JP2023051860A - ポリエーテルサルホン繊維、繊維パッケージ、不織布およびポリエーテルサルホン繊維の製造方法 - Google Patents

ポリエーテルサルホン繊維、繊維パッケージ、不織布およびポリエーテルサルホン繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶融紡糸法によって熱収縮率が小さく、耐熱性、低線膨張係数、機械的強度、難燃性、耐薬品性および寸法安定性に優れたポリエーテルサルホン繊維およびその製造方法を提供する。【解決手段】下記式(1)で示される繰り返し単位を含むポリエーテルサルホン樹脂からなり、200℃における乾熱収縮率が5%以下である。ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、200℃以上であり、還元粘度は0.30dl/g以上0.47dl/g以下であってもよい。【化1】JPEG2023051860000007.jpg28113【選択図】図1

Description

本発明は、ポリエーテルサルホン繊維、繊維パッケージ、不織布およびポリエーテルサルホン繊維の製造方法に関する。
ポリエーテルサルホン(以下、PESともいう。)は、耐熱性、耐クリープ性、寸法安定性、難燃性、耐熱水性に優れ、自動車用部品、電子部品、プリンターや複写機部品、滅菌が必要な医療機器部品や歯科用備品など、幅広い分野で使用が検討されている。
例えば、特許文献1(特開平7-11134号公報)には、芳香族ポリスルホン樹脂中より(A)成分としてポリエーテルスルホン(B)成分としてポリスルホンを、さらに(C)成分としてポリカーボネート樹脂を使用する組成物であって、該組成物のそれぞれの比率が(A)80~40重量%、(B)1~40重量%、(C)1~40重量%からなる樹脂組成物についての発明が記載されている。
また、特許文献2(特開2020-20053号公報)には、所定の化学式で示される構造の繰り返し単位からなり、平均重量分子量が80000~130000であるポリエーテルスルホンを有機溶剤に溶解し、該ポリエーテルスルホンの濃度が10~30質量%の紡糸原液を、吐出孔から、有機溶剤を含む紡浴中に吐出し、1.05~4倍で湿熱延伸するポリエーテルスルホン繊維の製造方法についての発明が記載されている。
また、特許文献3(特開平3-185025号公報)には、所定の化学式IおよびIIの反復単位からなり、反復単位IおよびIIは約等モルであり、NMP溶媒中、30℃、0.5g/dlの濃度で測定して、0.3以上の還元粘度を有するポリマーを、300℃以上で溶融し、複数個の孔径0.1~2.0mmの紡糸孔を有する紡糸口金より50m/分以上の引取り速度で繊維状に溶融紡糸することを特徴とする芳香族ポリエーテルスルホン繊維の製造方法に関する発明が記載されている。
特許文献4(中国特許出願公開第1763278号明細書)には、ポリエーテルサルフォン繊維およびその製造方法が記載され、そのモノファイバーの細度は0.3~30dtとし、1.5~10dtのその繊維の限界酸素指数が30以上であり、ポリエーテルサルホン樹脂をツインスクリュー押出機で加熱溶融することによって、再び耐高温の紡糸パックを経て溶液細流の形式で流出し、且つ冷却硬化を経て、繊維を形成するポリエーテルサルフォン繊維の製造方法に関する発明が記載されている。
また、特許文献5(中国特許出願公開第103361748号明細書)には、耐高温ポリエーテルサルフォン繊維およびその製造方法が記載され、含水率を50PPMとし、ツインスクリュー押出にて330~380℃で溶融紡糸し、冷却硬化を経て、繊維を形成する耐高温ポリエーテルサルフォン繊維の製造方法に関する発明が記載されている。
特開平7-11134号公報 特開2020-20053号公報 特開平3-185025号公報 中国特許出願公開第1763278号明細書 中国特許出願公開第103361748号明細書
ポリエーテルサルホン樹脂は、耐熱性、寸法安定性、難燃性等の物性に優れるものの、溶融時の粘度が高いために、繊維状に成形することが困難という問題があった。特に、溶融紡糸法によって高速かつ高純度の繊維を得ることが困難であった。
特許文献1では、ポリエーテルサルホンにポリカーボネートを混合して溶融成形することで、成形加工性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献1には繊維の製造についての言及がない。
特許文献2には、ポリエーテルサルホン樹脂の繊維化に関する記載があるが、特許文献2では、溶媒を用いる湿式紡糸または乾式紡糸によりポリエーテルサルホン繊維を製造しているので、繊維の製造において溶媒が必要になり、溶媒の処理が必要であるという問題がある。
特許文献3には、ポリエーテルサルホン樹脂を溶融紡糸で繊維化する方法が記載されている。しかしながら、特許文献3には特定の構造を有する芳香族ポリエーテルサルホン樹脂を用いることによって、溶融紡糸により繊維化できることが記載されている。
この場合、溶媒は不要となるが、特殊な繰り返し単位を含む共重合ポリエーテルサルホンを用いる必要があるため、原料の入手が困難という問題がある。
特許文献4には、ポリエーテルサルホン樹脂を溶融押出しする際の押出機の温度設定を工夫することにより、溶融紡糸した後に、延伸処理を行うことにより、ポリエーテルサルホンモノフィラメントを提供することができることが記載されている。この場合、強い延伸力で延伸処理を行い繊維を得るものであるため、得られた繊維は熱収縮率が高くなり使用できる用途が限定されるという問題がある。
また、特許文献5の耐高温ポリエーテルサルフォン繊維も、原料に変性マスターバッチを用いておりかつ2.3~6倍の延伸処理を行っている。したがって、原料が特殊であり、かつ熱収縮率が高く寸法安定性に問題があった。
産業資材の分野では、特に耐熱性および寸法安定性が求められることが多い。耐熱性および寸法安定性を両立するにあたっては、乾熱収縮率を低くすることが重要となるが、特許文献4または5に記載の方法で得られたポリエーテルサルフォン繊維では熱収縮率が大きくなる問題があるが、いずれの文献も乾熱収縮率について言及されていない。
