JP5380650B2 - 新規醸造酵母 - Google Patents

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Description

本発明は、醸造もろみにおいて増殖速度およびアルコール発酵性が高く、酒、特に焼酎の製造に好適に用いられるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する新規酵母、及び当該酵母を用いた酒の製造方法に関する。
焼酎製造ではもろみの良好な発酵によりアルコール収得量を高めることが重要である。このため、焼酎の製造に使用される醸造酵母はアルコール発酵力が強く、適度なクエン酸耐性、高温耐性を持つことが望まれる。さらに品質の高い焼酎を製造するうえでは、良好な香味を生成する酵母が求められる。
現在、焼酎の製造に使用されている醸造酵母には、宮崎酵母、鹿児島酵母、熊本酵母、泡盛酵母、協会酵母等の数種類があり、これらは公設試、酒造組合、日本醸造協会等から酒造業者に分譲されている。
近年、焼酎の出荷量が増加し、消費者の嗜好性がますます高まっている。こうした中で、焼酎製造における酵母の選択幅を広げ、消費者の嗜好の多様性に応え、原料の特徴を生かした焼酎を製造することが求められている。本格焼酎の多様化は、原料の種類、高品位原料等の原料の種類による多様化から、使用する酵母菌等の微生物の種類、仕込方法、蒸留方法、貯蔵期間、貯蔵方法、精製方法及びブレンド等の製法による多様化へと移行し、品質管理面でも細心の対応が要求されるようになってきている。焼酎の香り成分や味に関係するアルコール類、エステル類、有機酸等は酵母の発酵代謝によるものが多く、こうした発酵代謝によって生成する成分の微妙な調和によって優れた香味の焼酎が製造されている。また、かかる発酵代謝物を生成する酵母は、優れた香りや味のその他の飲食品の製造においても有効であると考えられる。
従って、こうした嗜好に対応するための新しい酵母の開発が求められている。
平成16年度・第49号 宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告(平成17年11月30日発行) 平成17年度・第50号 宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告(平成19年2月発行) 平成18年度・第51号 宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告(平成20年3月発行)
本発明は、醸造もろみにおいて増殖速度が大きく、アルコール発酵性が高く、また香味などの嗜好性の点からも醸造酵母として好適に使用することができる、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する新規酵母を提供することを目的とする。また本発明は、当該新規酵母を用いた酒の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決を目指して、200株余りの野生酵母を用いて検討を重ねていたところ、醸造もろみにおいて増殖速度が大きく、アルコール発酵性が高い上記目的に適うサッカロマイセス・セレビシエに属する酵母を見出し、当該酵母は、且つ下記(a)〜(c)のコロニー染色性を示す点で、従来公知の醸造酵母とは異なる新規な酵母であることを確認した:
(a)グルコースを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験においてコロニーが赤色を示す、
(b)マルトース、α-メチル-D-グルコシドおよびガラクトースからなる群から選択されるいずれかを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験においてコロニーがいずれもピンク色を示す、
(c)ジアゾカップリング染色法による活性試験においてコロニーが暗赤色を示す。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の構成を有するものである。
(I)新規酵母
(I-1)下記(a)〜(c)のコロニー染色性を示す、サッカロマイセス・セレビシエに属する新規酵母MF062(NITE P-667):
(a)グルコースを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験においてコロニーが赤色を示す、
(b)マルトース、α-メチル-D-グルコシドおよびガラクトースからなる群から選択されるいずれかを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験においてコロニーがいずれもピンク色を示す、
(c)ジアゾカップリング染色法による活性試験においてコロニーが暗赤色を示す。
(I-2)醸造酵母である(I-1)に記載する新規酵母。
(II)酒の製造方法
(II-1)酒の製造工程において、醸造酵母として(I-1)または(I-2)に記載する酵母を用いることを特徴とする酒の製造方法。
(II-2)酒が焼酎である、(II-1)に記載する酒の製造方法。
(II-3)酒が芋焼酎である、(II-1)に記載する酒の製造方法。
(III)酒
