以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
以下では、電池劣化推定装置がハイブリッド車両(より特定的にはプラグインハイブリッド車両)に搭載された構成を例に説明する。ただし、電池劣化推定装置は、ハイブリッド車両に限られず、二次電池が搭載される車両全般(電気自動車など)に適用可能である。さらに、電池劣化推定装置の用途は車両用に限定されず、たとえば定置用であってもよい。
図1は、この実施の形態に係る電池劣化推定装置が搭載された車両1の全体構成を概略的に示す図である。図1を参照して、車両1は、プラグインハイブリッド車両であって、電池システム2と、モータジェネレータ61,62と、エンジン63と、動力分割装置64と、駆動軸65と、駆動輪66とを備える。電池システム2は、組電池10と、監視ユニット20と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)30と、インレット40と、充電装置50と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。ECU100は、本開示に係る「電池劣化推定装置」の一例に相当する。
モータジェネレータ61,62の各々は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動機である。モータジェネレータ61は、主として、動力分割装置64を経由してエンジン63により駆動される発電機として用いられる。モータジェネレータ61が発電した電力は、PCU30を介してモータジェネレータ62又は組電池10に供給される。
モータジェネレータ62は、主として電動機として動作し、駆動輪66を駆動する。モータジェネレータ62は、組電池10からの電力及びモータジェネレータ61の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、モータジェネレータ62の駆動力は駆動軸65に伝達される。一方、車両の制動時や下り斜面での加速度低減時には、モータジェネレータ62は、発電機として動作して回生発電を行なう。モータジェネレータ62が発電した電力は、PCU30を介して組電池10に供給される。
エンジン63は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーをピストンやロータなどの運動子の運動エネルギーに変換することによって動力を出力する内燃機関である。
動力分割装置64は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構(図示せず)を含む。動力分割装置64は、エンジン63から出力される動力を、モータジェネレータ61を駆動する動力と、駆動輪66を駆動する動力とに分割する。
組電池10は、複数のセル11を含む。セル11の詳細については後述する(図2参照)。組電池10は、モータジェネレータ61,62を駆動するための電力を蓄え、PCU30を通じてモータジェネレータ61,62へ電力を供給する。また、組電池10は、モータジェネレータ61,62の発電時にPCU30を通じて発電電力を受けて充電される。
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、組電池10の電圧(端子間電圧)を検出する。電流センサ22は、組電池10に入出力される電流IBを検出する。充電時の電流IBは正の数で表され、放電時の電流IBは負の数で表される。温度センサ23は、組電池10の温度を検出する。各センサは、その検出結果をECU100に出力する。
PCU30は、ECU100からの制御信号に従って、組電池10とモータジェネレータ61,62との間で双方向の電力変換を実行する。PCU30は、モータジェネレータ61,62の状態をそれぞれ別々に制御可能に構成されており、たとえば、モータジェネレータ61を回生状態(発電状態)にしつつ、モータジェネレータ62を力行状態にすることができる。PCU30は、たとえば、モータジェネレータ61,62に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧を組電池10の出力電圧以上に昇圧するコンバータ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。
インレット40は、充電ケーブルを接続可能に構成されている。インレット40は、充電ケーブルを介して、車両1の外部に設けられた電源90からの電力供給を受ける。電源90は、たとえば商用電源である。
充電装置50は、電源90から充電ケーブル及びインレット40を介して供給された電力を、ECU100からの制御信号に従って組電池10の充電に適した電力に変換する。充電装置50は、たとえばインバータ及びコンバータ(いずれも図示せず)を含んで構成されている。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ102と、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)とを含んで構成される。メモリ102は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び書き換え可能な不揮発性メモリを含む。ECU100は、監視ユニット20の各センサから受ける信号、並びにメモリ102に記憶されたプログラム及びマップに基づいて、車両1及び電池システム2が所望の状態となるように各機器を制御する。ECU100が行なう各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
また、ECU100は、組電池10の装着時(使用開始時)からの経過時間を累積カウントするタイマー(図示せず)を備える。なお、こうしたタイマー機能は、ソフトウェアによっても実現できる。
ECU100において、CPU101は、取得した情報(演算結果等)を、メモリ102(たとえば、書き換え可能な不揮発性メモリ)に出力してメモリ102に保存する。メモリ102は、車両1の走行制御、組電池10の充放電制御、並びに後述する表面応力σs推定、SOC推定、及び電池劣化推定に用いられる情報(変数、マップ等)を予め記憶している。
