接合される。すなわち、図4に示すように、径方向内側に位置する脚部40の先端部Tの外側面Tsoと、径方向外側に位置する脚部40の先端部Tの内側面Tsiとは、レーザー溶接部WLを介して互いに接合される。
より詳細には、複数のセグメントコイル4は、脚部40(平角線)の長辺側の側面(フラットワイズ面)が互いに当接するように重ね合わされた状態で複数のスロット2sの各々から同数かつ偶数個(例えば、6−10個、本実施形態では6個)の脚部40が突出するようにステータコア2に組み付けられる。また、各スロット2sから突出した複数の脚部40は、ステータコア2の径方向に拡張される。更に、ステータコア2の軸心側から奇数番目(奇数層上)の脚部40は、ステータコア2の軸心周りに捻られながら周方向における一側に倒され、偶数番目(偶数層上)の脚部40は、ステータコア2の軸心周りに捻られながら周方向における他側に倒される。これにより、径方向に隣り合う任意の2つの脚部40の先端部Tは、それぞれステータコア2の軸心に対して傾斜すると共に周方向に沿って互いに逆向きに延在する。更に、互いに接合されるべき2つの脚部40の先端部T同士がステータコア2の径方向に隣り合う
そして、m個(ただし、“m”は、第1および第2コイルU1−W2の総数である。)おきのスロット2sから突出する脚部40の対応する先端部T同士をレーザー溶接により接合することで、ステータコア2に対して、ステータコイル3u,3v,3wの第1および第2コイルU1−W2が巻回される。すなわち、ステータ1では、(i+(j−1)・m)番目(ただし、i=1,…,mであり,j=1,…,総スロット数/mである。)のスロット2sから突出する脚部40の先端部同士の電気的接合によりm個のコイルU1−W2がステータコア2に巻回される。
本実施形態において、ステータコイル3uの第1および第2コイルU1,U2は、ステータコア2に対して互いに1スロットだけ周方向にずらして巻回される。また、第1コイルU1の一端側の脚部40は、引出線Luとして利用され、第2コイルU2の一端側の脚部40は、中性線Nとして利用される。更に、第1コイルU1の引出線Luとは反対側の端部を形成する脚部40の先端部Tと、第2コイルU2の中性線Nとは反対側の端部を形成する脚部40の先端部Tとが接合され、それにより、ステータコイル3uがステータコア2に分布巻きされる。
ステータコイル3vの第1コイルV1は、ステータコイル3uの第2コイルU2に対して第1コイルU1とは反対側に1スロットだけ周方向にずらして巻回される。また、ステータコイル3vの第2コイルV2は、第1コイルV1に対してステータコイル3uの第2コイルU2とは反対側に1スロットだけ周方向にずらして巻回される。第1コイルV1の一端側の脚部40は、引出線Lvとして利用され、第2コイルV2の一端側の脚部40は、中性線Nとして利用される。更に、第1コイルV1の引出線Lvとは反対側の端部を形成する脚部40の先端部Tと、第2コイルV2の中性線Nとは反対側の端部を形成する脚部40の先端部Tとが接合され、それにより、ステータコイル3vがステータコア2に分布巻きされる。
ステータコイル3wの第1コイルW1は、ステータコイル3vの第2コイルV2に対して第1コイルV1とは反対側に1スロットだけ周方向にずらして巻回される。また、ステータコイル3wの第2コイルW2は、第1コイルW1に対してステータコイル3vの第2コイルV2とは反対側に1スロットだけ周方向にずらして巻回される。第1コイルW1の一端側の脚部40は、引出線Lwとして利用され、第2コイルW2の一端側の脚部40は、中性線Nとして利用される。更に、第1コイルW1の引出線Lwとは反対側の端部を形成する脚部40の先端部Tと、第2コイルW2の中性線Nとは反対側の端部を形成する脚部40の先端部Tとが接合され、それにより、ステータコイル3wがステータコア2に分布巻きされる。
ステータコイル3uの引出線Luは、図2に示すように、U相の端子6uに電気的に接合された動力線5uの先端部に溶接により電気的に接合される。また、ステータコイル3vの引出線Lvは、V相の端子6vに電気的に接合された動力線5vの先端部に溶接により電気的に接合される。更に、ステータコイル3wの引出線Lwは、W相の端子6wに電気的に接合された動力線5wの先端部に溶接により電気的に接合される。なお、動力線5u,5v,5wは、それぞれ樹脂製の保持部材7に固定される。端子6u−6wは、回転電機Mのハウジングにステータ1が組み付けられた際に当該ハウジングに設置(固定)された図示しない端子台に固定され、図示しない電力線を介してインバータ(図示省略)に接続される。
