JP2020047586A - 二次電池システム - Google Patents

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Abstract

【課題】シリコン系材料を負極活物質として用いた二次電池の内部状態の推定精度を向上させる。【解決手段】二次電池システム10は、負極活物質(負極粒子2)がシリコン系材料からなる負極を有するバッテリ4と、バッテリ4の活物質モデルに基づいてバッテリ4の内部状態を推定するように構成されたECU100とを備える。ECU100は、負極活物質の内部におけるリチウムの濃度分布を規定する拡散方程式を解くことによって負極活物質の内部のリチウム量を算出する。ECU100は、負極活物質の内部のリチウム量θ2_aveに応じて定まる負極活物質の表面応力σsurfに基づいて、負極活物質の開放電位変化量ΔVstressを算出する。ECU100は、負極活物質に表面応力が発生していない状態における負極活物質の開放電位U2_staと、開放電位変化量ΔVstressとから負極開放電位U2を算出する。【選択図】図13

Description

本開示は、二次電池システムに関し、より特定的には、シリコン系材料を負極活物質として用いた二次電池の内部状態の推定技術に関する。
近年、二次電池が搭載された電動車両(ハイブリッド車両、電気自動車等)の普及が進んでいる。このような二次電池では、その内部状態を正確に推定することが求められる。
二次電池の内部状態の推定には、二次電池の正極開放電位、正極電位、負極開放電位、負極電位などの様々な電位成分を算出することが含まれる。たとえば、二次電池の正極開放電位および負極開放電位から二次電池のOCVを算出し、算出されたOCVから二次電池のSOCを推定することができる。また、二次電池の正極電位が所定の下限電位よりも低くなったり所定の上限電位よりも高くなったりした場合には、正極での副反応が起こり、正極が劣化し得る。負極についても同様に、負極電位が所定の電位範囲外になると劣化する可能性がある。よって、二次電池の単極電位(正極電位または負極電位)の算出精度を向上させることで、二次電池の正極および負極の劣化を抑制することも可能になる。
特開2008−243373号公報(特許文献1)は、二次電池の内部状態を推定するための電池モデルを開示する。特許文献1によれば、この電池モデルに従って、活物質内部におけるリチウム濃度分布が算出される。そして、算出されたリチウム濃度分布に基づいて、二次電池の内部状態(詳細には正極開放電位および負極開放電位)が推定される。
特開2008−243373号公報 特開2015−166710号公報 特開2014−139521号公報
"In Situ Measurements of Stress-Potential Coupling in Lithiated Silicon", V. A. Sethuraman et al., Journal of The Electrochemical Society, 157 (11) A1253-A1261 (2010)
二次電池のなかには、完全に放電された状態から二次電池を充電する際に得られるSOC(SOC:State Of Charge)−OCV(Open Circuit Voltage)カーブである「充電カーブ」と、満充電された状態から二次電池を放電する際に得られるSOC−OCVカーブである「放電カーブ」とが顕著に乖離する系が存在する。このように充電カーブと放電カーブとが乖離することを二次電池に「ヒステリシス」が存在するとも言う。たとえば特開2015−166710号公報(特許文献2)は、二次電池のヒステリシスを考慮した上でOCVからSOCを推定する技術を開示する。
たとえばリチウムイオン二次電池において、シリコン系材料を負極活物質として用いることが検討されている。シリコン系材料を用いることで、シリコン系材料を用いない場合と比べて、満充電容量を増加させることができるためである。一方、シリコン系材料を用いると、シリコン系材料を用いない場合と比べて、SOC−OCVカーブのヒステリシスが大きくなることが知られている(たとえば特開2014−139521号公報:特許文献3参照)。
たとえば特許文献1に開示された二次電池の内部状態の推定手法では、二次電池のヒステリシスについては何ら考慮されていない。この点において、特許文献1に開示の推定手法には、二次電池の内部状態の推定精度に改善の余地がある。
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シリコン系材料を負極活物質として用いた二次電池の内部状態の推定精度を向上させることである。
本開示のある局面に従う二次電池システムは、負極活物質がシリコン系材料からなる負極を有する二次電池と、二次電池の活物質モデルに基づいて二次電池の内部状態を推定するように構成された制御装置とを備える。制御装置は、負極活物質の内部における電荷担体の濃度分布を規定する拡散方程式を解くことによって負極活物質内の電荷担体量を算出する。制御装置は、負極活物質内の電荷担体量に応じて定まる負極活物質の表面応力に基づいて、負極活物質の開放電位変化量を算出する。制御装置は、負極活物質に表面応力が発生していない状態における負極活物質の開放電位と、開放電位変化量とから負極の開放電位を算出する。
上記構成によれば、負極活物質の表面応力による負極活物質の開放電位変化量が算出される。そして、負極活物質に表面応力が発生していない状態における負極活物質の開放電位と、開放電位変化量とから負極の開放電位が算出される。このように、負極活物質の表面応力による開放電位への影響を考慮に入れることで、二次電池の負極の開放電位を高精度に推定することができる。その結果、負極の開放電位に関連する他の内部状態(SOCなど)の推定精度も向上させることが可能になる。
本開示によれば、シリコン系材料を負極活物質として用いた二次電池の内部状態の推定精度を向上させることができる。
本実施の形態に係る二次電池システムが搭載された電動車両の全体構成を概略的に示す図である。 各セルの構成をより詳細に説明するための図である。 本実施の形態におけるバッテリのSOC−OCVカーブの一例を示す図である。 バッテリの充放電に伴う表面応力の変化の一例を模式的に示す図である。 本実施の形態における電池モデルを説明するための図である。 正極粒子および負極粒子の内部におけるリチウム濃度分布の算出手法を説明するための図である。 電池モデルに使用されるパラメータを説明するための図である。 電池モデルに使用される添字(下付き添字)を説明するための図である。 本実施の形態における電位算出処理およびSOC推定処理に関するECUの機能ブロック図である。 SOC−OCV特性図上におけるバッテリの状態の遷移を説明するための概念図である。 表面応力の算出手法を説明するための図である。 本実施の形態においてバッテリのSOCを推定するための一連の処理を示すフローチャートである。 収束演算処理を示すフローチャートである。 表面応力算出処理を示すフローチャートである。
以下では、本開示の実施の形態に係る二次電池システムが電動車両に搭載される構成を例に説明する。電動車両とは、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)であってもよいし、電気自動車であってもよい。また、電動車両は、燃料電池と二次電池とを組み合わせたハイブリッド車であってもよい。ただし、本開示に係る「二次電池システム」の用途は車両用に限定されるものではなく、定置用であってもよい。
[実施の形態]
<二次電池システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池システムが搭載された電動車両の全体構成を概略的に示す図である。図1を参照して、車両9は、ハイブリッド車両であって、モータジェネレータ91,92と、エンジン93と、動力分割装置94と、駆動軸95と、駆動輪96と、二次電池システム10とを備える。二次電池システム10は、バッテリ4と、監視ユニット6と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)8と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。
モータジェネレータ91,92の各々は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動機である。モータジェネレータ91は、主として、動力分割装置94を経由してエンジン93により駆動される発電機として用いられる。モータジェネレータ91が発電した電力は、PCU8を介してモータジェネレータ92またはバッテリ4に供給される。
