JP2009173733A - 耐炎ポリマーを含有する分散体、耐炎繊維および炭素繊維の製造方法 - Google Patents

耐炎ポリマーを含有する分散体、耐炎繊維および炭素繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】口金からの吐出時における耐炎ポリマーの賦形安定性における賦形物の物理的な安定性を向上させることができる耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともポリアクリロニトリル系ポリマーを分散質とし、極性有機溶媒を分散媒として含有してなる分散体に、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物をポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して10〜50重量部添加し、得られた分散体が120〜160℃の温度に加熱された状態下で、該分散体にポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して第1級アミン10〜50重量部を毎分0.2〜2.0重量部の添加速度で逐次添加し、第1級アミンの逐次添加後さらに120〜160℃の温度で加熱処理することにより耐炎ポリマーを含有する分散体を製造する。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐炎ポリマーを含有する分散体、およびそれを紡糸してなる耐炎繊維とその耐炎繊維を炭化して得られる炭素繊維の製造方法に関するものである。
耐炎繊維は、耐熱性と難撚性に優れていることから、例えば、溶接作業等で飛散する高熱の鉄粉や溶接火花等から人体を保護するスパッタシートや、さらには航空機等の防炎断熱材などで幅広く利用され、それらの分野における需要は増加している。
また耐炎繊維は、炭素繊維を得るための中間原料としても重要である。炭素繊維は、優れた力学的特性、化学的諸特性および軽量性などにより、各種の用途、例えば、航空機やロケットなどの航空・宇宙用航空材料や、テニスラケット、ゴルフシャフトおよび釣竿などのスポーツ用品等に広く使用され、さらに船舶や自動車などの運輸機械用途分野などにも使用されようとしている。また、近年は炭素繊維の高い導電性や放熱性から、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品や、燃料電池の電極用途への応用が強く求められている。
炭素繊維は、一般に耐炎繊維を窒素等の不活性ガス中で高温加熱し炭化処理することによって得られる。また、従来の耐炎繊維は、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系耐炎繊維であれば、PAN系前駆体繊維を空気中200〜300℃の高温で耐炎化反応(PANの環化反応+酸化反応)させることによって得られる。この耐炎化反応は発熱反応であり、そして繊維形態、すなわち除熱効率の乏しい固相の状態の反応である。そのため、発火などの暴走反応を抑制するために、蓄熱しないようにPAN繊維束を薄く広げたり、PAN繊維束を構成する単繊維数を少なくしたりすることが必要である。また、耐炎化反応時に発生する気体の装置内濃度が高くなると、爆発の危険性が高まるため、装置体積を大きくする必要がありこれは生産性の観点からは好ましくない。このように、現在知られている耐炎化プロセスは、十分効率的なプロセスであるとは言い難い。
この技術的問題点に対して、ポリアクリロニトリル系ポリマーを含有する分散体を紡糸前に耐熱化もしくは耐炎化して、耐炎ポリマー含有分散体を得るという方法がすでに提案されている(特許文献1参照。)。この方法は、一度に大量のポリマーを100℃〜160℃と低い反応温度で耐炎化させることができること、溶媒中での反応のため容易に除熱できることから、安全性および生産性の高いプロセスである。これによって、糸形状のみならず、除熱がさらに困難なフィルム形状の耐熱・耐炎材料をも得ることが可能になった。
また別に、前駆体アクリロニトリル系ポリマーの共重合組成によって、耐炎ポリマーを含有する分散体の分散安定性の向上に成功した例も提案されている(特許文献2および3参照。)。一方で、本発明者らは、プロセス性を高めるという観点から、耐炎ポリマーを含有する分散体に塩を添加することにより口金近傍での賦形安定性を向上させる手法を提案している(特許文献4参照。)。さらに、本発明者らが鋭意検討したところ、酸化剤および環化剤の化学種および添加方法を検討することにより、塩を添加することなく、耐炎ポリマーの紡糸性の向上を可能にする技術の創出に至ったのである。
国際公開第05/080448号パンフレット 特公開2006−274111号公報 特公開2007−031564号公報 特公開2007−332519号公報
本発明の目的は、紡糸性の高い耐炎ポリマーを含有する分散体を提供し、耐炎繊維賦形時の工程安定性を向上させることにある。
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、少なくともポリアクリロニトリル系ポリマーを分散質とし、極性有機溶媒を分散媒として含有してなる分散体に、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物をポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して10〜50重量部添加し、得られた分散体が120〜160℃に加熱された状態下で、該分散体にポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して第1級アミン10〜50重量部を毎分0.2〜2.0重量部の添加速度で逐次添加し、第1級アミンの逐次添加後さらに120〜160℃の温度で加熱処理することを特徴とする耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法である。
本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法の好ましい態様によれば、前記のフェノール性水酸基を有するニトロ化合物は、オルトニトロフェノール、メタニトロフェノールまたはパラニトロフェノールであり、また、前記の第1級アミンは、オクチルアミン、アミノエタノールまたはアミノプロパノールである。
