JP7023277B2 - 生体内環境に近い培養容器およびそれを備える培養ディッシュ - Google Patents

生体内環境に近い培養容器およびそれを備える培養ディッシュ Download PDF

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Description

クロスリファレンス
本出願は、2017年3月31日に日本国において出願された特願2017-071372に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。また、本願において引用した特許、特許出願及び文献に記載された内容は、本明細書に援用する。
本発明は、細胞または胚等の生体材料を培養するための培養容器およびそれを備える培養ディッシュに関する。
従来から、細胞または胚(総称するときには、適宜、「細胞等」という)を、その性質が損なわれない状況下にて培養することが行われている。例えば、ヒトを含む哺乳動物の体外受精を行う場合、母体から卵子を採取し、当該卵子に受精し、得られた受精卵を所定期間培養した後、同一若しくは異なる母体にその受精卵を移植することが行われている。
細胞等の培養容器としては、例えば、特許文献1に開示されるものが知られている。特許文献1に開示される培養容器は、個別管理が必要とされる細胞を培養するための底壁と側壁とを有しており、底壁に凹部を有する細胞収容部が配置されており、凹部が4個以上近接しており、凹部の壁面が凹部の最も低い位置から凹部の外縁に進むに従って高くなるような傾斜面を有し、近接する凹部間のピッチが1mm以下である容器である。かかる培養容器を用いることによって、培養細胞の撮影画像における細胞の輪郭抽出処理が効率よく実施でき、もって、培養細胞の自動判別が容易となる効果が得られる。
特開2010-200748号公報
ところで、細胞等を培養する場合、その細胞等をなるべく生体内に近い条件の下におくことが重要である。細胞等を入れる領域を、その上部のみを開口した凹部とすると、個々の細胞等の正確に判別するには容易であるものの、生体内環境の条件からは離れる。生体内では、細胞等は、他の細胞等から分泌される物質の影響を受けることが広く知られており、そのことが培養された細胞等の品質にも影響を与える(パラクライン効果)。特に、受精卵を培養する場合には、パラクライン効果を無視できない。
本発明は、上記要望に応えるためになされたものであり、細胞または胚を生体内環境により近づけた条件で培養可能な生体内環境に近い培養容器、およびそれを備える培養ディッシュを提供することを目的とする。
本発明者は、細胞等の培養環境を生体内環境に近づけるべく鋭意努力してきた結果、細胞等を培養する際に、複数個の細胞等を入れた個別の部屋に培養液が循環可能な環境を実現し、かつ個々の細胞等が個別の部屋内で自転に近い動きを可能とする培養容器を完成するに至った。具体的な課題解決手段は、次のとおりである。
(1)本発明の一実施形態は、細胞または胚を培養するための培養容器であって、細胞または胚を個別に収容可能な部屋を複数個備え、2以上の部屋同士が、培養液を通過させる一方で細胞または胚を通過させない大きさの空間を介して接続している生体内環境に近い培養容器である。
(2)本発明の別の実施形態は、さらに、部屋が一方を開口させた凹部であり、凹部の側壁の上方から下方に向かう任意の位置に至る開口部から隣の凹部の開口部に通じるスリットを備える生体内環境に近い培養容器であっても良い。
(3)本発明の別の実施形態は、また、スリットが凹部の高さの50%以下の長さの生体内環境に近い培養容器であっても良い。
(4)本発明の別の実施形態は、また、部屋の容積が10~50nLの範囲にある生体内環境に近い培養容器であっても良い。
(5)本発明の別の実施形態は、また、培養容器内に培養液を供給するためのリザーブタンクと、部屋を通過して排出される培養液を貯める廃棄タンクと、をさらに備える生体内環境に近い培養容器であっても良い。
(6)本発明の一実施形態は、前述のいずれかの生体内環境に近い培養容器を備える培養ディッシュであって、培養容器と、培養容器内に培養液を供給するためのリザーブタンクと、培養容器から排出される培養液を貯める廃棄タンクとを備え、リザーブタンクの内部の培養液がリザーブタンクから培養容器を経て廃棄タンクに至るように、リザーブタンクと培養容器と廃棄タンクとを高低差をつけて配置している生体内環境に近い培養ディッシュである。
(7)本発明の別の実施形態は、さらに、リザーブタンクと培養容器との間に、リザーブタンク内の培養液を重力に抗して培養容器へと供給可能な膜を備える生体内環境に近い培養ディッシュであっても良い。
本願において培養対象となる細胞は、培養可能なものであれば特に限定されないが、好ましくは、真核細胞であり、より好ましくは、哺乳類、昆虫等の動物細胞及び植物細胞であり、更に好ましくは、哺乳類細胞である。また、細胞または胚は、例えば、ヒト; ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の家畜; 実験動物(マウス、ラット、ウサギ等); 野生動物から好適に採取可能である。細胞としては、例えば、精子、卵母細胞、羊膜間葉細胞、未受精卵細胞、受精卵細胞、胚細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、がん幹細胞、又は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の未分化細胞;並びに、子宮内膜細胞等の内膜細胞、卵管上皮細胞、羊膜上皮細胞、胆管上皮細胞等の上皮細胞、繊維芽細胞、類洞内皮細胞、血管内皮細胞等の内皮細胞、肝細胞等の分化細胞を挙げることができ、好ましくは、未分化細胞であり、より好ましくは、精子、卵母細胞、羊膜間葉細胞、未受精卵細胞、受精卵細胞、胚細胞、又は、胚性幹細胞(ES細胞)等の生殖系未分化細胞である。また、本願における培養対象となる胚としては、培養可能なものであれば特に限定されないが、好ましくは、前核期胚、初期胚、胚盤胞を例示できる。
