以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.本実施形態の手法
まず本実施形態の手法について説明する。特許文献1に開示されているように、光センサーを用いて液体の残存状態を判定する手法(インクニアエンドを判定する手法)が知られている。このような手法では、光センサーが光を精度よく検出することが必要であり、光センサーに故障等が発生した場合、当該光センサーを用いた残存状態の判定結果は精度が低いものとなってしまう。
特許文献2に開示されているように、光センサーの故障を検出する手法も種々知られている。特許文献2では、光を全反射するミラーで構成された故障検知板が、光センサーの真上となるような位置で、発光部を発光させた状態での受光部の検出信号を用いて、故障を検知している。具体的には、所定の電圧値範囲を設定しておき、当該範囲内であれば正常、当該範囲外となった場合に故障と判定する。
しかしこのような手法では、故障の内容を細かく切り分けることができない。具体的には、電圧値があらかじめ定められた電圧値(上記範囲の上限値)よりも大きい場合と、電圧値があらかじめ定められた電圧値(上記範囲の下限値)よりも小さい場合とでは、故障内容が異なるということは推定できるが、それ以上の切り分けができない。
また、特許文献2の故障検出手法では、発光部は発光させた状態となっているが、外乱光の影響を考慮する必要がある場合、発光状態だけの判定では充分とは言えない状況も生じうる。ここでの外乱光とは、例えば液体消費装置の外部から装置内部に進入する光のことであり、具体的には液体消費装置のカバーが開けられた状態で検出される光である。
残存状態の判定は、理想的には、発光部により射出され、何らかの部材(特許文献2ではプリズム)で反射された反射光により行う。外乱光等の光は、残存状態判定において本来検出したくない光であり、残存状態判定への悪影響という意味ではセンサー故障と同様に検出することが望ましい。
しかし、発光部を発光させた状態での故障検出では、検出された光が発光部から射出された光であるのか、外乱光であるのかの切り分けができない。そのため、そもそも故障の検出結果が誤ったものになる可能性、或いは残存状態判定に悪影響があるということはわかっても、それがセンサー故障なのか外乱光等によるものなのかを識別できないといった可能性が生じうる。
そこで本出願人は、光センサーの故障や、外乱光、或いはその他残存状態判定に悪影響を与える要因を、切り分けて検出する手法を提案する。具体的には、本実施形態に係る液体消費装置は、図1に示したように、発光部82と受光部84を有する光センサー80と、光センサー80に対向する面を有するプリズムが配置された液体収容容器(IC1〜IC4に対応)を着脱可能に保持可能なホルダー21と、光センサー80の検出信号に基づいて、光センサー80の状態を判定する判定部(図5の故障判定部120に対応)とを含む。ここで、液体収容容器(液体収容部)のプリズムは、ホルダー21に装着されたときに、光センサーと対向する。そして、液体収容容器がホルダー21に装着されている場合に、判定部は、発光部82を発光させた場合の光センサー80の検出信号と、発光部82を消灯させた場合の光センサー80の検出信号とに基づいて、光センサー80の故障を検出する。
発光部82を消灯させた場合の検出信号を用いることで、発光部82から射出された光による故障判定への影響を抑止できる。例えば、後述するように光センサーのフォトダイオードに過剰な電流が流れている場合、グランドショートエラーと判定できるが、発光部82が発光していれば当該発光部82からの光、すなわち正常状態でも検出される光による電流も含まれてしまうため、故障検出における分解能が低下する。その点、発光部82を消灯しておけば、正常状態でも検出される光がなくなるため、電流量が異常なレベルで多いか否かを精度よく判定可能である。
また、発光部82が発光している場合の検出信号と消灯している場合の検出信号の差分を用いることで、外乱光等の影響を抑止して、発光部82からの光による信号値を精度よく求めること等も可能である。本実施形態での故障検出手法の詳細については後述する。
また、本実施形態では、判定部は、光センサー80の発光部82から照射され、プリズムの底面(図6の面EF)において反射された反射光を、光センサー80の受光部84で受光することによる光センサー80の検出信号に基づいて、光センサー80の状態を判定してもよい。
例えば、ホルダー21と光センサー80の位置関係が、残存状態の判定を行う際と同じ位置関係(或いはある程度近い位置関係の範囲)となる状態で、発光部82を発光させて故障検出を行ってもよい。このようにすれば、特許文献2とは異なり、故障検出板を設ける必要がなく、部品点数の削減や、ホルダー21の小型化が可能になる。
図6等を用いて後述するように、残存状態の判定は、プリズムの面SF1やSF2での反射があるか否かに基づいて行われる。しかし発光部82からの光はプリズム底面EFを全て通過するものではなく、プリズム底面EFにより反射され、受光部により受光される光も含まれる。これは後述する図8の波形におけるSpk1やSpk2に対応するものであり、図8からもわかるように特徴的な信号として現れる。つまり、故障検出のために専用の部品を設けずとも、残存状態判定に用いる部品であるプリズムと開口つきホルダーを故障検出に流用することが可能である。
また、判定部は、発光部82を消灯してホルダー21と光センサー80を所定方向に相対移動させて発光部82を消灯させた場合の検出信号を取得し、発光部82を発光してホルダー21と光センサー80を所定方向とは反対方向に相対移動させて発光部82を発光させた場合の検出信号を取得してもよい。
後述するように、故障を検出するための検出信号としては、図8の波形のピークでの電圧値Vpk1等が用いられる。そのため、ホルダー21と光センサー80が所与の位置関係にある状態での信号を処理に用いてもよいが、ホルダー21と光センサー80の相対位置関係を変化させながら信号を検出していき、そこからピークを探索するといった手法が好ましい。
その場合、ホルダー21と光センサー80とは、基準となる相対位置関係にある状態から、故障検出のために所定方向に相対移動を行い、その後、上記基準となる相対位置関係に戻るため、上記所定方向とは反対方向に相対移動することが想定される。つまり、基準となる相対位置関係が存在し、何らかの相対移動があった場合には、その後に基準となる相対位置関係に戻る、ということを前提とできるのであれば、相対移動の往路と復路とで、2回故障検出のための信号を取得する機会がある。本実施形態では、上述したように発光部82が発光した場合と、消灯した場合とでそれぞれ検出信号を取得する必要があるから、往路復路の一方を発光に割り当て、他方を消灯に割り当てることで、無駄な相対移動を抑止して、効率よく故障検出のための信号を取得することが可能になる。
以下、本実施形態の液体消費装置について詳細に説明する。まず、液体消費装置の基本構成及びインクカートリッジの構成例について説明した後、液体消費装置の詳細な構成例を説明し、さらに液体の残存状態の判定手法(インクニアエンドの検出手法)について説明する。その後、本実施形態に係る光センサー80の故障検出手法を説明し,最後に故障検出の処理が行われるタイミング(他の処理との関係)について説明する。
2.印刷装置の基本構成、インクカートリッジ
図1は、本実施形態における印刷装置(液体消費装置)の要部を示す斜視図である。図1には、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向を示す。印刷装置の通常の使用姿勢において、印刷装置の正面方向をX方向とし、鉛直方向をZ方向とする。例えばX方向を例にとると、矢印の向く方向を+X方向(又は単にX方向)と呼び、その反対方向を−X方向と呼ぶ。
図1の印刷装置は、インクカートリッジIC1〜IC4(液体容器、液体収容容器)と、インクカートリッジIC1〜IC4を着脱可能に収容するホルダー21を備えるキャリッジ20と、ケーブル30と、紙送りモーター40と、キャリッジモーター50と、キャリッジ駆動ベルト55と、光センサー80(検出部)を含む。なお、ホルダー21とキャリッジ20は一体の部材として形成されてもよいし、別体の部材として形成されてキャリッジ20にホルダー21が組み付けられてもよい。
