JP2015200046A - ポリアクリロニトリル系部分環化重合体、ポリアクリロニトリル系耐炎重合体、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維、炭素繊維及びそれらの製造方法 - Google Patents

ポリアクリロニトリル系部分環化重合体、ポリアクリロニトリル系耐炎重合体、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維、炭素繊維及びそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐炎化処理を短時間で効率的に行い、高品質の耐炎化繊維、及び炭素繊維を低コストの提供。【解決手段】[1]ポリアクリロニトリル(PAN)系重合体を、溶液中でチオラート系化合物と窒素原子を含有する酸化剤で変性した後に、変性された該重合体を紡糸してPAN系耐炎繊維を製造する。[2]PAN系前駆体繊維を、チオラート系化合物と窒素原子を含有する酸化剤を含む液相中で変性して、PAN系耐炎繊維を製造する。前記の製造方法で得られたPAN系耐炎化繊維を、300〜3000℃で熱処理して、機械的強度に優れた炭素繊維を得る。前記チオラート系化合物は、一般式(1)で表される化合物が好ましい。(M1はアルカリ金属;R1は炭化水素基又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基若しくはアゾ基の少なくとも一つを有する炭化水素基)【選択図】なし

Description

本発明は、ポリアクリロニトリル系部分環化重合体、ポリアクリロニトリル系耐炎重合体、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維、炭素繊維及びそれらの製造方法に関する。
耐炎繊維は耐熱性及び難撚性に優れるため、例えば溶接作業等で飛散する高熱の鉄粉や溶接火花等から人体を保護するスパッタシート、航空機等の防炎断熱材等に幅広く利用されており、それらの分野における需要は増している。また、耐炎繊維は炭素繊維を得るための中間原料としても重要である。該炭素繊維は力学的、化学的諸特性及び軽量性に優れるため、例えば航空機やロケットなどの航空、宇宙用航空材料、ゴルフシャフト、釣竿などのスポーツ用品等の各種の用途に広く使用されている。
さらに、炭素繊維は、その軽量性と優れた機械的特性的、化学的特性により、宇宙用途、スポーツ用途、土木・建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途、最近では、航空機用途や自動車用途に採用されてきた。
特に、ポリアクリロニトリル(以下、PANと略記する)系炭素繊維は、生産性や炭素繊維の物性・品質に優れていることから、今日に至るまで工業化が積極的に推進されてきた。PAN系炭素繊維は、一般に、PAN系前駆体繊維を空気中200〜300℃で加熱して耐炎化処理して耐炎繊維とした後、窒素等の不活性雰囲気下で加熱し炭化処理することにより得られる。
しかし、耐炎化処理は、繊維という固相状態における発熱反応であるため、繊維内部に熱が蓄熱しやすく、耐炎化反応が安定に進行する条件を一旦外れると、耐炎化反応が暴走し、炭素繊維が損傷を受けるおそれがある。
そのため、PAN系炭素繊維を耐炎化処理する工程においては、耐炎化反応の進行速度を厳密に制御するために、長時間を費やし、ゆっくりと耐炎化反応を進める方法が一般的であるが、十分に生産性が高い方法とは言い難いものであった。
前記技術的課題を解決する方法の一つとして、PAN系重合体を耐炎化した後に、紡糸して、耐炎繊維を得る方法や、PAN系重合体を紡糸して繊維とした後に、耐炎化して耐炎繊維を得る方法が検討されてきた。
PAN系重合体を耐炎化した後に、紡糸して、耐炎繊維を得る方法として、例えば、特許文献1には、アクリロニトリル(以下、ANと略記する)系重合体粉末を不活性雰囲気中で密度が1.20g/cm3以上になるまで加熱処理した後、溶剤に溶解して繊維化し
た繊維状物を熱処理する方法が開示されている。しかしながら、該方法では耐炎化が十分に進行していないAN系重合体粉末を使用しているため、溶液の経時的な粘度変化が大きく、糸切れが発生しやすい。また溶剤として、有機ポリマーを分解させやすい硫酸、硝酸等の強酸性溶媒を使用しているため、耐腐食性を有する特殊な材質により形成された装置を用いる必要があり、コスト的な課題がある。
また、特許文献2には、加熱処理したAN系重合体粉末と加熱処理していないAN系重合体粉末とを混合して酸性溶媒中に溶解する方法が開示されている。しかしながら、該方法では、特許文献1記載の方法と同様に、装置への耐腐食性付与や溶液の不安定さについては課題が解決されない。
一方、溶液中でのPANの加熱処理方法として、非特許文献1には、PANのジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する)溶液を加熱処理することにより、PANが環化構造を伴うポリマーへ転換することが開示されている。しかしながら、ポリマー濃度が0.5%の希薄溶液であり粘性が低すぎるため、実質的に繊維等への賦形及び成形は困難であり、またポリマー濃度を高めるようとするとポリマーが析出し、溶液として使用することができない。
また、非特許文献2には、PANのジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)溶液に一級アミンを反応させることでPANを変性する方法が開示されている。しかしながら、該溶液は耐炎化の進行していないPANに親水性を与えることを目的としている。
さらに、特許文献3には、PANのDMSO溶液をアミンなどの求核剤で変性し、さらに酸化剤で酸化処理を施すことにより耐炎化したポリマーを製造する方法が開示されている。しかしながら、該方法を適用して耐炎化したポリマーを製造するに当たり、耐炎化の進行と共に溶液の粘度低下や溶液の経時的な粘度変化が見られ、これらが後の紡糸工程での製糸性の不安定さ、得られる耐炎繊維及び炭素繊維の物性低下並びに繊維の集合体における単繊維間の物性のバラツキ等に影響を与える。また、酸化剤としてニトロ系やキノン系の化合物を用いているため、反応で生じるアミンやアルコール等の副生成物が耐炎ポリマーと望まない反応を起こし、紡糸工程において凝固浴の着色を生じさせる。
一方、PAN系重合体を紡糸して繊維とした後に、耐炎化して耐炎繊維を得る方法として、特許文献4には、PAN系前駆体繊維に薬品処理を施して、耐炎繊維を製造する技術が開示されており、環化剤促進剤としてアミン系化合物を代表とする有機求核試薬、酸化剤としてニトロ系化合物を代表する有機窒素化合物が提案されている。しかしながら、特許文献4に記載の技術は、前駆体繊維の内部まで薬品が浸透せず、また耐炎化反応の進行が遅いため、耐炎化処理に時間を要するという問題があり、工業的生産には至っていない。
また、特許文献5には、酸素拡散不足による炭素繊維の断面方向の構造不均一性を解消する目的で、PAN系前駆体繊維に単体硫黄を含ませて熱処理する技術が開示されている。しかしながら、特許文献5に記載の技術は、紡糸安定性の問題、焼成時に還元性物質が発生する問題などから、工業生産には至っていない。
特公昭63−14093号公報 特公昭62−57723号公報 国際公開第2007/018136号 特開2004−300600号公報 特開昭58−109625号公報
「ポリマー・サイエンス(USSR)」(Polym.Sci.USSR),1968年、第10巻,p.1537 「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー」(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.),1990年,第28巻,p.1623
前述した、溶液中で耐炎ポリマーを製造した後に、紡糸して、繊維を得る従来の方法では、耐炎化反応の進行と共にポリマーの分子量が低下するため、粘度が低下し、紡糸工程において延伸性が低下すると考えられる。
一方、紡糸した後の繊維を耐炎化する方法では、これまで知られてきたアミン系化合物や単体硫黄等では、繊維の均一な処理が難しい点、耐炎化処理に時間を要する点、また紡糸安定性が低下する等から、工業生産には不適であった。
本発明は、上記事情に鑑みて行われたものであり、品質の優れた耐炎繊維を高い生産性で製造する方法を提供することにより、高品質な炭素繊維を、高い生産性で、安定的に製造することを目的とする。
本発明は以下の態様を有する。
本発明は、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法であって、該耐炎繊維はポリアクリロニトリル系重合体をチオラート系化合物で変性してなる、比重1.24以上1.55以下である化合物を主成分として含むことを特徴とする。
前記変性は酸化剤の存在下で行うこともできる。
さらに、前記変性は溶液中で行うことができ、該溶液は非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。
本発明は、ポリアクリロニトリル系重合体を、チオラート系化合物で変性してなる化合物を、非プロトン性極性溶媒に混合し、溶解して紡糸原液とし、該紡糸原液から、湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法により前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維を得る、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法に関する。
前記チオラート系化合物はが、下記一般式(1)又は式(2)から選ばれる化合物である。
式(1)中、Mはアルカリ金属を示し、Rは、炭化水素基、又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する炭化水素基から選ばれる。
式(2)中、Mはアルカリ土類金属を示し、R、Rは、炭化水素基、又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する炭化水素基から選ばれる。
前記酸化剤は、少なくとも1つの窒素原子を含有する化合物が好ましく、ニトロ基、ニトロソ基、N-ヒドロキシ構造、N−オキサイド構造、N−オキシル構造からなる群より
選ばれる少なくとも一つの官能基又は構造を有する化合物がより好ましい。
本発明は、前記の製造方法により得られたポリアクリロニトリル系耐炎繊維に関する。
また本発明は、ポリアクリロニトリル系重合体を変性することにより得られるポリアクリロニトリル系部分環化重合体であって、
赤外分光測定で測定される2240±60cm-1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(A)から下記式(1)で算出されるAbs2240±60が70%以下であり、
硫黄含有率が0.3質量%以上20.0質量%以下
であるポリアクリロニトリル系部分環化重合体に関する。

本発明は、前記ポリアクリロニトリル系部分環化重合体の製造方法であって、ポリアクリロニトリル系重合体を、チオラート系化合物を用いて変性するポリアクリロニトリル系部分環化重合体の製造方法に関する。
本発明は、前記ポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法であって、ポリアクリロニトリル系部分環化重合体を、酸化剤を用いて酸化処理することにより変性するポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法に関する。酸化剤はパラジウム又はパラジウム含有物が好ましい。
また、本発明はポリアクリロニトリル系耐炎繊維を、300℃以上3000℃以下で熱処理する、炭素繊維の製造方法であって、該ポリアクリロニトリル系耐炎繊維は、ポリアクリロニトリル系重合体をチオラート系化合物で変性してなる化合物を主成分として含み、比重1.24以上1.55以下を特徴とする。
前記の製造方法において、前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維は、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、チオラート系化合物と酸化剤で変性してなる化合物を主成分として含む。前記変性は溶液中で行うことができ、該溶液はエチレングリコール系溶媒が好ましい。
前記の製造方法において、前記変性は、溶媒100質量部、チオラート系化合物1質量部以上150質量部以下を含む溶液中で、120℃以上250℃以下、及び30秒以上120分以下で行うことができる。
あるいは、前記の製造方法において、前記変性は、溶媒100質量部、チオラート系化合物1質量部以上150質量部以下、酸化剤1質量部以上150質量部以下を含む溶液中で、120℃以上250℃以下、及び30秒以上120分以下で行うことができる。
本発明によれば、高性能な耐炎繊維及び炭素繊維を安定に製造できる。
PAN系前駆体繊維を、チオラートで変性する前、及び変性した後の赤外線吸収スペクトル(実施例1)。
