JP2009293141A - 扁平断面炭素繊維束 - Google Patents

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Abstract

【課題】
扁平断面繊維束であるにも関わらず、耐炎化工程通過性に優れ、高炭素繊維含有率の複合材料を作成することができる扁平断面炭素繊維束を提供する。
【解決手段】
断面組織が等方性組織の集合体である炭素繊維束であって、その表面平滑度Sが1.20以上1.5以下であり、かつ長軸(a)と短軸(b)の比率Rが1.2〜10の扁平断面形状であることを特徴とする扁平断面炭素繊維束であり、前記の炭素繊維の前駆体ポリマーには、ポリアクリロニトリルを出発物質とする耐炎ポリマーでが用いられる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、扁平断面炭素繊維束および炭素繊維複合材料に関するものである。
炭素繊維は、力学的、化学的諸特性および軽量性などに優れていることから、各種の用途、例えば、航空機やロケットなどの航空・宇宙用航空材料、テニスラケット、ゴルフシャフトおよび釣竿などのスポーツ用品に広く使用され、さらに船舶や自動車などの運輸機械用途分野などにも使用されようとしている。また、近年は、炭素繊維の高い導電性や放熱性から、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品および燃料電池の電極用途への応用が強く求められている。このように適用範囲が広がる反面、炭素繊維については生産量の増大とコストダウンへの要求が厳しくなっている。
炭素繊維の生産量の増大する手段として、糸条数を増加させたいわゆるラージトウがあるが、炭素繊維において糸条数を増加させると炭素繊維製造工程のひとつである耐炎化の工程通過性が低下する。耐炎化は、酸素を含んだ酸化雰囲気で行われるため発熱を伴い、糸条数が増えることで蓄熱が大きくなることから、耐炎化の最中に糸条の一部が過熱となり糸切れが生じる。このような糸切れを防ぐためには、耐炎化をマイルドな条件で行う必要があるが、結果として生産性の向上には結びつかなくなってしまう。上記のような理由から、一定以上の糸条数での焼成は難しかった。
また、炭素繊維複合材料を製造する場合、プリプレグから炭素繊維複合材料を製造するが、性能面やコスト面から、より薄いプリプレグから所望する強度と弾性率を有する炭素繊維複合材料が得られることが望ましい。炭素繊維複合材料を薄物化した場合において、従来と同様の強度特性を得る方法としては、炭素繊維の含有率(Vf)を高くする方法がある。この方法においては、繊維と繊維間のデッドスペースを少なくすることが有効であるが、その手法として扁平断面形状の繊維を用いる手法が提案されている(特許文献1参照。)。この提案は、不織布やペーパー状物の製造法に関するものであり、炭素繊維が一方向に揃ったプリプレグとは本質的に異なるものである。
また、ピッチ系炭素繊維において、特に、メソフェーズピッチ系炭素繊維で見られる繊維内部の特異な結晶配列を制御し、結晶配列によって引き起こされる機械的特性を改善するための方法が提案されている(特許文献2および3参照。)。しかしながら、これらの方法よって改善される機械的強度特性の程度は小さく、なお不十分なものであった。
また別に、ポリアクリルニトリルの湿式紡糸による多角形断面のポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が提案されている(特許文献4および5参照。)。これらのPAN系炭素繊維は、多角形断面の複雑な形状であるため、炭素繊維複合材料のとしての強度向上は図ることはできるものの、特異な形状によって繊維含有率を十分にあげることができないという欠点を有するものであった。扁平断面の炭素繊維束を製造しようとする場合、特に糸条数が多い場合において、収束性のよい形状特性によって、耐炎化工程での蓄熱が非常に大きいため、工程通過性が悪いという欠点があった。
これらの問題を解決するため、耐炎化工程の必要ないポリマーの提案もなされている(特許文献6参照。)が、その強度はPANやピッチを原料とするものに比較して著しく低く、市場の要求に応えられるものではなかった。また、PAN系の炭素繊維原料繊維について、メッシュ状のローラー上で加熱空気を糸束内を貫通させながら耐炎化を進行することにより、炭素繊維糸束内部への蓄熱を抑制する提案もなされている(特許文献7参照。)が、この提案では、糸束が太くなると加熱空気を貫通させることが難しくなる上、加熱空気の噴出圧力を増加すると糸束内で単繊維の交絡が発生し、プリプレグ化する際の広がり性が低下してしまうという問題があった。他にも、耐炎化時の蓄熱を防ぐ方法として、微粒子を加熱空気により流動化した流動層内で耐炎化を行う方法や、酸化性の液体中で耐炎化を行う方法などが提案されているが、糸束内部に微粒子が残留したり、酸化性液体による熱安定性が不足していることなどから、低コストで高性能な炭素繊維束を提供することはできていない。
特開2004−27435号公報 特開昭62−268820号公報 特開平1−250415号公報 特開昭57−42927号公報 特開平3−185121号公報 特開平1−132832号公報 特開平2―6625号公報
そこで本発明の目的は、優れた炭素繊維複合材料を得ることができる扁平断面炭素繊維束およびその扁平断面炭素繊維束を用いた炭素繊維複合材料を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成せんとするものであって、本発明の扁平断面炭素繊維束は、断面組織が等方性組織の集合体である炭素繊維束であって、その表面平滑度Sが1.20以上1.5以下であり、かつ単繊維の長軸(a)と短軸(b)の比率Rが1.2〜10の扁平断面形状であることを特徴とする扁平断面炭素繊維束である。
本発明の扁平断面炭素繊維束の好まし態様によれば、前記の炭素繊維の前駆体ポリマーは、ポリアクリロニトリルを出発物質とする耐炎ポリマーである。
本発明の炭素繊維複合材料は、前記の扁平断面炭素繊維束を用いて効率的に製造することができる。
本発明によれば、炭素繊維複合材料の製造に用いた場合の繊維含有率が高く、総繊度が大きく優れた生産性を有する扁平断面炭素繊維束が得られる。本発明の扁平断面炭素繊維束を用いることにより、耐炎化工程を省力化または省略することができ、高効率で炭素繊維複合材料を製造することができる。
本発明の扁平断面炭素繊維束は、断面組織が等方性組織の集合体である炭素繊維束であって、扁平断面を有するものであり、炭素繊維束表面に凹凸を有することが好ましい態様である。
炭素繊維の構造を形成する組織配列は、例えば、メソフェーズピッチ系炭素繊維のように六角網面がサブミクロンから数ミクロンまで発達したものや、ポリアクリロニトリル系炭素繊維のように数十nm程度の大きさのグレインから形成されるものに分けられる。これらは、偏光顕微鏡を用いることにより容易に判別することができる。メソフェーズピッチは、芳香族平面が積層したユニットから構成され液晶性を示す特徴がある。そのため、炭素繊維に導入される分子配列やマクロな構造は、配列が微妙な紡糸条件によって変化する。したがって異形断面形状の炭素繊維束を得ようとする場合、例えば、扁平断面を得ようとする場合においては所望する軸長比を有する炭素繊維束を得ることができず、仮に形状を満たした場合であっても十分な強度特性を得ることは難しい。したがって、等方性組織の集合体である炭素繊維が望ましい。ここで言うところの等方性組織とは、光学的観測によって観測される組織であり、偏光顕微鏡を用いることにより判別することができる。偏光顕微鏡を用いた場合、組織の配向(炭素繊維の場合繊維の構造を構成している炭素網面)が異方性である場合異なった配色で観測され、等方的である場合単一色で観測される。この単一色で観測された場合に等方性組織の集合体であると判定する。
