本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。
本発明の細胞取扱容器は、例えば、図1A1に示すように、容器底部11と容器側壁部12とを有する細胞取扱容器1であって、容器底部11に、収容区画底部21と収容区画側壁部22とを有する細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、該収容区画側壁部22に、1個以上の培養液流出手段30が配置されていることが必要である。このような特徴を有することにより、培養液が流出した際に所望の方向に流出方向を制御することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、容器底部11と、容器底部11の周縁に立設された容器側壁部12とを有する。本発明の細胞取扱容器1は、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の表面(以下、「細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面」、「容器底部11の内表面」又は「容器内底面」とも記載する)、並びに細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の表面(以下、「細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面」、「容器側壁部12の内表面」又は「容器内壁面」とも記載する)によって形成される上方に開口した有底形状の内部空間10を有する。内部空間10は、細胞及び/又は培養液を配置する空間となる。本発明の細胞取扱容器1は、通常は、細胞取扱容器1の外部空間側に向く容器底部11の表面(以下、「細胞取扱容器1の外部空間側に向く容器底部11の外表面」、「容器底部11の外表面」又は「容器外底面」とも記載する)が水平となる状態で配置されて使用される。本発明において、前記のような本発明の細胞取扱容器の配置を、「使用時の配置」と記載する場合がある。本発明において、「上下方向」は、使用時の配置において容器外底面に垂直な方向を意味する。この場合、容器外底面から容器側壁部の周縁によって形成される開口部に向かう方向を上方、開口部から容器外底面に向かう方向を下方と記載する場合がある。本発明において、「高さ」は、使用時の配置において、本発明の細胞取扱容器の各部位の上下方向の長さを意味する。また、本発明において、「水平方向」は、使用時の配置において容器外底面に平行な方向を意味する。
本発明の細胞取扱容器1の形状及び寸法は、内部空間10の内部に細胞及び培養液を収容可能な収容区画20を配置できれば、特に限定されない。細胞取扱容器1の形状としては、例えば、使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形が、円形(真円形及び楕円形を含む)、又は三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形である形状を挙げることができる。使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形が、円形であることが好ましい。この場合、本発明の細胞取扱容器1は、当該技術分野で通常使用される円形シャーレの形状となる。細胞取扱容器1の寸法は、使用時の配置における上面視において、容器側壁部12の開口部の開口幅が通常は30〜60 mmの範囲であり、典型的には約35 mmである。本発明において、「開口部の開口幅」は、開口部の外縁が形成する図形の最長径の長さを意味する。例えば、開口部の外縁が円形である場合、開口部の寸法は、該円形の直径に相当する。また、容器側壁部12の高さは、通常は5〜20 mmの範囲であり、典型的には7〜15 mmの範囲である。特に好適な細胞取扱容器1は、使用時の配置における上面視において、容器側壁部12の開口部の開口幅が好ましくは30〜60 mmの範囲、より好ましくは約35 mmであり、容器側壁部12の高さが好ましくは5〜20 mmの範囲であり、より好ましくは7〜15 mmの範囲であり、容器底部11が円形の形状である。このような寸法及び形状を有する細胞取扱容器1は、細胞培養分野で受精卵等の培養に通常使用される円形シャーレと同様の形状及び寸法である。それ故、前記形状及び寸法を有する本発明の細胞取扱容器は、細胞培養分野で通常使用される各種の培養装置等に容易に適合させることができる。
容器底部11の形状は特に限定されない。細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面は、使用時の配置において略全面が水平面となるように形成されていてよく、使用時の配置において中心から外縁に進むに従って上下方向に高くなる傾斜面となるように形成されていてもよい。当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器の容器底部の様々な形状を、容器底部11の形状に適用することができる。
同様に、容器側壁部12の形状は特に限定されない。細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面、並びに/又は細胞取扱容器1の外部空間側に向く容器側壁部12の表面(以下、「細胞取扱容器1の外部空間側に向く容器側壁部12の外表面」又は「容器側壁部12の外表面」とも記載する)は、使用時の配置において略全面が垂直面となるように形成されていてもよく、使用時の配置において容器底部11との接続部から上方の周縁部に進むに従って垂直面に対して容器側壁部12の内部方向に傾斜している傾斜面となるように形成されていてもよい。当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器の容器側壁部の様々な形状を、容器側壁部12の形状に適用することができる。本発明の細胞取扱容器1がプラスチック材料を含む材質で構成されており、射出成形のような慣用の成形法を用いて製造される場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面、並びに/又は細胞取扱容器1の外部空間側に向く容器側壁部12の外表面が前記のように傾斜面となるように形成されていると、抜き勾配として機能し効率的に離型できることから有利である。
本発明の細胞取扱容器1において、容器底部11に、細胞及び培養液の収容区画20が配置される。容器底部11における収容区画20の数及び位置は特に限定されず、任意の数の収容区画20を任意の位置に配置することができる。例えば、図1A1に示すように、使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形において、該図形の重心に相当する領域に、1個の収容区画20を配置することができる。或いは、図1B1に示すように、使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形において、該図形の重心を挟んで対向する領域に、2個の収容区画20を配置することができる。或いは、使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形において、該図形に内接する多角形(例えば、三角形、四角形、五角形又は六角形等)のそれぞれの角に相当する領域に、複数個の収容区画をそれぞれ配置することができる。この場合、前記と同一の領域に加えて、それ以外の領域(例えば、前記図形の重心に相当する領域)にも、1個以上の収容区画をさらに配置することもできる。
収容区画20は、収容区画底部21と、収容区画底部21の周縁に立設された収容区画側壁部22とを有する。収容区画20は、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画底部21の表面(以下、「細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画底部21の内表面」又は「収容区画底部21の内表面」とも記載する)、並びに細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の表面(以下、「細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面」又は「収容区画側壁部22の内表面」とも記載する)によって形成される上方に開口した有底形状である。
収容区画20の形状及び寸法は特に限定されない。収容区画20の形状としては、例えば、使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画底部21の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形が、円形(真円形及び楕円形を含む)、又は三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形である形状を挙げることができる。使用時の配置において細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画底部21の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形が、円形であることが好ましい。例えば、使用時の配置における上面視において、容器側壁部12の開口部の開口幅が好ましくは30〜60 mmの範囲、より好ましくは約35 mmであり、容器底部11が円形の形状である細胞取扱容器1の場合、収容区画20の寸法は、使用時の配置における上面視において、収容区画側壁部22の開口部の開口幅が1.5〜33.5 mmの範囲であることが好ましく、5〜15 mmの範囲であることがより好ましい。収容区画側壁部22の開口部の開口幅が前記上限値を超える場合、収容区画20の外側の領域で、収容区画20から取り出された細胞の洗浄又は個別管理による培養若しくは一時保管等の作業を行う際の操作性を損なう可能性がある。また、収容区画側壁部22の開口部の開口幅が前記下限値未満の場合、収容区画20の内部空間で、細胞の培養又は一時保管等の作業を行う際の操作性を損なう可能性がある。さらに、収容区画側壁部22の開口部の開口幅が前記のより好ましい範囲の場合、収容区画20の外側の領域に、収容区画20から取り出された細胞の洗浄又は個別管理による培養若しくは一時保管等の作業を行うための広い空間を確保することができるだけでなく、収容区画20の内部空間で細胞を見失う可能性を低下させることができる。例えば、収容区画20の内部に複数個の細胞が収容される実施形態、例えば、以下において説明するように、収容区画20の内部に複数個の窪み部が配置される実施形態の場合、収容区画20の寸法は、使用時の配置における上面視において、収容区画側壁部22の開口部の開口幅が3〜30 mmの範囲であることが好ましく、5〜15 mmの範囲であることがより好ましい。収容区画20の寸法が前記範囲の場合、収容区画20の内部に複数個の窪み部を配置することができるだけでなく、収容区画20の内部空間における細胞の取り扱い作業の操作性を向上させることができる。例えば、収容区画20の内部に1個の細胞が収容される実施形態の場合、収容区画20の内部に複数個の窪み部が配置される実施形態と比較して制約が少ないことから、収容区画20の寸法は、使用時の配置における上面視において、収容区画側壁部22の開口部の開口幅が1.5〜15 mmの範囲であることが好ましく、3〜7 mmの範囲であることがより好ましい。収容区画20が前記形状であり、且つ収容区画20の寸法が前記範囲の場合、収容区画20の内部に、マイクロドロップ法による細胞培養に通常使用される小容量の培養液、例えば10〜100 μLの培養液のドロップを収容することにより、通常は0.35 mm以上、例えば0.5 mm以上の高さの当該培養液のドロップを収容区画20の内部に形成し、且つ当該ドロップによって収容区画底部21の略全面を被覆することができる。それ故、収容区画20が前記形状及び寸法を有する本発明の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法による細胞培養に有利に使用することができる。
