以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
(実施形態1)
[タンデム式圧延機]
まず、本発明の実施形態1に係る蛇行予測システム及び蛇行予測方法が適用されるタンデム式圧延機10による板材2の圧延について、図1〜図3を参照して説明する。タンデム式圧延機10は、連続圧延ラインに設置され、鋼板などの板材2を所定の厚さに圧延加工するためのものである。タンデム式圧延機10は、板材2が進入可能な隙間を空けて配置された上下一対の圧延ロール11,12と、圧延ロール11,12を支持する上下一対のバックアップロール13,14と、を備える。図1に示すように、圧延ロール11,12を図略のモータによって軸周りに回転させつつ板材2をロール間の隙間に進入させることにより、板材2を所望の厚さに圧延することができる。
図2に示すように、タンデム式圧延機10は、例えば、左側が各ロールを回転駆動させるモータ等の駆動機構が配置された駆動側(Drive Side:DS)となっており、右側がオペレータの作業領域である作業側(Work Side:WS)となっている。タンデム式圧延機10は、圧延ロール11,12の左右の圧下位置(レベリング)を調整するための油圧シリンダを圧下位置調整手段として備える。この油圧シリンダによって、圧延ロール11,12の左右を上下移動させることで、ミル中心C(圧延ロール11,12の軸方向の中心)におけるロール間ギャップを一定に維持しつつ左右のロール間ギャップを調整可能となっている。またタンデム式圧延機10には、圧延時に板材2から受ける荷重Pを検出するロードセルが荷重検出手段として左右に設けられており、これによりDS及びWSの荷重を個別に検出可能となっている。なお、図2中の右側がDSで且つ左側がWSであってもよい。
タンデム式圧延機10による板材2の圧延において、圧延ロール11,12の出側における板材2の厚さ(出側板厚)hは、次のように表される。即ち、圧延ロール11,12間の隙間をS、圧延ロール11,12が板材2から受ける荷重(圧延荷重)をP、圧延機のミル定数をMとすると、出側板厚hは下記の式(1)で表される。ミル定数とは、圧延機の縦剛性係数であって、圧延機全体の垂直方向の変形量に対する圧延荷重の比である。
また図3に示すように、圧延時に板材2と圧延ロール11,12とが接触する長さである接触弧長l(lL,lR)は、圧延ロール11,12の半径をR、圧延ロール11,12の入側における板材2の厚さ(入側板厚)をH、出側板厚をhとすると、下記の式(2)で表される。
タンデム式圧延機10では、次のようなメカニズムで、圧延ロール11,12の入側において板材2の蛇行が生じる。板材2の蛇行とは、圧延中の何らかの外乱によって板材2がミル中心Cから連続的にずれる現象であり、そのずれ量は蛇行量(又はオフセンタ量)と呼ばれる。
図2に示すように、圧延ロール11,12の左右において圧下位置(レベリング)の差があり、これによって左右の圧下率に差が生じている場合には、図3及び式(2)に示すように左右の接触弧長lL,lRに差が生じる(lL>lR)。このため、板材2を圧延ロール11,12間に進入させると、板材2の進行方向D1と圧延ロール11,12の回転方向D2(ロール軸に垂直な方向)との間に進入角度θが形成される。これにより、板材2の幅方向に速度成分vが発生し、当該速度成分vによって板材2が連続的に右側にずれ、板材2の蛇行量が増加する。このようにして板材2の蛇行量が増加することにより、板材2の幅方向の端部が搬送路のガイド部分に衝突し、搬送トラブルを招く場合がある。
ところで、実際の圧延ラインでは、図4に示すように、タンデム式圧延機10の上流側に板材2を拘束するためのブライドルロール15(上流側ロール)が配置されており、当該ブライドルロール15からタンデム式圧延機10に向かって板材2が送り出される。具体的には、板材2をブライドルロール15に巻き付けて拘束することにより当該ブライドルロール15を固定端として機能させる。これにより、ブライドルロール15によって板材2の送り出し方向D3及び送り出し位置が拘束されると共に圧延ロール11,12間に進入する板材2に対してブライドルロール15と圧延ロール11,12との間に張力が掛けられた状態で、圧延ロール11,12により板材2が圧延される。このような上流側ロール15による拘束作用が、板材2の蛇行を停留させるように働く。以下説明する本実施形態に係る蛇行予測システム及び蛇行予測方法では、このような上流側ロール15による板材2の拘束作用を考慮して蛇行量の変化量を演算することにより、実際の連続圧延ラインの条件に即した蛇行量の計算を行うことができ、板材2の蛇行をより正確に予測することができる。
[蛇行予測システム]
次に、本実施形態に係る蛇行予測システム1について説明する。図5は、蛇行予測システム1の構成を示した機能ブロック図である。蛇行予測システム1は、タンデム式圧延機10の上流側に配置されたブライドルロール15により、板材2の送り出し方向D3及び送り出し位置が拘束されると共に、当該タンデム式圧延機10の一対の圧延ロール11,12間に進入する板材2に、ブライドルロール15と圧延ロール11,12との間に張力が掛けられた状態で、一対の圧延ロール11,12により板材2を圧延する際の蛇行を予測するシステムである。蛇行予測システム1は、例えば連続圧延ラインに付設されるコンピュータにより構成され、演算部21と、入力部22と、表示部23と、記憶部24と、を備える。
演算部21は、プロセッサにより構成され、入力部22に入力された各条件に基づいて板材2の蛇行量の変化量を演算する。具体的には、演算部21は、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)(図4)を計算する張力演算部25と、圧延ロール11,12が板材2から受ける幅方向の荷重分布P(x)(図4)を計算する荷重演算部26と、出側板厚hの幅方向の分布を計算する板厚演算部27と、圧延ロール11,12間への板材2の進入角度θを計算する角度演算部28と、板材2の蛇行量(ミル中心Cからのオフセンタ量)の変化量を計算する蛇行量演算部29と、を有する。
