JP2018117549A - 被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法 - Google Patents

被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鳥害を抑制するとともに、更なる低コスト化を図りつつ効率良く種子を発育させることが可能な、被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法を提供すること。【解決手段】本発明に係る被覆種子は、高炉スラグを含み、所定の種子の表面を被覆する被覆層を有する。本発明に係る被覆種子は、かかる被覆層を有することで、鳥害を抑制するとともに、更なる低コスト化を図りつつ効率良く種子を発育させることが可能となる。【選択図】なし

Description

本発明は、被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法に関する。
農業従事者の高齢化に伴い、農作業の省力化を図ることが重要となっている。例えば水稲栽培では、育苗及び移植の手間を省くことを目的として、水稲の種子を直接田圃に播く直播法が普及しつつある。この際、水稲種子を含む各種の植物種子を栽培地に直播してしまうと、かかる種子が鳥に食べられてしまうという鳥害が発生する可能性が高まってしまう。そのため、特に水稲種子に対して、水稲種子を鉄粉で被覆することにより、水田における種子の浮遊及び流出、並びに、鳥害を防止するという試みが行われている(例えば、以下の特許文献1を参照。)。
特開2012−70728号公報 特開2016−136861号公報
しかしながら、上記特許文献1で開示されているように水稲等の植物の種子を鉄粉により被覆した場合、鉄粉を構成する金属鉄が酸化により発熱してしまい、種子の発育を損ねる可能性が高いことが明らかとなった。また、鉄粉は比較的高価な被覆材であるため、上記特許文献1で開示されているような鉄粉を主成分とする被覆材を用いると、資材コストが上昇してしまう。
一方、天然物である鉄鉱石、石炭、石灰石を原料として用いる高炉を利用した鉄鋼製造プロセスから発生する製鋼スラグは、肥料用途に用いられ、かつ、固結する性質を有する。そのため、上記特許文献1に開示されている鉄粉に替えて、かかる製鋼スラグを種子の被覆資材として用いることも考えられる。
しかしながら、製鋼スラグには、組成が異なる多種類の製鋼スラグがあり、固結性にもばらつきがある。製鋼スラグを種子の被覆に単独で用いる場合、製鋼スラグの種類によっては、被覆物がしっかりと固化せず、被覆物が剥離しやすくなったり壊れやすくなったりする可能性がある。
また、製鋼スラグは、pH11程度のアルカリ性であるが、湛水した条件で発芽させる製鋼スラグで被覆した水稲種子では、製鋼スラグ粒子間の空隙率が鉄粉被覆等と比較して大きいために、被覆物内部を介して、種子周囲環境と種子表面との間で十分な水の交換が起こると考えられることから、水稲種子は、アルカリ性の影響をあまり受けずに発芽することができると考えられる。一方で、湛水しない条件で発芽する植物の種子では、被覆物内部での水の交換は容易には起こらず、製鋼スラグによる高pHの影響を受けやすくなるために、湛水しない条件で発芽する植物の種子は、発芽しにくくなると考えられる。
なお、種子コーティング材について開示している上記特許文献2では、種子コーティング材としてスラグを用いる旨が開示されており、スラグの一例として、鉄鋼スラグ又は製鉄スラグが挙げられている。しかしながら、上記特許文献2において具体的な検証が行われているスラグは、下水汚泥等を溶融後冷却して得られるスラグ(下水汚泥溶融スラグ)のみであり、鉄鋼スラグ又は製鉄スラグについては、具体的な検証は行われていない。
また、上記特許文献2では、スラグを被覆するために、結合剤を用いている。本発明者らの検証によれば、下水汚泥スラグを粉状にしたものを用いて種子を被覆したとしても、下水汚泥溶融スラグ単独では固結する性質はなく、上記特許文献2に開示されているスラグを種子コーティング材として用いる場合には、石膏等の固結する性質を有する物質を結合剤として用いることが必要となる。上記特許文献1等に開示されている鉄粉は、酸化することで自身が固まるため、結合剤は必須の成分ではないが、上記特許文献2では、結合剤が必須となることから、資材コストの上昇が懸念される。
更には、上記特許文献2で用いられている下水汚泥溶融スラグでは、下水由来の有害重金属の混入の可能性があり、発芽した植物体へ有害重金属が吸収及び蓄積されることが懸念される。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、鳥害を抑制するとともに、更なる低コスト化を図りつつ効率良く種子を発育させることが可能な、被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、鉄鋼製造プロセスで副生する鉄鋼スラグは、資材コストが比較的低く、かつ、肥料効果を備えていることに着目し、かかる鉄鋼スラグを用いて各種の種子を被覆することに想到し、本発明を完成するに至った。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)高炉スラグを含み、所定の種子の表面を被覆する被覆層を有する、被覆種子。
(2)前記被覆層は、更に、生石灰、又は、消石灰の少なくとも何れかを含む、(1)に記載の被覆種子。
(3)前記被覆層における前記生石灰、又は、消石灰の少なくとも何れかの含有量は、前記高炉スラグの質量に対して、外掛けで5質量%以下である、(2)に記載の被覆種子。
(4)前記高炉スラグは、35質量%以上45質量%以下のCaOと、25質量%以上40質量%以下のSiOと、2質量%以上15質量%以下のMgOと、8質量%以上20質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する、(1)〜(3)の何れか1つに記載の被覆種子。
(5)前記高炉スラグは、孔径600μmの篩を通過する高炉スラグである、(1)〜(4)の何れか1つに記載の被覆種子。
(6)前記高炉スラグは、孔径75μmの篩を通過する高炉スラグである、(1)〜(5)の何れか1つに記載の被覆種子。
(7)前記高炉スラグは、高炉水砕スラグである、(1)〜(6)の何れか1つに記載の被覆種子。
(8)前記被覆層は、更に電気炉製鋼スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかを含む、(1)〜(7)の何れか1つに記載の被覆種子。
(9)前記電気炉製鋼スラグは、15質量%以上60質量%以下のCaOと、10質量%以上20質量%以下のSiOと、2質量%以上10質量%以下のMgOと、3質量%以上20質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する、(8)に記載の被覆種子。
(10)前記石炭灰は、1質量%以上10質量%以下のCaOと、40質量%以上75質量%以下のSiOと、2質量%以上20質量%以下のFeと、15質量%以上35質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する、(8)又は(9)に記載の被覆種子。
(11)前記電気炉製鋼スラグは、孔径600μmの篩を透過する電気炉製鋼スラグである、(8)〜(10)の何れか1つに記載の被覆種子。
(12)前記石炭灰は、孔径75μmの篩を通過する石炭灰である、(8)〜(11)の何れか1つに記載の被覆種子。
(13)前記被覆層における前記電気炉製鋼スラグの含有量は、前記被覆層の全体の質量に対して、0質量%超30質量%以下である、(8)〜(12)の何れか1つに記載の被覆種子。
(14)前記被覆層における前記石炭灰の含有量は、前記被覆層の全体の質量に対して、0質量%以上20質量%以下である、(8)〜(13)の何れか1つに記載の被覆種子。
(15)前記被覆層は、石膏、鉄粉、セメント、及び、廃糖蜜からなる群より選択される少なくとも1種を更に含む、(1)〜(14)の何れか1つに記載の被覆種子。
(16)前記種子は、湛水された状態で栽培される植物の種子、又は、湛水しない状態で栽培される植物の種子である、(1)〜(15)の何れか1つに記載の被覆種子。
(17)前記湛水された状態で栽培される植物の種子は、イネ科植物の種子である、(16)に記載の被覆種子。
(18)前記イネ科植物の種子は、水稲種子である、(17)に記載の被覆種子。
(19)前記湛水しない状態で栽培される植物の種子は、イネ科植物、マメ科植物、タデ科植物、食用草本植物、又は、有用植物の種子である、(16)に記載の被覆種子。
(20)前記イネ科植物の種子は、陸稲種子、トウモロコシ種子、又は、麦種子であり、
前記マメ科植物の種子は、ダイズ種子、又は、アズキ種子であり、前記タデ科植物の種子は、ソバ種子であり、前記食用草本植物の種子は、ニンジン種子、トマト種子、又は、甜菜種子であり、前記有用植物の種子は、芝種子、牧草種子、緑肥用植物種子、又は、花木種子である、(19)に記載の被覆種子。
(21)前記被覆層の表面に、除菌剤、徐虫剤又は除草剤の少なくとも何れが付着している、(1)〜(20)の何れか1つに記載の被覆種子。