炭素繊維束表面に見られる凹凸構造は、複合材料化した際の樹脂との接着に大きく関係し、すなわち炭素繊維複合材料の機械特性に強い影響を与える。通常、炭素繊維の表面処理によって官能基を導入することにより樹脂との接着状態を改善し、優れた機械特性を与えることができる。また、炭素繊維の側面微細構造によるアンカー効果によっても炭素繊維複合材料特性が向上する。適当な表面平滑度を有する炭素繊維束によって、特に一方向プリプレグ積層体においては、90°曲げにおける強度を向上する効果がある。また、過剰に表面凹凸が存在する繊維においては、収束性が著しく低下し、焼成時の工程通過性に乏しくなり好ましくない。したがって、炭素繊維束表面の表面平滑度Sは、1.20以上1.50以下であり、好ましくは1.25以上、1.40以下である。
この表面平滑度は、炭素繊維束の横断面をSEMで観察して求めることができる。ここでいうところの表面平滑度Sとは、SEM装置による7500倍での観察像をさらに4倍に拡大(すなわち30000倍)し、それをイメージアナライザーで求められ横断面の周長lと外接周長lとの比の平方として定義され、S=(l/lとして求められる値である。
このような1.20以上の表面平滑度にするには、PAN系ポリマーや後述する耐炎ポリマーを湿式紡糸することによって得られるプリカーサーを使用することによって容易に達成することができる。
複合材料化した際に、炭素繊維の含有率(Vf)を向上させる効果のある断面構造としては、炭素繊維束の扁平断面における長軸(a)と短軸(b)の比率が1.2〜10であることが重要である。上記の比率が1.2未満では真円形状炭素繊維束の場合と大差がなくなり、比率が10より大きい場合は、機械強度の大幅な低下を招いてしまう。よって、長軸(a)と短軸(b)の比率Rは、1.3以上8以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以上5以下である。
炭素繊維束の長軸(a)と短軸(b)の軸長さ比を求める方法としては、光学顕微鏡による直接観察や走査型電子顕微鏡(SEM装置)による方法があり、形態観察と併せてSEM装置がよく用いられる。SEM装置による観察においては、炭素繊維束を鋭利な刃物で切断し、その断面を観察することにより軸長さ比は決定され、既知の大きさを有する試料と比較することにより、正確な軸長さ比を求めることができる。
本発明の扁平断面炭素繊維束を構成する単繊維の本数は特に限定しないが、本発明の特徴を有効に生かすためには、前記の特性を有する炭素繊維の単繊維が、24,000本以上収束して構成されることが望ましい。単繊維数が多いことにより、製造時の生産性が大幅に改善され低コストでの生産が可能となる。炭素繊維束を構成する単繊維数は36,000本以上であることが好ましく、より好ましくは48,000本以上である。一方で、炭素繊維束の総繊度が高くなりすぎると、炭素繊維パッケージ1個あたりの糸長が短くなり、プリプレグ生産時の生産性が低下してしまう。そのため、炭素繊維束を構成する単繊維数は1,000,000本以下であることが好ましく、より好ましくは500,000本以下であり、更に好ましくは200,000本以下である。
本発明の扁平断面炭素繊維束を得るに好適な製造方法について、次に説明する。
従来の加熱空気を利用した耐炎化手法においては、前駆体繊維である扁平断面の繊維束や単繊維数が多い繊維束から、強度の優れた炭素繊維束を効率的に耐炎化して得ることは困難である。なぜなら、扁平断面の繊維束は収束性がよく、かつ単繊維数が多い繊維束から強度の優れた炭素繊維束を得るためには、繊維の内部まで酸素を到達させ酸化反応を進める必要がある。そのためには、耐炎化反応をゆっくりと行うか、酸素の透過性を向上する必要があり、前者の方法では生産性が低下してしまい、後者の方法では酸化発熱が短時間で集中して発生してしまうことから、単繊維数を増やした際の蓄熱が助長されることになり、単繊維数を大きくできないという問題が発生するためである。
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、ポリアクリロニトリル(PAN)を前駆体ポリマーとする耐炎ポリマーを紡糸し、単繊維が24,000本以上収束してなる扁平断面形状の耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理することにより、効率的に扁平断面形状の炭素繊維束でかつ多フィラメントの炭素繊維束を得ることができるようになった。
本発明の扁平断面炭素繊維束の製造方法においては、PANを前駆体ポリマーとする耐炎ポリマーを用いる。PANを前駆体ポリマーとすることにより、溶液紡糸により高い生産性が得られる上、優れた物性の炭素繊維束を得ることができる。ここで、耐炎ポリマーがPANを前駆体ポリマーとすることは、残存ニトリル基の存在を確認することで判断することができる。具体的には、赤外分光測定(IR)により、2240cm−1付近に吸収ピークを示すものであることなどから確認することができる。
このPANを前駆体ポリマーとする耐炎ポリマーの構造は完全には明確となっていないが、アクリロニトリル系耐炎化繊維を解析した文献(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)では、ニトリル基の環化反応あるいは酸化反応によって生じるナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造を有すると考えられており、本発明の耐炎ポリマーについても類似の構造を有するものと考えられる。このような構造は、その溶液の核磁気共鳴(NMR)装置により13−Cを測定し、ポリマーに起因して150〜200ppmにシグナルを有する構造であることが知られており、また、赤外分光測定(IR)により1585〜1610cm−1付近に吸収ピークを示すことも知られている。
本発明において「耐炎」とは、前駆体ポリマーとなるPANより耐熱性や耐炎性が向上していることを表す表現であり、耐炎ポリマーの耐炎性の絶対値が一般的な評価における「耐炎」や「防炎」に相当する難燃性を示すことを表すものではない。PANに由来する耐炎化構造は、前記のようにIR測定で1585〜1610cm―1付近に吸収ピークを与えるため、簡易的には前記範囲における吸光度のピーク値を測定することにより耐炎化の進行度合いを測定することが可能である。
一般に生産されているPAN系の炭素繊維の製造工程においては、耐炎化工程において前記吸光度が1.7程度となるまで耐炎化を行うが、本発明においてはポリマーの段階でその3割程度耐炎化が進行していれば、紡糸後の耐炎化に伴う問題を軽減することができるようになる。よって、PANを前駆体ポリマーとする耐炎ポリマーにおいては、後述の実施例に記載された方法によるIR測定に置いて、1585〜1610cm−1の間の吸光度の最大値が好ましくは0.5以上のポリマーであり、より好ましくは0.7以上のポリマーであり、更に好ましくは1.0以上のポリマーである。また、吸光度が通常の耐炎糸と同じ1.7以上であれば、紡糸後に全く耐炎化を行わなくても良いことになり理想的であるが、ポリマーの段階で耐炎化を進めすぎると、ポリマーの安定度が低下しゲル化し易くなる傾向も見られることから、吸光度は2.0以下であることが好ましい。
