以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
以下では、本開示に係る二次電池システムが電動車両に搭載された構成を例に説明する。電動車両とは、代表的にはハイブリッド車両(プラグインハイブリッド車を含む)であるが、これに限定されるものではない。本開示に係る二次電池システムは、二次電池システムから供給される電力を用いて動力を発生させる車両全般に適用可能である。そのため、電動車両は、電気自動車または燃料電池車であってもよい。また、本開示に係る二次電池システムの用途は車両用に限定されず、たとえば定置用であってもよい。
[実施の形態]
<二次電池システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。図1を参照して、車両1は、ハイブリッド車両である。車両1は、二次電池システム2と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ41,42と、エンジン50と、動力分割装置60と、駆動軸70と、駆動輪80とを備える。二次電池システム2は、バッテリ10と、監視ユニット20と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。
エンジン50は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーをピストンおよびロータなどの運動子の運動エネルギーに変換することによって動力を出力する内燃機関である。
動力分割装置60は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構(図示せず)を含む。動力分割装置60は、エンジン50から出力される動力を、モータジェネレータ41を駆動する動力と、駆動輪80を駆動する動力とに分割する。
モータジェネレータ41,42の各々は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石(図示せず)が埋設された三相交流同期電動機である。モータジェネレータ41は、主として、動力分割装置60を経由してエンジン50により駆動される発電機として用いられる。モータジェネレータ41が発電した電力は、PCU30を介してモータジェネレータ42またはバッテリ10に供給される。
モータジェネレータ42は、主として電動機として動作し、駆動輪80を駆動する。モータジェネレータ42は、バッテリ10からの電力およびモータジェネレータ41の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、モータジェネレータ42の駆動力は駆動軸70に伝達される。一方、車両の制動時や下り斜面での加速度低減時には、モータジェネレータ42は、発電機として動作して回生発電を行なう。モータジェネレータ42が発電した電力は、PCU30を介してバッテリ10に供給される。
バッテリ10は、複数のセル10Aを含んで構成される。バッテリ10は、モータジェネレータ41,42を駆動するための電力を蓄え、PCU50を通じてモータジェネレータ41,42へ電力を供給する。また、バッテリ10は、モータジェネレータ41,42の発電時にPCU30を通じて発電電力を受けて充電される。
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、たとえば、互いに並列接続された複数のセル10Aからなるブロック(モジュール)毎の電圧VBを検出する。電流センサ22は、バッテリ10に入出力される電流IBを検出する。温度センサ23は、ブロック毎の温度TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU100に出力する。
なお、電圧センサ21および温度センサ23の監視単位はブロックに限定されず、セル10A毎であってもよいし、隣接する複数(ブロック内のセル数未満の数)のセル10A毎であってもよい。本実施の形態では、バッテリ10の内部構成は特に影響せず、複数のセル10Aを互いに区別したり複数のブロックを互いに区別したりしなくてよい。よって、以下では監視単位をバッテリ10とし、「バッテリ10の電圧VBを検出する」などと包括的に記載する。