図2は、各セル11の構造をより詳細に説明するための図である。図2におけるセル11は、その内部を透視して示されている。この実施の形態において、各セル11は、リチウムイオン二次電池である。
図2を参照して、セル11は、角型(略直方体形状)の電池ケース111を有する。電池ケース111の上面は蓋体112によって封じられている。正極端子113及び負極端子114の各々の一方端は、蓋体112から外部に突出している。正極端子113及び負極端子114の他方端は、電池ケース111内部において、内部正極端子及び内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ接続されている。電池ケース111の内部には電極体115が収容されている。電極体115は、正極116と負極117とがセパレータ118を介して積層され、その積層体が捲回されることにより形成されている。電解液は、正極116、負極117及びセパレータ118等に保持されている。
正極116は、正極集電体(たとえば、アルミニウム箔)と、正極活物質層とを含む。たとえば正極活物質、バインダ、及び導電助剤を含有する正極合材を正極集電体の表面に塗工することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が形成される。また、負極117は、負極集電体(たとえば、銅箔)と、負極活物質層とを含む。たとえば負極活物質、バインダ、及び導電助剤を含有する負極合材を負極集電体の表面に塗工することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が形成される。
正極116、セパレータ118、及び電解液には、リチウムイオン二次電池の正極、セパレータ、及び電解液として公知の構成及び材料をそれぞれ用いることができる。一例として、正極活物質には、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物(コバルト酸リチウムの一部がニッケル及びマンガンにより置換された三元系の材料)を用いることができる。セパレータには、ポリオレフィン(たとえばポリエチレン又はポリプロピレン)を用いることができる。電解液には、有機溶媒(たとえば、DMC(dimethyl carbonate)とEMC(ethyl methyl carbonate)とEC(ethylene carbonate)との混合溶媒)と、リチウム塩(たとえば、LiPF6)と、添加剤(LiBOB(lithium bis(oxalate)borate)、Li[PF2(C2O4)2]等)とを含む溶液を用いることができる。
なお、セルの構成は特に限定されず、電極体が捲回構造ではなく積層構造を有するものであってもよい。また、角型の電池ケースに限られず、円筒型又はラミネート型の電池ケースも採用可能である。また、電解液に代えて、ポリマー系電解質を用いてもよいし、酸化物系、硫化物系などの無機系固体電解質を用いてもよい。
この実施の形態では、負極活物質としてシリコン系化合物(Si又はSiO等)を採用する。負極活物質としてシリコン系化合物を採用することで、炭素材料(グラファイト等)を採用した場合よりも、組電池10のエネルギー密度が向上する。
リチウムイオン二次電池では、リチウムが電荷担体となる。セル11の負極117においては、充電時におけるリチウムの挿入に伴って活物質が膨張し、放電時におけるリチウムの脱離に伴って活物質が収縮する。こうしたリチウムの挿入又は脱離に伴う体積変化量は、グラファイトよりもシリコン系化合物のほうが大きい。たとえば、リチウムの挿入に伴う体積変化量(膨張率)は、リチウムが挿入されていない状態での体積を基準とした場合に、グラファイトでは最大で1.1倍程度であるのに対して、シリコン系化合物では最大で4倍程度である。セル11では、負極活物質としてシリコン系化合物を採用しているため、充放電に伴う負極活物質の体積変化量が大きくなる。以下では、セル11において特に活物質の体積変化が生じやすい電極(すなわち、負極117)について主に説明する。
上記のような負極活物質の体積変化に伴い、負極活物質の表面及び内部に応力が発生する。
セル11の負極117は、活物質と、活物質の表面に存在する他の電極材料(以下、「周辺材料」と称する)とを含む。負極117において、活物質は周辺材料に囲まれている。周辺材料の例としては、バインダ、導電助剤が挙げられる。活物質に体積変化(膨張又は収縮)が生じると、その体積変化に起因する応力が活物質の内部に生じる。また、活物質の体積変化により、活物質の表面に存在する周辺材料にも応力が生じる。さらに、作用・反作用の法則に従って、活物質が周辺材料から力を受けて活物質の表面に応力が生じる。
セル11の充電に伴って負極活物質が膨張すると、負極活物質の表面には圧縮応力が発生する。他方、セル11の放電に伴って負極活物質が収縮すると、負極活物質の表面には引っ張り応力が発生する。リチウムイオン二次電池において、負極活物質としてシリコン系化合物を採用した場合には、炭素材料を採用した場合と比べて、負極活物質の表面及び内部に発生する応力が大きくなる。
組電池10の端子間を開放することで、セル11の電圧が十分に緩和し、活物質内のリチウム濃度が均一(平衡状態)になった状態(以下、「緩和状態」と称する)になる。緩和状態において負極117に残留している応力は、活物質の内部に生じる応力と、活物質の体積変化に伴って周辺材料に生じる応力と、周辺材料から活物質に働く反作用力とを含む様々な力が系全体で釣り合ったときの応力と考えることができる。OCVは、緩和状態での電池電圧に相当する。負極活物質の表面応力(以下、「表面応力σs」と称する場合がある)も、緩和状態において上述のような活物質の内部応力や周辺材料との相互作用を含めて決まる残留応力であると考えられる。表面応力σsのうち、引っ張り方向の応力(以下、「引っ張り応力σten」と称する場合がある)は正の数で、圧縮方向の応力(以下、「圧縮応力σcom」と称する場合がある)は負の数で示す。すなわち、表面応力σsの値において、絶対値は応力の大きさを示し、符号(正/負)は応力の向きを示す。