本発明によれば、細胞または胚を生体内環境により近づけた条件で培養可能である。
図1は、本発明の第一実施形態に係る培養容器の平面図を示す。 図2は、図1の培養容器のA-A線断面図とその一部Cの拡大断面図(2A)、および該培養容器のB-B線断面図(2B)をそれぞれ示す。 図3は、図2の培養容器に受精卵を入れた状態の断面図とその一部Cの拡大断面図(3A)、および複数の凹部を培養液が流れる状況の該一部Cの拡大断面図(3B)をそれぞれ示す。 図4は、本発明の第二実施形態に係る培養容器の図2(2A)と同様の断面図とその一部Cの拡大断面図を示す。 図5は、図4の培養容器の各変形例の平面図(5A,5B)を示す。 図6は、本発明の第三実施形態に係る培養容器の平面図(6A)および同培養器を用いて培養している状況を該平面図のA-A線断面にて表した縦断面図(6B)をそれぞれ示す。 図7は、本発明の第一実施形態に係る培養ディッシュの簡略分解斜視図を示す。 図8は、図7の培養ディッシュの縦方向断面図(8A)、および培養中の同断面図と一部Gの拡大断面図(8B)をそれぞれ示す。 図9は、本発明の第二実施形態に係る培養ディッシュの図8(8A)と同様の断面図(9A)および供給管の拡大断面図(9B)をそれぞれ示す。 図10は、実験例(1)~(3)の結果を示す。(10A)のグラフは各培養容器を用いたときの発生率(%)を、(10B)のグラフは各培養容器を用いたときの各種細胞数を、(10C)のグラフは各培養容器を用いたときの受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)を、それぞれ示す。 図11は、実験例(4)~(6)の結果を示す。(11A)のグラフは各培養容器を用いたときの発生率(%)を、(11B)のグラフは各培養容器を用いたときの各種細胞数を、(11C)のグラフは各培養容器を用いたときの受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)を、それぞれ示す。
1,1a,1b,15 培養容器
4 凹部(部屋の一形態)
5 スリット(空間の一形態)
8 受精卵(細胞または胚の一例)
10 培養液
20,20a 培養ディッシュ
24 リザーブタンク
25 廃棄タンク
45 膜
次に、本発明の生体内環境に近い培養容器およびそれを備える培養ディッシュの各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲における各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
1.培養容器
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係る培養容器の平面図を示す。図2は、図1の培養容器のA-A線断面図とその一部Cの拡大断面図(2A)、および該培養容器のB-B線断面図(2B)をそれぞれ示す。図3は、図2の培養容器に受精卵を入れた状態の断面図とその一部Cの拡大断面図(3A)、および複数の凹部を培養液が流れる状況の該一部Cの拡大断面図(3B)をそれぞれ示す。
第一実施形態に係る生体内環境に近い培養容器(以後、単に、「培養容器」と称する)1は、細胞または胚の一例である受精卵8を培養するための容器であって、シャーレと類似の形態を有している。より具体的には、培養容器1は、円形の底板2と、その周囲を沿って紙面表方向に突出する円筒形状の側壁3とを備える。なお、底板2は、円形に限定されず、三角形、四角形、五角以上の多角形、楕円形、あるいは不定形であっても良い。培養容器1は、底板2の紙面表側の面2aに、底板2の裏面2bに向かって窪む複数個の凹部4を備える。凹部4は、受精卵8を個別に収容可能な部屋に相当する。凹部4は、図1の紙面表方向(一方向)を開口させたカップ型の凹領域である。凹部4の開口面は、この実施形態では円形であるが、底板2の形状と同様、三角形、四角形、五角以上の多角形、楕円形、あるいは不定形であっても良い。
この実施形態では、培養容器1は、縦10列×横10行の合計100個の凹部4を備えている。ただし、凹部4の列数、行数あるいは合計の個数は、上記の例示数に限定されない。例えば、ヒトの受精卵8を培養する場合には、2~20個の凹部4を培養容器1に形成すれば良い。また、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等の家畜、あるいはマウス、ラット、ウサギ等の実験動物の受精卵8を培養する場合には、30~100個の凹部4を培養容器1に形成すれば良い。なお、凹部4の配列形態は、格子状の配列形態にも限定されない。
図1において縦方向および横方向の両方向にて隣り合う凹部4同士は、スリット5によって接続されている。より具体的には、1つの凹部4の側面と別の凹部4の側面とは、スリット5によって通じている。スリット5は、培養液10を通過させる一方で受精卵8を通過させない大きさの空間の一例である。この実施形態では、格子状に配列されている複数個の凹部4の内、角に位置する凹部4は、2つのスリット5と接続されている。また、角を除く辺の位置にある凹部4は、3つのスリット5と接続されている。それ以外の凹部4は、4つのスリット5と接続されている。このように、この実施形態では、凹部4は、互いに縦方向と横方向に位置する他の凹部4と2~4のスリット5にて接続されている。なお、培養容器1の培養液10の上面には、乾燥防止のためオイルで上層を被覆するのが好ましい。