上述のようにしてステータコア2に巻回される複数のステータコイル3u,3v,3wにおいて、多数の先端部T同士の接合部は、所定数ずつ径方向に並んでステータコア2の軸方向における図1中上側の端面から外側に突出する環状のコイルエンド部3aを形成する。図1および図5に示すように、複数のスロット2sから突出した複数の脚部40は、径方向に隣り合う2つの脚部40の先端部Tがそれぞれステータコア2の軸心(図中、一点鎖線参照)に対して傾斜すると共に周方向に沿って互いに逆向きに延在するように倒されている。従って、ステータ1では、セグメントコイル4の先端部T同士の接合部を多数含むコイルエンド部3aの軸長を大幅に短縮化することができる。
また、本実施形態において、各脚部40の先端部Tは、セグメントコイル4のステータコア2への組み付けに先立って、打ち抜き加工により先細かつ短辺側の側面が凸曲面状に延在するように形成されている(図5参照)。すなわち、各先端部Tの脚部40の倒し方向と反対側の表面は、当該倒し方向側に傾斜するように形成されている。これにより、コイルエンド部3aの軸長をより一層短縮化することが可能となる。加えて、各先端部Tの倒し方向と反対側の表面を曲面状に形成することで、先端部T同士の接合面積を充分に確保しつつ、コイルエンド部3aをよりフラットにすることが可能となる。なお、先端部Tの絶縁被膜は、上記打ち抜き加工後に例えばレーザー照射により剥離される。そして、セグメントコイル4において、先端部Tの周縁部への面取り加工は省略されている。これにより、セグメントコイル4ひいてはステータ1および回転電機Mの製造コストの増加を抑制することが可能となる。
また、ステータコア2には、図1中上側のコイルエンド部3a側から図1中下側のコイルエンド部3b側に向けてワニス等の樹脂が塗布される。これにより、当該樹脂により各セグメントコイル4や図示しないインシュレータがステータコア2に固定される。また、本実施形態のステータ1は、コイルエンド部3aを覆う環状のモールド部8を含む。モールド部8は、樹脂により形成されており、当該樹脂が隣り合うセグメントコイル4同士の隙間に入り込むことで、先端部T同士の接合部や、引出線Lu−Lwと動力線5u−5wとの接合部といった導電体の露出部が良好に絶縁される。ただし、セグメントコイル4の先端部T同士の接合部といった導電体の露出部には、絶縁用の粉体が塗布されてもよい。
図2に示すように、回転電機Mのロータ10は、図示しない回転シャフトに固定されるロータコア11と、複数(本実施形態では、例えば8極)の磁極を構成するようにロータコア11に埋設される複数(本実施形態では、例えば16個)の永久磁石15とを含む、いわゆる埋込磁石型(IPM型)のロータである。ロータ10のロータコア11は、電磁鋼板等により環状に形成されたコアプレートを複数積層することにより形成されており、上記回転シャフトが挿入・固定される中心孔12と、それぞれ永久磁石15を保持するように形成された長孔状の孔部である複数の磁石埋設孔14とを含む。複数の磁石埋設孔14は、それぞれロータコア11を軸方向に貫通するように、2つずつ所定間隔をおいて当該ロータコア11に配設される。対をなす2つの磁石埋設孔14は、ロータ10の軸心側から外周側に向かうにつれて互いに離間するように(略V字状をなすように)形成される。永久磁石15は、例えばネオジム磁石等の希土類焼結磁石等であり、略直方体状に形成されている。対をなす2つの永久磁石15は、ロータ10の外周側に位置する極が互いに同一となるように対応する磁石埋設孔14に挿入・固定される。これにより、対をなす2つの永久磁石15は、ロータ10の軸心側から外周側に向かうにつれて互いに離間するようにロータコア11に配設されて当該ロータ10の1つの磁極を形成する。
図6は、回転電機Mのステータ1の製造手順を示すフローチャートである。同図に示すように、ステータ1の製造工程は、セグメントコイル組付工程(S10)と、脚部拡張工程(S20)と、脚部倒し工程(S30)と、レーザー溶接工程(S40)と、コイル固定工程(S50)と、樹脂モールド形成工程(S60)とを含む。