インクカートリッジIC1〜IC4には、それぞれ一色ずつのインク(液体、印刷材)が収容される。ホルダー21には、インクカートリッジIC1〜IC4が着脱可能に装着される。キャリッジ20の−Z方向の面には、ヘッドが設けられている。インクカートリッジIC1〜IC4から供給されるインクは、ヘッドから記録媒体に向かって吐出される。記録媒体は、例えば印刷紙である。キャリッジ20は、ケーブル30により制御部(後述する図5の制御部100)に接続されており、このケーブル30を介して制御部により吐出制御が行われる。紙送りモーター40は、紙送りローラー(図5の紙送りローラー45)を回転駆動し、図1に示すX方向に印刷紙を送る。キャリッジモーター50は、キャリッジ駆動ベルト55を駆動し、キャリッジ20を±Y方向に移動させる。これらの吐出や紙送り、キャリッジ20の移動を制御部が制御することにより印刷動作が行われる。
なお以下では、キャリッジ20を移動させる±Y方向を「主走査方向」と呼び、印刷紙を紙送りするX方向を「副走査方向」と呼ぶ。
光センサー80は、インクカートリッジIC1〜IC4のインク残存状態を検出するための信号を出力する。具体的には、光センサー80は、インクカートリッジIC1〜IC4に設けられたプリズム(後述する図4のプリズム320)へ光を照射する発光部82(発光素子)と、プリズムからの反射光を受光して電気信号に変換する受光部84(受光素子)と、を含む。例えば、発光部82はLED(Light Emission Diode)により構成され、受光部84はフォトトランジスターにより構成される。
図2に、光センサー80の詳細な構成例を示す。光センサー80は、反射型のフォトインタラプターとして構成されており、発光部82及び受光部84を有する。光センサー80は、発光部82としてLEDを有し、受光部84としてフォトトランジスターを有する。フォトトランジスターのエミッタ端子は接地電位VSSに接地され、コレクタ端子は、抵抗素子R1を介して電源電位Vccに接続されている。
A/D変換部70には、抵抗素子R1とコレクタ端子の間の電位が、光センサー80の出力電圧Vc(受光結果信号)として入力される。A/D変換された出力電圧は、残存判定部130に入力される。発光部82が照射する光の発光量は、トランジスターTR1と抵抗素子R2、R3とキャパシターC1とを介して発光部82に印加されるPWM(Pulse Width Modulation)信号のデューティー比(オン時間とオフ時間の割合)が制御部100によって調整されることにより設定される。発光部82から照射された光が、インクカートリッジIC1〜IC4内のプリズム320で反射して受光部84に受光されると、その受光量に応じた出力電圧Vcが、後述するA/D変換部を介して残存判定部130に入力される。本実施形態では、受光部84が受光する光量が多いほど、光センサー80から出力される出力電圧Vcは低くなる。
ただし、受光部84の構成は図2に限定されるものではなく、受光部84が受光する光量と、光センサー80(受光部84)の検出信号との関係も上述のものに限定されない。例えば、受光部84の構成が図3に示したものであれば、受光部84で受光する光量が多く、発生する電流量が多いほど、出力電圧Vcと接地電位VSSとの差が大きくなる。すなわち、受光部84が受光する光量が多いほど、光センサー80から出力される出力電圧Vcは高くなる。
光センサー80がそもそも入射する光の量を検出するものであり、且つ受光部84が光を電流に変換する素子であることに鑑みれば、光センサー80の出力とは本質的には受光部84で発生する電流量で考えるとよい。電流量で考えれば、入射する光が強いほど、出力電流が大きいという関係が成り立つため、構成によらず入射光の光量を判断することができる。以下では、受光部84の構成が図2である例について説明するため、入射する光量が多いほど発生する電流量が多く、出力電圧Vcは低いものとする。ただし、以下の説明における「出力電圧が低い(高い)」とは、本質的には「発生する電流量が多い(少ない)」と考えることが可能であり、当該電流量をどのような形式の出力信号として検出するかは種々の変形実施が可能である。
図4は、インクカートリッジIC1〜IC4の要部を示す斜視図である。図4に示すインクカートリッジICは、図1のインクカートリッジIC1〜IC4の各インクカートリッジに対応する。
インクカートリッジICは、インクを収容する直方体(略直方体を含む)のインク収容部300と、回路基板350(基板)と、インクカートリッジICをホルダー21に着脱するためのレバー340と、ヘッドにインクを供給するインク供給口330と、インクカートリッジICの底面310に設けられたプリズム320と、を含む。回路基板350の裏面には、インクカートリッジICに関する情報を記憶する記憶装置352が実装されている。回路基板350の表面には、記憶装置352に電気的に接続される複数の端子354が配置されている。これらの複数の端子354は、インクカートリッジICがホルダー21に装着された時に、ホルダー21に設けられた複数の本体側端子を介して、本体側の制御部(図5の制御部100)に電気的に接続される。記憶装置352としては、例えばEEPROM等の不揮発性メモリーを用いることができる。
プリズム320は、発光部82からの光に対して透明な部材で構成され、例えばポリプロピレンにより構成される。プリズム320は、発光部82からの光が入射する入射面が、インクカートリッジICの底面310に露出するように設けられる。底面310は、図1のホルダー21にインクカートリッジICが装着された場合に−Z方向側に向く面であり、ホルダー21には、発光部82からの光をプリズム320の入射面に入射させるための開口が設けられている。即ち、ホルダー21を備えたキャリッジ20が図1の主走査方向(±Y方向)に移動すると、インクカートリッジIC1〜IC4が、順次、光センサー80の上(+Z方向)を通過し、各インクカートリッジのプリズム320からの反射光が受光部84により受光される。そして、光センサー80は、受光部84の受光結果を、キャリッジ20の位置に対応したセンサー出力信号(受光結果信号)として出力する。本実施形態では、このキャリッジ20の位置に対応したセンサー出力信号に基づいて、各インクカートリッジのインクニアエンドを検出する。
ここで、インクニアエンドとは、インク収容部300に収容されたインクの残量や液面レベルが所定値以下となり、インクカートリッジICのインク量が残り少ない状態のことである。例えば、インクニアエンドが検出された後に印刷を継続し、図5で後述する残量推定部160が推定するインク消費量(インクニアエンドを検出した後のインク消費量)が所定の量を超えた場合に、ヘッドがインクを吐出しない空打ち状態となる可能性のある状態である。
3.印刷装置の詳細な構成
図5に、本実施形態における印刷装置の詳細な構成例を示す。図5では、第1の方向D1を主走査方向とし、第1の方向D1に直交する第2の方向D2を副走査方向とする。なお以下では、光センサー80が出力する受光結果信号が、図2に示したように電圧信号(以下では検出電圧と呼ぶ)である場合を例に説明する。
図5の印刷装置200は、インクカートリッジIC1〜IC4と、インクカートリッジIC1〜IC4を着脱可能に保持するホルダー21を備えるキャリッジ20と、紙送りモーター40と、紙送りローラー45と、キャリッジモーター50と、キャリッジ駆動ベルト55と、A/D変換部70と、光センサー80と、制御部100と、表示部210と、インターフェース部220と、を含む。なお、図1で説明した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
A/D変換部70は、光センサー80からの検出電圧をA/D変換し、そのA/D変換後のデジタル信号を制御部100へ出力する。具体的には、A/D変換部70は、キャリッジ20を光センサーに対して移動させたとき、キャリッジのホームポジションに対するキャリッジの位置を検出するロータリーエンコーダーのカウント値や制御部100を構成するCPUの割り込み周期等に応じた所定の位置間隔で、検出電圧をサンプリングし、複数個のサンプリング電圧を取得する。例えば、1個のカートリッジが光センサー80の上を通過するときに、数10個のサンプリング電圧を取得する。
制御部100は、インターフェース部220を介してパーソナルコンピューター250から画像データを受信し、その画像を印刷紙PAに印刷する制御を行う。制御部100は、駆動制御部105、位置補正部110、故障判定部120、残存判定部130、発光量決定部140、閾値決定部150、残量推定部160を含む。制御部100は、例えばCPUを有し、不図示のROMに記憶された制御プログラムを不図示のRAMに展開し、そのRAMに展開された制御プログラムをCPUが実行することで制御部100の各部として動作する。
