JP2019106497A - ワイドレンジサーミスタ材料及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】−80℃〜1050℃程度の温度範囲において温度検知が可能であり、1000℃以上の高温大気中で使用しても酸化の影響を受けにくく、高い安定性を発現可能なワイドレンジサーミスタ材料及びその製造方法を提供すること。【解決手段】ワイドレンジサーミスタ材料は、絶縁性セラミックスからなるマトリックス粒子と、マトリックス粒子の周囲に存在する粒界相と、マトリックス粒子間又は粒界相内に分散している第1分散粒子及び第2分散粒子とを備えている。粒界相は結晶質の(Y,Yb)−Al−O系化合物を含み、第1分散粒子はα型SiC及び/又はβ型SiCを含み、第2分散粒子はバナジウム化合物及び/又はチタン化合物を含む。このようなワイドレンジサーミスタ材料は、マトリックス粉末、粒界相源、第1分散粒子源、及び第2分散粒子源の混合物を成形・焼結することにより得られる。【選択図】図3

Description

本発明は、ワイドレンジサーミスタ材料及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、−80℃〜1050℃程度の広い温度範囲において温度検知が可能であり、かつ、1000℃以上の高温大気中で使用しても酸化の影響を受けにくく、高い安定性を発現可能なワイドレンジサーミスタ材料及びその製造方法に関する。
サーミスタとは、温度変化に対して抵抗変化の大きい抵抗体をいう。サーミスタは、温度の上昇に対して抵抗が減少するNTCサーミスタ、温度の上昇に対して抵抗が増加するPTCサーミスタ、ある温度を超えると抵抗が急激に減少するCRTサーミスタに分類される。これらの内、NTCサーミスタは、低コストで抵抗値が温度変化に対して指数関数的に大きく変化するため、最も使われており、単にサーミスタというときは、NTCサーミスタを指す。
一般に使用されるサーミスタは、Mn、Ni、Co、Fe、Cu、Y、Crなどの遷移金属酸化物を2〜4種類含む酸化物複合体からなる。このような酸化物系のサーミスタ材料としては、例えば、スピネル型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、スピネルとペロブスカイトの混合物などが知られている。
酸化物系サーミスタでは、酸素イオン拡散の温度依存性を利用して温度検出を行っている。また、ペロブスカイト型酸化物からなるサーミスタにおいては、2価金属をドープすることによって、酸素欠陥による正孔よりも多くの正孔を導入したp型半導体とし、低酸素雰囲気での抵抗値の不安定化を抑制することが行われている。
また、非酸化物系のサーミスタ材料も知られている。
例えば、特許文献1には、窒化ケイ素粉末(平均粒径0.7μm)、炭化ケイ素粉末(平均粒径0.2μm)、酸化イットリウム粉末(平均粒径0.5μm)、硼化チタン粉末(平均粒径0.4μm)、及び金属硼素粉末(平均粒径0.5μm)の混合物を成形し、1850℃×1時間(N2中)×プレス圧20MPaの条件でホットプレスすることにより得られるワイドレンジサーミスタ材料が開示されている。
同文献には、このような方法により、低温から高温まで広い温度範囲において電気抵抗が低く、調整が可能なワイドレンジ用サーミスタ材料が得られる点が記載されている。
特許文献2には、
(a)94重量%のSi34粉末に、6重量%のY23粉末を加えて造粒粉を作製し、
(b)α型SiCとY23粉末を重量比5:1の混合比で混合した混合粉末を作製し、
(c)造粒粉に混合粉を全重量に対して10重量%となるように加えて乾式混合し、
(d)得られた原料混合粉末を成形し、1850℃×1時間(N2中)×プレス圧20MPaの条件でホットプレスする
ことにより得られるサーミスタ材料が開示されている。
同文献には、このような方法により、複数のSi34結晶粒からなるセルの周りをSiC粒子が3次元網目状に取り囲んだ構造を備えたサーミスタ材料が得られる点が記載されている。
さらに、特許文献3には、Al23:86wt%、B4C:12wt%、及びSiC:1wt%を含む原料組成物に対して、さらに0.2wt%のZrB2を加えて混合し、混合物をホットプレスすることにより得られるサーミスタ材料が開示されている。
同文献には、このような方法により、400〜800℃の温度で使用しても安定性を有し、抵抗値のコントロールが容易で、ガラス封止が容易で、チップ加工性の高いサーミスタ材料が得られる点が記載されている。
SiCを含有するサーミスタ材料は、広い温度域で使用可能であるが、700℃以上の大気中に暴露した場合、SiCの酸化によって抵抗値が変化するという問題がある。具体的には、700℃〜1000℃の温度域では、抵抗値が暴露時間の増加に伴って上昇する。一方、1000℃を超える温度域では、抵抗値が暴露時間の増加に伴って、上昇(マトリックスがSi34である場合)、又は低下(マトリックスがAl23である場合)する。
この問題を解決するために、特許文献3に記載されているように、ガラスや金属カバーなどサーミスタ材料を封止することも考えられる。しかし、この方法では、高コスト化や応答性の低下を招く。
特開2000−348907号公報 国際公開第1998/012714号 特開平03−080502号公報
本発明が解決しようとする課題は、−80℃〜1050℃程度の広い温度範囲において温度検知が可能であり、かつ、1000℃以上の高温大気中で使用しても酸化の影響を受けにくく、高い安定性を発現可能なワイドレンジサーミスタ材料及びその製造方法を提供することにある
上記課題を解決するために本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記ワイドレンジサーミスタ材料は、
絶縁性セラミックスからなるマトリックス結晶粒子と、
少なくとも前記マトリックス結晶粒子間に存在する粒界相と、
前記マトリックス結晶粒子間、又は前記粒界相に分散している第1分散粒子と、
前記マトリックス結晶粒子間、又は前記粒界相に分散している第2分粒粒子と
を備えている。
(2)前記粒界相は、少なくとも、Y及び/又はYb、Al、並びに、Oを含む結晶質の無機化合物を含む。
(3)前記第1分散粒子は、α型SiC及び/又はβ型SiCを含む。
(4)前記第2分散粒子は、バナジウム窒化物(VN)、バナジウム炭化物(VC)、バナジウム酸化物(VO)、バナジウムホウ化物(VB)、及びバナジウムケイ化物(VSi)からなる群から選ばれるいずれか1以上のバナジウム化合物、及び/又は、チタンホウ化物、チタン窒化物、チタン炭化物、チタン酸化物、及びチタンケイ化物からなる群から選ばれるいずれか1以上のチタン化合物を含む。
(5)前記ワイドレンジサーミスタ材料は、開気孔率が0.5%未満である。
本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料の製造方法は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記ワイドレンジサーミスタ材料の製造方法は、
本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料を製造するための原料を混合及び/又は粉砕する粉砕・混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉末を成形及び焼結させる成形・焼結工程と
を備えている。
(2)前記粉砕・混合工程は、
前記絶縁性セラミックスからなるマトリックス粉末と、
前記粒界相を形成するための粒界相源と、
前記α型SiC及び/又は前記β型SiCを含む第1分散粒子源と、
前記バナジウム窒化物(VN)、前記バナジウム炭化物(VC)、前記バナジウム酸化物(VO)、バナジウムホウ化物(VB)、及び前記バナジウムケイ化物(VSi)からなる群から選ばれるいずれか1以上のバナジウム化合物、及び/又は、チタンホウ化物、チタン窒化物、チタン炭化物、チタン酸化物、及びチタンケイ化物からなる群から選ばれるいずれか1以上のチタン化合物を含む第2分散粒子源と、
を混合及び/又は粉砕するものからなる。
絶縁性セラミックスからなるマトリックス結晶粒子間にSiCを含む第1分散粒子を分散させたワイドレンジサーミスタ材料において、粒界に(Y,Yb)−Al−O系化合物を含む結晶質の無機化合物を析出させ、かつ、バナジウム化合物及び/又はチタン化合物を含む第2分散粒子をさらに分散させると、高温域での電気抵抗値の変動が抑制される。これは、
(a)粒界ガラス相により焼結体の緻密化が促進され、開気孔の生成(残存)が抑制されるため、及び、これによって開気孔を通した内部への酸素拡散が抑制され、焼結体内部に分散するSiCの酸化が起こりにくくなるため、
(b)SiCとバナジウム化合物及び/又はチタン化合物とを共存させることにより、バナジウム化合物及び/又はチタン化合物が酸素をトラップし、SiCの表面酸化を抑制するため、並びに、
