加えて、近年、AMTであって、変速機としてシンクロナイザリングを含むシンクロメッシュ機構が設けられていないタイプのもの(ノンシンクロトランスミッションとも呼ばれる。)が用いられた構成が開発されてきている。ノンシンクロトランスミッションは、シンクロメッシュ機構が設けられた変速機と比べて、シンクロナイザリングの省略に起因して、変速機の全長が短い、シンクロナイザリングの回転に係る摩擦損失が発生しない、並びに、変速機の重量が軽い、などの利点を有する。
ノンシンクロトランスミッションの変速においては、変速ショック(変速に起因する車両の前後加速度の急激な変化)を抑制することが好ましい。このため、変速前の変速段の遊転ギヤと係合しているスリーブを中立位置まで軸方向に移動することによって(前記係合を解除して)ニュートラル段を実現した後、シンクロメッシュ機構に代わる何等かの手段を用いて、変速機の入力軸の回転速度を「同期回転速度」に一致するように調整する必要がある。その後、変速機入力軸の回転速度が「同期回転速度」に維持された状態にて、変速後の変速段に対応するスリーブ(以下、「第1スリーブ」と呼ぶ)を中立位置から「変速後の変速段の遊転ギヤ(以下、「第1遊転ギヤ」と呼ぶ)との噛合完了位置」まで軸方向に移動することによって、第1スリーブのドグ歯が第1遊転ギヤのドグ歯と完全に噛合わされる。
ここで、「同期回転速度」とは、「変速後の変速段が実現された状態における車両の速度に対応する変速機の入力軸の回転速度」を指す。以下、変速機入力軸の回転速度を「同期回転速度」に一致することを「同期」と呼び、変速機入力軸の回転速度を「同期回転速度」に一致するように変更・調整することを、「同期を行う」、「同期する」などと呼ぶ(以下、本明細書において同じ)。同期が完全に維持されることは、第1スリーブと第1遊転ギヤとの相対回転速度がゼロに維持されることを意味する。
ノンシンクロトランスミッションを備えたAMTでは、変速機入力軸の回転速度の同期を行うため、内燃機関トルクを利用する手法が考えられる。この場合、クラッチトルクを内燃機関トルクより大きい値に維持した状態(即ち、クラッチを接合状態に維持した状態)で、内燃機関トルクを調整することによって変速機入力軸の回転速度の同期が行われ得る。この同期は、例えば、内燃機関の出力軸の回転速度(=変速機入力軸の回転速度)を検出するセンサから得られる回転速度が、車速を検出するセンサの検出結果に基づいて算出される「同期回転速度」に一致するように、内燃機関トルクがフィードバック制御されることによって達成され得る。
以下、このように内燃機関トルクを利用して変速機入力軸の回転速度の同期が行われる場合を想定する。ノンシンクロトランスミッションでは、通常、第1遊転ギヤは、ドグ歯として、トルク伝達歯と、前記トルク伝達歯より第1スリーブに向けて軸方向に突出している噛合歯と、を周方向にて交互に備え、第1スリーブは、ドグ歯として、第1歯と、前記第1歯より第1遊転ギヤに向けて軸方向に突出している第2歯と、を周方向にて交互に備える。
内燃機関トルクを利用して変速機入力軸の回転速度が「同期回転速度」に維持された状態(即ち、第1スリーブと第1遊転ギヤとの相対回転速度がゼロに維持される状態)にて、第1スリーブを中立位置から「第1遊転ギヤとの噛合完了位置」に向けて軸方向に移動していく過程を考える。この過程において、第1スリーブが「第1スリーブの第2歯の端部と第1遊転ギヤの噛合歯の端部とが係合開始する位置」(即ち、突出しているドグ歯同士が係合開始する位置。第1位置。後述する図10を参照)に達すると、それ以降、第1スリーブの各第2歯の端部が、第1遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯同士の間にそれぞれ入り込む。その後、第1スリーブが「第1スリーブの第2歯の端部と第1遊転ギヤのトルク伝達歯の端部と、又は、第1スリーブの第1歯の端部と第1遊転ギヤの噛合歯の端部と、が係合開始する位置」(即ち、突出しているドグ歯と突出していないドグ歯とが係合開始する位置。第2位置。後述する図11を参照)に達すると、それ以降、第1スリーブの各第2歯の端部が第1遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間、又は、第1遊転ギヤの各噛合歯の端部が第1スリーブの周方向に隣接する第1歯及び第2歯の間、にそれぞれ入り込む。その後、第1スリーブが「第1遊転ギヤとの噛合完了位置」(後述する図13を参照)まで達すると、第1スリーブの移動が完了する(第1スリーブと第1遊転ギヤとが完全に噛み合った状態となる。)。
上記の過程において、第1スリーブが前記「第1位置」に達した場合は、その後において所謂「アップロック」が発生し難い。これは、「第1遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯同士の間隔」が比較的広いことに基づく。ここで、「アップロック」とは、「噛合うべき2つのドグ歯の間で周方向の位相が一致することに起因して、2つのドグ歯の端部の向かい合う側面同士が接触して第1スリーブが第1遊転ギヤに向けてその位置から進行できない現象」を指す。