表面応力σsは、薄膜評価を通じて測定する(あるいは見積もる)ことができる。たとえば、表面応力σsにより変形した負極117(薄膜)の曲率κと、電極の材料及び形状に応じて定まる定数(ヤング率、ポアソン比、厚み等)とをストーニーの式に代入することにより、表面応力σsを算出することができる(応力測定の詳細については、たとえば非特許文献1を参照)。
セル11では、充放電に伴って上記のような負極活物質の体積変化が生じ、負極活物質に表面応力σsが発生する。表面応力σsは、組電池10の状態(SOC等)によって引っ張り応力σtenになったり圧縮応力σcomになったりする。
図3は、負極117における表面応力σsとSOCとの関係を示す図である。図3は、完全放電状態(SOC=0%の状態)から満充電状態(SOC=100%の状態)まで一定の充電レートで組電池10を充電した後、満充電状態から完全放電状態まで一定の放電レートで組電池10を放電した場合における表面応力σsの推移を示している。なお、SOCは、満充電状態の蓄電量に対する現在の蓄電量の割合を0~100%で表わしたものである。
図3を参照して、完全放電状態からの充電開始直後には、負極活物質が弾性変形する状態になり、表面応力σsが線形に減少する。充電を続けて表面応力σs(圧縮応力σcom)が負極活物質の降伏応力σy1(負の数)に達すると、負極活物質が塑性変形する状態になり、表面応力σs(圧縮応力σcom)が一定になる。図3において、「Sa」は、表面応力σsが減少して降伏応力σy1に達した時のSOCを示している。SOC=SaからSOC=100%までの領域においては、負極活物質が塑性変形する状態になり、表面応力σsが降伏応力σy1と等しくなる。
次に、満充電状態から放電を開始すると、放電開始直後には、負極活物質が弾性変形する状態になり、表面応力σsが線形に増加する。放電を続けて表面応力σs(引っ張り応力σten)が負極活物質の降伏応力σy2(正の数)に達すると、負極活物質が塑性変形する状態になり、表面応力σs(引っ張り応力σten)が一定になる。図3において、「Sb」は、表面応力σsが増加して降伏応力σy2に達した時のSOCを示している。SOC=SbからSOC=0%までの領域においては、負極活物質が塑性変形する状態になり、表面応力σsが降伏応力σy2と等しくなる。
二次電池の単極電位(正極電位又は負極電位)は、活物質表面の状態に応じて変わる。たとえば、組電池10の充電時には圧縮応力σcomよって負極電位が低下し、組電池10のOCVが上昇する。また、組電池10の放電時には引っ張り応力σtenよって負極電位が上昇し、組電池10のOCVが低下する。そして、組電池10において表面応力σsが上記のように変化する(図3参照)ことによって、組電池10がヒステリシス特性を有するようになる。シリコン系化合物のように大きな体積変化が生じる負極活物質を採用すると、リチウム量の増減に伴う表面応力σsの変化量が大きくなる。他方、負極活物質として炭素材料が採用されたリチウムイオン二次電池はヒステリシス特性が非常に小さい傾向がある。
ヒステリシス特性を有する二次電池におけるSOCとOCVとの関係は、SOC-OCVカーブで表すことができる。SOC-OCVカーブは、充電により取得される曲線(以下、「CHG曲線」と称する場合がある)と、放電により取得される曲線(以下、「DCH曲線」と称する場合がある)とを含む。以下では、CHG曲線上のOCVを「充電OCV」とも称し、DCH曲線上のOCVを「放電OCV」とも称する。同一SOCでの充電OCVと放電OCVとは互いに異なる。たとえば、負極活物質としてシリコン系化合物を採用したリチウムイオン二次電池では、充電OCVと放電OCVとの差が150mV程度になる。
図4は、組電池10のSOC-OCVカーブを示す図である。図4において、横軸は組電池10のSOCを示し、縦軸は組電池10のOCVを示す。曲線k1はCHG曲線を、曲線k2はDCH曲線を示している。
図4を参照して、SOC-OCVカーブ(曲線k1及びk2)は、たとえば次のようにして取得される。
まず、完全放電状態の組電池10を準備する。この組電池10を充電して所定のSOCになったときに充電を停止し、分極が解消されるまで組電池10を放置した後、組電池10のOCVを測定する。そして、上記所定のSOCと、測定されたOCVとの組合せ(SOC,OCV)をプロットする。こうした手順で組電池10が完全放電状態から満充電状態に至るまでのデータ(たとえば、SOC5%毎のOCV)をプロットすることによって、曲線k1が得られる。
その後、組電池10の放電と放電停止とを繰り返しながら、上記と同様の手順で組電池10が満充電状態から完全放電状態に至るまでのデータ(たとえば、SOC5%毎のOCV)をプロットすることによって、曲線k2が得られる。
曲線k1で示される充電OCVは各SOCにおけるOCVの最高値を示し、曲線k2で示される放電OCVは各SOCにおけるOCVの最低値を示す。SOCとOCVとの組合せで表される組電池10の状態は、曲線k1と曲線k2とで囲まれた中間領域D内に位置することになる。中間領域Dの外周は、図3における表面応力σsの推移を示す線の外周(平行四辺形の外周)に対応している。
前述のように、ヒステリシス特性を有する二次電池では、充放電に伴って電極の活物質の体積が大きく変化する傾向がある。こうした活物質の体積変化(膨張又は収縮)に由来して表面応力が生じることにより活物質に機械的な負荷が加わることになる。そして、機械的な負荷の蓄積により、活物質は機械的に疲労し、二次電池の劣化が促進される。また、活物質に機械的な負荷が加わることで、活物質が充放電の系から孤立化し、二次電池の充放電に寄与しなくなることもある。
組電池10を構成するセル11の負極117は、電荷担体(リチウム)が可逆的に挿入及び脱離される活物質を含む。ECU100は、電荷担体の挿入又は脱離に伴って負極活物質に発生する表面応力σsを推定するように構成される。また、ECU100は、表面応力σsを用いて二次電池の劣化度合いを推定するように構成される。二次電池を劣化させる物理的な要因として表面応力σsが考慮されることで、高い精度で二次電池の劣化度合いを推定することが可能になる。以下、図5~図10を用いて、ECU100が行なう電池劣化推定について詳述する。
