JP2008038326A - 耐炎ポリマーを含有する分散体、耐炎繊維および炭素繊維 - Google Patents

耐炎ポリマーを含有する分散体、耐炎繊維および炭素繊維 Download PDF

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Abstract

【課題】
口金からの吐出時における耐炎ポリマーの賦形安定性および洗浄工程における賦形物の物理的な安定性を向上させることができる耐炎ポリマーを含有する分散体を提供する。
【解決手段】
耐炎ポリマーが有機溶剤中に分散している分散体であって、その単位断面積あたりの水中引っ張り強度が5gf/mm以上450gf/mm以下であることを特徴とする耐炎ポリマーを含有する分散体であり、耐炎ポリマーは、好ましくは、有機溶媒中、酸、酸無水物または酸塩化物の少なくとも1種類の存在下にアクリロニトリル系ポリマーを加熱処理することによって得ることができるものであり、そして好適な有機溶剤は極性有機溶剤である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、耐炎ポリマーを含有する分散体、およびそれを賦形してなる耐炎繊維とその耐炎繊維を炭化して得られる炭素繊維に関するものである。
耐炎繊維は、耐熱性と難撚性に優れていることから、例えば、溶接作業等で飛散する高熱の鉄粉や溶接火花等から人体を保護するスパッタシートや、さらには航空機等の防炎断熱材などで幅広く利用され、それらの分野における耐炎繊維の需要は増加している。
また耐炎繊維は、炭素繊維を得るための中間原料としても重要である。炭素繊維は、優れた力学的特性、化学的諸特性および軽量性などにより、各種の用途、例えば、航空機やロケットなどの航空・宇宙用航空材料や、テニスラケット、ゴルフシャフトおよび釣竿などのスポーツ用品等に広く使用され、さらに船舶や自動車などの運輸機械用途分野などにも使用されようとしている。また、近年は炭素繊維の高い導電性や放熱性から、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品や、燃料電池の電極用途への応用が強く求められている。
炭素繊維は、一般に耐炎繊維を窒素等の不活性ガス中で高温加熱し炭化処理することによって得られる。また、従来の耐炎繊維は、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系耐炎繊維であれば、PAN系前駆体繊維を空気中200〜300℃の高温で耐炎化反応(PANの環化反応+酸化反応)させることによって得られる。この耐炎化反応は発熱反応であり、そして繊維形態、すなわち固相の状態の反応である。そのため、温度制御のためには長時間処理する必要があり、耐炎化を所望の時間内に終了させるには、PAN系前駆体繊維の単繊維繊度を特定の値以下の細繊度に限定する必要がある。このように、現在知られている耐炎化プロセスは、十分効率的なプロセスであるとは言い難い。
上記の技術的課題を解決する一つの方法として、溶媒による溶液化が検討されてきた。
例えば、アクリロニトリル系重合体粉末を不活性雰囲気中で密度が1.20g/cm以上となるまで加熱処理した後、それを溶剤に溶解して繊維化せしめ、得られた繊維状物を熱処理するという技術が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案は、耐炎化反応が進行していないアクリロニトリル系重合体粉末を使用しているため、溶液の経時的粘度変化が大きく糸切れが多発しやすいという課題があった。また溶剤として、一般の有機ポリマーを分解させやすい硫酸や硝酸等の強酸性の溶媒を使用しているため、耐腐食性のある特殊な材質の装置を用いる必要があるなど、コスト的にも現実的ではなかった。
また、加熱処理したアクリロニトリル系重合体粉末と加熱処理しないアクリロニトリル系重合体粉末を混合して、同様に酸性溶媒中に溶解する方法が提案されているが(特許文献2参照。)、前述した装置への耐腐食性付与や溶液の不安定さについての課題が解決されないままであった。
さらに、ポリアクリロニトリルのジメチルホルムアミド溶液を加熱処理して、ポリアクリロニトリルを環化構造を伴うポリマーへと転換させる方法が提案されているが(非特許文献1参照。)、この提案では、ポリマー濃度が0.5%と希薄溶液であり粘性が低すぎるため、実質的に繊維等への賦形や成形は困難であり、その濃度を高めるようとするとポリマーが析出し溶液として使用することができなかった。
また、ポリアクリロニトリルを1級アミンで変性した溶液が開示されているが(非特許文献2参照。)、この溶液は、耐炎化が進行していないポリアクリロニトリル自体に親水性を与えたものであって、耐炎ポリマー含有溶液とは、技術思想が全く異なるものである。
本発明者らは、ポリアクリロニトリルを極性溶媒中で求核剤および酸化剤を用いて反応させることによって、糸やフィルムに賦形することができる、耐炎ポリマーを含有する分散体得ることに成功し、既に提案している(特許文献3参照。)。
この方法によって得られる耐炎品の生産性をさらに向上させるためのひとつの手段として、賦形体の生産工程における安定性、特に糸形状に賦形する凝固部位および糸中に残っている薬品や溶剤を除去する洗浄部位よりなる凝固工程においての生産安定性の向上が期待されている。
特公昭63−14093号公報 特公昭62−57723号公報 国際公開第05/080448号パンフレット 「ポリマー・サイエンス(USSR)」(Polym.Sci.USSR),1968年、第10巻,p.1537 「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー」(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.),1990年,第28巻,p.1623
本発明の目的は、前記課題に鑑みて、口金からの吐出時における耐炎ポリマーの賦形安定性および洗浄工程における賦形物の物理的な安定性を向上させることができる耐炎ポリマーを含有する分散体を提供することにある。
本発明は、上記の課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、耐炎ポリマーを含有する分散体は、耐炎ポリマーが有機溶剤中に分散している分散体であって、その耐炎ポリマーの水中での断面積あたりの引っ張り強度が5gf/mm以上450gf/mm以下であることを特徴とする耐炎ポリマーを含有する分散体である。
本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体の好ましい態様によれば、前記の有機溶剤は、極性有機溶剤である。
本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体の好ましい態様によれば、前記の耐炎ポリマーはアクリロニトリル系ポリマーを加熱処理することによって得られるものである。その加熱処理は、アクリロニトリル系ポリマーが極性有機溶剤に分散されている分散体を加熱処理する際に、少なくとも酸、酸無水物または酸塩化物の1種類添加することが好ましく、それら酸、酸無水物および酸塩化物の総添加量は、アクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して0.01重量部から200重量部の範囲内であることが好ましい。
本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体の好ましい態様によれば、前記の酸はカルボン酸であり、カルボン酸としては、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、メチル安息香酸およびアミノ安息香酸等のモノカルボン酸や、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸等のジカルボン酸等が挙げられる。
本発明においては、前記の耐炎ポリマーを含有する分散体を賦形して耐炎繊維とすることができ、またその耐炎繊維を炭化して炭素繊維を製造することができる。