PANを前駆体ポリマーとする耐炎ポリマーの製造方法では、耐炎ポリマーの前駆体ポリマーであるPANを有機溶剤中に分散させた分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る方法を用いることが可能である。
耐炎ポリマーの前駆体ポリマーであるPANを有機溶剤中に分散させた分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る場合は、耐炎化が進行する限りにおいて、その温度、時間、装置の条件および手法は特に限定されない。加熱方法も特に限定されず、ジャケット式熱媒循環、マントルヒータ、オイルバス、およびイマージョンヒータに代表される工業的に市販されている加熱装置のいずれを用いても構わない。ただし、高温で耐炎化をおこなうときに溶剤の突沸および発火や引火の危険性が高くなるので、使用する溶剤の沸点以下で行うことが好ましい。また、反応時間は、耐炎化反応が発熱反応なので、短時間の反応は除熱が困難となり暴走反応に至る場合があるため、30分以上に調整することが好ましい。一方で、長時間にわたり耐炎化を行うと単位時間当たりの生産量が低下して非生産的であるため、反応時間は24時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
前駆体ポリマーとして用いられるPANについては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される質量平均分子量(Mw)が、1000〜1000000であることが好ましい。前駆体ポリマーの質量平均分子量が1000より低い場合、耐炎化にかかる時間は短縮できるが、耐炎ポリマー間の水素結合などの分子間相互作用が弱くなるために、賦型した成形品に十分な強度を達成することが困難となる。一方、前駆体ポリマーの質量分子量が1000000を超えると、耐炎化にかかる時間が長くなるために生産コストが高くなったり、耐炎ポリマー間の水素結合などによる分子相互作用が強くなりすぎるために、冷却時にゲル化し、紡糸温度で耐炎ポリマーを含有する溶液の流動性が得られ難くなることがある。前駆体ポリマーの質量平均分子量は、より好ましくは10000〜500000であり、さらに好ましくは20000〜300000である。
ここで、有機溶媒に溶解している耐炎ポリマーは、分子間に微量架橋結合が生じることがあっても溶解性を損なわない限り支障はない。このような観点から、耐炎ポリマーの前駆体ポリマーであるPAN系ポリマーは直鎖状であっても、枝分かれしていても構わない。また、アクリレートやメタクリレートやビニル化合物等の他の共重合成分をランダムにもしくはブロックとして骨格に含むものであっても良い。
本発明で用いられる耐炎ポリマーの前駆体ポリマーであるPANの分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る際には、酸化剤と環化剤を用いることにより、160℃の温度以下の低温で反応を進行させることができ、好ましい態様である。
ここで、酸化剤とは、反応によって前駆体ポリマーから水素原子を引き抜く作用もしくは酸素原子を供与する作用を有する化合物のことであり、具体的には、安全性や反応性からニトロ系化合物やキノン系化合物等が挙げられる。
ニトロ系化合物としては、反応時の熱安定性から芳香族環をもつモノニトロ化合物がより好ましく、例えば、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエン、o,m,p−ニトロフェノール、ニトロキシレンおよびニトロナフタレン等が挙げられ、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエンおよびo,m,p−ニトロフェノールが特に好ましく用いられる。また、キノン系化合物としては、例えば、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、クロロ−1,4−ベンゾキノン、ジクロロ−1,4−ベンゾキノン、ブロモ−1,4−ベンゾキノン、ジブロモ−1,4−ベンゾキノン、テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン、オルトベンゾキノン、オルトクロラニルおよびオルトブロマニル等が挙げられ、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ジクロロ−1,4−ベンゾキノンおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンが特に好ましく用いられる。
これらの酸化剤の添加量は、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜200重量部が好ましく、より好ましくは1〜100重量部である。これらの酸化剤は1種だけで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
また、環化剤とは、前駆体ポリマーを、結合の生成によって非環状骨格部位を環状構造へと誘導する化合物のことであって、具体的には、例えば、アミン系化合物、グアニジン系化合物、アルコール系化合物、アミノアルコール系化合物、カルボン酸系化合物、チオール系化合物、アミジン系化合物などの有機系求核剤、金属アルコキシド化合物、金属アミド化合物、金属イミド化合物、金属水素化物、金属水酸化物、金属炭酸塩およびカルボン酸金属塩等が挙げられる。環化剤としては、環化効率の高さおよび試薬の安定性の観点から、アミン系化合物、グアニジン化合物、アミノアルコール化合物、金属アルコキシド化合物および金属イミド化合物が好ましく用いられる。中でも、耐炎ポリマーの分散性の観点から、アミノアルコール系化合物が特に好ましく用いられる。
アミン系化合物としては、アミン骨格を有するものであればいずれでもよいが、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロへキサンジアミン、デカメチレンジアミン、3,5−ピリジンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、3,5−ジメチルベンゼン2,4−ジアミン、および1,12−ドデカンジアミン等が挙げられる。
グアニジン系化合物としては、グアニジン構造を有するものであればいずれでもよいが、例えば、グアニジン炭酸塩、グアニジンチオシアネート、グアニジン酢酸塩、グアニジンリン酸塩、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン硫酸塩、メチルグアニジン、エチルグアニジン、ジメチルグアニジン、アミノグアニジン、フェニルグアニジン、ナフチルグアニジン、ニトログアニジン、ニトロソグアニジン、アセチルグアニジン、シアノグアニジン、およびグアニルウレア等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、グアニジン炭酸塩、グアニジン酢酸塩およびグアニジンリン酸塩である。
