本発明は、光学顕微鏡を用いた観察に適した細胞培養容器に関する。また、当該細胞培養容器と光学顕微鏡とを用いて細胞を観察する方法に関する。
そこで以下には細胞培養容器について説明し、続いて観察方法について説明する。なお図示する図面はいずれも模式図であって実際の寸法形状を正確に反映した図ではない。また、図示する具体例は説明のための一例であって本発明の範囲を限定するものではない。
<細胞培養容器/実施形態1>
本発明の細胞培養容器の一例である実施形態1を図1A〜Hを参照して説明する。
図1A〜Hに示す細胞培養容器1は、容器底部20と、容器底部20の周縁から上方に向け立設された容器側壁部30とを備え、容器底部20の中央部に、細胞及び培養液を収容するための内部空間を有する第1収容部40が形成されている。容器底部20の、収容部40と容器側壁部30との間の部分には4つの第2収容部50が形成されている。第1収容部40の底面には8つの第1凹部411〜418が形成されている。また第2収容部50には第2凹部500が形成されている。
本発明の第一の特徴は第1凹部及び第2凹部の構造にあるが、先に培養容器1全体の構成を説明し、後に各凹部の構造の特徴を説明する。
第1収容部40は、第1収容部底部41と、第1収容部底部41の周縁に立設された第1収容部周壁42とを少なくとも含み、上方に開口した有底の内部空間45(第1収容部内部空間と称することがある)を有する。第1収容部周壁42は、それが囲う内部空間45が細胞及び培養液を収容可能であればどのような構造を有していてもよいが、より好ましくは、図示するように、第1収容部底部41の周縁に立設され外縁に進むに従って高くなるように形成された第1収容部第1周壁43と、第1収容部第1周壁43の上端と接続し、更に外縁に進むに従って高くなるように形成された第1収容部第2周壁44とを含む。第1収容部周壁42の上端と容器底部20とは、第1収容部外壁46により接続されている。
図1Eは、図1Aにおける領域Fを拡大した模式図である。第1収容部底部41に8つの第1凹部411〜418が形成されている。図1Fには、8つの第1凹部411〜418が形成された第1収容部底部41の、図1EにおけるIV−IV’に沿った断面模式図、V−V’に沿った断面模式図およびVI−VI’に沿った断面模式図を、第1収容部底部41の表面であって、第1収容部内部空間45の底を形成する第1収容部底面90の高さが同じになるように並べて示す。図1Gには、第2収容部50に形成された第2凹部500の断面の拡大模式図を示す。第1凹部411〜418は、それぞれ第1収容部底面90に形成されている。第1凹部411〜418は、窪んだ形状の底面401により底が形成され、更に、底面401の周縁から起立する周壁面402により側面が形成される。第2凹部500は、窪んだ形状の底面501により底が形成され、更に、底面501の周縁から起立する周壁面502により側面が形成される。底面501は容器底部20の底面21を窪ませて形成されており、周壁面502は容器底部20の底面21上に立設された環状の周壁51の内周側の面である。本発明において「凹部」とは一端が開口し、他端及び側方が閉塞した有底穴状の空間を指し、第1凹部411〜418のように部材の壁面に直接窪みとして設けられた凹部であってもよいし、部材の壁面から突出した部材により形成された凹部であってもよいし、第2凹部500のように、部材の壁面に直接窪みが設けられるとともに、一部の壁面が、部材壁面から突出した他の部材により形成されていてもよい。
本発明では、凹部を囲う壁面のうち、凹部の開口に対向する面を「底面」といい、凹部の底は底面により形成される。一般的に培養時に細胞は凹部の底面上に保持される。凹部の底面を、凹部の深さ方向に垂直な仮想平面に投影して形成される領域は、その形状が特に限定されず、任意の形状、例えば、円状(円形および楕円形を含む)、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形であることができる。
第1収容部40、容器底部20及び容器側壁部30を有する細胞培養容器1を用いて細胞培養する場合、図1Hに示すように、第1収容部40の内部空間45内に培養液の液塊D1を収容し、更に、培養液の乾燥を防ぐために、液塊D1を含んだ第1収容部40全体と収容部外の容器底部20とを覆うようにオイルO1を満たして培養を行う。第1収容部40内で複数の細胞、例えば受精卵を一度にグループで培養する場合、発育の悪い細胞を同一の液塊D1内に配置し続けることによって発育の良好な細胞の発育を阻害する可能性がある。このような場合に発育の悪い細胞を第1収容部40から取り出し、培養液の別の液塊中に移して培養を継続することが求められる。このとき、仮に第2収容部50を有していない細胞培養容器を用いた場合、容器底部20の底面、すなわち容器側壁部30が設けられる側の面21上に独立した培養液の液塊を形成し、該液塊中で発育の悪い細胞の培養が継続される。細胞培養容器1において表面を親水化する場合、底面21も親水化されるため培養液の液塊を形成することが難しい。この問題を解決すために、培養液の液塊を形成するための第2凹部500が形成された第2収容部50を容器底部20の第1収容部40と容器側壁部30との間の部分に少なくとも1つ設ける。すなわち内部空間45内に細胞及び培養液の液塊D1を収容し細胞培養を行うための第1収容部40と、液塊D2を収容するための第2収容部50とを一体化して同一の細胞培養容器とすることにより、第1収容部40内での細胞培養と、第2収容部50内での細胞培養とを並行して進めることが容易となる。
次に、本発明の凹部の特徴について主に図1D〜Hを参照して説明する。
細胞培養容器1では、細胞を収容するための凹部が3つ以上、具体的には、第1凹部411〜418が8つ、第2凹部500が4つ形成されている。下記の説明では便宜上、8つの第1凹部411〜418により構成される群を「第1凹部群」とし、4つの第2凹部500のそれぞれを「他の凹部」と称する。
全ての第1凹部411〜418及び第2凹部500は、いずれも、それぞれの底面401、501を同じ基準方向、すなわち図1F及び図1GにおいてAで示す軸に沿った方向(以下「基準方向A」と表す)に沿って1つの仮想平面、例えば図1F及び図1GにおいてBで示す、前記基準方向Aに垂直な仮想平面、の上に投影したときに互いに分離した領域、すなわち図1Fに示す底面401が投影された領域C、及び、図1Gに示す底面501が投影された領域Dとして投影することができるように形成されている。このことはすなわち、光学顕微鏡による観察の際に、Aで示す軸に沿った基準方向に光学顕微鏡の対物レンズの光軸が向くように、対物レンズ及び細胞培養容器1を設置すれば、細胞培養容器1に対し光軸の方向を一定に保持したままで第1凹部411〜418及び第2凹部500のそれぞれの底面401、501上にある細胞を観察可能であることを意味する。より好ましくは、全ての凹部の底面から開口に向かう方向は、同一方向に沿うように形成され、更に好ましくは、細胞培養容器1を水平面上に載置したとき、全ての凹部は、底面から開口に向かう方向が鉛直方向に向くように形成される。
そして、第1凹部411〜418及び第2凹部500のそれぞれについて、底面401、501のうち基準方向に沿って窪みが最も深い部分を当該凹部の最深部403、503とする。「最深部」は各凹部の底面のうちの一部を指し、点状であってもよいし、線状であってもよいし、面状であってもよい。図示する最深部403、503は点状である。
本発明の細胞培養容器1は、基準方向Aが鉛直方向と一致するように細胞培養容器1を設置し、第1凹部411〜418及び第2凹部500の各々で細胞培養を実施すると、細胞は重力により最深部403、503上に位置することができるように構成されている。1つの細胞培養容器1に含まれる各凹部411〜418、500の底面401、501のうち、最深部403、503を含む、培養時に細胞と直接接触する部分の形状は同一であることが好ましい。
