この発明で対象とするハイブリッド駆動装置の一例を図7に示している。図7に示すハイブリッド駆動装置は、車両に搭載されたものであり、その動力源として機能するエンジン1と二つのモータ・ジェネレータ2,3とを備えている。これらモータ・ジェネレータ2,3は、出力トルクと回転数とをそれぞれ制御することができ、また発電機能のあるモータであって、その一例として従来知られた三相型の同期モータが挙げられる。これらのモータ・ジェネレータ2(3)は、その回転数を増大させるようにトルクを出力すると電力が消費され、それとは反対に回転数を低下させるようにトルクを出力すると発電される。なお、各モータ・ジェネレータ2,3は、インバータやコンバータなどのコントローラ4を介して蓄電装置5に電気的に接続されている。また、一方のモータ・ジェネレータ2(3)により発電した電力を他方のモータ・ジェネレータ3(2)に蓄電装置5を介さずに供給することができるように構成されている。図7では、電力の流れを破線で示している。
また、図7に示すハイブリッド駆動装置は、エンジン1が出力した動力を第1モータ・ジェネレータ(MG1)2側と、ドライブシャフト6側とに分割し、かつ第1モータ・ジェネレータ2で発生した電力を第2モータ・ジェネレータ(MG2)3に供給して第2モータ・ジェネレータ3の駆動力をドライブシャフト6に加えるように構成された、いわゆるツーモータ式のハイブリッド駆動装置であり、そのようにエンジンから出力された動力を第1モータ・ジェネレータ2とドライブシャフト6とに分割する動力分割機構7が設けられている。
ここに示す動力分割機構7は、三つの回転要素を有する差動機構によって構成されており、より具体的には遊星歯車機構によって構成されている。図7に示す例ではシングルピニオン型の遊星歯車機構が用いられており、その遊星歯車機構はエンジン1と同一の軸線上に配置され、その遊星歯車機構におけるサンギヤ8に第1モータ・ジェネレータ2が連結されている。なお、第1モータ・ジェネレータ2は、動力分割機構7に隣接して、エンジン1とは反対側に配置され、そのロータ2Rがサンギヤ8に連結されている。このサンギヤ8に対して同心円上にリングギヤ9が配置され、これらサンギヤ8とリングギヤ9とに噛み合っているピニオンギヤ10がキャリヤ11によって自転および公転できるように保持され、そのキャリヤ11がエンジン1と動力分割機構7との間に設けられた変速部12の出力要素に連結されている。そして、リングギヤ9にドライブギヤ13が連結されている。このドライブギヤ13は、変速部12と動力分割機構7との間に配置されている。
図7に示す変速部12は、直結段と増速段(オーバードライブ(O/D)段)とに切り替えられるように構成されている。この変速部12は、三つの回転要素を有する差動機構によって構成されたシングルピニオン型の遊星歯車機構を備えている。具体的には、ピニオンギヤ14を自転および公転可能に保持するキャリヤ15にエンジン1の出力軸16が連結され、またリングギヤ17が動力分割機構7におけるキャリヤ11と一体に回転するように連結されている。そして、サンギヤ18とキャリヤ15との間にこれらを連結し、またその連結を解除するクラッチC1が設けられている。また、リングギヤ17と同心円上に配置されたサンギヤ18を固定し、またその固定を解除するブレーキB1が設けられている。これらのクラッチC1およびブレーキB1は、例えば油圧によって係合する摩擦係合機構によって構成することができる。
一方、上記の動力分割機構7や第1モータ・ジェネレータ2などの回転中心軸線と平行にカウンタシャフト19が配置されており、上記のドライブギヤ13に噛み合っているカウンタドリブンギヤ20がこのカウンタシャフト19と一体に回転するように取り付けられている。このカウンタドリブンギヤ20はドライブギヤ13より小径のギヤであり、したがって動力分割機構7からカウンタシャフト19に向けてトルクを伝達する場合に減速作用(トルクの増幅作用)が生じる。
さらに、上記の動力分割機構7からドライブシャフト6に伝達されるトルクに、第2モータ・ジェネレータ3のトルクを付加するように構成されている。すなわち、上記のカウンタシャフト19と平行に第2モータ・ジェネレータ3が配置されており、そのロータ3Rに連結されたリダクションギヤ21が上記のカウンタドリブンギヤ20に噛み合っている。そのリダクションギヤ21はカウンタドリブンギヤ20より小径であり、したがって第2モータ・ジェネレータ3のトルクを増幅してカウンタドリブンギヤ20もしくはカウンタシャフト19に伝達するように構成されている。
カウンタシャフト19には、更に、カウンタドライブギヤ22が一体に回転するように設けられており、このカウンタドライブギヤ22が終減速機であるデファレンシャルギヤ23におけるリングギヤ24に噛み合っている。図7では作図の都合上、デファレンシャル23の位置を図7での右側にずらして記載してある。
上述したように構成されたハイブリッド駆動装置を有する車両は、エンジン1の動力で走行するエンジン走行モードと、二つのモータ・ジェネレータ2,3をモータとして機能させて、すなわち力行制御して走行するツインモータ走行モードと、いずれか一つのモータ・ジェネレータ(具体的には、第2モータ・ジェネレータ3)の動力で走行するシングルモータ走行モードとを選択することができるように構成されている。具体的には、クラッチC1およびブレーキB1を制御し、かつ各モータ・ジェネレータ2,3の出力トルクを制御することにより各走行モードを選択するように構成されている。
