JP5455408B2 - ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びその製造方法 - Google Patents
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電解処理を施して炭素繊維表層部の官能基量を増加させたポリアクリロニトリル系炭素繊維にpH8〜13のアルカリ性水溶液を接触させることにより、
X線光電子分光器により測定される表面酸素濃度を8〜25%、中和滴定法により測定される単位質量当りのヒドロキシル基量(A)(単位はeq/g)と、単位質量当りのカルボキシル基量(B)(単位はeq/g)とから算出されるA/Bの値を2.0〜5.0に変化させる工程を有することを特徴とする〔1〕記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
前駆体繊維の耐炎化処理、炭素化処理は従来公知の方法で行うことが出来る。例えば、次のように行うことが出来る。まず、PAN系前駆体繊維を空気中において、200〜300℃で加熱して耐炎化処理することにより、耐炎化繊維が得られる。この耐炎化繊維を窒素雰囲気下、温度1000〜1500℃で加熱して炭素化処理することにより、炭素繊維が得られる。
得られた炭素繊維の表面酸化処理は電解処理により行う。電解処理に用いられる電解液としては、硫酸や硝酸、塩酸等の無機酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の無機水酸化物、硫酸アンモニウムや炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類が挙げられる。電解酸化処理は、電解処理浴を用いて、電解電気量が5〜250C/gの範囲で行うことが好ましい。5C/g未満である場合は、電解酸化処理の効果が低く、炭素繊維表面とマトリックス樹脂との接着性が改善されにくいため好ましくない。250C/gを超える場合は、繊維表面が強く削られて粗さが増大し、削れ過ぎた部分が新たな欠陥となり、繊維強度の低下を招くため好ましくない。
炭素繊維表層部における各官能基の存在比率の制御は、アルカリ処理により行う。アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム等の各水溶液が挙げられ、その中でも安全性が高く、pHをコントロールしやすい炭酸ナトリウムが好ましい。アルカリ性水溶液はpHが8以上であることが必要で、8〜13が好ましい。8未満の場合は、炭素繊維表層部の各種官能基の存在比率を変えることが殆ど出来ない。13を超える場合は、カルボキシル基以外の官能基にも大きく作用をおよぼし、表面状態を制御することが困難である。アルカリ処理は、例えば、アルカリ性水溶液を貯留する槽に炭素繊維を通過させることにより行うことが出来る。アルカリ性水溶液の温度は、特に制限されないが、通常は10〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。炭素繊維とアルカリ性水溶液とを接触させる時間は、用いるアルカリ水溶液の温度やpHによっても異なるため特に制限されないが、通常は1〜60秒が好ましく、5〜20秒がより好ましい。
下記式で計算される値である。
C/g=0.36×A/(E×S×Y×F)
ここで、A(電流値:A)、E(炭素繊維のストランド数)、S(速度:m/hr)、Y(繊度:dtex)、F(フィラメント数)である。
BET理論に従ってBETプロットの約0.1〜0.25の相対圧域を解析し算出した。ガス吸着に際しては、ユアサアイオニクス(株)社製全自動ガス吸着装置「AUTOSORB ― 1」を使用し、下記条件により行った。
吸着ガス:Kr(クリプトン)
死容積:He(ヘリウム)
吸着温度:77K(液体窒素温度)
測定範囲:相対圧(P/P0)= 0.05−0.3
P:測定圧
P0:Kr(クリプトン)の飽和蒸気圧
Kr(クリプトン)吸着によるBET法での比表面積値とは、吸着占有面積の判明しているガス分子をサンプルに吸着させ、その際の単分子層吸着量の値を用い、次の式によって算出される。
S=([Vm×N×Acs]M)/w
S:比表面積
Vm:単分子層吸着量
N:アボガドロ定数
Acs:吸着断面積
M:分子量
w:サンプル重量
JIS R 7608に規定された方法により測定した、エポキシ樹脂含浸ストランド物性である。
次の手順に従って、X線光電子分光器(XPS、化学分析用電子分光法(ESCA)ともいう)によって求める。炭素繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求められる。
