JP2008202207A - 炭素繊維束およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】総繊度が大きく優れた生産性を有するにも関わらず、糸束内の単繊維交絡が少なく、広がり性に優れた炭素繊維束、およびその製造方法を提供する
【解決手段】断面形状が直径8μm以上、真円度0.95以上の円形であり、かつ、引張強度が3GPa以上である単繊維が36,000本以上収束している炭素繊維束、および、ポリアクリロニトリルを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理する炭素繊維束の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】断面形状が直径8μm以上、真円度0.95以上の円形であり、かつ、引張強度が3GPa以上である単繊維が36,000本以上収束している炭素繊維束、および、ポリアクリロニトリルを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理する炭素繊維束の製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、炭素繊維束およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、総繊度が大きく生産性に優れることに加え、単繊維間の交絡が少なく広がり性に優れた炭素繊維束と、その製造方法に関する。
炭素繊維は力学的、化学的諸特性及び軽量性などにより、各種の用途、例えば航空機やロケットなどの航空・宇宙用航空材料、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣竿などのスポーツ用品に広く使用され、さらに船舶、自動車などの運輸機械用途分野などにも使用されようとしている。また、近年は炭素繊維の高い導電性や放熱性から、携帯電話やパソコンの筐体等の電子機器部品や、燃料電池の電極用途への応用が強く求められている。このように適用範囲が広がる反面、炭素繊維については生産量の増大と、コストダウンへの要求が厳しくなっている。
ここで、合成繊維の分野において生産量を増大する手段として、糸条数を増加させたり、糸条1本1本の太さを太くしたりして糸束を太くし、口金1個あたりの吐出量を増加させる方法が知られている。このように糸束を太くすれば、生産量が増大する一方で、設備費の増加は最低限に抑えられるため、同時にコストダウンにも繋がることから、ポリエステルやナイロンなどの主要な産業用繊維においても広く用いられている。しかし、炭素繊維のもっとも主要な用途であるプリプレグ用途においては、プリプレグの生産時に炭素繊維束を一定の厚みまで薄く押し広げる必要があるが、炭素繊維束を太くすると一定の厚みに広げるためにより多くの変形をさせる必要が生じてしまうことに加え、炭素繊維束の糸条の本数を増加させた場合には炭素繊維束内部における糸条間での絡み合い(交絡)の数が増えてしまうことから、炭素繊維束を十分に押し広げることができず、薄いプリプレグの生産が不可能になってしまうという問題があり、一定以上に炭素繊維束を太くすることはできなかった。加えて、炭素繊維においては、単繊維繊度を太くすると強度や弾性率などの力学特性が低下する、という特徴があることが広く知られており、単繊維繊度を一定以上に太くすることも難しかった。
さらに、現在広く用いられているポリアクリロニトリル(PAN)やピッチを原料とする炭素繊維においては紡糸工程における賦形性を保つため、原料となるPANやピッチの自体の耐熱性は焼成工程を通過するには十分でなく、紡糸後に耐炎化や安定化と呼ばれる耐熱性を高める工程を焼成工程の前に行う必要がある。しかし、この耐炎化や安定化の工程は空気中の酸素を利用した発熱反応であるため、炭素繊維原料繊維からなる糸束(炭素繊維原料繊維束)の太さが太い場合には糸束内部に熱が蓄積してしまい、反応条件をマイルドにして反応速度を落とす必要があり、結果として生産性が向上しないという問題があった。また、この耐炎化や安定化工程において必要な酸素の繊維内部への透過性が低いことから、単繊維の太さを太くすると炭素繊維の物性が大きく低下してしまうことも問題であった。
これらの問題を解決するため、耐炎化工程の必要ないポリマーの提案もなされている(例えば、特許文献1)が、その強度はPANやピッチを原料とするものに比較して著しく低く、市場の要求に応えられるものではなかった。また、PAN系の炭素繊維原料繊維について、メッシュ状のローラー上で加熱空気を糸束内を貫通させながら耐炎化を進行することで、糸束内部への蓄熱を抑制する提案もなされている(例えば、特許文献2)が、糸束が太くなると加熱空気を貫通させることが難しくなる上、加熱空気の噴出圧力を増加すると糸束内で交絡が発生し、プリプレグ化する際の広がり性が低下してしまうという問題があった。他にも、耐炎化時の蓄熱を防ぐ方法として、微粒子を加熱空気により流動化した流動層内で耐炎化を行う方法や、酸化性の液体中で耐炎化を行う方法などが提案されているが、糸束内部に微粒子が残留したり、酸化性液体の熱安定性が不足していることなどから、低コストで高性能な炭素繊維を提供することはできていない。
さらに、現在広く用いられているポリアクリロニトリル(PAN)やピッチを原料とする炭素繊維においては紡糸工程における賦形性を保つため、原料となるPANやピッチの自体の耐熱性は焼成工程を通過するには十分でなく、紡糸後に耐炎化や安定化と呼ばれる耐熱性を高める工程を焼成工程の前に行う必要がある。しかし、この耐炎化や安定化の工程は空気中の酸素を利用した発熱反応であるため、炭素繊維原料繊維からなる糸束(炭素繊維原料繊維束)の太さが太い場合には糸束内部に熱が蓄積してしまい、反応条件をマイルドにして反応速度を落とす必要があり、結果として生産性が向上しないという問題があった。また、この耐炎化や安定化工程において必要な酸素の繊維内部への透過性が低いことから、単繊維の太さを太くすると炭素繊維の物性が大きく低下してしまうことも問題であった。
これらの問題を解決するため、耐炎化工程の必要ないポリマーの提案もなされている(例えば、特許文献1)が、その強度はPANやピッチを原料とするものに比較して著しく低く、市場の要求に応えられるものではなかった。また、PAN系の炭素繊維原料繊維について、メッシュ状のローラー上で加熱空気を糸束内を貫通させながら耐炎化を進行することで、糸束内部への蓄熱を抑制する提案もなされている(例えば、特許文献2)が、糸束が太くなると加熱空気を貫通させることが難しくなる上、加熱空気の噴出圧力を増加すると糸束内で交絡が発生し、プリプレグ化する際の広がり性が低下してしまうという問題があった。他にも、耐炎化時の蓄熱を防ぐ方法として、微粒子を加熱空気により流動化した流動層内で耐炎化を行う方法や、酸化性の液体中で耐炎化を行う方法などが提案されているが、糸束内部に微粒子が残留したり、酸化性液体の熱安定性が不足していることなどから、低コストで高性能な炭素繊維を提供することはできていない。
このように、炭素繊維においては低コスト化が強く求められているにもかかわらず、糸束の総繊度を上げて生産性を改善しようとすると、実用面や、生産技術の面で問題が多く、十分なコストダウンができていなかった。
特開平1−132832号公報
特開平2―6625号公報
本発明は、総繊度が大きく優れた生産性を有するにも関わらず、糸束内の単繊維交絡が少なく、広がり性に優れた炭素繊維束、およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、次のいずれかの構成を有する。
(1)断面形状が直径8μm以上、真円度0.95以上の円形であり、かつ、引張強度が3GPa以上である単繊維が36,000本以上収束している炭素繊維束。
(2)広角X線回折測定により得られる、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが2.5nm以下である前記(1)に記載の炭素繊維束。
(3)耐炎化遅延物質が実質的に付着していない前記(1)または(2)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(4)プリプレグの製造に用いられる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭素繊維束
(5)ポリアクリロニトリルを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理する炭素繊維束の製造方法。
(6)紡糸後に、1時間を越えて耐炎化処理を行わない前記(5)に記載の炭素繊維束の製造方法。
(7)紡糸後に、実質的に耐炎化処理を行わない前記(5)に記載の炭素繊維束の製造方法。
(8)紡糸後炭化処理する前に繊維を一旦巻き取らない、前記(5)〜(7)のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
(1)断面形状が直径8μm以上、真円度0.95以上の円形であり、かつ、引張強度が3GPa以上である単繊維が36,000本以上収束している炭素繊維束。
(2)広角X線回折測定により得られる、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが2.5nm以下である前記(1)に記載の炭素繊維束。
(3)耐炎化遅延物質が実質的に付着していない前記(1)または(2)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(4)プリプレグの製造に用いられる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭素繊維束
(5)ポリアクリロニトリルを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理する炭素繊維束の製造方法。
(6)紡糸後に、1時間を越えて耐炎化処理を行わない前記(5)に記載の炭素繊維束の製造方法。
(7)紡糸後に、実質的に耐炎化処理を行わない前記(5)に記載の炭素繊維束の製造方法。
(8)紡糸後炭化処理する前に繊維を一旦巻き取らない、前記(5)〜(7)のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
本発明により、総繊度が大きく優れた生産性を有するにも関わらず、糸束内の単繊維交絡が少なく、広がり性に優れた炭素繊維束が得られる。また、本発明により、高い生産性を保ちつつ、繊維束内における交絡が少なく広がり性に優れた炭素繊維束を得ることが可能であるため、炭素繊維の主要用途であるプリプレグ用途において大幅なコストダウンが見込める。
本発明の炭素繊維束は、断面形状が直径8μm以上、真円度0.95以上の円形である炭素繊維の単繊維で構成される。本発明における直径とは、単繊維を繊維軸に垂直な面において剃刀で切断し、その断面の直径のことである。本発明の炭素繊維束を構成する炭素繊維の単繊維は、真円に近い円形であることから、切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、その画像を画像解析して繊維の断面積を計算した後に、該断面積と同じ面積を与える円の直径を炭素繊維の直径と定義する。直径8μm以上のような太い繊維から構成されることにより、単繊維1本1本の曲げ剛性が高くなり、製造工程時の外乱により繊維同士が絡み合うことが少なくなり、糸束内の交絡数が減少する。さらに、単繊維1本1本が太いことから、糸束内部における単繊維同士の接触部分が少なくなり、単繊維同士の摩擦抵抗が減少することも加わり、繊維数が多くても非常に広がり性の良好な炭素繊維束となる。このため、断面の直径は9μm以上であるとより好ましく、10μm以上であるとさらに好ましい。ただし、炭素繊維の直径が太くなると、後述の酸素透過性の問題が解決されたとしても、単位長さあたりの体積が増えることに比例して欠陥の存在確率が増加してしまい、炭素繊維の強度が低下してしまうことから、炭素繊維の強度が保てる範囲である必要があり、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であるとさらに好ましく、15μm以下であるのがもっとも好ましい。
本発明における真円度とは、先の繊維直径と同様に炭素繊維束の断面をSEM観察し、その画像を画像解析することにより断面積Sと周長Lを求め、下記式(1)を用いて求められる値である。
本発明における真円度とは、先の繊維直径と同様に炭素繊維束の断面をSEM観察し、その画像を画像解析することにより断面積Sと周長Lを求め、下記式(1)を用いて求められる値である。
真円度=L2/4πS ・・・ (1)
ここで、特開平11−124743号公報等に示されているように、単繊維の断面形状を異形化する事により、炭素繊維の曲げ剛性を向上させることも可能であるが、扁平や3葉など比較的単純な異形断面を有する炭素繊維においては、単繊維同士がかみ合ったようになってしまい、広がり性が低下してしまう。また、8葉やC型など、複雑な異形断面を有する単繊維については、単繊維同士がかみ合ってしまうことは少ないものの、逆に単繊維を密に詰めることが不可能になってしまい、プリプレグを製造する際の繊維含有率を高くできず、複合材料の力学特性が低下してしまう。
本発明の炭素繊維束のように、断面形状を真円度0.95以上の円形とすることにより、繊維同士の接触面積を最小化し、繊維の広がり性を確保すると共に、プリプレグ中での繊維含有率を向上し、複合材料の力学特性を向上することが可能となる。このため、炭素繊維束を構成する単繊維の真円度は0.97以上であることがより好ましく、0.99以上であることがもっとも好ましい。