駆動制御部105は、印刷装置200の駆動部の制御を行う。具体的には、駆動部であるキャリッジモーター50の制御を行う。キャリッジモーター50を制御して、キャリッジ20を移動させる制御を行う。これにより、キャリッジ20に備えられるホルダー21とヘッド22を移動させる駆動が、キャリッジモーター50により行われるようになる。
位置補正部110は、サンプリングされた検出電圧に基づいて、主走査方向D1におけるキャリッジ20の位置情報を補正する。位置を補正する必要があるのは、キャリッジ20の取り付け公差等があるからである。位置補正部110は、インク残存検出を行う際のプリズム中心の位置光センサーの中心とプリズムの中心が一致するキャリッジ位置(プリズムの中心の位置という。)について、実際の検出電圧に基づき、設計上の中心の位置からのズレを補正する。具体的には、各インクカートリッジの検出電圧に対してピーク検出を行い、その検出したピーク位置に基づいて、インク残存検出を行う際のプリズム中心の位置を補正する。
キャリッジ20の位置は、キャリッジモーター50に搭載されたロータリーエンコーダーの出力に基づいて把握される。即ち、ロータリーエンコーダーは、例えばキャリッジ20のホームポジションを基準位置として、その基準位置からの移動量に応じたカウント値を出力する。各インクカートリッジのプリズム中心の位置は、それぞれロータリーエンコーダーの所定のカウント値が対応している。位置補正前においては、その各位置に対応するカウント値は、設計値に基づいてメカ的に設定されており、例えば制御部100の不図示のROMに記憶されている。位置補正部110は、この各位置に対応するカウント値を、上記補正処理により補正し、その補正されたカウント値もしくは設計上の中心の位置からのずれ量を不図示のRAMに書き込む。
故障判定部120は、A/D変換部70でサンプリングされた検出電圧に基づいて、光センサー80の故障や、外乱光の有無等、光センサー80を用いた処理に悪影響を及ぼす要因を検出する。故障判定部120で行われる処理の詳細については後述する。
残存判定部130は、A/D変換部70でサンプリングされた検出電圧に基づいて、各インクカートリッジについてインクニアエンドであるか否かの判定を行う。制御部100は、インクニアエンドであると判定されたインクカートリッジについては、例えば印刷装置200の表示部210や印刷装置に接続されたパーソナルコンピューター250の表示部にインク交換を知らせるアラームを表示させる指示を出力し、ユーザーにインクカートリッジの交換を促す。例えば、残存判定部130によりインクニアエンドと判定された場合に、制御部100は、インクニアエンド判定がなされた後、残量推定部160により所定量のインクが消費された場合に、制御部100はインクカートリッジが空であると判定し、インクカートリッジが交換されるまで印刷を実行しない。あるいは、残存判定部130によりインクニアエンドと判定されると、インクカートリッジが空であると判定し、インクカートリッジが交換されるまで印刷を実行しないこととしてもよい。
発光量決定部140は、A/D変換された検出電圧及び気泡有無の判断結果に基づいて、発光部82の発光量を決定する処理を行う。制御部100は、決定された発光量に基づいて図2のPWM信号を制御し、発光部82の発光量を制御する。この発光量決定処理は、後述する閾値決定処理と共にインクニアエンド検出よりも前に行われ、インクニアエンド検出は、調整された発光量により行われる。
残量推定部160は、ドットカウント(ソフトカウントとも呼ぶ)により各インクカートリッジ内のインク残量を推定する。具体的には、残量推定部160は、印刷ヘッドから噴射されるインク滴の数を計数し、計数されたインク滴の数とインク滴当たりの質量とを積算することでインクの使用量を算出する。そして、各インクカートリッジ内のインクの初期充填量から、算出されたインクの使用量を差し引くことでインク残量を推定する。残量推定部160は、こうして推定されたインクの残量を、各インクカートリッジに備えられた記憶装置352に適宜記録する。例えば、残量推定部160は、印刷装置200の起動時に、各インクカートリッジの記憶装置352からインクの残量を取得して制御部100の不図示のRAMに記憶させ、電源が投入されている間には、印刷の実行や印刷ヘッドのクリーニングに伴って、このRAM内の値を更新していく。そして、例えば、印刷装置200の電源オフ時や、各インクカートリッジの交換時、あるいは、所定のインク量を消費する毎に、更新された推定残量を各インクカートリッジの記憶装置352に書き戻す。なお、以下ではインク残量を推定する場合を例に説明するが、本実施形態はこれに限定されず、例えばインク消費量などの種々のインク量を推定してもよい。
閾値決定部150は、サンプリングされた検出電圧に基づいて、インクが有ると判定する場合の検出電圧とインクニアエンドと判定する場合の検出電圧を区別するための閾値を設定する。位置補正部110により、インクニアエンドを検出するときのプリズム中心の位置が高精度に補正されるため、より適切な閾値を設定することが可能となり、インクニアエンドの検出精度を向上できる。
4.インクニアエンドの検出手法
次に、インクニアエンドの検出手法について説明する。図6、図7には、インクカートリッジICのプリズム320を通過するYZ平面の断面図を示す。また、図6、図7では、プリズム320と光センサー80の位置関係が、インクニアエンドを検出可能な位置関係となったときの状態を示している。
図6に示すように、プリズム320の入射面EFには、プリズム320を形成するときに生じる変形を抑制するために、空洞部BPが設けられている。ホルダー21には開口が設けられており、インクカートリッジICがホルダー21に装着されたときに開口を通して入射面EFと光センサー80が対向するように構成されている。プリズム320の斜面SF1、SF2はインク収容部300の内側を向いており、インク収容部300にインクIKが満たされている場合には斜面SF1、SF2はインクIKに接する。斜面SF1は例えば斜面SF2に直交する面であり、斜面SF1と斜面SF2は、図1のXZ平面に平行な平面に対して対称となるように配置される。
インクカートリッジICにインクIKが満たされている場合、発光部82からプリズム320に入射した光EMLは、斜面SF1からインクIK内に入射する(光FCL)。この場合、斜面SF1、SF2で反射される光RTLは非常に少なくなるため、受光部84はほとんど光を受光しない。例えば、インクの屈折率を水の屈折率とほぼ同様の1.5と仮定し、プリズム320をポリプロピレンにより構成する場合、斜面SF1、SF2における全反射の臨界角は約64度である。入射角は45度なので、斜面SF1、SF2では全反射されず、入射光EMLはインクIK内に入射する。
図7に示すように、インクカートリッジIC内のインクIKが印刷のために消費され、インクカートリッジICにインクIKが満たされていない場合を考える。プリズム320の斜面SF1、SF2のうち、少なくとも発光部82からの光が照射される部分が、空気に接しているとする。この場合、発光部82からプリズム320に入射した光EMLは、斜面SF1、SF2で全反射され、入射面EFからプリズム320の外へ再び出射する(光RTL)。受光部84は、全反射した光RTLを受光するため、強い検出電圧が得られる。例えば、空気の屈折率を1とし、プリズム320をポリプロピレンにより構成する場合、斜面SF1、SF2における全反射の臨界角は約43度である。入射角は45度なので、入射光EMLは斜面SF1、SF2で全反射される。
図8に、1個のインクカートリッジICが光センサー80の上を通過した場合の検出電圧の特性例を示す。図8の横軸は、プリズム320と光センサー80の相対的な位置を表し、プリズム320の中心と光センサー80の中心が一致したときの位置(例えば図6に示すインクカートリッジICと光センサー80との位置関係)を“0”としている。光センサー80の中心とは、主走査方向における発光部82と受光部84の中央である。縦軸は、横軸の各位置において光センサー80から出力される検出電圧を表す。
図8に示すように、受光部84の受光量がゼロに近いほど検出電圧が上限電圧Vmaxに近くなり、受光部84の受光量が多いほど検出電圧が下限電圧Vminに近くなる。受光量が所定値を越えると、検出電圧が飽和して下限電圧Vminとなる。上限電圧Vmaxと下限電圧Vminは、例えば、図2に示した受光部84がコレクタ端子に出力する電圧範囲の上限電圧と下限電圧に対応する。
