JP2019006995A - コールタールピッチの水素化反応装置及び水素化コールタールピッチの製造装置 - Google Patents

コールタールピッチの水素化反応装置及び水素化コールタールピッチの製造装置 Download PDF

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隆男 上野
靖之 原田
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靖之 原田
賢一郎 林
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賢一郎 林
照男 吉田
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Abstract

【課題】水素化コールタールピッチの工場規模の製造であっても、熱量の問題を解決することを目的とする。【解決手段】原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置であって、触媒が充填された反応槽と、この反応槽における水素化反応の反応物の少なくとも一部が冷却される冷却機構とを備え、かつこの反応槽の内容積が0.1〜50m3であることを特徴とするコールタールピッチの水素化反応装置による。【選択図】図1

Description

本発明は、コールタールピッチを水素化反応により水素化コールタールピッチとする際に用いられ、該水素化反応時に発生する反応熱を制御しながら水素化コールタールピッチを製造するのに適したコールタールピッチの水素化反応装置、及びこれを用いた水素化コールタールピッチの製造装置に関する。
石炭乾留時に副生するコールタールは、その大部分が縮合多環芳香族化合物から構成されており、以前から各種の炭素製品用の原料として使用されてきた。コールタール系製品群の構成割合は、約30%が留出油成分から得られるクレオソート油やナフタレン等の製品群、残り70%が非留出分である重質成分のコールタールピッチから得られる製品群である。これらのうち、コールタールピッチから製造されるニードルコークスは特に付加価値の高い製品として重要な位置を占めており、主に電気製鋼用黒鉛電極の骨材に使用される。黒鉛電極の製造工程においては、まずニードルコークス粒とバインダーピッチとを所定の割合で配合し、加熱捏合した後、押し出し成形して生電極を製造する。この生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工することにより黒鉛電極製品が得られる。
この黒鉛電極は過酷な高温条件のもとで使用されるため、極めて高い耐熱衝撃性が要求される。耐熱衝撃性の高い黒鉛電極を製造するためには熱膨張係数(CTE)が小さいニードルコークス(以下、「低CTEニードルコークス」と表記する場合がある。)が必要とされる。コールタールピッチを原料とするニードルコークス(以下、「ピッチ系ニードルコークス」と表記する場合がある。)は、あらゆるコークスの中で熱膨張係数が最も小さいので、黒鉛電極の原料としては最も好ましいものである。しかしながら、ピッチ系ニードルコ一クスは良品質な黒鉛電極を与える反面、電極を製造する黒鉛化過程で、いわゆるパッフィングと呼ばれる不可逆膨張現象を起こし易く、急速に黒鉛化した場合には製品に亀裂が発生して歩留りが著しく低下するといった欠点がある。これに対し、コールタールピッチを水素化して水素化コールタールピッチを用いて得られるニードルコークスは、熱膨張係数(CTE)が低く、しかもパッフィングが抑制されている点で黒鉛電極の原料として優れたものである。
水素化コールタールピッチについては、特許文献1に、水素化したコールタール系原料を使用するとパッフィングが減少したニードルコークスが得られることが記載され、また、特許文献2、3に、水素化する条件を最適化することにより、CTEが低く、しかもパッフィングが抑制されたニードルコークスを得ることができることが開示されている。
特開昭59−122585号公報 特開2015−166443号公報 特開2015−166444号公報
本発明者等は水素化コールタールピッチを工業的に製造するための方法を種々検討した。その結果、特許文献1〜3に記載されているような実験室規模の反応では、後述する実施例の[例1]の結果からも明らかなように、顕著な発熱は見られなかったが、工場規模になると、後述する実施例の[例2]の結果からも明らかなように、発熱量が多くなり、継続運転が困難となることがわかった。
これは、コールタールピッチの水素化反応における放熱と発熱の熱量を比較すると、特許文献1〜3に記載されているような実験室規模の反応では、発熱量がそれほど大きくなく、十分な放熱が可能であるが、工場規模になると、発熱の量に対し、放熱が間に合わなくなり、水素化反応により生じる反応熱を制御し、水素化コールタールピッチを製造することが難しくなるためであると考えられる。
そこで、本発明は、水素化コールタールピッチの工場規模の製造であっても、熱量の問題を解決することのできるコールタールピッチの水素化反応装置及び水素化コールタールピッチの製造装置を提供することを目的とする。
本発明者らが検討を行った結果、特定の反応槽及び冷却機構を有する水素化反応装置を用いることにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置であって、触媒が充填された反応槽と、この反応槽における水素化反応の反応物の少なくとも一部が冷却される冷却機構とを備え、かつこの反応槽の内容積が0.001〜50mであるコールタールピッチの水素化反応装置。
[2]前記冷却機構を構成する装置が熱交換器である、[1]に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
[3]前記冷却機構が前記反応槽の外部に設置されている、[1]又は[2]に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
[4]前記冷却機構がこの冷却機構が設けられた位置より後の位置に温度センサーを備え、この温度センサーからの温度情報に応じて、前記反応物を前記冷却機構に供給する量、並びに前記反応物を冷却する冷媒の流量及びこの冷媒の温度を制御する機構のうちの少なくとも1つを備える、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
[5]前記反応槽が連続固定床反応装置である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
[6]原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置、及び水素化反応装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置を備えた水素化コールタールピッチの製造装置であって、前記水素化反応装置が[1]〜[5]のいずれか1項に記載の水素化反応装置である、水素化コールタールピッチの製造装置。
[7]前記分離装置が蒸留塔又は気液分離器である、[6]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[8]前記水素化反応装置に原料コールタールピッチと水素とを供給するラインを有し、このラインがコールタールピッチを供給するラインと水素を供給するラインとが予め合流したものである、[6]又は[7]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
[9]前記水素化反応装置が原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とを有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備えられている、[6]又は[7]に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
本発明により、熱膨張係数が小さく、且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスの原料として好適な水素化コールタールピッチを、効率良く製造することが可能な装置を提供することができる。
本発明により、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、水素の消費量を削減し、効率の良い水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供することができる。
本発明により、コールタールピッチから水素化コールタールピッチを製造するに際し、工場規模においても反応槽の温度を制御して水素化反応を行うことが可能な製造装置を提供することができる。
