JP2016176155A - フッ化ビニリデン系樹脂繊維、及びそれらの製造方法。 - Google Patents

フッ化ビニリデン系樹脂繊維、及びそれらの製造方法。 Download PDF

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Abstract

【課題】平均複屈折率が低く、引張伸度が高いフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸、及びその関連技術を提供する。【解決手段】フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸は、上記フッ化ビニリデン系樹脂のインヘレント粘度が、0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内であり、未延伸糸は、単糸繊度が45dtex以下であり、平均複屈折率が30×10−3以下であり、引張伸度が175%以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、フッ化ビニリデン系樹脂繊維、及びそれらの製造方法に関する。
フッ化ビニリデン系樹脂は、他のフッ素含有樹脂よりも成形加工が容易であり、その繊維は織布、ニット、紐、カットファイバ、紙及び不織布などの様々な形態で使用されている。また、フッ化ビニリデン系樹脂から成形される繊維は、汎用的な樹脂よりも高い耐熱性、耐候性及び耐食性などを備えており、釣り糸、漁網、中空糸膜の補強糸、ロープ及び衣料などの様々な産業資材として使用されている。
また、フッ化ビニリデン系樹脂は電気的な安定性に優れており、成形加工した後、分極処理を行なうことによって圧電体として使用することができ、このような圧電体はセンサーやデバイスとして有用であり、また、フッ化ビニリデン系樹脂から成形される繊維は、医療基材や発色繊維などの用途への展開が期待されている。
例えば、特許文献1には、溶融流動指数が、50〜200g/10分(250℃、10kgf)のポリフッ化ビニリデン樹脂をノズル断面積0.007〜0.51mのノズルより、シェアレート270〜1800sec−1の範囲で、樹脂温度を250〜290℃にして溶融押出し、該押出物を20〜100のドラフト率で紡糸した後、100〜160℃で延伸することにより得られる、単糸30デニール以下で、直線強度が3.0g/デニール以上であるポリフッ化ビニリデンのマルチフィラメントの製造方法が記載されている。
特開昭61−41318号公報(1986年2月27日公開)
しかしながら、特許文献1に記載されている製造方法により得られる延伸糸よりも、単糸繊度が低く、引張強度が高い、フッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は様々な分野へ用途を展開するのに有用であり、またβ晶率が高いことより圧電体としての性能を高めることができるため有用である。
また、特許文献1に記載されているフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸の製造方法では、延伸糸を製造するための未延伸糸を紡糸する段階において繊維が糸切れし、安定した引張強度を備えた延伸糸を製造することが困難であるという問題がある。
本願発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、平均複屈折率が低く、引張伸度が高いフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸、及びその関連技術を提供することにある。
本願発明者らは、フッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸の製造について鋭意検討した結果、単糸繊度が低く、引張強度及びβ晶率が高いフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸を製造するためには、未延伸糸の配向を抑制することで平均複屈折率が低く、引張伸度が高いフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を用いることが有効であることを見出し、本願発明を完成させた。
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸は、フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸であって、上記フッ化ビニリデン系樹脂は、インヘレント粘度が0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内であり、上記未延伸糸は、単糸繊度が45dtex以下であり、平均複屈折率が30×10−3以下であり、引張伸度が175%以上であることを特徴としている。
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸では、上記フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体であることがより好ましい。
本発明の第1の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸では、上記フッ化ビニリデン系樹脂は、モノマー100モル%あたり、フッ化ビニリデンモノマーを90モル%以上含む共重合体であり、共重合される他のモノマーが、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、及びクロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1つである。
本発明の第2の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸の製造方法は、第1の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を製造する方法であって、溶融した上記フッ化ビニリデン系樹脂を紡糸口金から繊維状にして吐出する吐出工程と、上記繊維状にしたフッ化ビニリデン系樹脂を未延伸糸に紡糸する紡糸工程とを包含し、上記紡糸工程では、上記フッ化ビニリデン系樹脂を、5.0×10−3秒以上、下記式(1)
Tm−80℃≦β≦Tm+150℃・・・(1)
(ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
で表される温度βに保温する保温段階と、上記保温されたフッ化ビニリデン系樹脂を冷却する冷却段階とを行ないながら、上記フッ化ビニリデン系樹脂を紡糸することを特徴としている。
本発明の第2の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸の製造方法では、上記吐出工程では、上記フッ化ビニリデン系樹脂を、40sec−1以上、4000sec−1以下の範囲内の吐出せん断速度で吐出し、上記紡糸工程では、20以上、2000以下のドラフト率で上記フッ化ビニリデン系樹脂を紡糸することがより好ましい。