セグメントコイル組付工程(S10)は、長辺側の側面(フラットワイズ面)同士が互いに当接するようにステータコア2の径方向に隣り合わせにした複数のセグメントコイル4を複数のスロット2sの各々から同数かつ偶数個(本実施形態では、6個)の脚部40が突出するようにステータコア2に組み付ける工程である。脚部拡張工程(S20)は、ステータコア2に対する先端部Tの位置が脚部倒し工程の実施時に要求される位置になるように各スロット2sから突出した複数の脚部40をステータコア2の径方向に拡張する工程である。脚部倒し工程(S30)は、図示しない倒し加工装置を用いて、例えばステータコア2の軸心側から奇数番目(奇数層上)の脚部40をステータコア2の軸心周りに捻りながら周方向における一側に倒すと共に、偶数番目(偶数層上)の脚部40をステータコア2の軸心周りに捻りながら周方向における他側に倒す工程である。レーザー溶接工程(S40)は、互いに対応する脚部40の先端部T同士をレーザー溶接により接合したり、引出線Lu−Lwと動力線5u−5wとをレーザー溶接により接合したりする工程である。コイル固定工程(S50)は、ワニス等の樹脂を用いて複数のセグメントコイル4等をステータコア2に固定する工程である。樹脂モールド形成工程(S60)は、複数のステータコイル3u,3v,3wのコイルエンド部3aを覆う環状のモールド部8を形成する工程である。
図7は、図6のS20における脚部拡張工程にて用いられる拡張装置50を示す斜視図である。図示するように、拡張装置50は、本開示の拡張治具である内側拡張治具(第1拡張治具)51、中間拡張治具(第2拡張治具)52および外側拡張治具(第2拡張治具)53、拡張治具51−53を移動させる移動機構54、複数のセグメントコイル4が組み付けられたステータコア2を支持する回転テーブル55、円環状の内側支持部材56、フォーク部材57、加圧部材58および制御装置59を含む。
内側拡張冶具51は、図7に示すように、移動機構54に連結される基端部51aと、当該基端部51aから延出された細幅の加工部510とを含む。加工部510は、平坦な背面を有すると共に、図8および図9に示すように、平坦な第1底面511、平坦な第2底面512、壁部(仕切壁)513、第1押圧面514、第2押圧面515、成形面516および517を含む。第1底面511は、ステータコア2の軸方向に延在するように加工部510に形成されている。第2底面512は、第1底面511よりもステータコア2の周方向に沿った深い位置(図8および図9における紙面奥側)で当該軸方向に延在するように加工部510に形成されている。第1および第2底面511,512は、それぞれ加工部510の背面と平行に延在する。また、第1および第2底面511,512の幅は、セグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも若干短く定められる。壁部513は、ステータコア2の軸方向に延在すると共に第1底面511と第2底面512との間で両者に直交してステータコア2の周方向に突出するように加工部510に形成されている。
第1押圧面514は、加工部510の先端(図8および図9における下端、以下、「治具先端」という)側に形成されており、壁部513よりも治具先端側で第1底面511に連続する例えば平坦な傾斜面である。図9に示すように、第1押圧面514は、壁部513側から治具先端側に向かうにつれてステータコア2の周方向において第2底面512に近接するように(図8および図9における紙面奥側に)傾斜する。第2押圧面515は、壁部513の第2底面512側の側面513sに連続して第1底面511の一部および第1押圧面514に沿って治具先端側に延在する例えば平坦な傾斜面である。図8および図9に示すように、第2押圧面515は、治具先端側から壁部513側に向かうにつれてステータコア2の径方向において第2底面512の壁部513とは反対側の側縁部(図8における右側の側縁部)に近接するように傾斜する。なお、第1および第2押圧面514,515は、凸曲面状の傾斜面であってもよい。
成形面516および517は、壁部513の治具先端側の端部に形成されている。成形面516は、壁部513の側面513sと第2押圧面515との連続部に形成された凸曲面であり、側面513sと第2押圧面515との双方に滑らかに連続する。成形面517は、壁部513の第1底面511側の側面に滑らかに連続する凸曲面であり、本実施形態では、壁部513の軸心に関して成形面516の概ね反対側に位置する。また、壁部513の治具先端の端面は、成形面516および517に滑らかに連続する凸曲面状に形成されている。