図2に示すように、凹部4は、好ましくは、その底部を湾曲させて、凹部側壁をほぼ垂直に形成した形態を有する。かかる形態にすることにより、凹部4内の受精卵8が自在に回転若しくは揺動可能であって傷つきにくく、かつ凹部4から容易に抜け出にくいからである。スリット5は、この実施形態では、略直方体の形状を持つ空間である。ただし、スリット5の形状は、略直方体に限定されず、例えば、直方体を波形状に変形させた形状、あるいは四角錐形状(楔形形状)でも良い。
培養容器1の構成材料は、細胞や胚の培養に支障がない限り、特に制約されるものではないが、例えば、ポリアミド; ポリイミド; 環状オレフィンコポリマー; ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン; ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル; ポリスチレン、メタクリレート-スチレン共重合体等のポリスチレンに代表される合成樹脂; シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム若しくはスチレンブタジエンゴム等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマーにて好適に形成される。また、培養容器1は、上記合成樹脂あるいはゴム以外に、例えば、ガラス; アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレススチール等の金属; 酸化アルミニウム、窒化珪素等のセラミックスにて構成されていても良い。培養容器1としてより好ましい材料としては、細胞や胚(一例としては、受精卵8)の培養に支障がない限り、特に制約されるものではないが、例えば、ポリアミド; ポリイミド; 環状オレフィンコポリマー; ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン; ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル; ポリスチレン、メタクリレート-スチレン共重合体等のポリスチレンに代表される合成樹脂; シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム若しくはスチレンブタジエンゴム等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマーにて好適に形成される材料を挙げることができる。
培養容器1の底板2の直径は、特に制約されないが、好ましくは4~15mm、さらに好ましくは6~12mmである。凹部4の直径DIは、凹部4に入れられる細胞あるいは胚の大きさに応じて任意に設定可能であるが、ヒトの受精卵8を入れる用途で用いる場合には、好ましくは200~400μm、より好ましくは250~300μmである。凹部4の高さDE(深さと称しても良い)も同様に、凹部4に入れられる細胞あるいは胚の大きさに応じて任意に設定可能であるが、ヒトの受精卵8を入れる用途で用いる場合には、好ましくは150~400μm、より好ましくは200~300μmである。凹部4の内容積(スリット5を考慮せず)も、凹部4に入れられる細胞あるいは胚の大きさに応じて任意に設定可能であるが、ヒトの受精卵8を入れる用途で用いる場合には、好ましくは10~50nL、より好ましくは15~30nLであり、最も好ましくは20nLである。
スリット5の長さL(隣り合う凹部4,4に挟まれた肉厚部分の厚さに相当)は、好ましくは5~200μmである。受精卵8同士の間隔は、好ましくは、80~160μmである。スリット5の幅T(厚さと称しても良い)は、ヒトの受精卵8が通過せず、培養液10が通過可能な大きさであれば、特に制約されないが、好ましくは2~40μm、より好ましくは5~30μmである。スリット5は、凹部4の深さ方向に切り込まれた形状、より具体的には、凹部4の開口面から凹部4の底部までの距離の任意の位置まで切り込まれた形状を有する。すなわち、スリット5は、凹部4の側壁の上方から下方に向かう任意の位置に至る開口部から隣の凹部4の上記と同様の開口部に通じるスリットである。スリット5の深さWは、凹部4の深さDEに対して、0<W≦DEであって、好ましくは、0<W≦DE/2である。この場合、スリット5は、凹部4の深さDEの50%以下の長さとなる。スリット5の深さWは、さらに好ましくは、DE/3≦W≦DE/2の関係にある。スリット5の深さWを、凹部4の深さDEの0~1/2(0~50%)の範囲、あるいはさらには1/3~1/2(33~50%)の範囲にすると、図3(3B)に模式的に示すように、凹部4の上方に培養液10の流れFLが生じ、受精卵8が凹部4内で過度に踊らず、わずかに揺れ動くだけの環境を構築できる。
ヒトの受精卵8は、おおよそ直径(Dc):100~200μmの大きさを有する。凹部4の深さDEを200~300μmの大きさに設計すると、ヒトの受精卵8を入れた状態の凹部4の開口面側に、0~200μmの空間(ただし、その空間には培養液10が存在する)が存在する。スリット5の深さWは、凹部4の深さDEの33~50%に設定された場合、おおよそ66~150μmとなる。このような設計にすると、多くの場合、ヒトの受精卵8が凹部4の底部に沈んでいるとすれば、その受精卵8の上半分(北半球)若しくはそれより浅い部分にスリット5が位置することになる。よって、受精卵8が凹部4内で自転あるいは揺動する程度で、受精卵8が凹部4の開口部から容易に出てしまう状況にはなりにくい。このようなスリット5に代表される空間を形成すれば、培養液10が、隣り合う凹部4同士を流れる環境を構築できる。したがって、受精卵8の培養時におけるパラクライン効果を高めることができる。加えて、培養中、受精卵8が個々の凹部4に収められていることから、受精卵8の取り違え等の支障も起こらない。