ここで、各走行モードにおけるクラッチC1とブレーキB1との係合および解放の状態と、各モータ・ジェネレータ2,3の動作の状態とを、図8に示す作動表を参照して説明する。図8で「EV」はエンジン1を停止させて走行するモードを示している。図8に示すようにシングルモータ走行モードによって駆動力を出力している場合あるいは制動力を作用させている場合には、クラッチC1とブレーキB1とが解放される。すなわち、変速部12がニュートラル状態にされて、エンジン1と動力分割機構7とのトルクの伝達が遮断される。その状態で、駆動力を駆動輪に伝達して走行する場合には、第2モータ・ジェネレータ3は力行制御され、制動力を作用させる場合には、第2モータ・ジェネレータ3が回生制御される。なお、図8には回生制御を「G」と示し、力行制御を「M」と示している。このようにクラッチC1とブレーキB1とを解放して、第2モータ・ジェネレータ3を力行制御することによりシングルモータ走行モードが設定される。
したがって、シングルモータ走行モードが設定されているときには、エンジン1の慣性力やフリクショントルクなどによりエンジン1の回転数が「0」になり、サンギヤ18が空転する。また、シングルモータ走行モード時に第1モータ・ジェネレータ2が空転することによる動力損失を低減させるために、第1モータ・ジェネレータ2を停止させるように制御される場合がある。その第1モータ・ジェネレータ2を停止させる制御としては、第1モータ・ジェネレータ2に通電して停止させるd軸ロック制御などが挙げられる。なお、第1モータ・ジェネレータ2の慣性力やフリクショントルクなどによって第1モータ・ジェネレータ2が停止した状態を維持できる場合には、上記のように第1モータ・ジェネレータ2に通電しなくてもよい。
各モータ・ジェネレータ2,3が動力を出力して走行するツインモータ走行モードは、二つのモータ・ジェネレータ2,3から動力を出力することができるので、主にシングルモータ走行モードよりも要求される駆動力が大きいときに設定される。ツインモータ走行モードは、第1モータ・ジェネレータ2と第2モータ・ジェネレータ3とが力行制御される。そして、第1モータ・ジェネレータ2から出力された動力を駆動力として伝達するために、動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転が止められる。具体的には、キャリヤ11に連結された変速部12の回転を止めるために、クラッチC1とブレーキB1とが係合させられる。このようにクラッチC1とブレーキB1とを係合させてキャリヤ11の回転が止められると、第1モータ・ジェネレータ2から出力されたトルクと反対方向のトルクがリングギヤ9に伝達される。また、動力分割機構7におけるギヤ比に応じて減速して第1モータ・ジェネレータ2から出力されたトルクがリングギヤ7から出力される。
さらに、図7に示すハイブリッド駆動装置を有する車両では、主にエンジン1から出力された動力によって走行するエンジン走行モードを設定することができる。具体的には、要求駆動力に応じてクラッチC1またはブレーキB1を係合することにより、エンジン1と動力分割機構7とを連結することにより、エンジン1から出力された動力を駆動輪に伝達することができる。このようにエンジン1から出力された動力を駆動輪に伝達する過程で、第1モータ・ジェネレータ2から反力を動力分割機構7に作用させる。そのときに、第1モータ・ジェネレータ2が出力しているトルクの方向と、第1モータ・ジェネレータ2の回転方向とが反対のときには、第1モータ・ジェネレータ2に伝達された動力によって発電される。すなわち、動力分割機構7にエンジン1から伝達された動力の一部を電力に変換する。そのように第1モータ・ジェネレータ2によって回生されて発電された電力、あるいは蓄電装置5に充電された電力を第2モータ・ジェネレータ3に供給してカウンタドリブンギヤ20に伝達する。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2を回生制御することにより、動力分割機構7におけるサンギヤ8を反力要素として機能させてエンジン1から出力された動力を伝達するとともに、第2モータ・ジェネレータ3によってトルクを加算するように制御される。したがってこの場合の制御は、ハイブリッド駆動制御と言い得る。なお、図8には、エンジン走行モードを「HV」と示している。
上述した第1モータ・ジェネレータ2は、通電される電流値やその周波数に応じて回転数を任意に制御することができる。そのため、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を制御して、エンジン回転数を任意に制御することができる。具体的には、アクセル開度や車速などに応じてエンジン1の出力を定め、そのエンジン1の出力とエンジン1の燃費が良好になる最適燃費線とからエンジン1の運転点を定める。そして、前述のように定められたエンジン1の運転点となるように第1モータ・ジェネレータ2の回転数が制御される。この場合、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は連続的に変化させることができるので、エンジン1の回転数も連続的に変化させることができる。したがって、動力分割機構7は、電力によって制御可能な無段変速部として機能することができる。
