JP2016128175A - 鍛造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】一液潤滑塗布を行いつつ従来よりもさらに処理時間の短縮が可能な鍛造方法を提供する。
【解決手段】素材W1を適切な表面粗さにするショット工程(S10)の後に、素材W1の表面に潤滑剤7を塗布し(S20)、潤滑剤7が塗布された素材W1を例えば誘導加熱により摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する(S30)。その後、素材W1に対し鍛造工程を実行する(S40)。
【選択図】 図6
【解決手段】素材W1を適切な表面粗さにするショット工程(S10)の後に、素材W1の表面に潤滑剤7を塗布し(S20)、潤滑剤7が塗布された素材W1を例えば誘導加熱により摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する(S30)。その後、素材W1に対し鍛造工程を実行する(S40)。
【選択図】 図6
Description
本発明は鍛造方法に関する。
周知のとおり素材に鍛造を施す場合には、素材と金型との間の焼き付きなどを回避するために潤滑処理を行う場合が多い。従来より潤滑処理としてはボンデ潤滑などと呼ばれる手法が広く用いられてきた。ボンデ潤滑では例えば、脱脂、水洗、(酸洗、水洗、)化成皮膜処理、水洗、中和、潤滑剤処理、乾燥の工程が行われた後に鍛造(例えばプレス成形)工程が行われる。
最初の脱脂および水洗の工程では、素材の表面に付着した汚れが脱脂剤により除去されてから、脱脂剤が水で洗い流される。続いて酸洗、水洗の工程を行う場合、酸によって金属表面の錆び等が除去されてから、酸が水で洗い流される。そして化成皮膜処理で、素材を処理液に浸漬することにより素材表面にリン酸塩被膜が形成される。その後、水洗および中和の工程で、素材表面に付着した処理液が水で洗い流され、被膜剤成分が中和される。そして潤滑剤処理の工程で、素材が潤滑剤に浸漬されることにより、リン酸塩表面に潤滑剤が付着する。そして乾燥工程で素材表面の潤滑剤を乾燥することによって素材表面に潤滑剤被膜が形成される。以上の工程を経た後に、例えばプレス成型による鍛造処理が行われる。
このようにボンデ潤滑では潤滑剤被膜を形成する前に化成皮膜処理を行うことを含め多くの工程が必要となるので、近年、より簡易な潤滑の方法としていわゆる一液潤滑と呼ばれる手法への注目が高まっている。一液潤滑処理においては、化成皮膜の形成を行わずに潤滑剤を塗布することが基本となるため、上記の多くの工程が省略できる。一液潤滑処理の一例が例えば下記特許文献1に開示されている。
特許文献1での処理手順は、前加工、予備加熱、潤滑剤塗布、乾燥、成形の各工程からなる。前加工工程では例えば素材の形状が機械加工により予め整えられる。予備加熱工程では、前加工により形状が整えられた素材の表面へ温風を吹きつけることにより素材の表面が予備加熱される。この工程により素材の表面が乾燥するので次の工程で潤滑剤が素材表面に確実に付着すると述べられている。
潤滑剤塗布工程では、予備加熱された素材を潤滑剤浸漬槽に浸漬させることにより素材表面に潤滑剤が塗布される。乾燥工程では、潤滑剤が塗布された素材に温風を吹き付けることにより素材表面を乾燥させる。乾燥工程は素材表面の潤滑剤が乾燥して潤滑剤被膜が確実に形成されることを目的としている。以上の工程によって表面に潤滑剤被膜が形成された素材に、成形工程で例えばプレス成形処理を施して鍛造品が製造される。
なおボンデ潤滑には、反応副産物であるリン酸鉄、中和液や洗浄液の廃水、廃石鹸などの産業廃棄物を排出するほか、各処理槽の温度、水量管理に大きなエネルギーを消費する等の課題も存在するが、一液潤滑はこうした課題も解決できる。
上記特許文献1の一液潤滑塗布方法によれば、従来から用いられている化成皮膜処理よりも工程数が大幅に低減され、それに伴い全体の処理時間も大幅に短縮される。しかし例えば特許文献1では、上記手順において予備加熱工程は10分から30分かかり、乾燥工程も10分から30分かかると記載されている。したがって、これらの工程の処理時間をより短時間で行えるように改良したり、これらを別のより短時間の処理に置き換えられれば、一液潤滑による潤滑剤被膜形成に関する処理時間をさらに短時間化できるが、そうした可能性について特許文献1では何ら検討されていない。