本発明の第3の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸の製造方法では、第2の態様に係る製造方法を行なうことによって、フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を製造する、未延伸糸製造工程と、上記未延伸糸製造工程後、上記フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を延伸する延伸工程と、を包含し、上記延伸工程では、上記フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を下記式(2)
Tm−100℃≦β≦Tm−3℃・・・(2)
(ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
で表される温度βに加熱し、2.0倍以上、7.0倍以下の範囲内の延伸倍率で延伸することを特徴としている。
本発明の第4の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、本発明の第3の態様に係る製造方法によって製造されたフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸であって、平均複屈折率は45×10−3以上であり、引張伸度は60%以下である。
本発明の第4の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、1本辺りの繊維直径が5μm以上、80μm未満であることがより好ましい。
本発明の第4の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、引張強度が3.1cN/dtex以上であり、引張伸度が50%以下であることがより好ましい。
本発明の第4の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、β晶の割合が、60%以上であることがより好ましい。
本発明の第5の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸の製造方法は、上記延伸工程の後、上記フッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸を、下記式(3)
Tm−50℃≦β≦Tm+30℃・・・(3)
(ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
で表される温度βに加熱し、20%以下の緩和率で緩和するか又は熱固定するかによって熱処理を行なう熱処理工程を包含していることを特徴としている。
本発明の第6の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、本発明の第5の態様に係る製造方法によって製造されたフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸であって、平均複屈折率は45×10−3以上であり、引張伸度は60%以下であることを特徴としている。
本発明の第6の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、1本辺りの繊維直径が5μm以上、80μm未満であることがより好ましい。
本発明の第6の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、引張強度が3.1cN/dtex以上であり、引張伸度が50%以下であることがより好ましい。
本発明の第6の態様に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸は、β晶の割合が、60%以上であることがより好ましい。
本発明によれば、平均複屈折率が低く、引張伸度が高いフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸及びその関連技術を提供することができる。
本発明の一実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸及び延伸糸を製造するために用いられる製造装置の概略を説明する図である。
<フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸マルチフィラメント>
以下に、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸についてより詳細に説明する。本実施形態では、未延伸糸として未延伸マルチフィラメントについて説明するが、本発明の実施形態はマルチフィラメントに限定されない。
本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントは、フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸マルチフィラメントであって、単糸繊度が45dtex以下であり、平均複屈折率が30×10−3以下であり、引張伸度が175%以上である。
本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントを延伸することにより、単糸繊度が低く、引張強度及びβ晶率が高いフッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメントを好適に製造することができる。このため、延伸マルチフィラメントを用いて製造される様々な態様の繊維製品を創製できる。本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントを延伸すれば、β晶率が高い延伸マルチフィラメントを得ることができる。このため、延伸マルチフィラメントから製造される圧電素子に高い圧電性、焦電性、及び強誘電性などの電気化学的特性をもたらすことができる。従って、医療用途やセンシング用途に好適に用いることができる延伸マルチフィラメントを得ることができ、応用が期待される。
なお、本明細書において、フッ化ビニリデン系樹脂(単に「PVDF」という)には、フッ化ビニリデン(VDF)の単独重合体、および、VDFと他のモノマーとの共重合体を包含し、一つの樹脂に含有されるモノマーの種類と数に限りはない。
また、本明細書中において、未延伸マルチフィラメントとは、溶融したPVDFを紡糸口金から繊維状にして吐出し、所定のドラフト率で紡糸することにより得られるマルチフィラメントであり、溶融したフッ化ビニリデン系樹脂が固化した後において延伸されていないマルチフィラメントのことを意味する。