本発明においては、前記の耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法で得られた耐炎ポリマーを含有する分散体を紡糸等賦形することにより耐炎繊維を製造することができ、得られた耐炎繊維を炭化することにより炭素繊維を製造することができる。
本発明によれば、耐炎ポリマーを含有する分散体を紡糸等賦形する際に吐出口からの離れが著しく良好な耐炎ポリマーを含有する分散体が得られる。この耐炎ポリマーを含有する分散体は、特に、糸形状に賦形する際には吐出口金部位の離れが良くなるため、吐出口金部位での単繊維切れや接着を抑制することが可能になる。さらに、凝固時の物理的な強度が高い凝固糸が得られるので、糸中に残存している分散媒などを除去する工程、すなわち洗浄する過程において凝固糸の糸切れを抑制することができるため、工程速度を向上させることができる。また、凝固浴の浴温度や凝固浴中の極性有機溶剤濃度が高い条件下でも安定して紡糸することができるため、工程管理が容易になる。
さらに、本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法では、環化剤と酸化剤の種類と添加方法によって賦形性の向上が可能なため、高い賦形性を発現させるために塩などの化合物を添加する必要性がない。その結果、凝固浴に抽出された成分の回収負荷を低減させる効果が期待できるため環境保護の観点からも望ましい。
さらに、本発明においては、上記の耐炎ポリマーを含有する分散体を紡糸して得られた耐炎繊維を、炭化して得られる炭素繊維の物理的な強度も向上する。その上、本発明の製造方法で得られる耐炎ポリマーを含有する分散体の賦形性が良いことから、口金孔密度を高めることができ、設備の省スペース化が図れるために生産効率が向上する。
本発明においては、少なくともポリアクリロニトリル系ポリマーを分散質とし、極性有機溶媒を分散媒として含有してなる分散体に、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物をポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して10〜50重量部添加し、得られた分散体が120〜160℃に加熱された状態下で、その分散体にポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して第1級アミン10〜50重量部を毎分0.2〜2.0重量部の添加速度で逐次添加し、第1級アミンの逐次添加後さらに120〜160℃の温度で加熱処理することが必要である。
これによって、耐炎ポリマーを含有する分散体を賦形する際に口金離れが著しく良くなるのである。これは、凝固に続く洗浄過程における糸切れ抑制作用が発現されて、紡糸工程に大きな改善効果が見られるのである。今のところ、その効果の発現機構は明らかにはなっていない。しかしながら、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物と第1級アミンとの組み合わせによって、特異的に本発明の効果が顕著になること、十分な凝固性を発現するためには、加熱した状態の分散体に第1級アミンを逐次添加する必要性があることから、次のような機構が考えられる。すなわち、フェノール性水酸基の酸性度によって分散体の液性が酸性に偏っており、そこに第1級アミンを投入することにより弱い水素結合を介した相互作用によって形成される複合体を少量ずつ系内に発生し、これが得られる耐炎ポリマーの凝固性を向上させているという作用機構である。
本発明において、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物のフェノール性水酸基とは、ベンゼン核など芳香属性の環状骨格の水素を置換した水酸基のことであり、このような水酸基を有する化合物としては、フェノール、ナフトールおよびアントラセノールなどがある。また、分子内のフェノール性水酸基の数は、1つ以上あればよく特に制限されない。
本発明で用いられるフェノール性水酸基を有するニトロ化合物としては、例えば、オルトニトロフェノール、メタニトロフェノール、パラニトロフェノール、5−ニトロベンゼン−1,3−ジオール、2−ニトロベンゼン−1,3−ジオール、2−ニトロベンゼン−1,3,5−トリオール、2−ニトロ−1−ナフトール、4−ニトロ−1−ナフトール、2−ニトロナフタレン−1,3−ジオール、9−ニトロ−1−アントラセノールなどが挙げられる。
これらのフェノール性水酸基を有するニトロ化合物のうち、工業的な入手のしやすさや分子量に対するニトロ基の割合が高いことから、オルトニトロフェノール、メタニトロフェノールおよびパラニトロフェノールが好ましく用いられる。例示したフェノール性水酸基を有するニトロ化合物は、何種類を混合して用いても構わないが、反応制御のしやすさやマテリアルフローの追求のしやすさから、1種類か2種類に限定して使用することが好ましい。
本発明においてフェノール性水酸基を有するニトロ化合物の添加量は、前駆体であるポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して10〜50重量部である。添加量が10重量部より少ない場合には、ポリマーに十分な耐炎性を与えることができない。一方で、添加量が50重量部より多い場合には、加熱処理中に急な増粘が起こりやすく除熱が困難となることがある。フェノール性水酸基を有するニトロ化合物の好ましい添加量は、15〜30重量部である。
本発明で用いられる第1級アミンとは、化学事典(東京化学同人)に定義されるように、アンモニアの水素原子の1個が炭化水素残基で置換された化合物である。同書に記載があるように炭化水素残基には、例えば、アミノ基や水酸基などの置換体を有するものも第1級アミンとして含まれる。具体的化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロへキサンジアミン、アミノエタノール、アミノプロパノールおよびエチレンジアミンなどが挙げられる。これらの化合物のうち、加熱処理中に分散体がゲル化しにくいという優れた特性を有している、オクチルアミン、アミノエタノールおよびアミノプロパノールを用いることが好ましい。