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記に鑑み、一液潤滑塗布を行いつつ従来よりもさらに処理時間の短縮が可能な鍛造方法を提供することである。
上記課題を解決するために本発明に係る鍛造方法は、鉄を材質とする素材に潤滑液を塗布する塗布工程と、前記塗布工程によって潤滑液が塗布された素材を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程と、前記加熱工程によって加熱された素材を金型内で押圧して成形する成形工程と、を備えたことを特徴とする。
上記のとおり特許文献1に記載された一液潤滑の手法による従来の鍛造方法では、素材に塗布された潤滑剤を乾燥して潤滑剤被膜を形成することに関する処理として潤滑剤塗布の前後に、予備加熱工程と乾燥工程とを実行するが、それらの処理時間は合計で20分以上費やされるとされていた。これに対し本発明に係る鍛造方法によれば、素材を鉄に限定しつつ、塗布工程によって潤滑液が塗布された素材を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程を備えるので、相対的に高い温度への加熱により効果的に潤滑剤の乾燥処理が行えて、短時間で素材表面に潤滑剤被膜を形成させることが可能となる。これにより、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、鍛造処理のさらなる短時間化との顕著な効果が実現される。
(1.鍛造システムの構成)
以下で本発明に係る鍛造方法を実施するための鍛造システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。鍛造システム1(以下、「システム」と称する)は、図1に示すように、ショットブラスト装置2、潤滑剤塗布装置3、加熱装置4、成形装置5を備える。これらの装置で素材W1に各処理が施されることにより鍛造品W2が得られる。なお後述するように図1のシステム構成には、用いられる処理手順に応じて使用されない装置も含まれている。またシステム1は素材W1を搬送する搬送部6を備える。
以下で本発明に係る鍛造方法を実施するための鍛造システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。鍛造システム1(以下、「システム」と称する)は、図1に示すように、ショットブラスト装置2、潤滑剤塗布装置3、加熱装置4、成形装置5を備える。これらの装置で素材W1に各処理が施されることにより鍛造品W2が得られる。なお後述するように図1のシステム構成には、用いられる処理手順に応じて使用されない装置も含まれている。またシステム1は素材W1を搬送する搬送部6を備える。
素材W1は例えば鉄を主成分とする金属材料とすればよい。すなわち素材W1の材質として、純鉄のみでなく、炭素鋼、すなわち鉄と炭素の合金が含まれる。さらにあらゆる合金鋼、すなわち炭素鋼と他の金属との合金も含まれるものとしてよい。
ショットブラスト装置2は、図2に示すように、素材W1の表面に所定のショット材21を射出する装置である。ショットブラスト装置2は、公知の構造の装置でよく、例えばモータによる動力で高速回転するブレードの遠心力によって、あるいは圧縮された空気の高圧によって、ショット材21に高速を付与して所定の射出ノズル20から射出して、素材W1の表面に衝突させる形態でよい。ショット材21の材質も鉄など従来から用いられている金属でよい。射出されて素材W1の表面に衝突した後のショット材21等は図示しない回収部で回収すればよい。ショットブラスト装置2によるショットブラストは、素材表面の異物除去や、潤滑剤の塗布がより確実、容易になるために素材W1に表面粗さを与えるために行われる。
潤滑剤塗布装置3は、素材W1の表面に潤滑剤7を塗布するための装置である。潤滑剤塗布装置3は、図3に示すように、主な構造として、上流側から湯洗部30、浸漬部31、乾燥部32を備える。素材W1は、湯洗部30、浸漬部31、乾燥部32へと順に搬送部6によって搬送される。搬送部6は搬送チェーン60と素材保持部61とを備える。素材W1は素材保持部61に保持され(あるいは単に載置され)、素材保持部61は駆動する搬送チェーン60に取り付けられて下流側へ例えば所定速度で駆動される。素材保持部61は素材W1を上下させるための昇降機能を有するとすればよい。
