以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である電池システム10の構成を示す図である。この電池システム10は、動力源の一つとして回転電機100を搭載した電動車両(例えば電気自動車やハイブリッド自動車等)に搭載される。
電池システム10は、走行用の回転電機100に電力を供給する車載バッテリ12を備えている。車載バッテリ12は、複数の電池セル14を直列または並列に接続して構成されている。電池セル14は、充放電可能な非水電解質二次電池で、具体的には、リチウムイオン二次電池である。
車載バッテリ12は、システムメインリレー(以下「SMR」と呼ぶ)106および変圧器104を介してインバータ102に接続されている。変圧器104は、車載バッテリ12からの電力を昇圧するとともに、回転電機100で発電された電力を降圧する。SMR106は、車載バッテリ12と変圧器とを電気的に接続または接続解除する。SMR106がオンされると、車載バッテリ12の充放電が許容される。このSMR106は、原則として、イグニッションスイッチに連動してオン/オフが切り替わる。
インバータ102は、車載バッテリ12と回転電機100との間で、電力を直流から交流に、または、交流から直流に変換しながら、電流制御を行なう。回転電機100は、車両の走行用動力を出力するモータとして機能するとともに、動力を電力に変換するジェネレータとしても機能する。回転電機100で発電された電力は、インバータ102、変圧器104を介して、車載バッテリ12に送られ、これにより、車載バッテリ12が充電される。また、回転電機100は、モータとして機能する場合には、車載バッテリ12から送られた電力で駆動する。なお、図1では、回転電機100の個数を一つとしているが、回転電機100は、複数設けてもよい。例えば、主にモータとして機能する第一回転電機と、主にジェネレータとして機能する第二回転電機、を設けてもよい。
車載バッテリ12の充放電は、制御部16により管理制御される。制御部16は、各種演算を行うCPU22と、各種プログラムやパラメータを記憶するメモリ24と、を備えている。なお、図1では、制御部16を、単一のユニットとしているが、制御部16は、それぞれがCPU22およびメモリ24を有する制御ユニットを複数、組み合わせて構成されてもよい。したがって、制御部16は、CPU22およびメモリ24を複数有する構成としてもよい。
制御部16には、車載バッテリ12に設けられた電圧センサ18、電流センサ20、温度センサ21から、端子間電圧(電池電圧Vb)、充放電電流(電池電流Ib)、電池温度Tbなどの情報が入力される。車載バッテリ12は、複数の電池セル14を接続して構成されるが、電圧値および電流値は、各電池セル14ごとに検出される。制御部16は、これらセンサで取得された情報に基づいて車載バッテリ12のSOCを算出する。また、後に詳説するように、制御部16は、電池セル14(二次電池)の活物質層の内部状態と、この活物質層に作用する応力と、の関係を示すモデル式に基づいて、活物質層に生じる応力を数値解析する。そして、制御部16は、数値解析の結果、得られた応力に基づいて、車載バッテリ12の充放電電力の許容値(以下「電力許容値Win,Wout」と呼ぶ)を制御する。
次に、リチウムイオン二次電池について図2を参照して説明する。図2は、リチウムイオン二次電池の構成を示す図である。既述した通り、本実施形態においては、車載バッテリ12を構成する電池セル14は、リチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」と呼ぶ)である。二次電池は、正極32と、セパレータ36と、負極34とを含む。セパレータ36は、負極34および正極32の間に設けられ、樹脂に電解液を浸透させることで構成される。セパレータ36は、正極活物質層40と負極活物質層52を絶縁するとともに非水電解液の保持機能やシャットダウン機能を有するものであれば、特に限定されない。したがって、セパレータ36は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム)等から構成される。なお、セパレータ36は、単層構造であってもよく、材質や性状の異なる2種以上の多孔質樹脂シートが積層された構造であってもよい。電解液としては、極性が大きく溶解力の高いカーボネート系有機溶剤等を用いることができる。
