JP4953410B2 - 炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維に関するものであり、さらに詳しくは、表面形態を化学的に制御した炭素繊維とその製造方法に関する。
従来、アクリル繊維を前駆体繊維とする炭素繊維は、その優れた力学的性質により、航空宇宙用途を始め、スポーツ、レジャー用途の高性能複合材の補強繊維素材として広い範囲で利用されている。
航空機の一次構造材に使用されるコンポジットには、耐衝撃強度の大きいこと、特に損傷許容性に重点をおいた衝撃後の残存圧縮強度(以下、CAIと略記する。)の高いこと、それら強度のばらつきが小さいことが強く求められている。一般的にコンポジットのCAIを向上させるためにマトリックス樹脂の強靭化と炭素繊維の高強度化による改良の試みが多くなされてきている。
コンポジットの強度は、炭素繊維の表面の化学的、物理的な状態と密接な関係があり、炭素繊維表面の酸素濃度を適切な範囲とすることにより、コンポジットの強度を高いものとすることができる。しかし、酸素濃度が小さすぎるとマトリックス樹脂との接着性が悪く強度が劣り、逆に、酸素濃度を大きくすると接着性は改善されるが、このような炭素繊維を得るためには、表面を電解処理する電解質の濃度を高くしたり、処理時間を長くしたりするなど工程生産性が悪くなる問題点があった。
また、炭素繊維表面の物理的な性状については、平滑な炭素繊維では、樹脂との接着性が劣り、コンポジットにしたときに強度特性が十分に発揮できず、また、表面の凹凸が大きい炭素繊維では、樹脂との接着性は改善されるが、凹凸が大きすぎると表面欠陥となり、コンポジットにしたときの強度に劣るという欠点があった。
また、炭素繊維表面の窒素濃度や窒素官能基量についてもコンポジットの強度を発現するために適切な範囲や組成が存在すると考えられるが、何ら明らかになっていないのが現状である。
特許文献1には、JIS R−7601で測定したストランド強度が580kg/mm(5684MPa)、弾性率が30〜40ton/mm(294〜392GPa)であり、NASARP1092法で測定したCAI値が30kg/mm(294MPa)以上のアクリル系高性能炭素繊維が記載されている。
しかしながら、近年の航空機用途ではSACMA法準拠によるCAI試験値が要求される場合が多く、前記炭素繊維は、SACMA法CAIでは、必ずしも高いCAI値を示さなかった。
特開平10−25627号公報
本発明の目的は、炭素繊維の表面酸素濃度及び窒素濃度と窒素ピーク半値幅、および窒素ピーク形状とSACMA法準拠によるCAI値とそのばらつきとの関係を明らかにし、航空機用途複合材料としての強度発現性、特にSACMA法準拠によるCAI値が高く、さらにSACMA法準拠によるCAI強度発現が再現性良く安価な炭素繊維およびその製造方法を提供することにある。以下、SACMA法準拠によるCAI値を単にCAI値という。
本発明の第1の要旨は、X線光電子分光法で測定した、炭素繊維表面の窒素濃度N1S/C1Sが0.01〜0.3、N1Sピークの半値幅が2〜4eV、炭素繊維表面の酸素濃度O1S/C1Sが0.04〜0.2であり、走査型プローブ顕微鏡で測定した炭素繊維の表面積比が1〜1.028である、炭素繊維である。
第2の要旨は、凝固糸条を乾燥緻密化前に、空中で延伸倍率1〜3倍、温水中で1〜3倍、それぞれ延伸する湿式法紡糸により得られたアクリル繊維を耐炎化後、最高温度1700℃以下の不活性雰囲気中で炭素化して炭素繊維とし、この炭素繊維を電解質濃度0.1〜20質量%、電気量0.1〜200クーロン/gで電解酸化し、引き続き、水中で周波数0.01〜200kHz、処理時間0.1秒〜60分で超音波洗浄を行なった後、500℃以下の温度で乾燥する、炭素繊維の製造方法にある。
本発明によりCAI値が高くさらにCAI強度発現が再現性良い炭素繊維およびその製造方法を提供する。
『炭素繊維』
<表面酸素濃度O1S/C1S、窒素濃度N1S/C1Sの測定>
本発明の炭素繊維の表面酸素濃度O1S/C1S(以下、表面酸素濃度という。)、窒素濃度N1S/C1S(以下、表面窒素濃度という。)は、X線光電子分光機 VG社製ESCALAB、220iXLによって得られるものである。評価すべき炭素繊維をサンプル台にのせて固定し、常法により測定を行なった。酸素濃度は538eV〜524eV、窒素濃度は393eV〜407eVまでの範囲を積分し、C1Sピーク面積に対する割合として評価した。
<表面窒素濃度>