本発明によれば、耐炎ポリマーを含有する分散体を賦形する際に吐出口からの離れが著しく良好な耐炎ポリマーを含有する分散体が得られる。この耐炎ポリマーを含有する分散体は、特に、糸形状に賦形する際には吐出口金部位の離れが良くなるため、吐出口金部位での単繊維切れや接着を抑制することが可能になる。さらに、凝固時の物理的な強度が高い賦形物が得られるので、賦形物中に残存している分散媒などを除去する工程、すなわち洗浄する過程において賦形物が破損することが大幅に削減されるため、工程速度を向上させることができる。これらの効果は、耐炎ポリマーを含有する分散体を糸形状に賦形する際には極めて顕著に表れ、特に、湿式紡糸法においてその抑制効果は大きい。
さらに、本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体を湿式紡糸して得られた耐炎繊維を、炭化して得られる炭素繊維の物理的な強度も向上するのである。その上、本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体の口金離れの良さから、口金孔密度を高めることができ、省スペース化が図れるため生産効率が向上する。
耐炎ポリマーが有機溶剤中に分散している本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体において、その耐炎ポリマーの単位断面積あたりの水中引っ張り強度は5gf/mm以上450gf/mm以下であることが重要である。
本発明において単位断面積あたりの水中引っ張り強度とは、耐炎ポリマーを含有する分散体をフィルム状に延伸した後に、それを水中で凝固させたものを所定の大きさに切断し、それを引っ張り試験機にて水中における引っ張り強度を測定し、その値を引っ張り方向に垂直な面の断面積で除したものである。
水中引っ張り強度の測定方法の詳細は、次のとおりである。すなわち、40℃の温度に保温した耐炎ポリマーを含有する分散体約5gを、40℃の温度で十分に乾燥させたガラス板の一辺に中心線上から左右に3cm程度の広さにキャストして、ベーカー式アプリケーターで一定の厚みになるように塗布した。これを直ちに25℃から30℃の温度に温調した水で満たした20cm×20cm×10cmの容器の中に、フィルム面を上にして穏やかに投入した。1分間静置した後、25℃から30℃の温度に温調した水をフィルムに直接当たらないように容器に毎分200mLの速度で流し込みながら1時間放置した。引き続き、フィルムをかみそりの片刃で7mm×15mmの大きさに切断しフィルム断片とした。そのフィルム断片をガラス版からゆっくりはがし、水中で厚さを10点測定し、その平均値をフィルム厚さとした。このフィルム厚さが100μm〜150μmであるフィルム断片を引張試験器に試料長部位が10mmになるようにつかみ、水中で引張速度20mm/分で引張速度を測定した。測定数はn=25とし、得られた値の平均値を引っ張り方向に対して垂直方向の断面積で除した値を断面積あたりの水中引っ張り強度とした。引っ張り試験器として、インストロン社製モデル1125を用いた。
この単位断面積あたりの水中引っ張り強度の値を、耐炎ポリマーを含有する分散体の凝固硬さの指標として規定し、この値が5gf/mm以上450gf/mm以下である耐炎ポリマーを賦形すると、賦形物の工程安定性が向上する、特に糸形状に賦形する際に凝固浴中での凝固工程および分散媒を除去する洗浄工程での単繊維切れが抑制され、優れた品位の耐炎繊維が得られるのである。さらに、この耐炎繊維を通常の方法で炭化すると、他の耐炎ポリマーを含有する分散体から誘導される炭素繊維に比較して、物理的な強度に優れた炭素繊維を得ることができるのである。
本発明において、単位断面積あたりの水中引っ張り強度は、上記範囲のなかでも、6gf/mm以上350gf/mm以下である場合には、乾燥工程などにおいて繊維間の融着が抑制される。さらに、単位断面積あたりの水中引っ張り強度が10gf/mm以上250gf/mm以下である場合には、紡糸工程および乾燥工程において延伸倍率を高めることにより繊維の配向性を向上させることが著しく容易になる。
本発明において、耐炎ポリマーとは耐炎性のあるポリマーであり、また、耐炎ポリマーを含有する分散体とは耐炎ポリマーが成分として有機溶剤中に分散している分散体である。ここで、分散体は粘性流体であり、賦形や成形する際に流動性を有するものであればよく、常温で流動性を有するものはもちろんのこと、ある温度で流動性のない固体やゲル状物であっても、加熱やせん断力により加工温度付近で流動性を有するもの全てを含む。
耐炎ポリマーを含有する分散体の加工時の口金における背面圧が低い程容易に吐出できるが、その一方である粘性が低すぎると目的の賦形形状になりにくくなる場合がある。そのため、加工温度でのB型粘度計で測定される耐炎ポリマーを含有する分散体の溶液粘度は、10Poise以上1000Poise以下であることが好ましく、より好ましくは25Poise以上500Poise以下である。
本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体において、耐炎ポリマーの含有率は、耐炎ポリマーを含有する分散体の全量に対して5重量部以上かつ45重量部以下であることが好ましい。耐炎ポリマーの含有率が5重量部より低くなると、耐炎ポリマーを含有する分散体の賦形時に成形品に穴が開くなど品位が低下することがあり、一方、含有率が45重量部より多くなると、耐炎ポリマーを含有する分散体の流動性が低下して賦形が困難になる場合があるからである。耐炎ポリマーの含有率は、より好ましくは6重量部以上かつ30重量部以下である。
本発明では有機溶剤として、極性有機溶剤が好ましく用いられる。本発明において好ましく用いられる極性有機溶剤は、常温の下でLCRメータによって測定される比誘電率が2以上のものであることが好ましく、より好ましくは10以上のものである。比誘電率がこのような値にあると、耐炎ポリマーをより安定的に分散することが可能で、かつ凝固過程での分散媒抽出が容易で、取扱いが易しい。比誘電率が小さすぎると、凝固過程で水系凝固浴を用いる場合に分散媒の抽出が難しくなる。また、比誘電率の上限は特にないが、あまりに大きすぎると、耐炎ポリマーを安定的に分散することが難しくなることもあるので、比誘電率が80以下の極性有機溶剤を用いることが好ましい。
本発明で好ましく用いられる極性有機溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Nメチル2ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、スルホラン、ジメチルイミダゾリジオン、エチレングリコールおよびジエチレングリコール等が挙げられる。極性有機溶剤としては、DMSO、NMP、DMFおよびDMAcがより好ましく、これらの中でも塩に対する溶解性の高さから特にDMSOとDMFが好ましく用いられる。これらの極性有機溶剤は、1種だけ用いてもよいし2種以上混合して用いてもよい。
有機溶剤の含有率は、耐炎ポリマーを含有する分散体の全量に対して45重量部以上かつ95重量部以下であることが好ましい。有機溶剤の含有率が45重量部より低くなると、耐炎ポリマーを含有する分散体の分散安定性が著しく低下し流動性を失うことがあり、一方、有機溶剤の含有率が95重量部を超えると、耐炎ポリマーを含有する分散体の粘度が低くなって賦形自体が困難になる場合があるからである。
また、本発明において、耐炎とは「防炎」という用語と実質的に同義であり、「難撚」という用語の意味を含んで使用される。具体的に、耐炎とは燃焼が継続しにくい、すなわち燃えにくい性質を示す総称である。耐炎性能の具体的評価手段として、例えば、JIS Z 2150(1966)には薄い材料の防炎試験方法(45°メッケルバーナー法)について記載されている。評価すべき試料(厚さ5mm未満のボード、プレート、シート、フィルム、厚手布地等)をバーナーで特定時間加熱し、着火後の残炎時間や炭化長等を評価することにより判定することができる。残炎時間は短い方が、炭化長も短い方が耐炎(防炎)性能が優秀と判定される。また、繊維製品の場合、JIS L 1091(1977)に、繊維の燃焼試験方法が記載されている。この方法で試験した後に、炭化面積や残炎時間を測定することにより、同様にして耐炎性能を判定することができる。