一方、上記の過程において、第1スリーブが前記「第2位置」に達した場合は、その後において「アップロック」が比較的発生し易い(後述する図12を参照)。これは、「遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間の間隔、又は、第1スリーブの周方向に隣接する第1歯及び第2歯の間の間隔」が比較的狭いこと、並びに、「同期」に使用される上述した各種センサの検出誤差及び外乱等に起因して第1スリーブと第1遊転ギヤとの間の周方向の相対位相関係が実際には定まらないこと、に基づく。
このように、「第2位置」での「アップロック」が発生すると、第1スリーブがその位置から更に移動し難くなり、第1スリーブが「第1遊転ギヤとの噛合完了位置」まで到達し得ない、或いは、前記噛合完了位置に到達するまでに比較的長い時間がかかる、という問題が発生し得る。第1スリーブを前記噛合完了位置までスムーズに移動させること(即ち、変速作動がスムーズになされること)が望まれているところである。
本発明の目的は、ノンシンクロトランスミッションを備え、且つ、動力源の駆動トルクを利用して変速機入力軸の回転速度の同期が実行されながら変速作動がなされる車両の動力伝達制御装置(AMT)であって、「第2位置」での「アップロック」が発生する可能性を低減し得るものを提供することにある。
本発明に係る動力伝達制御装置は、AMTに係り、変速機としては、複数の変速段のうち少なくとも1つ以上の変速段がシンクロメッシュ機構を備えないノンシンクロ段であるものが使用される。即ち、変速機は、複数の変速段の全てがノンシンクロ段である必要はなく、複数の変速段のうちの一部がシンクロメッシュ機構を備えるシンクロ段であってもよい。
この装置では、実現される変速段が、「複数の変速段のうちの何れか一つの変速段」から「ノンシンクロ段であるそれ以外の変速段」に変更される際、前記「発明の概要」の欄で記載したように、動力源駆動トルクを利用して「同期」が維持された状態で、前記第1スリーブが、中立位置から「前記第1遊転ギヤとの噛合完了位置」に向けて軸方向に移動していく。この「同期」は、動力源駆動トルクが、「変速機入力軸の回転速度が同期回転速度に維持されるように決定される同期要求値」に調整(フィードバック制御)され続けることによって維持され得る。このように、動力源駆動トルクが同期要求値に調整され続けることによって、実際には、変速機入力軸の回転速度は、同期回転速度を含む所定の範囲内に維持され得る。
この装置の特徴は、「変速作動がなされる際、前記車両が、運転者が加速を要求する加速要求状態、及び、運転者が減速を要求する減速要求状態の何れの状態にあるかが判定される」点、並びに、「第1スリーブが前記「第1位置」に達した後は、前記加速要求状態の場合には動力源駆動トルクが「同期要求値」に代えて「同期要求値より大きい値」に変更・調整され続け、前記減速要求状態の場合には動力源駆動トルクが「同期要求値」に代えて「同期要求値より小さい値」に変更・調整され続ける」点にある。
動力源駆動トルクが「同期要求値」に調整され続けた状態では、上述したように、「同期」に使用される上述した各種センサの検出誤差及び外乱等に起因して、第1スリーブと第1遊転ギヤとの間の周方向の相対位相関係が実際には定まらない。従って、動力源駆動トルクが「同期要求値」に調整され続けた状態で、第1スリーブが前記「第2位置」に達すると、「アップロック」が発生し易い。
この「第2位置」での「アップロック」の発生を防止するためには、第1スリーブが前記「第1位置」を通り過ぎた後から(即ち、第1スリーブの各第2歯の端部が、第1遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯同士の間にそれぞれ入り込んだ後から)、第1スリーブが前記「第2位置」を通り過ぎるまで(即ち、第1スリーブの各第2歯の端部が遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間、又は、第1遊転ギヤの各噛合歯の端部が第1スリーブの周方向に隣接する第1歯及び第2歯の間、にそれぞれ入り込むまで)の間に亘って、「第1スリーブの第2歯の噛合い面が第1遊転ギヤの噛合歯の噛合い面に張り付いた状態(接触し続ける状態)」(以下、「張り付き状態」と呼ぶ)を維持することが有効である、と考えられる。
ここで、「張り付き状態」には、「加速状態に対応する張り付き状態」(車両加速時に維持される張り付き状態)と、「減速状態に対応する張り付き状態」(車両減速時に維持される張り付き状態)と、がある。「加速状態(或いは、減速状態)に対応する張り付き状態」を実現するためには、動力源駆動トルクを「同期要求値」に代えて「同期要求値より大きい値(或いは、小さい値)」に敢えて変更・調整して、変速機入力軸の回転速度を少しだけ大きめ(或いは、小さめ)に調整すればよい。
