以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。以下では、二次電池の一形態である、双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池を例に挙げて本発明を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
[二次電池システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池システムの構成を説明するためのブロック図である。
この全固体リチウムイオン二次電池システム(以下、「二次電池システム1」とも称する)は、全固体リチウムイオン二次電池(以下、「二次電池2」とも称する)を備える。そして、二次電池2のセル電圧(端子間電圧)を測定する電圧センサー3、二次電池2の外表面温度(環境温度)を測定する温度センサー4、二次電池2へ充電電力を供給する電圧電流調整部5、二次電池2の充放電電流を測定する電流センサー6、二次電池2を加熱することができるヒーター7、二次電池2の温度や充放電を制御する制御部8を備える。また、電圧電流調整部5は外部電源9に接続されていて充電時には電力の供給を受ける一方、放電時には電圧電流調整部5を介して外部電源9側へ放電する(詳細は後述する)。
以下、各部の詳細を説明する。
二次電池2は、通常の全固体リチウムイオン二次電池であり、正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極と、負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、前記正極活物質層および前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、を有する発電要素を備える。なお、全固体リチウムイオン二次電池の詳細については後述する。
電圧センサー3は、例えば電圧計でよく、二次電池2の正極と負極との間のセル電圧(端子間電圧)を測定する。電圧センサー3の取り付け位置は特に制限されず、二次電池2に接続される回路内において正極と負極との間のセル電圧を測定することができる位置であればよい。
温度センサー4は、二次電池2の外表面温度(環境温度)を測定する。温度センサー4は、例えば、二次電池2のケース(外装体、筐体)の表面などに取り付けられる。本実施形態では、温度センサー4によって測定された二次電池2の外表面温度から、後述する制御部8が二次電池2の内部における温度を推定することにより、二次電池2の温度を取得する。すなわち、温度センサー4および制御部8は、二次電池2の温度を検出する温度検出部として機能する。
電圧電流調整部5は、二次電池2の充電時には、制御部8からの指令に基づいて外部電源9からの電力の電圧および電流を調整し、前記電力を二次電池2へ供給する。また、二次電池2の放電時には、電圧電流調整部5は、二次電池2から放電された電気を外部電源9へ放出する。このようにして、電圧電流調整部5、外部電源9および後述する制御部8は、二次電池2を充電する充電器として機能する。
ここで、外部電源9は、電気自動車等の充電に使用される、いわゆる電源グリッドなどと称される電気自動車用の電源であり、直流が出力されている。このような電気自動車用の電源は、商用電力(交流)を二次電池2の充電のために必要な電圧および電流の直流に変換して提供している。また、外部電源9には電力回生機能が備えられており、二次電池2からの放電があった場合は、直流を交流に変換して商用電源へ回生することができる。なお、このような外部電源9を構成する装置としては、電力回生機能の付いた周知の電源を使用すればよいため、ここでは詳細な説明は省略する(電力回生機能の付いた電源としては、例えば、特開平7-222369号公報、特開平10-080067号公報などがある)。
外部電源9が商用電源などの外部電源装置に接続されていない場合、例えば外部に設置された他の二次電池などを電源として二次電池2を充電するときには、二次電池2から放電した電力を他の二次電池へ蓄電させることが好ましい。これによりエネルギーの無駄を少なくすることができる。
電流センサー6は、例えば電流計である。電流センサー6は、二次電池2の充電時には電圧電流調整部5から二次電池2へ供給される電力の電流値を測定し、放電時には二次電池2から電圧電流調整部5へ供給される電力の電流値を測定する。電流センサー6の取り付け位置は特に制限されず、電圧電流調整部5から二次電池2に電力を供給する回路内に配置されて、充放電時の電流値を測定することができる位置であればよい。
ヒーター7は、二次電池2を加熱するための加熱手段として機能する。ヒーターとしては従来公知の任意のヒーターが好ましく用いられうる。なお、本実施形態では二次電池2を加熱するための加熱手段としてヒーター7を用いているが、ヒーター以外の加熱手段が用いられてもよい。例えば、二次電池システム1が車載されている場合には、当該システムが搭載された車両からの排気の熱を用いて二次電池2を加熱してもよい。このようにして、ヒーター7等の加熱手段および後述する制御部8は、二次電池2の温度を調節する温度調節部として機能する。