本発明において、耐炎ポリマーや耐炎成形品の形状・形態は多種多様であり、耐炎性能の度合いも非常に高度で全く着火しない耐炎性を持つものから着火後に燃焼がある程度継続するものまで広範囲にまたがるものであるが、本発明では、後述する実施例に示される具体的な評価方法によって耐炎性能が定めた水準以上で認められるものが対象となる。具体的には、後述する耐炎性の評価法における耐炎性能が優秀あるいは良好であることが好ましい。特に、耐炎ポリマーの段階においては単離の条件によってポリマーの形状・形態が変化し耐炎としての性質としてかなりバラツキを含みやすいので、一定の形状に成形せしめた後に評価する方法を採用する。
耐炎ポリマーを成形してなる耐炎繊維等の耐炎成形品も、同様に後述の実施例に示される具体的な耐炎性の評価手段をもって測定することができる。
本発明におけるアクリロニトリル系ポリマーを前駆体とする耐炎ポリマーとは、繊維状のアクリロニトリル系ポリマーを空気中で加熱して得られる耐炎ポリマーと化学的に類似した構造である。双方の耐炎ポリマーの構造は完全には明確となっていないが、アクリロニトリル系耐炎繊維を解析した文献(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション)(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)に記載されるように、ニトリル基の環化反応あるいは酸化反応によって生じるナフチリジン環、アクリドン環および水素化ナフチリジン環構造を有するものと考えられる。有機溶剤に分散されている耐炎ポリマーは未反応のニトリル基が残存しても耐炎性を損なわない限り支障はなく、また分子間に微量架橋結合が生じることがあっても溶解性を損なわない限りは支障がない。このような観点から、耐炎ポリマーの前駆体であるアクリロニトリル系ポリマーは直鎖状であっても、枝分かれしていても構わない。また、アクリレートやメタクリレートやビニル化合物等の他の共重合成分をランダムにもしくはブロックとして骨格に含むものであってもよい。
耐炎ポリマーの分子量は、成形方法に応じた粘性を有する分子量とすればよいが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される前駆体ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、1000〜1000000であることが好ましい。前駆体ポリマーの質量平均分子量が1000より低い場合、耐炎化にかかる時間は短縮できるが、耐熱ポリマー間の水素結合などの分子間相互作用が弱くなるために、賦型した成形品に十分な強度を達成することが困難となる。一方、前駆体ポリマーの質量分子量が1000000を超えると、耐熱化にかかる時間が長くなるために生産コストが高くなったり、耐炎ポリマー間の疎水結合などによる分子相互作用が強くなりすぎるために、冷却時にゲル化し、賦型温度で耐炎ポリマーを含有する分散体の流動性を得にくくなることがある。前駆体ポリマーの質量平均分子量は、より好ましくは10000〜500000であり、さらに好ましくは20000〜300000である。
耐炎ポリマーの化学的構造は、その溶液を核磁気共鳴装置(NMR)によって13−Cを測定し、150〜200ppmの範囲内にシグナルを有するものであることが好ましく、また、赤外分光測定(IR)によって1600cm−1付近に最大の吸収ピークを有するものであることが好ましい。両測定法で当該範囲にピークを有する場合、特に高い耐熱性を有する耐炎ポリマーということができる。
本発明において耐炎ポリマーは、前駆体であるアクリロニトリル系ポリマーの固体単体もしくは有機溶剤に分散した状態のポリマーのいずれを加熱処理するものであっても構わない。耐炎ポリマーの固体は極性溶媒に対して親和性が低く分散しにくい場合があるので後者の手法が好ましい。
前駆体であるアクリロニトリル系ポリマーの分散体を加熱処理して耐炎化する場合は、耐炎化が進行する限りにおいて、その温度、時間、装置の条件および手法は特に限定されない。加熱方法も特に限定されず、ジャケット式熱媒循環、マントルヒータ、オイルバス、またはイマージョンヒータに代表される工業的に市販されている加熱装置のいずれを用いても構わない。ただし、高温で耐炎化をおこなうときに溶剤の突沸、および発火や引火の危険性が高くなるので使用する溶剤の沸点以下で行うことが好ましい。また、反応時間は、耐炎化反応が発熱反応であるので、短時間の反応は除熱が困難となり暴走反応に至る場合があるため30分以上に調整することが好ましい。一方で、長時間にわたり耐炎化をおこなうと単位時間当たりの生産量が低下して非生産的であるため、反応時間は24時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
本発明において、前駆体であるアクリロニトリル系ポリマーの分散体を加熱処理して耐炎化する際には、酸化剤と環化剤を用いることにより、160℃の温度以下の低温で反応を進行させることができ、好ましい態様である。
本発明における酸化剤とは、反応によって前駆体ポリマーから水素原子を引き抜く作用もしくは酸素原子を供与する作用を有する化合物のことであり、具体的な酸化剤としては、安全性や反応性からニトロ系化合物やキノン系化合物等が挙げられる。
ニトロ系化合物としては、反応時の熱安定性から芳香族環をもつモノニトロ化合物がより好ましく、例えば、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエン、o,m,p−ニトロフェノール、ニトロキシレンおよびニトロナフタレン等が挙げられ、ニトロベンゼンとo,m,p−ニトロトルエンが特に好ましく用いられる。また、キノン系化合物としては、例えば、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、クロロ−1,4−ベンゾキノン、ジクロロ−1,4−ベンゾキノン、ブロモ−1,4−ベンゾキノン、ジブロモ−1,4−ベンゾキノン、テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン、オルトベンゾキノン、オルトクロラニルおよびオルトブロマニル等が挙げられ、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ジクロロ−1,4−ベンゾキノンおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンが特に好ましく用いられる。
これらの酸化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜200重量部が好ましく、より好ましくは1〜100重量部である。これらの酸化剤は1種だけで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
本発明における環化剤とは、前駆体ポリマーを、結合の生成によって非環状骨格部位を環状構造へと誘導する化合物のことであって、具体的な環化剤としては、例えば、アミン系化合物、グアニジン系化合物、アルコール系化合物、アミノアルコール系化合物、カルボン酸系化合物、チオール系化合物、アミジン系化合物などの有機系求核剤、金属アルコキシド化合物、金属アミド化合物、金属イミド化合物、金属水素化物、金属水酸化物、金属炭酸塩およびカルボン酸金属塩等が挙げられる。環化効率の高さおよび試薬の安定性の観点から、アミン系化合物、グアニジン化合物、アミノアルコール化合物、金属アルコキシド化合物および金属イミド化合物が好ましく用いられる。中でも、耐炎ポリマーの分散性の観点から、アミノアルコール系化合物が特に好ましく用いられる。