正極32は、正極集電体38と正極集電体38上に固着された正極活物質層40とを備える。正極集電体38は、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、ニッケル等)からなる。正極活物質層40は、微小な粒子状の正極活物質42を含み、この正極活物質42同士あるいは正極活物質42と正極集電体38が、バインダ44により結着されている。正極活物質42としては、リチウム複合金属酸化物(例えば、LiCoO2、LiMn2O4等)を用いることができる。バインダ44としては、有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)や水分散系のスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。また、正極活物質層40には、さらに、電子伝導性を付与するための導電助材が含まれてもよい。導電助材としては、例えば、炭素材料、導電性高分子材料などを用いることができる。
負極34は、負極集電体46と負極集電体46上に固着された負極活物質層52とを備える。負極集電体46は、導電性の良好な金属(例えば銅、ニッケル等)からなる。負極活物質層52は、微小な粒子状の負極活物質48を含み、この負極活物質48同士あるいは負極活物質48と負極集電体46が、バインダ50により結着されている。負極活物質48としては、黒鉛(グラファイト)や、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブ、これらの組み合わせからなる炭素材料を用いることができる。バインダ50としては、有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)や水分散系のスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。また、負極活物質層52には、さらに、電子伝導性を付与するための導電助材が含まれてもよい。導電助材としては、例えば、炭素材料、導電性高分子材料などを用いることができる。
二次電池の放電時において、負極活物質48の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e−を放出する化学反応が行なわれる。一方、正極活物質42の界面上ではリチウムイオンLi+および電子e−を吸収する化学反応が行なわれる。二次電池の充電時においては、電子e−の放出および吸収に関して、上記の反応とは逆の反応が行なわれる。
以上のような構成の二次電池では、活物質42,48の体積変化や、リチウム濃度差等に起因して、活物質42,48またはバインダ44,50の内部や表面に応力が発生し、活物質42,48の割れ(クラック)が生じることが知られている。活物質42,48の割れが生じると、正極や負極、単極の容量減少や、正・負極組成対応ずれが発生し、二次電池容量の劣化が進む。また、こうした活物質42,48の割れは、不可逆的な現象であるため、実際に活物質42,48が割れる前に防止されることが望まれる。
そこで、本実施形態では、数値解析により活物質42,48に生じる応力を推定し、推定された応力に応じて充放電電力を制限することで、活物質42,48のクラック、ひいては、二次電池の機械的劣化を防止する。以下、この活物質のクラック防止技術について説明する。
はじめに、負極活物質48に生じる応力の推定について説明する。負極活物質48に生じる応力を推定するために、制御部16は、予め、負極活物質48の内部状態と負極活物質48に作用する応力との関係を示すモデル式を記憶している。図3は、このモデル式で想定している負極活物質48のモデル図である。図3に示すように、負極活物質48は、半径k0の球体で、例えば、グラファイトやシリコン等を想定することができる。負極活物質48の外表面は、PVDFからなるバインダ50で覆われており、その厚みは、Lである。なお、このモデル図では、導電助材を省略しているが、導電助材を含むモデルを使用してもよい。