制御部8は、例えば、CPU81や記憶部82などを含んでいる、いわゆるコンピューターである。制御部8は、後述する手順に従って、二次電池2に充電処理を行う際に二次電池2の温度を制御する。また、制御部8は、前記充電処理の条件をも制御する。このような制御部8としては、電気自動車においては、例えばECU(Electronic Control Unit)などを用いるようにしてもよい。なお、二次電池2が車載される場合、当該二次電池2および制御部8は車両に搭載され、充電器は当該車両の外部に設置されている構成でありうる。また、充電器は車両の外部に設置され、制御部8もまた当該充電器に搭載されている形態であってもよい。
ここで、記憶部82は、CPU81がワーキングエリアとして使用するRAMのほかに、不揮発性メモリーを搭載している。不揮発性メモリーには、本実施形態における二次電池2の温度の制御や充電処理の条件の制御を行うためのプログラムを記憶している。
また、記憶部82は、二次電池2の電池電圧Vと二次電池の充電状態(SOC;State of Charge)との関係を示すマップ(以下、「第1マップ」とも称する)を記憶している。さらに、記憶部82は、二次電池2を構成する負極活物質層および固体電解質層のそれぞれにおける降伏応力σyの温度依存性を示すマップ(以下、「第2マップ」とも称する)を記憶している。図2は、第2マップの一例として、負極活物質として金属リチウムを用いた場合の負極活物質層(ここでは金属リチウム)の降伏応力σy(Li)の温度依存性を示すグラフである。図2に示すように、本実施形態において負極活物質として用いられている金属リチウムの降伏応力σy(Li)の値は温度の変化に伴って変化する(すなわち、温度依存性を示す)。具体的には、約80℃を境に金属リチウムの降伏応力σyの値は急激に低下する。本実施形態において、記憶部82は、図2に示すような二次電池2を構成する負極活物質層における降伏応力σyの温度依存性を示すマップに加えて、二次電池2を構成する固体電解質層における降伏応力σy(SE)の温度依存性を示すマップをさらに記憶していてもよい。さらに、本実施形態において、記憶部82は、二次電池2を構成する負極活物質層におけるヤング率Eの温度依存性を示すマップ(以下、「第3マップ」とも称する)を記憶している。図3は、第3マップの一例として、負極活物質として金属リチウムを用いた場合の負極活物質層(ここでは金属リチウム)のヤング率E(Li)の温度依存性を示すグラフである。図3に示すように、本実施形態において負極活物質として用いられている金属リチウムのヤング率E(Li)の値は温度の変化に伴って変化する(すなわち、温度依存性を示す)。具体的には、約80℃を境に金属リチウムのヤング率Eの値は急激に低下する。なお、記憶部82は、上記のマップに加えて、固体電解質層の亀裂進展エネルギーΨの値についても記憶している。ここで、固体電解質層の亀裂進展エネルギーΨの値は、固体電解質層の破壊靱性値K1C[Pa・m1/2]の値から算出され、固体電解質層の材質が決まればほぼ一義的に決まるパラメータであり、その温度依存性は無視しても問題ない。具体的に、固体電解質層の亀裂進展エネルギーΨの値は、
Ψ=(K1C)2/E’
の式に従って算出することができ、この際、E’は、
E’=E/(1-ν)2
の式に従って算出される値である。この際、Eは固体電解質層のヤング率[Pa]であり、νは固体電解質層のポアソン比である。
[充電処理]
このように構成された二次電池システム1における充電処理の手順を説明する。
この充電処理は、二次電池システム1が外部電源9に接続されて、二次電池2に対して充電電力が供給可能な状態において行われる。また、本実施形態における充電処理の制御は、二次電池2の電圧が所定電圧となるまで行う定電流(CC)充電方式である。ただし、充電処理の形態はこれに制限されず、定電流(CC)充電方式で充電を行い、二次電池2の電圧が所定電圧となった後には定電圧(CV)充電方式で行う、定電流・定電圧(CC-CV)充電方式を用いてもよい。
本実施形態における充電処理は、上記温度検出部が検出した温度と、二次電池2を構成する負極活物質層および固体電解質層における降伏応力またはヤング率の温度依存性とに基づいて、前記負極活物質層における降伏応力またはヤング率の値が前記固体電解質層における前記降伏応力またはヤング率の値よりも小さくなる温度から第1しきい温度を算出し、算出された前記第1しきい温度を下回らないように二次電池2の温度を制御しつつ行うものである。なお、特に断りのない限り、この充電処理および二次電池の温度の制御は制御部8によって行われる。以下、図4を参照してこの充電処理の手順を説明する。図4は、二次電池システム1における充電処理の手順を示すフローチャートである。
まず、制御部8は、二次電池2の充電処理を行う制御を開始する(ステップS101)。具体的には、外部電源9から電圧電流調整部5へ電力を導入して、充電処理を開始する(本実施形態では、定電流(CC)充電を開始する)。