一方、車速が比較的高車速になったときに、エンジン回転数を上記のように制御すると、第1モータ・ジェネレータ2が力行制御される場合がある。そのため、第1モータ・ジェネレータ2が力行制御されることを抑制するために、比較的高車速になったときに、変速部12の変速比を増速段(Hi)に変更するように構成されている。すなわち、低速あるいは中速走行時には、クラッチC1を係合して変速部12を直結段(Lo)に設定し、高速走行時には、ブレーキB1を係合して増速段に設定するように構成されている。
つぎに、上記クラッチC1、ブレーキB1、各モータ・ジェネレータ2,3、エンジン1を制御するための電子制御装置について説明する。図9にその電子制御装置のブロック図を示している。図9に示す電子制御装置は、走行のための全体的な制御を行うハイブリッド制御装置(HV−ECU)25と、各モータ・ジェネレータ2,3を制御するためのモータ・ジェネレータ制御装置(MG−ECU)26と、エンジン1を制御するためのエンジン制御装置(エンジン−ECU)27とが設けられている。これらの各制御装置25,26,27は、マイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータおよび予め記憶させられているデータを使用して演算を行い、その演算結果を制御指令信号として出力するように構成されている。その入力データの例を挙げると、ハイブリッド制御装置25には、車速、アクセル開度、第1モータ・ジェネレータ2の回転数、第2モータ・ジェネレータ3の回転数、動力分割機構7や変速部12などに供給されるオイルの温度(AT油温)、蓄電装置5の充電残量(SOC)、蓄電装置5の温度などがハイブリッド駆動装置25に入力されている。また、ハイブリッド駆動装置25から出力される指令信号の例を挙げると、第1モータ・ジェネレータ2のトルク指令値、第2モータ・ジェネレータ3のトルク指令値、エンジン1のトルク指令値、ならびにクラッチC1の制御油圧値(PC1)、ブレーキB1の制御油圧値(PB1)などがハイブリッド駆動装置25から出力されている。
上記の第1モータ・ジェネレータ2のトルク指令値および第2モータ・ジェネレータ3のトルク指令値は、モータ・ジェネレータ制御装置26に制御データとして入力されており、モータ・ジェネレータ制御装置26はこれらのトルク指令値に基づいて演算を行って上記各コントローラに電流指令信号をを出力するように構成されている。また、エンジントルク指令信号はエンジン制御装置27に制御データとして入力されており、エンジン制御装置27はそのエンジントルク指令信号に基づいて演算を行って電子スロットルバルブ(図示せず)に対してスロットル開度信号を出力し、また点火時期を制御する点火信号を出力するように構成されている。さらに、クラッチC1の制御油圧値(PC1)、ブレーキB1の制御油圧値(PB1)は、図示しない制御バルブなどに入力されるように構成されている。
上述したように構成されたハイブリッド駆動装置は、EV走行モード時に要求駆動力が増大したときや充電残量が低下したときなど種々の条件に応じてHV走行モードに切り替えるように構成されている。そのようにEV走行モードからHV走行モードに切り替えるときには、主に第1モータ・ジェネレータ2によりエンジン1をクランキングさせる。具体的には、クラッチC1とブレーキB1とのいずれか一方を係合させて、動力分割機構7とエンジン1とをトルク伝達可能に連結する。ついで、エンジン1をクランキングさせるために要するトルクを第1モータ・ジェネレータ2から出力して、エンジン1の回転数を予め定めた所定の回転数(以下、始動回転数と記す。)まで増大させる。すなわち、動力分割機構7におけるサンギヤ10を入力要素として機能させ、かつキャリヤ11を出力要素として機能させる。そのため、動力分割機構7におけるリングギヤ9が反力要素として機能するように、第2モータ・ジェネレータ3のトルクが制御される。なお、駆動力を出力することが要求されている場合には、上記のようにリングギヤ9が反力要素として機能するためのトルクと、要求駆動力に応じたトルクとを加算したトルクが第2モータ・ジェネレータ3から出力される。
一方、エンジン始動時には、エンジン1、第1モータ・ジェネレータ2、動力分割機構7や変速部12の各回転要素の回転数が変化するので、それら各部材の回転数の変化量分、言い換えると慣性エネルギーの変化量分、第1モータ・ジェネレータ2や第2モータ・ジェネレータ3から動力を出力する。また、エンジン始動時における第1モータ・ジェネレータ2および動力分割機構7や変速部12の各回転要素の回転数は、変速部12の変速比に応じて異なる。そのため、走行状態あるいは停止状態を維持しつつエンジン1を始動させる場合には、変速部12の変速比に応じて各モータ・ジェネレータ2,3から出力される動力が異なる。すなわち、各モータ・ジェネレータ2,3により消費される電力量が異なる。なお、第1モータ・ジェネレータ2の運転状態に応じて、エンジン1を始動させるために第1モータ・ジェネレータ2からトルクを出力したときに第1モータ・ジェネレータ2が発電する場合があり、その発電する電力量も、上記と同様に変速部12の変速比に応じて変化する。
ここで、エンジンを始動させることによる各回転部材の回転数の変化を図2および図3を参照して説明する。図2は、停車時にエンジン1を始動させる場合における各回転要素の回転数の変化を示す共線図である。なお、図2では、停車時にアクセルペダルが踏み込まれるなどして駆動力を出力することが要求されている場合を示しており、図2(a)はエンジン1を始動させる前の状態、(b)は変速部12が直結段を設定してエンジン回転数を始動回転数まで増大させた状態、(c)は変速部12が増速段を設定してエンジン回転数を始動回転数まで増大させた状態を示している。図2(a)に示すように停車時にエンジン1が停止しているときには、各回転要素の回転数は「0」となる。また、駆動力が要求されているので、その要求駆動力に応じて第2モータ・ジェネレータ3がトルクを出力する。