収容区画底部21の形状は特に限定されない。細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画底部21の内表面は、使用時の配置において略全面が水平面となるように形成されていてよく、使用時の配置において中心から外縁に進むに従って上下方向に高くなる傾斜面となるように形成されていてもよい。当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器における細胞及び培養液を収容するための区画の様々な形状を、収容区画底部21の形状に適用することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、通常は、顕微鏡を用いてその内部に収容された細胞を観察するために使用される。ここで、細胞取扱容器1の容器底部11及び細胞を収容するための収容区画底部21の表面粗さが大きい値の場合、表面の凹凸に起因して鮮明な像が得られない可能性がある。このため、細胞取扱容器1の容器底部11及び収容区画底部21の表面は、表面粗さの値が可能な限り小さい、平滑な表面であることが好ましい。具体的には、容器底部11及び収容区画底部21の表面は、最大高さRyが1.0 μm未満であることが好ましく、0.5 μm未満であることがより好ましい。本発明において、最大高さRyは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分における山頂線と谷底線との間隔を意味する。容器底部11及び収容区画底部21の表面の表面粗さは、本発明の細胞取扱容器1の鋳型を作製する際に磨き処理を施す等して、鋳型の加工精度を高めることにより小さくすることができる。また、表面粗さの計測は、通常の断面形状計測装置を用いて行うことができる。計測条件としては、例えばダブルスキャン高精度レーザ測定器(キーエンス社製、LT-9010M)及び高精度形状測定システム(キーエンス社製、KS-1100)を用い、5 μmの測定間隔で計測することができる。
収容区画側壁部22の形状は特に限定されない。細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面、並びに/又は収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の表面(以下、「収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面」又は「収容区画側壁部22の外表面」とも記載する)は、使用時の配置において略全面が垂直面となるように形成されていてもよく、使用時の配置において収容区画底部21との接続部から上方の周縁部に進むに従って垂直面に対して収容区画側壁部22の内部方向に傾斜している傾斜面となるように形成されていてもよい。当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器における細胞及び培養液を収容するための区画側壁部の様々な形状を、収容区画側壁部22の形状に適用することができる。本発明の細胞取扱容器1がプラスチック材料を含む材質で構成されており、射出成形のような慣用の成形法を用いて製造される場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面及び/又は収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面が前記のように傾斜面となるように形成されていると、抜き勾配として機能し効率的に離型できることから有利である。
本発明において、収容区画側壁部の高さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図において、収容区画側壁部と収容区画底部との接続部から収容区画側壁部の上端部までの上下方向の長さを意味する。また、本発明において、収容区画側壁部の厚さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図における該収容区画側壁部の幅、すなわち細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部の内表面及び収容区画の外部空間側に向く収容区画側壁部の外表面の間の距離を意味する。例えば、収容区画側壁部の内表面及び外表面の略全面が使用時の配置において垂直面となるように形成されている場合には、垂直断面模式図における該収容区画側壁部の幅は一定であるので、任意の位置の幅を採用することができる。他方、収容区画側壁部の内表面及び/又は外表面が傾斜面となるように形成されている場合には、垂直断面模式図における該収容区画側壁部の幅の最大値を採用すればよい。例えば、容器側壁部12の高さが好ましくは5〜20 mmの範囲、より好ましくは7〜15 mmの範囲の場合、収容区画側壁部22の高さは、1〜9 mmの範囲であることが好ましい。収容区画側壁部22の高さが前記下限値未満の場合、収容区画20の内部に十分な量の培養液を入れることが困難となる可能性がある。また、収容区画側壁部22の高さが前記上限値を超える場合、細胞取扱容器1が蓋を有するときに収容区画側壁部22と蓋とが接触して容器側壁部12の開口部の閉鎖を妨げる可能性がある。収容区画側壁部22の高さが前記範囲内の場合、培養液のドロップを収容区画20の内部に形成し、且つ収容区画側壁部22の高さを超える量のオイルを内部空間10に入れることにより、培養液の略全面をオイルで被覆して、培養液の蒸発を実質的に抑制することができる。前記実施形態の場合、収容区画側壁部22の高さは、収容区画20の内部に十分な量の培養液を入れることができ、且つ培養液の蒸発をより抑制するために、2〜6 mmの範囲であることがより好ましい。また、収容区画側壁部22の厚さは、0.3〜3 mmの範囲であることが好ましく、0.5〜1.5 mmの範囲であることがより好ましい。収容区画側壁部22の厚さが前記上限値を超える場合、収容区画20の内部で作業を行うための空間が狭くなる可能性がある。また、収容区画側壁部22の厚さが前記下限値未満の場合、収容区画側壁部22の強度が低下し、且つ/又は成形が困難となる可能性がある。それ故、収容区画側壁部22の厚さが前記範囲内の場合、収容区画20の内部で作業を行うための十分な空間を確保し、且つ収容区画側壁部22の十分な強度を確保することができる。
収容区画側壁部22の構造は特に限定されない。収容区画側壁部22の内部は、通常は、収容区画側壁部を構成する材料によって略完全に充填されていることができる。しかしながら、収容区画側壁部22は、場合によりその内部に空隙部を有することもできる。本発明において、収容区画側壁部の空隙率は、収容区画側壁部の総体積に対する収容区画側壁部の空隙部の体積の百分率(体積%)を意味する。例えば、収容区画側壁部の空隙率(体積%)は、
収容区画側壁部の空隙率=(空隙部の体積)/(収容区画側壁部の総体積)×100
によって算出される。例えば、収容区画側壁部22の内部が、収容区画側壁部を構成する材料によって略完全に充填されている実施形態の場合、空隙率は実質的に0体積%である。収容区画側壁部22の内部に空隙部を有する実施形態の場合、収容区画側壁部の空隙率は、空隙率が高いほど材料を削減できるので、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上であることがさらに好ましく、また空隙率が高すぎると強度が弱くなる可能性があることから、90体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、70体積%以下であることがさらに好ましい。収容区画側壁部の内部に空隙部を有することにより、収容区画側壁部を構成する材料を空隙率に応じて削減することができる。これにより、本発明の細胞取扱容器の製造コストを削減することができる。
収容区画側壁部22の光学特性は特に限定されない。本発明の細胞取扱容器1は、通常は、顕微鏡を用いてその内部に収容された細胞を観察するために使用される。このため、細胞取扱容器1の容器底部11及び細胞を収容するための細胞収容区画底部21は、通常は、顕微鏡による観察を実質的に阻害しない光学特性、例えば、実質的に透明且つ無色の光学特性を有する。しかしながら、収容区画側壁部22は、場合により収容区画底部21とは異なる透明度及び色の組み合わせのような異なる光学特性を有することもできる。収容区画側壁部22は、観察対象の細胞と対物レンズとを結ぶ光軸上に位置しないので、収容区画側壁部22の光学特性が顕微鏡による観察を阻害し得る光学特性であっても、細胞の観察に実質的な影響を生じることはない。収容区画側壁部22の透明度及び色の組み合わせのような光学特性は、本発明の細胞取扱容器1又は収容区画20を作製するとき又は作製した後に、付与することができる。例えば、本発明の細胞取扱容器1及び収容区画20がプラスチックを含む材料によって構成されており、射出成形によって一体的に作製される場合、マスターバッチ法、ドライブレンド法、練り込み法又は表面コート法等の方法を用いて透明プラスチック成形品におけるブルーイング剤又は各種顔料等のような添加剤を添加することによって、所望の透明度及び色の組み合わせを付与することができる。
収容区画側壁部22の表面特性は特に限定されない。本発明の細胞取扱容器1において、細胞取扱容器の容器底部11及び細胞収容区画底部21の表面は、表面粗さの値が可能な限り小さい、平滑な表面であることが好ましい。しかしながら、収容区画側壁部22は、観察対象の細胞と対物レンズとを結ぶ光軸上に位置しないので、収容区画側壁部22の表面粗さが顕微鏡による観察を阻害し得る値であっても、細胞の観察に実質的な影響を生じることはない。それ故、収容区画側壁部22は、場合により収容区画底部21とは異なる表面粗さを有することもできる。本実施形態の場合、収容区画側壁部の表面粗さは、前記で説明した好ましい範囲から適宜設定することができる。収容区画側壁部の表面粗さは、前記で説明した方法によって調整することができる。