さらに、本発明の炭素繊維束を構成する単繊維は、引張強度が3GPa以上である。単繊維の引張強度が著しく低い場合、構造材など現在炭素繊維が使用されているほとんどの分野において、使用できないものとなってしまう。よって、かかる引張強度は3.5GPa以上であるとより好ましく、4GPa以上であれば既存のほとんどの分野への適用が可能となる。
そして、本発明の炭素繊維束は、前記の特性を有する炭素繊維の単繊維が、36,000本以上収束して構成される。このように単繊維が太いことに加え、単繊維数も多いことにより、製造時の生産性が大幅に改善され、低コストでの生産が可能となる。炭素繊維束を構成する単繊維数は48,000本以上であるとより好ましく、96,000本以上であるとさらに好ましい。一方で、炭素繊維束の総繊度が高くなりすぎると、炭素繊維パッケージ1個あたりの糸長が短くなり、プリプレグ生産時の生産性が低下してしまう。このため、炭素繊維を構成する単繊維数は1,000,000本以下であることが好ましく、500,000本以下であることがより好ましく、200,000本以下であるとさらに好ましい。
加えて、本発明の炭素繊維束は、広角X線回折測定により得られる、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが2.5nm以下であることが好ましい。直径8μm以上のような太い炭素繊維を用いた炭素繊維複合材料は、炭素繊維自体の曲げ剛性が高く座屈が起こりにくいことから、一般的な炭素繊維複合材料の欠点である圧縮強度に優れた複合材料となる。しかし、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが大きくなると炭素繊維の圧縮強度は低下する傾向があり、圧縮強度の改善幅が小さくなってしまう。よって、かかる結晶サイズは2.3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましい。反面、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが小さすぎると結晶の配向度が不足し、弾性率が低下する傾向がみられることから、かかる結晶サイズは5nm以上が好ましく、10nm以上であればより好ましい。
また、本発明の炭素繊維束は、耐炎化遅延物質が付着していないことが好ましい。耐炎化遅延物質とは、ホウ素(B)を含むホウ酸のように耐炎化工程において耐炎化の進行を遅らせる元素を含んだ物質のことを指す。このような物質を表面に付着させておくことで、耐炎糸の内外構造差を抑制し、炭素繊維の物性を改善することが可能であるが、その反面で耐炎化の進行が遅くなり、耐炎化に必要な時間が増加することから生産性の低下に繋がる上、電極や水処理分野など、このような不純物の残留を嫌う用途もあるため、炭素繊維への残留は無いことが好ましい。ホウ素以外の耐炎化遅延元素としては、Ca、Zr、Mg、Ti、Y、Cr、Fe、Al、Srおよびランタノイド元素などが挙げられるが、この中でもB、Ca、Zrが良く用いられる。耐炎化遅延物質の付着量は、後の実施例に記載するICP測定により同定することが可能であるが、耐炎化遅延元素の含有量として500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であればより好ましく、最も好ましくは付着量が検出限界以下であることである。
本発明の炭素繊維束を得るに好適な炭素繊維束の製造方法について次に説明する。従来の加熱空気を利用した耐炎化手法においては本発明のような単繊維繊度が太く、単繊維数も多い繊維束より、強度の優れた炭素繊維を効率的に耐炎化することは困難である。なぜなら、繊度が太く、強度の優れた炭素繊維を得るためには、繊維の内部まで酸素を到達させ、酸化反応を進める必要があるが、そのためには耐炎化反応をゆっくりと行うか、酸素の透過性を向上する必要があり、前者の方法では生産性が低下してしまい、後者の方法では酸化発熱が短時間で集中して発生してしまうことから、単繊維数を増やした際の蓄熱が助長されることになり、単繊維数を大きくできないといった問題が発生するためである。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、PANを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理することにより、効率的に太繊度、多フィラメントの炭素繊維束を得ることができるようになった。
本発明の炭素繊維の製造方法においては、PANを前駆体とする耐炎ポリマーを用いる。PANを前駆体とすることにより、溶液紡糸により高い生産性が得られるうえ、優れた物性の炭素繊維を得ることができる。ここで、耐炎ポリマーがPANを前駆体とすることは、残存ニトリル基の存在を確認することで判断することができ、具体的には、赤外分光測定(IR)により2240cm−1付近に吸収ピークを示すものであることなどから確認することができる。
このPANを前駆体とする耐炎ポリマーの構造は完全には明確となっていないが、アクリロニトリル系耐炎化繊維を解析した文献(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)では、ニトリル基の環化反応あるいは酸化反応によって生じるナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造を有すると考えられており、本発明の耐炎ポリマーについても類似の構造を有するものと考えられる。このような構造は、その溶液の核磁気共鳴(NMR)装置により13−Cを測定し、ポリマーに起因して150〜200ppmにシグナルを有する構造であることが知られており、また、赤外分光測定(IR)により1585〜1610cm-1付近に吸収ピークを示すことも知られている。
本発明において「耐炎」とは、前駆体となるPANより耐熱性や耐炎性が向上していることを表す表現であり、耐炎ポリマーの耐炎性の絶対値が一般的な評価における「耐炎」や「防炎」に相当する難燃性を示すことを表すものではない。PANに由来する耐炎化構造は、前記のようにIR測定で1585〜1610cm―1付近に吸収ピークを与えるため、簡易的には前記範囲における吸光度のピーク値を測定することにより耐炎化の進行度合いを測定することが可能である。一般に生産されているPAN系の炭素繊維製造工程においては、耐炎化工程において前記吸光度が1.7程度となるまで耐炎化を行うが、本発明においてはポリマーの段階でその3割程度耐炎化が進行していれば、紡糸後の耐炎化に伴う問題を軽減することができるようになる。よって、PANを前駆体とする耐炎ポリマーにおいては、後述の実施例に記載された方法によるIR測定に置いて、1585〜1610cm-1の間の吸光度の最大値が0.5以上のポリマーであり、0.7以上であることがより好ましく、1.0以上であるとさらに好ましい。また、通常の耐炎糸と同じ1.7以上であれば、紡糸後に全く耐炎化を行わなくても良いことになり理想的であるが、ポリマーの段階で耐炎化を進めすぎると、ポリマーの安定度が低下しゲル化し易くなる傾向も見られることから、吸光度は2.0以下であることが好ましい。
PANを前駆体とする耐炎ポリマーの製造方法は特に限定されるものではないが、耐炎ポリマーの前駆体であるPANを有機溶剤中に分散させた分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る方法を用いることが可能である。
耐炎ポリマーの前駆体であるPANを有機溶剤中に分散させた分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る場合は、耐炎化が進行する限りにおいて、その温度、時間、装置の条件および手法は特に限定されない。加熱方法も特に限定されず、ジャケット式熱媒循環、マントルヒータ、オイルバス、またはイマージョンヒータに代表される工業的に市販されている加熱装置のいずれを用いても構わない。ただし、高温で耐炎化をおこなうときに溶剤の突沸、および発火や引火の危険性が高くなるので使用する溶剤の沸点以下で行うことが好ましい。また、反応時間は、耐炎化反応が発熱反応であるので、短時間の反応は除熱が困難となり暴走反応に至る場合があるため30分以上に調整することが好ましい。一方で、長時間にわたり耐炎化をおこなうと単位時間当たりの生産量が低下して非生産的であるため、反応時間は24時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
前駆体として用いるPANについては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される質量平均分子量(Mw)が、1000〜1000000であることが好ましい。前駆体ポリマーの質量平均分子量が1000より低い場合、耐炎化にかかる時間は短縮できるが、耐炎ポリマー間の水素結合などの分子間相互作用が弱くなるために、賦型した成形品に十分な強度を達成することが困難となる。一方、前駆体ポリマーの質量分子量が1000000を超えると、耐炎化にかかる時間が長くなるために生産コストが高くなったり、耐炎ポリマー間の水素結合などによる分子相互作用が強くなりすぎるために、冷却時にゲル化し、紡糸温度で耐炎ポリマーを含有する溶液の流動性が得られ難くなることがある。前駆体ポリマーの質量平均分子量は、より好ましくは10000〜500000であり、さらに好ましくは20000〜300000である。ここで、有機溶媒に溶解している耐炎ポリマーは、分子間に微量架橋結合が生じることがあっても溶解性を損なわない限り支障はない。このような観点から、耐炎ポリマーの前駆体であるPAN系ポリマーは直鎖状であっても、枝分かれしていても構わない。また、アクリレートやメタクリレートやビニル化合物等の他の共重合成分をランダムにもしくはブロックとして骨格に含むものであっても良い。
本発明に用いる耐炎ポリマーの前駆体であるPANの分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る際には、酸化剤と環化剤を用いることにより、160℃の温度以下の低温で反応を進行させることができ、好ましい態様である。
ここで、酸化剤とは、反応によって前駆体ポリマーから水素原子を引き抜く作用もしくは酸素原子を供与する作用を有する化合物のことであり、具体的には、安全性や反応性からニトロ系化合物やキノン系化合物等が挙げられる。
ニトロ系化合物としては、反応時の熱安定性から芳香族環をもつモノニトロ化合物がより好ましく、例えば、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエン、o,m,p−ニトロフェノール、ニトロキシレンおよびニトロナフタレン等が挙げられ、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエンおよびo,m,p−ニトロフェノールが特に好ましく用いられる。また、キノン系化合物としては、例えば、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、クロロ−1,4−ベンゾキノン、ジクロロ−1,4−ベンゾキノン、ブロモ−1,4−ベンゾキノン、ジブロモ−1,4−ベンゾキノン、テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン、オルトベンゾキノン、オルトクロラニルおよびオルトブロマニル等が挙げられ、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ジクロロ−1,4−ベンゾキノンおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンが特に好ましく用いられる。
これらの酸化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜200重量部が好ましく、より好ましくは1〜100重量部である。これらの酸化剤は1種だけで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
また、環化剤とは、前駆体ポリマーを、結合の生成によって非環状骨格部位を環状構造へと誘導する化合物のことであって、具体的には、例えば、アミン系化合物、グアニジン系化合物、アルコール系化合物、アミノアルコール系化合物、カルボン酸系化合物、チオール系化合物、アミジン系化合物などの有機系求核剤、金属アルコキシド化合物、金属アミド化合物、金属イミド化合物、金属水素化物、金属水酸化物、金属炭酸塩およびカルボン酸金属塩等が挙げられる。環化効率の高さおよび試薬の安定性の観点から、アミン系化合物、グアニジン化合物、アミノアルコール化合物、金属アルコキシド化合物および金属イミド化合物が好ましく用いられる。中でも、耐炎ポリマーの分散性の観点から、アミノアルコール系化合物が特に好ましく用いられる。
アミン系化合物としては、アミン骨格を有するものであればいずれでもよいが、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロへキサンジアミン、デカメチレンジアミン、3,5−ピリジンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、3,5−ジメチルベンゼン2,4−ジアミン、および1,12−ドデカンジアミン等が挙げられる。