湯洗部30は素材W1を湯洗する部位である。蛇口部300から所定温度に昇温された湯(水)を吐出させることにより、素材W1の表面が湯滴301によって洗浄される。湯洗部30による湯洗は、素材W1表面の洗浄のみでなく、後述する素材W1の表面に付着した潤滑剤の乾燥を早める効果も有する。
浸漬部31は素材W1を潤滑剤7に浸漬する部位である。浸漬部31は潤滑液槽310を備える。潤滑液槽310には素材W1を浸漬させるのに十分な量の潤滑剤7(潤滑液)が貯留されている。素材W1を保持した素材保持部61が降下して、所定時間素材W1を潤滑液槽310に浸漬させ、所定時間後に素材保持部61が上昇して浸漬処理を終了する。これにより素材W1の表面に潤滑剤7が塗布される。潤滑液槽310はヒータ311を備えることとしてもよい。ヒータ311が潤滑剤7を所定の温度まで昇温することによって、素材W1表面に塗布された潤滑剤7を速やかに乾燥させることが可能となる。
乾燥部32は、素材W1の表面に塗布された潤滑剤7を乾燥させるための部位である。乾燥部32は、送風部320及びヒータ321を備える。送風部320によって送出される空気風が送出口付近に備えられたヒータ321によって加熱されて、温風322となって素材W1の表面に吹き付けられる。なお本実施形態において乾燥部32による素材W1表面の乾燥は、完全な乾燥でなくともよく、従来と比較して相対的に短時間の処理とすればよい(詳細は後述)。
次に、加熱装置4は、潤滑剤塗布装置3の下流に配置されて、潤滑剤7が塗布された素材W1を加熱する部位である。加熱装置4による加熱は主に、素材W1表面の潤滑剤7を乾燥して、素材W1表面に潤滑剤被膜を形成することを目的とする。加熱装置4は例えば誘導加熱装置とすればよい。
図4は誘導加熱装置である場合の加熱装置4の例を示しており、コイル40と電源41を備える。コイル40は例えば素材W1の搬送経路を囲むように配置されて、電源41からコイル40に交流電圧が供給される。これにより、コイル40が時間とともに変動する磁場を発生させ、その磁場が電磁誘導の原理により金属である素材W1内に電流を発生させる。素材W1内に発生した電流は、素材W1が有する電気抵抗によって素材W1を発熱させる。以上のような誘導加熱の原理によって素材W1が昇温することにより、素材W1の表面に塗布された潤滑剤7が乾燥して、素材W1表面に潤滑剤被膜が形成される。
加熱装置4による加熱は、摂氏150度から250度の範囲内の温度まで素材W1を昇温させるように行われる。この温度範囲への昇温により、素材W1表面に塗布された潤滑剤7が確実に乾燥して、素材W1表面に潤滑剤被膜が形成される。特に上記のような水性の潤滑剤の場合、摂氏150度以上への昇温により潤滑剤が確実に完全乾燥して潤滑剤被膜が形成できる。上限である摂氏250度は、高温によって潤滑剤被膜を劣化させるおそれを回避することや、不必要なエネルギー消費を回避すること等のために設定されている。この温度範囲への昇温は、例えば誘導加熱においては短時間(例えば10数秒)で行えるので、潤滑剤7の乾燥、潤滑剤被膜の形成の処理が従来技術と比較して極めて短時間で行える。また摂氏150度から250度という加熱温度は、例えば炭素鋼のA1変態点が摂氏700度以上であるように、上記した素材W1の材質のA1変態点よりもはるかに低い温度である。したがって、変態点まで達しない温度での加熱、冷間鍛造の枠内での加熱となる。
成形装置5は、加熱装置4の下流に配置されて、表面に潤滑剤被膜が形成された素材W1を例えばプレス成形によって鍛造する装置である。図5はその一例であり、例えば上金型と下金型を備えたプレス成形部50に素材W1を搬入して閉塞鍛造を行う。閉塞鍛造においては潤滑が適切に行われることが重要とされており、上記手順で適切に潤滑剤被膜が素材W1表面に形成されているので、好適に閉塞鍛造が行える。
なお加熱装置4による加熱処理は、成形装置5による成形処理における素材W1の変形抵抗を下げることも目的としてよい。その場合、加熱装置4による加熱処理の終了後に、素材W1の温度が所定温度以上である状態で成形装置5による成形処理を行うようにすればよい。所定温度以上での成形により、素材W1の変形抵抗が低くなり、成形応力や成形荷重が低減して、金型寿命が向上するなどの効果が得られる。