演算部21による計算の詳細については、後の蛇行予測方法の説明で詳述するが、概略以下の通りである。張力演算部25は、ブライドルロール15により板材2を拘束する状態を表す拘束条件と、板材2が圧延ロール11,12間に進入する際の進入条件と、を用いて、張力分布T(x)を計算する。この進入条件としては、圧延ロール11,12間への板材2の進入角度θ及び進入位置(板材2の蛇行量)を用いることができるが、これに限定されない。例えば、進入角度θに代えて、進入角度θの計算に使用される圧延ロール11,12の左右の圧下率差又は接触弧長差を用いることもできる。荷重演算部26は、張力演算部25により計算した張力分布T(x)に基づいて荷重分布P(x)を計算する。板厚演算部27は、荷重演算部26により計算した荷重分布P(x)を含む、圧延ロール11,12における左右の圧下率の違いに影響を与える因子(例えば、圧延ロール11,12における左右のレベリング差、左右の入側板厚Hの差、左右のミル定数の差など)を用いて、出側板厚hの幅方向の分布を計算する。角度演算部28は、板厚演算部27により計算した出側板厚hの分布に基づいて板材2の進入角度θを計算する。蛇行量演算部29は、角度演算部28により計算した板材2の進入角度θに基づいて蛇行量の変化量を計算する。これらの演算部25〜29によって順に計算することにより、ブライドルロール15により板材2を拘束する状態を表す拘束条件と、板材2が圧延ロール11,12間に進入する際の進入条件(例えば、進入角度θ及び進入位置)を用いて、板材2の蛇行量の変化量を演算することができる。
入力部22は、例えばデータロガーなどにより構成され、演算部21による蛇行量の演算に必要なデータを入力するための部分である。入力部22に入力されたデータは、演算部21に送信される。表示部23は、圧延機10のオペレータによる監視が可能なディスプレイなどにより構成され、演算部21から送信された演算結果を表示する。記憶部24は、メモリやハードディスクなどにより構成され、演算部21による計算に必要な各種演算式を含むプログラムを格納する。
[蛇行予測方法]
次に、上記蛇行予測システム1を用いて実施される本実施形態に係る蛇行予測方法について、図6のフローチャートに沿って説明する。上記蛇行予測方法は、ブライドルロール15により板材2の送り出し方向D3及び送り出し位置が拘束されると共に、圧延ロール11,12間に進入する板材2に対して、ブライドルロール15と圧延ロール11,12との間に張力が掛けられた状態で、圧延ロール11,12により板材2を圧延する際の蛇行を予測する方法である。始めに、工程S10〜S30において、連続圧延の開始初期における板材2の蛇行量の変化量を演算する。
まず、連続圧延の開始初期における出側板厚hの幅方向の分布を計算する工程S10が実施される。この工程S10では、まず、圧延ロール11,12における左右の圧下率の違いに影響を与える因子として、圧延ロール11,12における左右のレベリング差、入側板厚Hの幅方向の分布(ウェッジ)又は圧延機における左右のミル定数の差、などを初期条件として入力部22に入力する。なお、これらの因子のうち少なくとも一つを入力すればよく、一部の因子のみを入力してもよいし、全ての因子を入力してもよい。
次に、板厚演算部27において、上記初期条件に基づいて出側板厚hの幅方向の分布を計算する。具体的には、上記初期条件に基づいて圧延ロール11,12の幅方向各位置における圧下率を計算し、当該圧下率に基づいて圧延ロール11,12が板材2から受ける荷重Pの幅方向の分布を計算し、当該荷重分布に基づいて圧延ロール11,12のたわみを計算し、当該ロールたわみに基づいて出側板厚hの幅方向の分布を計算する。
次に、連続圧延の開始初期における板材2の進入角度θを計算する工程S20が実施される。この工程S20では、まず、角度演算部28において、上記工程S10で得られた出側板厚hの幅方向の分布を用いて、板材2の左右の接触弧長lL,lRをそれぞれ計算する(図3)。具体的には、ロール径R、左右の入側板厚HL,HR及び左右の出側板厚hL,hRを用いて、下記の式(3),(4)により接触弧長lL,lRをそれぞれ計算する。そして、図3に示すように、接触弧長の差lL−lRと板材2がロールに接触する幅Wとの間に下記の式(5)が成立するため、これを用いて板材2の進入角度θ(板材2の進行方向D1とロールの回転方向D2とが成す角度)を計算する。
次に、連続圧延の開始初期における板材2の蛇行量の変化量を計算する工程S30が実施される。この工程S30では、蛇行量演算部29において、上記工程S20で得られた板材2の進入角度θ及び予め定められた微小時間Δtを用いて、当該微小時間Δt内での板材2の蛇行量の変化量を計算する。具体的には、板材2の進入角度θ及び入側速度V1を用いて、下記の式(6)により蛇行量の変化量Δysを計算する。以上の工程S10〜S30により、連続圧延の開始初期における板材2の蛇行量の変化量を演算する。なお、上記の演算に用いた式(3)〜(6)は、記憶部24に計算プログラムとして格納されている。
続いて以下の工程S40〜S80では、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)(図4)に基づいて板材2の蛇行量を再計算することにより、蛇行量の変化量を更新する。
まず、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)(図4)を計算する工程S40が実施される。この工程S40では、張力演算部25において、ブライドルロール15により板材2を拘束する状態を表す拘束条件と、板材2が圧延ロール11,12間に進入する際の進入条件と、を用いて、張力分布T(x)を計算する。上述の通り、進入条件としては、板材2の進入角度θ及び進入位置を用いることができるがこれに限定されず、進入角度θに代えて当該進入角度θを計算するための圧延ロール11,12の左右の圧下率差や接触弧長差(lL−lR)を用いることができる。この張力分布T(x)は、例えば二次元有限要素法(2D−FEM)を用いて計算される。このとき、上記拘束条件は、ブライドルロール15側の境界条件となり、板材2の進入角度θ及び進入位置は、圧延ロール11,12側の境界条件となる。