PCU30は、ECU100からの制御信号に従って、バッテリ10とモータジェネレータ41,42との間で双方向の電力変換を実行する。PCU30は、モータジェネレータ41,42の状態を別々に制御可能に構成されており、たとえば、モータジェネレータ41を回生状態(発電状態)にしつつ、モータジェネレータ42を力行状態にすることができる。PCU30は、たとえば、モータジェネレータ41,42に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧をバッテリ10の出力電圧以上に昇圧するコンバータ(いずれも図示せず)とを含んで構成される。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))102と、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)とを含んで構成される。ECU100は、各センサから受ける信号ならびにメモリ102に記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、エンジン50およびPCU30を制御することによってバッテリ10の充放電を制御する。ECU100により実行される主要な処理・制御として、バッテリ10の保護を目的に、バッテリ10の負極電位V2を算出する「負極電位算出処理」と、バッテリ10への充電電流を抑制する「充電電流抑制制御」とが挙げられる。負極電位算出処理および充電電流抑制制御については後に説明する。
図2は、各セル10Aの構成の一例を示す図である。図2を参照して、各セル10Aは、リチウムイオン二次電池である。セル10Aのケース上面は蓋体11によって封止されている。蓋体11には、正極端子12および負極端子13が設けられている。正極端子12および負極端子13の各々の一方端は、蓋体11から外部に突出している。正極端子12および負極端子13の各々の他方端は、ケース111内部において、内部正極端子および内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。
ケース111内部には電極体14が収容されている(図2ではケース111を透視して破線で示す)。電極体14は、たとえば、セパレータ17を介して積層された正極(正極シート)15と負極(負極シート)16とが筒状に捲回されることにより形成されている。正極15は、集電箔151(図4参照)と、集電箔151の表面に形成された正極活物質層(正極活物質、導電材およびバインダを含む層)とを含む。同様に、負極16は、集電箔161と、集電箔161の表面に形成された負極活物質層(負極活物質、導電材およびバインダを含む層)とを含む。セパレータ17は、正極活物質層および負極活物質層の両方に接するように設けられている。電極体14(正極活物質層、負極活物質層およびセパレータ17)は、電解液により含浸されている。
正極15、負極16、セパレータ17および電解液の材料としては、従来公知の各種材料を用いることができる。一例として、正極15には、コバルト酸リチウムまたはマンガン酸リチウムが用いられる。正極15の集電箔151にはアルミニウムが用いられる。負極16にはカーボン(グラファイト)が用いられる。負極の集電箔161には銅が用いられる。セパレータ17にはポリオレフィンが用いられる。電解液は、有機溶媒と、リチウムイオンと、添加剤とを含む。
なお、電極体14を捲回体にすることは必須ではなく、電極体14は捲回されていない積層体であってもよい。また、本実施の形態では、セル10Aが一般的なリチウムイオン二次電池(いわゆる液系の電池)である例について説明するが、本開示における「リチウムイオン二次電池」には、電解質として高分子ゲルが用いられるリチウムポリマー電池も含まれ得る。
<負極表面への金属リチウムの析出>
以上のように構成された二次電池システム2においては、バッテリ10の充電に伴い電圧VBが増加する。このとき、正極電位V1および負極電位V2の変化が起こっている。
図3は、バッテリ10の充電時における正極電位V1および負極電位V2の時間変化の一例を示す図である。図3において、横軸は、バッテリ10への充電開始時からの経過時間を示す。縦軸は、負極16内の反応物質である金属リチウムの電位(リチウム基準電位)に対する電位を示す。
図3を参照して、正極電位V1は、リチウム基準電位に対する正極15の電位である。負極電位V2は、リチウム基準電位に対する負極16の電位である。バッテリ10の電圧VBは、正極電位V1と負極電位V2との電位差(V1-V2)である。バッテリ10の継続的な充電により、正極電位V1が上昇する一方で負極電位V2が低下することで電圧VBが大きくなる。