また、ポリエーテルサルホン樹脂は非晶性の熱可塑性樹脂であるため、溶融粘度が高く、メルトフラクチャ(繊維表面の荒れ)が発生しやすいので、安定してポリエーテルサルホン繊維を生産することが困難であった。また、仮に生産できたとしても、繊維の品質または物性が十分でないため、繊維の加工など後工程での工程通過性が悪いという問題があった。
本発明は、上記のような問題点を解決し、溶融紡糸法によって、熱収縮率が小さく、耐熱性、低線膨張係数、機械的強度、難燃性、耐薬品性および寸法安定性に優れたポリエーテルサルホン繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、単純な構造のポリエーテルサルホン樹脂を用いて溶融紡糸可能であり、環境およびコストの観点で優れ、かつ純度の高いポリエーテルサルホン繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明のさらに他の目的は、高い強度を有し、強度ばらつきが少なく、かつ引張伸度に優れたポリエーテルサルホン繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明のさらに他の目的は、寸法安定性に優れ、後工程通過性が良好で加工性に優れたポリエーテルサルホン繊維を提供することを目的とする。
(1)
一局面に従うポリエーテルサルホン繊維は、下記式(1)で示される繰り返し単位を含むポリエーテルサルホン樹脂からなり、200℃における乾熱収縮率が5%以下である。
Figure 2023051860000002
本発明によれば、耐熱性、低線膨張係数、機械的強度、難燃性、耐薬品性および寸法安定性に優れたポリエーテルサルホンを用いて繊維化することができ、特に溶融紡糸法を用いた場合でも繊維を延伸しなくてよいので、熱収縮が殆ど発生しないポリエーテルサルホン繊維を得ることができる。
すなわち、従来のPES繊維で熱収縮が発生していた理由は、PES樹脂が非晶性樹脂であって成形加工性が難しく、繊維が延伸されることによって分子が伸びた状態となり、これにより、100℃を超えるような高温環境ではエントロピー収縮が発生して繊維が収縮していたためと考えられる。一方で、本発明のPES繊維は、非延伸のPES繊維であるため、乾熱収縮率を極めて低く抑えることができ、これにより、高温環境下にあっても寸法安定性に優れ、かつ高い強度を維持しつつ強度ばらつきの少ない繊維とすることができる。また、寸法安定性に優れ、引張伸度にも優れるので、後工程通過性が良好で繊維としての加工性にも優れるので、高機能の繊維製品として使用可能な繊維とすることができる。
さらに、単純な構造のポリエーテルサルホン樹脂を用いて紡糸可能であり、溶媒の回収等が不要な溶融紡糸法で比較的低温で繊維化することができるため、特殊な紡糸装置を必要とせず、環境およびコストの観点で優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。また、紡糸において溶媒を用いないので、不純物の含有量を著しく低減することができ、高性能の繊維とすることができる。
なお、本発明における、ポリエーテルサルホン樹脂からなるポリエーテルサルホン繊維とは、物性を阻害しない程度の添加物または混合物を含んでいてもよい。
(2)
第2の発明に係るポリエーテルサルホン繊維は、一局面に従うポリエーテルサルホン繊維において、ポリエーテルサルホン樹脂は、式(1)で示される繰り返し単位を95モル%以上含んでもよい。さらに好ましくは、ポリエーテルサルホン樹脂は、式(1)で示される繰り返し単位を98モル%以上含み、最も好ましくは100モル%含む。
これにより、構造が単純であり、入手が容易なポリエーテルサルホン樹脂とすることができるため、特殊な紡糸装置を必要とせず、環境およびコストの観点で、より優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。
(3)
第3の発明に係るポリエーテルサルホン繊維は、一局面または第2の発明に係るポリエーテルサルホン繊維であって、ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)は200℃以上であり、還元粘度は0.30dl/g以上0.47dl/g以下であってもよい。
これにより、紡糸後の繊維の巻き付け性に優れ、後加工性に優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。
(4)
第4の発明に係るポリエーテルサルホン繊維は、一局面から第3のいずれかの発明に係るポリエーテルサルホン繊維であって、以下の物性(A)、(B)および(C)からなる群から選択される少なくとも1つの物性を有してもよい。
物性(A):前記ポリエーテルサルホン繊維の破断強度が0.6cN/dtex以上
物性(B):前記ポリエーテルサルホン繊維の破断強度ばらつきが±0.3cN/dtex以内
物性(C):前記ポリエーテルサルホン繊維の伸度が10%以上200%未満。
これにより、さらに高強度であり、かつ、強度均一性に優れ、寸法安定性、熱安定性等の特性にも優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。また、引張伸度もより優れるので、繊維としての加工性にもより優れ、高機能の繊維製品として使用しやすいポリエーテルサルホン繊維とすることができる。
(5)
第5の発明に係るポリエーテルサルホン繊維は、第4の発明に係るポリエーテルサルホン繊維であって、物性(A)において、ポリエーテルサルホン繊維の破断強度は1.0cN/dtex以上であってもよい。
これにより、さらに高強度であり、かつ寸法安定性、熱安定性等の特性にも優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。また、高強度であっても引張伸度に優れて、強度のばらつきも殆どないので、後加工性に優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。例えば、不織布に加工する場合にもフィラメントカットなどの工程を容易に行うことができる。