図1Fに示すように、第1凹部416の最深部403が基準方向Aに垂直な平面a1上にあり、第1凹部411、413、415及び418の最深部403が基準方向Aに垂直な平面a2上にあり、第1凹部414の最深部403が基準方向Aに垂直な平面a3上にあり、第1凹部412及び417の最深部403が基準方向Aに垂直な平面a4上にある。実施形態1において、第1凹部411〜418の最深部403のうち基準方向Aに沿って最も離れた一対の最深部は、第1凹部416の最深部403と、第1凹部412又は417の最深部403との対である。本発明では、当該一対の最深部403の両方からの基準方向Aに沿った距離が等しく且つ基準方向Aに対し垂直な平面を「中間平面」と称し、図中ではamで示す。
また、第2凹部500の最深部503を通り基準方向Aに垂直な平面を平面bとする。図示していないが、図1A〜Hに示す実施形態1では4つの第2凹部500の全ての最深部503が平面b上に位置する。
この実施形態1では、基準方向Aに一致するように光学顕微鏡の対物レンズを設置し、1つの第1凹部411〜418内の細胞に焦点を合わせた後は、細胞培養容器1が基準方向Aと垂直な方向に移動するように細胞培養容器1と対物レンズとを相対的に移動させることにより、他の第1凹部400に収容された細胞について再度焦点を合わせることなく観察することができる。
本発明では「焦点深度」という用語をJIS Z8120において「顕微鏡では、鮮明に見える物体空間での光軸方向における範囲」と規定されている通りの意味で用いる。具体的には、観察光学系の物体側焦点を観察対象物に合わせたときの前記観察対象物の光軸上の位置(合焦位置)から、前記観察対象物を対物レンズに対して光軸方向に相対移動させても焦点が合っていると見做すことができる光軸上の範囲を指す。観察光学系の焦点深度がDであるとき、物体空間において合焦位置から光軸に沿って距離がD離れた位置までの範囲で焦点が合っていると見做すことができる、換言すれば、物体空間において光軸方向に沿って合焦位置を中心とした2Dの範囲で焦点が合っていると見做すことができる。
焦点深度の値は観察光学系の方式、観察手段等に応じて定まる値である。例えば、対物レンズと接眼レンズを含む光学顕微鏡を用い、人間の眼で観察する場合の焦点深度はBerekの式によって算出することができる。
D=n×[(ω×250000)/(NA×M)+λ/(2×NA2)](μm)
式中、nは観察対象物と対物レンズとの間の媒質の屈折率であり、ωは人間の眼の分解能であり、NAは対物レンズの開口数であり、Mは総合倍率、すなわち対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率との積であり、λは観察光の波長(単位:μm)である。
上記Berekの式において、観察対象物と対物レンズとの間の媒質が空気である場合n=1であり、人間の眼の視角を5分とした場合ω=0.0014であり、緑の可視光で観察する場合λ=0.55(μm)と仮定できる。この仮定のもとでは、開口数NA=0.25の10倍の対物レンズと、10倍の接眼レンズを含む総合倍率M=100倍の観察光学系の焦点深度Dは約18.4μmと算出でき、開口数NA=0.40の20倍の対物レンズと、10倍の接眼レンズを含む総合倍率M=200倍の観察光学系の焦点深度Dは約6.1μmと算出できる。
細胞培養容器1において、観察に用いる光学顕微鏡の観察光学系の焦点深度をDとしたとき、基準方向Aに沿って最も離れた一対の最深部である、第1凹部416の最深部403と、第1凹部412又は417の最深部403との対の間の基準方向Aに沿った距離、すなわち平面a1と平面a4との距離d1を、2D以下に設定すれば以下の効果が実現できる。すなわち、全ての第1凹部411〜418は中間平面amから基準方向Aに沿ってD以下の距離しか離れていないため、光学顕微鏡の対物レンズを光軸が基準方向Aに沿うように設置し、その観察光学系の焦点を中間平面am上に合わせれば、全ての第1凹部411〜418の底面401上の細胞を観察するには、対物レンズの光軸に対して垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させて対物レンズの光軸が前記細胞を通るようにすればよく、各細胞を観察する毎に焦点調整をすることは不要であるか最小限で済むため、素早い観察が可能である。
更に好ましくは、平面a1と平面a4との距離d1をD以下に設定する。この場合、全ての第1凹部411〜418は相互に、基準方向Aに沿ってD以下の距離しか離れていないため、第1凹部411〜418のいずれかの底面401上の細胞に焦点を合わせた後は、第1凹部411〜418の他のいずれか1つの底面401上の細胞を観察する際の焦点調整は不要となるためより好ましい。
なお距離d1は実施形態2及び実施形態4に示すように0であってもよい。
また、距離d1、すなわち第1凹部411〜418の最深部403のうち基準方向Aに沿って最も離れた一対の間の基準方向Aに沿った距離、を36μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、更に好ましくは18μm以下、更に好ましくは15μm以下、更に好ましくは12μm以下、更に好ましくは8μm以下、最も好ましくは6μm以下となるように設定すれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系(Dは約18.4μm)を用いて観察を行った場合に、第1凹部411〜418の底面401上の細胞を連続的に観察することが可能となる。特に、距離d1が18μm以下であれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系を用いた場合に第1凹部411〜418の底面401上の細胞を一度の焦点調整のみで連続的に観察することができる。
同様に距離d1を12μm以下、更に好ましくは8μm以下、最も好ましくは6μm以下となるように設定すれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系(Dは約6.1μm)を用いて観察を行った場合に、第1凹部411〜418の底面401上の細胞を連続的に観察することが可能となる。特に、距離d1が6μm以下であれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系を用いた場合に第1凹部411〜418の底面401上の細胞を一度の焦点調整のみで連続的に観察することができる。
更に、この実施形態1において、4つの第2凹部500の最深部503は、いずれも平面b上に位置する。そして4つの第2凹部500はそれぞれ、その最深部503の中間平面amからの基準方向Aに沿った距離d2、すなわち平面amと平面bとの間の距離がDよりも大きくなるように形成されている。この場合、光学顕微鏡の対物レンズを光軸が基準方向Aに沿うように設置し、その観察光学系の焦点を中間平面am上に合わせて8つの第1凹部411〜418内の細胞を観察可能とした状態では、全ての第2凹部500の最深部503が光軸方向に沿った鮮明な像が得られる範囲内から外れるため、観察光学系の焦点を中間平面am上に合わせて第1凹部411〜418内の細胞を観察する際に、誤って対物レンズの光軸が第2凹部500のいずれかに収容された細胞を通ったとしても、該細胞の鮮明な像は得られず細胞間の誤認を防ぐことができる。
また距離d2を好ましくは6μm超(6μmを超える値を指す、以下同様)、より好ましくは7μm以上、より好ましくは12μm超、更に好ましくは13μm以上、更に好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系(Dは約6.1μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部500の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d2を12μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
また同様に距離d2を18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系(Dは約18.4μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部500の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d2を36μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