本発明の細胞取扱容器1において、収容区画側壁部22は、細胞取扱容器1と一体的に形成されていてよく、細胞取扱容器1とは別個の部材として形成されていてもよい。後者の実施形態の場合、別個の部材として形成される収容区画側壁部22は、細胞取扱容器1と同一の材質で形成されていてよく、細胞取扱容器1とは別個の材質で形成されていてもよい。
本発明の細胞取扱容器1において、収容区画側壁部22に、1個以上の培養液流出手段30が配置されていることが必要である。1個以上の培養液流出手段30は、通常は、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口とこれらの開口を結ぶ流路とを有する。1個以上の培養液流出手段30に含まれる流路としては、例えば、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部、及び収容区画側壁部22を貫通するように形成された孔部を挙げることができる。1個以上の培養液流出手段30は、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口とを結ぶ流路として、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部、又は収容区画側壁部22を貫通するように形成された孔部を含むことが好ましい。
本発明の一実施形態において、1個以上の培養液流出手段30は、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31を含むことが好ましい。本実施形態を図2Aに示す。図2Aは、図1A1におけるI-I’に沿った垂直断面模式図である。
例えば、図2Aに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31を含む1個以上の培養液流出手段30を配置することができる。この場合において、収容区画側壁部22の高さh0と、溝部31を含む培養液流出手段の高さh1との比(h1/h0)は、収容区画20の内部に十分な量の培養液を入れることができることから0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、比(h1/h0)は、わずかでもh0よりh1が低ければ培養液流出手段を通じて培養液を流出させることができることから1未満であることが好ましく、より確実に培養液流出手段を通じて所望の方向へ培養液を流出させることができることから0.9以下であることがより好ましい。但し、h1<h0である。本発明において、培養液流出手段の高さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図において、収容区画側壁部と収容区画底部との接続部から細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口の下端部までの上下方向の長さ(以下、「培養液流出手段の内表面側の開口の高さ」とも記載する)又は収容区画の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の下端部までの上下方向の長さ(以下、「培養液流出手段の外表面側の開口の高さ」とも記載する)のうち、最大長を意味する。例えば、培養液流出手段において、培養液流出手段の内表面側の開口の高さ及び培養液流出手段の外表面側の開口の高さは同一であってよい。この場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口とを結ぶ流路の底部は、容器底部11と実質的に平行となる。或いは、培養液流出手段の内表面側の開口の高さ及び培養液流出手段の外表面側の開口の高さは異なっていてもよい。この場合、培養液流出手段を通じて所望の方向へ培養液を流出させることができることから、培養液流出手段の外表面側の開口の高さが培養液流出手段の内表面側の開口の高さより低いことが好ましい。例えば、収容区画側壁部22の高さh0が前記で説明した範囲である場合、溝部31を含む培養液流出手段の高さh1は、前記で説明した(h1/h0)の範囲を満たす値から適宜設定することができる。収容区画20が前記形状であり、且つ収容区画20の寸法が前記範囲の場合、収容区画20の内部に、マイクロドロップ法による細胞培養に通常使用される小容量の培養液、例えば10〜100 μLの培養液のドロップを収容することにより、通常は0.35 mm以上、例えば0.5 mm以上の高さの当該培養液のドロップを収容区画20の内部に形成し、且つ当該ドロップによって収容区画底部21の略全面を被覆することができる。そして、培養液流出手段30が前記形状であり、且つ培養液流出手段30の高さh1が前記範囲の場合、ドロップの高さがh1以上となることによって、ドロップを形成している培養液が収容区画側壁部22を越えて収容区画20の外部に流出する際に、培養液流出手段30の開口方向に培養液を流出させることができる。このような構成により、本発明の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法によって受精卵等の細胞を取り扱う際に、培養液の流出方向を制御することができる。それ故、本発明の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法による細胞培養に有利に使用することができる。
本実施形態において、溝部31を含む培養液流出手段30の形状は特に限定されない。溝部31の断面形状が、三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形、半円形、又はU字形等の各種の形状を採用することができる。この場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口は、該開口の周縁によって形成される図形の形状が溝部31の断面形状と同一の形状を有することが好ましい。
図2Eは、図1A1におけるII-II’に沿った垂直断面模式図である。例えば、図2Eに示すように、溝部31の断面形状、並びに細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状は、1個の頂点が使用時の配置において下方に配向するように配置された三角形(以下、「V字形」とも記載する)の形状であることが好ましい。前記形状の場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口、並びに収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の下端部は、下方に配向する三角形の頂点となる。この場合、収容区画20の内部から流出する培養液の流路は狭い。それ故、本実施形態の場合、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際に培養液が流出しても、その流出量を少量とすることができる。
或いは、溝部31の断面形状、並びに細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画20の外部空間に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状は、四角形の形状であることもできる。前記形状の場合、V字形及び下記において説明するU字形の形状の実施形態と比較して、開口における表面張力が高くなる。このため、収容区画20の内部から培養液が流出し始める際の培養液量の下限値を、V字形及びU字形の形状の実施形態と比較して高くすることができる。これにより、より多量の培養液を収容区画20の内部に保持することができる。それ故、本実施形態の場合、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際の操作性を向上させることができる。
或いは、溝部31の断面形状、並びに細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画20の外部空間に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状は、U字形の形状であることもできる。前記形状の場合、V字形状の実施形態と比較して開口における表面張力が高くなる。このため、収容区画20の内部から培養液が流出し始める際の培養液量の下限値を、V字形の形状の実施形態と比較して高くすることができる。それ故、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際の操作性を向上させることができる。また、前記形状の場合、四角形の形状の実施形態と比較して、収容区画20の内部から流出する培養液の流路が狭い。それ故、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際に培養液が流出しても、その流出量を少量とすることができる。
本実施形態の場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅は、0.3〜5 mmの範囲であることが好ましく、0.5〜1 mmの範囲であることがより好ましい。前記収容区画側壁部22の内表面側及び外表面側の開口の開口幅は、該開口が形成される収容区画側壁部22の開口部の開口幅未満の範囲で設定される。前記収容区画側壁部22の内表面側及び外表面側の開口の開口幅が前記下限値未満の場合、開口以外の部分から培養液が流出して、培養液の流出方向の制御が難しくなる可能性がある。また、前記収容区画側壁部22の内表面側及び外表面側の開口の開口幅が前記上限値を超える場合、培養液の流出量が多くなり、培養液の流出量の制御が難しくなる可能性がある。この場合、溝部31の断面形状の寸法は、通常は、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口、並びに収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅の寸法を同一の範囲としてよい。或いは、例えば収容区画20の形状が円形等の実施形態の場合、収容区画側壁部22の内表面及び外表面は曲面状となる。このような実施形態の場合、溝部31の断面形状の寸法は、収容区画20の中心部からみた収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口角を同一とするために、例えば収容区画側壁部22の内表面側の開口の開口幅より収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅を大きくする等によって、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口、並びに収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅の寸法を互いに異なる範囲としてもよい。溝部31を含む培養液流出手段30が前記形状及び寸法を有する場合、マイクロドロップ法によって受精卵等の細胞を取り扱う際に、培養液の流出方向及び流出量を制御することができる。
