以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。以下では、二次電池の一形態である、双極型(バイポーラ型)の全固体リチウム二次電池を例に挙げて本発明を説明する。上述したように、全固体リチウム二次電池を構成する固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しないという利点がある。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れるという利点もある。
[二次電池システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウム二次電池システムの構成を説明するためのブロック図である。
この全固体リチウム二次電池システム(以下、「二次電池システム1」とも称する)は、全固体リチウム二次電池(以下、「二次電池2」とも称する)を備える。そして、二次電池2のセル電圧(端子間電圧)を測定する電圧センサー3、二次電池2へ充電電力を供給する電圧電流調整部4、二次電池2の充放電電流を測定する電流センサー5、二次電池2の充放電を制御する制御部6を備える。また、電圧電流調整部4は外部電源7に接続されていて充電時には電力の供給を受ける一方、放電時には電圧電流調整部4を介して外部電源9側へ放電する(詳細は後述する)。
以下、各部の詳細を説明する。
二次電池2は、硫黄単体またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物を正極活物質として含有する正極活物質層を含む正極(以下、単に「硫黄含有正極」とも称する)と、負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、前記正極活物質層および前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、を有する発電要素を備える。なお、全固体リチウム二次電池の詳細については後述するが、硫黄単体またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物を正極活物質として含有するリチウム二次電池の充放電時における正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の変化を図2に示す。図2に示すように、硫黄含有正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の理論上の下限値は0.7[V]である。一方、硫黄含有正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の理論上の上限値は3.0[V]であるが、本形態に係る二次電池システム2においては、正極の平衡電位(vs.Li+/Li)が1.9[V]を超えないように二次電池2の充放電が実施される。
電圧センサー3は、例えば電圧計でよく、二次電池2の正極と負極との間のセル電圧(端子間電圧)を測定する。電圧センサー3の取り付け位置は特に制限されず、二次電池2に接続される回路内において正極と負極との間のセル電圧を測定することができる位置であればよい。
電圧電流調整部4は、二次電池2の充電時には、制御部7からの指令に基づいて外部電源8からの電力の電圧および電流を調整し、前記電力を二次電池2へ供給する。また、二次電池2の放電時には、電圧電流調整部4は、二次電池2から放電された電気を外部負荷(図示せず)へ放出する。
ここで、外部電源8は、電気自動車等の充電に使用される、いわゆる電源グリッドなどと称される電気自動車用の電源であり、直流が出力されている。このような電気自動車用の電源は、商用電力(交流)を二次電池2の充電のために必要な電圧および電流の直流に変換して提供している。また、外部電源8には電力回生機能が備えられており、二次電池2からの放電があった場合は、直流を交流に変換して商用電源へ回生することができる。なお、このような外部電源8を構成する装置としては、電力回生機能の付いた周知の電源を使用すればよいため、ここでは詳細な説明は省略する(電力回生機能の付いた電源としては、例えば、特開平7-222369号公報、特開平10-080067号公報などがある)。
外部電源8が商用電源などの外部電源装置に接続されていない場合、例えば外部に設置された他の二次電池などを電源として二次電池2を充電するときには、二次電池2から放電した電力を他の二次電池へ蓄電させることが好ましい。これによりエネルギーの無駄を少なくすることができる。
電流センサー5は、例えば電流計である。電流センサー5は、二次電池2の充電時には電圧電流調整部4から二次電池2へ供給される電力の電流値を測定し、放電時には二次電池2から電圧電流調整部4へ供給される電力の電流値を測定する。電流センサー5の取り付け位置は特に制限されず、電圧電流調整部4から二次電池2に電力を供給する回路内に配置されて、充放電時の電流値を測定することができる位置であればよい。
制御部6は、例えば、CPU61や記憶部62などを含んでいる、いわゆるコンピューターである。制御部6は、後述する手順に従って、二次電池2に充放電処理を行う際に当該充放電処理の条件を制御する。このような制御部6としては、電気自動車においては、例えばECU(Electronic Control Unit)などを用いるようにしてもよい。
ここで、記憶部62は、CPU61がワーキングエリアとして使用するRAMのほかに、不揮発性メモリーを搭載している。不揮発性メモリーには、本実施形態における二次電池2の充放電処理の条件の制御を行うためのプログラムを記憶している。
また、記憶部62は、二次電池2の充電状態(SOC;State of Charge)と、二次電池2を構成する正極の平衡電位(vs.Li+/Li)との関係を示すマップ(以下、「第1マップ」とも称する)を記憶している。あるいは、記憶部62は、二次電池2の充電状態(SOC;State of Charge)と、二次電池2の電池電圧との関係を示すマップ(以下、「第2マップ」とも称する)を記憶していてもよい。
[充電処理]
このように構成された二次電池システム1における充電処理の手順を説明する。
