以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
以下では、本発明の実施の形態に係る電池システムが電動車両に搭載される構成を例に説明する。電動車両とは、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)であってもよいし、電気自動車であってもよいし、燃料自動車であってもよい。また、電池システムの用途は車両用に限定されるものではなく、定置用であってもよい。
[実施の形態]
<電池システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る電池システムが搭載された電動車両の全体構成を概略的に示すブロック図である。車両1は、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)10と、動力伝達ギア20と、駆動輪30と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)40と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)50と、電池システム2とを備える。電池システム2は、組電池100と、電圧センサ210と、電流センサ220と、温度センサ230と、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)300とを備える。
モータジェネレータ10は、たとえば三相交流回転電機である。モータジェネレータ10の出力トルクは、減速機および動力分割機構を含んで構成された動力伝達ギア20を介して駆動輪30に伝達される。モータジェネレータ10は、車両1の回生制動動作時には、駆動輪30の回転力によって発電することも可能である。モータジェネレータ10に加えてエンジン(図示せず)が搭載されたハイブリッド自動車では、エンジンおよびモータジェネレータ10を協調的に動作させることによって必要な車両駆動力を発生させる。なお、図1ではモータジェネレータが1つだけ設けられる構成が示されるが、モータジェネレータの数はこれに限定されず、モータジェネレータを複数(たとえば2つ)設ける構成としてもよい。
PCU40は、いずれも図示しないが、インバータとコンバータとを含む。組電池100の放電時には、コンバータは、組電池100から供給された電圧を昇圧してインバータに供給する。インバータは、コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータ10を駆動する。一方、組電池100の充電時には、インバータは、モータジェネレータ10によって発電された交流電力を直流電力に変換してコンバータに供給する。コンバータは、インバータから供給された電圧を降圧して組電池100に供給する。
SMR50は、組電池100とPCU40とを結ぶ電力線に電気的に接続されている。SMR50がECU300からの制御信号に応じて閉成されている場合、組電池100とPCU40との間で電力の授受が行なわれ得る。
組電池100は、再充電が可能な直流電源であり、本実施の形態では複数のニッケル水素電池(単セル)を含んで構成される。組電池100に含まれる各セルの詳細な構成については図2にて説明する。組電池100には電圧センサ210(後述する電圧センサ211〜213を包括的に記載したもの)と、電流センサ220と、温度センサ230(後述する温度センサ231〜233を包括的に記載したもの)とが設けられる。各センサは、その検出結果をECU300に出力する。
ECU300は、CPU(Central Processing Unit)301と、メモリ(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))302と、入出力バッファ(図示せず)と等を含んで構成される。ECU300は、各センサから受ける信号、ならびにメモリ302に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両1および電池システム2が所望の状態となるように各機器を制御する。ECU300により実行される主要な処理として、組電池100に含まれる複数のセルのうちの所定のセルの満充電容量を算出する処理が挙げられる。この処理については後述する。
図2は、組電池100の構成を示す図である。組電池100は、各々がニッケル水素電池である複数のセルが所定方向に配列された構成を有する。図2に示すように、組電池100は、所定方向の一方の端部に配置されたセル111〜114と、上記所定方向の中央部に配置されたセル121〜124と、上記所定方向の他方の端部に配置されたセル131〜134とを含む。また、図示しないが、組電池100には組電池100に冷却風を送る冷却機構(たとえば冷却ファンと、冷却風を導くためのダクト)が設けられている。
