JP2017048379A - コールタールピッチ及びその製造方法 - Google Patents

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聡 平原
靖之 原田
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靖之 原田
隆男 上野
Takao Ueno
隆男 上野
功朗 下
Masaaki Shimo
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Abstract

【課題】 熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスが得られるコールタールピッチを提供する。【解決手段】 キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄含有率が0.9重量%以下、窒素含有率が1.4重量%以下であり、更に、360℃以下の留分が0.02〜9重量%であること、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であること、及び100℃における粘度が500〜3000mPa・sであることのうちの少なくとも何れか1つを満たすコールタールピッチ。【選択図】なし

Description

本発明は、ニードルコークスの原料として好適に用いることが出来るコールタールピッチに関する。
本発明は、ニードルコークスの原料として好適に用いることが出来るコールタールピッチ又は水素化コールタールピッチを製造する方法に関する。
石炭乾留時に副生するコールタールは、その大部分が縮合多環芳香族化合物から構成されており、以前から各種の炭素製品用の原料として使用されてきた。コールタール系製品群の構成割合は、約30%が留出油成分から得られるクレオソート油やナフタレン等の製品群、残り70%が非留出分である重質成分のコールタールピッチから得られる製品群である。
これらのうち、コールタールピッチから製造されるニードルコークスは特に付加価値の高い製品として重要な位置を占めており、主に電気製鋼用黒鉛電極の骨材に使用される。黒鉛電極の製造工程においては、まずニードルコークス粒とバインダーピッチとを所定の割合で配合し、加熱捏合した後、押し出し成型して生電極を製造する。この生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工することにより黒鉛電極製品が得られる。
この黒鉛電極は過酷な高温条件のもとで使用されるため、極めて高い耐熱衝撃性が要求される。コールタールピッチを原料とするニードルコークス(以下、「ピッチ系ニードルコークス」と表記する場合がある。)は、あらゆるコークスの中で熱膨張係数が最も小さいので、黒鉛電極の原料としては最も好ましいものである。しかしながら、近年、人造黒鉛電極は、電極使用条件の過酷化に伴い、機械的強度および耐熱衝撃性の更なる向上が要求されており、人造黒鉛電極の製造においては、熱膨張係数の小さいニードルコークス(以下、「低CTEニードルコークス」と表記する場合がある。)が必要とされている。
ピッチ系ニードルコークスの物性は、その原料であるピッチ系原料油の物性の影響を大きく受ける。そのため、キノリン不溶分、トルエン不溶分、比重、さらには、ピッチ系原料油を構成する化合物の留分組成の割合等の物性値がある範囲内にあることが重要とされる。ピッチ系ニードルコークスは良品質な黒鉛電極を与える反面、電極を製造する黒鉛化過程で、いわゆるパッフィングと呼ばれる不可逆膨張現象を起こし易く、急速に黒鉛化した場合には製品に亀裂が発生して歩留りが著しく低下するといった欠点をもっている。
このため黒鉛電極の製造にあたっては、黒鉛化のための昇温を長時間かけて行う必要があり、生産性は著しく低いものであった。
このパッフィング現象は、主として黒鉛化過程の1500〜2000℃の領域において、ピッチ系ニードルコークスに含まれるヘテロ化合物から窒素が、同様に2500〜2800℃の領域において硫黄が急激に揮散するための異常膨張と考えられている。
このようなパッフィング現象を解消するため、黒鉛電極の製造工程においていくつかの手法が取られている。例えば、ピッチ系ニードルコークスと粘結材であるバインダーピッチの混合過程において酸化鉄を少量添加することにより、黒鉛化時にコークス中の硫黄分と鉄の安定化合物を形成させてパッフィングを抑制する方法や、成形工程において黒鉛電極の嵩密度を調整して黒鉛化時に発生するガスを揮散し易くする方法がある。ただし、前者の手法は、硫黄に由来する膨張の低減には一定の効果があるものの、窒素に由来する膨張を低減する効果は見られず、後者は、嵩密度の低下による黒鉛電極の機械的強度の低下につながるという問題があった。
上記以外に、ニードルコークスを用いた黒鉛電極の製造時にパッフィングを抑制する様々な方法が提案されている。
特許文献1、2では、1500℃以上でピッチコークスを加熱処理して脱窒素することでパッフィングを低減する方法が提案されている。また、特許文献3では、生コークスを予め酸化処理等の前処理をした後に、通常のか焼温度で熱処理する手法が示されている。これらの方法は、前者は高温加熱に伴うエネルギー消費が大きくなり、後者は従来方法に比べて工程が複雑化するという課題がある。
ニードルコークスは、ピッチ系ニードルコークス以外に、石油系重質油を原料としても製造される。
特許文献4には、ディレードコークス法により得た生コークスを、先ず通常のか焼温度より低い温度範囲でか焼し、一旦冷却した後、再び通常の温度範囲でか焼を行うニードルコークスの製造方法が開示されている。この方法は、石油系原料油を使用したニードルコークスの熱膨脹係数の低減には有効であるものの、パッフィングの発生機構の異なるピッチ系(石炭系)ニードルコークスに適用したとしても、パッフィングの低減効果は僅かである。
特許文献5、6では、原油を減圧蒸留したときに残渣油として得られる重質油と、所定の原料油を流動接触分解して得られる硫黄及び窒素含有量の小さい原料油とを混合してコークス化する石油系ニードルコークスの製造方法を示している。しかし、この方法は歩留りが低く、かつ低CTEニードルコークスを製造することを目的としているだけで、パッフィングの低減を目的としたものではない。
ピッチ系ニードルコークスについては、特許文献7では実質的にキノリン不溶分を除去したコールタールピッチと石油系重質油を混合し、この混合物を炭化するニードルコークスの製造方法が開示されている。しかしこの方法では、パッフィングの抑制効果は十分とは言えない。
特許文献8では、石炭系重質油と石油系重質油とを混合して窒素分、硫黄分を共に特定値以下となるように調整配合した原料より生コークスを製造し、この生コークスを2段か焼することによりパッフィングの低いニードルコークスを得られるとしている。しかしこの方法での効果は限定的であり、かつ2段か焼によるコークス歩留の低下、コークスの多孔質化により黒鉛電極の嵩密度が低下するという懸念がある。
特許文献9には、水素化したコールタール系原料を使用するとパッフィングが減少したニードルコークスが得られることが記載されている。これは、コールタール系原料の水素化精製による硫黄及び窒素の除去という直接的な効果に加えて、縮合多環芳香族化合物の構造変化によるニードルコークスの品質改善が期待されるプロセスである。しかしながら、ここで開示されている水素化処理は、石油精製工業における常圧残油を原料油とする水素化脱硫プロセスの反応条件を適用したものであるため製造コストが高く、コークス歩留りも低く、水素化によりピッチ系重質油の特徴である芳香族化合物が減少するといった課題が未だ残されている。
特開昭60−33208号公報 特開昭60−208392号公報 特開昭63−135486号公報 特開昭52−29801号公報 特開2008−150399号公報 特開2008−156376号公報 特開平3−250090号公報 特開平5−163491号公報 特開昭59−122585号公報
ピッチ系ニードルコークスは、他のニードルコークスに比べ、熱膨張係数が小さいことを特徴とするが、人造黒鉛電極の使用条件の過酷化に伴い、更なる熱膨張係数の低減が求められている。しかしながら、黒鉛化過程においてピッチ系ニードルコークスに含まれる窒素及び硫黄の急速な脱離に由来すると考えられるパッフィングと呼ばれる不可逆膨張現象が生じるため、黒鉛電極の歩留りが低下するという欠点がある。従って、熱膨張係数の低減だけでなく、パッフィングの抑制も合わせて行うことが要求されている。