この充電処理は、二次電池システム1が外部電源7に接続されて、二次電池2に対して充電電力が供給可能な状態において行われる。また、本実施形態における充電処理の制御は、二次電池2の電圧が所定電圧となるまで行う定電流(CC)充電方式である。ただし、充電処理の形態はこれに制限されず、定電流(CC)充電方式で充電を行い、二次電池2の電圧が所定電圧となった後には定電圧(CV)充電方式で行う、定電流・定電圧(CC-CV)充電方式を用いてもよい。
本実施形態における充電処理は、二次電池2を構成する正極の平衡電位(vs.Li+/Li)を検出し、検出された前記平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かを判定しつつ行われる。そして、前記平衡電位が前記電位範囲内の値ではないと判定されたときには、当該充電処理は停止される。なお、特に断りのない限り、この充電処理の制御は制御部7によって行われる。以下、図2を参照してこの充電処理の手順を説明する。図3は、二次電池システム1における充電処理の手順を示すフローチャートである。
まず、制御部6は、二次電池2の充電処理を行う制御を開始する(ステップS101)。具体的には、外部電源7から電圧電流調整部4へ電力を導入して、充電処理を開始する(本実施形態では、定電流(CC)充電を開始する)。
続いて、制御部6は、電流センサー5から充電電流Iを取得し、電圧センサー3から電池電圧Vを取得する(ステップS102)。そして、本実施形態において、制御部6は、電流センサー5から取得した充電電流Iの積算値に基づいて、二次電池2の充電状態(SOC)の値を算出する(ステップS103)。その後、制御部6は、記憶部62に記憶された「二次電池2の充電状態(SOC)と、二次電池2を構成する正極の平衡電位(vs.Li+/Li)との関係を示すマップ」(第1マップ)を参照して、ステップS103で算出した二次電池2のSOCの値から、正極の平衡電位(vs.Li+/Li)を算出する(ステップS104)。
続いて、制御部6は、上記で算出した正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かを判定する(ステップS105)。なお、上述したように、、硫黄含有正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の理論上の下限値は0.7[V]であることから、上記判定は、正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の値が1.9[V]以下の値であるか否かの判定と実質的に同義である。ここで、正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であると判定されれば(S105:YES)、制御部6は、ステップS102からの制御を繰り返す。一方、正極の平衡電位(vs.Li+/Li)の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値ではないと判定されれば(S105:NO)、制御部6は、二次電池2の充電処理を終了する(ステップS106)。
上述したような制御を実施することにより、硫黄単体またはその還元生成物を正極活物質として用いたリチウム二次電池の充放電レート特性を向上させることが可能となる。以下、そのメカニズムについて説明する。
本発明者らは、硫黄含有正極を含むリチウム二次電池における充放電反応における律速段階を特定すべく、密度汎関数理論(DFT)に基づく電子状態計算法である密度汎関数法を用いて、上記充放電反応を構成する素反応について解析を行った。ここで、密度汎関数理論(DFT)(密度汎関数法)は、実験データや経験パラメータを用いることなくシュレーディンガー方程式(ディラック方程式)から物性や化学反応を予測する第一原理計算の1種であり、計算対象となる分子構造について、生成エネルギーEgや、分子軌道(その分子を構成する電子が存在できる軌道)のエネルギー準位を算出する手法である。
ここで、硫黄含有正極に含まれる硫黄単体(S8)はリチウムを含まないため、これを正極活物質として見ると、当該正極活物質を含むリチウム二次電池は最も充電が進行した状態にあるということができる。一方、このリチウム二次電池の放電が進行すると、正極活物質である硫黄単体(S8)は徐々にリチウムと結合することにより種々の還元生成物を経由し、最終的にはLi2Sとなる。つまり、Li2Sのみを正極活物質として含むリチウム二次電池は最も放電が進行した状態にあるということができる。
ここで、硫黄単体(S8)とLi2Sとの間で硫黄原子およびリチウム原子の含有モル比が異なる還元生成物(中間体)としては、(S8)→Li2S8→Li2S7→Li2S6→Li2S5→Li2S4→Li2S3→Li2S2→(Li2S)が想定されうる。そこで本発明者らは、硫黄単体(S8)およびLi2S並びにこれらの想定される還元生成物(中間体)のそれぞれについて、DFTに基づいて構造最適化(分子を構成する原子の位置を変化させ、生成エネルギーが最低となる構造を求める計算)を行い、安定な原子配置での生成エネルギーを算出した。そして、反応物と生成物との組み合わせとして想定されるすべての場合について、生成物の生成エネルギー(Eproducts)から反応物の生成エネルギー(Ereactants)を引いた値を各反応におけるギブス自由エネルギー(ΔG)とみなした。なお、詳細な計算条件は以下の通りである:
シミュレーションプログラム:Vienna ab-initio simulation package (VASP)
相関汎関数:B3LYP
カットオフエネルギー:400 [eV]
擬ポテンシャル:PAW GGA
電子緩和アルゴリズム:preconditioned residuum-minimization
イオン緩和アルゴリズム:RMM-DIIS。
ここで、充電反応においては各反応におけるΔGは正の値であり、反応物よりも生成物の方がエネルギー的に不安定である。このため、充電反応においては、反応物を固定した場合に想定される反応のうち、ΔGが最小である反応が実際に進行していると判断した。最も放電が進行した状態であるLi2Sを正極活物質として含むリチウム二次電池の充電反応が進行する場合を想定して、実際に計算を行った結果を下記の表1に示す(小数第三位で四捨五入した値を示している)。