本実施形態の好ましい形態では、4つの第2凹部500の最深部503が、第1凹部411〜418の最深部403のいずれからも、基準方向Aに沿ってDを超える距離離れるように設定する、すなわち平面a1〜a4と平面bとの間の距離がいずれも2Dを超えるように設定する。8つの第1凹部411〜418の最深部403のうち、各第2凹部500の最深部503までの基準方向Aに沿った距離が最も小さいものは、第1凹部412又は417の最深部403であるから、上記の4つの第2凹部500の最深部503が、第1凹部411〜418の最深部403のいずれからも、基準方向Aに沿ってDを超える距離離れるようにするには、各第2凹部500の最深部503から、第1凹部412又は417の最深部403までの基準方向Aに沿った距離d3がDよりも大きくなるようにすればよい。距離d3は、「他の各凹部の最深部と、第1凹部群の凹部の最深部のうち前記他の各凹部の最深部からの基準方向に沿った距離が最も短いものとの間の、前記基準方向に沿った距離」と表現することもできる。距離d3がDよりも大きい場合、光学顕微鏡の対物レンズを光軸が基準方向Aに沿うように設置し、第1凹部411〜418のいずれの底面401上の細胞に観察光学系の焦点を合わせたとしても、その後に、対物レンズの光軸に対し垂直な方向のみに細胞培養容器を相対移動させただけでは第2凹部500の底面501上の細胞には焦点が合わないため観察が不可能である。同様に、第2凹部500の底面501上の細胞に観察光学系の焦点を合わせた後で、対物レンズの光軸に対し垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させたとしても、第1凹部411〜418のどの底面401上の細胞も観察することができない。このため、第2凹部500の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。
本発明の更に好ましい実施形態では、距離d3は2Dよりも大きくなるように設定される。この場合、観察光学系の焦点を第1凹部411〜418内の細胞のいずれか1つに合わせた後で細胞培養容器1を光軸に対し垂直方向に相対移動させて4つの第2凹部500のいずれかに収容された細胞が誤って視野内に位置することとなった場合でも、該細胞には焦点が合わず更に不鮮明な像しか得られないため、細胞を誤認する可能性を更に低減することができる。
また距離d3を好ましくは6μm超、より好ましくは7μm以上、より好ましくは12μm超、更に好ましくは13μm以上、更に好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系(Dは約6.1μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部500の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d3を18μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
また同様に距離d3を18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系(Dは約18.4μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部500の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d3を36μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
本発明の細胞培養容器は、より好ましくは、図1Hに示すように、第1凹部群の第1凹部411〜418はいずれも、細胞培養容器1の表面上の、培養液の単一の液塊D1で被覆することができる領域(以下「第1領域」という)、具体的には、1つの第1収容部40の内部空間45を形成する面である第1収容部底面90及び/又は第1収容部周壁面91、に形成され、且つ、他の凹部である第2凹部500はいずれも、細胞培養容器1の表面上の前記第1領域以外の領域(以下「第2領域」という)、具体的には、容器底部20の底面21の、第1収容部40と容器側壁部30との間の領域、に形成される。各第2凹部500は、液塊D1とは分離した、培養液の1又は複数の液塊D2で被覆することができるように構成されている。換言すれば、各第2凹部500は、細胞培養容器1の表面上において、第1凹部群の各凹部411〜418を含む前記第1領域を培養液の単一の液塊D1で被覆した場合に、液塊D1とは分離した、培養液の1又は複数の液塊D2で被覆することができる領域に形成されている。これらの特徴を有する細胞培養容器1によれば以下の効果が実現できる。すなわち、第1凹部411〜418に個別に細胞を配置し、それらが形成された第1領域を培養液の単一の液塊D1で被覆することにより、複数の細胞を個別管理しつつ同じ培養系で培養することが可能となり、複数の細胞からの培養液内部に蓄積したタンパク質、ホルモン、酵素等の細胞分泌物が互いの細胞に相互作用するパラクライン効果を期待できる。また、より小さい第1凹部411〜418の群を設けることで、小さい空間内で個々の細胞を培養することが可能となり、細胞の自己分泌物が作用するオートクライン効果も期待できる。更に、第2凹部500を備える第2収容部50を、第2領域に形成することにより、第2凹部500内に収容した細胞は、第1凹部411〜418内に収容した細胞とは異なる培養液の液塊D2中で培養することが可能であるため、第1凹部411〜418に収容した複数の細胞を、第1収容部40内の共通の培養液の液塊D1中で培養しながら、複数の細胞のうちの一部の細胞を抜き出して第2凹部500内の液塊D2中で培養を継続することが可能である。培養液の液塊D1及びD2の乾燥を防ぐためには、容器底部20の底面21の全体を覆うようにオイルO1が満たされることが好ましい。
図1A〜Hに示すように細胞培養容器1が第1収容部40を備える場合、内部空間45の形状としては、好ましくは図示するように、一端が開口した有底穴状の形状が好ましいがこの形状に特に限定されない。内部空間45を形成する面のどの部分に第1凹部411〜418が形成されていてもよいが、より好ましくは、内部空間45の底を形成する第1収容部底面90に第1凹部411〜418が形成される。内部空間45の容量は特に限定されないが、好ましくは10μl〜3mlである。より好ましくは、内部空間45に小容量の培養液、例えば10μl〜100μlの培養液の液塊D1を収容でき、かつ10μl〜100μlの培養液の液塊D1によって第1収容部底面90の全面を覆うことが可能であり、液塊D1の高さが0.35mm以上、より好ましくは0.5mm以上となるように内部空間45が形成されている。このためには、第1収容部底面90の面積は、好ましくは0.75mm2以上、より好ましくは3mm2以上、さらに好ましくは5mm2以上であり、好ましくは20mm2以下、より好ましくは13mm2以下である。第1収容部底面90の面積を0.75mm2以上とすることにより、細胞、好ましくはヒト受精卵を収容可能な複数の第1凹部を第1収容部底面90に配置することができる。また、第1収容部底面90の面積を、20mm2以下とすることにより、小容量の培養液(例えば10μl)の液塊D1でも、第1収容部底面90の全面を覆うことが可能であり、液塊D1が第1収容部底面90上で大きく移動することを防止できる。