グアニジン系化合物としては、グアニジン構造を有するものであればいずれでもよいが、例えば、グアニジン炭酸塩、グアニジンチオシアネート、グアニジン酢酸塩、グアニジンリン酸塩、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン硫酸塩、メチルグアニジン、エチルグアニジン、ジメチルグアニジン、アミノグアニジン、フェニルグアニジン、ナフチルグアニジン、ニトログアニジン、ニトロソグアニジン、アセチルグアニジン、シアノグアニジン、およびグアニルウレア等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、グアニジン炭酸塩、グアニジン酢酸塩およびグアニジンリン酸塩である。
アミノアルコール系化合物としては、例えば、モノエタノールアミンとジエタノールアミン等が挙げられ、プロパノールアミン金属アルコキシド化合物としては、例えば、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソブトキシド、ナトリウムイソブトキシド、ナトリウムフェノキシド等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、カリウムtert−ブトキシドとナトリウムtert−ブトキシドである。
金属イミド化合物としては、例えば、カリウムフタルイミドやナトリウムフタルイミド等が挙げられ、中でもカリウムフタルイミドが好ましく用いられる。
これら環化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜500重量部が好ましく、より好ましくは1〜200重量部であり、さらに好ましくは3〜100重量部である。
耐炎ポリマーを得るためにPANの分散体を加熱処理する際には、酸を添加することが好ましい。酸は、加熱処理の前に加えても、加熱処理中に加えても構わない。
ここで、酸とは、プロトンの授受によって酸と定義される酸と、電子の授受によって酸と定義される酸のどちらに定義されるものであっても良い。また、それらのうち2種類以上を混合して用いても良い。
具体的に、プロトンの授受によって酸と定義される酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸および臭化水素酸のような無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリリ酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、安息香酸、メチル安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、フェルロイル、ヒドロキシ安息香酸、ホモサリチル酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、ゲンチジン酸、バニリン酸、イソバニリン酸、オルセリン酸、アサロン酸、マンデル酸、フタロン酸、ベンジル酸、フロレト酸、トロパ酸およびクマル酸のようなカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファースルホン酸、タウリン、スルファニル酸、ナフタレンスルホン酸のようなスルホン酸や、硫酸アンモニウムのような弱塩基と強酸の塩等が好ましく挙げられる。
また、電子の授受によって定義される酸としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄、銀トリフラート、シアン化鉄および塩化銅等のルイス酸が挙げられる。
これらのうち、大量にかつ安価に入手可能であることや、金属を含まないことで環境負荷の少なく、さらに大規模での取り扱い性に優れた、カルボン酸もしくはスルホン酸を用いることが好ましい。なかでも、少ない量で効果が著しくみられるカルボン酸が好ましく用いられる。カルボン酸の中では、反応に使用する極性溶媒への溶解性が高く、かつ、沸点が高く反応温度を高く設定することのできるカルボン酸、具体的には安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、メチル安息香酸およびアミノ安息香酸等のモノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸等のジカルボン酸が好ましく用いられる。
また、上記の酸と同様に、酸無水物および酸塩化物も好ましく用いることができる。ここでいう酸無水物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基2個から1分子の水が失われて、2つのアシル基が酸素原子を共有するかたちの化合物を指す。具体的な酸無水物としては、例えば、アジピン酸無水物、無水コハク酸、酪酸無水物、クエン酸無水物、酒石酸無水物、ヘキサン酸無水物、安息香酸無水物および無水フタル酸が好ましく挙げられる。
さらに、酸塩化物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基に含まれるヒドロキシ基を塩素で置換した化合物を指す。具体的な酸塩化物としては、例えば、塩化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ピバロイル、塩化ブタノイル、塩化ベンゾイル、塩化アニソール、塩化ナフトイルおよびフタロイルジクロリドが好ましく挙げられる。
本発明で用いる耐炎ポリマーを得る際に、多量に酸等を加えると耐炎化反応の進行が遅くなったり、前駆体ポリマーが析出してくる場合があるので、酸、酸無水物および酸塩化物の総添加量は、前駆体ポリマー100重量%に対して、0.01重量%から200重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%から50重量%の範囲である。
具体的に、例えば、前駆体ポリマーとしてPANを用い、酸としてジカルボン酸を用いる場合の酸の添加量は、PAN100重量%に対して、0.01重量%から50重量%の範囲であることが好ましい。酸の添加量が50重量%を超えると、耐炎ポリマーを含む分散体の分散安定性が低下し流動性を失いやすくなる場合があるためである。酸の添加量は、更に好ましくは0.05重量%から25重量%の範囲である。
なお、本発明で用いる耐炎ポリマーまたは耐炎ポリマーを含有する溶液中にはシリカ、アルミナ、ゼオライト等の無機粒子、カーボンブラック等の顔料、シリコーン等の消泡剤、リン化合物等の安定剤・難燃剤、各種界面活性剤、その他の添加剤を含有させることもできる。また耐炎ポリマーの溶解性を向上させる目的で塩化リチウム、塩化カルシウム等の無機化合物を含有させることもできる。これらは、耐炎化を進行させる前に添加しても良いし、耐炎化を進行させた後に添加しても良い。
最終的に得られた耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度、ポリマー濃度や耐炎化の進行度合、溶媒の種類等によって、前記した好ましい範囲に各要件を適宜調整することができる。
本発明では、耐炎ポリマーを紡糸するに際し、耐炎ポリマーは、それを含有する溶液として供給される。耐炎ポリマーを含有する溶液とは、前記耐炎ポリマーを主とする成分が溶媒中に分散および/または溶解している溶液である。ここで、溶液は粘性流体であり、紡糸により糸状に成形する際に流動性を有するものであれば良く、室温で流動性を有するものはもちろんのこと、ある温度で流動性のない固体やゲル状物であっても、加熱や剪断力により加工温度付近で流動性を有するもの全てを含む。
耐炎ポリマーを含有する溶液の溶媒としては、有機溶剤、特に極性有機溶剤が好ましく用いられる。本発明において好ましく用いられる極性有機溶剤は、常温の下でLCRメータによって測定される比誘電率が2以上のものであることが好ましく、より好ましくは10以上のものである。比誘電率がこのような値にあると、耐炎ポリマーをより安定的に分散することが可能で、かつ凝固過程での分散媒抽出が容易で取扱い易い。比誘電率が小さすぎると、凝固過程で水系凝固浴を用いる場合に分散媒の抽出が難しくなる。また、比誘電率の上限は特にないが、あまりに大きすぎると、耐炎ポリマーを安定的に分散することが難しくなる場合があるので、比誘電率が80以下の極性有機溶剤を用いることが好ましい。
本発明で好ましく用いられる極性有機溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Nメチル2ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、スルホラン、ジメチルイミダゾリジオン、エチレングリコールおよびジエチレングリコール等が挙げられ、DMSO、NMP、DMFおよびDMAcがより好ましく、これらの中でも塩に対する溶解性の高さから特にDMSOとDMFが好ましく用いられる。これらの極性有機溶剤は、1種だけで用いても2種以上混合して用いても良い。
有機溶剤の含有率は、耐炎ポリマーを含有する溶液の全量に対して45重量%以上かつ95重量%以下であることが好ましい。有機溶剤の含有率が45重量%より低くなると、耐炎ポリマーを含有する溶液の安定性が著しく低下して流動性を失う場合があり、一方、有機溶剤の含有率が95重量%を超えると、耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度が低くなって紡糸が困難になる場合がある。
また、本発明の目的を妨げない範囲で、水等の他の溶媒(例えば、水溶性溶剤)を極性有機溶剤と組み合わせて用いることで均一な溶液としても良い。水を用いることは、成形時の溶媒除去が比較的容易である点やコストの観点から好ましい。水を添加する場合の添加量は、耐炎ポリマー100重量%に対して、下の方としては5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、上の方としては300重量%以下、200重量%以下、150重量%以下の順に好ましい。
一方で、耐炎ポリマーを含有する溶液における耐炎ポリマーの含有率は、耐炎ポリマーを含有する溶液の全量に対して5重量%以上かつ45重量%以下であることが好ましい。耐炎ポリマーの含有率が5重量%より低くなると、成形の際の生産性が低くなることや成型品の品位が低下することがあり、含有率が45重量%より高くなると、耐炎ポリマーを含有する溶液の流動性が低下して成形が困難になる場合があるからである。耐炎ポリマーの含有率は、より好ましくは6重量%以上かつ30重量%以下である。
本発明における耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度は、紡糸方法、紡糸温度、口金の形状等によってそれぞれ好ましい範囲とすることができるが、粘性が高すぎても低すぎても目的の繊維形状になり難くなる場合がある。そのため、紡糸温度においてB型粘度計で測定された溶液粘度が、1.0Pa・sec以上100Pa・sec以下であることが好ましく、より好ましくは2.5Pa・sec以上50Pa・sec以下である。
PANを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸して得られる耐炎繊維束は、通常のPANからなる繊維束と比較して、極めて耐熱性に優れていることから、製糸後に耐熱性を向上させるための加熱空気を利用した耐炎化工程が大幅に簡略化され、または耐炎化工程が全く行わないことも可能となる。このため、空気耐炎化で問題となっていた太繊度化した際の酸素透過性の問題や、空気酸化時の発熱の蓄積の問題についても大幅に軽減され、または完全に解消され、太繊度、多フィラメントの炭素繊維束を効率的に生産することが可能となる。ここで、紡糸方法としては乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿紡糸、遠心紡糸、フラッシュ紡糸等の任意の方法を用いることが可能であるが、得られた炭素繊維からプリプレグを生産するためには、連続したフィラメント形態で繊維を得ることが必要であり、PANで広く用いられている、湿式紡糸、半乾半湿紡糸が特に好ましく用いられる。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法においては、上記した耐炎ポリマーを紡糸することにより、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得る。ここで、断面形状や糸条数は紡糸に使用する口金の孔形状と孔数により制御することが可能であり、単繊維繊度については耐炎ポリマーの吐出量と巻き取り速度により制御することが可能である。繊維断面形状を真円形にすることは、得られた炭素繊維の広がり性や、プリプレグにした際の繊維重点率の点から好ましいが、口金の製作の面から考えても、吐出孔形状が真円であることがもっとも加工が容易であることに加え、吐出孔密度も高くしやすいことから、口金を小さくすることも可能となり、設備コストについても低減できる面からも好ましい。
ここで、特開平11−124743号公報等に示されているように、単繊維の断面形状を異形化する事により、炭素繊維の曲げ剛性を向上させることも可能であるが、扁平や3葉など比較的単純な異形断面を有する炭素繊維においては、単繊維同士がかみ合ったようになってしまい、広がり性が低下してしまう。また、8葉やC型など、複雑な異形断面を有する単繊維については、単繊維同士がかみ合ってしまうことは少ないものの、逆に単繊維を密に詰めることが不可能になってしまい、プリプレグを製造する際の繊維含有率を高くできず、複合材料の力学特性が低下してしまう。
本発明の炭素繊維束のように、断面形状を真円度0.95以上の円形とすることにより、繊維同士の接触面積を最小化し、繊維の広がり性を確保すると共に、プリプレグ中での繊維含有率を向上し、複合材料の力学特性を向上することが可能となる。このため、炭素繊維束を構成する単繊維の真円度は0.97以上であることがより好ましく、0.99以上であることがもっとも好ましい。
