JP2017066524A - 耐食性に優れためっき鋼材 - Google Patents

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【課題】耐食性に優れためっき鋼材を提供する。【解決手段】鋼材と、鋼材の表面に形成されためっき層と、を有し、めっき層は、鋼材側から、界面合金層、中間合金層及び表面めっき層が順次形成されてなり、界面合金層は、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、中間合金層は、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、表面めっき層は、平均濃度で、Al:5質量%以下、残部が実質的にZn及び不純物からなり、界面合金層と中間合金層の厚さが合計で30μm以上であるめっき鋼材を採用する。【選択図】図2

Description

本発明は、優れた耐食性を有するめっき鋼材に関する。
耐食性に優れるめっき鋼材として、亜鉛系めっき鋼材がある。この亜鉛系めっき鋼材は広い用途で用いられており、その中でも純亜鉛めっき鋼材が最も多く使用されている。しかし耐食性に関する要求は高まる傾向にあり、従来の純亜鉛めっき鋼材ではその要求を満たすことが困難となっている。
このため、Zn−Al系合金をベースとする種々の組成の合金めっきが開発されている。このZn−Al系合金めっき鋼材は耐食性に優れており、鋼帯を連続溶融めっきすることにより、めっき鋼板として大量に生産されている。Zn−Al系合金めっきは、水素還元法を用いることで、鋼帯に対して連続的にめっきするのは比較的容易である。
一方、ボルト・ナット、H形鋼などの形鋼、溶接構造物等といった、連続めっきが困難な鋼材にめっきする場合は、めっき浴中に鋼材を浸漬する浸漬法が適用される。浸漬法には、1種類のめっき浴に鋼材を浸漬する一段式の浸漬めっき法と、2つの異なる種類のめっき浴に鋼材を順次浸漬する二段式の浸漬めっき法が知られている。
Alの含有率が4〜20質量%程度のZn−Al系合金めっきを浸漬めっき法で形成する場合には、例えば特許文献1に示される二段式の浸漬めっき方法が実用化されている。二段式の浸漬めっきは、通常、フラックス処理した鋼材に対して一段目の純Znめっきを行い、Znめっきの冷却後、あるいはZnめっき後直ちに、鋼材を二段目のZnAl合金浴に浸漬する。一段目のZnめっきで生成したFeZn合金は、二段目のめっきでFeZnAl合金に改質される。これにより合金層の耐食性が向上する。また、一段目のめっきでFeZn合金上に存在した純Znめっき層は、二段めっきの浴組成である耐食性に優れたZnAl合金に置き換えられる。このように、二段目のめっきによりめっき層は全体がAlを含む合金に変換され、めっき層の耐食性が向上する。
また、特許文献2,3には、めっき層にSiを含むAl−Zn系めっき鋼材を二段めっき法により製造する技術が開示されている。更に、特許文献4には、高耐食性を有し、二段めっき法により製造する、加工性に優れためっき鋼材が記載されている。
特許文献1〜4に記載されているように、現在普及している二段めっき方法は、2種類の溶融めっき浴設備を用いて一つのめっき製品を作るという、設備効率が非常に悪い製造方法となっている。効率、コストの面からは、一段でのめっきが望ましいことは言うまでもない。
しかし、一段式のZn−Al系合金浸漬めっき法は、めっき反応の制御が困難という問題がある。その理由の一つとして、鋼に含まれるFeとめっき浴中に含まれるAlとの反応性が高いことが挙げられる。めっき浴中のAlの濃度及び浴温にもよるが、めっき浴への鋼材の浸漬時間が長時間になると、FeAl合金が大量に生成し、めっき表面が平滑にならず、また、FeAl合金が表面に露出して灰色を呈するなどめっきの外観が悪化する。更に、めっき浴に多量のFeが溶出するため、いわゆるドロスがめっき浴中に生成する等の問題が生じる。
また、長さが数m、重さが数トンにもなる大きな被めっき物は、起重機で吊ってめっき浴に浸漬・引き上げるが、浸漬時間を秒単位で制御することは困難であるため、生成速度が比較的速いFeAl合金の生成量を制御することは容易ではない。
上記の問題に鑑みて、特許文献5には、1〜10重量%のAlを含むZnめっき浴により、高耐食めっきを一段めっき法により製造する技術が開示されている。また、特許文献6には、Alを含むZnめっき浴に更にMgを添加して一段式の浸漬めっきを行うことで、耐食性及び外観を向上させること、更にSiを添加することで合金化反応を抑制してめっきやけの発生を抑制できること、が示されている。
鋼中のFeとめっき浴のAlとの反応を抑制するには、特許文献6に記載されているように、めっき浴に微量のSiを添加することが効果的である。しかし、Siを添加するとFeとAlの反応性が大幅に低下するため、めっきの初期反応が起きにくくなり、不めっきが発生しやすくなる問題がある。またSiの反応抑制効果はあまりにも大きく、合金層が十分に形成されなくなるため、耐食性の重要な要素であるめっきの付着量を確保できない。
また、耐食性改善に顕著な効果があるMgも、少量添加するだけで、Siと同様にめっきの形成を阻害して不めっきを生じやすくする。
また、ZnAl系の浸漬めっきの困難さの要因として、Al及びFeの反応速度が高すぎることに加えて、めっき反応が不安定なことが挙げられる。フラックス処理した鋼材に対して低濃度のAlを含むZnめっき浴で浸漬めっきを行うと、浴温度、Al濃度、浸漬時間等のめっき条件により、めっき反応が異なってくる。反応形態として例えば、FeZn合金層が生成する場合、厚いFeAl合金層が急速に生成する場合、極く薄いFeAl合金が生成しその後の合金層の成長が観察されない場合、等がある。また、めっき反応が不安定ために、FeAl合金化反応がある時点で急激に活性化する場合もある。例えば、特許文献5,6のように、Al濃度が2%程度のZn−低Al浴に鋼材を浸漬すると、最初は鋼表面にFeAl合金層が生成し合金化は進まない。次の段階として、局部的にFeAl合金層が破壊されて、新たにFeAl合金層が形成され始める。この反応の不連続的変化がFeAl反応の難しさであり、工業的にめっきを行う場合の障害の一つになっている。