図4に示すように、上記拘束条件としては、ブライドルロール15に固定された部分における板材2の幅方向D4の変位が0であること、ブライドルロール15の送り出し位置15Aから圧延ロール11,12の隙間に向かう直線D5に対する板材2の送り出し方向D3の傾きが0であること(直線D5と送り出し方向D3が平行であること)、などの条件が用いられる。板材2の進入角度θは、上記工程S20で計算した値が用いられる。板材2の進入位置は、上記工程S30で計算した板材2のオフセンタ量が用いられる。また張力分布T(x)の計算においては、上記拘束条件、進入角度θ及び進入位置のみを用いてもよいがこれに限定されず、圧延ロール11,12とブライドルロール15との間の距離、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の平均張力及び合計張力、板材2の厚み及び幅、板材2の剛性、板材2のキャンバ−又は圧延ロール11,12における圧下率差などの条件をさらに用いてもよい。
次に、圧延ロール11,12が受ける荷重分布P(x)を計算する工程S50が実施される。この工程S50では、荷重演算部26において、上記工程S40で得られた張力分布T(x)に基づいて圧延ロール11,12が板材2から受ける幅方向の荷重分布P(x)を再計算する。つまり、張力分布T(x)よって荷重分布P(x)を修正する。図4に示すように、板材2の幅方向において右側の張力が大きく且つ左側の張力が小さくなるような張力分布T(x)が生じるため、荷重分布P(x)は右側の荷重Pが小さく左側の荷重Pが大きくなるように変化する。この工程S50では、このように圧延ロール11,12の入側における板材2の張力分布T(x)の影響によって変化した荷重分布P(x)を計算する。
次に、出側板厚hの幅方向の分布を計算する工程S60が実施される。この工程S60では、上記工程S50で修正された荷重分布P(x)を用いて、出側板厚hの幅方向の分布を再計算する。具体的には、上記工程S10と同様に、修正後の荷重分布P(x)を用いてロールたわみを計算し、当該ロールたわみに基づいて出側板厚hの幅方向の分布を計算する。
次に、板材2の進入角度θを計算する工程S70が実施される。この工程S70では、上記工程S60で修正された出側板厚hの幅方向の分布を用いて、板材2の進入角度θを再計算する。具体的には、上記工程S20と同様に、修正後の出側板厚hの幅方向の分布を用いて上記の式(3),(4)により接触弧長lL,lRを計算し、接触弧長lL,lRを用いて上記の式(5)により進入角度θを計算する。
次に、板材2の蛇行量の変化量を計算する工程S80が実施される。この工程S80では、上記工程S70で修正された進入角度θを用いて、板材2の蛇行量の変化量を計算する。具体的には、上記工程S30と同様に、上記工程S70で修正した進入角度θ及び板材2の入側速度V1を用いて、上記の式(6)により微小時間Δt内における蛇行量の変化量Δysを計算する。以上の工程S40〜S80によって、ブライドルロール15により板材2を拘束する拘束条件と、板材2の進入角度θ及び進入位置と、を用いて、圧延ロール11,12により圧延する際の板材2の蛇行量の変化量を演算する。
そして、上記工程S40〜S80の計算を所定サイクル数繰り返し行う。このとき、工程S40の張力分布T(x)の計算においては、前サイクルの演算により更新した板材2の進入角度θ及び蛇行量(進入位置)が用いられる。これにより、図7のグラフに示すように、サイクル数と蛇行量との関係が得られる。このグラフは、表示部23(図5)において表示される。これにより、入側張力が高いため蛇行量の増加量が徐々に小さくなって蛇行が停留する場合や、入側張力が低いため蛇行量の増加量が小さくならずに蛇行が発散する場合についてシミュレーションすることができる。よって、実際の連続圧延ラインにおいて蛇行が停留するか又は発散するかを予測することができ、実際の連続圧延ラインにおいて蛇行が発散しないようにするための入側張力の条件を決定することができる。
[蛇行の停留及び発散]
ここで、板材2の蛇行が停留する場合及び発散する場合の原理について、図8〜図11を参照して説明する。図8に示すように、圧延ロール11,12において左側の圧下率が大きく右側の圧下率が小さい場合には、左側の荷重Pが大きく右側の荷重Pが小さくなる荷重分布P(x)が生じる。またこの場合、図9に示すように、圧延ロール11,12の入側における板材2には、左側の張力が小さく右側の張力が大きくなる張力分布T(x)が生じる。この張力分布T(x)によって、圧延ロール11,12の荷重分布P(x)は、左側がさらに大きく右側がさらに小さくなるように変化する。これにより、図10に示すように、左側のロール間ギャップが広がり右側のロール間ギャップが狭まることにより圧延ロール11,12の左右のレベリング差が解消され、左右の圧下率差も解消される。その結果、図11に示すように、圧延ロール11,12間への板材2の進入角度が0になり(板材2の進行方向とロールの回転方向が平行になり)、板材2の蛇行が停留する。
一方で、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)が小さい場合(幅方向の張力差が小さい場合)には、前記のような圧延ロール11,12の荷重分布P(x)の変化も小さくなる。このため、圧延ロール11,12の左右のレベリング差が解消されず、左右の圧下率差も解消されない。その結果、板材2の進入角度が0にならず、蛇行量が連続的に増加するため、蛇行が発散する。このような実際の連続圧延ラインで起こる板材2の蛇行の停留及び発散を、上記本実施形態に係る蛇行予測システム1及び蛇行予測方法を用いることでより正確に予測することができる。
[作用効果]
次に、上記本実施形態に係る蛇行予測システム1及び蛇行予測方法の特徴及びその作用効果について説明する。
上記蛇行予測システム1は、タンデム式圧延機10の上流側に配置された上流側ロール15により、板材2の送り出し方向D3及び送り出し位置が拘束されると共に、タンデム式圧延機10の一対の圧延ロール11,12間に進入する板材2に、上流側ロール15と圧延ロール11,12との間に張力が掛けられた状態で、一対の圧延ロール11,12により板材2を圧延する際の蛇行を予測するシステムである。上記蛇行予測システム1は、上流側ロール15により板材2を拘束する状態を表す拘束条件と、板材2が一対の圧延ロール11,12間に進入する際の進入角度θ及び進入位置と、を用いて、板材2の蛇行量の変化量を演算する演算部21を備えている。