アミン系化合物としては、アミン骨格を有するものであればいずれでもよいが、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロへキサンジアミン、デカメチレンジアミン、3,5−ピリジンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、3,5−ジメチルベンゼン2,4−ジアミン、および1,12−ドデカンジアミン等が挙げられる。
グアニジン系化合物としては、グアニジン構造を有するものであればいずれでもよいが、例えば、グアニジン炭酸塩、グアニジンチオシアネート、グアニジン酢酸塩、グアニジンリン酸塩、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン硫酸塩、メチルグアニジン、エチルグアニジン、ジメチルグアニジン、アミノグアニジン、フェニルグアニジン、ナフチルグアニジン、ニトログアニジン、ニトロソグアニジン、アセチルグアニジン、シアノグアニジン、およびグアニルウレア等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、グアニジン炭酸塩、グアニジン酢酸塩およびグアニジンリン酸塩である。
アミノアルコール系化合物としては、例えば、モノエタノールアミンとジエタノールアミン等が挙げられ、プロパノールアミン金属アルコキシド化合物としては、例えば、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソブトキシド、ナトリウムイソブトキシド、ナトリウムフェノキシド等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、カリウムtert−ブトキシドとナトリウムtert−ブトキシドである。
金属イミド化合物としては、例えば、カリウムフタルイミドやナトリウムフタルイミド等が挙げられ、中でもカリウムフタルイミドが好ましく用いられる。
これら環化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜500重量部が好ましく、より好ましくは1〜200重量部であり、さらに好ましくは3〜100重量部である。
本発明において、単位断面積あたりの水中引っ張り強度が5gf/mm以上450gf/mm以下であることを特徴とする耐炎ポリマーを得るためには、アクリロニトリル系ポリマーの分散体を加熱処理する際に酸を添加することが好ましい。酸は、加熱処理の前に加えても、加熱処理中に加えても構わない。
ここでいう酸とは、プロトンの授受によって酸と定義される酸と、電子の授受によって酸と定義される酸のどちらに定義されるものであっても良い。また、それらのうち2種類以上を混合して用いても良い。
具体的に、プロトンの授受によって酸と定義される酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸および臭化水素酸のような無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリリ酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、安息香酸、メチル安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、フェルロイル、ヒドロキシ安息香酸、ホモサリチル酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、ゲンチジン酸、バニリン酸、イソバニリン酸、オルセリン酸、アサロン酸、マンデル酸、フタロン酸、ベンジル酸、フロレト酸、トロパ酸およびクマル酸のようなカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファースルホン酸、タウリンおよびナフタレンスルホン酸のようなスルホン酸等が好ましく挙げられる。
また、電子の授受によって定義される酸としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄、銀トリフラート、シアン化鉄および塩化銅等のルイス酸が挙げられる。
これらのうち、大量にかつ安価に入手可能であることや、金属を含まないことで環境負荷の少なく、さらに大規模での取り扱い性に優れた、カルボン酸もしくはスルホン酸を用いることが好ましい。なかでも、少ない量で効果が著しくみられるカルボン酸が好ましく用いられる。カルボン酸の中では、反応に使用する極性溶媒への溶解性が高い、沸点が高く、反応温度を高く設定することのできるカルボン酸、具体的には安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、メチル安息香酸およびアミノ安息香酸等のモノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸等のジカルボン酸が好ましく用いられる。
これらの中でも、ジカルボン酸であるフタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸が好ましく、紡糸工程での糸切れはさらに激減されて工程安定性が向上する。これは、酸1分子内にカルボキシ基が2つ存在することにより耐炎ポリマー間の架橋が起こり、耐炎ポリマー同志の絡み合いによる相互作用が大きくなるためと考えられる。
本発明では、上記の酸と同様に、酸無水物および酸塩化物も好ましく用いることができる。ここでいう酸無水物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基2個から1分子の水が失われて、2つのアシル基が酸素原子を共有するかたちの化合物を指す。具体的な酸無水物としては、例えば、アジピン酸無水物、無水コハク酸、酪酸無水物、クエン酸無水物、酒石酸無水物、ヘキサン酸無水物、安息香酸無水物および無水フタル酸が好ましく挙げられる。
また、酸塩化物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基に含まれるヒドロキシ基を塩素で置換した化合物を指す。具体的な酸塩化物としては、例えば、塩化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ピバロイル、塩化ブタノイル、塩化ベンゾイル、塩化アニソール、塩化ナフトイルおよびフタロイルジクロリドが好ましく挙げられる。
アクリロニトリル系ポリマーである前駆体ポリマーを含有する分散体に添加される酸、酸無水物および酸塩化物の量が少ないときには、はっきりとした効果が見られにくい。また、その一方で、多量に酸等を加えると耐炎化反応の進行が遅くなったり、前駆体ポリマーが析出してくる場合があるので、酸、酸無水物および酸塩化物の総添加量は、前駆体ポリマー100重量部に対して、0.01重量部から200重量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1重量部から50重量部の範囲内である。
具体的に、例えば、前駆体ポリマーとしてアクリロニトリル系ポリマーを用い、酸としてジカルボン酸を用いる場合の酸の添加量は、アクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して、0.01重量部から50重量部の範囲内であることが好ましい。酸の添加量が50重量部を超えると、耐炎ポリマーを含む分散体の分散安定性が低下し流動性を失いやすくなる場合があるからである。酸の添加量は、更に好ましくは0.05重量部から25重量部の範囲内である。
本発明において、賦型された耐炎ポリマーを含有する分散体から分散媒を除去する方法に特に制限はなく、例えば、加熱や減圧によって賦型された耐炎ポリマーを含有する分散体から分散媒を蒸発させる方法や、凝固液中に賦型された耐炎ポリマーを含有する分散体を浸し、分散媒を凝固液中に抽出する方法等が挙げられる。本発明では、制御が簡便でありプロセスの生産性が高い、分散媒を凝固液中に抽出する方法が好ましい。