アミノアルコール系化合物としては、例えば、モノエタノールアミンとジエタノールアミン等が挙げられ、プロパノールアミン金属アルコキシド化合物としては、例えば、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソブトキシド、ナトリウムイソブトキシド、ナトリウムフェノキシド等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、カリウムtert−ブトキシドとナトリウムtert−ブトキシドである。
金属イミド化合物としては、例えば、カリウムフタルイミドやナトリウムフタルイミド等が挙げられ、中でもカリウムフタルイミドが好ましく用いられる。
これら環化剤の添加量は、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜500重量部が好ましく、より好ましくは1〜200重量部であり、さらに好ましくは3〜100重量部である。
耐炎ポリマーを得るためにPANの分散体を加熱処理する際には、酸を添加することが好ましい。酸は、加熱処理の前に加えても、加熱処理中に加えても構わない。ここで、酸とは、プロトンの授受によって酸と定義される酸と、電子の授受によって酸と定義される酸のどちらに定義されるものであっても良い。また、それらのうち2種類以上を混合して用いても良い。
具体的に、プロトンの授受によって酸と定義される酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸および臭化水素酸のような無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリリ酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、安息香酸、メチル安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、フェルロイル、ヒドロキシ安息香酸、ホモサリチル酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、ゲンチジン酸、バニリン酸、イソバニリン酸、オルセリン酸、アサロン酸、マンデル酸、フタロン酸、ベンジル酸、フロレト酸、トロパ酸およびクマル酸のようなカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファースルホン酸、タウリンおよびナフタレンスルホン酸のようなスルホン酸等が好ましく挙げられる。
また、電子の授受によって定義される酸としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄、銀トリフラート、シアン化鉄および塩化銅等のルイス酸が挙げられる。
これらのうち、大量にかつ安価に入手可能であることや、金属を含まないことで環境負荷の少なく、さらに大規模での取り扱い性に優れた、カルボン酸もしくはスルホン酸を用いることが好ましい。なかでも、少ない量で効果が著しくみられるカルボン酸が好ましく用いられる。カルボン酸の中では、反応に使用する極性溶媒への溶解性が高く、かつ、沸点が高く反応温度を高く設定することのできるカルボン酸、具体的には安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、メチル安息香酸およびアミノ安息香酸等のモノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸等のジカルボン酸が好ましく用いられる。
また、上記の酸と同様に、酸無水物および酸塩化物も好ましく用いることができる。ここでいう酸無水物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基2個から1分子の水が失われて、2つのアシル基が酸素原子を共有するかたちの化合物を指す。具体的な酸無水物としては、例えば、アジピン酸無水物、無水コハク酸、酪酸無水物、クエン酸無水物、酒石酸無水物、ヘキサン酸無水物、安息香酸無水物および無水フタル酸が好ましく挙げられる。
さらに、酸塩化物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基に含まれるヒドロキシ基を塩素で置換した化合物を指す。具体的な酸塩化物としては、例えば、塩化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ピバロイル、塩化ブタノイル、塩化ベンゾイル、塩化アニソール、塩化ナフトイルおよびフタロイルジクロリドが好ましく挙げられる。
本発明で用いられる耐炎ポリマーを得る際に、多量に酸等を加えると耐炎化反応の進行が遅くなったり、前駆体ポリマーが析出してくる場合があるので、酸、酸無水物および酸塩化物の総添加量は、前駆体ポリマー100重量%に対して、0.01重量%から200重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%から50重量%の範囲である。
具体的に、例えば、前駆体ポリマーとしてPANを用い、酸としてジカルボン酸を用いる場合の酸の添加量は、PAN100重量%に対して、0.01重量%から50重量%の範囲であることが好ましい。酸の添加量が50重量%を超えると、耐炎ポリマーを含む分散体の分散安定性が低下し流動性を失いやすくなる場合があるためである。酸の添加量は、更に好ましくは0.05重量%から25重量%の範囲である。
本発明で用いられる耐炎ポリマーまたは耐炎ポリマーを含有する溶液中にはシリカ、アルミナ、ゼオライト等の無機粒子、カーボンブラック等の顔料、シリコーン等の消泡剤、リン化合物等の安定剤・難燃剤、各種界面活性剤、およびその他の添加剤を含有させることもできる。また、耐炎ポリマーの溶解性を向上させる目的で、塩化リチウムや塩化カルシウム等の無機化合物を含有させることもできる。これらは、耐炎化を進行させる前に添加しても良いし、耐炎化を進行させた後に添加しても良い。
最終的に得られた耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度、ポリマー濃度、耐炎化の進行度合および溶媒の種類等によって、前記した好ましい範囲に各要件を適宜調整することができる。
本発明では、耐炎ポリマーを紡糸するに際し、耐炎ポリマーは、それを含有する溶液として供給される。耐炎ポリマーを含有する溶液とは、前記の耐炎ポリマーを主とする成分が溶媒中に分散および/または溶解している溶液である。ここで、溶液は粘性流体であり、紡糸により糸状に成形する際に流動性を有するものであれば良く、25℃程度の室温で流動性を有するものはもちろんのこと、ある温度で流動性のない固体やゲル状物であっても、加熱や剪断力により加工温度付近で流動性を有するもの全てを含む。
耐炎ポリマーを含有する溶液の溶媒としては、有機溶剤、特に極性有機溶剤が好ましく用いられる。本発明において好ましく用いられる極性有機溶剤は、常温の下でLCRメータによって測定される比誘電率が2以上のものであることが好ましく、より好ましくは10以上のものである。比誘電率がこのような値にあると、耐炎ポリマーをより安定的に分散することが可能で、かつ凝固過程での分散媒抽出が容易で取扱い易い。比誘電率が小さすぎると、凝固過程で水系凝固浴を用いる場合に分散媒の抽出が難しくなる。また、比誘電率の上限は特にないが、あまりに大きすぎると、耐炎ポリマーを安定的に分散することが難しくなる場合があるので、比誘電率が80以下の極性有機溶剤を用いることが好ましい。
