JP2017048380A - 水素化コールタールピッチの製造方法 - Google Patents

水素化コールタールピッチの製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2017048380A
JP2017048380A JP2016157927A JP2016157927A JP2017048380A JP 2017048380 A JP2017048380 A JP 2017048380A JP 2016157927 A JP2016157927 A JP 2016157927A JP 2016157927 A JP2016157927 A JP 2016157927A JP 2017048380 A JP2017048380 A JP 2017048380A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
coal tar
tar pitch
pitch
hydrogenated
weight
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2016157927A
Other languages
English (en)
Inventor
平原 聡
Satoshi Hirahara
聡 平原
靖之 原田
Yasuyuki Harada
靖之 原田
隆男 上野
Takao Ueno
隆男 上野
功朗 下
Masaaki Shimo
功朗 下
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Mitsubishi Chemical Corp
Original Assignee
Mitsubishi Chemical Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Mitsubishi Chemical Corp filed Critical Mitsubishi Chemical Corp
Publication of JP2017048380A publication Critical patent/JP2017048380A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Abstract

【課題】 熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスが得られる水素化コールタールピッチの製造方法を提供する。更に、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、水素の消費量を削減し、効率の良い水素化反応を行うことが可能な水素化コールタールピッチの製造方法を提供する。
【解決手段】 原料コールタールピッチから軽質油を分離し、得られたコールタールピッチの重質油成分を水素化する、水素化コールタールピッチの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、コールタールピッチを水素化処理して水素化コールタールピッチを製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、コールタールピッチを水素化処理によって脱硫、脱窒素化して水素化コールタールピッチを製造する方法に関する。
本発明は、ニードルコークスの原料として好適に用いることが出来る水素化コールタールピッチを製造する方法に関する。
石炭乾留時に副生するコールタールは、その大部分が縮合多環芳香族化合物から構成されており、以前から各種の炭素製品用の原料として使用されてきた。コールタール系製品群の構成割合は、約30%が留出油成分から得られるクレオソート油やナフタレン等の製品群、残り70%が非留出分である重質成分のコールタールピッチから得られる製品群である。
これらのうち、コールタールピッチから製造されるニードルコークスは特に付加価値の高い製品として重要な位置を占めており、主に電気製鋼用黒鉛電極の骨材に使用される。黒鉛電極の製造工程においては、まずニードルコークス粒とバインダーピッチとを所定の割合で配合し、加熱捏合した後、押し出し成型して生電極を製造する。この生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工することにより黒鉛電極製品が得られる。
この黒鉛電極は過酷な高温条件のもとで使用されるため、極めて高い耐熱衝撃性が要求される。耐熱衝撃性の高い黒鉛電極を製造するためには熱膨張係数が小さいニードルコークス(以下、「低CTEニードルコークス」と表記する場合がある。)が必要とされる。コールタールピッチを原料とするニードルコークス(以下、「ピッチ系ニードルコークス」と表記する場合がある。)は、あらゆるコークスの中で熱膨張係数が最も小さいので、黒鉛電極の原料としては最も好ましいものである。しかしながら、ピッチ系ニードルコ一クスは良品質な黒鉛電極を与える反面、電極を製造する黒鉛化過程で、いわゆるパッフィングと呼ばれる不可逆膨張現象を起こし易く、急速に黒鉛化した場合には製品に亀裂が発生して歩留りが著しく低下するといった欠点をもっている。
このため黒鉛電極の製造にあたっては、黒鉛化のための昇温を長時間かけて行う必要があり、生産性は著しく低いものであった。
このパッフィング現象は、主として黒鉛化過程の1500〜2000℃の領域において、ピッチ系ニードルコークスに含まれるヘテロ化合物から窒素が、同様に2500〜2800℃の領域において硫黄が急激に揮散するための異常膨張と考えられている。
このようなパッフィング現象を解消するため、黒鉛電極の製造工程においていくつかの手法が取られている。例えば、ピッチ系ニードルコークスと粘結材であるバインダーピッチの混合過程において酸化鉄を少量添加することにより、黒鉛化時にコークス中の硫黄分と鉄の安定化合物を形成させてパッフィングを抑制する方法や、成形工程において黒鉛電極の嵩密度を調整して黒鉛化時に発生するガスを揮散し易くする方法がある。ただし、前者の手法は、硫黄に由来する膨張の低減には一定の効果があるものの、窒素に由来する膨張を低減する効果は見られず、後者は、嵩密度の低下による黒鉛電極の機械的強度の低下につながるという問題があった。
上記以外に、ニードルコークスを用いた黒鉛電極の製造時にパッフィングを抑制する様々な方法が提案されている。
特許文献1、2では、1500℃以上でピッチコークスを加熱処理して脱窒素することでパッフィングを低減する方法が提案されている。また、特許文献3では、生コークスを予め酸化処理等の前処理をした後に、通常のか焼温度で熱処理する手法が示されている。これらの方法は、前者は高温加熱に伴うエネルギー消費が大きくなり、後者は従来方法に比べて工程が複雑化するという課題がある。
ニードルコークスは、ピッチ系ニードルコークス以外に、石油系重質油を原料としても製造される。
特許文献4には、ディレードコークス法により得た生コークスを、先ず通常のか焼温度より低い温度範囲でか焼し、一旦冷却した後、再び通常の温度範囲でか焼を行うニードルコークスの製造方法が開示されている。この方法は、石油系原料油を使用したニードルコークスの熱膨脹係数の低減には有効であるものの、パッフィングの発生機構の異なるピッチ系(石炭系)ニードルコークスに適用したとしても、パッフィングの低減効果は僅かである。
特許文献5、6では、原油を減圧蒸留したときに残渣油として得られる重質油と、所定の原料油を流動接触分解して得られる硫黄及び窒素含有量の小さい原料油とを混合してコークス化する石油系ニードルコークスの製造方法を示している。しかし、この方法は歩留りが低く、かつ低CTEニードルコークスを製造することを目的としているだけで、パッフィングの低減を目的としたものではない。
ピッチ系ニードルコークスについては、特許文献7では実質的にキノリン不溶分を除去したコールタールピッチと石油系重質油を混合し、この混合物を炭化するニードルコークスの製造方法が開示されている。しかしこの方法では、パッフィングの抑制効果は十分とは言えない。
特許文献8では、石炭系重質油と石油系重質油とを混合して窒素分、硫黄分を共に特定値以下となるように調整配合した原料より生コークスを製造し、この生コークスを2段か焼することによりパッフィングの低いニードルコークスを得られるとしている。しかしこの方法での効果は限定的であり、かつ2段か焼によるコークス歩留の低下、コークスの多孔質化により黒鉛電極の嵩密度が低下するという懸念がある。
特許文献9には、水素化したコールタール系原料を使用するとパッフィングが減少したニードルコークスが得られることが記載されている。これは、コールタール系原料の水素化精製による硫黄及び窒素の除去という直接的な効果に加えて、縮合多環芳香族化合物の構造変化によるニードルコークスの品質改善が期待されるプロセスである。しかしながら、ここで開示されている水素化処理は、石油精製工業における常圧残油を原料油とする水素化脱硫プロセスの反応条件を適用したものであるため製造コストが高く、コークス歩留りも低く、水素化によりピッチ系重質油の特徴である芳香族化合物が減少するといった課題が未だ残されている。
特開昭60−33208号公報 特開昭60−208392号公報 特開昭63−135486号公報 特開昭52−29801号公報 特開2008−150399号公報 特開2008−156376号公報 特開平3−250090号公報 特開平5−163491号公報 特開昭59−122585号公報
石油精製工程において常圧残油を原料油とする水素化脱硫プロセス(以下、HDS)は、低硫黄重油の製造、流動接触分解に供給する原料油の前処理、灯油および軽油の増産を目的とした水素化分解など使用形態が多様化している。また、HDSプロセスにより原料油中の硫黄分だけでなく、窒素分も低減できることが知られている。HDSプロセスに適用する高性能触媒の開発もなされており、アルミナに担持されたコバルト−モリブデン触媒やニッケル−モリブデン触媒が広く用いられているが、触媒活性低下の挙動は原料油種、触媒種およびHDS処理条件等により著しく異なることが知られている。
一方、コールタールピッチの水素化に関しては、工業的な実施例が無いばかりか基礎的な研究例も少なく、触媒活性低下による脱硫率及び脱窒素率の挙動についても明らかでない。従って、ピッチ系ニードルコークスの原料として最適なコールタールピッチの水素化処理条件を含めた処理プロセスは未だ確立されていない。
また、コールタールピッチの水素化処理において、処理前のコールタールピッチ成分を如何なる組成としておけば、効率の良い水素化がなされるのか、性能の良好なピッチ系ニードルコークスが得られるのか、等についても従来は何ら知見が無かった。
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスが得られる水素化コールタールピッチの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、水素の消費量を削減し、効率の良い水素 化反応を行うことが可能な水素化コールタールピッチの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは前記課題について鋭意検討した結果、コールタールピッチを水素化反応に供する前に、事前にコールタールピッチから軽質油を除去しておくことで、前記課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の[1]〜[12]を要旨とする。