図2(b)に示すように変速部12が直結段を設定してエンジン1を始動させる時には、第1モータ・ジェネレータ2がエンジン回転数を増大させるように正トルクを出力するとともに、正回転させられる。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2が力行制御させられる。また、その第1モータ・ジェネレータ2の出力トルクの反力として第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクが制御される。具体的には、要求駆動力に応じたトルクと反力として機能させるためのトルクとの合計のトルクが第2モータ・ジェネレータ3から出力される。そして、エンジン回転数が始動回転数になるときには、変速部12を構成する各回転要素15,17,18の回転数および動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数はエンジン回転数と同一となり、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、キャリヤ11の回転数と動力分割機構7のギヤ比とに応じた回転数になる。
一方、図2(c)に示すように変速部12が増速段を設定してエンジン1を始動させる時には、直結段を設定してエンジン1を始動させる時と同様に第1モータ・ジェネレータ2が力行制御させられ、第2モータ・ジェネレータ3は、反力として機能するためのトルクと要求駆動力との合計のトルクを出力するように制御させられる。そして、エンジン回転数が始動回転数になるときには、変速部12におけるリングギヤ17および動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数がエンジン回転数以上になる。すなわち、直結段を設定してエンジン1を始動させる時よりもキャリヤ11の回転数が増加する。そのため、第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、直結段を設定してエンジン1を始動させるときよりも増加する。
上述したように変速部12の変速段が異なると、エンジン始動時における各回転要素の回転数や第1モータ・ジェネレータ2の回転数が異なる。すなわち、各回転要素や第1モータ・ジェネレータ2の慣性エネルギーの変化量が異なる。そのため、運転状態を維持しつつエンジン1を始動させるためには、上記各回転部材の慣性エネルギーの変化量に応じた動力を第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3から出力してエンジン1を始動させるので、変速段に応じて各モータ・ジェネレータ2,3から出力する動力が異なる。具体的には、各慣性エネルギーの変化量の積算値が大きいほど、各モータ・ジェネレータ2,3の出力が増大することとなり、その結果、消費電力量あるいは発電電力量が増大することとなる。なお、第1モータ・ジェネレータ2の慣性力(質量)は、変速部12や動力分割機構7を構成する各ギヤの慣性力(質量)よりも大きいので、主に第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量が大きいほど消費電力量が大きくなる。図2に示す例では、上述したように直結段を設定してエンジン1を始動させることによる第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量ΔNL よりも、増速段を設定してエンジン1を始動させることによる第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量ΔNH が大きい。そのため、直結段を設定してエンジン1を始動させる際の消費電力量よりも、増速段を設定してエンジン1を始動させる際の消費電力量が多くなる。
つぎに、走行時にエンジン1を始動させる場合における各回転要素の回転数の変化について図3を参照しつつ説明する。なお、図3では、所定の駆動力が要求されている際にエンジン1を始動させる場合の各回転要素の回転数の変化を示しており、図3(a)はエンジン1を始動させる前の状態、(b)は変速部12が直結段を設定してエンジン回転数を始動回転数まで増大させた状態、(c)は変速部12が増速段を設定してエンジン回転数を始動回転数まで増大させた状態を示している。
図3に示す例では、上述したシングルモータ走行モードが設定されて走行している。シングルモータ走行モードが設定されて走行しているときにエンジン1を始動させる場合には、まず、エンジン1と動力分割機構7とをトルク伝達可能に連結するためにクラッチC1またはブレーキB1が係合させられる。そのようにクラッチC1またはブレーキB1を係合させるためにキャリヤ11の回転数を「0」にしてクラッチC1やブレーキB1の入力側の回転数と出力側の回転数とを一致させる場合がある。図3(a)は、クラッチC1またはブレーキB1の入力側の回転数と出力側の回転数とを一致させて係合させた状態を示している。また、図3(a)では、要求駆動力に応じて第2モータ・ジェネレータ3がトルクを出力している。