本実施形態では、負極活物質48の径方向に複数の点を設定し、各点ごとに径方向応力σr[k]と接線方向応力σt[k]を、サンプリングタイムごとに演算している。なお、kは、負極34物質の中心Oからの径方向位置を示している。したがって、例えば、図3において、径位置k=kαの点Pにおける径方向応力は、σr[kα]であり、接線方向応力は、σt[kα]となる。なお、以下の説明では、適宜、[k]の記載を省略し、単に、σt,σrと記載する。
負極モデルにおいて、活物質内の拡散方程式は、次の式1で与えられる。
式1において、cはリチウム濃度であり、Dsは、拡散係数、Rは、ガス定数、Tは、電池温度の絶対温度、Ωは、リチウムの部分モル体積、σhは、静水圧応力である。部分モル体積Ωは、リチウムを1モル加えたときの体積変化を示す値で、リチウム濃度がc1からc2に変化する間に生じる負極活物質48の半径変化量をΔkとした場合、Ω=(Δk×3)/[(c1−c2)×cmax]と表すことができる。なお、cmaxは、最大リチウム濃度である。
また、拡散係数Dsは、電池温度が高くなるほど高くなる値である。制御部16は、この拡散係数Dsと電池温度との関係を示すマップを記憶している。図4は、拡散係数Dsのマップの一例を示す図である。制御部16は、温度センサ21で得られた電池温度Tbを、メモリ24に記憶されているマップに照らし合わせて、拡散係数Dsを特定し、数値解析に利用する。なお、マップに替えて、拡散係数Dsを演算式やテーブルの形式で記憶してもよい。
負極活物質48に生じる力のつり合い関係は、式2で表すことができる。
径方向応力σrおよび接線方向応力σtは、次の式3,4で表される。式3,4において、Eは、負極活物質48のヤング率であり、νは、負極活物質48のポアソン比、uは、負極活物質48内の点の変位量である。
ここで、静水圧応力σhは、式5に示すように、径方向応力σrおよび接線方向応力σtで表すことができる。
式1,2に、式3−5を代入すると、式1,2における未知数(変数)は、濃度cおよび変位uのみになることが分かる。制御部16は、この式1,2の連立方程式を数値解析により解き、濃度cおよび変位uを算出する。数値解析において用いる初期条件および境界条件は、次の式6−8に示す通りである。式6−8において、inは、電流密度であり、これは、電流センサ20で取得された電池電流Ibから算出することができる。また、Fは、ファラデー定数である。また、初期条件として、初期時刻t=0におけるリチウム濃度c0も必要となるが、初期のリチウム濃度c0は、電圧センサで検出された車載バッテリ12の開放電圧、すなわち、電池電圧Vbに基づいて算出される。なお、本実施形態では、SMR106がOFFからONに切り替われば応力の算出を開始する。したがって、初期時刻t=0とは、SMR106がOFFからONに切り替わった時刻を意味する。
制御部16は、数値解析により、リチウム濃度cおよび変位uが算出できれば、これらの値を式3,4に入力し、径方向応力σr[k]、接線方向応力σt[k]を算出する。ここで、径方向応力σr[k]、接線方向応力σt[k]は、いずれも、引張り応力の場合には、正の値となり、圧縮応力の場合には、負の値となる。通常、負極活物質48の割れは、引っ張り応力により生じることが多く、圧縮応力を受けて負極活物質48が割れることは稀である。そこで、本実施形態では、負極活物質48に作用する応力のうち、引っ張り応力にのみ着目し、負極活物質48が割れそうか否かを推定している。
具体的には、制御部16は、各サンプリングタイムごとに、負極活物質48に作用する応力σr[k],σt[k]が算出できれば、続いて、算出された応力の中から一つの代表値σaを特定する。本実施形態では、一つのサンプリングタイムで算出された複数の応力σr[k],σt[k]のうち、最大の値(すなわち、max(σr[k],σt[k])、k=0,・・・,k0)を、代表値σaとして特定する。ただし、最大値max(σr[k],σt[k])が負の値である場合は、代表値σaをゼロとする。すなわち、本実施形態では、引っ張り応力(正の値)のみを、代表値σaとして用いる。なお、代表値σaは、負極活物質48に作用している引っ張り応力の大きさを示す値であれば、特に限定されず、例えば、算出された複数の応力σr[k],σt[k]の平均値や、合算値等でもよい。