モータジェネレータ92は、主として電動機として動作し、駆動輪96を駆動する。モータジェネレータ92は、バッテリ4からの電力およびモータジェネレータ91の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、モータジェネレータ92の駆動力は駆動軸95に伝達される。一方、車両の制動時や下り斜面での加速度低減時には、モータジェネレータ92は、発電機として動作して回生発電を行なう。モータジェネレータ92が発電した電力は、PCU8を介してバッテリ4に供給される。
エンジン93は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーをピストンやロータなどの運動子の運動エネルギーに変換することによって動力を出力する内燃機関である。
動力分割装置94は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構(図示せず)を含む。動力分割装置94は、エンジン93から出力される動力を、モータジェネレータ91を駆動する動力と、駆動輪96を駆動する動力とに分割する。
バッテリ4は、複数のセル(単電池)61を含んで構成された組電池である。本実施の形態における各セル5は、リチウムイオン二次電池である。各セル5の構成については図2にて説明する。
バッテリ4は、モータジェネレータ91,92を駆動するための電力を蓄え、PCU8を通じてモータジェネレータ91,92へ電力を供給する。また、バッテリ4は、モータジェネレータ91,92の発電時にPCU8を通じて発電電力を受けて充電される。
監視ユニット6は、電圧センサ71と、温度センサ72とを含む。電圧センサ71は、組電池であるバッテリ4に含まれる各セル5の電圧を検出する。温度センサ72は、セル5毎の温度を検出する。各センサは、その検出結果をECU100に出力する。
なお、電圧センサ71は、たとえば直列接続された複数のセル5を監視単位として電圧VBを検出してもよい。また、温度センサ72は、互いに隣接して配置された複数のセル5を監視単位として温度TBを検出してもよい。このように、本実施の形態では、監視単位は特に限定されない。よって、以下では説明の簡略化のため、単に「バッテリ4の電圧VBを検出する」あるいは「バッテリ4の温度TBを検出する」と記載する。電位、OCV(Open Circuit Voltage)およびSOCについても同様に、バッテリ4を各処理の実行単位として記載する。
PCU8は、ECU100からの制御信号に従って、バッテリ4とモータジェネレータ91,92との間で双方向の電力変換を実行する。PCU8は、モータジェネレータ91,92の状態をそれぞれ別々に制御可能に構成されており、たとえば、モータジェネレータ91を回生状態(発電状態)にしつつ、モータジェネレータ92を力行状態にすることができる。PCU8は、たとえば、モータジェネレータ91,92に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧をバッテリ4の出力電圧以上に昇圧するコンバータ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)100Aと、メモリ(より具体的にはROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))100Bと、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)とを含んで構成されている。ECU100は、監視ユニット6の各センサから受ける信号ならびにメモリ100Bに記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、バッテリ4の状態を推定する。ECU100により実行される主要な処理として、バッテリ4の正極電位Vおよび負極電位Vを含む様々な電位成分を算出する「電位算出処理」が挙げられる。ECU100は、「電位算出処理の結果に応じて、バッテリ4のSOCを推定したりバッテリ4の充放電を制御したりする。
なお、正極電位Vとは、バッテリ4が通電状態にあるときの正極の電位である。負極電位Vとは、バッテリ4が通電状態にあるときの負極の電位である。一方、バッテリ4が非通電状態(無負荷状態)にあるとき、正極の電位を正極開放電位(OCP:Open Circuit Potential)Uと言い、負極の電位を負極開放電位Uと言う。これらの電位(および後述する他の電位)の基準となる電位は任意に設定可能であるが、本実施の形態では金属リチウムの電位が基準電位に定められる。
図2は、各セル5の構成をより詳細に説明するための図である。図2におけるセル5は、その内部を透視して図示されている。
図2を参照して、セル5は、角型(略直方体形状)の電池ケース51を有する。電池ケース51の上面は蓋体52によって封じられている。正極端子53および負極端子54の各々の一方端は、蓋体52から外部に突出している。正極端子53および負極端子54の他方端は、電池ケース51内部において、内部正極端子および内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ接続されている。電池ケース51の内部には電極体55が収容されている。電極体55は、正極と負極とがセパレータを介して積層され、その積層体が捲回されることにより形成されている。電解液は、正極、負極およびセパレータ等に保持されている。
正極、セパレータおよび電解液には、リチウムイオン二次電池の正極、セパレータおよび電解液として従来公知の構成および材料をそれぞれ用いることができる。一例として、正極には、コバルト酸リチウムの一部がニッケルおよびマンガンにより置換された三元系の材料を用いることができる。セパレータには、ポリオレフィン(たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン)を用いることができる。電解液は、有機溶媒(たとえばDMC(dimethyl carbonate)とEMC(ethyl methyl carbonate)とEC(ethylene carbonate)との混合溶媒)と、リチウム塩(たとえばLiPF)と、添加剤(たとえばLiBOB(lithium bis(oxalate)borate)またはLi[PF(C])等を含む。
なお、セルの構成は特に限定されず、電極体が捲回構造ではなく積層構造を有するものであってもよい。また、角型の電池ケースに限らず、円筒型またはラミネート型の電池ケースも採用可能である。
<SOC−OCVカーブのヒステリシス>
従来、リチウムイオン二次電池の典型的な負極活物質は、グラファイト等の炭素系材料であった。これに対し、本実施の形態では、シリコン系材料(SiまたはSiO)が負極活物質として採用されている。シリコン系材料を用いることでバッテリ4のエネルギー密度が増加し、それによりバッテリ4の満充電容量を増大させることができるためである。その一方で、シリコン系材料を用いると、バッテリ4にヒステリシスが顕著に現れ得る。
図3は、本実施の形態におけるバッテリ4のSOC−OCVカーブの一例を示す図である。図3ならびに後述する図10および図11において、横軸はバッテリ4のSOCを表し、縦軸はバッテリ4のOCVを表す。なお、本明細書において、OCVとは、二次電池の電圧が十分に緩和した状態、すなわち、活物質内のリチウム(電荷担体または反応物質)の濃度が緩和した状態での電圧を意味する。
図3には、バッテリ4の充電カーブCHGと放電カーブDCHとが示されている。充電カーブCHGは、バッテリ4を完全放電状態にしてから充電と休止(充電停止)とを繰り返すことで取得される。放電カーブDCHは、バッテリ4を満充電状態にしてから放電と休止(放電停止)とを繰り返すことで取得される。
詳細には、充電カーブCHGは、以下のように取得することができる。まず、完全放電状態のバッテリ4を準備し、たとえば5%のSOCに相当する電気量を充電する。その電気量の充電後には充電を停止し、充電により生じた分極が解消されるまでの時間(たとえば30分間)、バッテリ4を放置する。その放置時間の経過後にバッテリ4のOCVを測定する。そして、充電後のSOC(=5%)と、測定されたOCVとの組合せ(SOC,OCV)を図中にプロットする。
続いて、次の5%のSOCに相当する電気量のバッテリ4の充電(SOC=5%から10%までの充電)を開始する。充電が完了すると、同様に放置時間の経過後にバッテリ4のOCVを測定する。そして、OCVの測定結果から、バッテリ4の状態(SOCとOCVとの組合せ)を再びプロットする。その後、バッテリ4が満充電状態に至るまで同様の手順を繰り返す。このような測定を実施することによって充電カーブCHGを取得することができる。
同様に、バッテリ4が満充電状態から完全放電状態に至るまで、今度はバッテリ4の放電と放電停止とを繰り返しながら、5%刻みのSOCにおけるバッテリ4のOCVを測定する。このような測定を実施することによって放電カーブDCHを取得することができる。取得された充電カーブCHGおよび放電カーブDCHは、ECU100のメモリ100Bに格納されている。