(c)粒界に高融点の結晶相を析出させることにより、粒界相の耐熱性が向上し、高温域での元素の粒界拡散が抑制されるため、
と考えられる。
実施例1で得られたワイドレンジサーミスタ材料のX線回折パターンである。 抵抗変化率測定用試料の作製方法の模式図である。 実施例1及び比較例1で得られたチップ型素子を大気中、1050℃で1500時間加熱した時の抵抗変化率(200時間経過後の抵抗値に対する1500時間経過後の抵抗値の変化率)である。 耐熱性金属電極を接合したチップ型素子(実施例4)を大気中、1050℃に暴露した場合の抵抗変化率である。 サーミスタ基材をチップ形に加工し、電極を接合して作製したチップ型素子を大気中、1050℃に暴露し、測定した場合(実施例7)の抵抗変化率である。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. ワイドレンジサーミスタ材料]
本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料(以下、単に「サーミスタ材料」ともいう)は、
絶縁性セラミックスからなるマトリックス結晶粒子と、
少なくとも前記マトリックス結晶粒子間に存在する粒界相と、
前記マトリックス結晶粒子間、又は前記粒界相に分散している第1分散粒子と、
前記マトリックス結晶粒子間、又は前記粒界相に分散している第2分粒粒子と
を備えている。
[1.1. マトリックス結晶粒子]
[1.1.1. マトリックス結晶粒子の組成]
マトリックス結晶粒子は、絶縁性セラミックスからなる。「絶縁性セラミックス」とは、電気比抵抗が1012Ωcm以上であるものをいう。本発明において、マトリックス結晶粒子を構成する絶縁性セラミックスの組成は、特に限定されない。絶縁性セラミックスとしては、例えば、Al23、Si34、サイアロン(SiAlON)、ZrO2、ムライト、イットリア、AlN、Mg2AlO4、2MgO・SiO2、ジルコン、ステアタイトなどがある。マトリックス結晶粒子は、これらのいずれか1種の絶縁性セラミックスからなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
[1.1.2. マトリックス結晶粒子の平均結晶粒径]
本発明において、マトリックス結晶粒子の平均結晶粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、マトリックス結晶粒子の平均結晶粒径が小さくなるほど、電気抵抗値のバラツキが小さくなる。マトリックス結晶粒子の平均結晶粒径は、5μm以下が好ましい。平均結晶粒径は、好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.75μm以下である。
ここで、「平均結晶粒径」とは、顕微鏡(SEM、TEM、EPMA等)観察により無作為に選んだ10個以上の結晶粒のサイズ(結晶粒の最小外接円の直径)のメディアン値(サンプリングした粒子の50%に相当する粒子のサイズ)をいう。
[1.2. 粒界相]
[1.2.1. 粒界相の組成]
粒界相は、少なくともマトリックス結晶粒子間に存在している。粒界相は、マトリックス結晶粒子間に加えて、第1分散粒子間、第2分散粒子間、又は、これらの粒子間に存在している場合がある。本発明において、粒界相は、結晶質の無機化合物を含む。粒界相がアモルファス状(低融点相)である場合、焼結時に緻密化しやすいが、焼結体としては高温域において元素が拡散しやすくなり、耐熱性が低下する。これに対し、粒界相が結晶相を含む焼結体の場合、高温域における元素拡散が抑制され、耐熱性が向上する。
本発明において、粒界相は、少なくとも、Y及び/又はYb、Al、並びに、Oを含む結晶質の無機化合物(以下、「(Y,Yb)−Al−O系化合物」ともいう)を含む。
「(Y,Yb)−Al−O系化合物」とは、具体的には、
(a)YxAlyz(0.5≦x≦7、0.5≦y≦5、1≦z≦15)で表される組成を持つY−Al−O系化合物、
(b)YbuAlvw(0.5≦u≦7、0.5≦v≦5、1≦w≦15)で表される組成を持つYb−Al−O系化合物、及び、
(c)Y−Al−O系化合物とYb−Al−O系化合物との混合物若しくは固溶体
からなる群から選ばれるいずれか1以上の無機化合物をいう。
化学量論組成を持つY−Al−O系化合物としては、例えば、YAlO3(YAP)、Y4Al29(YAM)、Y3Al512(YAG)などがある。また、化学量論組成を持つY−Al−O系化合物に含まれるYの全部又は一部をYbに置き換えることもできる。粒界相は、これらのいずれか1種の化合物からなるものでも良く、あるいは、2種以上の化合物の混合物又は固溶体であっても良い。
なお、粒界相は、主として(Y,Yb)−Al−O系化合物からなるが、他の元素を含むことがある。粒界相にSiが拡散し、Siを含む(Y,Yb)−Al−O系化合物(例えば、SiO2−Al23−Y23)が生成する場合がある。SiC/SiC結晶粒界相について、ADF−STEM観察とEDS元素分析を行った結果、粒界相には、Y、Al、O、Si元素が検出された。
粒界相がY及びAlを含む場合、粒界相に含まれるAl23に対するY23のモル比(Y23/Al23比)は、耐熱性や焼結体密度に影響を与える。一般に、Y23/Al23比が過度に小さくなると、高融点の安定した結晶相が生成されずAl23+YAGの混相となり、サーミスタ材料の耐熱性が低下する。従って、Y23/Al23比は、0.2以上が好ましい。Y23/Al23比は、好ましくは、0.3以上、さらに好ましくは、0.4以上である。
一方、Y23/Al23比が過度に大きくなると、粒界相がY23+YAM相となり、焼結時に緻密化が十分に進行しなくなる場合がある。従って、Y23/Al23比は、4以下が好ましい。Y23/Al23比は、好ましくは、3以下、さらに好ましくは、2.5以下である。
Yb23/Al23比(モル比)についても、Y23/Al23比と同様である。
[1.2.2. 粒界相の結晶性]
粒界は、2個の結晶粒に挟まれた粒界(以下、これを「2粒界」ともいう)と、3個以上の結晶粒に囲まれた粒界(以下、これを「3粒界、又は三重点」ともいう)に大別される。3粒界は、結晶化しにくいが、2粒界は、比較的容易に結晶化する。
本発明において、「粒界相に結晶相が含まれる」とは、X線回折を行った時に、粒界相に対応する酸化物系の複合化合物のピークが検出されることをいう。
[1.2.3. 粒界相の厚さ]
粒界相の厚さは、材料中に含まれる粒界相の含有量により異なるが、通常、5nm以下である。3次元アトムプローブ(3DAP)及びTEM観察の分析によれば、粒界相の厚さは数nm程度である。例えば、マトリックス結晶粒子がAl23の場合、3DAPによる測定では、2粒界相の厚さは3nmであった。
[1.3. 第1分散粒子]
[1.3.1. 第1分散粒子の組成]
第1分散粒子は、マトリックス結晶粒子間又は粒界相に分散している。第1分散粒子は、後述する第2分散粒子と共に導電パスを形成している。第1分散粒子の電気比抵抗は、好ましくは、0.01Ωcm以上108Ωcm以下、さらに好ましくは、0.02Ωcm以上 105Ωcm以下である。本発明において、第1分散粒子は、α型SiC及び/又はβ型SiCを含む。第1分散粒子は、これらのいずれか一方のみからなるものでも良く、あるいは、双方からなるものでも良い。
SiCは、ホウ素、Al、N等の不純物元素がドープされていないものでも良く、あるいは、ドープされているものでも良い。不純物元素は、予めSiCにドープされていても良い。また、ある種の不純物元素は、焼結時にSiCに固溶させることもできる。ある種の不純物元素(例えば、N、P、Al、Co、N、Bなど)をSiCにドープすると、温度抵抗係数を大きくすることができる。SiCは、高温の酸化雰囲気下における耐久性が高く、かつ、温度抵抗係数(温度検知感度、B値)が大きいので、導電パスを形成するための分散粒子として好適である。
α型SiCは、高温安定型で、耐熱性は高いが、電気比抵抗は相対的に高い。一方、β型SiCは、α型SiCに比べて結晶の安定性が低く、耐熱性は低いが、電気比抵抗は相対的に低い。そのため、サーミスタ材料に含まれるα型SiC及びβ型SiCの含有量を最適化すると、耐熱性や、電気比抵抗及び温度抵抗係数を任意に制御することができる。
1000℃を超える高温域において、電気比抵抗を安定化させるためには、α型SiCに対するβ型SiCの体積比(β/α比)は、2/3以下が好ましい。β/α比は、好ましくは、1/2以下、さらに好ましくは、3/9以下である。
[1.3.2. 第1分散粒子の平均結晶粒径]