代表値σaが特定できれば、続いて、制御部16は、特定された代表値σaを、予め、メモリ24に記憶されている基準応力値σadefと比較する。基準応力値σadefは、負極活物質48の割れが生じる引っ張り応力よりも僅かに低い値であり、負極活物質48が割れる直前の引っ張り応力の値である。この基準応力値σadefは、事前の実験等で求めてもよいし、負極活物質48の物性値等からシミュレーションにより求めてもよい。また、基準応力値σadefは、固定値でもよいが、電池温度Tbや、二次電池を使用開始してからの経過時間等に応じて変化する可変値でもよい。
制御部16は、各サンプリングタイムごとに、代表値σaと、基準応力値σadefと、を比較する。比較の結果、応力最大値max(σr[k],σt[k])が基準応力値σadef以上の場合には、負極活物質48が割れそうであると判断する。この場合、制御部16は、負極活物質48に作用する応力を低減するべく、二次電池への電流負荷を低減する。本実施形態では、電流負荷を低減するために、二次電池の電力許容値Win,Woutを制限(低減)する。一方、代表値σaが基準応力値σadef未満の場合には、二次電池への電流負荷を低減する必要はないため、電力許容値Win,Woutとして通常の値を設定する。ここで、電力許容値Win,Woutは、通常、電池温度TbやSOC等に応じて設定される。電力許容値Win,Woutの「通常の値」とは、こうした電池温度TbやSOC等に応じて設定される値であり、負極活物質48に作用する応力を考慮することなく設定される値のことである。なお、二次電池への負荷を低減するために、入力電力許容値Win、出力電力許容値Woutの双方を制限してもよいが、活物質内のリチウム濃度の分布を均一化する方向への上限値は、抑制しなくてもよい。すなわち、活物質内の応力は、活物質内におけるリチウム濃度の偏りが大きいほど大きくなりやすい。そこで、活物質内のリチウム濃度の径方向分布を確認し、当該径方向分布を均一化する方向の電力については、制限しなくてもよい。
次に、本実施形態における電力許容値Win,Woutの制御の流れについて図5参照して説明する。電力許容値Win,Woutを設定するために、制御部16は、温度センサ21で検知された電池温度Tbと、電流センサ20で検知された電池電流Ibと、電圧センサ18で検知された電池電圧Vbと、を取得する(S10)。
続いて、得られた電池温度Tb、電池電流Ibと、メモリ24に記憶された負極活物質48のモデル式を利用して、負極活物質48に作用する応力を数値解析により算出する(S12)。なお、数値解析に必要となる拡散係数Dsは、メモリ24に記憶されたマップ(図4参照)に、電池温度Tbを照らし合わせて特定する。また、リチウム濃度の初期値c0は、初期タイミング(SMR106をOFFからONに切り替えたタイミング)における電池電圧Vbを利用して求める。
負極活物質48の複数の径位置ごとに、径方向応力σr[k]、接線方向応力σt[k]が得られれば、制御部16は、これらの値の最大値max(σr[k],σt[k])を、代表値σaとして特定する(S14)。そして、制御部16は、特定された代表値σaと、メモリ24に記憶されている基準応力値σadefとを比較する(S16)。比較の結果、代表値σaが、基準応力値σadef未満の場合には、電力許容値Win,Woutとして、通常の値Win_st,Wout_stを設定する(S18)。一方、代表値σaが、基準応力値σadef以上の場合には、電力許容値Win,Woutとして、通常の値Win_st,Wout_stよりも制限された値Win_low,Wout_lowを設定する(S19)。以後、規定のサンプリングタイムごとに、ステップS10〜S19を繰り返す。
図6は、本実施形態における負極活物質48に作用する応力σaと電力許容値Win,Woutの変化の一例を示す図である。図6においてσcは、負極活物質48の割れが生じる応力値(以下、「応力限界値」と呼ぶ)である。基準応力値σadefは、この応力限界値σcよりも低い値に設定されている。