本発明で好ましく用いられる極性有機溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Nメチル2ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、スルホラン、ジメチルイミダゾリジオン、エチレングリコールおよびジエチレングリコール等が挙げられ、DMSO、NMP、DMFおよびDMAcがより好ましく、これらの中でも塩に対する溶解性の高さから特にDMSOとDMFが好ましく用いられる。これらの極性有機溶剤は、1種だけで用いても2種以上混合して用いても良い。
有機溶剤の含有率は、耐炎ポリマーを含有する溶液の全量に対して45重量%以上かつ95重量%以下であることが好ましい。有機溶剤の含有率が45重量%より低くなると、耐炎ポリマーを含有する溶液の安定性が著しく低下して流動性を失う場合があり、一方、有機溶剤の含有率が95重量%を超えると、耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度が低くなって紡糸が困難になる場合がある。
また、本発明の目的を妨げない範囲で、水等の他の溶媒(例えば、水溶性溶剤)を極性有機溶剤と組み合わせて用いることにより、均一な溶液としても良い。水を用いることは、成形時の溶媒除去が比較的容易である点やコストの観点から好ましい態様である。水を添加する場合の添加量は、耐炎ポリマー100重量%に対して、下の方としては5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上の順に好ましく、上の方としては300重量%以下、200重量%以下、150重量%以下の順に好ましい。
一方で、耐炎ポリマーを含有する溶液における耐炎ポリマーの含有率は、耐炎ポリマーを含有する溶液の全量に対して5重量%以上かつ45重量%以下であることが好ましい。耐炎ポリマーの含有率が5重量%より低くなると、成形の際の生産性が低くなることや成型品の品位が低下することがあり、含有率が45重量%より高くなると、耐炎ポリマーを含有する溶液の流動性が低下して成形が困難になる場合があるからである。耐炎ポリマーの含有率は、より好ましくは6重量%以上かつ30重量%以下である。
本発明における耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度は、紡糸方法、紡糸温度および紡糸口金の形状等によってそれぞれ好ましい範囲とすることができるが、粘性が高すぎても低すぎても目的の繊維形状になり難くなる場合がある。そのため、紡糸温度においてB型粘度計で測定された溶液粘度が、1.0Pa・sec以上100Pa・sec以下であることが好ましく、より好ましくは2.5Pa・sec以上50Pa・sec以下である。
PANを前駆体ポリマーとする耐炎ポリマーを紡糸して得られる耐炎繊維束は、通常のPANからなる繊維束と比較して、極めて耐熱性に優れていることから、製糸後に耐熱性を向上させるための加熱空気を利用した耐炎化工程が大幅に簡略化され、または耐炎化工程が全く行わないことも可能となる。そのため、空気耐炎化で問題となっていた扁平断面化した際の空気酸化時の発熱の蓄積の問題については大幅に軽減され、または完全に解消され、扁平断面かつ多フィラメントの炭素繊維束を効率的に生産することが可能となる。ここで、紡糸方法としては乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿紡糸、遠心紡糸およびフラッシュ紡糸等の任意の方法を用いることが可能であるが、得られた炭素繊維束からプリプレグを生産するためには、連続したフィラメント形態で繊維を得ることが必要であり、PANで広く用いられている、湿式紡糸および半乾半湿紡糸が特に好ましく用いられる。
また、本発明の扁平断面炭素繊維束の製造方法においては、上記した耐炎ポリマーを紡糸することにより、断面形状が扁平断面で、好適には異繊度の繊維が24,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得る。ここで、断面形状や糸条数は紡糸に使用する紡糸口金の孔形状と孔数により制御することが可能である。繊維束の断面形状を扁平形状にするには、あらかじめスリット状に加工された口形状のものや、非常に近接した円形形状孔を複数連続して並べた紡糸口金を用いることができる。
紡糸においては、前記した耐炎ポリマーを含有する溶液を紡糸原液とし、配管を通しブースターポンプ等で昇圧し、ギアポンプ等で計量と押出しを行い、紡糸口金から吐出することによって行うことができる。ここで、紡糸口金の材質としては、ステンレス(SUS)あるいは金や白金等を適宜使用することができる。
また、得られる耐炎繊維において単繊維断面積のバラツキを低減させる面から、紡糸原液が紡糸口金孔に流入する前に、前記した無機繊維の焼結フィルターあるいは合成繊維例えばポリエステルやポリアミドからなる織物、編物および不織布などをフィルターとして用いて、紡糸原液を濾過あるいは分散させることが好ましい。
紡糸口金孔径としては口径の横長のスリット形状のものであれば、縦0.01〜0.06mm、横0.05〜0.30mm程度の任意の大きさのものを使用することができる。円形ノズルが近接して配されたノズルであれば、0.01〜0.5mmφのものを配してひとつの集まりとしたものとして使用することができる。孔長としては0.01〜1mmの任意のものを使用することができる。また、口金孔数としては10〜1000000まで任意のものを使用することができる。孔配列としては千鳥配列など任意に選択することができ、分繊し易いように予め分割しておいても良い。
紡糸口金から直接または間接に凝固浴中に紡糸原液を吐出し、凝固糸を得る。凝固浴液は、簡便性の点から、紡糸原液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成することが好ましく、凝固促進成分として水を用いることが好ましい。
凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合および凝固浴液温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択することができる。特に、凝固浴濃度は、重量比において溶媒/水=0/100〜95/5の任意の範囲で、30/70〜70/30であることが好ましく、40/60〜60/40であることが特に好ましい態様である。また、凝固浴としてプロパノールやブタノール等の、水との親和性を低減させたアルコールを用いる場合であれば、100%浴として用いることもできる。また、凝固浴の温度は、凍結や沸騰しない範囲で任意の温度とすることができる。上記の条件を調整することにより、凝固糸の膨潤度は、300〜600%とすることが好ましい。かかる範囲は可紡性の観点から決められ、さらに後工程の浴延伸性に影響を与え得るものである。