(22)前記被覆層は、更に、アルギン酸化合物を含有する、(1)〜(21)の何れか1つに記載の被覆種子。
(23)前記種子は、でんぷんで被覆された種子である、(1)〜(22)の何れか1つに記載の被覆種子。
(24)高炉スラグと水とを混合して得られた混合物により、所定の種子を被覆する、被覆種子の製造方法。
(25)前記混合物は、生石灰、又は、消石灰の少なくとも何れかを更に含む、(24)に記載の被覆種子の製造方法。
(26)前記混合物は、電気炉製鋼スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかを更に含む、(24)又は(25)に記載の被覆種子の製造方法。
(27)前記混合物における前記水の割合は、前記混合物の全体質量に対して、10質量%以上80質量%以下である、(24)〜(26)の何れか1つに記載の被覆種子の製造方法。
(28)前記混合物は、石膏、鉄粉、及び、セメントからなる群より選択される少なくとも1種を更に含む、(24)〜(27)の何れか1つに記載の被覆種子の製造方法。
(29)前記水は、廃糖蜜を10質量%以上50質量%以下含有する水である、(24)〜(28)の何れか1つに記載の被覆種子の製造方法。
(30)(1)〜(23)の何れか1つに記載の被覆種子を、前記種子を栽培するための栽培地に対して直播する、被覆種子の播種方法。
以上説明したように本発明によれば、鳥害を抑制するとともに、更なる低コスト化を図りつつ効率良く種子を発育させることが可能となる。
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
(被覆種子について)
まず、本発明の実施形態に係る被覆種子について、詳細に説明する。
本実施形態に係る被覆種子は、高炉スラグを含み、所定の種子の表面を被覆する被覆層を有している。
<種子について>
以下では、まず、本実施形態に係る被覆種子に用いられる種子について、簡単に説明する。
本実施形態に係る被覆種子に用いられる種子としては、湛水された状態で栽培される植物の種子、又は、湛水しない状態で栽培される植物の種子を用いることが可能である。ここで、「湛水された状態で栽培される種子」とは、土壌の表面が水中に没した状態で栽培される種子を意味し、「湛水しない状態で栽培される種子」とは、湛水されて土壌の表面が水中に没することがない状態で栽培される種子を意味する。
上記2種類の種子のうち、湛水された状態で栽培される植物の種子としては、例えば、イネ科植物の種子等を挙げることができる。このようなイネ科植物の種子は、湛水された状態で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のイネ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水された状態で栽培されるイネ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、水稲種子を挙げることができる。
また、上記2種類の種子のうち、湛水しない状態で栽培される植物の種子としては、例えば、イネ科植物の種子、マメ科植物の種子、タデ科植物の種子、食用草木植物の種子、及び、有用植物の種子等を挙げることができる。
上記のようなイネ科植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のイネ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培されるイネ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、陸稲種子、トウモロコシ種子、麦種子等を挙げることができる。
上記のようなマメ科植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のマメ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培されるマメ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ダイズ種子、アズキ種子等を挙げることができる。
上記のようなタデ科植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の任意のタデ科植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培されるタデ科植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ソバ種子等を挙げることができる。
上記のような食用草本植物の種子は、湛水しない陸地で栽培される食用の草木植物(いわゆる野菜)の種子であれば特に限定されるものではなく、公知の食用草木植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培される食用草木植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、ニンジン種子、トマト種子、甜菜種子等を挙げることができる。
上記のような有用植物の種子は、湛水しない陸地で栽培されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の有用植物の種子を用いることが可能である。このような湛水しない陸地で栽培される有用植物の種子のうち代表的なものとして、例えば、芝種子、牧草種子、緑肥用植物種子、花木種子等を挙げることができる。このうち、緑肥用植物とは、栽培された植物を収穫せずにそのまま土壌にすきこみ、後から栽培する作物の肥料とするための植物をいう。このような緑肥用植物として、例えば、ソルガム等を挙げることができる。
なお、以上説明したような各種種子の表面には、剛毛が存在している場合がある。種子の表面に剛毛が存在している場合、以下で詳述するような被覆層と種子との間の密着性が弱くなるという現象が生じる可能性がある。このような現象が生じる可能性を抑制するために、上記のような各種種子をでんぷん水溶液に浸漬させることで、種子の表面をでんぷんで被覆してもよい。これにより、後述する被覆層と種子との間の密着性を向上させることが可能となる。なお、上記のような各種種子を浸漬させるでんぷん水溶液の濃度(すなわち、水溶液の全体質量に対するでんぷんの質量割合)については、特に規定するものではないが、例えば、40質量%〜80質量%とすることが好ましい。かかる濃度のでんぷん水溶液に上記のような各種種子を浸漬させることで、より確実に、被覆層と種子との間の密着性を向上させることが可能となる。
以上、本実施形態に係る被覆種子に適用可能な種子について、簡単に説明した。
<被覆層について>
続いて、以上説明したような種子の表面に形成される被覆層について、詳細に説明する。
上記のような種子の表面に形成される本実施形態に係る被覆層は、所定の成分を有する高炉スラグを含有する。以下、かかる被覆層に含有される高炉スラグについて、詳細に説明する。
[高炉スラグについて]
天然物である鉄鉱石、石炭及び石灰石を原料として用いる高炉を利用した鉄鋼製造プロセスでは、スラグと呼ばれる副生成物が発生する。副生するスラグは、高炉における製銑プロセスで副生する高炉スラグと、製鋼プロセスで副生する製鋼スラグと、に大別される。製鋼プロセスで副生する製鋼スラグは、pH11〜12程度の強アルカリ性を示すが、製銑プロセスで副生する高炉スラグは、pH10程度と製鋼スラグと比較してアルカリ性が弱い。製鋼スラグ及び高炉スラグは、固まる速度に違いはあるものの、共に固結性を示す物質である。
鉄鋼製造プロセスで副生する高炉スラグは、製鋼スラグと同様にその成分が分析及び管理されており、Ca、Si、Mgなどの様々な肥料有効元素を含んでいる。そのため、従来肥料原料として用いられている製鋼スラグと同様に、高炉スラグを肥料原料として用いることが可能である。また、製鋼スラグと同様に、我が国だけで年間にきわめて大量の高炉スラグが生成されるため、高炉スラグは安価に入手可能であって、資材コストを抑制することができる。
高炉スラグは、鉄分をほとんど含有しない。従って、上記特許文献1のような鉄粉による種子被覆で懸念される、鉄の酸化による発熱による種子へのダメージについては、考慮しなくともよい。また、高炉スラグは、先だって言及したように、固結する性質を有している。高炉スラグ粒子間の空隙率は、固結した状態であっても、固結した鉄粉粒子間の空隙率よりもはるかに大きい。固結した状態での空隙率が大きいことから、高炉スラグで被覆した種子では、鉄粉で被覆した種子と比較して、種子の発芽や生育に必要な酸素や水が、被覆層の外側から被覆層の内側の種子へとより容易に到達することが可能となる。従って、湛水した状態で栽培される植物の種子に対して、高炉スラグによる種子被覆を好適に適用することが可能である。
また、湛水しない状態で栽培される植物の種子についても、高炉スラグによる種子被覆は適用可能である。種子の発芽に関して、湛水しない状態で発芽させる直播種子の場合、水が被覆層の内部に浸潤し、被覆層自体が保水力を有することが、重要である。高炉スラグによる被覆では、高炉スラグ粒子間の空隙率が大きく、鉄粉被覆と比べて保水力が高いことから、湛水しない条件で栽培される種子の発芽にも適している。従って、上記特許文献1で開示されているような鉄粉による被覆が、湛水された状態で栽培される稲種子(すなわち、水稲種子)に主に限定されるのに対し、高炉スラグによる被覆は、湛水しない状態で栽培されるあらゆる植物の種子の直播に関しても、適用可能である。