上記蛇行予測方法は、タンデム式圧延機10の上流側に配置された上流側ロール15により、板材2の送り出し方向D3及び送り出し位置が拘束されると共に、タンデム式圧延機10の一対の圧延ロール11,12間に進入する板材2に、上流側ロール15と圧延ロール11,12との間に張力が掛けられた状態で、一対の圧延ロール11,12により板材2を圧延する際の蛇行を予測する方法である。上記蛇行予測方法は、一対の圧延ロール11,12により圧延する際の板材2の蛇行量の変化量を演算する工程S1(S10〜S80)を含む。当該蛇行量の変化量を演算する工程S1では、上流側ロール15により板材2を拘束する状態を表す拘束条件と、板材2が一対の圧延ロール11,12間に進入する際の進入角度θ及び進入位置と、を用いて、蛇行量の変化量を演算する。
上記蛇行予測システム1及び蛇行予測方法では、タンデム式圧延機10の上流側に配置された上流側ロール15による板材2の拘束条件と、一対の圧延ロール11,12間に進入する際の板材2の進入角度θ及び進入位置と、に基づいて蛇行量の変化量を演算することができる。このため、上流側ロール15により板材2の送り出し方向D3及び送り出し位置を拘束しつつ一対の圧延ロール11,12間に所定の進入角度θ及び進入位置で板材2が進入する、という実際の圧延時の条件を想定して蛇行量の変化量を計算することができる。従って、上記蛇行予測システム1及び蛇行予測方法によれば、実際の圧延時に生じる板材2の蛇行をより正確に予測することができる。
上記蛇行予測システム1において、演算部21は、上流側ロール15による拘束条件、板材2の進入角度θ及び進入位置を用いて、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)を計算し(張力演算部25)、当該張力分布T(x)に基づいて、圧延ロール11,12が板材2から受ける幅方向の荷重分布P(x)を計算するように構成されている(荷重演算部26)。また上記蛇行予測方法において、蛇行量の変化量を演算する工程S1は、上流側ロール15による拘束条件、板材2の進入角度θ及び進入位置を用いて、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)を計算する工程S40と、当該張力分布T(x)に基づいて、圧延ロール11,12が板材2から受ける幅方向の荷重分布P(x)を計算する工程S50と、を含む。
前記の通り、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)及び圧延ロール11,12が板材2から受ける荷重分布P(x)は、板材2の蛇行が停留するか又は発散するかにおいて大きく影響する。このため、これらの分布T(x),P(x)を蛇行量の変化量の演算において考慮することにより、圧延中に板材2の蛇行が停留するか又は発散するかについてより正確に予測することができる。
上記蛇行予測システム1において、演算部21は、荷重分布P(x)を含む、圧延ロール11,12における左右の圧下率の違いに影響を与える因子を用いて、圧延ロール11,12の出側における板材2の幅方向の板厚分布を計算し(板厚演算部27)、当該板厚分布に基づいて進入角度θを計算し(角度演算部28)、当該進入角度θに基づいて蛇行量の変化量を計算するように構成されている(蛇行量演算部29)。また上記蛇行予測方法において、蛇行量の変化量を演算する工程S1は、板材2の進入角度θを導出する工程S2,S3と、当該進入角度θに基づいて蛇行量の変化量を計算する工程S30,S80と、を含む。板材2の進入角度θを導出する工程S2,S3は、荷重分布P(x)を含む、圧延ロール11,12における左右の圧下率の違いに影響を与える因子を用いて、圧延ロール11,12の出側における板材2の幅方向の板厚分布を計算する工程S10,S60と、当該板厚分布に基づいて進入角度θを計算する工程S20,S70と、を含む。これにより、圧延ロール11,12の出側の板厚分布から進入角度θを計算し、当該進入角度θから蛇行量を計算することで、より正確な蛇行量を計算することができる。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る蛇行予測方法について説明する。実施形態2に係る蛇行予測方法は、基本的に上記実施形態1に係る蛇行予測方法と同様に実施されるが、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)において、圧縮応力が予め定められた値を超えた領域は圧縮応力が一定値となるように当該張力分布T(x)を修正する工程をさらに備える点で上記実施形態1と異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
図12に示すように、圧延ロール11,12の入側において板材2の幅方向の左側には、圧縮応力が加わる場合があり、当該圧縮応力が一定値を超えることによって、薄板である板材2が座屈する場合がある。これにより、板材2の座屈した部分においては圧縮応力が解放されて一定値となる。
図13は、工程S40の計算により得られた張力分布T(x)を示すグラフであり、図14は、当該張力分布T(x)を修正した後のグラフである。図13,図14のグラフにおいて、横軸は、板材2の幅方向を示し、縦軸は板材2に加わる長手方向の応力を示している。横軸は、圧延ロール11,12の軸方向に平行であり、且つ、DS及びWSにおける圧延ロール11,12の支持点の中間に原点をとった座標軸である。実施形態2では、工程S40の計算により張力分布T(x)が得られた後、当該張力分布T(x)において圧縮応力が予め定められた値を超えた領域は当該圧縮応力が一定値となるように当該張力分布T(x)を修正する。具体的には、図13のグラフにおいて長手方向の応力が0を下回る領域(つまり圧縮領域)については、板材2が座屈することで応力が解放されると想定し、図14に示すように応力が0で一定になるように張力分布T(x)を修正する。このとき、修正の前後において合計張力が等しくなるように調整する。これにより、圧延中に板材2が座屈することにより応力が解放される場合についても蛇行量の変化量の計算に反映させることができ、板材2の蛇行をより正確に予測することができる。
また実施形態2では、圧縮応力を一定値と見なすための閾値を0に設定したがこれに限定されず、0より大きい値でもよいし、0より小さい値でもよい。即ち、この閾値は、実際の連続圧延ラインの条件により近づくように適宜設定することができる。
