JP2016086763A - 酵母並びにこの酵母を用いた飲食物の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】今般の嗜好に適合した新たな酒類及び飲食物の製造方法の提供。
【解決手段】ササユリの花から分離選抜したサッカロマイセス・セレビシエに属するヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株である酵母並びにこの酵母を用いた飲食物の製造方法。育成旺盛で高濃度のアルコール生産性を示す該酵母を酵母汁液体培地(Brix5〜30、pH2〜5)で5〜35℃で培養し、従来より有機酸が多くすっきりした香味を持つ新たな酒類及び飲食物を製造する方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、ササユリ(学名:Lilium japonicum)の花から分離され、リンゴ酸を主成分としたフルーティな酸味を持ち、香り成分としてイソアミルアルコールを産生する清酒醸造用酵母及びその清酒その他飲食物の製造方法に関する。
清酒は消費量が年々減少しており、ピーク時の3分の1程度まで落ち込んでいる。若年層の清酒離れが進んでいるが、一方で、地酒といわれる酒質にこだわったものが好まれ、売り上げを伸ばしている状況もある。また、この数年、海外への輸出量は右肩上がりに増加しており、業界においては、多種多様な酒質が求められている。
このような課題を解消するために、例えば特許第3846623号、特許第4601015号に示された新たな酵母が開発されている。
「ナラノヤエザクラの花より採取された酵母を、麹汁液体培地(Brix5〜30、pH2以上5以下)を使用して5〜35℃で増殖させ、次にアルコールを3〜15容積%添加した麹汁液体培地を使用して5〜20℃の嫌気状態で培養し、育成旺盛で高濃度のアルコール生産性を示す酵母を選択することによって、ナラノヤエザクラの花から分離された酵母から選択され、そして、コハク酸、リンゴ酸の生産が多く且つアルコール生産能が16容積%以下で、甘みがあり、フルーティーな酸味をもつ清酒を製造することができることを特徴とする、酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ナラノヤエザクラ酵母(特許微生物寄託センター受託番号:NITE P−684)株である。」(特許文献1)
このようにすることにより低アルコール生産性でありながら、特にリンゴ酸、コハク酸の生成能が高い清酒製造用の酵母としても利用できる新規な酵母、すなわち、酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)「ナラノヤエザクラ酵母」(特許微生物寄託センター受託番号:NITE P−684)株を分離することに成功した。
清酒のほとんどのものが、既存の醸造協会系酵母を使用して製造され、その個性がなくなっていること、さらに果汁を使用した低アルコール飲料を飲みなれているため、清酒に抵抗感のある若年層の清酒離れが進んでいることに代表されるように、消費者の嗜好の変化に十分対応しきれていないという課題を解決している。
「日本を代表する桜の花から清酒製造用の酵母としても利用でき且つ新規な特性を持つ酵母すなわち、酵母サッカロミセス セレビッシエ( Saccharomyces cerevisiae) やまぐち・桜酵母 特許生物寄託センター受託番号F E R M P − 1 8 5 6 0 ) 株を分離することに成功した」(特許文献2)
このようにすることにより桜の花の花びらより採取された酵母を、乳酸酸性条件下の酵母培養培地を使用して、この培地上でアルコール濃度を段階的に高めていって生育していく株を分離し、この分離株を米糖化液を培地に使用して培養し、生育旺盛で且つ高濃度のアルコールを生産する株を選択することによって、桜の花の花びらから分離された酵母から選択され、そして酢酸の生成が少なく且つ甘くフルーティーな香りを持つ清酒を醸造することができることを特徴とする酵母サッカロミセス セレビッシエ( Saccharomyces cerevisiae) やまぐち・桜酵母( 特許生物寄託センター受託番号F E R M P − 1 8 5 6 0 )は、さわやかな果物様の高貴で好ましい香りをもつアルコール含有飲料、さらには食品材料などが好まれる傾向にあるので、こうした嗜好に適した酵母の開発が求められているという課題を解決している。
特許第3846623号公報 特許第4601015号公報