また、本明細書中において、フッ化ビニリデン系樹脂繊維とは、フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸とフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸との両方のことを意味する。
本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントは、単糸繊度が45dtex以下である。未延伸マルチフィラメントの単糸繊度は45dtex以下であればよいが、35dtex以下であることがより好ましく、25dtex以下であることが最も好ましい。未延伸マルチフィラメントの単糸繊度が45dtex以下であれば、延伸することにより、単糸繊度がより低い延伸フィラメントを好適に製造することができる。
また、本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントは、引張伸度が175%以上である。未延伸マルチフィラメントの引張伸度は175%以上であればよいが、200%以上であることがより好ましく、250%以上であることが最も好ましい。このように、引張伸度が175%以上である未延伸マルチフィラメントを延伸することにより、引張強度が高い延伸マルチフィラメントを製造することができる未延伸マルチフィラメントを得ることができる。
また、本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントは、平均複屈折率(Δn)が、30×10−3以下である。未延伸マルチフィラメントの平均複屈折率は30×10−3以下であればよいが、25×10−3以下であることがより好ましく、20×10−3以下であることが最も好ましい。未延伸マルチフィラメントの平均複屈折率が、30×10−3以下であれば、当該未延伸マルチフィラメントの配向を抑制できているため、延伸することにより、PVDFの配向結晶化が進み、引張強度が高く、PVDFの平均複屈折率及びβ晶率が高い、延伸フィラメントを製造することができる。
なお、未延伸マルチフィラメントにおける繊維の数は限定されるものではない。
〔フッ化ビニリデン系樹脂〕
本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントを製造するために用いられるPVDFには、フッ化ビニリデンモノマー(VDF)の単独重合体、又は、フッ化ビニリデンモノマーを主成分とする他のモノマーとの共重合体である。
共重合体に用いられる他のモノマーとしては、VDFと共重合可能であれば如何なるモノマーでもよい。一例を挙げるとすれば、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、及び、ペルフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素系モノマー、エチレン、プロピレンなどの炭化水素系モノマー、アクリル酸などカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸などカルボン酸無水物基含有モノマーなどを挙げることができ、より好ましくは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン、及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)などを挙げることができる。
PVDFは、フッ化ビニリデンモノマー(VDF)の単独重合体であることが好ましく、又は、共重合体を用いる場合、他のモノマーに対するVDFの比率を高めた共重合体か、VDFと他のモノマーとしてHFP、TrFE、及びCTFEなどとの共重体を用いることが好ましい。
本発明で用いるPVDFは、1種類の重合体であってもよいし、2種類以上の重合体の混合物であってもよい。2種以上の重合体の混合物及び共重合体を用いる場合も含め、フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデンモノマーはモノマー100モル%あたり、90モル%以上、100モル%以下の範囲内にあることが好ましく、93モル%以上、100モル%以下の範囲内にあることがより好ましく、95モル%以上、100モル%以下の範囲内にあることがより好ましい。
なお、PVDFは、他の成分として、着色防止剤やフェノール系安定剤、色素、機能性粒子などの添加剤を含んでいてもよい。
PVDFは、商業的に入手可能なものを用いることができる。例えば、商業的に入手できる粉末状やペレット状などのPVDFを加熱により溶融して、未延伸マルチフィラメントを紡糸するために用いるとよい。
ここで、PVDFのインヘレント粘度は、0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内である。PVDFのインヘレント粘度は、0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内であればよいが、0.70dL/g以上、0.90dL/g以下の範囲内であることがより好ましく、0.75dL/g以上、0.90dL/g以下の範囲内であることが最も好ましい。インヘレント粘度が、0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内のPVDFを用いることにより、引張伸度が175%以上の高い値を示すPVDFの未延伸マルチフィラメントを好適に紡糸することができる。
なお、本明細書中において、PVDFのインヘレント粘度は、4gのPVDFを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度として算出されている。
<フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸マルチフィラメントの製造方法>
本実施形態に係るPVDFの未延伸マルチフィラメントの製造方法は、溶融したPVDFを紡糸口金から繊維状にして吐出する吐出工程と、繊維状にしたPVDFを未延伸糸に紡糸する紡糸工程とを包含しており、紡糸工程では、PVDFを保温する保温段階と、保温されたPVDFを冷却する冷却段階とを行ないながら、当該PVDFを紡糸する。
吐出工程において吐出されたPVDFを紡糸工程における保温段階において保温することにより、PVDFの未延伸マルチフィラメントを紡糸するときに生じる糸切れを好適に防止することができる。また、得られる未延伸マルチフィラメントの単糸繊度及び引張伸度を好適に制御することができる。
なお、本実施形態に係るPVDFの未延伸糸は、図1に概略を示す、紡糸装置によって製造することができる。
図1に示すように、紡糸装置は、PVDFを投入するためのホッパー1、PVDFを押し出す一軸押出機2及びヘッド3、ギアポンプ4、ノズル(紡糸口金)5を備え、ノズルの外周を囲うように設けられた加熱マントル(加熱保温筒)6によって、ノズル5から吐出されるPVDFを保温することができる。また、紡糸した未延伸マルチフィラメント20は、引き取りローラ8及び8’によって引き取られる。