図8に示すように、検出電圧は、光センサー80とプリズム320との相対位置に応じて変化する。SIKは、図6で説明したインクカートリッジICがインクIKで満たされている場合の検出電圧特性である。この場合、受光部84の受光量は小さいため、位置“0”において検出電圧はVmaxに近くなる。位置“0”から、プリズム320の中心と光センサー80の中心との相対位置が主走査方向にずれた位置PK1、PK2には、プリズム入射面EFからの反射光によってピークSpk1、Spk2が生じる。このピークSpk1、Spk2については図9で後述する。
SEPは、図7で説明したインクカートリッジICがインクIKで満たされていない場合の検出電圧特性である。この場合、受光部84の受光量は多いため、位置“0”において検出電圧はVminに達する(あるいは、近くなる)。このように、インクカートリッジICがインクIKで満たされているか否かによって検出電圧の特性が大きく異なっており、本実施形態では、この検出電圧の特性の違いを検出することにより、インクカートリッジのインクニアエンドを検出する。
具体的には、検出電圧特性SIKのピーク値Vpk1に基づいて、ピーク値Vpk1と下限電圧Vminとの間に閾値Vthを設定する。そして、インクカートリッジICが光センサー80の上を通る検出範囲DPRとなったときに、光センサー80の検出電圧が閾値Vthよりも小さい場合には、インクニアエンドであると判定し、検出電圧が閾値Vth以上である場合には、インクが残存していると判定する。
次に、図9を用いて、ピークSpk1、Spk2について説明する。図9に示すように、ホルダー21には、プリズム320に対応して開口が設けられており、その開口の中央には、発光部82からの光を遮光する遮光部SBが設けられている。開口の中央とは、インクカートリッジICがホルダー21に装着されたときに、プリズム320の中心に対応する位置である。遮光部SBは、主走査方向(±Y方向)に交差する方向(X方向)に沿って設けられており、ホルダー21の開口を、主走査方向に沿って並ぶ第1の開口AP1と第2の開口AP2とに分割する。
発光部82からプリズムの入射面EFに入射した光は、一部が反射されて受光部84に受光される。即ち、発光部82から入射面EFへの入射角θ1と入射面EFから受光部84への反射角θ2が等しい光が、受光部84に受光される。図8の検出電圧特性SIKに示すように、プリズムの中心と光センサーの中心が一致する位置“0”では遮光部SBが存在するため入射面EFからの反射光は検出されず、位置PK1、PK2では、開口AP1、AP2が存在するためピークSpk1、Spk2が検出される。ここで、位置PK1は、主走査方向における開口AP1の中央と光センサー80の中央とが一致する位置であり、位置PK2は、主走査方向における開口AP2の中央と光センサー80の中央とが一致する位置である。従って、検出電圧をもとに補正されるプリズムの中心値とは、開口AP1の主走査方向の中心と、開口AP2の主走査方向の中心との間の中央となる。なお、プリズム320から全反射光が返ってくる場合にも入射面EFからの反射光は検出されているが、検出電圧特性SEPに示すように全反射光の信号に埋もれるため、ピークSpk1、Spk2は生じない。
図10に、制御部100が実行するインクニアエンド検出処理のフローチャートを示す。このフローのうちステップS1〜S3(インクニアエンド検出のためのパラメーターを設定するための処理)は、例えば印刷装置の電源投入時や、インクカートリッジ交換時等に実行される。また、このフローのうちステップS4〜S8(実際のインクニアエンド検出処理)は、例えば印刷装置の電源投入時やインクカートリッジ交換時等のほか、例えば印刷ジョブの間や印刷中の所定タイミング等で実行される。
図10に示すように、処理が開始されると、制御部100は、以降の処理で用いられる各パラメーターを取得する(ステップS1)。具体的には、前回の感度補正処理によって決定された発光量PD1、各インクカートリッジのインクの推定残量を制御部100の不図示のROMや,RAMから取得する。発光量PD1は、制御部のROMに記憶されている。インクの推定残量は、印刷装置200の電源投入時、カートリッジ交換時に、制御部により各インクカートリッジの記憶装置352から制御部100の不図示のRAMに読み出されて記憶されているため、制御部100は、インクの推定残量を自身の不図示のRAMから取得することができる。
次に、発光量決定部140と閾値決定部150が、感度補正処理を実行する(ステップS2)。この感度補正処理では、ステップS5のインクニアエンド検出処理で用いられる発光量PD2を決定する処理と、インクニアエンド検出の閾値を決定する処理と、を行う。また、感度補正処理は、位置補正部110による位置補正処理を含むものとする。
具体的には、光センサーを発光量PD1で発光させながらキャリッジを光センサー上を移動させることで、各インクカートリッジの検出電圧のピークSpk1,Spk2を求め、発光量決定部140は、これらのピークのうちピーク電圧が最小のもの(各インクカートリッジのV_F_minのうち最小のもの)を選択する。そして、その最小のピーク電圧が所定の電圧範囲内に入るように発光部82の発光量を調整する。発光量の調整は、最小のピーク電圧と所定電圧との比率に基づいて、発光量を制御するPWM波形のデューティーを調整することにより行う。
また、各インクカートリッジについて2つのピーク電圧が求め、そのうちの小さい方のピーク電圧をV_F_minとして求め、閾値決定部150は、αを所定係数とし、βを所定オフセット値として、Vth=V_F_min×α+βにより判定閾値を求める。α、βは、検出電圧のS/Nなどを考慮して設定すればよい。閾値決定部150は、インクカートリッジIC1〜IC4について、それぞれ閾値VthIC1〜VthIC4を求める。
次に、制御部100は、感度補正処理で決定された新たな各パラメーター、即ち、新たな発光量PD2を制御部のROMに書き戻す(ステップS3)。
次に、残存判定部130は、制御部100の不図示のRAMから気泡有無判定の結果を読み出す(ステップS4)。気泡有無判定の詳細については省略するが、気泡が付着すると、インクIKが満たされている場合であってもプリズム320と空気が接するため、入射光の一部が全反射されるおそれがあり、結果として光センサー80を用いた残存状態判定の精度が低下する。よって、感度補正処理の中では検出電圧に基づき気泡の有無を判定し、その結果をRAMに書きこんでいる。気泡がある場合とない場合でインクニアエンドの検出処理の内容を変更するものとしている。ただし、気泡有無判定を省略する等、インクニアエンド検出処理は種々の変形実施が可能である。
図10の例では、残存判定部130は、処理対象のインクカートリッジが気泡無しの場合には、そのインクカートリッジについてインクニアエンド検出処理を行う(ステップS5)。この処理では、感度補正処理で決定した閾値による検出電圧の閾値判定と、推定残量が所定値に達しているか否かの判定とに基づいて、インクニアエンドを判定する。インクニアエンド検出処理の詳細については、図11で後述する。ステップS4において、処理対象のインクカートリッジが気泡有りの場合には、残量推定部160により推定されたインク残量に基づいて、インクニアエンドを検出する(ステップS6)。例えば、この検出処理では、後述する図11のステップS45〜S48と同様の処理を行う。
次に、インクカートリッジIC1〜IC4の全てについてインクニアエンド検出処理が終了したか否かを判断し(ステップS7)、終了していない場合には、次のインクカートリッジを処理対象としてステップS4を再び実行する。全インクカートリッジのインクニアエンド検出処理が終了した場合には、判定結果を表示部210に表示する処理を行い(ステップS8)、このフローの処理を終了する。
図11に、インクニアエンド検出処理の詳細なフローチャートを示す。この処理が開始されると、制御部100は、ステップS2で決定された発光量PD2で検出電圧を測定し、A/D変換部70はサンプリング電圧を取得し、制御部100は、そのサンプリング電圧のうち、各カートリッジの検出範囲DPRにある電圧について不図示のRAMに記憶する。残存判定部130は、閾値判定のためのカウント値VLCountを“0”にクリアする(ステップS40)。次に、処理対象のインクカートリッジ(以下では、インクカートリッジIC1を例にとり説明する)について、不図示のRAMに記憶された検出電圧のA/D変換値を、格納順に1つずつ読み出す(ステップS41)。