凝固液としては、耐炎ポリマーの貧溶媒であって、分散媒と相溶する液体が好ましく用いられる。本発明では、凝固液として水系凝固液を用いることが好ましく、抽出される分散媒の回収を容易にするためには、水と、耐炎ポリマーを含有する分散体で用いられる分散媒と同種の溶媒との混合の系凝固液を用いることが好ましい。これら凝固液には、耐炎ポリマーを含有する分散体で用いられる分散媒以外の溶媒が混合されていてもよいが、溶媒回収の観点からは、水と、耐炎ポリマーを含有する分散体で用いられる分散媒と同種の溶媒とのみで凝固液を構成することが好ましい。また、凝固液における水と溶媒の混合比は、好ましくは1:9〜9:1であり、より好ましくは2:8〜8:2であり、更に好ましくは3:7〜7:3である。このような混合比にすることによって凝固速度を制御することも可能となり、用途に応じた特性を凝固液によってコントロールすることができるようにもなる。また、凝固液には、分散媒の抽出を容易にする化合物としての無機塩、pH調整剤、工程処理剤および分散体の反応促進剤などが含まれていてもよい。
本発明において、耐炎ポリマーを含有する分散体を繊維に賦型する方法としては、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法および遠心力紡糸法等の方法を採用することができる。中でも、湿式紡糸法と乾湿式紡糸法は生産性が高く、本発明において好ましく適用される。特に、湿式紡糸法は、耐炎ポリマーを含有する分散体の賦型直後に分散媒が除去され始めるので、生産性が高く、また、賦型直後の繊維強度が低くても低速度で繊維を走行させることができ、取扱いが易しい。ここでいう湿式紡糸法とは、複数孔が空いた口金まで耐炎ポリマーを含有する分散体を計量・フィルトレーションなどの後に導入した後、耐炎ポリマーを含有する分散体にかかる圧力によって口金孔から吐出して賦型し、ただちに凝固液によって凝固する方法である。また、乾湿式紡糸とは、口金孔から耐炎ポリマーを含有する分散体を吐出して賦型し、気相中を走行させて後、凝固液によって凝固する方法である。
ここで用いられる口金の材料としては、SUS、金および白金等を適宜使用することができる。また、耐炎ポリマーを含有する分散体が口金孔に流入する前に、無機繊維の焼結フィルターあるいは合成繊維、例えば、ポリエステル繊維やポリアミド繊維からなる織物、編物および不織布などをフィルターとして用いて、耐炎ポリマーを含有する分散体をろ過あるいは分散させることが、得られる耐炎繊維の集合体において単繊維断面積のバラツキを低減される面から好ましい態様である。
口金孔径は、好ましくは直径0.01〜0.5mmの範囲のものを、そして孔長は好ましくは0.01〜1mmの任意の範囲ものを使用することができる。また、口金孔数は、好ましくは10〜1000000の範囲まで任意のものとすることができる。孔配列は千鳥配列など任意とすることができるし、分繊しやすいように予め分割しておいても良い。
湿式紡糸を行う際の凝固工程は、2つ以上の凝固浴を組み合わせることによってなることが好ましい。第1浴では、耐炎ポリマーを糸形状に形成することを主目的として、第2浴以降では凝固した糸中に残存した試薬や分散媒を除去すること、すなわち洗浄を主目的として構成することにより、凝固浴全体をコンパクトにすることができるのである。
凝固液の温度は、第1浴では凝固液の凝固点以上、沸点以下の任意の温度が可能であり、耐炎ポリマーの凝固性や工程通過性に合わせて適宜調整することができる。
凝固糸の構造を緻密なものにするために、凝固液の温度は20℃以上40℃以下の範囲であることが好ましい。また、洗浄を主目的とする第2浴以降も凝固液の凝固点以上、沸点以下の任意の温度が可能であるが、凝固液に水を用いる場合には凝固液の温度は60℃以上85℃以下の範囲であることが好ましい。このような凝固液の温度にすることによって、第1浴で形成された糸中に残存した試薬や分散媒が効率よく抽出される。また、凝固液中の貧溶媒の濃度は、凝固工程を経るに従って増加することが好ましい。
水洗、延伸された後の水膨潤状態の繊維糸条に、後述するような油剤を付与することが好ましい。油剤の付与方法としては、油剤を繊維糸条内部まで均一に付与できることを勘案し、適宜選択して使用すればよいが、具体的には、繊維糸条の油剤浴中への浸漬、走行繊維糸条への噴霧および滴下などの手段が採用される。ここで付与される際の油剤の濃度は、0.01〜20重量%の範囲とすることが好ましい。ここで油剤とは、例えば、シリコーンなどの主油剤成分とそれを希釈する希釈剤成分からなるものであり、油剤濃度とは主油剤成分の油剤全体に対する含有比率である。
油剤成分の付着量は、繊維糸条の乾燥重量に対する純分の割合が、0.1〜5重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.3〜3重量%の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜2重量%の範囲である。油剤成分の付着量が少なすぎると、単繊維同士の融着が生じ、また、多すぎると焼成時に焼けムラとなることで、得られる炭素繊維の引張強度が低下することがある。
繊維糸条の乾燥方法としては、乾燥加熱された複数のローラーに繊維糸条を直接接触させる方法や、繊維糸条に熱風や水蒸気を送る方法や、赤外線や高周波数の電磁波を繊維糸条に照射する方法や、減圧状態とする方法等を適宜選択し組み合わせることができる。通常、熱風を送る場合、繊維糸条の走行方向に並行流あるいは直交流させることによって行うことができる。輻射加熱方式の赤外線は、遠赤外線、中赤外線および近赤外線を用いることができるし、マイクロ波を照射することも選択できる。乾燥温度は、50〜450℃程度の範囲で任意にとることができるが、一般的に低温の場合には長時間を要し、高温の場合には短時間で乾燥させることができる。
本発明で耐炎ポリマーを含有する分散体を賦形成形して得られる繊維等の成形体には、多くの空隙が内包されていることがある。多くの場合、成形体の力学的な強度は更に増加させることが望ましい。この力学的強度を向上する手段として、上記のようにして得られた成形品を熱処理することによって空隙を塞ぐ焼結・焼成工程を経ることが好ましい。
上記の工程において、温度プロファイルや工程通過速度などの条件は素材に依存するが、好ましくは成形品の軟化点温度よりも50℃低い温度以上の温度で熱処理され、より好ましくは軟化点以上で処理される。軟化点温度−50℃未満の処理温度では、成形品が内包する空隙を塞ぐことは困難である。また、温度に特に上限はないが、成形品が軟化して形状を保ちにくい場合は、処理温度を数段階に分けて上昇させるか、連続的に上昇させることが好ましい。
また、その軟化点を可塑剤によって低下させると、熱分解反応を抑制しながら焼結・焼成することができる。可塑剤の成分はあらかじめ耐炎ポリマーを含有する分散体の中に含まれていても良いが、耐炎ポリマーを含有する分散媒の回収などの観点から、凝固工程から焼結・焼成工程の間で付与されることが好ましい。可塑剤は軟化点を低下させるものであれば特に制限はないが、成形品への均一付与や分散体への分散などの観点から、液体であることが好ましい。中でも環境に優しく安全性が高い水を用いることが好ましく、糸条への付着性を向上するために界面活性剤を含む水を使用することが更に好ましい態様である。
本発明において、繊維等の成形体を焼結・焼成体になすに際しての熱処理では、成形品の化学構造が変化していても構わない。例えば、耐炎ポリマーが縮合系高分子化合物である場合、真空雰囲気下での固相重合によりその分子量が増大したり、アクリドン骨格やピリミジン骨格を持つような耐炎ポリマーの場合には、それが黒鉛構造へ変化したりすることもある。これら変化は、一旦熱処理によって成形品が含む空隙が減少した後、生じるようにする。このようにすることによって、空隙の少ない、力学特性が優れた焼結・焼成体を得ることができる。
また、本発明において、成形品を焼結・焼成品になすに際しての熱処理では、成形品の化学構造変化を伴わなくても構わない。例えば、ゾルーゲル転移法によって得られたシリカやチタニアのような場合には、適切な温度にて熱処理することにより、実質的に粒子間空隙が塞がれるだけで、適切な焼結・焼成品となる。
また、焼成・焼結に際しての熱処理工程では、成形品に延伸や圧縮などの変形を与えてもよい。これらの変形によって、得られる焼成・焼結品の形態がより好ましいものとなり、またその力学的特性やその他特性を向上させることができる。