また、第1凹部411〜418は以下の特徴を備えることが好ましい。すなわち、第1凹部411〜418はそれぞれ、細胞を収容可能な開口幅を有することが好ましい。本発明において、各凹部の開口幅は、当該凹部の開口の周縁を、前記基準方向Aに垂直な仮想平面上に投影したときに、前記周縁が形成する図形の幅の寸法を指す。更に、開口幅の最小値とは、前記図形の重心を間に介して対向する、前記図形の周縁上の一対の点の間の距離の最小値(例えば前記図形が円の場合は直径の長さ、楕円の場合は短径の長さ)を指す。第1凹部411〜418の開口幅の最小値が、培養する細胞の最大寸法より大きいとき、第1凹部411〜418は細胞を収容可能である。本発明の培養容器により受精卵を培養する場合、胚盤胞の段階まで培養することが望ましいため、第1凹部411〜418の開口幅の最小値は、胚盤胞の段階の細胞の最大寸法より大きいものであることが望ましい。胚盤胞の段階の細胞の最大寸法は通常100μm〜280μmであることから、第1凹部411〜418の開口幅の最小値は、通常100μm以上であり、より好ましくは250μm以上である。更に、第1凹部411〜418は、小さい面積の領域内に密集して配置することができる寸法を有することが好ましい。第1凹部411〜418の開口幅の最大値は、通常、第1凹部411〜418のうち隣接する凹部間のピッチよりも小さくなるように設定される。第1凹部411〜418の開口幅の最大値は好ましくは1000μm未満であり、より好ましくは700μm未満である。ここで、第1凹部411〜418の開口幅の最大値とは、当該凹部の開口の周縁を、前記基準方向Aに垂直な仮想平面上に投影したときに、前記周縁が形成する図形において、前記図形の重心を間に介して対向する、前記図形の周縁上の一対の点の間の距離の最大値を指す。第1凹部411〜418の開口幅の最大値を1000μm未満とすることにより隣接する第1凹部411〜418間の凹部間のピッチを小さい値にすることができ、第1収容部底面90内の小さな面積の領域に第1凹部411〜418を密集させることが可能となるため、細胞を個別に管理しつつ多くの細胞を同時に培養でき、更に顕微鏡の一視野に多くの細胞が入るため、一度に多くの細胞を観察することができる。また、第1凹部411〜418の開口幅の最大値を1000μm未満とすることにより、第1凹部内での細胞の移動が小さく観察が容易となる。
例えば、細胞培養容器1を用いてウシ受精卵を培養する場合、第1凹部411〜418の開口幅の最小値は、通常250μm以上、好ましくは260μm以上、さらに好ましくは270μm以上であり、第1凹部411〜418の開口幅の最大値は通常1000μm未満、さらに好ましくは700μm未満である。また、第1凹部411〜418の開口幅の最小値は、X+m(ここでXは細胞の最大径を表す)と規定することもできる。ここで、mは、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。
また、第1凹部411〜418の深さは、特に限定されるものではないが、浅過ぎると、培養容器の輸送時や細胞の分裂時などに細胞が動き、細胞が第1凹部411〜418の範囲外に出てしまう恐れがあるため、確実に細胞を第1凹部411〜418内に保持できるように適宜設定される。一方、深過ぎると、第1凹部411〜418内に培養液や細胞を導入することが難しくなるため、細胞を第1凹部411〜418内に保持しつつ、深過ぎない値になるよう適宜設定される。例えば、深さの上限を、第1凹部411〜418の開口幅の最大値と最小値との平均値に対して3倍以下とすることができる。さらに、培養液の導入を容易にするためには、深さは、第1凹部411〜418の開口幅の最大値と最小値との平均値の1倍以下であることが好ましく、1/2以下であることが特に好ましい。また、第1凹部411〜418の開口幅の最大値と最小値との平均値が小さく、深さが深いほど対流が起きにくくなるため、細胞の呼吸や代謝に伴って、周辺の培養液の組成変化が起きやすくなる可能性がある。細胞は、周辺の培養液の組成の影響を受けて成長しやすさが変化するため、細胞の成長を促すように生物学的な影響を考慮して直径と深さを設定することが好ましい。各第1凹部411〜418の深さは50〜500μm、特に50〜300μm、とりわけ100〜300μmの範囲であると、作業性向上および培養細胞を安定的に保持できる点から好ましい。例えば、ウシ受精卵を培養するための細胞培養容器の場合、深さは80μm以上、さらに好ましくは125μm以上とすることが好ましい。なお、各凹部の深さは最深部から開口端までの前記基準方向に沿った距離を指す。
第1凹部411〜418のうち隣接する凹部間のピッチは1000μm以下とすることが好ましい。ただし、上記ピッチは収容する細胞の種類に依存して異なる。例えば、ウシ受精卵を収容する場合、近接する凹部間のピッチは通常1000μm以下、好ましくは700μm以下である。観察装置として、1/2インチのCCD素子、4、10、20倍の対物レンズを備えた光学顕微鏡がよく用いられるが、このような観察装置で、4倍の対物レンズを選択した場合の観察可能な視野はおよそ1.6mm×1.2mmであり、この観察視野内に4個以上の第1凹部411〜418が含まれるように設計することが好ましい。第1凹部411〜418の開口幅の最小値がウシ受精卵の直径(約250μm)より大きい300μmだとすると、ピッチが900μm以下の場合、1.6mm×1.2mmの顕微鏡視野内に2×2=4個の受精卵を観察することができ、ピッチが650μm以下の場合、1.6mm×1.2mmの顕微鏡視野内に3×2=6個の受精卵を観察することができ、ピッチが430μm以下の場合、1.6mm×1.2mmの顕微鏡視野内に4×3=12個の受精卵を観察することができる。観察視野内に4個以上の第1凹部411〜418が含まれるように設計することで、例えば培養細胞の自動判別を行う場合に、一度に多数個の細胞を処理でき、また視野内の一つの受精卵と他の受精卵との比較判別が容易になるため、判別操作をより効率的に行うことができる。
近接する第1凹部411〜418の間のピッチは、近接する第1凹部411〜418の中心間の距離である。第1凹部411〜418の中心は、第1凹部411〜418の開口の周縁を、前記基準方向Aに垂直な仮想平面上に投影したときに、前記周縁が形成する図形の重心位置とし、開口の周縁が円形であればその円の中心をさす。上記第1凹部411〜418間のピッチは通常平均ピッチをさし、平均ピッチは、ある凹部に関しては、近接する全ての凹部とのピッチから平均値を算出したものを指す。第1凹部411〜418間のピッチの寸法は、通常、第1凹部411〜418の開口幅の最大値よりも大きい。第1凹部411〜418の開口幅の最大値の寸法は、開口の開口幅の最大値の外縁が円形であればその直径を指す。近接する凹部は1mm2あたり好ましくは1個以上、より好ましくは4個以上の密度で配置されている。
第1凹部411〜418の開口の周縁が円形である場合、近接する凹部間のピッチは、X+m+n(ここで、Xは細胞の最大径を表し、mは凹部の開口の周縁が形成する円の直径から細胞の最大径を引いた長さを表し、nは凹部間の仕切りの長さを表す)と規定することもできる。凹部間の仕切りとは、近接する凹部間の開口の周縁の間の最短距離をさす。ここでmは通常100μm以下、好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下であり、nは通常600μm以下、好ましくは350μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
上記のようなピッチで第1凹部411〜418を密に配置することにより、細胞を個別に管理しつつ多くの細胞を同時に培養でき、さらに顕微鏡の一視野に多くの細胞が入るため、一度に多くの細胞を観察することができる。
本発明の細胞培養容器を用いれば、グループ管理が可能になるため、良好の発育の細胞を第1凹部群の凹部に収容して培養し、その他の細胞は他の凹部に収容して培養することが可能となる。
第2凹部500のサイズは特に限定されない。各第2凹部500の容量は10〜30μLであることが好ましい。各第2凹部500の開口幅の最小値は1.5〜5mmであることが好ましい。ここで第2凹部500の開口幅の最小値とは、第2凹部500の開口の周縁を、前記基準方向Aに垂直な仮想平面上に投影したときに、前記周縁が形成する図形において、該図形の重心を間に介して対向する、前記図形の周縁上の一対の点の間の距離の最小値(例えば前記図形が円の場合は直径の長さ、楕円の場合は短径の長さ)を指す。容器底部20の底面21から周壁51の上端までの高さは0.2〜3mmであることが好ましい。内径及び高さがこの範囲であると容量10〜30μLの細胞培養液を均一に広げつつ保持しやすい。周壁51の径方向の厚さは0.1〜2mmが好ましい。厚さがこの範囲であると液が漏れにくく邪魔になりにくい。