中間拡張冶具52は、図7に示すように、移動機構54に連結される基端部52aと、当該基端部52aから延出された細幅の加工部520とを含む。加工部520は、平坦な背面を有すると共に、図8および図10に示すように、平坦な第1底面521、平坦な第2底面522、壁部(仕切壁)523、第1押圧面524、第2押圧面525、および成形面526を含む。第1底面521は、ステータコア2の軸方向に延在するように加工部520に形成されている。第2底面522は、第1底面521よりもステータコア2の周方向に沿った深い位置(図8および図10における紙面奥側)で当該軸方向に延在するように加工部510に形成されている。第1および第2底面521,522は、それぞれ加工部520の背面と平行に延在する。また、第2底面522の幅は、セグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも若干短く定められる。壁部523は、ステータコア2の軸方向に延在すると共に第1底面521と第2底面522との間で両者に直交してステータコア2の周方向に突出するように加工部520に形成されている。
第1押圧面524は、加工部520の治具先端側に形成されており、壁部523よりも治具先端側で第1底面521に連続する例えば平坦な傾斜面である。図9に示すように、第1押圧面524は、壁部523側から治具先端側に向かうにつれてステータコア2の周方向において第2底面522に近接するように(図8および図10における紙面奥側に)傾斜する。第2押圧面525は、壁部523の第2底面522側の側面523sに連続して第1押圧面524に沿って治具先端側に延在する例えば平坦な傾斜面である。図8および図10に示すように、第2押圧面525は、治具先端側から壁部523側に向かうにつれてステータコア2の径方向において第2底面522の壁部523とは反対側の側縁部(図8における右側の側縁部)に近接するように傾斜する。なお、第1および第2押圧面524,525は、凸曲面状の傾斜面であってもよい。成形面526は、壁部523の治具先端側の端部に形成されている。成形面526は、壁部523の第2底面522側の側面523sと第2押圧面525との連続部に形成された凸曲面であり、側面523sと第2押圧面525との双方に滑らかに連続する。
更に、中間拡張治具52は、図8および図10に示すように、ステータコア2の軸方向に延在するように形成された第2の壁部528を含む。第2の壁部528は、壁部523と間隔おいて対向するように第1底面521の側縁部(図8における左側の側縁部)に沿って当該壁部523と平行に延在する。壁部523と第2の壁部528との間隔(互いに対向する側面同士の間隔)は、セグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも若干長く定められる。また、壁部523の治具先端側の端部には、成形面529が形成されている。成形面529は、第2の壁部528の壁部523側の側面に滑らかに連続する凸曲面である。また、壁部523の治具先端の端面は、成形面529に滑らかに連続する凸曲面状に形成されている。
外側拡張治具53は、各部の寸法を除いて、上記中間拡張治具52と共通の構造を有するものである。図7に示すように、外側拡張治具53は、基端部53aおよび加工部530を含む。そして、加工部530には、図8に示すように、上記第1底面521と同一構造を有する第1底面531、上記第2底面522と同一構造を有する第2底面532、上記壁部523と同一構造を有する壁部(仕切壁)533、上記第1押圧面524と同一構造を有する第1押圧面534、上記第2押圧面525と同一構造を有する第2押圧面535、上記成形面526と同一構造を有する成形面536、上記第2の壁部528と同一構造を有する第2の壁部538、および上記成形面529と同一構造を有する成形面539が形成されている。外側拡張治具53においても、第2底面532の幅は、セグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも若干短く定められる。また、壁部533と第2の壁部538との間隔(互いに対向する側面同士の間隔)は、セグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも若干長く定められる。
そして、上記第1押圧面514,524,534の傾斜角度、第2押圧面515,525,535の傾斜角度、成形面516,517,526,529,536,539の曲率、壁部513,523,533,528,539の厚みや端部の形状等は、ステータコア2のスロット2sから突出した全脚部40の先端部Tの脚部倒し工程の実施時に要求される位置に応じて脚部40のスプリングバックを考慮して定められる。更に、壁部513,523,533の第1底面511,521,531からの高さ、壁部513,523,533および第2の壁部528,538の第2底面512,522,532からの高さは、スロット2sの周方向における間隔や全脚部40の先端部Tの脚部倒し工程の実施時に要求される位置等に応じてセグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも高く定められる。