さらに、本発明の炭素繊維束を構成する単繊維は、引張強度が3GPa以上である。単繊維の引張強度が著しく低い場合、構造材など現在炭素繊維が使用されているほとんどの分野において、使用できないものとなってしまう。よって、かかる引張強度は3.5GPa以上であるとより好ましく、4GPa以上であれば既存のほとんどの分野への適用が可能となる。
そして、本発明の炭素繊維束は、前記の特性を有する炭素繊維の単繊維が、36,000本以上収束して構成される。このように単繊維が太いことに加え、単繊維数も多いことにより、製造時の生産性が大幅に改善され、低コストでの生産が可能となる。炭素繊維束を構成する単繊維数は48,000本以上であるとより好ましく、96,000本以上であるとさらに好ましい。一方で、炭素繊維束の総繊度が高くなりすぎると、炭素繊維パッケージ1個あたりの糸長が短くなり、プリプレグ生産時の生産性が低下してしまう。このため、炭素繊維を構成する単繊維数は1,000,000本以下であることが好ましく、500,000本以下であることがより好ましく、200,000本以下であるとさらに好ましい。
加えて、本発明の炭素繊維束は、広角X線回折測定により得られる、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが2.5nm以下であることが好ましい。直径8μm以上のような太い炭素繊維を用いた炭素繊維複合材料は、炭素繊維自体の曲げ剛性が高く座屈が起こりにくいことから、一般的な炭素繊維複合材料の欠点である圧縮強度に優れた複合材料となる。しかし、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが大きくなると炭素繊維の圧縮強度は低下する傾向があり、圧縮強度の改善幅が小さくなってしまう。よって、かかる結晶サイズは2.3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましい。反面、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが小さすぎると結晶の配向度が不足し、弾性率が低下する傾向がみられることから、かかる結晶サイズは5nm以上が好ましく、10nm以上であればより好ましい。
また、本発明の炭素繊維束は、耐炎化遅延物質が付着していないことが好ましい。耐炎化遅延物質とは、ホウ素(B)を含むホウ酸のように耐炎化工程において耐炎化の進行を遅らせる元素を含んだ物質のことを指す。このような物質を表面に付着させておくことで、耐炎糸の内外構造差を抑制し、炭素繊維の物性を改善することが可能であるが、その反面で耐炎化の進行が遅くなり、耐炎化に必要な時間が増加することから生産性の低下に繋がる上、電極や水処理分野など、このような不純物の残留を嫌う用途もあるため、炭素繊維への残留は無いことが好ましい。ホウ素以外の耐炎化遅延元素としては、Ca、Zr、Mg、Ti、Y、Cr、Fe、Al、Srおよびランタノイド元素などが挙げられるが、この中でもB、Ca、Zrが良く用いられる。耐炎化遅延物質の付着量は、後の実施例に記載するICP測定により同定することが可能であるが、耐炎化遅延元素の含有量として500ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であればより好ましく、最も好ましくは付着量が検出限界以下であることである。
本発明の炭素繊維束を得るに好適な炭素繊維束の製造方法について次に説明する。従来の加熱空気を利用した耐炎化手法においては本発明のような単繊維繊度が太く、単繊維数も多い繊維束より、強度の優れた炭素繊維を効率的に耐炎化することは困難である。なぜなら、繊度が太く、強度の優れた炭素繊維を得るためには、繊維の内部まで酸素を到達させ、酸化反応を進める必要があるが、そのためには耐炎化反応をゆっくりと行うか、酸素の透過性を向上する必要があり、前者の方法では生産性が低下してしまい、後者の方法では酸化発熱が短時間で集中して発生してしまうことから、単繊維数を増やした際の蓄熱が助長されることになり、単繊維数を大きくできないといった問題が発生するためである。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、PANを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理することにより、効率的に太繊度、多フィラメントの炭素繊維束を得ることができるようになった。
本発明の炭素繊維の製造方法においては、PANを前駆体とする耐炎ポリマーを用いる。PANを前駆体とすることにより、溶液紡糸により高い生産性が得られるうえ、優れた物性の炭素繊維を得ることができる。ここで、耐炎ポリマーがPANを前駆体とすることは、残存ニトリル基の存在を確認することで判断することができ、具体的には、赤外分光測定(IR)により2240cm−1付近に吸収ピークを示すものであることなどから確認することができる。
このPANを前駆体とする耐炎ポリマーの構造は完全には明確となっていないが、アクリロニトリル系耐炎化繊維を解析した文献(ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス,パートA:ポリマー・ケミストリー・エディション(J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.Ed.),1986年,第24巻,p.3101)では、ニトリル基の環化反応あるいは酸化反応によって生じるナフチリジン環やアクリドン環、水素化ナフチリジン環構造を有すると考えられており、本発明の耐炎ポリマーについても類似の構造を有するものと考えられる。このような構造は、その溶液の核磁気共鳴(NMR)装置により13−Cを測定し、ポリマーに起因して150〜200ppmにシグナルを有する構造であることが知られており、また、赤外分光測定(IR)により1585〜1610cm-1付近に吸収ピークを示すことも知られている。
本発明において「耐炎」とは、前駆体となるPANより耐熱性や耐炎性が向上していることを表す表現であり、耐炎ポリマーの耐炎性の絶対値が一般的な評価における「耐炎」や「防炎」に相当する難燃性を示すことを表すものではない。PANに由来する耐炎化構造は、前記のようにIR測定で1585〜1610cm―1付近に吸収ピークを与えるため、簡易的には前記範囲における吸光度のピーク値を測定することにより耐炎化の進行度合いを測定することが可能である。一般に生産されているPAN系の炭素繊維製造工程においては、耐炎化工程において前記吸光度が1.7程度となるまで耐炎化を行うが、本発明においてはポリマーの段階でその3割程度耐炎化が進行していれば、紡糸後の耐炎化に伴う問題を軽減することができるようになる。よって、PANを前駆体とする耐炎ポリマーにおいては、後述の実施例に記載された方法によるIR測定に置いて、1585〜1610cm-1の間の吸光度の最大値が0.5以上のポリマーであり、0.7以上であることがより好ましく、1.0以上であるとさらに好ましい。また、通常の耐炎糸と同じ1.7以上であれば、紡糸後に全く耐炎化を行わなくても良いことになり理想的であるが、ポリマーの段階で耐炎化を進めすぎると、ポリマーの安定度が低下しゲル化し易くなる傾向も見られることから、吸光度は2.0以下であることが好ましい。
PANを前駆体とする耐炎ポリマーの製造方法は特に限定されるものではないが、耐炎ポリマーの前駆体であるPANを有機溶剤中に分散させた分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る方法を用いることが可能である。
耐炎ポリマーの前駆体であるPANを有機溶剤中に分散させた分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る場合は、耐炎化が進行する限りにおいて、その温度、時間、装置の条件および手法は特に限定されない。加熱方法も特に限定されず、ジャケット式熱媒循環、マントルヒータ、オイルバス、またはイマージョンヒータに代表される工業的に市販されている加熱装置のいずれを用いても構わない。ただし、高温で耐炎化をおこなうときに溶剤の突沸、および発火や引火の危険性が高くなるので使用する溶剤の沸点以下で行うことが好ましい。また、反応時間は、耐炎化反応が発熱反応であるので、短時間の反応は除熱が困難となり暴走反応に至る場合があるため30分以上に調整することが好ましい。一方で、長時間にわたり耐炎化をおこなうと単位時間当たりの生産量が低下して非生産的であるため、反応時間は24時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以上12時間以下である。
前駆体として用いるPANについては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される質量平均分子量(Mw)が、1000〜1000000であることが好ましい。前駆体ポリマーの質量平均分子量が1000より低い場合、耐炎化にかかる時間は短縮できるが、耐炎ポリマー間の水素結合などの分子間相互作用が弱くなるために、賦型した成形品に十分な強度を達成することが困難となる。一方、前駆体ポリマーの質量分子量が1000000を超えると、耐炎化にかかる時間が長くなるために生産コストが高くなったり、耐炎ポリマー間の水素結合などによる分子相互作用が強くなりすぎるために、冷却時にゲル化し、紡糸温度で耐炎ポリマーを含有する溶液の流動性が得られ難くなることがある。前駆体ポリマーの質量平均分子量は、より好ましくは10000〜500000であり、さらに好ましくは20000〜300000である。ここで、有機溶媒に溶解している耐炎ポリマーは、分子間に微量架橋結合が生じることがあっても溶解性を損なわない限り支障はない。このような観点から、耐炎ポリマーの前駆体であるPAN系ポリマーは直鎖状であっても、枝分かれしていても構わない。また、アクリレートやメタクリレートやビニル化合物等の他の共重合成分をランダムにもしくはブロックとして骨格に含むものであっても良い。
本発明に用いる耐炎ポリマーの前駆体であるPANの分散体を加熱処理して耐炎ポリマーを得る際には、酸化剤と環化剤を用いることにより、160℃の温度以下の低温で反応を進行させることができ、好ましい態様である。
ここで、酸化剤とは、反応によって前駆体ポリマーから水素原子を引き抜く作用もしくは酸素原子を供与する作用を有する化合物のことであり、具体的には、安全性や反応性からニトロ系化合物やキノン系化合物等が挙げられる。
ニトロ系化合物としては、反応時の熱安定性から芳香族環をもつモノニトロ化合物がより好ましく、例えば、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエン、o,m,p−ニトロフェノール、ニトロキシレンおよびニトロナフタレン等が挙げられ、ニトロベンゼン、o,m,p−ニトロトルエンおよびo,m,p−ニトロフェノールが特に好ましく用いられる。また、キノン系化合物としては、例えば、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、クロロ−1,4−ベンゾキノン、ジクロロ−1,4−ベンゾキノン、ブロモ−1,4−ベンゾキノン、ジブロモ−1,4−ベンゾキノン、テトラフルオロ−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン、オルトベンゾキノン、オルトクロラニルおよびオルトブロマニル等が挙げられ、1,4−ベンゾキノン、クロラニル、ジクロロ−1,4−ベンゾキノンおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンが特に好ましく用いられる。
これらの酸化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜200重量部が好ましく、より好ましくは1〜100重量部である。これらの酸化剤は1種だけで用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
また、環化剤とは、前駆体ポリマーを、結合の生成によって非環状骨格部位を環状構造へと誘導する化合物のことであって、具体的には、例えば、アミン系化合物、グアニジン系化合物、アルコール系化合物、アミノアルコール系化合物、カルボン酸系化合物、チオール系化合物、アミジン系化合物などの有機系求核剤、金属アルコキシド化合物、金属アミド化合物、金属イミド化合物、金属水素化物、金属水酸化物、金属炭酸塩およびカルボン酸金属塩等が挙げられる。環化効率の高さおよび試薬の安定性の観点から、アミン系化合物、グアニジン化合物、アミノアルコール化合物、金属アルコキシド化合物および金属イミド化合物が好ましく用いられる。中でも、耐炎ポリマーの分散性の観点から、アミノアルコール系化合物が特に好ましく用いられる。
アミン系化合物としては、アミン骨格を有するものであればいずれでもよいが、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、エチレンジアミン、プロパンジアミン、シクロへキサンジアミン、デカメチレンジアミン、3,5−ピリジンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、3,5−ジメチルベンゼン2,4−ジアミン、および1,12−ドデカンジアミン等が挙げられる。