図6の例では、制御部16により算出される応力の代表値σaは、時刻t0〜t1の間は、基準応力値σadefよりも小さい。したがって、この期間中、電力許容値Win,Woutは、応力σaに応じて制限されていない通常の値Win_st,Wout_stとなる。一方、時刻t1において、代表値σaが、基準応力値σadef以上となれば、制御部16は、電力許容値Win,Woutを制限された値Win_low,Wout_lowに設定する。これにより、二次電池への負荷が低減され、負極活物質48に作用する応力σaが、徐々に低下する。その結果、応力σaは、応力限界値σcに達することなく、時刻t2に、基準応力値σadef未満になる。この状態になれば、制御部16は、再度、電力許容値Win,Woutを通常の値Win_st,Wout_stに設定する。
以上の説明から明らかな通り、本実施形態では、負極活物質48に作用する応力σaを、その内部状態を示すモデルから推定し、応力σaが、応力限界値σcに達する前に、二次電池への負荷を低減している。その結果、負極活物質48の割れをより確実に防止でき、二次電池の劣化を効果的に防止できる。なお、本実施形態では、負極活物質48の応力を推定する場合のみを例示して説明したが、正極活物質42の応力も同様に推定し、推定結果に応じて電力許容値Win,Woutを調整するようにしてもよい。正極活物質42の応力を推定する際には、式1、式4、式5等のモデル式で用いる部分モル体積Ωや、ヤング率E、ポアソン比ν等を、正極活物質42の物性に応じて変更すればよい。
次に、第二実施形態について説明する。第二実施形態では、活物質42,48に作用する応力ではなく、活物質の周囲を覆うバインダ44,50に作用する応力に応じて、電流の許容値Win,Woutを変更する。かかる構成とするのは次の理由による。バインダ44,50は、既述した通り、活物質42,48同士または活物質42,48と集電体38,46とを結着させる。活物質42,48同士および活物質42,48と集電体38,46とが結着されることにより、導電ネットワークが構成される。バインダ44,50に応力が発生し、バインダ44,50に割れ(破断)が生じると、当該バインダ44,50で保持されている活物質42,48が導電ネットワークから脱落し、電池容量の低下を招く。このバインダ44,50の割れは、活物質42,48の割れと同様に、不可逆的な現象である。したがって、バインダ44,50の割れも、活物質42,48の割れと同様に、実際に発生する前に防止することが望まれる。
そこで、本実施形態では、バインダ44,50に作用する応力σbを、数値解析により演算し、当該応力σbが、規定の基準応力値σbdef以上の場合には、電力許容値Win,Woutを制限する。以下では、負極34のバインダ50のモデルを例に説明する。図3に示すように、本実施形態のバインダ50は、半径k0の球状の負極活物質48(グラファイト)の外周囲を覆うもので、その厚みは、Lである。
本実施形態では、第一実施形態と同様に、バインダ50の径方向に複数の点を設定し、各点ごとに径方向応力σr[k]と接線方向応力σt[k]を、サンプリングタイムごとに演算している。なお、kは、負極活物質48の中心Oからの径方向位置を示しており、(k0≦k≦k0+L)である。なお、以下の説明では、[k]の記載を省略し、単に、σt,σbと記載する。
バインダ50に作用する応力は、当該バインダ50が覆う負極活物質48の膨張・収縮により発生する。換言すれば、バインダ50に作用する応力は、基本的に、負極活物質48の径変化に依存している。そのため、バインダ50に作用する応力を求めるためには、負極活物質48の膨張収縮量を求める必要があり、第一実施形態と同様に、リチウム濃度の拡散方程式(式1)および力のつり合いの式(式2)の連立方程式を解く必要がある。
ただし、径方向応力σrおよび接線方向応力σtは、径位置kが、k0以上となれば、次の式9,10を用いる。
ここで、式9、式10で用いられるヤング率E、ポアソン比νは、負極活物質48の物性に応じた値、すなわち、式3,4で用いられるヤング率E、ポアソン比νの値と同じである。ところで、式3,4と式9,10を比較すると、式9,10には、式3,4の第三項(=−E/[(1+ν)(1−2ν)]×[(1+ν)(Δc・Ω)/3])がないことが分かる。この第三項は、リチウムの挿入・離脱に起因する。バインダ44,50には、リチウムの挿入・離脱は発生しないため、バインダ44,50の応力の式9,10には、当該第三項は存在しない。
また、数値解析を行う際には、バインダ50の表面の境界条件として、次の式11を用いる。