本発明の炭素繊維の製造方法に使用する耐炎繊維は、以下の二通りの方法、すなわち、[1]PAN系重合体を、溶液中で変性した後に、該重合体を紡糸して耐炎繊維を製造する方法、又は[2]PAN系前駆体繊維を、チオラート系化合物を含む液相中で変性して、耐炎繊維を製造する方法、により製造されることを特徴とする。以下、順に説明する。
[1]PAN系重合体を、溶液中で変性した後に、該重合体を紡糸して耐炎繊維を製造する方法
[PAN系部分環化重合体]
本発明のPAN系部分環化重合体(以下、部分環化重合体とも示す)は、ポリアクリロニトリル系重合体を変性することにより得られ、PAN系重合体と変性処理後の部分環化重合体について赤外分光測定で測定される2240±60cm-1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(A)の面積から下記式(1)で算出されるAbs2240±60が70%以下であり、硫黄含有率が0.3質量%以上20.0質量%以下である。

本発明の部分環化重合体は、前駆体であるPAN系重合体が変性されることにより、PANの側鎖であるニトリル基の全て又は一部が環化した重合体である。
本発明の部分環化重合体のAbs2240±60は、70%以下である。Abs2240±60が70%以下であることにより、後述する耐炎重合体への変性が起こりやすくなる。Abs2240±60は50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。なお、下限は特に限定されず、0%であってもよい。また、前記赤外分光測定は後述する方法により行う。
本発明の部分環化重合体の硫黄含有率は、0.3質量%以上20.0質量%以下である。該硫黄含有率が0.3質量%以上であることにより、本発明の効果が現れやすい。また、該硫黄含有率が20.0質量%以下であることにより、炭素化収率の極端な低減を防げる。該硫黄含有率は、1.0質量%以上18.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明における硫黄含有率の測定は後述する方法により行う。
本発明の部分環化重合体の数平均分子量は、100,000以上1,000,000以下であることが好ましい。100,000以上であれば紡糸工程において安定に製糸でき、1,000,000以下であれば溶解性が良好である。100,000以上500,000以下がより好ましく、150,000以上300,000以下がさらに好ましい。
なお、本発明において数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。数平均分子量とはMiの分子量を持つ高分子がNi個存在する場合、以下の計算式
数平均分子量(Mn)=Σ(NiMi)/Σ(Ni)
で表される値である。数平均分子量はポリスチレン換算での相対値を用いる。
本発明では、前駆体重合体として、耐炎化反応の進行のしやすさ及び溶解性の観点から、アクリロニトリル(以下、ANとも示す)由来の構造を有するPAN系重合体を用いる。PAN系重合体が共重合体である場合には、溶解性及び反応性の観点から、AN由来の構造単位を85モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましく、92モル%以上含むことがさらに好ましい。PAN系重合体を合成する方法としては、特に限定されないが、例えば溶液重合法、懸濁重合法、スラリー重合法、乳化重合法等を用いることができる。
PAN系重合体の共重合成分としては、例えば、アリルスルホン酸金属塩、メタリルスルホン酸金属塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド等が挙げられる。また、前記共重合成分以外にも、耐炎化を促進する成分として、ビニル基を含有する化合物を共重合することができる。該化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらの一部又は全量を、アンモニア等のアルカリ成分で中和してもよい。PAN系重合体の数平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000〜1,000,000とすることができる。
[PAN系耐炎重合体]
本発明のPAN系耐炎重合体(以下、耐炎重合体とも示す)は、前記PAN系部分環化重合体をさらに酸化剤で変性して得られるPAN系耐炎重合体である。該耐炎重合体は、赤外分光測定で測定される2940±160cm-1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(B)の面積から下記式(2)で算出されるAbs2940±160が70%以下であり、硫黄含有率が0.3質量%以上20.0質量%以下であり、比重が1.26以上である。
本発明の耐炎重合体は、本発明の部分環化重合体が酸化剤によって変性された重合体である。
本発明の耐炎重合体のAbs2940±160は、70%以下である。Abs2940±160が70%以下であることにより、耐炎性の向上が確認できる。Abs2940±160は50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。なお、下限は特に限定されず、0%であってもよい。また、前記赤外分光測定は後述する方法により行う。
本発明の耐炎重合体の硫黄含有率は、0.3質量%以上20.0質量%以下である。該硫黄含有率が0.3質量%以上であることにより、本発明の効果が現れやすい。また、該硫黄含有率が20.0質量%以下であることにより、炭素化収率の極端な低減を防げる。該硫黄含有率は、1.0質量%以上18.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。
本発明の耐炎重合体の比重は、1.26以上である。該比重が1.26以上であることにより、耐炎性の明らかな向上が確認できる。該比重は1.28以上が好ましく、1.30以上がより好ましい。該比重の上限は特に限定されないが、例えば1.50以下とすることができる。なお、本発明における比重の測定は後述する方法により行う。
本発明の耐炎重合体の数平均分子量は、100,000以上1,000,000以下が好ましい。該数平均分子量は、150,000以上900,000以下が後の紡糸工程における製糸性の観点からより好ましく、200,000以上500,000以下がさらに好ましい。
なお、PAN系重合体を前駆体とする耐炎重合体の構造は完全には明らかになっていない。しかしながら、PAN系耐炎繊維を解析した文献(「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション」(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)では、耐炎重合体は、ニトリル基の環化反応又は酸化反応によって生じるナフチリジン環、アクリドン環、水素化ナフチリジン環等の構造を有すると考えられており、その構造から一般的にはラダーポリマーと呼ばれている。なお、耐炎性を損なわない限り耐炎重合体に未反応のニトリル基が残存していてもよく、溶解性を損なわない限り耐炎重合体の分子間に微量架橋結合が生じていてもよい。
[PAN系部分環化重合体含有溶液]
本発明のPAN系部分環化重合体含有溶液(以下、部分環化重合体含有溶液とも示す)は、前記PAN系部分環化重合体が1.0質量%以上50.0質量%以下の濃度で溶剤に溶解している。該濃度が1.0質量%以上であることにより、成形の際の生産性が向上する。また、該濃度が50.0質量%以下であることにより、ゲル化の進行による流動性の低下を防ぎ、成形加工しやすくなる。該濃度は10.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、12.0質量%以上18.0質量%以下がより好ましい。ここで、部分環化重合体含有溶液の部分環化重合体の濃度は下記式で求められる。
部分環化重合体の濃度(質量%)=100×部分環化重合体質量/部分環化重合体含有溶液質量
なお、部分環化重合体の質量は、部分環化重合体含有溶液からエバポレーターで溶媒を留去後、熱質量分析装置(TG)を用いて、窒素ガス中、40℃/分で200℃まで昇温し溶媒を完全に除去した際に残存する固形成分の質量として求められる。また、適当な凝固液(沈殿剤)を用いて固形重合体を分離できる場合には、直接凝固重合体の質量から求めることができる。
部分環化重合体含有溶液の粘度は、該部分環化重合体の賦形方法、成形方法、成形温度、口金、金型等の種類等によって適宜好ましい範囲を選択することができる。しかしながら、紡糸時の製糸製の観点から、25℃における溶液粘度が10〜100,000poiseが好ましく、10〜10,000poiseがより好ましく、10〜1,500poiseがさらに好ましい。該粘度は後述する方法により測定した値である。また、該溶液粘度が前記範囲外であっても紡糸時に加熱又は冷却することにより適当な粘度に調整して用いることもできる。
部分環化重合体を溶解させる溶媒としては、部分環化重合体の溶解性の観点から極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒としては、水酸基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルホン基、メルカプト基等を有する有機溶媒が挙げられる。また、極性有機溶媒としては、水との相溶性が良好な有機溶媒が挙げられる。
これらの有機溶媒としては、例えば、(a)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量200〜1000程度のポリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、(b)ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、Nメチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、(c)モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン、オルトフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン等のアミン系溶媒、を用いることができる。
また、水との相溶性が良好なチオール系溶媒として、例えば水酸基を有するメルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、チオグリセロール、チオジエタノール、ジチオトレイトール等が挙げられる。
また、水との相溶性が良好なカルボキシル基を有するチオールとして、例えばチオグリコール酸、アンモニウムチオグリコール酸、ナトリウムチオグリコール酸、カリウムチオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。
また、水との相溶性が良好なアミノ基を有するチオールとして、例えばアミノエタンチオール、アミノプロパンチオール、アミノブタンチオール、アミノペンタンチオール、アミノヘキサンチオール等のモノアミノ置換アルカンチオール、ジ、トリ、テトラ、及びペンタアミノ置換アルカンチオール等が挙げられる。
これらの溶媒は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの溶媒の中でも、前駆体重合体であるPAN系重合体が溶解しやすく、また部分環化重合体が水中で凝固して緻密で硬い重合体を形成しやすいため、湿式紡糸に適しているとの観点から、DMSO、DMF及びDMAcから選択される少なくとも一つの溶媒が好ましい。
また、部分環化重合体が水溶性の場合には、本発明の目的を妨げない範囲で、例えば水、水溶性溶媒等の他の溶媒を極性有機溶媒と組み合わせて使用してもよい。特に水を用いることは、後述する成形時の溶媒除去が比較的容易であり、またコストや生産性の観点から好ましい。
[PAN系耐炎重合体含有溶液]
本発明のPAN系耐炎重合体含有溶液(以下、耐炎重合体含有溶液とも示す)は、前記PAN系耐炎重合体が1.0質量%以上50.0質量%以下の濃度で溶剤に溶解している。該濃度が1.0質量%以上であることにより、成形の際の生産性が向上する。また、該濃度が50.0質量%以下であることにより、ゲル化の進行による流動性の低下を防ぎ、成形加工しやすくなる。該濃度は10.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、12.0質量%以上18.0質量%以下がより好ましい。なお、耐炎重合体含有溶液の耐炎重合体の濃度は、前記部分環化重合体含有溶液の部分環化重合体の濃度と同様に求めることができる。
耐炎重合体含有溶液の粘度は、該耐炎重合体の賦形方法、成形方法、成形温度、口金、金型等の種類等によって適宜選択することができる。しかしながら、紡糸時の製糸製の観点から、25℃における溶液粘度は10〜100,000poiseが好ましく、10〜10,000poiseがより好ましく、10〜1,500poiseがさらに好ましい。該粘度は後述する方法により測定した値である。また、該粘度が前記範囲外であっても紡糸時に加熱又は冷却することにより適当な粘度に調整して用いることもできる。