以上のように、FeAl反応の制御は、反応速度を抑制することに加えて、初期の反応を促進するとともに初期反応の次に起きる反応を連続して起こさせることが重要になる。
特許文献5には、鋼材の表面に、第一合金層と、第二合金層を有する構造用鋼材が記載されている。更に、特許文献6には、下地鋼の表面に、FeAl合金を含む合金層を介してZnが主体のめっき層が形成されためっき鋼材が記載されている。しかしながら、これらの鋼材では、上述のようにめっき形成時のFe及びAlの反応が不安定であることから、良好なめっき層が得られず、耐食性が十分ではなかった。
特開2010−70810号公報 特開2002−47548号公報 特開2002−47521号公報 特開2002−47549号公報 特開平7−216525号公報 特開2002−332555号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐食性に優れためっき鋼材を提供することを課題とする。
ZnAl系のめっき浴に浸漬することで製造されるめっき鋼材は、めっき層にFeAl合金が含まれる。このFeAl合金は、Znとは異なり、腐食しても構成元素が溶出しにくいなどの理由で高い防食性能を発揮するが、その一方でFe含有量が大きく、またZnによる犠牲防食効果がないために赤錆が発生しやすい。FeAl合金に発生する赤錆は、FeZn合金から発生する赤錆よりも広がりにくいため、めっきの消耗速度としては小さいが、外観を悪化させることには変わりがない。また、ある割合で、点状の赤錆が深さ方向に進行し、局部的に鋼が腐食することもあるため、深さ方向への錆の進行の防止も重要である。
さらに、低いコストで高い防食性能を得るには、厚めっきが可能である溶融めっき法が望ましいこと、一段のめっき処理によって形成されることが望ましいことは言うまでもない。
そこで、本発明者らが検討したところ、FeAl合金を主体とする合金層により鋼材表面を被覆し、更にFeAl合金の表面に微量のCrを含む中間合金層を形成し、更にその表面を犠牲防食能が高い、Zn濃度が大きな表面めっき層で被覆することで、3層構造のめっき層を発明するに至った。
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
[1] 鋼材と、前記鋼材の表面に形成されためっき層と、を有し、
前記めっき層は、前記鋼材側から、界面合金層、中間合金層及び表面めっき層が順次形成されてなり、
前記界面合金層は、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
前記中間合金層は、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
前記表面めっき層は、平均濃度で、Al:5質量%以下、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
前記界面合金層と前記中間合金層の厚さが合計で30μm以上であるめっき鋼材。
[2] 前記界面合金層は、Fe:30〜60質量%、Al:10〜35質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
前記中間合金層は、Fe:30〜60質量%、Al:10〜35質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
前記表面めっき層は、平均濃度で、Al:5質量%以下、残部が実質的にZn及び不純物からなる、[1]に記載のめっき鋼材。
[3] 前記界面合金層に更に、Mg:0.01〜5質量%が含まれ、
前記中間合金層に更に、Mg:0.01〜5質量%が含まれ、
前記表面めっき層に更に、Mg:0.1〜6質量%以下が含まれる[1]または[2]に記載のめっき鋼材。
[4] 前記界面合金層及び前記中間合金層がそれぞれ、FeAl合金相とZn相とを含み、
前記表面めっき層が、Zn相を含む[1]または[2]に記載のめっき鋼材。
[5] 前記界面合金層及び前記中間合金層がそれぞれ、FeAl合金相とZn相とを含み、
前記表面めっき層が、Zn相またはZnMg合金相の一方または両方を含む[3]に記載のめっき鋼材。
[6] 前記中間合金層が、Znのマトリクス中に断面視で直方体状のFeAl合金が凝集した構造であり、前記界面合金層が不定形なFeAl合金であることを特徴とする[1]乃至[5]の何れか一項に記載のめっき鋼材。
本発明によれば、耐食性に優れためっき鋼材を提供できる。
(a)は比較例のめっき鋼材に備えられためっき層の断面写真であり、(b)は実施例のめっき鋼材に備えられためっき層の断面写真である。 実施例のめっき鋼材に備えられためっき層の断面写真と、GDS分析によるめっき層の深さ方向の元素分析結果を示すグラフである。 フライス加工後のめっき鋼材に対する耐食試験結果を示す写真である。
本発明の実施形態のめっき鋼材は、鋼材表面を、FeAl合金を主体とする界面合金層で被覆し、更に界面合金層の表面にCrを含む中間合金層を形成し、更にその上に、犠牲防食能が高い、Zn濃度が大きな表面めっき層を形成することで、耐食性をより向上させたものである。Crを含む中間合金層によって赤錆の発生が抑制され、またこの中間合金層によって腐食反応が局部的に深さ方向に進行しにくくなり、早期に鋼が腐食することが抑制される。さらに中間合金層上にはZnを主体とする表面めっき層があり、化成処理性に優れるので、後塗装により更に鋼材の耐久性を高めることが可能になる。以下、本実施形態のめっき鋼材について説明する。