図7および図8に示すように、拡張治具51−53は、ステータコア2の軸心側から加工部510,520,530という順番で並ぶと共に加工部510,520,530の背面同士が隣り合うように移動機構54にそれぞれ連結される。また、拡張治具51−53は、内側拡張治具51の壁部513(側面513s)と中間拡張治具52の第2の壁部528(内側拡張治具51側の側面)との間隔、および中間拡張治具52の壁部523(側面523s)と外側拡張治具53の第2の壁部538(中間拡張治具52側の側面)との間隔がセグメントコイル4の脚部40(平角線)の短辺幅よりも若干長い間隔となるように並べられる。
移動機構54は、内側拡張治具51、中間拡張治具52および外側拡張治具53をそれぞれ独立にステータコア2の軸方向に進退移動させるものである。移動機構54は、拡張治具51−53が回転テーブル55上のステータコア2の径方向に沿って並ぶように当該回転テーブル55の上方に設置される。移動機構54は、下方に位置するスロット2sから突出した偶数個の脚部40に対して、各拡張治具51,−53を対応する脚部40に曲げ荷重を付与するように個別に高速で下降(移動)させることができる。
回転テーブル55は、ステータコア2を軸心周りに回転させる図示しない回転駆動機構を含む。内側支持部材56は、回転テーブル55上のステータコア2の中心孔部内に配置される。内側支持部材56の外周面は、円柱面状に形成されており、当該外周面は、ステータコア2の各スロット2sの最内層側から突出する脚部40の内側面(長辺側の側面)と対向する。フォーク部材57は、ステータコア2の端面近傍で拡張治具51−53の下方に位置するスロット2sから突出した偶数個の脚部40をステータコア2の周方向における両側および径方向外側から支持可能なものである。フォーク部材57は、フォーク駆動装置570によりステータコア2の径方向に進退移動させられる。フォーク駆動装置570は、フォーク部材57をスロット2sから突出した偶数個の脚部40をステータコア2の軸心に向けて加圧した状態に保持可能である。
加圧部材58は、拡張治具51−53の下方に位置するスロット2sの最外層側から突出する脚部40の外側面(長辺側の側面)と対向するように配置され、加圧装置580によりステータコア2の径方向に進退移動させられる。加圧装置580は、最外層側の脚部40をステータコア2の軸心に向けて加圧する状態に加圧部材58を保持可能である。制御装置59は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや各種駆動回路等を含み、上述の移動機構54、回転テーブル55、フォーク駆動装置570および加圧装置580を制御する。
続いて、上述の拡張装置50を用いて複数のスロット2sから突出した複数の脚部40をステータコア2の径方向に拡張する脚部拡張工程(S30)について詳細に説明する。
脚部拡張工程の開始に際しては、図11に示すように、対象となるスロット2sから突出する偶数個(本実施形態では、6個)の脚部40が初期位置で整列した拡張治具51−53の下方に位置するようにステータコア2を位置決めし、内側拡張治具51の壁部513の端部(図中下側の端部)と、スロット2sの最内層側で径方向に隣接する2つの脚部40の先端部T同士の隙間とを対向させる。ここでは、図示するように、1つのスロット2sから突出する偶数個の脚部40をステータコア2の軸心側から順番に脚部41,42,43,44,45,46といい、適宜、脚部41−46を総称して脚部40という。また、ステータコア2の中心孔部内には、内側支持部材56が配置される。更に、フォーク駆動装置570によりフォーク部材57を内側支持部材56に向けて移動させ、フォーク部材57にスロット2sから突出した偶数個の脚部40(41−46)をステータコア2の周方向における両側および径方向外側から支持させる。