負極活物質の電位が反応物質の電位を下回ると、その反応物質の析出が起こる。一般に、リチウムイオン二次電池では、金属リチウムの電位が基準とされる。本明細書では、この電位を「リチウム基準電位」と呼ぶ。また、リチウムイオンおよび金属リチウムを包括的に「リチウム」とも記載する。
バッテリ10においては、負極電位V2がリチウム基準電位(=0V)以下となると、金属リチウムが負極表面に析出する可能性があると判定することも考えられる。そして、負極表面へのリチウム析出を防止すべく、バッテリ10の充電時には、たとえば充電電流を抑制することで負極電位V2の低下を抑え、負極電位V2をリチウム基準電位よりも高い状態に維持することができる(後述の充電電流抑制制御)。
<核生成エネルギー>
リチウム析出では、まず、リチウムの核が生成され、その後、生成された核の周囲に金属リチウムが析出する。本発明者は、負極電位V2がリチウム基準電位を下回る時刻と、リチウム析出が実際に始まる時刻との間には、リチウムの核生成に要するエネルギー(核生成エネルギー)に起因する時間差(タイムラグ)が発生し得る点に着目した。
より詳細に説明すると、バッテリ10への電流IBが比較的小さい場合には、バッテリ10の充電開始時には負極電位V2がリチウム基準電位よりも高く、その後、負極電位V2が低下してリチウム基準電位に達する。しかし、負極電位V2がリチウム基準電位に達しても、その直後にリチウム析出が起こるのではなく、多少の遅延が生じる。また、より大電流でのバッテリ10の充電においては、バッテリ10の充電を開始した瞬間から負極電位V2がリチウム基準電位よりも低いが、充電開始時からある程度の時間(たとえば数秒~10秒程度)が経過するまではリチウム析出に至らない。
負極電位V2がリチウム基準電位を下回ってからリチウム析出開始までの遅延は、核生成エネルギーに起因するものと考えられる。核生成エネルギーを考慮しない場合、核生成エネルギーを考慮する場合と比べて、前述の遅延(バッテリ10への充電に伴うエネルギーが核生成エネルギーに達するのに要する時間)の分だけ充電電流抑制制御の開始が過度に早くなる可能性がある。そうすると、バッテリ10への充電電流を過剰に抑制することになるので、たとえば車両1が回生可能な電力が少なくなり車両1の燃費悪化につながる可能性がある。
そこで、本実施の形態においては、充電電流抑制制御の開始の要否を判断するのに際し、負極電位V2をリチウム基準電位と比較するのに代えて、負極電位V2を析出電位Vdと比較する構成を採用する。析出電位Vdとは、核生成エネルギーを考慮し、リチウムの核生成の後にさらにリチウム析出に至る電位である。析出電位Vdの算出手法について、以下の図4~図6を参照しながら説明する。
図4は、リチウム析出のメカニズムおよび核エネルギーを説明するための図である。図4において、横軸は、バッテリ10の充電時(より詳細には定電流充電時)の経過時間を示す。縦軸は、リチウム基準電位に対する負極電位V2を示す。
図4を参照して、時刻t0において、負極電位V2がリチウム基準電位(=0V)を下回る。その後も負極電位V2の低下は続き、時刻t1において、負極電位V2が析出電位Vdに達すると、リチウム析出が起こる。この場合、斜線を付して示すように、時刻t0から時刻t1までの間にバッテリ10に充電される電力が「核生成エネルギー」に相当する。なお、以下では、負極電位V2がリチウム基準電位を下回ってからリチウム析出が始まるまでの時間(遅延時間)を「析出時間」とも称する。
核生成エネルギーEは、簡易的には、リチウム析出開始時からの平均負極電位V2の平均値とバッテリ10への充電電流IBの平均値との積により算出することができる。より厳密には、核生成エネルギーEは、Δtを微少時間として、時刻(t+Δt)における負極電位V2(t+Δt)のリチウム基準電位(=0V)に対する電位差ΔV2と、時刻tにおける充電電流IBとの積(ΔV2×IB)を求め、その積を時刻t0から時刻t1までの範囲で時間積分することにより算出することができる。
図5は、核生成エネルギーの測定結果を示す図である。図5において、横軸は、バッテリ10への充電電流IBが異なる条件下での析出時間を示す。縦軸は、核生成エネルギーEを表す。図5には、バッテリ10の温度TBが25℃である場合の核生成エネルギーEの測定結果が示されている。
図5に示すように、バッテリ10への充電電流IBが様々な値を取り、それにより析出時間が異なったとしても、バッテリ10の温度TBが25℃で一定である場合には、多少のばらつきはあるものの、核生成エネルギーEも略一定であった。核生成エネルギーEの平均値は、約220J(ジュール)と算出された。