(6)
第6の発明に係る繊維パッケージは、一局面から第5のいずれかの発明に係るポリエーテルサルホン繊維が管に巻き付けられてもよい。
これにより、ポリエーテルサルホン繊維の取扱いが容易となり、繊維製品としての加工性に優れる。
(7)
第7の発明に係る不織布は、一局面から第5のいずれかの発明に係るポリエーテルサルホン繊維を含んでもよい。
これにより、耐熱性、寸法安定性、低乾熱収縮率、強度に優れた高機能かつ低コストの不織布を得ることができる。
(8)
他の局面に従うポリエーテルサルホン繊維の製造方法は、ポリエーテルサルホン樹脂を乾燥して乾燥ポリエーテルサルホン樹脂を得る乾燥工程、乾燥ポリエーテルサルホン樹脂を加熱溶融して溶融物を得る溶融工程、溶融物を口金より吐出し、紡糸を形成する紡糸工程、紡糸を集束してフィラメントを得る集束工程、およびフィラメントを巻取る巻取工程、を含むポリエーテルサルホン繊維の製造方法であって、以下の条件を満足するものである。
条件(a):前記乾燥ポリエーテルサルホン樹脂の水分率が50ppm未満
条件(b):吐出の線速度が5.0m/min以上50.0m/min以下
条件(c):紡糸時のせん断速度が300s-1以上90,000s-1以下
条件(d):紡糸温度が340℃以上410℃以下
条件(e):巻取速度が550m/分以上
本発明によれば、耐熱性、低線膨張係数、機械的強度、難燃性、耐薬品性および寸法安定性に優れたポリエーテルサルホン樹脂を用いて繊維化することができ、特に溶融紡糸法を用いた場合でも繊維を延伸しなくてよいので、熱収縮が殆ど発生しないポリエーテルサルホン繊維を得ることができる。
すなわち、従来のPES繊維で熱収縮が発生していた理由は、PES樹脂が非晶性樹脂であって成形加工性が難しく、繊維が延伸されることによって分子が伸びた状態となり、これにより、100℃を超えるような高温環境ではエントロピー収縮が発生して繊維が収縮していたためと考えられる。一方で、本発明の製造方法では、後工程として、集束されたフィラメントを加熱延伸する延伸工程を行わない点に特徴がある。これにより、乾熱収縮率を極めて低く抑えることができ、したがって、高温環境下にあっても寸法安定性に優れ、かつ高い強度を維持しつつ強度ばらつきの少ない繊維とすることができる。また、寸法安定性に優れ、引張伸度にも優れるので、後工程通過性が良好で繊維としての加工性にも優れるので、高機能の繊維製品として使用可能な繊維とすることができる。
さらに、溶媒の回収等が不要な溶融紡糸法で比較的低温で繊維化することができるため、特殊な紡糸装置を必要とせず、環境およびコストの観点で優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。また、紡糸において溶媒を用いないので、不純物の含有量を著しく低減することができ、高性能の繊維とすることができる。
(9)
第9の発明に係るポリエーテルサルホン繊維の製造方法は、第8の発明に係るポリエーテルサルホン繊維の製造方法であって、ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)が200℃以上であり、還元粘度が0.30dl/g以上0.47dl/g以下であってもよい。
これにより、糸切れが発生しにくく、かつ濾過圧が高くなり過ぎないため、紡糸性に優れて繊維の巻取を確実に行うことができる。
(10)
第10の発明に係るポリエーテルサルホン繊維の製造方法は、第8または9の発明に係るポリエーテルサルホン繊維の製造方法であって、条件(d)において、紡糸温度は340℃以上385℃以下であってもよい。
これにより、さらに高強度であり、かつ寸法安定性、熱安定性等の特性にも優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。また、高強度であっても引張伸度に優れて、強度のばらつきも殆どないので、後加工性に優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。例えば、不織布に加工する場合にもフィラメントカットなどの工程を容易に行うことができる。
ポリエーテルサルホン樹脂を溶融押出し、溶融紡糸してポリエーテルサルホン繊維を製造する方法の一例を示す概略説明図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、特定の化学構造を有するポリエーテルサルホン樹脂を原料とし、溶融紡糸の条件を適切に選択することにより、製造工程において延伸することなく繊維化が可能となる。その結果、熱収縮率が非常に小さく、かつ、耐熱性、低線膨張係数、機械的強度、難燃性、耐薬品性、寸法安定性に優れたポリエーテルサルホン繊維とすることができる。
特に、PES樹脂は非晶性樹脂であるため、溶融したときの粘度が高く、かつメルトフラクチャ(繊維表面の荒れ)が発生しやすいため、成形加工性が悪い。そのため、従来では溶融紡糸法によってPES樹脂からPES繊維を製造することは困難であった。すなわち、溶融紡糸法によってPES樹脂を繊維化した場合は、安定した製造が困難であり、また得られた繊維は熱収縮率が高く寸法安定性が悪いという問題があった。これは、紡糸後の延伸処理によって繊維の分子が伸び、PES繊維を100℃を超えるような高温環境下に晒すと、エントロピー収縮が発生して繊維が熱収縮していたためと考えられる。
本発明のPES繊維は、非延伸のPES繊維であるため、乾熱収縮率を極めて低く抑えることができる。これにより、高温環境下にあっても寸法安定性に優れ、かつ高い強度を維持しつつ強度ばらつきの少ない繊維とすることができる。また、引張伸度にも優れるので、後工程通過性が良好で繊維としての加工性にも優れ、高機能の繊維製品として使用可能な繊維とすることができる。
また、本発明のPES繊維は、単純な構造のポリエーテルサルホン樹脂を用いて紡糸可能であり、溶媒の回収等が不要な溶融紡糸法で繊維化することができるため、特殊な紡糸装置を必要とせず、環境およびコストの観点でも優れたPES繊維とすることができる。また、紡糸において溶媒を用いないので、不純物の含有量を著しく低減することができ高性能の繊維とすることができる。