今般の嗜好は種々雑多となっており、消費者の求める清酒用酵母は、それら多種多様な要求に応えるための酵母が求められている。上記酵母はいずれも自然界から分離された酵母である。しかし、ナラノヤエザクラ酵母は発酵力が弱くアルコール濃度が16%未満で止まってしまうという課題があった。
また、やまぐち・桜酵母は、清酒の味覚成分である有機酸の生産能が低いという課題があった。
本発明の酵母並びにこの酵母を用いた飲食物の製造方法は、ササユリの花より採取された酵母を、酵母汁液体培地(brix5〜30、pH2以上5以下)を使用して5〜35℃で増殖させ、次にアルコールを5〜10容積%添加した麹汁培地を使用して培養し、育成旺盛で16容積%濃度以上のアルコール生産性を示し、かつ、リンゴ酸の生産が多く、切れがよく、バナナ様の香りを持ち、イソアミルアルコールが多い清酒を製造することができる酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株で形成するようにしてある。
また、酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株を用いたことを特徴とする、清酒の製造方法で形成するようにしてある。
さらに、酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株を用いたことを特徴とする、飲食品の製造方法で形成するようにしてある。
上記の課題解決手段を使うことにより、16容積%濃度以上のアルコール生産性を示し、かつ、リンゴ酸の生産が多く、切れがよく、バナナ様の香りを持ち、イソアミルアルコールが多い清酒を製造することができるという効果がある。
また、本発明にかかる清酒の製造方法は、前記酵母(酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)『ヤマノカミ酵母』(特許微生物寄託センター受託番号:NITE AP−01947))と命名(以下『ヤマノカミ酵母』という。)し、その株を用いて行われる。
さらに、本発明にかかる飲食品の製造方法は、前記酵母(酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)『ヤマノカミ酵母』(特許微生物寄託センター受託番号:NITE AP−01947))株を用いて行われる。
本発明にかかる酵母が協会酵母と異なるものであることを示す写真図 本発明の『ヤマノカミ酵母』、日本醸造協会701号酵母(以下『K701』とする。)、日本醸造協会901号酵母(以下『K901』とする。)のAWA1遺伝子をPCRで増幅後、アガロースゲル電気泳動を行った結果を示す写真図である。
自然界には多様な酵母が存在していることが知られている。そこで、奈良県内にて清酒醸造用に適した酵母の分離を行った。
まず、桜井市三輪周辺の自然界に存在する植物、土、水など約200サンプルを採取した。これらを無菌的に100mlの滅菌カップに入れ、調製した麹汁液体培地(Brix10、pH3.5)を注ぎ、30℃で培養した。(第1次選択)
さらに2次選択として、クロラムフェニコールを添加した麹汁培地(Brix20、pH3.5)を用いて30℃で培養した。
さらに3次選択として、2次選択で発泡あるいは白濁したサンプルを麹汁液体培地(Brix10、pH3.5、エタノール5容積%)を用いて、20℃で嫌気状態にて培養した。
3次選択で発泡した懸濁培養液を無菌的にTTC(トリフェニルテトラゾリウムクロライド)寒天下層培地に塗抹し、30℃培養し、発現した単一コロニーを分離株とした。
なお、前記麹汁液体培地は、米麹1kg水3000mlを加えて55℃で一晩加温後濾過搾汁して得られた麹汁を水で希釈し、目的とするBrixにし、乳酸でpHを調製した後、オートクレーブで滅菌し、必要に応じてエタノールを無菌的に添加したものである。
上述した第1次選択から第3次選択の作業を行うことにより、6株の分離株を得ることができた。これらの株をAPIテスト、ID32Cにて属種をサッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と特定した。
なお、APIテストでは、炭素源の資化性により『ヤマノカミ酵母』の帰属分類群がサッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)と特定された。
得られた6株のうち、米、米麹を使用して、清酒の小仕込み試験をしたところ、ササユリを起源とする2株から得られた清酒の酒質が、良好だったため、ササユリの酵母を『ヤマノカミ酵母』として、選抜した。