加えて、変速作動中において車両が前記「加速要求状態」(或いは、前記「減速要求状態」)にある場合には、変速作動終了後において「加速状態(或いは、減速状態)に対応する張り付き状態」が維持される可能性が非常に高い、と考えられる。従って、変速作動中において前記「加速要求状態」(或いは、前記「減速要求状態」)の場合には、第1スリーブが前記「第1位置」を通り過ぎた後、第1スリーブが前記「第2位置」を通り過ぎるまでの間に亘って、「加速状態(或いは、減速状態)に対応する張り付き状態」を維持することによって、変速作動中から変速作動終了後に亘って「張り付き状態」が維持され得る。「張り付き状態」が維持されると、「張り付き状態」の中断及び再開(換言すれば、ドグ歯同士のバックラッシュの存在)に起因する変速ショックの発生を防止することができる。
この装置の上記特徴は、係る知見に基づく。上記特徴によれば、第1スリーブが前記「第1位置」を通り過ぎた後から前記「第2位置」を通り過ぎるまでの間に亘って前記「張り付き状態」が維持され得る。従って、「第2位置」での「アップロック」が発生する可能性が低減され得る。加えて、変速作動中から変速作動終了後に亘って「張り付き状態」が維持され得る(「張り付き状態」の中断及び再開が発生し難い)ので、「張り付き状態」の中断及び再開に起因する変速ショックが発生する可能性を低減することができる。
上記装置においては、前記第1スリーブが前記第1位置に達するまでは、前記第1スリーブを第1速度で前記第1遊転ギヤに向けて移動していき、前記第1スリーブが前記第1位置に達した後は、前記第1スリーブを前記第1速度より小さい第2速度で前記第1遊転ギヤに向けて移動していくように構成されることが好適である。
これによれば、第1スリーブが「第1位置」を通り過ぎてから「第2位置」を通り過ぎるまでの間の時間が比較的長くなる。従って、第1スリーブが前記「第1位置」を通り過ぎた後において、何らかの理由によって、「張り付き状態」が開始されるまでに比較的長い時間が必要となる場合であっても、第1スリーブが「第2位置」を通り過ぎる段階では、「張り付き状態」が既に安定して維持されている可能性が高くなる。この結果、「第2位置」での「アップロック」が発生する可能性がより一層低減され得る。
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関を備え、且つ、トルクコンバータを備えない変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を備えた車両である。
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段(シフト位置)、後進用の1つの変速段(シフト位置)、及びニュートラルを有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。以下、後進用の変速段についての説明は省略する。
図2に示すように、T/Mは、複数の固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iと、複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oと、複数の円筒状のスリーブS1、S2、S3と、を備える。固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iのそれぞれは、入力軸A2に相対回転不能に設けられ、前進用の複数の変速段のそれぞれに対応している。遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oのそれぞれは、出力軸A3に相対回転可能に設けられ、前進用の複数の変速段のそれぞれに対応している。遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oのそれぞれは、対応する固定ギヤと常時歯合するとともに、側面のピースにドグ歯が設けられている。スリーブS1、S2、S3のそれぞれは、出力軸A3に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられ、出力軸A3に対して対応する遊転ギヤを相対回転不能に固定するために対応する遊転ギヤのドグ歯と係合可能なドグ歯を備える。
図2に示すように、T/Mの複数の変速段(1速〜5速)の全てが、遊転ギヤとスリーブとの間に「シンクロナイザリングを含むシンクロメッシュ機構」が設けられていない「ノンシンクロ段」である。換言すれば、T/Mは、ノンシンクロトランスミッションである。