このような第1級アミンは、第2級アミン等の他のアミンに比してポリアクリロニトリルとの反応性が高いことが特徴である。
第1級アミンの添加量は、前駆体のポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して、10〜50重量部である。添加量が10重量部より少ない場合には、加熱処理して得られるポリマーに十分な耐炎性を与えることができない。一方で、添加量が50重量部より多い場合には、得られる耐炎ポリマーの凝固性が発現されないだけでなく、条件によっては加熱処理中に急な増粘によりゲル化して除熱することが困難になる場合があるため、プロセスの安全性の観点からの課題が残る。添加量が15〜30重量部であるときに、特に好ましい耐炎ポリマーを得ることができる。
本発明では、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物を添加し得られた分散体が120〜160℃の温度に加熱された状態で、その加熱された分散体に、上記の第1級アミンを逐次添加することが重要であるである。分散体の温度を120〜160℃の範囲に維持するために、第1級アミンを逐次添加しながら分散体を加熱することも本発明では好ましい態様である。分散体の加熱前に第1級アミンを全量添加したり、もしくは加熱しながら第1級アミンを一度に添加すると、耐炎化反応は速やかに進行するものの、紡糸時の凝固性が低く、紡糸口金近傍での糸切れが多発する。逐次添加の添加手段は特に限定されないが、耐炎ポリマーの均質性および再現性の観点から添加速度が一定になるように制御することが望ましい。本発明では、ビュレトやチューブポンプやオーバル計や質量流量計を介して添加することが好ましい態様である。
本発明において、第1級アミンを逐次添加する分散体の温度が120℃未満では、反応が進行せず、また第1級アミンを滴下した後に120〜160℃の温度に加熱しても賦形性に乏しい耐炎ポリマーしか得られず、また一方で、第1級アミンを逐次添加する分散体の温度が160℃を超えても十分な賦形性が発現される耐炎ポリマーは得られない。第1級アミンを逐次添加する分散体の温度は、130℃以上155℃以下であることが好ましい。
本発明における第1級アミンの逐次添加の具体的な添加速度は、ポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して毎分0.2〜2.0重量部の速度である。逐次添加速度が毎分0.2重量部より遅い場合は、次工程の加熱処理にかかる時間が長くなるために生産性が低下する。一方で、逐次添加速度が毎分2.0重量部より速くなると、逐次添加によって得られる耐炎ポリマーの凝固性の向上が全く見られない。さらには、局所的に耐炎化反応が進行して得られる耐炎ポリマーの均質性が低下する。第1級アミンの添加を、毎分1.0〜1.5重量部の逐次添加速度で行うと、一層高い効果が得られる。
本発明においては、第1級アミンの添加速度は、上記範囲で一定に保つことでも良く、上記範囲内で変動させても良い。
本発明において、第1級アミンの逐次添加後、分散体はさらに加熱処理され、加熱状態が維持継続される。加熱処理温度は120〜160℃で以下である。120℃より反応温度が低い場合にも耐炎化反応は進行するものの反応にかかる時間が長くなり、24時間以上かかる場合が多いために現実的でない。また、加熱処理温度が120℃より低いと、本発明における逐次添加の効果が低下して、耐炎性のあるポリマーを得ることはできるが、目的である凝固性が低く紡糸性に乏しい耐炎ポリマーとなることが多い。一方で、反応温度が160℃より高くなると、原因は不明であるが凝固性は低下する。また、この加熱処理温度領域では、分散媒である極性溶媒の分解が見られる場合がある。特に、N,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミドを溶媒(分散媒)とする場合は、この現象が顕著になる。ジメチルスルホオキシドを溶剤とする場合でも、溶剤の熱分解が確認される場合がある。なかでも、加熱処理を130〜160℃の温度で行うことが好ましい。
本発明において、分散体は処理経時によって粘度変化が観察される。例えば、150℃の温度において一連の加熱処理をおこなう場合には、第1級アミンを添加する時点では分散体の150℃の温度における粘度は40〜60mPa・sであるが、第1級アミンの添加に伴い10〜15mPa・s程度まで低下する。引き続いての加熱処理において徐々に粘度が上昇してくるが、これが25〜40mPa・sの範囲にあるときに賦形温度まで冷却すると、賦形に適した粘度の耐炎ポリマーを含有する分散体を得ることができる
具体的には、賦形温度でのB型粘度計を用いて測定した際の粘度が10〜500Poise以下となる耐炎ポリマーを含有する分散体を得ることができる。
本発明では分散媒として、極性有機溶媒が用いられる。本発明において極性有機溶媒とは、常温の下でLCRメータによって測定される比誘電率が2以上のものを言う。比誘電率の値が2以上のものでないと、加熱処理の途中でポリマーが析出してきたり、分散体がゲル化するため、紡糸可能な耐炎ポリマーを含有する分散体を得ることが困難である。また、上記で規定する領域の比誘電率の極性有機溶媒は、凝固過程での分散媒抽出が容易であり、取扱いが易しい。
本発明で好ましく用いられる極性有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Nメチル2ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、スルホラン、ジメチルイミダゾリジオン、エチレングリコールおよびジエチレングリコール等が挙げられる。より好ましい極性有機溶媒は、DMSO、NMP、DMFおよびDMAcであり、これらの中でも塩に対する溶解性の高さから特にDMSOとDMFが好ましく用いられる。これらの極性有機溶媒は、1種だけ用いてもよいし2種以上混合して用いてもよい。