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係る蛇行予測方法について説明する。実施形態3に係る蛇行予測方法は、基本的に上記実施形態1に係る蛇行予測方法と同様に実施されるが、圧延ロール11,12の出側における板材2の幅方向の張力分布による干渉を考慮して、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布を修正する工程をさらに備える点で上記実施形態1と異なっている。
実施形態3では、工程S40の計算により圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布を得た後、以下の修正工程を行う。即ち、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布をσE(z)、圧延ロール11,12の出側における板材2の幅方向の張力分布をσD(z)、σE(z)とσD(z)との干渉係数をg(0≦g≦1)とした時に、σE(z)を下記の式(7)、(8)及び(9)で表されるσE’(z)に修正する工程を実施する。下記の式(9)において、hD(z)は、出側板厚hの幅方向の分布であり、z1,z2はDS及びWSにおける圧延ロール11,12と板材2との接触開始位置における座標である。また修正の前後において合計張力が変わらないように調整する。これにより、圧延ロール11,12の入側における板材2の張力分布と出側における板材2の張力分布との干渉を考慮して蛇行量の変化量を計算することができ、蛇行量の変化量をより正確に計算することができる。
図15に示すように、圧延ロール11,12の出側において板材2の幅方向両側の張力が大きく中央の張力が小さい分布が生じている場合には、圧延ロール11,12の入側において板材2に圧縮領域が形成されにくく、座屈が発生しにくいため、蛇行を抑制することができる。一方で、図16に示すように、圧延ロール11,12の出側において板材2の幅方向両側の張力が小さく中央の張力が大きい分布が生じている場合には、圧延ロール11,12の入側において圧縮領域が形成されやすく、座屈が発生しやすいため、蛇行が生じ易い。このような圧延ロール11,12の出側における張力分布が板材2の蛇行に与える影響を考慮して蛇行を予測することができる。
(実施形態4)
次に、本発明の実施形態4に係る蛇行予測システムについて、図17及び図18を参照して説明する。本実施形態に係る蛇行予測システムは、基本的に上記実施形態1に係る蛇行予測システム1(図5)と同様の構成を備えているが、表示部23の機能において異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ詳細に説明する。
表示部23(出力部)は、板材2の蛇行量の変化量の演算に用いられる蛇行予測変数と、蛇行予測変数について予め定められた閾値と、をそれぞれ表示するように構成されている。本実施形態では、圧延ロール11,12が板材2から受ける幅方向の荷重分布P(x)を、蛇行予測変数の一例として説明する。表示部23には、荷重演算部26による荷重分布P(x)の計算結果が出力されると共に、オペレータにより入力部22に入力される荷重分布P(x)の閾値の情報が出力される。
図17は、本実施形態における表示部23のモニタ画面を示している。図17において、横軸は圧延ロール11,12における軸方向の位置を示し、縦軸は圧延ロール11,12が板材2から受ける荷重(圧延荷重)を示している。横軸に付した「WS」は圧延ロール11,12の作業側を意味し、「DS」は圧延ロール11,12の駆動側を意味し、「C」は圧延ロール11,12のミル中心を意味する。また図17において、(1)の実線は荷重分布P(x)の計算値を示し、(2)の破線は荷重分布P(x)の上限閾値を示し、(3)の破線は荷重分布P(x)の下限閾値を示している。
本実施形態において、(2)上限閾値及び(3)下限閾値は、圧延機10における圧延荷重の過去実績値に基づいて決定されている。しかし、上限閾値及び下限閾値は、過去実績値に基づいて決定されるものに限定されず、例えば、任意の定数又はテーブル値として決定されてもよいし、任意の代数式として決定されてもよい。
表示部23は、蛇行予測変数が予め定められた閾値を超えたときに、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報を、当該閾値を超える蛇行予測変数に応じて表示(出力)する。図17に示すように、本実施形態では、WS側及びDS側において(1)荷重分布の計算値が(3)下限閾値を超えている(下限閾値を下回っている)。このとき、表示部23は、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延ロール11,12の荷重の変更又は圧延ロール11,12のベンダー操作を促す情報を表示する。具体的には、表示部23は、「荷重分布が閾値超えです。圧延ロールの荷重の変更又は圧延ロールのベンダー操作を行って下さい。」などの警告メッセージを表示する。
このとき、オペレータがより確認し易いようにするため、表示部23が通常の表示から点滅表示(図17中ドット)に切り替わるように構成されていてもよい。なお、表示部23は、荷重の変更やベンダー操作をオペレータにガイダンスすることができれば、警告メッセージを表示するものに限定されず、例えば、オペレータが操作すべき箇所を指し示すように圧延機の図を表示するように構成されていてもよい。
また本発明における出力部は、表示部23に限定されず、例えば上記のようなガイダンスを音声によって発生する音声部により構成されていてもよい。これは、以下に説明する実施形態5〜7においても同様である。
オペレータは、表示部23のモニタ画面を確認することにより、(1)荷重分布が(3)下限閾値を超えていることを認識すると共に、当該閾値超えの状態に対処するため、圧延ロール11,12の荷重の変更やベンダー操作が必要であることを確認することができる。そして、オペレータは、表示部23に表示されたガイダンスに従って、油圧シリンダの制御による圧延ロール11,12の圧下位置の変更や圧延ロール11,12のベンディングを行うことができる。
これにより、図18に示すように、(1)’荷重分布が(2)上限閾値と(3)下限閾値との間にある正常な操業状態に戻すことができる。その結果、荷重分布P(x)の異常に起因する板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。なお、本実施形態では、荷重分布が下限閾値を下回る場合について説明したが、上限閾値を超える場合についても同様である。