本発明で用いられる潤滑剤7に関しては、特に限定はなされず、これまで使用されてきた潤滑剤を広く用いてよいが、例えば水性の潤滑剤としてもよい。そしてより具体的に水性の潤滑剤として例えば特開2012−177000号広報に開示された潤滑剤を用いてもよい。水性の潤滑剤ならば油性の潤滑剤と比較して環境負荷が低いとの利点がある。同文献で開示された潤滑剤7には、主に水溶性高分子化合物70、無機金属塩71、水72、そして必要に応じて追加成分73が配合される。
水溶性高分子化合物70は、水溶性ポリエーテル化合物および水溶性ポリエステル化合物からなる群より選ばれる1種単独の化合物あるいは2種以上の化合物の混合物で、被膜強度が1以上30MPa以下の範囲、被膜伸度が600以上1000%の範囲内に入るものとすればよい。具体的には水溶性ポリエーテル化合物としてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエーテルポリオール等が、水溶性ポリエステル化合物としてはポリエステル系ポリオール等が例示される。これらの水溶性高分子化合物70を含有することによって潤滑被膜に柔軟性や追従性が付与される。
無機金属塩71はリン酸塩、バナジン酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩、タングステン酸塩からなる群より選ばれる1種単独の金属塩または2種以上の金属塩の混合物とし、具体的にはリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、珪酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム等とすればよい。これらの無機金属塩71を含有することにより潤滑被膜に耐焼き付き性や密着性が付与される。水溶性高分子化合物70に対する無機金属塩71の配合比率は固形分量比率で0.1以上5以下の範囲内にすれば上記効果の達成に好適となる。
水72は水単独でもよいが、ワックスを混合してもよい。使用するワックスとしては、カルナウバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が例示される。ワックスを配合することにより塑性加工時に溶融して金属同士の摩擦が軽減する。水溶性高分子化合物70に対するワックスの配合比率は0以上5以下の範囲内にすることが上記効果の達成のために有効である。
追加成分73としては固体潤滑剤や極圧添加剤を用いればよい。具体的に固体潤滑剤としてはリン酸亜鉛、酸化亜鉛、雲母、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、黒鉛、窒化ホウ素などを用いればよい。極圧添加剤としては硫黄系極圧添加剤、有機モリブデン系極圧添加剤、リン系極圧添加剤、塩素系極圧添加剤などを用いればよい。固体潤滑剤や極圧添加剤はともに加工条件が厳しい場合に有効である。また固体潤滑剤は潤滑皮膜の吸湿対策のために効果があり、極圧添加剤は加工時における工具と金属の接触面での極圧効果を有する。
(2.鍛造方法の実施例1)
図1のシステム構成のもとで、本発明に係る鍛造方法の実施例1の処理手順について、図7を参照して説明する。この処理手順を実行する場合、図3に示された湯洗部30、乾燥部32、ヒータ311を備えないとしてよい。なお図7および後述する図8から図10に示された鍛造方法はいわゆる冷間鍛造であり、加熱工程で実行される加熱、昇温処理も、温間鍛造や熱間鍛造が行われる温度範囲までの昇温ではない。
図1のシステム構成のもとで、本発明に係る鍛造方法の実施例1の処理手順について、図7を参照して説明する。この処理手順を実行する場合、図3に示された湯洗部30、乾燥部32、ヒータ311を備えないとしてよい。なお図7および後述する図8から図10に示された鍛造方法はいわゆる冷間鍛造であり、加熱工程で実行される加熱、昇温処理も、温間鍛造や熱間鍛造が行われる温度範囲までの昇温ではない。
図7の手順ではまずショットブラスト装置2によってショットブラスト処理が実行される(S10)。すなわち射出ノズル20から素材W1表面に向けてショット材21が射出される。この処理により、素材W1の表面の異物が除去される効果と、後述の潤滑剤がより塗布されやすくなる程度の表面粗さが得られる効果とが達成される。後者の目的のために適切な表面粗さは最大高さ粗さ(Rz)が10μm以上40μm以下であり、さらに好適には12μm以上16μm以下であり、これが達成されるようにショットブラスト装置2を適切に調節すればよい。