(III-1)(II-1)〜(II-3)のいずれかに記載する製造方法により製造される酒。
(III-2)酒が焼酎である(III-1)に記載する酒。
(III-3)酒が芋焼酎である(III-1)に記載する酒。
本発明により提供されるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母は、焼酎もろみにおいて増殖速度が大きく、アルコール生産性が高いため、醸造酵母として、酒、特に焼酎の製造に好適に使用することができる。
パルスフィールド電気泳動による酵母(酵母MF062、既存酵母A〜H)の染色体DNA泳動パターンである。 各酵母(酵母MF062、既存酵母A〜H)について、麦麹発酵試験(20℃)における二酸化炭素減量(g)の経時変化を示すグラフである。 各酵母(酵母MF062、既存酵母A〜H)について、麦麹発酵試験(38℃)における二酸化炭素減量の経時変化を示すグラフである。 各酵母(酵母MF062、既存酵母A〜H)について、麦麹発酵試験(38℃)で得られる熟成もろみ中のアルコール分(%(v/v))を示すグラフである 各酵母(酵母MF062、既存酵母H)について、甘藷焼酎一次もろみ経過時間(h)に伴う、もろみ温度の変化を示すグラフである。 各酵母(酵母MF062、既存酵母H)について、甘藷焼酎二次もろみ経過時間(h)に伴う、もろみ温度の変化を示すグラフである。 酵母MF062について、甘藷焼酎の一次もろみと二次もろみのアルコール濃度(%(v/v))の経時変化を示した結果である。
(I)新規酵母
本発明の酵母は、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母であって、下記(a)〜(c)に示す染色性試験を行った場合に、コロニーがそれぞれ下記特定の色に染色されることを特徴とする:
(a)Glucose−TTC染色性試験(古川敏郎、秋山裕一:農化,37,398(1963)):赤色
(b)非Glucose−TTC染色性試験(村上英也、吉田清、野呂二三、稲橋正明、服部裕子:醸協,77,181(1982)):ピンク色、
(c)D.C.染色性試験(溝口晴彦、藤田栄信:醗工,59,185(1981)):暗赤色。
ここで、(a)Glucose-TTC染色性試験は、グルコースを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験である。具体的には、対象とする菌体を適当に希釈し(1プレートに約200程度となるよう)、グルコースを炭素源とするTTC下層培地に30℃で2日間プレート培養して形成したコロニーの上へ、グルコースを炭素源とするTTC上層培地を溶解後45℃程度にしてから静かに重層し、固まった後、30℃で2〜3時間放置し、コロニーの色を観察することによって実施される。
(b)非Glucose-TTC染色性試験は、上記(a)試験で使用するグルコースに代えて、マルトース、α-メチル-D-グルコシドおよびガラクトースからなる群から選択されるいずれかを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験である。具体的には、対象とする菌体を適当に希釈し(1プレートに約200程度となるよう)、上記糖類を炭素源とするTTC下層培地に30℃で2日間プレート培養して形成したコロニーの上へ、上記糖類を炭素源とするTTC上層培地を溶解後45℃程度にしてから静かに重層し、固まった後、30℃で2〜3時間放置し、コロニーの色を観察することによって実施することができる。
(c)D.C.染色性試験(ジアゾカップリング染色法による活性試験)は、酸性ホスファターゼ活性の有無を評価するための試験である。具体的には、対象とする菌体を適当に希釈し(1プレートに約200程度となるよう)、TTC下層培地に30℃で2日間プレート培養して形成したコロニーの上へ、上層用軟寒天〔加熱溶解した3%寒天5mL、染色液(α-ナフチルリン酸ナトリウム0.05%、およびFast Blue Salt B 0.05%を含む0.01M、pH4酢酸緩衝液)5mL〕を溶解後45℃程度にしてから静かに重層し、固まった後、室温下に30分から1時間放置し、コロニーの色を観察することによって実施することができる。この試験で、コロニーが暗赤色に染色される場合、酸性ホスファターゼ活性があると判断される。すなわち、本発明の酵母は、酸性ホスファターゼ活性を有することを特徴とする。
なお、これらの試験で使用するTTC上層培地およびTTC下層培地の組成は下記の通りである。
Figure 0005380650
このような特徴を有する本発明の酵母の菌学的性質、具体的には、形態的性質および胞子形成の有無は実験例1に記載の通りであり、また培地における生育状態、および生理学的性質(糖発酵性、資化性)は、実験例2に記載の通りである。
また本発明の酵母の26S rDNA遺伝子の塩基配列について、遺伝子データベースであるMicroSeqTMD2 Fungal Database v.0050c(Applied Biosystems)を用いてBLASTホモロジー検索を行った結果、当該データベースに登録された公知のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)との相同性は、100%であった。