[1]原料コールタールピッチから軽質油を分離し、得られたコールタールピッチの重質油成分を水素化する、水素化コールタールピッチの製造方法。
[2]原料コールタールピッチから軽質油を6〜40重量%分離する[1]に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[3]原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られた、360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるコールタールピッチを用いる、[1]又は[2]に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[4] 原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られた、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるコールタールピッチを用いる、[1]〜[3]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[5]水素化処理の条件が、300〜450℃、水素/ピッチ流量比が、ピッチ1キロリットル当たり100〜700Nm3/kL、水素分圧が5〜20MPa、液空間速度が0.1〜2h-1である[1]〜[4]のいずれかに記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[6]水素化処理を連続固定床反応装置にて行う[1]〜[5]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[7]軽質油の分離を蒸留塔により行う[1]〜[6]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[8]更に、得られた水素化コールタールピッチから軽質油を分離する工程を有する[1]〜[7]の何れかに記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[9]水素化コールタールピッチから分離された軽質油を、水素化を行う反応器の冷却に用いる[8]に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
[10][1]〜[9]の何れかに記載の方法で水素化コールタールピッチを製造し、得られた水素化コールタールピッチをコークス化する、ピッチ系ニードルコークスの製造方法。
[11]2600℃迄のパッフィングが3.4%以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、[10]に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
[12]熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7/℃以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、[10]又は[11]に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
本発明により、熱膨張係数が小さく、且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスの原料として好適な水素化コールタールピッチを提供することができる。
本発明の水素化コールタールピッチを原料として製造されたピッチ系ニードルコークスは、電気製鋼用黒鉛電極の骨材などの用途に好適である。
本発明により、性能が良好なピッチ系ニードルコークスの原料として好適な水素化コールタールピッチが得られるとともに、カーボンブラックの原料等として利用価値の高い軽質油を歩留り良く併産することが出来る。
更に、コールタールピッチを水素化する際に、用いる水素の使用量を低減することが出来る。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。
なお、本発明において「ピッチ系」と「石炭系」は同義の語として扱うものとする。
本発明でいう「硫黄分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8813、石油系油についてはJIS K2541、コークスについてはJIS M8813に従い測定される値を、それぞれ意味する。
本発明でいう「窒素分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8819、石油系油についてはJIS K2609、コークスについてはJIS M8819に従い測定される値を、それぞれ意味する。
また、コールタールピッチの比重、キノリン不溶分、トルエン不溶分、360℃以下の留分は何れもJIS K2425に従い測定される値を意味し、粘度はB型回転粘度計で測定した値を意味する。
本発明は、原料コールタールピッチから軽質油を分離し、得られたコールタールピッチの重質油成分を水素化することにより、水素化コールタールピッチを得ることを特徴とする。以下に、本発明を詳細に説明する。
[原料コールタールピッチ]
本発明において、軽質油を分離する前のコールタールピッチを「原料コールタールピッチ」という。本発明において、原料コールタールピッチは限定されないが、以下の特性を有するものであることが好ましい。
原料コールタールピッチの製造方法(事前調整方法)は限定されないが、一般的にはコールタール系重質油から予めキノリン不溶分を実質的に除去するか、石油系重質油と混合した後にキノリン不溶分を実質的に除去することによって得ることが出来る。
キノリン不溶分を除去する手段としては公知の方法を適用することができるが、例えばタール系重質油を、芳香族系油や脂肪族系油で処理する方法が挙げられ、これらの混合溶剤で処理することも好ましい。脂肪族系油としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式化合物、アセトン、エーテル等のカルボニル基をもつ化合物、軽油等を使用することが出来る。芳香族系油としては、タール系洗浄油、アントラセン油等を使用することが出来る。ピッチと溶剤を適当な条件にて混合、加熱した後に必要により静置し、その後、この混合物を蒸留して低沸点成分を留去することにより、キノリン不溶分を殆ど含まない原料コールタールピッチとすることが出来る。
上記の原料コールタールピッチはコークス化の過程においてメソフェースと呼ばれる液晶の成長状態が良好であることが好ましい。メソフェースは、原料油の熱処理に伴い熱分解と重縮合が起こることによって生成する中間生成物であり、同一平面に沿って芳香族環の連なりが発達したものである。このメソフェースが大きく成長して一軸方向に配向すればニードルコークスの熱膨張係数を小さくすることができると考えられている。従って、高度に結晶が発達したメソフェースを生成させることが好ましい。
原料コールタールピッチのキノリン不溶分は0.2重量%以下であることが好ましい。原料コールタールピッチのキノリン不溶分が0.2重量%を超えると、コークス化過程におけるメソフェースの成長が抑制されることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。原料コールタールピッチのキノリン不溶分の下限値は限定されないが、通常0.0001重量%以上である。キノリン不溶分が0.0001重量%未満のものは、これを入手することが困難な上、このような原料コールタールピッチでは軽質油の含有割合が多く、コークス歩留りが低くなる傾向にある。更には、本発明における水素化処理を行う効果が発現しづらくなる傾向にある。また、キノリン不溶分は、前記と同様の理由により0.001〜0.1重量%であることがより好ましい。
原料コールタールピッチの硫黄分は、0.4〜0.8重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの硫黄分が0.8重量%を超えると、軽質油を分離し、更に水素化処理した後のピッチ中の硫黄分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、硫黄分は、前記と同様の理由により0.7重量%以下であることがより好ましく、0.65重量%以下であることが更に好ましい。
原料コールタールピッチの窒素分は、0.9〜1.5重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの窒素分が1.5重量%を超えると、軽質油を分離し、更に水素化処理した後のピッチ中の窒素分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、窒素分は、前記と同様の理由により1.3重量%以下であることがより好ましく、1.2重量%以下であることが更に好ましい。
後述する水素化処理を高温・高圧下で行なうことにより、ピッチ中の硫黄分及び窒素分を低減することは可能ではあるが、安定的な水素化処理を行なうためには上記の硫黄分、窒素分の範囲内にあるピッチを原料として軽質油の分離及び水素化処理を行なうことが好ましい。
コールタールピッチは、大部分が芳香族化合物で構成されているが、芳香族性を示す指標として芳香族指数がある。芳香族指数は大きいほど好ましく、例えば0.9以上であることが好ましい。コールタールピッチにおいては、芳香族指数が小さくなるとメソフェースの成長が不十分となり、水素化コールタールピッチから得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)の抑制が不十分となる傾向がある。
原料コールタールピッチの360℃以下の留分は、8〜30重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの360℃以下の留分が8重量%未満の場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる可能性がある。一方、原料コールタールピッチの360℃以下の留分が30重量%を超えると、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となるため、経済的な面から好ましくない傾向にある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、9〜20重量%、より好ましくは、9.5〜15重量%である。
原料コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は、2〜10重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が2重量%未満の場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる可能性がある。一方、原料コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が10重量%を超えると、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となるため、経済的な面から好ましくなくなる傾向にある。また、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は、前記と同様の理由により、2〜8重量%、より好ましくは、2〜6重量%である。ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量はいずれも、後掲の実施例に具体例を示すように、ガスクロマトグラフを用いて測定することができる。なお、ナフタレン及びアセナフテンは前記した「360℃以下の留分」の代表例である。