なお、上記のような各種の植物種子では、種子が暴露される環境のpHに敏感なものが存在し、例えばマメ科植物等は、周囲の環境のpHが高い場合(強いアルカリ性を示す場合)には、その生育に問題が発生する可能性が高くなる。そのため、pHがより低い高炉スラグを被覆層の主成分として用いることで、製鋼スラグを用いる場合と比べて、種子へのアルカリ性の影響をより抑制することが可能となり、製鋼スラグと比較してより多くの植物種子を被覆することが可能となる。
また、かかる高炉スラグは、pH10程度のアルカリ性を示すため、かかる高炉スラグを含む被覆層を有する種子を鳥獣類が口に含んだ場合、高炉スラグが示すアルカリ性のために、鳥獣類は、種子を嚥下することなく吐き出してしまう。その結果、鳥獣類による食害を抑制することが可能となる。
更に、かかる高炉スラグで被覆された種子は、高炉スラグが弱アルカリ性を示すにも関わらず、発芽する。弱アルカリ性にも関わらず種子が発芽する理由として、根から水素イオンや有機酸等の酸性物質が分泌され、種子を被覆していた高炉スラグに起因する弱アルカリが中和されることにより、正常な発芽が可能になっているものと考えられる。
●所定の成分を含有する高炉スラグについて
以上のような特徴を有する高炉スラグは、以下の成分を含有する高炉スラグであることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る被覆層の主成分である高炉スラグは、35質量%以上45質量%以下のCaOと、25質量%以上40質量%以下のSiOと、2質量%以上15質量%以下のMgOと、8質量%以上20質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する高炉スラグであることが好ましい。
◇CaO:35質量%〜45質量%
まず、Caについて説明する。
高炉スラグは、水に接すると、Caと後述するSiやAlとが溶出して化学結合することにより、水硬性を示す。本発明は、この水硬性を利用して、高炉スラグを各種種子に付着及び固結させて、各種種子を被覆するものである。従って、本発明において、Caは、重要な元素である。また、Caは、植物に必須な肥料元素でもある。肥料や製鋼スラグにおいてCaの含有量を表記する際には、酸化物のCaOに換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではCaOとしてCaの含有量を表わすこととする。
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのCaOの含有量が35質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のCaを溶出できない可能性がある。一方、CaO含有量が45質量%超過である高炉スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのCaOの含有量は、35質量%以上45質量%以下とする。高炉スラグのCaOの含有量は、好ましくは、40質量%以上44質量%以下である。
なお、CaOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
◇SiO:25質量%〜40質量%
続いて、Siについて説明する。
Siは、CaやAlと共に、高炉スラグの水硬性に寄与する元素である。従って、本発明において、Siも重要な元素である。また、Siは、植物の必須要素ではないものの、特に陸稲等の稲種子にとって、非常に重要な肥料効果元素である。稲の植物体の乾燥重量の約5%をケイ酸(SiO)が占める。肥料や製鋼スラグでは、Siの含有量を表記する際には、酸化物のSiOに換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではSiOとしてSiの含有量を表わすこととする。
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのSiOの含有量が25質量%未満である場合には、水硬性を発現するのに十分な量のSiを溶出できない可能性がある。一方、SiOの含有量が40質量%超過である高炉スラグは、通常の製鉄プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのSiOの含有量は、25質量%以上40質量%以下とする。高炉スラグのSiOの含有量は、好ましくは、30質量%以上36質量%以下である。
なお、SiOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
◇MgO:2質量%〜15質量%
Mgは、Ca、Si、Alと共に、高炉スラグの水硬性に関わる元素である。ただし、高炉スラグに含まれるCaO含有量とMgO含有量との違いなど、Mgの水硬性への寄与はCaと比較すると小さい。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグはCaOを35質量%以上含有することから、水硬性は、高炉スラグに含有されるCaOにより基本的にはまかなうことができると考えられる。ただし、MgOが更に存在することで、水硬性をより良く発現することが期待できる。肥料や製鋼スラグでは、Mgの含有量を表記する際には、酸化物のMgOに換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではMgOとしてMgの含有量を表わすこととする。
ここで、MgOの含有量が2質量%未満である高炉スラグ、及び、MgO含有量が15質量%を超える高炉スラグは、通常の製銑プロセスでは発生しない。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグのMgOの含有量は、2質量%以上15質量%以下であることが好ましい。高炉スラグのMgOの含有量は、より好ましくは、3質量%以上10質量%以下である。
なお、MgOの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
◇Al:8質量%〜20質量%
続いて、Alについて説明する。
Alは、CaやSiと共に、高炉スラグの水硬性に重要な元素である。肥料や製鋼スラグでは、Alの含有量を表記する際には、酸化物のAlに換算して含有量が表記されるため、高炉スラグについても同様に、以下ではAlとしてAlの含有量を表わすこととする。
Alの含有量が8質量%未満となる高炉スラグ、及び、Alの含有量が20質量%超過となる高炉スラグは、通常の製銑プロセスでは生成されず、入手が困難である。本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグは、大量に安定供給できることが好ましく、通常の製銑プロセスで生成するものであることが好ましい。また、高炉スラグのAlの含有量が8質量%以上であれば、Alは、CaやSiと共に水硬性を示すことができる。従って、本実施形態において、各種種子の被覆に用いる製鋼スラグのAlの含有量は、1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。ただし、より水硬性を高めて固結を促進したい場合には、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる製鋼スラグのAlの含有量を、10質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。
なお、Alの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定可能である。
●高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグについて
本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる高炉スラグとしては、上記のような所定の成分を含有する高炉スラグの他に、鉄鋼製造プロセスから副生される高炉スラグの一種である、高炉徐冷スラグ、又は、高炉水砕スラグを用いることも可能である。鉄鋼製造プロセスから副生される高炉スラグには、製造方法の違いに起因して成分は同じであるが化学的性質の異なる、高炉徐冷スラグと高炉水砕スラグとが存在する。これら2種類のスラグは、高炉スラグの一種である。
上記のような高炉徐冷スラグ及び高炉水砕スラグについても、上記の所定量の成分を含有する高炉スラグと同様の成分を含有しているが、その含有量は、上記高炉スラグにおける諸成分の含有量とは異なる場合がある。しかしながら、高炉徐冷スラグや高炉水砕スラグであれば、上記の所定量の成分を含有する高炉スラグとは異なる含有量の成分が存在していたとしても、本実施形態において各種種子を被覆するための高炉スラグとして利用することが可能である。
ここで、各スラグが有している固結性という観点では、高炉徐冷スラグと比較して、高炉水砕スラグの方が高い固結性を有している。そのため、本実施形態において各種種子を被覆するための高炉スラグとしては、高炉水砕スラグを用いることがより好ましい。