これらのことから、この酵母は、 サッカロマイセス・セレビシエに属する新規酵母であると同定し、微生物の表示(識別の表示)を「MF062」とし、2008年11月6日に、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8に住所を有する「独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター」に寄託した(受託番号NITE P-667、受託日2008年11月27日)。
かかる本発明の酵母は、20℃及び28℃における比増殖速度において既存酵母と差はなく、高い増殖性を示した。38℃では、既存酵母に比して本発明の酵母が最も高い比増殖速度を示し、また酵母生菌率も最も高いことから、本発明の酵母は、既存酵母と比較して高温域での増殖性に優れている。また麦麹発酵試験(「本格焼酎技術開発事業 研究成果報告書(平成3年度)平成4年8月」(日本酒造組合中央会、本格しょうちゅう新技術開発研究会)参照)で20℃において、本発明の酵母は既存酵母よりも立ち上がりが早く、また38℃において既存酵母より熟成もろみのアルコール分が高いことから、本発明の酵母は広い温度域において醸造適性があると考えられる。
さらに、本発明の酵母を使用して製造した甘藷焼酎は、「甘味がある、丸味がある、キレが良い、香ばしい、芋らしい」等の味、風味および口あたりにおいて良好な評価が得られることから、本発明の酵母は増殖性、発酵性、焼酎の酒質等の観点から、既存酵母と比較して、バランスの良い優良酵母と考えられる。
(II)酒の製造方法
本発明は、酒の製造工程において、上記本発明の酵母を醸造酵母(種菌)として用いることを特徴とする酒の製造方法に関する。
ここで本発明が対象とする酒は、酵母による糖のアルコール発酵を利用して製造されるアルコール飲料である。具体的には、ビール、発泡酒、果実酒、ワイン、シャンパン、発泡ワイン、シードル、紹興酒、日本酒、及びどぶろく等の醸造酒;ウイスキー、スコッチ、バーボン、ジン、ブランデー、白酒、焼酎、泡盛、及び古酒などの蒸留酒;チューハイ、梅酒、及びカンパリ等のリキュールなどが含まれる。好ましくは焼酎である。
本発明が対象とする焼酎は、酒税法および酒税法施行例や規則などの法令に定められた材料から製造されるものであればよく、例えば米焼酎、黒糖焼酎、芋焼酎、麦焼酎、蕎麦焼酎、ヒエ焼酎、アワ焼酎、トウモロコシ焼酎、コウリャン焼酎、キビ焼酎などが含まれる。またこれらの焼酎は、麦焼酎と米焼酎など、2種以上をブレンドしたものであってもよい。好ましくは芋焼酎、特に甘藷を用いて製造される芋焼酎である。また酒税法で分類される「連続式蒸留焼酎」および「単式蒸留焼酎」のいずれもが含まれる。
本発明の酵母は、焼酎の製造工程において、通常の醸造酵母を用いるのと同様に用いることができる。例えば、一次仕込みで、麹米、汲み水と共に本発明の酵母を添加する。なお、本発明の酵母を用いて本格焼酎(単式蒸留焼酎)を製造する場合、酵母は予め前培養しておくことが好ましい。例えば、寒天斜面培地などに保持されている酵母を、使用前に適当な液体の完全栄養培地で振とう培養し、それを酵母源として用いることが好ましい。なお、完全栄養培地には、例えば、YPD培地といわれる酵母エキス1%、ペプトン2%、およびグルコース(ブドウ糖)5%の組成からなる培地や、MYGP培地といわれる麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース(ブドウ糖)1%の組成からなる培地などが含まれる。
発酵の原料としては、糖質を含有するもの、セルロース質あるいはデンプン質のもの、例えば、サトウキビやこれから採った糖蜜、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシ、キャッサバ、テンサイなど、果物あるいは野菜の汁、例えば、麦芽汁、ブドウ果汁、リンゴ果汁、ミカン果汁など、穀物、例えば、米、小麦などから調製されたもろみなど、小麦粉を主として含むもの、例えば、パン生地、菓子パン生地、饅頭生地などをも挙げることができる。穀物、例えば、米、小麦など、ジャガイモ、サツマイモなどのイモ類などに含まれるセルロース質あるいはデンプン質のものを利用する場合、それらセルロース質あるいはデンプン質のものを予め発酵可能な糖類に変換しておくことが好ましい。
目的とする飲料の種類に応じ、酒税法及び酒税法施行令や規則などの法令に定められた原料を用いることがこのましい。例えば、本格焼酎では、米、麦、ヒエ、アワ、トウモロコシ、コウリャン、キビ、及びこれらから得られる糖質を用いることができる。糖質は酵母によりそのまま発酵しうるが、デンプン質、セルロース質などのものはまず液化酵素、糖化酵素などにより発酵可能な糖質に転化された後、本酵母の作用を受け発酵せしめられる。このような酵素源としては当該分野で公知のもののうちから選択して用いることが出来、例えば、麦芽、麹などに含まれるもの、乳酸菌、糸状菌、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)などの麹生産菌などが生産するもの、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ジアスターゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、ラクターゼなどの酵素などを挙げることができる。