[ポリエーテルサルホン樹脂]
本発明に使用するポリエーテルサルホン樹脂は、特定のポリエーテルサルホン構成単位を含み、かつ、所定の特性を満たすものであるため、成形加工性と耐熱性、低熱収縮率性とのバランスが良好である。
本発明のポリエーテルサルホン繊維は、以下のポリエーテルサルホン樹脂からなり、ポリエーテルサルホン樹脂は、主に下記式(1)で示される繰り返し単位を含む。
Figure 2023051860000003
(ポリエーテルサルホン樹脂の構成単位)
式(1)の繰り返し単位について、以下に詳述する。
ポリエーテルサルホン樹脂を構成する全繰り返し単位に対する、式(1)の繰り返し単位の含有モル%は、95モル%以上であることが好ましい。
前記モル%は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは98モル%以上、より好ましくは99モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
ポリエーテルサルホン樹脂の末端構造に特に制限はないが、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。
該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
本発明のポリエーテルサルホン樹脂は、高い耐熱性、強靭な機械特性、耐薬品性、耐加水分解性などの特徴を有する。また、エステルなどの加水分解しやすい結合を持たないため、耐熱水性に優れ、高温スチーム雰囲気中でも使用可能である。また、線膨脹係数が小さく、その温度依存性も小さいため寸法安定性に優れる。
(ポリエーテルサルホン樹脂の条件)
本発明に使用するポリエーテルサルホン樹脂は、下記特性(a)および(b)を満たすことが好ましい。
特性(a):ガラス転移温度(Tg)が200℃以上
特性(b):還元粘度が0.30dl/g以上0.47dl/g以下
ポリエーテルサルホン樹脂は、上記特性(a)および(b)を満たすことで、紡糸加工性と耐熱性とのバランスが良好である。ポリエーテルサルホン樹脂は、成形時にせん断発熱が発生しやすいため、特性(a)および(b)は紡糸条件に影響する。したがって、特性(a)および(b)の両方を満たすポリエーテルサルホン樹脂は、良好な紡糸加工性を有するものともなる。
特性(a)に関して、ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から200℃以上が好ましく、より好ましくは210℃以上、更に好ましくは220℃以上であり、高い紡糸加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)が200℃未満であると耐熱性が低く不十分になる傾向がある。
ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、次の方法によって測定することができる。示差走査熱量測定法(DSC法)を用いて、30℃から予測されるガラス転移温度よりも30℃高い温度以上まで、昇温速度、10℃/分の昇温条件で昇温し、1分間保持した後、20℃/分の降温条件で0℃まで一旦冷却し、1分間保持した後、再度10℃/分の昇温条件で測定した際に観察されるガラス転移温度(Tg)を測定する。
特性(b)に関して、本発明の繊維に用いるポリエーテルサルホン樹脂の還元粘度は、0.30dl/g以上であることが好ましく、0.33dl/g以上であることがより好ましく、0.35dl/g以上であることが最も好ましい。また、0.47dl/g以下であることが好ましく、0.45dl/g以下であることがより好ましく、0.44dl/g以下とすることが最も好ましい。
還元粘度が上限を超えると溶融紡糸の紡糸工程において曳糸性に劣る傾向がある。
本発明における還元粘度は、JIS K7367-1(2002)に記載の方法を参考にして、ウベローデ粘度管を用い、ジメチルホルムアミド(DMF)中、25℃ 、1g/dlの条件で測定して算出する値である。
なお、還元粘度(ηsp/c、単位dl/g)は、下記式に基づき計算し、5回の測定値を平均化した値を使用する。
ηsp/c=(t-t)/t/c (dl/g)
t ; 重合体溶液の粘度計における標線間の通過時間(秒)
; 純溶媒の粘度計の標線間の通過時間(秒)
c ; 重合体溶液の濃度(g/dl)
本発明に使用するポリエーテルサルホン樹脂には、その特性が阻害されない範囲で、艶消剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、および、樹脂改質剤等の任意成分を、必要に応じて配合することができる。
さらにポリエーテルサルホン樹脂は、該ポリエーテルサルホン樹脂が本来有する物性を利用しつつ、所望の性能を付与する観点から、充填剤、難燃剤、着色剤、摺動性改良剤、酸化防止剤、および導電剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤を配合してもよい。
本発明に使用するポリエーテルサルホン樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が200℃以上250℃以下で、還元粘度が0.30dl/g以上0.47dl/g以下として溶融紡糸を行うことが好ましい。これにより、ポリエーテルサルホン繊維を延伸処理することなく容易にかつ安定して製造することができる。溶融紡糸する際の温度は、好ましくは340℃以上410℃以下である。
ポリエーテルサルホン樹脂は、溶融粘度が比較的高いため成形時にせん断発熱が発生しやすく紡糸条件に影響する。したがって、ガラス転移温度および還元粘度が上記範囲にあることによって、紡糸加工性と耐熱性および熱収縮率とのバランスが良好となる。
[ポリエーテルサルホン樹脂の溶融紡糸]
次に、ポリエーテルサルホン樹脂の溶融紡糸方法について説明する。
上記で得られた、ガラス転移温度(Tg)が200℃以上、還元粘度が0.30dl/g以上0.47dl/g以下であるポリエーテルサルホン樹脂を、十分に乾燥して以下の条件(a)の乾燥ポリエーテルサルホン樹脂を得る(乾燥工程)。