(a)本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の一例を示す模式図である。(b)本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の他の例を示す模式図である。 (a)本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の他の例を示す模式図である。(b)本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の他の例を示す模式図である。 本発明の水素化コールタールピッチの製造装置の他の例を示す模式図である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。
なお、本発明において「ピッチ系」と「石炭系」は同義の語として扱うものとする。
また、本発明でいう「硫黄分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8813、石油系油についてはJIS K2541、コークスについてはJIS M8813に従い測定される値を、それぞれ意味する。
さらに、本発明でいう「窒素分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8819、石油系油についてはJIS K2609、コークスについてはJIS M8819に従い測定される値を、それぞれ意味する。
また、コールタールピッチの比重、キノリン不溶分、トルエン不溶分、360℃以下の留分は何れもJIS K2425に従い測定される値を意味し、粘度はB型回転粘度計で測定した値を意味する。
本発明は、原料コールタールピッチ(以下、単に「ピッチ」や「ピッチ系」と称する場合がある。)を水素化するための水素化反応装置に係る発明、及び、この水素化反応装置とこの水素化反応装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置とを備えた水素化コールタールピッチの製造装置に係る発明である。以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
[1.原料コールタールピッチ]
本発明において、前記コールタールピッチの水素化反応装置に供給する原料コールタールピッチは限定されないが、以下の特性を有するものであることが好ましい。
原料コールタールピッチの製造方法(事前調整方法)や製造装置は限定されないが、一般的にはコールタール系重質油から予めキノリン不溶分を実質的に除去するか、コールタール系重質油と石油系重質油とを混合した後にキノリン不溶分を実質的に除去することによって得ることが出来る。
キノリン不溶分を除去する手段としては公知の方法を適用することができるが、例えばコールタール系重質油を、芳香族系油や脂肪族系油で処理する方法が挙げられ、これらの混合溶剤で処理することも好ましい。脂肪族系油としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式化合物、アセトン、エーテル等のカルボニル基をもつ化合物、軽油等を使用することが出来る。芳香族系油としては、タール系洗浄油、アントラセン油等を使用することが出来る。ピッチと溶剤を適当な条件にて混合、加熱した後に必要により静置し、その後、この混合物を蒸留して低沸点成分を留去することにより、キノリン不溶分を殆ど含まない原料コールタールピッチとすることが出来る。
前記の原料コールタールピッチはコークス化の過程においてメソフェースと呼ばれる液晶の成長状態が良好であることが好ましい。メソフェースは、原料油の熱処理に伴い熱分解と重縮合が起こることによって生成する中間生成物であり、同一平面に沿って芳香族環の連なりが発達したものである。このメソフェースが大きく成長して一軸方向に配向すればニードルコークスの熱膨張係数を小さくすることができると考えられている。従って、高度に結晶が発達したメソフェースを生成させることが好ましい。
原料コールタールピッチのキノリン不溶分は0.2重量%以下であることが好ましい。原料コールタールピッチのキノリン不溶分が0.2重量%を超えると、コークス化過程におけるメソフェースの成長が抑制されることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。原料コールタールピッチのキノリン不溶分の下限値は限定されないが、通常0.0001重量%以上である。キノリン不溶分が0.0001重量%未満のものは、これを入手することが困難な上、このような原料コールタールピッチでは軽質油の含有割合が多く、コークス歩留りが低くなる傾向にある。更には、本発明の水素化反応装置を用いて水素化処理を行う効果が発現しづらくなる傾向にある。また、キノリン不溶分は、前記と同様の理由により0.001〜0.1重量%であることがより好ましい。
原料コールタールピッチの硫黄分は、0.4〜0.9重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの硫黄分が0.9重量%を超えると、本発明の水素化反応装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の硫黄分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、硫黄分は、前記と同様の理由により0.7重量%以下であることがより好ましく、0.65重量%以下であることが更に好ましい。
原料コールタールピッチの窒素分は、0.9〜1.5重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの窒素分が1.5重量%を超えると、本発明の水素化反応装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の窒素分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、窒素分は、前記と同様の理由により1.3重量%以下であることがより好ましく、1.2重量%以下であることが更に好ましい。
後述する水素化反応装置にて水素化を行なうことにより、コールタールピッチ中の硫黄分及び窒素分を低減することは可能ではあるが、安定的な水素化処理を行なうためには前記の硫黄分、窒素分の範囲内にあるコールタールピッチを原料として水素化を行なうことが好ましい。
コールタールピッチは、大部分が芳香族化合物で構成されているが、芳香族性を示す指標として芳香族指数がある。芳香族指数は大きいほど好ましく、例えば0.9以上であることが好ましい。コールタールピッチにおいては、芳香族指数が小さくなるとメソフェースの成長が不十分となり、水素化コールタールピッチから得られるニードルコークスの熱
膨張係数(CTE)の抑制が不十分となる傾向がある。
原料コールタールピッチの360℃以下の留分は、8〜30重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの360℃以下の留分が8重量%未満の場合は、コールタールピッチの粘度が高くなり、均一な水素化反応が起こりにくくなる場合がある。一方、原料コールタールピッチの360℃以下の留分が30重量%を超えると、原料コールタールピッチ中の軽質油成分へ水素化反応が集中して起こるため、結果としてコークス中の硫黄及び窒素の低減が不十分となる傾向にある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、好ましくは9〜20重量%、より好ましくは9.5〜15重量%である。
原料コールタールピッチの100℃における粘度は、30〜300mPa・sであることが好ましい。原料コールタールピッチの100℃における粘度が30mPa・s未満の場合、原料コールタールピッチ中の軽質油成分へ水素化反応が集中して起こるため、結果としてコークス中の硫黄及び窒素の低減が不十分となる傾向にある。一方、原料コールタールピッチの100℃における粘度が300mPa・sを超えると、コールタールピッチの粘度が高くなり、均一な水素化反応が起こりにくくなる場合がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により100〜250mPa・sであることがより好ましい。
原料コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.7であることが好ましい。
原料コールタールピッチのH/Cが0.5未満の場合は、水素化反応において消費される水素量が多くなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチのH/Cが0.7を超えると、脂肪族の含有量が多くなり、水素化コールタールピッチから得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.68であることがより好ましい。
なお、「H/C」はJIS M8819に準拠して測定した値を意味し、後述する実施例に記載した測定方法を採用するものとする。