図3は、一例として、スリーブS1のドグ歯と、遊転ギヤG1o、G2oのピースのドグ歯の形状を示すが、その他のスリーブ及び遊転ギヤについても同様である。図3に示すように、スリーブには、周方向において等間隔で配置され且つそれぞれが軸方向に延びる複数のドグ歯(典型的には、内歯)が出力軸A3と同軸的に形成されている。遊転ギヤのピースには、周方向においてスリーブのドグ歯の間隔と同じ等間隔で配置され且つそれぞれが軸方向に延びる複数のドグ歯(典型的には、外歯)が出力軸A3と同軸的に形成されている。
遊転ギヤのドグ歯としては、遊転ギヤのピースの側面からスリーブに向けて軸方向に突出している歯(以下、「噛合歯」と呼ぶ)と、突出していない歯(以下、「トルク伝達歯」と呼ぶ)とが、周方向において等間隔をもって且つ交互に形成されている。同様に、スリーブのドグ歯として、スリーブの側面から対応する遊転ギヤのピースに向けて軸方向に突出している歯(以下、「第2歯」と呼ぶ)と、突出していない歯(以下、「第1歯」と呼ぶ)とが、周方向において遊転ギヤと同じ等間隔をもって且つ交互に形成されている。
以下、「スリーブの第2歯の端部と遊転ギヤの噛合歯の端部とが係合開始する位置」(即ち、突出しているドグ歯同士が係合開始する位置、後述する図10を参照)を、スリーブの「第1位置」と呼ぶ。また、「スリーブの第2歯の端部と遊転ギヤのトルク伝達歯の端部と、又は、スリーブの第1歯の端部と遊転ギヤの噛合歯の端部と、が係合開始する位置」(即ち、突出しているドグ歯と突出していないドグ歯とが係合開始する位置。後述する図11を参照)を、スリーブの「第2位置」と呼ぶ。
スリーブが中立位置(N位置、図3に示す位置)から軸方向に移動していく過程において、スリーブが「第1位置」に達すると、それ以降、スリーブの第2歯の端部は、先ず、遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯同士の間に入り込む。その後、スリーブが「第2位置」に達すると、それ以降、スリーブの各第2歯の端部が遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間、又は、遊転ギヤの各噛合歯の端部がスリーブの周方向に隣接する第1歯及び第2歯の間、にそれぞれ入り込む。その後、スリーブが「遊転ギヤとの噛合完了位置」(後述する図13を参照)まで達すると、スリーブと遊転ギヤとが完全に噛み合った状態となる。前記噛合完了位置は、スリーブの第2歯と遊転ギヤのトルク伝達歯との軸方向における噛合長さが所定値(>0)に達する位置に対応する。
スリーブS1、S2、S3のそれぞれが対応する遊転ギヤと係合していない状態では、ニュートラル段が実現される。スリーブS1、S2、S3のうちの何れか一つが対応する1つの遊転ギヤと係合している状態では、その遊転ギヤに対応する変速段が実現される。
T/Mの変速段の変更・設定は、変速機アクチュエータACT2(図1を参照)によってスリーブS1、S2、S3を駆動し、スリーブS1、S2、S3の軸方向位置を制御することで実行される。変速段を変更することで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。具体的には、「N」速の「減速比」は、「GNoの歯数/GNiの歯数)(N:1,2,3,4,5)で表される。「1速」から「5速」に向けて、減速比は次第に小さくなっていく。
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1(図1を参照)により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークが「0」となる。図4に示すように、クラッチストロークを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSE1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサSE2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサSE3と、エンジンE/Gの出力軸A1の回転速度を検出する回転速度センサSE4と、変速機T/Mの入力軸A2の回転速度を検出する回転速度センサSE5と、クラッチC/Dのクラッチストロークを検出するストロークセンサSE6と、車両の速度(車速)を検出する車速センサSE7と、スリーブS1〜S3の軸方向位置を検出するスリーブ位置センサSE8と、を備えている。
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサSE1〜SE8、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/Dのクラッチストローク(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御する。