各凹部411〜418、500の壁面は、各凹部の最深部403、503から凹部の外縁に進むに従って高くなるような傾斜面を有することが好ましい。なお、本発明において凹部の「壁面」とは、有底穴状の空間である凹部を画定する面であり、第1凹部底面401、第2凹部底面501、第1凹部周壁面402、第2凹部周壁面502等を含む概念である。各凹部は、通常、細胞培養容器の底部側に底がくるように形成される。凹部の傾斜面の形状(プロファイル)は、凹部の最深部403、503から凹部の外縁へ向かって曲線状に高くなる場合、階段状に高くなる場合等、適宜採用することができるが、特に直線部分を含むこと、すなわち凹部の最深部403、503から凹部の外縁へ進むに従い、その経路の全区間もしくは一部の区間が直線状に高くなる傾斜面であることが好ましい。直線部分を含むことで、凹部内に配置した細胞の移動が抑制され、細胞を凹部の最深部に固定し易くなる。したがって、顕微鏡で観察した場合に鮮明な画像を得ることができる。
傾斜面の表面粗さは、大きい値であると、顕微鏡で透過観察を行った画像を輪郭抽出処理に付す際に、傾斜面上の凹凸に起因して明瞭な輪郭が得られない恐れがあるため、可能な限り小さい値であることが好ましい。具体的には、最大高さRy(粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分における山頂線と谷底線との間隔をいう)が1.0μm未満、特に0.5μm未満であることが好ましい。なお、傾斜面の表面粗さは、細胞培養容器の鋳型を作製する際に磨き処理を施す等して、鋳型の加工精度を高めることにより小さくすることができる。
各凹部411〜418、500の壁面は、好ましくは円錐状又は円錐台状の部分を含む。円錐状又は円錐台状の部分は、細胞培養容器の底部側に、円錐の頂点又は円錐台の上面及び下面のうち面積の小さい方がくるように形成される。円錐状には、円錐及び楕円錐、これらに類似の形状、例えば、円錐又は楕円錐の頂点が丸みを帯びている形状、円錐面が外側に膨らんでいる形状、円錐面が内側に凹んでいる形状などが含まれる。円錐台状には、円錐台及び楕円錐台、これらに類似の形状、例えば、円錐台又は楕円錐台の上面又は下面と円錐面との接合部が丸みを帯びている形状、円錐面が外側に膨らんでいる形状、円錐面が内側に凹んでいる形状などが含まれる。凹部の壁面が、円錐台状の部分を含む場合、円錐台の上面及び下面のうち細胞培養容器の底部側にくる面積の小さい方の直径は、細胞の最大径より小さいことが好ましい。具体的には、面積の小さい方の直径が、細胞の最大径の2分の1以下であることが好ましい。2分の1以下であると、細胞が凹部の中心に配置されやすくなり、移動も抑制され、細胞の撮影が容易になる。また、特に、面積の小さい方の直径が、10μm以下であることが好ましい。直径が10μm以下であると、撮影の際に、光の屈折、散乱などの影響を受けて観察しにくくなる中央の領域が狭くなり、鮮明な画像が得られるため有効である。なお、凹部の円錐状及び円錐台状の部分において円錐面は曲面であり、平面を含まないことが好ましい。凹部の壁面は、通常、細胞培養容器の底部側に、上記のような傾斜面、好ましくは円錐状又は円錐台状の部分を有する。凹部の壁面は、上記のような傾斜面より開口部側に、細胞培養容器の底部に垂直な壁面を有していてもよい。
凹部の壁面が円錐状又は円錐台状の部分を含む場合、円錐又は円錐台の中心線と母線とのなす角度は、通常89〜45°、好ましくは88〜65°、より好ましくは85〜80°である。一定の角度以上とすることにより、重力を駆動源として、細胞を配置したい場所(最深部)へ移動させやすく、一定の角度以下とすることにより、顕微鏡で透過観察する際の傾斜面での反射、散乱が起こりにくくなり、鮮明な観察像を得ることができる。
凹部411〜418、500が細胞培養容器の底部に平行な底面とそれに垂直な側面とからなる場合は、細胞が凹部内で移動して側面に接触する場合があり、その状態で細胞の撮像を行うと、撮影された画像において輪郭抽出処理により細胞の画像を抽出することが困難であるという問題があるが、凹部の壁面が、凹部の最深部から凹部の外縁に進むに従って高くなるような傾斜面を有する場合、好ましくは円錐状又は円錐台状の部分を含む場合は、培養される細胞は自動的に凹部の底の部分に存在することとなり、凹部が細胞培養容器の底部に垂直な側面を傾斜面より開口部側に有していたとしても、これに接触したままとなることはなく、撮像された細胞の画像の輪郭抽出処理を問題なく実施することができる。
以下、図面に示す他の実施形態を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態には限定されない。また、本明細書の図面では各構成の寸法及び形状に関わらず同じ機能を有する構成は同じ符号を付しており、上記実施形態1との特段の相違点を除き説明を省略する。
上記の通り、図1A〜Hに示す実施形態1に係る細胞培養容器1は、内部空間45が形成された第1収容部40を備え、内部空間45の底を形成する第1収容部底面90に第1凹部411〜418が形成され、第2凹部500は、第1収容部40以外の部分に形成されている。この実施形態1によれば、液塊D1は、第1収容部周壁面91により周縁が支持され内部空間45内で安定するため好ましい。しかし第1凹部411〜418が形成される第1領域は、第1収容部周壁面91等の壁部により周縁が支持されている必要はない。たとえは図7A〜Cに示す、実施形態1に係る細胞培養容器1の変形例のように、容器底部20の底面21のうち平坦な領域内の一部が第1領域Eを構成していてもよい。この場合、培養液の1つの液塊D1により第1領域Eの全体を被覆することができる。容器底部20の底面21の第1領域Eの親疎水性を調整することで、適当な形状の培養液の液塊D1を形成することができる。図7A〜Cに示す細胞培養容器1では、各第2凹部500は、容器底部20の底面21のうち、第1領域E以外の領域である第2領域Hに形成される。第1領域Eは通常は円形の領域であり、その寸法は特に限定されないが、面積は好ましくは0.75mm2以上、より好ましくは3mm2以上、さらに好ましくは5mm2以上であり、好ましくは20mm2以下、より好ましくは13mm2以下である。第1領域Eの面積を0.75mm2以上とすることにより、細胞、好ましくはヒト受精卵を収容可能な複数の第1凹部を第1領域Eに配置することができる。また第1領域Eの面積を、20mm2以下とすることにより、小容量の培養液(例えば10μl)の液塊D1でも第1領域Eの全面を覆うことが可能である。
図1A〜H及び図7A〜Cに示す実施形態1及びその変形例では、各第2凹部500がそれぞれ独立した液塊D2により被覆されるが、この形態には限定されず、複数の第2凹部500が1つの液塊D2により被覆されるように配置されていてもよい(図示せず)。
また、図1A〜H及び図7A〜Cに示す実施形態1及びその変形例では、液塊D2の周縁は起立した壁面である周壁面502(図1G参照)により支持されているが、この形態には限定されない。例えば、容器底部20の底面21の平坦な領域の1又は複数の部分に液塊D2が被覆することができるように細胞培養容器1が構成されており、前記各部分に1つ以上の第2凹部が形成されていてもよい(図示せず)。この場合、第2凹部は、典型的には、容器底部20の底面21を直接窪ませて形成することができる。
<細胞培養容器/実施形態2>
図2には、実施形態2に係る細胞培養容器1において第1凹部400の近傍のみを拡大して説明する。実施形態2は、実施形態1に係る細胞培養容器1での8つの第1凹部411〜418がそれぞれ図2に示す8つの第1凹部400に置き換えられていることを除いて実施形態1と同一である。各第1凹部400の寸法、位置、ピッチ、形状等に関する好適な実施形態は、下記の点を除いて、実施形態1において第1凹部411〜418について説明したのと同様であり、説明を省略する。
実施形態1は、第1凹部411〜418の最深部403が、基準方向Aに垂直な複数の平面上に位置する例であったのに対して、図2に示す実施形態2では、各第1凹部400の最深部403は、全て、平面a上に位置し、互いの間の基準方向Aに沿った距離が0である、すなわち実施形態1における距離d1に相当する距離が0である。実施形態2での平面aは実施形態1での中間平面amと平面a1〜a4が一致したものである。平面aと平面bとの間の基準方向Aに沿った距離は、実施形態1での距離d2及びd3に相当し、実施形態2はそれらの値が同一の場合である。実施形態2において、これらの距離が実施形態1について詳述したd2、d3の要件を満たすとき、実施形態1と同様の効果を達成することができる。なお距離d1に相当する距離は0であるから、距離d1に関する要件は必然的に満たされる。