図5は、ECU100により実行される表面応力σs及びSOCの推定処理の手順を示したフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば車両1のイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされることによって開始され、それ以降は所定の演算周期Δtでメインルーチンから呼び出されて実行され、イグニッションスイッチがオフされると停止する。図5の処理が繰り返し実行されることにより、組電池10のSOC及び表面応力σsが推定される。
以下、今回の演算周期(以下、「今周期」とも称する)で求められたパラメータには「(t)」を、前回の演算周期(以下、「前周期」とも称する)で求められたパラメータには「(t-Δt)」を付して、両者を区別する場合がある。
図5を参照して、ECU100は、監視ユニット20内の各センサ(電圧センサ21、電流センサ22、及び温度センサ23)から組電池10の電圧VB、電流IB、及び温度TBを取得する(ステップS11)。そして、ECU100は、取得した各データをメモリ102に保存する。
ECU100は、上記ステップS11で取得した電圧VB、電流IB、及び温度TBを用いて、組電池10のOCV(t)を推定する(ステップS12)。そして、ECU100は、推定したOCV(t)をメモリ102に保存する。以下、ステップS12で推定される組電池10のOCVを、「OCVE」と称する場合がある。
OCVE(t)は、下記式(1)に従って算出することができる。
OCVE(t)=VB-IB×R …(1)
式(1)において、Rは組電池10の内部抵抗を表す。ECU100は、たとえば、予めメモリ102に格納されたマップ等(組電池10の内部抵抗と温度TBとの関係を示す情報)を参照することにより、ステップS11で取得した温度TBから組電池10の内部抵抗を求めることができる。
なお、OCVE(t)の推定方法は任意に変更できる。たとえば、組電池10に生じた分極の影響を補正するための補正項ΣΔVi(iは自然数)を追加した式(2)を上記式(1)の代わりに用いてもよい。補正項ΣΔViにより、正極活物質内及び負極活物質内のリチウム拡散、並びに電解液内のリチウム塩拡散に由来して生じる分極が補正される。負極活物質内のリチウム拡散を考慮する際には、負極活物質内のリチウム濃度差と内部応力との両方の影響を考慮することが望ましい。補正項ΣΔViは、たとえば事前の予備実験から求められてメモリ102に格納される。補正項ΣΔViの符号は、電流IBと同様、充電側が正、放電側が負である。
OCVE(t)=VB-IB×R-ΣΔVi …(2)
ECU100は、上記ステップS12で取得したOCVE(t)を用いて、組電池10のSOC(t)を推定する(ステップS13)。そして、ECU100は、推定したSOC(t)をメモリ102に保存する。以下、SOC(t)の推定方法について詳述する。
組電池10の負極活物質に応力が残存していない仮想的な状態(以下、「理想状態」と称する)を想定し、理想状態における組電池10のSOCとOCVとの関係を示す曲線(以下、「SOC-OCVIDカーブ」と称する)を用いることにより、組電池10のSOCを推定することができる。以下、SOC-OCVIDカーブ上のOCVを、「理想OCV」と称する。
図6は、組電池10のSOC-OCVIDカーブを示す図である。図6において、横軸は組電池10のSOCを示し、縦軸は組電池10のOCVを示す。曲線k10はSOC-OCVIDカーブを、曲線k11はCHG曲線を、曲線k12はDCH曲線を示している。
図6を参照して、組電池10の充電時には、負極活物質の表面応力σs(圧縮応力σcom)によって組電池10のOCVが理想OCVよりも高い充電OCV(曲線k11)まで上昇する。以下、理想OCVに対する充電OCVの上昇量(正の数)を「Dcom」と称する。他方、組電池10の放電時には、負極活物質の表面応力σs(引っ張り応力σten)によって組電池10のOCVが理想OCVよりも低い放電OCV(曲線k12)まで低下する。以下、理想OCVに対する放電OCVの低下量(負の数)を「Dten」と称する。
降伏応力σy1と降伏応力σy2との比に等しくなるようにDcomとDtenとの比を設定する(「Dcom:Dten=σy1:σy2」とする)ことにより、SOC-OCVIDカーブ(曲線k10)が得られる。SOC-OCVIDカーブは、たとえば予め実験等によって求められてメモリ102に記憶されている。
図7は、組電池10のSOC(t)の推定方法を説明するための図である。図7において、横軸は組電池10のSOCを示し、縦軸は組電池10の理想OCV(OCVID)を示す。曲線k20はSOC-OCVIDカーブを示している。ΔOCVは、表面応力σsに起因したOCVの変化量を示している。ΔOCVのうち、圧縮応力σcomに起因したOCV変化量は前述のDcomに相当し、引っ張り応力σtenに起因したOCV変化量は前述のDtenに相当する。
図7を参照して、ECU100は、OCVEからΔOCV(Dcom)を補正することにより(OCVES+ΔOCV)、理想OCVを求めることができる。そして、ECU100は、SOC-OCVIDカーブを参照することにより、理想OCVからSOCを求めることができる。すなわち、上記ステップS13においては、ECU100が、メモリ102内のSOC-OCVIDカーブを参照して、OCVE(t)及びΔOCV(t-Δt)からSOC(t)を求める。ΔOCV(t-Δt)は、前周期のステップS18で算出されたものである。初回演算時のΔOCV(t-Δt)としては、前回トリップの最後に算出されたΔOCVを使用してもよいし、予めメモリ102に記憶されている所定のΔOCVを使用してもよい。なお、イグニッションスイッチがオンされた時点(走行開始時)からイグニッションスイッチがオフされた時点(走行終了時)までが、1回のトリップである。
再び図5を参照して、ECU100は、上記ステップS13で取得したSOC(t)を用いて、負極活物質の表面応力の計算値(以下、「F」と称する)を求める(ステップS14)。Fは、負極活物質が降伏しているか否かを考慮せずに算出される仮の応力値に相当し、後述するステップS15、S16、及びS173において、表面応力σsを推定するために用いられる。以下、F(t)の算出方法について詳述する。