本発明において、第1分散粒子の平均結晶粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、第1分散粒子の平均結晶粒径が小さくなるほど、緻密化が促進されると共に、組織が細かくなるため、電気抵抗値のバラツキが小さくなる。第1分散粒子の平均結晶粒径は、5μm以下が好ましい。平均結晶粒径は、好ましくは、2μm以下、さらに好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.7μm以下である。
[1.4. 第2分散粒子]
[1.4.1. 第2分散粒子の組成]
第2分散粒子は、マトリックス結晶粒子間又は粒界相に分散している。第2分散粒子は、通常、上述した第1分散粒子と共に導電パスを形成している。第2分散粒子が導電パスの一部となるためには、第2分散粒子の電気比抵抗は、好ましくは、0.1Ωcm以上20Ωcm以下、さらに好ましくは、1Ωcm以上12Ωcm以下である。本発明において、第2分散粒子は、バナジウム化合物、及び/又は、チタン化合物からなる。バナジウム化合物、及びチタン化合物は、単に導電パスを形成するだけでなく、SiCの酸化を抑制する作用(酸化犠牲材としての作用)がある。これは、バナジウム化合物、及び/又はチタン化合物が酸素をトラップし、サーミスタ基材内の酸素拡散を防止することによって、SiCの表面酸化による表面抵抗の上昇を抑制するためと考えられる。
チタン酸化物の場合は、Ti23のように導電性を有する還元型酸化物が好ましいが、SiC粒子が導電パスを形成すれば良く、Ti23/TiO2混合相もしくはTiO2単相として粒界に分散してSiC粒子の酸化を抑制できれば良い。また、TiO2によって緻密化を促進できる場合がある。
バナジウムは複数の価数を取るため、種々のバナジウム化合物が存在する。バナジウム化合物としては、例えば、
(a)VN、V2N、V32などのバナジウム窒化物(VN)、
(b)VC、V2Cなどのバナジウム炭化物(VC)、
(c)VO、V25、V24、V23、V22、VO2などのバナジウム酸化物(VO)、
(d)VB、VB2などのバナジウムホウ化物(VB)、
(e)VSi2、V2Siなどのバナジウムケイ化物(VSi)、
(f)(a)〜(e)のいずれか2以上の化合物、
などがある。第2分散粒子は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
第2分散粒子がバナジウム酸化物(VO)を含む場合、バナジウム酸化物(VO)は、Vmn(1≦m≦4、1≦n≦5)で表される組成を持つものが好ましい。これは、
(a)mが過度に大きい場合、及びmが過度に小さい場合のいずれも、SiCの酸化抑制効果が低下するため、及び、
(b)nが過度に大きくなると、バナジウム酸化物(VO)の融点が低下し、サーミスタ材料の耐熱性が低下するため、
である。
mは、好ましくは、1以上2以下である。
また、nは、好ましくは、1以上4以下、さらに好ましくは、1以上3以下である。
第2分散粒子として好適なチタン化合物としては、例えば、
(a)TiB2、TiBなどのチタンホウ化物、
(b)TiNx(0.6≦x≦1.2)などのチタン窒化物、
(c)TiCなどのチタン炭化物、
(d)Ti23、TiOなどのチタン酸化物、
(e)TiSi2、TiSiなどのチタンケイ化物、
(f)(a)〜(d)のいずれか2以上の化合物、
などがある。第2分散粒子は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
[1.4.2. 第2分散粒子の平均結晶粒径]
本発明において、第2分散粒子の平均結晶粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、第2分散粒子の平均結晶粒径が小さくなるほど、電気抵抗値のバラツキが小さくなる。第2分散粒子の平均結晶粒径は、20μm以下が好ましい。平均結晶粒径は、好ましくは、5μm以下、さらに好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下である。
[1.5. 各成分の含有量]
本発明に係るサーミスタ材料は、所定量の粒界相、第1分散粒子、及び第2分散粒子を含み、残部がマトリックス粒子及び不可避的不純物からなる。各成分の含有量は、目的に応じて最適な値を選択することができる。
[1.5.1. 粒界相の含有量]
本発明に係るサーミスタ材料を焼結させる際には、Al23、Y23等の焼結助剤が添加される。添加された焼結助剤は、通常、焼結後に粒界相となって材料中に残存する。焼結助剤の一部が、マトリックス結晶粒子や第1分散粒子又は第2分散粒子内に固溶する場合もある。例えば、マトリックス粉末(原料粉末)としてSi34を用いる場合、Si34中にAl23が固溶してSiAlONを形成する場合がある。
結晶質の粒界相は、サーミスタ材料に耐熱性を付与する作用がある。粒界相(すなわち、焼結助剤)の含有量が過度に少ないと、十分に緻密化せず、かつ、高い機械的特性も得られない。従って、粒界相の含有量は、3vol%以上が好ましい。粒界相の含有量は、好ましくは、4vol%以上である。
一方、粒界相の含有量が過剰になると、粒界相の幅が増大し、耐熱性を低下させるだけでなく、高温の機械的特性の低下を招くおそれがある。従って、粒界相の含有量は、15vol%以下が好ましい。粒界相の含有量は、好ましくは、10vol%以下、さらに好ましくは、8vol%以下である。
なお、粒界相の含有量は、粒界相がY23、Al23、SiO2の化合物で構成されるため、焼結体中の酸素含有量及びマトリックス結晶粒子内に固溶しないイットリア量を定量分析することにより求めることができる。さらに、STEM観察により粒界相の状態を確認しながら、EDSによる定量分析により確認することができる。あるいは、EDSを用いてX線吸収差法を利用しても良い。
[1.5.2. 第1分散粒子の含有量]
第1分散粒子の含有量は、サーミスタ材料の電気抵抗値、温度抵抗係数(温度検知感度、B値)及び強度(緻密性)に影響を与える。すなわち、第1分散粒子の含有量は、温度の検出精度に影響を与える。一般に、第1分散粒子の含有量が過度に少ないと、導電パスが形成されにくくなり、電気抵抗値が上昇しやすくなる。すなわち、粒子間隔が広くなり、あるいは、導電パスの生成密度が低下するため、いわゆるパーコレーション構造が形成されなくなる。その結果、サーミスタ材料の電気抵抗値が大きくなりすぎたり、あるいは、導電性を発現できなくなるおそれがある。適度な電気抵抗値と高い強度を得るためには、第1分散粒子の含有量は、パーコレーション理論の臨界量以上の含有量が必要であり、15vol%以上が好ましい。第1分散粒子の含有量は、好ましくは、20vol%以上、さらに好ましくは、25vol%以上である。
一方、第1分散粒子の含有量が過剰になると、サーミスタ材料の電気抵抗値が過度に小さくなるだけでなく、第1分散粒子が凝集体を形成しやすくなり、これによってサーミスタ材料の表面から内部に向かって連続した気孔が生成し、その結果、開気孔率が増大する。これによってSiCの内部酸化の原因となるおそれがある。第1分散粒子が凝集体を形成すると、凝集体が破壊起点となり、かつ、緻密化不足となるため、強度は逆に低下し、温度抵抗係数(B値)もかえって小さくなる。適度な電気抵抗値及び温度抵抗係数(B値)、並びに、高い強度を得るためには、第1分散粒子の含有量は、40vol%以下が好ましい。第1分散粒子の含有量は、好ましくは、35vol%以下である。
[1.5.3. 第2分散粒子の含有量]
第2分散粒子の含有量は、サーミスタ材料の電気的特性だけでなく、耐酸化性にも影響を与える。一般に、第2分散粒子の含有量が過度に少ないと、第1分散粒子の酸化抑制効果(酸化犠牲材としての効果)が十分に得られない。従って、第2分散粒子の含有量は、0.1vol%以上が好ましい。第2分散粒子の含有量は、好ましくは、0.5vol%以上、さらに好ましくは、1.0vol%以上である。
一方、第2分散粒子の含有量が過剰になると、かえってサーミスタ材料の耐酸化性が低下する。これは、第2分散粒子の酸化領域が過剰に広くなり、酸化によって導電パスが切断されるためと考えられる。従って、第2分散粒子の含有量は、8vol%未満が好ましい。第2分散粒子の含有量は、好ましくは、5vol%以下である。
[1.6. 表面層]
本発明に係るサーミスタ材料は、非晶質又は結晶質のSiOxからなる表面層をさらに備えていても良い。サーミスタ材料の表面にSiOxからなる表面層を形成すると、サーミスタ材料の内部への酸素の拡散が抑制される。そのため、高温大気中において使用した際に、第1分散粒子の酸化を抑制することができる。xの値は、通常、1.5〜2である。酸化により、体積膨張が少ないガラス相を形成させることが好ましい。
表面層の厚さが薄すぎると、耐酸化性を向上させる効果に乏しい。従って、表面層の厚さは、1nm以上が好ましい。表面層の厚さは、好ましくは、2nm以上である。
一方、表面層の厚さが厚すぎると、熱膨張差等に起因した内部応力が増大し、表面層が剥離するおそれがある。従って、表面層の厚さは、5μm以下が好ましい。表面層の厚さは、好ましくは、2μm以下、さらに好ましくは、1μm以下である。
