以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
以下では、本開示の実施の形態に係る電池システムが車両に搭載された構成を例に説明する。しかし、電池システムの用途は車両用に限定されるものではなく、たとえば定置用であってもよい。
[実施の形態]
<電池システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。車両100は、車両(ハイブリッド自動車、電気自動車または燃料電池車)であって、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)1と、動力伝達ギア2と、駆動輪3と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)4と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)5と、電池システム200とを備える。電池システム200は、組電池10と、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30とを備える。
MG1は、たとえば三相交流回転電機である。MG1の出力トルクは、減速機および動力分割機構を含んで構成された動力伝達ギア2を介して駆動輪3に伝達される。MG1は、車両100の回生制動動作時には、駆動輪3の回転力によって発電することも可能である。MG1に加えてエンジン(図示せず)が搭載されたハイブリッド自動車では、エンジンおよびMG1を協調的に動作させることによって必要な車両駆動力を発生させる。なお、図1ではMGが1つだけ設けられる構成が示されるが、MGの数はこれに限定されず、MGを複数(たとえば2つ)設ける構成としてもよい。
PCU4は、いずれも図示しないが、インバータとコンバータとを含む。組電池10の放電時には、コンバータは、組電池10から供給された電圧を昇圧してインバータに供給する。インバータは、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換してMG1を駆動する。一方、組電池10の充電時には、インバータは、MG1によって発電された交流電力を直流電力に変換してコンバータに供給する。コンバータは、インバータから供給された電圧を降圧して組電池10に供給する。
SMR5は、組電池10とPCU4とを結ぶ電力線に電気的に接続されている。SMR5がECU30からの制御信号に応じて閉成されている場合、組電池10とPCU4との間で電力の授受が行なわれ得る。
組電池10は、複数(たとえば数個)の電池ブロック(図示せず)を含んで構成され、各電池ブロックは、複数(たとえば数個〜数十個)の単電池11を含んで構成される。複数の単電池11の各々は、アルカリ二次電池である。本実施の形態では、上記アルカリ二次電池としてニッケル水素電池を用いた構成を例に説明する。
電圧センサ21は、各単電池11の電圧Vbを検出する。電流センサ22は、組電池10に入出力される電流Ibを検出する。温度センサ23は、電池ブロックの温度Tbを検出する。各センサは、その検出結果をECU30に出力する。なお、電圧センサ21は、電池ブロックの電圧を検出してもよい。電圧ブロックの電圧を単電池数で割ることにより、単電池11の電圧Vbを算出することができる。また、温度センサ23は、各単電池11の温度を検出してもよいし、組電池10全体の温度を検出してもよい。
ECU30は、CPU(Central Processing Unit)31と、メモリ(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))32と、入出力バッファ(図示せず)とを含んで構成される。ECU30は、各センサから受ける信号ならびにメモリ32に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両100および電池システム200が所望の状態となるように各機器を制御する。ECU30により実行される主要な処理として、単電池11の正極電位V1および負極電位V2を算出する「電位算出処理」が挙げられるが、この処理については後述する。
図2は、単電池11の構成を示す図である。各単電池11の構成は共通であるため、図2では1つの単電池11のみを代表的に示す。単電池11は、たとえば角形密閉式のセルであり、ケース12と、ケース12に設けられた安全弁13と、ケース12内に収容された電極体14および電解液(図示せず)とを含む。なお、図2ではケース12の一部を透視して電極体14を示している。
ケース12は、いずれも金属からなるケース本体121および蓋体122を含み、ケース本体121に設けられた開口上で蓋体122が全周溶接されることにより密閉されている。安全弁13は、ケース12内部の圧力が所定値を超えると、ケース12内部のガス(水素ガス等)の一部を外部に排出する。電極体14は、正極141と、負極142と、セパレータ143とを含む。正極141は袋状のセパレータ143内に挿入されており、セパレータ143内に挿入された正極141と、負極142とが交互に積層されている。正極141および負極142は、図示しない正極端子および負極端子にそれぞれ電気的に接続されている。
電極体14および電解液の材料としては従来公知の各種材料を用いることができる。本実施の形態においては、一例として、正極141には、水酸化ニッケル(水酸化ニッケル(II)(Ni(OH)2)またはオキシ水酸化ニッケル(III)(NiOOH))を含む正極活物質層と、発泡ニッケルなどの活物質支持体とを含む電極板が用いられる。負極142には、水素吸蔵合金を含む電極板が用いられる。セパレータ143には、親水化処理された合成繊維からなる不織布が用いられる。電解液には、水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)を含むアルカリ水溶液が用いられる。
<充放電制御>
電池システム200においては、単電池11の正極電位V1および負極電位V2の各々が電位算出処理により算出される。正極電位V1とは、単電池11が通電状態にあるときの単電池11の正極141の電位である。負極電位V2とは、単電池11が通電状態にあるときの単電池11の負極142の電位である。一方、単電池11が非通電状態(無負荷状態)にあるとき、単電池11の正極141の電位を正極開放電位U1と言い、負極142の電位を負極開放電位U2と言う。
メモリ効果が生じると、その発生度合いに応じて正極開放電位U
1が変化する。この場合、正極開放電位U
1は、メモリ効果が生じていない初期状態での正極開放電位である「初期電位」E
1と、正極開放電位U
1の初期電位E
1からのメモリ効果による電位変化量である「メモリ量」Mとの和により表される。また、単電池11の充放電時には、単電池11の抵抗成分に応じた電位変化量である「過電圧」η
1についても考慮しなくてはならない(後述の式(10)参照)。したがって、下記式(1)に示すように、正極電位V
1は、初期電位E
1と、メモリ量Mと、過電圧η
1との和により表される。
一方、単電池11の負極142ではメモリ効果については特に考慮しなくてよい。したがって、下記式(2)に示すように、負極電位V
2は、負極開放電位U
2と、過電圧η
2との和により表される。
単電池11の充電時には、正極電位V1が正極開放電位U1よりも過電圧η1だけ高くなり、負極電位V2が負極開放電位U2よりも過電圧η2だけ低くなる。一方、単電池11の放電時には、正極電位V1が正極開放電位U1よりも過電圧η1だけ低くなり、負極電位V2が負極開放電位U2よりも過電圧η2だけ高くなる。電池システム200では、正極電位V1および負極電位V2のうちの少なくとも一方が過度に低くなったり高くなったりした場合に、電極劣化を抑制するために単電池11の充放電が通常時と比べて抑制される。