次いで、移動機構54により内側拡張治具51を最内層側の2つの脚部41,42に対して下降(移動)させる。内側拡張治具51が下降すると、図12に示すように、上述のような傾斜面である内側拡張治具51の第1押圧面514が壁部513の端部よりも先に最内層側の脚部41の先端部Tの側面(短辺側の側面)に当接する。この際、本実施形態において、内側拡張治具51の第1押圧面514は、脚部倒し工程での脚部41の倒し方向(図12における右側)と反対側の先端部Tの表面に当接する。これにより、最内層側の脚部41は、図13に示すように、下降する内側拡張治具51の第1押圧面514によりステータコア2の周方向における一側(図中右側、脚部倒し工程での脚部41の倒し側)に押圧され、脚部41の先端部Tと、それに隣り合う脚部42の先端部Tとは、ステータコア2の周方向に離間する。また、第1押圧面514により最内層側の脚部41が押圧されるのに伴って、脚部42は、内側拡張治具51の第2押圧面515により先端部Tが最内層側の脚部41の先端部Tから径方向に離間するように押圧される。この結果、面取り部の省略により隣接した脚部41,42の先端部T同士の隙間が実質的に無くなっていたとしても、径方向に隣接する2つの脚部41,42の先端部Tの間に隙間を形成し(隙間を拡げ)、形成された隙間から当該2つの脚部41,42の間に内側拡張治具51の壁部513を差し込んでいくことができる。
図14に示すように、内側拡張冶具51の下降(移動)は、脚部41,42の間に壁部513が所定長さだけ差し込まれた段階で移動機構54により停止させられる。脚部41,42の間に内側拡張冶具51の壁部513が差し込まれることで、最内層側の脚部41の先端部T側の部分は、内側拡張冶具51の成形面517により径方向内側すなわち内側支持部材56側に押圧され、内側支持部材56と壁部513とにより挟み付けられる。これにより、脚部41は、スロット2s側が軸方向に対して径方向内側に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように、成形面517を起点にして僅かに曲げられる(塑性変形する)。また、脚部41に隣接する脚部42は、内側拡張治具51の第2押圧面515や成形面516により、先端部Tがステータコア2の外周側に移動するように径方向外側に押圧されて傾斜する。更に、脚部43−46も、脚部42により先端部Tがステータコア2の外周側に移動するように径方向外側に押圧されて傾斜する。
更に、図15に示すように、移動機構54により中間拡張治具52を中央の2つの脚部43,44に対して下降(移動)させる。中間拡張治具52が下降すると、上述のような傾斜面である中間拡張治具52の第1押圧面524が壁部523の端部よりも先に内層側の脚部43の先端部Tの側面(短辺側の側面)に当接する(図12参照)。これにより、内層側の脚部43は、下降する中間拡張治具52の第1押圧面524によりステータコア2の周方向における一側(脚部倒し工程での脚部43の倒し側)に押圧され、脚部43の先端部Tと、それに隣り合う脚部44の先端部Tとは、ステータコア2の周方向に離間する(図13参照)。また、第1押圧面524により内層側の脚部43が押圧されるのに伴って、脚部44は、中間拡張治具52の第2押圧面525により先端部Tが内層側の脚部43の先端部Tから径方向に離間するように押圧される。この結果、面取り部の省略により隣接した脚部43,44の先端部T同士の隙間が実質的に無くなっていたとしても、径方向に隣接する2つの脚部43,44の先端部Tの間に隙間を形成し(隙間を拡げ)、形成された隙間から当該2つの脚部43,44の間に中間拡張治具52の壁部523を差し込んでいくことができる。
図15に示すように、中間拡張冶具52の下降(移動)は、脚部43,44の間に壁部513が比較的短い長さだけ差し込まれた段階で移動機構54により一旦停止させられる。また、脚部43,44の間に中間拡張冶具52の壁部523が差し込まれるのに伴い、内側拡張治具51の第2押圧面515や成形面516により押圧された脚部42と、当該脚部42に径方向外側で隣り合う脚部43との間には、中間拡張治具52の第2の壁部528が差し込まれる。脚部42,43の間に第2の壁部528が差し込まれると、脚部42の先端部T側の部分は、内側拡張冶具51の成形面516により径方向外側すなわち第2の壁部528側に押圧された状態で、内側拡張治具51の壁部513と中間拡張冶具52の第2の壁部528とにより挟み付けられる。
これにより、脚部42は、スロット2s側が軸方向に対して径方向外側に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように、成形面516を起点にして僅かに曲げられる(塑性変形する)。また、外層側の脚部43の先端部Tは、中間拡張冶具52の壁部523と第2の壁部528とにより挟み込まれる。更に、脚部43に径方向外側で隣接する脚部44は、中間拡張治具52の第2押圧面525や成形面526により、先端部Tがステータコア2の外周側に移動するように径方向外側に押圧されて傾斜する。加えて、脚部45−46も、脚部44により先端部Tがステータコア2の外周側に移動するように径方向外側に押圧されて傾斜する。