培養液10は、無機塩、エネルギー源(糖、アミノ酸、ピルビン酸、グリシン、オクタン酸など)、細胞保護物質(ポリビニルアルコール、ヒアルロナンを代表とするグリコスアミノグリカンなど)、抗生物質、生理活性物質(成長因子、サイトカインなど)を超純粋又は再蒸留水に溶解させることによって調製したものを、好適に用いることができる。例えば、培養液10としては、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム七水和物、19種のアミノ酸、炭酸水素ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物、ゲンタマイシン硫酸塩、ポリビニルアルコール、アラニル-L-グルタミン、エネルギー源としてD-グルコースDL-乳酸ナトリウム等の乳酸塩、ピルビン酸ナトリウム等のピルビン酸塩を含む(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)含有培地)を基本培養液として含むものを例示できる。培養液10に、スクロース、グルコース、トレハロース、デキストラン、パーコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ヒアルロナン、フィブロネクチン、ポリビニルピロリドン、ヒト血清アルブミンなどから選択される1種または2種以上を含んでも良い。非常に好ましい培養液としては、KSOM(Lawitts JA, Biggers JD. Culture of preimplantation embryos. Methods Enzymol. 1993 ; 225 : 153―64.)、G-TL(VitroLife社)を例示できる。なお、培養液10を無血清とすることもできる。
<第二実施形態>
図4は、本発明の第二実施形態に係る培養容器の図2(2A)と同様の断面図とその一部Cの拡大断面図を示す。
第二実施形態に係る培養容器1は、第一実施形態に係る培養容器1のスリット5の形態を変えた以外、第一実施形態の培養容器1と同一の構造を有する。よって、以下の説明では、スリット5の構成以外については、第一実施形態の説明を代用し、重複した説明を省略する。
第二実施形態に係る培養容器1は、凹部4の深さDEと同一深さWのスリット5を備える。スリット5の長さLおよび幅Tは、第一実施形態のそれらと共通する。スリット5の深さWを凹部4の深さDEと同一としても、受精卵8は、隣の凹部4には移動できない。スリット5の幅Tを受精卵8の直径Dcより小さくしているからである。スリット5の深さWを第一実施形態のそれよりも大きくすると、培養液10は凹部4のより深い部分を経由して隣の凹部4へと流れる。すなわち、培養液10の循環性は高まる。ただし、受精卵8に与えるダメージ、受精卵8の凹部4からの飛び出しの可能性を含めて総合的に判断すると、第一実施形態におけるスリット5の深さの方が好ましいとも解釈可能である。
図5は、図4の培養容器の各変形例の平面図(5A,5B)を示す。
図5(5A)に示すように、第一変形例に係る培養容器1aは、縦10列×横10行の合計100個の凹部4を備える点で、図4(あるいは図1)の培養容器1と共通する。しかし、格子状に配列された凹部4の周囲以外、凹部4同士を横方向にのみ接続するスリット5を備える点は、図4(あるいは図1)の培養容器1と異なる。
また、図5(5B)に示すように、第二変形例に係る培養容器1bは、縦10列×横10行の合計100個の凹部4を備える点で、図4の培養容器1と共通する。しかし、格子状に配列された凹部4の縦方向に接続するスリット5を2列おきに備える点は、図4の培養容器1と異なる。
上記の第一変形例および第二変形例は、第一実施形態に係る培養容器1にも応用できる。凹部4同士を接続するスリット5は、第一実施形態のような完全格子状の接続形態以外に、図5(5A,5B)に示す形態に変形可能であり、さらなる別の形態にも変形できる。スリット5は、少なくとも2つの凹部4同士を接続していれば良い。
また、スリット5は、好ましくは、上述の実施形態に示すように、凹部4の開口側に開口する溝である。しかし、スリット5は、凹部4同士を接続する貫通口であって、凹部4の開口側を閉鎖した空間であっても良い。
<第三実施形態>
図6は、本発明の第三実施形態に係る培養容器の平面図(6A)および同培養器を用いて培養している状況を該平面図のA-A線断面にて表した縦断面図(6B)をそれぞれ示す。
第三実施形態に係る培養容器15は、培養容器15の面2aに、凹部4の配置領域以外の位置に、培養容器15内に培養液10を供給するためのリザーブタンク24と、凹部4を通過して排出される培養液10を貯める廃棄タンク25と、をさらに備える。また、培養容器15は、縦5列×横5行の合計25個の凹部4を備える。スリット5は、縦5列×横5行の格子状にて、凹部4を接続するように形成されている。
廃棄タンク25は、この実施形態では、底板2の表側の面2aに、面2a側を開口させた凹領域として形成されている。培養容器15およびリザーブタンク24は、廃棄タンク25を除く面2a上にそれぞれ配置されている。リザーブタンク24は、筒型形状をなし、その内部35に培養液10を貯留可能な部材である。リザーブタンク24は、培養液10を内部35に入れた後、供給管29から培養液10を面2a上に供給可能である。なお、供給管29に、培養液10が不本意に面2a上に流出しないように、バルブを備えていても良い。