耐炎重合体を溶解させる溶媒としては、部分環化重合体を溶解させる溶媒と同様の溶媒を用いることができる。また、溶媒として前記極性有機溶媒に加えて水を用いる場合には、水の添加量は、耐炎重合体100質量部に対して、5質量部以上300質量部以下が好ましく、10質量部以上200質量部以下がより好ましく、20質量部以上150質量部以下がさらに好ましい。
[PAN系部分環化重合体の製造方法]
本発明のPAN系部分環化重合体は、チオラート系化合物を用いて変性することにより製造できる。
チオラート系化合物としては、反応系中でチオラートとして存在するものであれば何れでもよく、取り扱う際にはチオールの状態であってもよく、チオラート塩等の状態であってもよい。前記チオールとしては、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、ヘプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、それらの構造異性体等のアルキルチオール;メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、チオグリセロール、チオジエタノール、ジチオトレイトール等の水酸基を有するチオール;チオグリコール酸、アンモニウムチオグリコール酸、ナトリウムチオグリコール酸、カリウムチオグリコール酸、チオ乳酸等のカルボキシル基を有するチオール;アミノエタンチオール、アミノプロパンチオール、アミノブタンチオール、アミノペンタンチオール、アミノヘキサンチオール、アミノヘプタンチオール、アミノオクタンチオール等のモノアミノ置換アルカンチオール、ジ、トリ、テトラ、ペンタアミノ置換アルカンチオール等のアミノ基で複数置換されたアルカンチオール等のアミノ基を有するチオール;ベンゼンチオールやその誘導体等のベンゼン環や複素環系の芳香族環を含むチオール等が挙げられる。
チオラート系化合物は、チオールと金属水酸化物等を反応させることにより、容易に製造できる。製造の際には窒素雰囲気下で行うことが副反応抑制の観点から好ましい。この際に用いるチオールとしては、前記チオールと同様のチオールが利用できる。また、チオラートはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の状態で存在すると考えられるが、製造の容易さとコストの観点から、ナトリウム塩又はカリウム塩の状態で存在することが好ましい。
チオラート系化合物はチオラート基以外にも、酸素、窒素、硫黄などの元素を有する官能基を有していることが好ましい。該官能基としては、例えば水酸基等が挙げられる。チオラート系化合物は、チオラート基と前記チオラート基以外の官能基を含め、2以上の官能基を有する化合物であることが、部分環化重合体及び耐炎重合体の溶解性等の観点から好ましい。これらのチオラート系化合物は1種を用いてもよく、2種以上併用してもよい。なお、チオラート系化合物がチオラート基以外の官能基として例えば水酸基を有する場合には、水酸基により変性が起きることもあり得る。
前記変性は、PAN系重合体100質量部に対して、チオラート系化合物10〜250質量部を用いて、80℃以上300℃以下、5分以上240分以下の条件で行うことより、効果的に耐炎化できる。PAN系重合体100質量部に対して、チオラート系化合物20〜200質量部を用いることがより好ましく、40〜150質量部を用いることがさらに好ましい。また、変性する際の温度(変性温度)を80℃以上300℃以下とすることにより、耐炎化反応が進行する。変性温度は100℃以上250℃以下がより好ましく、120℃以上200℃以下がさらに好ましい。また、変性処理の時間を5分以上240分以下とすることにより、適度な処理が可能となる。10分以上200分以下がより好ましく、30分以上180分以下がさらに好ましい。
ここでいうPAN系重合体がチオラート系化合物によって「変性」された状態とは、PAN系重合体に、チオラート系化合物が作用して、ニトリル基の環化反応又は酸化反応がおこり、同重合体の構造中に耐炎化構造が形成されることである。耐炎化構造としては、例えばナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造が例示される。
耐炎化構造が形成されたか否かは、変性後の重合体(部分環化重合体)の比重、硫黄含有率及び質量増加、又は変性前と変性後の重合体について赤外線吸収スペクトル(IR法)により測定される特定ピークの面積値から算出される値により確認できる。
IR法の場合、変性前の重合体のスペクトルと比較して、チオラート系化合物で変性された部分環化重合体のスペクトルには、用いたチオラート系化合物に由来する部分が新たなスペクトルとして追加される。
質量増加法の場合、チオラート系化合物で変性されることによりPAN系重合体に対して質量が増加する。該質量の増加は、PAN系重合体の質量に対して1.1倍以上3.0倍以下が好ましい。該質量の増加が1.1倍以上である場合、部分環化重合体が十分に溶解し、耐炎繊維や炭素成形品を製造した際に、重合体成分が不純物として含まれることを防ぐことができる。また、該質量の増加が3.0倍以下である場合、得られる耐炎繊維の耐炎性が向上する。該質量の増加は、PAN系重合体の質量に対して1.3倍以上、2.6倍以下がより好ましく、1.3倍以上、2.2倍以下がさらに好ましい。
[PAN系耐炎重合体の製造方法]
本発明のPAN系耐炎重合体は、PAN系部分環化重合体の耐炎化を十分に進める観点から、求核剤に加え、酸化剤を用いて酸化処理(変性)することができる。求核剤を加えた後に酸化剤を加えてもよく、求核剤と酸化剤を同時に加えてもよい。また、求核剤と酸化剤を同時に加える場合、PAN系重合体を加える前に予め求核剤と酸化剤を混合してもよく、あるはPAN系重合体と求核剤と酸化剤を同時に混合してもよい。
酸化剤としては、有機又は無機の酸化剤を用いることができる。酸化剤としては、例えばベンゾキノンやクロラニル等のキノン系物質、ニトロベンゼン等のニトロ系物質、過酸化水素や過酸化カリウム等の無機過酸化物、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩類等が挙げられる。反応は酸化剤に加えて、反応系に空気を供給することが、チオラート系化合物による変性反応の効率を高める観点から好ましい。
本発明においては、前記酸化剤は金属系物質であることが反応性の観点から好ましい。該金属系物質としては、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、レニウム、金、銀、銅、鉄、タングステン、ニッケル、コバルト、クロム、カルシウム、バナジウム、アルミニウム、チタン、亜鉛などの金属系化合物及びそれらの合金等が挙げられる。また、これらの金属の酸化物等であってもよい。これらの中でも、反応性の観点からパラジウム、パラジウム含有物等のパラジウム系物質が好ましい。該パラジウム系物質としては、後に取り除く作業の容易性の観点から、溶液に不溶のパラジウム系物質であることが好ましいが、溶媒に可溶なパラジウム系物質であってもよい。該パラジウム系物質の形態としては粉末状でも固定床等でもよい。また、パラジウム単体であってもよく、担体に担持されていてもよく、錯体を形成していてもよい。
なお、本発明では酸化剤として主にパラジウム系物質を使用しているが、パラジウム系物質は有用な酸化剤として知られている。また、少量のパラジウムで触媒的に酸化する技術が開示されている(例えば、「ケミカル・レビューズ」(Chemical Reviews),1978年,第78巻,p.317)。しかしながら、このようなパラジウムを用いた酸化反応は低分子化合物を高効率で触媒的に反応させることを目的としており、耐炎重合体の製造に用いる本発明とは技術思想が全く異なる。なお、本発明における酸化とはいわゆる脱水素化を意味しているが、耐炎重合体を作製するにあたり、酸素が導入される意味であってもよい。重合体が酸化されたか否かはあらゆる方法で調べることが可能であり、例えばNMRにおける13Cの100から200ppmのピークや、IRスペクトルにおける1580cm-1付近のピーク強度を原料ポリマーと比較する方法が挙げられる。
酸化処理は常圧、加圧下又は減圧下で行うことができる。反応性の観点から常圧又は減圧下で行うことが好ましい。酸化処理に用いる装置は、公知の撹拌機付き反応容器、例えばエクストルーダー、ニーダ等のミキサー類を単独又は組み合わせて使用できる。
酸化剤として、パラジウム又はパラジウム含有物を用いる場合には、酸化剤のパラジウムの含有量は反応性の観点から1.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。該含有量の上限は特に限定されないが、例えば50質量%以下とすることができる。
酸化処理の温度は、反応効率の観点から、80℃以上300℃以下が好ましく、120℃以上280℃以下がより好ましく、160℃以上250℃以下がさらに好ましい。酸化処理の時間は生産性の観点から、5分以上240分以下が好ましく、10分以上220分以下がより好ましく、20分以上180分以下がさらに好ましい。
チオラート系化合物と酸化剤を同時に使用する場合、PAN系重合体、チオラート系化合物、酸化剤、及び極性有機溶媒の混合液を、適当な温度で加熱することにより、溶解処理及び耐炎化反応を効率的に行える。加熱温度は、使用する溶媒やチオラート系化合物、酸化剤によって適宜選択されるが、100〜350℃が好ましく、110〜300℃がより好ましく、120〜250℃がさらに好ましい。
本発明の溶液中で耐炎重合体を製造する方法は、従来の溶液中で耐炎重合体を製造する方法と比較して、変性による該重合体の分子量低下を抑えることができる。これにより、紡糸工程での製糸に適した粘度の耐炎重合体含有溶液を効率よく製造できる。また、製糸時の延伸倍率を高めることができ、高性能な耐炎繊維を安定的に製造できる。
さらに、耐炎重合体の製造において、酸化剤として金属系物質を用いる場合には、従来酸化剤と用いられてきたニトロ系化合物やキノン系化合物と比較して、使用量を低減できる。さらに、反応終了後に耐炎重合体含有溶液から容易に回収して再利用することできる。
また、本発明の耐炎繊維及び炭素繊維の製造方法は、従来行われているオーブンを使用した製造方法(いわゆる進藤法)と比較して、以下の優位性がある。
即ち、進藤法による耐炎繊維及び炭素繊維の製造方法では、径の太い前駆体繊維を耐炎化処理した際に、繊維表面と繊維内部で耐炎化の程度が不均一となり、耐炎繊維及び炭素繊維の物性が低下するという問題があった。しかし本発明の製造方法では、炭素繊維前駆体である重合体を溶液中で耐炎化した後に、製糸するため、均一な構造の耐炎繊維及び炭素繊維を製造することが容易になる。
[耐炎繊維の製造]
本発明の耐炎繊維は、前記部分環化重合体含有溶液又は前記耐炎重合体含有溶液(以下、重合体含有溶液とも示す)を紡糸して得られる。
本発明の耐炎繊維の比重は、1.24〜1.60が好ましく、1.25〜1.55がより好ましく、1.26〜1.50がさらに好ましい。該比重が1.24以上である場合、単繊維内部の空孔が少なく、繊維強度が向上する。また、該比重が1.60以下である場合、緻密性が適度となり伸度が向上する。なお、該比重は後述する方法により測定した値である。
耐炎繊維に含まれる溶媒の残存量は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。溶媒の残存量が10質量%以下である場合、耐炎性が向上する。
本発明の耐炎繊維は、前記の重合体含有溶液を紡糸する工程と、紡糸工程で用いた溶媒を除去する工程を経て製造できる。
前記重合体含有溶液を繊維状に紡糸する方法としては、湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法を採用できる。これらの紡糸方法では、口金から、紡糸原液を、凝固浴中に吐出し、凝固させて凝固糸を得る。凝固浴液は、紡糸原液に含まれる溶媒と、凝固促進成分を含むものを使用できる。
重合体が水不溶性の場合には、凝固促進成分に水を用いることができる。凝固浴液中の溶媒と凝固促進成分との割合、及び凝固浴温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性及び可紡性等を考慮して適宜選択できる。凝固可能な凝固浴濃度であれば繊維を形成することができ、例えば凝固促進成分として水を用いる場合には、溶媒/水の割合(体積比)は30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40がより好ましい。また、凝固浴温度は0〜100℃の範囲で目的に応じて選ぶことができる。凝固浴液には、プロパノールやブタノール等のように、水と親和性が低いアルコール類を用いることもできる。
次いで、得られた凝固糸を、延伸浴で延伸したり、水洗浴で水洗することができる。
その後、凝固が完了した繊維を、さらに乾燥し、延伸することで耐炎繊維が得られる。