また、アルカリ刺激材として機能する製鋼スラグを高炉水砕スラグに混合することで、本実施形態に係る被覆層の固結速度をより一層速めるとともに、被覆層をより安定に固結させることが可能となる。この際、高炉水砕スラグに混合する製鋼スラグの量は、特に規定するものではないが、例えば、高炉水砕スラグの全体質量に対して、1質量%〜20質量%程度とすることが好ましい。また、高炉水砕スラグに混合する製鋼スラグは、特に規定するものではなく、脱リンスラグや脱炭スラグを含む、転炉製鋼プロセスにより副生される公知の製鋼スラグを用いることが可能である。
●高炉スラグにおける各成分の含有量の測定方法
先だって説明したように、本実施形態において、各種種子の被覆に用いられる各種高炉スラグにおける各成分の含有量は、蛍光X線分析法により測定することが可能である。より詳細には、着目する成分について、含有量が既知である標準サンプルを利用して、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を予め測定することで、検量線を作成しておく。含有量が未知のサンプルについては、着目する成分に関係する蛍光X線のピーク強度を測定し、予め作成しておいた検量線を用いることで、着目する成分の含有量を特定することができる。
着目する蛍光X線のピークについては、特に限定するものではないが、例えば、Ca、Si、Mg、Al等の蛍光X線ピークに着目すればよい。
なお、各種高炉スラグにおける各成分の含有量の測定方法は、上記のような蛍光X線分析法に限定されるものではなく、その他の公知の分析手法を適宜利用することが可能である。
●高炉スラグの粒径について
本実施形態では、上記のような高炉スラグを、粉砕等により所定の粒径に調整したものを、そのままで各種種子の被覆に用いることが可能である。これらの高炉スラグの粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロッドミル、ボールミル、ロールミル、ローラーミルなどの公知の手段を用いることができる。
各種種子の被覆に用いられる高炉スラグの粒径は、粒径が細かい方が固化しやすいことから、粒径を所定の値以下まで細かくすることが好ましい。本発明者が検討を行った結果、粒径を600μm未満に調整した高炉スラグは、各種種子への付着性が上がる傾向があり、効果が高いことが明らかとなった。従って、本実施形態に係る被覆層の主成分として用いられる高炉スラグの粒径は、全て600μm未満とすることが好ましい。例えば、孔径600μmの篩を用いて高炉スラグをふるい分けし、かかる篩の目を通過した高炉スラグの粒径は、600μm未満である。より細かな粒径の高炉スラグの方が各種種子への付着性を上げるためには好ましいが、粉砕・分級にはコストや時間を要する場合には、過度の微細化は必ずしも必要ない。
本実施形態においては、被覆層に用いられる高炉スラグの粒径は、孔径180μmの篩、より好ましくは孔径75μmの篩を通過するものであることが好ましい。
孔径180μmの篩を通過できない高炉スラグの場合、各種植物種子のうち小さなサイズの種子への付着性が悪くなるため、種子を被覆しづらくなる可能性がある。また、孔径75μmの篩を通過する高炉スラグ(以下、「高炉スラグ微粉末」ともいう。)を用いることで、本実施形態に係る被覆層の固結速度を速めることが可能となる。高炉スラグの粒径が小さくても、高炉スラグ粒子間の空隙率は十分確保されるため、鉄粉被覆のように緻密となることはなく、酸素や水の透過が抑制されることはない。従って、種子被覆に用いる高炉スラグの粒径は、固結性の観点からすれば、孔径180μmの篩を通過するものが好ましく、更には孔径75μmの篩を通過するものがより好ましい。
なお、被覆層を構成する高炉スラグの粒径を事後的に測定する際には、被覆層を有する被覆種子から被覆層を剥離した上で、剥離した被覆層を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の公知の測定機器により測定すればよい。
[被覆層に含有されるその他の成分について]
◇生石灰、消石灰について
本実施形態に係る被覆層には、上記のような高炉スラグに加えて、生石灰(CaO)、又は、消石灰(Ca(OH))の少なくとも何れかを更に含有していてもよい。生石灰及び消石灰は、高炉スラグの固結を促進する固結促進材として機能する化合物である。従って、生石灰又は消石灰の少なくとも何れかを被覆層に更に含有させることで、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
ここで、本実施形態に係る被覆層における生石灰又は消石灰の少なくとも何れかの含有量は、高炉スラグの全体質量に対して、それぞれ外掛けで5質量%以下とすることが好ましい。生石灰又は消石灰の少なくとも何れかの含有量が、外掛けで5質量%を超える場合には、アルカリ性が強くなるため好ましくない。生石灰又は消石灰の少なくとも何れかの含有量は、より好ましくは、高炉スラグの全体質量に対して、外掛けで2質量%以下である。
なお、被覆層に含有させる生石灰や消石灰の形態については、特に規定するものではなく、CaO又はCa(OH)の天然原料を用いてもよいし、CaO又はCa(OH)の試薬を用いてもよい。また、生石灰及び消石灰を含有する製鋼スラグを、上記生石灰又は消石灰の替わりに用いてもよい。
◇電気炉製鋼スラグ、石炭灰について
本実施形態に係る被覆層には、上記のような高炉スラグに加えて、電気炉製鋼スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかを更に含有していてもよい。電気炉製鋼スラグや石炭灰は、それぞれを単独で用いた場合には、優れた固結性を示すものではない。しかしながら、電気炉製鋼スラグや石炭灰を上記のような高炉スラグと混合することで、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
●電気炉製鋼スラグについて
電気炉製鋼スラグは、高炉及び転炉を用いた製鉄プロセスではなく、電気炉を用いた製鉄プロセスで副生する製鋼スラグである。一般的な電気炉製鋼スラグは、15質量%以上60質量%以下のCaOと、10質量%以上20質量%以下のSiOと、2質量%以上10質量%以下のMgOと、3質量%以上20質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多い。かかる電気炉製鋼スラグを被覆層に含有させることで、電気炉製鋼スラグが結合材として機能し、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
被覆層に含有される電気炉製鋼スラグは、孔径600μmの篩を通過する電気炉製鋼スラグであることが好ましい。換言すれば、被覆層に含有される電気炉製鋼スラグの粒径は、600μm未満であることが好ましい。電気炉製鋼スラグの粒径を600μm未満とすることで、被覆層の固化速度を速めることが可能となり、より容易に被覆層を固結させることが可能となる。なお、電気炉製鋼スラグの粒径は、小さければ小さいほど好ましいが、粉砕・分級にはコストや時間を要するため、過度の微細化は不要である。
なお、電気炉製鋼スラグの粒径は、孔径180μmの篩を通過するものであることが好ましい。
なお、被覆層に含有されうる電気炉製鋼スラグの含有量は、被覆層の全体質量に対して、0質量%超30質量%以下であることが好ましい。被覆層の全体質量(より詳細には、高炉スラグの質量)に対する電気炉製鋼スラグの割合が30質量%を超える場合、電気炉製鋼スラグの割合が高すぎるために、種子の発芽率を下げる可能性が生じうる。
●石炭灰について
石炭灰(フライアッシュ)は、石炭を燃焼させる際に生じる灰の一種であり、SiO及びAlを主成分とする物質である。一般的な石炭灰は、40質量%〜75質量%のSiOと、15質量%〜35質量%のAlと、2質量%〜20質量%のFeと、1質量%〜10質量%のCaOと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多く、更に、MgO等の他の成分を含有していることもある。かかる構成成分からも明らかなように、石炭灰は、高炉スラグと類似した成分を含有しており、固結性を補助する物質である。かかる石炭灰を被覆層に含有させることで、石炭灰が結合材として機能し、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
被覆層に含有される石炭灰は、孔径75μmの篩を通過する石炭灰であることが好ましい。換言すれば、被覆層に含有される石炭灰の粒径は、75μm未満であることが好ましい。石炭灰の粒径を75μm未満とすることで、被覆層の固化速度を速めることが可能となり、より容易に被覆層を固結させることが可能となる。なお、石炭灰の粒径は、小さければ小さいほど好ましいが、分級にはコストや時間を要するため、過度に微細粒を用いる必要はない。
なお、被覆層に含有されうる石炭灰の含有量は、被覆層の全体質量に対して、0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。被覆層の全体質量(より詳細には、高炉スラグの質量)に対する石炭灰の割合が20質量%を超える場合、石炭灰の割合が高すぎるために、固結度が低下したり、種子の発芽率が下がったりする可能性が生じうる。