次に、残存判定部130は、感度補正処理で求めたインクカートリッジIC1の判定閾値VthIC1よりもA/D変換値が小さいか否かを判定する(ステップS42)。A/D変換値が判定閾値よりも小さいと判定された場合には、カウント値VLCountをインクリメントする(ステップS43)。次に、カウント値VLCountが3以上であるか否かを判定する(ステップS44)。即ち、インクカートリッジIC1の検出領域において、サンプリングされた検出電圧のうち閾値を下まわったものが3以上であるか否かを判定する。VLCountが3以上である場合には、エンプティ仮判定(インクニアエンドの仮判定)とする。
VLCountが3以上の場合にエンプティ仮判定とするのは、実際にはインクニアエンドではないにも関わらず、例えば静電気による突発ノイズなどによってA/D変換値が閾値を下回る可能性があるためである。
残存判定部130は、エンプティ仮判定となったら、インクの推定残量(ソフトカウント値、ドットカウント値)が所定値より小さいか否かを判定する(ステップS45)。ここで、所定値は、印刷装置及びインクカートリッジの公差や使用環境を考慮して、実際のカートリッジの残量がインクニアエンドとならないインクの推定残量である。インクの推定残量が所定値より小さくない場合には、インク有りやインクニアエンドと判定せず、処理を終了する。インクの推定残量が所定値より小さい場合には、エンプティ仮判定のカウント値E_tをインクリメントする(ステップS46)。カウント値E_tは、インクカートリッジ毎にステップ5のインクニアエンド検出処理でインク無しと判定されてそのときのインクの推定残量が所定値より小さかった場合にインクリメントされるカウント値である。次に、残存判定部130は、カウント値E_tが4以上であるか否かを判定する(ステップS47)。E_tが4以上でない場合には、インクニアエンドと判定せず、処理を終了する。E_tが4以上である場合には、インクニアエンドと判定し(ステップS48)、処理を終了する。
ステップS42において、A/D変換値が判定閾値よりも小さくないと判定された場合には、カウント値VLCountを“0”にクリアする(ステップS49)。次に、制御部100の不図示のRAMに記憶されたA/D変換値を全て読み出したか否かを判定する(ステップS50)。読み出していないA/D変換値が有る場合には、ステップS41に戻る。全てのA/D変換値を読み出した場合には、エンプティ仮判定のカウント値E_tを“0”にクリアし(ステップS51)、インク有りと判定し(ステップS52)、処理を終了する。
5.光センサーの故障検出手法
次に本実施形態における光センサー80の故障検出の手法について説明する。図12は、キャリッジ20が、ホームポジションPHから主走査方向D1に移動したときの光センサー80とキャリッジ20の相対的な位置関係を示す概念図である。位置P4〜P1は、インクカートリッジIC1〜IC4の各々のプリズムに発光部82からの光が当たる位置である。
キャリッジ20がホームポジションPHから主走査方向D1に移動することで、光センサー80とインクカートリッジIC1〜IC4の各々との相対位置関係を変化させながら、受光部84での検出信号が取得されることになる。本実施形態での故障検出は、各インクカートリッジにインクIKが充填された状態で行うことを想定している。よって、発光部82が発光している場合であれば、図8のSIKに示したように、各インクカートリッジについて、2つのピークSpk1とSpk2が現れる波形が取得される。そのため、インクカートリッジが図1等に示したように4つ含まれる場合であれば、図13(A)に示したように、各インクカートリッジについて2つずつ、合計8個のピークが現れる波形が取得されることになる。図13(A)のうち、1つのカートリッジに対応する波形を抽出したものが図13(B)であり、上述したように、この波形は図8のSIKに対応する。なお図13(A)、図13(B)及び後述する図14における横軸のCR座標とは、キャリッジ20の主走査方向D1における位置を表す座標である。ここではキャリッジ20が移動するものとしたため、横軸をCR座標としたが、図8と同様に、図13(A)〜図14の横軸は、キャリッジ20と光センサー80との相対的な位置に拡張して考えることが可能である。
また、本実施形態では上述したように、発光部82が消灯した状態での検出信号も用いて故障を検出する。発光部82が消灯している場合、理想的な状況であればインクカートリッジと光センサー80の相対位置関係によらず光が検出されないため、出力電圧(検出電圧)は電源電圧(電源電位Vcc)に等しくなる。
本実施形態では、キャリッジ20を所与の方向(例えば+Y方向)への移動と、反対方向(−Y方向)への移動のうち、一方で発光部82を消灯させることで図14に示したような信号を取得し、他方で発光部を発光させることで図13(A)に示したような信号を取得する。そして故障判定部120は、これらの信号に基づいて、光センサー80の故障を検出する。
具体的には、正常状態では、発光時には図13(A)のように1インクカートリッジ当たり2つのピークSpk1,Spk2が明確な信号波形が取得され、消灯時には位置によらず図14のように電源電圧に近い信号波形が取得されることが期待されるため、これを基準に故障を検知すればよい。故障検出処理時に、図13(A)や図14に近い波形が取得されれば、故障等は発生していないと判定できるし、図13(A)や図14とは異なる波形が取得されれば、故障等が発生していると判定できる。以下、正常状態と異常状態(故障)を判別する具体的な手法について、受光部のフォトトランジスターに起因するリーク電流を考慮しない場合とする場合とに分けて説明する。
5.1 リーク電流を考慮しない手法
まず、リーク電流を考慮しない手法について説明する。ここでは、複数のインクカートリッジがある場合に、各カートリッジに対して処理を行う手法を説明する。光センサー80の故障であればカートリッジ単位で処理を行う必要性は低いようにも思える。しかし、外乱光については、第1のインクカートリッジの残存状態判定時には入射しているが、第2のインクカートリッジの残存状態判定時には入射していない、といったように、カートリッジ単位に分けて考えることが有用な場合が考えられるためである。
よって以下では、1つのインクカートリッジに対する処理を説明し、本実施形態に係る故障検出は、当該処理をインクカートリッジの個数分繰り返すことで実現されるものとする。
また、本実施形態の手法では、各インクカートリッジについて、取り込み範囲内での出力電圧の最小値を用いる。ここでの取り込み範囲とは、対象のインクカートリッジについて、2つのピークSpk1,Spk2が充分取得できるだけの位置関係の範囲(狭義には主走査方向D1での範囲)であり、例えば各インクカートリッジの中央ポジションを基準に約±6mmの範囲を用いればよい。また、各インクカートリッジについて2つのピークが取得されたとしても、そのうち出力電圧の低い(山が大きい)の1つを処理に用いればよい。以下の、図15(A)〜図15(D)等の模式図についても所与のインクカートリッジについて取得される2つのピークのうちの1つを表したものである。
図15(A)に正常状態での波形の模式図を示す。図15(A)の横軸は主走査方向D1での位置を表し、縦軸は出力電圧を表す。また、図15(A)の実線が発光部82を発光させた場合の波形に対応し、破線が発光部82を消灯させた場合の波形に対応する。以下、図15(B)〜図15(D)等についても同様である。上述したように、発光部82が消灯時には位置によらず電源電圧Vccに近い値が出力され、発光時には図9に示したPK1、PK2のいずれかの位置に対応する状態となり、ピークが検出される。
本実施形態では、まず消灯時の出力電圧を用いることで光センサー80の故障を検出する。具体的には、判定部は、発光部82を消灯させた場合の光センサー80の検出電流が第1の閾値以上と判断される場合に、光センサーが故障していると判定する。
ここで、光センサー80の検出信号は、電流で表現されてもよいし電圧で表現されてもよいことは上述したとおりである。つまり、「検出電流が第1の閾値以上」とは、「検出電圧が第1の電圧閾値Vth1以下」と置き換えて考えることが可能である。また、光センサー80の検出電流とは、狭義には取り込み範囲における検出電流の最大値(検出電圧の最小値)である。
この場合の模式図が図15(B)であり、図15(A)に示したように発光部82の消灯時には出力電圧はVccに近い値となるはずであるのに、出力電圧値が小さい(狭義には接地電位GNDに近い)状態となっている。図15(B)のようなケースでは、本来流れるべきでない過剰な電流が流れていることになり、グランドショートエラーであると推定される。具体的には、フォトダイオード等の受光部84を構成する素子の故障により、当該素子が通電状態となっている可能性や、回路の構成上のエラーにより、出力端子とグランドが接続されてしまっている可能性が考えられる。