ちなみに、本格焼酎(単式蒸留焼酎)の製造方法は、概略次のとおりである。ただし、この方法は教科書的な代表的な製造方法であり、実際は、操作や条件などを適宜変更して使用するのが一般的である。
(1)原料処理:麹原料である米または大麦を洗い、一定時間浸漬して水切り後に蒸きょうする。
(2)製麹:蒸米または蒸大麦を適温まで冷却してから麹菌(白または黒麹菌)の胞子を散布してよく混ぜ合わせ、33℃から40℃の温度で約40時間かけて製麹する。
(3)一次もろみ(酒母):麹に水と焼酎酵母を加えてよく混合し、25℃から30℃の温度で約7日間かけて酵母の増殖を図る。
(4)二次もろみ:一次もろみに主原料と水を加えてよく混合し、25℃から30℃の温度で8日から20日間(主原料の種類によって日数が異なる)かけて発酵させる。なお、主原料の種類によって焼酎の種類が決まる。例えば、主原料が甘藷なら甘藷(芋)焼酎、米なら米焼酎という。
(5)蒸留:二次もろみを単式蒸留機に入れ、水蒸気で加熱して蒸留する。
(6)ろ過:蒸留直後の原酒に含まれる油成分等の、過剰の不要物をろ過して取り除く。
(7)熟成:原酒をタンクまたはカメなどに入れて3か月から10年かけて熟成させる。
(8)精製:原酒に含まれる余分な成分を、ろ過や吸着などの方法により取り除いて精製する。
(9)びん詰め:精製後の原酒に水を加えて市販焼酎のアルコール度数に調整した後、仕上げろ過をし、びん詰めして市販酒とする。
以下に、本発明の構成並びに効果を明確にするために、実施例を記載する。但し、本発明はこれらの実施例に何ら影響されるものではない。
なお、下記の実施例において、サッカロマイセス・セレビシエに属する新規な酵母菌株として、微生物の表示(識別の表示)を「MF062」とし、平成20年11月6日に、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8に住所を有する「独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター」に寄託した酵母菌株(受託番号NITE P-667)を使用した。以下、これを「酵母MF062」と称する。
実験例1 酵母MF062の形態学的性質
酵母MF062と既存の醸造酵母との異同を判断するため、形態学的性質について観察した。
(1)形態学的性質
(1-1)菌の形態
MYGP培地(麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース(ブドウ糖)1%、pH4)を用い、上記酵母MF062および従来より焼酎製造に使用されている既存の酵母8種類(既存酵母A〜H)のそれぞれの菌体を28℃で2日間培養し、菌の形態を光学顕微鏡で観察した。酵母MF062の結果を下記に示す:
(a)栄養細胞の大きさ:4〜8μm程度
(b)栄養細胞の形状:卵型
(c)増殖の形態:出芽。
MYGP培地を用いて28℃で2日間培養したときの菌の形態は、酵母MF062も既存酵母A〜Hも変わらなかった。
(1-2)コロニーの形態
またMYGP寒天培地上(麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース(ブドウ糖)1%、寒天1.5%:pH6.5程度)で、酵母MF062および既存酵母A〜Hを28℃条件で2日間培養したところ、酵母MF062は円滑で光沢のある表面を有する直径2〜3mmの白色不透明のコロニーを形成した。当該コロニーは凸円状に隆起した、周縁円滑な円状形態を呈していた。酵母MF062のコロニーの形態を下記に示す:
(a)形態:円
(b)隆起:凸円状
(c)周縁:円滑
(d)大きさ(直径):2〜3mm
(e)色調:白色で不透明
(f)表面:円滑で光沢あり。
また、既存酵母A〜Hが形成するコロニーの形態も、上記酵母MF062とほとんど変わらなかった。
(2)胞子形成の有無
長谷川武治編「微生物の分類と同定(上),170(1984)、学会出版センター」に記載の方法により、酵母MF062および既存酵母A〜Hのそれぞれについて、酢酸カリウム培地(酢酸カリウム1%、酵母エキス0.1%、ブドウ糖0.05%、寒天2%:pH約6.5)上で20〜25℃で5〜7日間培養して、子のう胞子の有無を光学顕微鏡観察した。その結果、既存酵母Aを除く全ての酵母(酵母MF062、既存酵母B〜H)について、子のう胞子の形成が見られた。
実験例2 酵母MF062の生理学的性質
(1)生育pHおよび生育温度
MYGP培地(麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース(ブドウ糖)1%)を用いた培養において、酵母MF062は、pH3〜7程度、好ましくはpH3.5〜6程度のpH条件で良好に生育した。また2〜43℃程度、好ましくは15〜38℃程度の温度条件で良好に生育した。
(2)糖発酵性
酵母MF062および既存酵母A〜Hについて、YP液体培地(各糖2%、酵母エキス0.5%、ペプトン1%、およびBTB溶液を含む)を用いて糖発酵性を評価した。