セル111〜114の各々には、各セルの電圧Vb1を検出する電圧センサ211と、各セルの温度Tb1を検出する温度センサ231とが設けられている。セル121〜124およびセル131〜134は、いずれもセル111〜114と共通の構成を有するため、詳細な説明は繰り返さない。
以下では、端部に配置されたセル111〜114のうちの代表的なセルであるセル111(第1のセル)の電圧Vb1および温度Tb1と、中央部に配置されたセル121〜124のうちの代表的なセルであるセル122(第2のセル)の電圧Vb2および温度Tb2とを検出し、その検出結果に基づいて組電池100の充電制御を行なう例について説明する。しかし、本発明に係る「第1のセル」として、セル111に代えて他のセル112〜114を用いてもよいし、所定方向の他方の端部に配置されたセル131〜134(たとえばセル134)を用いてもよい。また、本発明に係る「第2のセル」として、セル122に代えて、中央部の他のセル121,123,124を用いてもよい。さらに、所定方向の端部および中央部の各々において検出対象とするセル数は1に限定されず、2以上のセルの電圧および温度の検出結果に基づいて組電池100の充電制御(後述)を行なってもよい。
なお、電圧センサ211および温度センサ231は本発明に係る「第1のセンサ」に相当し、電圧センサ212および温度センサ232は本発明に係る「第2のセンサ」に相当する。
図3は、セル111の構成を示す図である。図示しないが、セル122等の他のセルの構成も共通である。セル111は、たとえば角形密閉式のセルであり、ケース141と、ケース141に設けられた安全弁142と、ケース141内に収容された電極体143および電解液(図示せず)とを含む。なお、図3ではケース141の一部を透視して電極体143を示している。
ケース141は、いずれも金属からなるケース本体および蓋体を含み、蓋体がケース本体の開口部上で全周溶接されることにより密閉されている。安全弁142は、ケース141内部の圧力が所定値を超えると、ケース141内部のガス(水素ガス等)の一部を外部に排出する。電極体143は、正極と、負極と、セパレータとを含む。正極は、たとえば袋状のセパレータ内に挿入されており、セパレータ内に挿入された正極と、負極とが交互に積層されている。正極および負極は、図示しない正極端子および負極端子にそれぞれ電気的に接続されている。
電極体143および電解液の材料としては従来公知の各種材料を用いることができる。本実施の形態においては、一例として、正極は、水酸化ニッケル(Ni(OH)2またはNiOOH)を含む正極活物質層と、発泡ニッケルなどの活物質支持体とを含む。負極は、水素吸蔵合金を含む。セパレータには、親水化処理された合成繊維からなる不織布が用いられる。電解液には、水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)等を含むアルカリ水溶液が用いられる。
<Ni2O3Hの生成>
ニッケル水素電池の正極内にNi2O3Hが生成すると、ニッケル水素電池の満充電容量が低下することが知られている。
図4は、正極内におけるNi2O3Hの存在比率と満充電容量との関係に関する実験結果の一例を示す図である。図4において、横軸は正極内におけるNi2O3Hの存在比率を示し、縦軸はニッケル水素電池(セル)の満充電容量を示す。この実験結果から、Ni2O3Hの存在比率が高くなるに従って満充電容量が低下することが分かる。
Ni2O3Hは、各セルの電圧が所定値(たとえば1.5V)よりも高い場合に生成されやすい。したがって、Ni2O3Hの生成により組電池100の容量低下がある程度進行した場合には、組電池100に含まれる各セルの充電電圧を所定の電圧以下に制限することが考えられる。Ni2O3Hの生成を抑制することで、組電池100の容量低下のさらなる進行を抑制することができるためである。
発明者らは、以下に説明する実験結果に基づき、図2に示したように各セルが組電池100内に配置されている構成においては、セルの位置に応じてセルの温度が異なり、その結果としてNi2O3Hの生成量も異なり得る点に着目した。この実験においては、複数台の車両1(ここではテスト用(試験用)の車両)を準備した。そして、各車両1の組電池100に含まれるセルの満充電容量を測定するとともに、セルを適宜分解してX線回折法(XRD:X-ray Diffraction)による分析を行なった。