図3は、単電池11の充電時の制御を示すフローチャートである。図3および後述する図4に示すフローチャートの処理は、所定の条件が成立する度または所定の演算周期毎にメインルーチン(図示せず)から呼び出されて実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップ(以下「S」と略す)は、基本的にはECU30によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部がECU30内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
S11において、ECU30は、電位算出処理を実行することにより、単電池11の正極電位V1および負極電位V2を算出する。電位算出処理については後に詳細に説明する。
S12において、ECU30は、正極電位V1が所定の上限電位UL1よりも高いか否かを判定する。正極電位V1が過度に高くなると、Ni2O3Hの生成等の劣化反応が生じ得る。上限電位UL1とは、そのような劣化反応が生じないように実験等により予め定められた電位である。
正極電位V1が上限電位UL1以下の場合(S12においてNO)、ECU30は、処理をS13に進め、負極電位V2が所定の下限電位LL2未満であるか否かをさらに判定する。下限電位LL2とは、単電池11の負極での劣化反応が生じないように実験等により予め定められた電位である。
正極電位V1が上限電位UL1以下であり(S12においてNO)、かつ負極電位V2が下限電位LL2以上である場合(S13においてNO)、ECU30は、処理をメインルーチンへと戻す。
これに対し、正極電位V1が上限電位UL1よりも高い場合(S12においてYES)または負極電位V2が下限電位LL2未満である場合(S13においてYES)には、ECU30は、通常の充電時(正極電位V1が上限電位UL1以下であり、かつ負極電位V2が下限電位LL2以上である場合)と比べて、単電池11の充電を抑制する。具体的には、ECU30は、通常の充電時と比べて、単電池11の充電を許容する充電電力上限値Win(の大きさ)を小さく設定する(S14)。
充電電力上限値Winが低く設定されることにより、過電圧η1,η2の大きさが小さくなるので、正極電位V1の過度の上昇が抑制されるとともに、負極電位V2の過度の低下が抑制される。これにより、正極電位V1が上限電位UL1以下であり、かつ負極電位V2が下限電位LL2以上である状態(通常の充電時の状態)が実現される。よって、正極141および負極142での劣化反応の発生を抑制することができる。
図4は、単電池11の放電時の制御を示すフローチャートである。S21において、ECU30は、電位算出処理により、単電池11の正極電位V1および負極電位V2を算出する。この処理は、単電池11の充電時におけるS11の処理(図3参照)と同等である。
S22において、ECU30は、負極電位V2が所定の上限電位UL2よりも高いか否かを判定する。負極電位V2が過度に高くなると、負極活物質の劣化反応が生じ得る。上限電位UL2とは、そのような劣化反応が生じないように実験等により予め定められた電位である。
負極電位V2が上限電位UL2以下の場合(S22においてNO)、ECU30は、処理をS23に進め、正極電位V1が所定の下限電位LL1未満であるか否かをさらに判定する。正極電位V1が過度に低くなると、正極141に含まれる材料(たとえばコバルト等)の劣化反応(溶出など)が生じ得る。下限電位LL1とは、そのような劣化反応が生じないように実験等により予め定められた電位である。
負極電位V2が上限電位UL2以下であり(S22においてNO)、かつ正極電位V1が下限電位LL1以上である場合(S23においてNO)、ECU30は、処理をメインルーチンへと戻す。
これに対し、負極電位V2が上限電位UL2よりも高い場合(S22においてYES)または正極電位V1が下限電位LL1未満である場合(S23においてYES)には、ECU30は、通常の放電時(負極電位V2が上限電位UL2以下であり、かつ正極電位V1が下限電位LL1以上である場合)と比べて、単電池11の放電を抑制する。具体的には、ECU30は、通常の放電時と比べて、単電池11の放電を許容する放電電力上限値Wout(の大きさ)を小さく設定する(S24)。
放電電力上限値Woutが低く設定されることにより、過電圧η1,η2の大きさが小さくなるので、正極電位V1の過度の低下が抑制されるとともに、負極電位V2の過度の上昇が抑制される。これにより、負極電位V2が上限電位UL2以下であり、かつ正極電位V1が下限電位LL1以上である状態(通常の放電時の状態)が実現される。よって、正極141および負極142での劣化反応の発生を抑制することができる。
<電池モデル>
次に、正極電位V1および負極電位V2の算出に用いられる電池モデルについて詳細に説明する。
図5は、本実施の形態における電池モデルの概念図である。ニッケル水素電池の正極は、球状の正極活物質の集合体を含み、負極は、球状の負極活物質の集合体を含む。ニッケル水素電池の放電時には、負極活物質と電解液との界面では水素イオン(プロトン、H+で示す)および電子(e−で示す)が放出される一方で、正極活物質と電解液との界面では水素イオンおよび電子が吸収される。ニッケル水素電池の充電時には、水素イオンおよび電子の放出/吸収に関し、上記反応とは逆の反応が起こる。
一般に、車載用のECUの演算能力は、研究開発用の演算装置の演算能力と比べると低いので、車載用である電池システム200においては、ECU30の演算負荷を低減することが求められる。したがって、本実施の形態においては、以下のように電池モデルが単純化される。すなわち、正極141には多数の正極活物質が含まれるところ、各正極活物質における電気化学反応が均一であるとの仮定の下に、多数の正極活物質を単一の正極活物質(正極活物質モデル)151で代表させる。同様に、負極142に含まれる多数の負極活物質における電気化学反応が均一であるとの仮定の下に、多数の負極活物質を単一の負極活物質(負極活物質モデル)152で代表させる。このように単純化された活物質モデルを採用した上で、正極活物質151の内部における水素濃度分布と、負極活物質152の内部における水素濃度分布とが算出される。
図6は、電池モデルに使用されるパラメータ(変数および定数)を説明するための図である。以下に説明するパラメータでは、特許文献1等と同様に、添字eが付されたものは電解液中の値であることを意味し、添字sが付されたものは活物質中の値であることを意味する。添字jは、正極および負極を区別するためのものであり、j=1の場合には正極活物質151における値であることを意味し、j=2の場合には負極活物質152における値であることを意味する。添字jが省略された場合には、は正極活物質151および負極活物質152における値を包括的に表している。
図7は、正極活物質151の内部における水素濃度分布の算出手法を説明するための図である。本電池モデルにおいては、球状の正極活物質151の内部にて、極座標の周方向の水素濃度分布は一様と仮定され、径方向の水素濃度分布のみが考慮される。言い換えると、正極活物質151は、水素の移動方向を径方向に限定した1次元モデルである。
正極活物質151は、その径方向にN個(N:2以上の自然数)の領域に仮想的に分割され、各領域が添字k(k=1〜N)により区別される。領域kにおける水素濃度c
s1kは、正極活物質151の径方向における領域kの位置r
1kと、時間tとの関数として表される(下記式(3)参照)。
詳細な手法については後述するが、本実施の形態では、各領域kについて、水素濃度c
s1kが算出され(すなわち濃度分布が算出され)、さらに、算出された水素濃度c
s1kが規格化される。具体的には、下記式(4)に示すように、水素の最大濃度(限界水素濃度)c
s1,maxに対する、領域kにおける水素濃度c
s1kの比率が算出される。なお、限界水素濃度c
s1,maxは既知であるとする。
以下では、規格化後の値であるθ1kを領域kの「局所水素量」と称する。局所水素量θ1kは、規格化された値であり、正極活物質151の領域kに存在する水素の量に応じて0〜1の範囲内で変化し得る。
また、k=Nである最外周領域N(すなわち正極活物質151の表面)における局所水素量θ