乾燥方法としては、公知の方法を採用できる。乾燥温度は50〜450℃とすることができ、一般的に低温の場合には長時間、高温の場合には短時間で行われる。
乾燥後に延伸する場合、乾燥後の繊維の比重は1.15〜1.5が好ましく、1.2〜1.4がより好ましく、1.2〜1.35がさらに好ましい。また、乾燥後の繊維集合体における単繊維の伸度は0.5〜20%が好ましい。延伸は、温水又は熱水を用いた浴延伸、スチーム(水蒸気)を用いた延伸、予め繊維に水を付与した後に乾熱装置やロールで延伸する加熱延伸など、繊維が水を含んだ状態で加熱する方法により行うことが好ましい。これは、部分環化重合体の製造において求核剤としてチオラート系化合物を用いる場合、チオラート変性された耐炎重合体が、水によって大きく可塑化するためであり、本発明者らはこの事実を見出した。本発明の耐炎重合体のように剛直な化学構造を有する分子からなる繊維を延伸配向することは困難である。一般に、剛直な分子鎖を有する重合体は融点やガラス転移点が高く、温度を向上させるだけでは可塑化せずに熱分解が起きることが多いためである。しかし、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明のチオラート変性された耐炎重合体は、特定範囲の水分率とし、特定の温度範囲で延伸が可能であることを見出した。
前記の進藤法で得られる耐炎繊維は、酸化反応によって、分子間にランダムに架橋が形成されるため、延伸することが困難である。一方、本発明のチオラート変性された耐炎重合体は、分子間に架橋をほとんど持たず、水分子の存在により、耐炎重合体の分子間の相互作用を切断されるため、耐炎繊維中の重合体は可塑化する特徴がある。従って、本発明の前記重合体含有溶液を用いて、湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法により得られる耐炎繊維は、水中で効率よく延伸することが可能であるため、高緻密度かつ高配向度とすることができる。
このように延伸された耐炎繊維は、必要に応じて、乾燥させることが好ましい。耐炎繊維の水分率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。乾燥方法としては公知の方法を用いることができる。
乾燥後の耐炎繊維のAbs2240±60は10%以上、50%以下が好ましい。該Abs2240±60は、前記Abs2240±60の測定と同様の方法により、PAN系重合体のニトリル基のピーク面積に対する耐炎繊維を構成する耐炎重合体のニトリル基のピーク面積の比率を算出することで得られる値である。Abs2240±60が10%以上である場合、耐炎重合体の高分子鎖のフレキシビリティーが確保され、スムーズな延伸が可能である。Abs2240±60は20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。また、Abs2240±60が50%以下である場合、後に行う熱処理工程を低温、短時間で行うことができ、設備的な負担を軽減することができる。Abs2240±60は40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
乾燥後の耐炎繊維は、必要に応じてさらに熱処理することが好ましい。延伸後に熱処理することで、分子鎖間に架橋構造が形成され、最終製品が高温や薬品に曝された時の劣化を抑制できる。熱処理方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。熱処理温度は200℃以上400℃以下が好ましい。
[炭素繊維の製造]
本発明の炭素繊維は、前記の耐炎繊維を焼成して得られる。具体的には、前記耐炎繊維を、不活性成雰囲気で高温熱処理する、いわゆる炭化処理することにより得ることができる。例えば、耐炎繊維を、不活性成雰囲気下で300℃以上2000℃未満で熱処理することにより、炭素繊維を得ることができる。得られた炭素繊維を、さらに不活性雰囲気下で2000〜3000℃で加熱することにより、黒鉛構造の発達した炭素繊維を得ることもできる。
本発明の炭素繊維の比重は1.6以上2.4以下が好ましい。該比重が1.6以上であれば繊維が折れにくく、2.4以下であれば、炭素繊維中の欠陥の発生を抑制できる。
本発明の炭素繊維の硫黄含有率は0.3質量%以上20.0質量%以下が、強度や弾性率等の物性の観点から好ましい。0.5質量%以上18.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上16.0質量%以下がさらに好ましい。
[2]PAN系前駆体繊維を、チオラート系化合物を含む液相中で変性して、耐炎繊維を製造する方法
[PAN系前駆体繊維]
本発明において、PAN系前駆体繊維とは、アクリロニトリル(AN)の単独重合体(PAN単独重合体)、又はアクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体(PAN系共重合体)を用いることができる。(以下、PAN単独重合体とPAN系共重合体を合わせて、適宜「PAN系重合体」と略する)
PAN系前駆体繊維の紡糸安定性を高め、炭素繊維の品位並びに性能を向上させるために、PAN系重合体は、AN由来の構造単位を90.0モル%以上99.98モル%以下含むことが好ましい。AN由来の構造単位が多すぎると紡糸安定性が低下し、少なすぎるとPAN系前駆体繊維の耐熱性が低下するため、続く耐炎化工程で、繊維同士の融着が発生しやすくなる。AN由来の構造単位は94.0モル%以上99.9モル%がより好ましい。
共重合するモノマーとしては、ANと共重合可能なモノマーであれば特に制限されず、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド等の不飽和モノマー類;メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属類などが挙げられる。これら他のモノマーは1種単独又は2種以上を併用して使用することができる。
[PAN系重合体の製造方法]
PAN系重合体を重合する方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を用いることができる。
[PAN系前駆体繊維の製造]
湿式紡糸法や乾湿式紡糸法等の公知の方法を用いて、PAN系重合体を溶媒に溶解した重合体溶液(以下、「紡糸原液」と呼ぶ)を紡糸口金から紡出し、凝固浴に導入して、凝固することにより、本発明で用いるPAN系前駆体繊維を得ることができる。
PAN系重合体を溶解する溶媒には、有機溶媒や無機溶媒を使用できる。有機溶媒の中でも、特にジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、Nメチルピロリドン、スルホランは、PAN系重合体の溶解性に優れており、紡糸安定性に優れていることから好ましい。これらの溶媒は1種単独又は2種以上を併用して使用することができる。また、凝固浴には、上記溶媒に凝固剤(例えば、水)を含有させた溶液を用いることができる。
上記の紡糸原液を、凝固浴中に紡出して凝固させ糸条とした後、得られた糸状を水洗処理、延伸処理、油剤付与処理及び乾燥処理を行って、最終的にPAN系前駆体繊維が得られる。延伸処理では、凝固直後の糸条を、水洗処理せずに延伸浴中で延伸処理しても良いし、水洗浴中で溶媒を除去した後に延伸浴で延伸処理しても良い。かかる延伸処理は、30〜98℃に温調された単一又は複数の延伸浴中で行うことができる。
油剤付与処理は、上記の延伸処理の後、シリコーン化合物を含む油剤を糸条に付与する方法を用いることができる。シリコーン系油剤としては、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものが好ましい。
乾燥処理は、50〜200℃に加熱されたロールに、糸条を接触させる方法が効率的である。乾燥処理して得られたPAN系前駆体繊維の含有水分率を1.0重量%以下とすることが好ましい。
本発明で用いるPAN系前駆体繊維束の1糸条あたりのフィラメント数は、好ましくは1,000〜300,000本、より好ましくは3,000〜100,000本、さらに好ましくは6,000〜50,000本、特に好ましくは12000〜24000本である。
また、本発明で用いるPAN系前駆体繊維の単繊維繊度は、好ましくは0.6dtex以上30dtex以下、より好ましくは1.0dtex以上25dtex以下、さらに好ましくは2.0dtex以上20dtex以下が良い。
[PAN系耐炎繊維の製造方法]
本発明は、PAN系耐炎繊維を、300℃以上3000℃以下で熱処理する、炭素繊維の製造方法に関するものであり、前記耐炎繊維はPAN系重合体をチオラート系化合物で変性してなり、比重1.24以上1.55以下の耐炎繊維であることを特徴とする。
ここでいう「チオラート系化合物で変性する」とは、PAN系重合体に、チオラート系化合物が作用して、ニトリル基の環化反応又は酸化反応がおこり、同重合体の構造中に耐炎化構造が形成されることである。耐炎化構造としては、例えばナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造が例示される。
耐炎化構造が形成されたか否かは、変性後の重合体の比重、硫黄含有率、又は変性前と変性後の重合体について赤外線吸収スペクトル(IR)により測定される特定ピークの面積値から算出される値により確認できる。
本発明では、PAN系前駆体繊維を変性する条件は、耐炎繊維の比重が1.24以上1.55以下の範囲となる条件で行うことが好ましい。1.24未満の場合、耐熱性が不足し続く炭化工程で糸切れが生じ操業性が悪化するだけでなく、得られる炭素繊維の品質、品位が低下する。1.55より大きいと、続く前炭化工程での緻密化を阻害し、得られる炭素繊維の品質、品位が低下する。耐炎繊維の比重は、より好ましくは1.30以上1.50以下、さらに好ましくは1.33以上1.38以下である。
また、PAN系重合体とチオラート系化合物の詳細に関しては、後述する。
本発明において、耐炎繊維は、PAN系重合体をチオラート系化合物で変性してなることを特徴とする。
具体的には、PAN系重合体、又はPAN系重合体を公知の方法により紡糸して得たPAN系前駆体繊維を、チオラート系化合物、又はチオラート系化合物と酸化剤を用いて変性する方法を挙げることができる。特に、PAN系前駆体繊維を変性する方法は、短時間で効率よく、変性処理を行える観点から好ましい。
PAN系前駆体繊維を変性する方法は、特に限定されるものではない。例えば、前駆体繊維を、液相中、又は気相中に滞在させ処理する方法や、前駆体繊維の表面に該化合物を塗布して処理する方法を挙げることができる。
中でも、チオラート系化合物を含む溶液中、又はチオラート系化合物と酸化剤を含む溶液中で、PAN系前駆体繊維を変性する方法は、操作の容易性や生産性が優れている観点から好ましい。
[チオラート系化合物]
チオラート系化合物は高い求核性と大きく分極している性質を持ち、これが本発明における速い耐炎化反応を可能にしている。また、チオラート系化合物は、反応の系中でチオラートとして存在するものであれば良い。
チオラート系化合物は、下記一般式(1)又は式(2)から選ばれる化合物である。
(式(1)中、Mはアルカリ金属を示し、Rは炭化水素基又はアリール基からなる群より選ばれる。Rは、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有することができる。)
(式(2)中、Mはアルカリ土類金属を示し、Rは炭化水素基又はアリール基からなる群より選ばれる。Rは、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有することができる。)
前記のチオラート系化合物は、一般的にはチオール系化合物と金属水酸化物等を混合し、反応させることにより、容易に合成できる。該合成を窒素雰囲気下で行うことにより、副反応を抑制できる。
チオラート系化合物の合成に利用できるチオールとしては、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、ヘプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、及びそれらの構造異性体等のアルキルチオール類や、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、チオグリセロール、チオジエタノール、ジチオトレイトール等の水酸基を有するチオール類、チオグリコール酸、アンモニウムチオグリコール酸、ナトリウムチオグリコール酸、カリウムチオグリコール酸、チオ乳酸等のカルボキシル基を有するチオール類、又はアミノエタンチオール、アミノプロパンチオール、アミノブタンチオール、アミノペンタンチオール、アミノヘキサンチオール、アミノヘプタンチオール、アミノオクタンチオール等のモノアミノ置換アルカンチオール類や、同型のジアミノ置換/トリアミノ置換/テトラアミノ置換/ペンタアミノ置換のアルカンチオール類などのアミノ基を複数置換したアルカンチオール類を挙げることができる。
