図1は、実施の形態に係る自動水栓16を備えたシンク15の断面図である。図1に示すように、シンク15は、キッチンカウンタに設けられた凹状に窪むボウル部151と、吐水口168が設けられた自動水栓16とを備えている。自動水栓16は、キッチンカウンタの上面をなすカウンタトップ156上に備えられている。図示はしないが、ボウル部151は、その最深部に排水口を備えている。以下、シンク15は、主に食器洗い等をするためのキッチンシンクであることとする。
自動水栓16は、カウンタトップ156に対する台座をなす基部161と、一端を基部161と接続し、他端をボウル部151に向ける略円弧状の吐水部160を備える。吐水部160の他端には吐水口168が開口し、また、対象物センサ1の検知面を形成するフィルタ板165が備えられている。フィルタ板165は、赤外領域の光を選択的に透過する樹脂製フィルタである。対象物センサ1は吐水部160内部に配置されている。対象物センサ1は、下方向、すなわち対象物センサ1からボウル部151への方向を物体検知の向きとし、所定の距離範囲における物体の有無を検知する。
基部161は、水栓胴体部とも言え、カウンタトップ156に固定設置される。吐水部160は、管路、吐水パイプまたはカランとも言える。吐水部160は、基部161に対して水平方向に回動自在に連結されている。ユーザは、シンク15での作業の都合に応じて、吐水部160を把持して水平方向(図1の場合、手前側もしくは奥側)に自由に回動させることができる。
吐水部160には、基部161との連結部近傍であり、言い換えれば、吐水部160の回動軸の近傍位置に、角度検知部182が内蔵されている。角度検知部182は、吐水部160の回動を検知し、回動結果としての吐水部160の向きを検知する。角度検知部182は、公知の角位置センサやロータリエンコーダにより実現されてよい。角度検知部182は、吐水部160の向きを示す信号を後述の状態判定部184へ出力する。
基部161の上部には、ユーザが吐止水を手動で制御するための入力手段である手動操作スイッチ180を備える。図1には不図示だが、手動操作スイッチ180は、吐水、止水、流量調整、温度調整をユーザが指示するための複数のスイッチやボタンを含む。手動操作スイッチ180は、ユーザ操作が入力されると、操作内容を示す信号を状態判定部184へ出力する。
基部161の内部には、手動操作スイッチ180および角度検知部182の近傍位置に状態判定部184を備える。状態判定部184は、手動操作スイッチ180と角度検知部182に共通の制御回路であり、ユーザによる手動操作内容を判定するとともに、吐水部160の現在の角度位置を判定する。状態判定部184は、伝送部材186を介して制御部3と接続される。
具体的には状態判定部184は、手動操作スイッチ180の出力信号にもとづいて、手動操作スイッチ180に対するユーザ操作の内容を検出する。状態判定部184は、検出したユーザ操作の内容を示す操作情報を伝送部材186を介して制御部3へ送信する。また状態判定部184は、角度検知部182の出力信号にもとづいて、吐水部160の向きであり、具体的には所定の基準に対する現在の角度を検出する。状態判定部184は、検出した吐水部160の角度情報を伝送部材186を介して制御部3へ送信する。
このように、自動水栓16では、手動操作スイッチ180と角度検知部182を近傍位置に配設し、両者の制御回路を共通化し、また、制御部3への伝送部材186も共用する。これにより、自動水栓16の部品点数の削減、製造コストの低減を実現している。
シンク15には制御部3が内蔵されている。給水配管12および給水配管12に設けられた水栓(電磁弁)であるソレノイド11を介して、吐水部160に水が供給される。吐水部160に供給された水は、吐水口168から吐水される。
自動水栓16は、対象物センサ1による検知結果をもとに吐水および止水を自律的に制御する。図2は、対象物センサ1の断面図である。対象物センサ1は、吐水の対象となる物体の有無を検知する対物センサであり、図2で示すように、センサユニット2およびフィルタ板165を含む。対象物センサ1の動作は、シンク15に内蔵される制御部3によって制御される。対象物センサ1、制御部3、およびソレノイド11の連携・連動により、自動の吐止水を実現する。