具体的には、それぞれ1種類ずつの糖(グルコース、ガラクトース、シュークロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、トレハロース、メリビオース)を2%含み、またBTB溶液で着色したYP液体培地に、それぞれの酵母菌体を白金耳により接種して、25℃で2日間インキュベートし、ダーラム管に蓄積した二酸化炭素量及び液体培地の色により、糖発酵性を観察した。ダーラム管に気体(二酸化炭素)が蓄積し、且つ発酵により培地が酸性に傾き、BTB溶液を含む培地の色が黄緑色から黄色になった場合に糖発酵性がある(+)と判断される。
結果を表2に示す。なお、表2中、「Blank」は、YP液体培地に酵母を植菌せずに、同様に25℃で2日間インキュベートしたときの結果を示す(コントロール試験結果)。また表1には、「S.cerevisiae」について得られる結果を合わせて示す。ここに示す結果は、「THE YEASTS / A TAXONOMIC STUDY (Fourth Revised and Enlarged Edition):Editors; C.P.Kurtzman, J.W.Fell(ELSEVIER SCIENCE B.V.)」に基づくものであって、「S.cerevisiae」の各糖に対する発酵性の有無を示す。なお、表中、「v」とは「variable」の意味で、「S.cerevisiae」であっても菌(株)の違いによって、当該糖に対して発酵性があるものとないものがあることを示す。
Figure 0005380650
表2からわかるように、糖発酵性について、酵母MF062は、既存酵母Aとは相違したが、それ以外の既存酵母B〜Hとは相違しなかった。またいずれの酵母も産膜性は見られなかった。
(3)炭素源等の資化性
平板培地を使用して酵母MF062の各種成分(検討成分:表2)の資化性について試験した。対照酵母として、上記と同じ既存酵母A〜Hの合計8種類を用いて同様に各種成分の資化性を評価した。
具体的には、Bacto社のYeast Nitrogen Base(検討成分が糖等の炭素源である場合)又はYeast Carbon Base(検討成分が炭素源以外の硫安、エチルアミン、L-リジン、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、カダベリンである場合)に、表2に記載する各種の成分をそれぞれ1種類ずつ最終濃度が2%となるように添加した寒天平板に、酵母菌体(酵母MF062、既存酵母A〜H)を白金耳により接種して30℃で4日間インキュベートし、資化性を観察した。
なお、資化性の評価方法は、「THE YEASTS / A TAXONOMIC STUDY (Fourth Revised and Enlarged Edition):Editors; C.P.Kurtzman, J.W.Fell(ELSEVIER SCIENCE B.V.)」に基づいて行った。菌の増殖を確認できた場合を「+」、増殖を確認できなかった場合を「−」、いずれか判定不能な場合を「±」として判断した。表3に結果を示す。
Figure 0005380650
この結果からわかるように、表3に記載する各種の成分に対する資化性に関して、酵母MF062は、既存酵母B、C、D、E、FおよびHと共通の資化性を有していた。
(4)TTC染色性
TTC染色
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きょうかい6号、7号、9号、10号などの醸造酵母(清酒用酵母)として優良酵母は、いずれもTTC(2,3,5-trimethyltetrazolium chloride)によって赤色に染まるが、野生酵母は桃色に染まる。これを利用して、酒母およびもろみ中の酵母の純度を調べる方法である。すなわち、酵母によりTTCによる染色性が違うことを利用した酵母の識別法である。また、糖源を変えることにより、染色性が変わってくるので、より細やかに酵母を識別することができる。
古川、秋山の方法(古川敏郎、秋山裕一:農化,37,398(1963))に従って、グルコースを炭素源として用いてTTC染色性試験(以下、「Glucose-TTC染色性試験」という)を行った。具体的には、酵母菌体(酵母MF062、既存酵母A〜H)を適当に希釈し(1プレートに約200程度)、グルコースを炭素源とするTTC下層培地(2.0%グルコース、2.5%寒天、0.1% yeast extract、0.2% polypepton、0.1% KH2PO4、0.04% MgSO4・7H2O、pH約6.5)に30℃で2日間プレート培養し、次いで形成されたコロニー上に、グルコースを炭素源とするTTC上層培地(0.5%グルコース、0.05%TTC(2,3,5-trimethyltetrazolium chloride)、1.0%寒天、pH約6.5)を溶解後45℃程度にしたものを静かに重層した。培地が固まった後、30℃で2〜3時間放置し、放置後のコロニーの呈色を観察した。
また、村上らの方法(村上英也、吉田清、野呂二三、稲橋正明、服部裕子:醸協,77,181(1982))に従って、炭素源としてグルコースの代わりにマルトース、α-メチル-D-グルコシド、またはガラクトースを用いて、上記と同様にしてTTC染色性試験(以下、「非Glucose-TTC染色性試験」という)を行い、コロニーを染色し、その呈色を観察した。