本発明の炭素繊維は、表面窒素濃度が0.01〜0.3であることが必要であり、より好ましくは0.03〜0.08である。
この窒素濃度は、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性、コンポジットの強度に関わる。この窒素濃度が0.01以上であれば良好なCAI強度が得られ、航空機材料として使用が可能となる。また、窒素濃度が0.30以下とすることで、炭素繊維の製造コストが実用的な範囲となる。
また、本発明にあってはX線光電子分光法により測定したN1Sピークの半値幅が2〜4eVであることが必要であり、好ましくは2.5〜3.8eVが好ましい。この半値幅が2〜4eVであると、炭素繊維表面に存在する窒素官能基の組成が、高いCAI強度を得るために最も適した組成となっているので、CAI強度を良好なものとし、またCAI強度のばらつきが小さく抑えられる。
<表面酸素濃度>
また、本発明の炭素繊維では、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を良くするために、表面酸素濃度を0.04〜0.2とする。より良い接着性を得るために0.08〜0.19とすることが好ましい。表面酸素濃度が0.04以上とすることにより炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性は良好となりより、また0.2以下とすれば、酸素官能基の過剰導入によるコンポジットの脆性的破壊を防ぐことができる。
<表面積比>
さらに本発明にあっては、炭素繊維表面の物理的性状も重要である。
本発明の炭素繊維は、走査型プローブ顕微鏡で測定した炭素繊維の表面積比により表面の物理的状体を特定している。走査型プローブ顕微鏡による測定は以下のようにして実施できる。
走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ製、SPI3800/SPA−400)によりシリコンナイトライド製のカンチレバーDF−20を使用してサイクリックコンタクトモードにて測定を行なう。各炭素繊維単糸の中央部分2.5μm四方の範囲を測定し、その形状像を得る。得られた測定画像は装置付属のソフトにてローカルフィルターの処理を行ない、続いて三次傾き補正を行なう。この処理により炭素繊維表面の曲率に由来する成分を除き、急峻な皺形状のみを表示するものとする。この画像について装置付属のソフトウエアの表面粗さ解析モードにて投影面積に対する実表面積の比率すなわち表面積率を測定する。
本発明にあっては、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を発現するために表面積比、つまり投影面積に対する実表面積の値は1〜1.028であることが必要である。1.028以下とすることにより炭素繊維そのものの強度と接着性の両立が可能となる。より好ましくは1.002から1.026である。
また、炭素繊維表面の平均面粗さRaは、1〜10nmであることが好ましく、より好ましくは3〜8nmである。平均面粗さRaが1nm以上であれば、マトリックス樹脂との接着が良好となり。また平均面粗さRaが10nm以下であれば、炭素繊維の強度低下によるコンポジットの強度低下は起こらない。ここで、平均面粗さRaとは、走査型プローブ顕微鏡において炭素繊維表面の測定を行ない、装置付属のソフトウエアの表面粗さ解析モードにて測定した値である。
炭素繊維の表面には、繊維長手方向に多数の皺が延在するが、皺の最大深さ、つまり炭素繊維表面から繊維軸中心方向へ向かって存在する皺の深さのうち、最も深い皺が100nm以下であることが望ましい。最大の皺の深さが100nmより大きい場合、10nmより小さい場合は、コンポジットにした時の接着性が悪いため、10〜90nmが好ましい。なお、表面積比が1〜1.028であれば、本発明においては最大の皺の深さが100nm以下であることが満たされる。
<中心が399.5eVのピークのN1Sピーク面積に占める割合>
また、本発明の炭素繊維は、X線光電子分光法により測定した炭素繊維のN1Sピークのピーク分離を行ない、中心が399.5eVのピークがN1s面積の30〜50%を占めることが好ましい。