次に、凝固糸を、延伸浴で延伸するか、水洗浴で水洗することが好ましい。もちろん、延伸浴で延伸すると共に、水洗浴で水洗しても良い。ここでの延伸倍率は、好ましくは0.95〜5倍であり、より好ましくは1.00〜3倍であり、更に好ましくは1.10〜2.5倍である。延伸浴には、温水または溶媒/水が用いられ、溶媒/水の延伸浴濃度は重量比において0/100〜70/30の任意の範囲とすることができる。また、水洗浴には、通常、温水が用いられ、延伸浴および水洗浴の温度は50〜100℃であることが好ましく、より好ましくは60〜95℃であり、さらに好ましくは65〜85℃である。浴延伸および水洗を行うことにより、凝固糸はわずかに緻密化されるが、その膨潤度は200〜500%とすることが好ましい。
得られた水洗糸には、単繊維接着の紡糸や工程通過性の向上の観点から、油剤を付与することが好ましい。油剤の種類としては特に限定されず、ポリエーテル系やポリエステルの界面活性剤、シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、およびポリエーテル変性シリコーンを単独あるいは混合して付与することができるし、その他の油剤成分を付与しても良いが、単繊維接着の紡糸の観点から、シリコーンの入った珪素系の油剤を付与することが好ましく、その際の珪素付着量は0.01〜5.0重量%程度とすることが好ましい。
ここで、油剤には、耐炎化処理における繊維表面での反応を抑制し、繊維の内外構造差を小さくするために耐炎化遅延物質を添加することも可能である。しかしながら、このような物質の多くは、炭化処理後も炭素繊維に残留し異物となるため、使用量を極力減らすことが好ましく、全く使わないことが望ましい。
油剤が付与された繊維は、乾燥によりさらに緻密化される。乾燥方法としては、乾燥加熱された複数のローラーに直接接触させる方法、熱風や水蒸気を送る方法、赤外線や高周波数の電磁波を照射する方法、および減圧状態とする方法等を適宜選択し組み合わせることができる。ここで、乾燥温度は、50〜300℃程度の範囲で任意に設定することができるが、乾燥温度を高くしすぎると単繊維同士の接着が増加してしまうことから、150℃〜200℃で乾燥することが好ましい。
乾燥後の繊維の比重は、通常、1.15〜1.5であり、好ましくは1.2〜1.4であり、より好ましくは1.2〜1.35である。乾燥後の繊維における単繊維の断面積の変動係数は、好ましくは5〜30%であり、より好ましくは7〜28%であり、さらに好ましくは10〜25%である。また、乾燥後の繊維における単繊維の伸度は、0.5〜30%であることが好ましい。
得られた乾燥糸には、配向度を増加させるため延伸を行うことが好ましい。延伸温度は200〜350℃の範囲で任意に設定することができ、延伸倍率は1.1〜4倍が好ましく、より好ましくは1.2〜3.5倍であり、更に好ましくは1.3〜3.0倍である。
得られた乾燥糸は、すでに耐炎ポリマーで構成されていて、一定の耐熱性を有するものであるので、そのまま耐炎繊維束として炭化工程に供しても良いし、炭素繊維束の物性の向上や炭化工程における収率(炭化収率)を改善するため、紡糸後炭化処理する前にさらに耐炎化処理を行って、耐熱性を向上させた耐炎繊維束を炭化工程に供しても良い。ここで、耐炎化処理とは、紡糸して得られた繊維束を熱処理や酸化処理して、その耐熱性を向上させる処理全般を指す。さらに、追加で耐炎化処理を行う際においては、十分な生産性を確保するために、耐炎化処理時間を1時間以下とすることが必要である。さらに生産性を上げるためには、耐炎化処理時間を30分以下とすることが好ましく、さらには15分以下とすることが好ましい。また、前述のとおり、紡糸前のポリマーの段階で耐炎化を十分に進めておくことにより、紡糸後に、実質的に耐炎化処理を行わないようにすることも可能であり、それがもっとも好ましい形態である。
紡糸後に耐炎化処理を行う場合には、気体中で行う方法や液体中で行う方法など任意の方法で行うことが可能であるが、設備コストの面から気体中で加熱する方法が好ましく、最終的な炭素繊維の物性を向上するためには酸素を含有する気体中で加熱することが好ましい。この場合、コスト面からもっとも好ましい実施形態は、加熱した空気により耐炎化処理を行うことである。
耐炎化処理の温度を高く設定すると短時間で処理が可能となるが、炭素繊維束の物性と多フィラメント化時の蓄熱に対しては不利に働くことになる。耐炎化処理の好ましい処理条件としては、290℃〜230℃の温度で1分〜60分の間であり、より好ましい条件としては、270℃の温度で14分が例示される。
次に、得られた耐炎繊維束を炭化処理して炭素繊維束を得る。炭化処理の方法や条件については適宜採用することが可能であるが、具体的な方法としては、前記の耐炎繊維束を不活性雰囲気中最高温度300℃以上、2000℃未満の範囲の温度で処理することによって炭素繊維束を得ることができる。炭化処理工程は、複数の工程に分けることが好ましく、特に2工程に分割することが好ましい。すなわち、前半の工程では400℃以上900℃以下の温度で加熱処理し、より好ましくは500℃以上800℃以下の温度で加熱処理し、後半の工程として1000℃以上の温度で加熱処理し、好ましくは1200℃以上の温度で加熱処理し、より好ましくは1400℃以上の温度で加熱処理を行う。ここで、炭化温度を高くするほど高弾性率の炭素繊維束を得ることができるが、炭化温度が高すぎると炭化処理工程での収率が低くなり、生産性が低下してしまうことから、最高温度は1800℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。また、そのようにして得られた炭素繊維束を、さらに不活性雰囲気中、2000〜3000℃の温度で加熱することによって黒鉛構造の発達した炭素繊維束とすることもできる。
得られた炭素繊維束はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する用途により適宜選択することができる。
かかる電解処理により、得られる炭素繊維複合材料において炭素繊維材料とマトリックスとの接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる炭素繊維複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないというような問題が解消され、得られる炭素繊維複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
この後、得られる炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明の扁平断面炭素繊維束の製造方法においては、紡糸後に行う耐炎化工程の時間が大幅に軽減、または、実質的に行わないようにすることができる。これにより、従来のPAN繊維を用いた炭素繊維製造工程において焼成工程に含まれる耐炎化処理を、より速度が高く設備生産性に優れた製糸工程の最後で行うことも可能であり、さらには製糸工程と焼成工程を繋げ、紡糸後炭化処理する前に、繊維束を一旦巻き取ることなく連続して焼成を行うことができる。
本発明の炭素繊維複合材料は、プリプレグやシートモールディングコンパウンド、あるいはチョップトファイバー等に一旦加工した後にハンドレイアップ法、プレス成型法、オートクレー部方、およびプルトルージョン法等の成型法により製造することができる。