図2に示すように、センサユニット2は、LED(Light Emitting Diode)素子251およびラインセンサ261を筐体21に収容したユニットである。センサユニット2は、制御部3から電力供給を受けて動作する。センサユニット2には、発光部25および撮像部26が取り付けられている。発光部25はフィルタ板165を通して赤外光を照射し、撮像部26はその反射光を撮像する。赤外光を発光する発光部25は、LED素子251と投光レンズ255とを備える。撮像部26は、ラインセンサ261と集光レンズ265とを備える。発光部25と撮像部26とは、遮光性を備えた隔壁211を挟んで水平方向に所定のオフセット量ずらして配置されている。なお、ラインセンサ261は、例えばCCD(charge-coupled device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の既知の固体撮像素子を用いて実現できる。
LED素子251は、パッケージ基板のキャビティに実装されたLEDチップ250を透明樹脂254により封止した発光素子であり、赤外光を照射する。発光部25において、LED素子251は、縦方向のスリット孔253を設けた遮光性の素子ケース252によって覆われている。これにより、発光部25は、拡がり角が抑制されたシャープな光を測距対象に向けて投射することが可能となる。
図3は、ラインセンサ261を示す斜視図である。ラインセンサ261は、受光量を電気的な物理量に変換する画素260が直線的に配列された1次元の撮像センサである。ラインセンサ261は、有効画素として64個の画素260を備えている。ラインセンサ261は、これら64個の画素260により受光エリア263が形成されている。ラインセンサ261は、ボウル部151の鉢面150(言い換えればシンク15の底面)に向くように取り付けられる。ラインセンサ261の画角に手などの遮蔽物がない状態であれば、その撮像範囲にボウル部151の鉢面150が包含される。
ラインセンサ261は、受光動作を実行する毎に撮像データを出力する。ラインセンサ261が出力する撮像データは、受光量の度合いを表す256階調の画素値が各画素260の並び順に配列された1次元のデジタルデータである。なお、ラインセンサ261は電子シャッター(図示せず)を備えている。ラインセンサ261は、電子シャッターを用いて露光時間を調整することにより、撮像データにおける各画素260の受光量の飽和を回避することができる。
図4は、制御部3の機能構成を模式的に示すブロック図である。制御部3は商用電源から電力の供給を受けて動作し、各センサからの通知内容にもとづいてソレノイド11を制御する。この制御を実現するために、制御部3は、撮像制御部31、距離測定部32、給水制御部33、対象物判定部34、設定情報記憶部36、設定更新部38を備える。
本明細書のブロック図で示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
撮像制御部31は、撮像部26内のラインセンサ261と、発光部25内のLED素子251を制御する。具体的には、撮像制御部31は、動作期間と非動作期間が交互に現れる間欠動作が行われるようにラインセンサ261を制御するとともに、動作期間においてLED素子251を発光させる。例えば撮像制御部31は、0.3〜0.5秒毎に動作期間と非動作期間を設定してラインセンサ261を制御してもよい。撮像制御部31は、前回の動作期間が終了してからインターバル時間が経過するまでの間、ラインセンサ261への電源供給を停止して非動作期間を設定し、インターバル時間が経過したときに電源供給を再開して動作期間を設定する。
撮像制御部31は、1回の動作期間において、2回の受光動作が実行されるようにラインセンサ261を制御する。1回目の受光動作は、LED素子251の発光を伴わずに実行される。2回目の受光動作は、LED素子251の発光を伴って実行される。撮像制御部31は、受光動作毎に撮像データが出力されるようにラインセンサ261を制御する。
距離測定部32は、ラインセンサ261が撮像した撮像データをもとに、ラインセンサ261から測距対象までの距離を測定する。距離の測定を実現するために、距離測定部32は、差分演算部321と特徴点特定部322とを備える。以下、距離測定部32における差分演算部321と特徴点特定部322を説明する。
図5は、差分演算部321が実行する差分データの生成手順を示す。差分演算部321は、LED素子251の発光がない1回目の受光動作による撮像データである無発光時データC(x)と、LED光(LED素子251の投射光)の下での2回目の受光動作による発光時データL(x)とを取り込む。差分演算部321は、取り込んだデータを図示しない作業メモリに記録する。