グアニジン系化合物としては、グアニジン構造を有するものであればいずれでもよいが、例えば、グアニジン炭酸塩、グアニジンチオシアネート、グアニジン酢酸塩、グアニジンリン酸塩、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン硫酸塩、メチルグアニジン、エチルグアニジン、ジメチルグアニジン、アミノグアニジン、フェニルグアニジン、ナフチルグアニジン、ニトログアニジン、ニトロソグアニジン、アセチルグアニジン、シアノグアニジン、およびグアニルウレア等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、グアニジン炭酸塩、グアニジン酢酸塩およびグアニジンリン酸塩である。
アミノアルコール系化合物としては、例えば、モノエタノールアミンとジエタノールアミン等が挙げられ、プロパノールアミン金属アルコキシド化合物としては、例えば、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソブトキシド、ナトリウムイソブトキシド、ナトリウムフェノキシド等が挙げられ、特に好ましく用いられるのは、カリウムtert−ブトキシドとナトリウムtert−ブトキシドである。
金属イミド化合物としては、例えば、カリウムフタルイミドやナトリウムフタルイミド等が挙げられ、中でもカリウムフタルイミドが好ましく用いられる。
これら環化剤の添加量は特に限定されないが、前駆体ポリマー100重量部に対して0.1〜500重量部が好ましく、より好ましくは1〜200重量部であり、さらに好ましくは3〜100重量部である。
耐炎ポリマーを得るためにPANの分散体を加熱処理する際には、酸を添加することが好ましい。酸は、加熱処理の前に加えても、加熱処理中に加えても構わない。
ここで、酸とは、プロトンの授受によって酸と定義される酸と、電子の授受によって酸と定義される酸のどちらに定義されるものであっても良い。また、それらのうち2種類以上を混合して用いても良い。
具体的に、プロトンの授受によって酸と定義される酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸および臭化水素酸のような無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリリ酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、安息香酸、メチル安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、フェルロイル、ヒドロキシ安息香酸、ホモサリチル酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、ゲンチジン酸、バニリン酸、イソバニリン酸、オルセリン酸、アサロン酸、マンデル酸、フタロン酸、ベンジル酸、フロレト酸、トロパ酸およびクマル酸のようなカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファースルホン酸、タウリン、スルファニル酸、ナフタレンスルホン酸のようなスルホン酸や、硫酸アンモニウムのような弱塩基と強酸の塩等が好ましく挙げられる。
また、電子の授受によって定義される酸としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄、銀トリフラート、シアン化鉄および塩化銅等のルイス酸が挙げられる。
これらのうち、大量にかつ安価に入手可能であることや、金属を含まないことで環境負荷の少なく、さらに大規模での取り扱い性に優れた、カルボン酸もしくはスルホン酸を用いることが好ましい。なかでも、少ない量で効果が著しくみられるカルボン酸が好ましく用いられる。カルボン酸の中では、反応に使用する極性溶媒への溶解性が高く、かつ、沸点が高く反応温度を高く設定することのできるカルボン酸、具体的には安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、メチル安息香酸およびアミノ安息香酸等のモノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸等のジカルボン酸が好ましく用いられる。
また、上記の酸と同様に、酸無水物および酸塩化物も好ましく用いることができる。ここでいう酸無水物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基2個から1分子の水が失われて、2つのアシル基が酸素原子を共有するかたちの化合物を指す。具体的な酸無水物としては、例えば、アジピン酸無水物、無水コハク酸、酪酸無水物、クエン酸無水物、酒石酸無水物、ヘキサン酸無水物、安息香酸無水物および無水フタル酸が好ましく挙げられる。
さらに、酸塩化物とは、化学辞典(東京化学同人版)で定義されているカルボン酸のカルボキシ基に含まれるヒドロキシ基を塩素で置換した化合物を指す。具体的な酸塩化物としては、例えば、塩化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ピバロイル、塩化ブタノイル、塩化ベンゾイル、塩化アニソール、塩化ナフトイルおよびフタロイルジクロリドが好ましく挙げられる。
本発明で用いる耐炎ポリマーを得る際に、多量に酸等を加えると耐炎化反応の進行が遅くなったり、前駆体ポリマーが析出してくる場合があるので、酸、酸無水物および酸塩化物の総添加量は、前駆体ポリマー100重量%に対して、0.01重量%から200重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1重量%から50重量%の範囲である。
具体的に、例えば、前駆体ポリマーとしてPANを用い、酸としてジカルボン酸を用いる場合の酸の添加量は、PAN100重量%に対して、0.01重量%から50重量%の範囲であることが好ましい。酸の添加量が50重量%を超えると、耐炎ポリマーを含む分散体の分散安定性が低下し流動性を失いやすくなる場合があるためである。酸の添加量は、更に好ましくは0.05重量%から25重量%の範囲である。
なお、本発明で用いる耐炎ポリマーまたは耐炎ポリマーを含有する溶液中にはシリカ、アルミナ、ゼオライト等の無機粒子、カーボンブラック等の顔料、シリコーン等の消泡剤、リン化合物等の安定剤・難燃剤、各種界面活性剤、その他の添加剤を含有させることもできる。また耐炎ポリマーの溶解性を向上させる目的で塩化リチウム、塩化カルシウム等の無機化合物を含有させることもできる。これらは、耐炎化を進行させる前に添加しても良いし、耐炎化を進行させた後に添加しても良い。
最終的に得られた耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度、ポリマー濃度や耐炎化の進行度合、溶媒の種類等によって、前記した好ましい範囲に各要件を適宜調整することができる。
本発明では、耐炎ポリマーを紡糸するに際し、耐炎ポリマーは、それを含有する溶液として供給される。耐炎ポリマーを含有する溶液とは、前記耐炎ポリマーを主とする成分が溶媒中に分散および/または溶解している溶液である。ここで、溶液は粘性流体であり、紡糸により糸状に成形する際に流動性を有するものであれば良く、室温で流動性を有するものはもちろんのこと、ある温度で流動性のない固体やゲル状物であっても、加熱や剪断力により加工温度付近で流動性を有するもの全てを含む。
耐炎ポリマーを含有する溶液の溶媒としては、有機溶剤、特に極性有機溶剤が好ましく用いられる。本発明において好ましく用いられる極性有機溶剤は、常温の下でLCRメータによって測定される比誘電率が2以上のものであることが好ましく、より好ましくは10以上のものである。比誘電率がこのような値にあると、耐炎ポリマーをより安定的に分散することが可能で、かつ凝固過程での分散媒抽出が容易で取扱い易い。比誘電率が小さすぎると、凝固過程で水系凝固浴を用いる場合に分散媒の抽出が難しくなる。また、比誘電率の上限は特にないが、あまりに大きすぎると、耐炎ポリマーを安定的に分散することが難しくなる場合があるので、比誘電率が80以下の極性有機溶剤を用いることが好ましい。
本発明で好ましく用いられる極性有機溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Nメチル2ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、スルホラン、ジメチルイミダゾリジオン、エチレングリコールおよびジエチレングリコール等が挙げられ、DMSO、NMP、DMFおよびDMAcがより好ましく、これらの中でも塩に対する溶解性の高さから特にDMSOとDMFが好ましく用いられる。これらの極性有機溶剤は、1種だけで用いても2種以上混合して用いても良い。
有機溶剤の含有率は、耐炎ポリマーを含有する溶液の全量に対して45重量%以上かつ95重量%以下であることが好ましい。有機溶剤の含有率が45重量%より低くなると、耐炎ポリマーを含有する溶液の安定性が著しく低下して流動性を失う場合があり、一方、有機溶剤の含有率が95重量%を超えると、耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度が低くなって紡糸が困難になる場合がある。
また、本発明の目的を妨げない範囲で、水等の他の溶媒(例えば、水溶性溶剤)を極性有機溶剤と組み合わせて用いることで均一な溶液としても良い。水を用いることは、成形時の溶媒除去が比較的容易である点やコストの観点から好ましい。水を添加する場合の添加量は、耐炎ポリマー100重量%に対して、下の方としては5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、上の方としては300重量%以下、200重量%以下、150重量%以下の順に好ましい。
一方で、耐炎ポリマーを含有する溶液における耐炎ポリマーの含有率は、耐炎ポリマーを含有する溶液の全量に対して5重量%以上かつ45重量%以下であることが好ましい。耐炎ポリマーの含有率が5重量%より低くなると、成形の際の生産性が低くなることや成型品の品位が低下することがあり、含有率が45重量%より高くなると、耐炎ポリマーを含有する溶液の流動性が低下して成形が困難になる場合があるからである。耐炎ポリマーの含有率は、より好ましくは6重量%以上かつ30重量%以下である。
本発明における耐炎ポリマーを含有する溶液の粘度は、紡糸方法、紡糸温度、口金の形状等によってそれぞれ好ましい範囲とすることができるが、粘性が高すぎても低すぎても目的の繊維形状になり難くなる場合がある。そのため、紡糸温度においてB型粘度計で測定された溶液粘度が、1.0Pa・sec以上100Pa・sec以下であることが好ましく、より好ましくは2.5Pa・sec以上50Pa・sec以下である。
PANを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸して得られる耐炎繊維束は、通常のPANからなる繊維束と比較して、極めて耐熱性に優れていることから、製糸後に耐熱性を向上させるための加熱空気を利用した耐炎化工程が大幅に簡略化され、または耐炎化工程が全く行わないことも可能となる。このため、空気耐炎化で問題となっていた太繊度化した際の酸素透過性の問題や、空気酸化時の発熱の蓄積の問題についても大幅に軽減され、または完全に解消され、太繊度、多フィラメントの炭素繊維束を効率的に生産することが可能となる。ここで、紡糸方法としては乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿紡糸、遠心紡糸、フラッシュ紡糸等の任意の方法を用いることが可能であるが、得られた炭素繊維からプリプレグを生産するためには、連続したフィラメント形態で繊維を得ることが必要であり、PANで広く用いられている、湿式紡糸、半乾半湿紡糸が特に好ましく用いられる。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法においては、上記した耐炎ポリマーを紡糸することにより、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得る。ここで、断面形状や糸条数は紡糸に使用する口金の孔形状と孔数により制御することが可能であり、単繊維繊度については耐炎ポリマーの吐出量と巻き取り速度により制御することが可能である。繊維断面形状を真円形にすることは、得られた炭素繊維の広がり性や、プリプレグにした際の繊維重点率の点から好ましいが、口金の製作の面から考えても、吐出孔形状が真円であることがもっとも加工が容易であることに加え、吐出孔密度も高くしやすいことから、口金を小さくすることも可能となり、設備コストについても低減できる面からも好ましい。
紡糸においては、前記した耐炎ポリマーを含有する溶液を紡糸原液とし、配管を通しブースターポンプ等で昇圧し、ギアポンプ等で計量と押出しを行い、口金から吐出することによって行うことができる。ここで、口金の材質としてはステンレス(SUS)あるいは金、白金等を適宜使用することができる。
また、紡糸原液が口金孔に流入する前に、前記した無機繊維の焼結フィルターあるいは合成繊維例えばポリエステルやポリアミドからなる織物、編物、不織布などをフィルターとして用いて、紡糸原液を濾過あるいは分散させることが、得られる耐炎繊維において単繊維断面積のバラツキを低減させる面から好ましい。
口金孔径としては0.01〜0.5mmφ、孔長としては0.01〜1mmの任意のものを使用できる。また、口金孔数としては10〜1000000まで任意のものを使用できる。孔配列としては千鳥配列など任意に選択することができ、分繊し易いように予め分割しておいても良い。
口金から直接または間接に凝固浴中に紡糸原液を吐出し、凝固糸を得る。凝固浴液は、