続いて、制御部8は、電流センサー6から充電電流Iを取得し、温度センサー4から測定温度Tmを取得し、電圧センサー3から電池電圧Vを取得する(ステップS102)。そして、本実施形態において、制御部8は、記憶部82に記憶された「二次電池2の電池電圧Vと二次電池の充電状態(SOC)との関係を示すマップ」(第1マップ)を参照して、電圧センサー3から取得した電池電圧Vに基づき、二次電池2のSOCを算出してこれを取得する。また、本実施形態において、制御部8は、温度センサー4から取得した測定温度Tmから二次電池2の内部の温度(電池温度T)を算出してこれを取得する。この際、制御部8は、温度センサー4による温度の検出位置と二次電池2の発電要素との間の熱抵抗値(熱伝導度)に基づいて、温度センサー4が検出した二次電池の温度Tmを補正する。ここで、図5は、温度センサー4による二次電池2の測定温度Tmから電池温度Tを算出する方法の一例を説明するためのグラフ(縦軸は温度;横軸は算出したい電池温度Tとなる電池内部の位置(温度推定位置)からの距離)である。図5に示すように、温度推定位置から電池表面までの距離をΔx1とし、電池表面から温度センサー4による測定位置(例えば、電池ケースの表面)までの距離をΔx2とし、電池表面の両側の温度をそれぞれTs1およびTs2(Ts1>Ts2)とする。そうすると、いずれも既知のパラメータである電池表面および電池ケースの表面におけるそれぞれの熱伝達率h1およびh2、電池における熱伝導度λc、電池から測定位置までの熱伝導度λM、並びに測定温度Tmおよび外気温度T∞を用いて、この系における熱流束Jは、
J=λc(T-Ts1)/Δx1
J=h1(Ts1-Ts2)
J=λM(Ts2-T∞)/Δx2
J=h2(Tm-T∞)
のように表される。これらをTについて解くことで、電池温度Tを算出することができる。このように補正された電池温度Tを用いて以下の制御を行うことで、より精密な制御が可能となり、デンドライトの成長に起因する短絡の発生をより確実に防止することが可能となる。
続いて、制御部8は、上記で取得した充電電流Iまたはその積算値に基づいて、負極活物質層における金属リチウムの析出レートを算出する(ステップS103)。本実施形態に係る負極活物質層においては、充電の進行に伴って金属リチウムの析出が進行することから、充電電流Iの大きさまたはその積算値から金属リチウムの析出量を算出することが可能である。制御部8は、金属リチウムの析出レートを算出したら、その時点における金属リチウムの析出量を算出し、さらにその算出値に基づいて固体電解質層に生じた歪みの値を算出する。なお、固体電解質層に生じた歪みの値については、二次電池2に歪みゲージを設置しておくことで直接的に取得してもよい。その後、制御部8は、固体電解質層に生じた歪みの値から、応力-歪み曲線の弾性変形域の積分値として、歪みエネルギーUを算出する(ステップS103)。ここで、応力-歪み曲線の弾性変形域において、応力σと歪みεとはヤング率Eを比例定数として介した比例関係(σ=E×ε)にある。したがって、制御部8は、上述した負極活物質として金属リチウムを用いた場合の負極活物質層(ここでは金属リチウム)のヤング率E(Li)の温度依存性を示すマップ(第3マップ)を参照して、電池温度Tに対応するヤング率E(Li)の値を取得し、応力-歪み曲線の弾性変形域の積分値としての歪みエネルギーUを以下の式に従って算出する。
U=1/2×E×ε2
なお、負極活物質層の全面にわたって均一に金属リチウムが析出しない(負極活物質層の部位によって析出量がばらつく)こともありうるが、そのような場合を想定して、負極活物質層の異なる部位間での許容できるばらつきを予め設定しておき、そのばらつきの範囲内で金属リチウムの析出量が最大となる部位に対応する固体電解質層の部位における歪みの値を代表値として用い、同様にして歪みエネルギーUを算出してもよい。
さらに、制御部8は、ステップS102において取得した電池温度Tに基づき、記憶部82に記憶された第2マップを参照して、二次電池2を構成する固体電解質層の機械特性値として、降伏応力σy(SE)[Pa]を算出する(ステップS103)。
なお、本実施形態において、制御部8は固体電解質層の降伏応力σyを算出するが、固体電解質層の構成材料によっては固体電解質層の降伏応力σy(SE)の温度依存性は無視できるほど小さい場合がある。そのような場合には固体電解質層における降伏応力σy(SE)の温度依存性を示す第2マップを記憶部82が記憶している必要はなく、固体電解質層の降伏応力σy(SE)の値そのものを記憶しておけばよい。この場合、ステップS103において制御部8は、記憶部82が記憶している固体電解質層の降伏応力σy(SE)の値を直接取得すればよい。
その後、制御部8は、二次電池2を構成する負極活物質層(ここでは金属リチウム)についての降伏応力σy(Li)の温度依存性を示す第2マップを参照して、負極活物質層(金属リチウム)の降伏応力σy(Li)の値が固体電解質層における降伏応力σy(SE)よりも小さくなる温度(Ty(σy(Li)<σy(SE));以下、単に「Ty」とも称する)を第1しきい温度として算出する(ステップS104)。このようにして算出された第1しきい温度(Ty)よりも電池温度Tが高ければ、負極活物質層(金属リチウム)の降伏応力が固体電解質層の降伏応力よりも小さくなるため、このような電池温度Tに制御することで電析した金属リチウムが電池の厚み方向に成長することを防止することができる。
また、本実施形態において、制御部8は、記憶部82に記憶された固体電解質層の亀裂進展エネルギーΨの値および上述した第3マップを参照して、固体電解質層に生じた歪みの値を上記での測定値に固定した場合において、電池温度Tが変化したときに、負極活物質層のヤング率E(Li)の変化を介して同様に変化する歪みエネルギーU(ステップS103において算出)が、固体電解質層の亀裂進展エネルギーΨよりも小さくなる温度(TK(U<Ψ);以下、単に「TK」とも称する)を第2しきい温度として算出する(ステップS104)。このようにして算出された第2しきい温度(TK)よりも電池温度Tが高ければ、負極活物質層(金属リチウム)の電析に起因して固体電解質層に生じる歪みエネルギーUが固体電解質層における亀裂進展エネルギーΨよりも小さくなるため、このような電池温度Tに制御することで電析した金属リチウムに起因する固体電解質層の亀裂が進展するのを防止することができる。以下、図4を参照しつつ、これらの具体的な制御について説明する。