〔吐出工程〕
吐出工程では、PVDFを溶融し、ノズル5から繊維状にして吐出する。ここで、PVDFを溶融するための温度条件は、PVDFの種類により適宜調整すればよく、限定されるものではないが、PVDFの溶融温度(Tm)よりも75℃から120℃程度高い温度にて溶融するとよい。なお、PVDFの溶融温度は、一軸押出機2及びヘッド3、ギアポンプ4、ノズル5に設けられたスピンパックを加熱することで、調整するとよい。
溶融したPVDFを吐出するためのノズルの孔径は、吐出するPVDFのインヘレント粘度などによって、適宜調整すればよいが、0.20mm以上、2.00mm以下の範囲内であることが好ましい。
〔紡糸工程〕
紡糸工程では、ノズルから吐出されたPVDFを、所定のドラフト率で引き取りローラ8及び8’により引き取ることで紡糸する。ここで、PVDFがノズル5の外周を囲うように設けられた加熱マントル6の内側を通過しているときに、保温段階として当該PVDFを保温し、加熱マントル6の内側を通過した後に、冷却段階として当該PVDFを冷却する。なお、加熱マントル6は筒型の形状をしており、保温手段によって当該筒型の形状の内側の空間においてPVDFを保温することができる。
(保温段階)
保温段階では、加熱マントル6の内側をノズルから吐出されたPVDFに通過させることでPVDFを保温する。
保温段階におけるPVDFの保温時間は、5.0×10−3秒以上、1.5秒以下の範囲内の時間であることが好ましく、5.0×10−3秒以上、0.5秒以下の範囲内の時間であることがより好ましい。PVDFの保温時間は、5.0×10−3秒以上、0.2秒以下の範囲内の時間であれば、PVDFの曳糸性を確保しつつ、ノズルから吐出されたPVDFを好適に保温することができる。なお、保温段階におけるPVDFの保温時間は、PVDFの吐出せん断速度及びドラフト率に応じて、PVDFを通過させる加熱マントルの長さにより調整すればよい。
保温段階では、PVDFは下記式(1)で表される温度βに保温される。
Tm−80℃≦β≦Tm+150℃・・・(1)
(ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
温度βは上記式(1)に表される範囲内の温度であるが、下記式(1’)に表される範囲内の温度であることがより好ましく、
Tm−50℃≦β≦Tm+110℃・・・(1’)
下記式(1”)に表される範囲内の温度であることが最も好ましい。
Tm−40℃≦β≦Tm+70℃・・・(1”)
温度βは、加熱マントルを通過する繊維状のPVDFを保温するために必要な温度として上記式(1)の範囲内の温度で表される。このため、加熱マントル内の全ての箇所において、温度が上記式(1)で表される範囲内である必要はない。つまり、加熱マントル内を通過するPVDFを温度βで表される範囲内の温度において所定の時間保温することができれば、加熱マントルの出口付近における温度が温度βの範囲外となっていてもよい。
加熱マントルを所定の温度に設定してPVDFを紡糸すると、PVDFが移送される方向に向かって温度が低下するように温度の勾配が生じる。このため、加熱マントル内部におけるノズル(紡糸口金)出口から加熱マントルの出口付近までの空間を、一定の温度条件に維持することはできない。
そこで、加熱マントルを温度βに加熱し、ノズル出口から、当該加熱マントルの内側において上記式(1)で表される温度βの条件を満たしている、最も遠い地点Pまでの距離を「有効加熱マントル長」と定義し、保温条件を特定するために採用した。
「有効加熱マントル長」は、PVDFが加熱マントル内を通過しているときに、当該加熱マントルの内側において、ノズル出口から加熱マントル出口に向かって温度βの条件を満たしている最も遠い地点Pを、赤外線レーザー温度計を用いて特定し、ノズル出口から当該地点Pまでの距離として求めた。具体的には、加熱マントルの内側において、ノズル出口から、例えば、10mm、60mm、120mmの各地点における温度を赤外線レーザー温度計を用いて測定し、120mmの地点における温度が温度β1の下限値であれば、ノズル出口から120mmの地点を地点Pとして特定し、有効加熱マントル長を120mmとした。
これにより、PVDFを温度βに保温することで、当該PVDFがメルトフラクチャーを生じることを防止することができる。このため、吐出工程におけるPVDFの吐出せん断速度(シェアレート)を、40sec−1以上、4000sec−1以下の範囲内という広い範囲において設定することができる。また、吐出されたPVDFを加熱マントル6により保温することで、PVDFの曳糸性を確保することができる。このため、紡糸工程におけるPVDFのドラフト率を20以上、2000以下の範囲内という、広い範囲において設定することができる。従って、構成単位や分子量などの異なる様々な種類のPVDFを好適に紡糸することができる。なお、紡糸工程では、20以上、2000以下の範囲内のドラフト率でPVDFの紡糸することができるが、1000以下の範囲内のドラフト率で紡糸することが、未延伸マルチフィラメントの引張伸度を高くし、平均複屈折率を低くするためにはより好ましい。
(冷却段階)
冷却段階では、PVDFが加熱マントル6の内側を通過した後に、当該PVDFを冷却することで、PVDFの繊維を紡糸できるように固化させる。繊維状のPVDF樹脂の冷却方法としては特に制限はないが、簡便な点で空冷が好ましい。
なお、冷却段階を行なうことより固化したPVDFの繊維は、一例として、オイルリング7によって紡糸油剤を塗布された後、紡糸される。
<第1の実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメントの製造方法>
一実施形態(第1の実施形態)に係るPVDFの延伸マルチフィラメントの製造方法は、本発明の一実施形態に係る製造方法を行なうことによって、PVDFの未延伸マルチフィラメントを製造する未延伸糸製造工程と、未延伸糸製造工程後、PVDFの未延伸糸を延伸する延伸工程とを包含している。
なお、未延伸糸製造工程は、PVDFの未延伸マルチフィラメントの製造方法と同じであるため、その説明を省略する。また、限定されないが、未延伸糸製造工程を行なった後、連続的に延伸工程を行なう、直延伸法により、PVDFの延伸マルチフィラメントを製造することがより好ましい。
〔延伸工程〕
本実施形態に係る延伸マルチフィラメントの製造方法では、本発明の一実施形態に係る未延伸マルチフィラメントを延伸することにより、延伸マルチフィラメントを製造する。
延伸工程では、図1に示すように、第1引き取りローラ8及び8’に引き取られた未延伸マルチフィラメント20を加熱する機能を有する第2引き取りローラ9及9’に引き取り、当該未延伸マルチフィラメント20を下記式(2)で表される温度βに加熱する。Tm−100℃≦β≦Tm−3℃・・・(2)
(ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
温度βは上記式(2)に表される範囲内の温度であるが、下記式(2’)に表される範囲内の温度であることがより好ましく、