1Sピークの分離については参考文献Leighton H.Peebles著、CARBON FIBERS Formation,Structure and Properties,出版社:CRCpressの第95頁〜第98頁を参照に分離した。すなわち、N1Sピークを高エネルギー側から、中心ピークが401.2eVとなるピークA(ピークDからのシェークアップサテライト)、同じく中心ピークが400.5eVとなるピークB(ピークEからのシェークアップサテライト)、399.5eVとなるピークC、398.6eVとなるピークD(アクリドン環等由来)、397.8eVとなるピークE(ナフチリジン環、水素化1フィルジン環等由来)の5つに分離する。その後、5つのピークの真中のピーク、つまり中心エネルギーが399.5eV付近のピークCの面積を中心が399.5eVのピークとし、このピーク面積をN1Sピーク全体の面積で除して得られる値を求めたものである。
中心が399.5eVのピーク面積が30%以上とすることにより、炭素繊維の表面に存在する特定の窒素官能基たとえばアクリドン環やナフチリジン環など、あるいはそれに由来するシェークアップサテライトが制限され、また中心が399.5eVのピーク面積が50%以下とすることにより、炭素繊維の表面に存在するアクリドン環やナフチリジン環などが適度に含まれるため、炭素繊維表面に存在する窒素を含む官能基の量が適切で、CAI強度として再現性良く高い値が発現できる。詳細な構造は不明であるが、N1Sピークをピーク分離した際に高エネルギー側、および低エネルギー側にそれぞれ少なくとも10〜20%のピーク面積を有する化合物の存在が必須であるものと考える。
つまり、炭素繊維表面性状とその後のCFRP強度、またCAI強度試験に関しては、わずかな炭素繊維表面官能基の組成、量、形状の変化など複雑な要因が絡み合って最終的な強度と再現性を決定しているのである。
従って、このように炭素繊維表面の窒素濃度、窒素ピーク半値幅、ピーク比、および酸素濃度などの化学的性質、および表面積比などの物理的性質が制御された炭素繊維を用いることにより、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性やその界面にかかる力、エネルギー吸収の状態などが最適となるため、CAI強度が高く、CAI強度のばらつきの少ない炭素繊維が提供できるのではないかと考えられる。炭素繊維の表面形態は炭素繊維複合材料の炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性に大きく影響するものであり、表面形態を制御することにより、炭素繊維複合材料の目的、用途に応じた性能が得られるようになる。
『炭素繊維の製造方法』
以下に、本発明の炭素繊維の製造方法を説明する。
<アクリル繊維>
本発明の炭素繊維の製造方法では、前駆体繊維としてアクリル繊維を使用する。アクリル繊維を構成する重合体のモノマー組成は、この用途に用いられている公知のものでよい。重合方法は、溶液重合、懸濁重合等公知の方法の何れをも採用することができる。
重合された共重合体からは、未反応モノマーや重合触媒残査、その他の不純物類を極力除くことが好ましい。
共重合体は、溶剤に溶解され紡糸原液となる。溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤や、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウム等の無機化合物の水溶液を使用することができるが、繊維中に金属を含有せず、工程が簡略化される点で有機溶剤が好ましく、その中でもジメチルアセトアミドが最も好ましい。
紡糸したときに緻密な凝固糸を得るためには、紡糸原液としてある程度以上のポリマー濃度を有するポリマー溶液を使用することが好ましく、ポリマー濃度としては17質量%、さらに好ましくは19質量%以上である。また、通常25質量%以下が好ましい。
紡糸方法としては、紡糸原液をノズル孔より凝固浴中に吐出し凝固糸とする。凝固浴は、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液が好適に使用され、含まれる溶剤の濃度を調節する。この濃度は、使用する溶剤によって一般的に異なるが、例えばジメチルアセトアミドを使用する場合、その濃度は50〜80質量%、好ましくは60〜75質量%である。
また、凝固浴の温度は、温度が低い方が好ましいが、温度を下げすぎると凝固糸の引き取り速度を低下させ生産性が低下する点を考慮し、通常50℃以下、さらに好ましくは20〜40℃である。
<乾燥緻密化前の延伸>
上記凝固糸は、延伸倍率1〜3倍で空中延伸されることが必要である。空中延伸における延伸倍率が1倍未満とすると前駆体製造工程全体での延伸性を確保できなくなることがある。