本発明の別の実施形態において、1個以上の培養液流出手段30は、収容区画側壁部22を貫通するように形成された孔部32を含むことが好ましい。本実施形態を図3Aに示す。図3Aは、図1A2におけるIII-III’に沿った垂直断面模式図である。
例えば、図3Aに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22を貫通するように形成された孔部32を含む1個以上の培養液流出手段30を配置することができる。この場合において、収容区画側壁部22の高さh0と、孔部32を含む培養液流出手段の高さh2との比(h2/h0)は、収容区画20の内部に十分な量の培養液を入れることができることから0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、比(h2/h0)は、わずかでもh0よりh2が低ければ培養液流出手段を通じて培養液を流出させることができることから1未満であることが好ましく、より確実に培養液流出手段を通じて所望の方向へ培養液を流出させることができることから0.9以下であることがより好ましい。但し、h2<h0である。例えば、収容区画側壁部22の高さh0が前記で説明した範囲である場合、孔部32を含む培養液流出手段の高さh2は、前記で説明した(h2/h0)の範囲を満たす値から適宜設定することができる。収容区画20が前記形状であり、且つ収容区画20の寸法が前記範囲の場合、収容区画20の内部に、マイクロドロップ法による細胞培養に通常使用される小容量の培養液、例えば10〜100 μLの培養液のドロップを収容することにより、通常は0.35 mm以上、例えば0.5 mm以上の高さの当該培養液のドロップを収容区画20の内部に形成し、且つ当該ドロップによって収容区画底部21の略全面を被覆することができる。そして、培養液流出手段30が前記形状であり、且つ培養液流出手段30の高さh2が前記範囲の場合、ドロップの高さがh2以上となることによって、ドロップを形成している培養液が収容区画側壁部22を越えて収容区画20の外部に流出する際に、培養液流出手段30の開口方向に培養液を流出させることができる。このような構成により、本発明の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法によって受精卵等の細胞を取り扱う際に、培養液の流出方向を制御することができる。それ故、本発明の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法による細胞培養に有利に使用することができる。
本実施形態において、孔部32を含む培養液流出手段30の形状は特に限定されない。孔部32の断面形状が、円形(真円形及び楕円形を含む)、又は三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形である各種形状を採用することができる。この場合、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状は、孔部32の断面と同一の形状であることが好ましい。
図3Eは、図1A2におけるIV-IV’に沿った垂直断面模式図である。例えば、図3Eに示すように、孔部32の断面形状、並びに細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口、並びに収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状は、円形(真円形及び楕円形を含む)の形状であることが好ましい。前記形状の場合、開口における表面張力が高くなる。このため、収容区画20の内部から培養液が流出し始める際の培養液量の下限値を高くすることができる。これにより、より多量の培養液を収容区画20の内部に保持することができる。それ故、本実施形態の場合、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際の操作性を向上させることができる。
本実施形態の場合、収容区画側壁部22の内表面側の開口及び外表面側の開口の開口幅は、0.3〜5 mmの範囲であることが好ましく、0.5〜1 mmの範囲であることがより好ましい。前記収容区画側壁部22の内表面側及び外表面側の開口の開口幅は、該開口が形成される収容区画側壁部22の開口部の開口幅開口幅未満の範囲で設定される。前記収容区画側壁部22の内表面側及び外表面側の開口の開口幅が前記下限値未満の場合、開口以外の部分から培養液が流出して、培養液の流出方向の制御が難しくなる可能性がある。また、前記収容区画側壁部22の内表面側及び外表面側の開口の開口幅が前記上限値を超える場合、培養液の流出量が多くなり、培養液の流出量の制御が難しくなる可能性がある。この場合、孔部32の断面形状の寸法は、通常は、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口、並びに収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅の寸法を同一の範囲としてよい。或いは、例えば収容区画20の形状が円形等の実施形態の場合、収容区画側壁部22の内表面及び外表面は曲面状となる。このような実施形態の場合、孔部32の断面形状の寸法は、収容区画20の中心部からみた収容区画側壁部22の内表面側の開口及び収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口角を同一とするために、例えば収容区画側壁部22の内表面側の開口の開口幅より収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅を大きくする等によって、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く収容区画側壁部22の内表面側の開口、並びに収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の開口幅の寸法を互いに異なる範囲としてもよい。孔部32を含む培養液流出手段30が前記形状及び寸法を有する場合、マイクロドロップ法によって受精卵等の細胞を取り扱う際に、培養液の流出方向及び流出量を制御することができる。
本発明の細胞取扱容器1において、培養液流出手段30の数は1個以上であればよく、その上限は特に限定されない。培養液流出手段30を2個以上有する実施形態の場合、それぞれの培養液流出手段30の形状及び寸法は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。また、培養液流出手段30は、収容区画側壁部22の任意の位置に配置することができる。例えば、図1A3及び1A4に示すように、本発明の細胞取扱容器1は、収容区画側壁部22の対向する位置に、2個の培養液流出手段30, 30’が配置されていてもよい。図2Bは、図1A3におけるV-V’に沿った垂直断面模式図であり、図3Bは、図1A4におけるVI-VI’に沿った垂直断面模式図である。本実施形態の場合、図2B及び3Bに示すように、2個の培養液流出手段30, 30’の高さh1及びh1’, h2及びh2’は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
また、例えば図1B1及び1B2に示すように、本発明の細胞取扱容器1は、容器底部11に、収容区画底部21, 21’と収容区画側壁部22, 22’とを有する2個の収容区画20, 20’が配置されており、それぞれの収容区画側壁部22, 22’に、1個の培養液流出手段30, 30’がそれぞれ配置されていてもよい。
本発明の細胞取扱容器1において、1個以上の培養液流出手段30は、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口から収容区画20の外側へ延在する樋状の液受け部33をさらに含むことが好ましい。本実施形態を図2C〜2D及び図3C〜3Dに示す。図2Cは、図1C1におけるVII-VII’に沿った垂直断面模式図であり、図2Dは、図1C3におけるIX-IX’に沿った垂直断面模式図であり、図3Cは、図1C2におけるVIII-VIII’に沿った垂直断面模式図であり、図3Dは、図1C4におけるX-X’に沿った垂直断面模式図である。
例えば図2Cに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31を含む1個以上の培養液流出手段30が配置されており、1個以上の培養液流出手段30は、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口から収容区画20の外側へ延在する樋状の液受け部33をさらに含むことができる。この場合において、収容区画側壁部22の高さh0と、樋状の液受け部33の高さh3との比(h3/h0)は、収容区画20の内部に十分な量の培養液を入れることができることから0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、比(h3/h0)は、わずかでもh0よりh3が低ければ培養液流出手段を通じて培養液を流出させることができることから1未満であることが好ましく、より確実に培養液流出手段を通じて所望の方向へ培養液を流出させることができることから0.9以下であることがより好ましい。但し、h1≦h3<h0であり、h1<h3<h0であることが好ましい。本発明において、樋状の液受け部33の高さh3は、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図において、収容区画側壁部と収容区画底部との接続部から樋状の液受け部の先端部までの上下方向の長さを意味する。本実施形態の場合、例えば、収容区画側壁部22の高さh0が前記で説明した範囲である場合、樋状の液受け部33の高さh3は、前記で説明した(h3/h0)の範囲を満たす値から適宜設定することができる。収容区画20が前記形状であり、且つ収容区画20の寸法が前記範囲の場合、樋状の液受け部33の先端部から滴下するように培養液が流出し得る。これにより、樋状の液受け部33の先端部の周辺領域に培養液の流出位置を精密に制御することができる。