1Nを「表面水素量」と称する。さらに、下記式(5)に示すように、全領域k(k=1〜N)の局所水素量θ
1kの平均量を「平均水素量」と称し、θ
1,aveで表す。
図7では正極活物質151を例に説明したが、負極活物質152の内部における水素濃度(の分布)cs2kおよび局所水素量(の分布)θ2kの算出手法についても同等である。なお、正極活物質151と負極活物質152とでは領域の分割数が異なってもよいが、本実施の形態では説明の簡易化のため、分割数がいずれもNであるとする。
図8は、開放電位と局所水素量との関係を示す図である。図8(A)には、正極活物質151の表面水素量θ1Nと、正極開放電位の初期電位E1(メモリ効果が生じていない状態での正極開放電位U1)との関係を示す。図8(B)には、負極活物質152の表面水素量θ2Nと、負極開放電位U2との関係を示す。
図8(A)および図(B)に示すように、初期電位E1および負極開放電位U2は、表面水素量θ1Nおよび表面水素量θ2Nにそれぞれ依存して変化する特性を有する。そのため、単電池11の初期状態(たとえば製造直後の状態)において、表面水素量θ1Nと初期電位E1との関係、および表面水素量θ2Nと負極開放電位U2との関係を測定することにより、表面水素量θ1Nの変化に対する初期電位E1の変化特性、および表面水素量θ2Nの変化に対する負極開放電位U2の変化特性を規定したマップMP1を作成し、メモリ32に記憶させておく。ECU30は、マップMP1を参照することによって、表面水素量θ1N,θ2Nから初期電位E1および負極開放電位U2をそれぞれ算出することができる。なお、マップMP1に代えて、データテーブルまたは関数を用いてもよい。
<ニッケル水素電池のメモリ効果>
図8に示したマップMP1(特に図8(A)参照)にはメモリ効果の影響が反映されていないので、正極開放電位U1にメモリ効果の影響を反映させるための手法について以下に詳細に説明する。
図9は、メモリ効果による正極開放電位U1の変化の一例を示す図である。メモリ効果が生じていない状態(初期状態)における正極開放電位U1(=初期電位E1)を1点鎖線で表し、メモリ効果が生じた状態における正極開放電位U1を実線で表す。
図9(A)において、横軸は単電池11のSOCを示し、縦軸は電位を示す。単電池11がある程度の期間、放置された後に放電された場合、正極開放電位U1は、放電側のメモリ効果によって初期電位E1よりも低くなる。この放電側のメモリ効果による電位差(放電曲線間の電位差)を「放電メモリ量」Mdcと称する。
図示しないが、単電池11の充電時には、充電側のメモリ効果によって、正極開放電位U1が初期電位E1よりも高くなる。この充電側のメモリ効果による電位差(充電曲線間の電位差)を「充電メモリ量」Mchと称する。式(1)にて説明したメモリ量Mとは、放電メモリ量Mdcおよび充電メモリ量Mchを包括的に表すものである。
図9(A)は、メモリ効果による正極開放電位U1の変化をSOCに対して示す図である。これに対し、本実施の形態では、図9(B)に示すように、横軸がSOCから正極活物質151の平均水素量θ1,aveへと変更される。このように、メモリ効果の影響を考慮する際の視点(切り口)をSOCから平均水素量θ1,aveへと変えることにより、水素濃度分布(局所水素量分布)とメモリ量Mとの橋渡しが可能になるためである。
なお、単電池11の放電時には、正極活物質151内の水素濃度cs1が高くなるので(図5参照)、平均水素量θ1,aveが増加する。つまり、SOCの変化方向と平均水素量θ1,aveの変化方向とは、逆である。
単電池11が使用されているときの平均水素量(ここでは放電開始前の平均水素量)を「使用水素量」θ0と称する。放電側のメモリ効果は、使用水素量θ0よりも高い平均水素量θ1,aveの範囲で生じる。放電メモリ量Mdcの大きさは、平均水素量θ1,ave(使用水素量θ0よりも多い平均水素量)によって異なる。図示しないが、充電メモリ量Mchの大きさも同様に、平均水素量θ1,ave(使用水素量θ0よりも少ない平均水素量)によって異なる。よって、以下、各平均水素量θ1,aveにおけるメモリ量M(Mdc,Mch)の具体的な算出手法について説明する。
<微小メモリ量の積算>
図10は、単電池11の使用に伴いメモリ量Mが増加する様子を示す図である。図10において、横軸は単電池11の初期状態からの経過時間を示し、縦軸はメモリ量M(の大きさ)を示す。
本発明者らは、様々な使用条件下(たとえば温度Tb等が異なる条件下)で使用された単電池11に生じたメモリ量を評価する各種評価試験を実施し、単電池11の使用条件毎にメモリ量Mと経過時間との関係を示すデータを取得した。図10および後述する図11では、理解を容易にするため、3種類の使用条件A〜Cにそれぞれ対応する曲線LA〜LCが取得された例について説明するが、実際には、より多くの使用条件について同様の曲線が取得される。上記評価試験の結果から、本発明者らは、ある期間が経過する間に生じたメモリ量Mは、たとえば所定の演算周期Δt毎に、Δtの間に生じたメモリ量である「微小メモリ量」ΔMを逐次算出し、微小メモリ量ΔMを積算することによって算出可能であることを見出した。また、本発明者らは、途中で変わっても微小メモリ量ΔMの積算が可能であることを見出した。
図11は、微小メモリ量ΔMの積算を説明するための図である。図11において、横軸は、単電池11の初期状態からの経過時間を示す。縦軸は、上から順に、単電池11の使用条件(たとえば温度Tb)およびメモリ量Mの大きさを示す。ここでは、上図に示すように、演算周期Δtが経過する度に使用条件が判定され、使用条件がA,B,Cの順に変化した場合について説明する。
まず、使用条件A下では曲線LAが参照され、演算周期Δt毎に微小メモリ量ΔMが算出され、さらに積算される。その結果、使用条件A下で生じたメモリ量Mは、MAとなる。
次に、時刻tbにおいて使用条件がAからBに変化すると、曲線LB(図10に示した曲線LBを時間軸方向に平行移動した曲線)においてメモリ量M=MAの点から曲線LBが参照される。そして、演算周期Δt毎に微小メモリ量ΔMが算出され、さらに積算される。使用条件B下で生じたメモリ量MがMBである場合、使用条件Bの終了時点でのメモリ量Mは、MAとMBとの和(MA+MB)となる。
さらに、時刻tcにおいて使用条件がBからCに変化すると、曲線LC(図10に示した曲線LCを時間軸方向に平行移動した曲線)においてメモリ量M=(MB+MC)の点から曲線LCが参照される。そして、演算周期Δt毎に微小メモリ量ΔMが算出され、さらに積算される。使用条件C下で生じたメモリ量MがMCである場合、全期間で生じたメモリ量Mは、MAとMBとMCとの和(MA+MB+MC)となる。
このように、本実施の形態では、単電池11の使用条件が変化した場合に、微小メモリ量ΔMを算出するために参照する曲線を、ある曲線から他の曲線へと切り替える。切替前の曲線に従って算出されたメモリ量Mは、切替後にも引き継ぐことが可能である。そして、切替時点からは、切替後の曲線に従って微小メモリ量ΔMが算出され、切替前から引き継がれたメモリ量Mに積算されていく。なお、このような積算(曲線の引き継ぎ)が可能であるのは、ある曲線に従って算出されたメモリ量Mと、他の曲線に従って算出されたメモリ量Mとが等しい場合には、正極活物質151の状態が同じと考えられるためである。
<平均水素量の範囲>
図9(B)にて説明したように、単電池11が使用されているときの使用水素量θ0から単電池11が充電された場合、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲において、正極開放電位U1が初期状態と比べて充電メモリ量Mchだけ高くなる。一方、単電池11が放電された場合には、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲において、正極開放電位U1が初期状態と比べて放電メモリ量Mdcだけ低くなる。