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスが得られるコールタールピッチを提供することを目的とする。
本発明者らは前記課題について鋭意検討した結果、特定の要件を満たすコールタールピッチとすることにより、熱膨張係数が十分に小さく且つパッフィングが抑制されたニードルコークスを製造し得る原料となることを見出し、本発明に至った。
また、従来はそのような要件を満たすコールタールピッチを得ること自体が困難であったが、本発明者らは、原料コールタールピッチから軽質油を分離することによって上記のコールタールピッチが得られることを見出し、本発明に至った。更には、得られたコールタールピッチを更に水素化することにより、より一層、熱膨張係数が十分に小さく且つパッフィングが抑制されたニードルコークスを製造する原料となることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の[1]〜[12]を要旨とする。
[1] キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下、360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるコールタールピッチ。
[2] キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるコールタールピッチ。
[3] 100℃における粘度が500〜3000mPa・sである[1]または[2]に記載のコールタールピッチ。
[4] キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下、100℃における粘度が500〜3000mPa・sであるコールタールピッチ。
[5] [1]〜[4]の何れかに記載のコールタールピッチをコークス化してなるピッチ系ニードルコークス。
[6] 原料コールタールピッチから軽質油を分離することにより、キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下であるコールタールピッチを得る、コールタールピッチの製造方法。
[7] 360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるコールタールピッチを得る、[6]に記載のコールタールピッチの製造方法。
[8] ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるコールタールピッチを得る、[6]または[7]に記載のコールタールピッチの製造方法。
[9] [6]〜[8]の何れかに記載の方法でコールタールピッチを製造し、得られたコールタールピッチを水素化する、水素化コールタールピッチの製造方法。
[10] [9]に記載の方法で水素化コールタールピッチを製造し、得られた水素化コールタールピッチをコークス化する、ピッチ系ニードルコークスの製造方法。
[11] 2600℃迄のパッフィングが3.4%以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、[10]に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
[12] 熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7/℃以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、[10]又は[11]に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
本発明により、熱膨張係数が小さく、且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスの原料として好適なコールタールピッチを提供することができる。
本発明のコールタールピッチを原料として製造されたピッチ系ニードルコークスは、電気製鋼用黒鉛電極の骨材などの用途に好適である。
本発明により、性能が良好なピッチ系ニードルコークスの原料として好適なコールタールピッチが得られるとともに、カーボンブラックの原料等として利用価値の高い軽質油を歩留り良く併産することが出来る。
更に、ピッチ系ニードルコークスの原料として、水素化処理されたコールタールピッチを用いる場合においては、水素化に用いる水素の使用量を低減することが出来る。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。以下において「質量%」と「重量%」、及び「質量部」と「重量部」とは、それぞれ同義である。
なお、本発明において「ピッチ系」と「石炭系」は同義の語として扱うものとする。
本発明でいう「硫黄分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8813、石油系油についてはJIS K2541、コークスについてはJIS M8813に従い測定される値を、それぞれ意味する。
本発明でいう「窒素分」とは、コールタールピッチについてはJIS M8819、石油系油についてはJIS K2609、コークスについてはJIS M8819に従い測定される値を、それぞれ意味する。
また、コールタールピッチの比重、キノリン不溶分、トルエン不溶分、360℃以下の留分は何れもJIS K2425に従い測定される値を意味し、粘度はB型回転粘度計で測定した値を意味する。
<1.コールタールピッチ>
本発明のコールタールピッチは、キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄含有率が0.9重量%以下、窒素含有率が1.4重量%以下であるとともに、360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるか、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるか、或いは、100℃における粘度が500〜3000mPa・sであるか、のうちの少なくとも何れか1つを満たすものである。以下に本発明のコールタールピッチの諸特性について説明する。
本発明のコールタールピッチは、キノリン不溶分が0.02重量%以下であり、好ましくは0.01重量%以下であり、より好ましくは0.008重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明のコールタールピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明のコールタールピッチは、硫黄分が0.9重量%以下であり、好ましくは0.8重量%以下であり、より好ましくは0.7重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明のコールタールピッチは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明のコールタールピッチは、窒素分が1.4重量%以下であり、好ましくは1.3重量%以下であり、より好ましくは1.2重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明のコールタールピッチは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールを出発原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明のコールタールピッチは、以下に示す「360℃以下の留分」、「ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量」及び「100℃における粘度」のうち、少なくとも何れか1つの規定を満たすものである。