充電カーブCHG上のOCVを「充電OCV」とも称し、放電カーブDCH上のOCVを「放電OCV」とも称する。充電OCVは各SOCにおけるOCVの最高値を示し、放電OCVは各SOCにおけるOCVの最低値を示している。バッテリ4の状態は、充電OCV上、放電OCV上、および、充電OCVと放電OCVとにより囲まれた領域(以下、「中間領域A」とも称する)内のいずれかにプロットされることとなる(後述する図10および図11参照)。充電OCVと放電OCVとの乖離(たとえば150mV程度の電圧差が生じること)がバッテリ4におけるヒステリシスの存在を表している。
<負極活物質の表面応力>
バッテリ4にヒステリシスが生じる要因としては、充放電に伴う負極活物質の体積変化が考えられる。負極活物質は、リチウムの挿入に伴い膨張し、リチウムの脱離に伴い収縮する。このような負極活物質の体積変化に伴い、負極活物質の表面および内部に応力が発生し、負極活物質内のリチウム濃度が緩和した状態においても負極表面に応力が残留する。負極表面に残留する応力とは、負極活物質の内部で発生した応力と、負極活物質の体積変化に伴って負極活物質の周辺部材(バインダ、導電助剤など)から負極活物質に働く反作用力などとを含む様々な力が系全体で釣り合った状態での応力と考えられる。以下、この応力のことを「表面応力σsurf」と記載する。
リチウムの挿入または脱離に伴うシリコン系材料の体積変化量は、グラファイトの体積変化量よりも大きい。具体的には、リチウムが挿入されていない状態での最小体積を基準とした場合に、リチウムの挿入に伴うグラファイトの体積変化量(膨張率)が1.1倍程度であるのに対して、シリコン系材料の体積変化量は最大で4倍程度である。そのため、負極活物質がシリコン系材料である場合には、負極活物質がシリコン系材料でない場合(負極活物質がグラファイトである場合)と比べて、表面応力σsurfが大きくなる。
なお、表面応力σsurfは、薄膜評価を通じて測定する(見積もる)ことができる。表面応力σsurfの測定手法の一例を簡単に説明する。まず、表面応力σsurfにより変形した薄膜である負極の曲率κの変化が測定される。たとえば市販の曲率半径測定システムを用いることによって曲率κを光学的に測定することができる。そして、測定された曲率κと、負極(負極活物質および周辺部材)の材料および形状に応じて定まる定数(ヤング率、ポアソン比、厚みなど)とをストーニーの式に代入することにより、表面応力σsurfを算出することができる(応力測定の詳細については、たとえば非特許文献1を参照)。
負極電位Vは、負極活物質の表面状態により決定される。より詳細には、負極電位Vは、負極活物質表面におけるリチウム量と、表面応力σsurfとにより決定される。シリコン系材料のように充放電に伴い大きな体積変化が生じ得る材料を採用した場合、以下に説明するように、負極活物質内のリチウム量の増減に伴い、表面応力σsurfが大きく変化し得る。
図4は、バッテリ4の充放電に伴う表面応力σsurfの変化の一例を説明するための図である。図4において、横軸は負極活物質表面におけるリチウム量(後に説明する負極粒子2のリチウム量θ)を表し、縦軸は表面応力σsurfを表す。
図4には、まず、リチウム量θが最小であるθ2,min(たとえばθ2,min=0)の状態からリチウム量θが最大であるθ2,max(たとえばθ2,max=1)の状態まで、バッテリ4が充電され、その後、θ2,maxの状態からθ2,minの状態までバッテリ4が放電された場合の表面応力σsurfの変化の一例が模式的に示されている。なお、表面応力σsurfについては、負極活物質の収縮時(バッテリ4の放電時)に発生する引っ張り応力σtenを正方向で表し、負極活物質の膨張時(バッテリ4の充電時)に発生する圧縮応力σcomを負方向で表している。
図4では、表面応力σsurfのすべての変化が直線で示されているが、これは、表面応力σsurfの変化を模式的に示すものに過ぎない。実際には、降伏後の塑性領域(塑性変形が起こるSOC領域)でも表面応力σsurfの非線形的な変化が生じる(たとえば非特許文献1の図2参照)。図4に模式的に示す平行四辺形の外周は、図3に示したSOC−OCVカーブに挟まれた領域(中間領域A)の外周と対応している。
リチウム量がθ2,minである状態からの充電開始直後には、表面応力σsurfの大きさが線形に変化する。この充電中のリチウム量θの領域(θ2,min≦θ≦Xの領域)では、負極活物質表面の弾性変形が起こっていると考えられる。これに対し、それ以降の領域(X<θ≦θ2,maxの領域)においては、表面応力σsurfの大きさは、ほぼ一定である。このとき、負極活物質の表面が弾性変形を超えて塑性変形に至っていると考えられる。一方、バッテリ4の放電時においては、リチウム量がθ2,maxである状態からの放電開始直後の領域(Y≦θ≦θ2,maxの領域)では負極活物質の表面で弾性変形が起こり、それ以降の領域(θ2,min≦θ<Yの領域)では負極活物質の表面の塑性変形が起こっていると考えられる。
バッテリ4の充電継続時には、主に、負極活物質表面に圧縮降伏応力σcomが発生し(表面応力σsurfが圧縮降伏応力となり)、表面応力σsurfが発生していない理想的(仮想的)な状態と比べて、負極開放電位Uが低下する。以下では、表面応力σsurfが発生していない理想的な状態を「理想状態」とも称する。理想状態と比べて負極開放電位Uが低下すると、バッテリ4のOCVが上昇する。一方、バッテリ4の放電継続時には、主に、負極活物質表面に引っ張り降伏応力σtenが発生し(表面応力σsurfが引っ張り降伏応力となり)、理想状態と比べて、負極開放電位Uが上昇する。その結果、バッテリ4のOCVが低下する。
以上のメカニズムに従い、負極活物質がシリコン系材料であるバッテリ4では、そのヒステリシスに起因して電池の充電OCVと放電OCVとの乖離が顕在化する。そのため、この負極ヒステリシスの影響を考慮して、バッテリ4の負極開放電位Uを高精度に算出すれば、バッテリ4の正極開放電位Uと負極開放電位Uとの差(=U−U)であるバッテリ4のOCVについても高精度に算出することができる。
<電池モデル>
次に、本実施の形態においてバッテリ4の内部状態の推定に用いられる電池モデル(活物質モデル)について詳細に説明する。本実施の形態では、正極を1つの活物質(1粒子)により代表して表すとともに、負極を別の1つの活物質(別の1粒子)により代表して表す電池モデルが採用される。
図5は、本実施の形態における電池モデルを説明するための図である。図5を参照して、本実施の形態における電池モデルでは、バッテリ4の正極が正極活物質(たとえば三元系材料)からなる1粒子として表される。この粒子を簡単のため「正極粒子1」と記載する。一方、負極も負極活物質(シリコン系材料)からなる1粒子として表される。この粒子を「負極粒子2」と記載する。正極粒子1の電位を「正極電位V」と記載し、負極粒子2の電位を「負極電位V」と記載する。
図5にはバッテリ4の放電時の様子が示されている。バッテリ4の放電時には、負極粒子2からリチウムイオン(Liで示す)が脱離する一方で、正極粒子1にリチウムイオンが挿入される。このとき、バッテリ4には総電流Iが流れる。(図示しないが、バッテリ4の充電時には、電流(総電流I)の向きが図5に示した向きとは逆になる。なお、本明細書では、充電時の電流は負とし、放電時の電流を正としている。
以下に説明するように、本実施の形態における電池モデルでは、正極粒子1および負極粒子2の各々の内部におけるリチウム濃度分布が算出される。
図6は、正極粒子1および負極粒子2の内部におけるリチウム濃度分布の算出手法を説明するための図である。図6を参照して、本実施の形態では、球状の正極粒子1の内部において、極座標の周方向のリチウム濃度分布は一様と仮定され、極座標の径方向のリチウム濃度分布のみが考慮される。言い換えると、正極粒子1の内部モデルは、リチウムの移動方向を径方向に限定した1次元モデルである。
正極粒子1は、その径方向にN個(N:2以上の自然数)の領域に仮想的に分割される。各領域は、添字k(k=1〜N)により互いに区別される。領域kにおけるリチウム濃度c1kは、正極粒子1の径方向における領域kの位置r1kと、時間tとの関数として表される(下記式(1)参照)。
Figure 2020047586
詳細な算出手法については後述するが、本実施の形態では、各領域kのリチウム濃度cs1kが算出され(すなわちリチウム濃度分布が算出され)、さらに、算出されたリチウム濃度c1kが規格化される。具体的には、式(2)に示すように、リチウム濃度の最大値(以下、「限界リチウム濃度」と称する)c1,maxに対するリチウム濃度c1kの算出値の比率が領域k毎に算出される。限界リチウム濃度c1,maxは、正極活物質の種類に応じて定まる濃度であり、文献により既知である。
Figure 2020047586
以下では、規格化後の値であるθ1kを領域kの「局所リチウム量」と称する。局所リチウム量θ1kは、正極粒子1の領域kに含まれるリチウム量に応じて0〜1の範囲内の値を取る。また、k=Nである最外周領域N(すなわち正極粒子1の表面)における局所リチウム量θ1Nを「表面リチウム量θ1_surf」と称する。さらに、式(3)に示すように、領域k(k=1〜N)の体積ν1kと局所リチウム量θ1kとの積の合計を求め、その合計を正極粒子1の体積(正極活物質の体積)で割った値を「平均リチウム量」と称し、θ1_aveで表す。