本発明で用いられる分散媒である極性有機溶媒の使用割合は、前駆体であるポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して450〜950重量部以下であることが好ましい。それは、分散媒の含有率が450重量部より低くなると、加熱処理中に分散体がゲル化する場合があるためであり、一方、分散媒の含有率が950重量部を超えると、耐炎ポリマーを含有する分散体の粘度が低くなって紡糸が困難になる場合があるからである。
本発明において、耐炎ポリマーとは耐炎性のあるポリマーのことであり、また、耐炎ポリマーを含有する分散体とは、耐炎ポリマーを主とする成分が分散媒中に均一に分散している分散体のことである。すなわち、耐炎ポリマーを含有する分散体は、溶液やコロイド分散液も概念として含んでいる。ここで、分散体は、粘性流体であり、賦形や成形する際に流動性を有するものであればよく、常温で流動性を有するものはもちろんのこと、ある温度で流動性のない固体やゲル状物であっても、加熱やせん断力により加工温度付近で流動性を有するもの全てを含む。
耐炎ポリマーを含有する分散体には、本発明の効果を妨げない範囲で、反応の副生生物や未反応化合物が含まれていてもよく、オルトアミノフェノールやメタアミノフェノールさらにはパラアミノフェノールのようなフェノール性水酸基を有するアミノ化合物などの化合物が含まれていても良い。
また、本発明において、耐炎とは「防炎」という用語と実質的に同義であり、「難燃」という用語の意味を含んで使用する。具体的に、耐炎とは燃焼が継続しにくい、すなわち燃えにくい性質を示す総称である。耐炎性能の具体的評価手段として、例えば、JIS Z 2150(1966)には、薄い材料の防炎試験方法(45°メッケルバーナー法)について記載されている。評価すべき試料(厚さ5mm未満のボード、プレート、シート、フィルムまたは厚手布地等)をバーナーで特定時間加熱し、着火後の残炎時間や炭化長等を評価することにより、耐炎性能を判定することができる。残炎時間は短い方が優秀であり、炭化長も短い方が耐炎(防炎)性能が優秀と判定される。また、繊維製品の場合、JIS L 1091(1977)に、繊維の燃焼試験方法が記載されている。この方法で試験した後に、炭化面積や残炎時間を測定することにより、耐炎性能を判定することができる。
本発明における耐炎ポリマーの化学構造は、通常、耐炎繊維や耐熱繊維と呼称されるものの化学構造と同一または類似するものである。
一般にポリアクリロニトリル系ポリマーを前駆体として誘導される耐炎ポリマーの構造は、完全には明確となっていないが、アクリロニトリル系耐炎繊維を解析した文献(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション)(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)では、ニトリル基の環化反応あるいは酸化反応によって生じるナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造を有すると考えられており、その構造から一般的にはラダーポリマーと呼ばれている。上記のナフチリジン環やアクリドン環は耐炎ポリマーを核磁気共鳴装置(NMR)によって13−Cを測定し、150〜200ppmにシグナルを有すること、および赤外分光測定(IR)によって1600cm−1付近に最大の吸収ピークを有すことから構造推定されている。
本発明によって得られる耐炎ポリマーにおいても、両測定法で当該範囲にピークを有することが好ましく、そのピークが明瞭である場合に高い耐炎性を有する耐炎ポリマーとなっている。得られた耐炎ポリマーに未反応のニトリル基が残存しても耐炎性を損なわない限り支障はなく、また分子間に架橋結合が生じることがあっても分散体がゲル化して紡糸困難なものにならない限りは支障がない。この観点から、ポリアクリロニトリル系ポリマーは、直鎖状のものであっても枝分かれしているものでも構わない。また、アクリレートやメタクリレートやビニル化合物等の他の共重合成分を、ランダムにもしくはブロックとして骨格に含むものを用いてもよい。
前駆体として用いられるポリアクリロニトリル系ポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される質量平均分子量(Mw)で、100000〜350000であることが好ましい。質量平均分子量が100000より低い場合、耐炎化にかかる時間は短縮できるが、得られる耐炎ポリマーを紡糸して得られる凝固糸の強度が発現されずに、特に分散媒を洗浄する過程で糸切れすることがある。一方、前駆体のポリアクリロニトリル系ポリマーの質量平均分子量が350000を超えると、誘導される耐炎ポリマー間の疎水結合などによる分子相互作用が強くなりすぎるために、加熱処理中のゲル化抑制が困難になる場合がある。ポリアクリロニトリル系ポリマーの質量平均分子量は、より好ましくは15000〜250000であり、さらに好ましくは180000〜220000である。
本発明において、耐炎ポリマーを含有する分散体を紡糸等賦形して得られた凝固糸から分散媒を除去する方法としては、例えば、加熱や減圧によって賦型された耐炎ポリマーを含有する分散体から分散媒を蒸発させる方法や、凝固液中に賦型された耐炎ポリマーを含有する分散体を浸し、分散媒を凝固液中に抽出する方法等が挙げられる。本発明では、制御が簡便でありプロセスの生産性が高い、分散媒を凝固液中に抽出する方法が好ましく用いられる。
凝固液としては、耐炎ポリマーの貧溶媒であって、分散媒と相溶する液体が好ましく用いられる。本発明では、凝固液は、耐炎ポリマーを含有する分散体で用いられる分散媒以外の有機溶媒を混合してもよいが、溶媒回収の観点からは、水と、耐炎ポリマーを含有する分散体で用いられる分散媒(極性有機溶媒)とのみで凝固液を構成することが好ましい。また、凝固液における水と極性有機溶媒の混合比は、好ましくは1:9〜9:1であり、より好ましくは2:8〜8:2であり、更に好ましくは3:7〜7:3である。水と極性有機溶媒の混合比を、このような混合比にすることによって、凝固速度を制御することも可能となり、用途に応じた特性を凝固液によってコントロールすることができるようにもなる。