このように、メモリ効果発生後の単電池11の充放電時に正極開放電位U1がどのように変化するかを算出するためには、使用水素量θ0を始点(基準点)とする充放電曲線を算出することを要する(たとえば図9(B)の実線参照)。この充放電曲線は、以下に説明するように、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲内の各値での放電メモリ量Mdcを算出するとともに、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲内の各値での充電メモリ量Mchを算出することにより求めることができる。
図12は、メモリ効果発生後の充放電曲線の算出手法を概念的に説明するための図である。図12において、横軸は正極活物質151の平均水素量θ1,aveを示し、縦軸は電位を示す。
上述のように、メモリ量Mは平均水素量θ1,aveによって異なる。そのため、本実施の形態では、平均水素量θ1の範囲(0〜1の範囲)が、たとえば0.05ずつ20個の範囲に分割される。そして、20個の範囲毎に、所定の演算周期Δtが経過する度に単電池11の使用条件に応じて微小メモリ量ΔMが遂次算出され、算出された微小メモリ量Δtが積算されることによって、各範囲におけるメモリ量Mが算出される。
単電池11の使用条件とは、より具体的には、演算周期Δtが経過する間の平均水素量θ1,aveと単電池11の絶対温度Tとの組合せ(θ1,ave,T)により定まる条件である。単電池11の使用条件(θ1,ave,T)毎に評価試験を予め行なうことにより、マップMP2を予め準備することができる。
図13は、本実施の形態におけるマップMP2の概念図である。マップMP2では、20個の平均水素量θ1,aveの範囲毎に別個に、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)と、その使用条件(θ1,ave,T)下で演算周期Δtが経過する間に生じる微小メモリ量ΔMとの対応関係を示すデータ(たとえば図10の曲線LA〜LC参照)が規定されている。なお、データ形式は特に限定されず、データテーブルまたは関数(関係式)であってもよい。
ECU30は、20個の平均水素量θ1,aveの範囲毎に、演算周期Δtの間の単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じたデータ(曲線)を参照することで、演算周期Δtの間に新たに生じた微小メモリ量ΔMを算出する。さらに、ECU30は、20個の範囲毎に、それまでの全期間の微小メモリ量ΔMを積算することによってメモリ量Mを算出する。上述のように、途中で使用条件が変わった場合であっても微小メモリ量ΔMの積算が可能である。
なお、平均水素量θ1,aveの範囲の分割数(上述の例では20個)および各範囲内での使用条件数に関し、できるだけ大きな値を用いることで、より詳細な評価試験結果をマップMP2に反映させることが可能になるので、メモリ量Mの算出精度が向上する。その一方で、分割数が過度に多くなったり使用条件数が過度に多くなったりすると、マップサイズ(マップMP2のデータ量)が増大し、メモリ32に必要な容量が大きくなるとともにCPU31の演算負荷が大きくなり得る。したがって、平均水素量θ1,aveの範囲の分割数および各範囲内での使用条件数は、メモリ量Mの算出精度とECU30の処理能力とのバランスが取れるように決定することが望ましい。
<メモリ効果の解消>
単電池11の充放電が行なわれると、平均水素量θ1,aveの使用水素量θ0が変化する場合がある。このような場合には、以下のようにすることで、使用水素量θ0の変化を微小メモリ量ΔMの積算結果に反映させることができる。
図14は、使用水素量θ0を考慮した微小メモリ量ΔMの積算手法を説明するための図である。図14において、横軸は平均水素量θ1,aveを示し、縦軸はメモリ量Mを示す。ここでは、時刻t1から時刻t2までの期間には単電池11が放電され、その後、時刻t2から時刻t3までの期間には単電池11が充電された場合を例に説明する。
時刻t1までの微小メモリ量Δtの積算結果を図14上部に示す。放電側のメモリ効果は、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲では生じず、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲でのみ生じる。したがって、放電メモリ量Mdcは、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲でのみ微小メモリ量ΔMを積算することによって算出される。一方、充電側のメモリ効果は、使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲では生じず、使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲でのみ生じる。したがって、充電メモリ量Mchは、使用水素量θ0よりも少ない低い平均水素量θ1,aveの範囲でのみ微小メモリ量ΔMを積算することによって算出される。
時刻t1から時刻t2までの期間に単電池11が放電されると、使用水素量θ0が増加する。そうすると、増加後の使用水素量θ0よりも少ない平均水素量θ1,aveの範囲では、放電側のメモリ効果が解消され、放電メモリ量Mdcが0になる。ただし、増加後の使用水素量θ0における放電メモリ量Mdcは、直ちには解消されずに残る。これにより、たとえば図9(B)において、時刻t1における放電曲線が実線で示した曲線であった場合に、時刻t2においては、点線で示す(L(t=t2)で示す)ように放電曲線形状が変化する。
逆に、時刻t2から時刻t3までの期間に単電池11が充電されると、使用水素量θ0が減少する。そうすると、減少後の使用水素量θ0よりも多い平均水素量θ1,aveの範囲では、充電側のメモリ効果が解消され、充電メモリ量Mchが0になる。ただし、減少後の使用水素量θ0における充電メモリ量Mchは、直ちには解消されずに残る。
このように、本実施の形態では、平均水素量θ1、aveの20個の範囲毎に、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じた微小メモリ量ΔMを遂次算出し、算出された微小メモリ量ΔMを積算する処理が繰り返し実行される。この積算の際には、平均水素量θ1,aveの使用水素量θ0がどのように変化したかに応じて、それまでの積算量が0にリセットされる。
<機能ブロック>
図15は、本実施の形態における電位算出処理に関するECU30の機能ブロック図である。ECU30は、電池パラメータ決定部310と、電流密度算出部320と、過電圧算出部330と、濃度分布算出部340と、水素量算出部350と、開放電位算出部360と、メモリ量算出部370と、電位算出部380とを含む。
電池パラメータ決定部310は、電圧センサ21から単電池11の電圧Vbを受けるとともに、温度センサ23から電池ブロック(図示せず)の温度Tbを受ける。電池パラメータ決定部310は、電圧Vbを単電池11の端子間電圧Vとして設定するとともに、温度Tbを絶対温度T(単位:ケルビン)に換算する。また、電池パラメータ決定部310は、後述する電池モデル式中の他のパラメータを絶対温度T等に応じて決定する。より具体的には、電池パラメータ決定部310は、交換電流密度ioj、活物質の拡散係数Dsj、反応抵抗Rr、直流抵抗Rd等のパラメータを絶対温度T等に応じて決定する。
より具体的には、交換電流密度io1とは、正極活物質151における酸化電流密度(アノード電流密度)と還元電流とが等しくなるときの電流密度である。交換電流密度io1は、表面水素量θ1Nおよび絶対温度Tに依存して変化する特性を有する。したがって、交換電流密度io1と表面水素量θ1Nおよび絶対温度Tとの対応関係を規定した特性マップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、水素量算出部350により算出される表面水素量θ1N(後述)と、絶対温度Tとから、交換電流密度io1を算出することができる。交換電流密度io2についても同様であるため、詳細な説明は繰り返さない。