Figure 2020047586
図6では正極活物質を表す粒子(正極粒子1)を例に説明したが、負極活物質を表す粒子(負極粒子2)の内部におけるリチウム濃度分布および局所リチウム量(の分布)の算出手法も同等である。なお、正極粒子1と負極粒子2との間で領域の分割数が互いに異なってもよいが、本実施の形態では、説明の簡易化のため、分割数がいずれもNであるとしている。
図7は、電池モデルに使用されるパラメータ(変数および定数)を説明するための図である。図8は、電池モデルに使用される添字(下付き添字)を説明するための図である。図7および図8に示すように、添字iは、正極粒子1と負極粒子2とを互いに区別するためのものであり、i=1,2のいずれかに定められる。i=1の場合には正極粒子1における値であることを意味し、i=2の場合には負極粒子2における値であることを意味する。また、電池モデルに使用されるパラメータのうち、添字eが付されたものは電解液中の値であることを意味し、添字sが付されたものは活物質中の値であることを意味する。
<機能ブロック>
電位算出処理により算出される各種電位成分は様々な処理や制御に使用され得るが、本実施の形態では、「電位算出処理」の結果に基づいてバッテリ4のSOCを推定する「SOC推定処理」を実行する構成について説明する。
図9は、本実施の形態における電位算出処理およびSOC推定処理に関するECU100の機能ブロック図である。図9を参照して、ECU100は、パラメータ設定部110と、交換電流密度算出部121と、反応過電圧算出部122と、濃度分布算出部131と、リチウム量算出部132と、表面応力算出部133と、開放電位変化量算出部134と、開放電位算出部135と、塩濃度差算出部141と、塩濃度過電圧算出部142と、収束条件判定部151と、電流設定部152と、SOC推定部160とを含む。
パラメータ設定部110は、他の機能ブロックによる演算に用いられるパラメータを出力する。具体的には、パラメータ設定部110は、電圧センサ71からバッテリ4の電圧VBを受けるとともに、温度センサ72から電池モジュール(図示せず)の温度TBを受ける。パラメータ設定部110は、電圧VBをバッテリ4の測定電圧Vmeasとして設定するとともに、温度TBを絶対温度T(単位:ケルビン)に換算する。測定電圧Vmeasおよび絶対温度T(または温度TB)は、他の機能ブロックに出力される。なお、絶対温度Tは多くの機能ブロックにより出力されるので、図面が煩雑になるのを防ぐため、絶対温度Tの伝達を示す矢印の図示は省略されている。
それに加えて、パラメータ設定部110は、拡散係数Ds1,Ds2を濃度分布算出部131に出力する。拡散係数Ds1,Ds2としては、それぞれ、局所リチウム量θ,θに応じて異なる値(平均リチウム量であってもよいし表面リチウム量であってもよい)を設定することが好ましい。
詳細は後述するが、収束条件判定部151および電流設定部152により実行される反復法による演算処理では、可変に設定されるパラメータとして総電流Iが用いられる。パラメータ設定部110は、前回演算時に電流設定部152により設定された電流(総電流I)を受け、この電流を今回演算時に使用するパラメータとして他の機能ブロックに出力する。
交換電流密度算出部121は、パラメータ設定部110から絶対温度Tを受けるとともに、リチウム量算出部132から、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfおよび負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfを受ける。交換電流密度算出部121は、他の機能ブロックから受けたパラメータに基づいて、正極粒子1の交換電流密度i0_1および負極粒子2の交換電流密度i0_2を算出する。
より詳細には、交換電流密度i0_1とは、正極粒子1における酸化反応に対応するアノード電流密度と、正極粒子1における還元反応に対応するカソード電流密度とが等しくなるときの電流密度である。交換電流密度i0_1は、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfおよび絶対温度Tに依存する特性を有する。したがって、交換電流密度i0_1と表面リチウム量θ1_surfと絶対温度Tとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、リチウム量算出部132により算出される表面リチウム量θ1_surf(後述)と、絶対温度Tとから、交換電流密度i0_1を算出することができる。負極粒子2の交換電流密度i0_2も同様であるため、説明は繰り返さない。
反応過電圧算出部122は、パラメータ設定部110から絶対温度Tを受けるとともに、パラメータ設定部110から総電流Iを受ける。また、交換電流密度算出部121から交換電流密度i0_1,i0_2を受ける。そして、反応過電圧算出部122は、バトラー・ボルマー(Butler-Volmer)の関係式から導かれる下記式(4)および式(5)に従って、正極粒子1の反応過電圧(正極過電圧)ηと、負極粒子2の反応過電圧(負極過電圧)ηとをそれぞれ算出する。なお、反応過電圧とは、活性化過電圧とも呼ばれ、電荷移動反応(リチウムの挿入/脱離反応)に関連する過電圧である。算出された各反応過電圧η,ηは、収束条件判定部151に出力される。
Figure 2020047586
濃度分布算出部131は、パラメータ設定部110から正極粒子1におけるリチウムの拡散係数Ds1を受ける。濃度分布算出部131は、正極活物質(正極粒子1)を球として扱った極座標系の拡散方程式である下記式(6)を時間発展的に解くことによって、正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。正極粒子1の表面(位置r=R)におけるリチウム濃度の変化量は総電流Iに比例することから、拡散方程式(6)の境界条件は、式(7)のように設定される。
Figure 2020047586
一方、負極粒子2についての極座標系の拡散方程式は、式(8)のように表される。式(8)は、表面応力σsurfにより生じる負極粒子2内でのリチウムの拡散を考慮するための拡散項を右辺第2項に含む点において、正極粒子1についての拡散方程式(式(6))と異なる。
Figure 2020047586
より詳細には、表面応力σsurfに由来する拡散項は、電解液中での負極粒子2の静水圧応力σ(r)を用いて下記式(9)のように表される。式(9)では、負極活物質(負極粒子2)が塑性変形しないと仮定し、弾性限界内での負極粒子2のヤング率およびポアソン比をEおよびνでそれぞれ表している。また、負極粒子2が周辺部材から受ける合計応力がFexにより表されている。
Figure 2020047586
静水圧応力σ(r)を表す式(9)を拡散方程式である上記式(8)に代入すると、式(8)は以下のように変形される(下記式(10)参照)。
Figure 2020047586
式(10)は、下記式(11)により定義される実効拡散係数Ds2 effを用いて下記式(12)のように変形される。実効拡散係数Ds2 effは正の値であることから、式(12)により、表面応力σsurfが負極粒子2内でのリチウムの拡散を速める方向に作用することが分かる。また、表面応力σsurfの影響が負極粒子2内の各点(拡散方程式が演算される各格子点)におけるリチウム濃度cs2に応じて定まることも分かる。
Figure 2020047586
なお、上記式(12)の拡散方程式の境界条件は、下記式(13)のように静水圧応力σ(r)に依存する項をさらに含む点において、正極粒子1についての境界条件(式(7)参照)と異なる。
Figure 2020047586
このように、濃度分布算出部131は、2粒子(正極粒子1および負極粒子2)の各々の内部におけるリチウム濃度分布を別々に算出する。算出されたリチウム濃度分布は、リチウム量算出部132に出力される。
リチウム量算出部132は、濃度分布算出部131から2粒子の各々の内部におけるリチウム濃度分布(cs1,cs2)を受け、各種リチウム量を算出して他の機能ブロックに出力する。
具体的には、リチウム量算出部132は、正極粒子1のリチウム濃度分布cs1に基づいて正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfを算出する(上記式(2)参照)。同様に、リチウム量算出部132は、負極粒子2のリチウム濃度分布cs2に基づいて負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfを算出する。算出された表面リチウム量θ1_surf,θ2_surfは、開放電位算出部135に出力される。