樋状の液受け部33は、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁の少なくとも一部から収容区画20の外側の先端部まで延在する形状を有していれば、その具体的な形状は特に限定されない。例えば、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状がV字形の形状である場合、樋状の液受け部33は、V字形の開口から収容区画20の外側の先端部まで直線的に延在する形状であることができる。或いは、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口の周縁によって形成される図形の形状が円形の形状である場合、樋状の液受け部33は、円形の開口の下方の一部から収容区画20の外側の先端部まで凹状に湾曲して延在する形状であることができる。
本発明の細胞取扱容器1において、樋状の液受け部33の数は1個以上であればよく、その上限は特に限定されない。培養液流出手段30を2個以上有する実施形態の場合、全ての培養液流出手段30が樋状の液受け部33を含んでもよく、2個以上の培養液流出手段30の一部が樋状の液受け部33を含んでもよい。全ての培養液流出手段30について培養液の流出位置を精密に制御することができることから、全ての培養液流出手段30が樋状の液受け部33を含むことが好ましい。複数の樋状の液受け部33を含む実施形態の場合、樋状の液受け部33の形状及び寸法は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。例えば、図2D及び3Dに示すように、本発明の細胞取扱容器1が2個の培養液流出手段30, 30’を有する場合、2個の培養液流出手段30, 30’がそれぞれ1個の樋状の液受け部33, 33’を含むことが好ましい。本実施形態の場合、2個の樋状の液受け部33, 33’の高さは、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。このような構成により、2個の培養液流出手段30, 30’のいずれについても培養液の流出位置を精密に制御することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、場合により、容器底部11に、底部41と側壁部42とを有する1個以上の流出液の回収区画40を配置することができる。本実施形態を図4〜7Bに示す。以下の説明及びそこで引用する図面では、1個以上の培養液流出手段として、収容区画側壁部の上面に形成された溝部を含む培養液流出手段を例示する。しかしながら、以下で説明する本発明の細胞取扱容器の実施形態において、1個以上の培養液流出手段は、収容区画側壁部の上面に形成された溝部を含む培養液流出手段若しくは収容区画側壁部を貫通するように形成された孔部を含む培養液流出手段、又はそれらの組み合わせであってよい。いずれの場合も、本発明の細胞取扱容器の実施形態に包含される。
流出液の回収区画40は、底部41と、底部41の周縁に立設された側壁部42とを有する。流出液の回収区画40は、流出液を回収する空間側に向く底部41の表面(以下、「流出液を回収する空間側に向く底部41の内表面」又は「流出液の回収区画40の底部41の内表面」とも記載する)及び流出液を回収する空間側に向く側壁部42の表面(以下、「流出液を回収する空間側に向く側壁部42の内表面」又は「流出液の回収区画40の側壁部42の内表面」とも記載する)によって形成される上方に開口した有底形状である。
本発明の細胞取扱容器1が回収区画40を有する実施形態の場合、回収区画40の形状及び寸法は特に限定されない。回収区画40の形状としては、例えば、使用時の配置において回収区画40の流出液を回収する空間側に向く底部41の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形が、円形(真円形及び楕円形を含む)、又は三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形である形状を挙げることができる。使用時の配置において回収区画40の流出液を回収する空間側に向く底部41の内表面を水平面に投影したときにその周縁によって形成される図形が、円形であることが好ましい。回収区画40の寸法は、回収区画40の側壁部42の開口部の開口幅が、収容区画側壁部22の開口部の開口幅に対して3〜10 mm大きいことが好ましい。例えば、使用時の配置における上面視において、容器側壁部12の開口部の開口幅が好ましくは30〜60 mmの範囲、より好ましくは約35 mmであり、容器底部11が円形の形状である細胞取扱容器1の場合、回収区画40の寸法は、使用時の配置における上面視において、回収区画40の側壁部42の開口部の開口幅が2〜34 mmの範囲であることが好ましい。回収区画40が前記形状であり、且つ回収区画40の寸法が前記範囲の場合、収容区画20の内部から流出した培養液が回収区画40の外部へ拡散することを実質的に防止することができる。
流出液の回収区画40の底部41の形状は特に限定されない。流出液を回収する空間側に向く底部41の内表面は、使用時の配置において略全面が水平面となるように形成されていてよく、使用時の配置において中心から外縁に進むに従って上下方向に高くなる傾斜面となるように形成されていてもよい。当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器における細胞及び培養液を収容するための区画の様々な形状を、流出液の回収区画40の形状に適用することができる。
流出液の回収区画40の底部41及び側壁部42の表面は、前記で説明した容器底部11及び収容区画底部21の表面と同様に、表面粗さの値が可能な限り小さい、平滑な表面であることが好ましい。
流出液の回収区画40の側壁部42の形状は、以下において説明する要件を満足できれば特に限定されない。流出液の回収区画40の流出液を回収する空間側に向く側壁部42の内表面及び/又は流出液の回収区画40の外部空間側に向く表面(以下、「流出液の回収区画40の外部空間側に側壁部42の外表面」又は「流出液の回収区画40の側壁部42の外表面」とも記載する)は、使用時の配置において略全面が垂直面となるように形成されていてもよく、使用時の配置において回収区画40の底部41との接続部から上方の周縁部に進むに従って垂直面に対して側壁部42の内部方向に傾斜している傾斜面となるように形成されていてもよい。以下において説明する要件を満足できれば、当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器における細胞及び培養液を収容するための区画側壁部の様々な形状を、回収区画40の側壁部42の形状に適用することができる。本発明の細胞取扱容器1がプラスチック材料を含む材質で構成されており、射出成形のような慣用の成形法を用いて製造される場合、回収区画40の側壁部42の内表面及び/又は外表面が前記のように傾斜面となるように形成されていると、抜き勾配として機能し効率的に離型できることから有利である。
流出液の回収区画の側壁部の構造は特に限定されない。回収区画の側壁部の内部は、通常は、回収区画の側壁部を構成する材料によって略完全に充填されていることができる。しかしながら、回収区画の側壁部は、前記で説明した収容区画側壁部と同様に、場合によりその内部に空隙部を有することもできる。回収区画の側壁部がその内部に空隙部を有する実施形態の場合、回収区画の側壁部の空隙率は、収容区画側壁部の空隙率と同様に算出される。本実施形態の場合、回収区画の側壁部の空隙率は、前記で説明した収容区画側壁部の空隙率と同様の範囲であることが好ましい。回収区画の側壁部の内部に空隙部を有することにより、側壁部を構成する材料を空隙率に応じて削減することができる。これにより、本発明の細胞取扱容器の製造コストを削減することができる。
本発明の細胞取扱容器1において、流出液の回収区画40の側壁部42は、細胞取扱容器1と一体的に形成されていてよく、細胞取扱容器1とは別個の部材として形成されていてもよい。後者の実施形態の場合、別個の部材として形成される流出液の回収区画40の側壁部42は、細胞取扱容器1と同一の材質で形成されていてよく、細胞取扱容器1とは別個の材質で形成されていてもよい。
本発明において、流出液の回収区画の側壁部の高さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図において、回収区画の側壁部と底部との接続部から回収区画の側壁部の上端部までの上下方向の長さを意味する。また、本発明において、流出液の回収区画の側壁部の厚さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図における該回収区画の側壁部の幅、すなわち流出液の回収区画の流出液を回収する空間側に向く側壁部の内表面及び流出液の回収区画の外部空間側に向く側壁部の外表面の間の距離を意味する。例えば、回収区画の側壁部の内表面及び外表面の略全面が使用時の配置において垂直面となるように形成されている場合には、垂直断面模式図における該回収区画の側壁部の幅は一定であるので、任意の位置の幅を採用することができる。他方、回収区画の側壁部の内表面及び/又は外表面が傾斜面となるように形成されている場合には、垂直断面模式図における該回収区画の側壁部の幅の最大値を採用すればよい。回収区画40の側壁部42の高さ及び厚さは、前記で説明した収容区画側壁部22の高さ及び厚さの好ましい範囲内で任意に設定することができる。
本発明の細胞取扱容器1が1個以上の流出液の回収区画40を有する実施形態において、細胞及び培養液の収容区画20が、1個以上の流出液の回収区画40の内部に配置されていることが好ましい。本実施形態を図4及び5A〜5Cに示す。図5A〜5Cは、図4におけるXI-XI’に沿った垂直断面模式図である。
例えば図4及び5Aに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31を含む培養液流出手段30が配置される。そして、容器底部11には、底部41と側壁部42とを有する流出液の回収区画40が配置されており、細胞及び培養液の収容区画20が、流出液の回収区画40の内部に配置されることが好ましい。本実施形態の場合、収容区画20の内部から培養液が流出する際に、回収区画40の内部に培養液の流出範囲を留めることができる。このような構成により、例えば、容器底部11のうち、回収区画40の外側の領域を、収容区画20から取り出された細胞を個別管理しながら並行して培養するために使用する場合、取り出された細胞と流出した培養液とが接触することを実質的に防止することができる。
例えば、図5A及び5Bに示すように、1個以上の流出液の回収区画40の側壁部42の高さは、収容区画側壁部22の高さ以下であることができる。回収区画40の側壁部42の高さが前記特徴を有する場合、細胞及び培養液の収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際に、回収区画40の側壁部42が障害となることを実質的に抑制することができる。それ故、本実施形態の場合、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて収容区画20の内部に収容された細胞及び培養液を取り扱う際の操作性を向上させることができる。