<細胞培養容器/実施形態3>
図3Aには、実施形態3に係る細胞培養容器1において、第2凹部520を有する第2収容部52の近傍のみを拡大して説明し、図3Bには、実施形態3に係る細胞培養容器1において、第2凹部530を有する第2収容部53の近傍のみを拡大して説明する。細胞培養容器1の他の構成については実施形態1と同一である。各第2凹部520、530の寸法、位置、ピッチ、形状等に関する好適な実施形態は、下記の点を除いて、実施形態1において第2凹部500について説明したのと同様であり、説明を省略する。
図3A及びBに示す実施形態3は、図1Aに示す4つの第2凹部500及びそれを形成する第2収容部50のうち、図中左側の上下2つ(図1Dの左側の1つ)が、図3Aに示す第2凹部520及び第2収容部52置き換わり、図中右側の上下2つ(図1Dの右側の1つ)が、図3Bに示す第2凹部530及び第2収容部53に置き換わったものである。
実施形態3は、第1凹部群(第1凹部411〜418)以外の凹部が複数あり、それぞれの最深部が、基準方向Aに垂直な複数の平面上に位置する例である。
実施形態3では、第2凹部520の最深部503は基準方向Aに垂直な平面b1上にあり、第2凹部530の最深部503は基準方向Aに垂直な平面b2上にあり、互いに、基準方向Aに沿って離れている。また第1凹部411〜418の最深部403は基準方向Aに垂直な複数の平面a1〜a4(図3A、3B中ではa2とa3は省略する)上にある。
この実施形態3において、第2凹部520は、その最深部503の中間平面amからの基準方向Aに沿った距離d2’がDを超えるように形成されており、且つ、第2凹部530は、その最深部503の中間平面amからの基準方向Aに沿った距離d2’’がDを超えるように設計されることが好ましい。この場合、焦点深度Dの観察光学系を備えた光学顕微鏡の対物レンズを光軸が基準方向Aに沿うように設置し、その観察光学系の焦点を中間平面am上に合わせて8つの第1凹部411〜418内の細胞を観察可能とした状態では、第2凹部520、530の最深部503は共に鮮明な像が得られる範囲内から外れるため、観察光学系の焦点を中間平面am上に合わせて第1凹部411〜418内の細胞を観察する際に、誤って対物レンズの光軸が第2凹部500のいずれかに収容された細胞を通ったとしても、該細胞の鮮明な像は得られないため、細胞間の誤認を防ぐことができる。
また距離d2’,d2’’を好ましくは6μm超、より好ましくは7μm以上、より好ましくは12μm超、更に好ましくは13μm以上、更に好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系(Dは約6.1μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部520、530の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d2’,d2’’を18μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
また同様に距離d2’,d2’’を18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系(Dは約18.4μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部520、530の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d2’,d2’’を36μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
実施形態3ではより好ましくは、第2凹部520、530の最深部503を、8つの第1凹部411〜418の最深部403のいずれからも、基準方向Aに沿ってDを超える距離だけ離れるように設定する、すなわち平面a1と平面b1との距離d3’及び平面a2と平面b2との距離d3’’を共にDを超える距離に設定すると、実施形態1及び2と同様に、第1凹部400の底面401上の細胞と、第2凹部520の底面501又は第2凹部530の底面501上の細胞との観察時の誤認を防止できる。更に、距離d3’及びd3’’を共に2Dを超える距離に設定すると、上記の効果が特に高い。
また距離d3’,d3’’を好ましくは6μm超、より好ましくは7μm以上、より好ましくは12μm超、更に好ましくは13μm以上、更に好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系(Dは約6.1μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部520、530の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d3’,d3’’を18μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
また同様に距離d3’,d3’’を18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系(Dは約18.4μm)を用いて観察を行った場合に、第2凹部520、530の底面501上の細胞と、第1凹部411〜418の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、距離d3’,d3’’を36μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
<細胞培養容器/実施形態4>
図4A〜Cに示す細胞培養容器1は、実施形態1における第2収容部50が存在しない点、及び、第1収容部40の第1収容部底面90に形成された8つの第1凹部411〜418の代わりに、以下の特徴を有する第1凹部450、第2凹部460、第3凹部470がそれぞれ3つずつ形成されている点を除いて、実施形態1と同一である。第1凹部450、第2凹部460、第3凹部470の寸法、位置、ピッチ、形状等に関する好適な実施形態は、下記の点を除いて、実施形態1において第1凹部411〜418について説明したのと同様であり、説明を省略する。
図4Aにおける領域Gの拡大図を図4Bに示す。また図4Cには、図4BにおけるVII−VII’に沿った断面模式図、VIII−VIII’に沿った断面模式図およびIX−IX’に沿った断面模式図を第1収容部底面90の高さが同じになるように並べて示す。
実施形態4では、3つの第1凹部450が構成する群を「第1凹部群」とし、3つの第2凹部460が構成する群を「第2凹部群」とし、3つの第3凹部470が構成する群を「第3凹部群」とする。3つの第2凹部460と第3凹部470はそれぞれ、本発明における「他の凹部」の一例である。
3つの第1凹部450の最深部453は、基準方向Aに対し垂直な平面a5上に位置しており、3つの第1凹部450の最深部453の間の、基準方向Aに沿った距離はゼロである。平面a5は、実施形態1での中間平面amと各第1凹部の最深部を通り基準方向Aに垂直な平面とが一致したものに相当する。基準方向Aに沿って対物レンズの光軸を設置し、第1凹部450のうちの一つに収容された細胞に焦点を合わせれば、他の第1凹部450内の細胞は、対物レンズの光軸に対し垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させることにより観察可能である。なお、同様の効果を得るには、実施形態1で説明した通り、第1凹部群を構成する第1凹部450のそれぞれが、基準方向Aに対し垂直な複数の平面上に存在し、且つ、基準方向Aに沿って最も離れた一対の最深部453の間の基準方向Aに沿った距離が、実施形態1での距離d1と同様に設定されていればよい。