その後、乾燥ポリエーテルサルホン樹脂を加熱溶融して溶融物を得る(溶融工程)。
そして、溶融物を口金より吐出し、紡糸を形成する(紡糸工程)。
さらに、口金より吐出成形された紡出糸を集束してフィラメントを得る(集束工程)。
最後に、フィラメントを管に巻取る(巻取工程)。
このように以下の条件(a)~(e)に従い、本発明のポリエーテルサルホン繊維を製造することができる。
条件(a):乾燥ポリエーテルサルホン樹脂の水分率が50ppm未満
条件(b):吐出の線速度が5.0m/min以上50.0m/min以下
条件(c):紡糸時のせん断速度が300s-1以上90,000s-1以下
条件(d):紡糸温度が340℃以上410℃以下
条件(e):巻取速度が550m/分以上
本発明の製造方法では、後工程として、集束されたフィラメントを加熱延伸する延伸工程を実質的に行わない点に特徴がある。
なお、後工程として、集束されたフィラメントを150℃以上300℃以下で加熱し、熱処理工程をさらに行ってもよい。
以下、各工程について詳説する。
(乾燥工程)
上記で得られたポリエーテルサルホン樹脂を真空乾燥機内に貯蔵して100℃以上200℃以下に加温した状態で、10時間以上30時間以下乾燥する。ポリエーテルサルホン樹脂は吸湿性があるため、十分に乾燥を行うことが好ましい。
ポリエーテルサルホン樹脂の水分率は、乾燥工程によって50ppm未満とすることが好ましい。ポリエーテルサルホン樹脂の水分率は、30ppm以下とすることがより好ましく、25ppm以下とすることがさらに好ましい。これにより、紡糸時の気泡の発生を防止することができる。
乾燥ポリエーテルサルホン樹脂の形態は、ペレット状でも粉体状であってもよい。乾燥は、窒素流通下で行ってもよく、またタンブラーなどを用いて流動下乾燥させてもよい。
乾燥ポリエーテルサルホン樹脂の含水率が50ppm未満とすることで、溶融時に水分によるガスの発生を防止し、紡出糸中にボイドが含まれたり、ゲル状の不溶解物が発生して安定した紡糸が行えなくなるなどの問題を好ましく防止することができる。
乾燥工程から紡糸工程までの間は、ポリエーテルサルホン樹脂の水分率が増加しないよう30℃以上の環境を維持することが好ましく、40℃以上の環境を維持することがより好ましい。上限は80℃以下の環境を維持することが好ましい。また、窒素フローさせるとより好ましい。
(紡糸工程)
本発明におけるポリエーテルサルホン樹脂の溶融押出は、溶融紡糸に適するものであればよく、公知の方法を用いればよい。例えば、ポリエーテルサルホン樹脂は、ペレット化され、エクストルーダー型の押出機1によって溶融押出されてよい。
図1に、押出機1からポリエーテルサルホン樹脂を溶融押出し、溶融紡糸してポリエーテルサルホン繊維を製造する方法の一例を示す。
押出機1から押出された溶融樹脂は配管を通り、紡糸ヘッドへ送られ、ギアポンプ2等の公知の計量装置で計量され、紡糸パック3内でフィルターを通過した後、紡糸口金3aに入る。
条件(d)における紡糸温度は、ギアポンプ2から紡糸口金3aまでの溶融樹脂の温度であり、ポリエーテルサルホン樹脂が340℃以上410℃以下であることが好ましい。紡糸温度が下限より低いと濾過圧上昇またはエクストルーダーへの過負荷の問題が生じ、上限を超えると熱分解の影響により繊維の品質が劣化する可能性がある。本発明におけるさらに好適な紡糸温度は340℃以上390℃以下であり、345℃以上375℃以下が最も好ましい。
ポリエーテルサルホン樹脂は溶融粘度が高いため、せん断発熱によりシリンダ温度設定値に比べ樹脂温度が高くなる傾向がある。したがって、樹脂温度を確認しながら成形を行うことが好ましい。溶融粘度が上限を超えると溶融紡糸時の曳糸性が悪くなり、溶融粘度が下限を超えると安定した紡出が困難となる。
条件(c)における紡糸口金孔内のせん断速度γは、300s-1以上90,000s-1以下とすることが好ましく、340s-1以上60,000s-1以下とすることがより好ましく、5,000s-1以上60,000s-1以下とすることがさらに好ましい。
せん断速度γは、次式により求める。
γ=4Q/πr
(但し、rは紡糸口金孔の半径(cm)、Qは単孔当たりのポリマー吐出量(cm/sec))
せん断速度γが上記範囲であると、繊維の配向が十分となり、細繊度の繊維が得られやすく、目的の物性が得られやすい傾向にある。
また、ポリエーテルサルホン樹脂の滞留時間を短く設定することが好ましい。滞留時間が長くなると熱分解の影響により溶融粘度が上昇したり気泡が発生して繊維の品質が劣化したり糸切れが生じたりする場合がある。
紡糸口金3aの孔径D(直径)は、0.09mm以上0.70mm以下が好ましく、0.12mm以上0.45mm以下がより好ましい。
また、紡糸口金3aの直下には、ヒーターおよび保温筒を設置することで、吐出された繊維の径を安定化させると共に、外気によって紡糸口金表面温度および紡糸口金下の雰囲気温度の変化を抑えられ、ドラフトによる細化が均一になり、糸切れや毛羽発生等がない安定した紡糸とすることができる。
条件(b)における紡糸口金3aにおける紡糸繊維の吐出の線速度は、5.0m/min以上50.0m/min以下とすることが好ましく、10.0m/min以上40.0m/min以下とすることがより好ましい。
条件(c)における紡糸口金孔内のせん断速度は、300s-1以上90,000s-1以下とすることが好ましく、340s-1以上60,000s-1以下とすることがより好ましく、5,000s-1以上60,000s-1以下とすることがさらに好ましい。
そして、条件(e)における巻取速度(紡糸速度)は、550m/min以上であることが好ましく、600m/min以上とすることがより好ましく、650m/min以上とすることがさらに好ましい。この場合、巻取速度の上限値は5,000m/min以下が好ましく、4,000m/min以下であることがより好ましい。
また、線速度に対する巻取速度の比は、40倍以上1,600倍以下とすることが好ましい。
これにより、溶融紡糸法によって高品質のポリエーテルサルホン繊維を製造することがきる。
集束工程、巻取工程、および後工程の加熱について、さらに具体的に説明する。