図3(b)に示すように変速部12が直結段を設定してエンジン1を始動させる時には、第1モータ・ジェネレータ2がエンジン回転数を増大させるように正トルクを出力するとともに、負回転させられる。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2が回生制御させられる。また、その第1モータ・ジェネレータ2の出力トルクの反力として第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクが制御される。具体的には、要求駆動力に応じたトルクと反力として機能させるためのトルクとの合計のトルクが第2モータ・ジェネレータ3から出力される。そして、エンジン回転数が始動回転数になるときには、変速部12を構成する各回転要素15,17,18の回転数および動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数はエンジン回転数と同一となり、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、キャリヤ11の回転数と動力分割機構7のギヤ比とに応じた回転数になる。
一方、図3(c)に示すように変速部12が増速段を設定してエンジン1を始動させる時には、直結段を設定してエンジン1を始動させる時と同様に第1モータ・ジェネレータ2が回生制御させられ、第2モータ・ジェネレータ3は、反力として機能するためのトルクと要求駆動力との合計のトルクを出力するように制御させられる。そして、エンジン回転数が始動回転数になるときには、変速部12におけるリングギヤ17および動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数がエンジン回転数以上になる。すなわち、直結段を設定してエンジン1を始動させる時よりもキャリヤ11の回転数が増加する。そのため、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、車速とキャリヤ11との回転数から定められる回転数となる。具体的には、キャリヤ11の回転数の変化量が大きい方が、第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量が大きくなる。その結果、図3に示す例では、直結段を設定してエンジン1を始動させたときの第1モータ・ジェネレータ2の回転数よりも、増速段を設定してエンジン1を始動させたときの第1モータ・ジェネレータ2の回転数が「0」に近い回転数になる。
したがって、図3に示す例では、上述したように直結段を設定してエンジン1を始動させることによる第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量ΔNL よりも、増速段を設定してエンジン1を始動させることによる第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量ΔNH が大きくなる。なお、図3に示す例では、第1モータ・ジェネレータ2が回生制御されることによりエンジン1が始動させられるので、直結段を設定してエンジン1を始動させる際の発電電力量よりも、増速段を設定してエンジン1を始動させる際の発電電力量が多くなる。
上述したようにエンジン始動時における第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量が変速部12の変速比に応じて異なるので、エンジン始動に要する電力が変化する。そのため、エンジン始動時に設定される変速比に応じて蓄電装置5が過充電や過放電になる可能性、あるいは蓄電装置5やコントローラ4などの電力機器に許容される電圧や電流以上の電圧や電流が電力機器に作用する可能性がある。したがって、この発明に係るハイブリッド駆動装置は、エンジン始動時に設定する変速部12の変速比を蓄電装置5の充電残量に応じて設定するように構成されている。その制御の一例を図1に示している。なお、図1に示すフローチャートは、所定時間毎に繰り返し実行される。図1に示す例では、まず、エンジン1を始動させる要求があるか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1は、エンジン1を停止させた状態でEV走行モードが設定されているときに要求駆動力が増大してHV走行モードに切り替わる条件が成立した場合や充電装置の充電残量が所定量以下に低下した場合などの種々の条件に応じて判断することができる。
エンジン1を始動させる要求がなく、ステップS1で否定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。それとは反対に、エンジン1を始動させる要求があり、ステップS1で肯定的に判断された場合には、変速部12が設定する変速段毎にエンジン始動時の消費電力量または発電電力量を算出する(ステップS2)。具体的には、各モータ・ジェネレータ2,3のトルクおよび回転数と、エンジン1、第1モータ・ジェネレータ2、各回転部材の慣性エネルギーの変化量とに基づいて消費電力量または発電電力量を算出することができる。なお、このステップS2は、エンジン始動に伴って消費されあるいは発電される電力量の積算値を予め算出して予測するものであり、そのため、エンジン始動時に第1モータ・ジェネレータ2が回生制御から力行制御に切り替わる場合には、回生制御による発電電力量と力行制御による消費電力量との差を算出する。具体的には、比較的低車速で走行しているときにエンジン始動する場合には、図3に示すように第1モータ・ジェネレータ2が回生制御された後に、第1モータ・ジェネレータ2の回転数が反転して力行制御される場合がある。そのような場合には、回生制御されることによる発電電力量と力行制御されることによる消費電力量との差をステップS2で算出する。なお、エンジン回転数を始動回転数まで増大させる間に消費される電力量または発電される電力量は、変速段と車速とに基づいて予め算出してハイブリッド制御装置25にマップとして用意し、必要に応じてそのマップを読み込んでもよい。