Tm−90℃≦β≦Tm−10℃・・・(2’)
下記式(2”)に表される範囲内の温度であることが最も好ましい。
Tm−50℃≦β≦Tm−20℃・・・(2”)
また、延伸工程では、紡糸装置における第2引き取りローラ9及び9’と、第2引き取りローラ9及び9’と同じ直径を有する第3引き取りローラ10及び10’との回転速度の比率を調整することにより、延伸倍率を調整し、未延伸マルチフィラメント20を延伸することで延伸マルチフィラメント21を製造する。ここで、延伸工程では、2.0倍以上、7.0倍以下の範囲内の延伸倍率で未延伸マルチフィラメントを延伸する。
本実施形態に係る未延伸マルチフィラメントは、45dtex以下という、低い単糸繊度を有しながらも、175%以上という高い引張伸度を備えている。このため、延伸工程において、2.0倍以上、7.0倍以下という高い延伸倍率において、未延伸マルチフィラメントを延伸し、PVDFの配向結晶化をより効果的に進めることができるため、高い平均複屈折率及び高いβ晶率を有するPVDFの延伸マルチフィラメントを得ることができる。
また、延伸工程は、1段延伸であってもよく、2段延伸及び3段延伸などの多段延伸であってもよい。例えば、2段延伸により未延伸マルチフィラメントを延伸する場合、紡糸装置における第3引き取りローラ10及び10’と、第3引き取りローラ10及び10’と同じ直径を有する第4引き取りローラ11及び11’との回転速度の比率を調整することにより、延伸倍率を調整し、延伸マルチフィラメント22を製造するとよい。また、3段延伸により未延伸マルチフィラメントを延伸する場合、第4引き取りローラ11及び11’と、第4引き取りローラ11及び11’と同じ直径を有する第5引き取りローラ12及び12’との回転速度の比率を調整することにより、延伸倍率を調整し、延伸マルチフィラメント23を製造するとよい。得られた延伸マルチフィラメント23は、ボビン13に引き取ることにより回収される。
<第2の実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメントの製造方法>
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメントの製造方法は、上記実施形態(第1の実施形態)に限定されない。例えば、一実施形態(第2の実施形態)に係るフッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメントの製造方法は、延伸工程を行なうことにより延伸されたPVDFの延伸マルチフィラメントを熱処理する熱処理工程を包含している。
〔熱処理工程〕
熱処理工程では、延伸工程の後、フッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメントを、下記式(3)で表される温度βに加熱する。
Tm−50℃≦β≦Tm+30℃・・・(3)
(ここで、Tmはフッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
温度βは上記式(3)に表される範囲内の温度であるが、下記式(3’)に表される範囲内の温度であることがより好ましく、
Tm−30℃≦β≦Tm+10℃・・・(3’)
下記式(3”)に表される範囲内の温度であることが最も好ましい。
Tm−20℃≦β≦Tm−3℃・・・(3”)
延伸マルチフィラメントを温度βに加熱し、20%以下の緩和率で緩和するか又は熱固定するかによって、延伸マルチフィラメントを熱により処理する。これにより、延伸マルチフィラメントの機械的な強度を高めつつ、引張伸度の調整が可能となる。
熱処理工程は、延伸工程として、少なくとも1段延伸を行なった後に行なわれる。従って、2段延伸の後に熱処理工程を行ってもよく、3段延伸の後に熱処理工程を行ってもよい。また、1段延伸工程の後に、2段目の延伸に代えて熱処理工程を行ない、その後、2段目の延伸を行なってもよい。また、3段目の延伸の代わりに熱処理工程を行なってもよい。
例えば、1段延伸工程の後に、熱処理工程を行なう場合、紡糸装置における第3引き取りローラ10及び10’と、第3引き取りローラ10及び10’と同じ直径を有する第4引き取りローラ11及び11’との回転速度の比率を調整することにより、延伸マルチフィラメントの緩和率を調整する。つまり、第3引き取りローラ10及び10’の回転速度をXとして、第4引き取りローラ11及び11’の回転速度をYとした場合、緩和率は、以下の式(4)により表される。
緩和率(%)=(1−(Y/X))×100・・・(4)
なお、熱固定処理とは、上記式(4)において回転速度Xと回転速度Yとが等しく、緩和率が0%の条件で加熱処理することを意味する。また、熱固定処理とは、1.0倍の延伸倍率にて延伸マルチフィラメントを加熱することでもある。
<フッ化ビニリデン系樹脂の延伸マルチフィラメント>
本実施形態に係るPVDFの未延伸マルチフィラメントを延伸することにより得られる、延伸マルチフィラメントも本発明の範疇である。
本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントは、インヘレント粘度が0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内のPVDFを用いることにより、45dtex以下であり、平均複屈折率が30×10−3以下であり、引張伸度が175%以上に調整された未延伸マルチフィラメントを延伸することにより製造される。
すなわち、本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントの平均複屈折率は、45×10−3以上であり、より好ましくは、50×10−3以上であり、最も好ましくは、55×10−3以上である。
また、本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントは、引張伸度は60%以下であり、より好ましくは、50%以下であり、最も好ましくは、40%以下である。
また、本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントは、引張強度が3.1cN/dtex以上であり、より好ましくは3.5cN/dtex以上である。
また、本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントは、1本辺りの繊維直径(糸径)が5μm以上、80μm未満であり、より好ましくは10μm以上、60μm未満であり、最も好ましくは12μm以上、40μm未満である。
このように、本実施形態に係る延伸マルチフィラメントは、引張強度が3.1cN/dtex以上であり、引張伸度は60%以下であるため、機械的な強度が高い。また、1本辺りの繊維直径(糸径)が5μm以上、80μm未満と細いため柔軟性が付与できる。