制御部16は、以上の条件に基づいて式1,2の連立方程式を数値解析により解き、濃度cおよび変位uを算出する。制御部16は、数値解析により、リチウム濃度cおよび変位uが算出できれば、これらの値を式9,10に入力し、バインダ50の径方向応力σr[k]、接線方向応力σt[k]を算出する。
バインダ50の径方向応力σr[k]、接線方向応力σt[k]を算出した後の制御の流れは、第一実施形態とほぼ同じである。すなわち、制御部16は、算出された応力σr[k],σt[k]の中から代表値σbを特定し、この代表値σbと基準応力値σbdefとを比較する。比較の結果、代表値σbが基準応力値σbdef以上であれば、電力許容値Win,Woutを制限する。なお、バインダに関しても、活物質の場合と同様に、二次電池への負荷を低減するために、入力電力許容値Win、出力電力許容値Woutの双方を制限してもよいが、バインダの負荷を低減する方向の電力の上限値は、抑制しなくてもよい。
なお、バインダ50の応力の代表値σbは、バインダ50に発生する応力σr[k],σt[k]の最大値max(σr[k],σt[k])である。ただし、応力σr[k],σt[k]の大きさを表す値であれば、最大値に限らず、他の値、例えば、平均値や合算値でもよい。基準応力値σbdefは、バインダ50の物性に応じて設定されることが望ましく、基準応力値σbdefは、バインダ50の割れが生じる引っ張り応力よりも僅かに低い値であり、バインダ50が割れる直前の引っ張り応力の値である。この基準応力値σbdefは、事前の実験等で求めてもよいし、バインダ50の物性値等からシミュレーションにより求めてもよい。また、この基準応力値σbdefは、固定値でもよいし、電池温度Tbや二次電池の使用経過時間に応じて変化する可変値でもよい。
次に、本実施形態における電力許容値Win,Woutの制御の流れについて図7を参照して説明する。充放電電力の許容値Win,Woutを設定するために、制御部16は、温度センサ21で検知された電池温度Tbと、電流センサ20で検知された電池電流Ibと、電圧センサ18で検知された電池電圧Vbと、を取得する(S20)。
続いて、得られた電池温度Tb、電池電流Ibと、メモリ24に記憶されたバインダ50のモデル式を利用して、バインダ50に作用する応力を数値解析により算出する(S22)。なお、数値解析に必要となる拡散係数Dsは、メモリ24に記憶されたマップ(図4参照)に、電池温度Tbを照らし合わせて特定する。また、リチウム濃度の初期値c0は、初期タイミング(SMR106をOFFからONに切り替えたタイミング)における電池電圧Vbを利用して求める。
バインダ50の複数の径位置ごとに、径方向応力σr[k]、接線方向応力σt[k]が得られれば、制御部16は、これらの値の最大値max(σr[k],σt[k])を、代表値σbとして特定する(S24)。次に、制御部16は、特定された代表値σbと、メモリ24に記憶されている基準応力値σbdefとを比較する(S26)。
比較の結果、代表値σbが、基準応力値σbdef未満の場合には、充放電電力の許容値Win,Woutとして、通常の値Win_st,Wout_stを設定する(S28)。一方、代表値σbが、基準応力値σbdef以上の場合には、充放電電力の許容値Win,Woutとして、通常の値Win_st,Wout_stよりも制限された値Win_low,Wout_lowを設定する(S29)。以後、規定のサンプリングタイムごとに、ステップS20〜S29を繰り返す。
以上、説明した通り、本実施形態では、バインダ44,50に作用する応力を、その内部状態を示すモデルから推定し、応力σbが、応力限界値σcに達する前に、二次電池への負荷を低減している。その結果、バインダ44,50の割れをより確実に防止でき、二次電池の劣化を効果的に防止できる。なお、上述の説明では、負極34のバインダ50の応力を推定しているが、負極34のバインダ50の応力に替えて、または、加えて、正極32のバインダ44の応力も推定し、その推定結果に応じて電力許容値Win,Woutを制限してもよい。いずれにしても、推定対象のバインダ44,50の物性、および、バインダ44,50が覆う活物質42,48の物性に応じて、モデル式で用いる部分モル体積Ωや、ヤング率Eやポアソン比ν等を、変更すればよい。