紡糸原液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成するのが、簡便性の点から好ましく、凝固促進成分として水を用いるのがさらに好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合、および凝固浴液温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択することができ、特に凝固浴濃度としては重量比において溶媒/水=0/100〜95/5の任意の範囲で、30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40が特に好ましい。また、凝固浴としてプロパノールやブタノール等の、水との親和性を低減させたアルコールを用いる場合であれば100%浴として用いることもできる。また、凝固浴の温度は凍結、沸騰しない範囲で任意の温度とすることができる。上記の条件を調整することにより、凝固糸の膨潤度としては300〜600%とする事が好ましい。かかる範囲は可紡性の観点から決められ、さらに後工程の浴延伸性に影響を与え得るものである。
紡糸原液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成するのが、簡便性の点から好ましく、凝固促進成分として水を用いるのがさらに好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合、および凝固浴液温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択することができ、特に凝固浴濃度としては重量比において溶媒/水=0/100〜95/5の任意の範囲で、30/70〜70/30が好ましく、40/60〜60/40が特に好ましい。また、凝固浴としてプロパノールやブタノール等の、水との親和性を低減させたアルコールを用いる場合であれば100%浴として用いることもできる。また、凝固浴の温度は凍結、沸騰しない範囲で任意の温度とすることができる。上記の条件を調整することにより、凝固糸の膨潤度としては300〜600%とする事が好ましい。かかる範囲は可紡性の観点から決められ、さらに後工程の浴延伸性に影響を与え得るものである。
次に、凝固糸を、延伸浴で延伸するか、水洗浴で水洗するのが良い。もちろん、延伸浴で延伸するとともに、水洗浴で水洗しても良い。かかる延伸倍率は、0.95〜5倍、好ましくは1.00〜3倍、より好ましくは1.10〜2.5倍とするのが良い。延伸浴は温水または溶媒/水が用いられ、溶媒/水の延伸浴濃度は重量比において0/100〜70/30の任意の範囲とすることができる。また水洗浴としては、通常、温水が用いられ、延伸浴および水洗浴の温度は50〜100℃であることが好ましく、より好ましくは60〜95℃、さらに好ましくは65〜85℃である。浴延伸および水洗を行うことで、凝固糸はわずかに緻密化されるが、その膨潤度は200〜500%とすることが好ましい。
得られた水洗糸には、単繊維接着の紡糸や工程通過性の向上の観点から、油剤を付与することが好ましい。油剤の種類としては特に限定されず、ポリエーテル系、ポリエステルの界面活性剤、シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンを単独あるいは混合して付与することができるし、その他の油剤成分を付与しても良いが、単繊維接着の紡糸の観点から、シリコーンの入った珪素系の油剤を付与することが好ましく、その際の珪素付着量は0.01〜5.0重量%程度とすることが好ましい。
ここで、油剤には耐炎化処理における繊維表面での反応を抑制し、繊維の内外構造差を小さくするために耐炎化遅延物質を添加することも可能である。しかし、このような物質の多くは炭化処理後も炭素繊維に残留し、異物となるため、使用量を極力減らすことが好ましく、全く使わないことが望ましい。
油剤を付与した繊維は、乾燥によりさらに緻密化されるのが一般的である。乾燥方法としては、乾燥加熱された複数のローラーに直接接触させることや熱風や水蒸気を送る、赤外線や高周波数の電磁波を照射する、減圧状態とする等を適宜選択し組み合わせることができる。ここで、乾燥温度は50〜300℃程度の範囲で任意に設定することができるが、乾燥温度を高くしすぎると単繊維同士の接着が増加してしまうことから、150℃〜200℃で乾燥することがより好ましい。
得られた水洗糸には、単繊維接着の紡糸や工程通過性の向上の観点から、油剤を付与することが好ましい。油剤の種類としては特に限定されず、ポリエーテル系、ポリエステルの界面活性剤、シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンを単独あるいは混合して付与することができるし、その他の油剤成分を付与しても良いが、単繊維接着の紡糸の観点から、シリコーンの入った珪素系の油剤を付与することが好ましく、その際の珪素付着量は0.01〜5.0重量%程度とすることが好ましい。
ここで、油剤には耐炎化処理における繊維表面での反応を抑制し、繊維の内外構造差を小さくするために耐炎化遅延物質を添加することも可能である。しかし、このような物質の多くは炭化処理後も炭素繊維に残留し、異物となるため、使用量を極力減らすことが好ましく、全く使わないことが望ましい。
油剤を付与した繊維は、乾燥によりさらに緻密化されるのが一般的である。乾燥方法としては、乾燥加熱された複数のローラーに直接接触させることや熱風や水蒸気を送る、赤外線や高周波数の電磁波を照射する、減圧状態とする等を適宜選択し組み合わせることができる。ここで、乾燥温度は50〜300℃程度の範囲で任意に設定することができるが、乾燥温度を高くしすぎると単繊維同士の接着が増加してしまうことから、150℃〜200℃で乾燥することがより好ましい。
乾燥後の繊維の比重は、通常、1.15〜1.5、好ましくは1.2〜1.4、より好ましくは1.2〜1.35である。乾燥後の繊維における単繊維の断面積の変動係数は、好ましくは5〜30%、より好ましくは7〜28%、さらに好ましくは10〜25%である。また、乾燥後の繊維における単繊維の伸度は0.5〜30%であることが好ましい。
得られた乾燥糸には、配向度を増加させるため延伸を行うことが好ましい、延伸温度は100〜350℃の範囲で任意に設定することができるが、200〜350℃の範囲が好ましく、延伸倍率は1.1〜4倍が好ましく、1.2〜3.5倍がより好ましく、1.3〜3.0倍がさらに好ましい。延伸の方法は適宜選択することができ、スチームを用いて可塑化しつつ加熱して延伸する方法、熱風、赤外線などの非接触あるいはロールや熱板などの接触型の乾熱延伸方法を使用することができる。また、これらの方法はいくつか組み合わせて使っても構わない。
このようにして得られた乾燥糸は、すでに耐炎ポリマーより構成されており、一定の耐熱性を有するものであるので、そのまま耐炎繊維束として炭化工程に供しても良いし、炭素繊維の物性の向上や、炭化工程における収率(炭化収率)を改善するため、紡糸後炭化処理する前にさらに耐炎化処理を行って耐熱性を向上させた耐炎繊維束を炭化工程に供しても良い。ここで、耐炎化処理とは、紡糸して得られた繊維束を熱処理や酸化処理して、その耐熱性を向上させる処理全般を指す。さらに、追加で耐炎化処理を行う際においては、十分な生産性を確保するために、耐炎化処理時間を1時間以下とすることが必要である。さらに生産性を上げるためには耐炎化処理時間を30分以下とすることが好ましく、15分以下とするとより好ましい。また、前述の通り紡糸前のポリマーの段階で耐炎化を十分に進めておくことで、紡糸後に、実質的に耐炎化処理を行わないようにすることも可能であり、それがもっとも好ましい形態である。
紡糸後に耐炎化処理を行う場合には、気体中で行う方法や液体中で行う方法など任意の方法で行うことが可能であるが、設備コストの面から気体中で加熱する方法が好ましく、最終的な炭素繊維の物性を向上するためには酸素を含有する気体中で加熱することが好ましい。この場合、コスト面からもっとも好ましい実施形態は、加熱した空気により耐炎化処理を行うことである。
耐炎化処理の温度を高く設定すると短時間で処理が可能となるが、炭素繊維の物性と多フィラメント化時の蓄熱に対しては不利に働くことになる。好ましい処理条件としては、290℃〜230℃で1分〜60分の間であり、より好ましい条件としては、270℃で14分が例示される。
次に、得られた耐炎繊維束を炭化処理して炭素繊維束を得る。炭化処理の方法、条件については適宜採用することが可能であるが、具体的な方法としては、前記耐炎繊維束を不活性雰囲気中最高温度300℃以上、2000℃未満の範囲の温度で処理する事によって炭素繊維束を得ることができる。炭化工程は複数の工程に分けることが好ましく、特に2工程に分割することが好ましい。すなわち、前半の工程では400℃以上900℃以下、より好ましくは500℃以上800℃以下で加熱処理し、後半の工程として1000℃以上、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1400℃以上の温度で加熱処理を行う。ここで、炭化温度を高くするほど高弾性率の炭素繊維を得ることができるが、炭化温度が高すぎると炭化工程での収率が低くなり、生産性が低下してしまうことから、最高温度は1800℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。また、そのようにして得られた炭素繊維をさらに不活性雰囲気中、2000〜3000℃で加熱することによって黒鉛構造の発達した炭素繊維とすることもできる。
紡糸後に耐炎化処理を行う場合には、気体中で行う方法や液体中で行う方法など任意の方法で行うことが可能であるが、設備コストの面から気体中で加熱する方法が好ましく、最終的な炭素繊維の物性を向上するためには酸素を含有する気体中で加熱することが好ましい。この場合、コスト面からもっとも好ましい実施形態は、加熱した空気により耐炎化処理を行うことである。
耐炎化処理の温度を高く設定すると短時間で処理が可能となるが、炭素繊維の物性と多フィラメント化時の蓄熱に対しては不利に働くことになる。好ましい処理条件としては、290℃〜230℃で1分〜60分の間であり、より好ましい条件としては、270℃で14分が例示される。
次に、得られた耐炎繊維束を炭化処理して炭素繊維束を得る。炭化処理の方法、条件については適宜採用することが可能であるが、具体的な方法としては、前記耐炎繊維束を不活性雰囲気中最高温度300℃以上、2000℃未満の範囲の温度で処理する事によって炭素繊維束を得ることができる。炭化工程は複数の工程に分けることが好ましく、特に2工程に分割することが好ましい。すなわち、前半の工程では400℃以上900℃以下、より好ましくは500℃以上800℃以下で加熱処理し、後半の工程として1000℃以上、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1400℃以上の温度で加熱処理を行う。ここで、炭化温度を高くするほど高弾性率の炭素繊維を得ることができるが、炭化温度が高すぎると炭化工程での収率が低くなり、生産性が低下してしまうことから、最高温度は1800℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。また、そのようにして得られた炭素繊維をさらに不活性雰囲気中、2000〜3000℃で加熱することによって黒鉛構造の発達した炭素繊維とすることもできる。
得られた炭素繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドといったアルカリ又はそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する用途により適宜選択することができる。
かかる電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維材料とマトリックスとの接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、得られる複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
この後、得られる炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法においては、紡糸後に行う耐炎化工程の時間が大幅に軽減、または、実質的に行わないようにすることができる。これにより、従来のPAN繊維を用いた炭素繊維製造工程において焼成工程に含まれる耐炎化処理を、より速度が高く設備生産性に優れた製糸工程の最後で行うことも可能であり、さらには製糸工程と焼成工程を繋げ、紡糸後炭化処理する前に、繊維束を一旦巻き取ることなく連続して焼成を行うことが、コストを低下させる面から好ましい。
本発明の炭素繊維束の製造方法においては、紡糸後に行う耐炎化工程の時間が大幅に軽減、または、実質的に行わないようにすることができる。これにより、従来のPAN繊維を用いた炭素繊維製造工程において焼成工程に含まれる耐炎化処理を、より速度が高く設備生産性に優れた製糸工程の最後で行うことも可能であり、さらには製糸工程と焼成工程を繋げ、紡糸後炭化処理する前に、繊維束を一旦巻き取ることなく連続して焼成を行うことが、コストを低下させる面から好ましい。
次に実施例により、本発明をより具体的に説明する。なお実施例における各物性値または特性は、以下の方法により測定した。
<耐炎ポリマーの単離と濃度測定>
耐炎ポリマーを含有する溶液を秤量し、約4gを500mlの水中に入れ、これを沸騰させた。一旦固形物を取り出し、再度500mlの水中に入れて、これを沸騰させた。残った固形分をアルミニウムパンに乗せ、120℃の温度のオーブンで1時間乾燥し耐炎ポリマーを単離した。単離した固形分を秤量し、元の耐炎ポリマーを含有する溶液の重量との比を計算して濃度を求めた。