或いは、図5Cに示すように、1個以上の流出液の回収区画40の側壁部42の高さは、細胞及び培養液の収容区画20の側壁部22の高さを超えることができる。回収区画40の側壁部42の高さが前記特徴を有する場合、回収区画40の内部に大量の培養液を保持することができる。これにより、収容区画20の内部から大量の培養液が流出した場合であっても、回収区画40の内部に培養液の流出範囲を留めることができる。
本発明の細胞取扱容器1が1個以上の流出液の回収区画40を有する実施形態において、回収区画40が、底部41と、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に両端が接続された側壁部42とを有し、且つ1個以上の培養液流出手段30における収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口が、1個以上の回収区画40の内部方向に開口するように配置されていることが好ましい。本実施形態を図6A及び6B、並びに7A及び7Bに示す。図7Aは、図6AにおけるXII-XII’に沿った垂直断面模式図であり、図7Bは、図6BにおけるXIII-XIII’に沿った垂直断面模式図である。
一実施形態において、例えば図6A及び7Aに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31、31’を含む培養液流出手段30、30’が配置される。そして、容器底部11には、底部41と、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に両端が接続された側壁部42とを有する1個以上の流出液の回収区画40, 40’が配置される。ここで、1個以上の培養液流出手段30における収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口は、1個以上の回収区画40の内部方向に開口するように配置されている。図6A及び7Aでは、2個の回収区画40, 40’を有する実施形態が示されているが、本実施形態の場合、1個以上の回収区画が所定の条件を満たす状態で配置されていればよく、その数の上限値は特に限定されない。本実施形態の場合、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側に設けられた1個以上の培養液流出手段30、30’の開口のそれぞれが、1個以上の回収区画40, 40’のそれぞれの内部方向に開口するように配置されている。これにより、回収区画の底部の面積を小さくしつつ、収容区画の内部から流出した培養液を効率的に保持することができる。このような構成により、例えば、容器底部のうち、回収区画の外側の領域を、収容区画から取り出された細胞を個別管理しながら並行して培養するために使用する場合、取り出された細胞と流出した培養液とが接触することを実質的に防止することができる。
別の実施形態において、例えば図6B及び7Bに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31、31’を含む培養液流出手段30、30’が配置される。そして、容器底部11には、底部41と、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に両端が接続された側壁部42とを有する2個以上の流出液の回収区画40, 40’ , 40’’, 40’’’が配置されることが好ましい。ここで、少なくとも1個の回収区画40, 40’の側壁部42, 42’に、流出液を回収する空間側に向く側壁部42, 42’の内表面側の開口と回収区画40, 40’の外部空間側に向く外表面側の開口とを有する1個以上の回収液流出手段50, 50’がさらに配置されており、別の回収区画40’’, 40’’’の側壁部42’’, 42’’’の両端が、1個以上の回収液流出手段50, 50’が配置された回収区画40, 40’の外部空間側に向く該回収区画40, 40’の側壁部42, 42’の外表面に接続されており、1個以上の回収液流出手段50, 50’における回収区画40, 40’の外部空間側に向く該回収区画40, 40’の側壁部42, 42’の外表面側の開口が、別の回収区画40’’, 40’’’の内部方向に開口するように配置されていることが好ましい。図6B及び7Bでは、4個の回収区画40, 40’, 40’’, 40’’’を有する実施形態が示されているが、本実施形態の場合、2個以上の回収区画が所定の条件を満たす状態で配置されていればよく、その数の上限値は特に限定されない。本実施形態の場合、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側に設けられた培養液流出手段30、30’の開口のそれぞれが、回収区画40, 40’のそれぞれの内部方向に開口するように配置されている。さらに、回収区画40, 40’の外部空間側に向く回収区画40, 40’の側壁部42, 42’の外表面側に設けられた回収液流出手段50, 50’の開口のそれぞれが、別の回収区画40’’, 40’’’のそれぞれの内部方向に開口するように配置されている。これにより、回収区画の底部の面積を小さくしつつ、収容区画の内部から流出した培養液を効率的に保持することができる。また、収容区画に隣接する回収区画から流出した培養液を、別の回収区画に保持することができる。このような構成により、例えば、容器底部のうち、回収区画の外側の領域を、収容区画から取り出された細胞を個別管理しながら並行して培養するために使用する場合、取り出された細胞と流出した培養液とが接触することを実質的に防止することができる。また、複数の回収区画を互いに区別し、それぞれを異なる目的(例えば、取り出した細胞の培養用途、取り出した細胞の洗浄用途、又はピペット若しくはガラスキャピラリー等の器具の洗浄用途等)に使用することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、場合により、容器底部11に、1個以上の隔壁部61を配置することができる。1個以上の隔壁部61は、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に一端が接続されており、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面に他端が接続又は離間するように配置されていることが好ましい。本実施形態を図8A〜9Bに示す。
隔壁部61は、本発明の細胞取扱容器1の内部空間10を複数の区画に仕切ることができる。隔壁部61によって仕切られた区画は、隔壁部61の側面、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器底部11の内表面、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面及び収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面によって形成される上方に開口した有底形状である。
隔壁部61の表面は、前記で説明した容器底部11及び細胞収容区画底部21の表面と同様に、表面粗さの値が可能な限り小さい、平滑な表面であることが好ましい。
隔壁部61の形状は、以下において説明する要件を満足できれば特に限定されない。隔壁部61の側面は、使用時の配置において略全面が垂直面となるように形成されていてもよく、使用時の配置において容器底部11との接続部から上端部に進むに従って垂直面に対して隔壁部61の内部方向に傾斜している傾斜面となるように形成されていてもよい。以下において説明する要件を満足できれば、当該技術分野で公知の細胞培養容器等の細胞取扱容器における細胞及び培養液を収容するための区画側壁部の様々な形状を、隔壁部61の形状に適用することができる。本発明の細胞取扱容器1がプラスチック材料を含む材質で構成されており、射出成形のような慣用の成形法を用いて製造される場合、隔壁部61の側面が前記のように傾斜面となるように形成されていると、抜き勾配として機能し効率的に離型できることから有利である。
隔壁部61の構造は特に限定されない。隔壁部61の内部は、通常は、隔壁部61を構成する材料によって略完全に充填されていることができる。しかしながら、隔壁部61は、前記で説明した収容区画側壁部と同様に、場合によりその内部に空隙部を有することもできる。隔壁部61がその内部に空隙部を有する実施形態の場合、隔壁部61の空隙率は、収容区画側壁部の空隙率と同様に算出される。本実施形態の場合、隔壁部61の空隙率は、前記で説明した収容区画側壁部の空隙率と同様の範囲であることが好ましい。隔壁部61の内部に空隙部を有することにより、隔壁部61を構成する材料を空隙率に応じて削減することができる。これにより、本発明の細胞取扱容器の製造コストを削減することができる。
本発明の細胞取扱容器1において、隔壁部61は、細胞取扱容器1と一体的に形成されていてよく、細胞取扱容器1とは別個の部材として形成されていてもよい。後者の実施形態の場合、別個の部材として形成される隔壁部61は、細胞取扱容器1と同一の材質で形成されていてよく、細胞取扱容器1とは別個の材質で形成されていてもよい。
本発明において、隔壁部61の高さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図において、隔壁部61と容器底部11との接続部から隔壁部61の上端部までの上下方向の長さを意味する。また、本発明において、隔壁部61の厚さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図における該隔壁部61の幅、すなわち該隔壁部61の側面の間の距離を意味する。例えば、隔壁部61の側面の略全面が使用時の配置において垂直面となるように形成されている場合には、垂直断面模式図における該隔壁部61の幅は一定であるので、任意の位置の幅を採用することができる。他方、隔壁部61の側面が傾斜面となるように形成されている場合には、垂直断面模式図における該隔壁部61の幅の最大値を採用すればよい。隔壁部61の高さ及び厚さは、前記で説明した収容区画側壁部22の高さ及び厚さの好ましい範囲内で任意に設定することができる。
本発明の細胞取扱容器1が1個以上の隔壁部61を有する実施形態を図8A〜9Bに示す。図9Aは、図8AにおけるXIV-XIV’に沿った垂直断面模式図であり、図9Bは、図8BにおけるXV-XV’に沿った垂直断面模式図である。