差分演算部321は、作業メモリに記録した発光時データL(x)から無発光時データC(x)を減算して、両者の差分データD(x)を求める。ここで、xは、0〜63の画素番号を示し、L(n)等は、画素番号nの画素の画素値を表す。周囲光に加えてLED光有りの発光時データL(x)から、周囲光のみの無発光時データC(x)を、差し引いた差分データD(x)は、周囲光の影響が抑制され、LED光に応じた反射光の成分となる。
特徴点特定部322は、差分演算部321が求めた差分データD(x)にもとづいて、特徴点の位置を計算する。ここで「差分データD(x)の特徴点の位置」とは、測距対象の距離を測定するために用いる差分データD(x)上の位置である。より具体的に、差分データD(x)の特徴点の位置は、差分データD(x)上の位置に対応するラインセンサ261上の位置で表される。ラインセンサ261上の位置は、例えばラインセンサ261の画素番号で表すことができる。なお、ラインセンサ261の画素番号は必ずしも整数値でなくてもよく、サブピクセルを示す実数値であってもよい。
特徴点特定部322が算出する差分データD(x)の特徴点は、測距対象の距離を測定するために利用できればどのようなものでもよく、例えば差分データD(x)を頻度分布と見なしたときの、モードやメジアン、重心等に対応する点である。実施の形態に係る特徴点特定部322は、計算負荷の軽減のため、簡易的な計算方法により算出する重心位置を特徴点とする。以下この算出方法について、横軸に画素番号x、縦軸に画素値(受光量)D(x)が規定された図6を参照して説明する。
図6は、特徴点特定部322が実行する差分データD(x)の特徴点の算出手順の一例を示す。同図は、横軸をx、すなわちラインセンサ261の画素番号とし、縦軸をxの関数である差分データD(x)の値、すなわち反射光の光量とした場合のグラフである。
特徴点特定部322は、まず、差分データD(x)を積算し、ラインセンサ261の64画素の画素値の総和SDを求める。図6において、総和SDは、右上がりの斜線ハッチングで示す領域の面積に相当する。特徴点特定部322は、受光エリア263の左端の画素番号ゼロの画素から順番に各画素260の画素値を積算し、その積算値がSD/2に達したときの画素番号Nの画素(黒丸で図示)の位置を、差分データD(x)の重心位置とする。図6において、積算値SD/2は、右下がりの斜線ハッチングで示す領域の面積に相当している。この領域は、総和SDの領域に包含されており、図6において、クロスハッチの領域として把握される。
ユーザの手や茶碗等の洗い物等、測距対象の反射光の差分データD(x)は、一般に図7に示すような山型の分布となる。ここで、差分データD(x)の特徴点(例えば重心位置)は、撮像部26から測距対象までの距離によって異なる。
図7は、測距対象と撮像部26との距離と、差分データD(x)の特徴点の位置との関係を示す。本図は、図1に示したシンク15におけるセンサユニット2、ボウル部151の鉢面150、およびユーザの手の位置関係を模式的に示している。本図で示すように、LED素子251が照射したLED光のうち測距対象である手による反射光がラインセンサ261に入射する際、撮像部26と測距対象との距離によって入射位置が異なる。
撮像部26と測距対象との距離が短いほど、ラインセンサ261に対する入射位置は、図7において右側となり、距離が長くなるほど左側に位置することになる。具体的に、撮像部26と測距対象との距離がL1のとき、その反射光はラインセンサ261上の点P1に入射する。撮像部26と測距対象との距離がL1よりも長いL2であると、その反射光はラインセンサ261上の点P2に入射する。図7において、点P2は点P1よりも左側となる。なお、図6において左から右に向かうx軸は、図7においては右から左に向かう。したがって、撮像部26と測距対象との距離が短いほど、その反射光の差分データD(x)の特徴点のx座標が小さくなる。つまり、撮像部26から測距対象までの距離と、特徴点である重心のラインセンサ261におけるx座標の値とは、一対一対応する。
ラインセンサ261におけるx座標の値と、測距対象までの距離との対応関係は予めメモリ等の記憶装置に保持されてもよい。したがって、特徴点特定部322は、測距対象の反射光の差分データD(x)における特徴点のx座標を求めることにより、撮像部26と測距対象との距離を求めることができる。