<耐炎ポリマー含有溶液の粘度>
耐炎ポリマーを含有する溶液を100mLポリカップに80mL入れ、温浴で30℃に温調する。アルコール温度計で、溶液の内温が30℃±0.5℃にあることを確認した後に、B型粘度測定器を用いて3回測定し、その平均値を採用した。なお、本実施例では、B型粘度測定器として、東京計器社製 B−8Lを用いた。
耐炎ポリマーを含有する溶液を秤量し、約4gを500mlの水中に入れ、これを沸騰させた。一旦固形物を取り出し、再度500mlの水中に入れて、これを沸騰させた。残った固形分をアルミニウムパンに乗せ、120℃の温度のオーブンで1時間乾燥し耐炎ポリマーを単離した。単離した固形分を秤量し、元の耐炎ポリマーを含有する溶液の重量との比を計算して濃度を求めた。
<耐炎ポリマー含有溶液の粘度>
耐炎ポリマーを含有する溶液を100mLポリカップに80mL入れ、温浴で30℃に温調する。アルコール温度計で、溶液の内温が30℃±0.5℃にあることを確認した後に、B型粘度測定器を用いて3回測定し、その平均値を採用した。なお、本実施例では、B型粘度測定器として、東京計器社製 B−8Lを用いた。
<耐炎ポリマーおよび炭素繊維原料繊維の耐炎化進行度測定>
耐熱ポリマーについては上記耐炎ポリマーの単離法に基づき単離した後に、耐炎繊維については繊維を鋏で細かく切断した後に、それぞれ凍結粉砕を行い、得られた分状物2mgと赤外求光用KBr300mgとを乳鉢にてさらに粉砕混合し、錠剤成型器にて錠剤を成型した。該錠剤について、FT−IR測定器(島津製作所製)を用いて測定を行い、1585cm-1から1610cm-1の間における最大の吸光度を求めた。
<炭素繊維の断面形状>
炭素繊維束を繊維軸に垂直な面に沿ってカミソリで切断し、走査型電子顕微鏡を用いて断面形状の観察を行った。測定倍率は、視野内に炭素繊維が3〜5本が完全に収まるような倍率とし、得られた画像を画像解析することで炭素繊維の断面積と周長を求め、断面積より繊維直径を、また式(1)を用いて真円度を求めた。
<各種繊維における単繊維引張強度>
いずれの繊維も、JIS L1015(1981)に従って引張試験を行った。表面が滑らかで光沢のある紙片に5mm幅毎に25mmの長さの単繊維を1本ずつ試料長が約20mmとなるよう両端を接着剤で緩く張った状態で固着した。試料を単繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長20mm、引張速度1mm/分で測定した。測定数はn=50とし、全測定の平均値を引張強度とした。なお、強度の計算に必要な単繊維の断面積については、下記炭素繊維束の目付、比重を後述する手順に従い測定し、下記式(2)を用いて計算したものを用いた。
耐熱ポリマーについては上記耐炎ポリマーの単離法に基づき単離した後に、耐炎繊維については繊維を鋏で細かく切断した後に、それぞれ凍結粉砕を行い、得られた分状物2mgと赤外求光用KBr300mgとを乳鉢にてさらに粉砕混合し、錠剤成型器にて錠剤を成型した。該錠剤について、FT−IR測定器(島津製作所製)を用いて測定を行い、1585cm-1から1610cm-1の間における最大の吸光度を求めた。
<炭素繊維の断面形状>
炭素繊維束を繊維軸に垂直な面に沿ってカミソリで切断し、走査型電子顕微鏡を用いて断面形状の観察を行った。測定倍率は、視野内に炭素繊維が3〜5本が完全に収まるような倍率とし、得られた画像を画像解析することで炭素繊維の断面積と周長を求め、断面積より繊維直径を、また式(1)を用いて真円度を求めた。
<各種繊維における単繊維引張強度>
いずれの繊維も、JIS L1015(1981)に従って引張試験を行った。表面が滑らかで光沢のある紙片に5mm幅毎に25mmの長さの単繊維を1本ずつ試料長が約20mmとなるよう両端を接着剤で緩く張った状態で固着した。試料を単繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長20mm、引張速度1mm/分で測定した。測定数はn=50とし、全測定の平均値を引張強度とした。なお、強度の計算に必要な単繊維の断面積については、下記炭素繊維束の目付、比重を後述する手順に従い測定し、下記式(2)を用いて計算したものを用いた。
s=W/100・n・ρ ・・・ (2)
s:単繊維断面積(cm2)
W:炭素繊維束の目付(g/m)
n:炭素繊維束中の糸条数(本)
ρ:炭素繊維束の比重(g/cm3)
<繊維束の目付測定>
繊維束を1m切り出し、120℃で2時間乾燥させた後、電子天秤を用いて重量を測定した。
<繊維束の比重測定>
電子天秤を付属した液浸法による自動比重測定装置を自作し、具体的に炭化処理前の繊維の場合にはエタノールを用い、炭化処理後の繊維の場合にはジクロロベンゼンを液として用い、この中に試料を投入し測定した。なお、予め投入前にエタノールまたはジクロロベンゼンを用い別浴で試料を十分濡らし、泡抜き操作を実施した。
s:単繊維断面積(cm2)
W:炭素繊維束の目付(g/m)
n:炭素繊維束中の糸条数(本)
ρ:炭素繊維束の比重(g/cm3)
<繊維束の目付測定>
繊維束を1m切り出し、120℃で2時間乾燥させた後、電子天秤を用いて重量を測定した。
<繊維束の比重測定>
電子天秤を付属した液浸法による自動比重測定装置を自作し、具体的に炭化処理前の繊維の場合にはエタノールを用い、炭化処理後の繊維の場合にはジクロロベンゼンを液として用い、この中に試料を投入し測定した。なお、予め投入前にエタノールまたはジクロロベンゼンを用い別浴で試料を十分濡らし、泡抜き操作を実施した。
<グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズ>
40mm長に切断した繊維束を20mg精秤し、試料繊維軸が正確に平行になるようにそろえた後、薄いコロジオン液を含浸させ幅1mmの厚さが均一な角柱試料を作製した。得られた試料について、理学電機社製X線回折装置を用いて測定した。測定条件は、X線源としてNiフィルターにより単色化したCuKα線を用い、出力40KV−20mA、計数管としてシンチレーションカウンターを用い測定を行った。2θ=25〜26°近傍の面指数(002)に対応した回折ピークの半価幅Beから、下記式(3)により結晶サイズLcを求めた。
40mm長に切断した繊維束を20mg精秤し、試料繊維軸が正確に平行になるようにそろえた後、薄いコロジオン液を含浸させ幅1mmの厚さが均一な角柱試料を作製した。得られた試料について、理学電機社製X線回折装置を用いて測定した。測定条件は、X線源としてNiフィルターにより単色化したCuKα線を用い、出力40KV−20mA、計数管としてシンチレーションカウンターを用い測定を行った。2θ=25〜26°近傍の面指数(002)に対応した回折ピークの半価幅Beから、下記式(3)により結晶サイズLcを求めた。
結晶サイズLc(nm)=λ/(B0×COSθ) ・・・ (3)
λ:X線の波長=0.15148nm
B0=(Be2−B12)1/2
(B1は装置定数。ここでは1.046×10-2rad)
θ=Bragg角
<ホウ素含有量>
試料を“テフロン(登録商標)”製密閉容器にとり、硫酸に次いで硝酸で加熱酸分解した後、測定セルに一定量の溶液を詰め、ICP発光分析装置(セイコー電子工業 シーケンシャル型ICP SPS1200−VR)を用いて測定した。
λ:X線の波長=0.15148nm
B0=(Be2−B12)1/2
(B1は装置定数。ここでは1.046×10-2rad)
θ=Bragg角
<ホウ素含有量>
試料を“テフロン(登録商標)”製密閉容器にとり、硫酸に次いで硝酸で加熱酸分解した後、測定セルに一定量の溶液を詰め、ICP発光分析装置(セイコー電子工業 シーケンシャル型ICP SPS1200−VR)を用いて測定した。
<炭素繊維束のフックドロップ値>
温度23±2℃、湿度50±5%の雰囲気中で炭素繊維束を2時間以上調湿した後、長さ1.5m長に切断し、下部に7.5×10-2g/tex(100g/133ktex)の重りを吊り下げる。これに1mmφ、長さ100mm程度のステンレスワイヤーの下部20〜30mmを曲げ、全重量が12gとなるように加重をかけたものを、上部20〜30mmをUの字に曲げた部分で繊維束幅方向の中央に引っ掛ける。そして、30分経過後の前記加重の落下距離(単位:cm)を測定する。この測定を5回行い、全測定の平均値をフックドロップ値とした。
温度23±2℃、湿度50±5%の雰囲気中で炭素繊維束を2時間以上調湿した後、長さ1.5m長に切断し、下部に7.5×10-2g/tex(100g/133ktex)の重りを吊り下げる。これに1mmφ、長さ100mm程度のステンレスワイヤーの下部20〜30mmを曲げ、全重量が12gとなるように加重をかけたものを、上部20〜30mmをUの字に曲げた部分で繊維束幅方向の中央に引っ掛ける。そして、30分経過後の前記加重の落下距離(単位:cm)を測定する。この測定を5回行い、全測定の平均値をフックドロップ値とした。
<広がり性>
下記の樹脂組成に従い原料樹脂をニーダーにて混錬して樹脂組成物を調整したのち、離型紙上にフィルムコーティングし、目付31.5g/m2の樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムのコーティング面を向かい合わせにした間に、加振ロールで開繊した炭素繊維束を190g/m2になるように配列し、含浸温度100℃、含浸線圧800kg/mの設定で炭素繊維に樹脂を含浸させた。さらに、得られたプリプレグをもう一度同装置に導入し、含浸温度100℃、含浸線圧1000kg/mの設定で含浸を行い、炭素繊維目付190g/m2、樹脂重量分率24.9%の一方向のプリプレグを作製した。ここで、1度含浸機を通すたびに炭素繊維の広がりと厚みの均一性をチェックし、下記基準に従い広がり性の判定を行った。
[判定基準]
○○○ 1度の含浸作業にて隙間無く炭素繊維束がプリプレグ一面に広がり、厚みも均一になった。
下記の樹脂組成に従い原料樹脂をニーダーにて混錬して樹脂組成物を調整したのち、離型紙上にフィルムコーティングし、目付31.5g/m2の樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムのコーティング面を向かい合わせにした間に、加振ロールで開繊した炭素繊維束を190g/m2になるように配列し、含浸温度100℃、含浸線圧800kg/mの設定で炭素繊維に樹脂を含浸させた。さらに、得られたプリプレグをもう一度同装置に導入し、含浸温度100℃、含浸線圧1000kg/mの設定で含浸を行い、炭素繊維目付190g/m2、樹脂重量分率24.9%の一方向のプリプレグを作製した。ここで、1度含浸機を通すたびに炭素繊維の広がりと厚みの均一性をチェックし、下記基準に従い広がり性の判定を行った。
[判定基準]
○○○ 1度の含浸作業にて隙間無く炭素繊維束がプリプレグ一面に広がり、厚みも均一になった。
○○ 1度の含浸作業では炭素繊維間に隙間が残るか、厚みが均一にならなかったが、2度目の含浸作業にて隙間無く炭素繊維束がプリプレグ一面に広がり、厚みも均一になった。
○ 2度目の含浸作業にて隙間無く炭素繊維束が広がったが、厚みにむらが残った。
× 2度の含浸作業を行っても、炭素繊維束間に隙間が若干残った。(空隙率20%未満)
×× 2度の含浸作業を行っても、炭素繊維束間に隙間が多く残った。(空間率20%以上)
[樹脂組成]
1. テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
(住友化学工業(株)製、ELM434) ・・・・60重量部
2. ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(油化シェルエポキシ(株)製、エピコート828) ・・・・30重量部
3. ビスフェノールF型エポキシ樹脂
(大日本インキ工業(株)製、エピクロン830) ・・・・13重量部
4. 4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
(住友化学工業(株)製、スミキュアS) ・・・・45重量部
<含浸性>
上記広がり性の測定を終了したプリプレグを、(0°/90°)3sの構成で積層し、通常のオートクレーブを用いて加圧・過熱成形した。成形条件は成形圧力を0.6MPaとし、成形温度を180℃に設定して、180℃に昇温されてから2時間保持することで成形を行った。また、この時の昇温速度は2.0℃/minとした。得られた複合材料を切断して切断面を研磨し、中心の90°層をマイクロスコープ((株)キーエンス VHX−600)を用いて400倍にて観察し、炭素繊維間隙にボイドが残留していないかどうかチェックを行った。観察は1サンプルにつき2断面にて行い、1カ所でもボイドが観測されれば×、ボイドが観測されない場合を○とした。
×× 2度の含浸作業を行っても、炭素繊維束間に隙間が多く残った。(空間率20%以上)
[樹脂組成]
1. テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
(住友化学工業(株)製、ELM434) ・・・・60重量部
2. ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(油化シェルエポキシ(株)製、エピコート828) ・・・・30重量部
3. ビスフェノールF型エポキシ樹脂
(大日本インキ工業(株)製、エピクロン830) ・・・・13重量部
4. 4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
(住友化学工業(株)製、スミキュアS) ・・・・45重量部
<含浸性>