また、リチウム量算出部132は、上記式(3)に従って、正極粒子1のリチウム濃度分布cs1に基づいて平均リチウム量θ1_aveを算出する。同様に、リチウム量算出部132は、負極粒子2のリチウム濃度分布cs2に基づいて負極粒子2の平均リチウム量θ2_aveを算出する。算出された平均リチウム量θ2_aveは、表面応力算出部133に出力される。
表面応力算出部133は、リチウム量算出部132からの平均リチウム量θ2_aveに基づいて表面応力σsurfを算出する。表面応力σsurfの算出手法については後に詳細に説明する。算出された表面応力σsurfは、開放電位変化量算出部134に出力される。
開放電位変化量算出部134は、表面応力算出部133からの表面応力σsurfに基づいて開放電位変化量ΔVstressを算出する。開放電位変化量ΔVstressとは、表面応力σsurfによる負極粒子2の開放電位の変化量である。表面応力σsurfが発生していない状態を「理想状態」と呼び、理想状態での負極粒子2の開放電位を「理想開放電位U2_sta」と呼ぶことにすると、開放電位変化量ΔVstressとは、理想開放電位U2_staを基準とした、表面応力σsurfによる負極粒子2の開放電位のずれ量であるとも言い換えられる。開放電位変化量ΔVstressは、リチウム1モル当たりのシリコン系化合物(SiO)の体積変化量Ωと、ファラデー定数Fとを用いて、式(14)に従って表面応力σsurfから算出される。算出された開放電位変化量ΔVstressは、開放電位算出部135に出力される。
Figure 2020047586
開放電位算出部135は、リチウム量算出部132からの正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfに基づいて正極粒子1の開放電位Uを算出する。より具体的には、正極粒子1は、その径方向にN個の領域に仮想的に分割されているが、正極粒子1の開放電位Uは、最外周領域Nである正極粒子1の表面における局所リチウム量θ1N(表面リチウム量θ1_surf)に応じて定まる(下記式(15)参照)。そのため、開放電位Uと表面リチウム量θ1_surfとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を事前実験により作成することによって、表面リチウム量θ1_surfから開放電位Uを算出することができる。
Figure 2020047586
一方、負極粒子2の開放電位Uを算出する際には、表面応力σsurfの影響が考慮される。開放電位Uは、下記式(16)に示すように、表面応力σsurfが発生していない状態(理想状態)での負極粒子2の開放電位(理想開放電位)U2_staに開放電位変化量ΔVstressを加算することにより算出される。式(15)および式(16)に従ってそれぞれ算出された開放電位U,Uは、収束条件判定部151に出力される。
Figure 2020047586
バッテリ4の充放電に伴い電解液中のリチウム塩の濃度cが変化し、電解液中にリチウム塩の濃度勾配が生じ得る。そうすると、正極活物質(正極粒子1)と負極活物質(負極粒子2)との間にリチウム塩の濃度勾配に起因する塩濃度過電圧ΔVが生じ、正極電位Vおよび負極電位Vに影響を与える可能性がある。
塩濃度差算出部141は、正極活物質と負極活物質との間のリチウム塩の濃度差Δcを算出する。リチウム塩の濃度差Δcは、電解液の拡散係数D、電解液の体積分率ε、リチウムイオンの輸率t および電流(総電流I)に依存するため、たとえば以下の式(17)〜式(19)に従って算出することができる。漸化式である式(17)が所定の演算周期毎に繰り返し解かれるところ、式(17)〜式(19)では、その演算周期をΔτで表している。なお、肩(右上)にtが付されたパラメータは今回の演算時のものであることを示し、肩に(t−Δτ)が付されたパラメータは前回の演算時のものであることを示す。算出された濃度差Δcは、塩濃度過電圧算出部142に出力される。
Figure 2020047586
塩濃度過電圧算出部142は、下記式(20)に従い、塩濃度差算出部141により算出されたリチウム塩の濃度差Δcから塩濃度過電圧ΔVを算出する。算出された塩濃度過電圧ΔVは、電流設定部152に出力される。
Figure 2020047586
収束条件判定部151および電流設定部152は、バッテリ4の各種電位成分を算出するための反復法の演算処理を実行する。本実施の形態では、代表的な反復法の1つであるニュートン法が用いられる。ただし、反復法の種類はこれに限定されるものではなく、2分法または割線法などの他の非線形方程式の解法を用いてもよい。
前述した各機能ブロックによる演算では、前回演算時に電流設定部152により設定された総電流Iが用いられている。収束条件判定部151は、総電流Iに基づく各種電位成分の算出結果を他の機能ブロックから受ける。より詳細には、収束条件判定部151は、反応過電圧算出部122から反応過電圧η,ηを受け(式(4)および式(5)参照)、開放電位算出部135から開放電位U,Uを受け(式(15)および式(16)参照)、パラメータ設定部110から測定電圧Vmeas(バッテリ4の電圧の測定値)を受け、塩濃度過電圧算出部142から塩濃度過電圧ΔVを受ける(式(20)参照)。また、図示しないが、収束条件判定部151は、パラメータ設定部110から直流抵抗Rを受ける(詳細は後述)。
収束条件判定部151は、電圧と電流との間に成立する下記関係式(21)に従って、正極電位Vと、負極電位Vと、直流抵抗Rによる電圧降下量(=I)と、塩濃度過電圧ΔVとから、バッテリ4の電圧を算出する。算出された電圧を測定電圧Vmeas(電圧センサ71による測定値)と区別して「演算電圧Vcalc」と記載する。
Figure 2020047586
式(21)における正極電位Vは、下記式(22)により算出される。負極電位Vは、下記式(23)により算出される。
Figure 2020047586
そして、収束条件判定部151は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとを比較することによって、反復法の収束条件が満たされているかどうかを判定する。具体的には、収束条件判定部151は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとがほぼ一致しているか(これら電圧間の誤差が所定値PD未満であるか)どうかを判定する。演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとの間の誤差(=|Vcalc−Vmeas|)が所定値PD以上である場合には、収束条件判定部151は、反復法の収束条件が満たされていないとする判定結果を電流設定部152に出力する。
電流設定部152は、収束条件が満たされていない旨の判定結果を収束条件判定部151から受けると、総電流Iを次回演算時に使用するための値に更新する。より詳細には、電流設定部152は、ニュートン法のアルゴリズムを用いて、前回演算時および今回演算時に使用された総電流Iから、次回演算時に使用される総電流Iを設定する。このようにして更新された総電流Iは、パラメータ設定部110に出力され、次回演算時に用いられることとなる。
このようにして、収束条件判定部151および電流設定部152は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとの間の誤差が所定値PD未満になるまで反復的に演算処理を行なう。上記誤差が、所定値PD未満になると、反復演算処理が収束したとして、収束条件判定部151は、SOC推定に必要なパラメータ(正極開放電位U、負極開放電位U、表面リチウム量θi_surfおよび開放電位変化量ΔVstress)をSOC推定部160に出力する。
SOC推定部160は、正極粒子1の各種リチウム量(θ1_ave,θ1_SOC0,θ1_SOC100)に基づいてバッテリ4のSOCを推定する。このSOC推定手法については後述する。
<表面応力の算出>
続いて、表面応力σsurfの算出手法について詳細に説明する。以下では、バッテリ4の負極のリチウム量θ(たとえば平均リチウム量θ2_ave)と負極開放電位Uとの組合せ(θ,U)として負極リチウム量−負極開放電位特性図上に表されるバッテリ4の状態を「状態P」と記載する。特に、m(mは自然数)回目の演算時におけるバッテリ4の状態Pを「P(m)」と表す。本実施の形態では、バッテリ4の状態Pの遷移に着目することによって表面応力σsurfが算出される。
図10は、負極表面リチウム量−負極開放電位特性図上におけるバッテリ4の状態Pの遷移を説明するための概念図である。図10A〜図10Eおよび後の図11では、横軸に負極粒子のリチウム量θが示され、縦軸に負極開放電位Uが示されている。図10Aでは、バッテリ4が充電され、バッテリ4の状態P(m)が充電曲線(破線で示す)上にプロットされる例が示されている。