チオラート系化合物は、アルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩の状態で存在することが知られている。本発明におけるアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウムを、またアルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウムを挙げることができる。原料が低価格であり、本発明の耐炎化繊維の製造安定性に優れる点から、ナトリウム、カリウムが好ましい。
本発明におけるチオラート系化合物は、金属イオンやチオラート基以外に炭化水素基、又はアリール基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基又は構造を有することができる。また、本発明のチオラート系化合物は、酸素、窒素、硫黄などの元素を有する官能基を有していていることが、PAN系前駆体繊維との反応性や溶解性を優れたものとする観点から好ましい。より詳しくは、本発明のチオラート系化合物は、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有することができる。
[酸化剤]
本発明の製造方法に用いる酸化剤としては、少なくとも1つの窒素原子を含有する化合物が適している。例えばニトロ基、ニトロソ基、N-ヒドロキシ構造、N−オキサイド構
造、N−オキシル構造からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物が、耐炎化反応の反応効率が優れる点から好ましい。特に、ニトロ基を含有する化合物は、取り扱いやすさや、高い酸化性を有することから好ましい。より詳しくは、ニトロトルエン、ニトロベンゼン、ニトロキシレン、ニトロナフタレン、ニトロカテコール、アミノフェノール等の芳香族系ニトロ化合物は、沸点や溶解性や反応効率が優れている観点から好ましい。
あるいは、酸化剤として、キノン系化合物や、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の金属酸化物からなる群より選ばれる酸化剤を使用することもできる。
[チオラート系化合物、酸化剤を用いた耐炎化反応]
PAN系前駆体繊維を変性する方法は、バッチ式でも連続式でもよく、目的に応じて選択することができる。例えば、PAN系前駆体繊維を、ボビン、又は繊維収納容器から引き出し、溶液中に浸漬して、連続的に処理する方法を用いることができる。あるいは、PAN系前駆体繊維を、ボビン巻き又はカセ巻きの状態で、溶液中に浸漬して、バッチ処理する方法を用いることができる。ボビン巻きの状態のPAN系前駆体繊維を処理する方法は、設備が簡略化でき、コストダウンという観点からは好ましい。
本発明においては、チオラート系化合物を含む溶液中、又はチオラート系化合物と酸化剤を含む溶液中で、PAN系前駆体繊維を変性する場合、該溶液には、溶媒100質量部に対してチオラート系化合物1質量部以上150質量部以下を添加した溶液を用いることができる。好ましくは5質量部以上140質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上130質量部以下である。該溶液中のチオラート系化合物の濃度を適切に管理することにとり、前駆体繊維を、繊維内部まで均一に耐炎化処理できる。
さらに酸化剤を含む場合は、溶媒100質量部に対して酸化剤1質量部以上150質量部以下を添加することができる。好ましくは10質量部以上140質量部以下、さらに好ましくは20質量部以上130質量部以下である。かかる酸化剤の濃度を適切に管理することで、前駆体繊維を、繊維内部まで均一に耐炎化処理できる。
チオラート系化合物及び酸化剤は、溶媒に溶解して溶液状態で用いることが望ましいが、酸化剤が溶媒に溶けない場合、その懸濁液や乳化液の状態で用いてもよい。
本発明で用いる溶媒はチオラート系化合物の溶解性の観点から極性溶媒が好ましい。
また、溶媒の沸点は高いほど好ましく、具体的には120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましい。
溶媒は、水溶性溶媒が好ましく、水酸基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルホン基、メルカプト基等を有する溶媒を挙げることができる。
具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系溶媒、DMSO、DMF、DMAc、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン、オルトフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン等のアミン系溶媒、もしくは水を用いることができる。上に挙げた溶媒は1種だけ、又は2種以上を混合して用いることができる。
PAN系前駆体繊維を変性する温度は、120℃以上250℃以下が反応性の観点から好ましく、160℃以上250℃以下がより望ましい。120℃未満であると耐炎化反応が不完全になることがあり、また250℃超過であるとチオラート化合物が二量化し、ジスルフィド化合物が生成されることがある。
また、PAN系前駆体繊維の変性処理は、加圧状態下で行ってもよい。加圧状態下で変性処理することにより、大気圧下で処理する場合と比較して、より低温で同等の効果を得ることが可能となり、さらに前駆体繊維の内部までより速やかに変性することが可能となる。加圧条件は、0.18MPa以上3.98MPa以下が好ましい。0.11MPa以上0.18MPa未満では、前駆体繊維の内部まで速やかに変性する効果が不十分であり、3.98MPa超過では繊維間の融着が起きやすくなる。
PAN系前駆体繊維を加圧状態下で変性する場合は、市販のオートクレーブ装置を使用することができる。
前記変性を、加圧状態下で行なう場合、溶媒は水系溶媒が好ましく、具体的には水を挙げることができる。
前記変性を、加圧状態下で行なう場合、温度が120℃以上250℃以下、時間が30秒以上120分以下で行うことができる。120℃未満であると耐炎化反応が不完全になることがあり、また250℃超過であるとチオラート化合物が二量化し、ジスルフィド化合物が生成されることがある。30秒以上、120分以下で変性を行うことにより、耐炎化反応を十分に進行させることができ、最終的に得られる炭素繊維の物性は優れたものとなる。
前記の加圧状態下で変性するにあたり、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の比重が1.24以上1.55以下、硫黄含有率が0.1質量%以上30質量%以下となるように行うことが必要である。
比重が1.24未満であると、耐熱性が不足し続く炭化工程で糸切れが生じ操業性が悪化するだけでなく、得られる炭素繊維の品質、品位が低下することがあり、また1.55℃超過であると続く前炭化工程での緻密化を阻害し、得られる炭素繊維の品質、品位が低下することがある。耐炎繊維の比重は、より好ましくは1.30以上1.50以下、さらに好ましくは1.33以上1.38以下である。
また、硫黄含有率が0.1質量%未満であるとボイドが現れ強度低下を引き起こすおそれがあり、また30質量%超過であると弾性率が著しく低下するおそれがある。
PAN系前駆体繊維の変性は、30秒以上120分以下で行うことが好ましい。30秒以上、120分以下で変性を行うことにより、耐炎化反応を十分に進行させることができ、最終的に得られる炭素繊維の物性は優れたものとなる。30秒以上60分以下が生産性の観点から望ましい。
PAN系前駆体繊維の変性は、耐炎繊維の硫黄含有率が、0.30質量%以上30質量%以下の範囲となる条件で行うことが好ましい。硫黄含有率が0.30質量%未満では耐炎化の進行が不十分となり、炭素化工程で毛羽が発生しやすくなる。30質量%より大きいと炭素化工程で三酸化硫黄やチアゾール等のガスの発生が顕著となり、炭素化収率の低下が著しくなる。該硫黄含有率は、1.0質量%以上18質量%以下が好ましく、5.0質量%以上15質量%以下がより好ましい。
なお、本発明における硫黄含有率及び比重の測定は後述する方法により行う。
変性した耐炎繊維は、水もしくは酸性溶液で洗浄してから炭素化工程に導入しても良い。耐炎繊維を、水又は酸性溶液中を通過させることで、耐炎繊維に付着又は結合しているチオラート系化合物に由来の金属イオン(アルカリ金属、アルカリ土類金属)を除去することができる。
[PAN系耐炎繊維]
前記方法により、PAN系前駆体繊維を、チオラート系化合物、又はチオラート系化合物と酸化剤を用いて変性して、耐炎繊維を得るにあたり、PAN系前駆体繊維と変性処理後の耐炎繊維について赤外分光測定で測定される2240±60cm−1又は2940±160cm−1の範囲内にある赤外線吸収スペクトルの面積比、耐炎繊維の硫黄含有率と比重が、一定の数値範囲となるように、処理することが好ましい。
具体的には、前記方法により得られたPAN系耐炎繊維とPAN系前駆体繊維について、赤外分光測定で測定される2240±60cm−1の範囲にある赤外線吸収スペクトル(A)のスペクトル面積を用いて、下記一般式(3)で算出されるAbs2240±60が70%以下となる条件で処理することが好ましい。
Abs2240±60を70%以下とすることにより、耐炎化工程に続く炭素化工程で、安定な炭素繊維の製造が可能となる。Abs2240±60は50%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、0%とすることができる。また、前記の赤外分光測定は後述する方法により行う。
また、前記方法により得られるPAN系耐炎繊維とPAN系前駆体繊維は、赤外分光測定で測定される2940±160cm−1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(B)の面積を用いて、下記式(4)で算出されるAbs2940±160を70%以下とすることが好ましい。Abs2940±160が70%以下となる条件で処理することにより、耐炎化工程後の、炭素化工程における繊維の糸切れを抑制でき、炭素繊維を安定に製造することができる。Abs2940±160は50%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。なお、下限は特に限定されず0%とすることもできる。
また、耐炎繊維の赤外分光測定で2240±60cm−1の範囲にある赤外線吸収スペクトル(A)、及び2940±160cm−1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(B)の面積を用いて、下記一般式(5)で算出されるAbs2240/2940が0.05以上0.60以下であることが好ましい。Abs2240/2940が0.05以上である場合、繊維の耐炎化性能を十分なものとできる。Abs2240/2940が0.60以下である場合、耐炎化反応が十分に進行しているため、耐炎化処理の後に行う炭素化処理工程を安定に、短時間で行うことができる。また、0.05以上であれば、前記前駆体繊維に過度の熱処理を施されることで、繊維の損傷を抑制できる。
なお、前記の赤外分光測定は、後述する方法により行う。
[炭素繊維の製造方法、及び炭素繊維]
本発明の炭素繊維は、上記方法で得られた耐炎繊維を、さらに炭化処理して得られる。具体的には、該耐炎繊維を、不活性成雰囲気で高温で熱処理(炭化処理)することにより炭素繊維を得ることができる。例えば、該耐炎繊維を、不活性雰囲気下、300℃以上、2000℃未満で処理することにより、炭素繊維を得られる。温度の下限は800℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1200℃以上がさらに好ましい。温度の上限は、1800℃以下がより好ましく、1600℃以下がさらに好ましい。また、得られた炭素繊維を、さらに不活性雰囲気下で、2000℃以上、3000℃以下で加熱することにより、黒鉛構造の発達した炭素繊維を得ることもできる。
本発明の炭素繊維の比重は1.5以上2.4以下が好ましく、1.6以上2.1以下がより好ましく、1.6以上1.9以下がさらに好ましい。該比重が1.5以上である場合、十分に強度を発現しやすい。また、該比重が2.4以下である場合、欠陥の発生を抑制することができる。
本発明の炭素繊維の硫黄含有率は0.1質量%以上5.0質量%以下が、強度や弾性率等の物性の観点から好ましい。該硫黄含有率は0.2質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。硫黄含有率が0.1質量%未満ではボイドが現れ強度低下を引き起こすおそれがあり、3.0質量%より大きければ弾性率が著しく低下するおそれがある。
[炭素繊維の表面処理]
本発明の炭素繊維は表面改質のため、電解処理されてもよい。電解処理に用いる電解液としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリ又はそれらの塩を水溶液として使用することができる。電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維により適宜選択することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例において、各物性値及び特性は以下の方法により測定した。