本実施形態のめっき鋼材は、鋼材と、鋼材の表面に形成されためっき層と、を備えて構成される。めっき層には、鋼材側から、界面合金層、中間合金層及び表面めっき層が順次形成されている。また、表面めっき層の表面には、化成処理がなされていてもよい。
本実施形態のめっきの対象物となる鋼材は、形状に特に制限はなく、鋼線等の線状、鋼板等の板状、ネット状、鋼管等の筒状、棒状等の三次元形状等、種々の形状を使用できる。例えば、ボルト、ナット、送電金具等の小型の基材から、高欄、親柱、橋梁用防護柵、道路標識、道路用カードフェンス、河川用フェンス、落石防止網、鋼管等の大型の基材まで使用できる。また、鋼材の材質は普通鋼であれば特に制限されない。
めっき層を構成する界面合金層は、鋼材の表面に形成されており、平均濃度で、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層である。また、界面合金層は、平均濃度で、Fe:30〜60質量%、Al:10〜35質量%、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層であってもよい。
界面合金層は、鋼材がめっき浴に接触した際に、主に、めっき浴に含まれるAlと鋼材に含まれるFeとが反応することによって形成される層であり、FeAlまたはFeAlからなる組成のFeAl合金相を含む。この合金は、いわゆる犠牲防食能力が低いため、後述する中間合金層との合計厚みを十分に確保して、主にバリアー機能により鋼を防食させる。必要な厚みは、界面合金層と中間合金層の合計で30μm以上であり、望ましくは50μm以上である。厚みが30μm未満ではバリア性を確保できなくなる。また、界面合金層の厚みは、界面合金層と中間合金層の合計厚みに対して、30〜99%の範囲が好ましく、50〜99%の範囲がより好ましく、70〜95%の範囲がより好ましい。
また、界面合金層がFe、Al、その他の混入元素及び不純物だけで構成されていると、赤錆が発生しやすい。赤錆は、めっき鋼材が加工されることによって鋼が露出された露出部の近傍の界面合金層から発生しやすい。このため、界面合金層には、ZnやMg等の犠牲防食機能を発揮する元素をある程度含有させる必要がある。従って、界面合金層の平均組成は質量%でFe:20〜60%、Al:10〜60%程度とし、残部に実質的にZnを含むものとすることが好ましい。また、界面合金層の平均組成は、Fe:30〜60%、Al:10〜35%程度とし、残部に実質的にZnを含むものであってもよい。Znは、Zn相として存在してもよく、Mgと合金を形成してZnMg合金相として存在してもよい。また、Znの一部はFeAl合金相中に固溶していてもよい。この結果、本実施形態の界面合金層は、主にFeAlまたはFeAlからなる合金相とともに、Zn相またはZnMg合金相を含むものとなる。これにより、界面合金層は、バリア効果だけでなく犠牲防食効果によっても鋼を防食できるものとなる。めっき浴に微量のCrを添加することで、Zn相またはZnMg相が形成されやすくなる。
また、界面合金層において「残部が実質的にZn」と定義したのは、界面合金層に、Fe、Al、Zn及び不純物以外に、溶融めっき浴に添加された元素の混入を許容することを意図している。界面合金層には例えば、溶融めっき浴中のCrが、耐食性に寄与しない程度のごく微量だけ混入してもよい。界面合金層におけるCr濃度は、中間合金層におけるCr濃度よりも大幅に少なくなる。この場合の界面合金層に含まれるCrは界面合金層の不純物に含めてよい。
界面合金層中のFe濃度及びAl濃度が上記範囲の下限未満になると、FeAl合金量が減少してバリア性が確保できなくなる。すなわち、Al濃度が10%未満になるか、Fe濃度が20%未満になると、厚いFeAl合金を安定して形成することは困難になる。また、界面合金層中にZn相が含まれる場合にAl濃度が少なくなると、Zn相またはZnMg相が消耗して犠牲防食能が低下した後のバリア性を確保できなくなる。更には、たとえ蒸着などの浸漬めっき以外の方法でめっき層を作成しても、Al濃度が10%未満では、単にAl、Fe、Zn等の金属が混合した状態となり、厚いFeAl合金を安定して形成することができない。以上の理由によりAl濃度は10%以上が好ましく、Fe濃度は20%以上が好ましい。また、Al量が15%以上になると、界面合金層の組成のばらつきが小さくなり、耐食性が安定するようになるのでより好ましい。
また、Fe濃度及びAl濃度が上記範囲の上限を超えると、相対的にZn量が減少し、Zn相またはZnMg相が析出しにくくなって犠牲防食効果が低下する。
界面合金層中のFe濃度は、40〜55質量%の範囲がより好ましい。また、Al濃度は20〜27%の範囲がより好ましい。
また、AlとFeの濃度が極端に異なる場合、例えばAl:15%−Fe:55%、Al:55%−Fe:25%などの場合も、安定したFeAl合金を形成できないため現実には製造は極めて困難である。なお、界面合金層におけるAl,Fe,Zn等の元素の合計が100%を超える組成がありえないことは言うまでもない。
更に、界面合金層には、Mg:0.01〜5質量%が含まれていてもよい。界面合金層にMgが0.01〜5質量%の範囲で含まれることにより、めっき層の耐食性をより向上できる。
次に、中間合金層は、平均濃度で、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層である。また、中間合金層は、平均濃度で、Fe:30〜60質量%、Al:10〜35質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層であってもよい。また、Mgを含んでいてもよい。