原料コールタールピッチのナフタレン含有量は、5重量%以下であることが好ましい。原料コールタールピッチのナフタレンの含有量が、5重量%以下であると、蒸留後の軽質油の配管中での閉塞が生じにくくなる傾向にあるために好ましい。ナフタレンの含有量は、前記と同様の理由により、3重量%以下がより好ましい。
原料コールタールピッチのアセナフテン含有量は、5重量%以下であることが好ましい。原料コールタールピッチのアセナフテンの含有量が、5重量%以上ある場合は、蒸留後の軽質油の配管中での閉塞が生じにくくなる傾向にあるために好ましい。前記と同様の理由により、3重量%以下がより好ましい。
原料コールタールピッチの100℃における粘度は、30〜300mPa・sであることが好ましい。原料コールタールピッチの100℃における粘度が30mPa・s未満の場合、原料コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、軽質油を除去する蒸留塔の処理能力が大きくなり望ましくない傾向にある。一方、原料コールタールピッチの100℃における粘度が300mPa・sを超えると軽質油を除去したコールタールピッチの粘度が高くなり、蒸留塔内部で閉塞を生じる可能性がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により100〜250mPa・sであることがより好ましい。
原料コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.8であることが好ましい。
原料コールタールピッチのH/Cが0.5未満の場合は、水素化反応において消費される水素量が多くなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチのH/Cが0.8を超えると、脂肪族の含有量が多くなり、水素化コールタールピッチから得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.7であることがより好ましい。
なお、「H/C」はJIS M8819に準拠して測定した値を意味し、後述する実施例に記載した測定方法を採用するものとする。
原料コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.4であることが好ましい。ここで、15℃における比重とは、4℃の水の密度に対する15℃での密度の比を意味する。
原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークスの収率が下がる傾向があり、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、原料コールタールピッチに含まれる重質成分の含有率が多くなり、水素化処理後のコールタールピッチのコークス化過程におけるメソフェースの成長速度が大き過ぎることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.1〜1.3であることがより好ましい。
なお、上記した原料コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
[原料コールタールピッチからの軽質油の分離]
本発明において、原料コールタールピッチから軽質油を分離する方法は限定されないが、例えば、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる。
本発明における軽質油とは、一般に軽質油(軽油)と呼ばれるものであれば限定されない。軽質油を構成する化合物の炭素数は限定されないが、通常36以下であり、好ましくは24以下である。軽質油は単一の化合物であってもよいが、通常は複数の化合物の混合物である。
なお、上記した蒸留手段により軽質油を分離する場合においては、蒸留装置の上部より得られる物質(軽質留分)を軽質油とする。すなわち、蒸留装置の上部より得られたものであれば、上記で例示した軽質油成分以外の物質を含んだものも「軽質油」という。軽質油を分離する蒸留装置上部の温度は特に限定されないが、常圧蒸留で400℃以下、好ましくは360℃以下、より好ましくは320℃以下である。
一方、本発明における重質油とは、上記で規定した軽質油よりも沸点の高い成分を意味する。重質油を構成する高分子化合物の炭素数は限定されないが、通常24以上であり、好ましくは36以上である。また、上記した蒸留手段により重質油を得る場合、蒸留装置の下部より得られる物質(重質留分)を重質油とする。重質油を得る温度は特に限定されないが、常圧蒸留で行う場合、前述した軽質油を分離する温度で蒸留することが望ましい。
本発明において、原料コールタールピッチから分離する軽質油の割合は限定されないが、通常6重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。分離する軽質油の割合が前記下限値未満である場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる場合がある。一方、分離する軽質油の割合が前記上限値を超過する場合は、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となり、さらに、蒸留塔の直径を大きくする必要があるため、経済的な面から好ましくない傾向がある。
原料コールタールピッチから分離された軽質油の使途は限定されないが、燃料として用いられるだけでなく、カーボンブラックやその他の各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、冷媒(冷却オイル)等として有用に用いることができる。
[処理前ピッチ]
本発明では、原料コールタールピッチから軽質油を分離することによって得られたコールタールピッチ(重質油成分)を、後述する水素化処理の原料として用いる(以下、軽質油を分離することによって得られた、水素化処理の原料として用いるコールタールピッチを「処理前ピッチ」という場合がある。)。以下に処理前ピッチの諸特性について説明する。
本発明における処理前ピッチのキノリン不溶分は限定されないが、通常0.02重量%以下であり、好ましくは0.01重量%以下であり、より好ましくは0.008重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における処理前ピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明における処理前ピッチの硫黄分は限定されないが、通常0.9重量%以下であり、好ましくは0.8重量%以下であり、より好ましくは0.7重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における処理前ピッチは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明における処理前ピッチの窒素分は限定されないが、通常1.4重量%以下であり、好ましくは1.3重量%以下であり、より好ましくは1.2重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における処理前ピッチは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明における処理前ピッチの360℃以下の留分は限定されないが、9重量%以下であることが好ましい。処理前ピッチの360℃以下の留分が9重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、7重量%以下であることがより好ましい。一方、処理前ピッチの360℃以下の留分の下限は、0.02重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。360℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明における処理前ピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は2.0重量%以下であることが好ましい。コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が2.0重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は、前記と同様の理由により、1.2重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましい。一方、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量の下限は、0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましい。ナフタレン及びアセナフテンの含有量の合計量が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量はいずれも、後掲の実施例に具体例を示すように、ガスクロマトグラフを用いて測定することができる。なお、ナフタレン及びアセナフテンは前記した「360℃以下の留分」の代表例である。
本発明における処理前ピッチのナフタレン含有量は、0.7%以下であることが好ましい。処理前ピッチのナフタレン含有量が0.7重量%以上の場合は、コークスの収率が低下する傾向があり、好ましくない。ナフタレンの含有率は、前記と同様の理由により、0.4%重量以下が好ましい。
本発明における処理前ピッチのアセナフテン含有量は、1重量%以下であることが好ましい。処理前ピッチのアセナフテン含有量が1重量%以下である場合は、コークスの収率が向上する傾向があり、好ましい。ナフタレンの含有量は、前記と同様の理由により、0.6重量%以下が好ましい。
本発明における処理前ピッチの100℃における粘度は500〜3000mPa・sであることが好ましい。処理前ピッチの100℃における粘度が500mPa・s未満の場合、高粘度の流体を扱うポンプを使用する場合において送液が困難になる傾向があり、また、処理前ピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、処理前ピッチの100℃における粘度が3000mPa・sを超えると、流動性が極端に低くなるため、配管での輸送が困難になる傾向がある。また、処理前ピッチの100℃における粘度は、前記と同様の理由により350〜2500mPa・sであることがより好ましい。
本発明における処理前ピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.8であることが好ましい。処理前ピッチのH/Cが0.5未満の場合は、重質な成分の量が多く、メソフェースの成長が妨げられ、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。一方、H/Cが0.8を超える場合は、脂肪族化合物の含有量が多くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.7であることがより好ましい。