F(t)は、下記式(3)に従って算出することができる。F(t)の値において、絶対値は応力の大きさを示し、符号は応力の向き(正:引っ張り、負:圧縮)を示す。
F(t)=-α(SOC(t)-SOCB)+σy …(3)
式(3)において、σy、SOCBはそれぞれ、充放電切り替え時における表面応力σs(=降伏応力)、SOCに相当する。σy及びSOCBは、後述するステップS171及びS172で設定される。初回演算時には、前回トリップの最後に設定されたσy及びSOCBを使用してもよいし、予めメモリ102に記憶されている所定のσy及びSOCBを使用してもよい。
式(3)において、(SOC(t)-SOCB)は、現在のSOCからSOCBを差し引いた差分(以下、「ΔSOC」と称する)を表す。ΔSOCは、現在の負極活物質に含まれるリチウム量から、SOCBの負極活物質に含まれるリチウム量を差し引いた差分に相関する。負極活物質が降伏しているか否かを考慮しない場合、負極活物質の表面応力はリチウムの挿入量又は脱離量に概ね比例することから、式(3)に従ってF(t)を算出することができる。
式(3)において、αは、表面応力σとΔSOCとの間に成立する線形関係の比例定数を表す。αは、負極活物質及び周辺材料の機械的特性(ヤング率等)に応じて定まるパラメータであり、たとえば予め実験等によって求められてメモリ102に記憶されている。αは、負極活物質の温度(ひいては、組電池10の温度)と、負極活物質のリチウム含有量(ひいては、組電池10のSOC)とに応じて変化し得る。このため、組電池10の温度TB及びSOC(t)の少なくとも一方に応じてαが変更されるようにしてもよい。
ステップS15、S16、及びS171~S173において、ECU100は、上記ステップS14で取得したF(t)を用いて、表面応力σsを推定する。
ステップS15では、表面応力σsが圧縮応力σcom(充電時に生じる応力)である場合を想定して、負極活物質の降伏が生じているか否かが判断される。具体的には、F(t)が負極活物質の降伏応力σy1よりも小さいか否かがECU100によって判断される。圧縮方向の応力は負の数で表されるため、F(t)が降伏応力σy1よりも小さいことは、F(t)の大きさが降伏応力σy1を超えた(すなわち、負極活物質が降伏した)ことを意味する。
F(t)が降伏応力σy1よりも小さいと判断された場合(ステップS15においてYES)には、ECU100は、ステップS171において、表面応力σsを推定してメモリ102に保存するとともに、メモリ102内のσy及びSOCBの設定を行なう。具体的には、ECU100は、表面応力σsが降伏応力σy1に等しい(σs=σy1)と推定する。また、ECU100は、充電から放電に切り替わる時の表面応力σsに相当する降伏応力σy1をσyに設定する(σy=σy1)。また、ECU100は、充電から放電に切り替わる時の組電池10のSOCに相当するSOC(t)をSOCBに設定する(SOCB=SOC(t))。その後、処理はステップS18へ進む。
他方、F(t)が降伏応力σy1以上であると判断された場合(ステップS15においてNO)には、ステップS16において、表面応力σsが引っ張り応力σten(放電時に生じる応力)である場合を想定して、負極活物質の降伏が生じているか否かが判断される。具体的には、F(t)が負極活物質の降伏応力σy2よりも大きいか否かがECU100によって判断される。引っ張り方向の応力は正の数で表されるため、F(t)が降伏応力σy2よりも大きいことは、F(t)の大きさが降伏応力σy2を超えた(すなわち、負極活物質が降伏した)ことを意味する。
F(t)が降伏応力σy2よりも大きいと判断された場合(ステップS16においてYES)には、ECU100は、ステップS172において、表面応力σsを推定してメモリ102に保存するとともに、メモリ102内のσy及びSOCBの設定を行なう。具体的には、ECU100は、表面応力σsが降伏応力σy2に等しい(σs=σy2)と推定する。また、ECU100は、放電から充電に切り替わる時の表面応力σsに相当する降伏応力σy2をσyに設定する(σy=σy2)。また、ECU100は、放電から充電に切り替わる時の組電池10のSOCに相当するSOC(t)をSOCBに設定する(SOCB=SOC(t))。その後、処理はステップS18へ進む。
なお、降伏応力σy1及びσy2は、たとえば予め実験等によって求められてメモリ102に記憶されている。降伏応力σy1及びσy2は、負極活物質の温度(ひいては、組電池10の温度)と、負極活物質のリチウム含有量(ひいては、組電池10のSOC)とに応じて変化し得る。このため、組電池10の温度TB及びSOC(t)の少なくとも一方に応じて降伏応力σy1及びσy2が変更されるようにしてもよい。
上記ステップS16においてF(t)が降伏応力σy2以下であると判断された場合(ステップS16においてNO)には、負極活物質は圧縮側にも引っ張り側にも降伏していないと考えられる。よって、ステップS14で仮算出されたF(t)を表面応力σsとして採用することができる。ECU100は、ステップS173において、表面応力σsがF(t)であると推定して、推定された表面応力σsをメモリ102に保存する。その後、処理はステップS18へ進む。なお、ステップS173においては、σy及びSOCBの設定は行なわれない。このため、σy及びSOCBは、初期値又は前回値に維持される。
ステップS18では、ECU100が、上記ステップS171~S173で取得した表面応力σsを用いて、ΔOCV(t)を算出する(ステップS18)。ΔOCVは、理想OCVを基準としたOCVの変化量に相当する。ΔOCV(t)は、下記式(4)に従って算出することができる。
ΔOCV(t)=k×σs×Ω/Faraday …(4)
式(4)において、Ω(単位:m3/mol)は1モルのリチウムが挿入された場合の負極活物質の体積増加量を、Faradayはファラデー定数(単位:C/mol)を表す。kは、符号も含めて実験的に求められる定数である。
式(4)で示されるように、表面応力σsとΔOCVとの間には概ね線形関係が成立する。ステップS18において、ECU100は、表面応力σsの値を他の定数(k、Ω、及びFaraday)とともに式(4)に代入することにより、ΔOCV(t)を算出することができる。算出されたΔOCV(t)は、次回のステップS13においてSOCの推定に用いられる。その後、処理がメインルーチンへと戻される。