図5は、セルの位置に応じた満充電容量の低下とNi2O3Hの生成との関係を説明するための第1の図である。図5において、横軸は、組電池100が車両1に搭載された状態での経過時間(組電池100の初期状態からの使用年数)を示す。縦軸は、セルの満充電容量を示す。
図5および後述する図6では、組電池100の端部に配置されたセル111の満充電容量の測定結果を白抜きで示し、組電池100の中央部に配置されたセル122の満充電容量の測定結果を黒塗りで示す。
図5に示すように、経過時間が比較的短い場合、セル111の満充電容量FCC1とセル122の満充電容量FCC2とはほぼ等しかった。これらの組電池100に含まれるセル(より詳細にはセル111とセル122との間に配置された他のセル)を分解してその正極内をXRDにより分析したところ、Ni2O3Hの生成を示すピークはほとんど検出されなかった。
これに対し、経過時間がより長くなりT程度(たとえば数年)になると、セル122の満充電容量FCC2の方がセル111の満充電容量FCC1よりも低くなった。上述の説明と同様に組電池100に含まれるセルを分解してその正極をXRDにより分析したところ、Ni2O3Hの生成を示すピークが検出された。
図6は、セルの位置に応じた満充電容量の低下とNi2O3Hの生成との関係を説明するための第2の図である。図6において、横軸は、車両1の走行距離の累積値(単位:km)を示す。縦軸は、図5と同様にセルの満充電容量を示す。
車両1の走行距離が比較的短い場合、セル111の満充電容量FCC1とセル122の満充電容量FCC2とはほぼ等しかった。これらの組電池100に含まれるセルを分解した場合、正極内にはNi2O3Hの生成はほとんど確認されなかった。
これに対し、車両1の走行距離がより長くなりL程度(たとえば10万km前後)になると、セル122の満充電容量FCC2の方がセル111の満充電容量FCC1よりも低くなった。これらの組電池100に含まれるセルの正極内には、Ni2O3Hの生成が確認された。
このように、図5および図6に示した実験結果から、経過時間または走行距離が長くなるに従って、組電池100に含まれるセルのうち端部近くに配置されたセル(セル111等)ほど満充電容量が相対的に大きくなり、中央部近くに配置されたセル(セル122等)ほど満充電容量が相対的に小さくなる傾向がある。これは、組電池100に冷却風を送る冷却機構(あるいは液冷式の冷却機構)(図示せず)によるセルの冷却効果にバラつきが存在し、中央部に近いほどセルの温度が高くなるためと考えられる。また、セル111の満充電容量FCC1とセル122の満充電容量FCC2と差分である容量差ΔFCC(=FCC1−FCC2)が基準値以上になった段階でNi2O3Hの生成が確認されることが分かる。
<マップの作成>
そこで、本実施の形態においては、容量差ΔFCCが基準値X以上になった場合には、容量差ΔFCCが基準値X未満の場合と比べて、組電池100に含まれる複数のセル(より詳細には、上記複数のセルのうちの最も高電圧のセル)の充電電圧の上限を低くする。各セルの電圧が所定値(たとえば1.5V)よりも高い場合にNi2O3Hが生成されやすいところ、たとえば組電池100の入力(後述する充電電力上限値Win)を制限することによって各セルの電圧を上記所定値以下に制限することができるのでNi2O3Hの生成が抑制される。その結果、組電池100の満充電容量のさらなる低下を抑制することができる。なお、基準値Xは、図5または図6にて説明した実験結果に基づいて決定することができる。
本実施の形態においては、単セル(セル数は1であってもよいし複数であってもよい)の電圧および温度と、Ni2O3Hの生成に起因するセルの満充電容量の低下量との対応関係を複数の実験を通じて求めることによって、マップMPが予め作成される。以下にマップMPの作成方法についてまず説明し、その後、組電池100の充電制御の具体例について説明する。なお、マップMPは本発明に係る「データ」に相当するが、マップに代えて関数を規定してもよい。
マップMPを作成するための実験は、たとえば次のように行なうことができる。まず、正極内のNi2O3Hの混入量の比(=Ni2O3Hの混入量/(Ni(OH)2の混入量+Ni2O3Hの混入量))と、XRDを用いて正極を分析することによって得られたピーク面積比との関係を調べるための実験が行なわれる。「ピーク面積比」とは、Ni2O3Hに対応する回折ピークで囲まれる面積(I1)とNi(OH)2に対応する回折ピークで囲まれる面積(I2)との和に対する、Ni2O3Hに対応する回折ピークで囲まれる面積(I1)の比(=I1/(I1+I2))である。この実験を以下では「第1の実験」と称する。