本発明における処理前ピッチの15℃における比重は、1.0〜1.4であることが好ましい。処理前ピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、処理前ピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.1〜1.3であることがより好ましい。
なお、上記した処理前ピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
従来は、コールタールを出発原料とする限り、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたニードルコークスを得ることは極めて困難であったが、本発明においては、原料コールタールピッチから軽質油を分離して処理前ピッチとし、これを後述する水素化処理の原料として水素化コールタールピッチを得ることにより、極めて良好な特性を有するニードルコークスが得られる原料とすることが出来た。
ニードルコークスは、針状が発達した結晶構造を有することにより、低い熱膨張係数を得ていると考えられている。この発達した針状構造は、メソフェース生成時に生じる芳香族環からのガス、特に水素の発生により形成されると考えられている。本発明では、コークス化に寄与の低い軽質油を留去し、このガス発生時の粘度を増加させることにより、より効率的にメソフェースの成長を促した結果、得られるニードルコークスの熱膨張係数を低下させることが可能となったものと考えられる。
[石油系重質油]
本発明においては、原料コールタールピッチを得るに際し、キノリン不溶分を除去する前のコールタールもしくはコールタールピッチに石油系重質油を混合して用いてもよい。また、原料コールタールピッチと石油系重質油とを混合してから軽質油を分離してもよい。更には、軽質油を分離して得られた処理前ピッチと石油系重質油とを混合し、これを用いて後述する水素化処理を行ってもよい。
混合して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、流動接触分解油、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、エチレンボトム油及びこれらを水素化精製した重質油などが挙げられる。また、上記以外に、直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を更に含有してもよい。これらの中でも特に流動接触分解油、及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多く含まれることから好ましい。
石油系重質油の硫黄分は1.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましい。また、石油系重質油の窒素分は0.7重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。混合する石油系重質油の硫黄分や窒素分が前記上限値を超えると、ニードルコークスのパッフィングを十分に抑制することができない場合がある。
石油系重質油の混合割合は限定されず、コールタール又はコールタールピッチ中の窒素分、硫黄分、石油系重質油中の窒素分、硫黄分より計算して適宜最適化されるが、混合油中の硫黄分が1.0重量%以下、窒素分が0.9重量%以下となる割合に混合することが好ましい。混合油中の各成分の下限値は限定されないが、通常、硫黄分が0.3重量%以上、窒素分が0.1重量%以上となる割合に混合することが好ましい。具体的には、コールタール又はコールタールピッチを50〜80重量%、石油系重質油を50〜20重量%の割合に混合することが好ましい。一般に、石油系重質油はコールタールに較べて窒素分は低く、硫黄分は高い傾向にあるが、両者を混合した後の窒素分や硫黄分を上記の範囲となるように配合して用いることにより、本発明の効果を有効に発揮することができる。
上記の石油系重質油中に飽和炭化水素、特に脂肪族成分が多く含まれると、芳香族成分の重合及び重縮合以外に架橋反応が起こるため、三次元構造の結晶が成長してメソフェースが十分に成長せず、その結果、熱膨張係数が大きくなると考えられている。本発明における原料コールタールピッチは、コールタールを原料としていることから芳香族性は極めて高く、ニードルコークスの原料として好適であるが、混合原料油に使用する石油系重質油としては、コールタールより芳香族成分の割合は小さいものの、上述の流動接触分解油、及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多いことから好ましい。
[水素化処理]
本発明の製造方法では、処理前ピッチまたは処理前ピッチと石油系重質油を混合して得られた混合原料油(以下、「ピッチ系原料油」と表記する場合がある。)を、水素化処理装置に装入して水素化処理することにより水素化コールタールピッチとする。
本発明において処理前ピッチを水素化処理する方法は限定されないが、通常、処理前ピッチを水素化処理装置に装入して水素化反応を行うことによってなされる。具体的な方法を以下に説明する。
本発明において水素化処理装置とは、高圧の水素存在下において触媒を用いてピッチ系原料油中の硫黄濃度及び窒素濃度を低減させるものであり、このピッチ系原料油の脱硫黄・脱窒素工程から得られる生成物は、さらに生成物中の軽沸点成分を除去する後蒸留工程等の二次処理も含まれる。
本発明の製造方法に用いる水素化処理装置は限定されないが、反応性と生産性の観点から連続反応式装置であることが好ましい。触媒層は流動床または固定床のいずれか、またはこれらを組み合わせたもののいずれも本発明に含まれるが、長期運転のしやすいこと、建設費用等の経済性の観点から固定床式が好ましい。すなわち連続固定床式水素化処理装置が本発明には好適である。回分式反応装置は水素化反応率が小さい等の理由により好ましくない場合がある。
水素化処理に用いられる触媒としては、Ni−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、或いはこれらを組合せた触媒などが挙げられ、これらは市販品を用いてもよい。これらの中でも、脱硫及び脱窒素の活性が高く、水素消費量が抑えられるという点でNi−Mo系触媒が好ましい。
水素化処理の温度は限定されないが、通常300〜450℃で行われる。水素化処理の温度が300℃未満の場合は脱硫率及び脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。一方、450℃を超えると触媒寿命が低下する等の問題が発生する傾向がある。また、水素化処理の温度は、上記と同様の理由により、好ましくは350〜420℃、より好ましくは360℃〜400℃である。
水素化処理における水素/ピッチ流量比は限定されないが、ピッチ1m3当たり通常100〜700Nm3/m3で行われる。水素/ピッチ流量比が100Nm3/m3未満になると、十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、水素/ピッチ流量比が700Nm3/m3を超えると、水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における水素/ピッチ流量比は、上記の理由により、好ましくは200〜600Nm3/m3、より好ましくは250〜500Nm3/m3ある。
水素化処理における水素分圧は限定されないが、通常5〜20MPaで行われる。水素分圧が5MPa未満であると、処理前ピッチの脱硫率及び脱窒素率が小さいため、ニードルコークス中の硫黄・窒素が高い値を示し、結果としてニードルコークスのパッフィング抑制が不十分となる傾向がある。また、水素分圧が20MPaを超過する場合はピッチ系原料油の分解が進行しすぎるため、コークス化した際のコークスの収率が低下するだけでなく、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。
水素化処理における水素分圧は、上記と同様の理由により、好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは12MPa以上であり、好ましくは18MPa以下、より好ましくは16MPa以下である。
水素化処理における液空間速度(LHSV)は限定されないが、通常0.1〜2.0h-1で行われる。液空間速度(LHSV)が2.0h-1を超えると十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、液空間速度(LHSV)が0.1h-1未満になると水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における液空間速度は、上記と同様の理由により、好ましくは0.3〜1.6h-1、より好ましくは0.3〜1.3h-1、さらに好ましくは0.5〜1.0h-1である。
なお、上記した水素化処理の条件は各々独立したものであり、必ずしも全ての条件を兼ね備えている必要は無い。
反応温度、水素/ピッチ流量比、水素分圧、液空間速度(LHSV)を上記範囲内とすることにより、処理前ピッチの最適な水素化が進行し、十分にパッフィングが抑制されたニードルコークスが得られる程度の脱硫率、脱窒素率になり、さらに、低い熱膨張係数のニードルコークスを得るに十分なメソフェースの成長を促すことができる。
軽質油を分離して得られた処理前ピッチは、軽質油を分離する前(原料コールタールピッチ)に比べて粘度が高くなり、流動性が低下する。このため、水素化処理において触媒との接触効率が低下し、脱硫率、脱窒素率が低下する場合がある。そのような場合は、水素化処理に供給する原料として、処理前ピッチとともに他の原料を併用することにより低粘度化して水素化処理に供してもよい。
低粘度化するために用いることが可能な原料は限定されないが、例えば、水素化コールタールピッチ又は水素化コールタールピッチから分離して得た軽質油(後述する「水素化油」)等が挙げられる。更には、前記した石油系重質油や、重質油以外の石油系油、処理前ピッチを得るために分離された軽質油の一部を使用することも出来る。これらのうち、水素消費量が少ないという観点から、水素化コールタールピッチ、水素化油、或いは、石油系重質油や重質油以外の石油系油のうち飽和度の高いものや芳香性の低いものが好適に用いられる。
処理前ピッチと、これを低粘度化するために用いる原料とを混合する方法は限定されず、撹拌槽等の混合手段を用いてもよいし、ライン(配管)を合流させるのみで混合する方法であってもよい。
特に、低粘度化するために用いる原料として、水素化コールタールピッチや水素化油など、本発明の製造ライン内で発生する物質を用いる場合は、ライン(配管)を合流させるのみで混合する方法が望ましい。更には、処理前ピッチと低粘度化するために用いる原料とを合流させた後の流体が、乱流となるように設計されていることが望ましい。また、混合場所は限定されないが、水素化処理装置に装入する直前で混合されることが望ましい。
前述の通り、本発明における水素化処理の工程は非常に高温の反応であり、しかも発熱反応であるため、反応熱の除去(冷却)が必要となる場合がある。水素化反応における反応熱の除去方法は限定されず、水素化処理装置の外部から冷媒を用いて冷却する方法や、水素化処理装置の内部、即ち反応系内に冷媒を装入する方法等が挙げられる。