『ヤマノカミ酵母』、『K701』、『K901』のAWA1遺伝子をPCRで増幅後、アガロースゲル電気泳動を行った結果を図1に示す。
『ヤマノカミ酵母』は、AWA1遺伝子の2.6kbのバンドが『K701』の約5kbのバンド、『K901』の3.5kbのバンドと比較して明らかに異なるため、既知の酵母とは異なる酵母であることが確認された。
このようにして、ササユリの花より採取された酵母を、麹汁液体培地(Brix5〜30、pH2以上5以下)を使用して5〜35℃で増殖させ、次にアルコールを5〜10容積%添加した麹汁液体培地を使用して5〜20℃の嫌気状態で培養し、育成旺盛で16容積%以上のアルコール生産性を示す酵母が得られた。
この酵母は、リンゴ酸の生産が多く、かつアルコールの生産能が16容積%以上で切れがよく、バナナ様の香りを持ち、イソアミルアルコールが多い清酒の製造に適した酵母である。
『ヤマノカミ酵母』は、下述するサッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する菌株である。
この『ヤマノカミ酵母』は、以下の特性を有している。
(1)『K701』や『K901』といった既存の清酒酵母に対して無害(キラー因子をもたない)。
YEPD培地にメチレンブルーを0.03重量%添加した寒天平板培地に協会酵母を10cfu/g塗布し、『ヤマノカミ酵母』を植菌し、25℃で24時間培養した。その結果、微細コロニーが培地一面に発生した時に現れるクリアゾーンを観察したところ、阻止円ができていないことが確認された。
なお、前記YEPD培地は、酵母エキスが1重量%、ポリペプトン2重量%、D−(+)グルコースが2重量%、寒天が1.5重量%の組成からなり1Mクエン酸養液でpH4.7に調整したものである。
(2)リンゴ酸の生成が多く、酸味があり、かつアルコールの生産能が16容積%以上で切れがよく、バナナ様の香りを持ち、イソアミルアルコールが多い清酒を製造することができる。
TTC染色
古川、秋山の方法(古川敏郎、秋山裕一:農化、37,398(1963))に従ってTTC染色性試験、菌体を適宜希釈し(1プレートに約200個程度となるよう)、TTC下層培地に30℃で2日間培養したコロニー上へ、TTC寒天を溶解後45℃程度にして静かに重層し、固まった後30℃で2〜3時間放置し、コロニーの染色性を観察した時ピンク色を示した。
なお、『K701』、『K901』といった既存の清酒酵母のTTC染色は赤色を示す。
この『ヤマノカミ酵母』は、醸造用酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であって、下記の菌学的性質を有する菌株である。
GYP培地を用いて30℃で2日間培養した時の菌の形態
栄養細胞の大きさ:4〜8μm
栄養細胞の形状:卵型
増殖の形態:出芽
なお、前記GYP培地は、D−(+)グルコースが2重量%、Bacto YeastExtractが0.5重量%、Bacto Peptonが0.5重量%の組成からなる。
GYP寒天培地を用いて30℃で2日間培養した時のコロニーの形態
形態:円
隆起:凸円状
周縁;全縁
大きさ(直径):2〜3mm
色調:白色で不透明
表面:円滑で光沢あり
『ヤマノカミ酵母』の炭素源の資化性の結果を次に示す。
グルコース、スクロース、ガラクトース、D−ラフィノース、パラチノース、α-メチル-D−グルコシドは資化する。乳糖、グリセロール、L−アラビノース、D−キシロース、D−ソルビトール、D−セロビオース、D−マルトース、D−マンニトール、乳酸、イノシット、トレハロース、エリスリトール、D−メリビオース、D−メレチトース、D−リボース、L−ラムノース、レブリン酸、L−ソルボース、シクロヘキシミド、N−アセチルグルコサミン、2−ケト−グルコン酸カルシウム、グルクロン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、D−グルコサミン塩酸塩は資化しない。
次にこの『ヤマノカミ酵母』を用いた清酒の製造について説明する。
酵母数が10cfu/mlとなるように培養した麹汁液体培地(Brix10)30mlを乳酸とともに汲水、α化米、乾燥麹に添加し、三段仕込みで醸造を行った。『ヤマノカミ酵母』は、16日で清酒を作ることが可能である。
総米7kgで清酒を仕込んだ。
この仕込配合を表1に示す。
総米7kgの清酒仕込配合
まず、汲水1.6kgに乳酸4ml、乾燥麹米(歩留86%)0.29kg、酵母数が108cfu/mlとなるように培養した麹汁液体培地(Brix10)30mlを加え、水麹にし、1晩冷蔵庫保存した。