状態P(m)からバッテリ4の充電が継続された場合、(m+1)回目の演算周期における状態P(m+1)は、図10Bに示すように充電曲線上に維持される。
一方、図10Aに示す状態P(m)からバッテリ4が放電された場合には、図10Cに示すように、(m+1)回目の演算周期における状態P(m+1)は、充電曲線から外れ、充電曲線と放電曲線(1点鎖線で示す)との間の領域内にプロットされる。バッテリ4の放電が継続されると、たとえば(m+2)回目の演算周期において、状態P(m+2)が放電曲線に到達する(図10D参照)。その後もバッテリ4の放電が継続された場合、バッテリ4の状態P(m+3)は、放電曲線上に維持される(図10E参照)。
図11は、表面応力σsurfの算出手法を説明するための図である。図11には、状態P(1)〜P(8)の順にバッテリ4の充放電が行なわれた例が示されている。
より詳細には、まず、放電曲線上の状態P(1)からバッテリ4が放電され、その放電が状態P(3)まで継続される。この間の状態P(2),P(3)は、放電曲線上に維持される。そして、状態P(3)において、放電から充電への切り替えが行なわれる。充電が開始されてからの状態P(4),P(5)は、充電曲線と放電曲線との間の領域内を遷移する。その後、状態P(6)が充電曲線上にプロットされる。バッテリ4の充電がさらに継続されている間、状態Pは、充電曲線上に維持される(状態P(7),P(8)参照)。
放電曲線上にプロットされる状態P(1)〜P(3)において、表面応力σsurfは、塑性変形域(図4参照)内で降伏しており、下記式(24)に示すように引っ張り降伏応力σtenと等しい。
Figure 2020047586
一方、充電曲線上の状態P(6)〜P(8)における表面応力σsurfは、圧縮降伏応力σcomにて降伏している(下記式(25)参照)。
Figure 2020047586
これに対し、バッテリ4の状態Pが充電曲線上にも放電曲線上にもプロットされていない場合、すなわち、状態Pが充電曲線と放電曲線との間の領域内にプロットされる場合(状態P(4),P(5)参照)の表面応力σsurfをどのように算出するかが問題となる。本実施の形態においては、このような領域内の表面応力σsurfの算出に、バッテリ4の充放電方向が切り替えられたときの負極粒子2内の平均リチウム濃度cs2_aveと、そのときの表面応力σsurfとが用いられる。以下では、バッテリ4の充放電方向が切り替えられたときの状態Pにおける平均リチウム濃度cs2_aveを「基準リチウム濃度cREF」と記載し、当該状態Pにおける表面応力σsurfを「基準表面応力σREF」と記載する。
図11に示す例では、バッテリ4の充放電方向が切り替えられたときの状態Pとは、放電から充電への切り替え時の状態P(3)である。状態P(4),P(5)を算出する際には、状態P(3)の時点での平均リチウム濃度cs2_aveが上記式(8)〜式(10)により既に算出されている。したがって、状態P(3)における算出済みの平均リチウム濃度cs2_aveが基準リチウム濃度cREFとされる。また、状態P(3)における基準表面応力σREFは、引っ張り降伏応力σtenである(上記式(24)参照)。
充電曲線と放電曲線との間の領域内の状態Pでは、平均リチウム濃度cs2_aveから基準リチウム濃度cREFを差し引いたリチウム濃度差(c2_ave−cREF)と表面応力σsurfとの間に、式(26)のように表される線形関係が存在する。
Figure 2020047586
この線形関係は、バッテリ4の充放電方向が切り替えられたときの状態Pを基準とした場合に、表面応力σsurfの変化量が負極粒子2内のリチウム含有量の変化量(負極粒子2へのリチウム挿入量または負極粒子2からのリチウム脱離量)に比例することを表すと理解される。
比例定数αは、負極活物質であるシリコン系化合物および周辺部材の機械的特性に応じて定まるパラメータであり、実験により求めることができる。より詳細には、比例定数αは、負極活物質の温度(≒バッテリ4の温度TB)と、負極活物質内のリチウム含有量(言い換えれば、平均リチウム濃度cs2_ave)とに応じて変化し得る。そのため、バッテリ4の温度TBおよび平均リチウム濃度cs2_aveの様々な組合せ毎に比例定数αが求められ、温度TBと平均リチウム濃度cs2_aveと比例定数αとの相関関係を示すマップ(または関係式)が準備される。温度TBおよび平均リチウム濃度cs2_aveのうちのいずれか一方と比例定数αとの相関関係を示すマップを準備してもよい。
バッテリ4の温度TBおよび平均リチウム濃度cs2_aveと比例定数α(または比例定数αθ)との相関関係を示すマップが準備され、ECU100のメモリ100Bに予め格納されている。そのため、当該マップを参照することにより、温度TB(温度センサ72による測定値)と平均リチウム濃度cs2_ave(前回演算時における推定値)とから比例定数αを算出することができる。そして、比例定数α、平均リチウム濃度cs2_ave、基準リチウム濃度cREFおよび基準表面応力σREFを上記式(26)に代入することによって、上記領域内での表面応力σsurfを算出することができる。なお、表面応力σsurfの算出フローについては図14において詳細に説明する。
なお、リチウム濃度とリチウム量とは上記式(2)のように置き換え可能であるため、負極粒子2の平均リチウム量θ2_aveを用いて上記式(26)を下記式(27)のように変形してもよい。
Figure 2020047586
<SOC推定フロー>
図12は、本実施の形態においてバッテリ4のSOCを推定するための一連の処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、たとえば所定周期が経過する度にメインルーチン(図示せず)から呼び出され、ECU100により繰り返し実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップ(以下「S」と略す)は、基本的にはECU100によるソフトウェア処理によって実現されるが、ECU100内に作製された専用のハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
図12を参照して、以下に説明するS101〜S106の処理が本実施の形態に係る単極電位算出処理に相当する。まず、S101において、ECU100は、電圧センサ71からバッテリ4の電圧VBを取得するとともに、温度センサ72からバッテリ4の温度TBを取得する。この電圧VBが測定電圧Vmeasとして用いられるとともに、温度TBが絶対温度Tに換算される。なお、絶対温度Tは、現時刻(今回演算時)の温度TBから算出されてもよいし、予め定められた直近の所定期間内(たとえば30分間)の温度TBの加重平均から算出されてもよい。
S102において、ECU100は、正極粒子1の交換電流密度i0_1を算出する。図9にて説明したように、交換電流密度i0_1は、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfと絶対温度Tとに依存する。したがって、ECU100は、交換電流密度i0_1と表面リチウム量θ1_surfと絶対温度Tとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することにより、前回演算時に算出された表面リチウム量θ1_surf(図13のS303参照)と、絶対温度Tとから、交換電流密度i0_1を算出する。ECU100は、負極粒子2の交換電流密度i0_2についても同様に、負極粒子2に対応するマップ(図示せず)を参照することにより算出する。
S103において、ECU100は、バッテリ4の直流抵抗Rを算出する。直流抵抗Rとは、リチウムイオンおよび電子が正極活物質と負極活物質との間を移動するときの抵抗成分や金属部の抵抗成分である。直流抵抗Rは、絶対温度Tおよびリチウム量θに依存して変化する特性を有する。したがって、温度毎の直流抵抗Rの測定結果に基づき、直流抵抗Rと絶対温度Tとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、絶対温度Tから直流抵抗Rを算出することができる。
S104において、ECU100は、電解液中における正極活物質と負極活物質との間のリチウム塩の濃度差Δcを算出する(上記式(17)〜式(19)参照)。さらに、ECU100は、上記式(20)に従い、リチウム塩の濃度差Δcから塩濃度過電圧ΔVを算出する(S105)。これらの処理については図9にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
S106において、ECU100は、正極粒子1および負極粒子2を流れる総電流Iを決定するための収束演算処理を実行する。そして、S200において、ECU100は、電位算出処理の結果に基づいて、バッテリ4のSOCを推定する(SOC推定処理)。このSOC推定処理については後述する。