反応系内に冷媒を装入することによって反応熱を除去する場合は、通常、当該冷媒を水素化処理装置の途中段階で装入する。具体的には、例えば、棚段状に触媒層が設置されている装置であれば、当該触媒層の位置に冷媒を装入する方法が挙げられる。冷媒は装置中の1個所に装入してもよいし、2個所以上から装入してもよい。
反応熱を除去する際に用いられる冷媒は限定されず、水素ガスやその他のリサイクルガス等でもよいが、後述する水素化油を好適に用いることができる。水素化油は既に水素化処理された軽質油であるため、これを再度水素化処理装置に供しても反応活性が低く、しかも上述の通り、反応系内の粘度を低下させることができ、更には、反応後に分離する必要も無いため好適である。
処理前ピッチに対する水素化コールタールピッチの脱硫率及び脱窒素率は限定されないが、上記の水素化条件等を制御することにより、脱硫率が50%以上、脱窒素率が10%以上となることが好ましい。ここで「脱硫率」「脱窒素率」とは、以下の通り求められるものである。
脱硫率(%)=〔([処理前ピッチ中の硫黄分(重量%)]−[水素化コールタールピッチ中の硫黄分(重量%)])/[処理前ピッチ中の硫黄分(重量%)]〕×100
脱窒素率(%)=〔([処理前ピッチ中の窒素分(重量%)]−[水素化コールタールピッチ中の窒素分(重量%)])/[処理前ピッチ中の窒素分(重量%)]〕×100
[水素化コールタールピッチ]
上記の様に、原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られた処理前ピッチを更に水素化処理して得られる水素化コールタールピッチの諸特性は限定されないが、以下の特性をもつものであることが好ましい。これらの値である水素化コールタールピッチを原料として得られるピッチ系ニードルコークスは、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すため好ましい。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が好ましくは0.02重量%以下であり、より好ましくは0.01重量%以下であり、更に好ましくは0.005重量%以下であり、特に好ましくは0.003重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、硫黄分が好ましくは0.3重量%以下であり、より好ましくは0.25重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、窒素分が好ましくは0.90重量%以下であり、より好ましくは0.85重量%以下であり、更に好ましくは0.80重量%以下であり、特に好ましくは0.75重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチの360℃以下の留分は、40重量%以下であることが好ましい。水素化コールタールピッチの360℃以下の留分が40重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、上限は35重量%以下であることがより好ましい。一方、水素化コールタールピッチの360℃以下の留分の下限は2重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以下であることが更に好ましい。360℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチの100℃における粘度は50〜500mPa・sであることが好ましい。水素化コールタールピッチの100℃における粘度が、50mPa・s未満の場合、水素化コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチの100℃における粘度が、500mPa・sを超えるとメソフェーズの成長時の液相粘度が高く、メソフェースの成長が阻害され、熱膨張係数が高くなる傾向がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により80〜200mPa・sであることがより好ましい。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.8以上であることが好ましい。水素化コールタールピッチのH/Cが0.8未満の場合は、ナフテン環の生成が少なく、メソフェース成長時の液相粘度が高くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。また、H/Cの上限は、1.2以下であることが好ましい。
本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.2であることが好ましい。水素化コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.2を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.08〜1.19であることがより好ましい。
従来は、コールタールピッチを原料とする限り、上記のような諸特性の範囲内であるコールタールを得ることは極めて困難であったが、本発明においては、原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られた処理前ピッチを更に水素化処理を行うことによって、上記の諸特性を満たす水素化コールタールピッチを得ることができる。
なお、上記した水素化コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
[水素化コールタールピッチからの軽質油の分離]
本発明においては、水素化処理して得られた水素化コールタールピッチから軽質油を分離する工程を有していてもよい。また、当該工程は前記の通り、本発明における水素化処理の工程の一部として包含されるものである。
水素化コールタールピッチから軽質油を分離する方法としては、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる。
常圧蒸留により軽質油を分離する場合、蒸留装置の上部温度は限定されないが、通常400℃以下、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。
水素化コールタールピッチから分離する軽質油の割合は限定されないが、通常2重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下である。
このようにして得られる水素化コールタールピッチをコークス化することにより、更にパッフィングが十分に抑制され且つ熱膨張係数の小さいニードルコークスを得ることが出来る傾向がある。
なお、前記した通り、水素化コールタールピッチから軽質油を分離する工程も、任意な工程として本発明における水素化処理工程の一部を構成するものである。従って、軽質油を分離後の水素化コールタールピッチに望まれる諸特性も、前記したものと同様である。
[水素化油]
水素化コールタールピッチから分離された軽質油(以下、「水素化油」という場合がある。)の使途は限定されないが、前記した通り、処理前ピッチの粘度を下げる目的で、水素化処理を行う原料として処理前ピッチと混合して用いることができる。また、水素化油は、前記した通り、水素化反応における反応熱を除去するための冷媒として用いることが出来る。
さらに、水素化油は、冷媒(冷却オイル)、各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、燃料等としても有用に用いることができる。
水素化油を処理前ピッチの粘度を下げる目的で使用する諸特性、及び、水素化油を水素化反応における反応熱を除去するための冷媒として用いる際の諸特性は、何れも限定されないが、これらの目的で使用する際には以下の特性を持つことが好ましい。
水素化油の硫黄含有率は0.6重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。水素化油に含まれる硫黄含有率が0.6重量%を超えると、反応器で生じる脱硫反応が過度になり、水素化油に消費される水素量が増加する傾向がある。
水素化油の窒素含有率は0.7重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。水素化油に含まれる窒素含有率が0.7重量%を超えると、反応器で生じる脱窒素反応が過度になり、水素化油に消費される水素量が増加する傾向がある。
水素化油は、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.8以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。水素化油のH/Cが0.8未満の場合、水素化油の水素化に使われる水素量が増加し、反応の効率が低下する傾向がある。
水素化油の100℃における粘度は6mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以下であることがより好ましい。
水素化油の100℃における粘度が6mPa・sを超えると、処理前ピッチと混合しにくくなる傾向がある。このため、処理前ピッチの粘度を下げる目的で使用する場合には、充分に粘度を下げられない傾向があり、また、水素化反応における冷媒として用いる場合には、反応器内を流れる反応液(処理前ピッチ又は水素化コールタールピッチ)と充分に混合されず、反応器の均一な冷却が行われない傾向がある。
水素化油の15℃における比重は0.8〜1.2であることが好ましい。
水素化油を処理前ピッチの粘度を下げる目的で使用する場合において、水素化油の比重が0.8未満、或いは1.2を超える場合には、処理前ピッチとの比重差が大きく、処理前ピッチと混合しにくい傾向がある。そのため、処理前ピッチに水素化油が充分に混合されず、処理前ピッチの粘度を充分に下げられない傾向がある。
また、水素化油を水素化反応における冷媒として用いる場合において、水素化油の比重が0.8未満の場合は、軽沸点成分が多く、反応器内で気化が生じ、均一な冷却が行われない傾向があり、一方、水素化油の比重が1.2以上の場合は、重質な成分が多く、反応器内を流れる反応液(処理前ピッチ又は水素化コールタールピッチ)と充分に混合されず、反応器の均一な冷却が行われない傾向がある。
[コークス化]
本発明の製造方法で得られた水素化コールタールピッチは、コークス化することによって、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスを得ることが出来る。以下に、ニードルコークスの製造について説明する。
本発明の製造方法で得られた水素化コールタールピッチをコークス化する方法は限定されないが、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法、フレキシコーキング法、ユリカプロセスなどが挙げられ、これらの中でも、得られるコークスの生産性や品質安定性の点からディレードコーキング法が好ましい。
なお、本発明では、原料コールタールピッチから軽質油を分離して処理前ピッチを得るにあたり、軽質油の分離割合(除去率)を増やすことで、上述したコーキング装置への装入量当りのコークス歩留りを増やすことができる。また、前述の通り、水素化コールタールピッチから軽質油を分離する場合においても、同様の効果を奏することができる。