まず、制御部8は、上記で算出したTyとTKとを比較し、TyがTKよりも大きい(Ty>TK)か否かを判断する(ステップS105)。ここで、TyがTKよりも大きい(Ty>TK)と判断されれば(S105:YES)、制御部8は続いて電池温度TがTyよりも大きい(T>Ty)か否かを判断する(ステップS106)。ここでさらにTがTyよりも大きい(T>Ty)と判断されれば(S106:YES)、電池温度Tに基づく制御を終了して次のステップに進む。これらの流れは、電池温度Tが十分に高いことから、負極活物質層において電析した金属リチウムが電池の厚み方向に成長したり、電析した金属リチウムに起因する固体電解質層の亀裂が進展したりする虞がないとみなしていることを意味する。なお、この場合、制御部8は、ステップS102において算出された二次電池2のSOCの値が充電処理を終了するのに十分な値として予め設定された目標SOCよりも大きい(SOC>目標SOC)か否かを判断する(ステップS107)。ここで、二次電池2のSOCの値が目標SOCよりも大きい(SOC>目標SOC)と判断されれば(S107:YES)、制御部8は、電圧電流調整部5を制御して、充電処理を終了する。一方、ステップS107において二次電池2のSOCの値が目標SOCよりも大きい(SOC>目標SOC)と判断されなければ(S107:NO)、制御部8は、ステップS102からの制御を繰り返す。
また、ステップS106においてTがTyよりも大きい(T>Ty)と判断されなければ(S106:NO)、制御部8は、ヒーター7を制御して電池温度Tを上昇させるように二次電池2を加熱する(ステップS109)。また、本実施形態において、制御部8は、この場合において、充電電流を低減させるように電圧電流調整部5を制御する。その後、制御部8は、ステップS106からの制御を繰り返す。なお、本発明において、二次電池2を加熱する制御は必須であるが、充電条件の制御は行なわなくてもよい。
さらに、ステップS105においてTyがTKよりも大きい(Ty>TK)と判断されなければ(S105:NO)、制御部8は、電池温度TがTKよりも大きい(T>TK)か否かを判断する(ステップS110)。ここで、TがTKよりも大きい(T>TK)と判断されれば(S110:YES)、上記と同様に電池温度Tが十分に高く、負極活物質層において電析した金属リチウムが電池の厚み方向に成長したり、電析した金属リチウムに起因する固体電解質層の亀裂が進展したりする虞がないとみなして、ステップS107へと進む。一方、ステップS110においてTがTKよりも大きい(T>TK)と判断されなければ(S110:NO)、制御部8は、ヒーター7を制御して電池温度Tを上昇させるように二次電池2を加熱する(ステップS111)。また、本実施形態において、制御部8は、この場合において、充電電流を低減させるように電圧電流調整部5を制御する。その後、制御部8は、ステップS110からの制御を繰り返す。なお、ステップS109およびステップS110において、制御部8はヒーター7を制御して二次電池2を加熱するが、本実施形態において、ヒーター7は、二次電池2を構成する単セルの正極側の温度が負極側の温度よりも高くなるように二次電池2を加熱することができるように配置されている。このような構成とすることで、負極活物質層側から成長した金属リチウムのデンドライトの先端が正極活物質層に近づくにつれてより高い温度に曝されることになる。より高い温度に曝された金属リチウムの機械特性(降伏応力やヤング率)はより小さい値となることから、デンドライトが正極活物質層まで到達する虞をよりいっそう低減させることが可能となる。
以上、本発明に係る制御について詳細に説明したが、図面を参照しつつ説明した実施形態はあくまでも一例に過ぎず、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内において適宜改変して本発明を実施してもよい。例えば、上述した実施形態においては、負極活物質層(金属リチウム)の降伏応力σy(Li)の値が固体電解質層における降伏応力σy(SE)よりも小さくなる温度(Ty(σy(Li)<σy(SE))をそのまま第1しきい温度として採用したが、Ty(σy(Li)<σy(SE))に所定の安全係数を掛けた温度やTy(σy(Li)<σy(SE))に所定の温度幅を加算した温度を第1しきい温度として採用してもよい。このことは、第2しきい温度についても同様である。すなわち、上述した実施形態においては、二次電池2の充電に伴って固体電解質層に生じる歪みエネルギーUが固体電解質層の亀裂進展エネルギーΨよりも小さくなる温度(TK(U<Ψ))をそのまま第2しきい温度として採用したが、TK(U<Ψ)に所定の安全係数を掛けた温度やTK(U<Ψ)に所定の温度幅を加算した温度を第2しきい温度として採用してもよい。