図13は、収束演算処理(図12のS106の処理)を示すフローチャートである。図13を参照して、S301において、ECU100は、上記式(4)に従って、正極粒子1の交換電流密度i0_1および絶対温度Tから正極粒子1の反応過電圧ηを算出する。また、ECU100は、上記式(5)に従って、負極粒子2の交換電流密度i0_2および絶対温度Tから負極粒子2の反応過電圧ηを算出する。
S302において、ECU100は、正極粒子1について、拡散方程式である上記式(6)に正極粒子1におけるリチウムの拡散係数Ds1を代入し、総電流Iに応じて定まる境界条件(上記式(7)参照)下で解くことによって、正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。なお、拡散係数Ds1は、正極粒子1のリチウム量θおよび絶対温度Tに依存する。よって、予め準備されたマップ(図示せず)を用いて、前回演算時のリチウム量θおよび絶対温度Tから拡散係数Ds1を算出することができる。
さらに、ECU100は、実効拡散係数Ds2 eff(式(13)参照)が代入された拡散方程式(11)を境界条件(式(12)参照)下で解くことによって、負極粒子2の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。
S303において、ECU100は、S302にて算出された正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布に基づいて、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfを算出する(上記式(2)参照)。同様に、ECU100は、負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfを算出する。
S304において、ECU100は、正極粒子1の開放電位Uとリチウム量θとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することによって、S303にて算出された表面リチウム量θ1_surfから正極開放電位Uを算出する(式(15)参照)。
S305において、ECU100は、表面応力σsurf=0である理想状態における負極粒子2の開放電位Uとリチウム量θとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することによって、表面リチウム量θ2_surfから理想状態における開放電位U2_staを算出する。
S306において、ECU100は、表面応力σsurfを算出するための「表面応力算出処理」を実行する。
図14は、表面応力算出処理(図13のS306の処理)を示すフローチャートである。図14を参照して、S401において、ECU100は、負極粒子2の平均リチウム量θ2_aveを算出する。平均リチウム量θ2_aveは、全領域k(k=1〜N)についてリチウム濃度cs2kから局所リチウム量θ2kを算出し、算出された局所リチウム量θ2kの加重平均により算出される(正極粒子1に関する上記式(3)参照)。
S402において、ECU100は、前回演算時までにメモリ100Bに格納された基準リチウム量θREFおよび基準表面応力σREFを読み出す(後述するS413の処理を参照)。
S403において、ECU100は、マップ(図示せず)を参照することによって、バッテリ4の温度TBおよび平均リチウム濃度cs2_ave(前回演算時の値)から比例定数αθを算出する。なお、負極活物質および周辺部材の物性値(ヤング率など)から比例定数αθを算出(シミュレーション予測)することも可能である。ただし、比例定数αθを可変とすることは必須ではなく、予め定められた固定値を比例定数αθとして用いてもよい。
S404において、ECU100は、上記式(27)に従って、比例定数αθおよび平均リチウム量θ2_aveから表面応力σsurfを算出する。この表面応力σsurfは、負極活物質の降伏を考慮せずに仮に算出されたものであり、以降の処理により、負極活物質の降伏を考慮した表面応力σsurfが決定(本算出)される。
S405において、ECU100は、S404にて仮算出された表面応力σsurfと、圧縮降伏応力σcomとを比較する。図4に示したような表面応力σsurfの符号を考慮した上での表面応力σsurfが圧縮降伏応力σcom以下である場合、すなわち、表面応力σsurfの大きさが圧縮降伏応力σcomの大きさ以上である場合(S444においてYES)、ECU100は、負極活物質が降伏しているとして、表面応力σsurfが圧縮降伏応力σcomに等しい(σsurf=σcom)と判定する(S406)。つまり、S404にて仮算出された表面応力σsurfは採用されず、それに代えて圧縮降伏応力σcomが採用される。そして、ECU100は、圧縮降伏応力σcomを新たな基準表面応力σREFとして設定することにより、基準表面応力σREFを更新する。さらに、ECU100は、S401にて算出された平均リチウム量θ2_aveを基準リチウム量θREFとして設定することにより、基準リチウム量θREFを更新する(S407)。
一方、符号を考慮した上での表面応力σsurfが圧縮降伏応力σcomよりも大きい場合(表面応力σsurfの大きさが圧縮降伏応力σcomの大きさ未満である場合)(S405においてNO)には、ECU100は、処理をS408に進め、表面応力σsurfと引っ張り降伏応力σtenとを比較する。
表面応力σsurfが引っ張り降伏応力σten以上である場合(S408においてYES)、ECU100は、負極活物質が降伏しており、表面応力σsurfが引っ張り降伏応力σtenに等しくなっていると判定する(S409)。そして、ECU100は、基準表面応力σREFを引っ張り降伏応力σtenにより更新するとともに、基準リチウム量θREFをS401にて算出された平均リチウム量θ2_aveにより更新する(S410)。
S408にて表面応力σsurfが引っ張り降伏応力σten未満である場合(S408においてNO)には、表面応力σsurfは、圧縮降伏応力σcomと引っ張り降伏応力σtenとの間の中間領域A内にあり(σcom<σsurf<σten)、負極活物質は降伏していない。よって、S404にて仮算出された表面応力σsurfが採用される(S411)。この場合には、基準表面応力σREFは更新されず、前回演算時(あるいは、それよりも前の演算時)に設定された基準表面応力σREFが維持される。また、基準リチウム量θREFの更新も行なわれない(S412)。
S407,S410,S412の処理のうちのいずれかの処理が実行されると、基準リチウム量θREFおよび基準表面応力σREFがメモリ100Bに格納される(S413)。その後、収束演算処理のS307(図13参照)に処理が戻される。
図13を再び参照して、S307において、ECU100は、負極粒子2の開放電位Uにおける表面応力σsurfの影響を考慮に入れるべく、上記式(14)に従って表面応力σsurfから開放電位変化量ΔVstressを算出する。
S308において、ECU100は、上記式(2)に従い、正極粒子1の反応過電圧ηと正極開放電位Uとの和を正極電位Vとして算出する。また、ECU100は、開放電位変化量ΔVstressを負極粒子2の理想開放電位U2_staに加算することによって負極開放電位Uを算出し(上記式(16)参照)、さらに、負極粒子2の反応過電圧ηと負極開放電位Uとの和を負極電位Vとして算出する(上記式(22)参照)。
S309において、ECU100は、上記式(21)に従い、正極電位Vと、負極電位Vと、直流抵抗Rによる電圧降下量(=I)と、塩濃度過電圧ΔVとから演算電圧Vcalcを算出する。
S310において、ECU100は、収束演算処理における反復演算が収束する条件(収束条件)が成立したか否かを判定する。具体的には、収束条件とは、S309にて算出された演算電圧Vcalcと、S101にて電圧センサ71から取得された測定電圧Vmeasとの差の絶対値(=|Vcalc−Vmeas|)が所定値PD未満であるとの条件である(|Vcalc−Vmeas|<PD)。
収束条件が成立していない場合(S310においてNO)、ECU100は、ニュートン法のアルゴリズムに従って総電流Iを更新し(S311)、S301に処理を戻す。一方、収束条件が成立すると(S310においてYES)、ECU100は、SOC推定処理(図12のS200の処理)を実行する。
図12を再び参照して、S200において、ECU100は、電位成分算出処理の結果に基づいてバッテリ4のSOCを推定するSOC推定処理を実行する。SOC推定処理は、たとえばS201,S202の処理を含む。
S201において、ECU100は、正極粒子1の平均リチウム量θ1_ave(収束所条件が成立したS302の処理にて算出された値)を取得するとともに、メモリ100Bに格納された既知のリチウム量θ1_SOC0,θ1_SOC100を読み出す。なお、リチウム量θ1_SOC0とは、SOC=0%に相当する正極粒子1のリチウム量であり、リチウム量θ1_SOC100とは、SOC=100%に相当する正極粒子1のリチウム量である。