プリプレグは、リバースロールコーターやナイフコーターなどによりマトリックス樹脂組成物を離型紙上に塗布してフィルム化し、強化繊維基材にマトリックス樹脂組成物のフィルムを重ねて加熱加圧して含浸させたり、または強化繊維基材を直接、マトリックス樹脂組成物の溶液に浸漬し、乾燥させることや、スプレーコーターなどを用いて直接樹脂を強化繊維基材に吹き付けることにより製造することができる。プリプレグの繊維重量含有率は、好ましくは30〜80重量%である。繊維重量含有率が30重量%未満では、マトリックス樹脂組成物の量が多すぎて、比強度と比弾性率に優れた繊維強化複合材料の利点が得られなかったり、繊維強化複合材料の成形の際の発熱量が高くなりすぎることがある。また、繊維重量含有率が80重量%を超えると、マトリックス樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる繊維強化複合材料は、ボイドの多いものとなることがある。
次に実施例により、本発明の扁平断面炭素繊維束と炭素繊維複合材料について、より具体的に説明する。実施例における各物性値または特性は、次の方法により測定した。
<耐炎ポリマーの単離と濃度測定>
耐炎ポリマーを含有する溶液を秤量し、約4gを500mlの水中に入れ、これを沸騰させた。一旦固形物を取り出し、再度500mlの水中に入れて、これを沸騰させた。残った固形分をアルミニウムパンに乗せ、120℃の温度のオーブン中で1時間乾燥し耐炎ポリマーを単離した。単離した固形分を秤量し、元の耐炎ポリマーを含有する溶液の重量との比を計算して濃度を求めた。
<耐炎ポリマー含有溶液の粘度>
耐炎ポリマーを含有する溶液を100mLポリカップに80mL入れ、温浴で30℃に温調する。アルコール温度計で、溶液の内温が30℃±0.5℃にあることを確認した後に、B型粘度測定器を用いて粘度を3回測定し、その平均値を採用した。本発明の実施例では、B型粘度測定器として、東京計器社製B−8Lを用いた。
<耐炎ポリマーおよび炭素繊維原料繊維(耐炎繊維)の耐炎化進行度測定>
耐熱ポリマーについては、上記の耐炎ポリマーの単離法に基づき単離した後に、また耐炎繊維については繊維を鋏で細かく切断した後に、それぞれ凍結粉砕を行い、得られた分状物2mgと赤外求光用KBr300mgとを乳鉢でさらに粉砕混合し、錠剤成型器にて錠剤を成型した。得られた錠剤について、FT−IR測定器(島津製作所製)を用いて測定を行い、1585cm−1から1610cm−1の間における最大の吸光度を求めた。
<炭素繊維束の断面形状>
炭素繊維束を繊維軸に垂直な面に沿ってカミソリで切断し、走査型電子顕微鏡を用いて断面形状の観察を行った。測定倍率は、視野内に炭素繊維が3〜5本が完全に収まるような倍率とし、得られた画像から炭素繊維束における単繊維の長軸(a)と短軸(b)の比率を求めた。
<各種繊維における単繊維引張強度>
いずれの繊維も、JIS L1015(1981)に従って引張試験を行った。表面が滑らかで光沢のある紙片に、5mm幅毎に25mmの長さの単繊維を1本ずつ試料長が約20mmとなるよう両端を接着剤で緩く張った状態で固着した。試料を単繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長20mm、引張速度1mm/分で測定した。測定数はn=50とし、全測定の平均値を引張強度とした。強度の計算に必要な単繊維の断面積については、下記の炭素繊維束の目付と比重を、後述する手順に従い測定し、下記の式(2)を用いて計算したものを用いた。
s=W/100×n×ρ ・・・ (2)
[式中、s:単繊維断面積(cm)、W:炭素繊維束の目付(g/m)、n:炭素繊維束中の糸条数(本)、およびρ:炭素繊維束の比重(g/cm)をそれぞれ表す。]
<繊維束の目付測定>
繊維束を1m切り出し、120℃の温度で2時間乾燥させた後、電子天秤を用いて重量を測定した。
<繊維束の比重測定>
電子天秤を付属した液浸法による自動比重測定装置を自作し、具体的に炭化処理前の繊維束の場合には、エタノールを用い、炭化処理後の繊維束(炭素繊維束)の場合には、ジクロロベンゼンを液として用い、この中に試料を投入し測定した。予め投入前にエタノールまたはジクロロベンゼンを用い、別浴で試料を十分濡らし、泡抜き操作を実施した。
[実施例1]
前駆体ポリマーとしてアクリロニトリルホモポリマー10重量部と、環化剤としてモノエタノールアミン3.5重量部と、酸化剤としてオルトニトロトルエン8.0重量部と、酸として安息香酸3.0重量部とを、有機溶剤であるジメチルスルホオキシド75.5重量部に分散し分散体とした。得られた分散体を、窒素を緩やかに流した窒素雰囲気下で150℃の温度で8時間撹拌した後に、30℃の温度まで冷却してジメチルスルホオキシド中に耐炎ポリマーが分散した溶液を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する溶液の耐炎ポリマーの濃度は11.4重量%で、粘度は5.0Pa・secであった。また、1585〜1610cm−1の間のIR吸光度は0.7を示し、PANの耐炎化反応が進行していることが示された。
得られた耐炎ポリマー含有溶液を、湿式紡糸装置で次のようにして繊維化した。耐炎ポリマー含有溶液を焼結フィルターに通した後、縦0.03mm、横0.10mmのスリット状で吐出孔が24,000ホールである紡糸口金から、30℃の温度のDMSO/水重量比=55/45浴中に吐出し凝固糸を得た。この際、単孔吐出量は0.13g/分であり、浴からの引き出し速度が12.8m/分であった。
この凝固糸を70℃の温度のDMSO/水重量比=30/70浴中を通して1.1倍に延伸し、引き続いて80℃の温度のDMSO/水重量比=10/90浴中を通して1.03倍に延伸した。さらに80℃の温度の温水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ、洗浄した。その後、アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を油剤濃度3.0重量%で、油剤成分付着量が3.0重量%となるように付与した後、熱風循環炉中200℃の温度で3分間乾燥した。乾燥糸の比重は1.22であり、伸度は23%であった。また、乾燥後の珪素含有量は0.34重量%であり、乾燥緻密化時の接着が無く、しなやかな状態の乾燥糸が得られた。
さらに得られた乾燥糸を、輻射ヒーターで270℃の温度に加熱して3.0倍に延伸すると同時に1分間熱処理して耐炎繊維束を得た。この耐炎繊維束について、IRにより耐炎化の進行度合いを調べたところ、吸光度は1.0であり、紡糸過程における乾燥時や延伸時の熱で耐炎化が進行していることが示された。
得られた耐炎繊維束を、さらに250℃の温度に加熱した空気を糸条に対して直交する方向に3.0m/分の速度で吹き付けている、処理長7mのオーブンに7回通すことにより、更なる耐炎化処理を行った。このとき、炉内における熱処理時間は、耐炎化処理後の耐炎繊維束の耐炎化進行度をIRにて測定したときに吸光度が1.7付近となる30分に設定した。その結果、処理速度は(7×7)/30=1.63m/分であり、巻き出し速度を1.36m/分、巻き取り速度を1.63m/分として、1.2倍の延伸を行いながら、30分の耐炎化処理を行った。耐炎化処理中、概繊維束は糸切れすることもなく、工程通過後には繊維通しの接着も見られなかった。
さらに、耐炎化処理された耐炎繊維束を窒素雰囲気中、300〜800℃の温度で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃の温度で炭化処理して炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の断面形状をSEM観察により測定した結果、単繊維の表面平滑度Sは1.25、軸長比Rは3.0((a):3.0μm、(b):9.0μm)であり、強度は3.2GPaであった。また、炭化工程における炭化収率は50%であった。