ディレードコーキング法においては、水素化コールタールピッチが加熱管中を加熱されながら急速に通過し、コークドラムに導入されてコーキングが起こる。コーキング条件は特に制限されないが、温度は好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。コーキング時間は好ましくは18〜72時間、より好ましくは20〜40時間である。
また、このようにして得られるコークスをロータリーキルン、シャフト炉等でか焼することが好ましい。か焼の際の温度は1000〜1500℃が好ましく、時間は1〜6時間が好ましい。
なお、コークス化に用いる原料としては、本発明の製造方法で得られる水素化コールタールピッチとともに他の原料を併用してもよい。このような原料は限定されないが、例えば石油系重質油が挙げられる。水素化コールタールピッチと併用して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、前記した水素化処理時に処理前ピッチとともに用いることの出来る石油系重質油として例示したものが挙げられ、中でも特に流動接触分解油、常圧蒸留残油が好ましい。
水素化コールタールピッチと他の原料との混合割合は限定されないが、水素化コールタールピッチを通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上となる割合で用いることが好ましい。
[ピッチ系ニードルコークス]
本発明の製造方法で得られた水素化コールタールピッチを用い、上記のようにして得られたピッチ系ニードルコークスは、硫黄分及び窒素分の含有割合が低いため、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスとすることが出来る。具体的には、ピッチ系ニードルコークスの硫黄分は0.3重量%以下、更には0.15重量%以下とすることが出来、窒素分は0.8重量%以下、更には0.6重量%以下とすることが出来る。
また、得られるピッチ系ニードルコークスは、熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7/℃以下、更には3.2×10-7/℃以下であり、パッフィングが3.4%以下、更には3.0%以下とすることができる。ここでパッフィングの値は、後述する実施例記載の方法で測定した、2600℃迄のパッフィングを意味する。
このため、本発明で得られるピッチ系ニードルコークスは、電炉製鋼用黒鉛電極の骨材として好適に使用することが出来る。
本発明で得られるピッチ系ニードルコークスを用いて黒鉛電極製品を製造する方法としては、本発明のニードルコークスにバインダーピッチを適当量添加した原料を加熱捏合した後、成型して得られた生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工する方法が挙げられる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
<硫黄分の測定>
原料コールタールピッチ、軽質油を除去したコールタールピッチ、水素化コールタールピッチ及びコークス中の硫黄分は、JIS M8813に準拠して測定した。具体的には、試料0.1gを1000℃以上に熱した燃焼炉に投入し、発生したガスを硫酸を1%含む35%過酸化水素水に吸収させ、その電気伝導度の変化により測定した。
<H/C及び窒素分の測定>
原料コールタールピッチ、軽質油を除去したコールタールピッチ及び水素化コールタールピッチ中の炭素、水素、窒素の含有率の測定は、JIS M8819に準拠して測定した。具体的には、装置名:Vario Max全自動元素分析装置(エレメンタール社)にサンプルを供することにより測定を行った。
H/Cは、上記測定法にて得た炭素原子と水素原子の含有量をモル数にし、次式により算出した。
H/C=水素原子数/炭素原子数
コークス中の窒素含有率(窒素分)の測定は、JIS M8819に準拠して測定した。具体的には、装置名:NC−22A(住化分析センター社製)にサンプルを供することにより測定を行った。
<比重の測定>
15℃の比重は、JIS K2425に従い測定した。
<キノリン不溶分の測定>
キノリン不溶分(Qi)の測定は、JIS K2425に従い測定した。
<トルエン不溶分の測定>
トルエン不溶分(Ti)の測定は、JIS K2425に従い測定した。
<360℃以下の留分の測定>
360℃以下の留分の測定は、JIS K2425に従い測定した。
<粘度の測定>
粘度の測定は、B型回転粘度計(VISCOMETER DV−II+PRO(ブルックフィールド社製))を用いて行った。
<ナフタレン含有量の測定>
ナフタレン含有量の測定は、ガスクロマトグラフ(GC−2014(島津製作所製))にBPX5(長さ:60m、直径:0.32μm、膜厚:0.25μm(SGE社製))を装着した装置で内部標準法を用いて分析を行った。
<アセナフテン含有量の測定>
アセナフテン含有量の測定は、ガスクロマトグラフ(GC−2014(島津製作所製))にBPX5(長さ:60m、直径:0.32μm、膜厚:0.25μm(SGE社製))を装着した装置で内部標準法を用いて分析を行った。
<熱膨張係数(CTE)の測定>
か焼コークスを粉砕した後、各サンプルとも一定の粒度に調整した。これに石炭系のバインダーピッチをか焼コークスに対して30重量%加え、各サンプルとも同一の温度で加熱捏合した後、押出し成形機を用いて円柱状の成形体を作製した。
この成形体を焼成炉を用いて1000℃で3時間焼成した後、タンマン炉にて2800℃で黒鉛化して得られた試験片について、その長さ方向の線熱膨張係数(以下、CTE)を測定した。CTEの値が低い方が良好である。
なお、測定に際しては、押し棒式熱膨張計に前述の試験片をセットし、赤外線イメージ炉で30℃から130℃まで昇温し、この間の伸びを測定した(ΔL)。試験片と同サイズの石英を用いて同様に測定し(ΔL’)、次式により熱膨張係数を計算した。
熱膨張係数(×10-7/℃)=(ΔL−ΔL’)/(L×ΔT)+5.1×10-7
(上記式中、Lは試験前のテストピースの長さ、ΔTは伸びを測定した温度差(100℃)、「5.1×10-7」は30℃から130℃での石英の熱膨張係数である)
<パッフィングの測定>
熱膨張係数(CTE)の測定と同様に加熱捏合した後、モールド成形し、成形時の加圧方向へボーリング加工して円柱状の成形体を作製した。この成形体を1000℃で焼成した後、試験片をタンマン炉を用いて昇温速度20℃/分にて室温から2600℃の温度間の円柱体の長さ方向の寸法の伸びを押し棒式熱膨張計にて測定し、下記式により計算してパッフィングとして示した。なお、この成形体の円柱の長さ方向の寸法の伸びは、上記押出し成形体の押出し方向に対し垂直方向に該当する。パッフィングの値が3.4%以下を合格とし、より低い値である方がよい。
パッフィング(%)=(ΔL/L)×100
(上記式中、Lは試験前のテストピースの長さ、ΔLは2600℃までの昇温間の伸びである)
[実施例1]
コークス製造設備由来のコールタールを常圧蒸留して得られた重質成分からキノリン不溶分を除去することにより精製コールタールピッチを得て、これを原料コールタールピッチとした。
原料コールタールピッチは、キノリン不溶分(Qi)が0.008重量%、トルエン不溶分(Ti)が8.34重量%、H/Cが0.65、硫黄分0.62重量%、窒素分1.11重量%、360℃以下の留分が9.8%、100℃の粘度が183mPa・s、15℃の密度が1.234g/cm3、ナフタレン含有量が0.8重量%、アセナフテン含有量が1.4重量%であった。
原料コールタールピッチを、10hPa‐abs、蒸留装置上部温度を190℃とする減圧蒸留を行い、軽質油を13重量%除去し、軽質油を除去したコールタールピッチとした。
軽質油を除去したコールタールピッチは、キノリン不溶分(Qi)が0.008重量%、トルエン不溶分が9.02重量%、H/Cが0.62、硫黄分0.66重量%、窒素分1.18重量%、360℃以下の留分が0.7重量%、100℃の粘度が1965mPa・s、15℃の密度が1.257g/cm3、ナフタレン含有量が0.001重量%、アセナフテン含有量が0.1重量%であった。
次に、市販の水素化触媒の存在下、純度99%以上の水素を用い、固定床連続式反応装置にて上記の軽質油を除去したコールタールピッチを水素分圧13MPa、温度380℃、水素/ピッチ流量比1m3当たり300Nm3/m3、液空間速度(LHSV)が1.0h-1になるようにして水素化処理し、水素化コールタールピッチを得た。
得られた水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が0.003重量%、トルエン不溶分が1.37重量%、H/Cが0.83、硫黄分0.24重量%、窒素分0.75重量%、100℃の粘度が101mPa・s、15℃における密度が1.178g/cm3、360℃以下の留分が22.5重量%であった。これらの値を表−1に示す。
得られた水素化コールタールピッチをステンレス製圧力容器に入れ、加圧下、500℃にて24時間加熱処理を行うことによりコークス化した。生成したコークスを1300℃で2時間焼成してか焼コークスを得た。得られたか焼コークスの硫黄分は0.13重量%、窒素分は0.54重量%であった。
得られたか焼コークスについて、熱膨張係数(CTE)及びパッフィングを測定した結果を表−1に示す。
[比較例1]
原料コールタールピッチを蒸留(軽質油の分離)、水素化処理の何れも行わずにそのまま使用した以外は実施例1と同様にしてコークス化し、か焼コークスとした。これを実施例1と同様の評価を行った結果を表−1に示す。
[比較例2]
原料コールタールピッチを蒸留(軽質油の分離)せずに、実施例1と同様の条件で水素化処理を実施し、水素化コールタールピッチを得た。
得られた水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が0.002重量、トルエン不溶分が0.54重量%、H/Cが0.87、硫黄分0.20重量%、窒素分0.69重量%、360℃以下の留分が30.4重量%、100℃の粘度が33mPa・s、15℃における密度が1.160g/cm3であった。これらの値を表−1に示す。
これを実施例1と同様にしてコークス化し、か焼コークスとした。これを実施例1と同様の評価を行った結果を表−1に示す。
[比較例3]
原料コールタールピッチを実施例1と同様の条件で蒸留(軽質油の分離)して軽質油を13重量%除去し、軽質油を除去したコールタールピッチとした。これを水素化処理をせずにそのまま使用した以外は実施例1と同様にしてコークス化し、か焼コークスとした。これを実施例1と同様の評価を行った結果を表−1に示す。
Figure 2017048380
表−1の通り、原料コールタールピッチから軽質油を分離した後、更に水素化処理して得られた水素化コールタールピッチを用いて製造されたピッチ系ニードルコークスは、CTE及びパッフィングの何れも顕著に良好であることが明らかである(実施例1)。
これに対し、原料コールタールピッチをそのまま用いて製造されたピッチ系ニードルコークス(比較例1)及び、原料コールタールピッチから軽質油を分離したのみで水素化処理を行わなかったコールタールピッチを用いて製造されたピッチ系ニードルコークス(比較例3)は、何れもCTE及びパッフィングの何れも不十分であった。
また、原料コールタールピッチから軽質油の分離を行わずに水素化処理のみを行った水素化コールタールピッチを用いて製造されたピッチ系ニードルコークスは、実施例1に比較してCTEが不十分であった(比較例2)。
また、比較例2に対し、実施例1においては、水素化処理工程における水素の消費量に改善効果がみられた。