中間合金層は、界面合金層の上部に存在する層であり、界面合金層と同様にFeAl合金相として例えばFeAlまたはFeAlを主体とする層である。また、中間合金層は、界面合金層と同様に、Znを含んでおり、ZnはZn相またはZnMg相として含まれる。また、Znは、Zn相またはZnMg相として含まれるとともにFeAl合金に固溶した状態で含まれてもよい。中間合金層と界面合金層との違いは、中間合金層が平均濃度で0.001質量%以上のCrを含むことである。界面合金層にも溶融めっき浴中のCrが含まれる場合があるが、中間合金層にはCrが界面合金層の場合に比べて明確に濃化した状態で含まれる。
中間合金層は、めっき層を光学顕微鏡で断面視した際に、比較的不定形状を示す場合と、断面視で直方体状のFeAl合金相が凝集し、その周囲をZn相またはZnMg相のマトリクスが存在する形態を示す場合と、がある。後者の場合の中間合金層は、比較的多くのZn相及び/またはZnMg相を含むものとなるので好ましい。中間層がこのような構造を有することで、Znの犠牲防食作用を発揮でき、耐食性をより向上できる。
このように、界面合金の表層にCrを含む中間合金層が存在することにより、Feが20〜60質量%の高濃度で存在するにもかかわらず、中間合金層では腐食初期に赤錆が発生しにくくなる。また、中間合金層と表面めっき層との性質の差異が明確になり、腐食が局部的に深さ方向に進行して鋼が腐食することもなくなる。ただし、Cr量が0.001質量%未満の場合は、その効果が明確には現れないことがある。この中間合金層のCrによる耐食性向上効果は3.0質量%まで確認できるが、3.0質量%を超えるとむしろ耐食性に悪影響を与える。Cr量が2.5質量%を超える場合は、耐食性に必ずしもよい影響を示さない場合があり、効果が不安定になる場合がある。このため、より好ましくはCrの平均濃度を2.5質量%以下とすることが望ましい。
Crは中間合金層中に偏析している。そのため、GDS分析(グロー発光分析)によってCrをめっき層の深さ方向に沿って分析して、Crが検出された領域を特定することで、中間合金層の厚みを求めることができる。ただし、GDS分析は高感度であるが、深さ方向の分解能は悪く、特に溶融めっき層のように厚い皮膜の分析では元素分布はブロードなピークになる。このため、Crのピーク強度の半値幅を中間合金層の厚さとみなすのがよい。また、GDS分析の結果から、分析した領域におけるCr量を求めることができる。そして、Cr量と中間合金層の厚みから、中間合金層中のCr濃度を求めることができる。
なお、中間合金層におけるFe濃度、Al濃度の限定理由は、界面合金層の説明において述べたFe濃度、Al濃度の限定理由と同様である。
Crを含む中間合金層は、本実施形態のめっき鋼材を浸漬一段めっき法で製造する際に、鋼材にフラックスを塗布してから乾燥させ、その後、0.001%以上のCrが添加されたZn及びAlを含む溶融めっき浴に浸漬することで形成される。なお、後述するように、Crを含む中間合金層は、フラックス法の浸漬一段めっきでの製造時に、めっき反応の制御に極めて重要な役割を示す。フラックス処理された鋼材にめっき層を形成する際に、微量のCrが、めっき初期のFeAl反応を促進し、安定して進行させるためである。
更に、中間合金層には、Mg:0.01〜5質量%が含まれていてもよい。中間合金層にMgが0.01〜5質量%の範囲で含まれることにより、めっき層の耐食性をより向上できる。
次に、表面めっき層は、平均濃度で、Al:5質量%以下、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層であり、中間合金層の上に形成される。表面めっき層は、Znを主成分として含むZnめっき層であり、犠牲防食機能を発揮する。めっき層に備えられる界面合金層は、Feの含有量が大きいため、早期に赤錆が発生しやすく、鋼材の防食には問題がない場合でも、美観の問題が生じる可能性がある。このような界面合金層を覆うように、犠牲防食能に優れた表面めっき層を形成することで、美観性が求められることの多い鋼材使用初期での赤錆発生をほぼ完全に防止することができる。また、表面めっき層は実質的にZnめっき層であり、その表面に燐酸塩化成処理を容易に行えるので、めっき層表面の塗装も可能になる。
表面めっき層においてAlが平均濃度で5質量%以下であれば、表面めっき層の犠牲防食効果をより高めることができる。また、本実施形態のめっき鋼材はAlを含むめっき浴に鋼材を浸漬して製造するため、Alは表面めっき層に必ず含まれることになるが、表面めっき層にはAlが0.001質量%以上あればよい。また、表面めっき層を電気めっき法で形成する場合は、表面めっき中のAlを0%にしてもよい。
また、表面めっき層において「残部が実質的にZn」と定義したのは、表面めっき層に、Al、Zn及び不純物以外に、溶融めっき浴に添加された元素の混入を許容することを意図している。例えば、溶融めっき浴に添加される少量のCrが表面めっき層に混入していてもよい。表面めっき層におけるCr濃度は、中間合金層におけるCr濃度よりも大幅に少なくなる。この場合の表面めっき層に含まれるCrは表面めっき層の不純物に含めてよい。
なお、めっき浴中に存在する、被めっき材から溶出したFeは、表面めっき層に取り込まれるが、この浴中Fe濃度は変動幅が大きい。また表面めっき層の、中間合金層との界面近傍には、凝固までに中間合金層から溶出したFeも存在する。このため、表面めっき層中のFeは、制御困難な不可避的不純物である。
また、表面めっき層には、Mgが含まれていてもよい、Mgは0.1〜6質量%の範囲で含まれることが好ましい。Mgが含まれることにより、めっき層全体の耐食性を高めることができる。