◇石膏、セメント、鉄粉、廃糖蜜について
また、本実施形態に係る被覆層には、上記のような高炉スラグに加えて、石膏、セメント、鉄粉、及び、廃糖蜜からなる群より選択される少なくとも1種が更に含有されていてもよい。
●石膏、セメントについて
石膏及びセメントは、固結性を有する物質であり、結合材として機能する。従って、かかる石膏又はセメントの少なくとも何れかを被覆層に含有させることで、被覆層をより確実に固結させることが可能となる。
ここで、一般的なセメントは、62質量%以上67質量%以下のCaOと、19質量%以上24質量%以下のSiOと、0.5質量%以上3質量%以下のMgOと、2質量%以上6質量%以下のFeと、2質量%以上7質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有していることが多い。
なお、被覆層に含有されうる石膏又はセメントの含有量は、高炉スラグの質量に対して20質量%以下であることが好ましい。高炉スラグに対する石膏又はセメントの割合がそれぞれ20質量%を超える場合、石膏又はセメントの割合が高すぎるために、種子の発芽率を下げる可能性が生じうる。
なお、上記のような石膏やセメントは、被覆層に混合してもよいが、石膏又はセメントを用いて被覆層を被覆することも可能である。
●鉄粉について
鉄粉は、比重が大きい物質である。そのため、被覆層に鉄粉を含有させることで、被覆種子の重量を増加させ、種子を流亡しにくくさせることが可能となる。被覆層に含有されうる鉄粉の含有量は、高炉スラグの質量に対して50質量%以下であることが好ましい。高炉スラグに対する鉄粉の割合が50質量%を超える場合、金属鉄の酸化による発熱で種子のダメージが大きくなる可能性が高く、また鉄粉から溶出した二価鉄イオンが酸化して三価鉄イオンとなり、水酸化物として沈殿する際に酸性を示すことで、発芽や幼根の生長に悪影響を及ぼす可能性がある。また、鉄粉は高価であるため、鉄粉の割合が高くなると、コスト的に不利となる。
●廃糖蜜について
廃糖蜜は、サトウキビ等の搾り汁から砂糖を精製する際に副産される黒褐色の液体であり、糖分を70〜80%程度含むほか、ミネラルやビタミンも含有している。また、廃糖蜜は、副産物であることから安価に入手可能である。廃糖蜜は、特に、植物の細胞生長に必要なカリウムを2%程度含んでいる。カリウムは、植物の根から吸収され、植物細胞の生長に必要な成分である。従って、被覆層に廃糖蜜を含有させることで、被覆層から廃糖蜜由来のカリウムを供給することが可能となり、幼植物の生長を更に促進することも期待できる。また、廃糖蜜は粘着性を有することから、廃糖蜜を被覆層に含有させることで、被覆層の固化と種子への付着の安定性を補強できると共に、廃糖蜜に含まれる成分が発芽後の幼根の生長を、高炉スラグによる肥料効果に加えて、より促すことが可能となる。
●アルギン酸化合物について
本実施形態に係る被覆層は、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム等といった、アルギン酸由来の化合物(アルギン酸化合物)を含有していてもよい。
アルギン酸ナトリウムは、藻類である褐藻等に含まれる多糖類の一種である。アルギン酸ナトリウムの水溶液に対してCaやMgを添加すると、ゲル化する性質がある。高炉スラグは、CaとMgを含有するため、高炉スラグの表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を付加することによってゲル化が起こり、高炉スラグを含有する被覆層の種子への付着の安定性を補強することが可能となる。また、アルギン酸ナトリウムも用いて作製した被覆種子を土壌に直播すると、アルギン酸ナトリウムは、土壌微生物の作用により分解されて、アルギン酸オリゴ糖となる。アルギン酸オリゴ糖は、被覆層の製鋼スラグに含まれるミネラルと結合して、植物根へのミネラル吸収を助ける効果があり、発芽後の幼植物の生長を促進する効果が期待できる。
なお、上記のようなアルギン酸ナトリウムは、製鋼スラグ中に存在するカルシウムと一部反応して、アルギン酸カルシウムとして被覆層に存在する可能性がある。同様に、高炉スラグ中にマグネシウムが存在する場合、アルギン酸ナトリウムは、高炉スラグ中のマグネシウムと一部反応して、アルギン酸マグネシウムとして被覆層に存在する可能性がある。従って、本実施形態に係る被覆層に対してアルギン酸ナトリウムを含有させた場合、被覆層中には、アルギン酸ナトリウムだけでなく、アルギン酸カルシウムやアルギン酸マグネシウムが存在する可能性がある。これらアルギン酸カルシウム及びアルギン酸マグネシウムについても、アルギン酸ナトリウムと同様に土壌微生物の作用により分解されて、アルギン酸オリゴ糖となる。アルギン酸オリゴ糖は、被覆層の高炉スラグに含まれるミネラルと結合して、植物根へのミネラル吸収を助ける効果があり、発芽後の幼植物の生長を促進する効果が期待できる。
以上、本実施形態に係る被覆種子における被覆層について、詳細に説明した。
<被覆層の表面に付着しうる成分について>
本実施形態に係る被覆層の表面には、除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れが付着していてもよい。被覆層の表面に付着したこれらの薬剤により、被覆種子が播種される土壌や被覆種子そのものに対して、該当する薬剤の薬効が実現される。
ここで、被覆層の表面に付着しうる除菌剤は、チウラム、イソチアニル、フラメトピル、エタボキサム、2−[(2,5−ジメチルフェノキシ)メチル]−α−メトキシ−N−メチル−ベンゼンアセトアミド、ベノミル、オキソリニック酸、プロベナゾール、チアジニル、ピロキロン及びジクロシメットからなる群より選択される1つ以上であってもよい。
また、被覆層の表面に付着しうる除虫剤は、クロチアニジン、ニテンピラム、ベンスルタップ、チアメトキサム、ジノテフラン、ピメトロジン、スルホキサフロル、ベンフラカルブ、カルボスルファン及びカルタップ塩酸塩からなる群より選択される1つ以上であってもよい。
また、被覆層の表面に付着しうる除草剤は、グリホサート、グルホシネート等のアミノ酸系化合物、エスプロカルブ、ピリブチカルブ、ベンチオカーブ、モリネート等のカーバメート系化合物、エトベンザニド、カフェンストロール、テニルクロール、ブタクロール、プレチラクロール、ブロモブチド、メフェナセット等の酸アミド系化合物、トリフルラリン等のジニトロアニリン系化合物、アジムスルフロン、イマゾスルフロン、エトキシスルフロン、シクロスルファムロン、ハロスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチル、フルセトスルフロン、プロピリスルフロン、ベンスルフロンメチル、チフェンスルフロンメチル等のスルホニルウレア系化合物、ピリミスルファン等のスルホンアニリド系化合物、ベンタゾン等のダイアジン系化合物、オキサジアゾン、オキサジアルギル、ピラクロニル、ピラゾキシフェン、ピラゾレート、ピラフルフェンエチル、ベンゾフェナップ等のダイアゾール系化合物、ジメタメトリン、シメトリン、プロメトリン等のトリアジン系化合物、テフリルトリオン、メソトリオン等のトリケトン系化合物、クミルロン、ダイムロン等の尿素系化合物、ジクワット、パラコート等のビピリジウム系化合物、ビスピリバックナトリウム塩、ピリミノバックメチル、ペノキススラム等のピリミジルオキシ安息香酸系化合物、2,4−D、MCPA、キザロホップ、クロメプロップ、シハロホップ、シハロホップブチル、ハロキシホップ、クロジナホップ等のフェノキシ酸系化合物、イソキサフルトール等のイソキサゾール系化合物、イマゼタピル等のイミダゾリノン系化合物、ブタミホス等の有機リン系化合物、ジカンバ等の芳香族カルボン酸系化合物、インダノファン、オキサジクロメホン、カルフェントラゾンエチル、キノクラミン、ピリフタリド、フェントラザミド、ベンゾビシクロン、ペントキサゾン、及び、ベンフレセートからなる群より選択される1つ以上であってもよい。
上記の除菌剤、除虫剤、除草剤の化合物は、いずれも公知の化合物であり、市販の製剤を利用することも可能であるし、公知の製造方法により製造することも可能である。
なお、本実施形態において、上記の薬剤は、通常、有効成分と不活性担体とを混合し、必要に応じて界面活性剤やその他の製剤用補助剤を添加して、粉剤、フロアブル剤、水和剤、顆粒水和剤、水溶剤、顆粒水溶剤等に製剤化されているものを用いることが好ましい。また、有効成分の溶出が制御された製剤を用いてもよい。
製剤化の際に用いられる不活性担体としては、固体担体、液体担体が挙げられる。
固体担体としては、例えば粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化ケイ素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末及び粒状物、並びに、合成樹脂(ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−11、ナイロン−66等のナイロン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−プロピレン共重合体等)が挙げられる。