また、表面層は、緻密であるほど良い。表面層の緻密性の程度は、サーミスタ材料を酸化雰囲気下に暴露したときの重量増加量で表すことができる。高い耐酸化性を得るためには、重量増加量は、3mg/cm2以下が好ましい。重量増加量は、好ましくは、1.5mg/cm2以下、さらに好ましくは、1mg/cm2以下である。
ここで、「重量増加量」とは、次の式(1)で表される値を言う。
重量増加量=(W−W0)×100/S ・・・(1)
但し、
Wは、4mm×4mm×1.2mmのサーミスタ材料を大気中、1050℃で50時間加熱する暴露処理後のサーミスタ材料の重量、
0は、暴露処理前のサーミスタ材料の重量、
Sは、サーミスタ材料の表面積。
[1.7. ワイドレンジサーミスタ材料の特性]
[1.7.1. 耐酸化性]
SiCを高温大気中に暴露すると、SiCが酸化する。その結果、最表面にはSiO2相が生成し、表面直下にはSi、O、及びCを含む相(Si−O−C相)が生成することが知られている。Si−O−C相は、SiCの酸化によって生じたCが完全に昇華しないで残存するために生成すると考えられている。SiCを含む従来のサーミスタ材料を高温大気中に長時間暴露すると、表面が白色化することがある。この白色化は、サーミスタ材料の最表面に厚膜のSiO2相が生成することにより生じると考えられる。
これに対し、本発明に係るサーミスタ材料において、各成分の含有量を最適化すると、大気中、1050℃で50時間加熱した時に、サーミスタ材料表面の白色化が起こらない。これは、SiCからなる第1分散粒子とバナジウム化合物及び/又はチタン化合物からなる第2分散粒子とを共存さることにより、バナジウム化合物及び/又はチタン化合物がSiCの酸化犠牲材として作用して内部に拡散する酸素をトラップするため、サーミスタ材料の内部に拡散する酸素が低減し、サーミスタ材料内部のSiC表面におけるSiO2の生成が抑制されるためと考えられる。
このような白色化(表面酸化によるSiO2相の生成)は、大気中高温雰囲気下で熱処理することにより、サーミスタ材料の表面に予め薄く、かつ緻密なSiOxからなる表面層を形成すること(いわゆる「パッシブ酸化」を生じさせること)により、さらに抑制される。
[1.7.2. 温度抵抗係数(B値)]
本発明において、「温度抵抗係数(B値)」とは、電気抵抗(R)と温度(T;セルシウス温度)の関係をR=Aexp(−BT)で近似したときの定数Bをいう。
本発明に係るサーミスタ材料において、電気抵抗(R)と温度(T)との関係をR=Aexp(−BT)で表した場合、少なくとも−80℃〜1050℃の温度範囲においてlogRがTに対して直線的に変化する(抵抗値が温度に対して片対数グラフ上で直線的に変化する)。そのため、広い温度範囲において、温度検知感度(B値)が低下することなく、温度を正確に検出することができる。B値は、サーミスタ材料の組成により若干異なるが、通常、0.0005〜0.01の範囲となる。
[1.7.3. 電気比抵抗]
本発明に係るサーミスタ材料において、各成分の含有量やマトリックス粒子の粒径を制御すると、電気比抵抗ρを制御することができる。具体的には、各成分の含有量やマトリックス粒子の粒径を制御すると、電気比抵抗ρが0.1〜150kΩcmであるサーミスタ材料が得られる。
[1.7.4. 抵抗変化率]
「抵抗変化率」とは、次の式(2)で表される値をいう。
抵抗変化率=(R−R0)×100/R0・・・(2)
但し、
Rは、大気中、T℃でt時間暴露後の室温での電気抵抗値、
0は、基準状態の室温での電気抵抗値。
基準状態は、目的に応じて任意に選択することができる。基準状態としては、例えば、
(a)暴露前の状態、
(b)大気中、T℃でt0(t0<t)時間暴露した状態、
などがある。
本発明に係るサーミスタ材料は、暴露処理直後は、抵抗値が増加又は減少することはあるが、過渡期を過ぎると抵抗値がほぼ安定化する。具体的には、1050℃で暴露した場合、200〜1500時間の抵抗変化率(200時間経過後(基準状態)の抵抗値に対する1500時間経過後の抵抗値の変化率)は、±5%以下となる。
[1.7.5. ワイドレンジサーミスタ材料の開気孔率]
第1分散粒子の内部酸化を抑制するためには、サーミスタ材料の開気孔率は小さいほど良い。高い耐酸化性を得るためには、サーミスタ材料の開気孔率は、0.5%未満が好ましい。開気孔率は、好ましくは、0.25%以下、さらに好ましくは、0.10%以下である。
ここで、「開気孔率」とは、(飽水重量−乾燥重量)×100/(飽水重量−水中重量)によって算出された値をいう。各重量は、JIS規格 R 1634に準拠して、アルキメデス法により求められる。
[2. ワイドレンジサーミスタ材料の製造方法]
本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料の製造方法は、粉砕・混合工程と、成形・焼結工程とを備えている。本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料の製造方法は、これらに加えて、析出工程(アニール工程)と、表面処理工程とをさらに備えていても良い。
[2.1. 粉砕・混合工程]
まず、本発明に係るワイドレンジサーミスタ材料を製造するための原料を混合及び/又は粉砕する(粉砕・混合工程)。粉砕・混合工程は、具体的には、
前記絶縁性セラミックスからなるマトリックス粉末と、
前記粒界相を形成するための粒界相源と、
前記α型SiC及び/又は前記β型SiCを含む第1分散粒子源と、
前記バナジウム窒化物(VN)、前記バナジウム炭化物(VC)、前記バナジウム酸化物(VO)、前記バナジウムホウ化物(VB)、及び前記バナジウムケイ化物(VSi)からなる群から選ばれるいずれか1以上のバナジウム化合物、及び/又は、チタンホウ化物、チタン窒化物、チタン炭化物、チタン酸化物、及びチタンケイ化物からなる群から選ばれるいずれか1以上のチタン化合物を含む第2分散粒子源と、
を混合及び/又は粉砕するものからなる。
なお、抵抗値のバラツキを抑えるため、粉砕・混合工程に代えて、上記の原料粉末の混合物を仮焼した後、粉砕し、粉砕粉を成形及び焼結しても良い。
[2.1.1. マトリックス粉末]
マトリックス粉末は、絶縁性セラミックスからなる。マトリックス粉末としては、例えば、Al23粉末、Si34粉末、サイアロン粉末、ZrO2粉末、ムライト粉末、イットリア粉末、AlN粉末、Mg2AlO4粉末、2MgO・SiO2粉末、ジルコン粉末、ステアタイト粉末などがある。
また、マトリックス粉末は、焼結中に他の原料と反応し、目的とする絶縁性セラミックスを生成させるものでも良い。例えば、マトリックス粉末としてSi34を用い、粒界相源としてAl23を用いた場合、焼結中にAl23の一部がSi34に固溶し、サイアロンが生成する場合がある。
焼結体の密度が低くなるほど、より多くの開気孔が残存し、焼結体内部に酸素が拡散しやすくなる。特に、SiC粉末は難焼結であることから、凝集すると開気孔を形成しやすい。高温大気中において使用した場合においても、第1分散粒子の内部酸化を抑制するためには、焼結体の相対密度は高いほど良い。緻密な焼結体を得るためには、マトリックス粉末の平均粒径(一次粒子径)は、小さいほど良い。また、成形性が良くなる程度に粒度分布がブロードな方が良い。緻密な焼結体を得るためには、マトリックス粉末の平均粒径(一次粒子径)は、1μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、0.7μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下である。
ここで、「平均粒径」とは、レーザー回折・散乱法により測定された粉末の粒径のメディアン径(D50)をいう。
[2.1.2. 粒界相源]
「粒界相源」とは、粒界相を形成するための原料粉末をいう。粒界相は、実質的に粒界相源のみから形成される場合と、粒界相源と他の原料粉末(例えば、マトリックス粉末)とが反応することにより形成される場合とがある。
例えば、マトリックス粉末がSi34である場合、粒界相源として、Alを含む粉末(以下、「Al源粉末」ともいう)と、Y及び/又はYbを含む粉末(以下、「(Y,Yb)源粉末」ともいう)とを用いるのが好ましい。この場合、粒界相は、主として粒界相源のみ、あるいは、粒界相源とSi34やSiC表面のSiO2から形成される。
あるいは、マトリックス粉末がAl23である場合、粒界相源として(Y,Yb)源粉末を用いるのが好ましい。この場合、粒界相は、マトリックス(Al23)の一部と、(Y,Yb)源粉末の全部又は一部とが反応することにより形成される。
(Y,Yb)−Al−O系化合物は、高融点であるものが多い。そのため、出発原料に(Y,Yb)−Al−O系化合物を直接添加しても、緻密な焼結体を得るのが難しい。高密度の焼結体を容易に得るためには、出発原料としてAl源粉末及び/又は(Y,Yb)源粉末を用い、焼結中に(Y,Yb)−Al−O系化合物を生成させるのが好ましい。Al源粉末及び(Y,Yb)源粉末は、いずれも、粒界相を形成するための原料であると同時に、焼結助剤としても機能する