めっき層中の界面合金層、中間合金層及び表面めっき層の存在を確認するためには、断面を光学電子顕微鏡で観察して、FeAl合金の組織を観察することで、界面合金層及び中間合金層と、表面めっき層とを区別できる。また、この光学顕微鏡観察によって、界面合金層と中間合金層の合計厚みを評価できる。
次に、界面合金層と中間合金層との区別は、Crの偏析状態を観察することで区別できる。具体的には、めっき層の断面を露出させ、この断面におけるCrの分布状態をX線元素分析装置による面分析または線分析を実施することで、界面合金層と中間合金層を区別できる。界面合金層に対応する領域からは主としてFe、Al及びZnが検出され、中間合金層に対応する領域からは主としてFe、Al、Zn及びCrが検出され、かつCrの分布が層状に観察されるので、Crのピーク強度の半値幅を中間合金層の形成領域とすることができる。また、界面合金層、中間合金層及び表面めっき層の深さ方向の分布状態は、めっき層の表面からAr等でスパッタリングを行いつつ、グロー発光分光分析によってスパッタされた元素を分析することで、これらの各層における構成元素の深さ方向の分布状態を評価できる。また、めっき層全体の厚みは、電磁膜厚計によって測定できる。
次に、本実施形態のめっき鋼材の製造方法について説明する。本実施形態のめっき鋼材は、フラックス処理した鋼材を1種類のめっき浴に浸漬させてから引き上げるいわゆる一段の浸漬めっき方法で製造する。
めっき浴は、Znをベースとし、更にAl及びCrが含まれるめっき浴である。めっき浴におけるAl濃度としては、1〜6質量%とする。Al濃度が1質量%未満では、FeAl反応よりもFeZn反応が優先し、合金層が十分に形成されず、FeAl合金によるバリア性を付与できなくなる。また、Al濃度が6質量%超ではFeAl反応が激しくなり、合金層の厚みの制御が困難となる。浸漬めっき法では、浴成分を一定値に維持することが困難であること考慮すると、望ましくはAl濃度は1.5〜5質量%にすればよく、さらに望ましくは2.0〜3.5質量%にするとよい。
めっき浴中のCr濃度は0.001〜0.06質量%とする。Cr濃度が0.001質量%以上であれば、明確にFeAl反応が促進され、0.06質量%超でその効果はほぼ飽和する。ただし、Crが0.06質量%を超えると、表面めっき層のCr濃度が大きくなるため、表層めっき層の腐食挙動に影響する可能性が出る。この場合、Crを含む中間合金層と表面めっき層との性能差が不明確になり、表面めっき層が必ずしも中間合金層を犠牲防食しなくなる可能性がある。よって、めっき浴中のCr濃度の上限は0.06質量%以下とする。実際の管理範囲としては、分析の精度も考えて、望ましくは、0.006質量%以上0.05質量%以下とし、より望ましくは0.006質量%以上0.04質量%未満とする。
めっき浴には、めっき層の耐食性を向上させるためにMgを添加してもよい。Mgをめっき浴に添加する場合は、0.1〜6質量%とする。表面めっき層のMgは0.1%以上で耐食性の改善効果があり、3%程度でその効果が飽和しはじめ、6%でほぼ飽和する。ただし、6%という大きなMg濃度はドロス発生など操業上の問題が大きくなる。このため、めっき浴のMg濃度は望ましくは0.2〜5質量%の範囲とする。
なお、Mgの効果はめっき層の耐食性向上以外に、鋼材をめっき浴に浸漬させた際のFeAl反応の抑制効果もある。ただし、この反応抑制効果はめっき性を低下させめっき欠陥を生じやすくするもので、品質への悪影響も大きい。このため、Mgの添加量はFeAl反応の抑制効果とは別に、めっき品質で決定されるべきものである。
上記のめっき浴を用い、鋼構造物等の被めっき材である鋼材に、浸漬めっきを行えばよい。本実施形態のめっき鋼材を得るには、浸漬めっきを行う前に、鋼材に対してフラックス処理を実施する必要がある。
フラックスとしては、ZnClをベースにNaCl,NaF,SnCl,SnCl等の各種の塩、界面活性剤等を溶解し、必要に応じて塩酸酸性とした溶液を用いる。このフラックスを鋼材表面に塗布し、乾燥させればよい。めっき前の鋼材にフラックスを塗布することにより、Crが中間合金層に偏析しためっき層が得られる。フラックスとしては、例えば、NaClを5〜14質量%、SnClを1.2〜5質量%、SnClまたはSnOの何れか一方または両方を合計で0.1〜1.5質量%、残部がZnClの組成からなるフラックス成分が150〜300g/Lの濃度で水に溶解され、pHが2.0以下に調整されているフラックスを例示できる。また、別の例として、mol%で、(a)ZnCl2を65〜85%、(b)NaF、KF、MgF2、Na2SiF6のいずれか1種類以上を合計で0.5〜3%、(c)アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素の塩化物のいずれか1種類以上を合計で5〜25%、(d)Sn、In、Tl、Sb、Biの塩化物のうち1種類以上を合計で5%を超えて20%以下で含有するフラックスを例示できる。
めっき浴の浴温は、440℃〜540℃、望ましくは460℃〜520℃である。浴温が高いと、界面合金層の成長が速くなるため生産性に優れるが、FeAl反応が制御できなくなる恐れがある。浴温が低い場合には、不めっき等のめっき欠陥が生じやすくなり、特にMg濃度が大きい場合には不めっき等のめっき欠陥をより生じやすい。本実施形態では、めっき浴に0.001〜0.05質量%のCrを添加することで、Crが無添加の場合に比べて、めっき浴が低温でもFeAl反応を促進することができる。
めっき浴への鋼材の浸漬時間は50秒以上1000秒以下、望ましくは100秒以上600秒以下である。浸漬時間は生産性に直結するが、フラックス式浸漬めっきの性格上、厳格に決められるものでないことは言うまでもない。本めっき浴は純Znめっき浴よりも融点が低くめっき後の冷却に時間を要するため、被めっき物の熱容量を考慮し、生産性と品質の兼ね合いから浴温と浸漬時間は選択されるものであり、一義的に決められるものではない。