図示しないが、同様の測定を異なる温度条件下で行った場合にも同様の傾向を示す測定結果が得られた。具体的には、バッテリ10の温度TBが0℃である場合、核生成エネルギーE(平均値)は、約40Jであった。バッテリ10の温度TBが-15℃である場合、核生成エネルギーE(平均値)は、約31Jであった。バッテリ10の温度TBが-35℃である場合、核生成エネルギーE(平均値)は、約17Jであった。このような核生成エネルギーEの温度依存性を予め取得しておくことで、バッテリ10の温度TBから、その温度における核生成エネルギーEを算出することができる。
図6は、リチウム析出時の負極電位V2の電流依存性を説明するための図である。図6において、横軸は、バッテリ10の定電流充電開始時からバッテリ10に充電された容量[単位:Ah]を表す。縦軸は、リチウム基準電位に対するバッテリ10の負極電位V2を表す。
図6には、様々な充電電流IB(定電流値)についての負極電位V2の変化が曲線K1~K5により示されている。曲線K1は充電電流IBが最も小さい場合の負極電位V2の変化を示し、曲線K5は充電電流IBが最も大きい場合の負極電位V2の変化を示す。また、マーカは、リチウム析出が起こるときの負極電位V2(すなわち析出電位Vd)と容量との組合せを表す。
曲線K1~K3に示すように、バッテリ10への充電電流IBが比較的小さい場合には、バッテリ10の充電開始時には負極電位V2がリチウム基準電位よりも高く、その後、負極電位V2を下回ってからリチウム析出が起こる。曲線K4,K5に示すように大電流でのバッテリ10の充電においては、バッテリ10の充電を開始した瞬間から負極電位V2がリチウム基準電位よりも低く、曲線K1~K3と比べて、より低い負極電位V2においてリチウム析出が起こる。負極電位V2の低下には時間を要するので、充電電流IBが大きいほどリチウム析出が起こるまでの遅延が大きくなることが図6からも分かる。
図4にて説明したように、負極電位V2とリチウム基準電位(=0V)との電位差ΔV2と充電電流IBとの積の時間積分値が核生成エネルギーEに等しい。また、図5にて説明したように、核生成エネルギーEは温度TBに応じて一意に定まる。したがって、温度TBが一定である場合、負極電位V2と充電電流IBとの積は一定であり、一方が増加すると他方が減少するという反比例の関係が存在する。このことは、マーカをつなぐ曲線Kからも理解される。バッテリ10の充電電流IBは電流センサ22により測定され、核生成エネルギーEは温度センサ23により取得されるバッテリ10の温度TBから算出されるので、電流IBと核生成エネルギーEとから析出電位Vdを算出することができる。
あるいは、上記のようにして事前に算出された析出電位Vdを電流IBおよび温度TBをパラメータとするマップ(後に図13に示す析出マップMP2)としてECU100のメモリ102に予め格納させておいてもよい。これにより、ECU100は、バッテリ10の電流IBおよび温度TBから析出電位Vdを容易に算出することができる。
<0次元電池モデル>
負極電位V2を算出するためには、バッテリ10を簡略化した電池モデルを構築することが求められる。特に、車載用ECUであるECU100の演算資源(演算能力)には、典型的な研究開発用コンピュータ(たとえばシミュレーション用コンピュータ)と比べて制約がある。したがって、本実施の形態では、ECU100の演算負荷を低減して演算時間を短縮するために、より単純化された0次元の電池モデルが採用される。
図7は、本実施の形態における電池モデルの概念図である。図7を参照して、本実施の形態においては、正極活物質18および負極活物質19が1粒子ずつだけ存在するものと想定する0次元の電池モデルが採用される。より詳細に説明すると、正極15には多数の正極活物質18が含まれるところ、各正極活物質18における電気化学反応が均一であるとの仮定の下に、多数の正極活物質18を単一の正極活物質18で代表させる。同様に、負極16に含まれる多数の負極活物質19を単一の負極活物質19で代表させる。このように単純化された電池モデルを採用した上で負極電位V2が算出される。
図8は、本実施の形態における負極活物質モデルを説明するための図である。図8を参照して、負極活物質19は、仮想的に半径方向rにN分割される。以下では、N=5である例について説明する。ただし、Nは、2以上であれば特に限定されるものではない。分割された5つの層を、負極活物質19の中心Oから外周に向かってL1~L5と記載する。負極活物質19の半径方向rの距離は、負極活物質19の中心Oで0であり、負極活物質19の外表面(最表面)でDoutである。なお、層Ln(n=1~5)の厚みは、図8に示すように互いに異なってもよいが、等しくてもよい。