本発明において、賦形成形された耐炎繊維はマルチフィラメント等の繊維集合体の形態を呈していてもよい。本発明において、耐炎繊維集合体を、不活性成雰囲気で高温熱処理する、いわゆる炭化処理することにより炭素繊維集合体を得ることができる。炭素繊維集合体は、前記本発明の耐炎繊維集合体を、不活性雰囲気中最高温度を好適には300℃以上、2000℃未満の範囲の温度で熱処理することによって得ることができる。より好ましくは、最高温度の下の方は、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上の順に好ましく、最高温度の上の方は、1800℃以下も使用することができる。また、得られた炭素繊維集合体を、さらに不活性雰囲気中、好ましくは2000〜3000℃の温度で加熱することによって、黒鉛構造の発達した炭素繊維集合体とすることもできる。
得られた炭素繊維集合体の強度は、100MPa以上、200MPa以上、300MPa以上の順で好ましく、また、強度の上の方は10000MPa以下、8000MPa以下、6000MPa以下の順に適当である。強度が低すぎると、補強繊維として使用できない場合がある。強度は高ければ高いほど好ましいが、1000MPaあれば、本発明の目的として十分なことが多い。
また、炭素繊維集合体を構成する単繊維の繊維直径は、1nm〜7×10nmであることが好ましく、より好ましくは10〜5×104mであり、さらに好ましくは50〜10nmである。繊維直径が1nm未満では繊維が折れやすい場合があり、7×10nmを超えるとかえって欠陥が発生しやすい傾向にある。
また、本発明で得られる炭素繊維集合体の比重は、1.3〜2.4であることが好ましく、より好ましくは1.6〜2.1であり、さらに好ましくは1.6〜1.75である。比重が1.3未満では繊維が折れ易い場合があり、比重が2.4を超えるとかえって欠陥が発生しやすい傾向にある。比重は、液浸漬法や浮沈法によって測定することができる。ここで、炭素繊維単繊維は、中空繊維のように中空部を含むものであってもよい。この場合、中空部は連続であっても非連続であってもよい。
得られた炭素繊維集合体はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびテトラエチルアンモニウムヒドロキシドのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維により適宜選択することができる。
電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維材料とマトリックスとの接着性を適正化することができ、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維長さ方向の引張強度が低下する問題や、繊維の長さ方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、繊維の横方向における強度特性が発現しないという問題が解消され、得られる複合材料において、バランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
その後、得られる炭素繊維集合体に集束性を付与するため、サイジング剤を付与することもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
具体的に、耐炎ポリマーから耐炎繊維集合体を経由して炭素繊維集合体を得る場合には、耐炎ポリマー含有溶液を紡糸し耐炎繊維集合体とした後に炭化処理まで巻き取り工程を入れることなく連続的に行い、さらに表面処理およびサイジング剤付与工程を含め連続した一つのプロセスとして製造することができる。
低コスト化の観点から、耐炎ポリマーから炭素繊維集合体まで一つのプロセスで連続的に製造する方法を採用することかできる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。各実施例における各物性値および特性は、下記の方法により測定したものである。
<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>
40℃の温度に保温した耐炎ポリマー分散体約5gを、40℃の温度で十分に乾燥させたガラス板の一辺に中心線上から左右に3cm程度の広さにキャストして、ベーカー式アプリケーターで一定の厚みになるように塗布した。これを直ちに25℃の温度から30℃の温度に温調した水で満たした20cm×20cm×10cmの容器の中にフィルム面を上にして穏やかに投入した。1分間静置した後、25℃の温度から30℃の温度に温調した水をフィルムに直接当たらないように容器に毎分200mLの速度で流し込みながら1時間放置した。引き続き、フィルムをかみそりの片刃で7mm×15mmの大きさに切断した。このフィルム断片をガラス板からゆっくりはがし、水中で厚さを10点測定し、その平均値をフィルム厚さとした。このフィルム厚さが100μm〜150μmであるフィルム断片を引張試験器に試料長部位が10mmになるようにつかみ、水中で引張速度20mm/分で引張速度を測定した。測定数はn=25とし、得られた値の平均値を引っ張り方向に対して垂直方向の断面積で除した値を断面積あたりの水中引っ張り強度とした。引っ張り試験器として、インストロン社製モデル1125を用いた。
<洗浄時の糸切れ評価−I>
30℃の温度に温調した耐炎ポリマー分散体を、30℃の温度に温調したジメチルスルホオキシド55重量部と水45重量部とからなる凝固浴中に、焼結フィルターを通した後、0.05mmの孔径を1000ホール有する口金から、毎分10ccの速度で吐出しながら1.3m/分の速度で巻き取った繊維糸条を、乾燥させることなく直ちに70℃の温度に温調した水浴中で毎分1.7m/分の速度で3時間巻き取った後に、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維を濾過して集め120℃の温度で2時間乾燥させた後の質量が0mg以上15mg未満である場合を優◎とし、15mg以上50mg未満である場合を良○とし、50mg以上である場合を不良×として評価した。
<洗浄時の糸切れ評価−II>
30℃の温度に温調した耐炎ポリマー分散体を、30℃の温度に温調したジメチルスルホオキシド55重量部と水45重量部とからなる凝固浴中に、焼結フィルターを通した後、0.05mmの孔径を1000ホール有する口金から、毎分10ccの速度で吐出しながら3.0m/分の速度で巻き取った繊維糸条を、乾燥させることなく直ちに70℃の温度に温調した水浴中で毎分6.0m/分の速度で3時間巻き取った後に、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維を濾過して集め120℃の温度で2時間乾燥させた後の質量が0mg以上15mg未満である場合を優◎とし、15mg以上50mg未満である場合を良○とし、50mg以上である場合を不良×として評価した。
<耐炎ポリマーの単離と濃度測定>
耐炎ポリマーを含有する分散体を秤量し、約4gを500mlの水中に入れ、これを沸騰させた。一旦固形物を取り出し、再度500mlの水中に入れて、これを沸騰させた。残った固形分をアルミニウムパンに乗せ、120℃の温度のオーブンで1時間乾燥し耐炎ポリマーを単離した。単離した固形分を秤量し、元の耐炎ポリマーを含有する分散体の重量との比を計算して濃度を求めた。
<耐炎ポリマーのNMR測定>
耐炎ポリマーのNMRスペクトルを、測定核周波数67.9MHz、スペクトル幅15015kHz、室温で既知である溶媒のスペクトルを内部標準として測定した。装置には、日本電子株式会社製GX−270を用いた。
<IR(赤外分光光度計)測定>
耐熱ポリマーを高温熱水中で脱溶媒した後に、凍結粉砕した物2mgと赤外求光用KBr300mgとを乳鉢にて粉砕混合したものを錠剤成型器にて加工した錠剤を用い、FT−IR測定器(島津製作所製)を用いて測定した。
<繊維の比重測定>