(集束工程)
紡糸口金3aより吐出成形された紡出糸は、油剤付与装置で所定の油剤が塗布され、1本のフィラメントに集束される。
本発明のポリエーテルサルホン繊維はフィラメントであるが、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。マルチフィラメントの場合、その単糸数は6以上とすることが好ましい。単糸数が6未満であるとマルチフィラメント自体の強度が弱くなり、工程通過性よく巻き取りを行うことが困難となり、糸切れ等を生じやすく、生産性が低下する可能性がある。
また、各単糸の断面形状は特に限定するものではなく、丸断面のもののみならず、目的や用途に応じて異形断面としてもよい。
(巻取工程)
集束工程を経てフィラメントとなったポリエーテルサルホン繊維は、その後、第一ゴデットロール4および第二ゴデットロール5で引き取られ、巻取りボビン6に巻き取られる。巻取速度は550m/min以上であることが好ましい。600m/min以上とすることがより好ましく、650m/min以上とすることがさらに好ましい。巻取速度の上限としては、5,000m/min以下であることが好ましく、4,000m/min以下であることがより好ましい。
第二ゴデットロール5と巻取りボビン6との間で測定される紡糸巻取り張力は4.7cN以上47cN以下が好ましい。張力が4.7cN未満になると、繊維が弛むことにより第二ゴデットロール5に糸が巻きついたり、巻取りボビン6の形状不良を起こしたりする場合がある。なお、本発明において紡糸巻取り張力は、巻取りボビン6で巻き取られる際にかかる張力について測定したものを示したものである。
(後工程:加熱処理)
上述のようにして得られたポリエーテルサルホン繊維は、一定時間加熱処理をしてもよい。この加熱処理は、窒素ガスなどの不活性雰囲気下において行ってもよい。
上述のように、本発明のポリエーテルサルホン繊維は、紡糸後の工程として延伸処理(延伸工程)を含まない。非延伸性のPES繊維とすることで、100℃を超えるような高温環境でもエントロピー収縮が発生せず、繊維の収縮を好ましく防止することができる。特に、ポリエーテルサルホン樹脂は、非晶性の熱可塑性樹脂であるため、延伸または熱処理を行っても配向結晶が起こらない反面、延伸処理を施すと乾熱収縮率が高くなり、寸法安定性が悪くなる。
なお、ここでいう延伸処理とは、繊維を1.2倍以上の長さに延伸加工することをいい、上述の巻取などの工程で繊維に適宜張力を与える操作は延伸工程にはあたらない。
(ポリエーテルサルホン繊維の物性)
上述のようにして得られたポリエーテルサルホン繊維は、上記のせん断速度γ、孔径D、巻取速度比などを調整することによって、以下の物性とすることが好ましい。
すなわち、溶融紡糸して得られるポリエーテルサルホン繊維の繊度は、総繊度として、30dtex以上であることが好ましく、50dtex以上がより好ましい。単糸繊度として、1dtex以上12dtex程度が好ましい。
また、ポリエーテルサルホン繊維の形態は、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合は、フィラメント数は6フィラメント以上が好ましい。
また、ポリエーテルサルホン繊維の破断強度は、1.0cN/dtex以上であることが好ましく、1.2cN/dtex以上がより好ましく、1.5cN/dtex以上がさらに好ましい。
さらに、ポリエーテルサルホン繊維の破断強度のばらつきは、±0.3cN/dtex未満であることが好ましく、±0.2cN/dtex以内とすることがより好ましい。
また、ポリエーテルサルホン繊維の破断伸度は、10%以上200%以下であることが好ましく、20%以上180%以下がより好ましく、30%以上170%以下がさらに好ましい。
これによって、高強度であり、かつ、寸法安定性、熱安定性等の特性にも優れたポリエーテルサルホン繊維にすることができる。
そして、本発明のポリエーテルサルホン繊維の200℃における乾熱収縮率は5%以下であり、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。
乾熱収縮率が5%以下であると、さまざまな産業用資材に供することができる。特に、高温環境下にあっても寸法安定性に優れるので、精密な部品等または過酷な環境で作られまたは使用される製品等にも使用することができる。
例えば、繊維を熱融着して不織布形態で固定する熱接着性複合繊維として用いる場合、熱接着性複合繊維は複合樹脂成分の特性差から、熱処理工程において大きな熱収縮が発生して繊維が緻密になった部位が硬くなるという問題がある。乾熱収縮率を上記上限値以下とすることによって、不織布が収縮し硬化することを防止し、また寸法安定性が向上し、高品位な不織布を得ることができる。
また、ポリエーテルサルホン繊維を構成する樹脂の還元粘度は、0.30dl/g以上であることが好ましい。これにより、加工性が良好になり、糸切れ等が発生せず品質の良い繊維を得ることができる。
[ポリエーテルサルホン繊維の用途]
本発明のポリエーテルサルホン繊維の用途としては、不織布、フィルター、ロープ等が挙げられる。例えば、長繊維として用い、あるいは製編織して布帛としたり、短繊維として不織布としてもよく、耐熱衣、断熱材、耐熱フィルター、絶縁紙料などの素材として有用である。また、電気特性に優れ電子基板として用いることができる。
本発明のポリエーテルサルホン繊維は、寸法安定性から精密な加工が可能であり、電気電子部品、自動車、医療の分野で用いることができる。環境ホルモンが出ない点から医療、食品の分野でも用いることができる。
また、本発明のポリエーテルサルホン繊維は、加工性にも優れているため、複数種類の繊維を混繊してコミングル繊維としたり、繊維強化プラスチックに加工することもできる。また、本発明のポリエーテルサルホン繊維を短繊維で用いることで不織布としたり、不織布積層体または繊維強化プラスチックとして用いることもできる。このようにして得られたポリエーテルサルホン繊維の加工品は、その優れた強度から軽量化が可能となり、かつ過酷な環境にも耐え得ることから、宇宙、航空、自動車等の用途(構造体、エンジン部品など)にも好適である。