なお、距離測定部32は、発光部25の発光に応じた反射光の入射位置にもとづき、三角測量の原理を利用して測距対象までのを測定してもよい。例えば、ラインセンサ261におけるx座標の値と、ラインセンサ261への反射光の入射角度との対応関係が予め記憶装置に保持されていてもよい。特徴点特定部322は、測距対象の反射光の差分データD(x)における特徴点のx座標を求め、そのx座標と対応付けられた入射角度を特定してもよい。そして、その入射角度と、予め定まる発光部25から撮像部26までの距離にもとづいて、発光部25と測距対象との距離を求めてもよい。
図4に戻り、対象物判定部34は、対象物センサ1から所定の距離範囲における物体(以下「検知対象」とも呼ぶ。)の有無を判定する。具体的には、対象物判定部34は、対象物センサ1からの距離を示す閾値であり、測距対象を検知対象とするか否かを特定するために予め定められた検知閾値(図7)を保持する。検知閾値は、自動水栓16の開発者の知見や経験、自動水栓16を用いた実験等により適切な時間が設定されてよい。例えば、対象物センサ1の設計上、検知対象の有無を検知可能、言い換えれば、検知対象までの距離を計測可能な上限距離に設定されてもよい。
対象物判定部34は、距離測定部32の特徴点特定部322が測定した距離Lが、検知閾値よりも短い場合、当該測距対象を検知対象として検知する。その一方、特徴点特定部322が測定した距離Lが、検知閾値以上の場合、検知対象を非検知とし、すなわち吐水の対象物が存在しないと判定する。対象物判定部34は、検知対象の有無を示す情報(以下「対象物有無情報」とも呼ぶ。)を給水制御部33へ出力する。なお、図4に示す構成に代えて、撮像制御部31、距離測定部32、対象物判定部34を含むセンサユニットとして対象物センサ1を構成してもよい。
設定情報記憶部36は、自動水栓16に対して設定された各種情報を記憶する記憶素子(例えば半導体メモリ)である。設定情報記憶部36は、自動吐水を許可する吐水部160の向きを定めた情報(以下「自動吐水条件」と呼ぶ。)を記憶する。図8は、自動水栓16が設置されたシンク15の平面図である。本図を参照して、自動吐水条件について説明する。回動可能範囲40は、自動水栓16の吐水部160が回動可能な範囲を示す。方向42と方向44はそれぞれ、回動可能範囲40の両端における吐水部160の向きを示している。方向46は、現在の吐水部160の向きを示している。
実施の形態の自動吐水条件は、所定の基準方向と、吐水部160の向きとの間で形成される角度であり、自動吐水を許可する角度(以下「許可角度」と呼ぶ。)を定める。許可角度は、角度範囲として複数の角度を含んでもよい。実施の形態では、方向42を基準とし、吐水部160が回動して、方向42と方向46のズレが大きくなるほど、吐水部160の現在角度が大きくなることとする。図8では、許可角度が90度に設定された場合の、自動吐水を許可する回動範囲を自動吐水許可範囲48で示し、自動吐水を抑制する回動範囲を自動吐水抑止範囲50で示している。典型的には、シンク15のボウル部151へ吐水する範囲が自動吐水許可範囲48に設定される。
変形例として、方向42以外の別の方向を基準としてもよく、例えばシンク15の長手方向に対して垂直に交わる方向(例えば図8の方向46)を基準方向としてもよい。また、基準方向から平面図における時計回りに吐水部160を回動させた場合の角度を正数とし、基準方向から平面図における反時計回りに吐水部160を回動させた場合の角度を負数としてもよい。方向46が基準の場合、許可角度が例えば−80度から10度に設定されると、図8で示す自動吐水許可範囲48と自動吐水抑止範囲50が形成される。
また設定情報記憶部36は、後述の条件更新モードにおける吐水部160の向き(現在角度)を、新たな自動吐水条件(許可角度)とするか否かを判定する基準として、図7に示す距離閾値を記憶する。距離閾値は、ユーザが自動吐水を意図しない吐水部160の向きであり、すなわち誤吐水の危険性がある吐水部160の向きを自動吐水条件から除外するための閾値である。図7の範囲Aは、例えばカウンタトップ156等への誤吐水の危険性がある範囲と言える。
好適には、距離閾値として、対象物センサ1(吐水口168)からカウンタトップ156までの想定距離以上の値が設定される。また好適には、距離閾値として、対象物センサ1(吐水口168)が、シンク15のボウル部151上にあると想定される対象物までの距離が設定される。例えば、距離閾値として、対象物センサ1がボウル部151の鉢面150を検知する場合の典型的な値が設定されてもよい。