上記広がり性の測定を終了したプリプレグを、(0°/90°)3sの構成で積層し、通常のオートクレーブを用いて加圧・過熱成形した。成形条件は成形圧力を0.6MPaとし、成形温度を180℃に設定して、180℃に昇温されてから2時間保持することで成形を行った。また、この時の昇温速度は2.0℃/minとした。得られた複合材料を切断して切断面を研磨し、中心の90°層をマイクロスコープ((株)キーエンス VHX−600)を用いて400倍にて観察し、炭素繊維間隙にボイドが残留していないかどうかチェックを行った。観察は1サンプルにつき2断面にて行い、1カ所でもボイドが観測されれば×、ボイドが観測されない場合を○とした。
<コンポジットの圧縮強度>
上記広がり性の試験で作成したプリプレグを、強化繊維の方向が同一になるように8枚積層し、オートクレーブ中で温度135℃、圧力290Paで2時間加熱加圧して硬化し、一方向複合材料を作成した。該複合材料から、ASTM D690に従い幅12.7mm、長さ79.4mmの試験辺を作成し、圧縮強度の測定を行った。
上記広がり性の試験で作成したプリプレグを、強化繊維の方向が同一になるように8枚積層し、オートクレーブ中で温度135℃、圧力290Paで2時間加熱加圧して硬化し、一方向複合材料を作成した。該複合材料から、ASTM D690に従い幅12.7mm、長さ79.4mmの試験辺を作成し、圧縮強度の測定を行った。
[実施例1]
前駆体ポリマーとしてアクリロニトリルホモポリマー10重量部と、環化剤としてモノエタノールアミン3.5重量部と、酸化剤としてオルトニトロトルエン8.0重量部と、酸として安息香酸3.0重量部とを、有機溶剤であるジメチルスルホオキシド75.5重量部に分散した分散体を、窒素を緩やかに流した窒素雰囲気下で150℃の温度で8時間撹拌した後に、30℃の温度まで冷却してジメチルスルホオキシド中に耐炎ポリマーが分散した溶液を得た。得られた耐炎ポリマーを含有溶液の耐炎ポリマーの濃度は11.4重量%で、粘度は5.0Pa・secであった。また、1585〜1610cm-1の間のIR吸光度は0.7を示し、PANの耐炎化反応が進行していることが示された。
前駆体ポリマーとしてアクリロニトリルホモポリマー10重量部と、環化剤としてモノエタノールアミン3.5重量部と、酸化剤としてオルトニトロトルエン8.0重量部と、酸として安息香酸3.0重量部とを、有機溶剤であるジメチルスルホオキシド75.5重量部に分散した分散体を、窒素を緩やかに流した窒素雰囲気下で150℃の温度で8時間撹拌した後に、30℃の温度まで冷却してジメチルスルホオキシド中に耐炎ポリマーが分散した溶液を得た。得られた耐炎ポリマーを含有溶液の耐炎ポリマーの濃度は11.4重量%で、粘度は5.0Pa・secであった。また、1585〜1610cm-1の間のIR吸光度は0.7を示し、PANの耐炎化反応が進行していることが示された。
得られた耐炎ポリマー含有溶液を湿式紡糸装置で次のようにして繊維化した。耐炎ポリマー含有溶液を焼結フィルターに通した後、直径0.10mmの円形の吐出孔を48,000ホール有する口金から30℃のDMSO/水重量比=55/45浴中に吐出した。この際、単孔吐出量は0.13g/分、浴からの引き出し速度が11m/分で、理論ドラフトは1.10である。また、凝固糸の膨潤度は400%であった。
この凝固糸を70℃のDMSO/水重量比=30/70浴中を通して1.1倍に延伸し、引き続いて80℃のDMSO/水重量比=10/90浴中を通して1.03倍に延伸した。
さらに80℃の温水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ、洗浄した。その後、アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を油剤濃度3.0重量%で、油剤成分付着量が3.0重量%となるように付与した後、熱風循環炉中200℃で3分間乾燥した。乾燥糸の比重は1.22で伸度は23%であった。また、乾燥後の珪素含有量は0.34重量%であり、乾燥緻密化時の接着が無く、しなやかな状態の乾燥糸が得られた。
さらに乾燥糸を輻射ヒーターで270℃に加熱して3.0倍に延伸すると同時に1分間熱処理して耐炎繊維束を得た。得られた耐炎繊維束を構成する単繊維は、その繊度が2.7dtex、強度が2.3g/dtex、伸度が18%であった。この繊維束について、IRにより耐炎化の進行度合いを調べたところ、吸光度は1.0であり、紡糸過程における乾燥時や延伸時の熱で耐炎化が進行していることが示された。
得られた耐炎繊維束を、さらに250℃に加熱した空気を糸条に対して直交する方向に3.0m/分の速度で吹き付けている、処理長7mのオーブンに7回通すことにより更なる耐炎化処理を行った。この時、炉内における熱処理時間は、耐炎化処理後の耐炎繊維束の耐炎化進行度をIRにて測定したときに吸光度が1.7付近となる30分に設定した。その結果、処理速度は(7×7)/30=1.63m/分であり、巻き出し速度を1.36m/分、巻き取り速度を1.63m/分として、1.2倍の延伸を行いながら30分の耐炎化処理を行った。耐炎化処理された耐炎繊維束は、単繊維繊度2.2dtex、IR吸光度1.7であった。
さらに、耐炎化処理された耐炎繊維束を窒素雰囲気中、300〜800℃で予備炭化し、次いで窒素雰囲気中、1400℃で炭化処理して炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束を構成する単繊維の断面形状をSEM観察により測定した結果、真円度0.99、直径9.9μmの円形であり、強度は3.5GPa、結晶サイズは2.2nmであり、ホウ素の付着は認められなかった。また、炭化工程における炭化収率は50%であった。
加えて、得られた炭素繊維束は、フックドロップ値が43.2cmと大きく繊維束内の交絡が少なく、広がり性は非常に良好で、含浸性にも問題なく、該炭素繊維束から得られる複合材料の圧縮強度は1480MPaと高い値を示した。
この実験において生産量を律速しているのは耐炎化処理工程であるが、この工程の処理能力より最終のCFの生産能力を計算すると12.3kg/日となり、このような小さな設備に置いても十分な生産性を持つことが示された。
[実施例2〜3,比較例1〜5]
口金孔数と吐出量を変更し、単繊維の太さやフィラメント数の異なる炭素繊維束を製造した。この時、耐炎化時間は全て耐炎糸のIR吸光度が1.7付近となるように調節した。紡糸条件、並びに評価結果を表1に示すが、本発明の範囲にある実施例2,3においては、優れた広がり性と高い生産性を両立することができたが、フィラメント数が少ない場合(比較例1,2)においては生産性が低下してしまい、フィラメント数が多くても単繊維が細い場合(比較例4,5)には広がり性が低下してしまうことが示された。
口金孔数と吐出量を変更し、単繊維の太さやフィラメント数の異なる炭素繊維束を製造した。この時、耐炎化時間は全て耐炎糸のIR吸光度が1.7付近となるように調節した。紡糸条件、並びに評価結果を表1に示すが、本発明の範囲にある実施例2,3においては、優れた広がり性と高い生産性を両立することができたが、フィラメント数が少ない場合(比較例1,2)においては生産性が低下してしまい、フィラメント数が多くても単繊維が細い場合(比較例4,5)には広がり性が低下してしまうことが示された。
[実施例4]
油剤として、アミノ変性シリコーン油剤とホウ酸を3:1に混ぜたものに変更した以外は、実施例1と同じ条件にて炭素繊維束を製造した。結果、ホウ酸の耐炎化遅延効果により耐炎化に必要な時間が若干延びて生産性が僅かに低下する反面、炭素繊維の物性は向上した。ただし、炭素繊維にホウ素の残留が観測されたことから、異物を嫌う用途への適応は難しくなると考えられる。
油剤として、アミノ変性シリコーン油剤とホウ酸を3:1に混ぜたものに変更した以外は、実施例1と同じ条件にて炭素繊維束を製造した。結果、ホウ酸の耐炎化遅延効果により耐炎化に必要な時間が若干延びて生産性が僅かに低下する反面、炭素繊維の物性は向上した。ただし、炭素繊維にホウ素の残留が観測されたことから、異物を嫌う用途への適応は難しくなると考えられる。
[比較例6]
口金を、特開平11−124743号公報の図1(a)に示されるような3葉の吐出孔を持ったものに変更した以外は実施例1と同様に炭素繊維を製造した。結果、断面の異形化による表面積増加効果により、耐炎化に必要な時間が短縮され、生産性が向上することが確認された。しかし、プリプレグにした際の広がり性や含浸性が低下しており、プリプレグへの適用は難しいことが示された。
口金を、特開平11−124743号公報の図1(a)に示されるような3葉の吐出孔を持ったものに変更した以外は実施例1と同様に炭素繊維を製造した。結果、断面の異形化による表面積増加効果により、耐炎化に必要な時間が短縮され、生産性が向上することが確認された。しかし、プリプレグにした際の広がり性や含浸性が低下しており、プリプレグへの適用は難しいことが示された。
[実施例5]
実施例1で得られた炭素繊維を、さらに窒素雰囲気下2200℃で3分加熱して黒鉛化を行い、炭素繊維束を得た。結果、黒鉛化に伴う重量減少により生産性が若干悪化したが、生産性と広がり性の両立した生産が可能であった。しかし、黒鉛化により結晶サイズが大きくなり弾性率が向上する反面、圧縮特性が大幅に低下することが示された。
実施例1で得られた炭素繊維を、さらに窒素雰囲気下2200℃で3分加熱して黒鉛化を行い、炭素繊維束を得た。結果、黒鉛化に伴う重量減少により生産性が若干悪化したが、生産性と広がり性の両立した生産が可能であった。しかし、黒鉛化により結晶サイズが大きくなり弾性率が向上する反面、圧縮特性が大幅に低下することが示された。
[比較例6〜8]
紡糸原液として、アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる、粘度50Pa・sec、ポリマー濃度19.7%のポリアクリロニトリル共重合体溶液を使用し、ポリマー溶液を焼結フィルターに通した後、直径0.06mmの吐出孔を有する口金から30℃のDMSO/水重量比=55/45浴中に吐出した。この際、口金の吐出孔数および吐出量は表1に示すとおりとした。続いて、浴中に吐出された繊維を11m/分での速度で引き出し、70℃のDMSO/水重量比=30/70浴中を通して2.5倍に延伸し、引き続いて80℃のDMSO/水重量比=10/90浴中を通して2.0倍に延伸した。
紡糸原液として、アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる、粘度50Pa・sec、ポリマー濃度19.7%のポリアクリロニトリル共重合体溶液を使用し、ポリマー溶液を焼結フィルターに通した後、直径0.06mmの吐出孔を有する口金から30℃のDMSO/水重量比=55/45浴中に吐出した。この際、口金の吐出孔数および吐出量は表1に示すとおりとした。続いて、浴中に吐出された繊維を11m/分での速度で引き出し、70℃のDMSO/水重量比=30/70浴中を通して2.5倍に延伸し、引き続いて80℃のDMSO/水重量比=10/90浴中を通して2.0倍に延伸した。
さらに80℃の温水浴において、溶媒類をほとんど水に置換しつつ、洗浄した。その後、アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を油剤濃度3.0重量%で、油剤成分付着量が3.0重量%となるように付与した後、表面温度160℃のホットローラーに合計1分接触させることにより乾燥した。
さらに乾燥糸を0.3MPaの加圧蒸気により加熱し3.0倍に延伸してポリアクリロニトリル繊維束を得た。このポリアクリロニトリル繊維束についてIRにより耐炎化の進行度合いを調べたところ、吸光度は0.1以下であり、耐炎化は進行していないことが示された。
続けて、得られたポリアクリルニトリル繊維束を、実施例1と同様な設備と手法を用い、耐炎化処理後の繊維束の耐炎化進行度をIRにて測定したときに吸光度が1.7となるまで耐炎化処理を行い、得られた耐炎繊維束を実施例1と同様にして予備炭化処理し、次いで炭化処理して炭素繊維束を得た。
結果、ポリマーの段階で全く耐炎化を行っていないことから、耐炎化の時間が2倍必要となり、生産性が大幅に低下した(比較例6)。しかも、繊維が細い場合(比較例8)と比較して、強度の低下が激しい傾向が見られた。また、生産性を向上するため、さらにフィラメント数を増やしたところ(比較例7)、耐炎化工程において酸化発熱が蓄積したことから繊維が焼き切れてしまい、生産は不可能であった。
Claims (8)
- 断面形状が直径8μm以上、真円度0.95以上の円形であり、かつ、引張強度が3GPa以上である単繊維が36,000本以上収束している炭素繊維束。
- 広角X線回折測定により得られる、グラファイト結晶の(002)面における結晶サイズが2.5nm以下である請求項1に記載の炭素繊維束。
- 耐炎化遅延物質が実質的に付着していない請求項1または2のいずれか1項に記載の炭素繊維束。
- プリプレグの製造に用いられる請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素繊維束
- ポリアクリロニトリルを前駆体とする耐炎ポリマーを紡糸し、断面形状が真円度0.95以上の円形で、単繊維繊度が2デシテックス以上である単繊維が36,000本以上収束してなる耐炎繊維束を得た後、得られた耐炎繊維束を炭化処理する炭素繊維束の製造方法。
- 紡糸後に、1時間を越えて耐炎化処理を行わない請求項5に記載の炭素繊維束の製造方法。
- 紡糸後に、実質的に耐炎化処理を行わない請求項5に記載の炭素繊維束の製造方法。
- 紡糸後炭化処理する前に繊維を一旦巻き取らない、請求項5〜7のいずれか1項に記載の炭素繊維束の製造方法。
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