JP2015183080A - 脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステル含有脂質の晶析法 - Google Patents
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Description
(1)脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルを含有する脂質を晶析し圧搾及び/または濾過により高融点画分と低融点画分に分別する工程において、単層または非共有結合により積層する層状構造を有する次の(a)〜(e)から選ばれる1種以上の固化促進剤粒子が、晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面の一部または全部に固定化されている晶析装置を用いて晶析することを特徴とする、脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの晶析法。
(a)構成する四面体層(T)及び八面体層(O)のうち八面体層が3八面体構造である、層状珪酸塩鉱物。
(b)構成する四面体層(T)及び八面体層(O)のうち八面体層が2八面体構造であり、T-Oの1:1またはT-O-T-Oの2:1:1単位層構造からなる層状珪酸塩鉱物であって、これを表面疎水処理したもの。
(c)単層または層状カーボン類。
(d)芳香族カルボン酸またはそのアルカリ金属塩
(e)テオブロミン
(2)単層または層状カーボン類がグラファイトである、(1)に記載の脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの晶析法。
(3)グラファイトが晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面の一部または全部を固定化しているのがグラファイトシートまたはグラファイトフェルトである、(2)に記載の脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの晶析法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1に記載の晶析装置を用いて晶析し、その後に圧搾及び/または濾過により高融点画分と低融点画分に分別することを特徴とする脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの分別方法。
である。
本発明の脂肪酸とは、炭化水素鎖の末端に1つのカルボキシル基を有する1価カルボン酸である。脂肪酸は任意の鎖長のものを使用することができ、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸を含む不飽和脂肪酸、ヒドロキシル基を有する脂肪酸、分岐鎖を有する脂肪酸など、各種の脂肪酸が対象となる。
本発明のグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンまたはグリセリンが2分子以上重合したポリグリセリンに対し、各種の脂肪酸がエステル結合したものである。結合脂肪酸は任意の鎖長のものを使用することができ、飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸を含む不飽和脂肪酸、ヒドロキシル基を有する脂肪酸、分岐鎖を有する脂肪酸など、各種の脂肪酸が対象となる。グリセリン脂肪酸エステルは、これら脂肪酸がグリセリン1分子当たり1〜3分子エステル結合したものであり、好ましくは同2〜3分子、更に好ましくは同3分子エステル結合したものである。本発明には、グリセリン1分子に対して脂肪酸3分子が結合した、トリグリセリドが最適である。
本発明の固化促進剤は、単層または非共有結合により積層する層状構造からなる必要がある。ここで言う「非共有結合」とは、これら層間の0.5〜10Å、好ましくは0.5〜5Å程度(タルクは2.8Å)の間隙に存在する静電的相互作用やファンデルワールス力相互作用等による比較的弱い結合を指し、具体的にはイオン結合や金属結合、水素結合、疎水結合を例示することができる。それぞれの層は、構成する原子にもよるが、概ね1〜20Å程度(タルクは6.5Å)の層厚を有し、共有結合により構成されている。
本発明の脂質組成物用固化促進剤は、更に、次の(a)〜(e)から選ばれる1種以上からなる。
(a)構成する四面体層(T)及び八面体層(O)のうち八面体層が3八面体構造である、層状珪酸塩鉱物であるもの。