次に、上記蛇行予測システムを用いて実施される本実施形態に係る圧延機のオペレータ支援方法について、図19に示すフローチャートに沿って説明する。
まず、取得工程S10が行われる。この工程S10では、上記実施形態1において説明した蛇行予測方法を用いて蛇行予測変数を得る。本実施形態では、荷重演算部26により計算された圧延ロール11,12の荷重分布P(x)が蛇行予測変数として取得される。
次に、判定工程S20が行われる。この工程S20では、上記取得工程S10において得られた荷重が予め定められた閾値を超えるか否かを判定する。この判定処理は、上記蛇行予測システムの一機能である判定部において行われる。そして、荷重が閾値を超えると判定されると(S20:YES)、次の工程S30に移る。一方、荷重が閾値を超えないと判定されると(S20:NO)、工程S10に戻る。
工程S30では、閾値超えした蛇行予測変数について、圧延機10の操業中に調整可能であるか否かが判定される。本実施形態における蛇行予測変数である荷重分布P(x)は、圧延機10の操業中における圧延ロール11,12の荷重の変更やベンダー操作により調整することができる。従って、本実施形態では、工程S30においてYESと判定される。
次に、表示工程S40(出力工程)が行われる。この工程S40では、上記工程S30においてYESと判定されると、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報を、閾値を超える蛇行予測変数に応じて表示(出力)する(S41)。本実施形態では、圧延ロール11,12の荷重の変更又は圧延ロール11,12のベンダー操作を促す情報として、その警告メッセージを表示部23に表示する。なお、上記工程S30においてNOと判定された場合には(S30:NO)、圧延機10の停止を促す情報を表示部23に表示する(S42)。
以上の工程S10〜S40により、本実施形態に係る圧延機のオペレータ支援方法が完了する。これにより、オペレータは、荷重分布P(x)の閾値超えに対処するための適切な圧延機10の操作方法を表示部23により確認することができる。その結果、荷重分布P(x)の異常に起因する板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。
(実施形態5)
次に、本発明の実施形態5に係る蛇行予測システム及び圧延機のオペレータ支援方法について説明する。本実施形態に係る蛇行予測システム及び圧延機のオペレータ支援方法は、基本的に上記実施形態4と同様であるが、圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)が蛇行予測変数として用いられる点で異なっている。以下、上記実施形態4と異なる点についてのみ詳細に説明する。
表示部23は、張力分布T(x)の計算値と、張力分布T(x)について予め定められた閾値と、をそれぞれ表示するように構成されている。張力分布T(x)の計算値は、張力演算部25(図5)から表示部23に出力される。張力分布T(x)の閾値は、オペレータにより入力部22に入力され、表示部23に出力される。
図20は、本実施形態における表示部23のモニタ画面を示している。図20において、横軸は圧延ロール11,12における軸方向の位置を示し、縦軸は圧延ロール11,12の入側における板材2の張力を示している。また図20において、(1)は張力分布T(x)の計算値を示し、(2)は張力分布T(x)について予め定められた下限閾値を示している。本実施形態では、下限閾値は0kg/mm2に設定される。
図20に示すように、本実施形態では、WS側及びDS側において(1)張力分布の計算値が(2)下限閾値を超えている(下限閾値を下回っている)。つまり、圧延ロール11,12の入側において板材2のWS側及びDS側の一部が圧縮状態となっている。このとき、表示部23は、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延ロール11,12の入側における板材2の張力調整を促す情報を表示する。具体的には、表示部23は、「入側の張力分布が圧縮状態です。入側張力を増加させる操作を行って下さい。」などの警告メッセージを表示する。
オペレータは、表示部23のモニタ画面を確認することにより、(1)張力分布が(2)下限閾値を超えていることを認識すると共に、当該閾値超えの状態に対処するために、圧延ロール11,12の入側において板材2の張力を増加させる操作が必要であることを確認することができる。そして、オペレータが表示部23のガイダンスに従って操作することにより、図21に示すように(1)’張力分布が(2)下限閾値を超えていない正常な圧延機10の操業状態に戻すことができる。これにより、張力分布T(x)の異常に起因する板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。
なお、張力分布T(x)の下限閾値は、0kg/mm2に限定されず、0kg/mm2より大きい値に設定されてもよい。また張力分布T(x)の閾値は、下限閾値に限定されず、上限閾値として設定されてもよい。また表示部23は、張力分布T(x)の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報を表示すると共に、上記実施形態4で説明した荷重分布P(x)の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報も表示するように構成されていてもよい。
次に、上記蛇行予測システムを用いて実施される本実施形態に係る圧延機のオペレータ支援方法について説明する。
まず、張力演算部25により計算された圧延ロール11,12の入側における板材2の幅方向の張力分布T(x)を蛇行予測変数として取得する(取得工程S10)。次に、張力が予め定められた閾値を超えるか否かを判定する(判定工程S20)。そして、張力が閾値を超えると判定されると(S20:YES)、工程S30に移り、張力が閾値を超えないと判定されると(S20:NO)、工程S10に戻る。
本実施形態における蛇行予測変数である張力分布T(x)は、圧延機10の操業中においても圧延ロール11,12の入側における板材2の張力を変更することにより調整可能である。従って、工程S30では、YESと判定される。