ついで、蓄電装置5の充電残量が予め定めた下側閾値αよりも少ないか否かが判断される(ステップS3)。このステップS3は、エンジン始動するために電力が消費されて蓄電装置5の充電残量が過剰に減少して耐久性が低下してしまうことを抑制するためのものである。したがって、上記下側閾値αは、蓄電装置5の充電残量の下限値よりも大きい値であり、蓄電装置5の仕様などに応じて予め定められた値である。なお、蓄電装置5の充電残量は、蓄電装置5の充電量またはその充電率あるいは電圧に基づいて判断しても良い。また、下側閾値αがこの発明における第1所定値に相当する。蓄電装置5の充電残量が下側閾値αよりも少なくステップS3で肯定的に判断された場合には、ステップS2で算出された消費電力量が少ない変速段、または発電電力量が多い変速段を選択する(ステップS4)。言い換えると、蓄電装置5からの放電電力量が少ない変速段、または蓄電装置5への充電電力量が多い変速段を選択する。したがって、図2に示す例では直結段が選択され、図3に示す例では増速段が選択される。ついで、ステップS4で選択された変速段を設定した状態でエンジン1を始動させて(ステップS5)、このルーチンを一旦終了する。
それとは反対に、蓄電装置5の充電残量が比較的多くステップS3で否定的に判断された場合には、蓄電装置5の充電残量が予め定められた上側閾値βよりも多いか否かが判断される(ステップS6)。このステップS6は、エンジン1を始動することに伴って発電されて蓄電装置5が過充電になり耐久性が低下してしまうことを抑制するためのものである。したがって、上記上側閾値βは、上記下側閾値αよりも大きくかつ蓄電装置5の充電残量の上限値よりも小さい値であり、蓄電装置5の仕様などに応じて予め定められた値である。なお、上側閾値βがこの発明における第2所定値に相当する。蓄電装置5の充電残量が上側閾値βよりも多くステップS6で否定的に判断された場合には、ステップS2で算出された消費電力量が多い変速段、または発電電力量が少ない変速段を選択する(ステップS7)。言い換えると、蓄電装置5からの放電電力量が多い変速段、または蓄電装置5への充電電力量が少ない変速段を選択する。したがって、図2に示す例では増速段が選択され、図3に示す例では直結段が選択される。ついで、ステップS7で選択された変速段を設定した状態でエンジン1を始動させて(ステップS5)、このルーチンを一旦終了する。
一方、蓄電装置5の充電残量が下側閾値αよりも多くかつ上側閾値βよりも少ないことによりステップS6で否定的に判断された場合には、エンジン1を始動させることにより蓄電装置5が過充電になることや充電残量が過剰に減少することがないので、蓄電装置5の充電残量に基づいて変速段を設定する必要がない。そのため、例えば要求駆動力の大きさやその変化量などに応じて変速段が適宜に選択される(ステップS8)。ついで、ステップS8で選択された変速段を設定した状態でエンジン1を始動させて(ステップS5)、このルーチンを一旦終了する。
上述した図1に示す制御例では、エンジン1の始動に伴って蓄電装置5の充電残量が予め定めた上側閾値βと下側閾値αとの間の範囲(許容範囲)から乖離することを抑制するように変速段を設定してエンジン1を始動させるように構成されている。したがって、図7に示すように変速部12が二つの変速段を設定するように構成されたものでなく、三つ以上あるいは無段階に変速比を設定することができるように構成されている場合には、エンジン1の始動に伴って蓄電装置5の充電残量が上側閾値βと下側閾値αとの間の範囲から乖離する量が小さい変速比あるいは変速段を選択するように構成してもよい。
上述したようにエンジン始動時の変速部12の変速比を蓄電装置5の充電残量に応じて設定することにより、エンジン始動時の消費電力量または発電電力量を変化させることができる。そのため、エンジン始動することにより蓄電装置5の過充電または過放電を抑制することができる。その結果、蓄電装置5の耐久性が低下することを抑制することができる。また、電力の制御量や制御頻度が抑制されるので、コントローラ4などの耐久性が低下することを抑制することができる。
また、図7に示すハイブリッド駆動装置は、エンジン1を迅速に停止させるために、第1モータ・ジェネレータ2のトルクを伝達してエンジン1を停止させることが好ましい。そのように第1モータ・ジェネレータ2からエンジン1にトルクを伝達してエンジン1を停止させる場合にも、エンジン1を始動させるときと同様に変速部12の変速比に応じて各回転部材の回転数の変化量が変化するので、エンジン停止時の消費電力量または発電電力量が異なる。ここで、エンジン停止時における各回転要素の回転数の変化を図4および図5を参照して説明する。なお、図4は、停車時にエンジン1を停止させる例を示しており、図4(a)は変速部12が直結段を設定している状態でエンジン1を停止させる例を示し、図4(b)は変速部12が増速段を設定している状態でエンジン1を停止させる例を示し、図4(c)はエンジン1が停止している状態を示している。また、図4(a)および図4(b)におけるエンジン1の回転数は、アイドル回転数とする。