Al源粉末としては、例えば、Al23粉末、AlN粉末などがある。Al源粉末として複数の粉末を用いる場合、その比率は、目的に応じて任意に選択することができる。
同様に、(Y,Yb)源粉末としては、例えば、Y23粉末、Yb23粉末などがある。(Y,Yb)源粉末として複数の粉末を用いる場合、その比率は目的に応じて任意に選択することができる。
緻密な焼結体を得るためには、粒界相源の平均粒径もまた、小さいほど良い。緻密な焼結体を得るためには、これらの平均粒径は、それぞれ、0.5μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、0.3μm以下、さらに好ましくは、0.05μm以下である。
[2.1.3. 第1分散粒子源]
第1分散粒子源には、α型SiC及び/又はβ型SiCを含む粉末を用いる。第1分散粒子源としてα型SiC及びβ型SiCの双方を用いる場合、その比率は目的に応じて任意に選択することができる。SiC粉末は、焼結中に粒成長することはほとんどないが、その一部が他の原料と反応し、SiC粉末の表面又は他の原料(例えば、マトリックス粒子)の表面に結晶質の無機化合物が生成する場合がある。
第1分散粒子源の平均粒径は、相対的に大きくても良い。しかし、第1分散粒子源の平均粒径が大きくなりすぎると、焼結体の密度が低下し、あるいは、電気抵抗のバラツキが大きくなる。焼結体を緻密化し、かつ、電気抵抗のバラツキを小さくするためには、第1分散粒子源の平均粒径は、5μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下、さらに好ましくは、0.3μm以下である。
[2.1.4. 第2分散粒子源]
第2分散粒子源には、バナジウム窒化物(VN)、バナジウム炭化物(VC)、バナジウム酸化物(VO)、バナジウムホウ化物(VB)、及びバナジウムケイ化物(VSi)からなる群から選ばれるいずれか1以上のバナジウム化合物、及び/又は、チタンホウ化物、チタン窒化物、チタン炭化物、チタン酸化物、及びチタンケイ化物からなる群から選ばれるいずれか1以上のチタン化合物を含む粉末を用いる。
第2分散粒子源として、2種以上のバナジウム化合物粉末を用いる場合、その比率は、目的に応じて任意に選択することができる。バナジウム化合物粉末は、焼結中に粒成長することはほとんどないが、その全部又は一部が他の原料と反応する場合がある。例えば、バナジウム化合物粉末として、バナジウム窒化物を用いる場合、焼結中にバナジウム窒化物の全部又は一部がSiC及び不純物であるフリーカーボンと反応してバナジウム炭化物が生成する場合がある。この点は、チタン化合物も同じである。また、TiO2の場合は、SiC及び不純物であるフリーカーボンと反応して導電性を有する炭化チタンを生成する。窒素雰囲気中で焼結する場合は、同様に導電性がある窒化チタンを生成する場合がある。
第2分散粒子源の平均粒径は、相対的に大きくても良い。しかし、第2分散粒子源の平均粒径が大きくなりすぎると、焼結体の密度が低下し、あるいは、電気抵抗のバラツキが大きくなる。焼結体を緻密化し、かつ、電気抵抗のバラツキを小さくするためには、第2分散粒子源の平均粒径は、10μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、5μm以下、さらに好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、0.5μm以下である。
[2.1.5. 各原料の配合量]
各原料の配合量は、目的に応じて最適な値を選択する。高密度であり、電気抵抗のバラツキが小さく、かつ、耐酸化性及び耐熱性に優れたサーミスタ材料を得るためには、
前記粒界相源が3vol%以上15vol%以下となり、
前記第1分散粒子源が15vol%以上40vol%以下となり、
前記第2分散粒子源が0.1vol%以上8vol%未満となり、
残部が前記マトリックス粉末となるように、
これらを混合及び/又は粉砕するのが好ましい。
例えば、マトリックスがY23である場合、粒界相源としてAl源粉末のみを用いるのが好ましい。この場合、Al源粉末の配合量は、6vol%以上12vol%以下が好ましい。
また、マトリックスがAl23である場合、粒界相源として(Y,Yb)源粉末のみを用いるのが好ましい。この場合、(Y,Yb)源粉末の配合量は、3vol%以上10vol%以下が好ましく、さらに好ましくは、4vol%以上8vol%以下である。
さらに、マトリックスがAl23及びY23以外である場合、粒界相源としてAl源粉末及び(Y,Yb)源粉末の双方を用いる。この場合、粒界相源の総量が15vol%以下であることに加えて、Al源粉末の配合量が3vol%以上8vol%以下であり、かつ、(Y,Yb)源粉末の配合量が2.5vol%以上8vol%以下であるのが好ましい。
適度な電気抵抗値と高い強度を得るためには、第1分散粒子源の配合量は、好ましくは、パーコレーション構造を形成する臨界値である16vol%以上、好ましくは、20vol%以上、さらに好ましくは、25vol%以上である。
また、適度な電気抵抗値及び温度抵抗係数(B値)、並びに、高い強度と緻密性を得るためには、第1分散粒子源の配合量は、好ましくは、35vol%以下である。
酸化抑制効果を得るためには、第2分散粒子源の配合量は、好ましくは、0.5vol%以上、さらに好ましくは、1.0vol%以上である。
また、耐酸化性の低下を抑制するためには、第2分散粒子源の配合量は、好ましくは、5vol%以下である。
さらに、原料粉末を混合する際には、必要に応じて、バインダーや分散安定剤を添加しても良い。バインダーや分散安定剤の配合量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な配合量を選択することができる。さらに、スプレードライヤー等の噴霧乾燥を行い、混合/粉砕した粉末を造粒することにより、金型内での流動性が改良され、成形性及び緻密性を向上させることができる。
[2.2. 成形・焼結工程]
次に、粉砕・混合工程で得られた混合粉末を成形及び焼結させる(成形・焼結工程)。
成形方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択すればよい。成形方法としては、具体的には、プレス成形法、CIP成形法、鋳込み成形法、可塑成形法、射出成形法、スリップキャスト成形法、ガラス封止法、押し出し成形法、テープ成形法、ドクターブレード法などがある。また、焼結後の仕上加工の工数を削減するために、予めバインダーを入れた成形体に対して生加工を施しても良い。
焼結温度は、材料組成に応じて最適な温度を選択する。一般に、焼結温度が高くなるほど、高密度の焼結体が得られる。一方、焼結温度が高すぎると、マトリックス粒子の粒成長が過度に進行し、強度低下が起こるとともに、第1分散粒子及び第2分散粒子の分布が不均一となる。さらに、原料が分解・昇華するおそれもある。
例えば、マトリックス粉末がSi34粉末である場合、焼結温度は、1850℃±50℃が好ましい。焼結温度が1900℃を超えると、Si34の分解・昇華が起こる。
また、マトリックス粉末がAl23粉末である場合、焼結温度は、1750℃±50℃が好ましい。
焼結時間は、焼結温度に応じて、最適な時間を選択する。
焼結方法は、特に限定されない。緻密な焼結体を得るためには、ホットプレス処理、SPS(Spark Plasma Sintering)処理やHIP処理等の加圧焼結が好ましい。
[2.3. 析出工程(アニール工程)]
次に、必要に応じて、成形・焼結工程で得られた焼結体を熱処理し、粒界相中に結晶相を生成させる(析出工程)。粒界相の結晶化のしやすさは、原料組成により異なる。例えば、マトリックス粉末としてAl23粉末を用いる場合、焼結終了時点で粒界相が結晶化している場合がある。このような場合には、析出工程は、不要である。
一方、マトリックス粉末としてSi34粉末を用いる場合、焼結終了時点で粒界相が結晶化していない、若しくは結晶化が不十分である場合がある。このような場合、得られた焼結体を所定の条件下で熱処理(アニール処理)し、粒界相を結晶化させる必要がある。
最適な熱処理条件は、原料組成により異なる。例えば、マトリックス粉末としてSi34粉末を用いる場合、熱処理温度が低すぎると、結晶化が不十分となる。従って、熱処理温度は、1100℃以上が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1200℃以上、さらに好ましくは、1300℃以上である。
一方、熱処理温度が高すぎると、Si34結晶の異常成長や元素拡散が起こる。従って、熱処理温度は、1800℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1750℃以下、さらに好ましくは、1700℃以下である。