3つの第2凹部460の最深部463は、基準方向Aに対し垂直な平面b5上に位置しており、3つの第2凹部460の最深部463の間の基準方向Aに沿った距離はゼロである。このため、基準方向Aに沿って対物レンズの光軸を設置し、第2凹部460のうちの一つに収容された細胞に焦点を合わせれば、他の第2凹部460内の細胞は、対物レンズの光軸に対し垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させることにより観察可能である。なお、同様の効果を得るには、実施形態1での第1凹部群の凹部411〜418と同様に、第2凹部群を構成する第2凹部460のそれぞれが、基準方向Aに対し垂直な複数の平面上に存在し、且つ、基準方向Aに沿って最も離れた一対の最深部463の間の基準方向Aに沿った距離が、実施形態1での距離d1と同様に設定されていればよい。
3つの第3凹部470の最深部473は、基準方向Aに対し垂直な平面c5上に位置しており、3つの第3凹部470の最深部473の間の基準方向Aに沿った距離はゼロである。このため、基準方向Aに沿って対物レンズの光軸を設置し、第3凹部470のうちの一つに収容された細胞に焦点を合わせれば、他の第3凹部470内の細胞は、対物レンズの光軸に対し垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させることにより観察可能である。なお、同様の効果を得るには、実施形態1での第1凹部群の凹部411〜418と同様に、第3凹部群を構成する第2凹部470のそれぞれが、基準方向Aに対し垂直な複数の平面上に存在し、且つ、基準方向Aに沿って最も離れた一対の最深部473の間の基準方向Aに沿った距離が、実施形態1での距離d1と同様に設定されていればよい。
そして平面a5、平面b5及び平面c5の互いの間の距離をDを超える距離に設定すると、他の実施形態で説明したのと同様に第1凹部450の底面401上の細胞と、第2凹部460の底面401上の細胞と、第3凹部470の底面401上の細胞との間の観察時の誤認を防止できる。この効果は、平面a5、平面b5及び平面c5の互いの間の距離を2Dを超える距離に設定することにより更に顕著である。
また、平面a5、平面b5及び平面c5の互いの間の距離を好ましくは6μm超、より好ましくは7μm以上、より好ましくは12μm超、更に好ましくは13μm以上、更に好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=200倍の観察光学系(Dは約6.1μm)を用いて観察を行った場合に、第1凹部450の底面401上の細胞と、第2凹部460の底面401上の細胞と、第3凹部470の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、平面a5、平面b5及び平面c5の互いの間の距離を12μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
また、平面a5、平面b5及び平面c5の互いの間の距離を好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上とすれば、上記の総合倍率M=100倍の観察光学系(Dは約18.4μm)を用いて観察を行った場合に、第1凹部450の底面401上の細胞と、第2凹部460の底面401上の細胞と、第3凹部470の底面401上の細胞とを相互に誤認する事故を防ぐことができる。特に、平面a5、平面b5及び平面c5の互いの間の距離を36μm超または更に大きく設定した場合にこの効果が特に高い。
<細胞培養容器/実施形態5>
図5A〜Cには、実施形態5に係る細胞培養容器1を示す。実施形態5では、実施形態1における第1収容部周壁42が、以下の特徴を有する第1収容部周壁42に置き換えられている点を除いて、実施形態1と同一の特徴を備える。
実施形態5において、第1収容部周壁42は、第1収容部底部41の周縁に立設されており、第1収容部周壁42の表面のうち収容空間45を囲う第1収容部周壁面91は、第1収容部40の底面から開口に向かって収容空間45が広がるように形成されている。そして、第1収容部周壁面91には、第1収容部40の底面から開口に進むに従って階段状に立ち上がった複数の段付き部47が形成されている。各段付き部47は、収容部40の底面から開口に向かう方向に延びる内側面48と、内側面48に連続すると共に第1収容部底面90の中央から周縁に向かう方向に延びる上面49とを有する。この実施形態5では、第1収容部40の内部空間45に収容した培養液に気泡が含まれている場合に、気泡が第1収容部周壁面91の段付き部47の近傍に集まり易く、培養液の液面の中央部には集まりにくい。このため、第1凹部400が形成された領域を培養液の液面の中央部を通じて観察することが容易である。なお図5A〜Cでは、階段状の複数の段付き部47は、第1収容部周壁面91の周方向の全体にわたり形成されている例を示すが、これには限定されず、第1収容部周壁面91の周方向の一部の領域のみに階段状の複数の段付き部47が形成され、他の領域は平滑な傾斜面により形成されていてもよい。
なお、実施形態5において、第1凹部411〜418及び第2凹部500の特徴は実施形態1と同様であり、第1凹部411〜418及び第2凹部500を実施形態2〜4として説明した他の形態に変形することも同様に可能である。
<細胞培養容器の他の特徴>
本発明の細胞培養容器において「第1凹部群」を構成する凹部の数は特に限定されないが、例えば、2〜25、好ましくは3〜15、より好ましくは4〜10である。第1凹部群以外の他の凹部の数は特に限定されず、1〜20、好ましくは2〜15、より好ましくは4〜10である。
本発明の細胞培養容器は、上記実施形態4のように、第1凹部群以外に1又は2以上の他の凹部群を含んでいてもよい。より好ましくは、他の凹部群がそれぞれ2つ以上の凹部により構成され、各凹部群内では、各凹部の最深部のうち基準方向に沿って最も離れた一対の最深部の間の基準方向に沿った距離が2D以下、更に好ましくはD以下であるように、各凹部が形成されている。具体的には、各凹部群内では、各凹部の最深部のうち基準方向に沿って最も離れた一対の最深部の間の基準方向に沿った距離は、好ましくは36μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、更に好ましくは18μm以下、更に好ましくは15μm以下、更に好ましくは12μm以下、更に好ましくは8μm以下、最も好ましくは6μm以下である。また、各凹部群を構成する複数の凹部の最深部のうち基準方向に沿って最も離れた一対の最深部の両方からの前記基準方向に沿った距離が等しく且つ基準方向に対し垂直な平面を、当該凹部群の「中間平面」としたとき、第1凹部群及び他の凹部群に含まれる各凹部は、それ自身が属する凹部群以外の全ての凹部群の中間平面のいずれからも、基準方向に沿ってDを超える距離、より好ましくは2Dを超える距離だけ離れているように形成されている。このような特徴を備える細胞培養容器を用い、基準方向に対物レンズの光軸の方向が一致するように光学顕微鏡を設置すれば、ある凹部群の中間平面上に光学系の焦点を合わせたときに、当該凹部群の凹部内に収容された細胞は、対物レンズの光軸に対し垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させることにより容易に観察可能であり、尚且つ、他の凹部群の凹部内に収容された細胞との誤認を防ぐことができる。更に好ましい実施形態では、第1凹部群及び他の凹部群に含まれる凹部は、それ自身が属する凹部群以外の凹部群を構成する各凹部の最深部のいずれからも、基準方向に沿ってDを超える距離離れている、より好ましくは2Dを超える距離離れているように形成されている。具体的には、第1凹部群及び他の凹部群に含まれる凹部の最深部は、それ自身が属する凹部群以外の凹部群を構成する各凹部の最深部のいずれからも、基準方向に沿った距離が、好ましくは6μm超、より好ましくは7μm以上、より好ましくは12μm超、更に好ましくは13μm以上、更に好ましくは18μm超、更に好ましくは19μm以上、更に好ましくは36μm超、更に好ましくは37μm以上、最も好ましくは40μm以上超の距離だけ離れるとなるように形成される。このような特徴を備える細胞培養容器を用い、基準方向に対物レンズの光軸の方向が一致するように光学顕微鏡を設置すれば、同一凹部群内の1つの凹部に収容された細胞に焦点を合わせたあとは、同一群内の他の凹部の細胞は、対物レンズの光軸に対し垂直な方向に細胞培養容器を相対移動させることにより容易に観察可能であり、尚且つ、他の凹部群の細胞との誤認を防ぐことができる。このような実施形態では、各凹部群を構成する凹部の数は特に限定されないが、例えば2〜25、好ましくは3〜15、より好ましくは4〜10である。また、複数の凹部群を含む場合、凹部群の数は例えば2〜20、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜5である。