<凝固糸の膨潤度>
凝固糸の表面の付着水を吸い取り紙で十分除去した後の質量(W)と、これを150℃で1時間、熱風乾燥機を用いて乾燥した後の質量(W0)とから、以下の計算式を用いて凝固糸の膨潤度(B)(%)を求めた。
B(%)={(W−W0)/W0}×100
<部分環化重合体含有溶液及び耐炎重合体含有溶液の重合体濃度>
重合体が水溶性である場合には、以下の方法により重合体濃度を測定した。重合体含有溶液約15mgを精秤し、熱質量天秤装置(製品名:EXSTER6000、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、25℃から20℃/分で300℃まで加熱した時点での残存固形分を重合体の質量として測定した。該重合体の質量を重合体含有溶液の質量で除して、百分率で重合体濃度(質量%)を求めた。
一方、重合体が水中で完全に凝固する場合には、以下の方法により重合体濃度を測定した。重合体含有溶液5gを水1Lで30分処理した。この処理を3回繰り返し、固形成分のみを集めて120℃で1時間乾燥し、重合体を分離した。該重合体の質量を測定し、該重合体の質量を重合体含有溶液の質量で除して、百分率で重合体濃度(質量%)を求めた。
<硫黄含有率>
硫黄含有率は、元素分析装置(製品名:vario EL cube、シーベルヘグナー社製)を用いて測定した。測定条件は、燃焼管=1150℃、還元管=850℃、測定モード=CHNSとした。なお、標準物質はスルファニル酸(C:41.61%、H:4.07%、N:8.09%、S:18.50%)とした。
<部分環化重合体含有溶液及び耐炎重合体含有溶液の粘度>
コーン−プレート型レオメーター(製品名:AR550、TA Instriments社製)を用いて粘度を測定した。測定は25〜150℃まで行い、25℃の値を代表値とした。
<各種繊維における単繊維引張試験>
JIS L1015(1981)に従って引張試験を行った。表面が滑らかで光沢のある紙片の上に、25mmの長さの単繊維を置き、単繊維を緩く張った状態で両端の2.5mmずつを接着剤で紙片に固定して、単繊維の接着剤で固定されていない部分の長さ(試料長)を約20mmとし、これを単繊維引張試験器の試料とした。単繊維引張試験器のつかみにこの試料を取り付け、上部のつかみの近くで、単繊維を切断せず、紙片部分のみ鋏みで切断し、引張速度20mm/分で測定を実施した。該測定を50回行い、その平均値を引張試験結果とした。
<比重測定>
比重は、JIS R 7603に準拠して測定した。
<炭素化収率の測定>
セイコーインスツル社製の示差熱・熱重量同時測定装置EXSTAR6000を使用した。なお、繊維は鋏と乳鉢で裁断し、質量は10mg、400mL/minの窒素雰囲気化のもと、40℃/分の昇温速度で測定を実施した。サンプルパンの素材は白金で、基準物質はα―アルミナを用いた。
サンプルは実施例中の所定の温度(300℃以下)で反応処理後の物を「前サンプル」とし、970℃まで昇温後のサンプルを「後サンプル」とし、前サンプルの質量と後サンプルの質量(g)(質量は下3桁まで測定)を用いて、以下の計算式で算出した。
炭素化収率(%)= 後サンプルの質量(g)/前サンプルの質量(g)×100
<赤外分光測定>
繊維束を1m毎に切断し、3本の各繊維束の端10mmの部分をさらに切断、採取し、ガラス瓶の中でそれを切り刻んだ。さらに乳鉢で磨りつぶすことで粉末状のサンプルとした。サンプル1mg秤量し、乾燥させた200mgのKBrと乳鉢上で混合、粉砕した。これをプレス機で押すことで直径13mm、厚さ0.5mmの円盤状錠剤とし、FT−IR装置(製品名:Magna860、Nicolet社製)にて透過測定を行った。
スペクトルは画像処理ソフトStream Essentials Version1.8を使用してベースラインを定め、スペクトルの面積を定量評価した。
[実施例1]
AN/アクリルアミド/メタクリル酸=96/3/1(質量比)を重合することで得たPAN系重合体(数平均分子量=190000)をDMSOに溶解し、PAN系重合体含有溶液を調製した。該PAN系重合体含有溶液を160℃まで加温し、温度が一定となったところでチオグリセロールと水酸化ナトリウムから作製したチオラート塩を加え、60分間均一な状態で反応させ、部分環化重合体含有溶液を得た。該部分環化重合体含有溶液の粘度は55poiseであった。また、重合体濃度は18%であった。該部分環化重合体含有溶液の一部を温水中に投入し、凝固した重合体をろ過によって分離し、120℃で乾燥させ、部分環化重合体に関する分析を行った。該部分環化重合体のAbs2240±60は17%、硫黄含有率は12%、数平均分子量は197000であった。
前記部分環化重合体含有溶液に、さらに10質量%パラジウムカーボン粉末を加え、160℃で120分間反応させ、黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。なお、各原料の仕込み量はPAN系重合体/DMSO/チオラート塩/パラジウムカーボン=10/76/13/1(質量比)であった。耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で60poiseであった。また、重合体濃度は15%であった。加圧ろ過により該耐炎重合体含有溶液から不溶性のパラジウムカーボン粉末を除いた後、ろ液の一部を温水中に投入し、凝固した重合体をろ過によって分離し、120℃で乾燥させ、耐炎重合体を回収した。該耐炎重合体のAbs2240±60は12%、Abs2940±160は32%、硫黄含有率は10.2質量%、数平均分子量は196000、比重は1.30であった。
加圧ろ過を行った耐炎重合体含有溶液を湿式紡糸装置により繊維化した。具体的には、耐炎重合体含有溶液を焼結フィルターに通した後、孔径0.05mmの孔を100個有する口金から、20℃のDMSO及び水の混合溶液(DMSO/水=50/50(体積比))中に吐出して、凝固糸を得た。この際、凝固糸の膨潤度は230%であった。さらに100℃の熱水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ凝固糸を3倍に延伸した。その後、アミノシリコーン油剤を付与した後に、220℃で3分間、熱風循環炉中で乾燥し、耐炎繊維を得た。耐炎繊維の伸度は5%、繊度は1.0dtexであった。
さらに、耐炎繊維から得られた耐炎繊維束を窒素雰囲気中、300〜800℃で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1500℃で炭化処理して炭素繊維束を得た。炭素繊維束の硫黄含有率は9%、引張弾性率は200GPa、比重は1.81であった。
[実施例2]
溶媒として、DMSOの代わりにDMFを用いた以外は実施例1と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は70poiseであった。また、重合体濃度は16%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は20%、硫黄含有率は16%、数平均分子量は198000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で75poiseであった。また、重合体濃度は16%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は13%、Abs2940±160は36%、硫黄含有率は9.5質量%、数平均分子量は194000、比重は1.31であった。
その後、耐炎重合体含有溶液の繊維化において、DMSO及び水の混合溶液の代わりにDMF及び水の混合溶液(DMF/水=50/50(体積比))を用いた以外は、実施例1と同様に凝固糸、耐炎繊維、耐炎繊維束、及び炭素繊維束を得た。凝固糸の膨潤度は250%であった。耐炎繊維の伸度は6%、繊度は1.1dtexであった。炭素繊維束の硫黄含有率は8%、引張弾性率は210GPa、比重は1.80であった。
[実施例3]
各原料の仕込み量をPAN系重合体/DMF/チオラート塩/パラジウムカーボン=10/85/4/1(質量比)とした以外は実施例2と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は82poiseであった。また、重合体濃度は12%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は40%、硫黄含有率は3.5%、数平均分子量は191000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で90poiseであった。また、重合体濃度は12%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は22%、Abs2940±160は45%、硫黄含有率は2.8質量%、数平均分子量は190600、比重は1.27であった。
その後、実施例2と同様に凝固糸、耐炎繊維、耐炎繊維束、及び炭素繊維束を得た。凝固糸の膨潤度は190%であった。耐炎繊維の伸度は4%、繊度は1.1dtexであった。炭素繊維束の硫黄含有率は2%、引張弾性率は190GPa、比重は1.81であった。
[実施例4]
反応温度を120℃とした以外は実施例2と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は80poiseであった。また、重合体濃度は14%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は30%、硫黄含有率は6.1%、数平均分子量は193000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で92poiseであった。また、重合体濃度は14%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は23%、Abs2940±160は49%、硫黄含有率は10.8質量%、数平均分子量は193000、比重は1.30であった。
その後、実施例2と同様に凝固糸、耐炎繊維、耐炎繊維束、及び炭素繊維束を得た。凝固糸の膨潤度は240%であった。耐炎繊維の伸度は4%、繊度は1.1dtexであった。炭素繊維束の硫黄含有率は9%、引張弾性率は200GPa、比重は1.80であった。
[実施例5]
ANが100%からなるPAN系重合体(数平均分子量=191,000)を使用した以外は実施例2と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は68poiseであった。また、重合体濃度は16%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は22%、硫黄含有率は19%、数平均分子量は196,000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で80poiseであった。また、重合体濃度は18%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は11%、Abs2940±160は33%、硫黄含有率は11.5質量%、数平均分子量は194,000、比重は1.33であった。
その後、実施例2と同様に凝固糸、耐炎繊維、耐炎繊維束、及び炭素繊維束を得た。凝固糸の膨潤度は200%であった。耐炎繊維の伸度は6%、繊度は1.3dtexであった。炭素繊維束の硫黄含有率は3%、引張弾性率は210GPa、比重は1.83であった。
[比較例1]
チオラート塩の代わりにモノエタノールアミン(MEA)を用い、パラジウムカーボン粉末の代わりにオルトニトロトルエン(ONT)を用い、各原料の仕込み量をPAN/DMSO/MEA/ONT=10/78/6/6(質量比)とした以外は、実施例1と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は0.4poiseであった。また、重合体濃度は11%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は32%、硫黄含有率は0.02%、数平均分子量は5600であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で1poiseであった。また、重合体濃度は15%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は20%、Abs2940±160は40%、硫黄含有率は0.01%、数平均分子量は5500、比重は1.30であった。
その後、実施例1と同様に凝固糸を得た。凝固糸の膨潤度は240%であった。さらに100℃の熱水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ凝固糸を3倍に延伸しようとしたが、延伸をかけることができずに繊維は切れ、耐炎繊維を得ることはできなかった。