原料コールタールピッチの15℃における比重は、1.00〜1.4であることが好ましい。ここで15℃における比重とは、4℃の水の密度に対する15℃での密度の比を意味する。
原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.00未満の場合は、コークスの収率が下がる傾向があり、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、原料コールタールピッチに含まれる重質成分の含有率が多くなり、水素化処理後のコールタールピッチのコークス化過程におけるメソフェースの成長速度が大き過ぎることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.00〜1.25であることがより好ましい。
なお、前記した原料コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
[2.コールタールピッチからの軽質油の分離]
本発明では、前記した原料コールタールピッチをそのまま水素化する原料として使用してもよいが、当該コールタールピッチから軽質油を分離し、除去したものを原料コールタールピッチとして使用することもできる(以下、「軽質油分離コールタールピッチ」という場合がある。)。
本発明において、コールタールピッチから軽質油を分離する方法や装置は限定されないが、例えば、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる(図示せず)。
本発明における軽質油とは、一般に軽質油(軽油)と呼ばれるものであれば限定されない。軽質油を構成する化合物の炭素数は限定されないが、通常36以下であり、好ましくは24以下である。軽質油は単一の化合物であってもよいが、通常は複数の化合物の混合物である。
なお、前記した蒸留手段により軽質油を分離する場合においては、蒸留装置の上部より得られる物質(軽質留分)を軽質油とする。すなわち、蒸留装置の上部より得られたものであれば、前記で例示した軽質油成分以外の物質を含んだものも「軽質油」という。軽質油を分離する蒸留装置上部の温度は特に限定されないが、常圧蒸留で400℃以下、好ましくは360℃以下、より好ましくは320℃以下である。
一方、本発明における重質油とは、前記で規定した軽質油よりも沸点の高い成分を意味する。重質油を構成する高分子化合物の炭素数は限定されないが、通常24以上であり、好ましくは36以上である。また、前記した蒸留手段により重質油を得る場合、蒸留装置の下部より得られる物質(重質留分)を重質油とする。重質油を得る温度は特に限定されないが、常圧蒸留で行う場合、前述した軽質油を分離する温度で蒸留することが望ましい。
本発明において、コールタールピッチから分離する軽質油の割合は限定されないが、通常6重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。分離する軽質油の割合が前記下限値未満である場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる場合がある。一方、分離する軽質油の割合が前記上限値を超過する場合は、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となり、さらに、蒸留塔の直径を大きくする必要があるため、経済的な面から好ましくない傾向がある。
コールタールピッチから分離された軽質油の使途は限定されないが、燃料として用いられるだけでなく、カーボンブラックやその他の各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、冷媒(冷却オイル)等として有用に用いることができる。
<軽質油分離コールタールピッチ>
本発明において、軽質油分離コールタールピッチは限定されないが、以下の特性を有するものであることが好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチのキノリン不溶分は限定されないが、通常0.02重量%以下であり、好ましくは0.01重量%以下であり、より好ましくは0.008重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を前記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
なお、本発明における軽質油分離コールタールピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
原料コールタールピッチの硫黄分が0.9重量%を超えると、本発明の水素化反応装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の硫黄分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、硫黄分は、前記と同様の理由により0.7重量%以下であることがより好ましく、0.65重量%以下であることが更に好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの硫黄分は限定されないが、0.4〜0.9重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの硫黄分が0.9重量%を超えると、本発明の水素化反応装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の硫黄分が十分に
下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、硫黄分は、前記と同様の理由により0.7重量%以下であることがより好ましく、0.65重量%以下であることが更に好ましい。硫黄分の含有量を前記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの窒素分は限定されないが、0.9〜1.5重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの窒素分が1.5重量%を超えると、本発明の水素化反応装置を用いて水素化処理した後のピッチ中の窒素分が十分に下がらないため、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。また、窒素分は、前記と同様の理由により1.3重量%以下であることがより好ましく、1.2重量%以下であることが更に好ましい。窒素分の含有量を前記の範囲とすることによって、これを水素化して得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる傾向にある。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの360℃以下の留分は限定されないが、9重量%以下であることが好ましい。360℃以下の留分が9重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、7重量%以下であることがより好ましい。一方、360℃以下の留分の下限は0.02重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。360℃以下の留分が前記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの100℃における粘度は500〜3000mPa・sであることが好ましい。100℃における粘度が500mPa・s未満の場合、高粘度の流体を扱うポンプを使用する場合において送液が困難になる傾向があり、また、コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、100℃における粘度が3000mPa・sを超えると、流動性が極端に低くなるため、配管での輸送が困難になる傾向がある。また、100℃における粘度は、前記と同様の理由により350〜2500mPa・sであることがより好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.7であることが好ましい。H/Cが0.5未満の場合は、重質な成分の量が多く、メソフェースの成長が妨げられ、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。一方、H/Cが0.7を超える場合は、脂肪族化合物の含有量が多くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.7であることがより好ましい。
本発明における軽質油分離コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.4であることが好ましい。軽質油分離コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、軽質油分離コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.1〜1.3であることがより好ましい。