ここで層状珪酸塩鉱物とは、粘土鉱物のうち劈開性を有する一群であり、タルク、カオリン、スメクタイト、マイカ等の層状珪酸塩鉱物が挙げられる。四面体層とは、Si4+,Al3+,Fe3+などのカチオンを中心に互いに結合した酸素原子が四面体を形成し、平面または擬平面上でヘキサゴナル様のメッシュパターンを形成するように特定面(基底面)の酸素原子を共有して連なったシートである。一方、八面体層は、Al3+,Fe3+など3価のカチオンを中心に互いに結合した酸素原子が八面体を形成し、八面体の占有率が2/3になるようにこれらがシート状に連なった2八面体構造と、Mg2+,Fe2+など2価のカチオンを中心に互いに結合した酸素原子が八面体を形成し、これらが密な状態でシート状に連なった3八面体構造に分けられ、四面体層を構成する四面体同様に基底面が存在する。
これらは、単位層の少なくとも片面に四面体層を有しており、タルクのように各四面体の基底面で構成される表面、すなわち基底表面(basal surface)が疎水的で歪のないものが好ましい。
すなわち、四面体層(T)と2八面体層(O)からなる層状珪酸塩鉱物のうち、T-Oの1:1,またはT-O-T-Oの2:1:1の単位層構造を有するものについて、表面疎水処理を施すことで本発明の効果が得られる。典型的にはカオリン,2八面体型クロライトが挙げられ、これらの表面を疎水処理する。疎水処理には、種々の方法を利用できるが、シランカップリング剤による表面修飾等の方法が好ましい。
炭素原子が層状に配置しているものであり、グラフェン,グラファイト,単層または複層からなるカーボンナノチューブ及びフラーレンが例示される。
芳香族カルボン酸とは、ベンゼン環と1以上のカルボキシル基を有するもので、1つのカルボキシル基を有するものとして、安息香酸,サリチル酸,没食子酸,ケイ皮酸を、2つのカルボキシル基を有するものとして、オルト-/イソ(メタ)-/テレ(パラ)-の各フタル酸,メリト酸が例示される。また、これらのナトリウム塩,カリウム塩等をそのアルカリ金属塩として挙げることができる。好ましくは、2以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸またはそのアルカリ金属塩である。
テオブロミンとは、プリン塩基の一種であるキサンチンがメチル化された誘導体で、カカオに含まれる主要アルカロイドである。上記芳香族カルボン酸またはそのアルカリ金属塩同様、二量体を形成しやすく、これらの二量体が水素結合を介して層状に積層した結晶構造となる。
本発明において、晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面を固定化する方法としては、該表面に固化促進効果のある単層または非共有結合により積層する層状構造を有する固化促進剤粒子を保持しているものであれば特に制限はない。例えば、接着性のある樹脂類を用いて、固化促進剤粒子を晶析槽内側壁や撹拌翼表面にサンドペーパーのごとく均一に固定化する方法、グラファイトシートやグラファイトフェルトのような固化促進剤がシート状や布状に加工された素材でその表面に固化促進効果のある単層または非共有結合により積層する層状構造を有するものを晶析槽内側壁、撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面に接着性樹脂で貼り付ける方法やボルトナットやネジで固定する方法が例示できる。
晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面の固定化は、それらの一部であっても全部であっても差し支えないが、好ましくは晶析槽側壁の全部または撹拌翼表面の全部または邪魔板表面の全部、最も好ましくは晶析槽内側壁の全部及び撹拌翼表面の全部及び邪魔板の全部が固定化された晶析装置であるのが好ましい。なお、撹拌翼とは晶析漕の撹拌の目的で使用されるもので、撹拌機に接続された撹拌翼の回転により漕内に液流を発生させるものである。撹拌翼としては、平面状のパドル翼、プロペラ状の羽根など撹拌の目的を達成できるものであれば特にその形状に制限はない。また、邪魔板とは撹拌槽の内槽壁に溶接などで取り付ける板であり、撹拌効率を高めるために使用される場合がある。
晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面に固定化された上記固化促進剤粒子は、その基底表面と脂質組成物を構成する分子である脂肪酸や脂肪酸エステルとの相互作用により固化促進効果を発現すると考えられ、微量の固定化でもその効果を得ることができるが、固定化量が多いほど、また固化促進剤粒子径が小さくなるほど基底表面合計面積が増加し、大きな効果を得ることができる。ただし、種類や形状、アスペクト比等によって、効果が大きく変わるため、期待する効果に合わせて固化促進剤の種類、粒子径及び固定化量を選択する必要がある。