次に素材W1の表面に潤滑剤7が塗布される(S20)。すなわち、ショットブラスト装置2から搬出された素材W1を潤滑剤塗布装置3へ搬入して、浸漬部31へ搬送し(上述のように湯洗部30は省略されている)、素材保持部61を昇降させて、素材W1を潤滑液槽310へ浸漬する。これにより素材W1表面に潤滑剤7が塗布される。潤滑液槽310へ浸漬する時間などは適切に設定すればよい。
次に加熱工程が実行される(S30)。具体的には、素材W1を潤滑剤塗布装置3から搬出して加熱装置4へ搬入し(上記のとおり乾燥部32は省略されている)、加熱装置4内で電源41からコイル40へ交流電力を供給することにより、素材W1が誘導加熱される。その際素材W1の温度が摂氏150度以上250度以下の範囲に昇温するようにする。これにより、素材W1の表面に付着した非乾燥状態の潤滑剤7が乾燥して、素材W1表面に潤滑剤被膜が形成される。摂氏150度以上250度以下の範囲への昇温は従来技術と比較して高温なので、例えば上記水性の潤滑剤など、あらゆる潤滑剤が良好に乾燥して潤滑剤被膜が形成できる。さらに高温の昇温なので短時間に潤滑剤被膜が形成できる。また250度以下としているので高温による潤滑剤被膜の劣化も回避される。
誘導加熱の加熱原理により、例えば温風を吹き付けて乾燥させる場合のように素材W1の表面から加熱され乾燥するのではなく、素材W1の内側から加熱される。本発明者の知見によれば、素材W1の表面に潤滑剤が付着している状態で潤滑剤を乾燥して潤滑剤被膜を形成することが目的の場合には、誘導加熱のように素材W1の内側から加熱する方が外側から加熱する方法よりも適しており、より良好に潤滑剤被膜が素材表面に形成できる。誘導加熱を実行する時間などは、以上を考慮して例えば10数秒のように適切に設定すればよい。
最後に、以上の工程により良好に潤滑剤被膜が表面に形成された素材W1が、成形装置5によって、例えばプレス成形による閉塞鍛造によって所望の鍛造品W2へと加工される。なお、S30での加熱によって素材W1が昇温して所定温度以上となっている状態で、S40での成形処理を行ってもよい。その場合、S40での成形処理において素材W1の変形抵抗がより小さくなるので、上記効果に加えて、成形応力や成形荷重の低減などによる成形処理の容易化、金型寿命の向上などの効果がさらに得られる。上記の所定温度は所望の成形応力や成形荷重などの観点から適切に設定すればよい。以上が実施例1の製造方法である。
上記のとおり一液潤滑に関する従来文献である特許文献1では、素材に塗布された潤滑剤を乾燥して潤滑剤被膜を形成することに関する処理として、潤滑剤塗布の前後に、予備加熱工程と乾燥工程とを実行している。これらの処理はそれぞれ10分以上行うと記載されているので、潤滑剤乾燥に係る合計時間として20分以上という比較的長い時間が必要となる。
これに対し上記実施例1の鍛造方法においては、素材W1表面の潤滑剤の乾燥、潤滑剤被膜の形成に関する処理は加熱工程(S30)のみであり、この工程では誘導加熱によって、摂氏150度以上250度以下の温度への昇温を、例えば10数秒という短時間実行する。したがって従来技術と比較して極めて短時間で潤滑剤被膜形成処理が行えて、鍛造処理全体にかかる時間も短縮できる。さらに加熱工程で加熱された素材W1が昇温された状態のままで(所定温度以上の状態で)S40での成形処理を行えば、成形応力や成形荷重の低減、金型寿命の向上などの効果がさらに得られる。以上のように実施例1の鍛造方法によれば、一液潤滑による廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、鍛造処理のさらなる短時間化が実現でき、成形応力や成形荷重、金型寿命なども改善できる。
(3.鍛造方法の実施例2)
次に、本発明に係る鍛造方法の実施例2の処理手順について図8を参照して説明する。この処理手順では上記実施例1の処理手順に、潤滑剤昇温あるいは素材昇温の工程(S15)、乾燥工程(S25)が追加されている。図8で図7と同符号の処理は同様の処理内容であり、重複する説明は省略する。図8の処理を実行する場合、図3の構成で湯洗部30とヒータ311とのうちで使用されない装備を省略してよい。
次に、本発明に係る鍛造方法の実施例2の処理手順について図8を参照して説明する。この処理手順では上記実施例1の処理手順に、潤滑剤昇温あるいは素材昇温の工程(S15)、乾燥工程(S25)が追加されている。図8で図7と同符号の処理は同様の処理内容であり、重複する説明は省略する。図8の処理を実行する場合、図3の構成で湯洗部30とヒータ311とのうちで使用されない装備を省略してよい。