また、本実施形態では、消灯時の出力電圧と、発光時の出力電圧の差分値を用いて故障を検出する。具体的には、判定部は、発光部82を発光させた場合の光センサー80の検出信号のレベルと、発光部82を消灯させた場合の光センサー80の検出信号のレベルとの差分値が第2の閾値以下の場合に、光センサー80が故障していると判定する。
上述してきたとおり、検出信号のレベルの差分とは、電流値の差分でもよいし電圧値の差分でもよい。発光時の出力電圧には、発光部82から照射された光の成分が含まれるが、消灯時の出力電圧には、発光部82から照射された光の成分が含まれない。一方、発光部82以外に起因する光或いは信号については、発光部82の発光、消灯の状態によらず検出されていると考えられる。すなわち、発光時と消灯時の差分を取ることで、他の光や信号による影響を抑止し、発光部82に起因する信号成分を抽出することが可能になる。
そして、検出信号のレベルの差分が閾値以下の場合の模式図が図15(C)であり、電圧で考えれば、発光時の電圧の降下幅が図15(A)に示した正常時に比べて小さい状態となる。ここで用いている信号(図8のVpk1)と、液体の残存状態判定に用いる信号(図6のVmin)では、プリズム320における反射面がEFか、SF1及びSF2かという違いがあるものの、発光部82から射出され、プリズム320で反射され、受光部84で受光された光であるという点では同様である。つまり、発光部82からの光を検出したのに、当該光による検出信号のレベルが小さいということになれば、残存状態の判定の精度も低くなってしまう。また、発光部82に起因する信号を処理に用いるのは、感度補正時や位置補正時でも同様である。
よって本実施形態では、図15(C)に示したケースでは、発光部82の発光不良、又は受光部84での受光感度が著しく低いという故障と判定する。
また、本実施形態では、上記処理により故障が検出されなかった場合には、消灯時の出力電圧と所与の基準電圧の差分値を用いて外乱光の判定を行う。具体的には、判定部は、光センサー80の故障が非検出であり、発光部82を消灯させた場合の光センサー80の検出信号のレベルと、所与の基準レベルとの差分値が第3の閾値以上の場合に、外乱光有りと判定する。
上述したように、発光部82が消灯していれば、理想的には検出される光はなく、流れる電流値は0となり、電圧の降下も0となって出力電圧はVccとなる。つまり、消灯時に出力電圧がVccに対して降下しているのであれば、それは外乱光が入射しているためであると推定することができる。この場合の模式図が図15(D)である。なお、図16(A)、図16(B)に発光部82を消灯させた場合と、発光させた場合のそれぞれについて、キャリッジ20と光センサー80の相対位置関係の異なる2つの状態に対応する模式図を示した。図16(B)に示したように、キャリッジ20が光センサー80の上部に位置する場合には、外乱光がキャリッジ20で遮られることで、受光部84に入射しなくなると考えられる。図16(A)、図16(B)におけるIgとは、外乱光に起因する電流を表し、Icとは発光部からの光の反射光に起因する電流を表すことになる。図15(D)において外乱光有りの場合でも横軸の値が大きい範囲で電圧値の降下幅が小さくなっているのは、このキャリッジ20による遮蔽を表現したものである。
液体の残存状態判定では、図8のVpk1とVminの間に残存状態判定用の閾値を設定する。そのため、外乱光の影響でVpk1が低下してしまえば、閾値の設定もシビアなものとなるし、残存状態判定も少しの誤差で誤判定が生じるおそれが出てくる。よって、本実施形態では、Vccに対して所与の電圧閾値Vth3以上の電圧降下があれば、他の判定に影響を与えるレベルの外乱光が入射していると判定する。
以上の処理を簡易的に表したフローチャートが図17である。故障判定部120での故障判定では、まず消灯時の最小電圧(ピークSpk1又はSpk2に対応する電圧)を取得し、当該最小電圧と第1の閾値Vth1を比較する(ステップS101)。最小電圧がVth1以下の場合には、図15(B)に示したようにグランドショートエラーと判定する。
また、最小電圧がVth1より大きい場合には、発光時と消灯時の電圧差と第2の閾値Vth2を比較する(ステップS102)。電圧差がVth2以下の場合には、図15(C)に示したように、発光部82の発光不良又は受光部84の感度不足と判定する。
ステップS102でNoの場合、すなわち故障が検出されなかった場合には、消灯時の最小電圧と電源電圧Vccの電圧差と、第3の閾値Vth3を比較する(ステップS103)。電圧差がVth3以上の場合には、図15(D)に示したように外乱光が入射していると判定する。ステップS103でもNoの場合には、光センサー80は故障しておらず、外乱光等の影響もないとして、正常終了する。
以上の処理を詳細に表したフローチャートが図18である。図18は、インクカートリッジが複数設けられる場合にも対応した処理の流れを示している。図18の処理が開始されると、まずDuty=0%として発光部82を消灯させる(ステップS201)。その状態でキャリッジ20を往路移動(ホームポジションPHから離れる方向での移動)させて出力電圧を測定する(ステップS202)。そして、各インクカートリッジに対して、取り込み範囲内での出力電圧の最小値V_OFFを求める(ステップS203)。図1のようにインクカートリッジがIC1〜IC4の4つであれば、V_OFFは4つ求められることになる。
次に発光部82を発光させる(ステップS204)。これは例えばDuty=100%とし、最大光量で発光させればよい。その状態でキャリッジ20を復路移動(ホームポジションPHに近づく方向での移動)させて出力電圧を測定する(ステップS205)。そして、V_OFFと同様に、各インクカートリッジに対して取り込み範囲内での出力電圧の最小値V_ONを求める(ステップS206)。
V_OFF,V_ONが求められたら、まず全てのインクカートリッジについて、V_OFF<Vth1かの判定を行う(ステップS207)。ここでのVth1とは例えば電源電圧が3.3V程度の場合には、0.4V程度の値を用いればよい。ステップS207の判定は図17のステップS101に対応するものであり、ステップS207でYesの場合にはグランドショートエラーと判定する。
ステップS207でNoの場合には、全てのインクカートリッジについて、V_OFF−V_ON<Vth2かの判定を行う(ステップS208)。ここでのVth2とは例えば0.1V程度の値を用いればよい。ステップS208の判定は図17のステップS102に対応するものであり、ステップS208でYesの場合には発光部82の発光不良又は受光部84の感度不足と判定する。
ステップS208でもNoの場合には、Vcc−V_OFF>Vth3かの判定を行う(ステップS209)。ここでのVth3とは例えば0.2V程度の値を用いればよい。ステップS209の判定は図17のステップS103に対応するものであり、所与のインクカートリッジに関してステップS209でYesの場合には、当該インクカートリッジについての外乱光フラグを1として(ステップS210)、外乱光有りと判定する。所与のインクカートリッジについての判定が終了したら、全てのインクカートリッジに対する処理が終了したかの判定を行い(ステップS211)、未処理のインクカートリッジがある場合には次のインクカートリッジを選択して(ステップS212)、ステップS209に戻る。
ステップS211でYesとなった場合には、全てのインクカートリッジに対して外乱光の判定が行われたことになる。その場合には、外乱光フラグが1となっているインクカートリッジが存在するか否かの判定を行う(ステップS213)。ステップS213でYesの場合には、外乱光が入射しているとして、その旨をユーザーに通知する。一方、ステップS213でNoの場合には、故障や外乱光の入射はないものとして正常終了する。
5.2 リーク電流を考慮する手法
次にリーク電流を考慮した場合の故障判定部120の処理について説明する。リーク電流がある場合、当該リーク電流により電圧ドロップが起こるため、故障等の判定を精度よく行うためにはリーク電流による影響を考慮するとよい。リーク電流を考慮する場合の模式図を図19(A)〜図19(D)に示す。図19(A)は図15(A)に対応し、正常状態での波形であり、図19(B)は図15(B)に対応し、グランドショートエラーが発生している場合の波形である。同様に、図19(C)は図15(C)に対応し、発光不良又は受光部84の感度不足時の波形であり、図19(D)は図15(D)に対応し、外乱光が入射している場合の波形である。