[比較例2]
チオラート塩の代わりにモノエタノールアミン(MEA)を用い、パラジウムカーボン粉末の代わりにオルトニトロトルエン(ONT)を用い、各原料の仕込み量をPAN/DMF/MEA/ONT=10/78/6/6(質量比)とした以外は、実施例2と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は4poiseであった。また、重合体濃度は12%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は35%、硫黄含有率は0.02%、数平均分子量は6300であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で6poiseであった。また、重合体濃度は14.2%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は23%、Abs2940±160は42%、硫黄含有率は0.01%、数平均分子量は6200、比重は1.32であった。
その後、実施例2と同様に凝固糸を得た。凝固糸の膨潤度は207%であった。さらに100℃の熱水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ凝固糸を3倍に延伸しようとしたが、延伸をかけることができずに繊維は切れ、耐炎繊維を得ることはできなかった。
[比較例3]
チオラート塩の代わりにモノエタノールアミン(MEA)を用い、パラジウムカーボン粉末の代わりにオルトニトロトルエン(ONT)を用い、各原料の仕込み量をPAN/DMF/MEA/ONT=13/78/3/6(質量比)とした以外は、実施例5と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は9poiseであった。また、重合体濃度は15%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は78%、硫黄含有率は0%、数平均分子量は23000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で9poiseであった。また、重合体濃度は15.0%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は56%、Abs2940±160は55%、硫黄含有率は0%、数平均分子量は8400、比重は1.22であった。
その後、実施例5と同様に凝固糸を得た。凝固糸の膨潤度は170%であった。さらに100℃の熱水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ凝固糸を3倍に延伸しようとしたが、延伸をかけることができずに繊維は切れ、耐炎繊維を得ることはできなかった。
[比較例4]
チオラート塩の代わりにモノエタノールアミン(MEA)を用い、パラジウムカーボン粉末の代わりにオルトニトロトルエン(ONT)を用い、各原料の仕込み量をPAN/DMF/MEA/ONT=13/78/6/3(質量比)とした以外は、実施例5と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は2poiseであった。また、重合体濃度は13%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は32%、硫黄含有率は0%、数平均分子量は6000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で7poiseであった。また、重合体濃度は15.0%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は20%、Abs2940±160は84%、硫黄含有率は0%、数平均分子量は5800、比重は1.24であった。
その後、実施例5と同様に凝固糸を得た。凝固糸の膨潤度は210%であった。さらに100℃の熱水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ凝固糸を3倍に延伸しようとしたが、延伸をかけることができずに繊維は切れ、耐炎繊維を得ることはできなかった。
[比較例5]
各原料の仕込み量をPAN系重合体/DMF/チオラート塩/パラジウムカーボン=10/69/20/1(質量比)とした以外は実施例2と同様に部分環化重合体含有溶液、及び黒色の耐炎重合体含有溶液を得た。
部分環化重合体含有溶液の粘度は50poiseであった。また、重合体濃度は22%であった。部分環化重合体のAbs2240±60は8%、硫黄含有率は22%、数平均分子量は206,000であった。
耐炎重合体含有溶液の粘度は25℃で64poiseであった。また、重合体濃度は20%であった。耐炎重合体のAbs2240±60は5%、Abs2940±160は27%、硫黄含有率は26質量%、数平均分子量は194,000、比重は1.38であった。
その後、実施例2と同様に凝固糸、耐炎繊維、耐炎繊維束、及び炭素繊維束を得たが、炭化処理の際、三酸化硫黄やチアゾール環系のガス発生が見られた。凝固糸の膨潤度は250%であった。耐炎繊維の伸度は6%、繊度は1.4dtexであった。炭素繊維束の硫黄含有率は6%、引張弾性率は150GPa、比重は1.80であった。
[実施例6]
AN/アクリルアミド(AAM)/メタクリル酸(MAA)=96/3/1(質量比)を重合することで得たPAN共重合体(数平均分子量 190,000)を、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、濃度20質量%の紡糸原液を作製した。
この紡糸原液を、温度40℃に保った状態から、孔数3,000、孔直径0.15mmの紡糸口金を用いて、30℃にコントロールした凝固浴(DMAc濃度が50体積%の水溶液)中に導入し、凝固する湿式紡糸法により、凝固糸条とした。
この凝固糸条を水洗した後、温水中で3.5倍に延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与して延伸糸を得た。
この延伸糸を、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行った後、0.3MPa−Gの加圧スチーム中で全延伸倍率が13倍となるように延伸して、単繊維繊度1.5dtex、単繊維本数3,000本のPAN系前駆体繊維を得た。得られたPAN系前駆体繊維を、以下の成分からなる溶液に浸漬し、200℃、30秒間変性して、耐炎繊維とした。図1に、PAN系前駆体繊維をチオラートで変性する前と変性した後(耐炎繊維)の赤外線吸収スペクトルを掲載した。
この耐炎繊維を、不活性雰囲気中、昇温速度500℃/分で300℃から1000℃まで昇温し、次に不活性雰囲気中で最高温度1450℃で炭化処理し、炭素繊維を得た。得られた耐炎繊維及び炭素繊維の特性を前述の方法により測定した。実験条件を表2に、測定結果を表4及び表6に示す。
実施例6以下、及び比較例6以下について、各実施例の製造条件は表3、表4に、得られた耐炎繊維及び炭素繊維の特性は表5〜7にまとめて示す。表2〜6において、使用した試薬類の略称は下の表の通りである。下の表において、AAMはアクリルアミド、MAAはメタクリル酸を示す。
[実施例7〜11]
反応時間を表1に記載した通り(1〜120分)とした以外は、実施例6と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表2に、測定結果を表4及び表6に示す。
[比較例6]
チオラート系化合物及び酸化剤を不使用とした以外は、実施例10と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表2に、測定結果を表4及び表6に示す。
[比較例7]
チオラート系化合物のみ無しとした以外は、実施例10と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表2に、測定結果を表4及び表6に示す。[比較例8]
チオラート系化合物を用いず、代わりにモノエタノールアミンを用いた以外は、実施例3と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表2に、測定結果を表4及び表6に示す。
[実施例12]
PAN系重合体にPAN単独重合体を用い、反応温度を120℃に、反応時間を40分にし、酸化剤をニトロベンゼンとした以外は実施例6と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表5及び表6に示す。
[実施例13]
反応温度を150℃に、反応時間を20分とした以外は、実施例12と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表4に示す。
[実施例14]
チオラート系化合物をナトリウム−2−ヒドロキシエタンチオラートとし、酸化剤をオルトニトロベンゼンに、反応温度を198℃に、反応時間を5分とした以外は実施例12と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表4及び表6に示す。
[実施例15]
チオラート系化合物をカリウム−2−ヒドロキシエタンチオラートとした以外は、実施例14と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表5に示す。
[実施例16]
チオラート系化合物をナトリウム−4−ヒドロキシベンゼンチオラートとし、酸化剤をオルトニトロトルエンとした以外は、実施例13と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表5及び表6に示す。
[実施例17]
チオラート系化合物をマグネシウムビス−2−ヒドロキシエタンチオラートとし、その配合量を表3に記載の通りとした以外は、実施例16と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表5及び表6に示す。
[実施例18]
溶媒をグリセリン、酸化剤をオルトニトロトルエン、チオラート系化合物と酸化剤の配合量を表3に記載の通りとし、反応温度を198℃、反応時間を0.5分とした以外は、実施例12と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表5及び表6に示す。
[実施例19]
溶媒をエチレングリコールとし、チオラート系化合物と酸化剤の配合量を表3に記載の通りとし、反応時間を1.0分とした以外は、実施例18と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3及び表6に、測定結果を表5に示す。[実施例20]
酸化剤を不使用とし、反応時間を120分とした以外は、実施例19と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3及び表6に、測定結果を表5に示す。
[比較例9]
チオラート系化合物の代わりにグアニジン炭酸塩を、酸化剤にN−ヒドロキシフタルイミドを用いた点以外は、実施例14と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表4及び表6に示す。
[比較例10]
溶媒をグリセリンとし、チオラート系化合物と酸化剤は不使用とし、反応温度を240℃、反応時間を120分とした以外は、実施例12と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3及び表6に、測定結果を表5に示す。
[比較例11]
実施例12で使用したPAN系前駆体繊維を用いて、溶媒、チオラート系化合物及び酸化剤を使用しない条件、すなわち空気中において、反応温度200℃で120分間熱処理して、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表3に、測定結果を表5及び表6に示す。
[実施例21]
溶媒を水に、酸化剤をニトロカテコールに、温度を200℃に、圧力を1.55MPaにした以外は実施例8と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。圧力1.55MPaで処理するときには、市販のオートクレーブ装置を使用した。実験条件を表7及に、測定結果を表8及び表9に示す。
[実施例22]
反応時間を30分にした以外は実施例21と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表7及に、測定結果を表8及び表9に示す。
[実施例23]
反応時間を60分にした以外は実施例21と同様にして、耐炎繊維及び炭素繊維を得て、各物性を評価した。実験条件を表7及に、測定結果を表8及び表9に示す。
[比較例12]
チオラート系化合物及び酸化剤を不使用とした以外は実施例22と同様にしたが、反応途中で繊維が融着してしまい、繊維形状を保持できなかった。実験条件を表7及に、測定結果を表8及び表9に示す。