図4に戻り、給水制御部33は、各センサの検知内容に応じて、言い換えれば、対象物判定部34と状態判定部184の判定結果に応じてソレノイド11(電磁弁)を開くよう制御し、吐水口168から吐水させる。または、ソレノイド11を閉じるよう制御し、吐水口168からの吐水を停止させ、すなわち自動水栓16を止水する。
まず、ユーザ操作に基づく手動吐水処理を説明する。給水制御部33は、止水中において、手動操作スイッチ180に対する吐水を指示する所定のユーザ操作(例えば吐水ボタン押下)が検出されることを契機に吐水を開始させる。また、吐水中において、手動操作スイッチ180に対する止水を指示する所定のユーザ操作(例えば止水ボタン押下)が検出されることを契機に吐水を停止させる。
次に自動吐水処理を説明する。給水制御部33は、吐水部160の向きが自動吐水条件を満たす場合、対象物センサ1による対象物検知を契機に吐水を開始させる。その一方、吐水部160の向きが自動吐水条件を満たさない場合、対象物センサ1が対象物を検知しても吐水を抑制する。自動吐水中に、対象物センサ1による対象物の非検知状態が所定時間以上(例えば1〜2秒)継続すると、給水制御部33は吐水を停止させる。
設定更新部38は、自動水栓16に対して所定の自動吐水条件更新操作がユーザにより入力された場合に、その操作にもとづいて設定情報記憶部36に記憶された自動吐水条件を更新する。自動吐水条件更新操作は、吐水部160を回動させる操作を含む。設定更新部38は、吐水部160の回動中に、角度検知部182により検知された吐水部160の向きにもとづいて、自動吐水条件を更新する。
自動吐水条件の更新方法の例を説明する。
(1)条件設定モードへの切替:
ユーザは、自動吐水条件更新用の動作状態である条件設定モードへの移行操作として、手動操作スイッチ180に対する所定の操作を入力する。この移行操作は、例えば、止水ボタンを5秒以上押下することでもよい。この移行操作の入力が状態判定部184により検出されると、制御部3は条件設定モードへ移行する。
(2)自動吐水条件を設定:
ユーザは、任意の範囲で吐水部160を回動させる。例えば、回動可能範囲の一端から他端まで、回動可能範囲の全体に亘り吐水部160を回動させる。条件設定モードにおいて、対象物判定部34は、対象物センサ1により検知された対象物までの距離情報を設定更新部38へ送信する。条件設定モードにおいて、設定更新部38は、設定更新部38から送信された対象物までの距離情報を取得し、また、状態判定部184から送信された吐水部160の角度情報を取得する。
設定更新部38は、対象物センサ1により検知された対象物までの距離が、設定情報記憶部36に記憶された距離閾値(図7)以上である場合に、角度検知部182により検知された吐水部160の現在角度を新たな許可角度として一時的に記憶する。吐水部160の回動に伴い、新たな現在角度が状態判定部184から通知される都度、設定更新部38は、この許可角度取得処理を繰り返す。
図8の例において、ユーザが自動水栓16の吐水部160を方向42から方向44まで160度回動させると、設定更新部38は、例えば0度から90度を許可角度として取得する。その一方、91度から160度を許可角度から除外する。これにより、自動吐水許可範囲48と自動吐水抑止範囲50が形成されることになる。
変形例として、条件設定モードへの切替後、ユーザに、自動吐水を許可する範囲に限定して吐水部160を回動させることとしてもよい。この場合、設定更新部38は、条件設定モードにおいて、状態判定部184から通知された吐水部160の現在角度を許可角度として取得し、距離閾値による許可角度の制限は行わない。そのため、ユーザが吐水部160を回動させた範囲がそのまま自動吐水許可範囲となる。
(3)条件設定モードを終了:
ユーザは、条件設定モードの終了操作として、手動操作スイッチ180に対する所定の操作を実行する。この終了操作も、例えば、止水ボタンを5秒以上押下することでもよい。この終了ユーザ操作の入力が状態判定部184により検出されると、制御部3は条件設定モードを終了する。このとき設定更新部38は、設定情報記憶部36に記憶されたそれまでの自動吐水条件である許可角度を削除し、条件設定モード中に取得した新たな許可角度を新たな自動吐水条件として設定情報記憶部36に保存する。