次に、上記図5の処理により取得されたパラメータ(表面応力σs、SOC(t)等)を用いてECU100が行なう電池劣化推定処理について説明する。図8は、ECU100により実行される電池劣化推定処理の手順を示したフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば所定条件の成立時にメインルーチンから呼び出されて所定の演算周期で繰り返し実行される。図5の処理と並行して図8の処理が繰り返し実行されることにより、ステップS21~S22において組電池10の使用履歴(ひいては、劣化履歴)が蓄積され、所定の算出タイミングになると(ステップS23においてYES)、ステップS24~S25で組電池10の劣化率が推定される。劣化率は、初期の内部抵抗R1に対する現在の内部抵抗R2の比率(=R2/R1)である。組電池10の劣化率が大きいほど組電池10の劣化度合いが大きいことになる。なお、組電池10の劣化度合いは、組電池10の内部抵抗(劣化率)に限られず任意である。
図8を参照して、ECU100は、図5の処理(ステップS11、S13、及びS171~S173)により取得された組電池10の現在の温度TB、SOC、及び表面応力σsを、メモリ102から読み出す(ステップS21)。
なお、組電池10の温度TB、SOC、及び表面応力σsは、劣化条件(組電池10の劣化速度に影響するパラメータ)に相当する。組電池10の劣化度合い(たとえば、劣化率)は、時間の経過に伴って大きくなる。同一条件下においては、組電池10の劣化度合いと経過時間のn乗根(nは1よりも大きな値)とが概ね比例関係になる傾向がある。しかし、条件が変わると、組電池10の劣化速度が変化することがある。たとえば、以下に示す劣化条件の発生頻度によって組電池10の劣化速度が変化する。
ECU100は、上記ステップS21で取得した各劣化条件(温度TB、SOC、及び表面応力σs)の発生頻度を更新する(ステップS22)。各劣化条件の発生頻度(たとえば、以下に示す頻度分布)は、メモリ102に記憶されており、ステップS22の処理が実行されるたびに更新される。次のステップS23で劣化率の算出タイミングになっていないと判断されている間はステップS21~S22の処理が繰り返し実行される。これにより、各劣化条件の頻度分布が作成される。
図9は、表面応力σsの頻度分布の例を図示している。図9において、横軸には、表面応力σsの大きさに応じて複数の区間が設けられ、縦軸は、横軸に設けられた区間(表面応力σsの数値範囲)ごとの発生頻度を例示している。
図9を参照して、ステップS21で収集されたデータ(表面応力σs)は、表面応力σsの大きさに応じて各区間に振り分けられる。すなわち、ステップS22では、ステップS21で取得された表面応力σsの大きさに対応する区間の頻度が1加算(カウントアップ)される。ステップS21~S22の処理が繰り返し実行されることにより、表面応力σsの各区間の発生頻度を示す頻度分布が作成される。
図9には表面応力σsの頻度分布のみを示しているが、他の劣化条件(温度TB及びSOC)についても同様の頻度分布が作成される。なお、頻度分布において、区間の数や各区間の数値範囲等は任意に設定できる。
再び図8を参照して、ステップS23では、ECU100が、劣化率の算出タイミングになったか否かを判断し、劣化率の算出タイミングになっていないと判断された場合(ステップS23においてNO)には処理がメインルーチンへと戻され、劣化率の算出タイミングになったと判断された場合(ステップS23においてYES)には、ステップS24~S25において組電池10の劣化率が算出される。
劣化率の算出タイミングは任意に設定できる。劣化率の算出タイミングは、たとえば、組電池10の使用時間(使用開始からの経過時間)が所定値を超えたタイミングであってもよいし、ステップS21で収集されたデータの数が所定値を超えたタイミングであってもよい。組電池10の使用時間の代わりに車両1の積算走行距離を採用してもよい。また、2回目以降の劣化率算出のタイミングは、前回劣化率算出のタイミングを基準にして定めてもよい。劣化率の算出タイミングは、たとえば、前回劣化率算出から所定時間が経過したタイミングであってもよいし、前回劣化率算出から所定データ数が増加したタイミングであってもよい。
この実施の形態では、組電池10の使用時間が1ヶ月を超えたタイミングで初回の劣化率算出を実行し、それ以降、1ヶ月経過毎に劣化率の算出を行なうようにする。すなわち、初回の劣化率算出を実行する時点では、ステップS21~S22によって、1ヶ月分のデータに基づく各劣化条件の頻度分布がメモリ102に保存されている。この実施の形態では、所定期間毎に区別して、各劣化条件の頻度分布が作成され、メモリ102に保存されるようにする。より具体的には、ステップS22において1ヶ月毎に区別して各劣化条件の頻度分布が作成され、メモリ102に保存される。そして、次に示すステップS24では、ECU100が、直近の頻度分布(直近1ヶ月分のデータに基づく頻度分布)のみを使用して劣化量を算出する。
ステップS24では、メモリ102内の各劣化条件の頻度分布を用いて、各劣化条件による劣化量(劣化率の上昇量)を算出する。ECU100は、たとえば、予めメモリ102に格納されたマップ等(劣化条件の頻度と劣化量との関係を示す情報)を参照することにより、各劣化条件の頻度分布から各劣化条件による劣化量を求めることができる。
図10は、表面応力σsの頻度と劣化量との関係を示すマップの一例を示す図である。図10において、曲線σs-A、σs-B、σs-C、σs-D、σs-Eは、それぞれ表面応力σsの大きさに応じて設けられた区間A、B、C、D、E(頻度分布に対応する区間)の劣化特性を示している。また、頻度t11、t12、t13、t14、t15は、それぞれ頻度分布における区間A、B、C、D、Eの頻度を示している。なお、表面応力σsの大きさが小さいほうから並べると、区間A、B、C、D、Eとなる。