本実施の形態では、リチウム析出が起こる負極活物質19の外表面の領域Z(斜線で示す)における負極電位V2が算出される。リチウム析出領域Zにおける負極電位V2の算出では、以下の2つの電圧成分を考慮することが考えられる。
第1の電圧成分とは、各層L1~L5内のリチウム濃度(リチウム濃度分布)に応じて定まる電位である「表面電位U2」である。詳細は後述するが、表面電位U2は、負極活物質19の内部におけるリチウムの拡散を考慮して算出される。
第2の電圧成分とは、リチウムが負極活物質19の外表面から出入り(充電時には入力)する際の「反応抵抗による電圧降下量ΔV」である。なお、反応抵抗とは、電解液と負極活物質19の外表面との界面における電荷の授受(電荷移動)に関連するインピーダンス成分を意味する。
本実施の形態のように0次元の電池モデルが採用された負極電位算出処理では、上記2つの電圧成分を考慮するだけでは、バッテリ10の充電履歴によっては負極電位V2の算出精度が低くなる場合がある。より詳細には、バッテリ10が比較的大電流で充電された場合に負極電位V2の算出精度の低下が顕著になりやすい。
これは、0次元の電池モデルでは、電極体14の厚み方向におけるリチウム濃度分布(すなわち、電解液中など正極活物質18および負極活物質19の外部におけるリチウム濃度分布)が考慮されていないことに起因するものと考えられる。バッテリ10の充電に伴うリチウムの偏りは活物質外部においても生じ得るが、大電流での充電時には、リチウムが偏る速度(リチウム濃度分布の偏りの増加速度)の方がリチウムの拡散速度(偏りの緩和速度)と比べて相対的に早い。そのため、リチウムの拡散が追い付かなくなり、その結果、リチウム濃度分布の偏りに起因する電圧が負極活物質19の外表面に印加されることとなる。この電圧成分により負極表面(リチウム析出領域Z)へのリチウム析出が促進されるため、この電圧成分を「析出過電圧ηp」とも記載する。
<処理フロー>
図9は、実施の形態における充電電流抑制制御を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートは、たとえば、バッテリ10の充電時において、所定の演算周期(たとえば約100ミリ秒)が経過する毎に実行される。このフローチャート内の各ステップ(以下、Sと略す)は、基本的にはECU100によるソフトウェア処理によって実現されるが、ECU100内に作製された電子回路によるハードウェア処理によって実現されてもよい。
以下では、バッテリ10の充電開始を起点とする期間を「充電期間」と称する。充電期間とは、充放電が休止されていたバッテリ10の充電が開始された場合には、休止終了時(=充電開始時)からの期間を意味する。また、充電期間とは、たとえば車両1の走行に伴いバッテリ10の充放電方向が切り替わった場合には、放電から充電への切り替え時からの期間を意味する。ECU100は、図示しない別フローにおいて、充電期間中の電流IBの平均値を示す平均電流IBaveと、充電期間中の電流IBの積算値を示す積算電流ΣIBとを算出しているものとする。
図9を参照して、S101において、ECU100は、監視ユニット20内の各センサの検出結果を取得する。具体的には、ECU100は、電圧センサ21により検出されるバッテリ10の電圧VBを取得する。ECU100は、電流センサ22により検出される、バッテリ10に入出力される電流IBを取得する。ECU100は、温度センサ23により検出されるバッテリ10の温度TBを取得する。
S102において、ECU100は、S101にて取得された電流IBから、負極活物質19(より詳細には、負極活物質19の最表面の層L5)に入力されるリチウム数を算出する。具体的に説明すると、電極体14における正極15および負極16の極板面積により電流IB(単位:A=C/s)を除算することによって、電流密度(単位:C/(m2・s))が算出される。この電流密度に演算周期(単位:s)と流入係数(単位:m2)とを乗算することにより、負極活物質19に入出力された電荷量(単位:C)が分かる。各リチウムイオンの電荷量は既知であるため、負極活物質19に入出力された電荷量をリチウムイオンの電荷量により除算することで、負極活物質19に入出力されるリチウム数を求めることができる。