面内剪断応力の測定には、サイジングを行った後の炭素繊維及び東邦テナックス社製エポキシ樹脂を使用し、炭素繊維目付け190g/m2、樹脂含有率33%の一方向性プリプレグを作製し、次いで、得られた一方向プリプレグ8枚を繊維の方向が順に[+45°/―45°] 2Sとなるように積層し、オートクレーブ中で温度180℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、CFRP(繊維強化プラスチック板材)試験片を得た。得られた試験片を用いて、JIS K 7079に記載の±45°方向引張法に従って、面内剪断応力(IPSS)を測定し、荷重―伸び線図を求め、図3に示すような、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重を求めた。
CAIの測定には、サイジングを行った後の炭素繊維及び東邦テナックス社製エポキシ樹脂を使用し、炭素繊維目付け190g/m2、樹脂含有率33%の一方向性プリプレグを作製し、[+45°/0°/―45°/90°] 3Sの擬似等法に積層した。オートクレーブ中で温度180℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、CFRP(繊維強化プラスチック板材)を得た。
中和滴定法により測定される単位質量当りのカルボキシル基量(B)(単位は〔eq/g〕)は以下の通り測定した。
濃度N〔eq/mL〕の炭酸水素ナトリウムの溶液Y〔mL〕を塩酸(ファクター:f)により滴定を行い、ブランク滴定量K〔mL〕を求めた。次いで、濃度N〔eq/mL〕の炭酸水素ナトリウム水溶液X〔mL〕に炭素繊維M〔g〕を浸漬した後、上澄み液をY〔mL〕採取し、塩酸(ファクター:f)により、逆滴定を行い、滴定量L〔mL〕を求めた。測定結果から、下記式
カルボキシル基量〔eq/g〕=((K-L)×N×f×X/Y)/M
で求めた。
中和滴定法により測定される単位質量当りのヒドロキシル基量(A)(単位は〔eq/g〕)は以下の通り測定した。
濃度N〔eq/mL〕の水酸化ナトリウムの溶液Y〔mL〕を塩酸(ファクター:f)により滴定を行い、ブランク滴定量K〔mL〕を求めた。次いで、濃度N〔eq/mL〕の水酸化ナトリウム水溶液X〔mL〕に炭素繊維M〔g〕を浸漬した後、上澄み液をY〔mL〕採取し、塩酸(ファクター:f)により、逆滴定を行い、滴定量L〔mL〕を求めた。
濃度n〔eq/mL〕の炭酸ナトリウムの溶液y〔mL〕を塩酸(ファクター:f)により滴定を行い、ブランク滴定量k〔mL〕を求めた。次いで、濃度n〔eq/mL〕の炭酸ナトリウム水溶液x〔mL〕に炭素繊維m〔g〕を浸漬した後、上澄み液をy〔mL〕採取し、塩酸(ファクター:f)により、逆滴定を行い、滴定量l〔mL〕を求めた。測定結果から、下記式
ヒドロキシル基量〔eq/g〕=((K-L)×N×f×X/Y)/M ― ((k-l)×n×f×x/y)/m
で求めた。
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を湿式紡糸し、水洗、乾燥、延伸、オイリングして繊度1.28dtex、フィラメント数 12000の前駆体繊維を得た。この前駆体繊維(プレカーサー)を220〜260℃の熱風循環型の耐炎化炉を60分間かけて通過せしめて耐炎化処理するに際して6%の伸長操作を施した。次に得られた耐炎化繊維を純粋な窒素気流中300〜600℃の温度勾配を有する第一炭素化炉を通過せしめるに際して2〜8%の伸長を加え、更に同雰囲気中1100〜1200℃の最高温度を有する第二炭素化炉中において炭素化処理して炭素繊維を得た。引き続いて、3ユニットからなる多段表面処理浴を用いて、非接触電解処理を行った。電解質溶液として硫酸アンモニウム8質量%水溶液を使用し、走行中の炭素繊維を陽極として、被処理炭素繊維1g当り30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて電位を逆転させ、還元処理を施した。次いで炭酸ナトリウム8質量%水溶液(pH=12.1)で10秒及び温水90℃で1分間洗浄した後乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は3.91であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
実施例1と同様にて紡糸、耐炎化、炭素化を行い、被処理炭素繊維1g当り15クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて電位を逆転させ、還元処理を施して得られた炭素繊維を、炭酸ナトリウム8質量%水溶液で10秒及び温水90℃で1分間洗浄した後乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は2.63であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