なお、条件設定モード中に許可角度を取得する都度、その許可角度を設定情報記憶部36へ保存する構成でもよい。また、条件設定モードへの移行と終了のためのユーザ操作は、吐止水等の操作と区別可能な他の操作であってもよい。例えば、対象物センサ1に対して所定時間以上手をかざす操作であってもよい。また、吐水部160の上部に、ユーザによる吐止水操作の検知手段として、ユーザの手の近接を検知するセンサを設ける場合、そのセンサに対して所定時間以上、手を近接させる操作であってもよい。
以上の構成による実施の形態に係る自動水栓16の動作を説明する。
図9は、自動水栓16の動作を示すフローチャートである。本フローチャートの処理は、制御部3の電源が投入されたときに開始する。開始直後は給水を停止した状態であり、すなわち止水状態である(S10)。
止水中において、手動操作スイッチ180に対するユーザ操作を示す操作情報を状態判定部184から受信し(S12のY)、その操作情報が条件設定モードへの移行操作を示す場合(S14のY)、制御部3は条件設定モード処理を実行する(S16)。操作情報が条件設定モードへの移行操作でなく、吐水指示操作を示す場合(S14のN)、給水制御部33は吐水を開始させる(S18)。操作情報を未受信で(S12のN)、対象物検知を示す対象物有無情報を対象物判定部34から受信した場合(S20のY)、状態判定部184から受信する角度情報が示す吐水部160の現在角度が許可角度の範囲内であれば(S22のY)、吐水を開始させる(S18)。対象物非検知を示す対象物有無情報を受信し(S20のN)、または、吐水部160の現在角度が許可角度の範囲外であれば(S22のN)、S10に戻り、止水状態を維持する。
対象物センサ1による対象物検知を契機とした自動吐水中に(S24のY)、対象物検知を示す対象物有無情報を所定時間以上受信しなければ(S26のY)、S10に戻り、吐水を終了させる。ユーザ操作を契機とした手動吐水中であり(S24のN)、または、自動吐水中で、対象物検知を示す対象物有無情報を受信状態であり(S26のN)、ユーザによる止水指示操作を示す操作情報を未受信であれば(S28のN)、S18に戻り、吐水を継続する。その一方、ユーザによる止水指示操作を示す操作情報を受信すると(S28のY)、S10に戻り、吐水を終了させる。
図10は、図9のS16の条件設定モード処理の詳細を示すフローチャートである。条件設定モードにおいて、設定更新部38は、対象物判定部34から受信した対象物有無情報が、検知対象物までの距離が距離閾値以上であることを示す場合(S30のY)、状態判定部184から受信した角度情報が示す吐水部160の現在角度を許可角度として記録する(S32)。その一方、検知対象物までの距離が距離閾値未満であれば(S30のN)、S32をスキップし、すなわち吐水部160の現在角度を許可角度から除外する。
条件設定モードの終了を指示する操作情報を状態判定部184から受信すると(S34のY)、本図のフローを終了し、図9のS10に戻る。その操作情報を未受信であれば(S34のN)、S30に戻る。ユーザによる吐水部160の回動操作が継続すれば、図10の処理を繰り返し実行する。これにより、吐水部160の回動操作に応じた許可角度の範囲が設定され、すなわち自動吐水許可範囲が設定される。
図11および図12は、従来の自動水栓と、実施の形態の自動水栓16の動作例を示す。図11(a)に示すように、従来の自動水栓330は、回動軸に回動を制限する機構を設け、吐水口がシンク15から外れないように、回動可能範囲40を制限していた。したがって、シンク15外には手動でも自動でも吐水できなかった。
これに対し、図11(b)で示すように、実施の形態の自動水栓16は、許可角度の範囲外であるシンク15外への自動吐水を抑止するが、回動可能範囲40自体は制限しない。そのため、手動操作であれば、シンク15外に吐水させることができる。これにより、例えばカウンタトップ156に置かれた鍋332等に水を汲むことができ、ユーザの利便性を向上できる。
また、図12(a)に示すように、従来の自動水栓330は、回動可能範囲40における自動吐水許可範囲48と自動吐水抑止範囲50が固定されていた。したがって、自動水栓の取り付け位置が変わると一品番では対応できなかった。例えば、自動水栓330aの位置では問題が生じなくても、同一品番の自動水栓が自動水栓330bの位置に取り付けられると、自動吐水抑止範囲50がシンク15内に形成され、シンク15内での自動吐水が制限されてしまう。また、自動吐水許可範囲48がカウンタトップ156上に形成され、誤吐水が発生する虞がある。