表1において、TLはチオラート塩、Pd_Cはパラジウムカーボンを示す。



本発明の耐炎繊維の製造方法によれば、高品質の耐炎繊維を、高い生産性で製造できる。また、本発明の耐炎繊維は防炎繊維製品として広く利用することができる。
さらに、本発明の炭素繊維の製造方法によれば、高品質の炭素繊維を、高い生産性で製造できる。また、本発明の炭素繊維は、機械特性に優れるため繊維強化複合材料用の強化繊維として好適であり、また高次加工性にも優れている。

Claims (36)

  1. ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法であって、
    該耐炎繊維は、ポリアクリロニトリル系重合体をチオラート系化合物で変性してなる、比重1.24以上1.55以下である化合物を主成分として含む、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  2. 前記変性を酸化剤の存在下で行う、請求項1に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  3. 前記変性を溶液中で行う、請求項1又は2に記載の、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  4. 前記溶液が、非プロトン性極性溶媒である、請求項3に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  5. ポリアクリロニトリル系重合体を、チオラート系化合物で変性してなる化合物を、
    非プロトン性極性溶媒に混合し、溶解して紡糸原液とし、該紡糸原液から、湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法により前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維を得る、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  6. 前記変性を酸化剤の存在下で行う、請求項5に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  7. 前記チオラート系化合物が、下記一般式(1)又は式(2)から選ばれる化合物である、請求項1〜6の何れか一項に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法


    式(1)中、Mはアルカリ金属を示し、Rは、炭化水素基、又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する炭化水素基から選ばれる。


    式(2)中、Mはアルカリ土類金属を示し、R、Rは、炭化水素基、又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する炭化水素基から選ばれる。
  8. 前記酸化剤が、少なくとも1つの窒素原子を含有する化合物である、請求項2又は6に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  9. 前記酸化剤が、ニトロ基、ニトロソ基、N-ヒドロキシ構造、N−オキサイド構造、N−オキシル構造からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基又は構造を有する、請求項8に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維の製造方法。
  10. 請求項1〜9の何れか一項に記載の製造方法により得られたポリアクリロニトリル系耐炎繊維。
  11. ポリアクリロニトリル系重合体を変性することにより得られるポリアクリロニトリル系部分環化重合体であって、
    赤外分光測定で測定される2240±60cm-1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(A)から下記式(1)で算出されるAbs2240±60が70%以下であり、
    硫黄含有率が0.3質量%以上20.0質量%以下
    であるポリアクリロニトリル系部分環化重合体。
  12. 請求項11に記載のポリアクリロニトリル系部分環化重合体を変性することにより得られるポリアクリロニトリル系耐炎重合体であって、
    赤外分光測定で測定される2940±160cm-1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(B)の面積から下記式(2)で算出されるAbs2940±160が70%以下であり、
    硫黄含有率が0.3質量%以上20.0質量%以下であり、
    比重が1.26以上である
    ポリアクリロニトリル系耐炎重合体。

  13. 数平均分子量が100,000以上1,000,000以下である、請求項12に記載のポリアクリロニトリル系耐炎重合体。
  14. 請求項11に記載のポリアクリロニトリル系部分環化重合体の製造方法であって、ポリアクリロニトリル系重合体を、チオラート系化合物を用いて変性するポリアクリロニトリル系部分環化重合体の製造方法。
  15. 前記チオラート系化合物を前記ポリアクリロニトリル系重合体100質量部に対して10〜250質量部用いて、80℃以上300℃以下、5分以上240分以下の条件で変性を行う請求項14に記載のポリアクリロニトリル系部分環化重合体の製造方法。
  16. 請求項12又は13に記載のポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法であって、請求項11に記載のポリアクリロニトリル系部分環化重合体を、酸化剤を用いて酸化処理することにより変性するポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法。
  17. 前記酸化剤が金属系物質である請求項16に記載のポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法。
  18. 前記金属系物質が、パラジウム又はパラジウム含有物である請求項17に記載のポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法。
  19. パラジウムの含有量が1.0質量%以上である酸化剤を用いて、80℃以上300℃以下、5分以上240分以下の条件で酸化処理を行う請求項18に記載のポリアクリロニトリル系耐炎重合体の製造方法。
  20. ポリアクリロニトリル系耐炎繊維を、300℃以上3000℃以下で熱処理する、炭素繊維の製造方法であって、
    前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維は、ポリアクリロニトリル系重合体をチオラート系化合物で変性してなる化合物を主成分として含み、比重1.24以上1.55以下を特徴とする、炭素繊維の製造方法。
  21. 前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維が、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、チオラート系化合物と酸化剤で変性してなる、請求項20に記載の炭素繊維の製造方法。
  22. 前記変性を溶液中で行う、請求項20から21の何れか一項に記載の炭素繊維の製造方法。
  23. 前記溶液が、エチレングリコール系溶媒である、請求項22に記載の炭素繊維の製造方法。
  24. 前記チオラート系化合物が、下記一般式(1)又は式(2)から選ばれる化合物である、請求項20から23の何れか一項に記載の炭素繊維の製造方法


    式(1)中、Mはアルカリ金属を示し、Rは、炭化水素基、又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する炭化水素基から選ばれる。


    式(2)中、Mはアルカリ土類金属を示し、R、Rは、炭化水素基、又はヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、チオール基、イミノ基、ニトリル基、アゾ基から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する炭化水素基から選ばれる。
  25. 前記酸化剤が、少なくとも1つの窒素原子を含有する化合物である、請求項21に記載の炭素繊維の製造方法。
  26. 前記酸化剤が、ニトロ基、ニトロソ基、N-ヒドロキシ構造、N−オキサイド構造、N
    −オキシル構造からなる群より選ばれる少なくとも一つの官能基又は構造を有する、請求項25に記載の炭素繊維の製造方法。
  27. 前記変性を、溶媒100質量部、チオラート系化合物1質量部以上150質量部以下を含む溶液中で、120℃以上250℃以下、及び30秒以上120分以下で行う、請求項20に記載の炭素繊維の製造方法。
  28. 前記変性を、溶媒100質量部、チオラート系化合物1質量部以上150質量部以下、酸化剤1質量部以上150質量部以下を含む溶液中で、120℃以上250℃以下、及び30秒以上120分以下で行う、請求項21に記載の炭素繊維の製造方法。
  29. ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の硫黄含有率を0.1質量%以上30質量%以下、
    とすることを含む、請求項20〜28の何れか一項に記載の炭素繊維の製造方法。
  30. ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、チオラート系化合物又はチオラート系化合物と酸化剤で変性してなるポリアクリロニトリル系耐炎繊維であって、
    前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の硫黄含有率を0.3質量%以上30.0質量%以下、比重を1.24以上1.55以下とし、
    前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維、及び前記ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の、赤外分光測定で2240±60cm−1の範囲にある赤外線吸収スペクトル(A)の面積を用いて、下記一般式(3)で算出されるAbs2240±60を70%以下、
    とすることを含む、炭素繊維の製造方法。
  31. ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、チオラート系化合物又はチオラート系化合物と酸化剤で変性してなるポリアクリロニトリル系耐炎繊維であって、
    前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の硫黄含有率を0.3質量%以上30.0質量%以下、及び比重を1.24以上1.55以下とし、
    前記ポリアクリロニトリル系耐炎繊維、及び前記ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の、赤外分光測定で2940±160cm−1の範囲にある赤外線吸収スペクトル(B)の面積を用いて、下記式(4)で算出されるAbs2940±160を70%以下、
    とすることを含む、炭素繊維の製造方法。
  32. 請求項10に記載のポリアクリロニトリル系耐炎繊維を、300℃以上3000℃以下で熱処理して得られる、硫黄含有率が0.1質量%以上5.0質量%以下である炭素繊維。
  33. ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、チオラート系化合物又はチオラート系化合物と酸化剤で変性してなるポリアクリロニトリル系耐炎繊維であって、
    硫黄含有率が0.3質量%以上30.0質量%以下、比重が1.24以上1.55以下、耐炎繊維の赤外分光測定で2240±60cm−1の範囲にある赤外線吸収スペクトル(A)、及び2940±160cm−1の範囲内にある赤外線吸収スペクトル(B)の面積を用いて、下記一般式(5)で算出されるAbs2240/2940が0.05以上0.60以下である、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維。

  34. 前記変性を、水系溶媒中で行う、請求項22に記載の炭素繊維の製造方法。
  35. 前記変性を、温度が120℃以上250℃以下、圧力が0.18MPa以上3.98MPa以下、時間が30秒以上120分以下で行う、請求項34に記載の炭素繊維の製造方法。
  36. 前記変性を、ポリアクリロニトリル系耐炎繊維の比重が1.24以上1.55以下、硫黄含有率が0.1質量%以上30質量%以下となるように行うことを特徴とする、請求項35に記載の炭素繊維の製造方法。
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