次に、表示工程S40(S41)(出力工程)では、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延ロール11,12の入側における板材2の張力調整を促す情報を表示(出力)する。具体的には、圧延ロール11,12の入側における板材2の張力調整が必要であることを示す警告メッセージを表示する。これにより、オペレータは、張力分布T(x)の閾値超えの状態に対処するための適切な圧延機10の操作方法を表示部23により確認することができる。その結果、張力分布T(x)の異常に起因する板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。
(実施形態6)
次に、本発明の実施形態6に係る蛇行予測システム及び圧延機のオペレータ支援方法について説明する。本実施形態に係る蛇行予測システム及び圧延機のオペレータ支援方法は、基本的に上記実施形態4と同様であるが、圧延ロール11,12のレベリング差が蛇行予測変数として用いられる点で異なっている。以下、上記実施形態4と異なる点についてのみ詳細に説明する。
表示部23は、圧延ロール11,12のレベリング差の計算値と、レベリング差について予め定められた閾値と、をそれぞれ表示するように構成されている。図22は、本実施形態における表示部23のモニタ画面を示している。図22において、横軸は圧延ロール11,12における軸方向の位置を示し、縦軸は圧延ロール11,12のレベリング差を示している。図22の縦軸において、レベリング差がマイナスの場合はDS側のレベリング差が広いことを意味し、レベリング差がプラスの場合はWS側のレベリング差が広いことを意味する。また図22において、(1)は油圧圧下装置(操作端)の制御に起因するレベリング差を示し、(2)はゲージメータ板厚差に起因するレベリング差(ミル定数の差に起因するレベリング差)を示し、(3)は圧延ロール11,12の熱膨張に起因するレベリング差を示し、(4)は(1)〜(3)の積算値を示している。また(5)はレベリング差について予め定められたWS側閾値を示し、(6)はレベリング差について予め定められたDS側閾値を示している。
図22に示すように、本実施形態では、(4)レベリング差の積算値が(6)DS側閾値を超えている。つまり、DS側においてレベリング差が閾値を超えるまで圧延ロール11,12間のギャップが広がっている。このとき、表示部23は、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延ロール11,12のレベリング操作を促す情報を表示する。具体的には、表示部23は、「DS側のレベリング差が閾値を超えています。WS側のレベリング差を広げる操作を行って下さい。」などの警告メッセージを表示する。即ち、閾値を超えた側(DS側)と逆側(WS側)における圧延ロール11,12のレベリング操作を促すメッセージを表示する。本実施形態では、DS側のレベリング差が閾値を超えているため、図22に示すように、表示部23において横軸のセンターCよりもDS側(左側)の画面領域に(1)〜(4)の棒グラフを表示する。なお、WS側のレベリング差が閾値を超える場合には、表示部23において横軸のセンターCよりもWS側(右側)の画面領域に(1)〜(4)の棒グラフを表示する。
オペレータは、表示部23のモニタ画面を確認することにより、(4)レベリング差の積算値が(6)DS側閾値を超えていることを認識すると共に、当該閾値超えの状態に対処するために、圧延ロール11,12のレベリング操作が必要であることを確認することができる。そして、オペレータが表示部23のガイダンスに従って油圧シリンダの制御によるレベリング操作を行うことにより、図23に示すように、(4)レベリング差の積算値が(6)DS側閾値を超えていない正常な圧延機10の操業状態に戻すことができる。これにより、圧延ロール11,12のレベリング差の異常に起因する板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。
(4)レベリング差の積算値は、(1)〜(3)のレベリング差の少なくとも2つを積算したものであればよい。従って、(1)〜(3)のレベリング差を全て積算したものに限定されず、(1)〜(3)のうち2つのレベリング差を積算したものであってもよい。また表示部23は、レベリング差の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報を表示すると共に、上記実施形態4で説明した荷重分布P(x)の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報及び上記実施形態5で説明した張力分布T(x)の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報の少なくとも一方をさらに表示するように構成されていてもよい。
次に、上記蛇行予測システムを用いて実施される本実施形態に係る圧延機のオペレータ支援方法について説明する。
まず、圧延ロール11,12のレベリング差を蛇行予測変数として取得する(取得工程S10)。次に、圧延ロール11,12のレベリング差が予め定められた閾値を超えるか否かを判定する(判定工程S20)。そして、レベリング差が閾値を超えると判定されると(S20:YES)、工程S30に移り、レベリング差が閾値を超えないと判定されると(S20:NO)、工程S10に戻る。
本実施形態における蛇行予測変数である圧延ロール11,12のレベリング差は、圧延機10の操業中においても油圧シリンダの制御により調整可能である。従って、工程S30では、YESと判定される。
次に、表示工程S40(S41)(出力工程)では、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延ロール11,12のレベリング操作を促す情報を表示(出力)する。具体的には、油圧シリンダの制御による圧延ロール11,12のレベリング操作を促す警告メッセージを表示する。これにより、オペレータは、圧延ロール11,12のレベリング差の閾値超えの状態に対処するための適切な圧延機10の操作方法を表示部23により確認することができる。その結果、圧延ロール11,12のレベリング差の異常に起因する板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。