なお、前記した軽質油分離コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
前記の通り、コールタールピッチから軽質油を分離するための分離装置を備え、軽質油分離コールタールピッチを原料として後述する水素化反応装置を用いた水素化反応を行う
ことにより、良好な特性を有するニードルコークスが得られる傾向がある。
ニードルコークスは、針状が発達した結晶構造を有することにより、低い熱膨張係数を得ていると考えられている。この発達した針状構造は、メソフェース生成時に生じる芳香族環からのガス、特に水素の発生により形成されると考えられている。このため、コークス化に寄与の低い軽質油を留去し、このガス発生時の粘度を増加させることにより、より効率的にメソフェースの成長を促すことにより、得られるニードルコークスの熱膨張係数を低下させる傾向が高いものと考えられる。
軽質油分離コールタールピッチは、軽質油を分離する前に比べて粘度が高くなり、流動性が低下する。このため、これを原料コールタールピッチとして用いると、水素化処理において触媒との接触効率が低下し、脱硫率、脱窒素率が低下する場合がある。しかしながら本発明では後述する通り、水素化反応装置に供給する原料として、原料コールタールピッチとともに水素化コールタールピッチから分離された軽質油を併用する装置構成とすることにより、前記の問題を解消することができる。このため本発明の水素化反応装置では、原料コールタールピッチとして軽質油分離コールタールピッチを有効に使用することができる。
<石油系重質油>
本発明では、水素化する原料として、前記の原料コールタールピッチとともに石油系重質油を混合して用いることが可能な装置構成としてもよい。また、原料コールタールピッチと石油系重質油とを混合してから軽質油を分離して水素化する原料となる装置構成としてもよい。更には、軽質油分離コールタールピッチと石油系重質油とを混合して水素化する原料となる装置構成としてもよい。
混合して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、流動接触分解油、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、エチレンボトム油及びこれらを水素化精製した重質油などが挙げられる。また、前記以外に、直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を更に含有してもよい。これらの中でも特に流動接触分解油、及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多く含まれることから好ましい。
前記石油系重質油の硫黄分は1.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましい。また、石油系重質油の窒素分は0.7重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。混合する石油系重質油の硫黄分や窒素分が前記上限値を超えると、ニードルコークスのパッフィングを十分に抑制することができない場合がある。
前記石油系重質油の混合割合は限定されず、コールタール又はコールタールピッチ中の窒素分、硫黄分、石油系重質油中の窒素分、硫黄分より計算して適宜最適化されるが、混合油中の硫黄分が1.0重量%以下、窒素分が0.9重量%以下となる割合に混合することが好ましい。混合油中の各成分の下限値は限定されないが、通常、硫黄分が0.3重量%以上、窒素分が0.1重量%以上となる割合に混合することが好ましい。具体的には、コールタール又はコールタールピッチを50〜80重量%、石油系重質油を50〜20重量%の割合に混合することが好ましい。一般に、石油系重質油はコールタールに較べて窒素分は低く、硫黄分は高い傾向にあるが、両者を混合した後の窒素分や硫黄分を前記の範囲となるように配合して用いることにより、本発明の効果を有効に発揮することができる。
前記の石油系重質油中に飽和炭化水素、特に脂肪族成分が多く含まれると、芳香族成分の重合及び重縮合以外に架橋反応が起こるため、三次元構造の結晶が成長してメソフェー
スが十分に成長せず、その結果、熱膨張係数が大きくなると考えられている。本発明に用いる原料コールタールピッチは、コールタールを原料としていることから芳香族性は極めて高く、ニードルコークスの原料として好適であるが、混合原料油に使用する石油系重質油としては、コールタールより芳香族成分の割合は小さいものの、上述の流動接触分解油及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多いことから好ましい。
[3.水素化反応装置]
本発明のコールタールピッチの水素化反応装置は、原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置であって、触媒が充填された反応槽と、この反応槽における水素化反応の反応物の少なくとも一部が冷却される冷却機構とを備え、かつこの反応槽の内容積が0.001〜50mであるものである。本発明の水素化反応装置では、原料コールタールピッチ(前記した通り、石油系重質油を混合して用いる場合を含む。)を水素化反応装置に装入して水素化処理することにより、水素化コールタールピッチとすることができる。このような水素化反応装置11の例としては、図1(a)〜(b)、図2(a)〜(b)、図3に示されるような装置をあげることができる。
また、本発明の水素化コールタールピッチの製造装置は、原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置、及び水素化反応装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置を備えた水素化コールタールピッチの製造装置であって、該水素化反応装置として本発明の水素化反応装置を用いるものである。
水素化工程に供給する原料として、前記以外の原料(以下、「その他の原料」と言う場合がある。)を併用してもよい。その他の原料は限定されないが、水素消費量が少ないという観点から、飽和度の高い炭素系化合物や芳香族性の低い炭素系化合物が好適に用いられる。
本発明において水素化反応装置11とは、触媒を用いて原料コールタールピッチを水素化するための装置をいう。
この水素化反応装置11は、図1(a)〜(b)、図2(a)〜(b)、図3に示すように、上記触媒を充填した反応槽12、及びこの反応槽12における水素化反応による反応物の少なくとも一部を冷却する冷却機構13を備えている。
上記反応槽12の具体的な方式は限定されないが、反応性と生産性の観点から連続反応式装置であることが好ましい。触媒層は流動床、固定床、またはこれらを組み合わせたもののいずれも適用出来るが、長期運転のし易いこと、建設費用等の経済性の観点から固定床式が好ましい。すなわち連続固定床式反応装置を用いることが本発明には好適である。
上記反応槽12の形状や材質は、水素を含む高温反応に耐え得るように設計されたものであれば限定されない。
上記反応槽12の内容積は、0.001m以上がよく、0.2m以上が好ましい。0.001mより小さいと、原料コールタールピッチの水素化による発熱量がそれほど多くなく、温度上昇がそれほど生じないので、本発明の問題点が生じにくくなる。一方、上記反応槽12の内容積の上限は、50mがよく、20mが好ましい。50mより大きくてもよいが、原料コールタールピッチの水素化反応にそれより大きな反応槽を用いる必要性が低いので、50mで十分である。
通常、原料コールタールピッチは、100〜280℃程度の温度で、原料コールタールピッチ(C)を供給するライン16を通って移送される。一方、上記反応槽12による水素化反応は、後述する通り、通常300〜450℃程度の温度で行われる。このため、原料コールタールピッチと水素は、水素化反応が開始する温度以上の温度に加熱して上記反応槽12へ供給する必要がある。従って、上記反応槽12へ供給する原料を加熱する装置
(図示せず。以下、「加熱装置」と言う場合がある。)を備えた装置とすることが好ましい。加熱装置の種類は限定されないが、例えば、熱媒オイルや蒸気を熱源とする熱交換器や加熱炉等が挙げられる。
一方、後述する通り、分離装置によって分離される軽質油は、通常250〜400℃程度の高温で排出される。このため、前記熱交換器の熱媒として、分離装置によって分離された軽質油を用いることも好ましい。
更には、原料コールタールピッチと高温状態でリサイクルされる軽質油とを混合することにより、原料を加熱することも好ましい。この方式により、加熱装置の代替あるいは加熱装置の機能を補完する手段とすることが出来る。また、この方式の場合は、図1(a)〜(b)、図2(a)〜(b)及び図3に示すような、本発明にかかる冷却装置14及びバイパス回路15から構成される冷却機構13を用いない場合や、或いは本発明にかかる冷却機構13を用いるものの小規模化する場合の態様としてもよい。