熱処理時間は、熱処理温度に応じて最適な時間を選択する。一般に、熱処理温度が高くなるほど、短時間で粒界相を結晶化させることができる。最適な熱処理時間は、原料組成にもよるが、通常、2時間〜12時間である。
析出処理は、室温まで冷却した焼結体を再加熱することにより行っても良く、あるいは、焼結工程終了後の降温途中で行っても良い。
[2.4. 表面処理工程]
次に、必要に応じて、焼結体の表面に緻密なSiOxからなる表面層を形成する(表面処理工程)。上述したように、焼結体の表面をSiOxからなる表面層で被覆すると、第1分散粒子の内部酸化を抑制することができる。
このような表面層を形成する方法としては、例えば、
(a)少なくとも800℃以上の高温雰囲気での耐酸化性を向上させるために、それより高い1100℃以上の大気中で酸化処理することにより、外部からの酸素を遮蔽可能な緻密な酸化膜を形成することでサーミスタ材料内部への酸化現象を抑制する方法、
(b)スパッタ、PLD(Pulse Laser Deposition)、電子ビーム等を用いて焼結体の表面をSiOx膜で被覆し、ポストアニールする方法、
(c)ゾルゲル法等の化学的処理によりSiOx前駆体被覆を形成し、ポストアニールする方法、
などがある。
[2.5. 電極接合工程]
得られた焼結体を適当な大きさに切断し、両面に電極を接合すれば、サーミスタ素子が得られる。電極の材質は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。電極は、好ましくは、耐酸化性と耐熱性の両方を有する材料が好ましい。さらに、電極は、熱膨張係数がマトリックス粒子に近い金属又は化合物からなる材料が好ましい。
[3. 作用]
SiCを含有する従来のサーミスタ材料を大気中、700℃以上の雰囲気中に暴露した場合、SiCの酸化によって電気抵抗値が変化する。具体的には、700℃〜1000℃の温度域では、電気抵抗値が暴露時間の増加に伴って上昇する。一方、1000℃を超える温度域では、電気抵抗値が暴露時間の増加に伴って上昇(Si34系サーミスタの場合)、又は低下(Al23系サーミスタの場合)する。これは、導電パスを形成しているSiCの酸化や元素拡散に起因すると考えられる。
これに対し、絶縁性セラミックスからなるマトリックス結晶粒子間にSiCを含む第1分散粒子を分散させたワイドレンジサーミスタ材料において、粒界に(Y,Yb)−Al−O系化合物からなる結晶質の無機化合物を析出させ、かつ、バナジウム化合物及び/又はチタン化合物を含む第2分散粒子をさらに分散させると、高温域での電気抵抗値の変動が抑制される。これは、
(a)粒界ガラス相により焼結体の緻密化が促進され、開気孔の生成(残存)が抑制されるため、及び、これによって開気孔を通した内部への酸素拡散が抑制され、SiCの内部酸化が起こりにくくなるため、
(b)SiCとバナジウム化合物及び/又はチタン化合物とを共存させることにより、バナジウム化合物及び/又はチタン化合物が酸素をトラップし、SiCの表面酸化を抑制するため、並びに、
(c)粒界に高融点の結晶相を析出させることにより、粒界相の耐熱性が向上し、高温域での元素拡散が抑制されるため、
と考えられる。
(実施例1〜2、2B、比較例1〜2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
出発原料には、平均粒径:0.7μmのAl23粉末、平均粒径:0.1μmのY23粉末、平均粒径:0.7μm以下のα型SiC粉末、平均粒径:4μmのVN粉末、及び、平均粒径:0.4μm以下のβ型SiC粉末を用いた。予め、ボールミルを用いてSiC粉末を120h粉砕処理した後、Al23粉末:Y23粉末:SiC粉末:VN粉末=45.6mol%:2.5mol%:46.6mol%:5.3mol%(61.0vol%:5.9vol%:30.1vol%:3.0vol%)となるように原料を秤量し、ボールミル混合した。β/α比=1/9とした。混合後、混合スラリーを乾燥させた。
次に、乾燥粉末を一軸プレス成形した。得られた成形体をAr中、1750℃×20MPa×60分間の条件下でホットプレス処理を行った。焼結体の開気孔率は0%であった。
[1.2. 実施例2]
SiC原料粉末を平均粒径:0.7μmのβ型SiC粉末のみとして、Al23粉末:Y23粉末:SiC粉末:VN粉末=45.6mol%:2.5mol%:46.6mol%:5.3mol%(61.0vol%:5.9vol%:30.1vol%:3.0vol%)となるように原料粉末を混合した。以下、実施例1と同様なプロセスで焼結体を作製した。焼結体の開気孔率は0.3%であった。
[1.3. 実施例2B]
SiC原料粉末を平均粒径0.7μmのβ型SiC粉末のみとし、平均粒径が0.1μmであるAl23粉末(1)(緻密化温度が1300℃)、及び平均粒径が0.7μmのAl23粉末(2)(緻密化温度が1700℃)の2種類のタイプのAl23粉末を原料として用いた。それ以外の原料は、実施例1と同一のものを用いた。
Al23粉末(1):Al23粉末(2):Y23粉末:SiC粉末:VN粉末=40.9mol%:4.9mol%:2.1mol%:46.7mol%:5.4mol%(54.7vol%:6.4vol%:5.6vol%:30.3vol%:3.0vol%)となるように原料粉末を混合し、焼結体を作製した。この配合割合は、Al23粉末(2)の量が5mol%で、Y23粉末が3mol%となるように仕込んだ組成に相当する。焼結体の開気孔率は、0.3%であった。
[1.4. 比較例1]
出発原料として、平均粒径:1.5μmのAl23を用いた以外は、実施例1と同様にして焼結体を作製した。焼結体の開気孔率は、0.6%であった。
[1.5. 比較例2]
VN配合量を0vol%とし、Al23を50.9mol%(64.0vol%)とした以外は、比較例1と同様にして焼結体を作製した。焼結体の開気孔率は、0.3%であった。
[2. 評価]
[2.1. X線回折]
図1に、実施例1で得られたワイドレンジサーミスタ材料のX線回折パターンを示す。図1より、得られた焼結体は、Al23、SiC、VC、及びY3Al512(結晶相)の混合相であることがわかる。なお、VNに対応するX線回折ピークは確認されなかった。これは、焼結中にVNとフリーC及び/又はSiCが反応し、VCが生成したためと考えられる。実施例2については、図示はしないが、β型SiC(3C−SiC)のピークを除くと、実施例1とほぼ同様のX線回折パターンを示した。実施例2Bについても実施例1とほぼ同様のX線回折パターンを示した。
[2.2. 温度抵抗係数(B値)]
実施例1〜2、2B、及び比較例1で得られた焼結体について、電気抵抗値の温度依存性を測定した。いずれの焼結体とも、電気抵抗値の対数(logR)と温度(T)との間に直線的な関係を示した。電気抵抗値(R)と温度(T)との関係をR=Alog(−BT)(Aは0℃における電気抵抗値、Bは温度抵抗係数)で表した時に、実施例1〜2、2B、及び比較例1のB値は、いずれも0.004〜0.006であった。
[2.3. 抵抗安定性]
図2に、抵抗変化率測定用試料の作製方法の模式図を示す。図2に示すように、φ40mm×t1.2mmの焼結体から、4mm×4mm×1.2mmのチップ型素子を切り出した。チップ型素子のサンプリング位置(=焼結体の中心からチップ型素子の中心までの距離)は、2〜14.9mmとした。これらのサンプリングした素子の上下面に電極を形成し、上下電極間の抵抗値を測定し、初期(暴露前)状態での抵抗値とした。抵抗値を測定後、チップ型素子の上下面に形成した電極を除去した。
次に、チップ型素子を大気中、500℃又は1050℃の雰囲気に所定時間暴露した。暴露試験後、チップ型素子の表面に形成された酸化膜を除去し、さらにチップ型素子の上下面に電極を形成した。このように形成した電極間の抵抗値を測定し、暴露処理後の抵抗値を求めた。また、暴露前又は一定時間暴露後の同位置での抵抗値、及び暴露後の抵抗値から抵抗変化率を算出した。
[2.3.1. 500℃での抵抗安定性]
500℃で暴露した場合、図示はしないが、実施例1〜2、2B、及び比較例1のいずれも、抵抗変化率(暴露前の抵抗値に対する500℃暴露後の抵抗値の変化率)は±2%と小さかった。
[2.3.2. 1050℃での抵抗安定性(200時間〜1500時間)]
図3に、実施例1及び比較例1で得られたチップ型素子を大気中、1050℃で1500時間加熱した時の抵抗変化率を示す。図3において、「抵抗変化率」とは、200時間経過後の抵抗値(R0)に対する1500時間経過後の抵抗値(R)の変化率(=(R−R0)×100/R0)をいう。図3の棒グラフは、複数箇所(N=4)で採取されたチップ型素子の抵抗変化率の平均値を表す。