また、本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントは、平均複屈折率が、45×10−3以上であり、β晶の割合が、60%以上である。このため、本実施形態に係るPVDFの延伸マルチフィラメントは、分極処理することによりピエゾ化し、機械的な強度が高い、圧電体として好適に用いることができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
<未延伸マルチフィラメントの製造及び評価>
実施例1〜3、及び比較例1〜4として、PVDFの未延伸マルチフィラメントを製造し、各未延伸マルチフィラメントにおける、単糸繊度、糸径、平均複屈折率、引張伸度及び紡糸性を評価した。なお、各PVDFの未延伸マルチフィラメントの製造は、図1に概略を示す、紡糸装置(FIBER EXTRUSION TECHNOLOGY Inc 以下FET社製)を用いて行なった。
〔未延伸マルチフィラメントの製造〕
(実施例1)
実施例1において、ペレット状のPVDF(株式会社クレハ製:MFR=72.7g/10分(250℃,10kgf)、融点173℃、インヘレント粘度0.85dL/g)を用いた。
PVDFを紡糸装置のホッパー1から一軸押出機2(シリンダー径φ25mm)に投入し、220〜270℃に加熱して溶融させた。なお、PVDFの溶融時において、一軸押出機2におけるシリンダーの温度は220〜260℃に設定し、ヘッド3、ギアポンプ4及びノズル(紡糸口金)5に設けられたスピンパックの温度は265〜270℃に設定した。
実施例1について、一軸押出機2のギアポンプ4を用いて、ノズル5(24穴、孔径0.40mm)から溶融したPVDFを1穴辺り0.296g/分の速度(吐出せん断速度:586sec−1)で吐出させた(吐出工程)。続いて、加熱マントル6に、ノズル5から吐出されたPVDFを通過させ(保温段階:温度β=180℃、有効加熱マントル長380mm)、当該PVDFを空冷することで糸状に固化させた(冷却段階)。連続的に、オイルリング7に糸状に固化したPVDFを通過させることで当該PVDFに繊維用油剤SM7036(東レ・ダウコーニング株式会社製)を塗布し、ドラフト率170.7の条件で第1引き取りローラに引き取り(紡糸工程)、長さ5000mのPVDFの未延伸マルチフィラメントaをボビンに巻き取った。
(実施例2)
ドラフト率を113.8に変更した以外は、実施例1と同じ条件で、実施例2のPVDFの未延伸マルチフィラメントbを製造してボビンに巻き取った。
(実施例3)
ドラフト率を56.9に変更した以外は実施例1と同じ条件で、実施例3の未延伸マルチフィラメントcを製造してボビンに巻き取った。
(実施例4)
スピンパックの温度を275℃、ノズル5の孔径を2.00mmとし、ドラフト率を1304、吐出せん断速度を21sec−1 とし、加熱マントル6における温度βを100℃に設定し、有効加熱マントル長を180mmに変更したした以外は、実施例1と同じ条件で、実施例4の未延伸マルチフィラメントdを製造してボビンに巻き取った。
(実施例5)
ノズル5の孔径を0.30mmとし、ドラフト率を32、吐出せん断速度を1389sec−1 とし、さらに加熱マントル6における温度βを180℃に設定し、有効加熱マントル長を180mmに変更したした以外は、実施例1と同じ条件で、実施例5の未延伸マルチフィラメントeを製造してボビンに巻き取った。
(比較例1〜4)
一軸押出機2の加熱マントル6を取り外し、ドラフト率を35.6に変更した以外は、実施例1と同じ条件で、比較例1のPVDFの未延伸マルチフィラメントfを製造した。
ドラフト率を82.3に変更した以外は、比較例1と同じ条件で、比較例2のPVDFの未延伸マルチフィラメントgを製造した。また、ドラフト率を113.8に変更した以外は、比較例1と同じ条件で、比較例3のPVDFの未延伸マルチフィラメントhを製造した。また、ドラフト率を40.5に変更し、吐出せん断速度を989sec−1に変更した以外は、比較例1と同じ条件で、比較例4のPVDFの未延伸マルチフィラメントiを製造した。
実施例1〜5、及び比較例1〜4のPVDFの製造条件を以下の表1に示す。
Figure 2016176155
〔未延伸マルチフィラメントの評価〕
上記の実施例1〜5、及び比較例1〜4のPVDFの未延伸マルチフィラメントについて、以下に示す評価を行なった。
(単糸繊度)
単糸繊度は、長さ100mにおけるPVDFの未延伸マルチフィラメントの重量を測定し、下記の式(4)により算出した。
単糸繊度(dtex)=M×100/H ・・・(4)
M:未延伸マルチフィラメントの重量(g)、H:ノズルの孔数(本)
(糸径)
長さ1mのPVDFの未延伸マルチフィラメントの単糸を、マイクロメーターで20点測定し、平均値を求めた。
(平均複屈折率)
PVDFの未延伸マルチフィラメントを、カッターを用いて斜めに切断し、当該PVDFの未延伸マルチフィラメントの切断面に数滴の浸漬液(Immersion Oil:n=1.516(23℃))を滴下することによって、試料を作製した。平均複屈折率(Δn)は、オリンパス株式会社製の偏光顕微鏡及びBerek Compensatorを用いて、レターデーションを測定することにより求めた。
(引張伸度)
PVDFの未延伸マルチフィラメントを試長100mmとし、引張試験機テンシロン(株式会社オリエンテック社製)を用いて、クロスヘッド速度300mm/分の条件で測定した。
(紡糸性)
PVDFを連続的に紡糸し、第1引き取りローラ8に引き取られるまでに、ノズル5から吐出されたPVDFにおいて生じた糸切れの回数を計数し、以下の基準A〜Cに基づき、紡糸性として評価した。
A:60分間の紡糸において糸切れなし。
B:60分間の紡糸において部分的なものを含め、糸切れした回数が5回未満である。
C:60分間の紡糸において部分的なものを含め、糸切れした回数が5回以上である。
なお、評価Aであれば、PVDFの未延伸糸を安定に製造できると判断される。また、評価Bでは、PVDFの未延伸マルチフィラメントの安定した製造に問題があると判断され、評価Cでは、PVDFの未延伸マルチフィラメントの安定した製造に非常に問題があると判断される。
実施例1〜5、及び比較例1〜4のPVDFの評価結果を以下の表2に示す。
Figure 2016176155
表2に示すように、実施例1〜5の未延伸マルチフィラメントは、単糸繊度が45dtex以下の値を示し、平均屈折率が30×10−3以下の値を示し、引張伸度が175%以上の値を示した。
これに対して、比較例1の未延伸マルチフィラメントfは、引張伸度は実施例1〜5に近い328%であったが、単糸繊度が46.7dtexと高い値を示した。同様に、比較例4の未延伸マルチフィラメントiは、引張伸度が298%であったが、単糸繊度が76.5dtexと高い値を示した。また、比較例2の未延伸マルチフィラメントgは、単糸繊度が、19.1dtexと低い値を示したが、引張伸度が171%と低い値を示した。
結果として、実施例1〜5の未延伸マルチフィラメントは、比較例1、2及び4の未延伸マルチフィラメントと比較して、単糸繊度が低いながらも、引張伸度が高い値を示していることを確認できた。また、実施例1〜5の未延伸マルチフィラメントでは、単糸繊度が低いながらも、平均複屈折率も低い値をとることを確認できた。