次に、その浸漬した水麹にα化米(歩留り97%)0.85kgを加え初添とした。
踊を2日取った後、汲水3.7kgと乾燥麹米0.48kg、α化米1.83kgを加えて仲添とした。
さらに1日後、汲水5.63kgと乾燥麹米0.6kg、α化米2.55kgを加えて留添とした。
なお、初添は15℃、仲添は12℃、留添は10℃を目標として仕込みを行った。
留添以降、品温が11〜14℃になるように温度管理を行い、19日間醸造を行った。
その後、酒袋を用いて袋吊りで上槽を行った。
このような一般的な清酒の製造工程を経て製造された清酒は以下のようなものであった。
清酒分析値
有機酸データ
香気成分データ
表2に示した清酒分析値から『ヤマノカミ酵母』はアルコールが協会酵母と同程度生産できることがわかる。
表3に示した有機酸データからは、リンゴ酸、コハク酸が多く含まれていることがわかる。
表4に示した香気成分データからは、吟醸成分の一つである酢酸エチル、高級アルコールであるイソブチルアルコール、イソアミルアルコールが多く含まれていることがわかる。
これらをまとめると、『ヤマノカミ酵母』を用いて製造された清酒は、他の酵母を用いた清酒よりアルコールがしっかりあり、フルーティーな酸味を有し、高級アルコールが多い清酒といえる。
これまで『ヤマノカミ酵母』を用いた清酒の製造について説明したが、この『ヤマノカミ酵母』は清酒のみならず、一般的な酵母と同様に食酢、パン、味噌、醤油等の飲食物の製造に用いることができる。
この『ヤマノカミ酵母』は、上述したように、有機酸であるリンゴ酸の生産性が高いため、製造された各種飲食物、例えば、食酢、パン、味噌、醤油等はこの『ヤマノカミ酵母』特有の味わいを持つことになる。
例えば、この『ヤマノカミ酵母』を用いたパンは以下のようにして製造される。ボウルに強力粉50g、水50ml、1晩培養した『ヤマノカミ酵母』が入った麹汁10ml、砂糖2gを混ぜ合わせ、30℃の恒温室で1晩発酵させ中種を作る。
発酵した中種全量と強力粉280g、バター17g、砂糖30g、食塩5g、スキムミルク15gを混ぜ合わせた後、水200mlを数回分けて加え、こね上げる。
こねあがった生地を丸めて表面をなめらかにしてボウルに入れ、乾燥しないように濡れ布巾をかぶせて、30℃の恒温室にて50〜60分一次発酵させる。
一次発酵が終わった生地をガス抜き後、適宜分割し、表面が滑らかになるように丸めて濡れ布巾をかぶせて10分間ねかせる。
生地を麺棒で伸ばし、適当な形に整える。これをオーブンで37℃程度で40分間、二次発酵を行う。なお、この二次発酵の際には生地を乗せるオーブン用シートに油をひき、生地には霧吹きで水を吹きかけておく。
二次発酵が終わった後、オーブンを180℃に加温し、18分かけて生地を焼いてパンとする。
なお、上述したパンの製造法は、この『ヤマノカミ酵母』に特有のものではなく、一般的な中種法によるパンの製造方法である。
特許微生物寄託センター受託番号:NITE AP−01947
以上説明してきたように、本発明にかかる酵母により清酒を醸造することができ、パン、味噌、醤油、食酢などの発酵食品の製造に利用することができる。本酵母を使用して、実際に酒造会社にて醸造試験を行い、すっきりした酒質の清酒ができあがった。
LaneM:分子量Maker(1kb Ladder)
Lane1:ヤマノカミ酵母
Lane2:K701
Lane3:K901

Claims (3)

  1. ササユリの花より採取された酵母を酵母汁液体培地(Brix5〜30、pH2以上5以下)を使用して5〜35℃で増殖させ、次にアルコールを5〜10容積%添加した麹汁培地を使用して培養し、16容積%以上のアルコール生産性を示す酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株である酵母並びにこの酵母を用いた飲食物の製造方法。
  2. 酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株を用いたことを特徴とする、清酒の製造方法。
  3. 酵母サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ヤマノカミ酵母(特許微生物寄託センター受託番号NITE AP−01947)株を用いたことを特徴とする、飲食品の製造方法。
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