また、液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノキシエタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、フェニルキシリルエタン、メチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等)、酸アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、炭酸プロピレン及び植物油(大豆油、綿実油等)が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、着色剤及び安定剤等、具体的にはカゼイン、ゼラチン、糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールと3−tert−ブチル−4−メトキシフェノールとの混合物)等が挙げられる。
なお、これら除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかは、その一部が被覆層の内部に存在していてもよい。また、これら除菌剤、除虫剤又は除草剤の少なくとも何れかは、被覆層に含有されていてもよい。
以上、本実施形態に係る被覆種子について、詳細に説明した。
以上説明したような本実施形態に係る被覆種子は、従来の鉄粉を用いた種子被覆物と比較して、気孔率が高く、かつ、透水性、保水性及び空気透過性に優れており、植物の発芽及び生育にきわめて有利である。
(被覆種子の製造方法について)
続いて、以上説明したような高炉スラグを用いて、本実施形態に係る被覆種子を製造する方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る被覆種子の製造方法では、上記のような高炉スラグと、水と、を混合して得られた混合物を準備し、かかる混合物により、上記のような各種植物種子を被覆する。
ここで、高炉スラグに加える水の混合割合であるが、上記高炉スラグと水との混合物における水の質量割合(すなわち、混合物の全体の質量に対する水の質量割合)は、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。上記高炉スラグと水との混合物における水の質量割合が10質量%未満である場合、上記高炉スラグの種子表面への付着性が悪くなり、被覆が難しくなる可能性が高くなる。一方、上記高炉スラグと水との混合物における水の質量割合が80質量%を超える場合、水の割合が高すぎるため、種子の表面を上記高炉スラグで被覆することができなくなる可能性が高くなる。従って、上記高炉スラグと水との混合物における水の質量割合は、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。高炉スラグを用いた種子被覆を安定的に成功させるためには、水の質量割合を25質量%以上50%質量以下とすることがより好ましい。
また、上記高炉スラグと水との混合物に対して、生石灰、消石灰、電気炉製鋼スラグ、石炭灰、石膏、鉄粉、又は、セメントの少なくとも何れかを混合してもよい。
混合物に対して、生石灰、消石灰、電気炉製鋼スラグ、石炭灰、石膏又はセメントの少なくとも何れかを添加する場合、各成分の質量割合は、先だって言及したような含有量を超えないことが好ましい。また、高炉スラグに鉄粉を添加する場合、高炉スラグに対する鉄粉の質量割合は、先だって言及したように50質量%を超えないことが好ましい。
ここで、高炉スラグ等で種子を被覆する際、先だって言及したように、種子表面に存在する剛毛により、被覆層の種子表面への密着性が弱くなるという現象が生じる可能性がある。この現象を解決するために、種子を予めでんぷん水溶液に浸漬した後、高炉スラグ等で被覆してもよい。ここで、でんぷん水溶液の濃度(すなわち、水溶液の全体の質量に対するでんぷんの質量割合)は、40質量%〜80質量%であることが好ましい。でんぷん水溶液に種子を浸漬した後、種子を高炉スラグ等で被覆することにより、1粒の種子の質量と被覆層の質量との比を、1:0.6〜1:2程度にまで高めることが可能である。
次に、上記のような混合物により、上記のような植物種子を被覆する方法について説明する。予め上記のような混合物を作製し、この混合物と上記の植物種子とを混合させることで、用いた種子の表面を高炉スラグ等により被覆して、種子の表面に被覆層を形成することができる。また、上記高炉スラグ等と水と種子とを一緒に混合させることで、種子を上記高炉スラグ等で被覆することも可能である。混合物と種子とを混合する方法は、特に限定されるものではない。大量に処理する場合には、例えば、回転式造粒機を用いて混合して、種子を上記高炉スラグ等で被覆することも可能である。
また、高炉スラグ等を用いて被覆層を形成した種子に対して、更に外側から石膏で被覆することも可能である。高炉スラグ及び石膏を用いて種子を二重に被覆することにより、高炉スラグの被覆による種子への密着性を高めることができる。被覆層の形成された種子を外側から石膏で被覆する方法としては、例えば、高炉スラグ等で被覆し、乾燥させた被覆種子を、石膏の水懸濁物に浸漬して取り出して、室温で乾燥させるという方法を用いることで実行可能である。石膏の水懸濁物の濃度は、例えば20質量%〜60質量%であることが好ましい。
なお、上記高炉スラグ等による種子の被覆量であるが、特に限定されるものではない。より好ましくは、種子の質量を1とした場合に、0.1〜2程度の質量の上記高炉スラグ等を用いて、かかる種子を被覆することが好ましい。通常、高炉スラグ等と水とを混合した混合物に対して種子を混合するのみで実現される被覆量は、上記範囲に入るものとなる。しかしながら、高炉スラグ等が種子の表面に全面被覆されていない場合には、再度、高炉スラグと水とを混合した混合物に対して種子を混合することが好ましい。
また、上記高炉スラグの固結を高めるために、硫酸カルシウムを、高炉スラグ等、高炉スラグ等と水との混合物、又は、高炉スラグ等と水と種子との混合物の何れかに対して加えることも有効である。
<被覆種子の製造の際に用いる水について>
ここで、高炉スラグ等と水との混合物により種子を被覆する際に、高炉スラグ等に対して混合する水であるが、純水のほか、水道水、地下水、農業用水等を使用することも可能であるが、廃糖蜜を含有する水を用いることがより好ましい。廃糖蜜を含有する水を用いることで、廃糖蜜の粘着性を利用して被覆層の固化と種子への付着の安定性を補強できると共に、廃糖蜜に含まれる成分が発芽後の幼根の生長を、高炉スラグによる肥料効果に加えて、より促すことができる。
廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合が、全体質量に対して10質量%未満である場合、高炉スラグ等からなる被覆層の固化と種子への付着安定性を補強する効果が、明確に発現しづらくなる。一方、廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合が、全体質量に対して50質量%を超える場合、高炉スラグ等と、この廃糖蜜を含有する水と、を混合すると、高炉スラグ等がダマになってしまい、種子に付着しづらくなる。従って、廃糖蜜を含有する水に含まれる廃糖蜜の質量割合は、全体質量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
<アルギン酸ナトリウム水溶液を用いる被覆種子の表面処理について>
先だって言及したように、高炉スラグ等を含む被覆層の表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を付加することによって、ゲル化が起こり、高炉スラグ等を含む被覆層の種子への付着の安定性を補強することが可能となる。
被覆層の表面へのアルギン酸ナトリウム水溶液の付加方法であるが、例えば、高炉スラグ等を含む被覆層の表面に対して、アルギン酸ナトリウム水溶液を噴霧したり、散水したりする等の方法がある。また、高炉スラグ等を含む被覆層を形成した種子を、アルギン酸ナトリウム水溶液に被覆層が剥離しないように注意して短時間浸すなどの方法を行うことも可能である。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が、水溶液の全体質量に対して0.5質量%未満の場合には、アルギン酸ナトリウムの濃度が低すぎるため、ゲル化がしっかりと起こらず、被覆層の種子への付着の安定性を補強する効果が発現しない可能性がある。また、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が、水溶液の全体質量に対して5質量%を超える場合には、ゲルが強固になりすぎて、発芽を抑制する可能性がある。従って、高炉スラグ等を含む被覆層の表面に付加するアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は、水溶液の全体質量に対して0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。なお、アルギン酸ナトリウム水溶液を噴霧又は散水して付加する場合のアルギン酸ナトリウム水溶液の量は、被覆層の表面全面を湿らせる程度の量でよい。