S103において、ECU100は、層Ln(n=1~5)のうちの隣接する層間でのリチウム拡散を考慮して、層L1~L5にそれぞれ含まれるリチウム数N1~N5を算出する。具体的には以下のような算出手法を用いることができる。すなわち、m(mは自然数)番目の演算周期における層Ln内のリチウム数をNn(m)と記載する。そうすると、層Ln内のリチウム数Nn(m)は、下記式(1)のように表される。
Nn(m+1)=Nn(m)+Nn
in(m)-Nn
out(m) ・・・(1)
式(1)では、隣接する他の層から層Lnへのリチウム流入数をNn
in(m)と記載し、層Lnから隣接する層へのリチウム流出数をNn
out(m)と記載している。層Lnへのリチウム流入数Nn
in(m)は、下記式(2)のように表される。
Nn
in(m)=D×Cn+1×ΔNn+1(m)+D×An×ΔNn(m)
・・・(2)
一方、層Lnからのリチウム流出数Nnout(m)は、下記式(3)のように表される。
Nn
out(m)=D×An+1×ΔNn+1(m)+D×Cn×ΔNn(m)
・・・(3)
上記式(2),(3)では拡散係数をDで示す。CおよびAは、隣接する層間で表面積(図8に示す球状の層表面の面積)が異なるため、その補正を行なうための定数である。より具体的には、定数Cは、外側の層(層Ln+1)から、その層に隣接する内側の層(層Ln)へのリチウム流入における表面積差を考慮した補正定数である。逆に、定数Aは、内側の層から、その層に隣接する外側の層へのリチウム流出における表面積差を考慮した補正定数である。ΔNn+1は、層Ln+1と層Lnとのリチウム数の差である。ΔNnは、層Lnと層Ln-1とのリチウム数の差である。すべての層Ln(n=1~5)について初期値(Nn(0))を与え、上記式(1)~(3)を繰り返し解くことによって、層Ln内のリチウム数Nn(m)を算出することができる。
S104において、ECU100は、S103にて算出されたリチウム数N4,N5から、負極活物質19の最も外側の表面に存在するリチウム数を算出する。このリチウム数を「最表面リチウム数Nout」と記載する。最表面リチウム数Noutは、以下のように算出される。
図10は、最表面リチウム数Noutの算出手法(図7のS104の処理)をより詳細に説明するための図である。図10において、横軸は、負極活物質19の半径方向rに沿う距離を示す。負極活物質19の中心Oの位置を距離0で示し、負極活物質19の外側に向かうに従って距離が大きくなる。縦軸は、各位置におけるリチウム数の算出結果を示す。
図10を参照して、S103の処理により、リチウム数N1~N5は既に算出されている。ここでは、層L4内のリチウム数N4は、層L4の最も内側の距離と最も外側の距離とのちょうど中間距離におけるリチウム数を示すものと考える。層L5内のリチウム数N5についても同様に、層L5の最も内側の距離と最も外側の距離(=負極活物質19の最表面に相当する距離)とのちょうど中間距離におけるリチウム数を示すものと考える。そうすると、層L4内のリチウム数N4を示す点(D4,N4)と、層L5内のリチウム数N5を示す点(D5,N5)とを結ぶ直線Jを求めることができる。この直線Jを最表面の位置(距離Dout)まで外挿した点が(Dout,Nout)である。
図9に戻り、S105において、ECU100は、最表面リチウム数Noutから表面電位U2を算出する。一般に、活物質の表面電位は、活物質表面に存在する活物質量に応じて定まる。したがって、最表面リチウム数Noutと表面電位U2との相関関係が事前実験により求められ、たとえばマップMP0としてECU100のメモリ102に格納されている。
図11は、表面電位U2を算出するためのマップMP0の一例を示す図である。図11において、横軸は最表面リチウム数Noutを示し、縦軸は表面電位U2を示す。図11に示すように、最表面リチウム数Noutが多くなるに従って表面電位U2は低くなる。ECU100は、このマップMP0を参照することにより、最表面リチウム数Noutから表面電位U2を算出することができる。なお、マップに代えて関数または換算式を準備してもよい。
図9を再び参照して、S106において、ECU100は、反応抵抗による電圧降下量ΔVを算出する(ΔV>0)。電圧降下量ΔVは、下記式(4)に示すバトラー・ボルマー(Butler-Volmer)の式に従って算出することができる。