反応抵抗Rrとは、正極活物質151および負極活物質152の表面において電荷の授受が行われるときの抵抗成分である。反応抵抗Rrは、下記式(6)に従って、絶対温度Tおよび交換電流密度i
oj(j=1,2)から算出することができる。
直流抵抗Rdとは、水素イオンおよび電子が正極活物質151と負極活物質152との間を移動するときの抵抗成分である。直流抵抗Rdは、絶対温度Tに依存して変化する特性を有する。したがって、直流抵抗Rdの測定結果に基づき、直流抵抗Rdと絶対温度Tとの対応関係を規定した特性マップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、絶対温度Tから直流抵抗Rdを算出することができる。
活物質の拡散係数Dsjについても同様に、表面水素量θ1,θ2および絶対温度Tに対する依存性を有するため、予め準備されたマップ(図示せず)を用いて算出することができる。なお、表面水素量θ1N,θ2Nおよび絶対温度Tの両方を上述の各マップの引数とすることは必須ではなく、精度は低下し得るものの、いずれか一方のみ(たとえば絶対温度Tのみ)を引数としてもよい。電池パラメータ決定部310により決定された各パラメータは、他の機能ブロックに適宜出力される。
電流密度算出部320は、電池パラメータ決定部310から端子間電圧V、交換電流密度i
ojおよび直流抵抗Rd等のパラメータを受けるとともに、電位算出部380から正極開放電位U
1および負極開放電位U
2を受ける。電流密度算出部320は、下記式(7)に従って電流密度Iを算出する。式(7)における正極開放電位U
1および負極開放電位U
2としては、前回の演算周期での算出結果が代入される。
式(7)は非線形方程式である。式(7)から電流密度Iを算出するには、ニュートン法等の反復法が用いられる。すなわち、電流密度Iの初期値を仮定した上で、絶対温度Tなどを引数として、交換電流密度ioj等の各パラメータを代入して端子間電圧Vの現在値を算出する。このようにして算出された端子間電圧Vと、電圧センサ21により検出された端子間電圧Vとが所定誤差内に収束するまで反復計算を行なうことにより、式(7)から電流密度Iを求めることができる。なお、ここでは電圧入力の例を説明したが、電流入力、すなわち電流センサ22による検出値から電流密度Iを算出してもよく、電流入力の場合には収束演算は不要になる。
なお、電流密度算出部320は、式(7)に代えて下記式(8)を用いて電流密度Iを算出してもよい。式(8)は、式(7)の簡易式である。具体的には、式(8)は、式(7)において、arcsinh項を線形近似し、さらに式(7)に含まれる上記式(6)の右辺のパラメータを反応抵抗Rrに置換したものである。
さらに、電流密度算出部320は、電流密度Iから反応電流密度j
jを算出し、過電圧算出部330および濃度分布算出部340に出力する。反応電流密度j
jとは、活物質の単位体積当たりの水素生成速度に相当する。電流密度Iと反応電流密度j
jとの間には下記式(9)が成立するため、電流密度Iを反応電流密度j
jに換算することができる。
過電圧算出部330は、電池パラメータ決定部310から絶対温度Tおよび交換電流密度i
ojを受けるとともに、電流密度算出部320から反応電流密度j
jを受ける。過電圧算出部330は、バトラー・ボルマー(Butler-Volmer)の関係式から導かれる下記式(10)(詳細については特許文献1参照)に従って、正極側の過電圧η
1および負極側の過電圧η
2を算出し、電位算出部380に出力する。
濃度分布算出部340は、電池パラメータ決定部310から活物質の拡散係数D
sjを受けるとともに、電流密度算出部320から反応電流密度j
jを受ける。詳細は特許文献1等に記載されているが、下記式(11)は、極座標系の拡散方程式である。式(11)の境界条件は、下記式(12)および式(13)のように設定することができる。濃度分布算出部340は、式(11)〜(13)に従って、正極活物質151の内部の水素濃度分布c
s1k(k=1〜N)と、負極活物質152の内部の水素濃度分布c
s2kとを算出し、水素量算出部350に出力する。
水素量算出部350は、濃度分布算出部340から水素濃度分布csjk(j=1,2)を受ける。水素量算出部350は、水素濃度分布cs1kに基づき正極活物質151の表面局所量θ1Nを算出するとともに、水素濃度分布cs2kに基づき負極活物質152の表面水素量θ2Nを算出し、開放電位算出部360に出力する(上記式(4)参照)。さらに、水素量算出部350は、上記式(5)に従って、水素濃度分布cs1kから平均水素量θ1,ave(より具体的には使用水素量θ0)を算出し、メモリ量算出部370に出力する。
開放電位算出部360は、電池パラメータ決定部310から絶対温度Tを受けるとともに、水素量算出部350から表面水素量θ1N,θ2Nを受ける。開放電位算出部360は、図8に示したマップMP1を参照することによって、表面水素量θ1Nから初期電位E1を算出するとともに、表面水素量θ2Nから負極開放電位U2を算出する。算出された初期電位E1および負極開放電位U2は、電位算出部380に出力される。
メモリ量算出部370は、以下のようにすることで、平均水素量θ1,aveの各範囲について、メモリ量Mを算出する。
図16は、メモリ量算出部370のより詳細な構成を示す機能ブロック図である。メモリ量算出部370は、使用条件設定部371と、微小メモリ量算出部372と、積算部373とを含む。
使用条件設定部371は、電池パラメータ決定部310から絶対温度Tを受けるとともに、水素量算出部350から使用水素量θ0を受ける。使用条件設定部371は、図13に示したマップMP2を参照することによって、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じた曲線を平均水素量θ1,aveの範囲毎に選択し、微小メモリ量算出部372に出力する。
微小メモリ量算出部372は、使用条件設定部371からの曲線を用いて、所定の演算周期Δtの間に新たに生じた微小メモリ量ΔMを平均水素量θ1,aveの範囲毎に算出し、積算部373に出力する。
積算部373は、微小メモリ量算出部372からの微小メモリ量ΔMを平均水素量θ1,aveの範囲毎に積算する。使用水素量θ0が変化した場合には、図14にて説明したように、それまでの積算量を適宜リセットする(0に設定する)。平均水素量θ1,aveの各範囲のメモリ量Mは、電位算出部380に出力される。
図15に戻り、電位算出部380は、開放電位算出部360から初期電位E1および負極開放電位U2を受け、メモリ量算出部370からメモリ量Mを受け、過電圧算出部330から過電圧η1,η2を受ける。電位算出部380は、正極開放電位U1および負極開放電位U2を電流密度算出部320に出力する。さらに、電位算出部380は、上記式(1)に従って正極電位V1を算出するとともに(V1=E1+M+η1)、上記式(2)に従って負極電位V2を算出する(V2=U1+η2)。電位算出部380により算出された正極電位V1および負極電位V2は、図示しない充放電制御部に出力され、この充放電制御部により、図3および図4にて説明した充放電制御が実行される。
<電位算出処理の処理フロー>
図17は、本実施の形態における電位算出処理(図3のS11および図4のS21の処理)を示すフローチャートである。図17および後述する図19に示すフローチャートは、所定の演算周期Δt(たとえばΔt=100ms)毎にメインルーチン(図示せず)から呼び出されて実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップは、基本的にはECU30によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部がECU30内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