本発明のコールタールピッチの360℃以下の留分は9重量%以下であることが好ましい。コールタールピッチの360℃以下の留分が9重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、7重量%以下であることがより好ましい。一方、コールタールピッチの360℃以下の留分の下限は、0.02重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。360℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明のコールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は2重量%以下であることが好ましい。コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が2重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は、前記と同様の理由により、1.2重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがさらに好ましい。一方、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量の下限は、0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましい。ナフタレン及びアセナフテンの含有量の合計量が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量はいずれも、後掲の実施例に具体例を示すように、ガスクロマトグラフを用いて測定することができる。なお、ナフタレン及びアセナフテンは前記した「360℃以下の留分」の代表例である。
本発明のコールタールピッチのナフタレン含有量は、0.7重量%以下であることが好ましい。コールタールピッチのナフタレン含有率が0.7重量%を超える場合は、コークスの収率が低下する傾向がある。ナフタレンの含有率は、前記と同様の理由により、0.4重量%以下が好ましい。
本発明のコールタールピッチのアセナフテン含有量は、1重量%以下であることが好ましい。コールタールピッチのアセナフテン含有量が1重量%を超える場合は、コークスの収率が低下する傾向がある。ナフタレンの含有率は、前記と同様の理由により、0.6重量%以下が好ましい。
本発明のコールタールピッチの100℃における粘度は500〜3000mPa・sであることが好ましい。コールタールピッチの100℃における粘度が500mPa・s未満の場合、高粘度の流体を扱うポンプを使用する場合において送液が困難になる傾向があり、また、コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、コールタールピッチの100℃における粘度が3000mPa・sを超えると、流動性が極端に低くなるため、配管での輸送が困難になる傾向がある。また、コールタールピッチの100℃における粘度は、前記と同様の理由により350〜2500mPa・sであることがより好ましい。
本発明のコールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.8であることが好ましい。コールタールピッチのH/Cが0.5未満の場合は、重質な成分の量が多く、メソフェースの成長が妨げられ、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。一方、H/Cが0.8を超える場合は、脂肪族化合物の含有量が多くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.7であることがより好ましい。
本発明のコールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.4であることが好ましい。コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.1〜1.3であることがより好ましい。
上記のような特性を有する本発明のコールタールピッチを得るための手段は限定されないが、原料となるコールタール又はコールタールピッチを適宜精製することによって得られる。より好ましい態様としては、本発明のコールタールピッチの製造方法として後述する方法が挙げられる。
なお、本発明のコールタールピッチは、上記の特性を有するものである限り、コールタールピッチ以外から由来する物質を含有したものであってもよい。具体的には、後述する石油系重質油等を含有することが出来るが、コールタールピッチ以外から由来する物質は50重量%以下で含有していることが好ましい。
従来は、コールタールを出発原料とする限り、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたニードルコークスを得ることは極めて困難であったが、本発明においては、キノリン不溶分、硫黄分、窒素分を制御するだけでなく、360℃以下の留分、ナフタレン及びアセナフテンの合計含有量、並びに100℃における粘度の少なくとも1つを最適化したコールタールピッチとすることにより、極めて良好な特性を有するニードルコークスが得られる原料とすることが出来た。
ニードルコークスは、針状が発達した結晶構造を有することにより、低い熱膨張係数を得ていると考えられている。この発達した針状構造は、メソフェース生成時に生じる芳香族環からのガス、特に水素の発生により形成されると考えられている。本発明では、コークス化に寄与の低い軽質油を留去し、このガス発生時の粘度を増加させることにより、より効率的にメソフェースの成長を促した結果、得られるニードルコークスの熱膨張係数を低下させることが可能となったものと考えられる。
<2.コールタールピッチの製造方法>
以下に、本発明のコールタールピッチの製造方法を説明する。なお、上述した本発明のコールタールピッチは、以下の製造方法によって得られたものに限定されるものではない。
本発明のコールタールピッチの製造方法は、原料コールタールピッチから軽質油を分離することにより、キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄含有率が0.9重量%以下、窒素含有率が1.4重量%以下であるコールタールピッチを得る方法である。
本発明において、軽質油を分離する前のコールタールピッチを「原料コールタールピッチ」という。
[原料コールタールピッチ]
本発明において、原料コールタールピッチは限定されないが、以下の特性を有するものであることが好ましい。
原料コールタールピッチの製造方法(事前調整方法)は限定されないが、一般的にはコールタール系重質油から予めキノリン不溶分を実質的に除去するか、石油系重質油と混合した後にキノリン不溶分を実質的に除去することによって得ることが出来る。
キノリン不溶分を除去する手段としては公知の方法を適用することができるが、例えばタール系重質油を、芳香族系油や脂肪族系油で処理する方法が挙げられ、これらの混合溶剤で処理することも好ましい。脂肪族系油としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式化合物、アセトン、エーテル等のカルボニル基をもつ化合物、軽油等を使用することが出来る。芳香族系油としては、タール系洗浄油、アントラセン油等を使用することが出来る。ピッチと溶剤を適当な条件にて混合、加熱した後に必要により静置し、その後、この混合物を蒸留して低沸点成分を留去することにより、キノリン不溶分を殆ど含まない原料コールタールピッチとすることが出来る。
上記の原料コールタールピッチはコークス化の過程においてメソフェースと呼ばれる液晶の成長状態が良好であることが好ましい。メソフェースは、原料油の熱処理に伴い熱分解と重縮合が起こることによって生成する中間生成物であり、同一平面に沿って芳香族環の連なりが発達したものである。このメソフェースが大きく成長して一軸方向に配向すればニードルコークスの熱膨張係数を小さくすることができると考えられている。従って、高度に結晶が発達したメソフェースを生成させることが好ましい。