以下、説明の便宜上、E/Gの燃焼により出力軸A1に発生する駆動トルクを「EGトルクTe」と呼ぶ。Teは、車両の加速方向について正の値を採り、減速方向について負の値を採るものとする。Teは、通常(後述する変速作動中を除く)、アクセル開度及び車速等の車両の走行状態に基づいて調整される。
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(図5を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいて要求される変速段(選択・実現すべき変速段、以下、「要求変速段」と呼ぶ)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβの場合、要求変速段として「3速」が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、M(マニュアル)レンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置に基づいて要求変速段が選択される。
変速機T/Mでは、通常、要求変速段と同じ変速段が実現される。要求変速段が変化したとき、「変速要求あり」と判定される。「変速要求あり」と判定された場合、T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。以下、本装置による変速作動について詳細に説明していく。
(変速作動)
上述したように、本装置では、T/Mとして、ノンシンクロトランスミッションが搭載されている。従って、本装置では、T/Mの変速作動において、シンクロメッシュ機構に代えて、EGトルクTeを利用して、T/Mの入力軸A2の回転速度Niを前記「同期回転速度」に一致するように調整する(即ち、Niの同期を行う)。以下、図6に示すフローチャート、並びに、図7に示すタイムチャートを参照しながら、本装置の変速作動について詳細に説明する。
図6は、「変速要求あり」と判定された場合においてECU(具体的には、ECUの内部のCPU)からの指令によって実行される変速作動に係る処理の流れを示す。図7は、「変速要求あり」と判定された場合における変速作動の一例を示す。図7に示す例では、シフトレバーSFによって「自動モード」(Dレンジ)が選択・維持され、且つ、時刻t1以前にて2速で走行中(加速状態、アクセルペダルAP:ON、ブレーキペダルBP:OFF)に、時刻t1にて「2速から1速への変速要求」が発生した場合の一例が示されている。時刻t1以前では、EGトルクTeがアクセル開度に応じた大きい正の値(大きい加速方向の値)に維持され、クラッチトルクTcがTeよりも十分に大きい値(例えば、最大値Tmax、図4を参照)に維持され、入力軸A2の回転速度Niが「2速の同期回転速度」に維持され、スリーブS1が2速の噛合完了位置(図8を参照)に位置している。
時刻t1にて「2速から1速への変速要求」が発生すると、図6に示す処理が開始され、Tcを維持しながらTeがゼロまで低減される(図6のステップ610)。ここで、「Te=0」とは、エンジンE/Gがアイドリング状態にあることを意味する。この結果、図7に示す例では、時刻t1以降、Teがゼロに向けて減少していく。なお、この例では、Tcは、時刻t1以降も一定に維持されている。
時刻t2にてTeがゼロに達すると、Teがゼロに維持された状態で、変速前噛合スリーブ(スリーブS1)がN位置まで移動される(図6のステップ620)。ここで、「変速前噛合スリーブ」とは、変速前の段階で実現されている変速段の遊転ギヤと係合しているスリーブを指す。この結果、図7に示す例では、時刻t2以降、スリーブS1が、2速の噛合完了位置からN位置に向けて移動していく。スリーブS1がN位置に移動することにより、ニュートラル段が実現される(図9を参照)。
時刻t3にてスリーブS1がN位置に達すると、EGトルクTeを調整しながら(上記フィードバック制御して)Niの同期が行われる(図6のステップ630)。図7に示す例では、時刻t3以降、「回転速度センサSE4(又はSE5)から得られるエンジンE/Gの出力軸A1の回転速度Ne(=Ni)」が、「車速センサSE7の検出結果、及び、変速後の変速段の減速比から得られる同期回転速度」(=目標回転速度)と一致するように、Teがフィードバック制御される。このTeのフィードバック制御では、具体的には、Niが時々刻々と変化する「同期回転速度」と一致するようにTeの目標値(同期要求値)が逐次算出・決定され、Teが時々刻々と変化する「同期要求値」と一致するように逐次制御される。換言すれば、Teを「同期要求値」と一致するように逐次制御することによって、Niが「同期回転速度」と一致するように逐次制御され得る。
この結果、図7に示す例では、時刻t3以降、Teがゼロから第1のトルク値(=同期要求値>0)まで増大し、前記第1のトルク値で維持される。Teが前記第1のトルク値に維持されることによって、Niが「2速の同期回転速度」から「1速の同期回転速度」に向けて増大していく。Niが増大するのは、前記第1のトルク値が「ニュートラル状態にある変速機T/M」の入力軸Niを回転させるために必要な摩擦トルク(所謂、引き摺りトルク)よりも大きいことに基づく。Niが「1速の同期回転速度」に達すると、Niの同期が達成される。