図10を参照して、表面応力σsが区間Aである場合の劣化特性を示す曲線σs-Aから、表面応力σsが区間Aである頻度t11によって組電池10の劣化率が劣化量Δd1だけ上昇することが分かる。これと同様に、表面応力σsが区間B、C、D、Eである頻度t12、t13、t14、t15によって組電池10の劣化率が劣化量Δd2、Δd3、Δd4、Δd5だけ上昇することが、それぞれ曲線σs-B、σs-C、σs-D、σs-Eから分かる。曲線σs-A~σs-Eで示されるように、表面応力σsが大きいほど組電池10の劣化は速くなる傾向がある。
ECU100は、曲線σs-A~σs-Eから劣化量Δd1~Δd5を取得することができる。また、ECU100は、得られた劣化量Δd1~Δd5を累積することにより、全ての頻度による総劣化量(=Δd1+Δd2+Δd3+Δd4+Δd5)を取得することができる。なお、図10には、曲線σs-A~σs-Eの順に劣化量を加算した例を示しているが、劣化量を加算する順序を変えたとしても、最終的に得られる総劣化量は等しくなる。また、説明の便宜上、図10には5つの曲線のみを示しているが、劣化量の算出に用いられるマップは、頻度分布の区間に対応した数の曲線を含む。こうしたマップを用いることで、頻度分布に含まれる全ての頻度による総劣化量を求めることができる。
図10には表面応力σsによる劣化量の算出に用いられるマップのみを示しているが、他の劣化条件(温度TB及びSOC)についても同様のマップがメモリ102に格納されている。これら劣化条件毎のマップを用いて、上記と同様の方法で各劣化条件による劣化量を求めることができる。
再び図8を参照して、ステップS25では、ECU100が、ステップS24で取得した各劣化条件による劣化量を用いて、将来の組電池10の劣化率を推定する。その後、処理がメインルーチンへと戻される。以下、ステップS25における組電池10の劣化率の推定方法について説明する。
ステップS24で取得した各劣化条件による劣化量の合計は、直近1ヶ月間での組電池10の劣化量(すなわち、組電池10の1ヶ月あたりの劣化率の上昇量)に相当する。次の1ヶ月間も、直近1ヶ月間の劣化速度と同じ劣化速度で組電池10が劣化すると仮定することによって、1ヶ月後の組電池10の劣化率を予測することができる。また、今後3ヶ月間は、直近1ヶ月間の劣化速度と同じ劣化速度で組電池10が劣化すると仮定すれば、3ヶ月後の組電池10の劣化率を予測することができる。このように、直近1ヶ月間の劣化速度から将来の劣化速度を予測することによって、組電池10の将来の劣化度合い(たとえば、劣化率)を予測することができる。また、こうした予測された将来の劣化速度に基づいて、組電池10が所定の劣化度合いになるまでの時間も予測することができる。すなわち、組電池10の寿命予測が可能になる。
なお、直近1ヶ月間の劣化速度をそのまま将来の劣化速度として採用しなくてもよい。たとえば、ECU100は、直近1ヶ月間での組電池10の劣化量に加えて、組電池10の使用時間などを用いて、将来の劣化速度を推定してもよい。
以上説明したように、この実施の形態に係るECU100は、上記図5及び図8の処理を行なうように構成される。図8の処理では、図5の処理で取得された負極活物質の表面応力σsに基づいて将来の組電池10の劣化率が推定される。こうした方法によれば、高い精度で組電池10の劣化率を推定することが可能になる。
上記実施の形態では、表面応力σsを含む3種類の劣化条件(組電池10の温度、SOC、及び表面応力σs)の各々について区間(数値範囲)毎の発生頻度をカウントし、その発生頻度を用いて劣化量を算出し、その劣化量を用いて将来の劣化速度を予測し、その将来の劣化速度を用いて将来の劣化率を予測することとした。しかし、表面応力σs以外の劣化条件は任意に変更できる。たとえば、組電池10の温度及びSOCに加えて又はいずれかに代えて、組電池10の電流等を劣化条件として採用してもよい。
図11は、劣化条件として負極活物質の降伏回数を採用した例(変形例)を説明するための図である。以下、ECU100が図8の処理に代えて図11の処理を行なう例について説明する。
図11に示される処理は、たとえば所定条件の成立時にメインルーチンから呼び出されて所定の演算周期で繰り返し実行される。図5の処理と並行して図11の処理が繰り返し実行されることにより、組電池10の劣化率が推定される。
図11を参照して、ECU100が、図8のステップS21~S22に準ずるステップS31~S32を実行する。次いで、ステップS33では、表面応力σsが圧縮応力σcom(充電時に生じる応力)である場合を想定して、負極活物質が圧縮側に降伏したか否かがECU100によって判断される。具体的には、所定の圧縮側降伏条件が成立したか否かがECU100によって判断される。この例では、前周期の表面応力σs(t-Δt)が負極活物質の降伏応力σy1よりも大きく、かつ、今周期の表面応力σs(t)が負極活物質の降伏応力σy1に等しいときに上記の圧縮側降伏条件が成立する。圧縮方向の応力は負の数で表されるため、圧縮応力σcomが降伏応力σy1よりも大きいことは、負極活物質が圧縮側に降伏していないことを意味する。そして、この状態から圧縮応力σcomが降伏応力σy1に等しくなることは、負極活物質が圧縮側に降伏したことを意味する。
上記の圧縮側降伏条件が成立したと判断された場合(ステップS33においてYES)には、ECU100が、ステップS351において、負極活物質が圧縮側に降伏した回数を示すカウント値CAに1を加算(カウントアップ)した後、ステップS36に進む。なお、カウント値CAは、たとえばメモリ102に記憶されている。
他方、上記の圧縮側降伏条件が成立していないと判断された場合(ステップS33においてNO)には、ECU100は、ステップS34において、表面応力σsが引っ張り応力σten(放電時に生じる応力)である場合を想定して、負極活物質が引っ張り側に降伏したか否かを判断する。具体的には、所定の引っ張り側降伏条件が成立したか否かがECU100によって判断される。この例では、前周期の表面応力σs(t-Δt)が負極活物質の降伏応力σy2よりも小さく、かつ、今周期の表面応力σs(t)が負極活物質の降伏応力σy2に等しいときに上記の引っ張り側降伏条件が成立する。引っ張り方向の応力は正の数で表されるため、引っ張り応力σtenが降伏応力σy2よりも小さいことは、負極活物質が引っ張り側に降伏していないことを意味する。そして、この状態から引っ張り応力σtenが降伏応力σy2に等しくなることは、負極活物質が引っ張り側に降伏したことを意味する。