図15(D)にも示したように、発光部82を消灯して発光部82に起因する電圧ドロップを考慮しなくてよい状況であっても、外乱光が入射していればそれにより電圧値は下がることになる。つまり、単純に消灯時の電圧値だけを用いても、それがリーク電流によるものなのか、外乱光によるものなのかを区別することはできない。
よって本実施形態では、光センサー80とキャリッジ20の相対的な位置関係を用いてリーク電流の判定を行う。液体消費装置の主要部の構成例は図1に示したとおりであり、図1の例であれば外乱光は主として上部(Z軸正方向)から入射することになる。そのため、図16(A)や図16(B)のCR位置Bに示した状態のように、光センサー80の上部にキャリッジ20が位置する状態であれば、外乱光はキャリッジ20により遮蔽されるため、光センサー80の受光部84には入射しないと考えることが可能である。例えば、インクカートリッジがIC1〜IC4の順に主走査方向に並んで配置されているのであれば、IC2やIC3に対する処理中では外乱光が入射しないと考えてよい。
それに対して、IC1やIC4のように、ホルダー21の端部に保持されるインクカートリッジでは、図16(A)、図16(B)のCR位置Aに示したようにキャリッジ20による遮蔽効果が小さいため、斜め方向(例えばYZ平面内であってZ軸に対して所与の角度を有する方向)から外乱光が入射する可能性がある。
よって本実施形態では、ホルダー21は、主走査方向に並んで配置される第1〜第Nの液体収容容器(図1のIC1〜IC4に対応)を保持し、判定部は、光センサー80とホルダー21を相対的に移動させたときの第1〜第Nの液体収容容器の各液体収容容器に対応する光センサー80の検出信号を取得し、第k(kは1<k<Nを満たす整数)の液体収容容器に対応する発光部82を消灯させた場合の光センサーの検出信号に基づいて、リーク電流の検出処理を行う。
第kの液体収容容器に対応する発光部82を消灯させた場合の光センサーの検出信号とは、外乱光が入射しないと考えることができる状況での、消灯時の検出信号になる。つまりこの場合の出力電圧は、外乱光によるドロップはなく、仮に電圧値がドロップしているのであればそれはリーク電流によるものであると考えることができる。本実施形態では、このリーク電流に対応する電圧値をVleakとする。
Vleakが求められたら、リーク電流を考慮しない場合の処理における所与の電圧値をVleakに置き換えて考えればよい。具体的には、上述の処理では外乱光の判定においてVccとV_OFFの差分を用いたが、リーク電流がある場合には、外乱光が全くなくても電圧値はVccではなくVleakまで降下している。つまり閾値との判定に用いる差分値は、VccとV_OFFの差分値ではなく、VleakとV_OFFの差分値に変更するとよい。
具体的には、判定部は、光センサー80とホルダー21を相対的に移動させたときの第1〜第Nの液体収容容器の各液体収容容器に対応する光センサー80の検出信号を取得し、第1の液体収容容器及び第Nの液体収容容器の少なくとも一方に対応する光センサーの検出信号と、第k(kは1<k<Nを満たす整数)の液体収容容器に対応する光センサーの検出信号の差分値が、第4の閾値(例えばVth4)以上の場合に、外乱光有りと判定する。
ここでは、第kの液体収容容器では外乱光を考慮しなくてもよく、第1、第Nの液体収容容器での判定において外乱光が入射しうる前提である。つまり、外乱光が入射している可能性がある検出信号と、外乱光がないと考えられる検出信号との差分を取れば、外乱光の有無を判定することが可能になる。
この場合の故障判定部120での処理を詳細に表したフローチャートが図20である。図20のステップS301〜ステップS306については図18のステップS201〜ステップS206と同様である。ステップS306の処理後、シアン(C)でのV_OFFであるV_OFF_Cと、マゼンダ(M)でのV_OFFであるV_OFF_Mの比較処理を行う(ステップS307)。なお、ここではインクカートリッジがIC1〜IC4の4つであり、図21に示したように、IC1がブラック(BK)、IC2がシアン、IC3がマゼンダ、IC4がイエロー(Y)であるものとしている。
V_OFF_C≧V_OFF_Mであれば、Vleak=V_OFF_Mとし(ステップS308)、そうでなければVleak=V_OFF_Cとする(ステップS309)。ステップS307〜ステップS309は、外乱光を考慮しなくてよいインクカートリッジを対象として、最小となるV_OFFをVleakとする処理となる。つまり、ホルダー21に保持されるインクカートリッジの構成(数や並び順)が変化すれば、ステップS307〜ステップS309の処理も合わせて変更する必要がある。
ステップS308、S309までで、V_OFF、V_ON、Vleakが求められたため、故障判定に移行する。ステップS310はステップS207と同様にグランドショートエラーの判定である。また、リーク電流が大きすぎる場合にも、当該リーク電流による残存状態等の判定への悪影響が考えられるため、リーク電流エラーについても判定を行う。具体的には、Vcc−Vleak>Vth5を満たすかの判定を行う(ステップS311)。ここでのVth5は例えば0.1V程度の値である。ステップS311でYesの場合には、精度のよい判定ができない程度にリーク電流が多いとしてリーク電流エラーと判定する。
ステップS311でNoの場合には、ステップS208と同様に発光不良又は受光感度不足かの判定を行う(ステップS312)。そしてステップS312でもNoの場合には、センサー故障は発生していないと判定できるため、外乱光判定を行う。
ここでの外乱光判定は、上述したようにVccとV_OFFの差分ではなく、VleakとV_OFFの差分を用いる。具体的には、Vleak−V_OFF>Vth4を満たすかの判定を行う(ステップS313)。ここでのVth4は、上述したVth3と同様の閾値と考えられるため、0.2V程度の値を用いればよい。
その後のステップS314〜ステップS317の処理については、図18のステップS210〜ステップS213と同様であるため詳細な説明は省略する。
6.センサー故障の検出処理が行われるタイミングの例
上述してきた光センサー80の故障判定は、残存判定部130での残存状態の判定が行われる前に実行されることが望ましい。つまり、故障判定を残存状態判定の前処理として実行するとよい。しかし上述したように、残存状態判定の前処理としては、感度補正処理(狭義には発光量の調整と閾値の設定処理)と、位置補正処理も行われる。よってここでは、感度補正処理と故障判定処理の関係、及び位置補正処理と故障判定処理の関係について説明する。
6.1 感度補正処理
残存状態の判定処理の具体例については図8等を用いて上述した。図8等からもわかるように、残存状態の判定処理では、キャリッジ20と光センサー80の相対位置関係を変化させた場合の、光センサーの出力波形を用いる。そのため、処理を精度よく行うためには相対位置の変化、及び液体の残存状態の変化に対する信号波形の変化が明確となる必要がある。
具体的には、図8に示したように、波形がSIKに対応する状態であるか、SEPに対応する状態であるかを判別する必要があり、そのためにはインクがある場合の検出電圧Vpk1が明確であり、且つインクニアエンドでの検出電圧(ここでは下限電圧Vminとするがこれには限定されない)との電圧差が十分大きくなることが望ましい。
例えば光センサー80の感度が低い場合には、Vpk1が大きい電圧値となり(Vccからの降下幅が小さくなり)、ピークSpk1等が不明確になってしまうし、逆に感度が高すぎる場合には、Vpk1は小さい電圧値となり(Vccからの降下幅が大きくなり)、Vminとの差が小さくなってしまう。
そこで、本実施形態では、感度補正処理として発光量の調整と、閾値の設定処理を行う。具体的には、まず所定の発光量で発光部82を発光させた状態で、キャリッジ20と光センサー80を相対的に移動させて、出力電圧の波形を取得する。そして、出力電圧のうちの最も低い電圧値を、V_Fullとして求める。ここでは、カートリッジに液体が充填されている状態で処理を行うことを想定しているため、V_Fullとは図8のSIKに対応するピークの電圧値を表すことになる。また複数のカートリッジが含まれる場合、V_Fullはカートリッジごとに求める必要はなく、全てのカートリッジに対応する出力電圧のうち、最小の値を採用すればよい。