さらに、紡糸工程においてPVDFを保温した実施例1及び2の未延伸マルチフィラメントa及びbでは、ドラフト率が113.8〜170.7という高い条件において製造されているが、糸切れが認められなかった。ならびに実施例4の未延伸マルチフィラメントdは、ドラフト率が1304という高い条件において製造されているが、糸切れは認められなかった。また、実施例3及び5の未延伸マルチフィラメントc及びeも、糸切れの発生を防止できていることを確認できた。
これに対して、比較例1、2及び4の未延伸マルチフィラメントは、紡糸性の評価がBであり、PVDFの未延伸マルチフィラメントの安定した製造に問題があると判断される。また、比較例3の未延伸マルチフィラメントfは、紡糸性の評価がCであり、糸切れが多発したため、単糸繊度等の評価を行なうための試料の作製を行なうことができなかった。
これらの結果から、紡糸工程においてPVDFを保温することによって、未延伸マルチフィラメントが糸切れすることを好適に防止できることを確認できた。また、紡糸工程においてPVDFを保温することによって、より高いドラフト率でPVDFの未延伸マルチフィラメントを製造が可能となる。またPVDFを保温することで未延伸マルチフィラメントの配向を抑制でき平均複屈折率の上昇や引張伸度の低下を制御することができることを確認することができた。
<延伸マルチフィラメントの製造及び評価>
実施例2及び3、並びに比較例1において得られた未延伸マルチフィラメントを用いて、実施例10〜16、比較例10及び11の延伸マルチフィラメントを製造し、単糸繊度、糸径、平均複屈折率、引張強度、引張伸度及びβ晶率を評価した。なお、各PVDFの延伸マルチフィラメントの製造は、図1に概略を示す、紡糸装置(FET社製)を用いて、直延伸法により行なった。
〔延伸マルチフィラメントの製造〕
(実施例10〜16)
実施例10〜12として、実施例2の未延伸マルチフィラメントbを用い、直延伸法により、1段延伸を行なうことにより、延伸マルチフィラメントを製造した(延伸工程)。実施例10〜12において未延伸マルチフィラメントbを延伸したときの延伸温度及び延伸倍率は、以下の表3に示す通りである。
実施例13及び14として、実施例2の未延伸マルチフィラメントbを用い、直延伸法により、1段延伸を行ない(延伸工程)、2段延伸に代えて、加熱しつつ所定の緩和率で緩和させることにより(熱処理工程)、延伸マルチフィラメントを製造した。実施例13及び14において、未延伸マルチフィラメントbを延伸したときの延伸工程における延伸温度及び延伸倍率は、以下の表3に示す通りである。
実施例15及び16として、実施例3の未延伸マルチフィラメントcを用い、直延伸法により、1段延伸を行なうことにより、延伸マルチフィラメントを製造した。実施例15及び16において、未延伸マルチフィラメントcを延伸したときの延伸温度及び延伸倍率は、以下の表3に示す通りである。
(比較例10及び11)
比較例10として、比較例1の未延伸マルチフィラメントfを用い、直延伸法により、2段延伸を行なうことにより、延伸マルチフィラメントを製造し、比較例11として、比較例4の未延伸マルチフィラメントiを用い、直延伸法により、2段延伸を行なうことにより、延伸マルチフィラメントを製造した。比較例10及び11において未延伸マルチフィラメントを延伸したときの延伸温度及び延伸倍率は、以下の表3に示す通りである。
Figure 2016176155
〔延伸マルチフィラメントの評価〕
実施例10〜16、及び比較例10及び11の延伸マルチフィラメントについて、単糸繊度、糸径、平均屈折率、引張強度、引張伸度、及びβ晶率を評価した。なお、単糸繊度、糸径、及び、平均屈折率は、未延伸糸の評価と同じ条件で、評価し、β晶率及び引張強度は以下に示す条件により評価した。
(β晶率)
FT−IR(Horiba社製)を用い、ATR法(プリズムGe、積算回数25回、測定範囲400〜4000cm−1)によって、PVDFのα晶に由来する767cm−1における吸光度(Aα)と、PVDFのβ晶に由来する840cm−1における吸光度(Aβ)を求め、下記の式によりβ晶率(F(β))を算出した。
F(β)=Aβ/(1.3Aα+Aβ)
(引張強度)
PVDFの延伸糸を試長300mmとし、引張強度は、引張試験機テンシロン(株式会社オリエンテック社製)を用いて、クロスヘッド速度が300mm/分の条件で測定し、試料ごとに同一条件における破断値(最大値)を5回測定し、その平均値を採用した。同時に引張伸度の測定も行なった。
以下の表4に、実施例10〜16、比較例10及び11の評価結果を示す。
Figure 2016176155
表4に示すように、実施例10〜16の延伸マルチフィラメントは、比較例10の延伸マルチフィラメントよりも、単糸繊度が低く、引張強度は高い。このような、実施例10〜16の延伸マルチフィラメントの特性は、実施例2及び3における未延伸マルチフィラメントb及びcにおける平均複屈折率が低く、かつ、引張伸度が高いという特性から得られるものであると判断される。一方、平均複屈折率や引張伸度が実施例1〜3の未延伸マルチフィラメントa〜cに近い比較例1の未延伸マルチフィラメントfは単糸繊度46.7dtexと高いため、延伸に十分な変形エネルギーが伝わりにくく延伸性が低下し、延伸マルチフィラメントの機械的な強度を発現できないと考えられる。それにより単糸繊度が低い延伸マルチフィラメントを得ることもまた困難であると判断される。また、比較例2の未延伸マルチフィラメントgは、単糸繊度が19.1dtexと低い値を示しているが、平均複屈折率30.3×10−3と高く、引張伸度171%と低い値を示しているため、配向が進んでしまった未延伸マルチフィラメントを延伸しても、延伸マルチフィラメントの機械的な強度を発現しつつ、単糸繊度が低い延伸マルチフィラメントを得ることは困難であると判断される。なお、比較例11として、未延伸マルチフィラメントiを用いて延伸フィラメントの製造を試みたが、紡糸することができなかった。
また、熱処理工程を行なった実施例13及び14の延伸マルチフィラメントは、熱処理工程を行なっていない実施例11の延伸マルチフィラメントよりも、引張強度、及び、引張伸度が高い値を示している。また、より高い緩和率にて熱処理工程を行なった実施例14の延伸マルチフィラメントの方が、実施例13の延伸マルチフィラメントよりもより、引張強度、及び、引張伸度が高い値を示している。このことから、熱処理工程を行なうことにより、延伸マルチフィラメントの引張特性を向上させることができると判断される。
また、実施例10〜16の延伸マルチフィラメントは、いずれにおいても、β晶率が60%以上の高い値を示している。従って、本発明の一実施形態に係る未延伸マルチフィラメントを用いれば、単糸繊度が低い値を示しながらも、引張強度が高く、β晶率が高い、延伸マルチフィラメントを製造することができる。