図4(a)および図4(b)に示す例では、停車時にエンジン1を停止するときには、第1モータ・ジェネレータ2が正回転しかつ負トルクを出力する。つまり、第1モータ・ジェネレータ2が回生制御させられる。一方、第2モータ・ジェネレータ3は反力要素として機能するようにトルクが出力され、そのトルクの向きは、図4に示す下側(負トルク)となる。そして、図4(a)に示すように変速部12が直結段を設定しているときには、変速部12を構成する各回転要素15,17,18の回転数は、アイドル回転数と同一になり、かつ動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数も同様にアイドル回転数と同一になる。また、停車しているので動力分割機構7におけるリングギヤ9の回転数が「0」となる。そのため、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数とギヤ比とに応じた回転数となる。なお、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、アイドル回転数以上となる。
図4(a)に示すように各回転部材が回転している状態で、エンジン1を停止させると、図4(c)に示すように各回転部材が停止させられる。したがって、停車時に直結段を設定している状態でエンジン1を停止させる場合には、各回転部材の回転数の変化量に基づく慣性エネルギーの変化量分のエネルギーが第1モータ・ジェネレータ2により回生されて、蓄電装置5に充電される。
また、図4(b)に示すように停車時に増速段を設定している状態でエンジン1を停止させる場合も図4(a)と同様に各回転部材の回転数の変化量に基づく慣性エネルギーの変化量分のエネルギーが第1モータ・ジェネレータ2により回生されて、蓄電装置5に充電される。一方、停車時に増速段を設定している場合には、比較的慣性力(質量)が大きい第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、直結段を設定している場合よりも大きくなる。そのため、エンジン1を停止するための第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量は、直結段よりも増速段の方が大きくなる。その結果、エンジン停止時の発電電力量は、直結段よりも増速段の方が大きくなる。
つぎに、走行時にエンジン1を停止させる例について図5を参照しつつ説明する。なお、図5(a)は変速部12が直結段を設定している状態でエンジン1を停止させる例を示し、図5(b)は変速部12が増速段を設定している状態でエンジン1を停止させる例を示し、図5(c)はエンジン1が停止して走行している状態を示している。また、図5(a)および図5(b)におけるエンジン1の回転数は、アイドル回転数とする。さらに、図5に示す例では、エンジン1を停止させるとともにシングルモータ走行モードにより走行する例を示している。したがって、第2モータ・ジェネレータ3は、後述する反力トルクに加えて、要求駆動力に応じた駆動力を出力している。
図5(a)および図5(b)に示すように走行時にエンジン1を停止するときには、第1モータ・ジェネレータ2が負回転しかつ負トルクを出力することがある。つまり、第1モータ・ジェネレータ2が力行制御させられる。一方、第2モータ・ジェネレータ3は反力要素として機能するようにトルクが出力され、そのトルクの向きは、図5に示す下側(負トルク)となる。そして、図5(a)に示すように変速部12が直結段を設定しているときには、変速部12を構成する各回転要素15,17,18の回転数は、アイドル回転数と同一になり、かつ動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数も同様にアイドル回転数と同一になる。また、走行しているので動力分割機構7におけるリングギヤ9の回転数が、車速に応じた回転数になる。そのため、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、動力分割機構7におけるキャリヤ11の回転数とギヤ比と車速とに応じた回転数となる。
図5(a)に示すように各回転部材が回転している状態で、エンジン1を停止させると、図5(c)に示すように変速部12を構成する各回転要素15,17,18が停止させられ、かつキャリヤ11が停止させられる。また、第1モータ・ジェネレータ2の回転数は、負側に増大する。したがって、走行時に直結段を設定している状態でエンジン1を停止させる場合には、各回転部材の回転数の変化量に基づく慣性エネルギー分の動力が第1モータ・ジェネレータ2や第2モータ・ジェネレータ3から出力される。すなわち、蓄電装置5に充電された電力が消費される。
また、図5(b)に示すように走行時に増速段を設定している状態でエンジン1を停止させる場合も図5(a)と同様に各回転部材の回転数の変化量に基づく慣性エネルギー分の動力が第1モータ・ジェネレータ2や第2モータ・ジェネレータ3から出力されて、蓄電装置5に充電された電力が消費される。一方、走行時に増速段を設定している場合、より具体的にはエンジン1を停止させる前には、比較的慣性力(質量)が大きい第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、直結段を設定している場合よりも大きくなる。そのため、エンジン1を停止するための第1モータ・ジェネレータ2の回転数の変化量は、直結段よりも増速段の方が大きくなる。その結果、エンジン停止時の消費電力量は、直結段よりも増速段の方が大きくなる。