中間拡張冶具52の移動を一旦停止させた後、移動機構54により外側拡張治具53を最外層側の2つの脚部45,46に対して下降(移動)させる。外側拡張治具53が下降すると、上述のような傾斜面である外側拡張治具53の第1押圧面534が壁部533の端部よりも先に内層側の脚部45の先端部Tの側面(短辺側の側面)に当接する(図12参照)。これにより、内層側の脚部45は、下降する外側拡張治具53の第1押圧面534によりステータコア2の周方向における一側(脚部倒し工程での脚部45の倒し側)に押圧され、脚部45の先端部Tと、それに隣り合う脚部46の先端部Tとは、ステータコア2の周方向に離間する(図13参照)。また、第1押圧面534により内層側の脚部45が押圧されるのに伴って、脚部46は、外側拡張治具53の第2押圧面535により先端部Tが内層側の脚部45の先端部Tから径方向に離間するように押圧される。この結果、面取り部の省略により隣接した脚部45,46の先端部T同士の隙間が実質的に無くなっていたとしても、径方向に隣接する2つの脚部45,46の先端部Tの間に隙間を形成し(隙間を拡げ)、形成された隙間から当該2つの脚部45,46の間に外側拡張治具53の壁部533を差し込んでいくことができる。
図16に示すように、外側拡張冶具53の下降(移動)は、脚部45,46の間に壁部533が所定長さだけ差し込まれた段階で移動機構54により停止させられる。また、脚部45,46の間に外側拡張冶具53の壁部533が差し込まれるのに伴い、中間拡張治具52の第2押圧面525や成形面526により押圧された脚部44と、当該脚部44に径方向外側で隣り合う脚部45との間には、外側拡張治具53の第2の壁部538が差し込まれる。脚部44,45の間に第2の壁部538が差し込まれた際、脚部44の先端部Tは、中間拡張治具52の壁部523と外側拡張冶具53の第2の壁部538とにより挟み込まれる。
また、脚部44,45の間に第2の壁部538が差し込まれると、脚部45の先端部T側の部分は、外側拡張冶具53の成形面539により径方向外側に押圧された状態で、第2の壁部538と壁部533とにより挟み付けられる。これにより、脚部45は、スロット2s側が軸方向に対して径方向外側に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように、成形面539を起点にして曲げられる(塑性変形する)。更に、脚部45に隣接する脚部46は、外側拡張治具53の第2押圧面535や成形面536により、先端部Tがステータコア2の外周側に移動するように径方向外側に押圧されて傾斜する。
続いて、移動機構54により一旦停止させた中間拡張冶具52を再度下降させ、図17に示すように、脚部43,44の間に壁部523が所定長さだけ差し込まれた段階で中間拡張冶具52の移動を停止させる。これにより、脚部43の先端部T側の部分は、中間拡張冶具52の成形面529により径方向外側に押圧された状態で第2の壁部528と壁部523とにより挟み付けられ、スロット2s側が軸方向に対して径方向外側に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように、成形面529を起点にして曲げられる(塑性変形する)。また、脚部44の先端部T側の部分は、中間拡張冶具52の成形面526により径方向外側に押圧された状態で、中間拡張冶具52の壁部523と外側拡張冶具53の第2の壁部538とにより挟み付けられる。これにより、脚部44は、スロット2s側が軸方向に対して径方向外側に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように、成形面526を起点にして曲げられる(塑性変形する)。
上述のように、スロット2sから突出する偶数個の脚部40に対して拡張治具51−53を2つの脚部40ずつ順番に差し込んでいくことで、最内層側の脚部41と、スロット2sの両端から突出しない脚部42−45をスロット2s側がステータコア2の軸方向に対して径方向に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように曲げることが可能となる。また、本実施形態のように、中間拡張治具52を脚部43,44間に浅く差し込み、外側拡張治具53を脚部45,46間に差し込んだ後に中間拡張治具52を脚部43,44間に深く差し込むことで、脚部43,44および45の拡張精度(曲げ部の成形精度)をより向上させることができる。