一実施形態において、例えば図8A及び9Aに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31、31’を含む培養液流出手段30、30’が配置される。そして、容器底部11には、1個以上の隔壁部61が配置されており、1個以上の隔壁部61は、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に一端が接続されており、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面に他端が接続されるように配置されることが好ましい。図8A及び9Aでは、4個の隔壁部61を有する実施形態が示されているが、本実施形態の場合、1個以上の隔壁部61が所定の条件を満たす状態で配置されていればよく、その数の上限値は特に限定されない。本実施形態の場合、隔壁部61によって仕切られた内部空間のうち、培養液流出手段30、30’に隣接する区画を、収容区画20の内部から流出した培養液を保持する区画として使用することができる。また、培養液流出手段30、30’に隣接していない区画には、収容区画20の内部から流出した培養液が進入する可能性が低い。このため、隔壁部61によって仕切られた内部空間のうち、培養液流出手段30、30’に隣接していない区画を、収容区画から取り出された細胞を個別管理しながら並行して培養するために使用する場合、取り出された細胞と流出した培養液とが接触することを実質的に防止することができる。
別の実施形態において、例えば図8B及び9Bに示すように、容器底部11には、1個以上の隔壁部61が配置されており、1個以上の隔壁部61は、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に一端が接続されており、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く容器側壁部12の内表面と他端が離間するように配置されることが好ましい。図8B及び9Bでは、4個の隔壁部61を有する実施形態が示されているが、本実施形態の場合、1個以上の隔壁部61が所定の条件を満たす状態で配置されていればよく、その数の上限値は特に限定されない。容器側壁部12の内表面と隔壁部61の端部との間の距離は、3 mm以上であることが好ましく、10 mm以上であることがより好ましく、また、20 mm以下であることが好ましく、15 mm以下であることがより好ましい。本実施形態の場合、隔壁部61によって仕切られた内部空間は、容器側壁部12の内表面と隔壁部61の端部との間の空間を介して互いに連通している。このような構成により、収容区画20の内部から流出した培養液を、培養液流出手段30、30’に隣接する区画だけでなく、容器側壁部12の内表面と隔壁部61の端部との間の空間を介して連通している他の区画にも保持することができる。それ故、本実施形態の細胞取扱容器は、収容区画の内部から流出した培養液を効率的に保持することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、場合により、容器底部11に、1個以上の容器溝部71を配置することができる。本実施形態を図10A〜11Cに示す。本発明の細胞取扱容器1が1個以上の容器溝部71を有することにより、容器溝部71の内部に、収容区画20の内部から流出した培養液を効率的に保持することができる。
本発明の細胞取扱容器1が容器溝部71を有する実施形態の場合、容器溝部71の表面は、前記で説明した容器底部11及び細胞収容区画底部21の表面と同様に、表面粗さの値が可能な限り小さい、平滑な表面であることが好ましい。
容器溝部71の形状は、以下において説明する要件を満足できれば特に限定されない。容器溝部71の断面形状としては、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形、半円形、又はU字形等の各種の形状を採用することができる。
本発明において、容器溝部71の深さは、本発明の細胞取扱容器の垂直断面模式図において、容器底部11の内表面に形成された容器溝部71の開口の周縁部から容器溝部71の内表面の最低部までの上下方向の長さを意味する。容器溝部71の深さは、0.3 mm以上であることが好ましく、0.6 mm以上であることがより好ましく、また、2 mm以下であることが好ましく、1.5 mm以下であることがより好ましい。容器溝部71の深さが前記下限値未満の場合、容器溝部71の容積が小さくなることから、十分な量の培養液を容器溝部71に保持することが困難となる可能性がある。また、容器溝部71の深さが前記上限値を超える場合、容器底部11の厚さを増大させる必要がある。このような場合、倒立型顕微鏡を用いて細胞を観察するときに、対物レンズを細胞取扱容器1に過度に接近させることとなり、観察が困難となる可能性がある。容器溝部71の幅は、0.5 mm以上であることが好ましく、3 mm以上であることがより好ましく、また、10 mm以下であることが好ましく、5 mm以下であることがより好ましい。容器溝部71の幅が前記下限値未満の場合、容器溝部71の容積が小さくなることから、十分な量の培養液を容器溝部71に保持することが困難となる可能性がある。また、容器溝部71の幅が前記上限値を超える場合、作業を行うための内部空間10が狭くなる可能性がある。容器溝部71の深さ及び幅は、容器溝部71の全体に亘って同一の値を有してもよく、その一部において異なる値を有してもよい。容器溝部71が前記寸法を有することにより、容器溝部71の内部に、収容区画20の内部から流出した培養液を効率的に保持することができる。
本発明の細胞取扱容器1が1個以上の容器溝部71を有する実施形態において、1個以上の容器溝部71が、細胞及び培養液の収容区画20を包囲するように配置されていることが好ましい。本実施形態を図10A、並びに11A及び11Bに示す。図11Aは、図10AにおけるXVI-XVI’並びに図10BにおけるXVIII-XVIII’に沿った垂直断面模式図であり、図11Bは、図10AにおけるXVII-XVII’に沿った垂直断面模式図である。
一実施形態において、例えば図10A、並びに11A及び11Bに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31、31’を含む培養液流出手段30、30’が配置される。そして、容器底部11には、1個以上の容器溝部71が配置されており、該1個以上の容器溝部71は、細胞及び培養液の収容区画20を包囲するように配置されることが好ましい。図10Aでは、1個の容器溝部71を有する実施形態が示されているが、本実施形態の場合、1個以上の容器溝部71が所定の条件を満たす状態で配置されていればよく、その数の上限値は特に限定されない。本実施形態の場合、収容区画20を包囲するように配置された容器溝部71を、収容区画20の内部から流出した培養液を保持する区画として使用することができる。また、容器底部11における容器溝部71の外側の領域には、収容区画20の内部から流出した培養液が進入する可能性が低い。このため、容器底部11における容器溝部71の外側の領域を、収容区画から取り出された細胞を個別管理しながら並行して培養するために使用する場合、取り出された細胞と流出した培養液とが接触することを実質的に防止することができる。それ故、本実施形態の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法による細胞培養に有利に使用することができる。
本発明の細胞取扱容器1が1個以上の容器溝部71を有する実施形態において、1個以上の容器溝部71が、1個以上の培養液流出手段30における収容区画の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口に対向するように配置されていることが好ましい。本実施形態を図10B、並びに11A及び11Cに示す。図11Aは、図10BにおけるXVIII-XVIII’に沿った垂直断面模式図であり、図11Cは、図10BにおけるXIX-XIX’に沿った垂直断面模式図である。
一実施形態において、例えば図10B、並びに11A及び11Cに示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画20の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31、31’を含む培養液流出手段30、30’が配置される。そして、容器底部11には、1個以上の容器溝部71, 71’が配置されており、該1個以上の容器溝部71, 71’のそれぞれは、1個以上の培養液流出手段30, 30’における収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面側の開口のそれぞれに対向するように配置されることが好ましい。図10Bでは、2個の容器溝部71, 71’を有する実施形態が示されているが、本実施形態の場合、1個以上の容器溝部が所定の条件を満たす状態で配置されていればよく、その数の上限値は特に限定されない。本実施形態の場合、収容区画20の外部空間側に向く収容区画側壁部22の外表面に設けられた培養液流出手段30, 30’の開口のそれぞれに対向するように配置された容器溝部71, 71’を、収容区画20の内部から流出した培養液を保持する区画として使用することができる。また、容器底部11における容器溝部71, 71’の外側の領域には、収容区画20の内部から流出した培養液が進入する可能性が低い。このため、容器底部11における容器溝部71, 71’の外側の領域を、収容区画から取り出された細胞を個別管理しながら並行して培養するために使用する場合、取り出された細胞と流出した培養液とが接触することを実質的に防止することができる。それ故、本実施形態の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法による細胞培養に有利に使用することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、前記で説明した培養液の回収区画40、回収液流出手段50、隔壁部61、及び容器溝部71をそれぞれ単独で有していてもよく、任意の組み合わせで有していてもよい。後者の実施形態の場合、マイクロドロップ法によって受精卵等の細胞を取り扱う際に、培養液の流出方向及び流出量をより精密に制御することができる。