これに対し、図12(b)で示すように、実施の形態の自動水栓16は、自動水栓の取り付け位置やユーザの都合に応じて、自動吐水許可範囲48と自動吐水抑止範囲50を簡便に調整可能である。したがって、自動水栓16aの位置に取り付けられる場合も、自動水栓16bの位置に取り付けられる場合も、自動吐水許可範囲48をシンク15内に設定し、自動吐水抑止範囲50をカウンタトップ156上に設定することができる。すなわち、一品番で全ての現場に対応可能となる。
このように、実施の形態の自動水栓16によると、ユーザが自動吐水を意図しない場所、例えばワークトップへの誤吐水の発生を防止できる。また、吐水部160の回動可能範囲のうち自動吐水許可範囲(言い換えれば自動吐水抑止範囲)をユーザが簡便に設定可能である。例えば、シンクと水栓の位置関係は現場(例えばキッチン)毎に異なるが、各現場において最適な自動吐水許可範囲を簡便に設定できる。これにより、誤吐水の防止と使い勝手の良さを両立できる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
第1の変形例を説明する。上記実施の形態では、吐水部160の回動軸に設けた角度検知部182(エンコーダ等)により吐水部160の向きを検知することとしたが、変形例として、吐水部160の吐水口168近傍に設けた加速度センサにより吐水部160の向きを検知してもよい。
図13は、第1の変形例に係る自動水栓16を備えたシンクの断面図である。本変形例の自動水栓16は、実施の形態の手動操作スイッチ180と角度検知部182に代えて、手動操作部190と加速度センサ192を備える。手動操作部190は、ユーザが手動で吐止水を指示する場合に、タッチ(タップ)する部材である。加速度センサ192は、吐水部160の水平方向の加速度を検知するとともに、鉛直方向の加速度を検知する公知の3軸加速度センサである。加速度センサ192は、ユーザの手動操作を検出する手段と、吐水部160の向きを検出する手段を兼ねる。
加速度センサ192は、ユーザによる手動操作部190に対するタッチ(タップ)操作により生じる吐水部160の垂直方向加速度を検出することに好適な位置、かつ、ユーザによる吐水部160の回動操作により生じる吐水部160の水平方向加速度を検出することに好適な位置に設置されることが望ましい。図13では、吐水部160におけるユーザに正対する面、すなわちユーザがタッチ(タップ)操作しやすい位置であり、吐水口168の近傍位置に手動操作部190を設けている。また吐水部160は、手動操作部190の近傍位置であり、吐水口168の近傍位置に加速度センサ192を内蔵している。
図14は、図13の制御部3の機能構成を模式的に示すブロック図である。第1の変形例に係る制御部3は状態判定部188を備える。状態判定部188は、実施の形態において基部161に設けられた状態判定部184に対応する。状態判定部188は、加速度センサ192が鉛直方向の加速度を検知した場合に、その大きさを示す信号を加速度センサ192から受信する。状態判定部188は、鉛直方向の加速度が所定値以上である場合に、吐水または止水を指示するユーザ操作、すなわち手動操作部190に対するタッチ(タップ)操作が検知された旨の操作情報を給水制御部33へ出力する。
また状態判定部188は、加速度センサ192が水平方向の加速度を検知した場合に、その大きさを示す信号を加速度センサ192から受信する。状態判定部188は、水平方向の加速度にもとづき吐水部160の現在の向き(角度)を判定する。状態判定部188は、吐水部160の向きを示す角度情報を給水制御部33へ出力する。なお、図14に示す構成に代えて、状態判定部188を含むセンサユニットとして加速度センサ192を構成してもよい。
吐水部160の現在角度を判定する一例として、状態判定部188は、水平方向の加速度を検知する前の吐水部160の角度を記憶してもよい。状態判定部188は、検知した水平方向の加速度を積分して水平方向の移動距離(円弧の長さ)を算出し、その移動距離にもとづいて吐水部160の向きの変化(角度の変化分)を特定してもよい。そして、水平方向の加速度を検知する前の吐水部160の角度と、角度の変化分にもとづいて、吐水部160の現在角度を特定してもよい。