本発明の細胞培養容器の材質は、特に制限されない。具体的には、金属、ガラス、及びシリコン等の無機材料、プラスチック(例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。本発明の培養容器は、当業者に公知の方法で製造することができる。例えば、プラスチック材料からなる培養容器を製造する場合には、慣用の成形法、例えば射出成形により製造することができる。
光学顕微鏡での観察のためには、細胞培養容器は光透過性の材料により形成されていることが好ましい。
本発明の細胞培養容器は、受精卵の発育を促進するような表面処理又は表面コートがなされていてもよい。特に、受精卵の発育を促進するために、他の器官の細胞、例えば、子宮内膜細胞や卵管上皮細胞と共培養をする場合、これらの細胞をあらかじめ培養容器に接着させる必要がある。このような場合に、培養容器の表面に細胞接着性の材料をコートすると有利である。
本発明の細胞培養容器を用いれば、グループ管理が可能になるため、良好の発育の細胞を第1凹部群の凹部に収容して培養し、その他の細胞は他の凹部に収容して培養することが可能となる。
<細胞の観察方法>
本発明は、対物レンズを含み焦点深度がDである観察光学系を備える光学顕微鏡を用いて、細胞培養容器に収容された細胞を観察する方法であって、細胞培養容器として、上記の特徴を有する細胞培養容器を用いることを特徴とする方法に関する。
本発明の細胞培養容器を用いて培養し観察する細胞としては、特に限定されないが、個別管理が必要とされる細胞が好ましい。個別管理が必要とされる細胞とは、培養中及び培養後において個々の細胞を特定する必要があるものをさし、複数の細胞を培養している培養容器において互いに混同してしまうことが望ましくない細胞をさす。個別管理が必要とされる細胞としては、例えば、受精卵、卵細胞、ES細胞(胚性幹細胞)及びiPS細胞(人工多能性幹細胞)が挙げられる。卵細胞は、未受精の卵細胞をさし、未成熟卵母細胞及び成熟卵母細胞が含まれる。受精卵は、受精後、卵割により2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞数が増えていき、桑実胚を経て、胚盤胞へと発生する。受精卵には、2細胞胚、4細胞胚及び8細胞胚などの初期胚、桑実胚、胚盤胞(初期胚盤胞、拡張胚盤胞及び脱出胚盤胞を含む)が含まれる。胚盤胞は、胎盤を形成する潜在能力がある外部細胞と胚を形成する潜在能力がある内部細胞塊からなる胚を意味する。ES細胞は胚盤胞の内部細胞塊から得られる未分化な多能性又は全能性細胞をさす。iPS細胞は、体細胞(主に線維芽細胞)へ数種類の遺伝子(転写因子)を導入することにより、ES細胞に似た分化万能性を持たせた細胞をさす。すなわち、本発明において培養の対象となる細胞には、受精卵や胚盤胞のように複数の細胞の集合体も包含される。本発明の培養容器は、好ましくは哺乳動物及び鳥類の細胞、特に哺乳動物の細胞の培養に好適である。哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、例えば、ヒト及びサルなどの霊長類、マウス、ラット及びウサギなどの齧歯類、イヌ及びネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマ及びブタなどの家畜が挙げられる。本発明の培養容器は、ウシの受精卵の培養に特に好適である。
本方法では光学顕微鏡の対物レンズの光軸の方向を本発明の細胞培養容器の基準方向に一致させて観察を行う。具体的には、対物レンズとXYZステージとを光軸がZ軸方向と一致するように組み合わせて設置し、該XYZステージ上に細胞培養容器を載置して観察を行うことができる。
第1凹部群の凹部内に収容された細胞を観察する場合は、
第1凹部群のいずれかの凹部に収容された細胞に観察光学系の焦点を合わせて観察を行う第一工程と、
前記第一工程の後に、細胞培養容器が光軸に垂直な方向、すなわちXY方向に移動するように、細胞培養容器と対物レンズとを相対的に移動させて、第1凹部群の他の凹部に収容された細胞の観察を行う第二工程と
を行えばよい。この場合、XY方向の操作のみで、Z方向の操作(焦点合わせ)を行うことなく第1凹部群の各凹部内の細胞の観察が可能であるため作業が効率的である。また、第1凹部群の凹部以外の凹部には焦点が合わないため、細胞の誤認が生じにくい。
また、第1凹部群以外の凹部のいずれかに収容された細胞を観察する場合は、目的とする凹部に収容された細胞に観察光学系の焦点を合わせて観察を行えばよい。
ポリスチレンを用いて、図1A〜Hに示す実施形態1に係る細胞培養容器1を作成した。ただし、図1Aに示す8つの第1凹部411〜418の中央部に、更にもう一つの第一凹部を追加で設けた。また、9つの第1凹部の最底部403のうち基準方向Aに沿って最も離れた一対の最深部403間の距離は、基準方向Aに沿って8μmであった。また、4つの第2凹部500の最底部503の、互いの間の基準方向Aに沿った距離は0ではなく、実施形態3に示すように、基準方向Aに垂直な複数の平面上に位置していた。
各第1凹部及び各第2凹部の最深部の位置を、各凹部の最深部から、第1収容部40の第1収容部底面90を含む平面までの距離で示す。各凹部の最深部はいずれも、前記平面に対して、第1収容部内部空間45が存在するのと反対の側に位置している。前記平面は、細胞培養容器1を水平面上に載置したときの水平方向に沿うように形成されている。細胞培養容器1に対して、対物レンズの光軸が前記平面に対して垂直となるように光学顕微鏡を設置した。
容器の寸法:細胞培養容器1の容器側壁部30が囲う部分は円形であり、その内径は約35mmとした。容器側壁部30の高さは11mmとした。第1収容部40の周囲を囲う第1収容部外壁46の高さは2.9mmであり、第1収容部40の内部空間45の開口端の直径は10mmであり、第1収容部底面90の直径は3.8mmであった。また、第2収容部50は外径4.8mm、内径3.8mmであった。
第1凹部400の、底面401の開口側の縁部は直径285μmの円形であり、周壁面402の開口側の縁部は直径525μmの円形であった。また、隣接する第1凹部400の間の中心間距離は712μmであった。
<実験1>
第1収容部40に設けた9つの第1凹部のうちの1つである第1凹部(1)(最深部から前記平面までの距離:226μm)と、他の1つである第1凹部(2)(最深部から前記平面までの距離:234μm)に、ガラスビーズ(直径150μm)を入れて透過型の光学顕微鏡によって200倍率で観察を行った。このとき用いた光学顕微鏡の観察光学系は、開口数NA=0.40の20倍の対物レンズと、10倍の接眼レンズとを含む総合倍率M=200倍の観察光学系であり、上記Berekの式(ただしn=1、ω=0.0014、λ=0.55μmとする)によれば、焦点深度Dは約6.1μmである。
第1凹部(1)内のガラスビーズに焦点を合わせて観察した後、細胞培養容器1をXYステージ操作のみで第1凹部(2)内のガラスビーズ観察した際に焦点の変化は少なく、問題なく観察が可能であった。
<実験2>
9つの第1凹部のうちの1つである第1凹部(1)(最深部から前記平面までの距離:226μm)、4つの第2凹部の1つである第2凹部(3)(最深部から前記平面までの距離:257μm)、他の1つである第2凹部(4)(最深部から前記平面までの距離:288μm)、他の1つである第2凹部(5)(最深部から前記平面までの距離:185μm)それぞれに、実施例1と同様にガラスビーズを入れて200倍率で観察を行った。
第1凹部(1)にてガラスビーズの焦点を合わせて観察した後、XYステージ操作のみで第2凹部(3)〜(5)内のガラスビーズを観察した際には焦点がずれており、Z軸方向の調整によって焦点を再度調整する必要があった。