本発明において、耐炎ポリマーを含有する分散体を繊維に賦型する方法としては、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法および遠心力紡糸法等の方法を挙げることができる。なかでも、湿式紡糸法と乾湿式紡糸法は生産性が高く、本発明において好ましく適用される。特に、湿式紡糸法は、耐炎ポリマーを含有する分散体の賦型直後に分散媒が除去され始めるので、生産性が高く、また、賦型直後の繊維強度が低くても低速度で繊維を走行させることができ、取扱いが易しい。
ここでいう湿式紡糸法とは、複数孔が空いた口金まで耐炎ポリマーを含有する分散体を計量・フィルトレーションなどの後に導入した後、耐炎ポリマーを含有する分散体にかかる圧力によって口金孔から吐出して賦型し、ただちに凝固液によって凝固する方法である。また、乾湿式紡糸とは、口金孔から耐炎ポリマーを含有する分散体を吐出して賦型し、気相中を走行させて後、凝固液によって凝固する方法である。
ここで用いられる口金の材料としては、SUSあるいは金や白金等を適宜使用することができる。また、耐炎ポリマーを含有する分散体が口金孔に流入する前に、無機繊維の焼結フィルターあるいは合成繊維、例えば、ポリエステル繊維やポリアミド繊維からなる織物、編物および不織布などをフィルターとして用いて、耐炎ポリマーを含有する分散体をろ過あるいは分散させることが、得られる耐炎繊維の集合体において単繊維断面積のバラツキを低減される面から好ましい態様である。
口金孔径は、好ましくは直径0.01〜0.5mmの範囲のものを、そして孔長は、好ましくは0.01〜1mmの任意の範囲ものを使用することができる。また、口金孔数は、好ましくは10〜1000000の範囲まで任意のものとすることができる。孔配列は千鳥配列など任意とすることができるし、分繊しやすいように予め分割しておいても良い。
凝固液の温度は、凝固の第一の工程では、凝固液の凝固点以上、沸点以下の任意の温度が適用可能であり、耐炎ポリマーの凝固性や工程通過性に合わせて適宜調整することができる。凝固糸の構造を緻密なものにするために、凝固液の温度は20℃以上40℃以下の範囲であることが好ましい。また、凝固の第二の工程以降も凝固液の凝固点以上、沸点以下の任意の温度が可能であるが、凝固液に水を用いる場合には凝固液の温度は60℃以上85℃以下の範囲であることが好ましい。このような凝固液の温度にすることによって、第一工程で残存した分散媒が効率よく抽出される。また、凝固液中の貧溶媒の濃度は、凝固工程を経るに従って増加させることが好ましい。
水洗、延伸された後の水膨潤状態の繊維糸条に、後述するような油剤を付与することが好ましい態様である。油剤の付与方法としては、油剤を繊維糸条内部まで均一に付与できることを勘案し、適宜選択して使用すればよいが、具体的には、繊維糸条の油剤浴中への浸漬、走行繊維糸条への噴霧および滴下などの手段が採用される。ここで付与される際の油剤の濃度は、0.01〜20重量%の範囲とすることが好ましい。ここで油剤とは、例えば、シリコーンなどの主油剤成分とそれを希釈する希釈剤成分からなるものであり、油剤濃度とは主油剤成分の油剤全体に対する含有比率である。
油剤成分の付着量は、繊維糸条の乾燥重量に対する純分の割合が、0.1〜5重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.3〜3重量%の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜2重量%の範囲である。油剤成分の付着量が少なすぎると、単繊維同士の融着が生じ、また、多すぎると焼成時に焼けムラとなることで、得られる炭素繊維の引張強度が低下することがある。
繊維糸条の乾燥方法としては、乾燥加熱された複数のローラーに繊維糸条を直接接触させる方法や、繊維糸条に熱風や水蒸気を送る方法や、赤外線や高周波数の電磁波を繊維糸条に照射する方法や、減圧状態とする方法等を適宜選択し組み合わせることができる。通常、熱風を送る場合、繊維糸条の走行方向に並行流あるいは直交流させることによって行うことができる。輻射加熱方式の赤外線は、遠赤外線、中赤外線および近赤外線を用いることができ、マイクロ波を照射することも選択できる。乾燥温度は、50〜450℃程度の範囲で任意にとることができるが、 一般的に低温の場合には長時間を要し、高温の場合には短時間で乾燥させることができる。
乾燥して得られた繊維糸条は、必要に応じてさらに熱処理工程に供されることが好ましい。乾燥繊維糸条をそのまま炭化処理すると、炭化条件によっては単糸切れや単糸間の融着を抑制することが困難になる場合がある。それを防止するために、加熱処理によって分子間架橋を導入することが好ましい。すなわち、分子間架橋を導入することにより、炭化処理でのプロセス性が向上するのである。この加熱処理方法としては、加熱された複数のローラーや熱板に直接接触させる方法や、熱風や高温水蒸気を吹き付ける方法、さらには赤外線や高周波数の電磁波を照射する方法などが挙げられる。
ここでの加熱処理の温度は、200〜400℃であることが好ましい。加熱処理の温度が200℃より低いと、架橋反応が進行するためにかかる時間が長くなり生産効率が低くなる場合がある。一方、加熱処理の温度が400℃より高い温度では、繊維糸条の収縮が一様におこらずに、得られる耐炎繊維の強度のばらつきが大きくなる場合がある。
本発明において、耐炎繊維の集合体を、不活性成雰囲気で高温熱処理する、いわゆる炭化処理することにより炭素繊維の集合体を得ることができる。炭素繊維の集合体は、前記のようにして本発明で得られる耐炎繊維の集合体を、不活性雰囲気中最高温度を好適には300℃以上、2000℃未満の範囲の温度で熱処理することによって得ることができる。より好ましくは、最高温度の下の方は、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上の順に好ましく、最高温度の上の方は、1800℃以下も使用することができる。また、得られた炭素繊維の集合体を、さらに不活性雰囲気中、好ましくは2000〜3000℃の温度で加熱することによって、黒鉛構造の発達した炭素繊維の集合体とすることもできる。