実施例1と同様にて紡糸、耐炎化、炭素化を行い、被処理炭素繊維1g当り30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて電位を逆転させ、還元処理を施して得られた炭素繊維を、水洗水のみで洗浄後、乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は1.55であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
実施例1と同様にて紡糸、耐炎化、炭素化を行い、被処理炭素繊維1g当り30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて酸化処理を施して得られた炭素繊維を、炭酸ナトリウム8質量%水溶液で10秒及び温水90℃で1分間洗浄した後乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は5.42であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
実施例1と同様にて紡糸、耐炎化、炭素化を行い、被処理炭素繊維1g当り5クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて電位を逆転させ、還元処理を施して得られた炭素繊維を、炭酸ナトリウム8質量%水溶液で10秒及び温水90℃で1分間洗浄した後乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は2.57であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
実施例1と同様にて紡糸、耐炎化、炭素化を行い、被処理炭素繊維1g当り30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて酸化処理を施して得られた炭素繊維を、水洗水のみで洗浄後、乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。
その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は2.64であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
実施例1と同様にて紡糸、耐炎化、炭素化を行い、被処理炭素繊維1g当り30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、最終ユニットにて電位を逆転させ、還元処理を施して得られた炭素繊維を、水酸化ナトリウム4質量%水溶液(pH=14)で10秒及び温水90℃で1分間洗浄した後乾燥、サイジング処理し、炭素繊維を得た。その結果、表1に示す諸物性の繊維直径7μm、ストランド引張弾性率240GPaの炭素繊維を得た。A/B値は16.0であった。また、本炭素繊維を用いて調製する複合材料のコンポジット評価結果を表2に、上降伏点荷重、下降伏点荷重、最大点荷重の測定結果を表3に示す。
2・・・下降伏点
3・・・最大点
Claims (3)
- 陽極槽と陰極槽の組合せからなる電解処理浴が2ユニット以上設置された多段電解処理浴を用いて電解酸化処理を行った後、陰極槽と陽極槽の組合せを逆にした電解処理浴を用いて電位を逆転させて電解還元処理を行い、次いで
pH8〜13のアルカリ性水溶液を接触させることにより製造される
X線光電子分光器により測定される表面酸素濃度が11〜20%であるポリアクリロニトリル系炭素繊維であって、且つ、中和滴定法により測定される単位質量当りのヒドロキシル基量(A)(単位はeq/g)と、単位質量当りのカルボキシル基量(B)(単位はeq/g)とから算出されるA/Bの値が2.5〜4.0であることを特徴とするポリアクリロニトリル系炭素繊維。 - ポリアクリロニトリル系炭素繊維に
陽極槽と陰極槽の組合せからなる電解処理浴が2ユニット以上設置された多段電解処理浴を用いて電解酸化処理を行った後、陰極槽と陽極槽の組合せを逆にした電解処理浴を用いて電位を逆転させて電解還元処理を行い、次いで
pH8〜13のアルカリ性水溶液を接触させることにより、
X線光電子分光器により測定される表面酸素濃度を11〜20%、中和滴定法により測定される単位質量当りのヒドロキシル基量(A)(単位はeq/g)と、単位質量当りのカルボキシル基量(B)(単位はeq/g)とから算出されるA/Bの値を2.5〜4.0に変化させることを特徴とする請求項1記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。 - アルカリ性水溶液が、炭酸ナトリウム水溶液である請求項2記載のポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
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