Claims (12)

  1. 原料コールタールピッチから軽質油を分離し、得られたコールタールピッチの重質油成分を水素化する、水素化コールタールピッチの製造方法。
  2. 原料コールタールピッチから軽質油を6〜40重量%分離する請求項1に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  3. 原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られた、360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるコールタールピッチを用いる、請求項1又は2に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  4. 原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られた、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるコールタールピッチを用いる、請求項1〜3の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  5. 水素化処理の条件が、300〜450℃、水素/ピッチ流量比が、ピッチ1キロリットル当たり100〜700Nm3/kL、水素分圧が5〜20MPa、液空間速度が0.1〜2h-1である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  6. 水素化処理を連続固定床反応装置にて行う請求項1〜5の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  7. 軽質油の分離を蒸留塔により行う請求項1〜6の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  8. 更に、得られた水素化コールタールピッチから軽質油を分離する工程を有する請求項1〜7の何れか1項に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  9. 水素化コールタールピッチから分離された軽質油を、水素化を行う反応器の冷却に用いる請求項8に記載の水素化コールタールピッチの製造方法。
  10. 請求項1〜9の何れか1項に記載の方法で水素化コールタールピッチを製造し、得られた水素化コールタールピッチをコークス化する、ピッチ系ニードルコークスの製造方法。
  11. 2600℃迄のパッフィングが3.4%以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、請求項10に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
  12. 熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7/℃以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、請求項10又は11に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
JP2016157927A 2015-09-01 2016-08-10 水素化コールタールピッチの製造方法 Pending JP2017048380A (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015172253 2015-09-01
JP2015172253 2015-09-01