潤滑剤昇温あるいは素材昇温の工程(S15)では、ヒータ311によって潤滑液槽310内の潤滑剤7を昇温する処理と、湯洗部30によって素材W1を湯洗して素材W1を昇温する処理と、のうち一方あるいは両方を実行する。このうち、ヒータ311によって潤滑液槽310内の潤滑剤7を昇温する処理は、図8内のS15のタイミングで実行するのみでなく常時実行する形態でもよい。
潤滑剤7が昇温すること、あるいは素材W1が昇温することにより、S30の処理で素材W1表面の潤滑剤がより迅速に乾燥する傾向がある。つまりS15での潤滑剤7の昇温あるいは素材W1の昇温は、ともにS30で実行される素材W1表面の潤滑剤の乾燥処理を効果的に補強し、さらに短時間化する効果を有する。この目的のためには、潤滑剤7の昇温は摂氏80度以上への昇温とすれば好適である。
乾燥工程(S25)では、浸漬部31によって潤滑剤7が表面に塗布された素材W1を、乾燥部32によって乾燥する。すなわち、表面に潤滑剤が塗布された素材W1の表面に送風部320から温風322を吹きつける。ただしS25はあくまでS30を補助する処理とする。つまりS25では素材W1表面の完全な乾燥までは行わず、例えば素材W1表面から潤滑剤7の液滴が落ちない程度までの乾燥でよい。S25の処理もS30を補助する効果を有する。
図8の処理手順において、潤滑剤昇温工程あるいは素材昇温工程(S15)、乾燥工程(S25)、加熱工程(S30)の合計時間を20分未満とすれば、全体の処理時間が、上記特許文献1に例示される従来技術における鍛造方法の処理時間よりも短時間となる。したがって実施例1と同様に、図8に示された実施例2の鍛造方法によっても、従来の一液潤滑による鍛造方法よりもさらなる短時間化が実現できる。
(4.鍛造方法の実施例3,4)
図8の処理手順はS15とS25とを実行するが、このうち一方のみを実行する形態でもよい。図9に示された実施例3の鍛造方法ではS15のみを実行し、S25は実行しない。そして図10に示された実施例4の鍛造方法ではS25のみを実行し、S15は実行しない。図9の手順を実行する場合、図3において湯洗部30、乾燥部32のうちで用いられないもの、そしてヒータ311を備えないとすればよい。図10の手順を実行する場合、図3において湯洗部30、乾燥部32を備えないとしてよい。
図8の処理手順はS15とS25とを実行するが、このうち一方のみを実行する形態でもよい。図9に示された実施例3の鍛造方法ではS15のみを実行し、S25は実行しない。そして図10に示された実施例4の鍛造方法ではS25のみを実行し、S15は実行しない。図9の手順を実行する場合、図3において湯洗部30、乾燥部32のうちで用いられないもの、そしてヒータ311を備えないとすればよい。図10の手順を実行する場合、図3において湯洗部30、乾燥部32を備えないとしてよい。
(5.鍛造方法の変形態様)
図7から図10を潤滑剤塗布工程あるいは素材昇温工程(S15)と乾燥工程(S25)とに関してまとめると、図7の処理手順はS15とS25とがともに省略される場合であり、図8の処理手順はS15とS25とがともに実行される場合であり、図9はS15が実行され、S25が省略される場合、図10はS15が省略され、S25が実行される場合である。
図7から図10を潤滑剤塗布工程あるいは素材昇温工程(S15)と乾燥工程(S25)とに関してまとめると、図7の処理手順はS15とS25とがともに省略される場合であり、図8の処理手順はS15とS25とがともに実行される場合であり、図9はS15が実行され、S25が省略される場合、図10はS15が省略され、S25が実行される場合である。
図9、図10におけるS15またはS25の処理は図7の場合と同様に行えばよい。図9の処理手順においても、素材昇温工程(S15)と加熱工程(S30)の合計時間を20分未満とすれば、全体の処理時間が上記特許文献1に例示される従来技術における鍛造方法の処理時間よりも短時間となる。したがって図9に示された実施例3の鍛造方法によっても、従来の一液潤滑による鍛造方法よりもさらなる短時間化が実現できる。
図10の処理手順においても、乾燥工程(S25)と加熱工程(S30)の合計時間を20分未満とすれば、全体の処理時間が上記特許文献1に例示される従来技術における鍛造方法の処理時間よりも短時間となる。したがって図10に示された実施例4の鍛造方法によっても、従来の一液潤滑による鍛造方法よりもさらなる短時間化が実現できる。図7から図10の処理手順は以上のとおりである。