比較例1のチップ型素子を1050℃で暴露した場合、時間経過に伴って抵抗値が大きく変化した。200時間から1500時間の間の抵抗変化率は、焼結体の中心からの距離によらず、約−20%であった。
これに対し、実施例1のチップ型素子を1050℃で暴露した場合、耐久試験開始から100〜200時間の暴露初期の間に抵抗値が変化したが、その後は安定化することがわかった。1500時間暴露した場合における200時間から1500時間の間の抵抗変化率は、焼結体の中心からの距離によらず、約±5%であった。図示はしないが、実施例2及び2Bのチップ型素子も実施例1と同様の傾向を示した。
[2.3.3. 1050℃における抵抗安定性(暴露直後〜50時間)]
実施例1〜2及び比較例2で得られたチップ型素子を大気中、1050℃で50時間暴露した時の、焼結体の中心からの距離と初期抵抗変化率との関係を調べた。ここで、「初期抵抗変化率」とは、暴露前の抵抗値(R0)に対する50時間経過後の抵抗値(R)の変化率(=(R−R0)×100/R0)をいう。その結果、以下のことが分かった。
(1)酸化抑制剤であるVNを3%添加した場合(実施例1〜2、2B)の初期抵抗変化率は、焼結体の中心からの距離によらず±5%以内であった。
(2)VNを添加しない場合(比較例2)、初期抵抗変化率は、焼結体の中心からの距離によらず、約−50%であった。
[2.4. ラマン分析]
実施例1〜2及び比較例1で得られた焼結体について、それぞれ、大気中、1050℃で1500時間暴露後の表面のラマン分析を行った。その結果、実施例1〜2、2Bではアモルファスカーボンが検出されなかった。一方、比較例1ではアモルファスカーボンが検出された。これは、SiCの酸化に由来するカーボン(Si−C−O相の生成に由来するカーボン)であると推察される。
[2.5. 3次元アトムプローブ(3DAP)分析]
比較例1の焼結体について、大気中、1050℃で1500時間暴露後の基材のSiC/SiC界面の3DAP分析を行った.その結果、高温暴露後に抵抗値が大きく変化した比較例1では、サーミスタ材料内部に分散しているSiC/SiC粒子界面でSiCの酸化が起こっていることが確認された。この結果、SiC/SiC粒子間にできた開気孔を通して酸素がサーミスタ材料の内部に拡散し、SiCの抵抗が変化することが示唆された。
(比較例3、3B、4)
[1. 試料の作製]
Al23粉末:Y23粉末:SiC粉末:VN粉末=43.0mol%:2.5mol%:45.7mol%:8.8mol%(58.5vol%:5.9vol%:30.4vol%:5.2vol%)となるように原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、焼結体を作製した(比較例3)。また、Al23粉末:Y23粉末:SiC粉末:VN粉末=50.0mol%:2.8mol%:31.8mol%:15.4mol%(64.9vol%:6.4vol%:20.1vol%:8.6vol%)となるように原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、焼結体を作製した(比較例3B)。焼結体の開気孔率は、いずれも0.3%であった。
さらに、Y3Al512焼結体粉末:SiC粉末:VN粉末=15.7mol%:75.6mol%:8.7mol%(63vol%:34vol%:3vol%)となるように原料を秤量した以外は、実施例1と同様にして、焼結体を作製した(比較例4)。焼結体の開気孔率は、20%であった。
[2. 評価]
得られた焼結体から、□4mm、厚さ1.2mmのサンプルを切り出し、大気中1050℃の雰囲気下で暴露した。試料表面に形成された酸化膜を除去し、試料表面の上下に電極を付けて、50〜1500時間の間の抵抗変化率を測定した。その結果、比較例3の試料は、表面の全面が白色化し、50時間で抵抗値が不安定に上昇した。その抵抗変化率は、24〜38%であった。また、比較例3Bの試料表面は、全面が白色化し、抵抗変化率は50時間で35%以上上昇した。試料表面の白色化現象は、試料の表面酸化が顕著に進み、SiO2が生成したためと推定される。
さらに、比較例4の抵抗変化率は、−21%〜−38%であった。
(実施例3)
[1. 試料の作製]
出発原料には、平均粒径:0.7μmのSi34粉末、平均粒径:0.1μmのAl23粉末、平均粒径:0.5μmのY23粉末、平均粒径:0.5μmのα型SiC粉末、及び、平均粒径:2〜5μmのTiB2粉末を用いた。Si34粉末:Al23粉末:Y23粉末:SiC粉末:TiB2粉末=32.45mol%:1.63mol%:4.71mol%:56.5mol%:4.71mol%(59.1vol%:2.9vol%:5.0vol%:30vol%:3vol%)となるように原料を秤量し、ボールミル混合した。混合後、混合粉末を乾燥させた。
次に、混合粉末を一軸プレス成形した。得られた成形体をAr中又はN2中、1850℃×20MPa×30分間の条件下でホットプレス処理を行った。さらに、1850℃から降温する際、1400℃で5時間、又は1600℃で5時間保持した。保持終了後、降温を再開し、焼結体を得た。焼結体の開気孔率は、0%であった。
[2. 評価]
得られた焼結体を大気中、1050℃で1500時間保持品については500時間まで、また、1600℃については1500時間暴露した後、抵抗値の変化を測定した。その結果、1500時間保持品は0%、1600℃保持品については5%以内であった。
(実施例4、4B)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例4]
出発原料には、平均粒径:0.7μmのSi34粉末、平均粒径:0.1μmのAl23粉末、平均粒径:0.6μmのAlN粉末、平均粒径:1μmのY23粉末、平均粒径:0.7μm以下のβ型SiC粉末、及び平均粒径:4μmのVN粉末を用いた。Si34粉末:Y23粉末:Al23粉末:AlN粉末:SiC粉末:VN粉末=27.5mol%:2.0mol%:5.7mol%:3.4mol%:54.8mol%:6.6mol%(53.4vol%:4.4vol%:6.5vol%:3.0vol%:30.0vol%:3.0vol%)となるように原料粉末を秤量し、ボールミルで混合した。混合後、混合粉末スラリーを乾燥させた。
次に、乾燥した混合粉末を一軸プレス成形後、得られた成形体をAr中において、1850℃×60分×20MPaの条件でホットプレスした。焼結体の開気孔率は、0.1%であった。
[1.2. 実施例4B]
上記実施例4において、1850℃から降温する際、1600℃で1.5時間保持した。保持終了後、降温を再開し、焼結体を得た。焼結体の開気孔率は、0%であった。
[2. 評価]
得られた焼結体から4mm角×厚さ1.2mmのチップ型試料を4個切り出し、酸化試験に供した。酸化試験条件は、1050℃×250時間とした。酸化後、試料上下面の酸化膜を除去し、暴露前後の抵抗変化率を測定した。
図4に、耐熱性金属電極を接合したチップ型素子(実施例4)を大気中、1050℃に暴露した場合の抵抗変化率を示す。実施例4の抵抗変化率(=暴露前の抵抗値に対する250時間暴露後の抵抗値の変化率)は、+1%〜+5%であった。さらに、1600℃で1.5時間保持した焼結体の抵抗変化率は、150時間後で2〜4%であった。
(実施例5)
[1. 試料の作製]
出発原料には、平均粒径:0.7μmのSi34、平均粒径:0.1μmのAl23粉末、平均粒径:0.6μm程度のAlN粉末、平均粒径:1μmのY23粉末、平均粒径:0.7μmのβ型SiC粉末、及び平均粒径:2μm程度のTiC粉末を用いた。Si34粉末:Y23粉末:Al23粉末:AlN粉末:β型SiC粉末:TiC粉末=38.2mol%:3.1mol%:8.0mol%:7.7mol%:35.7mol%:7.3mol%(53.3vol%:4.4vol%:6.5vol%:3.1vol%:29.9vol%:2.8vol%)となるように原料粉末を秤量した。以下、実施例4と同様にして、焼結体を作製した。開気孔率は、0.1%以下であった。
[2. 評価]
得られた焼結体から4mm角×厚さ1.2mmのチップ型試料を切り出し、酸化試験に共した。酸化試験は、1050℃×100時間とした。酸化後、試料上下面の酸化膜を除去し、暴露前後の抵抗変化率を測定した。実施例5の抵抗変化率は、+3%以下であった。
(実施例6、6B)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例6]
出発原料には、平均粒径:0.7μmのSi34、平均粒径:0.1μmのAl23粉末、平均粒径:1μmのYb23粉末、平均粒径:0.7μm以下のβ型SiC粉末、及び平均粒径:4μm程度のVN粉末を用いた。Si34粉末:Al23粉末:Yb23粉末:SiC粉末:VN粉末=31.8mol%:4.6mol%:1.65mol%:55.4mol%:6.55mol%(59.0vol%:5.0vol%:3.0vol%:30.0vol%:3.0vol%)となるように原料粉末を秤量した。以下、実施例4と同様にして、焼結体を作製した。開気孔率は、0.1%以下であった。