上記の引っ張り側降伏条件が成立したと判断された場合(ステップS34においてYES)には、ECU100が、ステップS352において、負極活物質が引っ張り側に降伏した回数を示すカウント値CBに1を加算(カウントアップ)した後、ステップS36に進む。なお、カウント値CBは、たとえばメモリ102に記憶されている。
他方、上記の引っ張り側降伏条件が成立していないと判断された場合(ステップS34においてNO)には、処理はステップS352を経ずにステップS36に進み、カウント値CBのカウントアップは行なわれない。
次いで、ECU100が、図8のステップS23~S25に準ずるステップS36~S38を実行した後、処理がメインルーチンへと戻される。ただし、ステップS37では、前述した3種類の劣化条件(組電池10の温度、SOC、表面応力σs)の各々による劣化量に加えて、カウント値CA及びCBの各々による劣化量も算出される。ECU100は、たとえば、カウント値CAと劣化量との関係を示すマップと、カウント値CBと劣化量との関係を示すマップとを用いて、カウント値CA及びCBの各々による劣化量を求める。そして、ステップS38では、ECU100が、ステップS37で取得した各劣化条件による劣化量の合計を用いて、将来の組電池10の劣化率を推定する。
上記の例では、ECU100が、負極活物質の降伏回数を用いて組電池10の劣化率を推定するように構成される。より具体的には、負極活物質の降伏回数が多いほど、組電池10の劣化率が大きいと推定される。表面応力により活物質が降伏したことは、活物質の表面に大きな機械的な負荷が加わったことを意味する。よって、表面応力による活物質の降伏回数と二次電池の劣化度合いとは高い相関性を示す。このため、活物質の降伏回数を用いることで、組電池10の劣化率を高い精度で推定することが可能になる。
上記の例では、圧縮側の降伏回数(カウント値CA)と引っ張り側の降伏回数(カウント値CB)とを別々にカウントするようにした。こうすることで、より劣化しやすい降伏に対する劣化量の重み付けが可能になる。しかしこれに限られず、圧縮側の降伏と引っ張り側の降伏とを区別せずに、降伏回数(圧縮側の降伏と引っ張り側の降伏との合計回数)をカウントしてもよい。
各劣化条件(表面応力σs等)による劣化量を組電池10の劣化度合い(たとえば、劣化率)に反映させる方法は任意である。たとえば、表面応力σs以外の劣化条件を用いて推定された将来の劣化速度を、表面応力σs(たとえば、表面応力σsの頻度分布、又はカウント値CA,CB等)を用いて補正するようにしてもよい。
上記実施の形態及び変形例においては、将来の組電池10の劣化率が推定されるようにした。しかしこれに限られず、ECU100は、表面応力σsを用いて、現在の組電池10の劣化率を推定してもよい。ECU100は、たとえば、直近のデータだけでなく、組電池10の使用を開始してから現在に至るまでの全てのデータを使用して各劣化条件(表面応力σs等)による劣化量を算出し、各劣化条件による劣化量の合計を劣化率の初期値(=1)又は前回値に加算することによって、現在の組電池10の劣化率を求めることができる。なお、図5の処理が実行されていない期間(たとえば、イグニッションスイッチがオフになっている期間)においては、最後(図5の処理が停止される直前)に図5の処理により取得された各劣化条件(表面応力σs等)の値を用いて、ステップS22における発生頻度の更新を行なってもよい。
ECU100(電池劣化推定装置)によって推定される組電池10の劣化度合いは、組電池10の内部抵抗(前述の劣化率)に限られず任意である。たとえば、組電池10の満充電容量などを劣化度合いとして採用してもよい。
電池劣化推定装置が適用される車両の構成は図1に示した構成に限られず適宜変更可能である。また、電池劣化推定装置において劣化推定の対象とする二次電池の構成も任意に変更できる。たとえば、組電池10に含まれる所定のセル(1個又は複数個のセル11)を、劣化推定の対象としてもよい。また、表面応力σs及びSOCの推定も、組電池10に含まれる所定のセルを対象として行なってもよい。監視ユニット20の監視対象(ひいては、電圧センサ21及び温度センサ23で検出される電池電圧及び電池温度)は、劣化推定の対象に応じて変更することができる。たとえば、セル11毎の電圧、又は直列接続された複数のセル11毎の電圧が検出されるように、電圧センサ21を設けてもよい。また、セル11毎の温度、又は隣接する複数のセル11毎の温度が検出されるように、温度センサ23を設けてもよい。
劣化推定の対象とする二次電池は、組電池に限られず、単電池であってもよい。また、電池の種類もリチウムイオン二次電池には限定されず、他の二次電池(たとえば、ニッケル水素電池)を劣化推定の対象としてもよい。また、二次電池は全固体電池であってもよい。ただし、本開示に係る電池劣化推定装置は、ヒステリシス特性を有する二次電池の劣化推定に適している。たとえば、二次電池の充放電によって体積が大きく変化する活物質を使用した場合には、二次電池がヒステリシス特性を有するようになる。こうした活物質の例としては、シリコン系化合物のほかに、スズ系化合物(Sn又はSnO等)、ゲルマニウム(Ge)系化合物、鉛(Pb)系化合物が挙げられる。リチウムイオン二次電池の負極活物質として、これらの活物質を採用した場合には、炭素系材料を採用した場合よりも、充放電に伴う負極活物質の体積変化量が大きくなる。
ヒステリシス特性を有する二次電池には、有意なヒステリシスが一部のSOC領域のみに存在する二次電池も含まれる。こうした二次電池は、たとえばリチウムイオン二次電池の負極活物質として、シリコン系材料とグラファイトとを含む複合材料、又はシリコン系材料とチタン酸リチウムとを含む複合材料を採用することによって得られる。
表面応力は、二次電池の正極側においても発生し得る。二次電池の負極活物質の表面応力に加えて又は代えて、正極活物質の表面応力を用いて二次電池の劣化度合いを推定するようにしてもよい。また、周辺材料の応力も計算して、二次電池の劣化度合いを推定する指標としてもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。