フラックス処理した鋼材をめっき浴に浸漬させると、浸漬直後にFeAlまたはFeAlを主成分とする薄い合金層が生成し、いったんFeAl合金化反応が停止する。更に浸漬を続けると、この合金層が破壊され、FeAl合金またはFeZn合金の成長がはじまる。ここで、めっき浴中に0.001%以上のCrが存在すると、浸漬直後のFeAl反応抑制による反応潜伏期間が極めて短くなり、浸漬後すみやかに安定したFeAl合金層を生成し始める。このメカニズムは明らかでないが、添加されたCrは界面合金層の表面めっき層側に濃縮されて中間合金層を形成することから、浸漬直後に生成したFeAl合金が有する反応抑制効果が、Crが微量入ることにより失われるものと考えられる。
Crはこのように0.001%で顕著に初期反応を促進する。これに対し、Mgは反応抑制効果を示す。Mgの反応抑制効果は例えば3%の添加で300秒浸漬時の合金層厚を30−40%減少させる。従って、Mgを添加する場合は、浸漬時間を長めにするとよい。
鋼材表面に生成するFeAl合金には、めっき浴の90%以上を占めるZnを、固溶またはη−Zn層として取り込む。同時に、Mgが添加されている場合はMgも取り込む。このため、界面合金層の組成は、Fe:20〜60%、Al:10〜60%、残部が実質的にZn及び不純物となり、更に微量のCrが含まれる。また、中間合金層の組成は、界面合金層の組成に加えて、Cr:0.001〜3.0%を加えた組成になる。
なお、中間合金層は、例えば図2に示すようにZnのマトリクス中に断面視で直方体状のFeAl合金が凝集したような構造を取り、非定形の界面合金層と断面組織の観察で容易に区別可能なケースがある。このような形態は、合金生成量がおよそ50μm以上と大きく、めっき後の冷却を自然放冷とし、更に鋼材の熱容量が大きい場合に頻繁に確認される。原因として、Crが結晶核となり、中間合金層の結晶化が進むためと考えられる。
界面合金層及び中間合金層が十分に成長した段階で鋼材をめっき浴から引き上げる。引き上げは、界面合金層及び中間合金層の合計厚みが30μm以上になってから引き上げればよい。浸漬時間を長くするほど、界面合金層及び中間合金層を厚くできるが、過剰に厚くすると生産性を阻害するので、生産性を低下させない範囲で浸漬時間を調整すればよい。浴中にCrを添加しない場合は、合金層が成長し始めるタイミングを予測できないため、めっき厚の制御が極めて困難になる。
中間合金層及び界面合金層は、内部にZn及びMgを含有するが、Zn、Mgの量は少ないため、耐食性にはバリアーとしての機能が重要である。このため、合金層の厚さは厚いほうが望ましく、合計で30μm以上が必要であり、50μm以上であることが望ましい。このように30μm以上の厚みを確保する理由としては、FeAl合金層は均一ではなく、比較的薄い箇所が存在し、この薄い箇所から鋼の腐食が始まりやすいため、全体として厚みを厚くする必要があるためである。
鋼材をめっき浴から引き上げると、中間合金層の表面に溶融状態のめっき浴が付着したままとなる。この付着した溶融金属層が冷却されることにより表面めっき層が形成される。本実施形態の製造方法では、表面めっき層のAl濃度は、めっき浴のAl濃度よりも低下したものとなる。めっき浴から引き上げた直後の表面の溶融金属層はめっき浴組成に近いものであり、これが表面めっき層となる。この溶融金属中では、凝固するまでFeAl反応が続くため、フリーのAl濃度が低下する。表面めっき層のAl濃度は主に鋼材の冷却速度によって決定されるが、5質量%以下、多くの場合は1質量%以下となる。ただし、完全にAl濃度が0%となることはなく、少なくとも最表層にはAlの酸化物層も生成するため、平均では0.01%以上となる。
表層めっき層中のCr濃度は、めっき浴のCr濃度と同等以下になる。中間合金層にはCrが濃化しているため、表層めっき層が凝固するまでの時間にもFeAl反応に伴ってCrが中間合金層に移動するためである。
表層めっき中のMg濃度は、めっき浴のMg濃度と同程度の値になる。なお、ここで言うMg濃度は平均濃度である。Mgの分布は深さ方向で大きく変化するためである。なお、めっき浴中のMg濃度はCrほど明確ではないが、FeAl反応に影響する因子でもある。
以上のように、本実施形態においてCrとMgは品質向上のための添加元素である。本実施形態のような特定のフラックスを用いたフラックス式浸漬一段めっきでは、Crはめっき初期反応を促進し、Mgは耐食性を向上させるが、Mgはめっき反応を阻害しめっき欠陥を発生させやすくし、合金層厚を抑制する効果もある。Crによるめっき反応の促進作用により、Zn−低Al浴でのフラックス一段浸漬めっきの反応制御が可能になる。そして、純Zn浸漬めっきと同様に、浸漬時間によるめっき厚の制御が可能となる。
また、中間合金層に濃化したCrは、赤錆の発生を抑制し、めっき鋼材の耐食性の向上に寄与するものとなる。
なお、めっき層の形成が完了した後は、白錆の早期発性を防止するため、一般に亜鉛系めっきで行われている化成処理をすることが望ましい。
以上説明したように、本実施形態によれば、耐食性に優れためっき鋼材を実現できる。
なお、本実施形態のめっき鋼材は、上記の製造方法で製造されるものに限られるものではない。
例えば、鋼材にZn−Al浴で溶融めっきを行い、めっき後に加熱して表面まで合金化を進める。次いで、めっき層表面にCr膜を蒸着またはめっきし、Cr膜を熱処理してめっき層表層にCrを拡散させる。その後、Znを蒸着またはめっきすることで、本実施形態のめっき鋼材を製造してもよい。
(試験例1)