電子天秤を付属した液浸法による自動比重測定装置を自作し、JIS Z 8807(1976)に従って測定を行った。液にはエタノールを用い、この中に試料を投入し測定した。予め投入前にエタノールを用い別浴で試料を十分濡らし、泡抜き操作を実施した。
<繊維の耐炎性の評価法>
1500本の単繊維からなる束状の繊維集合体を用いて、試料長を30cmとしJIS L 1091(1977)に準じて、高さ160mm、内径20mmのメッケルバーナーの炎で10秒間加熱し、残炎時間および炭化長を求め、それらの値から次の基準で耐炎性を評価する。
[耐炎性優秀]:残炎時間が10秒以下、かつ炭化長が5cm以下、
[耐炎性良好]:残炎時間が10秒以下、かつ炭化長が10cm以下、
[耐炎性あり]:残炎時間が10秒以下、かつ炭化長が15cm以下、
[不良]:残炎時間が10秒を超える、あるいは炭化長が15cmを超える。
測定数はn=5とし、最も該当数が多かった状態をその試料の耐炎性とする。評価が決まらない場合にはさらにn=5の評価を追加し、評価が決まるまで繰り返し測定する。
<単繊維の引張強度、引張弾性率および引張伸度>
いずれについても、JIS L1013(1999)に従って引張試験を行う。表面が滑らかで光沢のある紙片に、5mm幅毎に25mmの長さの単繊維を1本ずつ、試料長が約20mmとなるように両端を接着剤で緩く張った状態で固着する。試料を繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長20mm、引張速度20mm/分で測定する。測定数はn=50とし、平均値を引張強度、引張弾性率および引張伸度とする。実施例では、繊維引張試験器として、インストロン社製モデル1125を用いた。
(実施例1)
前駆体ポリマーとしてアクリロニトリルホモポリマー10重量部と環化剤としてモノエタノールアミン3.5重量部と酸化剤としてオルトニトロトルエン8.0重量部と酸として安息香酸3.0重量部とを、有機溶剤であるジメチルスルホオキシド75.5重量部に分散した分散体を、150℃の温度で8時間撹拌した後に、30℃の温度まで冷却してジメチルスルホオキシ中に耐炎ポリマーが分散した分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは141μmであって、その断面積当たりの引っ張り強度は32.2gf/mmであった。また、得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の耐炎ポリマーの濃度は12.1重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。
この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維は全く無く0mgであって評価は優◎であった。また、口金部位での単繊維切れや目詰まりも全くなかった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は10mgであって評価は優◎であった。その後、アミノシリコーン油剤を付与した後に、熱風循環炉中220℃の温度で3分間乾燥した。乾燥糸の比重は1.30で伸度は3%であった。さらに、熱風循環炉中300℃の温度で1.5倍に延伸と同時に3分間熱処理して耐炎繊維束を得た。得られた耐炎繊維束における単繊維の繊度は1.0dtexであり、強度は2.3g/dtexであり、伸度は18%であった。また、耐炎性を評価したところ、燃焼することなく赤熱し、炭化長1cmと優秀な耐炎性を有していることがわかった。さらに、耐炎ポリマーから得られた耐炎繊維束を、窒素雰囲気中、300〜800℃の温度で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃の温度で炭化処理して炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の強度は3600MPaであり、弾性率は230GPaであり、比重は1.78であった。
(実施例2)
酸としてパラヒドロキシ安息香酸3.0重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に実験をおこなった。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは141μmであって、その断面積当たりの引っ張り強度は29.2gf/mmであった。この間、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.2重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は0mgであって、評価は優◎であった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は16mgであって評価は良○であった。これから得られた炭素繊維束の強度は3200MPaであり、弾性率は220GP aであり、比重は1.74であった。
(実施例3)
環化剤としてモノエタノールアミン2.5重量部、酸化剤としてオルトニトロトルエン7.0重量部、酸としてパラヒドロキシ安息香酸3.0重量部、および有機溶剤としてジメチルスルホオキシド77.5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様に実験をおこなった。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは130μmであって、その断面積当たりの引っ張り強度は25.1gf/mmであった。この間、口金部位での単繊維切れや目詰まりは全くなかった。また、耐炎ポリマーを含有する分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.1重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は2mgであって、評価は優◎であった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は26mgであって評価は良○であった。これから得られた炭素繊維束の強度は3250MPaであり、弾性率は235GP aであり、比重は1.75であった。
(実施例4)
酸としてベンゼンスルホン酸を5.0重量部加えたこと以外は、実施例1と同一の方法で実験を行った。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは124μmであって、断面積当たりの引っ張り強度は12.1gf/mmであった。また、耐炎ポリマーの分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.1重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は18mgであって、評価は良○であった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は45mgであって評価は良○であった。これから得られる炭素繊維束の強度は3300MPaであり、弾性率は235GP aであり、比重は1.74であった。
(実施例5)
酸としてテレフタル酸を0.75重量部加えたこと以外は、実施例1と同一の方法で実験を行った。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは137μmであって、断面積当たりの引っ張り強度は51.3gf/mmであった。また、耐炎ポリマーの分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.1重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>および<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸したところ、いずれの方法でも水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は0mgであって、どちらも評価は優◎であった。さらに、これから得られる炭素繊維束の強度は3800MPaであり、弾性率は240GP aであり、比重は1.76であった。