表1に示すように、Li2Sについては、例えば、リチウムを放出してLi2S2を生成する反応(2Li2S→Li2S2+2Li)が想定される。この際の反応物の生成エネルギー(Ereactants)および反応物の生成エネルギー(Eproducts)はそれぞれ14.41[eV]および15.44[eV]であり、これらの差として算出されるギブス自由エネルギー(ΔG=Eproducts-Ereactants)は1.02[eV]と算出される。
また、Li2Sについて想定される反応としては、上記のもののほか、Li2S2、Li2S3、Li2S4、Li2S5、Li2S6、Li2S7と反応してLi2S3、Li2S4、Li2S5、Li2S6、Li2S7、Li2S8をそれぞれ生成する反応もある。これらの各反応のΔGは上記表1に示す通りであるが、いずれもLi2S2を生成する反応におけるΔGよりも大きい。したがって、Li2Sについて実際には、ΔGが最小となるLi2S2の生成反応が進行するものと結論付けた。また、このような解析をその後も同様に進め、各反応物について想定される反応のうち、ΔGが最小の値(表1に太字で示した)となる反応が実際に進行するものと結論付けた。その結果、充電反応において、Li2SはLi2S2を生成した後にLi2S3、Li2S4、Li2S5、Li2S6、Li2S7、Li2S8およびS8を順次生成するものと考えられた。ここで、Li2SからS8に至る8つの反応のうちΔGが最大のものは、最終段階におけるLi2SからのS8の生成反応(Li2S8→S8+2Li)である。このことから、このS8の生成反応が充電反応において反応速度が最も遅い反応(律速反応)であると考えられた(図2を参照)。
一方、放電反応については、最も充電が進行した状態であるS8を正極活物質として含むリチウム二次電池の放電反応が進行する場合を想定して、実際に計算を行った結果を下記の表2に示す。なお、放電反応においては各反応におけるΔGは負の値であり、反応物よりも生成物の方がエネルギー的に安定である。このため、放電反応においては、反応物を固定した場合に想定される反応のうち、ΔGの絶対値が最大である反応が実際に進行していると判断した。
表2に示すように、S8についてはLi2S8を生成する反応(S8+2Li→Li2S8)のみが想定される。その後、ΔGの絶対値が最大(表2に太字で示した)となるように、Li2S8はLi2S4を生成し(Li2S8+2Li→2Li2S4)、Li2S4はLi2S2を生成し(Li2S4+2Li→2Li2S2)、Li2S2はLi2Sを生成する(Li2S2+2Li→2Li2S)と考えられた。ここで、上述したように、放電反応においては反応物よりも生成物の方がエネルギー的に安定である。ただし、実際に反応が進行するには各反応の反応物における励起エネルギーを超える必要がある。したがって、上述したS8からLi2Sに至る4つの反応のそれぞれについて、反応物(S8、Li2S8、Li2S4、Li2S2)の励起エネルギーを算出した。具体的には、各反応物のLUMO(最低非占有分子軌道;電子が入っていない分子軌道のうちエネルギー準位が最低の軌道)のエネルギー準位(ELUMO)とフェルミ準位(電子の存在確率が50%であるエネルギー準位;Efermi)との差が励起エネルギーに相当するとみなして、励起エネルギーE°をE°=ELUMO-Efermiの式に従って算出した。その結果、上記4つの反応のそれぞれの励起エネルギーE°は上記表2に示す値として算出された。ここで、S8からLi2Sに至る4つの反応のうち励起エネルギーE°が最大のものは、最初の段階におけるS8からのLi2S8の生成反応(S8+2Li→Li2S8)である。このことから、S8からのLi2S8の生成反応が放電反応において反応速度が最も遅い反応(律速反応)であると考えられた(図2を参照)。
以上述べたようなDFTに基づく計算から、硫黄含有正極を含むリチウム二次電池の充電反応における律速反応は、Li2SからのS8の生成反応(Li2S8→S8+2Li)であると特定された。同様に、硫黄含有正極を含むリチウム二次電池の放電反応における律速反応はS8からのLi2S8の生成反応(S8+2Li→Li2S8)であると特定された。これらの知見に基づき、本発明者らは、上記の2つの律速反応を利用しないようにリチウム二次電池の充放電を制御すれば、反応速度の遅い反応を利用しなくてすむことから、充放電レート特性の向上は図れるものと考えたのである。ここで、図2を参照して、上記の2つの律速反応を利用することによってのみ到達可能な正極の平衡電位は1.9[V]よりも大きい領域に相当する。したがって、上記の2つの律速反応を利用しないということは、リチウム二次電池の充放電の際に、正極の平衡電位を1.9[V]以下の電位範囲(実際には、当該平衡電位の下限値も考慮して、0.7~1.9[V]の電位範囲)内の値に維持することを意味する。本発明者らは、このようにして本発明を完成させるに至ったのである。
以上、本発明に係る制御について詳細に説明したが、図面を参照しつつ説明した実施形態はあくまでも一例に過ぎず、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内において適宜改変して本発明を実施してもよい。例えば、上述した実施形態において、正極の平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かの判定は、リチウム二次電池2の充電状態(SOC)の値に基づいて行われている。具体的には、制御部6は、正極の平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かの判定にあたって、充電電流Iの積算値に基づいて二次電池2のSOCを算出し、第1マップを参照することで正極の平衡電位の値を算出している。このように、上記判定をリチウム二次電池2の充電状態(SOC)の値に基づいて行うことで、電池電圧に基づいて上記判定を実施する場合と比較して、過電圧の影響を排除することができ、より精密な制御が可能となるという利点がある。ただし、リチウム二次電池2の充電状態(SOC)の値に基づく判定はこのような形態のみに限定されない。例えば、正極の平衡電位が0.7~1.9[V]の範囲である場合に対応するSOCの範囲を予め求めておき、上記と同様にして充電電流Iの積算値に基づいて算出された二次電池2のSOCが、予め求められたSOCの範囲内の値であるか否かを判定することにより、正極の平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かの判定を間接的に行ってもよい。