水素の供給方法は、水素(H)を供給するライン17を用いて行われ、原料コールタールピッチの流れと同じ方向で供給する方法と、原料コールタールピッチの流れと逆向きに供給する方法のいずれの方法を採用してもよい。
水素を原料コールタールピッチの流れと同じ方向に供給する場合は、1個所からの供給であってもよいし、複数個所に分けて供給してもよい。さらに、水素の一部を原料コールタールピッチと混合し、残りの水素を反応途中の原料コールタールピッチが流れる反応槽12に供給してもよいが、原料コールタールピッチに水素を予め混合した状態で反応槽12に供給することが望ましい。より具体的には、図1(a)、図2(a)に示すように、前記反応槽12に原料コールタールピッチ供給ライン16と水素供給ライン17aを有し、原料コールタールピッチ供給ライン16と水素供給ライン17aとが反応槽12に接続される前に、予め合流されたものであることが好ましく、このような装置であると、エントレイメントやフラッディング(供給された原料コールタールピッチが反応器内の下側から上昇する水素及び反応により生じたガスの流れにより反応槽12の上側にもち上げられる現象)を防ぐ観点から好ましい。
さらに、水素を原料コールタールピッチの流れと逆向きに供給する場合は、反応槽12に原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とをそれぞれ別個に有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備える場合を例として挙げることができる。この場合の具体例としては、図1(b)や図2(b)に示すように、反応槽12の上部に原料コールタールピッチ供給ライン16を設けると共に、反応槽12の出口付近に水素供給ライン17bを設け、これらからそれぞれを供給する場合があげられる。この場合、水素の供給個所は、1個所であってもよいし、複数個所に分けて供給してもよい。さらに水素の一部を反応槽12の出口又はその付近から供給し、残りの水素を反応途中の原料コールタールピッチが流れる反応槽12に供給してもよいし、反応槽12の出口から払出される水素化されたコールタールピッチと水素を混合し、水素のみを反応槽12に供給することもできるが、水素化されたコールタールピッチの逆流を防止するため、反応槽12の出口付近から水素を供給することが望ましい。より具体的には、反応槽12が原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とを有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備えられているものが好ましく、このような装置であると、反応槽12内において、水素化反応をより良好に進行させることができるために好ましい。
なお、図2(b)に示す製造装置の場合、原料コールタールピッチ供給ライン16を有する反応槽12aと水素供給ライン17bを有する反応槽12bとの間には、後述する冷却装置14及びバイパス回路15を有する冷却機構13bが介在することとなるが、水素
ガスは、原料コールタールピッチの流れに抗して反応槽12b、冷却機構13b、反応槽12aへと上流に流れるので、反応槽12aにも水素ガスが供給されることとなり、問題は生じない。
さらにまた、図3に示すように、複数の反応槽12(12a、12b)を有し、前記反応槽12aに原料コールタールピッチ供給ライン16と水素供給ライン(後記する回収水素供給ライン17c)を設けて、原料コールタールピッチと水素を流す方向は同じとし、さらに、原料コールタールピッチの供給口から最も遠い位置にある反応槽12bに水素供給ライン17aを設けて、水素を並流で供給する製造装置を用いることもできる。このとき、図1(a)や図2(a)の説明で示した冷却機構を用いることができる。
図3に示す製造装置を具体的に説明すると、反応槽12aの上部に原料コールタールピッチ供給ライン16を設けると共に、反応槽12bの入口付近又は反応槽12bに水素供給ライン17aを設け、これを用いて水素を供給する。そして、反応槽12bから払い出される未反応の水素、反応により生じたガス及び軽質油(以下、まとめて「回収水素等Hc」と称する。)を回収水素供給ライン17cにより反応槽12aの入口付近又は、原料コールタールピッチ供給ライン16に供給する。これにより、図1の装置で懸念されたエントレイメントやフラッディングを抑制し、さらに図2の装置の説明で述べたように、水素化反応をより良好に進行させることができるためにより好ましい。更に、コールタールピッチの水素化反応において、平衡が律速の場合は、水素化反応を効率良く進めることができる。この場合、水素の供給個所は、1個所であってもよいし、複数個所に分けて供給してもよい。具体的には、反応槽12bから払い出される水素及び反応により生じたガスに、さらに水素を加え、反応槽12aに供給するガスの水素濃度を上げて供給することができる。これにより、水素ガスの流れに対して後段にある反応槽での水素濃度を高く維持できるため、反応速度を高めて水素化反応の効率を高めることができる。
なお、反応槽12bから反応槽12aへ未反応の水素と反応により生じたガスを供給するラインに気液分離器を設けて水素、反応物及び反応により生じた軽質油等の混合物を分離してこれらの中から未反応の水素を再利用することもできる。更に、反応槽12bから払い出した回収水素等Hcを反応槽12a付近に供給する回収水素供給ライン17cにおいて気液分離器やガス精製装置を設けて水素の純度を高めて供給してもよい。
なお、図2や図3のように反応槽12を複数設ける場合において、これらの図では簡易的に反応槽が2個設けられたものを示しているが、これらの態様においては同様にして反応槽12を3個以上として実施することもできる。
以上から、原料コールタールピッチと水素の混合方法は限定されず、図1(b)や図2(b)に示すように、これらを独立して反応槽12へ供給してもよいし、図1(a)や図2(a)に示すように、予め混合した状態で反応槽12へ供給してもよく、さらに、図3に示すように、その両方であってもよい。
原料コールタールピッチと水素を独立して反応槽12へ供給する場合は、高温状態の原料コールタールピッチに低温の水素が混合されると、原料コールタールピッチの温度が低下するため、水素化反応の反応性が低下したり、反応槽12への原料コールタールピッチの供給が困難になる場合がある。このため、水素も加熱して供給することが好ましい。
一方、原料コールタールピッチと水素を予め混合した状態で反応槽12へ供給する場合は、前記のような問題を解消することができる。この方式の場合、加熱装置又は反応槽12の直前で原料コールタールピッチと水素を混合することが望ましい。なお、水素供給ライン17aと原料コールタールピッチ供給ライン16とを接続させるのみで両流体を混合する場合は、前記理由のため、両流体を混合した場所から加熱装置又は反応槽12までの配管の長さをできる限り短くすることが望ましい。
原料コールタールピッチを反応槽12に装入する原料コールタールピッチ供給ライン16の材質は、原料コールタールピッチによって腐食が生じないものであれば限定されず、適宜選択して用いることが出来る。一方、水素を反応槽12に装入する水素供給ライン17は、水素による腐食に耐え、水素の透過が生じない材質を選択する必要がある。また、原料コールタールピッチと水素を混合して反応槽12に装入する場合は、その範囲の配管の材質についても水素供給ライン17に準ずることが好ましい。
本発明において、反応槽12を用いて原料コールタールピッチを水素化する方法は限定されないが、具体的な方法を以下に説明する。
水素化処理に用いられる触媒としては、Ni−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、あるいはこれらを組合せた触媒などが挙げられ、これらは市販品を用いてもよい。これらの中でも、脱硫及び脱窒素の活性が高く、水素消費量が抑えられるという点でNi−Mo系触媒が好ましい。
水素化処理の温度は限定されないが、通常300〜450℃で行われる。水素化処理の温度が300℃未満の場合は脱硫率及び脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。一方、450℃を超えると触媒寿命が低下する等の問題が発生する傾向がある。また、水素化処理の温度は、前記と同様の理由により、好ましくは350〜420℃、より好ましくは360℃〜400℃である。