原料コールタールピッチのキノリン不溶分は0.2重量%以下であることが好ましい。原料コールタールピッチのキノリン不溶分が0.2重量%を超えると、コークス化過程におけるメソフェースの成長が抑制されることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。原料コールタールピッチのキノリン不溶分の下限値は限定されないが、通常0.0001重量%以上である。キノリン不溶分が0.0001重量%未満のものは、これを入手することが困難な上、このような原料コールタールピッチでは軽質油の含有割合が多く、コークス歩留りが低くなる傾向にある。また、キノリン不溶分は、前記と同様の理由により0.001〜0.1重量%であることがより好ましい。
原料コールタールピッチの硫黄分は、0.4〜0.8重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの硫黄分が0.8重量%を超えると、コークス化処理をして製造したコークス中の硫黄分が高くなり、パッフィング抑制剤である酸化鉄の添加量を増やす必要があり、ニードルコークスのパッフィングを抑制することができない場合がある。さらに酸化鉄の添加により、熱膨張係数が高くなる場合がある。また、硫黄分は、前記と同様の理由により0.7重量%以下であることがより好ましく、0.65重量%以下であることが更に好ましい。なお、後述する通り、原料コールタールピッチから軽質油を分離すると、相対的に分離後のコールタールピッチ中の硫黄分濃度は上昇する場合がある。この観点からも、原料コールタールピッチの時点での硫黄分は上記範囲に抑えておくことが好ましい。
原料コールタールピッチの窒素分は、0.9〜1.5重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの窒素分が1.5重量%を超えると、コークス化処理をして製造したコークス中の窒素分が高くなり、黒鉛電極の製造が困難になる場合がある。また、窒素分は、前記と同様の理由により1.3重量%以下であることがより好ましく、1.2重量%以下であることが更に好ましい。なお、後述する通り、原料コールタールピッチから軽質油を分離すると、相対的に分離後のコールタールピッチ中の窒素分濃度は上昇する場合がある。この観点からも、原料コールタールピッチの時点での窒素分は上記範囲に抑えておくことが好ましい。
コールタールピッチは、大部分が芳香族化合物で構成されているが、芳香族性を示す指標として芳香族指数がある。芳香族指数は大きいほど好ましく、例えば0.9以上であることが好ましい。コールタールピッチにおいては、芳香族指数が小さくなるとメソフェースの成長が不十分となり、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)の抑制が不十分となる傾向がある。
原料コールタールピッチの360℃以下の留分は、8〜30重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチの360℃以下の留分が8重量%未満の場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる可能性がある。一方、原料コールタールピッチの360℃以下の留分が30重量%を超えると、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となるため、経済的な面から好ましくない傾向にある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、9〜20重量%、より好ましくは、9.5〜15重量%である。
原料コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は、2〜10重量%であることが好ましい。原料コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が2重量%未満の場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる可能性がある。一方、原料コールタールピッチのナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が10重量%を超えると、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となるため、経済的な面から好ましくなくなる傾向にある。また、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量は、前記と同様の理由により、2〜8重量%、より好ましくは、2〜6重量%である。
原料コールタールピッチのナフタレン含有量は、5重量%以下であることが好ましい。ナフタレンの含有率が、5重量%以下であると、蒸留後の軽質油の配管中での閉塞が生じにくくなる傾向がある。ナフタレンの含有率は、前記と同様の理由により、3重量%以下がより好ましい。
原料コールタールピッチのアセナフテン含有量は、5重量%以下であることが好ましい。アセナフテンの含有率が、5重量%以下であると、蒸留後の軽質油の配管中での閉塞が生じにくくなる傾向がある。前記と同様の理由により、3重量%以下がより好ましい。
原料コールタールピッチの100℃における粘度は、30〜300mPa・sであることが好ましい。原料コールタールピッチの100℃における粘度が30mPa・s未満の場合、原料コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、軽質油を除去する蒸留塔の処理能力が大きくなり望ましくない傾向にある。一方、原料コールタールピッチの100℃における粘度が300mPa・sを超えると軽質油を除去したコールタールピッチの粘度が高くなり、蒸留塔内部で閉塞を生じる可能性がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により100〜250mPa・sであることがより好ましい。
原料コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.5〜0.8であることが好ましい。
原料コールタールピッチのH/Cが0.5未満の場合は、重質な成分が多く、メソフェースの成長を妨げられる傾向がある。一方、原料コールタールピッチのH/Cが0.8を超えると、脂肪族の含有量が多くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が大きくなる傾向がある。また、H/Cは、前記と同様の理由により0.55〜0.7であることがより好ましい。
なお、「H/C」はJIS M8819に準拠して測定した値を意味し、後述する実施例に記載した測定方法を採用するものとする。
原料コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.4であることが好ましい。ここで、15℃における比重とは、4℃の水の密度に対する15℃での密度の比を意味する。
原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークスの収率が下がる傾向があり、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。一方、原料コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.4を超えると、原料コールタールピッチに含まれる重質成分の含有率が多くなり、コークス化過程におけるメソフェースの成長速度が大き過ぎることにより、ニードルコークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.1〜1.3であることがより好ましい。
なお、上記した原料コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
[軽質油の分離]
本発明において、原料コールタールピッチから軽質油を分離する方法は限定されないが、例えば、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる。
本発明における軽質油とは、一般に軽質油(軽油)と呼ばれるものであれば限定されない。軽質油を構成する化合物の炭素数は限定されないが、通常36以下であり、好ましくは24以下である。軽質油は単一の化合物であってもよいが、通常は複数の化合物の混合物である。