<除菌剤、除虫剤、除草剤を用いた被覆種子の表面処理について>
先だって言及したように、高炉スラグ等を含む被覆層の表面に、除菌剤、除虫剤、又は、除草剤の少なくとも何れかを付着させることが可能である。
被覆層の表面への上記薬剤の付加方法であるが、例えば、高炉スラグ等を含む被覆層の表面に対して、上記薬剤を含む水溶液を噴霧したり、散水したりする等の方法がある。また、例えば、高炉スラグ等を含む被覆層の表面に対して、上記薬剤をそのまま散布し、被覆層の表面に上記薬剤を付着させてもよい。なお、被覆種子に対する上記薬剤の使用量は、特に規定されるものではないが、例えば、種子の乾燥重量1000グラムに対して、0〜100グラム程度とすることが好ましい。
なお、上記説明において、高炉スラグ等の組成は、水と混合する前の組成で示している。水と混合した後に高炉スラグの組成を確認するためには、水を蒸発させて乾燥させた状態で高炉スラグを回収し、回収した高炉スラグの組成を調べればよい。このように、被覆する前の高炉スラグの成分組成と、被覆後の高炉スラグの成分組成とは、殆ど変わらない。
高炉スラグ等を含む被覆層で被覆された種子は、例えば風通しのよいところ等で空気乾燥させた後、直播に用いることができる。被覆をすることで通気性が悪くなり、種子の呼吸が抑制されるため、被覆後なるべく早い時期に播種することが好ましい。可能であれば、被覆後4日以内に播種することが好ましい。
ただし、被覆後半年間程度までであれば、被覆種子を保管して直播に用いることも可能である。
上記のように、高炉スラグ等を用いて簡便かつ安価に被覆された種子を作製することが可能となる。
(被覆種子の播種方法について)
続いて、以上説明したような被覆種子の播種方法について、簡単に説明する。
本実施形態に係る被覆種子の播種方法では、以上説明したような被覆種子を、当該種子を栽培するための栽培地に対して直播する。
ここで、被覆種子の播種方法については、特に限定されるものではなく、被覆種子に用いた植物の栽培に適した公知の播種方法を採用すればよい。
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法の一例にすぎず、本発明に係る被覆種子、被覆種子の製造方法及び被覆種子の播種方法が下記の例に限定されるものではない。なお、以下に示す各実施例中の稲種子は、水稲の種子である。
(実施例1)
以下の表1に示す組成の高炉スラグ(より詳細には、高炉水砕スラグ)を粉砕し、異なる孔径の篩を使って、粉砕後の高炉水砕スラグを、(A)孔径75μmの篩を通過したもの、(B)孔径600μmの篩を通過し、かつ、孔径75μmの篩は通過しないものの2種類に分級した。(A)又は(B)の各高炉水砕スラグを用いて、稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子、及び、陸稲種子を被覆した。
より詳細には、以下の表1に示す組成の高炉水砕スラグと、20質量%の濃度の廃糖蜜の水溶液と、の混合物を準備し、得られた混合物と、稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子、及び、陸稲種子と、を混合して、稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子、及び、陸稲種子の表面に、高炉水砕スラグと廃糖蜜水溶液との混合物を付着させた。その後、混合物の付着した稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子、及び、陸稲種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させ、被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子、被覆大豆種子、及び、被覆陸稲種子とした。
Figure 2018117549
また、比較例として、以下の表2に示す組成の製鋼スラグを粉砕して、孔径75μmの篩を通過した製鋼スラグも用意し、得られた製鋼スラグを用いて、陸稲種子を被覆した。
より詳細には、以下の表2に示す組成の製鋼スラグと、20質量%の濃度の廃糖蜜の水溶液と、の混合物を準備し、得られた混合物と陸稲種子とを混合して、陸稲種子の表面に、製鋼スラグと廃糖蜜水溶液との混合物を付着させた。その後、混合物の付着した陸稲種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させ、被覆陸稲種子とした。
Figure 2018117549
90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、高炉水砕スラグで被覆した稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子、及び、陸稲種子と、製鋼スラグで被覆した陸稲種子と、をそれぞれ20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。この際、各種子が湛水された状態とならないように、蒸留水の添加量を調整した。なお、対照として、無被覆の稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子、及び、陸稲種子についても、同様の発芽試験を並行して行なった。なお、無被覆種子は、乾燥し易かったため水分を追加供給したが、被覆種子には、水分の追加供給はしなかった。得られた発芽試験の結果を、以下の表3に示した。
Figure 2018117549
上記表3から明らかなように、孔径75μmの篩を通過した高炉水砕スラグで被覆した稲種子、トウモロコシ種子、大豆種子及び陸稲種子は、無被覆と同様に発芽率が高かった。従って、孔径75μmの篩を通過する高炉水砕スラグで被覆することで、いかなる植物種子であっても、良好な発芽率となることがわかった。
一方、製鋼スラグで被覆した陸稲種子は、高炉水砕スラグで被覆した陸稲種子よりも若干低い発芽率となった。これは、製鋼スラグのアルカリ性が高炉水砕スラグのアルカリ性よりも相対的に強いため、湛水しない状態で発芽する種子では、製鋼スラグの高いpHにより、発芽しにくくなったと考えられる。
(実施例2)
上記表1に示した組成の高炉水砕スラグから得られる高炉スラグ微粉末(JIS A6206相当)を用いて、稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子を被覆した。
より詳細には、上記の高炉水砕スラグと、生石灰粉末と、水と、の混合物を準備し、得られた混合物を、稲種子、トウモロコシ種子、及び、大豆種子の表面に付着させた。高炉水砕スラグ:水=70質量%:30質量%であり、生石灰の含有量は、高炉水砕スラグに対し1質量%である。その後、混合物の付着した稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子を乾燥させて種子表面に被覆層を形成させ、被覆稲種子、被覆トウモロコシ種子及び被覆大豆種子とした。
各被覆種子を50粒ずつプラスチック製皿に分散させて配置し、かかるプラスチック製皿を、風の影響を受けないよう囲いで覆った条件で、野外に載置した。2週間後、鳥に食べられず残った種子数を数え、種子残存率を算出した。対照として、無被覆の稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子に関しても、同様の試験を並行して行なった。得られた残存率の結果を、以下の表4に示す。
Figure 2018117549
上記表4から明らかなように、高炉水砕スラグを含む被覆層で被覆した稲種子、トウモロコシ種子及び大豆種子は、いずれも無被覆種子と比べて残存率が高く、鳥に食べられないことがわかった。
(実施例3)
上記表1に示した組成の高炉水砕スラグを用い、(A)孔径75μmの篩を通過したもの、(B)孔径600μmの篩を通過し、かつ、孔径75μmの篩は通過しないもの、のそれぞれを用意した。また、上記表2に示した組成の製鋼スラグを用い、同様にして、(A)孔径75μmの篩を通過したもの、(B)孔径600μmの篩を通過し、かつ、孔径75μmの篩は通過しないもの、のそれぞれを用意した。
得られた4種類のスラグ(すなわち、高炉水砕スラグ(A)、高炉水砕スラグ(B)、製鋼スラグ(A)、製鋼スラグ(B))のそれぞれについて、水を加えることで、スラグ:水=70質量%:30質量%の比率の水との混合物を準備し、更に、稲種子を混合させることで、稲種子の表面に、各スラグと水の混合物を付着させた。なお、高炉水砕スラグ(A)、(B)については、実施例2と同様にして、更に生石灰粉末を高炉水砕スラグに対して外掛けで2質量%添加した。これらの被覆種子を、乾燥しないよう24時間養生した後に、常温で24時間乾燥させて、高炉水砕スラグ(A)、高炉水砕スラグ(B)、製鋼スラグ(A)、製鋼スラグ(B)でそれぞれ被覆した稲種子を作製した。得られた4種類の稲種子について、一粒当たりの稲種子質量及び被覆物質量を、以下の表5にまとめて示した。
Figure 2018117549