本発明においては、脂肪酸や脂肪酸エステルの固化促進効果のある高融点脂肪酸、高融点脂肪酸エステル、中融点安定結晶粉末などの脂溶性固化促進剤を添加しなくても優れた固化促進効果を得ることができるが、かかる脂溶性固化促進剤を添加することもできる。脂溶性固化促進剤を添加すると、分別高融点画分に該脂溶性固化促進剤が濃縮され、後の工程で改めて該脂溶性固化促進剤を除去する必要がある場合があるので、望ましくは使用しないのが好ましい。
本発明においては、分別対象とする脂質組成物に難溶性の固形分を併用することが可能で、その一例として、アラビアガム,寒天,キサンタンガム,セルロース及びその誘導体,キチン,キトサン,各種デキストリン,でん粉及び加工でん粉,イヌリン等の多糖類、食塩,塩化カリウム,塩化カルシウム,クエン酸ナトリウム,硫酸マグネシウム等の塩類、大豆,小麦,乳,卵等に由来する動植物タンパク及びその加水分解物を挙げることができる。しかし、上記固化促進剤に対するこれら固形分の添加量が多すぎると、該固化促進剤との会合により実質的な基底表面合計面積が顕著に低下するため、同添加量を重量比で10倍以下に抑えるのが好ましく、より好ましくは等量以下、さらに好ましくは10分の1以下である。
本発明においては、上記脂質組成物に脂溶性添加剤を併用することも可能であり、例えば、レシチン,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,固化促進の対象とする以外のグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤,着色料,着香料,防腐剤,酸化防止剤等を、単独または複数使用しても良い。これら添加剤は任意の量で使用できるが、添加剤自身の効果により上記固化促進剤の効果を妨げる場合に限り、例えば固化促進の対象とする脂質組成物全量に対し重量換算で0.1%以下というように、極力使用量を抑える方が良い。
本発明の固化促進方法は、脂質組成物を高融点画分と低融点画分に分別することで分別脂質を製造する際の、生産性等の向上に利用することもできる。尚、分別脂質とは、脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルを含む脂質組成物について、構成する個々の脂質を融点の差や溶媒への溶解性の差により分離分画(分別)したものである。適用する分別方法について特に制限はなく、ヘキサンやアセトンなどの溶剤を用いる溶剤分別法や、これらの溶剤を全く用いない乾式分別法等を任意に利用することができる。本発明の晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面に固定化された固化促進剤は、分別工程中に該表面から脱離や脱着しないものが最も好ましいが、一部脱離や脱着がある場合は分画された分別高融点部を加熱等の操作により脂質のみを融解し、濾過、遠心分離等の方法で脱離や脱着した固化促進剤を除去すればよい。脱離や脱着のない固定化物としては、前記グラファイトシートやグラファイトフェルトが好適に利用できる。
本発明による脂質組成物の固化促進効果は、主にDSC測定に基づいて評価することができる。DSCとは、Differential Scanning Calorimetry(示差走査熱量測定)の略称であり、測定試料と基準物質との間の熱量の差を計測することで、凝固温度や融点、ガラス転移点等を測定する熱分析の手法である。熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)と入力補償示差走査熱量測定(入力補償DSC)の二種類があるが、本発明においては、試料及び基準物質で構成される試料部の温度を、一定のプログラムによって変化させながら、その試料及び基準物質の温度が等しくなるように、両者に加えた単位時間当たりの熱エネルギーの入力差を温度の関数として測定する、熱流束DSC測定を行う。DSC測定では、一定速度または一定温度で試料の冷却を行なった際の発熱ピークの立ち上がり温度(凝固開始温度)及び発熱ピークトップ温度から、固化促進効果の有無を判定する。なお、評価に際しては、脂質のいわゆる「メモリー効果」の影響を避けるため、脂質全体の融点より十分高い温度、好ましくは最も融点の高い脂質成分の融点より約15℃以上高い温度で10分間保持した後、冷却を行うこととする。