得られた炭素繊維の集合体の強度は、100MPa以上、200MPa以上、300MPa以上の順で好ましく、また、強度の上の方は10000MPa以下、8000MPa以下、6000MPa以下の順に適当である。強度が低すぎると、補強繊維として使用できない場合がある。強度は高ければ高いほど好ましいが、1000MPaあれば、本発明の目的として十分なことが多い。
また、炭素繊維の集合体を構成する単繊維の繊維直径は、1nm〜7×10nmであることが好ましく、より好ましくは10〜5×104nmであり、さらに好ましくは50〜10nmである。繊維直径が1nm未満では繊維が折れやすい場合があり、7×10nmを超えると繊維束の収束性が低下するという欠陥が発生しやすい傾向にある。
また、本発明で得られる炭素繊維の集合体の比重は、1.3〜2.4であることが好ましく、より好ましくは1.6〜2.1であり、さらに好ましくは1.6〜1.75である。比重が1.3未満では繊維が折れ易い場合があり、比重が2.4を超えるとかえって樹脂に含浸する際の広がり性が悪くなるといった取り扱い性の低下が発生しやすい傾向にある。比重は、液浸漬法や浮沈法によって測定することができる。ここで、炭素繊維の集合体を構成する単繊維は、中空繊維のように中空部を含むものであってもよい。この場合、中空部は連続であっても非連続であってもよい。
得られた炭素繊維の集合体は、その表面改質のため電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびテトラエチルアンモニウムヒドロキシドのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維により適宜選択することができる。
電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維材料とマトリックスとの接着性を適正化することができ、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維長さ方向の引張強度が低下する問題や、繊維の長さ方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、繊維の横方向における強度特性が発現しないという問題が解消され、得られる複合材料において、バランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
その後、得られる炭素繊維の集合体に集束性を付与するため、サイジング剤を付与することもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。具体的に、耐炎ポリマーから耐炎繊維の集合体を経由して炭素繊維の集合体を得る場合には、耐炎ポリマー含有溶液分散体を紡糸賦形し耐炎繊維の集合体とした後に炭化処理まで巻き取り工程を入れることなく連続的に行い、さらに表面処理およびサイジング剤付与工程を含め連続した一つのプロセスとして製造することができる。このように本発明では、低コスト化の観点から、耐炎ポリマーから炭素繊維の集合体を得るまで、一つのプロセスで連続的に製造する方法を採用することができる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。各実施例における各物性値および特性は、下記の方法により測定したものである。
<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>
30℃の温度に温調した耐炎ポリマーを含有する分散体を、30℃の温度に温調したジメチルスルホオキシド55重量部と水45重量部とからなる凝固浴中に、焼結フィルターを通した後、0.05mmの孔径を1000ホール有する口金から、毎分10ccの速度で吐出しながら1.3m/分の速度で巻き取った。得られた繊維糸条を、乾燥させることなく直ちに70℃の温度に温調した水浴中で毎分1.7m/分の速度で3時間巻き取った後に、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維を濾過して集め、それを120℃の温度で2時間乾燥させた後の質量が0mg以上15mg未満である場合を優◎とし、15mg以上50mg未満である場合を良○とし、50mg以上である場合を不良×として評価した。本発明では、優◎と良○を合格とし、不良×を不合格とした。
<耐炎ポリマーの単離と濃度測定>
耐炎ポリマーを含有する分散体を秤量し、約4gを500mlの水中に入れ、これを沸騰させた。一旦固形物を取り出し、再度500mlの水中に入れて、これを沸騰させた。残った固形分をアルミニウムパンに乗せ、120℃の温度のオーブンで1時間乾燥し耐炎ポリマーを単離した。単離した固形分を秤量し、元の耐炎ポリマーを含有する分散体の重量との比を計算して濃度を求めた。
<耐炎ポリマーのNMR測定>
耐炎ポリマーのNMRスペクトルを、測定核周波数67.9MHz、スペクトル幅15015kHz、20度で既知である溶媒のスペクトルを内部標準として測定した。装置には、日本電子株式会社製GX−270を用いた。
<耐炎ポリマーのIR(赤外分光光度計)測定>
耐炎ポリマーを高温熱水中で脱溶媒した後に、凍結粉砕した物(耐炎ポリマー)2mgと赤外求光用KBr300mgとを乳鉢にて粉砕混合し、それを錠剤成型器にて加工した錠剤を用い、FT−IR測定器(島津製作所製)を用いて測定した。
<炭素繊維の比重測定>
電子天秤を付属した液浸法による自動比重測定装置を自作し、JIS Z 8807(1976)に従って測定を行った。液にはエタノールを用い、この中に試料を投入し測定した。液に試料を投入する前に、別浴で予めエタノールを用い試料を十分濡らし、泡抜き操作を実施した。
<耐炎繊維の耐炎性の評価法>
1500本の単繊維からなる束状の繊維集合体を用いて、試料長を30cmとしJIS L 1091(1977)に準じて、高さ160mm、内径20mmのメッケルバーナーの炎で10秒間加熱し、残炎時間および炭化長を求め、それらの値から次の基準で耐炎性を評価する。
[耐炎性優秀]:残炎時間が10秒以下、かつ炭化長が5cm以下、
[耐炎性良好]:残炎時間が10秒以下、かつ炭化長が10cm以下、
[耐炎性あり]:残炎時間が10秒以下、かつ炭化長が15cm以下、
[不良]:残炎時間が10秒を超える、あるいは炭化長が15cmを超える。