上述したようにエンジン1を停止させる際にも、エンジン1を始動させる場合と同様に変速部12の変速比に応じて消費電力量あるいは発電電力量が異なる。そのため、エンジン停止時に設定される変速比に応じて蓄電装置5が過充電や過放電になる可能性、あるいは蓄電装置5やコントローラ4などの電力機器に許容される電圧や電流以上の電圧や電流が電力機器に作用する可能性がある。したがって、この発明に係るハイブリッド駆動装置の制御装置は、エンジン停止時の変速部12の変速比を蓄電装置5の充電残量に応じて変化させるように構成されている。その制御の一例を図6に示している。図6に示す例では、まず、エンジン1を停止させる要求があるか否かを判断する(ステップS21)。このステップS21は、HV走行モードからエンジン1を停止させて走行するEV走行モードに切り替わる条件が成立したか否かによって判断することができる。
エンジン1を停止させる要求がなく、ステップS21で否定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。それとは反対に、エンジン1を停止させる要求があり、ステップS21で肯定的に判断された場合には、変速部12が設定する変速段毎にエンジン停止時の消費電力量または発電電力量を算出する(ステップS22)。このステップS22は、図1に示すフローチャートにおけるステップS2と同様に算出することができる。ついで、蓄電装置5の充電残量が予め定めた下側閾値αよりも少ないか否かが判断される(ステップS23)。このステップS23は、図1に示すフローチャートにおけるステップS3と同様に、エンジン停止するために電力が消費されて蓄電装置5が過放電となり耐久性が低下してしまうことを抑制するためのものである。したがって、蓄電装置5の充電残量が下側閾値αよりも少なくステップS23で肯定的に判断された場合には、ステップS23で算出された消費電力量が少ない変速段、または発電電力量が多い変速段を選択する(ステップS24)。言い換えると、蓄電装置5からの放電電力量が少ない変速段、または蓄電装置5への充電電力量が多い変速段を選択する。したがって、図4に示す例では直結段が選択され、図5に示す例では増速段が選択される。ついで、ステップS24で選択された変速段を設定した状態でエンジン1を停止させて(ステップS25)、このルーチンを一旦終了する。
それとは反対に、蓄電装置5の充電残量が比較的多くステップS23で否定的に判断された場合には、蓄電装置5の充電残量が予め定められた上側閾値βよりも多いか否かが判断される(ステップS26)。このステップS26は、図1に示すフローチャートにおけるステップS6と同様に、エンジン1を始動することに伴って発電されて蓄電装置5が過充電になり耐久性が低下してしまうことを抑制するためのものである。したがって、蓄電装置5の充電残量が上側閾値βよりも多くステップS26で否定的に判断された場合には、ステップS22で算出された消費電力量が多い変速段、または発電電力量が少ない変速段を選択する(ステップS27)。言い換えると、蓄電装置5からの放電電力量が多い変速段、または蓄電装置5への充電電力量が少ない変速段を選択する。したがって、図4に示す例では増速段が選択され、図5に示す例では直結段が選択される。ついで、ステップS27で選択された変速段を設定した状態でエンジン1を停止させて(ステップS25)、このルーチンを一旦終了する。
一方、蓄電装置5の充電残量が下側閾値αよりも多くかつ上側閾値βよりも少ないことによりステップS26で否定的に判断された場合には、エンジン1を停止させることにより蓄電装置5が過充電または過放電になることがないので、蓄電装置5の充電残量に基づいて変速段を設定する必要がない。そのため、変速段が適宜に選択される(ステップS28)。ついで、ステップS28で選択された変速段を設定した状態でエンジン1を停止させて(ステップS25)、このルーチンを一旦終了する。
なお、上述した制御例では、エンジン1の停止に伴って蓄電装置5の充電残量が予め定めた上側閾値βと下側閾値αとの間の範囲(許容範囲)から乖離することを抑制するように変速段を設定してエンジン1を停止させるように構成されている。したがって、図7に示すように変速部12が二つの変速段を設定するように構成されたものでなく、三つ以上あるいは無段階に変速比を設定することができるように構成されている場合には、エンジン1の停止に伴って蓄電装置5の充電残量が上側閾値βと下側閾値αとの間の範囲から乖離する量が小さい変速比あるいは変速段を選択するように構成してもよい。
上述したようにエンジン停止時の変速部12の変速比を蓄電装置5の充電残量に応じて設定することにより、エンジン停止時の消費電力量または発電電力量を変化させることができる。そのため、エンジン1を停止することによる蓄電装置5の過充電または過放電を抑制することができる。その結果、蓄電装置5の耐久性が低下することを抑制することができる。また、電力の制御量や制御頻度が抑制されるので、コントローラ4などの耐久性が低下することを抑制することができる。
なお、上述では、エンジン始動時または停止時の変速比を蓄電装置5の充電残量に応じて設定する例を挙げて説明したが、エンジン始動時や停止時に蓄電装置5やコントローラ4などの電力機器に掛かる電圧や電流が予め定めた許容範囲を超えないように変速比を設定してもよい。そのように変速比を設定することにより、蓄電装置5に限らず、コントローラ4などの電力機器の耐久性が低下することを抑制することができる。