スリット5は、好ましくは、凹部4を通過する他に、廃棄タンク25にも通じている。また、供給管29、スリット5、廃棄タンク25は、この順番に低くなるように、形成されている。この結果、リザーブタンク24内の培養液10は、供給管29から面2a上に流れ出した後、受精卵8を入れた凹部4からスリット5を経由して他の凹部4にも移動し、最後に廃棄タンク25への出口5aから廃棄タンク25内に移動する。このように、ポンプ等の送液機器を用いなくとも、重力を利用して、リザーブタンク24から培養容器15を経て、廃棄タンク25へと培養液10を送液可能である。リザーブタンク24から培養容器1への培養液10の供給速度は、特に制約はないが、1~20nL/minの範囲、より好ましくは5~15nL/minの範囲にすることができる。
リザーブタンク24の構成材料は、細胞や胚(一例としては、受精卵8)の培養に支障がない限り、特に制約されるものではないが、例えば、ポリアミド; ポリイミド; 環状オレフィンコポリマー; ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン; ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル; ポリスチレン、メタクリレート-スチレン共重合体等のポリスチレンに代表される合成樹脂; シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム若しくはスチレンブタジエンゴム等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマーにて好適に形成される。また、リザーブタンク24は、上記合成樹脂あるいはゴム以外に、例えば、ガラス; アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレススチール等の金属; 酸化アルミニウム、窒化珪素等のセラミックスにて構成されていても良い。リザーブタンク24としてより好ましい材料としては、ポリスチレン、シリコーンゴムあるいはガラスを挙げることができる。
培養容器15の底板2の直径は、リザーブタンク24および廃棄タンク25を配置可能であれば特に制約されないが、好ましくは30~100mm、さらに好ましくは35~71mmである。側壁3の高さも、特に制約されないが、好ましくは7~15mm、さらに好ましくは10~12mmである。
2.培養ディッシュ
<第一実施形態>
図7は、本発明の第一実施形態に係る培養ディッシュの簡略分解斜視図を示す。図8は、図7の培養ディッシュの縦方向断面図(8A)、および培養中の同断面図と一部Gの拡大断面図(8B)をそれぞれ示す。
生体内環境に近い培養ディッシュ(以後、単に「培養ディッシュ」と称する)20は、培養容器1と、培養容器1内に培養液10を供給するためのリザーブタンク24と、培養容器1から排出される培養液10を貯める廃棄タンク25と、を備える。培養ディッシュ20は、リザーブタンク24の内部の培養液10がリザーブタンク24から培養容器1を経て廃棄タンク25に至るように、リザーブタンク24と培養容器1と廃棄タンク25とを高低差をつけて配置している。以下、培養ディッシュ20の詳細な構成について説明する。
培養ディッシュ20は、円形の底板22と、その周囲を沿って上方向に突出する円筒形状の側壁23とを備える。なお、底板22は、円形に限定されず、三角形、四角形、五角以上の多角形、楕円形、あるいは不定形であっても良い。培養ディッシュ20は、側壁23で囲まれた領域21に、培養容器1と、リザーブタンク24とを配置可能である。廃棄タンク25は、この実施形態では、底板22の表側の面22aに、面22a側を開口させた凹領域として形成されている。培養容器1およびリザーブタンク24は、廃棄タンク25を除く面22a上の領域26および領域27にそれぞれ配置可能となっている。
培養容器1は、側壁3に、貫通孔31,32を備える。貫通孔31は、培養容器1内の培養液10を廃棄タンク25へと排出するための排出管28を挿入可能な大きさの孔である。貫通孔31は、好ましくは、培養容器1の面2aになるべく近い高さにて、側壁3に形成されている。貫通孔32は、リザーブタンク24内の培養液10を培養容器1内に供給するための供給管29を挿入可能な大きさの孔である。貫通孔32は、培養容器1の開口面(面2aの上方)になるべく近い高さにて、側壁3に形成されている。このため、貫通孔32に挿入された供給管29の高さ位置は、貫通孔31に挿入された排出管28の高さ位置に比べて高い。したがって、ポンプ等の送液機器を用いなくとも、重力を利用して、リザーブタンク24から培養容器1等を経て、廃棄タンク25へと培養液10を送液可能である。供給管29は、リザーブタンク24の内底面より高い位置に接続され、好ましくは当該内底面の近くに配置される。排出管28は、培養容器1側、あるいはリザーブタンク24側のいずれに最初から固定された部材であっても良く、あるいは培養容器1とリザーブタンク24の両方に着脱自在な独立した部材であっても良い。供給管29は、培養容器1に最初から固定された部材であっても良く、あるいは培養容器1に着脱自在な独立した部材であっても良い。なお、培養容器1に、必ずしも貫通孔32を備えることを要しない。供給管29を培養容器1の側壁3の上方に配置すれば、側壁3に貫通孔32を形成する必要はない。