測定数はn=5とし、最も該当数が多かった状態をその試料の耐炎性とする。評価が決まらない場合にはさらにn=5の評価を追加し、評価が決まるまで繰り返し測定する。
<炭素繊維の単繊維の引張強度、引張弾性率、引張伸度>
単繊維の引張強度、引張弾性率および引張伸度のいずれについても、JIS L1013(1999)に従って引張試験を行う。表面が滑らかで光沢のある紙片に、5mm幅毎に25mmの長さの単繊維を1本ずつ、試料長が約20mmとなるように両端を接着剤で緩く張った状態で固着する。試料を繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長20mm、引張速度20mm/分で測定する。測定数はn=50とし、平均値を引張強度、引張弾性率とする。実施例では、繊維引張試験器として、インストロン社製モデル1125を用いた。
(実施例1)
前駆体ポリマーとしてのポリアクリロニトリルホモポリマー100重量部とフェノール性水酸基を有するニトロ化合物としてのオルトニトロフェノール15重量部とを、極性有機溶剤であるジメチルスルホキシド865重量部に投入し、分散体とした。得られた分散体を150℃の温度で1時間撹拌した後に、第1級アミンとしてのモノエタノールアミン20重量部を毎分1.2重量部の速度で逐次添加した。モノエタノールアミン添加後、さらにこれを150℃の温度で7時間加熱処理した。次に、これを30℃の温度まで冷却することにより、ジメチルスルホオキシ中に耐炎ポリマーが分散した分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、125重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて、13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に、前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリル、有機溶剤および変性剤では確認されない、耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、耐炎ポリマーをIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は全く無く0mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりも全くなかった。
その後、得られた繊維糸条にアミノシリコーン油剤を付与した後に、熱風循環炉中220℃の温度で5分間乾燥した。さらに、熱風循環炉中300℃の温度で1.5倍に延伸と同時に5分間熱処理して耐炎繊維束を得た。得られた耐炎繊維束における、耐炎性を評価したところ、炭化長4cmと優秀な耐炎性を有していることがわかった。さらに、耐炎ポリマーから得られた耐炎繊維束を、窒素雰囲気中、300〜800℃の温度で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃の温度で炭化処理して炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維の単繊維の引張強度は3500MPaであり、引張弾性率は225GPaであり、比重は1.77であった。結果を表1に示す。
(実施例2)
モノエタノールアミンの逐次添加速度を毎分1.2重量部から毎分2.0重量部の逐次添加速度に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は121重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は12mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。結果を表1に示す。
(実施例3)
オルトニトロフェノールの添加量を15.0部から40.0部に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は124重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は5mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。結果を表1に示す。
(実施例4)
モノエタノールアミンの添加量を20.0部から12.0部に変更したことおよびこの添加後の加熱時間を7.0時間から19.0時間に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は124重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は3mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。さらに、得られる耐炎繊維の耐炎性を評価したところ、炭化長8cmと良好な耐炎性を有していることがわかった。結果を表1に示す。
(実施例5)
モノエタノールアミンの添加速度を毎分1.2重量部から毎分0.4重量部に変更したことおよびこの添加後の加熱時間を7.0時間から28.0時間に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は123重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は7mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。結果を表1に示す。
Figure 2009173733
(実施例6)
第1級アミンとしてのモノエタノールアミンを1−アミノプロパノールに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、123重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は1mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。結果を表2に示す。
(実施例7)