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2017048380A true JP2017048380A (ja) 2017-03-09

Family

ID=58278923

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016157927A Pending JP2017048380A (ja) 2015-09-01 2016-08-10 水素化コールタールピッチの製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2017048380A (ja)

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2019188280A1 (ja) * 2018-03-26 2019-10-03 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社 ニードルコークス用原料油及びニードルコークス
CN113604241A (zh) * 2021-08-26 2021-11-05 西北大学 中低温煤焦油沥青复合萃取改质制备针状焦的方法
CN114088877A (zh) * 2021-10-21 2022-02-25 包头钢铁(集团)有限责任公司 一种高效溶解高温焦油的方法
CN115029156A (zh) * 2022-06-16 2022-09-09 中海油天津化工研究设计院有限公司 一种用于劣质重油精制制备炭材料的方法

Cited By (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2019188280A1 (ja) * 2018-03-26 2019-10-03 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社 ニードルコークス用原料油及びニードルコークス
JPWO2019188280A1 (ja) * 2018-03-26 2021-05-27 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社 ニードルコークス用原料油及びニードルコークス
JP7252208B2 (ja) 2018-03-26 2023-04-04 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社 ニードルコークス用原料油及びニードルコークス
CN113604241A (zh) * 2021-08-26 2021-11-05 西北大学 中低温煤焦油沥青复合萃取改质制备针状焦的方法
CN114088877A (zh) * 2021-10-21 2022-02-25 包头钢铁(集团)有限责任公司 一种高效溶解高温焦油的方法
CN114088877B (zh) * 2021-10-21 2024-03-12 包头钢铁(集团)有限责任公司 一种高效溶解高温焦油的方法
CN115029156A (zh) * 2022-06-16 2022-09-09 中海油天津化工研究设计院有限公司 一种用于劣质重油精制制备炭材料的方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5483334B2 (ja) 石油コークスの製造方法
JP5266504B2 (ja) 低cte黒鉛電極の原料となる針状コークスの製造方法
JP2017048380A (ja) 水素化コールタールピッチの製造方法
US20110044881A1 (en) Method For The Catalytic Extraction Of Coal
KR20110121694A (ko) 코크스 제조용 점결재의 제조 방법 및 코크스의 제조 방법
EP0175518B1 (en) Process for the preparation of super needle coke
JP2017048379A (ja) コールタールピッチ及びその製造方法
JP4809676B2 (ja) 石油コークス及びその製造方法
JP7252208B2 (ja) ニードルコークス用原料油及びニードルコークス
JP2018123322A (ja) 水素化コールタールピッチの製造方法
Elkasabi et al. Biobased tar pitch produced from biomass pyrolysis oils
JPS6328477B2 (ja)
JP2008150399A (ja) 石油コークス及びその製造方法
JP6766528B2 (ja) 水素化コールタールピッチの製造装置
JP2015193805A (ja) 水素化コールタールピッチの製造方法
JPS60149690A (ja) ニ−ドルコ−クスの製造方法
JP2019006995A (ja) コールタールピッチの水素化反応装置及び水素化コールタールピッチの製造装置
CN111892950B (zh) 一种组合工艺生产针状焦的方法
CN104862005A (zh) 一种生产石油焦的方法
JP2015166444A (ja) 水素化コールタールピッチ及びその製造方法
JP2015166443A (ja) 水素化コールタールピッチ及びその製造方法
CN109370630B (zh) 一种制备煤系针状焦原料的方法
JP5652060B2 (ja) ニードルコークス製造用石炭系原料の製造方法及びニードルコークスの製造方法
CN116376596A (zh) 一种针状焦原料的生产方法
JP5652059B2 (ja) ニードルコークス製造用石炭系原料油及びニードルコークスの製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A712

Effective date: 20170421

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20190802

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20200529

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20200616

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20200807

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20201215