なお、上記した蒸留手段により軽質油を分離する場合においては、蒸留装置の上部より得られる物質(軽質留分)を軽質油とする。すなわち、蒸留装置の上部より得られたものであれば、上記で例示した軽質油成分以外の物質を含んだものも「軽質油」という。軽質油を分離する蒸留装置上部の温度は特に限定されないが、常圧蒸留で400℃以下、好ましくは360℃以下、より好ましくは320℃以下である。
一方、本発明における重質油とは、上記で規定した軽質油よりも沸点の高い成分を意味する。重質油を構成する高分子化合物の炭素数は限定されないが、通常24以上であり、好ましくは36以上である。また、上記した蒸留手段により重質油を得る場合、蒸留装置の下部より得られる物質(重質留分)を重質油とする。重質油を得る温度は特に限定されないが、常圧蒸留で行う場合、前述した軽質油を分離する温度で蒸留することが望ましい。
本発明において、原料コールタールピッチから分離する軽質油の割合は限定されないが、通常6重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、一方、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。分離する軽質油の割合が前記下限値未満である場合は、蒸留塔において分離される軽質油の留出量が少なくウィーピングが生じる場合がある。一方、分離する軽質油の割合が前記上限値を超過する場合は、蒸留塔において軽質油を分離するために多くの熱量が必要となり、さらに、蒸留塔の直径を大きくする必要があるため、経済的な面から好ましくない傾向がある。
原料コールタールピッチから分離された軽質油の使途は限定されないが、燃料として用いられるだけでなく、カーボンブラックやその他の各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、冷媒(冷却オイル)等として有用に用いることができる。
[石油系重質油]
本発明では、原料コールタールピッチを得るに際し、キノリン不溶分を除去する前のコールタールもしくはコールタールピッチに石油系重質油を混合して用いてもよい。また、原料コールタールピッチと石油系重質油とを混合してから軽質油を分離してもよい。更には、軽質油を分離して得られた本発明のコールタールピッチと石油系重質油とを混合し、これを用いて後述する水素化処理を行ってもよい。
混合して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、流動接触分解油、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、エチレンボトム油及びこれらを水素化精製した重質油などが挙げられる。また、上記以外に、直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油を更に含有してもよい。これらの中でも特に流動接触分解油、及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多く含まれることから好ましい。
石油系重質油の硫黄分は1.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましい。また、石油系重質油の窒素分は0.7重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましい。混合する石油系重質油の硫黄分や窒素分が前記上限値を超えると、ニードルコークスのパッフィングを十分に抑制することができない場合がある。
石油系重質油の混合割合は限定されず、コールタール又はコールタールピッチ中の窒素分、硫黄分、石油系重質油中の窒素分、硫黄分より計算して適宜最適化されるが、具体的には、コールタール又はコールタールピッチを50〜80重量%、石油系重質油を50〜20重量%の割合に混合することが好ましい。
軽質油を分離する前の時点で、原料コールタールピッチと石油系重質油とを混合して用いる場合においては、混合油中の硫黄分が1.0重量%以下、窒素分が0.9重量%以下となる割合に混合することが好ましい。混合油中の各成分の下限値は限定されないが、通常、硫黄分が0.3重量%以上、窒素分が0.1重量%以上となる割合に混合することが好ましい。また、軽質油を分離して得られた本発明のコールタールピッチと石油系重質油とを混合し、これを後述する処理前ピッチとして水素化処理を行う場合についても、混合油中の硫黄分、窒素分が上記と同様の割合となるように混合することが好ましい。
一般に、石油系重質油はコールタールに較べて窒素分は低く、硫黄分は高い傾向にあるが、両者を混合した後の窒素分や硫黄分を上記の範囲となるように配合して用いることにより、本発明の効果を有効に発揮することができる。
上記の石油系重質油中に飽和炭化水素、特に脂肪族成分が多く含まれると、芳香族成分の重合及び重縮合以外に架橋反応が起こるため、三次元構造の結晶が成長してメソフェースが十分に成長せず、その結果、熱膨張係数が大きくなると考えられている。本発明における原料コールタールピッチは、コールタールを原料としていることから芳香族性は極めて高く、ニードルコークスの原料として好適であるが、混合原料油に使用する石油系重質油としては、コールタールより芳香族成分の割合は小さいものの、上述の流動接触分解油、及び常圧蒸留残油は芳香族成分が比較的多いことから好ましい。
<3.水素化処理>
本発明においては、前述した本発明のコールタールピッチや、前述した本発明のコールタールピッチの製造方法で得られたコールタールピッチ(以下、これらを総称して「本発明によるコールタールピッチ」という。)をそのまま使用しても、良好なパッフィング及び熱膨張係数を有するピッチ系ニードルコークスを得ることが出来るが、更にこれらのコールタールピッチを水素化処理して水素化コールタールピッチとして使用することも好ましい。
以下、水素化処理に供するコールタールピッチを「処理前ピッチ」、水素化処理後のコールタールピッチを「水素化コールタールピッチ」という。
本発明において、前述した軽質油の分離と水素化処理とは、任意の順に行うことができる。即ち、軽質油を分離したコールタールピッチを水素化処理してもよいし、水素化処理したコールタールピッチから軽質油を分離してもよいが、前者の方が好適である。
水素化処理する方法は限定されないが、通常、コールタールピッチを水素化処理装置に装入して水素化反応を行うことによってなされる。具体的な方法を以下に説明する。なお、軽質油を分離する前の原料コールタールピッチを予め水素化処理する場合についても同様である。
本発明において水素化処理装置とは、高圧の水素存在下において触媒を用いてピッチ系原料油中の硫黄濃度及び窒素濃度を低減させるものであり、このピッチ系原料油の脱硫黄・脱窒素工程から得られる生成物は、さらに生成物中の軽沸点成分を除去する後蒸留工程等の二次処理も含まれる。
本発明に用いる水素化処理装置は限定されないが、反応性と生産性の観点から連続反応式装置であることが好ましい。触媒層は流動床または固定床の何れか、またはこれらを組み合わせたものの何れも本発明に含まれるが、長期運転のし易いこと、建設費用等の経済性の観点から固定床式が好ましい。すなわち連続固定床式水素化処理装置が本発明には好適である。回分式反応装置は水素化反応率が小さい等の理由により好ましくない場合がある。
水素化処理に用いられる触媒としては、Ni−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、或いはこれらを組合せた触媒などが挙げられ、これらは市販品を用いてもよい。これらの中でも、脱硫及び脱窒素の活性が高く、水素消費量が抑えられるという点でNi−Mo系触媒が好ましい。
水素化処理の温度は、通常300〜450℃で行われる。水素化処理の温度が300℃未満の場合は脱硫率及び脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。一方、450℃を超えると触媒寿命が低下する等の問題が発生する傾向がある。また、水素化処理の温度は、上記と同様の理由により、好ましくは350〜420℃、より好ましくは360℃〜400℃である。