空中延伸倍率を1〜3倍とすることで、表面の物理的形態の指標である最大の皺の深さ、平均面粗さ、投影面積に対する実表面積の比が、それぞれ好ましい範囲を有する炭素繊維が得られる。延伸倍率が3倍を超えると、炭素繊維にしたときの投影面積に対する実表面積の比が1.028を超える炭素繊維となり、コンポジットにしたときに十分な強度が得られない。
次いで、凝固糸は、温水中で溶媒を洗浄しながら延伸される。このときの延伸倍率は、1〜3倍とする必要がある。延伸における延伸倍率が1倍未満とすると前駆体製造工程全体での延伸性を確保できなくなることがある。湿熱延伸倍率が3倍を超えると、炭素繊維にしたときの投影面積に対する実表面積の比が1.028を超える炭素繊維となり、コンポジットにしたときに十分な強度が得られない。この延伸方法として、2段以上の多段延伸方法を用いることも可能である。
さらに延伸浴温度は、単糸同士が融着しない範囲でできるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、延伸浴の温度は70℃以上の高温とすることが好ましい。多段延伸の場合は、最終浴を90℃以上の高温にすることが好ましい。
延伸、洗浄後の繊維は公知の方法によって油剤処理を行なう。油剤の種類は特に限定されるのではないが、アミノシリコン系界面活性剤が好適に使用される。
油剤処理後、乾燥緻密化が行なわれる。乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を越えた温度で行なう必要があるが、実質的には含水状態にあるか乾燥状態にあるかによって異なることもあり、温度は100〜200℃程度の加熱ローラーによる方法が好ましい。
乾燥緻密化後、後延伸を行なう。後延伸は、高温の加熱ローラー、熱盤ピン等による乾熱延伸、或いは加圧スチームによるスチーム延伸等の種々の方式を用いることができる。延伸倍率としては1.1倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上である。乾燥緻密化の前に実施される空中延伸と温水中の延伸とからなる前延伸工程と前記乾燥緻密化の後に実施される後延伸工程と、これら全体として、所定の延伸倍率を達成するように、後延伸工程における延伸倍率が選択される。
<耐炎化>
本発明の炭素繊維の製造方法では、耐炎化の条件は特に限定しない。引き続き実施される炭素化に支障がなければよい。アクリル繊維は、220〜270℃の熱風耐炎化炉を通過せしめて耐炎化繊維となる。耐炎化工程における雰囲気については、空気、酸素、二酸化窒素、塩化水素などの各酸化性雰囲気を採用できるが、空気雰囲気がローコストであり、好ましい。
<炭素化>
耐炎化を完了した耐炎化繊維は、常法により、不活性雰囲気中で最高温度が1700℃以下の温度で炭化される。本発明での不活性雰囲気とは酸素濃度50ppm以下である。ここでの雰囲気温度は、得られる炭素繊維の性能を高める観点から、1000℃以上が好ましく、1200℃以上がさらに好ましい。本発明のような表面形態をもつ炭素繊維を得るためには炭化温度は1200℃〜1500℃が特に好ましい。
また、ボイドなど、炭素繊維内部の欠陥の少ない、緻密性の高い炭素繊維を得るために、350〜500℃及び1000〜1200℃における昇温速度は、500℃/分以下が好ましく、より好ましくは300℃/分以下、さらに好ましくは150℃/分以下が良い。さらに、炭素繊維の緻密性を向上させるためには、350〜500℃において、1%以上、好ましくは5%以上延伸するのが良い。なお、10%を超える延伸は毛羽が発生し易くなるという点で不利となる。
本発明の炭素繊維の製造方法では、耐炎化と炭素化の間に耐炎化繊維を不活性雰囲気中300〜900℃の温度で処理する前炭素化処理を施すことが好ましい。
<電解処理>
本発明では、炭素繊維を電解質濃度0.1〜20質量%、電気量0.1〜200クーロン/gで電解酸化することが必要である。これにより、炭素繊維表面に酸素を含む官能基を導入し、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性、接着性を高めることができる。また、表面処理によって炭素繊維表面をエッチングすることにより本発明の窒素濃度、窒素ピーク形状が得られる。