リザーブタンク24は、筒型形状をなし、その内部35に培養液10を貯留可能な部材である。培養液10を内部35に入れた後、供給管29から培養液10が不本意に流出しないように、供給管29にバルブ30を備えるのが好ましい。この実施形態では、排出管28にバルブを設けていないが、バルブを設けても良い。
図8(8B)に示すように、培養ディッシュ20内に、受精卵8と培養液10を入れた培養容器1と、リザーブタンク24とを配置し、リザーブタンク24の内部35に培養液10を入れ、バルブ30を開くと、リザーブタンク24内の培養液10は、供給管29を経て培養容器1に入り、培養容器1内の培養液10と置換される。置換後の培養液10は、排出管28を経て、廃棄タンク25に貯まる。培養容器1の複数個の凹部4は、スリット5にて互いに接続されているので、培養液10は複数個の凹部4に亘って移動可能である。1つの凹部4内の受精卵8からの放出物質は、隣の凹部4内の受精卵8、さらに接続される別の凹部4内の受精卵8にも、培養液10と共に送られる。スリット5は、パラクライン効果を高めるのに寄与する。なお、スリット5が存在しなくても、凹部4同士は、その開口部同士でつながっているが、スリット5を設ける場合と比べると、培養液10および上記放出物質の凹部4間の移動は少ない。リザーブタンク24から培養容器1への培養液10の供給速度は、特に制約はないが、1~20nL/minの範囲、より好ましくは5~15nL/minの範囲にすることができる。
培養ディッシュ20の構成材料は、細胞や胚の培養に支障がない限り、特に制約されるものではなく、培養容器1と同様の材料の選択肢から選択可能である。
培養ディッシュ20の底板22の直径は、培養容器1、リザーブタンク24および廃棄タンク25を配置可能であれば特に制約されないが、好ましくは30~100mm、さらに好ましくは35~71mmである。側壁23の高さも、特に制約されないが、好ましくは7~15mm、さらに好ましくは10~12mmである。
この実施形態では、培養容器1は、培養ディッシュ20と別体であるが、培養ディッシュ20の略中央部分に固定されていても良い。その場合、培養ディッシュ20は、培養容器1の径方向外側に凹部を拡張した部材と位置付けられ、培養容器と称することができる。
<第二実施形態>
図9は、本発明の第二実施形態に係る培養ディッシュの図8(8A)と同様の断面図(9A)および供給管の拡大断面図(9B)をそれぞれ示す。
第二実施形態に係る培養ディッシュ20aは、第一実施形態に係る培養ディッシュ20容器1の内方の領域21を廃棄タンク25に利用する構造とした点および供給管29の内部に流量制御機構を設けてバルブ30を設けなかった以外、第一実施形態の培養ディッシュ20と同一の構造を有する。よって、以下の説明では、第一実施形態と異なる構成以外については、第一実施形態の説明を代用し、重複した説明を省略する。
第二実施形態に係る培養ディッシュ20aは、その略中央部分に、上方突出したマウント部40を備える。培養容器1は、マウント部40に配置されている。リザーブタンク24は、第一実施形態における同タンク24よりも底上げされている。供給管29の高さは、培養容器1の面2aよりも高い位置にある。一方、排出管28は、培養ディッシュ20aの面22aよりも十分高い位置にある。この結果、リザーブタンク24の内部35内の培養液10は、供給管29を経て、培養容器1aの内部に入り、排出管28から培養ディッシュ20aの内部に貯まる。なお、マウント部40は、必須の構成ではない。培養容器1の底板2が十分に厚い場合には不要である。
供給管29は、その内部に、培養液10の排出量を制御して徐々に排出可能な膜45を備える。膜45は、リザーブタンク24と培養容器1との間にあって、リザーブタンク24内の培養液10を重力に抗して培養容器1へと供給可能な部材である。この実施形態では、膜45は、供給管29の長さ分の空間に満たされているが、供給管29の長さより短い領域に存在していても良い。また、膜45は、供給管29のリザーブタンク24側あるいは培養容器1側のいずれかの端面に配置されても良い。
膜45は、セルロース、ポリエステル、セルロース混合エステル、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等の材料からなる多孔質膜であって、培養液10を多くの孔から染み出させる機能を持つ。膜45の厚さや孔の大きさについては、培養液10の粘度、供給速度等の条件に応じて変更可能である。膜45は、好ましくは、リザーブタンク24から培養容器1等への培養液10の供給速度を0.1~200nL/minの範囲、より好ましくは5~15nL/minの範囲にすることができる流量制御用の膜である。なお、流量調節のための堰の配置場所と構造は、リザーブタンクと培養容器をつなぐ流路の中に設置し、流路の途中を狭窄し流量を制限する構造としても良い。また流量調節のための膜45の配置場所と仕様は、リザーブタンク24と培養容器1をつなぐ流路の中に設置し、孔径0.025μm~10μmのろ過滅菌用の多孔質膜のフィルター(セルロース混合エステル、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等)を培養液10の組成と性状、粘性等に応じ適宜使い分けて、使用することができる。
なお、上述の膜45は、培養ディッシュ20,20aに備えられるリザーブタンク24の供給管29のみならず、先に説明した培養容器15に配置されるリザーブタンク24の供給管29内にも備えることができる。
3.培養容器および培養ディッシュの製造方法
