JP2019213541A - 稲種子被覆剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来の鉄粉系被覆剤に比べて酸化反応による発熱が抑制されることで多層養生が可能で、かつ安価で製造可能な稲種子被覆剤を提供する。【解決手段】白銑金属組織が一部又は全部に形成されている鉄粉であって、金属鉄量は全体の80.5%以上のものを稲種子被覆剤とする。鉄粉を、磁力選別、粉砕、篩分を行うことによって得ることができる。白銑金属組織を持つ粉末は、酸化反応の反応速度が緩やかであるため、発熱も緩やかである。このため、稲種子の死滅が抑制され、稲種子被覆剤として優れる。【選択図】図1

Description

本発明は、稲種子被覆に好適な稲種子被覆剤、具体的には、従来の鉄粉系被覆剤に比べて発熱反応による発熱が抑制されることで多層養生が可能で、かつ安価で製造可能な稲種子被覆剤に関する。
農業従事者の高齢化、農産物流通のグローバル化に伴い、農作業の省力化や農産物生産コストの低減が解決すべき課題となっている。これらの課題を解決するために、例えば、水稲栽培においては、育苗と移植の手間を省くことを目的として、稲種子を圃場に直接播く直播法が普及しつつある。その中でも、稲種子の比重を高めるために、鉄粉を被覆した稲種子を用いる手法は、水田における稲種子の浮遊や流出を防止し、かつ鳥害を防止するというメリットがあることで注目されている。
稲種子を鉄粉で被覆するには、稲種子表面に鉄粉を付着、固定化させる必要がある。そこで、稲種子表面に鉄粉を付着、固化させる技術としては、特許文献1に記載の技術が提案されている。
特許文献1には、鉄粉と結合材と添加剤を含む稲種子被覆剤を用いる技術が開示されている。
特開2017−23082号公報
従来の稲種子被覆剤は、主原料として還元鉄粉を微粉砕したものが使用されていた。特許文献1に記載の稲種子被覆剤も同様である。しかしながら、還元鉄粉では、被覆後、酸化発熱反応により急激に高温となり、被覆稲種子が死滅する危険性があった。そのため、稲種子は熱がこもらないように、1、2層に薄く拡げて養生する必要がある。つまり、従来の稲種子被覆剤を用いる場合、広大な養生面積を必要としていた。
また、還元鉄粉は高価であることから、従来の稲種子被覆剤は高価であり、一般農家での普及が進んでいない。
そこで、発明者は鋭意研究の結果、稲種子被覆剤の原材料に着目した。そして、白銑金属組織を一部または全部に形成することで、酸化発熱反応の反応速度が抑制され、その結果、発熱が抑制され、これらの問題を解決することができることを知見し、本発明を完成させた。
本発明は、従来の鉄粉系被覆剤に比べて酸化反応による発熱が抑制されることで多層養生が可能で、かつ安価で製造可能な稲種子被覆剤を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は、鉄粉を含む稲種子被覆剤であって、前記鉄粉には、白銑金属組織が一部又は全部に形成され、前記金属鉄量は全体の80.5%以上である稲種子被覆剤である。
白銑金属とは、炭素がセメンタイトの板状結晶となっていて、破面が白色をしている銑鉄をいう。ここで、白銑金属組織が一部又は全部に形成されているとは、鉄粉を構成する粒子が白銑金属で構成されていてもよく、一定領域を白銑金属が組織として占めており、残りの領域は他の金属組織等が存在してもよいことをいう。ただし、金属鉄量は全体の80.5%以上とする。
稲種子と稲種子被覆剤との結合(付着、固定化)は、稲種子被覆剤に含まれている鉄成分の酸化反応の進行により発現するが、鉄の酸化反応により発熱する。白銑金属組織を持つ粉末は、酸化反応の反応速度が緩やかであるため、発熱も緩やかである。このため、多層養生であっても、稲種子の死滅が抑制され、稲種子被覆剤として優れている。
稲種子被覆剤の粒径は細かい鉄粉であれば稲種子と稲種子被覆剤との結合強度は高まる。このため、稲種子被覆剤の粒径は、125μm以下が好ましく、63μm以下であればなおよい。
請求項2に記載の発明は、前記鉄粉は、高炉水砕メタルを原料とする請求項1に記載の稲種子被覆剤である。
稲種子被覆剤の原料として高炉水砕メタルを原料とすることで、従来の鉄粉系被覆剤に比べて酸化反応による発熱が抑制された稲種子被覆剤を安価に製造することができる。稲種子は40℃を超えると死滅する危険性が増大するため、養生時は40℃を越えないように注意しなければならない。このとき、鉄粉に含まれる炭素成分が、全体の2.6%以上であれば、酸化反応による発熱が抑制され、室温(24.0℃)下における20mmの積層(約10層)での養生であっても、最高発熱温度が40℃に達しない。このため、多層養生であっても稲種子の死滅が著しく抑制される。
なお、本発明に係る稲種子被覆剤は、白銑金属組織が一部又は全部に形成されている鉄粉を原料とし、磁力選別、粉砕、篩分を行うことによって製造される。
白銑金属組織が一部又は全部に形成されている鉄粉を原料とすることで、磁力選別、粉砕、篩分という物理的工程のみを経て、稲種子被覆剤を製造することができる。このため、酸化反応による発熱が抑制された稲種子被覆剤を安価に製造することが可能である。
また、化学的処理を行わないことから、環境負荷の低減につながる。
本発明によれば、白銑金属組織を持つ粉末は、酸化反応の反応速度が緩やかであるため、発熱も緩やかである。このため、多層養生であっても、稲種子の死滅が抑制され、稲種子被覆剤として優れている。