電解酸化処理の電解液としては酸性、アルカリ性の何れも採用できる。酸性の電解液に溶存させる電解質の具体例としては、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、酪酸などの有機酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウムなどの塩が挙げられる。中でも強酸性を示す硫酸、硝酸が好ましく、硝酸アンモニウム等が使用できる。アルカリ性の電解液に溶存させる電解質の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムなどの有機塩類、さらにこれらのカリウム塩、バリウム塩又は他の金属塩、及びアンモニウム塩、水酸化テトラエチルアンモニウム又はヒドラジンなどの有機化合物が挙げられるが、樹脂の硬化障害を防止する観点から、アルカリ金属を含まない炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム類が好ましく使用できる。
ここでは、特に好ましい硝酸、炭酸水素アンモニウム、硫酸、炭酸アンモニウムについて詳細条件を述べるが、これらの電解質に限定されるものではない。例えば、電解質が2〜10質量%硝酸を例にあげると電気量は1〜100クーロン/gの範囲とするのが好ましい。電気量1クーロン/g未満のときはあまり酸化が進まず酸素を含む官能基が殆ど生成せず、また表面積比、Ra、皺の深さなど表面の物理的性状が好ましい範囲とならず、窒素量も少ないためCAI強度の高いものが得られない。また、100クーロン/gを超えて通電すると、過度のエッチングによるものと考えられるが、炭素繊維表面の表面積比が適切でなくCAI強度に劣る。
さらに2〜10質量%炭酸水素アンモニウム、硫酸を例に挙げると、電気量は1.0〜110クーロン/g、より好ましくは3.0〜105クーロン/gの範囲とすることが望ましい。電気量1.0クーロン/g以下のときは、あまり酸化が進まず酸素を含む官能基が殆ど生成しない。従って、コンポジットにした際の接着強度が発現しない。また、110クーロン/gを超えて通電すると、過度のエッチングによるものと考えられるが、炭素繊維表面の表面積比、Raが適切でなくCAI強度に劣る。
さらに2〜10質量%炭酸アンモニウムを例に挙げると、電気量は1.0〜95クーロン/g、より好ましくは5 .0〜95クーロン/gの範囲とすることが望ましい。電気量1.0クーロン/g以下のときは、あまり酸化が進まず酸素を含む官能基が殆ど生成しない。従って、コンポジットにした際の接着強度が発現しない。また、95クーロン/gを超えて通電すると、過度のエッチングによるものと考えられるが、炭素繊維表面の物理的な性状が適切でなくCAI強度に劣る。
電解酸化処理の後、炭素繊維表面の電解質ならびに、電解酸化処理によって付着した不純物を除去するために引き続き、水中で周波数0.01〜200kHz、処理時間0.1秒〜60分で超音波洗浄を行なう。超音波洗浄の温度は0℃以上100℃以下、より好ましくは10℃以上90℃以下である。0℃未満、100℃より高い場合は現実的でなく、工程作業性の面から劣る。上記の条件を外れると、超音波処理の効果が低く、従って充分な洗浄ができない。また、200kHzを超えると炭素繊維の破壊が懸念される。
処理時間は0.1秒以上60分以下、生産性の観点からより好ましくは1.0秒以上40分以下の範囲が好ましい。0.1秒未満では十分な洗浄が期待できず、従って不純物の除去が不十分でCAI強度に劣る。60分より長い場合は生産性に劣る。
つまり、超音波洗浄することにより炭素繊維表面に付着した接着強度を低下させる物質が除去され、CAI強度が高く、ばらつきの少ない炭素繊維が得られる。
その後炭素繊維糸条を乾燥させる。乾燥方法は、ロール乾燥、熱風乾燥および輻射熱乾燥など公知のいずれの技術も採用できるが、本発明においては特に乾燥温度を500℃以下、より好ましくは120℃から450℃で乾燥させる。80℃未満では乾燥に時間がかかり、生産性に劣る。また500℃より高いと炭素繊維の最表面に存在する官能基が熱分解により消失しやすい。乾燥工程においても炭素繊維表面に付着した物質が除去されるためと推定するが、前述の洗浄工程とあわせて行なうことにより、炭素繊維表面に付着した接着強度を低下させる物質が除去され、CAI強度が高く、ばらつきの少ない炭素繊維が得られる。
このような方法で得られた炭素繊維を、常法により、マトリックスと組み合わせて、中間基材であるプリプレグや、最終生産品である複合材料とすることができる。マトリックスとして使用する樹脂としては、特に制限はないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。また、マトリックスには、前記樹脂以外に、セメント、金属、セラミックスなどを使用することもできる。