鋼材として、200mm×100mm×1.6mmの熱延鋼板(黒皮付SS400)を用いた。市販のアルカリ性脱脂剤により表面洗浄後、10%塩酸酸洗して表面のスケールを除去した。酸洗後の鋼板を、60℃の熱水で洗浄後、60℃のフラックス(ZnCl/NaCl/SnCl=200/20/6g/l、pH=1.0)に約1分間浸漬し、200℃の加熱炉で大気雰囲気下5分間加熱乾燥した。この鋼板を、Zn−2.5%Al−0.005〜0.05%Cr−0〜8%Mg組成の480℃のめっき浴に、100秒〜600秒浸漬してめっきした後、引き上げ、自然放冷し、めっきが完全に凝固した後に水冷した。このようにして、各種のめっき鋼材を製造した。
No.17は、Mgを8%含むZnめっき浴に鋼板を浸漬して引き上げることによりめっき層を形成した。また、No.18は、純Znめっき浴に鋼板を浸漬して引き上げることによりめっき層を形成した。更に、No.19は、11%のAlと少量のSiとMgを含むZnめっき浴に鋼板を連続して供給する連続めっき法によりめっき層を形成した。更に、No.20は、一段目としてAlを含むZnめっき浴に鋼板を浸漬して引き上げ、ついで、二段目としてAlを5%含むZnめっき浴に鋼板を浸漬して引き上げる2段めっき法によりめっき層を形成した。
めっき層の各層の厚さは、グロー放電発光分析法の半値幅法と断面組織の顕微鏡観察により算出した。めっき層各層の組成はグロー放電発光分析で調べた。
また、めっき層の表面性状は、めっき欠陥の有無・光沢・凹凸・模様等を目視で判定した。
めっき層の耐食性は、サイクル腐食試験であるJASO M609-91 により目視で錆発生を評価した。なお、「点状赤錆」は直径1〜2mm以下の(目立たない)赤錆、「面赤錆」は直径で4〜5mm以上の赤錆、「全面赤錆」は試験面の面積にして50%以上が赤錆を生じている状態である。なお、サイクル数は、100、200、400及び600とした。
作成しためっき鋼材の外観及び耐食性を評価した結果を表1Bに示す。表1A及び表1Bから、No.1〜9(実施例)はいずれも本発明の範囲内にあるめっき層を有しており、点状赤錆が早く発生するが、点状赤錆からの錆の広がりはほとんど観察されず、全面赤錆に至らなかった。No.10,11(実施例)は、初期の耐食性が非常に良好であり、通常の腐食環境では長期間にわたり良好な外観を維持できていた。
一方、No.12〜13(比較例)では、浸漬時間が短く、界面合金層と中間合金層の合計厚みが30μm未満になったため、バリア機能が小さく赤錆の広がりが早くなった。
また、No.14〜15(比較例)では、めっき浴中にCrを添加しなかったため、界面合金層の厚さが不安定となり、また、中間合金層が存在しなかった。そのため、表層めっき層が消失した時点で鋼より赤錆が発生し、その広がり方も速かった。
No.16〜17(比較例)では、めっき浴中のMgが過剰だったため、界面合金層の厚みが不安定になり、No.16ではバリア効果が不安定化し赤錆発生が早くなった。No.17では不めっきが生じた。
No.18の通常の浸漬純Znめっき法で形成しためっき鋼材は、実施例に比べて耐食性が大幅に低かった。
No.19のZnAlMgSiめっき鋼材は、連続めっきされた鋼材であるが、めっき厚が最大30〜40μmしか得られなかった。めっきが薄く加工性等には優れるが、実施例よりも耐食性が低かった。
No.20のめっき鋼材は、2段めっき法により形成されたが、1段目のめっきで得られたFeZn合金がベースとなって2段目のめっき層が形成されたため、最終的なめっき厚はFeAl合金を生成する本めっきに及ばず、本めっき以上の耐食性は得られなかった。
図1(a)には、No.13(比較例)のめっき鋼材の断面写真を示し、図1(b)には、No.1(実施例)のめっき鋼材の断面写真を示す。図1(b)に示すように、実施例のめっき鋼材は、界面合金層、中間合金層、表面合金層の3層構成になっていることがわかる。一方、No.13では、部分的に界面合金層が形成しており、また、Crを含む中間合金層が存在せず、めっき層の構造も本発明とは異なるものとなっている。
また、図2には、No.7のめっき鋼材の断面写真と、GDS分析によるめっき層の深さ方向の元素分析結果を示す。図2に示すように、中間合金層にCrが偏析していることがわかる。
(試験例2)
鋼材として、200mm×100mm×1.6mmの熱延鋼板(黒皮付SS400)を用いた。試験例1と同じ方法で前処理後、フラックス法で一段浸漬溶融めっきを行った。市販のアルカリ性脱脂剤により表面洗浄後、10%塩酸酸洗して表面のスケールを除去した。めっき浴は、Zn−5%Al−0.005〜0.05Cr−0〜8%Mg組成の500℃のめっき浴に、100秒〜600秒浸漬してめっきした後、引き上げ、自然放冷し、めっきが完全に凝固した後に水冷した。
別法として、連続めっき法で製造したZn−55%Alめっき鋼板、Zn−11%Alめっき鋼板を同寸法に切り出し、加熱して合金化した後、真空蒸着により板温約350℃の状態でCrを付着させ、更に電気めっきにより約50g/mのZnを付着させた(表2B中に逐次法と表記)。
比較例の一部は、Crを含まないめっき浴で浸漬する一段めっき法で製造した。また、比較例の別の一部は、Cr蒸着を省略した以外は上記の逐次法と同様の方法で製造した。
めっきの構造・浴組成の評価、腐食試験は試験例1と同じ方法でおこなった。
表2A及び表2Bから、No.21〜25(実施例)はいずれも本発明の範囲内にあるめっき層を有しており、点状赤錆が早く発生するが、点状赤錆からの錆の広がりはほとんど観察されず、全面赤錆に至らなかった。
また、逐次法で作成したNo.26〜28(実施例)では、電気めっきで成膜した表層めっき層が薄いために早期に点状赤錆を生じたが、赤錆の広がり方が遅いために防食機能は高かった。