水素化処理における水素/ピッチ流量比は、ピッチ1m3当たり通常100〜700Nm3/m3で行われる。水素/ピッチ流量比が100Nm3/m3未満になると、十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、水素/ピッチ流量比が700Nm3/m3を超えると、水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における水素/ピッチ流量比は、上記の理由により、好ましくは200〜600Nm3/m3、より好ましくは250〜500Nm3/m3である。
水素化処理における水素分圧は通常5〜20MPaで行われる。水素分圧が5MPa未満であると、処理前ピッチの脱硫率及び脱窒素率が小さいため、ニードルコークス中の硫黄・窒素が高い値を示し、結果としてニードルコークスのパッフィング抑制が不十分となる傾向がある。また、水素分圧が20MPaを超過する場合はピッチ系原料油の分解が進行しすぎるため、コークス化した際のコークスの収率が低下するだけでなく、コークスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。
水素化処理における水素分圧は、上記と同様の理由により、好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは12MPa以上であり、好ましくは18MPa以下、より好ましくは16MPa以下である。
水素化処理における液空間速度(LHSV)は通常0.1〜2.0h-1で行われる。液空間速度(LHSV)が2.0h-1を超えると十分な水素化が行われないことにより、脱硫率、脱窒素率が低下し、ニードルコークスのパッフィングの抑制が不十分になる傾向がある。更にはメソフェースの成長が不十分となるため、ニードルコークスのCTEが高くなる傾向がある。一方、液空間速度(LHSV)が0.1h-1未満になると水素化が過度に進行し、軽質化が進み、コークスの歩留りが低下する傾向がある。また、水素化処理における液空間速度は、上記と同様の理由により、好ましくは0.3〜1.6h-1、より好ましくは0.3〜1.3h-1、更に好ましくは0.5〜1.0h-1である。
軽質油を分離して得られた本発明のコールタールピッチは、軽質油を分離する前(原料コールタールピッチ)に比べて粘度が高くなり、流動性が低下する。このため、水素化処理において触媒との接触効率が低下し、脱硫率、脱窒素率が低下する場合がある。そのような場合は、水素化処理に供給する原料として、本発明のコールタールピッチとともに他の原料を併用することにより低粘度化して水素化処理に供してもよい。低粘度化するために用いることが可能な原料は限定されないが、例えば、水素化コールタールピッチ又は水素化コールタールピッチから分離して得た軽質油等が挙げられる。更には、前記した石油系重質油や、本発明のコールタールピッチを得るために分離された軽質油の一部を使用することも出来る。
尚、水素化コールタールピッチから軽質油を分離する方法としては、遠心分離、溶剤抽出、ストリッピング、水蒸気蒸留、フラッシュ蒸留、薄膜蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留等が挙げられる。常圧蒸留により軽質油を分離する場合、蒸留装置の上部温度は、400℃以下、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。水素化コールタールピッチから分離する軽質油の割合は限定されないが、通常2〜40重量%、好ましくは10〜35重量%である。
水素化コールタールピッチから分離された軽質油の使途は限定されないが、上記した通り、水素化処理を行う原料として本発明のコールタールピッチと混合して用いられるだけでなく、各種化学工業の原料、溶剤、潤滑剤、改質剤、冷媒(冷却オイル)、燃料等として有用に用いることができる。
水素化処理に供する原料コールタールピッチ(処理前ピッチ)に対する水素化コールタールピッチの脱硫率及び脱窒素率は限定されないが、上記の水素化条件等を制御することにより、脱硫率が50%以上、脱窒素率が10%以上となることが好ましい。ここで「脱硫率」「脱窒素率」とは、以下の通り求められるものである。
脱硫率(%)=〔([処理前ピッチ中の硫黄分(重量%)]−[水素化コールタールピッチ中の硫黄分(重量%)])/[処理前ピッチ中の硫黄分(重量%)]〕×100
脱窒素率(%)=〔([処理前ピッチ中の窒素分(重量%)]−[水素化コールタールピッチ中の窒素分(重量%)])/[処理前ピッチ中の窒素分(重量%)]〕×100
[水素化コールタールピッチ]
上記の様に、本発明によるコールタールピッチを更に水素化処理して得られる水素化コールタールピッチ(以下、本発明の水素化コールタールピッチという)の諸特性は限定されないが、以下の特性をもつものであることが好ましい。これらの値である水素化コールタールピッチを原料として得られるピッチ系ニードルコークスは、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すため好ましい。
本発明の水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が好ましくは0.02重量%以下であり、より好ましくは0.01重量%以下であり、更に好ましくは0.005重量%以下であり、特に好ましくは0.003重量%以下である。キノリン不溶分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.0001重量%以上である。
本発明の水素化コールタールピッチは、硫黄分が好ましくは0.3重量%以下であり、より好ましくは0.25重量%以下である。硫黄分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の水素化コールタールピッチは、硫黄分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.05重量%以上である。
本発明の水素化コールタールピッチは、窒素分が好ましくは0.90重量%以下であり、より好ましくは0.85重量%以下であり、更に好ましくは0.80重量%以下であり、特に好ましくは0.75重量%以下である。窒素分の含有量を上記の範囲とすることによって、これを原料として得られるピッチ系ニードルコークスが、パッフィングが低い値を示すだけでなく、熱膨張係数も十分に小さい値を示すことができる。
なお、本発明の水素化コールタールピッチは、窒素分の下限値は限定されず、より低い値であることが好ましいが、コールタールピッチを原料とする限り0(ゼロ)にすることは困難であるため、通常は0.20重量%以上である。
本発明の水素化コールタールピッチの360℃以下の留分は、40重量%以下であることが好ましい。水素化コールタールピッチの360℃以下の留分が40重量%を超えると、コークス歩留りが低くなる傾向がある。また、360℃以下の留分は、前記と同様の理由により、上限は35重量%以下であることがより好ましい。一方、水素化コールタールピッチの360℃以下の留分の下限は、2重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。360℃以下の留分が上記下限値未満であると、メソフェース成長時の液相粘度が上昇し、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。
本発明の水素化コールタールピッチの100℃における粘度は50〜500mPa・sであることが好ましい。水素化コールタールピッチの100℃における粘度が、50mPa・s未満の場合、水素化コールタールピッチに含まれる軽質油が多く、ニードルコークスの熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチの100℃における粘度が、500mPa・sを超えるとメソフェーズの成長時の液相粘度が高く、メソフェースの成長が阻害され、熱膨張係数が高くなる傾向がある。また、100℃の粘度は、前記と同様の理由により80〜200mPa・sであることがより好ましい。
本発明の水素化コールタールピッチは、水素原子数と炭素原子数の比(H/C)が0.8以上であることが好ましい。水素化コールタールピッチのH/Cが0.8未満の場合は、ナフテン環の生成が少なく、メソフェース成長時の液相粘度が高くなり、得られるニードルコークスの熱膨張係数(CTE)が高くなる傾向がある。また、H/Cの上限は、1.2以下であることが好ましい。