結果を表4に示す。
Figure 0005380650
表4に示すように、酵母MF062のコロニーは、Glucose-TTC染色性試験では赤色を、非Glucose-TTC染色性試験ではいずれもピンク色を呈した。既存酵母A〜Hのコロニーは、いずれもGlucose-TTC染色性試験では酵母MF062のコロニーと同様に赤色を呈した。一方、非Glucose-TTC染色性試験において、既存酵母Aのみが、酵母MF062と同様に、全ての炭素源(マルトース、α-メチル-D-グルコシド、ガラクトース)でピンク色を呈した。
(5)D.C.染色性
酸性ホスファターゼ活性を調べるために、溝口、藤田の方法(溝口晴彦、藤田栄信:醗工,59,185(1981))に従ってD.C.染色性試験(ジアゾカップリング染色法による活性試験)を行った。具体的には、酵母菌体(酵母MF062、既存酵母A〜H)を適当に希釈し(1プレートに約200程度になるように)、TTC下層培地(前述、pH6.5)に30℃で2日間プレート培養し、次いで形成したコロニー上に、上層用軟寒天(加熱溶解した3%寒天5mL、染色液(α-ナフチルリン酸ナトリウム0.05%、Fast Blue Salt B 0.05%を含む0.01M、pH4酢酸緩衝液)5mL、pH約4)を溶解した後45℃程度にしたものを静かに重層した。培地が固まった後、室温にて30分から1時間放置し、放置後のコロニーの呈色を観察し、コロニーが暗赤色に染色された場合に、酸性ホスファターゼ活性があると判断した。
結果を表5に示す。
Figure 0005380650
その結果、酵母MF062のコロニーは暗赤色を示し、酸性ホスファターゼ活性があることが判明した。一方、既存酵母A〜Hのうち、既存酵母B〜DおよびFのコロニーのみが暗赤色を示し、酵母MF062と同様に酸性ホスファターゼ活性が認められたが、既存酵母A、E、GおよびHには酸性ホスファターゼ活性は認められなかった。
(6)染色体DNA
パルスフィールド電気泳動による染色体DNA泳動パターンを図1に示す。
なお、電気泳動にかけるに際して試料は下記のように調製した(BIO-RADの「CHEF Genomic DNA Plug Kits」使用。その手順はKitsのマニュアルに準じた)。
<試料の調製>
1.酵母細胞を30℃無菌下、YPD培地(1%酵母エキス、2%グルコース、2%ペプトン)で36〜48時間培養する。
2.4℃、3,000rpm、10分間遠心分離し、集菌する。
3.上清を捨て、蒸留水で再度懸濁し、遠心分離する。
4.上清を捨て、0.05M EDTA pH8で再懸濁し、遠心分離する。
5.上清を捨て、Lyticaseバッファー300μLで再懸濁する。
6.2mg/mL Lyticase 100μLを上記5で調製した懸濁液に加え、37℃で20分間保温する。
7.2%クリーンカットアガロースを50℃にし、得られたアガロース溶液の0.9mLに、上記65で調製した懸濁液0.3mLを均一になるよう素早く混合する。
8.ディスポーザブルプラグモールドに上記7で調製した混合液を注入し、4℃で20分かけて固化する。
9.アガロースサンプルを清浄なスパーテルで取り出し、2.5mLのlyticaseバッファーに移し、37℃で一晩保温する(16〜24時間)。
10.上記で得られた試料からlyticaseバッファーを取り除き、ミリQで洗浄し、2.5mLのProteinaseバッファーを加えたものに、100μLのProteinase K stockを加える。
11.1×Wash Bufferでゆっくりと攪拌しながら常温で1時間ずつ4回洗浄して、電気泳動用試料とする。
上記で調製した試料を、BIO-RADの「CHEF-DR IIシステム」に供して電気泳動をした。
図1に示すように、酵母MF062は、いずれの既存酵母A〜Hと異なるバンドパターンを示した。このことから酵母MF062は、既存酵母A〜Hと異なる酵母であることが分かった。
(7)遺伝子解析(26S rDNA遺伝子D2領域塩基配列による遺伝子解析)
まず酵母細胞を30℃無菌下、YPD培地(1%酵母エキス、2%グルコース、2%ペプトン)で36〜48時間培養した。つぎに、YPD培地酵母菌体からの酵母DNAの抽出・精製は、「GenとるくんTM」(酵母用)(タカラバイオ株式会社製)のキットを使用して行った。得られた試料を「MicroSeqTMD2 LSU rDNA Fungal Sequencing Kit」のプロトコルに従ってPCR増幅・精製処理し、サイクルシークエンシング法によりシークエンス反応を行い、反応物を精製した。次いで得られた試料について、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)により電気泳動を行い、323bpの塩基配列を決定した。次いで、決定した塩基配列の相同性検索を、MicroSeqTMD2 Fungal Database v.0050c(Applied Biosystems)のDatabaseを用いてBLASTホモロジー検索を行った結果、当該データベースに登録された公知のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)との相同性はいずれも100%であった。