一方、一段めっきで作成したNo.29〜31(比較例)のうち、界面合金層と中間合金層が薄いNo.29、30は、耐食性が低く、早期に全面赤錆となった。No.31は、Crを含まないめっき浴に浸漬して製造したものであり、Crを含む中間合金層が存在しないため、表面外観、耐食性のいずれも悪かった。
No.32は、めっき浴のMg量が過剰であり、合金層が成長しにくく耐食性が低下し、めっき外観も悪化した。No.33は、Mgが過剰であるため、不めっきが生じ、評価不可となった。
また、No.34、36の逐次法で作成した比較例は、合金層が薄いか、Crを含む中間合金層が存在せず、高い耐食性が得られなかった。
(試験例3)
No.7と同じ条件で製造しためっき鋼材について、めっきままのサンプルと、めっき層表面にフライス加工を施して界面合金層を露出させたサンプルを用意した。これらのサンプルに対して、試験例1と同様にして腐食試験を行った。そして、39サイクル目と180サイクル目において、表面の錆の発生状況を調査した。結果を図3に示す。
図3において、a,bはめっきままのサンプルであり、c,dはめっき層にフライス加工を施したサンプルである。試験開始前のc、dのサンプルの表面には、縦方向にフライス加工の加工痕が認められる。次に、39サイクル目では、白錆の生成量に差がない。次に、180サイクル目において、c,dのサンプルは、a,bのサンプルに比べて白錆が少なく、赤錆の発生もない。c、dでは、FeAl合金を主体とする界面合金層が露出しているが、内部にZn相が存在するため、犠牲防食能が発揮されてZnが少しづつ腐食して白錆が発生し、赤錆が生成しなかった。このようなZn相の犠牲防食効果により、界面合金層及び鋼材が防食されていると推測される。
(試験例4)
試験例1、2と同様な方法で鋼材にめっきを行い評価した。めっきは、Zn−1〜6%Al−0.005〜0.08Cr−0〜1%Mg組成の460〜550℃のめっき浴に、120秒〜600秒浸漬した。
表3A及び表3Bから、No.36〜41(実施例)はいずれも本発明の範囲内にあるめっき層を有しており、点状赤錆が早く発生するが、点状赤錆からの錆の広がりはほとんど観察されず、全面赤錆に至らなかった。No.42,43(実施例)は、初期の耐食性が非常に良好であり、通常の腐食環境では長期間にわたり良好な外観を維持できていた。
No.44(比較例)は、Al=1%のめっき浴で製造したものであり、Alが10%以下で安定した合金が得られた唯一の例であるが、No.18と同様にFeZn合金層が生成した一般的なZn浸漬めっきが得られ、また中間合金層は無いため、耐食性は低い。
No.45,46(比較例)は、合金層中のFe%が小さいため安定なFeAl合金の量が少なく、バリア効果が小さいために耐食性は低い。
No.47、No.48(比較例)は、界面合金層及び中間合金層中のAl%またはFe%が高すぎる。さらに、界面合金層及び中間合金層中のFe%とAl%の合計が90%を超えるために界面合金層及び中間合金層中に含むZn量が少なくなり、耐食性が低下している。
No.49(比較例)は界面合金層及び中間合金層合金層中のAl濃度が低すぎるため、安定なFeAl合金が少なく、耐食性が低い。
No.50(比較例)は中間合金層中のCr濃度が高すぎるため、耐食性が低い。

Claims (6)

  1. 鋼材と、前記鋼材の表面に形成されためっき層と、を有し、
    前記めっき層は、前記鋼材側から、界面合金層、中間合金層及び表面めっき層が順次形成されてなり、
    前記界面合金層は、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
    前記中間合金層は、Fe:20〜60質量%、Al:10〜60質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
    前記表面めっき層は、平均濃度で、Al:5質量%以下、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
    前記界面合金層と前記中間合金層の厚さが合計で30μm以上であるめっき鋼材。
  2. 前記界面合金層は、Fe:30〜60質量%、Al:10〜35質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
    前記中間合金層は、Fe:30〜60質量%、Al:10〜35質量%、Cr:0.001〜3.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、
    前記表面めっき層は、平均濃度で、Al:5質量%以下、残部が実質的にZn及び不純物からなる、請求項1記載のめっき鋼材。
  3. 前記界面合金層に更に、Mg:0.01〜5質量%が含まれ、
    前記中間合金層に更に、Mg:0.01〜5質量%が含まれ、
    前記表面めっき層に更に、Mg:0.1〜6質量%以下が含まれる請求項1または請求項2に記載のめっき鋼材。
  4. 前記界面合金層及び前記中間合金層がそれぞれ、FeAl合金相とZn相とを含み、
    前記表面めっき層が、Zn相を含む請求項1または請求項2に記載のめっき鋼材。
  5. 前記界面合金層及び前記中間合金層がそれぞれ、FeAl合金相とZn相とを含み、
    前記表面めっき層が、Zn相またはZnMg合金相の一方または両方を含む請求項3に記載のめっき鋼材。
  6. 前記中間合金層が、Znのマトリクス中に断面視で直方体状のFeAl合金が凝集した構造であり、前記界面合金層が不定形なFeAl合金であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のめっき鋼材。
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