そして、S202において、ECU100は、上記3つのリチウム量に基づいてバッテリ4のSOCを推定する。具体的には、下記式(28)を用いることによって、バッテリ4のSOCを算出することができる。
Figure 2020047586
以上のように、本実施の形態においては、負極粒子2に発生する表面応力σsurfの影響を考慮して負極開放電位Uが算出される。具体的には、表面応力σsurfによる負極粒子2の開放電位Uのずれ量を示す開放電位変化量ΔVstressが算出される(式(14)参照)。これにより、表面応力σsurfの影響を負極開放電位Uに正確に反映させることができるため(上記式(16)参照)、負極電位Vも高精度に算出することが可能になる。さらに、バッテリ4のSOCも高精度に推定することが可能になる(SOC推定処理)。このように、本実施の形態によれば、バッテリ4の内部状態を高精度に推定することができる。
[変形例1]
変形例1では、活物質表面に形成される電気二重層の影響を考慮して収束演算処理を実行する構成について説明する。この変形例では、総電流Iがリチウム生成(リチウムイオンの挿入および脱離)に関与する電流成分と、リチウム生成に関与しない電流成分とにさらに分配される。具体的には、正極粒子1について、総電流Iのうちリチウム生成に関与する電流を「反応電流I EC」と記載し、リチウム生成に関与しない電流を「キャパシタ電流I 」と記載すると、下記式(29)が成立する。
Figure 2020047586
また、正極粒子1に形成される電気二重層の静電容量をCと記載する。静電容量Cは、事前の評価により既知である。キャパシタ電流I は、下記式(30)のように表される。
Figure 2020047586
正極電位Vと正極開放電位Uと反応過電圧ηとの間には上記式(22)と同様の関係が成立する(下記式(31)参照)。ただし、正極過電圧ηでは、下記式(32)に示すように、総電流Iに代えて反応電流I ECが用いられる。
Figure 2020047586
負極側については、負極粒子2を流れる総電流Iを反応電流I ECとキャパシタ電流I とに区別する。そうすると、これらの電流間には下記式(33)が成立する。
Figure 2020047586
キャパシタ電流I は、負極粒子2に形成される静電容量Cと負極電位Vとにより下記式(34)のように表される。
Figure 2020047586
また、上記式(31)と同様の下記式(35)が成立する。ここでも、負極過電圧ηにおいて、総電流Iがキャパシタ電流I ECに置き換えられる(下記式(36)参照)。
Figure 2020047586
以上のように、変形例1においては、正極活物質の表面に形成される電気二重層の影響を考慮して、正極粒子1を流れる電流(総電流I)がキャパシタ電流I と反応電流I ECとに区別される。負極側についても同様に負極活物質の表面に形成される電気二重層の影響を考慮して、総電流Iがキャパシタ電流I と反応電流I ECとに区別される。そして、反応過電圧(η,η)の算出には、対応する反応電流(I EC,I EC)が用いられる。つまり、リチウムの挿入/脱離反応に応じて発生する電圧である反応過電圧の算出において、電気二重層を充放電するだけでリチウムの挿入/脱離には寄与しない電流成分(キャパシタ電流)の影響が除外される。これにより、前述の実施の形態と比べて、ECU100の演算負荷が増加し得るものの、各反応過電圧の算出精度を一層向上させることができる。
[変形例2]
実施の形態および変形例1では、拡散方程式を解くことで、正極粒子1および負極粒子2の各々の内部におけるリチウム濃度分布を算出すると説明した(図6参照)。変形例2においては、ECU100の演算負荷およびメモリ量を低減するための構成について説明する。
変形例2における電池モデルでは、正極粒子1について下記式(37)に示す拡散方程式(上記式(6)と同様の式)を境界条件(式(7)参照)下で解くことにより、正極粒子1におけるリチウム濃度分布が算出される。そして、正極粒子1の内部のリチウム濃度分布から、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfが算出される(上記式(2)参照)。
Figure 2020047586
一方、変形例2では、負極粒子2の内部におけるリチウムの拡散を簡易化する。そのため、負極粒子2についての拡散方程式(上記式(8)〜式(13)参照)は省略される。言い換えると、負極粒子2のリチウム濃度分布は一様と仮定される。
前述のように、負極粒子2の開放電位(負極開放電位U)は、負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfに応じて定まる(上記式(16)参照)。負極粒子2のリチウム濃度分布を一様と仮定して拡散方程式の立式を省略する場合、どのように負極開放電位Uを算出するかが課題となる。
一般に、正極活物質におけるリチウム濃度と負極活物質におけるリチウム濃度との間には、一方が上昇すると他方が低下するとの関係が存在する。変形例2における電池モデルでは、この関係を用いることで、正極活物質におけるリチウム濃度(正極粒子1のリチウム量θ)から負極活物質におけるリチウム濃度を算出する。
詳細には、変形例2における電池モデルでは、負極粒子2は、正極粒子1と異なり、複数の領域に仮想的に分割されておらず、その内部におけるリチウム濃度分布は考慮されない。そのため、負極粒子2の表面と、それ以外(負極粒子2の内部)とを区別せず、負極粒子2内のリチウム濃度を規格化した値をリチウム量θと記載する。
正極粒子1の容量と負極粒子2の容量との比(容量比)をθrateと記載すると、この容量比θrateは、固定値であるが、正極粒子1のリチウム量θと負極粒子2のリチウム量θとを用いて下記式(38)のように表すこともできる。なお、今回演算時における値には、右上(右肩)にtを付し、前回演算時における値には、右上に(t−Δt)を付すことによって、両者を区別している。
Figure 2020047586
続いて、負極粒子2のリチウム量θ が算出される。負極粒子2のリチウム量θ は、下記式(39)に従い、正極粒子1のリチウム量θ と、容量比θrateとを用いて算出することができる。なお、式(39)において、θ1_fixとは、リチウム量θの基準値であり、θ2_fixとは、リチウム量θの基準値(θ1_fix)に対応するリチウム量θの値である。これらの値は、いずれも実験により求められる。
Figure 2020047586
このように、変形例2では、正極粒子1のリチウム量θから負極粒子2のリチウム量θが算出される。これにより、負極粒子2についての拡散方程式を解くことが必要なくなるので、実施の形態と比べて、ECU100の演算負荷およびメモリ量を低減することができる。上記以外の処理は、実施の形態にて説明した処理と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
なお、実施の形態および、その変形例1,2では、液系のリチウムイオン二次電池を例に説明した。しかし、リチウムイオン二次電池は、液系に限定されず、ポリマー系であってもよいし全固体系であってもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 正極粒子、2 負極粒子、4 バッテリ、5 セル、6 監視ユニット、9 車両、10 二次電池システム、51 電池ケース、52 蓋体、53 正極端子、54 負極端子、55 電極体、56 正極、57 負極、58 セパレータ、71 電圧センサ、72 温度センサ、91,92 モータジェネレータ、93 エンジン、94 動力分割装置、95 駆動軸、96 駆動輪、100 ECU、100A CPU、100B メモリ、110 パラメータ設定部、121 交換電流密度算出部、122 反応過電圧算出部、131 濃度分布算出部、132 リチウム量算出部、133 表面応力算出部、134 開放電位変化量算出部、135 開放電位算出部、141 塩濃度差算出部、142 塩濃度過電圧算出部、151 収束条件判定部、152 電流設定部、160 SOC推定部。

Claims (1)

  1. 負極活物質がシリコン系材料からなる負極を有する二次電池と、
    前記二次電池の活物質モデルに基づいて前記二次電池の内部状態を推定するように構成された制御装置とを備え、
    前記制御装置は、
    前記負極活物質の内部における電荷担体の濃度分布を規定する拡散方程式を解くことによって前記負極活物質の内部の電荷担体量を算出し、
    前記負極活物質の内部の電荷担体量に応じて定まる前記負極活物質の表面応力に基づいて、前記負極活物質の開放電位変化量を算出し、
    前記負極活物質に表面応力が発生していない状態における前記負極活物質の開放電位と、前記開放電位変化量とから前記負極の開放電位を算出する、二次電池システム。
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