(6.まとめ)
以上で述べたとおり、本発明に係る鍛造方法は、鉄を主成分とする素材W1に潤滑液7を塗布する塗布工程S20と、前記塗布工程S20によって前記潤滑液7が塗布された前記素材W1を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程S30と、前記加熱工程S30によって加熱された前記素材W1を金型内で押圧して成形する成形工程S40と、を備えるものとすればよい。この形態によれば、塗布工程S20によって潤滑液7が塗布された素材W1を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程S30を備えるので、効果的に潤滑剤7の乾燥処理が行えて、短時間で素材W1表面に潤滑剤被膜を形成させることが可能となる。これにより、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、鍛造処理のさらなる短時間化との顕著な効果が実現される。
以上で述べたとおり、本発明に係る鍛造方法は、鉄を主成分とする素材W1に潤滑液7を塗布する塗布工程S20と、前記塗布工程S20によって前記潤滑液7が塗布された前記素材W1を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程S30と、前記加熱工程S30によって加熱された前記素材W1を金型内で押圧して成形する成形工程S40と、を備えるものとすればよい。この形態によれば、塗布工程S20によって潤滑液7が塗布された素材W1を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程S30を備えるので、効果的に潤滑剤7の乾燥処理が行えて、短時間で素材W1表面に潤滑剤被膜を形成させることが可能となる。これにより、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、鍛造処理のさらなる短時間化との顕著な効果が実現される。
また本発明では、前記加熱工程S30による前記素材W1の加熱は前記素材W1に塗布された非乾燥状態の潤滑液7を乾燥するように行われるものとしてもよい。この形態によれば、潤滑剤7が塗布された素材W1を加熱することにより素材W1に塗布された潤滑液7が乾燥するので、加熱工程S30によって素材W1表面に潤滑剤被膜が形成される。したがって、摂氏150度から250度への加熱によって素材表面に迅速に潤滑剤被膜が形成できるので、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、鍛造処理のさらなる短時間化との顕著な効果が実現される。
また本発明では、前記潤滑液7は水溶性高分子化合物70を含有する水性の潤滑液であるものとしてもよい。この形態によれば、水性の潤滑剤によって、潤滑液に関わる環境負荷を低減しつつ、本発明の効果を好適に実現できる。したがって、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、潤滑液に関わる環境負荷を低減しつつ、鍛造処理のさらなる短時間化が実現される。
また本発明では、前記塗布工程S20で素材W1に塗布される潤滑液7を所定温度へ昇温する潤滑液昇温工程S15をさらに備えたものとしてもよい。この形態によれば、素材に塗布される潤滑液を所定温度まで昇温することによって、塗布後の潤滑液の乾燥、潤滑剤被膜の形成がより迅速に行える。したがって、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、潤滑剤被膜の形成をより迅速に行って、鍛造処理のさらなる短時間化を実現する。
また本発明では、前記加熱工程S30における加熱方法は誘導加熱であるものとしてもよい。この形態によれば、誘導加熱によって、極めて短時間で素材を加熱して素材表面の潤滑剤を乾燥させ潤滑剤被膜を形成する。さらに誘導加熱は素材を内側から加熱するので、従来から用いられる素材表面へ温風を吹き付ける方法等と比較して、素材表面の潤滑剤被膜形成にとって好適となる。したがって、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、潤滑剤被膜の形成にとって好適なように内側から加熱する誘導加熱を用いて、効果的に潤滑剤被膜を形成でき、鍛造処理のさらなる短時間化を実現する。