時刻t4にて、Niが「1速の同期回転速度」に達すると、Niの同期が維持される(図6のステップ640)。この結果、図7に示す例では、時刻t4以降、Teが、前記第1のトルク値よりも小さい第2のトルク値(=同期要求値>0)まで減少し、前記第2のトルク値(=同期要求値)で維持される。なお、実際には、Niが「1速の同期回転速度」に達する直前の時点、即ち、時刻t4の直前の時点にて、Teが前記第1のトルク値から前記第2のトルク値に向けて減少を開始し得る(後述する図15についても同様)。Teが前記第2のトルク値(=同期要求値)に維持されることによって、Niが「1速の同期回転速度」に維持され得る。Niが「1速の同期回転速度」で一定に維持され得るのは、前記第2のトルク値(=同期要求値)が「ニュートラル状態にある変速機T/M」の前記「引き摺りトルク」と等しいことに基づく。
加えて、時刻t4にて、Niが「1速の同期回転速度」に達したと判定されると、変速後噛合スリーブ(スリーブS1)が、N位置から、変速後の変速段の噛合完了位置に向けて移動される(図6のステップ640)。ここで、「変速後噛合スリーブ」とは、変速後の段階で実現される変速段の遊転ギヤと係合するスリーブを指す。この結果、図7に示す例では、時刻t4以降、Teが前記第2のトルク値(=同期要求値)に維持された状態(即ち、Niが「1速の同期回転速度」に維持された状態)で、スリーブS1が、N位置(図9を参照)から1速の噛合完了位置(図13を参照)に向けて移動していく。なお、実際には、時刻t4以降、Teが前記第2のトルク値に維持されることによって、Niが「1速の同期回転速度」を含む所定の範囲内に維持され得る。
図7に示す例では、時刻t5にて、1速の噛合完了位置に向けて移動していくスリーブS1が、上記「第1位置」(図10を参照)に達している(図7の点Aを参照)。従って、時刻t5以降、スリーブS1の各第2歯の端部が、1速の遊転ギヤG1oの周方向に隣接する噛合歯同士の間にそれぞれ入り込む。なお、この時点A(スリーブS1が「第1位置」を通過する時点)では、所謂「アップロック」が発生し難い。これは、1速の遊転ギヤG1oの周方向に隣接する噛合歯同士の間隔が比較的広いことに基づく。
本装置では、時刻t5以降、EGトルクTeが、「同期要求値」(=前記第2のトルク値)に代えて「同期要求値から変移した値」に調整されていく(図6のステップ640を参照)。以下、この「Teの変移」による作用・効果を説明するための準備として、以下、先ずは、図7の細い2点鎖線を参照しながら、Teが「同期要求値」に調整され続ける場合(Teの変移が行われない場合)について説明する。
この場合、図7に示す例では、時刻t5以降もなお、Teは前記第2のトルク値(=同期要求値)に維持され続ける。この結果、Niが「1速の同期回転速度」になおも維持された状態で、スリーブS1が上記「第2位置」(図11を参照)に到達する(図7の点Bを参照)。従って、この時点B以降、スリーブS1の各第2歯の端部が1速の遊転ギヤG1oの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間、又は、1速の遊転ギヤG1oの各噛合歯の端部がスリーブS1の周方向に隣接する第1歯及び第2歯の間、にそれぞれ入り込む。
この時点B(スリーブS1が「第2位置」を通過する時点)では、上述した時点Aと異なり、所謂「アップロック」が発生し易い(図12を参照)。これは、「1速の遊転ギヤG1oの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間の間隔、又は、スリーブS1の周方向に隣接する第1歯及び第2歯の間の間隔」が比較的狭いこと、並びに、「同期」に使用される上述した各種センサの検出誤差及び外乱等に起因してスリーブS1と1速の遊転ギヤG1oとの間の周方向の相対位相関係が実際には定まらないこと、に基づく。
図7に示す例(図中の細い2点鎖線を参照)では、スリーブS1にて「第2位置」での「アップロック」が発生している(図12を参照)。この結果、スリーブS1が「第2位置」から更に移動し難くなる(図7の点Bを参照)。
この結果、スリーブS1が1速の噛合完了位置(図13を参照)まで到達し得ない、或いは、1速の噛合完了位置に到達するまでに比較的長い時間がかかる、という問題が発生し得る。図7に示す例(図中の細い2点鎖線を参照)では、スリーブS1が比較的長い期間に亘って「第2位置」から移動し得ず、その後(図7の点Cを参照)、何等かのきっかけによって、前記「アップロック」が解消されて、スリーブS1が「第2位置」から「1速の噛合完了位置」に向けて再度移動開始している。