上記表5から明らかなように、孔径75μmの篩を通過した高炉水砕スラグ(A)で被覆した稲種子で、最も被覆物の付着量を増加させることができた。次いで、孔径75μmの篩を通過した製鋼スラグ(A)で被覆した稲種子で、被覆物の付着量が多かった。これに対して、孔径600μmの篩を通過し、かつ、孔径75μmの篩は通過しない高炉水砕スラグ(B)や製鋼スラグ(B)で被覆した稲種子の被覆物の付着量は、いずれも低い値となった。従って、粒径がより小さい高炉水砕スラグ、又は、製鋼スラグで被覆したほうが、良好に被覆物を付着できることがわかった。
続いて、高炉水砕スラグ(A)、高炉水砕スラグ(B)、製鋼スラグ(A)、製鋼スラグ(B)のそれぞれで被覆した稲種子の約20粒ずつを、高さ20cmの位置から鉄板上に一回自然落下させた。鉄板に落下した種子を回収し、質量を測定して、落下前後での被覆物質量の変化を調べた。落下前の被覆物質量に対する落下後の被覆物質量の割合を計算し、以下の表6に示した。
Figure 2018117549
上記表6から明らかなように、孔径75μmの篩を通過した高炉水砕スラグ(A)で生石灰を添加して被覆した種子では、孔径75μmの篩を通過した製鋼スラグ(A)で被覆した種子よりも、鉄板への種子落下による試験において、より多くの被覆物が残存し、被覆物の強度が増し、被覆物がより安定して付着していることがわかった。
(実施例4)
上記表1に示した組成の高炉水砕スラグ、及び、上記表2に示した組成の製鋼スラグのそれぞれにおいて、孔径75μmの篩を通過したものを用意した。
上記の高炉水砕スラグ、製鋼スラグそれぞれについて、水を加えることで、スラグ:水=70質量%:30質量%の比率の水との混合物を準備し、更に、トウモロコシ種子を混合させることで、トウモロコシ種子の表面にスラグと水との混合物を付着させた。なお、高炉水砕スラグには、生石灰粉末を高炉水砕スラグに対して外掛けで1質量%添加した。これらの被覆種子を、乾燥しないよう24時間養生した後に、常温で24時間乾燥させて、高炉水砕スラグ、製鋼スラグでそれぞれ被覆したトウモロコシ種子を作製した。
トウモロコシ種子一粒当たりのトウモロコシ種子質量及び被覆物質量を、以下の表7にあわせて示した。また、被覆物のpHをpH試験紙を用いて測定し、得られた結果を、以下の表7にあわせて示した。
Figure 2018117549
上記表7から明らかなように、製鋼スラグで被覆した種子の被覆物は、pH9.1であり、高炉水砕スラグで被覆した種子の被覆物は、pH7.5であった。
トウモロコシ種子は、湛水しない条件で発芽する種子であるため、このことを考慮して発芽試験を以下のように実施した。90mm径のプラスチック製シャーレにろ紙を敷き、シャーレ1枚につき、高炉水砕スラグ、製鋼スラグで被覆したトウモロコシ種子をそれぞれ20粒載置し、蒸留水を加えて、28℃で静置して発芽試験を行なった。この際、各種子が湛水された状態とならないように、蒸留水の添加量を調整した。なお、対照として、無被覆のトウモロコシ種子についても、同様の発芽試験を並行して行なった。なお、無被覆種子は、乾燥し易かったため水分を追加供給したが、被覆種子には、水分の追加供給はしなかった。得られた発芽試験の結果を、以下の表8に示した。
Figure 2018117549
上記表8から明らかなように、孔径75μmの篩を通過した高炉水砕スラグで被覆したトウモロコシ種子は、無被覆の種子、及び、製鋼スラグで被覆した種子よりも、発芽率が高かった。
また、製鋼スラグで被覆した陸稲種子は、高炉水砕スラグで被覆した陸稲種子よりも若干低い発芽率となった。これは、表7に示したように、製鋼スラグのアルカリ性が高炉水砕スラグのアルカリ性よりも相対的に強いため、湛水しない状態で発芽する種子では、製鋼スラグの高pHにより、発芽しにくくなったことが原因と考えられる。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

Claims (30)

  1. 高炉スラグを含み、所定の種子の表面を被覆する被覆層を有する、被覆種子。
  2. 前記被覆層は、更に、生石灰、又は、消石灰の少なくとも何れかを含む、請求項1に記載の被覆種子。
  3. 前記被覆層における前記生石灰、又は、消石灰の少なくとも何れかの含有量は、前記高炉スラグの質量に対して、外掛けで5質量%以下である、請求項2に記載の被覆種子。
  4. 前記高炉スラグは、35質量%以上45質量%以下のCaOと、25質量%以上40質量%以下のSiOと、2質量%以上15質量%以下のMgOと、8質量%以上20質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の被覆種子。
  5. 前記高炉スラグは、孔径600μmの篩を通過する高炉スラグである、請求項1〜4の何れか1項に記載の被覆種子。
  6. 前記高炉スラグは、孔径75μmの篩を通過する高炉スラグである、請求項1〜5の何れか1項に記載の被覆種子。
  7. 前記高炉スラグは、高炉水砕スラグである、請求項1〜6の何れか1項に記載の被覆種子。
  8. 前記被覆層は、更に電気炉製鋼スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかを含む、請求項1〜7の何れか1項に記載の被覆種子。
  9. 前記電気炉製鋼スラグは、15質量%以上60質量%以下のCaOと、10質量%以上20質量%以下のSiOと、2質量%以上10質量%以下のMgOと、3質量%以上20質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する、請求項8に記載の被覆種子。
  10. 前記石炭灰は、1質量%以上10質量%以下のCaOと、40質量%以上75質量%以下のSiOと、2質量%以上20質量%以下のFeと、15質量%以上35質量%以下のAlと、の少なくとも何れかを、合計が100質量%以下となるように含有する、請求項8又は9に記載の被覆種子。
  11. 前記電気炉製鋼スラグは、孔径600μmの篩を透過する電気炉製鋼スラグである、請求項8〜10の何れか1項に記載の被覆種子。
  12. 前記石炭灰は、孔径75μmの篩を通過する石炭灰である、請求項8〜11の何れか1項に記載の被覆種子。
  13. 前記被覆層における前記電気炉製鋼スラグの含有量は、前記被覆層の全体の質量に対して、0質量%超30質量%以下である、請求項8〜12の何れか1項に記載の被覆種子。
  14. 前記被覆層における前記石炭灰の含有量は、前記被覆層の全体の質量に対して、0質量%以上20質量%以下である、請求項8〜13の何れか1項に記載の被覆種子。
  15. 前記被覆層は、石膏、鉄粉、セメント、及び、廃糖蜜からなる群より選択される少なくとも1種を更に含む、請求項1〜14の何れか1項に記載の被覆種子。
  16. 前記種子は、湛水された状態で栽培される植物の種子、又は、湛水しない状態で栽培される植物の種子である、請求項1〜15の何れか1項に記載の被覆種子。
  17. 前記湛水された状態で栽培される植物の種子は、イネ科植物の種子である、請求項16に記載の被覆種子。
  18. 前記イネ科植物の種子は、水稲種子である、請求項17に記載の被覆種子。
  19. 前記湛水しない状態で栽培される植物の種子は、イネ科植物、マメ科植物、タデ科植物、食用草本植物、又は、有用植物の種子である、請求項16に記載の被覆種子。
  20. 前記イネ科植物の種子は、陸稲種子、トウモロコシ種子、又は、麦種子であり、
    前記マメ科植物の種子は、ダイズ種子、又は、アズキ種子であり、
    前記タデ科植物の種子は、ソバ種子であり、
    前記食用草本植物の種子は、ニンジン種子、トマト種子、又は、甜菜種子であり、
    前記有用植物の種子は、芝種子、牧草種子、緑肥用植物種子、又は、花木種子である、請求項19に記載の被覆種子。
  21. 前記被覆層の表面に、除菌剤、徐虫剤又は除草剤の少なくとも何れが付着している、請求項1〜20の何れか1項に記載の被覆種子。
  22. 前記被覆層は、更に、アルギン酸化合物を含有する、請求項1〜21の何れか1項に記載の被覆種子。
  23. 前記種子は、でんぷんで被覆された種子である、請求項1〜22の何れか1項に記載の被覆種子。
  24. 高炉スラグと水とを混合して得られた混合物により、所定の種子を被覆する、被覆種子の製造方法。
  25. 前記混合物は、生石灰、又は、消石灰の少なくとも何れかを更に含む、請求項24に記載の被覆種子の製造方法。
  26. 前記混合物は、電気炉製鋼スラグ、又は、石炭灰の少なくとも何れかを更に含む、請求項24又は25に記載の被覆種子の製造方法。
  27. 前記混合物における前記水の割合は、前記混合物の全体質量に対して、10質量%以上80質量%以下である、請求項24〜26の何れか1項に記載の被覆種子の製造方法。
  28. 前記混合物は、石膏、鉄粉、及び、セメントからなる群より選択される少なくとも1種を更に含む、請求項24〜27の何れか1項に記載の被覆種子の製造方法。
  29. 前記水は、廃糖蜜を10質量%以上50質量%以下含有する水である、請求項24〜28の何れか1項に記載の被覆種子の製造方法。
  30. 請求項1〜23の何れか1項に記載の被覆種子を、前記種子を栽培するための栽培地に対して直播する、被覆種子の播種方法。
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