本発明は、織布、ニット、紐、カットファイバ、紙及び不織布などの様々な形態で使用され、漁網、中空糸膜の補強糸、ロープ及び衣料などの様々な産業資材、医療基材、発色繊維、及び圧電体としてセンサーデバイスに利用することができる。
5 ノズル(紡糸口金)
20 未延伸マルチフィラメント(未延伸糸)
21 延伸マルチフィラメント(延伸糸)
22 延伸マルチフィラメント(延伸糸)
23 延伸マルチフィラメント(延伸糸)

Claims (15)

  1. フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸であって、
    上記フッ化ビニリデン系樹脂は、インヘレント粘度が0.60dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲内であり、
    上記未延伸糸は、単糸繊度が45dtex以下であり、平均複屈折率が30×10−3以下であり、引張伸度が175%以上であることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸。
  2. 上記フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸。
  3. 上記フッ化ビニリデン系樹脂は、モノマー100モル%あたり、フッ化ビニリデンモノマーを90モル%以上含む共重合体であり、
    共重合される他のモノマーが、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、及び、クロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸。
  4. 請求項1〜3の何れか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を製造する方法であって、
    溶融した上記フッ化ビニリデン系樹脂を紡糸口金から繊維状にして吐出する吐出工程と、
    上記繊維状にしたフッ化ビニリデン系樹脂を未延伸糸に紡糸する紡糸工程とを包含し、
    上記紡糸工程では、上記フッ化ビニリデン系樹脂を、5.0×10−3秒以上、下記式(1)
    Tm−80℃≦β≦Tm+150℃・・・(1)
    (ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
    で表される温度βに保温する保温段階と、上記保温されたフッ化ビニリデン系樹脂を冷却する冷却段階とを行ないながら、上記フッ化ビニリデン系樹脂を紡糸することを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸の製造方法。
  5. 上記吐出工程では、上記フッ化ビニリデン系樹脂を、40sec−1以上、4000sec−1以下の範囲内の吐出せん断速度で吐出し、
    上記紡糸工程では、20以上、2000以下のドラフト率で上記フッ化ビニリデン系樹脂を紡糸することを特徴とする請求項4に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸の製造方法。
  6. 請求項4又は5に記載の製造方法を行なうことによって、フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を製造する、未延伸糸製造工程と、
    上記未延伸糸製造工程後、上記フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を延伸する延伸工程と、を包含し、
    上記延伸工程では、上記フッ化ビニリデン系樹脂の未延伸糸を下記式(2)
    Tm−100℃≦β≦Tm−3℃・・・(2)
    (ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
    で表される温度βに加熱し、2.0倍以上、7.0倍以下の範囲内の延伸倍率で延伸することを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸の製造方法。
  7. 請求項6に記載の製造方法によって製造されたフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸であって、
    平均複屈折率は45×10−3以上であり、引張伸度は60%以下であることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  8. 1本辺りの繊維直径が5μm以上、80μm未満であることを特徴とする請求項7に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  9. 引張強度が3.1cN/dtex以上であり、引張伸度が50%以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  10. β晶の割合が、60%以上であることを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  11. 上記延伸工程の後、上記フッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸を、下記式(3)
    Tm−50℃≦β≦Tm+30℃・・・(3)
    (ここで、Tmは上記フッ化ビニリデン系樹脂の溶融温度である)
    で表される温度βに加熱し、20%以下の緩和率で緩和するか又は熱固定するかによって熱処理を行なう熱処理工程を包含していることを特徴とする請求項6に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸の製造方法。
  12. 請求項11に記載の製造方法によって製造されたフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸であって、
    平均複屈折率は45×10−3以上であり、引張伸度は60%以下であることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  13. 1本辺りの繊維直径が5μm以上、80μm未満であることを特徴とする請求項12に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  14. 引張強度が3.1cN/dtex以上であり、引張伸度が50%以下であることを特徴とする請求項12又は13に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
  15. β晶の割合が、60%以上であることを特徴とする請求項12〜14の何れか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂の延伸糸。
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