S101において、ECU30は、電圧センサ21から単電池11の電圧Vbを取得するとともに、電流センサ22から電池ブロック(図示せず)の温度Tbを取得する。ECU30は、以降の処理において、電圧Vbを端子間電圧Vとして使用するとともに、温度Tbを絶対温度Tに換算する。
ECU30のメモリ32には、前回の演算周期で算出された、正極活物質151の内部における水素濃度分布cs1k(k=1〜N)と、負極活物質152の内部における水素濃度分布cs2kとが記憶されている。ECU30は、前回の演算周期で算出された水素濃度分布csjk(j=1,2)を読み出す。なお、車両100のスタートスイッチ(図示せず)が押された(たとえばイグニッションオン)後の最初の演算周期では、車両100のイグニッションオフ直前の演算周期でメモリ32に記憶された水素濃度分布csjkが読み出される。ECU30は、正極活物質151の最外周領域の水素濃度cs1Nから表面水素量θ1Nを算出するとともに、負極活物質152の最外周領域Nの水素濃度cs2Nから表面水素量θ2Nを算出する(上記式(4)参照)(S102)。
S103において、ECU30は、図8に示したマップMP1を参照することによって、表面水素量θ1Nから初期電位E1を算出するとともに、表面水素量θ2Nから負極開放電位U2を算出する。
S104において、ECU30は、交換電流密度ioj、反応抵抗Rr、直流抵抗Rd、および活物質の拡散係数Dsjの各パラメータを算出する。この算出手法については、図15にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S105において、ECU30は、上記式(7)および式(8)のいずれか一方に従って、正極開放電位U1、負極開放電位U2、交換電流密度iojおよび絶対温度Tから電流密度Iを算出する。さらに、ECU30は、上記式(9)に従って、電流密度Iを反応電流密度jj(j=1,2)に換算する。
S106において、ECU30は、上記式(10)に従って、絶対温度T、反応電流密度jjおよび交換電流密度iojから過電圧ηj(j=1,2)を算出する。
S107において、ECU30は、上記式(11)〜式(13)に従って、正極活物質151の内部の水素濃度分布cs1k(k=1〜N)と、負極活物質152の内部の水素濃度分布cs2kとを算出する。水素濃度分布csjk(j=1,2)の算出結果は、次回の演算周期でのS102の処理に備えてメモリ32に記憶される。
S108において、ECU30は、S107にて算出された正極活物質151の内部の水素濃度分布cs1kから、上記式(4)に従って局所水素量分布θ1k(k=1〜N)を算出する。
S109において、ECU30は、S108にて算出された局所水素量分布θ1kから、全領域kの平均量である平均水素量θ1,aveを算出する(上記式(5)参照)。この平均水素量θ1,aveが使用水素量θ0として用いられる。
S110において、ECU30は、20個の平均水素量θ1,aveの範囲毎に、今回の演算周期における微小メモリ量ΔMを算出する。この算出手法については、図12および図13にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S111において、ECU30は、上記20個の範囲毎に、S110にて算出された微小メモリ量ΔMを積算することによってメモリ量Mを算出する。単電池11の充放電に伴い、前回の演算周期から使用水素量θ0が変化した場合には、変化前の使用水素量θ0と変化後の使用水素量θ0との間の範囲において、それまでの積算量が適宜リセットされる。この積算およびリセットの手法についても図14にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S112において、ECU30は、S103にて算出された初期電位E1と、S106にて算出された過電圧η1と、S111にて算出されたメモリ量Mとを用いて、正極電位V1を算出する(式(1)参照)。この正極開放電位U1に、S106にて算出された過電圧η1を加算することにより、正極電位V1が算出される。なお、上記20個の範囲毎に初期電位E1とメモリ量Mとを加算した場合、隣接する範囲間で正極開放電位U1が滑らかにつながらない可能性がある。そのため、ある範囲と、その範囲に隣接する範囲との間を適切な関数(たとえば線形関数)を用いて補完することができる。これにより、平均水素量θ1,aveに関して滑らかな正極開放電位U1を取得することができる。
さらに、ECU30は、S103にて算出された負極開放電位U2と、S106にて算出された過電圧η2とを用いて、上記20個の範囲毎に負極電位V2を算出する(式(2)参照)。
以上のように、本実施の形態によれば、予め準備されたマップMP2(図13参照)を参照することによって、平均水素量θ1,aveの範囲毎に、単電池11の使用条件(θ1,ave,T)に応じた微小メモリ量ΔMが遂次算出され、さらに積算される。このようにして算出されたメモリ量Mが、マップMP1(図8参照)を参照することによって表面水素量θ1Nから算出された初期電位E1に加算される。これにより、正極141に生じたメモリ効果の影響を正極開放電位U1に反映させることができるので、正極電位V1の算出精度を向上させることができる。
また、図17に示したフローチャートのS105にて説明したように、電流密度Iを算出する際には、前回の演算周期での正極開放電位U1および負極開放電位U2の算出結果が用いられる。この正極開放電位U1はメモリ効果の影響を考慮した上で高精度に算出されたものであるため、電流密度Iについても、メモリ効果の影響を考慮されていない場合と比べて、高精度に算出することができる。これにより、負極活物質152の反応電流密度j2および過電圧η2も高精度に算出されることになる(式(10)参照)。その結果、S112にて、今回の演算周期における負極電位V2の算出精度についても向上させることができる(式(2)参照)。
さらに、本実施の形態では、充放電制御の一例として、充電時に正極電位V1が上限電位UL1よりも高くなった場合(図3のS12においてYES)には、通常時と比べて、充電電力上限値Winが小さく設定される(S14)。また、放電時に正極電位V1が下限電位LL1よりも低くなった場合(図4のS23においてYES)には、通常時と比べて、放電電力上限値Woutが小さく設定される(S24)。本実施の形態によれば、正極電位V1を高精度に算出可能であるため、正極電位V1に基づく上記判定を適切に行なうことができる。その結果、副反応による劣化から正極141を保護することができる。詳細な説明は繰り返さないが、負極142についても同様に、副反応による劣化から保護することができる。
なお、本実施の形態では、アルカリ二次電池の一例としてニッケル水素電池を用いた場合について説明したが、本実施の形態で説明した手法が適用可能なアルカリ二次電池はこれに限定されるものではない。本実施の形態の手法は、水酸化ニッケルを正極活物質として含み、メモリ効果が発生する他のアルカリ二次電池(たとえばニッケルカドミウム電池またはニッケル亜鉛電池)にも適用することができる。
[変形例1]
ニッケル水素電池の正極では、メモリ効果とは別に、単電池11の過去の使用履歴(ヒステリシス)に応じて正極開放電位U1が変化する現象が知られている。したがって、この現象も考慮した上で正極開放電位U1を算出することが好ましい。変形例1では、ヒステリシスをさらに考慮した上で正極開放電位U1を算出する手法について説明する。
図18は、変形例1における正極開放電位U1の算出手法を説明するための図である。図18において、横軸は平均局所水素量θ1,aveを示し、縦軸は電位を示す。
変形例1では、ヒステリシスを考慮するために、上述の実施の形態で用いた使用水素量θ0に代えて、所定期間における使用水素量θ0の時間平均である「平均使用水素量」θ0,meanが用いられる。また、ヒステリシスは、所定期間において使用水素量θ0が変化した範囲内で生じる。したがって、上記所定期間における使用水素量θ0の最大値である「最大使用水素量」をθ0,maxと表し、使用水素量θ0の最小値である「最小使用水素量」をθ0,minと表す。