その後、耐久試験を経たセルおよび第1の実験の結果を用いて、セルの耐久条件(電圧,温度)と、セルの正極内に生成されたNi2O3Hに起因する満充電容量の低下量との関係を調べるための実験が行なわれる。この実験を以下では「第2の実験」と称する。そして、第2の実験結果を用いて、耐久条件(電圧,温度)と満充電容量の低下量との対応関係を示すマップMPが最終的に作成される。以下、各実験について順に説明する。
図7は、第1の実験の処理手順を示すフローチャートである。図7および後述する図8のフローチャートに示される各ステップ(以下、ステップを「S」とも略す)は、実験者により行なわれる。
実験者は、新品の電極(正極)粉末に所定量(たとえば所定量Q1)のNi2O3H粉末を均一に混ぜ込んだ試料を作製する(S110)。
その後、実験者は、XRDにより上記試料を分析する(S120)。具体的には、実験者は、所定の回折角度におけるX線のピーク面積比を算出する。X線の回折角度は以下のように定められる。すなわち、回折ピークの中には主にNi2O3Hによる回折の影響を受け、他のニッケル化合物による回折の影響をほとんど受けないものが存在する。このようなNi2O3Hに帰属する回折ピークと同様に、Ni(OH)2に帰属する回折ピークも存在する。これらの回折ピークの各々の面積を求め、さらにピーク面積比を求めることができる。このように、特定の回折角度(あるいは2以上の回折角度であってもよい)を用いることにより、Ni2O3Hに起因する回折ピークの面積比を測定することができる。
S120にてXRDによる試料の分析が行なわれると、実験者は、XRDの分析結果から、Ni2O3Hの混入量(あるいはNi2O3HとNi(OH)2混入割合)と、上記特定の回折角度におけるピーク面積比との関係を記録する(S130)。
以上のように、S110〜S130の処理により、所定量(たとえば所定量Q1)のNi2O3Hが正極に混入している場合の特定の回折角度(たとえば回折角度D1)におけるピーク面積比が求められる。第1の実験においては、電極に混入するNi2O3Hの量を変更して(たとえば他の所定量Q2,Q3等に変更して)、S110〜S130の一連の処理が複数回行なわれる。これにより、正極内のNi2O3Hの混入量と、特定の回折角度におけるピーク面積比との関係を求めることができる。
図8は、第2の実験の処理手順を示すフローチャートである。実験者は、耐久条件(セルの電圧および温度)を設定した上で、新品のセルについて耐久試験を実施する(S210)。耐久試験は、たとえば数カ月の間、セルのSOC値が所定領域内に収まるようにセルの充電と放電とを繰り返すことにより実施される。
耐久試験が終了すると、実験者は、耐久試験後のセルの満充電容量を測定する(S220)。たとえば、実験者は、セルを満充電状態とし、その後、セルの電圧が放電終止電圧となるまで放電させ、放電中の電流値を積算することによってセルの満充電容量を算出することができる。続いて、実験者は、新品のセルの満充電容量(たとえば公称容量)から、S220にて測定されたセルの満充電容量を減算することにより満充電容量の低下量を算出する(S230)。
満充電容量の算出後、実験者は、耐久試験後のセルを解体してセルに含まれる正極を取り出し、XRDより分析する(S240)。そして、実験者は、第1の実験によって得られた、正極内のNi2O3Hの生成量(比)とXRDにおけるピーク面積比との間の関係を参照して、S240の分析結果により得られたピーク面積比からNi2O3Hの生成量を算出する(S250)。
実験者は、セルの満充電容量の低下が正極内に生成されたNi2O3Hの生成に起因することの整合を確認したのち、セルの満充電容量の単位時間(たとえば1秒)当たりの低下量を算出する(S260)。より具体的には、実験者は、S230にて算出されたセルの満充電容量の低下量を耐久試験における総充電時間で除算する。これにより、Ni2O3Hに起因するセルの満充電容量の単位時間当たりの低下量を算出することができる。
なお、耐久試験の時間ではなく、耐久試験における総充電時間で除算が行なわれる理由は、上述のように所定値(たとえば1.5V)よりも高い電圧がセルに印加されなければNi2O3Hは生成されないことから、放電時にはNi2O3Hの生成は起こらないと考えられるためである。
その後、実験者は、耐久条件(電圧,温度)と、S260にて算出された満充電容量の単位時間当たりの低下量との対応関係を記録する(S270)。以上のように、S210〜S270の処理を通じて、設定された耐久条件における、Ni2O3Hに起因するセルの満充電容量の単位時間当たりの低下量が求められるので、マップMPを作成することができる。