水素化処理における水素/ピッチ流量比は限定されないが、ピッチ1m当たり通常100〜700Nm/mで行われる。水素/ピッチ流量比が100Nm/m未満になると、十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、水素/ピッチ流量比が700Nm/mを超えると、水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における水素/ピッチ流量比は、前記の理由により、好ましくは200〜600Nm/m、より好ましくは250〜500Nm/mである。
水素化処理における水素分圧は限定されないが、通常5〜20MPaで行われる。水素分圧が5MPa未満であると、水素化反応による脱硫率及び脱窒素率が小さいため、結果としてニードルコークスのパッフィング抑制が不十分となる傾向がある。また、水素分圧が20MPaを超過する場合はピッチ系原料油の分解が進行し過ぎるため、コークス化した際のコークスの収率が低下するだけでなく、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。
水素化処理における水素分圧は、前記と同様の理由により、好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは12MPa以上であり、好ましくは18MPa以下、より好ましくは16MPa以下である。
水素化処理における液空間速度(LHSV)は限定されないが、通常0.1〜2.0h−1で行われる。液空間速度(LHSV)が2.0h−1を超えると十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、液空間速度(LHSV)が0.1h−1未満になると水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における液空間速度は、前記と同様の理由により、好ましくは0.3〜1.6h−1、より好ましくは0.3〜1.3h−1、さらに好ましくは0.5〜1.0h−1である。
なお、前記した水素化処理の条件は各々独立したものであり、必ずしも全ての条件を兼ね備えている必要は無い。
本発明の水素化反応装置を用い、反応温度、水素/ピッチ流量比、水素分圧、液空間速度(LHSV)を前記範囲内とすることにより最適な水素化が進行し、十分にパッフィングが抑制されたニードルコークスが得られる程度の脱硫率、脱窒素率になり、さらに、低い熱膨張係数のニードルコークスを得るに十分なメソフェースの成長を促すことができる。
[4.冷却機構]
本発明の水素化反応装置は反応槽12で得られる水素化コールタールピッチを冷却する冷却機構を有する。
原料コールタールピッチの水素化により生じる反応熱は、石油系残渣油に比べて大きい。実験室規模では、後述する実施例の欄の例1に示すように顕著な発熱は見られないが、工場規模だと、実施例の欄の例2に示すように、顕著な発熱が見られ、継続運転が困難となった。これに対し、実施例の欄の例3に示すように、反応用の水素に加え、冷却用の水素を反応槽に供給することによって冷却を行うことにより、得られる水素化コールタールピッチの温度上昇を抑制することが可能であることが明らかとなった。このため、この原料コールタールピッチの水素化により生じる反応熱を除去するための冷却機構を設けることが必要となる。
この冷却機構13としては、上記のような、反応槽12内部に冷却剤を注入する方法や、水素化反応装置の途中から反応物を抜出し、外部に設置した冷却機構13を用いて冷却した後、反応槽12に戻し、水素化反応を段階的に進める方法等があげられる。このうち、外部に設置した冷却機構を用いると、冷却剤の使用・除去等の操作が不要となり望ましい。
この冷却機構13としては、図1(a)〜(b)に示すような、反応槽12の途中から少なくとも一部の原料コールタールピッチの水素化反応物を抜き出して冷却するための冷却機構13aや、図2(a)〜(b)、図3に示すような、反応槽12を複数に分け(図2(a)〜(b)、図3では反応槽12a、反応槽12bの2つに分けた)、これらを直列に繋ぎ、この複数の反応槽12a,12bの間に配される冷却機構13bがあげられる。
この冷却機構13(13a,13b)は、図1(a)〜(b)や図2(a)〜(b)、図3に示すように、原料コールタールピッチの水素化反応物を抜き出して冷却するための冷却装置14と、この冷却装置14を通らずに迂回させ、冷却を行わないバイパス回路15とから構成される。
冷却機構13(13a,13b)に送られる原料コールタールピッチの水素化反応物には未反応のコールタールピッチが含まれており、これは、反応槽12に戻され、又は次の反応槽12bに送られてから、水素化反応が行われることとなる。この場合、戻された液の温度が低すぎると、水素化反応が生じにくくなる。これを防ぎ、戻される液温を調整する方法として、冷却装置14の冷却能力を調整する方法以外に、冷却装置14とバイパス回路15に送られる液量を調整する方法をとることができる。
この冷却機構13を構成する装置の具体例としては、熱回収ボイラー、ボイラー水の予熱器や、プレート式熱交換器、スパイラス型熱交換器、多管式熱交換器等の熱交換器が用いられ、特に熱交換器が好ましく用いられる。また、熱交換器の中でも、冷媒の選択範囲が広いことから、多管式熱交換器が好ましい。
図1(a)〜(b)に示すように、1つの反応槽12を用い、この反応槽12の途中から少なくとも一部の原料コールタールピッチの水素化反応物を抜き出して冷却するための冷却機構13aを設ける場合、設けられる冷却機構13aの数は限定されないが、設備コストを抑えるため、10基以下が望ましい。
また、冷却機構13aを設置する間隔は、すべて同じである必要はなく、任意に変更することができる。具体的には、水素濃度が高く、水素化されていない原料コールタールピッチ又は水素化が進行していない原料コールタールピッチが通過する箇所は、冷却装置の間隔を狭くすることが望ましい。反応槽12の長さを100%とした場合、前述の間隔は、20%以下であることが望ましい。20%を超えると反応熱が大きく、冷却装置へ抜き出す反応物の温度が高くなり、温度制御をすることが困難になる。
この場合の冷却機構13aの温度制御は、限定されないが、冷却機構13aが設けられた位置より後の位置、具体的には、冷却機構13aから排出された反応物が反応槽12に再び入り、冷却機構13aを通過していない反応物と混合される位置に温度センサーが備えられる。そして、この温度センサーの温度を一定にするように、冷却機構13aに供給される反応物の流量を調整する、冷却機構13aの冷却装置14に通液する冷媒の流量を調整する又は冷媒の温度を調整することで達せられる。該温度センサーの温度が高い場合は、冷却機構13aに供給する反応物の量を増やす、冷媒の流量を増やす又は冷媒の温度を下げることにより該温度センサーの温度を下げることができる。該温度センサーの温度が低い場合は、冷却機構13aに供給する反応物の量を減らす、冷媒の流量を減らす又は冷媒の温度を上げることにより、該温度センサーの温度を上げることができる。これらの操作は単独で行っても組み合わせて行っても良い。冷却機構13aの冷却装置14に供給する反応物の量を調整する場合、反応槽12から抜き出す量(すなわち、冷却機構13aに送る量)を一定にしておき、冷却装置14に供給する量をバイパス回路15で調整し、一部をバイパスしても良いし、反応槽12から抜き出す量(すなわち、冷却機構13aに送る量)を調整しても良い。水素化反応を行う上で、反応槽12内を流れる原料コールタールピッチ及び反応物の流量を一定にすることが望ましいことから、反応槽12から抜き出す反応物の流量を一定にし、冷却装置に供給する量を一部バイパスする冷却方法が望ましい。
図2(a)〜(b)、図3に示すように、反応槽12を複数に分け、これらを冷却機構13bを介して直列に繋ぐ場合、すなわち、反応槽12と冷却機構13bを複数備え、それらを交互に組み合わせる場合、反応槽12及び冷却機構13bの数は、限定されないが、10基以下であることが望ましい。また、反応槽12の容積は、すべて同じである必要はなく、任意に変更することができる。具体的には、水素濃度が高く、水素化されていない原料コールタールピッチ又は水素化が進行していない原料コールタールピッチが通過する箇所は、反応槽12の容積を小さくすることが望ましい。全ての反応槽12の全容積を100%とした場合、前述の反応槽12の容積は、20%以下が望ましい。20%を超えると反応熱が大きく、冷却機構13bへ抜き出す反応物の温度が高くなり、温度制御をするのが困難になる。