V_Fullが求められたら、V_Fullが所定の数値範囲に含まれるように調整を行う。例えばVcc=3.3Vであるとすれば、1.4V〜1.8Vの範囲に含まれるようにする。このような発光量の調整を行うことで、SIKにおけるピークSpk1やSpk2は、Vccに対して最大1.5V〜1.9V程度、電圧ドロップが生じるため、ピーク位置も明確となる。もちろん、V_Fullは複数のカートリッジのうちの1つのカートリッジについての電圧値であるため、他のカートリッジでは、ピークとなる位置でも1.5V〜1.9V程度の電圧ドロップが生じない可能性はあるが、それでもピークを識別可能な程度の発光量となることが期待される。
また、液体が残存していない状態での最小電圧Vpk1が1.4V〜1.8Vの範囲、或いはそれに近い範囲であれば、下限電圧Vminとの電圧差は、1.3V〜1.7Vという十分大きな値となるため、Vthの設定や、設定されたVthを用いた判定も容易である。
本実施形態では、まずは光センサー80の故障等は考慮せずに、上述したような発光量の調整処理を行う。図15(B)〜図15(D)等にも示したように、センサー故障時には検出信号は極端な値を取ることから、仮に光センサー80が故障していれば、V_Fullを所定範囲内に収めるという調整がそもそも行えないはずである。よって、まず感度補正処理を行い、その結果発光量が調整できたのであれば、光センサー80は故障していないと推定し、上述した故障検出処理は行わない。逆に、発光量を調整しているのにV_Fullを所定範囲に収めることができないのであれば、光センサー80の故障が疑われるとして、上述した故障検出処理を行う。
図22に以上の処理の流れを説明するフローチャートを示す。発光量の調整処理が開始されると、まず発光量を前回の感度調整時に調整された発光量である初期値に設定して発光部82を発光させる(ステップS401)。初期値はDuty=20%程度となる。そして、その状態でキャリッジ20を移動させて出力電圧を測定し(ステップS402)、出力電圧の最小値V_Fullを求める(ステップS403)。
V_Fullが求められたら、まず所定の数値範囲の下限値以上となっているかを判定する(ステップS404)。図22では下限値を上述したように1.4Vとした例を示している。V_Fullが下限値以上である場合には、さらに上限値以下であるかの判定を行う(ステップS405)。図22では上限値を上述したように1.8Vとした例を示している。
ステップS405でYes、すなわちV_Fullが所定の数値範囲内である場合には、発光量が適切な状態であるとして、発光量の調整処理を正常終了する。図22には不図示であるが、正常終了後には閾値の設定処理等の他の感度補正処理を行ってもよい。
一方、ステップS404でNo、すなわちV_Fullが数値範囲の下限を下回っている場合には、発光量を下げられないかの判定を行う(ステップS406)。ここではDuty=0%が消灯であり、発光量の下限が1%であるため、Duty=1%かの判定を行っている。ステップS406でNoの場合には、発光量はまだ下げられるため、現状では発光量が強すぎるとして、Dutyを下げる処理を行う(ステップS407)。
また、ステップS405でNo、すなわちV_Fullが数値範囲の上限を上回っている場合には、発光量を上げられないかの判定を行う(ステップS408)。ここではDuty=100%が発光量の最大値であるため、Duty=100%かの判定を行っている。ステップS408でNoの場合には、発光量はまだ上げられるため、現状では発光量が弱すぎるとして、Dutyを上げる処理を行う(ステップS409)。
本実施形態において問題となるのは、ステップS406でYesの場合やステップS408でYesの場合である。つまり、発光量はこれ以上下げられないのに光が強すぎると判定されたり、発光量はこれ以上上げられないのに光が弱すぎると判定される場合である。この場合、発光部82の発光量の調整の問題というよりは、光センサー80に何らかの故障が発生していることが疑われる。よって、ステップS406でYesの場合又はステップS408でYesの場合には、上述した故障検出処理に移行する。具体的には、図18や図20のフローチャートに沿った処理を実行すればよい。
なお、ステップS407やステップS409のように発光量の調整が実行できた場合には、調整後の発光量で発光部82を発光させた状態でステップS402に戻って再度処理を行えばよい。ただし、ステップS407やステップS409での発光量の調整量を適切に設定しているのであれば、調整を何回繰り返してもV_Fullが適切な範囲に収まらない(且つ故障判定にも移行しない)といった状況は考えにくい。よって図22では、所定回数のリトライをしているかの判定を行い(ステップS410)、所定回数を超えている場合にはステップS402に戻らずに、インクカートリッジ側に何らかのエラーが生じているとして処理を終了するものとしている。例えば、プリズム320の底面EFでの反射が高すぎる場合等が考えられる。
6.2 位置補正処理
次に位置補正処理と故障検出処理の関係について説明する。液体の残存状態判定処理では、図8のSIKとSEPの波形の違いに基づいて処理を行うため、その違いが明確となる相対位置関係の範囲で信号を取得する必要がある。位置補正処理は、当該相対位置関係の範囲を決定する処理であり、詳細については省略するが、例えばSpk1やSpk2といったピーク位置を検出すればよい。つまり、位置補正処理を精度よく行うためには、波形(狭義には液体が残存している状態での波形)のピークが明確に現れる必要がある。
つまり位置補正処理の前処理として(或いは位置補正処理における最初の処理として)、感度補正処理において上述したように、所定の発光量で発光部82を発光させた状態での信号波形からV_Fullを求め、V_Fullが所定の数値範囲内となるように発光量を調整するとよい。上述したようにV_Fullは図8のVpk1に対応する電圧値であるため、この値がピーク以外の位置での電圧値と区別可能な値となるような調整を行う。
ただし、感度補正処理は、残存状態判定を前提とした処理であるため、Vpk1だけでなくインクニアエンドでの検出電圧も考慮に入れなければならない。例えば、Vpk1が大きくなる(発光量を減らす)ことで、インクニアエンドでの検出電圧がVminの値よりも大きくなると、電圧値はVmin〜Vccの範囲を利用できるにもかかわらず、そのうちの狭い範囲しか用いないことになり、Vpk1とインクニアエンドでの検出電圧の差も小さくなって好ましくない。また、Vpk1が小さすぎるとVminとの差が小さくなってしまい、好ましくない。
上述した感度補正処理における数値範囲とは、この点を考慮したものであった。しかし位置補正処理ではインクニアエンドでの検出電圧は処理に用いられない以上、位置補正処理の前処理としての発光量の調整処理では考慮する必要はない。つまり、V_Fullの数値範囲としては、Spk1やSpk2といったピークが明確となるという条件を考慮すれば十分であり、図22で示した1.4V〜1.8Vに比べて広い数値範囲を用いることが可能である。
図23に以上の処理の流れを説明するフローチャートを示す。上述したように、位置補正処理前の発光量の調整処理であるため、ステップS501〜ステップS510は、図22のステップS401〜ステップS410と同様の流れとなっている。ただし、数値範囲は図22に比べて広くてよいため、ステップS504に示した下限値はステップS404の下限値よりも小さい値となる。図23ではステップS404の1.4Vに比べて小さい0.4Vを用いる例を示している。同様に、ステップS505に示した上限値はステップS405の上限値よりも大きい値となる。図23ではステップS405の1.8Vに比べて大きい2.1Vを用いる例を示している。
また、図23は位置補正処理前の処理であるため、ステップS505でYesの場合には、発光量調整後の波形を用いてピーク位置を検出して位置を補正する位置補正処理に移行することになる。また、ステップS506でYesの場合又はステップS508でYesの場合に、本実施形態に係る故障検出処理を行う点は、図22と同様である。ただし、図23ではステップS510でYesの場合にも故障検出処理に移行する例を示したが、図22と同様にインクカートリッジエラーと判定してもよく、図22や図23のフローチャートについては種々の変形実施が可能である。
なお、以上のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また液体消費装置の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。