本発明の水素化コールタールピッチの15℃における比重は、1.0〜1.2であることが好ましい。水素化コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.0未満の場合は、コークス歩留りが低くなる傾向がある。一方、水素化コールタールピッチの比重(15℃/4℃)が1.2を超えると、重質成分の含有量が多く、メソフェースの成長が阻害される傾向がある。また、比重(15℃/4℃)は、前記と同様の理由により1.08〜1.19であることがより好ましい。
従来は、コールタールピッチを原料とする限り、上記のような諸特性の範囲内であるコールタールを得ることは極めて困難であったが、本発明においては、原料コールタールピッチから軽質油を分離して得られたコールタールピッチを更に水素化処理を行うことによって、上記の諸特性を満たす水素化コールタールピッチを得ることができる。
なお、上記した水素化コールタールピッチの諸特性は各々独立したものであり、必ずしも全ての特性を兼ね備えている必要は無い。
<4.コークス化>
本発明によるコールタールピッチ又は本発明の水素化コールタールピッチは、コークス化することによって、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスを得ることが出来る。以下に、ニードルコークスの製造について説明する。
本発明によるコールタールピッチ又は本発明の水素化コールタールピッチをコークス化する方法は限定されないが、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法、フレキシコーキング法、ユリカプロセスなどが挙げられ、これらの中でも、得られるコークスの生産性や品質安定性の点からディレードコーキング法が好ましい。
ディレードコーキング法においては、本発明によるコールタールピッチ又は本発明の水素化コールタールピッチが加熱管中を加熱されながら急速に通過し、コークドラムに導入されてコーキングが起こる。コーキング条件は特に制限されないが、温度は好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。コーキング時間は好ましくは18〜72時間、より好ましくは20〜40時間である。
また、このようにして得られるコークスをロータリーキルン、シャフト炉等でか焼することが好ましい。か焼の際の温度は1000〜1500℃が好ましく、時間は1〜6時間が好ましい。
なお、コークス化に用いる原料としては、本発明によるコールタールピッチ又は本発明の水素化コールタールピッチとともに他の原料を併用してもよい。このような原料は限定されないが、例えば石油系重質油が挙げられる。水素化コールタールピッチと併用して用いる石油系重質油は限定されないが、例えば、前記した水素化処理時に処理前ピッチとともに用いることの出来る石油系重質油として例示したものが挙げられ、中でも特に流動接触分解油、常圧蒸留残油が好ましい。
本発明によるコールタールピッチ又は本発明の水素化コールタールピッチと他の原料との混合割合は限定されないが、他の原料を通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下となる割合で用いることが好ましい。
[ピッチ系ニードルコークス]
本発明によるコールタールピッチ又は本発明の水素化コールタールピッチを用い、上記のようにして得られたピッチ系ニードルコークスは、硫黄分及び窒素分の含有割合が低いため、熱膨張係数が小さく且つパッフィングが十分に抑制されたピッチ系ニードルコークスとすることが出来る。具体的には、ピッチ系ニードルコークスの硫黄分は0.3重量%以下、更には0.15重量%以下とすることが出来、窒素分は0.8重量%以下、更には0.6重量%以下とすることが出来る。
また、得られるピッチ系ニードルコークスは、熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7/℃以下、更には3.2×10-7/℃以下であり、パッフィングが3.4%以下、更には3.0%以下とすることができる。ここでパッフィングの値は、後述する実施例記載の方法で測定した、2600℃迄のパッフィングを意味する。
このため、本発明で得られるピッチ系ニードルコークスは、電炉製鋼用黒鉛電極の骨材として好適に使用することが出来る。
本発明で得られるピッチ系ニードルコークスを用いて黒鉛電極製品を製造する方法としては、本発明のニードルコークスにバインダーピッチを適当量添加した原料を加熱捏合した後、成型して得られた生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工する方法が挙げられる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
<硫黄分の測定>
原料コールタールピッチ、軽質油を除去したコールタールピッチ、水素化コールタールピッチ及びコークス中の硫黄分は、JIS M8813に準拠して測定した。具体的には、試料0.1gを1000℃以上に熱した燃焼炉に投入し、発生したガスを硫酸を1%含む35%過酸化水素水に吸収させ、その電気伝導度の変化により測定した。
<H/C及び窒素分の測定>
原料コールタールピッチ、軽質油を除去したコールタールピッチ及び水素化コールタールピッチ中の炭素、水素、窒素の含有率の測定は、JIS M8819に準拠して測定した。具体的には、装置名:Vario Max全自動元素分析装置(エレメンタール社)にサンプルを供することにより測定を行った。
H/Cは、上記測定法にて得た炭素原子と水素原子の含有量をモル数にし、次式により算出した。
H/C=水素原子数/炭素原子数
コークス中の窒素含有率(窒素分)の測定は、JIS M8819に準拠して測定した。具体的には、装置名:NC−22A(住化分析センター社製)にサンプルを供することにより測定を行った。
<比重の測定>
15℃の比重は、JIS K2425に従い測定した。
<キノリン不溶分の測定>
キノリン不溶分(Qi)の測定は、JIS K2425に従い測定した。
<トルエン不溶分の測定>
トルエン不溶分(Ti)の測定は、JIS K2425に従い測定した。
<360℃以下の留分の測定>
360℃以下の留分の測定は、JIS K2425に従い測定した。
<粘度の測定>
粘度の測定は、B型回転粘度計(VISCOMETER DV−II+PRO(ブルックフィールド社製))を用いて行った。
<ナフタレン含有量の測定>
ナフタレン含有量の測定は、ガスクロマトグラフ(GC−2014(島津製作所製))にBPX5(長さ:60m、直径:0.32μm、膜厚:0.25μm(SGE社製))を装着した装置で内部標準法を用いて分析を行った。
<アセナフテン含有量の測定>
アセナフテン含有量の測定は、ガスクロマトグラフ(GC−2014(島津製作所製))にBPX5(長さ:60m、直径:0.32μm、膜厚:0.25μm(SGE社製))を装着した装置で内部標準法を用いて分析を行った。
<熱膨張係数(CTE)の測定>
か焼コークスを粉砕した後、各サンプルとも一定の粒度に調整した。これに石炭系のバインダーピッチをか焼コークスに対して30重量%加え、各サンプルとも同一の温度で加熱捏合した後、押出し成形機を用いて円柱状の成形体を作製した。
この成形体を焼成炉を用いて1000℃で3時間焼成した後、タンマン炉にて2800℃で黒鉛化して得られた試験片について、その長さ方向の線熱膨張係数(以下、CTE)を測定した。CTEの値が低い方が良好である。
なお、測定に際しては、押し棒式熱膨張計に前述の試験片をセットし、赤外線イメージ炉で30℃から130℃まで昇温し、この間の伸びを測定した(ΔL)。試験片と同サイズの石英を用いて同様に測定し(ΔL’)、次式により熱膨張係数を計算した。
熱膨張係数(×10-7/℃)=(ΔL−ΔL’)/(L×ΔT)+5.1×10-7
(上記式中、Lは試験前のテストピースの長さ、ΔTは伸びを測定した温度差(100℃)、「5.1×10-7」は30℃から130℃での石英の熱膨張係数である)
<パッフィングの測定>