この場合の冷却機構13bの温度制御は、限定されないが、冷却機構13bに設けられた位置より後の位置、具体的には、冷却機構13bの出口に温度センサーが備えられ、この温度センサーの温度を一定にするように、冷却機構13bに供給される反応物の流量を調整する、冷却機構13bに通液する冷媒の流量を調整する、又は冷媒の温度を調整することで達せられる。反応物の流量を調整する場合、該温度センサーは冷却機構13bの冷却装置14を通過した反応物と冷却機構13bに設けられたバイパス回路を通過した反応物が混合された後にあることが望ましい。該温度センサーの温度が高い場合は、冷却装置14に供給する反応物の量を増やす、冷媒の流量を増やす又は冷媒の温度を下げることにより該温度センサーの温度を下げることができる。該温度センサーの温度が低い場合は、冷却装置14に供給する反応物の量を減らす、冷媒の流量を減らす、又は冷媒の温度を上げることにより、該温度センサーの温度を上げることができる。これらの操作は単独で行っても組み合わせて行っても良い。冷却装置14に供給する反応物の量を調整する場合、反応槽12から抜き出す量を一定にしておき、冷却装置14に供給する反応物の一部をバイパス回路15に供給することで、冷却装置14をバイパスさせ、冷却装置出口の温度を一定にすることが望ましい。前述の温度制御を行う場合、バイパス回路15を省略できるという点から、冷媒の流量を調整し、冷却装置の出口温度を制御することが望ましい。
[5.分離装置]
本発明では、水素化反応装置11で水素化されたコールタールピッチを、分離装置21によって水素化コールタールピッチPと軽質油Qに分離する。これにより、製品としての水素化コールタールピッチPを得ることができる。なお、本発明において、水素化反応装置11で水素化されたコールタールピッチから分離された軽質油Qを「水素化油」という場合がある。また、分離装置21によって得られる製品水素化コールタールピッチ(P)を単に「水素化コールタールピッチ」という場合がある。
分離装置21の具体的な方式は限定されないが、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる。これらの方式に応じて分離装置は適宜選択され、具体的には、遠心分離器、抽出器、気液分離器、水蒸気蒸留塔や常圧蒸留塔等の各種蒸留塔、薄膜蒸留器等が用いられる。中でも、蒸留塔又は気液分離器が好ましい。
本発明において、分離装置21を用いて水素化コールタールピッチPと水素化油Qに分離する方法は限定されないが、具体的な方法を以下に説明する。
常圧蒸留により水素化油Qを分離する場合、蒸留装置(蒸留塔)の上部温度は限定されないが、通常400℃以下、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。
水素化処理して得られたコールタールピッチから分離する水素化油Qの割合は限定されないが、通常2重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下である。分離する水素化油Qの割合が前記下限値未満であると、水素化コールタールピッチの蒸気圧が高くなり、水素化コールタールピッチを貯蔵するタンクの圧力が高くなる場合がある。一方、分離する水素化油の割合が前記上限値を超える場合は、水素化コールタールピッチの生産効率が低下する傾向にある。
分離装置21において、水素化処理して得られたコールタールピッチから水素化油Qを分離するだけでなく、水素化反応により生じた反応ガスや未反応の水素を分離することもできる。分離装置21の設置数は、特に限定されないが、反応ガスや未反応の水素が多い場合は、分離装置21を複数設置し、分離装置の圧力を段階的に変化させることにより、前述のガスと水素化油を分けて水素化油を得ることが望ましい。この場合、前述のガスのみを排出するガス排出回路を備えてもよい。
分離装置21によって水素化油Qを分離することにより得られる水素化コールタールピッチPをコークス化することにより、パッフィングが十分に抑制され且つ熱膨張係数の小さいニードルコークスを得ることが出来る。
[6.排出回路]
前述の通り本発明では、分離装置21で分離された水素化油は、排出回路(図示せず)に送られる。水素化油Qを排出回路へ排出する方法は限定されないが、水素化油の圧力が十分に高ければ、配管等の流路を分岐させるだけでよい。一方、水素化油の圧力が十分には高くない場合は、移送ポンプ等で昇圧してもよいし、一旦タンク等の容器に排出してもよい。
なお、排出回路から排出された水素化油の供給先は任意であり、貯蔵タンクであってもよいし、製造設備であってもよい。また、排出回路は、分離装置で分離された水素化反応で生じた反応ガスや未反応の水素ガスを排出してもよいし、これらのガスのみを排出するガス排出回路を設けて、水素化油と前述のガスを分けて排出してもよい。
[7.水素化コールタールピッチ]
上記の様に分離装置で水素化油Qと分離されて得られた水素化コールタールピッチPの諸特性は限定されないが、以下の特性をもつものであることが好ましい。これらの値である水素化コールタールピッチPを原料として得られるピッチ系ニードルコークスは、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すため好ましい。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、キノリン不溶分が好ましくは0.02重量%以下であり、より好ましくは0.01重量%以下であり、更に好ましくは0.005重量%以下であり、特に好ましくは0.003重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、硫黄分が好ましくは0.3重量%以下であり、より好ましくは0.25重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、窒素分が好ましくは0.90重量%以下であり、より好ましくは0.85重量%以下であり、更に好ましくは0.80重量%以下であり、特に好ましくは0.75重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPの360℃以下の留分は、40重量%以下であることが好ましい。水素化コールタールピッチPの360℃以下の留分が40重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、上限は35重量%以下であることがより好ましい。一方、水素化コールタールピッチPの360℃以下の留分の下限は2重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。360℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPの100℃における粘度は50〜500mPa・sであることが好ましい。水素化コールタールピッチPの100℃における粘度が、50mPa・s未満の場合、水素化コールタールピッチPに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチPの100℃における粘度が500mPa・sを超えると、メソフェースの成長時の液相粘度が高く、メソフェースの成長が阻害され、熱膨張係数が高くなる傾向がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により80〜200mPa・sであることがより好ましい。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.8以上であることが好ましい。水素化コールタールピッチPのH/Cが0.8未満の場合は、ナフテン環の生成が少なく、メソフェース成長時の液相粘度が高くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。また、H/Cの上限は、1.2以下であることが好ましい。
本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPの15℃における比重は、1.0〜1.3であることが好ましい。水素化コールタールピッチPの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチPの比重(15℃/4℃)が1.3を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.08〜1.2であることがより好ましい。
従来、コールタールピッチを原料とする限り、上記のような諸特性の範囲内であるコールタールを得ることは極めて困難であったが、本発明においては前記の通り、水素化反応装置、冷却装置、分離装置及び排出回路を備えた装置構成とすることにより、上記の諸特性を満たす水素化コールタールピッチPを得ることができる。
なお、上記した水素化コールタールピッチPの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
[8.コークス化]
本発明の製造装置で得られた水素化コールタールピッチPは、コークス化することによって、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスを得ることが出来る。以下に、ニードルコークスの製造について説明する。
本発明の製造装置で得られた水素化コールタールピッチPをコークス化する方法は限定されないが、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法、フレキシコーキング法、ユリカプロセスなどが挙げられ、これらの中でも、得られるコークスの生産性や品質安定性の点からディレードコーキング法が好ましい。