また本発明では、前記塗布工程S20に先立って前記素材W1の表面粗さを調整する粗さ調整工程S10をさらに備えたものとしてもよい。この形態によれば、塗布工程S20に先立って素材W1の表面粗さを調整することにより、潤滑剤7が素材表面に付着し易くなって、素材W1表面に全体的にむらなく確実に潤滑剤被膜を形成することに好適となる。したがって、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、全体的にむらなく潤滑剤被膜を形成しつつ、鍛造処理のさらなる短時間化を実現する。
また本発明では、前記成形工程S40は前記加熱工程S30によって加熱された素材W1の温度が所定温度以上にある状態で実行されるものとしてもよい。この形態によれば、所定温度以上の素材に対して鍛造工程が実行されるので、素材の変形抵抗が小さく、成形応力や成形荷重が低減し、金型寿命が向上する等の効果がさらに得られる。したがって、一液潤滑を用いることによる廃棄物処理やエネルギー消費の改善、作業工程の簡素化などの効果に加えて、鍛造処理のさらなる短時間化を実現し、さらに鍛造工程における成形応力や成形荷重を低減し、金型寿命を向上する。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。上記のとおり図2から図5は模式化あるいは簡略化された図であり、各装置の実際の詳細な構成に関しては、例えば従来から用いられた構成を適宜組み合わせた装置とすればよい。また例えば上記例の潤滑剤塗布装置3では浸漬によって潤滑剤7を素材W1に塗布したが、本発明では潤滑剤塗布の方法として従来から用いられてきたあらゆる方法、例えばスプレー方式などを用いてもよい。またこれらの図では素材W1の搬送機構として搬送チェーン60を用いる形態を示したが、本発明はこれに限定されず、例えばピンチローラ方式で素材W1を搬送する形態でもよい。
なお素材W1の材質は鉄を主成分とする金属材料には限定されない。素材W1は、金属材料であればよく、鉄(鉄鋼、炭素鋼)のみでなく、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅合金、マグネシウム合金など、あらゆる金属材料に本発明の鍛造方法は適用できる。
1…鍛造システム、 2…ショットブラスト装置、 3…潤滑剤塗布装置、 4…加熱装置、 5…成形装置、 7…潤滑剤(潤滑液)、 70…水溶性高分子化合物、 S10…ショット工程(粗さ調整工程)、 S15…潤滑液昇温工程(素材昇温工程)、 S20…潤滑剤塗布工程(塗布工程)、 S30…加熱工程、 S40…成形工程
Claims (7)
- 鉄を主成分とする素材に潤滑液を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程によって前記潤滑液が塗布された前記素材を摂氏150度以上250度以下の温度へ昇温するように加熱する加熱工程と、
前記加熱工程によって加熱された前記素材を金型内で押圧して成形する成形工程と、
を備える、鍛造方法。 - 前記加熱工程は、前記素材を加熱すると共に、前記素材に塗布された非乾燥状態の潤滑液を乾燥する、請求項1に記載の鍛造方法。
- 前記潤滑液は、水溶性高分子化合物を含有する水性の潤滑液である、請求項1又は2に記載の鍛造方法。
- 前記鍛造方法は、前記塗布工程に先立って前記塗布工程で素材に塗布される潤滑液を所定温度へ昇温する潤滑液昇温工程をさらに備える、請求項3に記載の鍛造方法。
- 前記加熱工程における加熱方法は、誘導加熱である、請求項1−4の何れか一項に記載の鍛造方法。
- 前記鍛造方法は、前記塗布工程に先立って前記素材の表面粗さを調整する粗さ調整工程をさらに備える、請求項1−5の何れか一項に記載の鍛造方法。
- 前記成形工程は、前記加熱工程によって加熱された前記素材の温度が所定温度以上にある状態で実行される、請求項1又は2に記載の鍛造方法。
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- 2015-01-09 JP JP2015002916A patent/JP2016128175A/ja active Pending
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