平均水素量θ1,aveが最大使用水素量θ0,max以上の範囲では、ヒステリシスの影響を特に考慮しなくてよいため、隣接する2つの正極開放電位U1の間(隣接する2点間)が線形補完される。平均水素量θ1,aveが最小使用水素量θ0,min以下の範囲についても同様に、隣接する2つの正極開放電位U1の間が線形補完される。
これに対し、平均水素量θ1,aveが平均使用水素量θ0,meanと最大使用水素量θ0,maxとの間の範囲では、ヒステリシスの影響が生じ得る。しかし、平均使用水素量θ0,meanでは、図9(B)にて説明したように初期電位E1に近い電位となるため、ヒステリシスの影響が相対的に小さいと考えられる。
したがって、変形例1では、図17に示したフローチャートのS112にて説明した補完手法(隣接する全範囲をたとえば線形補完する手法)に代えて、平均使用水素量θ
0,meanでの正極開放電位U
1と、最大使用水素量θ
0,maxでの正極開放電位U
1とを結ぶように補完が行なわれる。一例として、下記式(14)に示すように、自然数nをべき指数とする、べき関数による補完を行なうことができる。なお、自然数nは、実験等により予め定められる。
一方、平均水素量θ
1,aveが最小使用水素量θ
0,minと平均使用水素量θ=との間の範囲では、下記式(15)に示す、べき関数による補完が行なわれる。
以上のように、変形例1によれば、メモリ効果に加えて、単電池11のヒステリシスの影響を正極開放電位U1に反映させることができるので、正極開放電位U1の算出精度を向上させ、ひいては正極電位V1の算出精度を向上させることができる。
[変形例2]
電解液中では、反応物質である水酸化物イオン(OH−)の濃度ceが時間の経過とともに変化し、濃度勾配が生じ得る。その結果、正極活物質151と負極活物質152との間で濃度勾配に起因する濃度過電圧Δφeが生じ、正極電位V1および負極電位V2が影響を受ける可能性がある。変形例2においては、メモリ効果に加えて、濃度過電圧Δφeをさらに考慮することによって、正極電位V1および負極電位V2の算出精度を一層向上させる手法について説明する。
図19は、変形例2における電位算出処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、S206A,S206Bの処理をさらに含む点において、実施の形態のフローチャート(図17参照)と異なる。
S206Aにおいて、ECU30は、正極活物質151と負極活物質152との間の反応物質の濃度差Δc
eを算出する。反応物質の濃度差Δc
eは、電解液の実効拡散係数D
e eff、電解液の体積分率ε
eおよび、水酸化物イオン(OH
−)の輸率t
− oに依存するため、たとえば下記式(16)〜式(18)に従って算出することができる(詳細については特許文献4参照)。なお、式(16)において、(t)が付されたパラメータは前回の演算周期のものであることを示し、(t+Δt)が付されたパラメータは今回の演算周期のものであることを示す。
S206Bにおいて、ECU30は、S206Aにて算出された反応物質の濃度差Δceから濃度過電圧Δφeを算出する。具体的には、濃度差Δceと濃度過電圧Δφeとの対応関係を事前の評価実験により求めマップ(図示せず)として準備しておくことで、濃度差Δceから濃度過電圧Δφeを算出することができる。
実施の形態では、図17に示したフローチャートのS105において、上記式(7)または式(8)に従って電流密度Iが算出されると説明した。これに対し、変形例2においては、電流密度Iの算出に下記式(19)または式(20)が用いられる(S205)。これにより、前回の演算周期で算出された初期電位E
1および負極開放電位U
2に加えて、前回の演算周期で算出された濃度過電圧Δφ
eをさらに用いて電流密度Iが算出されることになるので、濃度過電圧Δφ
eの影響を電流密度Iに反映させることができる。
なお、残りのS201〜S204,S206,S207〜S212の処理は、実施の形態のフローチャートにおけるS101〜S104,S106〜S112の処理とそれぞれ同等であるため、説明は繰り返さない。
以上のように、変形例2によれば、電解液中の反応物質の濃度分布に起因する濃度過電圧Δφeを考慮した上で電流密度Iが算出される。これにより、電流密度Iの算出精度が向上するため、ひいては正極電位V1および負極電位V2の算出精度を一層向上させることができる。
[変形例3]
変形例2では、予め準備されたマップを参照することによって、反応物質の濃度差Δceから濃度過電圧Δφeが算出される例を説明した。しかし、濃度過電圧Δφeの算出手法はマップを用いた手法に限られず、以下に説明する算出式を用いることもできる。
電解液の電位φ
eと、反応物質の濃度c
eと、反応電流密度j
jとの間には下記式(21)が成立する。式(21)において、電解液の実効イオン導電率をκ
e effで表し、電解液の実効拡散導電率をκ
D effで表す。
まず、電解液中における直流抵抗Rdによる電圧降下と濃度過電圧Δφ
eとが互いに独立であるとみなすと、上記式(21)の差分式である下記式(22)が導かれる。
上記式(22)の左辺の括弧内は0になるので、式(22)から下記式(23)がさらに導かれる。
下記式(24)に示すように、上記式(23)から濃度過電圧Δφ
eを反応物質の濃度c
eの関数として表すことができる。なお、係数γは下記式(25)を意味する。式(25)において、塩濃度変化量(c
e)と平均活量係数(f
±)の変化量との相関関係を予め実験等により求め、マップまたは関数として保持しておくことで、塩濃度変化量に対する平均活量係数の変化量を算出することができる。
上記式(24)をさらに変形すると、下記式(26)が得られる。式(26)では、正極における反応物質の濃度および負極における反応物質の濃度をc
e1,c
e2でそれぞれ表す。また、濃度勾配が生じる前の反応物質の濃度(初期濃度)をc
e,iniで表す。この初期濃度c
e,iniは既知の値である。
式(26)は対数を含むため、線形近似することで下記の近似式(27)が得られる。
式(27)は、濃度過電圧Δφeを濃度差Δceの一次式として表したものである。したがって、図19に示したフローチャートのS206Bにおいて、たとえECU30が高度な演算処理能力および大容量のメモリを有していなくても、濃度差Δceから濃度過電圧△φeを容易に算出することができる。
[変形例4]
水素吸蔵合金の負極活物質152の内部における水素濃度分布cs2kに偏りが生じると、負極活物質152の領域k(k=1〜N)毎に局所的な体積変化量が異なることになり、水素吸蔵合金の結晶格子内に歪みが生じ得る。この歪みにより負極活物質152内に応力が発生し、発生した応力が負極活物質152の機械的な限界強度を超過すると、負極活物質152にクラックが生じ得る。
図20は、負極活物質152に生じるクラックを説明するための模式図である。図20に示すように、負極活物質152にクラック153が生じることで新たな表面が露出する。たとえばリチウムイオン二次電池では負極活物質にクラックが生じた場合に、負極活物質と電解液との反応により露出表面に被膜が形成され、負極の反応抵抗が増加するところ、ニッケル水素電池である単電池11においては、そのような被膜形成の影響は極めて小さい。単電池11では、電池反応に寄与し得る負極活物質152の反応表面積が単に増加することになる。したがって、負極(負極活物質152)の反応抵抗が減少し、それにより負極の交換電流密度io2が増加する。その結果、電流密度Iおよび反応電流密度jjが変化することになるので、正極開放電位U1および負極開放電位U2が変化する可能性がある(上記式(7)〜式(10)参照)。よって、単電池11においては、時間が経過するに従って、クラック153の発生により負極活物質152の交換電流密度io2が増加する影響についても考慮することが好ましい。
負極活物質152に生じたクラック153の量(クラック量)は、以下に説明するように、クラック指標値Xを用いて表すことができる。なお、クラック量とは、クラック153の数およびクラック153の深さの両方を含み得る指標値である。