ディレードコーキング法においては、水素化コールタールピッチPが加熱管中を加熱されながら急速に通過し、コークドラムに導入されてコーキングが起こる。コーキング条件は特に制限されないが、温度は好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。コーキング時間は好ましくは18〜72時間、より好ましくは20〜40時間である。
また、このようにして得られるコークスをロータリーキルン、シャフト炉等でか焼することが好ましい。か焼の際の温度は1000〜1500℃が好ましく、時間は1〜6時間が好ましい。
なお、コークス化に用いる原料としては、本発明の製造装置で得られる水素化コールタールピッチPとともに他の原料を併用してもよい。このような原料は限定されないが、例えば石油系重質油が挙げられる。水素化コールタールピッチPと併用して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、前記した水素化処理時に原料コールタールピッチとともに用いることの出来る石油系重質油として例示したものが挙げられ、中でも特に流動接触分解油、常圧蒸留残油が好ましい。
水素化コールタールピッチPと他の原料との混合割合は限定されないが、水素化コールタールピッチPを通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上となる割合で用いることが好ましい。
本発明の製造装置で得られた水素化コールタールピッチPを用い、上記のようにして得られたピッチ系ニードルコークスは、硫黄分及び窒素分の含有割合が低いため、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスとすることが出来る。具体的には、ピッチ系ニードルコークスの硫黄分は0.3重量%以下、更には0.15重量%以下とすることが出来、窒素分は0.8重量%以下、更には0.6重量%以下とすることが出来る。
また、得られるピッチ系ニードルコークスは、熱膨張係数(CTE)が3.4×10−7/℃以下、更には3.2×10−7/℃以下であり、パッフィングが3.4%以下、更には3.0%以下とすることができる。ここでパッフィングの値は、室温から2600℃迄を昇温速度20℃/分にて昇温した際の、試験片の寸法の伸びを意味する。
このため、得られるピッチ系ニードルコークスは、電炉製鋼用黒鉛電極の骨材として好適に使用することが出来る。得られるピッチ系ニードルコークスを用いて黒鉛電極製品を製造する方法としては、ニードルコークスにバインダーピッチを適当量添加した原料を加熱捏合した後、成型して得られた生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工する方法が挙げられる。
上記したように、実験の規模によって、水素化による反応器の温度上昇の程度が異なり、また、冷却の有無によっても、反応器の温度上昇の程度が異なる。
この点について、実験室規模(例1)、工場規模かつ冷却なし(例2)、及び工場規模かつ冷却有り(例3)の場合の各実験例について、その結果を示す。
なお、この各例は、水素化反応の規模による影響、及び冷却の必要性について確認した試験であり、本発明の最適な構成を有する装置の動作確認を示すものではない。
[例1]
コークス製造設備由来のコールタールを常圧蒸留して得られた重質成分からキノリン不溶分を除去することにより精製コールタールピッチを得て、これを原料コールタールピッチとした。
次に、市販の水素化触媒を50CC(0.00005m)充填した固定床連続式反応装置に、純度99%以上の水素を用いて、前記のコールタールピッチを水素分圧13MPa、温度380℃、水素/ピッチ流量比1m当たり300Nm/m、液空間速度(LHSV)が1.0h−1になるようにして水素化処理を行った。この際、顕著な発熱は見られなかった。
[例2]
コークス製造設備由来のコールタールを常圧蒸留して得られた重質成分からキノリン不溶分を除去することにより精製コールタールピッチを得て、これを原料コールタールピッチとした。
次に、市販の水素化触媒を1500CC(0.0015m)充填した固定床連続式反応装置に、純度99%以上の水素を用いて、前記のコールタールピッチを水素分圧13MPa、温度380℃、水素/ピッチ流量比1m当たり300Nm/m、液空間速度(LHSV)が1.0h−1になるようにして水素化処理を行った。この際、反応槽の入口と出口の温度差は、100℃以上となり、継続して運転することができなかった。
[例3]
コークス製造設備由来のコールタールを常圧蒸留して得られた重質成分からキノリン不溶分を除去することにより精製コールタールピッチを得て、これを原料コールタールピッチとした。
次に、市販の水素化触媒を1500CC(0.0015m)充填した反応槽を備えた固定床連続式反応装置に、純度99%以上の水素を用いて、前記のコールタールピッチを水素分圧13MPa、温度380℃、水素/ピッチ流量比1m当たり300Nm/m、液空間速度(LHSV)が1.0h−1になるようにし、さらに反応槽に常温の水素を供給し、反応槽内で生成した水素化コールタールピッチを冷却しながら、水素化処理を行った。この際、反応槽の入口と出口の温度差は、22℃に抑えることができた。このように、原料コールタールピッチの水素化反応装置の反応槽に冷却装置を設置することが重要であることがわかった。
11 水素化反応装置
12、12a、12b 反応槽
13、13a、13b 冷却機構
14 冷却装置
15 バイパス回路
16 原料コールタールピッチ供給ライン
17、17a、17b 水素供給ライン
17c 回収水素供給ライン
21 分離装置
C 原料コールタールピッチ
H 水素
Hc 回収水素等
P 水素化コールタールピッチ
Q 軽質油(水素化油)

Claims (9)

  1. 原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置であって、
    触媒が充填された反応槽と、この反応槽における水素化反応の反応物の少なくとも一部が冷却される冷却機構とを備え、
    かつこの反応槽の内容積が0.001〜50mであるコールタールピッチの水素化反応装置。
  2. 前記冷却機構を構成する装置が熱交換器である、請求項1に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
  3. 前記冷却機構が前記反応槽の外部に設置されている、請求項1又は2に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
  4. 前記冷却機構が、この冷却機構が設けられた位置より後の位置に温度センサーを備え、この温度センサーからの温度情報に応じて、前記反応物を前記冷却機構に供給する量、並びに前記反応物を冷却する冷媒の流量及びこの冷媒の温度を制御する機構のうちの少なくとも1つを備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
  5. 前記反応槽が連続固定床反応装置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコールタールピッチの水素化反応装置。
  6. 原料コールタールピッチを水素化するための水素化反応装置、及び水素化反応装置から排出される水素化コールタールピッチから軽質油を分離する分離装置を備えた水素化コールタールピッチの製造装置であって、
    前記水素化反応装置が請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素化反応装置である、水素化コールタールピッチの製造装置。
  7. 前記分離装置が蒸留塔又は気液分離器である、請求項6に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  8. 前記水素化反応装置に原料コールタールピッチと水素とを供給するラインを有し、このラインがコールタールピッチを供給するラインと水素を供給するラインとが予め合流したものである、請求項6又は7に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
  9. 前記水素化反応装置が原料コールタールピッチの供給口と水素の供給口とを有し、少なくとも1つの水素の供給口が、原料コールタールピッチの供給口よりも下流側に備えられている、請求項6又は7に記載の水素化コールタールピッチの製造装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114395411A (zh) * 2021-12-28 2022-04-26 陕西凯德利能源科技有限公司 一种基于煤焦油加氢制取中间相沥青和油品的系统及方法

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