また、正極の平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かの判定は、リチウム二次電池2の充電状態(SOC)の値を算出することなく行ってもよい。このような方法としては、例えば、リチウム二次電池2の正極と負極との電位差として定義される電池電圧の値に基づいて、上記の判定を行う方法が挙げられる。このような方法によれば、電圧センサー3によって検出される電池電圧の値を利用することが可能であるため、簡便な手法によって制御が可能であるという利点がある。なお、電池電圧は正極の平衡電位と負極の平衡電位との電位差として算出される。このため、電池電圧に基づいて正極の平衡電位を算出する場合には、電圧センサー3によって検出される電池電圧の値から、負極の平衡電位を減算すればよい。また、負極の平衡電位が電池電圧の変化に応じて同様に変化する場合には、上述した第2マップを参照することにより、電圧センサー3によって検出される電池電圧の値から正極の平衡電位を算出してもよい。このように、リチウム二次電池2の電池電圧の値に基づいて上記判定を実施する際には、上述した方法によって正極の平衡電位を算出し、この算出値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かを直接的に判定してもよい。また、上述したSOCの場合と同様に、正極の平衡電位が0.7~1.9[V]の範囲である場合に対応する電池電圧の範囲を予め求めておき、電圧センサー3によって検出される電池電圧の値が、予め求められた電池電圧の範囲内の値であるか否かを判定することにより、正極の平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かの判定を間接的に行ってもよい。
なお、本発明の他の形態によれば、上述したリチウム二次電池2を制御するリチウム二次電池の制御装置が提供される。リチウム二次電池2を制御するリチウム二次電池の制御装置は、リチウム二次電池2の正極の平衡電位(vs.Li+/Li)を検出する正極平衡電位検出部(上述した電圧センサー3および/または電流センサー5並びに制御部6がこれに相当する)と、リチウム二次電池2の充電処理および/または放電処理を行う際に、前記正極平衡電位検出部によって検出された前記平衡電位の値が0.7~1.9[V]の電位範囲内の値であるか否かを判定し、前記平衡電位が前記電位範囲内の値ではないと判定されたときに、前記充電処理および/または放電処理を停止する制御を行う制御部(上述した制御部6がこれに相当する)とを含むものである。
また、本発明のさらに他の形態によれば、上述したリチウム二次電池2と、上述したリチウム二次電池の制御装置とを含むリチウム二次電池システムもまた、提供される。
以下、本実施形態に係る全固体リチウム二次電池システムの構成要素について説明する。なお、本明細書では、双極型の全固体リチウム二次電池を単に「双極型二次電池」とも称し、双極型全固体リチウム二次電池用電極を単に「双極型電極」と称することがある。
<双極型二次電池>
図4は、本発明の一実施形態に係る双極型(バイポーラ型)の全固体リチウム二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。図4に示す双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
図4に示すように、本形態の双極型二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが固体電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および固体電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。ただし、本発明の技術的範囲は図6に示すような双極型二次電池に限定されず、複数の単電池層が電気的に直列に積層されてなる結果として同様の直列接続構造を有する電池であってもよい。
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
さらに、図4に示す双極型二次電池10では、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
以下、上述した双極型二次電池の主な構成要素について説明する。
[集電体]
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb2O5、Li4Ti5O12、SiO等が挙げられる。さらに、金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等の金属単体や、TiSi、La3Ni2Sn7等の合金が挙げられる。また、負極活物質として、Liを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、Liを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属のほか、Li含有合金が挙げられる。Li含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。
場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
硫化物固体電解質は、例えば、Li3PS4骨格を有していてもよく、Li4P2S7骨格を有していてもよく、Li4P2S6骨格を有していてもよい。Li3PS4骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4が挙げられる。また、Li4P2S7骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li7P3S11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)PxS4(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、Li2S-P2S5を主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