また、これまで説明した構成は、いずれも一例であり、活物質層40,52の内部状態を示すモデルに基づいて、活物質層40,52に作用する応力を推定し、得られた応力に応じて電力許容値Win,Woutを制御するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、これまでの説明では、活物質42,48またはバインダ44,50のいずれか一方の応力に基づいて電力許容値Win,Woutを設定している。しかし、活物質42,48に作用する応力σaおよびバインダ44,50に作用する応力σbの双方に基づいて、電力許容値Win,Woutを設定してもよい。図8は、かかる場合の制御の一例を示すフローチャートである。図8では、活物質42,48内の応力、バインダ44,50内の応力を演算する(S32,S38)。すなわち、ステップS32では、径位置kを、0≦k≦k0とし、応力の式として式3,4を用いて演算する。また、ステップS38では、径位置kをk0≦k≦(k0+L)とし、応力の式として式9,10を用いて演算する。そして、活物質42,48の応力σaが、活物質用の基準応力値σadef以上の場合(S36でYes)、または、バインダ44,50の応力σbが、バインダ用の基準応力値σbdef以上の場合(S42でYes)には、電力許容値Win,Woutを制限された値Win_low,Wout_lowに設定する(S46)。
また、これまでは、引っ張り応力のみを考慮する形態を説明した。しかし、活物質42,48やバインダ44,50に作用する圧縮応力も考慮して、電力許容値Win,Woutを決定するようにしてもよい。図9は、負極活物質48に作用する引っ張り応力σa_s、圧縮応力σa_cを考慮して、電力許容値Win,Woutを決定する制御の一例を示すフローチャートである。図9において、制御部16は、数値解析により、負極活物質48に作用する応力σr[k],σt[k]を演算する(S52)。続いて、得られた応力σr[k],σt[k]のうち、最大値max(σr[k],σt[k])を引っ張り応力の代表値σa_s、最小値min(σr[k],σt[k])を圧縮応力の代表値σa_cとして特定する。なお、例外条件として、最大値max(σr[k],σt[k])が負の値の場合には、代表値σa_s=0、最小値min(σr[k],σt[k])が正の値の場合には、代表値σa_c=0とする。
引っ張り応力、圧縮応力それぞれの代表値σa_s,σa_cが特定できれば、続いて、各代表値σa_s,σa_cの絶対値を、対応する基準応力値σdef_s,σdef_cと比較する(S56,S58)。引っ張り応力の基準応力値σdef_sは、負極活物質48が割れる引っ張り応力の値より僅かに小さい値である。圧縮応力の基準応力値σdef_cは、負極活物質48が割れる圧縮応力の値より僅かに小さい値である。通常、この圧縮応力の基準応力値σdef_cは、引っ張り応力の基準応力値σdef_sよりも大幅に大きく、例えば、3倍である。
比較の結果、代表値σa_s,σa_cの絶対値の少なくとも一方が、対応する基準応力値σdef_s,σdef_c以上の場合、制御部16は、電力許容値Win,Woutを制限された値Win_low,Wout_lowに設定する(S62)。一方、代表値σa_s,σa_cの絶対値のいずれもが、対応する基準応力値σdef_s,σdef_c未満の場合、制御部16は、電力許容値Win,Woutを通常の値Win_st,Wout_stに設定する(S60)。
また、これまで説明したモデル式は、一例であり、活物質42,48およびバインダ44,50の内部状態と活物質層40,52に作用する応力との関係を示すものであれば、適宜、変更されてもよい。例えば、リチウムの拡散方程式は、従来から、式1の他にも、種々の形態が提案されている。したがって、対象となる二次電池(電池セル14)の特性に応じて、異なる形態の拡散方程式を採用してもよい。いずれにしても、モデル式に基づいて、活物質層40,52に作用する応力を演算することで、活物質42,48やバインダ44,50が実際に割れる前に電力許容値Win,Woutを制限することができる。結果として、活物質42,48やバインダ44,50の割れという不可逆的な現象を効果的に防止でき、二次電池の機械的劣化を効果的に防止できる。