[1.2. 実施例6B]
出発原料には、平均粒径0.7μmのSi34、平均粒径:1μmのYb23粉末、平均粒径0.7μmのβ型SiC粉末、及び平均粒径4μm程度のTiB2粉末を用いた。Si34粉末:Yb23粉末:SiC粉末:TiB2粉末=32.5mol%:4.3mol%:56.5mol%:6.7mol%(60.2vol%:7.6vol%:28.1vol%:4.1vol%)となるように原料を秤量した。以下、実施例4と同様にして焼結体を作製した。
[2. 評価]
得られた焼結体から4mm角×厚さ1.2mmのチップ型試料を切り出し、酸化試験に共した。酸化試験は、1050℃×100時間とした。酸化後、試料上下面の酸化膜を除去し、暴露前後の抵抗変化率を測定した。実施例6及び6Bの抵抗変化率は、−5%〜0%であった。
(比較例5)
[1. 試料の作製]
実施例1の混合粉末をAr中において、1600℃×20分間×20MPaの条件でホットプレスした。焼結体の開気孔率は、10%であった。
[2. 評価]
得られた焼結体から4mm角×厚さ1.2mmのチップ型試料を4個切り出し、酸化試験に供した。酸化試験条件は、1050℃×50時間とした。酸化後、試料上下面の酸化膜を除去し、暴露前後の抵抗変化率を測定した。その結果、比較例5の抵抗変化率(=暴露前の抵抗値に対する100時間暴露後の抵抗値の変化率)は、−92%〜−94%であった。
(実施例7)
実施例4で得られたチップ型試料の上下面に、耐熱性・耐酸化性の高い金属材料を接合したチップ型素子を作製した。このチップ型素子を大気中において、1050℃で暴露し、電極膜を除去せずに同一電極で抵抗値の変化率を評価した。図5に、その結果を示す。
暴露時間が250時間以上になると、金属表面に薄い酸化膜が形成され、抵抗値が計測できなくなる程度まで抵抗値が高くなった結果、250時間以降の抵抗値変化は評価できなかった。しかし、少なくとも50時間〜250時間の間の抵抗変化率は、0.5%以下であった。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係るサーミスタ材料は、大気中において、−80℃〜1050℃程度の温度域で使用する温度センサーとして使用することができる。

Claims (15)

  1. 以下の構成を備えたワイドレンジサーミスタ材料。
    (1)前記ワイドレンジサーミスタ材料は、
    絶縁性セラミックスからなるマトリックス結晶粒子と、
    少なくとも前記マトリックス結晶粒子間に存在する粒界相と、
    前記マトリックス結晶粒子間、又は前記粒界相に分散している第1分散粒子と、
    前記マトリックス結晶粒子間、又は前記粒界相に分散している第2分粒粒子と
    を備えている。
    (2)前記粒界相は、少なくとも、Y及び/又はYb、Al、並びに、Oを含む結晶質の無機化合物を含む。
    (3)前記第1分散粒子は、α型SiC及び/又はβ型SiCを含む。
    (4)前記第2分散粒子は、バナジウム窒化物(VN)、バナジウム炭化物(VC)、バナジウム酸化物(VO)、バナジウムホウ化物(VB)、及びバナジウムケイ化物(VSi)からなる群から選ばれるいずれか1以上のバナジウム化合物、及び/又は、チタンホウ化物、チタン窒化物、チタン炭化物、チタン酸化物、及びチタンケイ化物からなる群から選ばれるいずれか1以上のチタン化合物を含む。
    (5)前記ワイドレンジサーミスタ材料は、開気孔率が0.5%未満である。
  2. 前記マトリックス結晶粒子は、Al23、Si34、及びサイアロンからなる群から選ばれるいずれか1以上の前記絶縁性セラミックスを含む請求項1に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  3. 前記粒界相は、
    (a)YxAlyz(0.5≦x≦7、0.5≦y≦5、1≦z≦15)で表される組成を持つY−Al−O系化合物、
    (b)YbuAlvw(0.5≦u≦7、0.5≦v≦5、1≦w≦15)で表される組成を持つYb−Al−O系化合物、及び、
    (c)Y−Al−O系化合物とYb−Al−O系化合物との混合物若しくは固溶体
    からなる群から選ばれるいずれか1以上の前記無機化合物を含む
    請求項1又は2に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  4. 前記粒界相は、Y23/Al23比(モル比)又はYb23/Al23比(モル比)が0.2以上4以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  5. 前記α型SiCに対する前記β型SiCの体積比(β/α比)が2/3以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  6. 前記バナジウム酸化物(VO)は、Vmn(1≦m≦4、1≦n≦5)で表される組成を持つ請求項1から5までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  7. 前記粒界相の含有量は、3vol%以上15vol%以下であり、
    前記第1分散粒子の含有量は、15vol%以上40vol%以下であり、
    前記第2分散粒子の含有量は、0.1vol%以上5vol%以下であり、
    残部が前記マトリックス結晶粒子及び不可避的不純物からなる
    請求項1から6までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  8. 非晶質又は結晶質のSiOxからなる表面層をさらに備えた請求項1から7までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  9. 大気中、1050℃で50時間加熱した時に、表面にSi−O−C相が生成しない請求項1から8までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  10. 前記第1分散粒子と前記第2分散粒子とが導電パスを形成している請求項1から9までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  11. 前記ワイドレンジサーミスタ材料の電気抵抗(R)と温度(T)の関係をR=Aexp(−BT)で表した時に、−80℃〜1050℃の温度範囲においてlogRがTに対して直線的に変化する請求項1から10までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  12. 電気比抵抗ρが0.1〜150kΩcmである請求項1から11までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料。
  13. 以下の構成を備えたワイドレンジサーミスタ材料の製造方法。
    (1)前記ワイドレンジサーミスタ材料の製造方法は、
    請求項1から12までのいずれか1項に記載のワイドレンジサーミスタ材料を製造するための原料を混合及び/又は粉砕する粉砕・混合工程と、
    前記粉砕・混合工程で得られた混合粉末を成形及び焼結させる成形・焼結工程と
    を備えている。
    (2)前記粉砕・混合工程は、
    前記絶縁性セラミックスからなるマトリックス粉末と、
    前記粒界相を形成するための粒界相源と、
    前記α型SiC及び/又は前記β型SiCを含む第1分散粒子源と、
    前記バナジウム窒化物(VN)、前記バナジウム炭化物(VC)、前記バナジウム酸化物(VO)、前記バナジウムホウ化物(VB)、及び前記バナジウムケイ化物(VSi)からなる群から選ばれるいずれか1以上のバナジウム化合物、及び/又は、チタンホウ化物、チタン窒化物、チタン炭化物、チタン酸化物、及びチタンケイ化物からなる群から選ばれるいずれか1以上のチタン化合物を含む第2分散粒子源と、
    を混合及び/又は粉砕するものからなる。
  14. 前記成形・焼結工程で得られた焼結体を熱処理し、前記粒界相中に結晶相を生成させる析出工程をさらに備えた請求項13に記載のワイドレンジサーミスタ材料の製造方法。
  15. 前記粉砕・混合工程は、
    前記粒界相源が3vol%以上15vol%以下となり、
    前記第1分散粒子源が15vol%以上40vol%以下となり、
    前記第2分散粒子源が0.1vol%以上5vol%以下となり、
    残部が前記マトリックス粉末となるように、
    これらを混合及び/又は粉砕するものからなる請求項13又は14に記載のワイドレンジサーミスタ材料の製造方法。
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