培養容器1,1a,1b,15および培養ディッシュ20,20a(適宜、「培養容器1等」という。)は、リザーブタンク24、供給管29および排出管28等の接続若しくは配置部材を除いた形態にて、金型成形、フォトリソグラフィと転写の組み合わせ、あるいは3Dプリントによって製造可能である。金型成形を行う場合、金型内に、未硬化状態の硬化性樹脂組成物若しくは硬化性ゴム組成物を供給して、加熱(加圧を伴う場合あり)、紫外線照射等により上記組成物を金型内で硬化させるのが好ましい。この際、凹部4およびスリット5を、成形時に形成しても良く、あるいは成形後にレーザ加工若しくは機械加工によって形成しても良い。
フォトリソグラフィと転写を行う場合には、例えば、平滑かつ均一厚さの基板の一例としてのシリコン基板上に、フォトレジスト層をスピンコート等の手法にて形成し、所定のマスクパターンを介して露光および現像を行い、シリコン基板上に鋳型を形成する。鋳型は、培養容器1等の内面を転写可能な凹凸を備える。次に、鋳型上に、未硬化状態の硬化性樹脂組成物若しくは硬化性ゴム組成物を供給して、加熱(加圧を伴う場合あり)、紫外線照射等により上記組成物を金型内で硬化させる。次に、硬化させた培養容器1等を鋳型から剥がす。なお、凹部4およびスリット5の形成時期のバリエーションについては、金型成形の場合と同様である。
4.その他の実施形態
上方に開口する形態の凹部4は、細胞または胚を個別に収容可能な部屋の一例にすぎず、底部あるいは側壁に孔を有する部屋でも良い。スリット5は、凹部4の側壁方向から見て長方形の形状を有するが、楕円形等の他の形状であっても良い。スリット5における凹部4の深さ方向の長さは、凹部4の開口面から凹部の深さの50%、40%、30%、20%あるいは10%までの長さであっても良い。また、スリット5における凹部4の深さ方向の長さは、凹部4の開口面から凹部の深さの60%、70%、80%、90%あるいは100%までの長さであっても良い。リザーブタンク24は、培養容器1等の内部に固着されていても良い。廃棄タンク25は、培養容器1等から着脱自在な部材でも良い。
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(1)培養容器の作製
シャーレ型の培養容器を作製するための金型(凹金型と凸金型)を用意した。凸金型には、転写面に、縦5列×横5列の合計25個の凸部(直径:300μm、高さ:250μm、凸部間隔:100μm)、凸部同士を接続する板状部(幅:20μm、高さ:125μm)および突出領域(高さ1.5mm、突出面:18mm×10mm)を備えるものを用いた。金型内に、未硬化の樹脂原料(ポリスチレン)を加熱・加圧供給し、硬化後、金型を開き、内表面に、縦5列×横5列の合計25個の凹部(開口直径:300μm、深さ:250μm、凹部間隔:100μm)、スリット(幅:20μm、深さ:125μm)および廃棄タンク(深さ1.5mm、開口部:18mm×10mm)を備えるシャーレ型の培養容器(直径:36mm、高さ:11mm)を得た。この培養容器を、「Vivo dish+50%slit」と称する。また、培養容器として、上記の「Vivo dish+50%slit」以外に、25個の凹部を独立して形成したスリットの無い培養容器(「Vivo dish slitなし」と称する)と、スリットの深さを凹部の深さと同じ250μmとした培養容器(「Vivo dish+100%slit」と称する)とを、凸金型の形状を変えて、上記と同様の金型成形にて作製した。
(2)実験前の処理
上述の工程で作製された培養容器、後述のリザーブタンクをはじめとする部材は、予め、電子線あるいはγ線滅菌した。受精卵の導入前に、培養容器をKSOM(Lawitts JA, Biggers JD. Culture of preimplantation embryos. Methods Enzymol. 1993 ; 225 : 153―64.)で洗浄した。その後、37℃、酸素濃度5%、二酸化炭素濃度5%のインキュベータ内で、ガス平衡した。
培養する受精卵には、マウス2細胞期受精卵を用いた。リザーブタンク(直径:10mm、高さ:15mm)を培養容器の凹部密集領域と廃棄タンク以外の領域に配置し、その中に培養液を入れた。リザーブタンクに入れた培養液としては、KSOM(Lawitts JA, Biggers JD. Culture of preimplantation embryos. Methods Enzymol. 1993 ; 225 : 153-64.)に5質量%のヒトアルブミンを加えたものを用いた。培養は、COインキュベータ(5%O、5%CO、および90%N、37℃、湿度飽和)の環境下で行った。
(3)実験
(実験I):培養液循環の条件下における培養容器の形態が及ぼす効果
-実験例(1)- 培養容器「Vivo dish+50%slit」の凹部に培養液を供した後、受精卵を凹部内に入れた。その後、リザーブタンクから10nL/minの供給速度で培養液を培養容器の凹部およびスリットに向けて供給し、廃棄タンクに至る循環供給を実行した。培養開始の24時間後から、24時間毎に、96時間後までの受精卵の胚盤胞への発生を観察・記録した。培養開始時の受精卵(マウス2細胞期受精卵)の数に対する、胚盤胞へと発生した受精卵の数の割合を発生率(%)として求めた。また、得られたマウス胚盤胞を構成する総細胞数と、胚盤胞中の内部細胞塊の細胞数(ICM細胞数)とを二重蛍光染色法により計測した。また、脱出胚盤胞(透明帯(受精卵を覆っているカプセル)から脱出した状態の胚盤胞)についても同様の計測を行った。さらに、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)も求めた。
-実験例(2)- 培養容器を、「Vivo dish+50%slit」から「Vivo dish+100%slit」に変更し、実験例(1)と同様の培養を行った。