以下、好ましい実施形態に基づき本発明をより具体的に説明する。なお、各物性値は以下に示す方法で測定した。各測定は複数の試料に対して評価を行ない、その平均値を採用した。また、含有率の表記に用いる「%」は質量%を表す。
<表面酸素濃度O1S/C1S、窒素濃度N1S/C1S
表面酸素濃度及び窒素濃度は、VG社製ESCALAB、220iXLを使ってX線光電子分光法により測定した。
評価すべき炭素繊維束をサンプル台にのせて固定し、常法により測定を行なった。酸素濃度は538eV〜524eV、窒素濃度は393eV〜407eVまでの範囲を積分し、C1Sピーク面積に対する割合として評価した。
<N1Sピークの半値幅>
上記の方法で測定したN1Sピークについて付属のソフトウエア(Spectral Processor Software Version 1.5)にてFWHM(半値幅)を計算により求めた。
<中心が399.5eVのピークのN1Sピーク面積に占める割合>
上記方法で通常のN1Sピーク測定後、装置付属のソフトウエアにてピーク分離を行なう。N1sピークにスムージング処理を行ない、5つのピークに分離する。ピークの分離については参考文献Leighton H. Peebles著,CARBON FIBERS Formation, Structure and Properties,出版社:CRCpressより特に第95頁〜第98頁を参照にした。すなわち、N1Sピークを高エネルギー側から、中心ピークが401.2eVとなるピークA(ピークDからのシェークアップサテライト)、同じく中心ピークが400.5eVとなるピークB(ピークEからのシェークアップサテライト)、399.5eVとなるピークC、398.6eVとなるピークD(アクリドン環等由来)、397.8eVとなるピークE(ナフチリジン環、水素化1フィルジン環等由来)の5つに分離する。その後、5つのピークの真中のピーク、つまり中心エネルギーが399.5eV付近のピークCの面積を中心が399.5eVのピークとし、このピーク面積をN1Sピーク全体の面積で除して得られる値を求めた。
<平均面粗さ>
評価すべき炭素繊維単糸を数本ヘモカバーグラス上にのせ、両端を接着液(例えば、文具の修正液)で固定し、さらにその直ぐ内側を導電性のあるもの(例えば、カーボンペースト)で接着したものをサンプルとし、走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ製、SPI3800/SPA−400)によりシリコンナイトライド製のカンチレバーDF−20を使用してサイクリックコンタクトモードにて測定を行なう。各炭素繊維単糸の中央部分2.5μm四方の範囲を測定し、その形状像を得る。得られた測定画像は装置付属のソフトにてローカルフィルターの処理を行ない、続いて三次傾き補正を行なう。この処理により炭素繊維表面の曲率に由来する成分を除き、急峻な皺形状のみを表示するものとする。その後上下、左右の両端に歪みがあるため、中心部分より2μm四方の画像を取り出し、装置付属のソフトウエアの表面粗さ解析モードにて平均面粗さRaを測定した。
<投影面積に対する実表面積の比率:表面積率>
上記の方法により走査型プローブ顕微鏡により得られた原像について、ローカルフィルターの処理を行ない、続いて三次傾き補正を行なう。この処理により炭素繊維表面の曲率に由来する成分を除き、急峻な皺形状のみを表示するものとする。この画像について装置付属のソフトウエアの表面粗さ解析モードにて投影面積に対する実表面積の比率すなわち表面積率を測定した。
<皺の深さ>
上記の方法により走査型プローブ顕微鏡により得られた原像についてローカルフィルターの処理を行ない、続いて三次傾き補正を行なう。この処理により炭素繊維表面の曲率に由来する成分を除き、急峻な皺形状のみを表示するものとする。この画像について装置付属のソフトウエアの表面粗さ解析モードにて任意の断面について表示されている皺の深さを測定する。すなわち、この方法においては皺の深さは概ね円形の断面の外延を仮定し、その外延からの皺の先端までの深さとして測定される。
かかる測定方法で得られた各炭素繊維単糸の表面に存在する複数の皺の中で、最も深い皺を「最大深さの皺」と定義する。
<ストランド強度および弾性率>
ストランド強度及び弾性率はJIS R−7601の方法で測定した。
ストランドの作製は、油化シェル社製「エピコート828」(100部)、無水メチルナジック酸(90部)、ジベンジルジメチルアミン(2部)、アセトン(50部)を混合した組成の樹脂を炭素繊維に含浸後、50℃で1時間、130℃に1時間かけて昇温後、130℃で2時間の条件で硬化させ、樹脂含浸ストランドを得る。得られた樹脂含浸ストランドを用い、樹脂含浸ストランド試験法(JIS R−7601に準拠)により樹脂含浸ストランドの引っ張り強度および弾性率を求めた。