80℃以上で完全融解した精製パーム中融点画分(不二製油社製、融点26℃)10mgをDSC測定用のアルミパンに計量し、これにグラファイトフェルト(TRUSCO社製スパッタフェルト、品番28CF−11)の表面の繊維片0.1mgを添加し、下記温度条件でDSC測定(島津製作所社製熱流束DSC測定器;DSC-60使用、以下同じ)による評価を行なった。
<評価温度条件>
DSC測定;初期温度 80℃(10分間),冷却速度 1℃/分,最終温度 0℃
80℃以上で完全融解した精製パーム中融点画分(不二製油社製、融点26℃)100部に対し、タルク粉末(商品名:タルクMS,日本タルク社製、メジアン径14μm)1部を添加、混合し、得られた混合液10mgをDSC測定用のアルミパンに計量し、実施例1同条件でDSCによる評価を行った。
実施例1において、精製パーム中融点画分(不二製油社製、融点26℃)10mgをDSC測定用のアルミパンに計量し、グラファイトフェルト切片を添加せずに実施例1同条件でDSCによる評価を行った。
80℃以上,15分間保持して完全融解した精製パーム中融点画分(不二製油社製、融点26℃)3,600gを内径200mmのステンレスバットに計量し、撹拌翼(ステンレス製パドル翼、外枠100×150mm、内枠80×106mmの片面に外枠と同サイズのグラファイトフェルト(TRUSCO社製、品番28CF−11,厚み2.8mm)を外枠の計8カ所でボルトナットで固定したもの)で30rpmで撹拌しながら晶析を行った。なお、本晶析装置には邪魔板は設置されていない。冷却は、ステンレスバットの底面のみを25℃水槽に接触させて冷却し、パーム中融点部の高融点画分の晶析を行った。晶析開始してから一定時間後に晶析混濁駅を採取し、直ちに0.5atm減圧下で吸引濾別し、得られた濾液側の脂質組成を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による組成分析を行い、PPPを主成分とする高融点成分の結晶化速度を評価した。
実施例2において、撹拌翼にグラファイトフェルトを固定することなく、撹拌翼(ステンレス製パドル翼、外枠100×150mm、内枠80×106mm)を用いて、実施例2同様に晶析を行い、実施例2同様にPPPを主成分とする高融点成分の結晶化速度を評価した。
Claims (4)
- 脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルを含有する脂質を晶析し圧搾及び/または濾過により高融点画分と低融点画分に分別する工程において、単層または非共有結合により積層する層状構造を有する次の(a)〜(e)から選ばれる1種以の固化促進剤粒子が、晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面の一部または全部に固定化されている晶析装置を用いて晶析することを特徴とする、脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの晶析法。
(a)構成する四面体層(T)及び八面体層(O)のうち八面体層が3八面体構造である、層状珪酸塩鉱物。
(b)構成する四面体層(T)及び八面体層(O)のうち八面体層が2八面体構造であり、T-Oの1:1またはT-O-T-Oの2:1:1単位層構造からなる層状珪酸塩鉱物であって、これを表面疎水処理したもの。
(c)単層または層状カーボン類。
(d)芳香族カルボン酸またはそのアルカリ金属塩
(e)テオブロミン - 単層または層状カーボン類がグラファイトである、請求項1に記載の脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの晶析法。
- グラファイトを晶析槽内側壁、晶析用撹拌翼、邪魔板のいずれかの1箇所以上の表面の一部または全部に固定化しているのがグラファイトシートまたはグラファイトフェルトである、請求項2に記載の脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの晶析法。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の晶析装置を用いて晶析し、その後に圧搾及び/または濾過により高融点画分と低融点画分に分別することを特徴とする脂肪酸またはグリセリン脂肪酸エステルの分別方法。
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