なお、本発明の他の形態によれば、上述した二次電池2を充電するための充電装置(全固体リチウムイオン二次電池用充電装置)が提供される。全固体リチウムイオン二次電池を充電するための充電装置は、全固体リチウムイオン二次電池を充電する充電器と、前記全固体リチウムイオン二次電池の温度を検出する温度検出部と、前記全固体リチウムイオン二次電池の温度を調節する温度調節部と、前記充電器が前記全固体リチウムイオン二次電池を充電する際に、前記温度検出部が検出した温度と、前記負極活物質層における降伏応力またはヤング率の温度依存性とに基づいて、前記負極活物質層における降伏応力またはヤング率の値が前記固体電解質層における前記降伏応力またはヤング率の値よりも小さくなる温度から第1しきい温度を算出し、算出された前記第1しきい温度を下回らないように前記全固体リチウムイオン二次電池の温度を制御する制御部とを備えるものである。
また、本発明のさらに他の形態によれば、上述した二次電池2を充電する二次電池の充電方法もまた、提供される。全固体リチウムイオン二次電池の充電方法は、充電器が前記全固体リチウムイオン二次電池を充電する際に、前記全固体リチウムイオン二次電池の温度と、前記負極活物質層における降伏応力またはヤング率の温度依存性とに基づいて、前記負極活物質層における降伏応力またはヤング率の値が前記固体電解質層における前記降伏応力またはヤング率の値よりも小さくなる温度から第1しきい温度を算出し、算出された前記第1しきい温度を下回らないように前記全固体リチウムイオン二次電池の温度を制御することを含むものである。
以下、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池システムの構成要素について説明する。なお、本明細書では、双極型の全固体リチウムイオン二次電池を単に「双極型二次電池」とも称し、双極型全固体リチウムイオン二次電池用電極を単に「双極型電極」と称することがある。
<双極型二次電池>
図6は、本発明の一実施形態に係る双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。図6に示す双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
図6に示すように、本形態の双極型二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが固体電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および固体電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。ただし、本発明の技術的範囲は図6に示すような双極型二次電池に限定されず、複数の単電池層が電気的に直列に積層されてなる結果として同様の直列接続構造を有する電池であってもよい。
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
さらに、図6に示す双極型二次電池10では、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
以下、上述した双極型二次電池の主な構成要素について説明する。
[集電体]
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。そして、本発明において、負極活物質は、金属リチウムまたはリチウム含有合金を必須に含む。これらの負極活物質の種類としては、特に制限されないが、Li含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、金属リチウムまたはリチウム含有合金を必須に含むのであれば、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、一般的に結晶粒界の影響を受けにくいことから実質的な破壊靱性値が大きく(すなわち、デンドライトに起因する亀裂が進展しにくく)、しかもイオン伝導度が高いという観点からは、硫化物固体電解質を含むことが好ましい。
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
硫化物固体電解質は、例えば、Li3PS4骨格を有していてもよく、Li4P2S7骨格を有していてもよく、Li4P2S6骨格を有していてもよい。Li3PS4骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4が挙げられる。また、Li4P2S7骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li7P3S11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)PxS4(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、Li2S-P2S5を主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
また、硫化物固体電解質がLi2S-P2S5系である場合、Li2SおよびP2S5の割合は、モル比で、Li2S:P2S5=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLi2S:P2S5=70:30~80:20であることが好ましい。
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等が挙げられる。