図9は、本実施の形態において作成されるマップMPの一例を概念的に示す図である。マップMPにおいては、たとえば、第2の実験の結果に基づいて、耐久条件すなわちセルの電圧(V0,V1,V2・・・)とセルの温度(T0,T1,T2・・・)との組合せ毎に、Ni2O3Hに起因するセルの満充電容量の単位時間当たりの低下量(W00,W01,W10・・・)が対応付けられている。なお、電圧とは、各セルの電圧の測定値から金属抵抗に由来する電圧上昇分(分極)が除かれた値である。
このように、本実施の形態においては、第1および第2の実験を通じてマップMPが予め作成され、作成されたマップMPはメモリ302に記憶される。なお、単セルを単位とするのに代えて、複数のセルを単位としてマップMPを作成してもよい。この場合、マップMPには、単セルの電圧に代えて複数のセルの電圧(金属抵抗に由来する電圧上昇分を補正した値)が規定されることになる。
<Ni2O3H生成抑制制御>
以上のようにして作成されたマップMPを用いて、さらなるNi2O3Hの生成を抑制するための組電池100充電制御が実行される。この制御を「Ni2O3H生成抑制制御」と称し、以下に説明する。
図10は、本実施の形態における組電池100のNi2O3H生成抑制制御を示すフローチャートである。図10および後述する図11のフローチャートに示される処理は、所定の制御周期(=単位時間)毎に図示しないメインルーチンから呼び出されて実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップは、基本的にはECU300によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部がECU300内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。なお、ECU300のメモリ302には、1つ前の制御周期で算出された各セル111,122の満充電容量が記憶されているものとする。
S310において、ECU300は、所定方向の端部に配置されたセル111に設けられた電圧センサ211および温度センサ231と、電流センサ220とを用いて、セル111の電圧Vb1および温度Tb1ならびに組電池100を流れる電流Ibを取得する。ECU300は、電圧センサ211により検出されたセル111の電圧Vb1に、金属抵抗による電圧変化量(予め求められた金属抵抗と電流Ibとの積)を加算した電圧をセル111の電圧として算出する。
S320において、ECU300は、セル111について、メモリ302に記憶されたマップMP(図9参照)を参照して、S310にて算出されたセルの電圧および温度Tb1に対応する満充電容量の単位時間当たりの低下量を算出する。
S330において、ECU100は、メモリ302に記憶された1つ前の制御周期でのセル111の満充電容量から、S302にて算出された満充電容量の単位時間当たりの低下量を減算することにより、セル111の現在の満充電容量FCC1を算出する。ECU300は、算出されたセル111の現在の満充電容量FCC1をメモリ302に記憶させる。これにより、メモリ302に記憶される値が最新の状態に更新される。
S340〜S360において、ECU300は、S310〜S330の処理と同様にして所定方向の中央部に配置されたセル122の現在の満充電容量FCC2を算出する。なお、S310〜S330の処理とS340〜S360の処理との順序を入れ替えてもよい。
S370において、ECU300は、セル111の現在の満充電容量FCC1とセル122の現在の満充電容量FCC2との容量差ΔFCC(=FCC1−FCC2)を算出する。
S380において、ECU300は、S370にて算出された容量差ΔFCCが所定の基準値X以上であるか否かを判定する。容量差ΔFCCが基準値X以上である場合(S380においてYES)、ECU300は、各セルの充電電圧(より好ましくは最も高電圧のセルの充電電圧)を所定の上限電圧ULa以下に制限する。上限電圧ULaは、各セルの電圧が所定値(たとえば1.5V)超えることによる正極内でのNi2O3Hの生成が起こらない電圧であって、容量差ΔFCCが基準値X未満である場合(S380においてNO)に設定される上限電圧ULbよりも低い(ULa<ULb)(S395参照)。たとえば、ECU300は、各セルの充電電圧が上限電圧ULa未満となるように組電池100の充電電力上限値Winを制限する。また、ECU300は、組電池100の温度Tbを所定温度未満(正極内でのNi2O3Hの生成が進行する温度)未満に制限してもよい。その後、処理はメインルーチンへと戻される。