そして、時刻t6’にて、スリーブS1が「1速の噛合完了位置」に達すると、Teが増大される(復帰される)(図6のステップ650)。図7に示す例では、時刻t6’以降、Teがゼロからアクセル開度に応じた大きい値に向けて増大している(復帰している)。Teの復帰が完了すると、変速作動が終了し、1速でのEGトルクTeを利用した走行が開始される。
このように、スリーブS1が「第1位置」を通過する時刻t5以降もなお、Teを「同期要求値」に継続的に調整し続けると、その後においてスリーブS1が「第2位置」に達した時点で「アップロック」が発生し易い。この結果、スリーブS1を「1速の噛合完了位置」までスムーズに移動させること(即ち、変速作動がスムーズになされること)ができない事態が発生し得る。
これに対し、本装置では、上述のように、スリーブS1が「第1位置」を通過した後、EGトルクTeが、「同期要求値」に代えて「同期要求値から張り付き方向へ変移した値」に調整される(図6のステップ640を参照)。ここで、「張り付き方向」とは、加速状態では「増大方向」を指し、減速状態では「減少方向」を指す。このように「Teの変移」を行う理由は以下のとおりである。
即ち、上述した「第2位置」での「アップロック」の発生を防止するためには、スリーブS1が「第1位置」を通り過ぎた後から「第2位置」を通り過ぎるまでの間に亘って、「スリーブS1の第2歯の噛合い面が1速の遊転ギヤG1oの噛合歯の噛合い面に張り付いた状態(接触し続ける状態)」(以下、「張り付き状態」と呼ぶ)を維持することが有効である、と考えられる。
ここで、スリーブと遊転ギヤとの間のギヤの噛合いに関するバックラッシュの存在に起因して、「張り付き状態」には、「加速状態に対応する張り付き状態」と、「減速状態に対応する張り付き状態」と、がある。「加速状態(或いは、減速状態)に対応する張り付き状態」を実現するためには、EGトルクTeを「同期要求値」に代えて「同期要求値より大きい値(或いは、小さい値)」に敢えて変更・調整して、Niを少しだけ大きめ(或いは、小さめ)に調整すればよい。
加えて、変速作動中において車両が「加速要求状態」(或いは、「減速要求状態」)にある場合には、変速作動終了後において「加速状態(或いは、減速状態)に対応する張り付き状態」が維持される可能性が非常に高い、と考えられる。ここで、「加速要求状態」とは、運転者が加速を要求する状態を指し、「減速要求状態」とは、運転者が減速を要求する状態を指す。従って、変速作動中において「加速要求状態」(或いは、「減速要求状態」)の場合には、スリーブS1が「第1位置」を通り過ぎた後からスリーブS1が「第2位置」を通り過ぎるまでの間に亘って、「加速状態(或いは、減速状態)に対応する張り付き状態」を維持することによって、変速作動中から変速作動終了後に亘って「張り付き状態」が維持され得る。「張り付き状態」が維持されると、「張り付き状態」の中断及び再開(換言すれば、前記バックラッシュの存在)に起因する変速ショックの発生を防止することができる。
ここで、車両が「加速要求状態」、及び、「減速要求状態」の何れにあるか、の判定は、例えば、車速センサSE7から得られる車速に基づいて算出される車両加速度、アクセル開度センサSE1から得られるアクセル開度、ブレーキセンサSE3から得られるブレーキペダルBPの操作の有無、等に基づいてなされ得る。この判定は、「変速要求あり」と判定された時点(時刻t1)で行われることが好適である。或いは、この判定は、「同期」が完了したと判定された時点(時刻t4)、或いは、スリーブS1が「第1位置」を通過したと判定された時点(時刻t5)で行われてもよい。
加速要求状態にある図7に示す例では、スリーブS1が「第1位置」に到達した時点以降、「1速の噛合完了位置」に達するまでの間(時刻t5〜t6)に亘って、Teが、「同期要求値」に代えて「同期要求値から増大方向へ変移した値」に調整されている。この結果、スリーブS1が「第1位置」(図7の時点Aを参照)を通り過ぎた後から継続して「第2位置」(図7の時点Bを参照)を通り過ぎた時点以降においても「加速状態に対応する張り付き状態」が維持されている(図14を参照)。
従って、スリーブS1の「第2位置」での「アップロック」が発生する可能性が非常に低い。この結果、スリーブS1が「第2位置」をスムーズに通過している(図中の実線を参照)。これにより、上述した時刻t6’より早い時刻t6(図7を参照)にて、スリーブS1が「1速の噛合完了位置」(図13を参照)に達し、Teが復帰されている。即ち、スリーブS1が「1速の噛合完了位置」までよりスムーズに移動し得る。この結果、変速作動がスムーズになされ得、変速作動に要する時間が短縮され得る。
加えて、変速作動中から変速作動終了後に亘って「加速状態に対応する張り付き状態」が維持され得る(「張り付き状態」の中断及び再開が発生し難い)ので、「張り付き状態」の中断及び再開に起因する変速ショックが発生する可能性を低減することができる。