なお、式(4)では、反応抵抗をRで示し、ファラデー定数をFで示し、電荷移動係数をαで示し、負極活物質19の比表面積をaで示し、負極活物質19の膜厚をLで示し、交換電流密度をi0で示し、標準速度定数をkで示し、活性化エネルギーをgで示している。Iとは、電流密度に析出表面積を乗算したものである。負極電位V2(=U2-ΔV)が0のときには、U2=ΔV(=IR)との関係が成り立つ。したがって、式(4)においてVをU2としてIRについて解くことで、電圧降下量ΔVを算出することができる。
S107において、ECU100は、S105にて算出された表面電位U2から、S106にて算出された電圧降下量ΔVを減算することにより、負極電位V2を算出する(V2=U2-ΔV)。なお、S101~S107の処理が負極電位算出処理に相当する。
S108において、ECU100は、S101にて取得された監視ユニット20内の各センサの検出結果に基づいて、バッテリ10のSOCを推定する。SOC推定手法としては、電流積算法などの公知の各種手法を用いることができるので、説明は繰り返さない。
S109において、ECU100は、充電期間における平均電流IBaveと、充電期間における積算電流ΣIBとを取得する。前述したように、平均電流IBaveおよび積算電流ΣIBは、電流センサ22の検出値(電流IB)に基づき、図示しない別フローにて算出されている。
ECU100のメモリ102には、後述する補正マップMP1が格納されている。ECU100は、補正マップMP1を参照することによって、S108にて推定されたバッテリ10のSOCと、S109にて取得された平均電流Iaveおよび積算電流ΣIBとから、負極電位V2を補正するための析出過電圧ηpを算出する(S110)。
図12は、補正マップMP1の一例を示す図である。図12を参照して、補正マップMP1では、事前の実験結果に基づき、バッテリ10のSOCと平均電流IBaveと積算電流ΣIBとの組合せ(SOC,IBave,ΣIB)毎に析出過電圧ηpが規定されている。図中に矢印で示すようpは、図中左下から右上へと行くに従って高くなる。つまり、析出過電圧ηpは、平均電流IBaveが大きいほど高く、積算電流ΣIBが大きいほど高い。なお、図10および後述する図11に示す具体的な数値は、理解を容易にするための例示に過ぎないことを確認的に記載する。
電流に関するパラメータとして、平均電流IBaveおよび積算電流ΣIBの2つのパラメータが用いられる理由について説明する。たとえば、10秒間の充電期間中に電流IBが10Aで一定である第1の充電パターンと、20秒間の充電期間中の電流IBが同じく10Aで一定である第2の充電パターンとを比較する。第1の充電パターンと第2の充電パターンとでは、平均電流IBaveは等しいが、積算電流ΣIBが異なる。この場合が相対的に大きい第2の充電パターンの方が第1の充電パターンと比べて、電極体14の厚み方向xにおけるリチウム濃度分布に偏りが生じやすい。積算電流ΣIBをパラメータとして用いることで、このような違いを析出過電圧ηpに反映させることができる。
また、たとえば、10秒間の充電期間中、電流IBが10Aで一定である前述の第1の充電パターンと、5秒間の充電期間中、電流IBが20Aで一定である第3の充電パターンとを比較する。第1の充電パターンと第3の充電パターンでは、積算電流ΣIBは等しいが、平均電流IBaveが異なる。この場合、平均電流Iave第3の充電パターンの方が第1の充電パターンと比べて、電極体14の厚み方向xにおけるリチウム濃度分布に偏りが生じやすい。このような違いについても、平均電流IBaveをパラメータとして用いることで析出過電圧ηpに反映させることが可能になる。
なお、図12では、(SOC,IBave,ΣIB)の3つのパラメータを含む3次元マップの例を示すが、バッテリ10の温度TBをさらに含む4次元マップを準備してもよい。これにより、より高精度に析出過電圧ηpを算出することが可能になる。
図9を再び参照して、S111において、ECU100は、補正マップMP1を参照することで求められた析出過電圧ηpにより負極電位V2を補正する。補正後の負極電位V2は、補正前の負極電位V2(=U2-ΔV)から析出過電圧ηpが減算された電位である(V2-ηp→V2)。
S112において、ECU100は、析出マップMP2を参照することによって、バッテリ10の電流IBと温度TBとから、析出電位Vdを算出する。
図13は、析出マップMP2の一例を示す図である。図13を参照して、析出マップMP2では、図4~図6に説明した事前の実験結果に基づき、バッテリ10の電流IBと温度TBとの組合せ(IB,TB)毎に析出電位Vdが規定されている。図4に示すように、析出電位Vdは、リチウム基準電位(=0V)よりも低い。また、析出電位Vdは、電流IB(の絶対値)が大きいほど低く、温度TBが低いほど低い。