収容区画底部21には、例えば、図2A(b)〜3E(b)に示すように、細胞を収容するための1個以上の窪み部80が形成されていることが好ましい。窪み部の内部に細胞を配置することにより、細胞の移動を抑制することができる。これにより、1個の収容区画20に複数個の細胞を収容する場合であっても、それぞれの細胞を区別しながら特定の細胞について評価又は判定を行うことができる。本実施形態において、窪み部80の形状は特に限定されない。窪み部80の形状としては、例えば、開口部の周縁によって形成される図形が、円形(真円形及び楕円形を含む)、又は三角形、四角形、五角形、六角形若しくは八角形等の多角形である形状を挙げることができる。開口部の周縁によって形成される図形が、円形であることが好ましい。窪み部80は、開口部の周縁が円形であり、底部及び側壁部の内表面が、使用時の配置において上下方向に最も低い位置から上方の開口部の周縁に進むに従って高くなるように連続的に傾斜した曲面を有することが好ましい。底部及び側壁部の内表面は、一緒になって円錐状又は円錐台状の部分を含む形状を形成することが好ましい。この場合、円錐状又は円錐台状の部分は、細胞取扱容器の容器底部側(すなわち、使用時の配置において下方側)に、円錐の頂点又は円錐台の上面及び下面のうち面積の狭い方の面が配向するように形成される。本実施形態において、円錐状は、円錐及び楕円錐だけでなく、円錐又は楕円錐の頂点が丸みを帯びている形状、円錐面が外側に膨らんでいる形状、並びに円錐面が内側に凹んでいる形状等のこれらに類似の形状も含む。また、円錐台状は、円錐台及び楕円錐台だけでなく、円錐台又は楕円錐台の上面若しくは下面と円錐面との接合部が丸みを帯びている形状、円錐面が外側に膨らんでいる形状、円錐面が内側に凹んでいる形状等のこれらに類似の形状も含む。また、窪み部80の底部及び側壁部の内表面は、前記形状に限定されず、多角錐状又は多角錐台状のような他の形状を形成することもできる。
窪み部80の寸法は、その内部に少なくとも1個の細胞を収容可能な寸法であれば特に限定されない。本発明において、「窪み部の寸法」は、窪み部の開口部の周縁が形成する図形の最長径の長さを意味する。例えば、窪み部80の開口部の周縁が円形である場合、その直径は、収容される細胞の最大寸法と同一又はそれより大きい値であればよい。例えば、本発明の細胞取扱容器1を用いて受精卵を培養する場合、通常は、胚盤胞の段階まで培養する。この場合、窪み部80の円形の開口部の直径は、胚盤胞の段階の細胞の最大寸法より大きい値であることが好ましい。胚盤胞の段階の細胞の最大寸法は、通常は、100 μm〜280 μmであることから、窪み部80の円形の開口部の直径は、通常は、100 μm以上である。
例えば、本発明の細胞取扱容器1を用いてヒト受精卵を培養する場合、窪み部80の開口部の直径は、通常は、100 μm以上であり、200 μm以上であることが好ましく、250 μm以上であることがより好ましく、また通常は、1000 μm以下であり、900 μm以下であることが好ましく、800 μm以下であることがより好ましい。或いは、窪み部80の開口部の直径は、X+α(ここで、Xは細胞の最大寸法を表す)と規定することもできる。ここで、αは、好ましくは0.01 mm以上であり、さらに好ましくは0.02 mm以上である。
本発明の細胞取扱容器1は、所望により蓋を有することができる。蓋を有することにより、内部空間10の通気性を確保しつつ、内部空間10への異物の侵入を実質的に防止し得るように容器側壁部12の開口部を閉鎖することができる。
本発明の細胞取扱容器1が蓋を有する実施形態において、蓋の天部に、1個以上の天部側壁部を配置することができる。本実施形態を図12及び13に示す。図13は、図12におけるXX-XX’に沿った垂直断面模式図である。
本実施形態において、例えば図12及び13に示すように、容器底部11には、細胞及び培養液の収容区画20が配置されており、収容区画側壁部22に、細胞及び/又は培養液を配置する空間側に向く内表面側の開口と収容区画の外部空間側に向く外表面側の開口とを有し、収容区画側壁部22の上面に形成された溝部31を含む培養液流出手段30が配置される。そして、蓋110の天部111には、1個以上の天部側壁部112が配置されることが好ましい。1個以上の天部側壁部112は、通常は、蓋110を閉じたときに容器底部11と対向する蓋110の天部111の内表面から立設される。1個以上の天部側壁部112は、蓋110を閉じたときに、細胞及び培養液の収容区画20の周囲を包囲するように配置されることが好ましい。また、1個以上の天部側壁部112は、蓋110を閉じたときに、該天部側壁部112の下端部が容器底部11の内表面に当接するような高さを有することが好ましい。このような構成により、1個以上の天部側壁部112は、蓋110を閉じたときに、収容区画20の内部から流出した培養液を保持する障壁として機能し得る。このため、前記特徴を備える蓋を有する本発明の細胞取扱容器1は、収容区画20の内部から流出した培養液が、移動の際に容器底部11の全体に亘って拡散することを実質的に抑制することができる。
本発明の細胞取扱容器1の材質は、特に限定されない。細胞取扱容器1及び細胞収容区画20の材質としては、例えば、金属、ガラス及びシリコン等の無機材料、並びにプラスチック(例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及び塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。細胞取扱容器1及び細胞収容区画20の材質は、前記で例示した1種以上のプラスチック材料を含むことが好ましく、前記で例示した1種以上のプラスチック材料からなることがより好ましい。前記プラスチック材料は、マスターバッチ法、ドライブレンド法、練り込み法又は表面コート法等の方法を用いて透明プラスチック成形品におけるブルーイング剤又は各種顔料等のような添加剤を添加することによって所望の透明度及び色の組み合わせを付与することができる。それ故、本発明の細胞取扱容器1及び細胞収容区画20が前記の材質で構成されることにより、光学顕微鏡を用いて細胞収容区画20に収容された細胞を観察する場合に、鮮明な像を得ることができる。
本発明の細胞取扱容器1は、当業者に公知の方法で製造することができる。例えば、本発明の細胞取扱容器1の材質が前記で例示した1種以上のプラスチック材料を含む場合、射出成形のような慣用の成形法を用いて本発明の細胞取扱容器1を製造することができる。
本発明の細胞取扱容器1は、その表面に受精卵の発育を促進するような表面処理又は表面コートが施されていてもよい。例えば、受精卵の発育を促進するために、他の器官の細胞(例えば、子宮内膜細胞又は卵管上皮細胞)と共培養をする場合、これらの共培養される細胞を予め細胞取扱容器1の表面に接着させる必要がある。このような場合、細胞取扱容器1の表面、例えば容器底部11の内表面及び/又は収容区画底部21の内表面に、細胞接着性の材料をコートすることが有利である。細胞接着性の材料としては、例えば特開2008-220320号公報及び特開2008-263863号公報等に記載の温度応答性ポリマー等の、所定の条件で細胞接着性を変化させることのできる環境応答性ポリマーを挙げることができる。前記の表面処理又は表面コートを施すことにより、共培養における培養効率を向上させることができる。
本発明の細胞取扱容器1を用いて培養し且つ/又は観察する細胞の種類は、特に限定されない。前記細胞としては、例えば、受精卵、卵細胞、ES細胞(胚性幹細胞)及びiPS細胞(人工多能性幹細胞)を挙げることができる。本発明において、「卵細胞」は、未受精の卵細胞を意味し、未成熟卵母細胞及び成熟卵母細胞を包含する。受精卵は、受精後、卵割により2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞数が増えていき、桑実胚を経て、胚盤胞へと発生する。受精卵は、2細胞胚、4細胞胚及び8細胞胚等の初期胚、桑実胚、並びに胚盤胞(初期胚盤胞、拡張胚盤胞及び脱出胚盤胞を含む)を包含する。胚盤胞は、胎盤を形成する潜在能力がある外部細胞と胚を形成する潜在能力がある内部細胞塊とからなる胚を意味する。ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から得られる未分化な多能性又は全能性細胞を意味する。iPS細胞は、体細胞(主に線維芽細胞)へ数種類の遺伝子(転写因子)を導入することにより、ES細胞に類似の分化万能性を付与した細胞を意味する。すなわち、本発明の細胞取扱容器1において対象となる細胞は、単細胞だけでなく、受精卵及び胚盤胞のように複数の細胞の集合体も包含する。本発明の細胞取扱容器1は、哺乳動物及び鳥類の細胞、特に哺乳動物の細胞の培養に好適である。哺乳動物は、温血脊椎動物を意味し、例えば、ヒト及びサル等の霊長類、マウス、ラット及びウサギ等の齧歯類、イヌ及びネコ等の愛玩動物、並びにウシ、ウマ及びブタ等の家畜を挙げることができる。
本発明の細胞取扱容器1は、マイクロドロップ法による前記細胞の細胞培養に有利に使用することができる。通常、収容区画20に培養液を添加した後、培養液を覆うようにオイルを添加し、さらに培養液中に細胞を添加する。これらの作業は、通常はピペット又はガラスキャピラリー等の器具を用いて実施される。本発明の細胞取扱容器1は、上方の開口が大きいので、これらの操作を比較的容易に実施できる。例えば、収容区画20の内部に、培養液流出手段30の高さh1, h2未満の高さの培養液のドロップを形成し、且つ当該ドロップによって収容区画底部21の略全面を被覆する。ここで、ピペット又はガラスキャピラリー等の器具を培養液のドロップに挿入する場合、ドロップの高さがh1又はh2以上となることによって、ドロップを形成している培養液が収容区画側壁部22を越えて収容区画20の外部に流出する可能性がある。このような場合、培養液は、収容区画側壁部22に配置された培養液流出手段30を通って収容区画20の外部に流出することから、培養液流出手段30の開口方向に培養液を流出させることができる。それ故、本発明の細胞取扱容器1をマイクロドロップ法による細胞の細胞培養に適用する場合、培養液が流出する際に所望の方向に流出方向を制御することができる。
例えば、本発明の細胞取扱容器1を用いて前記細胞の細胞培養を実施する場合、細胞培養は、通常は、本発明の細胞取扱容器1を、培養細胞の発育及び維持に必要なガスを含む環境雰囲気及び一定の環境温度をもたらすインキュベーターに入れることにより実施される。本実施形態の場合、必要なガスとしては、例えば、水蒸気、遊離酸素(O2)及び二酸化炭素(CO2)を挙げることができる。環境温度及びCO2含有量を適切な範囲に調節することにより、培養液のpHを一定時間内に安定させることができる。画像比較プログラムにより、培養中の細胞の画像を予め保存された画像と比較することにより、培養の際の温度、ガス及び培地等の培養条件を調節することもできる。
例えば、本発明の細胞取扱容器1を用いて受精卵を培養する場合、通常は、培養後に、子宮への移植に適した良質な受精卵であるか否かが判別される。本実施形態の場合、判別は自動で行ってもよいし、光学顕微鏡等により手動で行ってもよい。培養細胞の自動判別を実施する場合、光学顕微鏡により取得された収容区画20の内部の細胞の画像をCCDカメラ等の検出装置を用いて撮像し、得られた画像を輪郭抽出処理に付して画像中の細胞に該当する部分を抽出し、抽出された細胞の画像を画像解析装置で解析することにより、細胞(例えば受精卵)の品質を判別することができる。画像の輪郭抽出処理としては、例えば、特開2006-337110号公報に記載された手段を採用することができる。
以上、詳細に説明したように、本発明の細胞取扱容器は、収容区画に収容された培養液が流出する際に、培養液流出手段の開口方向に培養液を流出させることができる。それ故、本発明の細胞取扱容器は、マイクロドロップ法による細胞培養に有利に使用することができる。