このように、角度検出手段として加速度センサ192を用いることもできる。また、1つの加速度センサ192で、ユーザの手動操作を検出する機能と、吐水部160の向きを検出する機能の両方を実現することで、自動水栓16の部品点数を低減できる。また、より小さいスペースで使いやすい自動水栓を実現できる。
第2の変形例を説明する。実施の形態では、吐水部160を回動自在に保持する基部161がカウンタトップ156に固定された自動水栓16を示したが、自動水栓の構造には様々な変形態様が考えられる。例えば、吐水部160を回動自在に保持する基部161が壁に固定される壁付水栓がある。また、吐水部160が基部161に固定される一方、基部161が、カウンタトップ156やシンク15、壁等に対し回動自在に設置される水栓がある。また、1つ以上の稼働部(例えば関節)を備え、各稼働部がユーザ操作に応じて変形することで、吐水口168の位置が移動する水栓がある。また、吐水部160が壁に連結され、吐水部160が壁上を左右にスライドする水栓がある。
実施の形態に記載の技術は、上記のような様々な態様の自動水栓に適用可能である。すなわち、自動水栓16における吐水部160は、固定設置された本体部(例えば基部161、壁、カウンタトップ156等)に対して移動可能に連結されてよい。対象物センサ1(状態判定部184)は、吐水部160の現在位置を検知してもよい。例えば、実施の形態と同様に、吐水部160の現在角度で現在位置を検知してもよい。また、各稼働部の状態の組み合わせにより現在位置を検知してもよい。関節型の水栓では、各関節の角度と吐水部160の位置との対応関係を予め保持し、各関節の現在角度にもとづいて吐水部160の現在位置を特定してもよい。また、スライド型の水栓では、所定の基準(例えば左端)からの距離を測定することにより、吐水部160の現在位置を特定してもよい。
設定情報記憶部36は、自動吐水を許可する吐水部160の位置を定めた自動吐水条件を記憶する。自動吐水条件は、実施の形態と同様に、所定の基準に対する吐水部160の向き(角度)であってもよい。また、各稼働部の状態を定めた条件、例えば各関節の角度や所定の基準からの距離を定めた条件であってもよい。他の構成は実施の形態の自動水栓16と同様であり、給水制御部33は、吐水部160の位置が自動吐水条件を満たすことを条件として自動吐水を実行する。また設定更新部38は、所定のユーザ操作にもとづいて、設定情報記憶部36に記憶された自動吐水条件を更新する。例えば、関節型の水栓やスライド型の水栓である場合も、条件設定モードにおいてユーザが吐水部160を移動させ、その移動中に検知された対象物までの距離が所定の距離であるときの吐水部160の位置にもとづいて自動吐水条件を更新してもよい。
第3の変形例を説明する。上記実施の形態では、自動吐水を許可する自動吐水条件、具体的には許可角度を記憶し、その自動吐水条件が充足される場合に対象物検知を契機に自動吐水を行うこととした。変形例として、自動吐水を禁止する自動吐水禁止条件、具体的には禁止角度を記憶し、その自動吐水禁止条件が充足される場合、対象物を検知しても自動吐水を抑制してもよい。この場合、ユーザは、条件設定モードにおいて、自動吐水を禁止する範囲を、吐水部160の向きで指定してもよく、また、設定更新部38は、対象物までの距離が実施の形態の距離閾値未満の吐水部160の向きを自動吐水禁止条件として記録してもよい。
第3の変形例に記載の自動水栓は、以下の項目で特定することもできる。
(項目)
吐水口を有し、水平方向に回動自在の吐水部と、
吐水部の向きを検知する第1検知部と、
吐水を禁止する吐水部の向きを定めた吐水禁止条件を記憶する記憶部と、
物体の有無を検知する第2検知部と、
吐水部の向きが吐水禁止条件を満たす場合に、第2検知部による物体検知を契機に吐水させることを抑制する給水制御部と、
所定のユーザ操作にもとづいて前記記憶部に記憶された吐水禁止条件を更新する更新部と、を備えることを特徴とする自動水栓。
請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施の形態および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。例えば、請求項に記載の第1検知部は、実施の形態の角度検知部182(または加速度センサ192)、状態判定部184の組み合わせにより実現されてもよい。また、請求項に記載の第2検知部は、実施の形態の対象物センサ1、撮像制御部31、距離測定部32、対象物判定部34の組み合わせによって実現されてもよい。