なお、図7では車両が加速要求状態にある場合の例が示されているが、図7に対応する図15に示すように、車両が減速要求状態にある場合、スリーブS1が「第1位置」に到達した時点以降、「1速の噛合完了位置」に達するまでの間(時刻t5〜t6)に亘って、Teが、「同期要求値」に代えて「同期要求値から減少方向へ変移した値」に調整される。また、図7では、変速作動として所謂「シフトダウン」(より減速比が大きい変速段への変速作動)がなされる場合の例が示されているが、変速作動として所謂「シフトアップ」(より減速比が小さい変速段への変速作動)がなされる場合においても、Teの調整によってNiの同期が実行される点において変わりはない。
上述した「Teの変移」は、スリーブS1が「第1位置」に達したと判定された時点で開始され得る。或いは、「Teの変移」は、スリーブS1が「第1位置」に達したと判定された時点より後の時点(例えば、スリーブS1が「第1位置」から所定の微小距離だけ進行した位置に達したと判定された時点)でも開始され得る。これらの判定は、スリーブの軸方向位置を検出するセンサ(本装置では、センサSE8)を用いてなされ得る。また、図7、及び、図15に示す例では、スリーブS1が「1速の噛合完了位置」に達するまで「Teの変移」が継続されているが、スリーブS1が「第2位置」を通過した直後に「Teの変移」が中止されてもよい。
また、「Teの変移」は、Teを「同期要求値」から予め定められた値だけ「張り付き方向」にフィードフォワード的に変移させることで実行されてもよい。また、Niの目標回転速度を「同期回転速度」に代えて「同期回転速度から張り付き方向に変移した値」に変更し、Niが「同期回転速度から張り付き方向に変移した値」に一致するようにTeの目標値を算出し、Teがこの目標値と一致するようにTeをフィードバック制御することによって、Teが「同期要求値から張り付き方向へ変移した値」に調整されてもよい。
また、「Teの変移」の大きさは、車両の加速状態(或いは、減速状態)の程度に応じて設定され得る。典型的には、車両の加速状態(或いは、減速状態)の程度が大きいほど、「Teの変移」の大きさがより大きい値に設定され得る。
以上、本装置によれば、スリーブが「第1位置」を通り過ぎた後から「第2位置」を通り過ぎるまでの間に亘って「張り付き状態」が維持され得る。従って、スリーブの「第2位置」での「アップロック」が発生する可能性が低減され得る。加えて、変速作動中から変速作動終了後に亘って「張り付き状態」が維持され得る(「張り付き状態」の中断及び再開が発生し難い)ので、「張り付き状態」の中断及び再開に起因する変速ショックが発生する可能性を低減することができる。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oの全て、及び、スリーブS1、S2、S3の全てが出力軸A3に設けられているが(図2を参照)、遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oの一部又は全部、及び、スリーブS1、S2、S3の一部又は全部が、入力軸A2に設けられていてもよい。
また、上記実施形態では、T/Mの複数の変速段(1速〜5速)の全てが「ノンシンクロ段」であるが(図2を参照)、T/Mの複数の変速段(1速〜5速)の一部のみが「シンクロナイザリングを含むシンクロメッシュ機構」が設けられた「シンクロ段」であってもよい。この場合、「ノンシンクロ段」から「ノンシンクロ段」への変速作動、並びに、「シンクロ段」から「ノンシンクロ段」への変速作動の際に、上述した図6、図7(及び、図15)に示した変速作動が適用される。
また、上記実施形態では、「変速要求あり」と判定された時点から、変速作動が終了するまでの間(図7の時刻t1〜t6)、Tcが一定に維持されているが(図7を参照)、TcがエンジントルクTeよりも大きい限りにおいて一定でなくてもよい。
加えて、上記実施形態では、車両の動力源としてエンジンE/Gが使用されているが(図1を参照)、車両の動力源としてエンジンE/Gに代えて電気モータM/Gが使用されてもよい。また、図16に示すように、車両の動力源として、エンジンE/Gと電気モータM/Gが共に使用されてもよい。図16に示す例では、M/Gの出力軸がT/Mの入力軸A2に接続される構成(IN接続)と、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成(OUT接続)と、を選択的に実現する「IN−OUT切替機構」が設けられている。
図16に示す構成の場合、OUT接続に維持した状態において、変速作動中において、車両が加速要求状態にあると判定された場合には、M/Gのトルクが正の値(加速方向の値)に調整され得、車両が減速要求状態にあると判定された場合には、M/Gのトルクが負の値(減速方向の値)に調整され得る。即ち、変速作動中において、OUT接続での「M/Gのトルクを利用したトルクアシスト」が実行され得る。