以上のように、本実施の形態によれば、所定方向の端部に配置されたセル111と中央部に配置されたセル122との間の満充電容量の容量差ΔFCCが基準値X以上である場合には、各セルの充電電圧の上限が低く制限される。これは、図5および図6に示した本発明者らの実験結果から、容量差ΔFCCが基準値X以上である場合には正極内にNi2O3Hが生成されやすくなることが分かったためである。このような充電制御を実行することで、組電池100に含まれる各セルの電圧を所定値(たとえば1.5V)以下に維持することができるので、Ni2O3Hの生成が抑制される。したがって、正極内でのNi2O3Hの生成に起因する組電池100の容量低下を適切に抑制することができる。
なお、本実施の形態では端部と中央部との間で満充電容量の容量差ΔFCCを算出する構成について説明したが、容量差ΔFCCが最大となるのであれば、他の位置に設けられたセル間の満充電容量の容量差を用いてもよい。たとえば、3つ以上のセルの各々について満充電容量を算出し、そのうちの最大容量と最小容量との容量差に基づいてNi2O3H生成抑制制御を実行してもよい。
また、複数のセルのうちの温度差が最大となる2つのセル間で満充電容量の差も最大になるので、任意に配置(あるいは配列)された複数のセルのうち温度差が最大となる2つのセル(低温部に配置されたセル(好ましくは最も低温のセル)、および、低温部よりも温度の高い高温部に配置されたセル(好ましくは最も高温のセル))に着目し、これら2つのセルの満充電容量の容量差を用いてNi2O3H生成抑制制御を実行することも可能である。
言い換えると、本発明における所定方向の「中央部」とは、一方の端部(本発明に係る「端部」)と他方の端部との間の厳密な意味での中央のみに限定されるものではなく、上記一方の端部と上記他方の端部との間の部分を意味する。「中央部」の位置は、組電池100に設けられる冷却機構(図示せず)の構成に応じて適宜決定することが望ましい。たとえば、冷却機構による冷却が上記所定方向に関して非対称である場合には、厳密な意味での中央とは異なる位置に配置されたセルの電圧および温度を監視することが望ましい。
[変形例]
実施の形態では端部のセル111と中央部のセル122との満充電容量の容量差ΔFCCに基づいてNi2O3Hの生成を抑制するための制御を実行するか否かを判定する処理について説明した。変形例では、Ni2O3Hの生成を一層抑制可能な制御について説明する。
図11は、本実施の形態の変形例における組電池100のNi2O3H生成抑制制御を示すフローチャートである。S410〜S470の処理は、実施の形態におけるS310〜S370の処理とそれぞれ同等であるため、説明は繰り返さない。
S480において、ECU300は、S470にて算出された容量差ΔFCCが基準値X以上であるか否かを判定する。容量差ΔFCCが基準値X以上である場合(S480においてYES)、ECU300は、実施の形態と同様に各セルの充電電圧を上限電圧ULa以下に制限する(S490)。
一方、容量差ΔFCCが基準値X未満である場合(S480においてNO)、ECU300は、処理をS485に進め、中央部のセル122の満充電容量FCC2が所定の基準値Y未満であるか否かを判定する。満充電容量FCC2が基準値Y未満である場合(S485においてYES)、ECU300は、各セルの充電電圧を上限電圧ULa以下に制限する(S490)。満充電容量FCC2が基準値Y以上である場合(S485においてNO)、ECU300は、各セルの充電電圧を上限電圧ULb以下に制限する(S495)。
以上のように、本変形例によれば、所定方向の端部のセル111と中央部のセル122との間の満充電容量の容量差ΔFCCに加えて、中央部のセル122の満充電容量FCC2(すなわち満充電容量の絶対値)に基づいて各セルの充電電圧を上限電圧ULa以下に制限すべきか否かが判定される。車両1の使用環境(あるいは使用状況)によっては、すべてのセルの容量低下がほぼ均等に起こったため容量差ΔFCCが基準値X未満ではあるものの、組電池100全体としては容量低下が進行する可能性がある。したがって、最も温度が高くなりやすく、それによりNi2O3Hの生成に起因する容量低下が起こりやすい中央部のセル122に着目することで、上述の全体的な容量低下が進行した場合であってもNi2O3Hのさらなる生成を抑制することができる。したがって、より確実に組電池100の容量低下を抑制することができる。
なお、変形例における上限電圧ULaの決定に際しては、満充電容量の容量差ΔFCCと、中央部のセル122(すなわち満充電容量が最も低下しやすいセル)の満充電容量FCC2とをパラメータとする2次元マップ(図示せず)を用いてもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。