(実施例6)
酸としてアジピン酸を0.75重量部加えたこと以外は、実施例1と同一の方法で実験を行った。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは125μmであって、断面積当たりの引っ張り強度は32.5gf/mmであった。また、耐炎ポリマーの分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.2重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は0mgであって、評価は優◎であった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は8mgであって評価は優◎であった。さらに、これから得られる炭素繊維束の強度は3210MPaであり、弾性率は220GP aであり、比重は1.78であった。
(実施例7)
酸を加えず、酸無水物として無水フタル酸を2.0重量部加えたこと以外は、実施例1と同一の方法で実験を行った。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは136μmであって、断面積当たりの引っ張り強度は21.3gf/mmであった。また、耐炎ポリマーの分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.1重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は2mgであって、評価は優◎であった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は16mgであって評価は良○であった。これから得られる炭素繊維束の強度は3200MPaであり、弾性率は230GP aであり、比重は1.71であった。
(実施例8)
酸を加えず、酸塩化物として塩化ベンゾイルを3.0重量部加えたこと以外は、実施例1と同一の方法で実験を行った。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の、前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは140μmであって、断面積当たりの引っ張り強度は28.5gf/mmであった。また、耐炎ポリマーの分散体における耐炎ポリマーの濃度は12.3重量%で、耐炎ポリマーを含有する分散体から単離した耐炎ポリマーについて13C−NMRで解析したところ、160〜180ppmには明確に前駆体ポリマーであるポリアクリロニトリルや有機溶剤、変性剤では確認されない耐炎ポリマーに由来するピークが存在した。また、IRで解析したところ、1600cm−1に明確なピークが存在した。この耐炎ポリマーを含有する分散体を、前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は3mgであって、評価は優◎であった。次に、前記の<洗浄時の糸切れ評価−II>の方法で紡糸して評価したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している短繊維は18mgであって評価は良○であった。これから得られる炭素繊維束の強度は3150MPaであり、弾性率は210GP aであり、比重は1.73であった。
(比較例1)
前駆体ポリマーとしてアクリロニトリルホモポリマー10重量部と環化剤としてモノエタノールアミン3.5重量部と酸化剤としてオルトニトロトルエン8.0重量部を、有機溶剤であるジメチルスルホオキシド74.0重量部に溶解させた溶液を、150℃の温度で8時間撹拌した後に、30℃の温度まで冷却して耐炎ポリマーが分散した分散体を得た。得られた耐炎ポリマーを含有する分散体の前記の<水中での単位断面積あたりの引っ張り強度>の方法で作成したフィルムの平均厚さは143μmであって、断面積当たりの引っ張り強度は3.12gf/mmであった。この耐炎ポリマーを含有する分散体を前記の<洗浄時の糸切れ評価−I>の方法で紡糸したところ、水浴中に浮遊もしくは沈殿している単繊維の乾燥質量は68mgであって評価は不良×であった。これから得られた炭素繊維束の強度は1500MPaであり、弾性率は145GP aあり、比重は1.72であった。
本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体は、それを賦形する際に吐出口からの離れが著しく良好である。このように、本発明の耐炎ポリマーを含有する分散体は、特に、糸形状に賦形する際には吐出口金部位の離れが良くなるため、吐出口金部位での単繊維切れや接着を抑制することが可能になり、さらに、凝固時の物理的な強度が高い賦形物が得られるので、賦形物中に残存している分散媒などを除去する工程、すなわち洗浄する過程において賦形物が破損することが大幅に削減されるため、工程速度を向上させることができ有用である。

Claims (11)

  1. 耐炎ポリマーが有機溶剤中に分散している分散体であって、その耐炎ポリマーの単位断面積あたりの水中引っ張り強度が5gf/mm以上450gf/mm以下であることを特徴とする耐炎ポリマーを含有する分散体。
  2. 有機溶剤が極性有機溶剤であることを特徴とする請求項1記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  3. 耐炎ポリマーが、前駆体ポリマーであるアクリロニトリル系ポリマーを加熱処理することによって得られるものであることを特徴とする請求項1または2記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  4. 耐炎ポリマーが、アクリロニトリル系ポリマーが極性有機溶剤に分散されている分散体を加熱処理する際に少なくとも酸、酸無水物または酸塩化物の1種類を添加することによって得られるものであることを特徴とする請求項3記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  5. 酸、酸無水物および酸塩化物の総添加量が、アクリロニトリル系ポリマー100重量部に対して0.01重量部から200重量部の範囲内であることを特徴とする請求項4記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  6. 酸がカルボン酸であることを特徴とする請求項4または5記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  7. カルボン酸が、モノカルボン酸またはジカルボン酸であることを特徴とする請求項6記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  8. モノカルボン酸が、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、メチル安息香酸またはアミノ安息香酸であることを特徴とする請求項7記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  9. ジカルボン酸が、フタル酸、イソフタル酸またはテレフタル酸であることを特徴とする請求項7記載の耐炎ポリマーを含有する分散体。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の耐炎ポリマーを含有する分散体を賦形してなる耐炎繊維。
  11. 請求項10記載の耐炎繊維を炭化してなる炭素繊維。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2017066540A (ja) * 2015-09-29 2017-04-06 日本製紙株式会社 炭素繊維及び炭素繊維シートの製造方法

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