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質の種類としては、特に制限されないが、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、Li(Ni-Mn-Co)O2等の層状岩塩型活物質、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4等のオリビン型活物質、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12が挙げられる。なかでも、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好ましく用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
さらに、硫黄系正極活物質が用いられるのも好ましい実施形態の1つである。硫黄系正極活物質としては、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄(S)、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、Li2S、MoS2、MoS3等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、FeS2およびMoS2が好ましく、S-カーボンコンポジット、TiS2およびFeS2がより好ましい。ここで、S-カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、正極活物質層もまた、上述した負極活物質層と同様に、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、バインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。これらの材料の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
[固体電解質層]
本形態に係る双極型二次電池の固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダの具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
固体電解質層の厚さは、目的とする双極型二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1~300μmの範囲内であることがより好ましい。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図6に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
本形態の双極型二次電池は、複数の単電池層が直列に接続された構成を有することにより、高レートでの出力特性に優れるものである。したがって、本形態の双極型二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
図7は、双極型二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図7に示すように、扁平な双極型二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、双極型二次電池50の電池外装体(ラミネートフィルム52)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図6に示す双極型二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、双極型電極23が、固体電解質層17を介して複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装体に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図7に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図7に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
組電池に対して本発明に係る充電方法を実施する際には、例えば組電池を構成する個々の電池(単セル)のそれぞれの交流インピーダンスを測定しながら充電処理を実行することができる。このような構成とすることで、個々の電池(単セル)のそれぞれにおける電析の発生を別々にモニタリングしながら充電処理を行うことができる。
[車両]
本形態の非水電解質二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
車両に搭載された電池(組電池)に対して本発明に係る充電方法を実施することで、例えば急速充電時のように電析した金属リチウムが成長しやすい充電条件下において充電処理を施す場合であっても、金属リチウムの電析の発生を高精度に検出しつつ、電池の容量を十分に利用することが可能となるという利点がある。
なお、上記の説明では、双極型二次電池を例に挙げて本発明の実施形態を説明したが、本発明が適用可能な二次電池の種類は特に制限されず、発電要素において単電池層が並列接続されてなる形式のいわゆる並列積層型の全固体電池や、従来公知の任意の双極型または非双極型(並列積層型)の非水電解質二次電池(電解液を用いる電池)にも適用可能である。