-実験例(3)- 培養容器を、「Vivo dish+50%slit」から「Vivo dish slitなし」に変更し、実験例(1)と同様の培養を行った。
実験例(1)~(3)の結果を図10に示す。(10A)のグラフは各培養容器を用いたときの発生率(%)を、(10B)のグラフは各培養容器を用いたときの各種細胞数を、(10C)のグラフは各培養容器を用いたときの受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)を、それぞれ示す。(10B)のグラフにおいて、胚盤胞は左側の棒グラフを、脱出胚盤胞は右側の棒グラフを、それぞれ示す。(10C)のグラフにおいて、受胚雌妊娠は左側の棒グラフを、産仔生産率は右側の棒グラフを、それぞれ示す。
発生率、細胞数、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)のいずれも、スリットの無い培養容器よりも、スリットのある培養容器の方が優れていた。また、スリットの深さによる違いもみられ、スリットを凹部の深さの上部半分までに入れた方が、スリットを凹部の深さ全長に亘っていれるよりも、発生率、細胞数、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)の点で優れた結果となった。
(実験II):培養液循環無しの条件下における培養容器の形態が及ぼす効果
-実験例(4)- 培養容器「Vivo dish+50%slit」の凹部に培養液を供した後、受精卵を凹部内に入れた。実験Iと同様に、発生率(%)、各種細胞数、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)を求めた。
-実験例(5)- 培養容器を、「Vivo dish+50%slit」から「Vivo dish+100%slit」に変更し、実験例(4)と同様の培養を行った。
-実験例(6)- 培養容器を、「Vivo dish+50%slit」から「Vivo dish slitなし」に変更し、実験例(4)と同様の培養を行った。
実験例(4)~(6)の結果を図11に示す。(11A)のグラフは各培養容器を用いたときの発生率(%)を、(11B)のグラフは各培養容器を用いたときの各種細胞数を、(11C)のグラフは各培養容器を用いたときの受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)を、それぞれ示す。(11B)のグラフにおいて、胚盤胞は左側の棒グラフを、脱出胚盤胞は右側の棒グラフを、それぞれ示す。(11C)のグラフにおいて、受胚雌妊娠は左側の棒グラフを、産仔生産率は右側の棒グラフを、それぞれ示す。
発生率、細胞数、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)のいずれも、スリットの無い培養容器よりも、スリットのある培養容器の方が優れていた。また、スリットの深さによる違いもみられ、スリットを凹部の深さの上部半分までに入れた方が、スリットを凹部の深さ全長に亘っていれるよりも、発生率、細胞数、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)の点で優れた結果となった。また、先に示した実験例(1)~(3)と比較すると、実験例(4)~(6)の発生率、細胞数、受胚雌妊娠率(%)および産仔生産率(%)のいずれも、低い若しくは同等となった。この結果から、培養液を循環させて培養する方が好ましく、凹部間をスリットで接続する方がより好ましく、そのスリットの長さは凹部の深さ全長に亘って形成するよりも上方半分だけに形成する方がさらに好ましいことがわかった。
本発明は、細胞または胚の培養に利用できる。


Claims (6)

  1. 細胞または胚を培養するための培養容器であって、
    前記細胞または前記胚を個別に収容可能な部屋を複数個備え、
    2以上の前記部屋同士が、培養液を通過させる一方で前記細胞または前記胚を通過させない大きさの空間を介して接続しており、
    前記部屋は、
    一方を開口させた凹部であり、
    前記凹部の側壁の上方から下方に向かう任意の位置に至る開口部から隣の前記凹部の前記開口部に通じるスリットを備える生体内環境に近い培養容器。
  2. 前記スリットは、前記凹部の高さの50%以下の長さである請求項に記載の生体内環境に近い培養容器。
  3. 前記部屋の容積は10~50nLの範囲にある請求項1または請求項に記載の生体内環境に近い培養容器。
  4. 前記培養容器内に培養液を供給するためのリザーブタンクと、
    前記部屋を通過して排出される培養液を貯める廃棄タンクと、
    をさらに備える請求項1から請求項のいずれか1項に記載の生体内環境に近い培養容器。
  5. 請求項1から請求項のいずれか1項に記載の生体内環境に近い培養容器を備える培養ディッシュであって、
    前記培養容器と、
    前記培養容器内に培養液を供給するためのリザーブタンクと、
    前記培養容器から排出される培養液を貯める廃棄タンクと、
    を備え、
    前記リザーブタンクの内部の前記培養液が前記リザーブタンクから前記培養容器を経て前記廃棄タンクに至るように、前記リザーブタンクと前記培養容器と前記廃棄タンクとを高低差をつけて配置している生体内環境に近い培養ディッシュ。
  6. 前記リザーブタンクと前記培養容器との間に、前記リザーブタンク内の前記培養液を重力に抗して前記培養容器へと供給可能な膜を備える請求項に記載の生体内環境に近い培養ディッシュ。
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