熱膨張係数(CTE)の測定と同様に加熱捏合した後、モールド成形し、成形時の加圧方向へボーリング加工して円柱状の成形体を作製した。この成形体を1000℃で焼成した後、試験片をタンマン炉を用いて昇温速度20℃/分にて室温から2600℃の温度間の円柱体の長さ方向の寸法の伸びを押し棒式熱膨張計にて測定し、下記式により計算してパッフィングとして示した。なお、この成形体の円柱の長さ方向の寸法の伸びは、上記押出し成形体の押出し方向に対し垂直方向に該当する。パッフィングの値が3.4%以下を合格とし、より低い値である方がよい。
パッフィング(%)=(ΔL/L)×100
(上記式中、Lは試験前のテストピースの長さ、ΔLは2600℃までの昇温間の伸びである)
[実施例1−1]
コークス製造設備由来のコールタールを常圧蒸留して得られた重質成分からキノリン不溶分を除去することにより精製コールタールピッチを得て、これを原料コールタールピッチとした。
原料コールタールピッチは、キノリン不溶分(Qi)が0.008重量%、トルエン不溶分(Ti)が8.34重量%、H/Cが0.65、硫黄分0.62重量%、窒素分1.11重量%、360℃以下の留分が9.8%、100℃の粘度が183mPa・s、15℃の密度が1.234g/cm3、ナフタレン含有量が0.8重量%、アセナフテン含有量が1.4重量%であった。
原料コールタールピッチを、10hPa‐abs、蒸留装置上部温度を190℃とする減圧蒸留を行い、軽質油を13重量%除去し、軽質油を除去したコールタールピッチとした。
軽質油を除去したコールタールピッチは、キノリン不溶分(Qi)が0.008重量%、トルエン不溶分が9.02重量%、H/Cが0.62、硫黄分0.66重量%、窒素分1.18重量%、360℃以下の留分が0.7重量%、100℃の粘度が1965mPa・s、15℃の密度が1.257g/cm3、ナフタレン含有量が0.001重量%、アセナフテン含有量が0.1重量%であった。これらの値を表−1に示す。
得られた軽質油を除去したコールタールピッチをステンレス製圧力容器に入れ、加圧下、500℃にて24時間加熱処理を行うことによりコークス化した。生成したコークスを1300℃で2時間焼成してか焼コークスを得た。得られたか焼コークスの硫黄分は0.32重量%、窒素分は0.83重量%であった。
得られたか焼コークスについて、熱膨張係数(CTE)及びパッフィングを測定した結果を表−1に示す。
[実施例1−2]
実施例1−1で得られた軽質油を除去したコールタールピッチを処理前ピッチとして用い、市販の水素化触媒の存在下、純度99%以上の水素を用い、固定床連続式反応装置にて水素化処理し、水素化コールタールピッチを得た。水素化の条件は、水素分圧13MPa、温度380℃、水素/ピッチ流量比1m3当たり300Nm3/m3、液空間速度(LHSV)が1.0h-1とした。
得られた水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が0.003重量%、トルエン不溶分が1.37重量%、H/Cが0.83、硫黄分0.24重量%、窒素分0.75重量%、100℃の粘度が101mPa・s、15℃における密度が1.178g/cm3、360℃以下の留分が22.5重量%であった。これらの値を表−2に示す。
これを実施例1と同様にしてコークス化し、か焼コークスとした。得られたか焼コークスの硫黄分は0.13重量%、窒素分は0.54重量%であった。
得られたか焼コークスについて、熱膨張係数(CTE)及びパッフィングを測定した結果を表−1に示す。
[比較例1−1]
実施例1−1で用いた原料コールタールピッチを、蒸留(軽質油の分離)、水素化処理の何れも行わずにそのまま使用した以外は実施例1−1と同様にしてコークス化し、か焼コークスとした。得られたか焼コークスの硫黄分は0.31重量%、窒素分は0.81重量%であった。
得られたか焼コークスについて、熱膨張係数(CTE)及びパッフィングを測定した結果を表−1に示す。
[比較例1−2]
実施例1−1で用いた原料コールタールピッチを、蒸留(軽質油の分離)せずに、実施例1−2と同様の条件で水素化処理を実施し、水素化コールタールピッチを得た。
得られた水素化コールタールピッチは、キノリン不溶分が0.002重量、トルエン不溶分が0.54重量%、H/Cが0.87、硫黄分0.20重量%、窒素分0.69重量%、360℃以下の留分が30.4重量%、100℃の粘度が33mPa・s、15℃における密度が1.160g/cm3であった。これらの値を表−2に示す。
これを実施例1と同様にしてコークス化し、か焼コークスとした。得られたか焼コークスの硫黄分は0.13重量%、窒素分は0.53重量%であった。
得られたか焼コークスについて、熱膨張係数(CTE)及びパッフィングを測定した結果を表−1に示す。
Figure 2017048379
Figure 2017048379
表−1の通り、原料コールタールピッチをそのまま用いて製造されたピッチ系ニードルコークス(比較例1−1)に対し、軽質油を分離したコールタールピッチを用いて製造されたピッチ系ニードルコークス(実施例1−1)は、硫黄分及び窒素分が僅かに上昇するにも拘わらず、CTEが改良されていることが判る。
更に、原料コールタールピッチから軽質油を分離した後、水素化処理して得られた水素化コールタールピッチを用いて製造されたピッチ系ニードルコークス(実施例1−2)は、CTE及びパッフィングの何れも顕著に良好であることが明らかである。表−2の通り、水素化処理後のコールタールピッチは、もはや本発明で規定する特性から外れたものとなっているにも関わらず、一度、本発明で規定する特性となったコールタールピッチを用いて水素化処理を行った場合(実施例1−2)は、単に水素化処理のみを行った場合(比較例1−2)と比較し、得られるピッチ系ニードルコークスのCTEが改良されていることが判る。

Claims (12)

  1. キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下、360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるコールタールピッチ。
  2. キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下、ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるコールタールピッチ。
  3. 100℃における粘度が500〜3000mPa・sである請求項1または2に記載のコールタールピッチ。
  4. キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下、100℃における粘度が500〜3000mPa・sであるコールタールピッチ。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載のコールタールピッチをコークス化してなるピッチ系ニードルコークス。
  6. 原料コールタールピッチから軽質油を分離することにより、キノリン不溶分が0.02重量%以下、硫黄分が0.9重量%以下、窒素分が1.4重量%以下であるコールタールピッチを得る、コールタールピッチの製造方法。
  7. 360℃以下の留分が0.02〜9重量%であるコールタールピッチを得る、請求項6に記載のコールタールピッチの製造方法。
  8. ナフタレン含有量及びアセナフテン含有量の合計量が0.01〜2重量%であるコールタールピッチを得る、請求項6または7に記載のコールタールピッチの製造方法。
  9. 請求項6〜8の何れか1項に記載の方法でコールタールピッチを製造し、得られたコールタールピッチを水素化する、水素化コールタールピッチの製造方法。
  10. 請求項9に記載の方法で水素化コールタールピッチを製造し、得られた水素化コールタールピッチをコークス化する、ピッチ系ニードルコークスの製造方法。
  11. 2600℃迄のパッフィングが3.4%以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、請求項10に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
  12. 熱膨張係数(CTE)が3.4×10-7/℃以下であるピッチ系ニードルコークスを製造する、請求項10又は11に記載のピッチ系ニードルコークスの製造方法。
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