(実施形態7)
次に、本発明の実施形態7に係る蛇行予測システム及び圧延機のオペレータ支援方法について説明する。本実施形態に係る蛇行予測システム及び圧延機のオペレータ支援方法は、基本的に上記実施形態4と同様であるが、板材2の蛇行量の変化量が閾値を超えたときに、圧延機10の停止を促す情報を表示する点で異なっている。以下、上記実施形態4と異なる点についてのみ詳細に説明する。
表示部23は、板材2の蛇行量の変化量の計算値と、板材2の蛇行量の変化量について予め定められた閾値と、をそれぞれ表示するように構成されている。板材2の蛇行量の変化量の計算値は、蛇行量演算部29(図5)から表示部23に出力される。蛇行量の閾値は、オペレータにより入力部22に入力され、表示部23に出力される。
図24は、本実施形態における表示部23のモニタ画面を示している。図24において、(1)は圧延ロール11,12のDS側における板材2の蛇行量の変化量を示し、(2)は蛇行量について予め定められた上限閾値を示している。
図24に示すように、本実施形態では、(1)DS側の蛇行量が(2)上限閾値を超えている(上限閾値を上回っている)。このとき、表示部23は、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延機10の停止を促す情報を表示する。具体的には、表示部23は、「蛇行量が上限閾値を超えています。圧延機の停止操作を行って下さい。」などの警告メッセージを表示する。
オペレータは、表示部23のモニタ画面を確認することにより、(1)DS側の蛇行量が(2)上限閾値を超えていることを認識すると共に、圧延機10を停止させる必要があることを確認することができる。そして、オペレータが表示部23のガイダンスに従った操作を行うことにより、蛇行トラブルが生じる前に圧延機10を停止させることができる。なお、WS側の蛇行量が(2)上限閾値を超える場合についても同様である。
また表示部23は、蛇行量の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報を表示すると共に、上記実施形態4で説明した荷重分布P(x)の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報、上記実施形態5で説明した張力分布T(x)の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報、及び上記実施形態6で説明したレベリング差の閾値超えに対処するためのオペレータ支援情報の少なくとも一つをさらに表示するように構成されていてもよい。
次に、上記蛇行予測システムを用いて実施される本実施形態に係る圧延機のオペレータ支援方法について説明する。
まず、蛇行量演算部29において板材2の蛇行量の変化量を計算する(取得工程S10)。次に、蛇行量が予め定められた閾値を超えるか否かを判定する(判定工程S20)。そして、蛇行量が閾値を超えると判定されると(S20:YES)、工程S30に移り、蛇行量が閾値を超えないと判定されると(S20:NO)、工程S10に戻る。
板材2の蛇行量は、操業中の圧延機10を操作することにより調整するのは困難であるため、一旦圧延機10を停止した上で板材2の位置を調整する必要がある。従って、本実施形態では、工程S30においてNOと判定される。
次に、表示工程S40(S42)(出力工程)では、オペレータによる圧延機10の操作を支援するための情報として、圧延機10の停止を促す情報を表示(出力)する。具体的には、圧延機10の停止を促す警告メッセージを表示する。これにより、オペレータは、蛇行量の閾値超えの状態に対処するために圧延機10の停止が必要であることを確認することができる。その結果、板材2の蛇行トラブルを未然に防ぐことができる。
(その他実施形態)
最後に、本発明のその他実施形態について説明する。
上記実施形態1では、図4に示すように、タンデム式圧延機10の上流側に配置された上流側ロール15による板材2の拘束条件を用いて、最上流の#1スタンドを対象として蛇行量を演算する場合について説明したが、これに限定されない。図25に示すように、タンデム式圧延機10において、#1スタンド10Aの下流側に配置された#2スタンド10Bの一対の圧延ロール11,12を蛇行量の演算対象としてもよい。そして、前段ロールである#1スタンド10Aの圧延ロール11,12による板材2の拘束条件と、#2スタンド10Bの圧延ロール11,12間に板材2が進入する際の進入条件と、を用いて、板材2の蛇行量を演算してもよい。即ち、本発明は、タンデム式圧延機10の入側における板材2の蛇行量の演算だけでなく、タンデム式圧延機10において隣り合うスタンド間での板材2の蛇行量の演算にも適用することができる。なお、蛇行量の演算対象となるスタンドは#2スタンド10Bに限定されず、#3以降のスタンドであってもよい。また上流側ロールは、ブライドルロール15に限定されず、デフレクターロールやセンタリングロールなどの種々の搬送ロールを用いることができる。
上記実施形態1〜7では、数基の圧延スタンドを並べたタンデム式圧延機を対象として説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、1台の圧延スタンドからなる圧延機においても適用することができる。
上記実施形態1〜3では、上流側ロール15による拘束条件として板材2の幅方向D4の変位が0であること及び送り出し方向D3の傾きが0であることを説明したがこれに限定されず、上流側ロール15による拘束に関係する他の条件を用いてもよい。
上記実施形態1〜3では、張力分布T(x)の計算において2D−FEMを用いる場合について説明したがこれに限定されず、材料力学による他の解析方法を用いてもよい。また張力分布T(x)を計算し、これに基づいて荷重分布P(x)を計算する場合について説明したがこれに限定されず、張力分布T(x)及び荷重分布P(x)の計算を省略してもよい。
上記実施形態1〜3のように、板材2の幅方向全体について張力分布T(x)を計算する場合に限定されず、左右の2点のみでもよい。また荷重分布P(x)、出側板厚hの幅方向の分布についても同様に左右の2点のみの計算でもよい。
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。