以上(1)〜(7)の結果、特に(4)、(5)、(6)の結果から総合的に判断して、酵母MF062は、既存酵母A〜Hとは異なる、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母であると断定される。また、当該酵母MF062の性質は、20代にわたる継代培養を行っても維持されていて、本菌株の独特の性質であることが確認された。
実験例3 酵母の増殖試験
酵母MF062及び既存酵母A〜Hを、20℃、28℃および38℃でそれぞれの温度条件で培養し、増殖速度を比較した。また、その場合の酵母密度と酵母生存率も比較した。
(1)増殖速度
まず各酵母を、5mLのMYGP培地(麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース(ブドウ糖)1%、pH4.0)で28℃、48時間、静置により前培養した。次いで得られた前培養酵母100μLを、L字試験管のMYGP培地(pH4.0)10mLに植菌した。温度勾配振とう培養機(ADVANTEC製バイオフォトレコーダTN-2612)を用いて20℃、28℃及び38℃の各温度条件で120時間振とう培養し、経時的に培地の光学濃度(OD660)を測定して比増殖速度(hr-1)を算出した。結果を表6に示す。なお、表6は、対数増殖期における光学濃度を時間で微分した値、すなわち変曲点での接線の傾きである最大比増殖速度を示す。
Figure 0005380650
表6に示すように、20℃及び28℃では、酵母MF062と既存酵母の間で殆ど差は認められなかったが、38℃では、酵母MF062の比増殖速度が0.329(1/hr)と、既存酵母C以外の既存酵母A〜BおよびD〜Hの比増殖速度(0.205−0.298(l/hr))とは有意に異なって高かった。このことから酵母MF062は高温域(33〜38℃)での増殖性が有意に高いと考えられた(高温域での増殖性に優れる)。
(2)酵母密度及び酵母生菌率
(1)の培養において、120時間培養した後の培養液を用いて、酵母密度及び酵母生菌率を、メチレンブルー染色法により測定した。具体的には、まず0.02%メチレンブルー溶液と0.2Mリン酸緩衝液(M/5 Na2HPO4 0.25ml及びM/5 KH2PO4 99.75ml)を等量混合し、メチレンブルーの1/10000溶液(pH4.6)(色素液)を作った(「京都大学農学部食品工学教室編:食品工学実験書下巻,P38(1979)」)。酵母細胞が0.1〜0.5%の乾燥物濃度になるように懸濁液を作り、この1mlと上記色素液1mlとを混合し、この混合液中に含まれる酵母細胞数を、トーマのヘマトメーターを使用して5分間以内に計数し、青色に染まらない細胞数(生存細胞数)と全細胞数との比の100倍数を酵母の生菌率(%)とした。さらに全細胞数から酵母密度を算出した。
20℃及び28℃培養後の酵母生菌率(%)は、酵母MF062を含むいずれの酵母も概ね95%以上であった。一方、表7に示すように、38℃培養後の酵母生菌率は、既存酵母のすべての生菌率が90%を下回っていたが、酵母MF062は93.2%と高い値を示し、この結果からも酵母MF062は、既存酵母A〜Hと有意に異なって、高温耐性が高いと考えられた。
Figure 0005380650
実験例4 麹発酵試験
酵母MF062及び既存酵母A〜Hを用いて麦麹を調製し、これを20℃、28℃、および38℃の各温度で9日間発酵させ、経時的に二酸化炭素減量(g)を測定して、発酵状況を評価した。また、9日間の発酵終了直後に、熟成もろみのアルコール濃度を測定した。
(1)二酸化炭素減量の測定
具体的には、酵母MF062及び既存酵母A〜Hを、5mLのMYGP培地(pH4.0)で28℃、24時間振とうし、前培養酵母を得た。製麹は、丸麦と河内白麹菌の種麹を使用して、常法により行った。
得られた麦麹50gに汲み水60mLを加え、これに上記で調製した前培養酵母100μLを合わせてもろみとし、20℃、28℃、および38℃の各温度でそれぞれ9日間発酵させ、発酵前のもろみの重量、発酵途中ならびに発酵終了後のもろみの重量の差異から、経時的な二酸化炭素量減量(g)を測定した。
図2に、もろみを20℃で発酵させたときの二酸化炭素減量(g)の経時変化を、また図3に、もろみを38℃で発酵させたときの二酸化炭素減量(g)の経時変化を示す。
酵母MF062(―■―)を用いた場合、発酵24時間後の二酸化炭素減量(g)は、発酵温度が38℃、28℃、および20℃の順に大きかった。28℃では216時間まで順調に二酸化炭素減量の値が伸びた。38℃では72時間までは順調な伸びを示すものの、それ以後の伸びはほとんど見られなかった。38℃では28℃の場合よりも24時間において急激な伸びが見られた。酵母MF062は、他の既存0酵母よりも比較的立ち上がりが早く、その立ち上がりの早さは、発酵温度が20℃、28℃および38℃と、高温になるにつれて大きくなった。また、もろみを20℃で発酵させたときは、既存酵母のうち、既存酵母D、F、C及びHは立ち上がりが特に遅かった。