<衝撃後残留圧縮強度(CAI)>
衝撃後残留圧縮強度(CAI)は、SACMA法に準拠して次のように行なった。三菱レイヨン社製エポキシ樹脂#1053Xと炭素繊維から炭素繊維目付け198g/m、樹脂含有率35%の一方向プリプレグを作成し〔+45°/0°/−45°/90°〕3sの擬似等方に積層し、180℃、2時間硬化させて寸法150mm×100mm×(厚み)4.5mmの試験片を作成する。
該試験片を3インチ(7.62cm)×5インチ(12.7cm)の矩形穴のあいたスチール製台に固定した後、その中心に16mmRのノーズをつけた5.6kgの分銅を落下せしめ、40Jの衝撃エネルギーを与えた後に、その板を圧縮することによりCAI値を求めた。同様の試験を10回繰り返し変動係数(%)を求めた。
以下、実施例及び比較例について具体的に説明するが、その結果のデータを表1にまとめて示した。
(実施例1)
アクリロニトリル単位96モル%、メタクリル酸単位1モル%、アクリルアミド単位3モル%からなるアクリル系共重合体をジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液(重合体濃度21質量%、原液温度60℃)を調整した。この紡糸原液を、直径0.075mm、孔数12000の口金を用い、温度38℃、67質量%ジメチルアセトアミド水溶液に吐出し凝固糸とした。
この凝固糸を、1.3倍で空中延伸し、続く温水中で2倍の延伸をしながら洗浄・脱溶剤を行なった後、1質量%となるようにアミノシリコン系油剤をノニオン系界面活性剤で乳化した水溶液に漬し、175℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化した。
前記乾燥緻密化工程に引き続いて、加圧スチーム中で2倍に延伸して、単糸繊度が0.8dtex、フィラメント数12000のアクリル繊維を得た。
以上のようにして得られたアクリル繊維を220℃から270℃に90分で昇温しながら延伸倍率1倍で加熱して、耐炎化繊維に転換した。さらに耐炎化繊維を300〜700℃に1.5分で昇温しながら不活性雰囲気中にて延伸倍率1.05で予備炭化した。予備炭化の後、最高温度1350℃で焼成を行ない、炭素繊維を得た。
この後、炭素繊維は、8質量%炭酸水素アンモニウム水溶液中、25クーロン/gの条件で電解酸化処理を行なわれ、引き続き、水中に導かれ、周波数30kHz、超音波強度0.4W/cm、処理時間120秒の条件で超音波洗浄を行なった。炭素繊維は、さらに140℃で熱風乾燥させれた。評価結果は、表2に示した。
(比較例1〜9、実施例〜4)
表1に示したように条件をかえた他は、実施例1と同様に操作して炭素繊維を得た。評価結果を表2に示した。
本発明によれば、航空機用途複合材料としての強度発現性、特にSACMA法準拠によるCAI値が高く、さらにSACMA法準拠によるCAI強度発現が再現性良く安価な炭素繊維およびその製造方法が得られる。
本発明の炭素繊維の、X線光電子分光機によるN1sピーク半値幅を示す図である。
本発明の炭素繊維の、X線光電子分光機によるN1Sピークのピーク分離を示す図である。

Claims (1)

  1. X線光電子分光法で測定した、炭素繊維表面の窒素濃度N1S /C1Sが0.046〜0.080、N1Sピークの半値幅が2〜4eV、炭素繊維表面の酸素濃度O1S/C1Sが0.04〜0.089であり、走査型プローブ顕微鏡で測定した炭素繊維の表面積比が1〜1.028であり、以下の方法でN1S ピークのピーク分離を行ない、中心が399.5eVのピークがN1S面積の37〜50%を占める炭素繊維。
    『ピーク分離』
    N1S ピークを高エネルギー側から、中心ピークが401.2eVとなるピークA(ピ
    ークDからのシェークアップサテライト)、同じく中心ピークが400.5eVとなるピークB(ピークEからのシェークアップサテライト)、399.5eVとなるピークC、398.6eVとなるピークD(アクリドン環等由来)、397.8eVとなるピークE(ナフチリジン環、水素化1フィルジン環等由来)の5つに分離し、中心エネルギーが399.5eV付近のピークCの面積をN1S ピーク全体の面積で除して得られる値を求
    める。
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