そして、図18に示すように、スロット2sから突出する脚部41−46に対して複数の拡張治具51−53を差し込んだ状態で加圧装置580により加圧部材58をステータコア2の軸心側に移動させ、内側支持部材56によりスロット2sの最内層側の脚部41を支持しながら最外層側の脚部46を加圧部材58により径方向外側から加圧する。これにより、最外層側の脚部46を外側拡張治具53の成形面536を起点にしてスロット2s側が軸方向に対して径方向外側に傾斜すると共に先端部T側が軸方向に延在するように曲げることができる。
最外層側の脚部46の曲げ加工が完了した後、拡張治具51−53、フォーク部材57および加圧部材58を初期位置へと戻す。その後、回転テーブル55をステータコア2の軸心周りに回転させて、次の加工対象となる偶数個の脚部40が拡張治具51−53の下方に位置するようにステータコア2を位置決めし、拡張治具51−53を用いた上述の一連の処理を繰り返し実行する。これにより、全スロット2sから突出する全脚部40をステータコア2に対する先端部Tの位置が脚部倒し工程の実施時に要求される位置になるように精度よく径方向に拡張させることが可能となる。
以上説明したように、本開示のステータ1の製造方法では、径方向に隣接する2つの脚部40を当該径方向に拡張する際に、当該2つの脚部40に対して拡張治具51,52または53を移動させ、当該拡張治具51,52または53により径方向に隣接する2つの脚部40の一方の脚部41,43,45を先端部Tが他方の脚部42,44,46の先端部Tから周方向に離間するように押圧しながら、他方の脚部42,44,46を先端部Tが一方の脚部41,43,45の先端部Tから径方向に離間するように押圧する。
これにより、径方向に隣接する2つの脚部40の先端部Tの間に隙間を形成し(隙間を拡げ)、形成された隙間から当該2つの脚部40の間に拡張治具51,52または53の壁部513,523,533を差し込んでいくことができる。この結果、隣接したセグメントコイル4の先端部T同士の隙間が極めて狭い場合であっても、ステータコア2のスロット2sから突出した複数のセグメントコイル4の脚部40を当該ステータコア2の径方向に拡張することが可能となる。
また、本開示の拡張治具51,52,53は、ステータコア2の径方向に隣接する2つの脚部40の一方の脚部41,43または45を先端部Tが他方の脚部42,44または46の先端部Tから周方向に離間するように押圧する第1押圧面514,52または534と、第1押圧面514,524または534により一方の脚部41,43または45が押圧されるのに伴って、他方の脚部42,44または46を先端部Tが一方の脚部41,43または45の先端部Tから径方向に離間するように押圧する第2押圧面515,525または535をそれぞれ含む。
これにより、径方向に隣接する2つの脚部40の先端部Tの間に隙間を形成し(隙間を拡げ)、形成された隙間から当該2つの脚部40の間に拡張治具51,52または53の壁部513,523,533を差し込んでいくことができる。この結果、拡張治具51,52,53を用いることで、隣接したセグメントコイル4の先端部T同士の隙間が極めて狭い場合であっても、ステータコア2のスロット2sから突出した複数のセグメントコイル4の脚部40を当該ステータコア2の径方向に拡張することが可能となる。
なお、拡張治具51−53によりステータコア2の周方向に押圧される脚部41,43,45は、拡張治具51−53からの荷重により若干曲げられることもあるが、上述のように、脚部41,43,45は、それぞれ拡張治具51,52または53により脚部倒し工程での倒し側に押圧される。従って、脚部拡張工程において脚部41,43,45が周方向に若干曲げられたとしても、それにより脚部倒し工程後の先端部T等の位置精度に影響を与えてしまうことは実質的にない。また、中間拡張治具52を脚部43,44間に浅く差し込み、外側拡張治具53を脚部45,46間に差し込んだ後に中間拡張治具52を脚部43,44間に深く差し込む代わりに、拡張治具51,52,53をこの順番で複数の脚部41−46に対して差し込んで当該脚部41−46を径方向に拡張してもよい。更に、上記実施形態において、スロット2sの最内層側から突出する脚部41は、内側拡張治具51により曲げられるが、これに限られるものではない。すなわち、脚部41は、脚部拡張工程において曲げられなくてもよく、最外層側の脚部46が加圧部材により加圧された際に内側支持部材56に押し付けられて曲げられてもよい。また、スロット2sから突出する脚部40の数が8以上の偶数である場合には、中間拡張治具52(あるいは外側拡張治具53)の数を増やせばよい。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。