図21は、クラック指標値Xの算出処理を説明するための図である。図21において、横軸は経過時間を示し、縦軸は負極活物質152内に作用する応力Fsを示す。
応力Fsが負極活物質152の機械的な限界強度(典型的には引っ張り限界強度)Flimを上回るとクラック153が発生する。したがって、斜線を付して示すように、応力Fsが限界強度Flimを上回った量である超過量(言い換えるとダメージ量)ΔFの時間積分を行なうことにより、所定期間内でのクラックによるダメージの進行度合いを算出することができる。
より具体的には、下記式(28)に示すように、時刻t1から期間Δtだけ経過した時刻t2におけるクラック指標値X(t2)は、Δtの間のクラック指標値の増加量ΔXを時刻t1におけるクラック指標値X(t1)に加算することによって算出される。
式(28)において、クラック指標値の増加量ΔXは、時刻t2(または時刻t1)における応力の超過量ΔFに基づく単位時間当たりの「クラック発生係数δ」に期間Δtを乗算することにより算出される(下記式(29)参照)。
応力の超過量ΔFとクラック発生係数δとの関係は、単電池11を流れる電流Ibと温度Tbとの組合せ(Ib,Tb)が異なる様々な条件下で単電池11の耐久試験を事前に実施することにより定量化することができる。具体的には、以下のような定量化手法を採用することができる。
様々な上記条件下での耐久試験の実施後に単電池11を解体し、負極活物質152をSEM(Scanning Electron Microscope)により観察したり種々の画像処理を施したりすることによって、条件の組合せ(Ib,Tb)に応じたクラック発生量を定量化することができる。一方で、各組合せ(Ib,Tb)での耐久試験中に負極活物質152内に発生した応力Fsは、たとえば拡散方程式(11)を用いた水素濃度分布演算(図17のS107参照)にフックの法則による応力計算をさらに盛り込むことによって算出可能である。したがって、クラック発生が確認される条件(クラックが発生し出す条件)をSEM観察等により特定し、その条件下での応力Fsを算出することにより、限界強度Flimを規定することができる。これにより、応力Fsが限界強度Flimを超過することによるクラック指標値の増加量ΔXと、応力Fsが限界強度Flimを超過した時間とを算出することが可能になるので、クラック発生係数δを事前に規定することができる。このようにしてクラック発生係数δを条件の組合せ(Ib,Tb)毎にマップ(図示せず)として予め準備し、メモリ32に記憶させておくことができる。
図22は、クラック指標値Xと負極活物質152の交換電流密度io2との関係を示す図である。図22において、横軸は経過時間を示す。縦軸は、上から順にクラック指標値X、負極活物質152の反応抵抗、および負極活物質152の交換電流密度io2(上方が増加方向である)を示す。
図22に示すように、クラック指標値Xが増加するに従って、負極活物質152の反応抵抗が減少し、それにより負極活物質152の交換電流密度io2は増加する。図22に一例を示すような関係がマップとしてECU30のメモリ32に記憶される。
ECU30は、上記式(28)および式(29)に従って、図示しない別ルーチンにより増加量ΔXを逐次積算し、クラック指標値Xを算出する。そして、ECU30は、電位算出処理において交換電流密度io2を算出する際に(図17のS104参照)、図22に示すマップを用いてクラック指標値Xから交換電流密度io2を算出する。これにより、負極活物質152にクラック153が発生することによる交換電流密度io2の増加を反映させることができ、その結果、正極電位V1および負極電位V2の算出精度を一層向上させることができる。
[変形例5]
ニッケル水素電池では、自己放電により正極活物質に水素イオンが挿入されることで、正極活物質内部の水素濃度が変化し得る。一般に、ニッケル水素電池における自己放電の影響は、リチウムイオン二次電池等における自己放電の影響よりも大きい。したがって、変形例5においては、自己放電に関する支配方程式をさらに考慮する構成について説明する。
自己放電による電流の密度(自己放電電流密度i
1 side)は、たとえばターフェル(Tafel)の関係式またはバトラー・ボルマーの関係式を用いて表すことができる。下記式(30)は、ターフェルの関係式により自己放電電流密度i
1 sideを表したものである。なお、式(30)では、自己放電が発生する基準電位をU
eqで表している。
自己放電電流密度i1 sideは、絶対温度Tの関数であるとともに、正極活物質151の表面水素量θ1Nの関数でもある。よって、自己放電交換電流密度i0,1 sideの絶対温度Tおよび表面水素量θ1Nに対する依存性を事前の評価試験により求め、マップ(図示せず)を予め作成することで、自己放電電流密度i1 sideを算出することができる。
式(30)を電池モデルにさらに盛り込むことで、正極開放電位U1に自己放電の影響がさらに反映される。これにより、正極開放電位U1の算出精度を向上させ、ひいては正極電位V1の算出精度を一層向上させることができる。
[変形例6]
単電池11の正極ではNi2O3Hが生成することにより正極の単極容量が減少する劣化が生じ、負極では負極酸化により負極活物質が不活性化することにより負極の単極容量が減少する劣化が生じ得る。さらに、正極と負極との間で組成対応ずれ(いわゆる負極充電リザーブずれ、または放電リザーブずれ)が生じやすい。その結果、単電池11の満充電容量が減少する(満充電容量の減少の詳細については特許文献1参照)。変形例6においては、3つの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を用いて、劣化後の単電池11の満充電容量Qdを算出する手法について説明する(たとえば特許文献1,6参照)。
劣化後の単電池11の正極容量Q1は、正極容量維持率k1と初期状態での正極容量Q1,iniとの積により表される(Q1=k1×Q1,ini)。同様に、劣化後の単電池11の負極容量Q2は、負極容量維持率k2と初期状態での負極容量Q2,iniとの積により表される(Q2=k2×Q2,ini)。一方、正極と負極との間における組成対応ずれ容量ΔQsは、ΔQs=k2×Q2,ini×Δθ2により表される。ここで、Δθ2とは、正極組成軸に対する負極組成軸のずれ量である。
上記各劣化パラメータk
1,k
2,ΔQ
sは、たとえば特許文献6に記載されているような公知の手法を用いて、正極開放電位U
1および負極開放電位U
2から算出することができる。そして、正極開放電位U
1および負極開放電位U
2から算出された劣化パラメータを用いることで、下記式(31)に従って単電池11の満充電容量Qdを算出することができる。
式(31)では、正極141の厚さL1および正極活物質151の体積分率εs1に劣化パラメータk1の影響が反映されている(L1=L10×√k1、εs1=εs10×√k1、ただし、L10およびεs10は劣化前の初期値を表す)。極板面積をSで表す。
また、式(31)では、単電池11のSOCが100%に相当する場合の局所水素量θ1Nをθ1_100で表し、SOCが0%に相当する場合の局所水素量θ1Nをθ1_0で表す。これらの値θ1_100およびθ1_0には、実施の形態にて説明した手法によりメモリ効果の影響が反映されている。
以上のように、変形例6によれば、メモリ効果を考慮して正極開放電位U1が算出され、高精度に算出された正極開放電位U1と、負極開放電位U2とを用いて単電池11の満充電容量Qdがさらに算出される。したがって、満充電容量Qdについても算出精度を向上させることができる。
なお、上述の実施の形態および各変形例では、0.05刻みの使用水素量θ0の範囲毎にメモリ量を積算する手法を説明した。しかし、使用水素量θ0への依存が小さく、ほぼ一律にメモリ効果が生じる系では、使用水素量θ0にかかわらずメモリ量を積算してもよい。この場合、ECU30の演算負荷を低減できるため、車載用途により適した構成となる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。