得られた炭素繊維束から、プリプレグを作成した。プリプレグ用の樹脂組成物は、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂“jER”(登録商標)828(ジャパンエポキシレジン(株)製)を50重量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂“jER”(登録商標)1001(ジャパンエポキシレジン(株)製)を50重量部と、DICY(ジシアンジアミド)を4重量部と、DCMM(ジクロロジメチルウレア)を5重量部、混練することにより作成した。樹脂組成物を、リバースロールコーターを使用し離型紙状に塗布し、樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に整列させた扁平断面炭素繊維束に樹脂フィルム2枚を扁平断面炭素繊維束の両面から重ね、加熱加圧して樹脂組成物を含浸させたところ、得られた一方向プリプレグの繊維重量含有率は75%であった。得られたプリプレグを、自動裁断機でカットし、カットしたプリプレグを積層し、積層板にプレッシャープレートを乗せた。積層したプリプレグを圧力3.0kg/cmで加圧しながら135℃の温度で2時間、オートクレーブで成形しコンポジットを作成した。得られたコンポジットの0°引っ張り試験による強度は2610MPaであった。
[実施例2]
縦0.05mm、横0.10mmのスリット状で吐出孔が24,000ホールの紡糸口金から紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸し、耐炎化処理し、炭化処理を行った。耐炎化処理中、繊維束は糸切れすることもなく、工程通過後には繊維通しの接着も見られなかった。得られた炭素繊維束の表面平滑度Sは1.25であり、軸長比Rは2.5((a):4.0μm、(b):10.0μm)であり、強度は3.8GPaであった。であった。また、炭化処理工程における炭化収率、は52%であった。
実施例1と同様にプリプレグを作成したところ繊維含有率は68%であった。概プリプレグから実施例1と同様にしてコンポジットを作成したところ、0°引っ張り試験による強度は2370MPaであった。
[実施例3]
縦0.03mm、横0.25mmのスリット状で吐出孔が24,000ホールの紡糸口金から紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸し、耐炎化処理し、炭化処理を行った。耐炎化処理中、繊維束は糸切れすることもなく、工程通過後には繊維通しの接着も見られなかった。得られた炭素繊維束の表面平滑度Sは1.25であり、軸長比Rは8.0((a):3.0μm、(b):24.0μm)であり、強度は3.5GPaであった。また、炭化処理工程における炭化収率、は53%であった。
実施例1と同様にプリプレグを作成したところ繊維含有率は67%であった。プリプレグから実施例1と同様にしてコンポジットを作成したところ、0°引っ張り試験による強度は2210MPaであった。
(比較例1)
口径0.06mmで円形の吐出孔が24,000ホールの紡糸口金から紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸し、耐炎化処理し、炭化処理を行った。耐炎化処理中、繊維束は糸切れすることもなく、工程通過後には繊維通しの接着も見られなかった。得られた炭素繊維束の表面平滑度Sは1.25であるが、繊維断面はほぼ真円であり軸長比Rは1.0となった。炭素繊維の強度は3.9GPaであったが、実施例1と同様に作成したプリプレグの繊維含有率は60%であった。そのプリプレグから実施例1と同様にしてコンポジットを作成したところ、0°引っ張り試験による強度は2090MPaと低い値であった。
(比較例2)
実施例1の単孔吐出量を0.06g/分凝固浴からの引き出し速度を6m/分として、実施例1の延伸倍率に合わせて紡糸したこと以外は、実施例1と同じ条件で耐炎化処理し、炭化処理を行った。耐炎化処理中、繊維束は糸切れすることもなく、工程通過後には繊維通しの接着も見られなかった。得られた炭素繊維束の軸長比Rは2.0((a):4.0μm、(b):8.0μm)で、強度は3.6GPaであったが、表面平滑度Sは1.12であった。実施例1と同様にプリプレグを作成したところ繊維含有率は66%であった。概プリプレグから実施例1と同様にしてコンポジットを作成したところ、0°引っ張り試験による強度は1680MPaと低い値であった。
(比較例3)
紡糸溶液として、アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる、粘度が50Pa・secでポリマー濃度が19.7%のポリアクリロニトリル共重合体溶液を使用し、紡糸溶液を焼結フィルターに通した後、実施例1と同じ紡糸口金から30℃の温度のDMSO/水重量比=55/45の浴中に吐出した。浴中に吐出された繊維を12.8m/分での速度で引き出し、70℃の温度のDMSO/水重量比=30/70の浴中を通して2.5倍に延伸し、引き続いて80℃の温度のDMSO/水重量比=10/90の浴中を通して2.0倍に延伸した。さらに80℃の温度の温水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ、洗浄した。その後、アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を油剤濃度3.0重量%で、油剤成分付着量が3.0重量%となるように付与した後、表面温度160℃のホットローラーに合計1分接触させることにより乾燥し乾燥糸を得た。さらに乾燥糸を0.3MPaの加圧蒸気により加熱し3.0倍に延伸してポリアクリロニトリル繊維束を得た。このポリアクリロニトリル繊維束についてIRにより耐炎化の進行度合いを調べたところ、吸光度は0.1以下であり、耐炎化は進行していないことが示された。
続けて、上記のようにして得られたポリアクリルニトリル繊維束を、実施例1と同様な設備と手法を用い耐炎化処理を行ったところ糸切れし、耐炎化できなかった。
(比較例4)
比較例1と同様にして得られたポリアクリロニトリル繊維束を、糸切れしない温度(230℃)で耐炎化処理を行ったところ、実施例1と同程度の耐炎化進行度を得るためには2倍の耐炎化時間を要した。また、得られた耐炎化繊維束は単繊維同士の接着が見られた。その耐炎化繊維束を実施例1と同様に炭化処理したところ、単繊維同士の融着が多数見られ、強度は1.7GPaと非常に低い値であった。

Claims (3)

  1. 断面組織が等方性組織の集合体である炭素繊維束であって、その表面平滑度Sが1.20以上1.50以下であり、かつ単繊維の長軸(a)と短軸(b)の比率Rが1.2〜10の扁平断面形状であることを特徴とする扁平断面炭素繊維束。
  2. 炭素繊維の前駆体ポリマーが、ポリアクリロニトリルを出発物質とする耐炎ポリマーである請求項1記載の扁平断面炭素繊維束。
  3. 請求項1記載の扁平断面炭素繊維束と樹脂からなることを特徴とする炭素繊維複合材料。
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