さらに、本発明のポリエーテルサルホン樹脂は、広い温度範囲での剛性、寸法安定性に優れ、高温での耐クリープ性、耐ガソリン、ガソホール、エンジンオイル耐性、摺動特性に優れるため、機械分野の用途に好適である。
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<ポリエーテルサルホン樹脂の測定方法>
実施例中の各特性値の測定は下記方法により行った。
1.還元粘度(ηsp/c)
還元粘度は、JIS K7367-1(2002)の記載を参考にして、ウベローデ粘度管を用い、ジメチルホルムアミド(DMF)中、25℃、1g/dlの条件で測定した。なお、還元粘度(ηsp/c、単位dl/g)は、下記に基づき計算し、5回の測定値を平均化した値を使用した。
ηsp/c=(t-t )/t/c(dl/g)
t;重合体溶液の粘度計における標線間の通過時間(秒)
;純溶媒の粘度計の標線間の通過時間(秒)
c;重合体溶液の濃度(g/dl)
2.水分率(ppm)
カールフィッシャー式水分計(三菱化学社製、VA-200型)を用いて測定した。
3.強度、伸度、強度ばらつき
JIS L1013(2010)の標準時試験に準じ、島津製作所製の引張り試験機AGS-500NXを用い、試料長200mm、引張り速度200mm/分にて破断強さ、伸び率および弾性率(初期引張抵抗度)を求め、10点の平均値で表し、強度、伸度、強度ばらつきを測定した。
4.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。窒素雰囲気下、ポリエーテルサルホン樹脂に熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/分)、その後冷却(降温速度20℃/分)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/分)とした。
<ポリエーテルサルホン繊維の評価方法>
5.紡糸状況評価
2時間以上紡糸した際の紡糸状況を下記のように評価した。
○: 糸切れがなく安定的に紡糸ができた。
△: 2時間の紡糸中に糸切れが発生した。
(気泡:捲き付け可能だが、ノズル直下で樹脂劣化と思われる気泡が発生し糸切れや強度ムラが起きる)
巻取不可: 糸切れが多発して巻き取りができなかった(樹脂劣化の糸切れもしくはろ過圧上昇により捲き付け不可)。
紡糸不可:そもそも巻付けができなかった。
6.乾熱収縮率
JIS L1013(2010) 8.18.2 b)フィラメント寸法変化率(B法)によって、200℃の条件での乾熱寸法変化率(%)を求めた。
(実施例1)
<ポリエーテルサルホン樹脂の溶融紡糸工程>
ポリエーテルサルホン樹脂として、スミカエクセル(登録商標)3600G(住友化学株式会社製)を用いた。
このポリエーテルサルホン樹脂は、ガラス転移点が225℃であり、還元粘度が0.36dl/gであった。
このチップを160℃の真空乾燥機中で20時間乾燥した。水分率は20ppm以下であった(乾燥工程)。
得られた乾燥チップを、押出機1を用いて加熱しながら溶融押出し、ギアポンプ2で計量して、紡糸パック3に溶融押出した樹脂を供給した(溶融工程)。
紡糸温度360℃として、紡糸口金3aより押出し、繊維状に形成した。口金孔数は24個であり、紡糸口金3aより押出しした際の線速度は11.2m/min、せん断速度γは5931s-1であった(紡糸工程)。
紡糸口金3aより吐出成形された紡出糸は、固化したところで油剤を付与し、口金直下30cmのところで、1本のマルチフィラメントに集束し(集束工程)、その後、ワインダーを用いて巻取速度(紡糸速度)650m/分で紙管に巻き取り、260dtex/24fのポリエーテルサルホン繊維を得た(巻取工程)。
得られた物性、紡糸性評価結果を表1に示す。
(実施例2)
ポリエーテルサルホン樹脂として、スミカエクセル(登録商標)4100G(住友化学株式会社製)のチップを用い、紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様にしてポリエーテルサルホン繊維を得た。
なお、実施例2のポリエーテルサルホン樹脂は、ガラス転移温度が225℃であり、還元粘度が0.43dl/gであった。
(実施例3)
紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様にしてポリエーテルサルホン繊維を得た。
(実施例4)
紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様にしてポリエーテルサルホン繊維を得た。
(実施例5)
紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様にしてポリエーテルサルホン繊維を得た。
(比較例1)
ポリエーテルサルホン樹脂として、スミカエクセル(登録商標)4800G(住友化学株式会社製)のチップを用い、紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様に紡糸をした。
なお、比較例1のポリエーテルサルホン樹脂は、ガラス転移温度が225℃であり、還元粘度が0.48dl/gであった。
比較例1では、紡糸はできたものの、繊維の状態が悪く糸切れが多数発生して巻き取ることができなかった。
(比較例2)
紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様にした。
比較例2では、紡糸温度が低いため樹脂粘度が高く、ギアポンプ2(GP)が過負荷となり故障し、紡糸できなかった。
(比較例3)
ポリエーテルサルホン樹脂チップの水分率を60ppmとして、紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様に紡糸をした。
比較例3では、紡糸はできたものの、水分率が適正でなく、繊維中に気泡が多数発生して繊維の状態が悪く巻き取ることができなかった。
(比較例4)
実施例1と同様に紡糸をした後に、以下のように延伸処理を行った。