また、硫化物固体電解質がLi2S-P2S5系である場合、Li2SおよびP2S5の割合は、モル比で、Li2S:P2S5=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLi2S:P2S5=70:30~80:20であることが好ましい。
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等が挙げられる。
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含む。本発明の一形態に係るリチウム二次電池の正極は、硫黄単体(S8)またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物(上述したLi2S8~Li2Sの各化合物のいずれか)を正極活物質として含有するものである。リチウム二次電池が充電状態で提供される場合には、正極活物質として硫黄単体(S8)を含む。また、リチウム二次電池が放電状態で提供される場合には、正極活物質としてリチウムを含有する硫黄の還元生成物(上述したLi2S8~Li2Sの各化合物のいずれか)を含有する。
なお、正極活物質層は、上述した硫黄単体(S8)またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物(上述したLi2S8~Li2Sの各化合物のいずれか)以外の正極活物質を含んでもよい。ただし、正極活物質層に含まれる正極活物質に占める硫黄単体またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物の割合は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%であり、いっそう好ましくは95~100質量%であり、特に好ましくは98~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
硫黄単体またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物以外の正極活物質としては、例えば、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。また、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、MoS2、MoS3等の無機硫黄化合物も用いられうる。さらに、硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、Li(Ni-Mn-Co)O2等の層状岩塩型活物質、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4等のオリビン型活物質、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
[固体電解質層]
本形態に係る双極型二次電池の固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダの具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
固体電解質層の厚さは、目的とする双極型二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1~300μmの範囲内であることがより好ましい。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウム二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図6に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
本形態の双極型二次電池は、複数の単電池層が直列に接続された構成を有することにより、高レートでの出力特性に優れるものである。したがって、本形態の双極型二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
図5は、双極型二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウム二次電池の外観を表した斜視図である。
図5に示すように、扁平な双極型二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、双極型二次電池50の電池外装体(ラミネートフィルム52)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図4に示す双極型二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、双極型電極23が、固体電解質層17を介して複数積層されたものである。
なお、上記リチウム二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウム二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装体に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図5に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図5に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
[車両]
本形態の非水電解質二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
なお、上記の説明では、双極型二次電池を例に挙げて本発明の実施形態を説明したが、本発明が適用可能な二次電池の種類は特に制限されず、発電要素において単電池層が並列接続されてなる形式のいわゆる並列積層型の全固体電池や、従来公知の任意の双極型または非双極型(並列積層型)の非水電解質二次電池(電解液を用いる電池)にも適用可能である。