特に請求項2に記載の発明によれば、稲種子被覆剤の原料として高炉水砕メタルを原料とすることで、従来の鉄粉系被覆剤に比べて酸化反応による発熱が抑制された稲種子被覆剤を安価に製造することができる。このとき、鉄粉に含まれる炭素成分が、全体の2.6%以上であれば、酸化反応による発熱が抑制され、室温(24.0℃)下における20mmの積層(約10層)での養生であっても、最高発熱温度が40℃に達しない。このため、多層養生であっても、稲種子の死滅が著しく抑制される。
なお、本発明に係る稲種子被覆剤は、白銑金属組織が一部又は全部に形成されている鉄粉を原料とすることで、磁力選別、粉砕、篩分という物理的工程のみを経て、稲種子被覆剤を製造することができる。このため、酸化反応による発熱が抑制された稲種子被覆剤を安価に製造することが可能である。
また、化学的処理を行わないことから、環境負荷の低減につながる。
本発明に係る稲種子被覆剤の製造プロセスの一例を示すフローチャートである。 本発明の実施例2に係る稲種子被覆剤の金属顕微鏡写真(倍率600倍)である。 従来の還元鉄粉系稲種子被覆剤(比較例1)の金属顕微鏡写真(倍率600倍)である。
本発明に係る稲種子被覆剤は、稲種子表面を被覆するのに用いるものであり、鉄粉を含む稲種子被覆剤である。
図1に示すように、高炉から生成する溶融スラグを多量の水により急冷した、砂状の高炉水砕スラグを磁力選別し、磁力選別によって得られる磁着物を高炉水砕メタルとして、稲種子被覆剤の原料とした。また、この磁力選別によって得られる非磁着物はセメント会社等において、セメント原料として用いられる。高炉セメント製造工程においてセメント原料は粉砕され、その後磁力選別されるが、その際に得られた磁着物成分も高炉水砕メタル(原料)として用いることも可能である。
このようにして得られた高炉水砕メタルを磁力選別し、その磁着物をさらに粉砕し篩分を行い、粒度調整を行うことによって、稲種子被覆剤を得た。
粉砕機は、川崎重工業株式会社製の振動ミルを用いた。篩分機は、株式会社飯田製作所製のIIDA SIEVE SHAKERを用いた。篩分けは、標準篩目開で、180μm、125μm、63μm、45μmの4種類を用いた。
このようにして得られた稲種子被覆剤について、金属鉄量(M.Fe)、炭素量、粒径を測定した。その測定結果を表1に示す。なお、金属鉄量はJIS M 8213(酸可溶性第一鉄定量方法)に規定の金属鉄定量方法に基づき測定を行った。炭素量は、JIS G 1211(全炭素定量方法)に規定の燃焼−ガス定量方法に基づき測定を行った。粒径は、JIS Z 8815(ふるい分け試験方法通則)に基づき測定を行った。
また、比較例1として、稲種子被覆還元鉄粉「粉美人」(登録商標)を用いた。
Figure 2019213541
また、得られた稲種子被覆剤(実施例2)と従来の稲種子被覆剤(比較例1)との断面金属組織を金属顕微鏡を用いて観察した。観察して得られた写真を図2、図3に示す。図2に示すように、実施例2に係る稲種子被覆剤は、セメンタイトとオーステナイトより変化したパーライトが存在し、白銑であることが明らかである。一方、図3に示すように、比較例1では、層状パーライトが主体であり、還元鉄粉が用いられているものと考えられる。
次に、これらの稲種子被覆剤を用いて、稲種子をコーティングし、発熱試験、コーティング強度試験、真比重の測定を行った。
コーティングは乾燥した稲種子を15〜20℃で3〜4日、水に浸漬し、コーティング直前に水中から取り出し、脱水した。コーティングでは、乾燥種子20kgに対し、稲種子被覆剤を10kg、焼石膏1kgの割合でコーティングした。その際、稲種子被覆剤と酸化促進剤となる焼石膏は、あらかじめ混合し、散水しながらコーティングマシン(パンペレタイザ、日本磁力選鉱株式会社製、直径500mm)上で揺動している種子に振りかけながら行なった。このようにして、稲種子表面に稲種子被覆剤が付着することでコーティング層が形成される。コーティングの最後に、仕上げ用に焼石膏を添加混合し、仕上げコーティングを行なった。
コーティング後の稲種子は、水分の乾燥と稲種子被覆剤に含まれる鉄成分を酸化させて表面に強固な錆びの層を形成するために、養生した。養生は、コーティング後の稲種子を厚さ20mmに積層し、室温25℃前後、湿度30%前後の室内にて行った。
発熱試験は、養生時における温度(最高発熱温度)を測定した。コーティング強度試験は、100gのコーティング後の稲種子を1mの高さから鉄板上へ5回落下させた後、目開き2mmの篩いを用いて篩分し、篩上の残存率(wt.%)をコーティング強度として評価した。発熱試験、コーティング強度試験、真比重測定の結果を表2に示す。
Figure 2019213541
このように、本発明に係る稲種子被覆剤は、比較例1(54.8℃)と比べて、最高発熱温度が40℃以下と低い温度を示している。稲種子は40℃を超えると死滅する危険性が増大するため、養生時は40℃を越えないように注意しなければならない。本発明に係る稲種子被覆剤は、室温(24.0℃)下における20mmの積層(約10層)での養生であっても、最高発熱温度が40℃に達しなかったため、稲種子の死滅が抑制され、稲種子被覆剤として優れているといえる。

Claims (2)

  1. 鉄粉を含む稲種子被覆剤であって、
    前記鉄粉には、白銑金属組織が一部又は全部に形成され、
    前記金属鉄量は全体の80.5%以上である稲種子被覆剤。
  2. 前記鉄粉は、高炉水砕メタルを原料とする請求項1に記載の稲種子被覆剤。
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