なお、二酸化炭素減量が大きいということは、エチルアルコールが多く生成されている、すなわち酵母によるアルコール発酵が進んでいることを意味する。発酵は、一般的に目的微生物と他の雑菌である微生物との増殖、代謝の競争である。よって早く増殖してアルコール発酵をすることにより、酵母に非常に有利な条件を整え、乳酸菌等の雑菌の妨害を避けることができる。すなわち、酵母MF062についてアルコール発酵の立ち上がりが早いということは、酵母MF062によれば安全に正常なもろみの発酵が行える可能性が高いことを意味する。
(2)熟成もろみアルコール濃度の測定
20℃、28℃および38℃での麦麹発酵試験熟成もろみのアルコール濃度を、9日間の発酵終了直後、すなわち10日目(発酵終了後1日目)に、国税庁所定分析法に基づいて測定した。
具体的には、もろみをNo.2濾紙で濾過した試料をHEWLETT PACARD 5890 SERIES II ガスクロマトグラフ(DB-WAX;I.D.0.53mm×30m, Film 1μm, 55→170℃(4℃/min),FID検出器)を用いて測定した。
38℃での麦麹発酵試験熟成もろみのアルコール濃度を図4に示す。
発酵温度が20℃及び28℃の場合は、いずれの酵母も有意差なくもろみ中のアルコール濃度は高かった(結果示さず)。これに対して、発酵温度を38℃とすると、酵母MF062以外の既存酵母はもろみのアルコール濃度が低下し、唯一、酵母MF062のみが38℃において他の酵母よりアルコール濃度が高かった(11.6%)(図4参照)。これらのことからわかるように、酵母MF062は、20〜38℃もの広い温度域において効率よくアルコールを生成することから、醸造適性(実用性)が高いと考えられた。
実験例5 甘藷焼酎の製造
本発明の酵母MF062および対照として既存酵母Hを使用して、表8に記載する仕込配合に従って甘藷焼酎を製造した。
Figure 0005380650
各酵母(酵母MF062および既存酵母H)は、MYGP完全栄養培地(麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース(ブドウ糖)1%)50mlに、同様な培地2mlでリフレッシュした酵母を100μl接種し、28℃で2日間静置培養したものを使用した。
製麹は原料米として精白米を、種麹として白麹菌(Aspergillus Kawachii)を使用し、通常の方法により行った。一次もろみは、上記で調製した酵母と汲み水を米麹に加えて6日間発酵させた。二次もろみは、甘藷(コガネセンガン)を蒸煮粉砕し、汲み水とともに、それぞれ一次もろみに掛けて14日間発酵させた。これらの熟成もろみを常圧蒸留して、甘藷焼酎を得た。
一次及び二次もろみの初期の品温経過を、それぞれ図5及び6に示す。酵母がアルコール発酵する場合、発熱を伴うので温度が上昇し、二酸化炭素の泡の発生が見られる。これらの結果より、本発明の酵母MF062のもろみの発酵開始は、既存酵母Hのそれに比べて早いことが分かる。
実験例4(2)と同様の方法により、甘藷焼酎もろみのアルコール濃度を経時的に測定した結果を、図7に示す。この図から、本発明の酵母MF062の発酵状態は良好であることが判った。さらに得られたもろみの純アルコール収得量は203L/原料tであった。以上から、本発明の酵母MF062は、甘藷焼酎製造において良好な発酵力を有し、高いアルコール生産性があることが確認された。
実験例6 甘藷焼酎の官能試験
実験例5で調製した甘藷焼酎について官能試験を行った。具体的には、官能試験は、香味、旨味、甘味、丸味、切れ味、香ばしさ、芋らしさおよび雑味の有無などの観点から3点法(1:良、2:普通、3:悪)で行った。表9にパネラー4人の評価および平均点及びコメントを示す。
Figure 0005380650
本発明の酵母MF062を用いて調製した焼酎は、雑味がなく、甘味がある、丸味がある、キレがよい、香ばしい等の良好なバランスに優れていた。
焼酎もろみから、焼酎もろみにおいて増殖速度が大きく、アルコール生産性が高い新菌株を取得することができた。本発明による酵母を用いることにより、焼酎製造においては、甘味がある、丸味がある、キレがよい、香ばしい等のバランスに優れた酒質の焼酎製造を行うことが可能となる。
NITE P-667

Claims (5)

  1. 下記(a)〜(c)のコロニー染色性を示す、サッカロマイセス・セレビシエに属する新規酵母MF062(NITE P-667):
    (a)グルコースを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験においてコロニーが赤色を示す、
    (b)マルトース、α-メチル-D-グルコシドおよびガラクトースからなる群から選択されるいずれかを炭素源とするTTC寒天を用いたTTC染色性試験においてコロニーがいずれもピンク色を示す、
    (c) ジアゾカップリング染色法による活性試験においてコロニーが暗赤色を示す。
  2. 醸造酵母である請求項1に記載する新規酵母。
  3. 酒の製造工程において、醸造酵母として請求項1または2に記載する酵母を用いることを特徴とする酒の製造方法。
  4. 酒が焼酎である、請求項3に記載する酒の製造方法。
  5. 請求項3または4に記載する製造方法で製造された酒。
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