すなわち、巻取工程で巻き取ったポリエーテルサルホン繊維をローラに架けて捲き出し、150℃に加熱したロールヒーターへ導き、延伸倍率を1.7倍として延伸して、巻き取りを行った。
(比較例5)
実施例1と同様に紡糸をした後に、以下のように延伸処理を行った。
すなわち、巻取工程で巻き取ったポリエーテルサルホン繊維をローラに架けて捲き出し、150℃に加熱したロールヒーターへ導き、延伸倍率を2.0倍として延伸して、巻き取りを行った。
(比較例6)
ポリエーテルサルホン樹脂として、ウルトラゾーン(登録商標)E1010(BASF社製)のチップを用い、紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様に紡糸をした。
なお、比較例6のポリエーテルサルホン樹脂は、ガラス転移温度が222℃であり、還元粘度が0.48dl/gであった。
比較例6では、紡糸はできたものの、繊維の状態が悪く糸切れが多数発生して巻き取ることができなかった。
(比較例7)
ポリエーテルサルホン樹脂として、ウルトラゾーン(登録商標)E2010(BASF社製)のチップを用い、紡糸条件を表1の通りとする以外は、実施例1と同様に紡糸をした。
なお、比較例7のポリエーテルサルホン樹脂は、ガラス転移温度が225℃であり、還元粘度が0.56dl/gであった。
比較例7では、紡糸はできたものの、繊維の状態が悪く糸切れが多数発生して巻き取ることができなかった。


Figure 2023051860000004
Figure 2023051860000005
表1および表2の結果から、実施例1ないし5のポリエーテルサルホン繊維は、乾熱収縮率が5%以下であり、かつ、破断強度が0.6cN/dtex以上、破断強度ばらつきが±0.3cN/dtex以内、伸度が10%以上200%未満であることが確認された。
そして、得られた繊維を集束してカット後抄紙工程を通り、カレンダー加工し不織布を作製した。実施例1~5から得られたポリエーテルサルホン繊維は、工程通過性が良好であり、得られた不織布の寸法安定性は良好であった。
また、実施例1ないし3のポリエーテルサルホン繊維は、破断強度が1.0cN/dtex以上と強く、強度ばらつき少なく非常に優れた繊維であった。
そして、実施例1~3から得られたポリエーテルサルホン繊維は、後工程通過性および寸法安定性がより優れることが確認された。また、実施例1、2から得られた繊維の工程通過性・寸法安定性は特に優れていた。
一方で、比較例1ないし7では、紡糸ができないか、紡糸できたとしても繊維の状態が悪く巻き付けができなかった。
また、比較例4および5は、巻き付けができたとしても乾熱収縮率が悪く、後工程性および寸法安定性に問題があった。そして、比較例4および5で得られた繊維をカレンダー加工したところ、工程通過性が悪く、不織布の寸法安定性も不良であった。
1 押出機
2 ギアポンプ
3 紡糸パック
3a 紡糸口金
4 第一ゴデットロール
5 第二ゴデットロール
6 巻取りボビン

Claims (10)

  1. 下記式(1)で示される繰り返し単位を含むポリエーテルサルホン樹脂からなり、
    200℃における乾熱収縮率が5%以下である、ポリエーテルサルホン繊維。
    Figure 2023051860000006
  2. 前記ポリエーテルサルホン樹脂は、式(1)で示される繰り返し単位を95モル%以上含む、請求項1に記載のポリエーテルサルホン繊維。
  3. 前記ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)は200℃以上であり、還元粘度は0.30dl/g以上0.47dl/g以下である、請求項1または2に記載のポリエーテルサルホン繊維。
  4. 以下の物性(A)、(B)および(C)からなる群から選択される少なくとも1つの物性を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のポリエーテルサルホン繊維。
    物性(A):前記ポリエーテルサルホン繊維の破断強度が0.6cN/dtex以上
    物性(B):前記ポリエーテルサルホン繊維の破断強度ばらつきが±0.3cN/dtex以内
    物性(C):前記ポリエーテルサルホン繊維の伸度が10%以上200%未満
  5. 前記物性(A)において、前記ポリエーテルサルホン繊維の破断強度は1.0cN/dtex以上である、請求項4に記載のポリエーテルサルホン繊維。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載のポリエーテルサルホン繊維が管に巻き付けられた、繊維パッケージ。
  7. 請求項1から5のいずれか1項に記載のポリエーテルサルホン繊維を含む、不織布。
  8. ポリエーテルサルホン樹脂を乾燥して乾燥ポリエーテルサルホン樹脂を得る乾燥工程、
    前記乾燥ポリエーテルサルホン樹脂を加熱溶融して溶融物を得る溶融工程、
    前記溶融物を口金より吐出し、紡糸を形成する紡糸工程、
    前記紡糸を集束してフィラメントを得る集束工程、および
    前記フィラメントを巻取る巻取工程、
    を含むポリエーテルサルホン繊維の製造方法であって、
    以下の条件を満足する、ポリエーテルサルホン繊維の製造方法。
    条件(a):前記乾燥ポリエーテルサルホン樹脂の水分率が50ppm未満
    条件(b):吐出の線速度が5.0m/min以上50.0m/min以下
    条件(c):紡糸時のせん断速度が300s-1以上90,000s-1以下
    条件(d):紡糸温度が340℃以上410℃以下
    条件(e):巻取速度が550m/分以上
  9. 前記ポリエーテルサルホン樹脂のガラス転移温度(Tg)が200℃以上であり、還元粘度が0.30dl/g以上0.47dl/g以下である、請求項8に記載のポリエーテルサルホン繊維の製造方法。
  10. 前記条件(d)において、前記紡糸温度は340℃以上385℃以下である、請求項8または9に記載のポリエーテルサルホン繊維の製造方法。

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