フェノール性水酸基を有するニトロ化合物としてのオルトニトロフェノールに代えてメタニトロフェノールを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、125重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は5mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。結果を表2に示す。
(実施例8)
アミン添加終了後の加熱処理条件(150℃の温度で7時間)を、130℃の温度で12時間に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、119重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は4mgであって、評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。
次に、得られた耐炎ポリマーを含有する分散体から、実施例1と同じ条件で耐炎糸繊維束および炭素繊維束を得た。得られた耐炎繊維を前述の<繊維の耐炎性の評価法>にて耐炎性を評価したところ炭化長は8.5cmであって評価は良好である。また、炭素繊維の単繊維の引張強度は、3200MPaであり、引張弾性率は215GPaであり、比重は1.76であった。結果を表2に示す。
(実施例9)
第1級アミンとしてモノエタノールアミンの代わりにn-オクチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、126重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は35mgであって、評価は良○であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。結果を表2に示す。
(実施例10)
前駆体ポリマーとしてのポリアクリロニトリルホモポリマー100重量部とフェノール性水酸基を有するニトロ化合物としてのオルトニトロフェノール15重量部とを、極性有機溶剤であるジメチルスルホオキシド835重量部に投入し、分散体とした。得られた分散体を、160℃の温度で1時間撹拌した後に、第1級アミンとしてのベンジルアミン50重量部を毎分1.5重量部の速度で逐次添加した。ベンジルアミン添加後、さらにこれを160℃の温度で10時間加熱処理した。次に、これを30℃の温度まで冷却することにより、ジメチルスルホオキシ中に耐炎ポリマーが分散した分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、119重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は42mgであって、評価は良○であった。また、口金部位での5本単繊維切れがあることを確認した。結果を表2に示す。
Figure 2009173733
(比較例1)
モノエタノールアミンをN,N−ジエタノールアミンに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は123重量部であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は62mgであって、評価は不良×であった。さらに、試験中に増粘が生じたため口金の約半数のホールが目詰まりを起こした。結果を表3に示す。
(比較例2)
モノエタノールアミン20重量部全量を逐次添加ではなく1度に投入したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎ポリマーを含有する分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は、11.5重量%であった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについてIRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前述の<耐炎ポリマーの洗浄時の糸切れ評価>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は100mgであって、評価は不良×であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりはなかった。結果を表3に示す。
Figure 2009173733

Claims (5)

  1. 少なくともポリアクリロニトリル系ポリマーを分散質とし、極性有機溶媒を分散媒として含有してなる分散体に、フェノール性水酸基を有するニトロ化合物をポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して10〜50重量部添加し、得られた分散体が120〜160℃の温度に加熱された状態下で、該分散体にポリアクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して第1級アミン10〜50重量部を毎分0.2〜2.0重量部の添加速度で逐次添加し、第1級アミンの逐次添加後さらに120〜160℃の温度で加熱処理することを特徴とする耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法。
  2. フェノール性水酸基を有するニトロ化合物が、オルトニトロフェノール、メタニトロフェノールまたはパラニトロフェノールである請求項1記載の耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法。
  3. 第1級アミンが、オクチルアミン、アミノエタノールまたはアミノプロパノールである請求項1記載の耐炎ポリマーを含有する分散体の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた耐炎ポリマーを含有する分散体を賦形することを特徴とする耐炎繊維の製造方法。
  5. 請求項4記載の製造方法により得られた耐炎繊維を炭化することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
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