なお、析出マップMP2を用いるのに代えて、核生成エネルギーEと析出電位Vdと電流IBとの間に成り立つ関係式(Vd×IBの時間積分値=E)を用いて析出電位Vdを算出してもよい。より詳細には、図6で示したような核生成エネルギーEの温度依存性を予め取得することにより、バッテリ10の温度TBから核生成エネルギーEを算出することができる。そして、定電流充電である場合には、算出された核生成エネルギーEを容量(積算電流、単位[Ah])で除算することにより、析出電位Vdを算出することができる。
図9に戻り、S113において、ECU100は、補正後の負極電位V2と析出電位Vdとを比較することによって、負極16へのリチウム析出が起こる可能性があるか否かを判定する。具体的には、ECU100は、補正後の負極電位V2が析出電位Vd以下(V2≦Vd)であるか否かを判定する。
補正後の負極電位V2が析出電位Vd以下である場合(S113においてYES)、ECU100は、負極16へのリチウム析出が起こる可能性があるとして処理をS114に進め、充電電流抑制制御を実行する。この充電電流抑制制御は、たとえば特開2012-244888号公報(特許文献2)の図5に記載された制御と同等であるため、詳細な説明は繰り返さないが、たとえば、時刻tにおける電流IB(t)と、許容入力電流Ilim(t)に基づき、Ilim(t)に対して所定量オフセットさせることで入力電流制限目標値Itagが算出される。そして、得られたItagに基づいて、バッテリ10への充電電力の制御上限値を示すWin(t)が算出される。その後、処理は、図示しないメインルーチンに戻される。
なお、補正後の負極電位V2が析出電位Vdよりも高い場合(S113においてNO)には、ECU100は、負極16へのリチウム析出は起こらない可能性が高いとしてS114の処理をスキップして、処理をメインルーチンへと戻す。
なお、図9では、負極電位V2が析出電位Vdとを比較することによって、充電電流抑制制御の開始時刻を算出する構成について説明した。しかし、より厳密には、電流IBの時間変化も考慮し、リチウム基準電位に対する負極電位V2の変化量(ΔV2)と電流IBとの積(ΔV2×IB)の時間積分が核生成エネルギーEに到達した時刻を充電電流抑制制御の開始時刻として制御することが望ましい。
以上のように、本実施の形態によれば、負極電位V2がリチウム基準電位(=0V)未満になると充電電流抑制制御の実行が開始されるのに代えて、負極電位V2がリチウム基準電位よりも低い析出電位Vd(=負電位)に達するまで充電電流抑制制御の実行開始が遅延される。負極電位V2がリチウム基準電位に達してから析出電位Vdに達するまでの間は、リチウムの核生成が起こる一方でリチウム析出は起こらない。したがって、この間も充電電流抑止制御を実行しないことで、バッテリ10の負極16へのリチウム析出の過剰な抑制を防止することができる。その結果として、バッテリ10への充電電流(回生に伴う充電電力)を増加させ、車両1の燃費を向上させることができる。
また、析出電位Vdは、析出マップMP2を用いることで容易に算出することができる。あるいは、析出電位Vdは、核生成エネルギーEと析出電位Vdと電流IBとの間に成り立つ関係式(簡易的にはE=Vd×IB)を用いても簡易な演算により算出可能である。よって、本実施の形態によれば、0次元モデルの利点である演算負荷の低減および演算時間の短縮を維持しつつ、負極16へのリチウム析出の過剰な抑制を防止することができる。
さらに、バッテリ10の充電期間中の平均電流IBaveおよび積算電流ΣIBに基づいて負極電位V2が補正される。この補正により、析出過電圧ηp(すなわち、電極体14の厚み方向におけるリチウム濃度分布の偏りに起因して負極活物質19の外表面に印加される電圧)を負極電位V2に反映させることができる。したがって、負極電位V2の算出精度が向上するので、負極16へのリチウムの析出状態を正確に推定することができる。
また、析出過電圧ηpの算出に用いられる補正マップMP1のパラメータ(IBaveおよび積算電流ΣIB)は、いずれも簡易な演算により算出可能である。よって、本実施の形態によれば、演算負荷の低減および演算時間の短縮を維持しつつ、リチウムの析出状態の推定精度向上が可能となる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。